説明

プロラクチン及び免疫調節剤による、神経炎症若しくは脱髄障害の治療又は寛解

哺乳類における神経炎症若しくは脱髄に関連する障害を治療又は寛解するための方法、組成物及びキットを開示する。前記方法、組成物及びキットは、インターフェロン−βと組み合わせて、プロラクチン、プロラクチン誘発剤、又はプロラクチンの変異体、類似体若しくは機能的断片を含む。プロラクチン及び免疫調節剤を含む組成物及びキットもまた提供される。該組成物は、所望により、神経炎症若しくは脱髄障害の治療又は寛解に使用するための医薬品組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2007年7月20日出願の米国仮出願第60/950,948号及び2007年12月7日出願の同第61/012,259号に対する優先権の利益を主張し、これらはその全文が参照することにより本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
多発性硬化症(MS)のような障害は、ニューロン及び/又はミエリンの傷害及び欠損、並びにその結果として起こる神経学的欠陥を導く、中枢神経系(CNS)における脱髄及び炎症の存在を特徴とする。MSは、欧州、北米及び他の温帯地域の、最も一般的な身体に障害を引き起こす神経学的状態である。現在承認されている、現場で用いられているMSの治療法としては、インターフェロン−β又は酢酸グラチラマーが挙げられる。これらの薬剤は、抗炎症反応の方へ免疫バランスを移すことにより作用すると考えられる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
本明細書で記載するのは、哺乳類の神経炎症又は脱髄障害の症状を治療する、寛解させる、又は予防的に処置を施すための方法、組成物及びキットである。例えば、本明細書で提供するのは、哺乳類にプロラクチン、プロラクチン誘発剤又はプロラクチン若しくはプロラクチン誘発剤のいずれかの変異体、断片若しくは類似体を投与する工程と、哺乳類に免疫調節剤(例えば、インターフェロン、COPAXONE(登録商標)、CAMPATH(登録商標)、MBP8929)を投与する工程と、を含む、哺乳類の多発性硬化症のような神経炎症若しくは脱髄障害を治療又は寛解する方法である。プロラクチン及び免疫調節剤を含む組成物及びキットもまた提供される。該組成物は、所望により、神経炎症若しくは脱髄障害の治療又は寛解に使用するための医薬品組成物である。したがって、本明細書で提供するのは、神経炎症若しくは脱髄障害を治療又は寛解する薬物を製造するための、プロラクチン及び免疫調節剤を含む組成物向けの使用である。
【図面の簡単な説明】
【0004】
【図1】プロラクチン、インターフェロン−β、MOG及び百日咳毒素の投与のための治療パラダイムを示す図である。
【図2】3週間にわたって、賦形剤、プロラクチン、インターフェロン−β、又はプロラクチンとインターフェロン−βとの組み合わせの存在下における、EAEマウスの平均臨床スコアを示すグラフである。プロラクチンとインターフェロン−βとの併用は、いずれかの薬剤単独の効果及び賦形剤の効果と比較して、EAE臨床スコアを低下させた。
【図3】図2の賦形剤、プロラクチン、インターフェロン−β、又はプロラクチンとインターフェロン−βとの併用で処理したEAEマウスの臨床スコアの合計を示すヒストグラムである。図3Aは、治療期間17日目の結果を示し、図3Bは治療中止4日後である、21日目の結果を示す。値は、平均±平均の標準誤差である。統計的解析は、Tukeyの多重比較試験を伴う分散分析(ANOVA)から成った。
【発明を実施するための形態】
【0005】
プロラクチンは、神経幹細胞を増加させる、神経発生を強化する、及び乏突起膠細胞前駆細胞(OPC)を増加させることが立証されている(例えば、米国特許第7,393,830号、米国特許出願公開第2007/0098698号を参照)。プロラクチンはまた、脊髄の毒素(リゾレシチン)介在脱髄後の再ミエリン化を高める(Gregg et al. 2007 White matter plasticity and enhanced remyelination in the maternal CNS, J. Neuroscience 27:1812-1823)。しかしながら、該文献中には、実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)のような状態の、MSの動物モデルにおいて、プロラクチンが炎症促進性であり得ることを示唆するさまざまな提案がある。しかしながら、現在記載されている方法及び組成物を用いることは、神経炎症、多発性硬化症のような脱髄障害の当該技術分野において認められている動物モデルにおいて、プロラクチンのみであっても又は免疫調節剤と併用しても疾患の重篤度を悪化させない。実際、プロラクチン及び免疫調節剤(例えば、インターフェロン−β)は、どちらの薬剤の単独使用と比較しても、疾患の重篤度の低下において相乗効果を有する。更に、該効果は治療中止後も維持される。プロラクチン及びインターフェロンの併用はまた、どちらの薬剤の単独使用と比較しても、成長因子の発現プロファイルを改変する。
【0006】
本明細書で提供するのは、神経炎症及び/若しくは脱髄に関連する障害を治療若しくは寛解するための、又は、このような障害に関連する麻痺若しくは機能不全を治療若しくは寛解するための、方法及び組成物である。また、提供するのは、ミエリンの形成を高めるための、哺乳類の乏突起膠細胞前駆細胞の数を増加させるための、脱髄を防ぐための、乏突起膠細胞の数を増加させるための、ニューロン又は軸索の欠損を低下させるための、病変の大きさ若しくは数を低下させるための、又は炎症を低減するための方法である。更に提供するのは、MSの再発形のような神経炎症又は脱髄疾患の可能性を低下させる若しくは再発を遅延させる方法である。当該方法及び組成物は、免疫調節剤と併用するプロラクチン又はプロラクチン誘発剤の使用に関する。プロラクチン又はプロラクチン誘発剤及び免疫調節剤の併用投与は、1つ又はそれ以上のコンビナトリアル又は相乗効果を有する。例えば、プロラクチンとインターフェロンとの併用は、MSの動物モデルの臨床症状の重篤度の低下において、相乗効果を有する。
【0007】
免疫調節剤としては、感染を防ぐ能力を除くことなく免疫破壊プロセスを下方制御することにより免疫系に影響を及ぼす薬剤が挙げられる。免疫調節剤の例としては、インターフェロン(インターフェロン−β(インターフェロン−β−1b(BETASERON(登録商標)(Schering Aktiengesellschaft Corp., Berlin, Germany));インターフェロン−β−1a(例えば、AVONEX(登録商標)(Biogen Inc., Cambridge, MA)、REBIF(登録商標)(Ares-Serano, Aubonne Switzerland)、CINNOVEX(商標)(CinnoGen Co., Tehran, Iran));インターフェロン−α(INTRON(登録商標)A(Schering Corp., Kenilworth, NJ)、ROFERON-A(登録商標)(Hoffman-LaRoche, Inc., Nutley, NJ)))及び酢酸グラチラマー(COPAXONE(Teva Pharmaceuticals, Tikva, Israel))が挙げられる。他の可能な免疫調節剤としては、アレムツズマブ(CAMPATH(登録商標)(Genzyme, Cambridge, MA));MBP8929(BioMS Medical, Edmonton, Alberta, CA)ミトキサントロン(例えば、NOVANTRONE(登録商標)(Immunex, Seattle, WA))、ナタリズマブ(例えば、TYSABRI(登録商標)(Elan Pharma International Ltd., Claire, Ireland))、アザチオプリン(例えば、IMURAN(登録商標)(Prometheus Lab, San Diego, CA))、メトトレキサート(例えば、RHEUMATREX(登録商標)(Dava International, Inc. Fort Lee NJ))、シクロスホスアミド(cyclosphosamide)(例えば、CYTOXAN(登録商標)(Mead Johnson & Co., Evansville, IN))、シクロスポリン(例えば、SANDIMMUNE(登録商標)(Novartis AG Corp, Basel Switzerland)、クラドリビン(例えば、LEUSTATIN(登録商標)(Johnson & Johnson Corp., New Brunswick, NJ)が挙げられる。1例として、インターフェロン−βが、免疫調節剤として本開示全体を通して用いられる。免疫調節剤は、免疫調節剤(例えば、インターフェロン−β)の活性断片、変異体、又は類似体であってもよい。プロラクチン又はインターフェロンには、ヒト及び非ヒト型が含まれることに留意すべきである。
【0008】
所望により、本明細書に開示する方法はまた、哺乳類に、例えば、ミノサイクリン又は乏突起膠細胞の分化を促進する薬剤を含む、追加の薬剤を投与することを含む。このような薬剤の例としては、T3又はT4型の甲状腺ホルモン及び甲状腺放出ホルモンが挙げられる。
【0009】
本明細書で使用される薬剤又は組成物は、全身的に(例えば、経口的に、非経口的に(例えば、静脈内に)、筋肉内に、腹腔内に、経皮的に(例えば、貼付剤により)、体外的に、局所的に、吸入により、皮下に等)、中枢神経系に投与することにより(例えば、脳(脳内に又は脳室内に)若しくは脊髄に、又は脳脊髄液に)、又はこれらの任意の組み合わせにより投与することができる。インターフェロン−βは、全身的又は中枢神経系に投与され、プロラクチン又はプロラクチン誘発剤は、全身的又は中枢神経系に投与される。種々の薬剤の投与方式は、同じであってもよく、又は異なり、任意の組み合わせで用いられてもよい。したがって、例えば、インターフェロン−β及びプロラクチン若しくはプロラクチン誘発剤は、両方全身的に投与してもよく、又は、異なる方法(例えば、一方を全身的に投与し、一方を中枢神経系に投与する)により投与してもよい。追加の薬剤を投与する場合、同様に、同じ方法で投与してもよく、又はインターフェロン−β及び/若しくはプロラクチン若しくはプロラクチン誘発剤とは異なる方法で投与してもよい。
【0010】
必要とされる組成物又は薬剤の用量は、被験体の種、年齢、体重及び全身状態、用いられる具体的な活性剤、投与方式等に応じて、被験体によって異なる。例えば、種々の神経炎症及び/又は脱髄障害の動物モデル(例えば、EAEマウスモデル、クプリゾン誘導脱髄モデル及びリゾレシチンモデル)を用いて、応答の水準を監視することができる。臨床的徴候を監視することができ、脊髄の炎症、脱髄及び軸索破壊のエンドポイント組織病理学的分析を、神経炎症及び/若しくは脱髄障害の被験体又は動物モデルにおいて、既に記載されているように決定することができる。更に、プロラクチン及び/若しくは免疫調節剤により引き起こされる進行中の炎症反応を決定するために、MOG免疫後の様々な時間でリンパ節からのリンパ球及び脊髄を測定することができる。組織学的試験を用いて、例えば、ミエリン、OPC又は乏突起膠細胞(oligodentrocyte)数、再ミエリン化、サイトカイン濃度、リンパ球数を検出することができる。細胞選別を実施して、組織サンプル中のリンパ球数を同定することができる。イメージング(例えば、MRI)及び機能的測定(生存率又は臨床症状)を用いて、治療法に対する被験体の応答を監視することができる。更に、切除したヒト脳サンプル(例えば、他の難治性障害を治療するための手段として生じたサンプル)を分離し、ニューロスフェアとして培養して、被験体のOPCに対するプロラクチン及び/又は免疫調節剤の用量の効果、並びに、その増殖及び自己複製を高める能力を研究することができる。電気生理学研究(例えば、生じた電位及び神経伝導)を利用して、進行を監視することができる。神経病理学的検査の例は、例えば、米国特許出願公開第2007/023711号;Schellenberg et al. (2007) Magnetic resonance imaging of blood-spinal cord barrier disruption in mice with experimental autoimmune encephalomyelitis, Magn. Reson. Med. 58:298-305及びLarsen et al. (2003) Matrix metalloproteinase-9 facilitates remyelination in part by processing the inhibitory NG2 proteoglycan, J. Neuroscience 23:11127-35. Brundula et al., Brain 125:1297, 2002; Giuliani et al., J Neuroimmunol 165:83, 2005を参照。
【0011】
原則として、組成物の投与の用量範囲は、疾患の症状が影響を受ける所望の効果を生じさせるのに十分大きい。例えば、機能的改善、組織学的改善、遺伝子発現等が影響を受ける場合があり、所望の成果を決定するために監視することができる。該用量は、望ましくない交差反応及び望ましくない炎症反応のような、有害な副作用を引き起こすほど大きいべきではない。用量は変動してよいが、併用してよい薬剤の用量は、相乗効果を考慮して、いずれかの薬剤の単独用量よりも少ないことに留意すべきである。プロラクチンのヒトの用量の例としては、毎日の又は任意の投与回数の皮下注射により、約1〜1000μg/kg、約10〜100μg/kg及びより具体的には約40〜60μg/kg(又はこの間の任意の量)、並びに、分娩後の女性で測定した範囲のプロラクチン血中濃度、すなわち、約100〜250μg/lを達成する投与方式が挙げられる。一般に、免疫調節剤の用量は、単剤療法で用いられるものと同様、又はそれより少なくてもよい。インターフェロン−βのヒトの用量の例としては、例えば、週1回筋肉内に(例えば、週1回約1〜100μg又は約20〜35μg)、週3回皮下に(例えば、週3回約1〜100μg又は約10〜50μg)、及び隔日皮下に約20〜500μg(例えば、1日おきに約200〜250μg)投与される、約1〜1000μg又は約10〜250μg(又はこの間の任意の量)が挙げられる。COPAXONE(登録商標)のヒトの用量の例としては、毎日皮下に約1〜100mg又は約10〜100mg(例えば、毎日約20mg)が挙げられる。
【0012】
該薬剤は、1日又はそれ以上の間(例えば、1、2、3、4、5、6、7日間;2、3、4週間;2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12月間;2年間、3年間、4年間、又はそれ以上)、少なくとも毎日1回、1回又はそれ以上の回数投与してよい。該薬剤は、同じスケジュールで投与される必要はない。例えば、ある薬剤は毎日投与してよく、別の薬剤はそれ程頻繁に投与しなくてもよい。治療は、所望により、週2回、週1回、隔週、月2回、月1回、隔月等である。したがって、治療期間は、所望により、1又はそれ以上の日、週、月又は年であってよく、被験体の残りの寿命継続してもよい。
【0013】
これらの薬剤(例えば、プロラクチン又はプロラクチン誘発剤、インターフェロン−β及び/又は他の薬剤)は、所望により、連続的に又は同時に投与される。同時投与とは、およそ同じ期間、同じ組成物内で又は別々の組成物により投与することを意味する。連続投与とは、薬剤が、分(1〜60又はこの間の任意の量)、時間(1〜24又はこの間の任意の量)、日(1〜7又はこの間の任意の量)、又は週(1〜52又はこの間の任意の量)を挙げることができる、1又はそれ以上の投与間の介在期間と連続して投与されることを意味する。所望により、プロラクチン又はプロラクチン誘発剤が最初に送達され、又は、インターフェロン−βが最初に投与される。1例として、最初の薬剤を投与し、続いて、第2の薬剤の生理学的効果若しくは活性の期間中又はそれと重複して、第1の薬剤が生理学的に有効若しくは活性であるような投与間の間隔で第2の薬剤を投与することができる。
【0014】
本明細書の薬剤又は薬剤の組み合わせのいずれか1種を、薬剤とともに、又は血液脳関門を横断する薬剤の通過を強化する条件下で投与することができる。例えば、血液脳関門透過剤を利用することができる。血液脳関門透過剤は当該技術分野において既知であり、1例として、米国特許第5,686,416号、同第5,506,206号、及び同第5,268,164号に記載されているブラジキニン及びブラジキニン作動薬が挙げられる(例えば、NH−アルギニン−プロリン−ヒドロキシプロキシプロリン−グリシン−チエニルアラニン−セリン−プロリン−4−Me−チロシンψ(−CHNH)−アルギニン−COOH)。あるいは、送達される分子は、例えば、トランスフェリン受容体抗体(米国特許第6,329,508号、同第6,015,555号、同第5,833,988号又は同第5,527,527号に記載のような)、カチオン化アルブミン、インスリン、インスリン様成長因子(IGF−I、IGF−II)、アンギオテンシンII、心房性及び脳性ナトリウム利尿ペプチド(ANP、BNP)、インターロイキンI(IL−1)、トランスフェリン、カチオン化LDL、ポリリジンと結合したアルブミン又は西洋わさびペルオキシダーゼ、カチオン化アルブミン、カチオン化免疫グロブリン、小塩基性オリゴペプチド(例えば、ダイノルフィン類似体E−2078又はACTH類似体エビラチド)、ヘキソース部分(例えば、グルコース)、モノカルボン酸(例えば、乳酸)が挙げられる輸送ベクターに抱合されてもよい。該薬剤はまた、該分子及びトランスフェリン受容体のような脳毛細血管内皮細胞受容体と反応するリガンドを含む融合タンパク質として送達されてもよい(例えば、米国特許第5,977,307号参照)。
【0015】
所望により、当該薬剤は、例えば、リポソーム中に配合してもよく、又は、当該技術分野において利用可能な方法によりペグ化(すなわち、ポリエチレングリコールポリマー鎖の薬剤への共有結合)されてもよい。リポソームは、特定の細胞又は器官に選択的に輸送される1つ又はそれ以上の部分(標的部分)を含み、それにより、標的化薬物送達を提供できる。代表的な標的部分としては、葉酸、ビオチン、マンノシド、抗体、界面活性剤タンパク質A受容体及びgp120が挙げられる。
【0016】
また、本明細書で提供されるのは、哺乳類の神経炎症及び/若しくは脱髄障害を治療又は寛解する方法、並びに、ミエリンの形成を高めるための、脱髄を防ぐための、乏突起膠細胞前駆細胞の数を増加させるための、乏突起膠細胞の数を増加させるための、ニューロン又は軸索の欠損を低下させるための、病変の大きさ若しくは数を低下させるための、又は哺乳類の炎症を低減するための方法であり、これは哺乳類に、プロラクチン又は、プロラクチン又若しくはプロラクチン誘発剤と少なくとも80〜99%の配列同一性(又は80と99%との間の任意の配列同一性)を有するポリペプチドを投与する工程と、哺乳類にインターフェロン−βを投与する工程と、を含む。
【0017】
当業者は、2つのポリペプチドの配列同一性を決定する方法を容易に理解する。例えば、同一性は、同一性が最も高い水準になるように2つの配列を整列させた後算出することができる。刊行されているアルゴリズムを用いて、同一性の百分率を決定することができる。比較のための配列の最適なアラインメントは、刊行されているアルゴリズムにより(例えば、Smith and Waterman, Adv. Appl. Math. 2: 482 (1981)、 Needleman and Wunsch, J. Mol. Biol. 48: 443 (1970)、 Pearson and Lipman, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 85: 2444 (1988))、又はアルゴリズムのコンピュータ化された実行により(例えば、Wisconsin Genetics Software Package, Genetics Computer Group, 575 Science Dr., Madison, WIのGAP、BESTFIT、FASTA及び TFASTA)実施できる。
【0018】
プロラクチン又はプロラクチン誘発剤を用いる方法では、上記のように、免疫調節剤は所望によりインターフェロン−βであり、プロラクチン若しくはプロラクチン誘発剤と少なくとも80〜99%の配列同一性を有するポリペプチドを用いる方法は、被験体に、他の薬剤(例えば、トリヨードチロニン又は乏突起膠細胞若しくはミノサイクリンの分化を促進する他の薬剤)を投与することを更に含んでよい。投与方式及び投与のタイミングはまた、上記のようなものである。
【0019】
本明細書に教示されている方法の工程はまた、神経炎症及び/又は脱髄障害に関連する症状の発現を防ぐ又は遅延させるのにも有用である。したがって、神経炎症及び/若しくは脱髄障害の危険性がある又は無症候性神経炎症及び/若しくは脱髄障害を有する被験体は、本明細書の教示に従って、プロラクチン又はプロラクチン誘発剤が投与され、インターフェロン−β(及び所望により他の薬剤)が投与される。例えば、脳傷害のある被験体は、神経炎症及び/又は脱髄の危険性があることが知られており、これらの治療レジメンの利益を享受するであろう。神経炎症若しくは脱髄の危険性又は予防的治療の必要性は、MRIに基づくものである場合があり、又は当業者に理解されている前駆症状の指標による場合もある。
【0020】
プロラクチン又はプロラクチン誘発剤及び、インターフェロン(例えば、インターフェロン−β)のような免疫調節剤を含む組成物もまた提供される。この組成物は、神経炎症又は脱髄に関連する障害の治療又は寛解に使用するためのものである。該組成物は更に、薬剤的に許容可能な担体及び/又は他の薬剤(例えば、血液脳関門の透過性を高める薬剤)を含んでもよい。薬剤的に許容可能とは、生物学的に又は別の方法で不所望でない物質を意味する。したがって、その物質は、含有されている医薬品組成物の他の成分のいずれとも、許容できない生物学的効果又は許容できない相互作用を引き起こすことなく、被験体に投与できる。該担体は、当然、プロラクチン、プロラクチン誘発剤、又はインターフェロン−βの任意の分解を最低限に抑え、被験体に対する任意の有害な副作用を最低限に抑えるよう選択される。好適な担体及びその処方は、Remington: The Science and Practice of Pharmacy (21st ed.) ed. University of the Sciences in Philadelphia, Lipincott Williams & Wilkins 2005に記載されている。典型的には、適切な量の薬剤的に許容可能な塩は、処方を等張にするために、処方中に用いられる。薬剤的に許容可能な担体の例としては、生理食塩水、リンガー溶液及びデキストロース溶液が挙げられるが、これらに限定されない。溶液のpHは、好ましくは、約5〜8.5であり、より好ましくは約7.8〜約8.2である。更に担体としては、マトリックスが例えばフィルム、リポソーム、又は微粒子等の成形物品の形態である、抗体を含有する固体疎水性ポリマーの半透性マトリックスのような、徐放性製剤が挙げられる。特定の担体は、例えば、投与経路及び投与されている組成物の濃度に応じて、より好ましい場合がある。医薬品組成物は、最適な分子に加えて、担体、増粘剤、希釈剤、緩衝剤、防腐剤、表面活性剤等を含んでよい。医薬品組成物はまた、抗微生物剤等のような1種又はそれ以上の活性成分を含んでもよい。
【0021】
また、本明細書で提供されるのは、被験体の神経炎症若しくは脱髄に関連する障害を治療又は寛解するためのキットである。該キットは、1つ又はそれ以上の容器に、プロラクチン又はプロラクチン誘発剤及び免疫調節剤(例えば、インターフェロン−β)を含む。該キットは、所望により、プロラクチン又はプロラクチン誘発剤及びインターフェロン−βの両方を含む、少なくとも1つの容器を含む。したがって、該キットは、インターフェロン−βを含まず、プロラクチンを含む容器を含んでよい、プロラクチンを含まず、インターフェロン−βを含む容器を含んでよい、プロラクチン及びインターフェロン−βの両方を含む容器を含んでよい、又はこれらの組み合わせを含んでよい。本明細書で提供されるキットのいずれかは、所望により、薬剤若しくは組成物を被験体に投与するための取扱説明書を含む、及び/又は、被験体に薬剤若しくは組成物を投与するための少なくとも1つのデバイスを含む。
【0022】
また、本明細書で提供されるのは、神経炎症及び/若しくは脱髄に関連する障害を治療又は寛解する薬物の製造のための、プロラクチン又はプロラクチン誘発剤及び免疫調節剤(例えば、インターフェロン−β)を含む組成物の使用である。
【0023】
プロラクチンは全体を通して1例として引用されていることに留意すべきである。また、この方法及び組成物で有用なのは、プロラクチン又はプロラクチン誘発剤の変異体、断片、類似体であり、前記変異体、断片、又は機能的類似体は、プロラクチンの生物学的効果に相当する又はそれより優れた生物学的効果を有する。
【0024】
変異体、断片及び類似体は、例えば、天然原料(例えば、哺乳類の細胞)から抽出することにより、ポリペプチドをコードしている組み換え核酸を発現させることにより(例えば、細胞内で又は無細胞翻訳系で)、又はポリペプチドを化学的に合成することにより、得ることができる。更に、ポリペプチド断片は、これらの方法のいずれかにより、又は完全長ポリペプチドを分解することにより得てもよい。
【0025】
ポリペプチド変異体がプロラクチンの1つ又はそれ以上の生物学的活性(例えば、プロラクチン受容体への結合)を有する限り、自然に存在するプロラクチンと実質的に配列同一性を共有するポリペプチド変異体(例えば、70〜99%の配列同一性、又は70と99%との間の任意の量の配列同一性)を、本明細書に教示されている方法及び組成物で用いることができる。このようなプロラクチン変異体としては、天然プロラクチンの欠失、挿入、又は置換突然変異体が挙げられる。挿入としては、アミノ及び/又はカルボキシル末端融合に加えて、単一又は複数のアミノ酸残基の配列内挿入が挙げられる。欠失は、タンパク質配列から1つ又はそれ以上のアミノ酸残基が除去されることを特徴とする。置換は、1つ若しくはそれ以上の保存的アミノ酸置換、1つ若しくはそれ以上の非保存的アミノ酸置換、又はこれらの任意の組み合わせを含んでよい。これらの変異体は、通常、ポリペプチドをコードしているDNAのヌクレオチドの部位特異的突然変異生成により変異体をコードするDNAを生成し、その後組み換え細胞培養でDNAを発現させることにより調製される。既知の配列を有するDNAの所定の部位に置換突然変異を作製する技術は周知であり、例えば、M13プライマ突然変異生成及びPCR突然変異生成である。置換、欠失及び挿入を組み合わせて、完成コンストラクトに達してよい。
【0026】
プロラクチンの断片はまた、本明細書に教示されている方法及び組成物でプロラクチンの代わりに用いることができる。例えば、プロラクチン受容体結合領域の全て又は結合部を含むプロラクチンの断片は、その方法及び組成物で有用である。
【0027】
プロラクチンの機能的類似体(自然に存在する又は自然に存在しない)を用いることもできる。例えば、機能的作動薬は、プロラクチン受容体に対する、米国特許第6,333,031号に開示されている活性アミノ酸配列;プロラクチン受容体に対する、作動薬活性を有する金属錯体化受容体リガンド(米国特許第6,413,952号);ヒト成長ホルモンの類似体であるが、プロラクチン作動薬として作用するG120RhGH(Mode, et al Endocrinology 137:447(1996));又は米国特許第5,506,107号及び同第5,837,460号に記載されているようなプロラクチン受容体のリガンドであってよい。具体的には、自然に存在するプロラクチン変異体、プロラクチン関連タンパク質、S179D−ヒトプロラクチン(Bernichtein, S. et al. Endocrinology 142:3950 (2001))、ヒト、他の霊長類、ラット、マウス、ヒツジ、ブタ、ウシが挙げられるが、これらに限定されない種々の哺乳類種のプロラクチン、並びに米国特許第6,429,186号及び同第5,995,346号に記載のプロラクチン変異体を、本明細書の方法及び組成物で用いることができる。
【0028】
プロラクチンの代わりに又はそれに加えて、プロラクチン誘発剤を投与して、被験体のプロラクチン濃度を上昇させることができる。1例として、プロラクチン放出ペプチド及び自然に存在する又は自然に存在しない変異体、並びにプロラクチン放出ペプチドの機能的断片又は類似体を、本明細書の方法及び組成物で用いることができる。
【0029】
被験体とは、哺乳類を含む任意の個体を意味する。例えば、被験体としては、霊長類、齧歯類、ネコ科、イヌ科、家畜(ウシ、ヒツジ、ヤギ、ウマ及びブタ)及びヒトが挙げられる。
【0030】
神経炎症障害は、神経系の炎症により引き起こされる若しくはそれに関連する疾患又は症状である。神経炎症障害は、脱髄に関連する場合がある。脱髄障害は、中枢若しくは末梢神経系の脱髄若しくは髄鞘発育不全により引き起こされる又はそれに関連する。神経炎症又は脱髄障害の例としては、多発性硬化症(多発性硬化症及び急性多発性硬化症の再発性及び慢性進行性形を含む)、視神経脊髄炎(ドヴィック病)、視神経炎、汎発性脳硬化症(シルダー(Shilder)の広汎性軸周囲脳炎及びバロー(Balo)の同心性硬化症を含む)、横断性脊髄炎、及び急性播種性脳脊髄炎(例えば、麻疹、水痘、風疹、インフルエンザ若しくはおたふく風邪後、又は狂犬病若しくは種痘後に発生する)、壊死性出血性脳炎(出血性白質脳炎を含む)、白質萎縮症(クラッベ(Krabbe)の球様細胞白質萎縮症、異染性白質萎縮症、副腎白質萎縮症、キャナヴァン病及びアレグザンダー病を含む)、CNS傷害(例えば、脊髄傷害、頭部傷害又は脳卒中)、加齢に関連する認知症、鬱病、及び双極性障害が挙げられる。他の例としては、ギラン・バレー症候群及び慢性炎症性脱髄性多発ニューロパシー(CIDP)が挙げられる。
【0031】
治療又は寛解は、疾患若しくは病状の1種若しくはそれ以上の症状若しくは徴候の低減若しくは完全な除去、又は疾患若しくは病状の症状若しくは徴候(神経病理学的徴候を含む)の発症若しくは再発の遅延を意味する。有効量は、意図する目的を達成するのに十分な治療薬の量である。所与の治療薬の有効量は、薬剤の性質、投与経路、治療薬を摂取する動物の大きさ及び種、並びに投与目的のような要因によって変化する。それぞれの個々の場合の有効量は、当該技術分野において確立された方法に従って、及び実施例の教示のように、当業者が経験的に決定できる。
【0032】
投与レジメンの有効性は、本明細書に教示されている方法又は当業者に既知の方法を用いて実施できる。例えば、再ミエリン化は、組織化学的技術、神経生理学的研究(神経伝導研究)、MRI解析、臨床評価等を用いて評価できる。例えば、全て、本明細書に教示されている方法及び組成物のために、その全文が参照することにより本明細書に組み込まれる、Gregg et al. (2007) White matter plasticity and enhanced remyelination in the maternal CNS, J. Neuroscience 27:1812-1823;Giuliani et al. (2005) Effective combination of minocycline and interferon-β in a model of multiple sclerosis, J. Neuroimmunology 165:83-91;米国特許出願公開第2007/0238711号;Giuliani et al. (2005) Additive effect of the combination of glatiramer acetate and minocycline in a model of MS, J. Neuroimmunology 158:213-221を参照。
【0033】
本明細書で高める、増加させる、減少させる、低減する等の相対語を用いるとき、それらは一般に対照の水準を基準として用いられる。例えば、対照の水準は、疾患若しくは症状を有しない、若しくは薬剤による治療のような実験変数を有しない様々な被験体の水準であってもよく、又は対照の水準は、同じ被験体の疾患若しくは症状の発症前若しくは治癒後、若しくは実験変数への曝露前若しくは後の水準であってもよい。
【0034】
本明細書に開示する組成物及び方法は、種々の組み合わせで用いることができる。したがって、これらの物質又は方法の組み合わせ、部分集合、相互作用、工程、群等を開示するとき、それぞれの様々な個々の及び集合的組み合わせに対する具体的な参照を明確に開示しなくてもよいが、それぞれが本明細書で考察及び説明されることが理解される。例えば、プロラクチン及び血液脳関門透過剤の組み合わせを列挙し、プロラクチン変異体及びインターフェロン−βの組み合わせを列挙する場合、開示され、論じられるのは、特に反対の内容を明示しない限り、これらの薬剤のそれぞれの組み合わせの全てである。
【0035】
本方法、キット及び組成物は、以下の実施例により具体的に記載され、実施例は、本明細書の多くの修正及び変形が当業者に明らかであるため、例示のみを意図する。
【実施例】
【0036】
実施例1
実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)を有するマウスにおけるプロラクチン及び免疫調節剤の行動的効果
C57BL/6雌マウスをCharles Riverから購入し、University of Calgaryに届いた時は6〜8週齢であった。University of CalgaryのAnimal Resource Facilityで1週間馴養した後、マウスを、4mg/mlのヒト型結核菌を追加した、完全フロインドアジュバント(CFA)(Fisher, Michigan USA)中で乳化された50μgのミエリン乏突起膠細胞糖タンパク質(MOG、ペプチド35〜55)で免役し;この製剤は側腹部に100μlの懸濁液として注射された。MOG免疫の日を実験の0日目と称した。更に、マウスに、0及び2日目に、腹腔内経路により百日咳毒素(PTX)(List Biological labs, Hornby, ON)を2回注射した-(注射1回あたり300ng)。全ての時点で、マウスには自由に餌及び水を与え、Canadian Council for Animal Careによって概略が示された指針に従ってマウスを取り扱った。2回実験を実施した。
【0037】
この実験はMOGの免疫後9日目に処理を開始した場合、21日間続けられた(図1を参照)。これは、単独で若しくは併用して与えられた組み換えマウスプロラクチン(Harbor-UCLA, Torrance, CA)若しくは組み換えマウスインターフェロン−β(PBL Biomedical Laboratories, Piscataway, NJ)のいずれか、又は賦形剤対照から成っていた。本質的に、4群のマウスが存在した:
1)プロラクチン単独群(n=6、マウス)には、腹腔内経路により、20μg/マウスに相当する100μlのプロラクチンを与えた。処理は、9〜17日目に1日1回行った。
2)インターフェロン−β単独群(n=4)には、9〜17日目に、1日おきに、皮下経路により、20,000IU/マウスに相当する200μlのインターフェロン−βを与えた。
3)プロラクチン及びインターフェロン−β併用群(n=4)には、9〜17日目に上記経路を用いて、上記頻度で(プロラクチンを1日1回、インターフェロン−βを1日おきに)、上記用量与えた。
4)賦形剤群(n=7)には、9〜17日目に、腹腔内注射により毎日プロラクチンを溶解させるために用いた100μlの賦形剤(生理食塩水)と、皮下経路によりインターフェロン−βを希釈するために用いた200μlの賦形剤(0.1%のウシ血清アルブミンを含有するリン酸緩衝生理食塩水)を与えた。
【0038】
マウスは、9〜21日目に毎日臨床的徴候を評価した。動物は、個々の肢及び尾の身体障害を識別する、15点の疾患スコア尺度(Giuliani et al., Additive effect of the combination of glatiramer acetate and minocycline in a model of MS, J Neuroimmunol 158:213-221, 2005;Weaver et al., An elevated matrix metalloproteinase in experimental autoimmune encephalomyelitis is protective by affecting Th1/Th2 polarization, FASEB J 19:1668-1670, 2005)を用いて評価した。15点の尺度(表1)は、0〜15で変動し、尾(評点0〜2)及び4本全ての肢(各肢の評点0〜3)の病状の合計である。この評点系に基づいて、完全に四肢麻痺であるマウスは14点を獲得し、死亡の場合は15点が与えられた。
【0039】
【表1】

結果を図2に示す。全ての群のマウスは、一般に、MOG後9日目でEAEの徴候に屈した。他の処理群と対照的に、プロラクチン及びインターフェロン−βを併用して与えたマウスは、9日目から身体障害の水準が上昇しなかった。全体的に、併用処理したマウスは、他の3群より低い臨床スコアを有し、この差が、13日目から21日目の実験終了まで明らかに現れた(図2)。
【0040】
群間で統計的に比較するために、各マウスについてスコアの合計をプロットした。スコアの合計は、実験過程にわたってそのマウスに対して毎日スコアを付加したときの、各マウスの累積合計スコアである。したがって、スコアの合計は、マウス1匹あたりの臨床疾患の総合的な負担を表す。スコアの合計は、17日目(処理期間の終わり)まで、又は21日目まで(マウスを屠殺したとき、及び18〜21日の間処理を行わなかった場合)、マウスについて算出される。図3は、対照群に比べて併用群との間に統計的差が存在したことを示す。まとめると、該結果は、プロラクチン及びインターフェロン−βの併用により疾患の重篤度が低下したことを示す。更に、少なくとも免疫調節剤と併用した、プロラクチンは、障害を悪化させず、併用療法は実際処理の中止後効果を維持した。
【0041】
実施例2
実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)を有するマウスにおけるプロラクチン及び免疫調節剤に関連するRNA分析
マウスを17日目に屠殺し、百日咳毒素の異なるバッチを用いたEAEの臨床症状が上記実験より悪化していたことを除き、実施例1に記載したものと同じ実験プロトコルを繰り返した。この処理群の動物は上記のように臨床的徴候の統計的に有意な改善を示さなかったが、遺伝子発現の差は示した。
【0042】
遺伝子実験の目的のために、脊髄を除去し、腰仙骨部を切開し、RNasyキットプロトコル(QIAGEN)を用いてRNAを全て単離した。製造業者のプロトコルに従って、1μgのRNAをcDNAに逆転写し、複数の成長因子に対してリアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を同時に実施した。マウス成長因子アレイ#PAMM−041A(RT2 profiler PCR array, SuperArray Bioscience Corporation, Fredrick, MD)を用いた。これは、成長因子をコードする84個の遺伝子に加えて、5個のハウスキーピング遺伝子及び7個の対照ウェル(マウスゲノミックDNAの混入に対する対照、逆転写対照、PCRの陽性対照)から成っていた。サイクリングパラメータは、95℃で10分間の後、95℃で15秒間及び60℃で1分間の40サイクルであった。各遺伝子のmRNA発現を、遺伝子アレイに含まれる5個のハウスキーピング遺伝子の発現を用いて正規化した。該企業により提供されているウェブベースのソフトウェアを用いて解析を実施し、対照として賦形剤群を用いて倍数変化を得た。実験群あたり3匹のマウスが存在し、各マウスを遺伝子アレイで個々に評価した。更に、賦形剤の動物と比較して、1群あたり3匹のマウスを統計的解析することにより、特定の成長因子が実験群で上昇していることを検出することが可能になった。少なくとも1.5倍上方制御された又は少なくとも0.6倍下方制御された遺伝子のみに注目し、統計的に有意な方式で、EAE賦形剤マウスと比較した実験群間で検討した。EAEに苦しむ賦形剤処理群に比べて、PCRアレイ中の84個の成長因子遺伝子のうち、1つの成長因子(インターロイキン−11)のみがプロラクチン単独群で上昇し、1つ(インターロイキン−4)が低下したことが見出された。インターフェロン−β単独群では、2つの成長因子(線維芽細胞成長因子−10及びインスリン様成長因子−2)が上昇し、一方3つの遺伝子(インターロイキン−6、白血病抑制因子及び形質転換成長因子−β1)が低下した。興味深いことに、プロラクチン及びインターフェロン−βの併用は、プロラクチン又はインターフェロン−βいずれか単独と比べて、異なる成長因子の発現プロファイルが生じた。表2を参照。
プロラクチン、インターフェロン−β、又はプロラクチン+インターフェロン−βで上方制御(+)及び下方制御(−)した成長因子遺伝子
【0043】
【表2】

全体的に、当該結果は、プロラクチン及びインターフェロン−βの併用が、神経炎症、脱髄疾患の認められている動物モデルにおいて、成長因子の発現プロファイルを改変する複合効果をもたらすことを示す。
【0044】
実施例3
実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)を有するマウスにおけるプロラクチン及び免疫調節剤の効果に関する組織学的研究
EAEマウスを上記実施例に記載のように発育させた。MOGの免疫後様々な時点でリンパ節からリンパ球及び脊髄を得、標準的な組織学的技術を用いて進行中の炎症反応を決定した。プロラクチン及び免疫調節剤の組み合わせで処理したEAEマウスで脱髄が生じるかどうかを決定するために、例えば対照群のピーク疾患に到達した5日後を含む、疾患の進行前又は進行中の種々の時点で動物を屠殺した。脊髄を加工して、OPCの数を決定し、常にEAEの傷害が見られる場合、腰仙骨部の脊柱に焦点を合わせて、上記及び当該技術分野において既知である技術を用いて脱髄を評価した。
【0045】
所望により、OPCを、PDGFRαに対する抗体で標識し、乏突起膠細胞を当該技術分野において既知であるGSTpiに対する抗体で標識した。腰部又は仙骨分節あたり複数の区画を染色及び計数することにより、及び、複数の腰仙骨分節を計数することにより、OPCの数及び乏突起膠細胞の数を、特定の処理を行った対照群で計数した。更に、ルクソールファストブルー、エリオクロムシアニン、又はミエリン塩基性タンパク質染色を用いてミエリンを染色することにより、及び、腰仙骨部に残る脱髄の体積を得ることにより、再ミエリン化の程度を推察する(より再ミエリン化される動物は、脱髄の残りの体積が少ない)。最終的に、EAEマウスの脊髄のMRIを実施し、特定の時点(例えば、ピーク臨床疾患の5日後)で、又は各マウスで長期的に経時的に(例えば、臨床的徴候前、ピーク臨床疾患時、並びにピーク後5日目及び30日目)に、マウスの群のT2病変の体積を監視する。経時的に消散するT2病変の体積は、脱髄の形態の回復を示し、これらのマウスの脊髄は次いで所望により、再ミエリン化の確認のためのg−比(軸索の直径に対する、軸索±ミエリンの直径の比)の超構造研究のためにとられる。
【0046】
組織構造はまた、炎症の証明のためのヘマトキシリン−エオシン、脱髄の証明のためのルクソールファストブルー、及びBielchowsy銀染色により分析されて、既に記載のように軸索を同定する(Giuliani et al., J. Neuroimmunol 158:213-221;Giuliani et al., J Neuroimmunol 165:83, 2005)。
【0047】
本出願全体を通して、種々の刊行物が参照されている。これらの刊行物の開示は、本発明が関連する分野の状態をより十分に記載するために、その全文が参照することにより本出願に組み込まれる。以下の参照文献は、例えば、全文が参照することにより組み込まれる:Gregg, C. et al. (2007) White matter plasticity and enhanced remyelination in the maternal CNS. J Neurosci. 27 (8): 1812;Holstad, M., Sandler, S. (1999) Prolactin protects against diabetes induced by multiple low doses or streptozotocin in mice J. Endocrinol. 163 (2): 229;Kelley, KW et al (2007) Protein Hormones and Immunity. Brain Behav. Immun. 21(4): 384;Riskind, PN et al. (1991) The role of prolactin in autoimmune demyelination: suppression of experimental allergic encephalomyelitis by bromocriptine. Ann Neurol. 29 (5): 542;Tsutsui, S. et al. (2005) RON-regulated innate immunity is protective in an animal model of multiple sclerosis. Ann. Neurol. 57 (6): 883;Weaver, A. et al. (2005) An elevated matrix metalloproteinase (MMP) in an animal model of multiple sclerosis is protective by affecting Th1/Th2 polarization. FASEB J. 19 (12)。更に、米国特許出願公開第2007−0098698(A1)号は、その全文、特にプロラクチン及びプロラクチン誘発剤に関連する方法及び組成物、それらに関連する効果のスクリーニング方法等が参照することにより本明細書に組み込まれる。
【0048】
方法及び組成物の多数の実施形態を記載してきた。それにもかかわらず、本発明の趣旨及び範囲を逸脱することなく、種々の修正を行い得ることが理解されるであろう。例えば、プロラクチンの代わりにプロラクチン誘発剤を使用することは、プロラクチンのみが列挙されている実施形態で用いることができる。したがって、他の実施形態は、以下の特許請求の範囲の範囲内である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a.哺乳類にプロラクチン又はプロラクチン誘発剤を投与することと、
b.哺乳類にインターフェロンを投与することと、
を含む、哺乳類における神経炎症若しくは脱髄障害を治療又は寛解する方法。
【請求項2】
前記神経炎症又は脱髄障害が、多発性硬化症、視神経脊髄炎、視神経炎、汎発性脳硬化症、横断性脊髄炎、急性播種性脳脊髄炎及び中枢神経系傷害から成る群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記障害が多発性硬化症である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記インターフェロンがインターフェロン−βである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
a.哺乳類に、プロラクチン又はプロラクチン誘発剤と少なくとも90%の配列同一性を有する、プロラクチンの変異体又はプロラクチン誘発剤の変異体を投与することと、
b.哺乳類にインターフェロンを投与することと、
を含む、哺乳類における神経炎症若しくは脱髄障害を治療又は寛解する方法。
【請求項6】
前記神経炎症又は脱髄障害が、多発性硬化症、視神経脊髄炎、視神経炎、汎発性脳硬化症、横断性脊髄炎、急性播種性脳脊髄炎及び中枢神経系傷害から成る群から選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記障害が多発性硬化症である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記インターフェロンがインターフェロン−βである、請求項5〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
プロラクチン及びインターフェロンを含む組成物。
【請求項10】
前記インターフェロンがインターフェロン−βである、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
1つ又はそれ以上の容器にプロラクチン及びインターフェロンを含む、被験体における神経炎症若しくは脱髄障害を治療又は寛解するためのキット。
【請求項12】
前記インターフェロンがインターフェロン−βである、請求項11に記載のキット。
【請求項13】
前記キットが、プロラクチン及び前記インターフェロンの組み合わせを含む少なくとも1つの容器を含む、請求項11又は12に記載のキット。
【請求項14】
前記キットが、被験体にプロラクチン及び前記インターフェロンを投与するための取扱説明書を更に含む、請求項11に記載のキット。
【請求項15】
前記キットが、被験体にプロラクチン又は前記インターフェロンを投与するための少なくとも1つのデバイスを更に含む、請求項11に記載のキット。
【請求項16】
神経炎症若しくは脱髄障害の治療又は寛解に用いるための、プロラクチン及びインターフェロンを含む医薬品組成物。
【請求項17】
前記神経炎症又は脱髄障害が、多発性硬化症、視神経脊髄炎、視神経炎、汎発性脳硬化症、横断性脊髄炎、及び急性播種性脳脊髄炎、並びに中枢神経系傷害から成る群から選択される、請求項16に記載の医薬品組成物。
【請求項18】
前記神経炎症又は脱髄障害が多発性硬化症である、請求項16に記載の医薬品組成物。
【請求項19】
前記インターフェロンがインターフェロン−βである、請求項16〜18のいずれか一項に記載の医薬品組成物。
【請求項20】
神経炎症若しくは脱髄障害を治療又は寛解する薬物を製造するための、プロラクチン及びインターフェロンを含む組成物の使用。
【請求項21】
前記神経炎症又は脱髄障害が、多発性硬化症、視神経脊髄炎、視神経炎、汎発性脳硬化症、横断性脊髄炎、急性播種性脳脊髄炎及び中枢神経系傷害から成る群から選択される、請求項20に記載の使用。
【請求項22】
前記神経炎症又は脱髄障害が多発性硬化症である、請求項20に記載の使用。
【請求項23】
前記インターフェロンがインターフェロン−βである、請求項20〜22のいずれか一項に記載の医薬品組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2010−533656(P2010−533656A)
【公表日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−516340(P2010−516340)
【出願日】平成20年7月18日(2008.7.18)
【国際出願番号】PCT/CA2008/001322
【国際公開番号】WO2009/012569
【国際公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【出願人】(506274785)ステム セル セラピューティクス コーポレイション (8)
【Fターム(参考)】