説明

プローブの製造方法、プローブおよび走査型プローブ顕微鏡

カーボンナノチューブ等を取付け基端部に取り付けかつカーボン膜等を用いて接合することによりプローブを製造する方法であって、カーボンコンタミネーション膜の影響を排除して接合強度を高め、プローブの導電性を高め、さらに片側コーティングではなく全周囲にコーティングを行って接合性能を強化することができるプローブの製造方法、当該プローブ、および走査型プローブ顕微鏡を提供する。 プローブの製造方法は、カーボンナノチューブ12と、このカーボンナノチューブを保持する取付け基端部13と、カーボンナノチューブを取付け基部に接合するコーティング膜17とから成るプローブを製造する方法であり、カーボンナノチューブと取付け基端部の取付け作業を電子顕微鏡による観察の下で行い、コーティング膜による接合を行う前の段階で、電子顕微鏡によって形成されるカーボンコンタミネーション膜14を除去する段階を設けている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブを探針として利用するプローブを備えた走査型プローブ顕微鏡等において当該ナノチューブをベース部材に十分な接合強度で安定に取り付けるのに適したプローブの製造方法、当該プローブおよび走査型プローブ顕微鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、カーボンナノチューブ等のナノチューブをプローブの先端部として使用する走査型プローブ顕微鏡や電子顕微鏡が提案されている(特許文献1)。ナノチューブは、走査型プローブ顕微鏡ではカンチレバーの先端に設けられる探針(プローブチップ)として利用され、電子顕微鏡では電子源用プローブとして利用される。特許文献1では、一般的に電子装置の表面信号走査用プローブおよびその製造方法が開示されている。電子装置としては走査型プローブ顕微鏡が含まれる。特許文献1に開示されるプローブは、カーボンナノチューブ等の各種のナノチューブを利用して作られる。これによって高分解能であって高剛性および高曲げ弾性のプローブを実現しようとする。走査型プローブ顕微鏡の探針では、本来、その分解能を高めるため、いかに先鋭化するかという観点で研究や検討が行われてきた。この意味で、ナノチューブは将来重要な技術になり得る。
【0003】
特許文献1(特開2000−227435号公報)では、カーボンナノチューブを利用したプローブの製造方法の例が示されている。カーボンナノチューブは生産が容易であり、安価で大量生産に向いている。当該特許文献1は、最適な製造方法として、電気泳動法によってカーボンナノチューブをホルダ等の金属板に配列させて製造する方法を述べている。ホルダに配列されたカーボンナノチューブは、ホルダを付けたそのままの状態で、取付け基端部に取り付けられる。取付け基端部としては例えば原子間力顕微鏡の探針である。この取付け作業(組立て作業)は、走査型電子顕微鏡(SEM)による観察の下で位置合せ等を行いながら実施される。取付け作業を行った後に、取付け基端部を含む領域にコーティング膜を形成し、カーボンナノチューブを取付け基端部に接合するようにしている。コーティング膜の形成方法としては、SEMに基づく電子ビーム照射によってカーボン膜を形成する方法や、反応性コーティングガスを電子ビームで分解してコーティング膜を形成する方法、その他にCVDやPVDの例が提案されている。SEMに基づく電子ビーム照射によって形成される上記カーボン膜は、通常、「カーボンコンタミネーション膜」と呼ばれている。さらに、カーボンナノチューブと取付け基端部との間の中間部にもコーティング膜を形成することによりカーボンナノチューブを太くし、強化する技術も提案されている。
【0004】
上記の特許文献1に記載されたナノチューブを利用するプローブの製造方法によれば、製造されたプローブの強度が不十分であるという問題が提起される。すなわち、カーボンナノチューブを取付け基端部に接合するとき、SEM観察が原因となって生じるカーボンコンタミネーション膜を介して接合用コーティング膜を形成することになるので、接合強度が不足する。またカーボンナノチューブを利用して成るプローブを強化するとき、片側からしかコーティングしないため十分に強化を行うことができない。さらにカーボンコンタミネーション膜を介して接合するため、導電性の確保が困難であるという問題も提起される。
【特許文献1】特開2000−227435号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、カーボンナノチューブ等を取付け基端部に取り付けかつ接合用コーティング膜等の接合手段によって接合することによりプローブを製造するとき、接合手段による接合強度を高めると共に、プローブの導電性性能を高め、さらに接合手段の接合性能を改善するものである。
【0006】
本発明の目的は、上記の課題に鑑み、カーボンナノチューブ等を取付け基端部に取り付けかつカーボン膜等を用いて接合することによりプローブを製造する方法であって、カーボンコンタミネーション膜等の影響を排除して接合強度を高め、プローブの導電性を高め、さらに片側コーティングではなく全周囲にコーティングを行って接合性能を強化することができるプローブの製造方法を提供することにある。
【0007】
本発明の他の目的は、高い接合強度と高い導電性を有するプローブと、かかるプローブを備えた走査型プローブ顕微鏡を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るプローブの製造方法、プローブ、および走査型プローブ顕微鏡は、上記目的を達成するために、次のように構成される。
【0009】
本発明に係るプローブの製造方法は、カーボンナノチューブ等のナノチューブと、このナノチューブを保持する基部(取付け基端部)と、ナノチューブを基部に接合する接合部(コーティング膜等)とから成るプローブの製造方法であり、ナノチューブと基部の取付け作業を観察装置による観察の下で行い、接合部による接合を行う前の段階で、観察装置によって形成されるコンタミネーション膜を除去する段階を設けるようにした方法である。
【0010】
上記のプローブの製造方法では、コンタミネーション膜の接合部を利用した接合を行う前の段階で、コンタミネーション膜を除去する。これによってナノチューブの表面を露出させる。従って、その後で、ナノチューブと基部を接合する時に、コーティング膜等は直接にナノチューブに接合されることになり、コンタミネーション膜に起因していた強度不足の問題を解消し、接合強度を高めることが可能となる。またコンタミネーション膜を適切に排除することによりプローブの導電性も高めることが可能となる。
【0011】
本発明に係るプローブの製造方法は、上記の製造方法において、好ましくは、上記観察装置は電子顕微鏡であり、コンタミネーション膜はカーボン膜であることで特徴づけられる。
【0012】
本発明に係るプローブの製造方法は、上記の各製造方法において、好ましくは、カーボン膜の除去は集束イオンビーム加工で行われる。
【0013】
本発明に係るプローブの製造方法は、上記の各製造方法において、好ましくは、カーボン膜の除去は加熱で行われる。
【0014】
本発明に係るプローブの製造方法は、ナノチューブと、このナノチューブを保持する基部と、ナノチューブを基部に接合する接合部とから成るプローブの製造方法であって、接合部による接合は、ナノチューブを、これを付着させたホルダから基部へ付け替えた後に行われることで特徴づけられる。
【0015】
本発明に係るプローブの製造方法は、上記の製造方法において、好ましくは、上記接合部による接合は、ナノチューブと基部を軸周りに回転させながら行われる。
【0016】
本発明に係るプローブの製造方法は、上記の製造方法において、好ましくは、接合部によって形成される接合領域が、基部の端部付近に形成されることを特徴とする。
【0017】
本発明に係るプローブの製造方法は、ナノチューブと、このナノチューブを保持する基部と、ナノチューブを基部に接合する接合部とから成るプローブの製造方法であって、接合部による接合は、ナノチューブと基部を軸周りに回転させながら行われることで特徴づけられる。ナノチューブと基部の間の接合される部分の全周囲に接合部が作られることになるので、片側だけの場合に比較して、接合の強度が高くなる。
【0018】
本発明に係るプローブの製造方法は、上記の製造方法において、好ましくは、接合部による接合は、ナノチューブを、これを付着させたホルダから基部へ付け替えた後に行われることを特徴とする。
【0019】
本発明に係るプローブの製造方法は、上記の各製造方法において、好ましくは、接合部は、電子線照射によって形成されるカーボン膜である。
【0020】
本発明に係るプローブの製造方法は、上記の各製造方法において、好ましくは、接合部は、反応性ガスを導入して電子線照射によって形成される物質の膜であることを特徴とする。
【0021】
本発明に係るプローブの製造方法は、上記の各製造方法において、好ましくは、接合部は、集束イオンビーム照射によって形成される物質の膜であることを特徴とする。
【0022】
本発明に係る走査型プローブ顕微鏡は、試料に対して探針が向くように設けられた探針部と、探針が試料の表面を走査するとき探針と試料の間で生じる物理量を測定する測定部を備え、この測定部で物理量を一定に保ちながら探針で試料の表面を走査して試料の表面を測定するようにされ、上記探針は、ナノチューブと、このナノチューブを保持する基部と、ナノチューブを基部に接合する接合手段とから成り、接合手段による接合を行う前の段階で、観察手段により形成されるコンタミネーション膜が除去される。
【0023】
本発明に係る走査型プローブ顕微鏡は、試料に対して探針が向くように設けられた探針部と、探針が試料の表面を走査するとき探針と試料の間で生じる物理量を測定する測定部を備え、この測定部で物理量を一定に保ちながら探針で前記試料の表面を走査して試料の表面を測定するようにされ、探針は、ナノチューブと、このナノチューブを保持する基部と、ナノチューブを基部に接合する接合手段とから成り、接合手段はナノチューブと基部の全周に設けられるコーティング膜である。
【0024】
上記走査型プローブ顕微鏡において、探針部は、先端に上記探針を有するカンチレバーである。
【0025】
本発明に係るプローブは、走査型プローブ顕微鏡または電子顕微鏡に使用され、ナノチューブと、このナノチューブを保持する基部と、ナノチューブを基部に接合する接合手段とから成る探針を備え、接合手段による接合を行う前の段階で、観察手段により形成されるコンタミネーション膜が除去されている。
【0026】
また本発明に係るプローブは、走査型プローブ顕微鏡または電子顕微鏡に使用され、ナノチューブと、このナノチューブを保持する基部と、ナノチューブを基部に接合する接合手段とから成る探針を備え、接合手段はナノチューブと基部の全周に設けられるコーティング膜である。
【発明の効果】
【0027】
本発明に係るプローブの製造方法によれば、SEM等による観測下でナノチューブを取付け基端部に取付けかつコーティング膜等で接合してプローブを製造する方法において、当該接合作業を行う前の段階でSEM等に起因して生じるカーボンコンタミネーション膜等を除去し、カーボンコンタミネーション膜等の影響をなくして上記接合を行うようにしたため、ナノチューブと取付け基端部が直接に接合され、強度を向上し、導電性を向上することができる。本発明によれば、取付け作業後に、ナノチューブからホルダを取り外すとき、コンタミネーション膜が破断され、ナノチューブの表面を露出するようにさせている。
【0028】
本発明に係るプローブによれば、接合強度を高くし、導電性を高めることができる。また、このプローブをAFMプローブとして用いることにより、その高い導電性に基づきAFMリソグラフィーとして利用することもできる。
【0029】
本発明に係る走査型プローブ顕微鏡によれば、高い接合強度と導電性を有するプローブを備えることにより、装置の耐久性を高めることができ、高い導電性で電荷を逃がし静電気の影響を排除して測定精度を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下に、本発明の好適な実施形態(実施例)を添付図面に基づいて説明する。
【0031】
図1を参照して本発明に係るプローブの製造方法の第1の実施形態を説明する。図1において11はホルダ(金属板)、12はカーボンナノチューブ、13は取付け基端部である。カーボンナノチューブ12は、例えば電気泳動法で作られ、ホルダ11に付着された状態で得られる。カーボンナノチューブ12は、断面直径が1nm〜数十nmである円筒体の部材である。取付け基端部13は、例えば、原子間力顕微鏡に使用されるカンチレバーに形成される探針(プローブチップ)である。この探針すなわち取付け基端部13は、通常、半導体成膜技術などを利用して作られる。当該取付け基端部13の先端にカーボンナノチューブ12を取付け、かつ接合し、これによってプローブが組み立てられ、製造される。
【0032】
図1では、3つの部分図(A),(B),(C)によって製造方法の手順1〜3が示されている。手順1では、ホルダ11を用いて、カーボンナノチューブを12を取付け基端部13の先端に取り付け、さらにカーボン膜形成(カーボンコンタミネーション膜14)を行うと共に接合用コーティング膜15でカーボンナノチューブ12と取付け基端部13の接合を行う。手順1では、さらに矢印16のごとく力を加えてホルダ11をカーボンナノチューブ12から引き離す。この結果が手順2に示される。
【0033】
図1の(B)の手順2では、ホルダ11がカーボンナノチューブ12から引き離される。このときにはカーボンコンタミネーション膜14も一部が引き千切れて、ホルダ11と共に離れる。その結果、カーボンナノチューブ12における図1の(B)中で示された右部分では、カーボンコンタミネーション膜が存在しない部分を生じ、カーボンナノチューブ12の表面となる部分が露出する。
【0034】
図1の(C)に示した手順3では、カーボンコンタミネーション膜14が剥がれ、表面が露出したカーボンナノチューブ12の部分を利用して改めて接合用コーティング膜17を形成する。新たな接合用コーティング膜17は、カーボンナノチューブ12の露出部分、残ったカーボンコンタミネーション膜14、および最初の接合用コーティング膜15を覆うように膜付けされる。このようにしてカーボンナノチューブ12は、取付け作業後、ホルダ11を取り外した後に、新たな接合用コーティング膜17によって取付け基端部13に接合される。
【0035】
上記の第1実施形態によれば、接合用コーティング膜17でカーボンナノチューブ12と取付け基端部13とを接合することにおいて、カーボンコンタミネーション膜14を除去し、その影響をなくした状態で接合するようにした。また新たな接合用コーティング膜17を用いて取付け基端部13の先端付近または突出部でカーボンナノチューブ12と取付け基端部13の接合を行うようにした。以上によって、直接的な接合が可能となり、接合強度の向上、導電性の向上を達成することができる。
【0036】
図2を参照して本発明に係るプローブの製造方法の第2の実施形態を説明する。図2において、図1で説明した要素と同一の要素には同一の符合を付し、その説明を省略する。(A)〜(C)の手順1〜3は第1実施形態の場合と基本的に同じである。図2において、11はホルダ、12はカーボンナノチューブ、13は取付け基端部、14はカーボンコンタミネーション膜、15は最初の接合用コーティング膜、21は接合後に付加される新たな接合用コーティング膜である。
【0037】
第2実施形態に係るプローブの製造方法では、カーボンコンタミネーション膜14と接合用コーティング膜15の間の関係で、コーティング膜なし領域22を広くとっている。従って、手順3で改めて接合用コーティング膜21で接合を行うとき、接合コーティング膜21の表面の面積を拡大すると共に、当該接合部分を取付け基端部13の端部付近以外の部分を含めて形成するようにしている。
【0038】
上記の第2実施形態に係るプローブの製造方法によれば、カーボンナノチューブ12の露出部分の領域を増すことができ、接合用コーティング膜21に直接に接触する領域を増すことができ、接合強度を高めることができる。
【0039】
図3を参照して本発明に係るプローブの製造方法の第3の実施形態を説明する。図3において、図1または図2で説明した要素と同一の要素には同一の符合を付し、その説明を省略する。図3の(A)〜(C)は第3実施形態に係るプローブの製造方法の手順1〜3をそれぞれ示している。図3において11はホルダ、12はカーボンナノチューブ、13は取付け基端部、14はカーボンコンタミネーション膜、31は接合用コーティング膜である。
【0040】
第3実施形態に係るプローブの製造方法では、手順1で、カーボンナノチューブ12を備えたホルダ11を取付け基端部13に取付ける。このとき、ホルダ11とカーボンナノチューブ12と取付け基端部13はカーボンコンタミネーション膜14によって接合されている。この状態で、手順2では、コーティング作業前に、カーボンコンタミネーション膜14の一部を除去する。カーボンコンタミネーション膜14の除去には、例えば収束イオンビーム(FIB)を用いる方法や加熱を用いる方法が採用される。その後、手順3に示されるように、カーボンナノチューブ12と取付け基端部13の間に接合用コーティング膜31が形成される。その後、適宜なタイミングでホルダ11は取り外される。
【0041】
第3の実施形態によれば、接合用コーティング膜31を形成するコーティング作業の前にカーボンコンタミネーション膜14の一部を除去し、カーボンナノチューブ12に接合用コーティング膜31を直接に接触させることができ、カーボンコンタミネーション膜14の影響を確実に排除でき、直接接触領域を拡大することにより接合の強度を高めることができる。
【0042】
図4を参照して本発明に係るプローブの製造方法の第4の実施形態を説明する。図4において、図1や図2等で説明した要素と同一の要素には同一の符合を付し、その説明を省略する。図4の(A)〜(C)は第4実施形態に係るプローブの製造方法の手順1〜3をそれぞれ示している。この第4実施形態は、第2実施形態の変形例である。図4において11はホルダ、12はカーボンナノチューブ、13は取付け基端部、14はカーボンコンタミネーション膜、15は接合用コーティング膜である。図4の(A)の手順1で示された状態は、図2の(A)の手順1で示された状態と同じである。
【0043】
第4実施形態では、手順1から手順2に移行する段階で、ホルダ11をカーボンナノチューブ12から引き離した後、矢印41に示すごとくカーボンナノチューブ12の軸が回転軸と一致するようにして取付け基端部13を回転させながら接合用コーティング膜を付するためのコーティング作業を行う。このため、図4の(C)に示すごとくカーボンナノチューブ12の全周に接合用コーティング膜42を施すことができる。より詳しくは、カーボンナノチューブ12と基端部13との接合部と当該接合部を含む周辺部分とに関して、その円周方向の全周にわたって接合用コーティング膜42が施されている。回転駆動機構は任意の構成のものを用いることができる。
【0044】
上記において、コーティング膜42は、電子線照射により形成されるカーボン膜、または反応性ガスを導入して電子線照射によって形成される所望の物質の膜、またはFIB照射によって堆積させる所望の物質の膜である。
【0045】
第4実施形態によれば、新たな接合用コーティング膜を全周に設けることができるので、カーボンナノチューブと接合用コーティング膜の接触領域が増大し、接合強度を向上させ、さらに導電性を向上させることができる。
【0046】
上記の各実施形態において、接合用のコーティング膜としては、電子線照射により形成されるカーボン膜、反応性ガスを導入して電子線照射によって形成される所望の物質に基づく膜、あるいは集束イオンビームの照射によって堆積させる所望の物質に基づく膜等が用いられる。
【0047】
次に上記製造方法で製造されたプローブを備えた走査型プローブ顕微鏡の一例を図5を参照して説明する。この走査型プローブ顕微鏡は代表的な例として原子間力顕微鏡(AFM)を想定している。
【0048】
走査型プローブ顕微鏡の下側部分は試料ステージ111が設けられている。試料ステージ111の上に試料112が置かれている。試料ステージ111は、直交するX軸とY軸とZ軸で成る3次元座標系113で試料112の位置を変えるための機構である。試料ステージ111はXYステージ114とZステージ115と試料ホルダ116とから構成されている。試料ステージ111は、通常、試料側で変位(位置変化)を生じさせる粗動機構部として構成される。試料ステージ111の試料ホルダ116の上面には、比較的大きな面積でかつ薄板形状の上記試料112が置かれ、保持されている。試料112は、例えば、表面上に半導体デバイスの集積回路パターンが製作された基板またはウェハである。試料112は試料ホルダ116上に固定されている。試料ホルダ116は試料固定用チャック機構を備えている。
【0049】
図5で、試料112の上方位置には、駆動機構117を備えた光学顕微鏡118が配置されている。光学顕微鏡118は駆動機構117によって支持されている。駆動機構117は、光学顕微鏡118を、Z軸方向に動かすためのフォーカス用Z方向移動機構部117aと、XYの各軸方向に動かすためのXY方向移動機構部117bとから構成されている。取付け関係として、Z方向移動機構部117aは光学顕微鏡118をZ軸方向に動かし、XY方向移動機構部117bは光学顕微鏡118とZ方向移動機構部117aのユニットをXYの各軸方向に動かす。XY方向移動機構部117bはフレーム部材に固定されるが、図5で当該フレーム部材の図示は省略されている。光学顕微鏡118は、その対物レンズ118aを下方に向けて配置され、試料112の表面を真上から臨む位置に配置されている。光学顕微鏡118の上端部にはカメラ119が付設されている。カメラ119は、対物レンズ118aで取り込まれた試料表面の特定領域の像を撮像して取得し、画像データを出力する。
【0050】
試料112の上側には、先端に探針120を備えたカンチレバー121が接近した状態で配置されている。カンチレバー121は取付け部122に固定されている。取付け部122は、例えば、空気吸引部(図示せず)が設けられると共に、この空気吸引部は空気吸引装置(図示せず)に接続されている。カンチレバー121は、その大きな面積の基部が取付け部122の空気吸引部で吸着されることにより、固定され装着される。
【0051】
上記探針120として前述のプローブが用いられる。探針120は、取付け基端部13とカーボンナノチューブ12から形成される。探針120の先端が上記プローブの先端のカーボンナノチューブ12となる。
【0052】
上記の取付け部122は、Z方向に微動動作を生じさせるZ微動機構123に取り付けられている。さらにZ微動機構123はカンチレバー変位検出部124の下面に取り付けられている。
【0053】
カンチレバー変位検出部124は、支持フレーム125にレーザ光源126と光検出器127が所定の配置関係で取り付けられた構成を有する。カンチレバー変位検出部124とカンチレバー121は一定の位置関係に保持され、レーザ光源126から出射されたレーザ光128はカンチレバー121の背面で反射されて光検出器127に入射されるようになっている。上記器カンチレバー変位検出部は光てこ式光学検出装置を構成する。この光てこ式光学検出装置によって、カンチレバー121で捩れや撓み等の変形が生じると、当該変形を検出することができる。
【0054】
カンチレバー変位検出部124はXY微動機構129に取り付けられている。XY微動機構129によってカンチレバー121および探針120等はXYの各軸方向に微小距離で移動される。このとき、カンチレバー変位検出部124は同時に移動されることになり、カンチレバー121とカンチレバー変位検出部124の位置関係は不変である。
【0055】
上記において、Z微動機構123とXY微動機構129は、通常、圧電素子で構成されている。Z微動機構123とXY微動機構129によって、探針120の移動について、X軸方向、Y軸方向、Z軸方向の各々へ微小距離(例えば数〜10μm、最大100μm)の変位を生じさせる。
【0056】
上記のXY微動機構129は、光学顕微鏡118に関するユニットが取り付けられる前述した不図示のフレーム部材に取り付けられている。
【0057】
上記の取付け関係において、光学顕微鏡118による観察視野には、試料112の特定領域の表面と、カンチレバー121における探針120を含む先端部(背面部)とが含まれる。
【0058】
次に、走査型プローブ顕微鏡の制御系を説明する。制御系の構成としては、比較器131、制御器132、第1制御装置133、第2制御装置134が設けられる。制御器132は、例えば原子間力顕微鏡(AFM)による測定機構を原理的に実現するための制御器である。また第1制御装置133は複数の駆動機構等のそれぞれの駆動制御用の制御装置であり、第2制御装置134は上位の制御装置である。
【0059】
比較器131は、光検出器127から出力される電圧信号Vdと予め設定された基準電圧(Vref)とを比較し、その偏差信号s1を出力する。制御器132は、偏差信号s1が0になるように制御信号s2を生成し、この制御信号s2をZ微動機構123に与える。制御信号s2を受けたZ微動機構123は、カンチレバー121の高さ位置を調整し、探針120と試料112の表面との間の距離を一定の距離に保つ。上記の光検出器127からZ微動機構123に到る制御ループは、探針120で試料表面を走査するとき、光てこ式光学検出装置によってカンチレバー121の変形状態を検出しながら、探針120と試料112との間の距離を上記の基準電圧(Vref)に基づいて決まる所定の一定距離に保持するためのフィードバックサーボ制御のループである。この制御ループによって探針120は試料112の表面から一定の距離に保たれ、この状態で試料112の表面を走査すると、試料表面の凹凸形状を測定することができる。
【0060】
次に第1制御装置133は、走査型プローブ顕微鏡の各部を駆動させるための制御装置であり、次のような機能部を備えている。
【0061】
光学顕微鏡118は、フォーカス用Z方向移動機構部117aとXY方向移動機構部117bとから成る駆動機構117によって、その位置が変化させられる。第1制御装置133は、上記のZ方向移動機構部117aとXY方向移動機構部117bのそれぞれの動作を制御するための第1駆動制御部141と第2駆動制御部142を備えている。
【0062】
光学顕微鏡118によって得られた試料表面やカンチレバー121の像は、カメラ119によって撮像され、画像データとして取り出される。光学顕微鏡118のカメラ119で得られた画像データは第1制御装置133に入力され、内部の画像処理部143で処理される。
【0063】
制御器132等を含む上記のフィードバックサーボ制御ループにおいて、制御器132から出力される制御信号s2は、走査型プローブ顕微鏡(原子間力顕微鏡)における探針120の高さ信号を意味するものである。探針120の高さ信号すなわち制御信号s2によって探針120の高さ位置の変化に係る情報を得ることができる。探針120の高さ位置情報を含む上記制御信号s2は、前述のごとくZ微動機構123に対して駆動制御用に与えられると共に、制御装置133内のデータ処理部144に取り込まれる。
【0064】
試料112の表面の測定領域について探針120による試料表面の走査は、XY微動機構129を駆動することにより行われる。XY微動機構129の駆動制御は、XY微動機構129に対してXY走査信号s3を提供するXY走査制御部145によって行われる。
【0065】
また試料ステージ111のXYステージ114とZステージ115の駆動は、X方向駆動信号を出力するX駆動制御部146とY方向駆動信号を出力するY駆動制御部147とZ方向駆動信号を出力するZ駆動制御部148とによって制御される。
【0066】
なお第1制御装置133は、必要に応じて、設定された制御用データ、入力した光学顕微鏡画像データや探針の高さ位置に係るデータ等を記憶・保存する記憶部(図示せず)を備える。
【0067】
上記第1制御装置133に対して上位に位置する第2制御装置134が設けられている。第2制御装置134は、通常の計測プログラムの記憶・実行および通常の計測条件の設定・記憶、自動計測プログラムの記憶・実行およびその計測条件の設定・記憶、計測データの保存、計測結果の画像処理および表示装置(モニタ)135への表示等の処理を行う。特に、本発明の場合には、自動計測において試料表面の凸部や凹部等の側壁に対して探針を傾斜させて当該側壁を測定する計測プロセスを含んでおり、探針の傾斜姿勢を自動的に変化させて同一箇所の側壁の測定を行うためのプログラムを備えている。計測条件の設定では、測定範囲、測定スピードといった基本項目、傾斜角度の設定と各傾斜姿勢測定時の計測条件など、自動計測の条件の設定、それらの条件を設定ファイルに関することの機能を有する。さらに、通信機能を有するように構成し、外部装置との間で通信を行える機能を持たせることもできる。
【0068】
第2制御装置134は、上記の機能を有することから、処理装置であるCPU151と記憶部152とから構成される。記憶部152には上記のプログラムおよび条件データ等が記憶・保存されている。また第2制御装置134は、画像表示制御部153と通信部等を備える。加えて第2制御装置134にはインタフェース154を介して入力装置136が接続されており、入力装置136によって記憶部152に記憶される測定プログラム、測定条件、データ等を設定・変更することができるようになっている。
【0069】
第2制御装置134のCPU151は、バス155を介して、第1制御装置133の各機能部に対して上位の制御指令等を提供し、また画像処理部143やデータ処理部144等から画像データや探針の高さ位置に係るデータを提供される。
【0070】
次に上記走査型プローブ顕微鏡(原子間力顕微鏡)の基本動作を説明する。
【0071】
試料ステージ111上に置かれた半導体基板等の試料112の表面の所定領域に対してカンチレバー121の探針120の先端を臨ませる。通常、探針接近用機構であるZステージ115によって探針120を試料112の表面に近づけ、原子間力を作用させてカンチレバー121に撓み変形を生じさせる。カンチレバー121の撓み変形による撓み量を、前述した光てこ式光学検出装置によって検出する。この状態において、試料表面に対して探針120を移動させることにより試料表面の走査(XY走査)が行われる。探針120による試料112の表面のXY走査は、探針120の側をXY微動機構129で移動(微動)させることによって、または試料112の側をXYステージ114で移動(粗動)させることによって、試料112と探針120の間で相対的なXY平面内での移動関係を作り出すことにより行われる。
【0072】
探針120側の移動は、カンチレバー121を備えるXY微動機構129に対してXY微動に係るXY走査信号s3を与えることによって行われる。XY微動に係る走査信号s3は第1制御装置133内のXY走査制御部145から与えられる。他方、試料側の移動は、試料ステージ11のXYステージ114に対してX駆動制御部146とY駆動制御部147から駆動信号を与えることによって行われる。
【0073】
上記のXY微動機構129は、圧電素子を利用して構成され、高精度および高分解能な走査移動を行うことができる。またXY微動機構129によるXY走査で測定される測定範囲については、圧電素子のストロークによって制約されるので、最大でも約100μm程度の距離で決まる範囲となる。XY微動機構129によるXY走査によれば、狭域範囲の測定となる。他方、上記のXYステージ114は、通常、駆動部として電磁気モータを利用して構成するので、そのストロークは数百mmまで大きくすることができる。XYステージによるXY走査によれば、広域範囲の測定となる。
【0074】
上記のごとくして試料112の表面上の所定の測定領域を探針120で走査しながら、フィードバックサーボ制御ループに基づいてカンチレバー121の撓み量(撓み等による変形量)が一定になるように制御を行う。カンチレバー121の撓み量は、常に、基準となる目標撓み量(基準電圧Vrefで設定される)に一致するように制御される。その結果、探針120と試料112の表面との距離は一定の距離に保持される。従って探針120は、例えば、試料112の表面の微細凹凸形状(プロファイル)をなぞりながら移動(走査)することになり、探針の高さ信号を得ることによって試料112の表面の微細凹凸形状を計測することができる。
【0075】
以上の実施形態で説明された構成、形状、大きさおよび配置関係については本発明が理解・実施できる程度に概略的に示したものにすぎず、また数値および各構成の組成(材質)については例示にすぎない。従って本発明は、説明された実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示される技術的思想の範囲を逸脱しない限り様々な形態に変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明は、カーボンナノチューブ等のナノチューブを走査型プローブ顕微鏡等のプローブとして利用し、ナノチューブの接合でカーボンコンタミネーション膜等の影響を除くことにより高い接合強度および導電性を有するプローブとして利用する。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る製造方法を示す手順図である。
【図2】本発明の第2の実施形態に係る製造方法を示す手順図である。
【図3】本発明の第3の実施形態に係る製造方法を示す手順図である。
【図4】本発明の第4の実施形態に係る製造方法を示す手順図である。
【図5】本発明に係る走査型プローブ顕微鏡を示す構成図である。
【符号の説明】
【0078】
11 ホルダ
12 カーボンナノチューブ
13 取付け基端部
14 カーボンコンタミネーション膜
15 接合用コーティング膜
16 接合用コーティング膜
21 接合用コーティング膜
31 接合用コーティング膜
42 接合用コーティング膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノチューブと、このナノチューブを保持する基部と、前記ナノチューブを前記基部に接合する接合手段とから成るプローブの製造方法であって、
前記ナノチューブと前記基部の取付け作業を観察手段による観察の下で行い、
前記接合手段による接合を行う前の段階で、前記観察手段によって形成されるコンタミネーション膜を除去する段階を設けることを特徴とするプローブの製造方法。
【請求項2】
前記観察手段は電子顕微鏡であり、前記コンタミネーション膜はカーボン膜であることを特徴とする請求項1記載のプローブの製造方法。
【請求項3】
前記カーボン膜の除去は集束イオンビーム加工で行われることを特徴とする請求項1または2記載のプローブの製造方法。
【請求項4】
前記カーボン膜の除去は加熱で行われることを特徴とする請求項1または2記載のプローブの製造方法。
【請求項5】
ナノチューブと、このナノチューブを保持する基部と、前記ナノチューブを前記基部に接合する接合手段とから成るプローブの製造方法であって、
前記接合手段による接合は、前記ナノチューブを、これを付着させたホルダから前記基部へ付け替えた後に行われることを特徴とするプローブの製造方法。
【請求項6】
前記接合手段による前記接合は、前記ナノチューブと前記基部を軸周りに回転させながら行われることを特徴とする請求項5記載のプローブの製造方法。
【請求項7】
前記接合手段によって形成される接合部が、前記基部の端部付近に形成されることを特徴とする請求項5または6記載のプローブの製造方法。
【請求項8】
ナノチューブと、このナノチューブを保持する基部と、前記ナノチューブを前記基部に接合する接合手段とから成るプローブの製造方法であって、
前記接合手段による接合は、前記ナノチューブと前記基部を軸周りに回転させながら行われることを特徴とするプローブの製造方法。
【請求項9】
前記接合手段による前記接合は、前記ナノチューブを、これを付着させたホルダから前記基部へ付け替えた後に行われることを特徴とする請求項8記載のプローブの製造方法。
【請求項10】
前記接合手段は、電子線照射によって形成されるカーボン膜であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載のプローブの製造方法。
【請求項11】
前記接合手段は、反応性ガスを導入して電子線照射によって形成される物質の膜であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載のプローブの製造方法。
【請求項12】
前記接合手段は、集束イオンビーム照射によって形成される物質の膜であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載のプローブの製造方法。
【請求項13】
試料に対して探針が向くように設けられた探針部と、前記探針が前記試料の表面を走査するとき前記探針と前記試料の間で生じる物理量を測定する測定部を備え、この測定部で前記物理量を一定に保ちながら前記探針で前記試料の表面を走査して前記試料の表面を測定するようにした走査型プローブ顕微鏡において、
前記探針は、ナノチューブと、このナノチューブを保持する基部と、前記ナノチューブを前記基部に接合する接合手段とから成り、前記接合手段による接合を行う前の段階で、観察手段により形成されるコンタミネーション膜が除去されることを特徴とする走査型プローブ顕微鏡。
【請求項14】
試料に対して探針が向くように設けられた探針部と、前記探針が前記試料の表面を走査するとき前記探針と前記試料の間で生じる物理量を測定する測定部を備え、この測定部で前記物理量を一定に保ちながら前記探針で前記試料の表面を走査して前記試料の表面を測定するようにした走査型プローブ顕微鏡において、
前記探針は、ナノチューブと、このナノチューブを保持する基部と、前記ナノチューブを前記基部に接合する接合手段とから成り、前記接合手段は前記ナノチューブと前記基部の全周に設けられるコーティング膜であることを特徴とする走査型プローブ顕微鏡。
【請求項15】
前記探針部は、先端に前記探針を有するカンチレバーであることを特徴とする請求項13または14記載の走査型プローブ顕微鏡。
【請求項16】
走査型プローブ顕微鏡または電子顕微鏡に使用されるプローブであり、
ナノチューブと、このナノチューブを保持する基部と、前記ナノチューブを前記基部に接合する接合手段とから成る探針を備え、前記接合手段による接合を行う前の段階で、観察手段により形成されるコンタミネーション膜が除去されていることを特徴とするプローブ。
【請求項17】
走査型プローブ顕微鏡または電子顕微鏡に使用されるプローブであり、
ナノチューブと、このナノチューブを保持する基部と、前記ナノチューブを前記基部に接合する接合手段とから成る探針を備え、前記接合手段は前記ナノチューブと前記基部の全周に設けられるコーティング膜であることを特徴とするプローブ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【国際公開番号】WO2005/024390
【国際公開日】平成17年3月17日(2005.3.17)
【発行日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−513675(P2005−513675)
【国際出願番号】PCT/JP2004/012821
【国際出願日】平成16年9月3日(2004.9.3)
【出願人】(300007280)日立建機ファインテック株式会社 (52)
【Fターム(参考)】