説明

プロモーター

【課題】本発明は、遺伝子操作によって植物油脂の合成量を増加させることが可能な、新規なプロモーターを提供することを目的とする。
【解決手段】FAE1及びFAD3からなる群より選択される1つの遺伝子の翻訳開始上流1,000bのうちの500b以上の連続的配列を有する、第1の核酸と、BCCP1、BCCP2、CTα及びBCからなる群より選択される1つの遺伝子の5’上流非翻訳領域のうちの、少なくとも1つのWRI1結合配列を含み、かつ、100b以上の連続的配列を有する、第2の核酸とが連結してなる、プロモーター。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロモーター、特に植物での遺伝子発現に有用なプロモーターに関する。
【背景技術】
【0002】
菜種や大豆などの植物による貯蔵油脂は食用のみならず、バイオディーゼルの原料としても利用され得る大変有用な農産物である。植物油脂の合成に関わる遺伝子として、脂肪酸合成関連酵素遺伝子、及びトリアシルグリセロール(TAG)合成関連酵素遺伝子が知られている。前者は登熟初期から発現して、開花後10日目以降は発現量が低下する。一方、後者は登熟10日目前後から発現して、登熟後期までその発現量が比較的に高いレベルで持続する(非特許文献1)。
【0003】
脂肪酸合成関連酵素遺伝子として、アブラナ科アセチルCoAカルボキシラーゼ(ACCase)遺伝子が知られており、ACCaseはBCCP、BC、CTα及びCTβの4つのサブユニットからなり、そのうち、CTβ以外の遺伝子は核にコードされており、CTβはプラスチドにコードされている。また、シロイヌナズナのBCCP遺伝子はBCCP1と、BCCP2との2つがある。TAG合成関連酵素遺伝子、さらに脂肪酸修飾に関わる遺伝子としては、FAE1(Fatty Acid Elongase 1)、及び、FAD3(Fatty Acid Desaturase 3)が知られている。
【0004】
また、AP2型転写活性化因子WRINKLED1(WRI1)は、登熟期において炭素源の貯蔵油脂の合成への流れを制御するとの報告もある(非特許文献2)。WRI1結合配列は脂肪酸合成酵素関連遺伝子の上流領域に存在する。
【0005】
しかし、脂肪酸合成関連酵素遺伝子及びTAG合成関連酵素遺伝子の発現の制御に関わる発現プロモーターについてはまだ決定されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Ruuska,S.A.ら、Plant Cell(2002)14、1191−1206
【非特許文献2】Kenichiro Maeoら、The Plant Journal(2009)60、476−487
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、遺伝子操作によって植物で所望の遺伝子発現を制御できる、新規なプロモーターを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らが上記課題を解決するため鋭意研究の結果、FAE1遺伝子の翻訳開始上流領域の約1.2kbの核酸とBCCP2遺伝子の5’非翻訳領域の約200bの核酸とを連結した、プロモーター活性を有する核酸は、登熟8日目から登熟後期までの間にその下流に位置するリポーター遺伝子を持続的に発現させることができるとの知見を見出し、本発明の完成に至った。
【0009】
すなわち、本発明はFAE1及びFAD3からなる群より選択される1つの遺伝子の翻訳開始上流1,000bのうちの500b以上の連続的配列を有する、第1の核酸と、BCCP1、BCCP2、CTα、及びBCからなる群より選択される1つの遺伝子の5’上流非翻訳領域のうちの、少なくとも1つのWRI1結合配列を含み、かつ、100b以上の連続的配列を有する、第2の核酸とが連結してなる、プロモーターを提供する。
【0010】
本発明のプロモーターにおいて、第2の核酸が、BCCP1、BCCP2、CTα及びBCからなる群より選択される1つの遺伝子の、(1)5’上流非翻訳領域のうちの、少なくとも1つのWRI1結合配列を含み、かつ、100b以上の連続的配列、及び(2)転写開始上流200b以上の配列を有することが好ましい。
【0011】
本発明はまた、配列番号1に記載の塩基配列を有する核酸と、配列番号2に記載の塩基配列を有する核酸とが連結してなる、プロモーターを提供する。本発明はまた、配列番号3に記載の塩基配列を有する、プロモーターを提供する。
【0012】
本発明はさらに、上記いずれかのプロモーターを含む植物形質転換用ベクター、該植物形質転換用ベクターが導入される種子、及び、該種子を育成して得られる植物を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明のプロモーターは、脂肪酸合成関連酵素遺伝子のプロモーター及びトリアシルグリセロール合成関連酵素遺伝子のプロモーターの両者の活性を併せ持つため、本発明のプロモーターを用いれば、植物において登熟早期から登熟後期に渡って持続的に所望の遺伝子を発現させることができる。例えば、プロモーターの下流に脂肪酸合成関連酵素遺伝子を導入した場合、植物種子において登熟後期まで脂肪酸の合成期間が延長されるため、植物油脂の収穫量の増加が期待できる。一方、トリアシルグリセロール合成関連酵素遺伝子を導入した場合、トリアシルグリセロールの合成が登熟早期から開始されるため、同様に植物油脂の収穫量の増加が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1はACCaseの各サブユニットの遺伝子におけるプロモーター候補の模式図である。
【図2】図2はプロモーター候補のDNA断片が導入された組み換えベクターの部分的模式図である。
【図3】図3はBCCP1におけるプロモーター候補が導入されたシロイヌナズナの開花後莢及び種子におけるGUS染色の結果を示す図である。
【図4】図4はBCCP2におけるプロモーター候補が導入されたシロイヌナズナの開花後莢及び種子におけるGUS染色の結果を示す図である。
【図5】図5はCTαにおけるプロモーター候補が導入されたシロイヌナズナの開花後莢及び種子におけるGUS染色の結果を示す図である。
【図6】図6はBCにおけるプロモーター候補が導入されたシロイヌナズナの開花後莢及び種子におけるGUS染色の結果を示す図である。
【図7】図7はFAE1−1k及びFAD3−1kが導入されたシロイヌナズナの開花後莢及び種子におけるGUS染色の結果を示す図である。
【図8】図8はACCase各サブユニット遺伝子におけるプロモーター候補領域の模式図である。
【図9】図9はプロモーター候補が導入されたシロイヌナズナの開花後莢及び種子におけるGUS染色の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0016】
BCCP1(CAC1−1)、BCCP2(CAC1−2)、CTα(CAC3)及びBC(CAC2)は、脂肪酸合成関連酵素遺伝子であるアブラナ科植物のアセチルCoAカルボキシラーゼ(ACCase)遺伝子の4つのサブユニットである。これらの遺伝子の塩基配列は既に解析されており、それぞれBCCP1(At5g16390)、BCCP2(At5g15530)、CTα(At2g3040)、及びBC(At5g35360)として遺伝子データベースに登録されている。また、トリアシルグリセロール合成酵素遺伝子であるアブラナ科植物のFAE1(At4g34520)及びFAD3(At2g29980)も遺伝子データベースに登録されている。これらの遺伝子は特に植物の種子において特異的に発現される。
【0017】
本発明の第1の実施形態は、第1の核酸と第2の核酸とが連結してなるプロモーターである。第1の核酸は、FAE1及びFAD3からなる群より選択される1つの遺伝子の翻訳開始上流1,000bのうちの500b以上の連続的配列を有するものである。FAE1及びFAD3の翻訳開始上流1,000bのうちの500b以上の連続的配列を有する核酸は、それぞれFAE1プロモーター活性及びFAD3プロモーター活性を有するため、第1の核酸は植物においてその下流に位置する遺伝子を登熟10日目前後から発現させ、登熟後期まで発現量を持続させることができる。ここで、「翻訳開始上流1,000bのうちの500b以上の連続的配列」とは、翻訳開始点直前の上流塩基を−1bとして、その−1bから−1,000bまでの配列のうちの500b以上の連続的配列を意味する。第1の配列は、FAE1及びFAD3からなる群より選択される1つの遺伝子の翻訳開始上流1,000bのうちの好ましくは700b以上又は800b以上、より好ましくは900以上の配列を有することが好ましい。
【0018】
第2の核酸は、BCCP1、BCCP2、CTα及びBCからなる群より選択される1つの遺伝子の5’上流非翻訳領域のうちの、少なくとも1つのWRI1結合配列を含み、かつ、100b以上の連続的配列を有する。図8に示すように、BCCP1、CTα及びBCの5’非翻訳領域には、それぞれ1つのWRI1結合配列が存在し、BCCP2の5’非翻訳領域には2つのWRI1結合配列が存在する。これらのWRI1結合配列がACCaseのサブユニットのプロモーター活性を有すると推測されるため、第2の核酸は植物においてその下流に位置する遺伝子を登熟初期から発現させることができるが、開花後10日目以降は発現量が低下してしまう性質を有する。一方、CTα及びBCの転写開始上流領域にもそれぞれ1つのWRI1結合配列が存在するが、これらのWRI1結合配列はプロモーター活性に殆ど寄与していないため、必ずしも第2の核酸に含まれる必要はない。ここで、「5’上流非翻訳領域」とは、転写開始点から翻訳開始点の直前の上流塩基までの領域を意味する。第2の核酸は、好ましく各遺伝子の5’上流非翻訳領域における110b以上又は140b、より好ましく190b又は350b以上の連続的配列を有する。
【0019】
第2の核酸が、BCCP1、BCCP2、CTα及びBCからなる群より選択される1つの遺伝子の、(1)5’上流非翻訳領域のうちの、少なくとも1つのWRI1結合配列を含み、かつ、100b以上の連続的配列、及び(2)転写開始上流200b以上の配列を有してもよい。ここで、「転写開始上流200b以上」とは、転写開始点直前の上流塩基を−1bとして、その−1bから−200b以上までの配列を意味する。例えば、−1b〜−250bの配列や−1b〜−300bの配列などが挙げられる。本発明者らの知見によれば、これらの遺伝子の転写開始上流領域の配列はプロモーター活性への寄与度が低いため必ずしも必要でないが、第2の核酸に含まれてもよい。
【0020】
第1の核酸及び第2の核酸は、完全合成又は部分的合成によって得てもよいが、好ましくはシロイヌナズナのゲノミックDNAを鋳型として、適切なプライマーを用いてPCR増幅によって得る。FAE1及びFAD3、並びに、BCCP1、BCCP2、CTα及びBCの配列は既知であるため、当業者にとって所望の領域を増幅させるためのプライマーの設計や、PCR条件の設定は常套の手法である。第1の核酸と第2の核酸との連結は特に順番が限定されないが、両者のプロモーター活性が維持されるように連結する必要がある。すなわち、両者は順方向で連結される必要がある。また、両者を直接に連結してもよく、必要があれば両者の間にプロモーター活性を影響しない核酸配列(制限酵素サイトやその他の必要な核酸配列)を導入してもよい。
【0021】
本発明のプロモーターは、脂肪酸合成関連酵素遺伝子プロモーター活性及びトリアシルグリセロール合成酵素遺伝子プロモーター活性の両方を併せ持つため、植物において登熟早期から登熟後期に渡って持続的に下流に位置する遺伝子を発現させることができる。本プロモーターの下流に必要に応じて、所望の遺伝子を導入することで、植物において登熟早期から登熟後期に渡ってこの遺伝子の発現量を増加させることができる。また、本発明のプロモーターは種子特異性があるため、特に種子において遺伝子の発現量を増加させることが望ましいときに好適に用いられる。そのため、植物油脂の合成に関わる遺伝子をプロモーターの下流に導入し、種子において油脂の合成量を増加させることが可能である。また、インターフェロンや抗体などのタンパク質性医薬品をコードする遺伝子を導入すれば、植物の種子においてこれらの医薬品を産生させることもできる。
【0022】
本発明の第2の実施形態は、配列番号1に記載の塩基配列を有する核酸と、配列番号2に記載の塩基配列を有する核酸とが連結してなる、プロモーターである。配列番号1に記載の塩基配列を有する核酸は、FAE1翻訳開始上流領域の約1.2kbの核酸であり、FAE1プロモーター活性を有する。配列番号2に記載の塩基配列を有する核酸は、BCCP2の5’上流非翻訳領域の約200bの核酸であり、BCCP2プロモーター活性を有する。両者を連結すれば、FAE1プロモーター活性及びBCCP2プロモーター活性の両方を併せ持つプロモーターとなり、植物において登熟早期から登熟後期に渡って持続的に下流に位置する遺伝子を発現させることができる。ここで、連結は第1の実施形態における連結と同義である。
【0023】
本発明の第3の実施形態は、配列番号3に記載の塩基配列を有する、プロモーターである。このプロモーターはFAE1プロモーター活性及びBCCP2プロモーター活性の両方を併せ持つプロモーターであり、植物において登熟早期から登熟後期に渡って持続的に下流に位置する遺伝子を発現させることができる。
【0024】
本発明の第4の実施形態は、本発明のプロモーターを含む植物形質転換用ベクターである。ベクターは植物形質転換用であれば、特に限定されないが、例えば、pBI101が用いられる。プロモーターをベクターへの導入は、当業者が通常用いられる手法にしたがって行えばよく、例えば、ベクターのクローニングサイトへ、適当な制限酵素を用いてクローニングする手法が用いられる。本発明の植物形質転換用ベクターを用いて、植物形質転換体を作製し、プロモーターの下流に位置する遺伝子を特に種子において特異的に発現させることができる。この場合、発現する遺伝子をプロモーターの下流に機能的に連結させるように、植物形質転換用ベクターに組み換える必要がある。発現する遺伝子は、目的に応じて当業者が適宜に選択することができるが、種子において植物油脂の貯蓄量を増加させる目的で、イネACCase、アブラナ科TAG1、又はアブラナ科PDATが好適に用いられる。
【0025】
本発明の第5の実施形態は、上記植物形質転換用ベクターが導入される種子である。種子は植物形質転換用ベクターが機能し得る種子であれば特に限定されないが、例えば、シロイヌナズナやナタネなどのアブラナ科植物の種子が挙げられる。植物形質転換用ベクターの導入方法は、当業者が通常用いられる手法にしたがって行えばよく、例えば、アグロバクテリウムを介した遺伝子導入法が挙げられる。
【0026】
本発明の第6の実施形態は、上記種子を育成して得られる植物である。植物の育成は当業者が通常用いる手法によって行えばよい。本発明の種子によって育成した植物において、登熟早期から登熟後期に渡って、プロモーターの下流に機能的に連結した遺伝子を持続的に発現させることができる。
【実施例】
【0027】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0028】
実施例1 プロモーター候補の選出
(PCRによるプロモーター候補DNA断片の増幅)
シロイヌナズナ(Arabidopsis Columbia)のゲノミックDNAを鋳型として、下記に示すプライマーを用いて、PCR法によって、脂肪酸合成関連酵素遺伝子ACCaseの各サブユニット(CTα、BCCP1、BCCP2、及びBC)、並びに、TAG合成関連酵素遺伝子のFAE1及びFAD3の上流領域から以下のプロモーター候補DNA断片を増幅した。一部のプロモーター候補の模式図は図1に示す。PCRは、98℃2分の後、98℃10秒、55℃15秒、72℃1分を35サイクルし、最後に72℃5分で行った。
【0029】
(1)BCCP1転写開始上流領域990bのDNA断片(BCCP1−1k)
BCCP1−1k SalF:5’−GCGTCGACTTTGTTCTTCTTTTTCCG−3’(配列番号4)
BCCP1−1kt BamR:5’−GCGGATCCAGAAGATGTCGGATTCGG−3’(配列番号5)
(2)BCCP1−1k+BCCP1上流の5’非翻訳領域の110b(BCCP1−5’UTR)
BCCP1−1k SalF:5’−GCGTCGACTTTGTTCTTCTTTTTCCG−3’(配列番号4)
BCCP1p BamR:5’−GCGGATCCTCGTCTTCTTATTGTTATTG−3’(配列番号6)
(3)BCCP1転写開始上流領域500bのDNA断片(BCCP1−500)+BCCP1−5’UTR
BCCP1−500b SalF:5’−GCGTCGACGATGCATTTTGTTTATAG−3’(配列番号7)
BCCP1p BamR:5’−GCGGATCCTCGTCTTCTTATTGTTATTG−3’(配列番号6)
(4)BCCP1転写開始上流領域296bのDNA断片(BCCP1−300)+BCCP1−5’UTR
BCCP1−300b SalF:5’−GCGTCGACAATTGGAGACACCGACAG−3’(配列番号8)
BCCP1p BamR:5’−GCGGATCCTCGTCTTCTTATTGTTATTG−3’(配列番号6)
【0030】
(5)BCCP2転写開始上流領域1000bのDNA断片(BCCP2−1k)
BCCP2−1k SalF:5’−GCGTCGACATCAGACAAAAGAGAGACAAC−3’(配列番号9)
BCCP2t BamR:5’−GCGGATCCCCAAACCGCTCCTTTTGTC−3’(配列番号10)
(6)BCCP2−1k+BCCP2上流の5’非翻訳領域の192b(BCCP2−5’UTR)
BCCP2−1k SalF:5’−GCGTCGACATCAGACAAAAGAGAGACAAC−3’(配列番号9)
BCCP2p BamR:5’−GCGGATCCTGTTGAGACAGTGGACGATG−3’(配列番号11)
(7)BCCP2転写開始上流領域800bのDNA断片(BCCP2−800)+BCCP2−5’UTR
(6)で得られたBCCP2−1k+BCCP2−5’UTRのPCR断片を後述の方法にてpCR BluntのEcoRVサイトに導入した後、PstI/BamHI制限酵素でDNA断片を切り出し、再びpBSKのPstI/BamHIサイトに導入し、HindIII/BamHI制限酵素で処理して得たDNA断片をBCCP2−800+BCCP2−5’UTRとした。BCCP2−800+BCCP2−5’UTRを後述の方法によってpBI101のHindIII/BamHIサイトに導入した。
(8)BCCP2転写開始上流領域318bのDNA断片(BCCP2−300)+BCCP2−5’UTR
BCCP2−300b SalF:5’−GCGTCGACTATCTGCATTTACTGAAG−3’(配列番号12)
BCCP2p BamR:5’−GCGGATCCTGTTGAGACAGTGGACGATG−3’(配列番号11)
【0031】
(9)CTα転写開始上流領域980bのDNA断片(CTα−1k)
CTα−1k SalF:5’−GCGTCGACTAATACCCTTATTAAAGGCC−3’(配列番号13)
CTαt BamR:5’−GCGAATCCATCCTTCCTTGCCAATTG−3’(配列番号14)
(10)CTα転写開始上流領域608bのDNA断片(CTα−600)
(9)で得られたCTα1kのPCR断片を後述の方法によってpCR BluntのEcoRVサイトに導入した後、PstI/BamHI制限酵素でDNA断片を切り出し、再びpBluescriptII SK+のPstI/BamHIサイトに導入し、HindIII/BamHI制限酵素で処理して得たDNA断片をCTα−600とした。CTα−600を後述の方法によってpBI101のHindIII/BamHIサイトに導入した。
(11)CTα−1k+CTα上流の5’非翻訳領域の450b(CTα−5’UTR)
CTα−1k SalF:5’−GCGTCGACTAATACCCTTATTAAAGGCC−3’(配列番号13)
CTαp BamR:5’−GCGGATCCTTTTTGCGTTGAGTTCTT−3’(配列番号15)
(12)CTα転写開始上流領域251bのDNA断片(CTα−250)+CTα−5’UTR
(11)で得られたCTα−1k+CTα−5’UTRのPCR断片を後述の方法によってpCR BluntのEcoRVサイトに導入した後、SmaI/BamHI制限酵素でDNA断片を切り出し、再びpBluescriptII SK+のEcoRV/BamHIサイトに導入し、HindIII/BamHI制限酵素で処理して得たDNA断片をCTα−250+CTα−5’UTRとした。CTα−250+CTα−5’UTRは後述の方法によってpBI101のHindIII/BamHIサイトに導入した。
【0032】
(13)BC転写開始上流領域1010bのDNA断片(BC−1k)
BC−1k SalF:5’−GCGTCGACTAATATATCTTCTTATGAC−3’(配列番号16)
BCt BamR:5’−GCGGATCCCTTGAATCCTCCGCCCGACTG−3’(配列番号17)
(14)BC−1k+BC上流の5’非翻訳領域の142b(BC−5’UTR)
BC−1k SalF:5’−GCGTCGACTAATATATCTTCTTATGAC−3’(配列番号16)
BCp BamR:5’−GCGGATCCTTTCCAAATGCAGGAGGC−3’(配列番号18)
(15)BC転写開始上流領域203bのDNA断片(BC−200)+BC−5’UTR
(14)で得られたBC1kp+ BCα5’UTRのPCR断片をpCR BluntのEcoRVサイトに導入した後、HindII/BamHI制限酵素で切り出して得られたDNA断片をBC−200+BC−5’UTRとした。BC−200+BC−5’UTRは後述の方法によってpBI101のHindIII/BamHIに導入した。
【0033】
(16)FAE1翻訳開始上流領域1,207bのDNA断片(FAE1−1k)
まず、下記のプライマーを用いて、FAE1翻訳開始上流領域1,998bのDNA断片を増幅した(配列番号23)。
FAE1−2k SalF:5’−CGTCGACGGATCCCGGATTCTATTCACTCTATC−3’(配列番号19)
FAE1 SalR:5’−GTCGACTCTGTTTGTGTCGGAAAATAATGG−3’(配列番号20)
次に、得られた約2kbのPCR断片をpCR BluntのEcoRVサイトに導入した後、HindIII/SalI制限酵素で処理して得られたDNA断片をFAE1−1kとした(配列番号1)。
(17)FAD3翻訳開始上流領域983bのDNA断片(FAD3−1k)
FAD3−1k HindF:5’−CGAAGCTTTTTGCTCGATTTGTGTTG−3’(配列番号21)
FAD3−1k SmaR:5’−GCCCCGGGTAATGTGGTGAAGAAAGGGTTTG−3’(配列番号22)
【0034】
(プロモーター候補DNA断片を植物形質転換用ベクターへの組み換え)
PCR産物をアガロースゲル電気泳動にて分離した。PCR産物をDMT GKO1 Get Pure DNA Kit (Dojindo)で回収した。ベクターpCR blunt(Invitrogen)をセルフライゲーションにより環状にし、さらに制限酵素EcoRVで処理した。PCR産物と酵素処理したベクターとをモル比で約3:1となるように混合し、さらに混合液と同量のligation solution(TAKARA Ligation kit)を加え、16℃、3時間反応させた。コンピテントセル(E.coli XL1 blue)にライゲーション溶液を1μL入れ、エレクトロポーレーション法によってDNAを導入した。
【0035】
エレクトロポーレーション後は、SOC培地1mLに菌を移し、37℃で1時間振盪した後、LBプレートにまいた。LBプレートには、予めカナマイシン(Km)が終濃度50μg/mL、イソプロピル−b−D−ラクトピラノシド(Isopropyl−b−D−thio−galactopyranoside(IPTG))が終濃度1mMになるように加えた。コンピテントセルをまいてから、37℃で14〜16時間培養した。コロニーからアルカリ抽出法によりプラスミドを得た。得られたサブクローンされたDNA断片について、必要があればThermo sequenase fluorescent labeled Primer cycle sequencing kit (Amersham Life Science)を用いたシーケンスにより、核酸配列を確認した。
【0036】
得られたプラスミドを制限酵素SalI/BamHI、HindIII/SalI、又はHindIII/SmaIで処理し、アガロースゲル電気泳動にて分離し、DNA断片をDMT GKO1 Get Pure DNA Kit (Dojindo)で回収した。回収したDNA断片をそれぞれHindIII/SalI、HindIII/BamHI又はHindIII/SmaIで処理した植物形質転換用ベクターpBI101に導入した。
【0037】
DNA断片が導入された組み換えベクターの部分的模式図を図2に示す。図2中NTPIIはカナマイシン耐性遺伝子、NOSはノパリン合成酵素のポリアデニル化シグナルである。図2中のプロモーター部分に、17のプロモーター候補がそれぞれ導入されていた。ベクターにおいてプロモーター候補はβーグルクロニダーゼ(GUS)構造遺伝子の上流側に隣接して位置するため、プロモーター候補がプロモーターとして機能する場合、GUS構造遺伝子の発現を制御することとなる。
【0038】
(組み換えベクターを植物細胞への導入による形質転換体の作製及び育成)
上記得られた組み換えベクターはまず、エレクトロポーレーション法によってアグロバクテリウムGV3101に遺伝子導入した。次に、アグロバクテリウムGV3101を用いてフローラルディップ法によりシロイヌナズナ(Colombia)を形質転換した。形質転換は、組み換えベクターを持つアグロバクテリウムGV3101を、100μL/mLリファンピシン及び50μL/mLカナマイシンを含むLB培地80mLに移し、28℃で16時間振盪培養した。得られた培養液を遠心して菌体を沈殿させて上清を捨て、40mL浸潤用懸濁液(1/2Murashige−Skoog塩、1/2Gamborg B5ビタミン、5%スクロース、44nMベンジルアミノプリン、0.02%silwet L−77,pH5.7)に懸濁した。シロイヌナズナの鉢を逆さにして、花芽をアグロバクテリウムの懸濁液に2分間つけた。植物を懸濁液から取り出して水洗し、約3〜4週間で種子の収穫をすることにより、形質転換したシロイヌナズナ種子を得た。
【0039】
得られた形質転換された種子は、50%ブリーチ(次亜塩素酸)に10分間浸水後、滅菌水で3〜5回水洗することにより表面滅菌した。表面滅菌後の種子を0.1%の滅菌寒天溶液に懸濁後、選択プレート培地(1/2Murashige−Skoog塩、Gamborg B5ビタミン、1%スクロース、30mg/mlカナマイシン、0.2%ゲランガム)にまいて、23℃で2週間静置培養して生育してくる植物体を選択することにより形質転換体を得た。
【0040】
得られた形質転換植物の莢(種子を含む)を、開花後4、10及び15日目、又は3及び14日目に採取し、GUS染色によってプロモーター活性を検討した。GUS染色は、染色対象のサンプルを90%アセトンに30−45分浸漬し(氷上)、その後GUS染色液に浸漬し、バキューム装置によって組織に浸透させ、37℃で一晩静置することによって行った。また、観察に際しては、染色を行ったサンプルを70%エタノールに移した後、エタノール/酢酸(6:1)溶液に浸漬することによって、クロロフィル色素を除去した。さらに70%エタノール液に戻した後、実体顕微鏡にて観察した。
【0041】
開花後莢及び種子におけるGUS染色の結果は図3〜7及び表1に示した。図3〜7及び表1からは、ACCase各サブユニット遺伝子に対するプロモーター候補のうち、5’UTRを有しないものは、下流遺伝子を発現させることはできなかったが、5’UTRを有するものは下流遺伝子を発現させることができた。一方、FAE1及びFAD3の翻訳開始上流領域の約1kbpDNA断片は下流遺伝子を発現させることができた。ACCaseの各サブユニット遺伝子の5’UTRは下流遺伝子の発現の制御に重要な役割を果たしていることが示唆された。
【0042】
【表1】



【0043】
ACCase各サブユニット遺伝子におけるプロモーター候補領域の模式図は図8に示した。そのうち、WRI1は、登熟期において炭素源の貯蔵油脂の合成への流れを制御するとの報告があるため(非特許文献2)、5’UTRにおけるWRI1結合配列はプロモーター活性を有するために不可欠であると推測される。一方、5’UTRではなく、転写開始上流領域におけるWRI1結合配列は必ずしも必要でないことは本実施例によって証明された。
【0044】
実施例2 FAE1−1kとBCCP2−5’UTRとの連結プロモーターの作製
(BCCP2−5’UTRの単離)
シロイヌナズナのゲノミックDNAを鋳型として、以下のプライマーを用いて、PCR法によってBCCP2上流の192bpのDNA断片(BCCP2−5’UTR)の増幅を行った。PCRは、98℃2分の後、98℃10秒、55℃15秒、72℃1分を35サイクルし、最後に72℃5分で行った。
BCCP2−5’UTR XhoI Forward primer:
5’−GCGCTCGAGACAAAAGGAGCGGTTTGG−3’(配列番号24)
BCCP2−5’UTR SalI Reverse primer:
5’−GCGGTCGACTGACGCCATTGTTGAGAC−3’(配列番号25)
【0045】
実施例1と同様に、PCR産物をベクターpCR−Blunt(Invitrogen)にライゲーションし、コンピテントセル(E.coli XL1 blue)に導入した。さらに、コンピテントセルをカナマイシン(Km)によって選択し、培養したコロニーからアルカリ抽出法によりプラスミドを得た。得られたサブクローンされたDNA断片について、Thermo sequenase fluorescent labeled rimer cycle sequencing kit (Amersham Life Science)を用いたシーケンスによって核酸配列を確認した(配列番号2)。さらに、得られたプラスミドを制限酵素XhoI及びSalIで処理し、アガロースゲル電気泳動にて分離した約200bの断片をDMT GKO1 Get Pure DNA Kit(Dojindo)で回収し、BCCP2−5’UTRとした。
【0046】
(FAE1−1kとBCCP2−5’UTRとの連結)
ベクターpBluescriptII SK+をHindIII/SalIで処理し、上記実施例1の(16)でHindIII/SalIによって処理して得られたFAE1−1k断片及び上記得られたBCCP2−5’UTR断片を、制限酵素処理したベクターに対してそれぞれモル比で約3:1となるようにベクターと混合し、さらに混合液と同量のligation solution(TAKARA Ligation kit)を加え、16℃、3時間反応させた。コンピテントセル(E.coli XL1 blue)にライゲーション溶液を1μL入れ、エレクトロポーレーション法によってDNAを導入した。
【0047】
エレクトロポーレーション後は、SOC培地1mLに菌を移し、37℃で1時間振盪した後、LBプレートにまいた。LBプレートには、予めアンピシリン(Amp)が終濃度50μg/mL加えてあり、さらに100mMイソプロピル−b−D−ラクトピラノシド(Isopropyl−b−D−thio−galactopyranoside(IPTG))30μL、5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−b−D−ガラクトピラノシド(5−bromo−4−chloro−3−indolyl−b−D−galactopyranoside (X−gal)25μLを塗布した。
【0048】
コンピテントセルをまいてから、37℃で14〜16時間培養した。コロニーからアルカリ抽出法によりプラスミドを得た。得られたサブクローンされたDNA断片について、Thermo sequenase fluorescent labeledprimer cycle sequencing kit (Amersham Life Science)を用いたシーケンスにより、FAE1−1KとBCCP2−5’UTRとの連結部分の配列が正しいことを確認した。連結されたプロモーターの配列を配列番号3に示す。配列番号3に記載の配列において、1,208〜1,213番目の核酸(GTCGAG)はFAE1−1kとBCCP2−5’UTRとを連結する部位である。
【0049】
(バイナリーベクターの構築)
上記得られた連結プロモーターを制限酵素HindIII及びSalIで処理し、アガロースゲル電気泳動にて分離し、約1.4kbのDNA断片をDMT GKO1 Get Pure DNA Kit (Dojindo)で回収した。pBI101をHindIII及びSalIで処理し、回収した約1.4kbの断片を導入した。これをpChimProと命名した。
【0050】
pChimProにおいて、FAE1−1KとBCCP2−5’UTRとの連結プロモーターはβーグルクロニダーゼ(GUS)構造遺伝子の上流側に隣接して位置し、連結プロモーターがプロモーターとして機能する場合、GUS構造遺伝子の発現を制御することとなる。
【0051】
(形質転換体の作製及び育成)
実施例1と同様にして、pChimProによって形質転換したシロイヌナズナ種子を得、種子を培養して生育してくる植物体を選択することにより形質転換体を得た。
【0052】
得られた形質転換植物の莢(種子を含む)を、開花後4,8,10,15日目に採取し、実施例1と同様にGUS染色によってプロモーター活性を検討した。対照として、BCCP2−300+5’UTRをGUS遺伝子の上流に挿入したものが導入されているシロイヌナズナ、及び、FAE1−1kをGUS遺伝子の上流に挿入したものが導入されているシロイヌナズナの莢及び種子におけるGUS染色も行った。
【0053】
開花後莢及び種子におけるGUS染色の結果は図9に示した。その結果、BCCP2−300+5’UTRは、開花後8日目あたりに強い活性を示し、15日目には活性が見られなくなった。一方、FAE1−1Kは開花後10日目あたりから活性がみられ、15日には強い活性が見られた。これらに対して、FAE1−1KとBCCP2−5’UTRの連結プロモーターは、開花後8日目から少なくとも15日目まで強い活性を示した。FAE1−1KとBCCP2−5’UTRとの連結プロモーターは、FAE1−1KとBCCP2−5’UTRとの両方の活性を併せ持つことが示された。このプロモーターの下流に例えばACCaseやTAG1を導入し、植物細胞に形質転換した場合、登熟早期から後期に渡って遺伝子を発現させることができ、それによって植物油脂の合成量の増加が期待できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
FAE1及びFAD3からなる群より選択される1つの遺伝子の翻訳開始上流1,000bのうちの500b以上の連続的配列を有する、第1の核酸と、
BCCP1、BCCP2、CTα及びBCからなる群より選択される1つの遺伝子の5’上流非翻訳領域のうちの、少なくとも1つのWRI1結合配列を含み、かつ、100b以上の連続的配列を有する、第2の核酸と
が連結してなる、プロモーター。
【請求項2】
前記第2の核酸が、BCCP1、BCCP2、CTα及びBCからなる群より選択される1つの遺伝子の、
(1)5’上流非翻訳領域のうちの、少なくとも1つのWRI1結合配列を含み、かつ、100b以上の連続的配列、及び
(2)転写開始上流200b以上の配列
を有する、請求項1に記載のプロモーター。
【請求項3】
配列番号1に記載の塩基配列を有する核酸と、配列番号2に記載の塩基配列を有する核酸とが連結してなる、プロモーター。
【請求項4】
配列番号3に記載の塩基配列を有する、プロモーター。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のプロモーターを含む、植物形質転換用ベクター。
【請求項6】
請求項5に記載の植物形質転換用ベクターが導入される、種子。
【請求項7】
請求項6に記載の種子を育成して得られる、植物。


【図1】
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【図2】
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【図8】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−193801(P2011−193801A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−64274(P2010−64274)
【出願日】平成22年3月19日(2010.3.19)
【出願人】(304023318)国立大学法人静岡大学 (416)
【Fターム(参考)】