説明

ヘキサニトロヘキサアザイソウルチタン結晶懸濁液、前記懸濁液の生成方法、及び火工品物体の生成方法

本発明は、ヘキサニトロヘキサアザイソウルチタン結晶懸濁液(85重量%以上のヘキサニトロヘキサアザイソウルチタンに対する非溶媒と、0以上15重量%未満のヘキサニトロヘキサアザイソウルチタンに対する有機溶媒とを含み、前記非溶媒は1種類以上の不燃性ハイドロフルオロエーテルを含み、前記溶媒はエステル、ニトリル、ケトン、及び、これらの混合物から選択され、前記非溶媒より揮発性が高い)に関し、前記懸濁液の製造方法及び、火工品物体製造における使用方法に関する。非溶媒としては、前記1種類以上のハイドロフルオロエーテルの使用が特に適切である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘキサニトロヘキサアザイソウルチタン結晶の懸濁液(suspension in a liquid phase)(前記ヘキサニトロヘキサアザイソウルチタン用の新規の非溶媒を含む)と、前記懸濁液の生産工程と、前記懸濁液を用いた火工品物体の製造とに関する。本発明は紛体、推進剤、及び、火薬の分野に属し、特に軍事産業の分野に属する。
【背景技術】
【0002】
近年、数多くの文献で、ヘキサニトロヘキサアザイソウルチタン又はCL20として知られる、2,4,6,8,10,12−ヘキサニトロ−2,4,6,8,10,12−ヘキサアザテトラシクロ−(5.5.0.05,9.03,11)ドデカンが取り上げられている。これら文献では、当該化合物の各種多形相について記載されており(ヘキサニトロヘキサアザイソウルチタンには、ベータ、アルファ、ガンマ、及び、イプシロンの4種類の結晶性多形相があることが知られている)、また当該化合物の物理的特性、化学的特性、及び、起爆特性について記載されている他、兵器に用いられる爆発性組成物、推進剤、又は、紛体への当該化合物の利用についても記載されている。
【0003】
中でも前記化合物のイプシロン相(CL20ε)は最も密度が高いので(2.04g/cm)、特に火工品組成物での利用について最も注目されている。
【0004】
特許出願EP0913374には以下の反応段階に応じた、CL20εの生産工程が記載されている。
【0005】
−まず、エステル、ニトリル、エーテル、アセトン以外のケトン、及びこれらの混合物から選ばれたCL20に対する有機溶媒と、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、及び、これらの混合物から選ばれたCL20の非溶媒との混合物において、好ましくはイプシロン相以外のいずれかの多形相のCL20の飽和溶液が調合される。前記CL20用の溶媒は、前記非溶媒よりも揮発性が高く(非溶媒よりも低い飽和蒸気圧となる)、前記溶媒と前記非溶媒とは(前記混合物、前記溶液の調合で)採用されている比率で混和可能である。
【0006】
−続いて、この飽和溶液にCL20εの結晶が種付けされる。
【0007】
−前記溶媒の完全な又は部分的な蒸発によって溶液を濃縮させることによって、CL20ε結晶が析出し、非溶媒が濃縮された混合物に懸濁する。
【0008】
この結晶は、濾過等の通常の方法によって回収可能である。
【0009】
例えば、前記工程で利用可能なCL20用の有機溶媒としては、メチル蟻酸塩、メチル酢酸塩、エチル酢酸塩、イソプロピル酢酸塩、アセトニトリル、エチル酢酸塩/アセトニトリル混合物、テトラヒドロフラン(THF)、及び、メチルエチルケトンが挙げられる。
【0010】
また例えば、CL20の非溶媒としては、トルエン、キシレンや、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等のアルカン、ハロゲン化脂肪族炭化水素、特に1,2−ジクロロエタン等の塩素化脂肪族炭化水素が挙げられる。
【0011】
前記溶媒/非溶媒の組合せとして、エチル酢酸塩/トルエンが特に好ましい。
【0012】
前記溶媒/非溶媒の体積比は一般的に10/90、好ましくは15/85と35/65との間である。
【0013】
前記有機溶媒を蒸発させることによって溶液を濃縮させる際の温度は、目的とするCL20ε結晶の純度に鑑みると、50℃以下であることが好ましい。
【0014】
EP0913374の工程を実施した結果、非溶媒、又は、非溶媒が濃縮された溶媒/非溶媒混合物内に懸濁するCL20ε結晶が得られる。前記非溶媒は、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、及び、これら混合物のいずれかから選ばれたものであり、上で挙げられた化合物の少なくとも一つ、特に、トルエンを含むものである。このような非溶媒は可燃性である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
従って、EP0913374に記載の前記工程はCL20の産業生産という観点から満足するものであっても、可燃性非溶媒を用いるという問題点がある。このことから、前記工程の実施が煩雑となり、特に前記工程に続くCL20の貯蔵、搬送、使用段階が煩雑になる(貯蔵と搬送段階については必ずしも考慮に入れられなくてもよい)。従って前記工程の後、EP0913374で選択される非溶媒(又は、溶媒/非溶媒混合物)に懸濁状態のCL20を貯蔵することが出来ない。このことから、通常EP0913374に記載の前記工程の終わりに、CL20ε懸濁液を水で洗浄し、前記非溶媒(又は、前記混合物)が除去される。その後、搬送・貯蔵目的で、生産されたCL20を水で(約20%程度まで)鈍化する。その後の火工品物体製造における水分の除去(通常ベッドでの乾燥によって除去される)は複雑である。残存する水分によって火工品物体の原料、特にポリイソシアネートなどの、結合剤の架橋剤との好ましくない反応を引き起こす可能性がある。
【0016】
上記問題から、本願発明者らはEP0913374の前記工程に好適であり、且つ、(ε多形相、又は、その他の形式の)CL20結晶懸濁液の生成、及び、前記懸濁液の火工品物体製造段階での使用、更には上記したように製造段階での使用よりも前の段階(貯蔵段階、及び/又は、搬送段階)といった、前記工程に続く段階に最適なCL20用の不燃性非溶媒の研究を開始した。このように上記各段階において好適な化合物には、以下のような特性が求められる。
−EP0913374の教示内容にしたがった溶液の生成に、明らかに好適なCL20の非溶媒であること、
−不燃性であること、
−懸濁状態にあるCL20装薬を鈍化可能であり、懸濁状態にある前記CL20装薬の安全な貯蔵・搬送を可能にできること、
−火工品物体の製造工程において使用できること(つまり、火工品物体の製造において分離しやすく、製造された火工品物体に残存しても不活性化することが可能であること)、
−そして、理想的には、(今日まで使用されていたトルエンとは対称的に)環境に対する付加が比較的少ないものであることが求められる。
【0017】
これら要求事項に基づいて、本発明はEP0913374に教示される内容の改善策を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の第1の観点は、ヘキサニトロヘキサアザイソウルチタン結晶の新規の懸濁液(suspension in a liquid phase)に関する。この懸濁液は、EP0913374に記載の前記工程を実施した結果得られる物と同種のものである。前記懸濁液(liquid phase)は、85重量%以上のヘキサニトロヘキサアザイソウルチタンに対する非溶媒と、0以上15重量%未満のヘキサニトロヘキサアザイソウルチタンに対する有機溶媒とを含み、前記非溶媒は1種類以上の不燃性ハイドロフルオロエーテルを含み、前記溶媒はエステル、ニトリル、ケトン、及び、これらの混合物のいずれかから選択され、前記非溶媒より揮発性が高い(飽和蒸気圧が前記非溶媒よりも低い)ことを特徴とする。前記溶媒(含まれていたとしても15重量%未満)と前記非溶媒とは、本発明の懸濁液において採用される比率において混和可能である。これによるとEP0913374の工程で非溶媒として用いられる脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、又は、これらの混合物の代わりとして、前記1種類以上の不燃性ハイドロフルオロエーテルが、使用される。
【0019】
本発明の懸濁液は、ヘキサニトロヘキサアザイソウルチタン用の溶媒を含むものと、含まないもの(殆ど含まないもの)との2つの形態をとることが可能である。第1形態では懸濁液はかなりの量(少なくとも4重量%)の溶媒を含んでいるが、当該溶媒の量は15重量%未満である。前記溶媒は、エチル酢酸塩又はアセトンから選択されたものであり、好ましくはエチル酢酸塩からなっている。本発明の懸濁液の別の形態は、溶媒を含まないか殆ど含まないものである(4重量%未満、或いは残存する程度)。この場合、前記1種類以上の不燃性ハイドロフルオロエーテルによって液相となる。
【0020】
ハイドロフルオロエーテル(HFE)は、水素、フッ素、及び、炭素原子からなる(塩素、臭素、ヨウ素のいずれも含まない)エーテル構造の化学物質である。これは当業者であれば知りうる内容である。本発明では、不燃性ハイドロフルオロエーテル(HFE)が選択される。この不燃性ハイドロフルオロエーテル(HFE)は、WO00/36206において、ドライクリーニング用組成物での使用が推奨されるもの、つまり、WO96/22356、及び、US6658962に記載されているものから好適に選択される。一般的に、HFEはフッ素原子の数を水素原子の数と炭素−炭素結合の数との合計で割った値が0.8以上であれば、不燃性であることが知られている。これについては、WO00/36206の教示内容を参照されたい。従って、本発明の懸濁液には非溶媒として、上記特徴を有するHFE又はHFE混合物が含まれる。
【0021】
本発明の懸濁液を水溶性懸濁液の条件と同様の温度条件で貯蔵、搬送、使用可能にするために、前記不燃性HFEは沸点が40℃〜275℃であることが好ましく、より好ましくは100℃よりも高温である。このような不燃性HFEは、その他のHFE同様:
−飽和蒸気圧が低く、前記非溶媒よりも高揮発性の溶媒の蒸発を含む溶媒/非溶媒結晶化工程によって、本発明の懸濁液を生成するのに適しており(以下に述べる本発明の第2の観点参照)、
−不活性で蒸発潜熱が低い(水のそれよりもはるかに低い)溶媒であり、本発明の懸濁液が火工品の個体化合物製造(以下に述べる本発明の第3の観点参照)において、出発原料として直接使用可能となるものである。
【0022】
不燃性HFEの中でも、分離型(不燃性分離型ハイドロフルオロエーテル)のものが好ましい。これらの化合物は、WO96/22356及びWO00/36206に記載されている。また、これら化合物は、少なくとも一種類のペルフルオロアルカン化合物、ペルフルオロシクロアルカン化合物、ペルフルオロシクロアルキル基を含むペルフルオロアルカン化合物、又は、ペルフルオロシクロアルキレン基を含むペルフルオロアルカン化合物を含み、アルコキシ基によって1置換−、2置換、又は、3置換されたものである。
【0023】
不燃性HFEの中でも、半構造(semi-structural)式(CF)C12OCを有する、不燃性分離型HFE、2−トリフルオロメチル−3−エトキシ−1,1,1,2,3,4,4,5,5,6,6,6−ドデカフルオロヘキサン(単純に2−トリフルオロメチル−3−エトキシドデカフルオロヘキサンとして知られており、以下このように称する)がより好ましい。この化合物は、番号CAS297730−93−9で参照される。沸点は、128℃であり、飽和蒸気圧は20℃で、6mmHgである。熱力学的特性は、EP0913374に従った前記工程の実施において、(可燃性)有機溶媒に代えて使用出来るものである。この化合物は、具体的には3M社によって生産され、HFE7500という商品名で販売されている。2−トリフルオロメチル−3−エトキシドデカフルオロヘキサンに対して、ヘキサニトロヘキサアザイソウルチタンの溶解度は20℃で0.012重量%である。従って、明らかにCL20に対する非溶媒である。
【0024】
(EP0913374に記載の)混合物の生産において、不燃性(非溶媒)HFEは、エステル、ニトリル、ケトン及びこれらの混合物(溶媒)に対して充分な混和性を有しており所望の結果を得ることが可能である。
【0025】
また本願発明者によって不燃性HFEが、35重量%以上、好ましくは50重量%以上でCL20結晶に対して鈍化効果を奏することが実証された(以下の実施例、ポイントC参照)。よって本発明の懸濁液において、前記新規の非溶媒が35重量%以上(CL20の装薬(結晶)が最大で65重量%)であることが好ましく、前記新規の非溶媒が50重量%以上(CL20の装薬(結晶)が最大で50重量%)であることがより好ましい。
【0026】
これにより前述の不燃性HFEによる鈍化作用を得ることが出来る。したがって、不燃性HFEは、通常用いられる非溶媒としての水に代えてEP0913374に従った前記工程における前記非溶媒、及び、CL20(上記参照)の貯蔵・搬送用の鈍化剤として好適に使用することが出来る。これにより本発明の懸濁液は、必要に応じて安全に貯蔵・搬送することが可能となる。
【0027】
当業者であれば、本発明の懸濁液の顕著な利点を間違いなく理解できたであろう。
【0028】
尚、本発明の懸濁液に含まれるCL20結晶はどの多形相であってもよいが、好ましくはCL20結晶εであることが好ましい。
【0029】
本発明の第2の観点は、前記懸濁液の生産工程に関する。本発明の生産工程はEP0913374の前記工程に類似する。しかし、本発明の生産工程は前記工程を改善したものである。具体的には新規の非溶媒、つまり前記1種類以上の不燃性HFEを使用する。本発明による非溶媒に懸濁するCL20結晶の生産工程は、
−エステル、ニトリル、ケトン、及び、これらの混合物から選択されるCL20用の有機溶媒と、1種類以上の不燃性HFEを含み前記CL20用の溶媒よりも揮発性の低い前記CL20用の非溶媒との混合物において、いずれかの多形相のCL20用の飽和溶液を調合する工程(前記溶媒と非溶媒とは採用されている比率において、飽和溶液作成用の混合物の調合に必要な混和性を有する)と、
−前記飽和溶液に幾つかのヘキサニトロヘキサアザイソウルチタン結晶を種付する工程と、
−前記種付けされた溶液の溶媒を完全に、又は、部分的に蒸発させることによって濃縮する工程とを含んでいる。
【0030】
前記工程でε相ヘキサニトロヘキサアザイソウルチタン結晶の懸濁液(suspension in a liquid phase)を得るには、ε相ヘキサニトロヘキサアザイソウルチタン結晶で飽和溶液への種付を行うことが好ましい。本実施形態の変形例では、前記溶液をイプシロン相以外のCL20で飽和状態にすることが好ましい。
【0031】
前記工程において、(混和可能な溶媒と共に存在する)前記非溶媒は1種類以上の不燃性HFEを含んでおり、好ましくは1種類以上の分離型不燃性HFEを含んでおり、より好ましくは2−トリフルオロメチル−3−エトキシドデカフルオロヘキサンを含んでいる。
【0032】
溶媒(15重量%未満)及び懸濁液の(懸濁状態の)結晶の含有量は、本実施形態における濃縮工程(どの程度溶媒を蒸発させるか)に依存することは言うまでもない。溶媒が殆どない状態、実際には溶媒が全くない懸濁液を得るには、本発明の前記工程において(濃縮工程の最後に)種付け後の溶液を濃縮して得られる懸濁液を前記1種類以上の不燃性HFEで洗浄することが好ましい。
【0033】
好ましくは、本発明の前記工程で使用される前記溶媒は、エチル酢酸塩及びアセトンから選択される。より好ましくは、前記溶媒はエチル酢酸塩である。
【0034】
また、本発明の懸濁液は、火工品物体の製造工程において直接使用可能なことから、原料(CL20装薬の原材料)としての使用に非常に適している。従来鈍化剤非溶媒として使用されていた水とは対照的に、前記不燃性HFEは前記火工品物体製造工程において蒸発させることにより簡単に分離可能である。蒸発潜熱(2−トリフルオロメチル−3−エトキシドデカフルオロヘキサンの場合、88kJ/Kg)は、水のそれ(2250kJ/Kg)と比較してはるかに低く、火工品物体製造の前記工程での蒸溜によって分離することが可能となる(これに対して、水の分離は製造工程の前に乾燥を行うことが必要となる)。分離後、残存する前記1種類以上の不燃性HFEは不活性であり、火工品物体原料と反応しない(これに対して、水はほんの僅かな原料であっても反応し得る)。
【0035】
本発明の第3の観点は、ヘキサニトロヘキサアザイソウルチタン結晶を用いた火工品物体の製造に関する。本発明による前記物体の前記製造工程は、従来通り原料(結合剤、架橋剤、装薬等)の供給及び(ペースト状にするための)混練機内で混練する工程が含まれる。本発明の第1の観点によると、前記工程においてCL20結晶は乾燥した状態ではなく懸濁状態で供給される。前記懸濁液は前記結晶の原料、出発原料等として使用される。従って、本発明の火工品物体の製造工程は、
−本発明の懸濁液を混練機及びその下流に導入する工程と、
−真空状態で、前記懸濁液に対して完全な、又は、ほとんど完全な分離を行う工程とを含む。
【0036】
CL20結晶は(本発明の)懸濁状態で混練機に供給される。つまり(前記少なくとも1種類の不燃性HFEによって)濡れた状態、且つ、鈍化された状態で供給される。その後前記懸濁液の(主に、事実1種類以上、又は、前記1種類のみの不燃性HFEを含む)液体は真空状態で混練されたペーストから分離され除去される。
【0037】
前記液体の真空状態での分離を行いやすくするために、不燃性HFEの中でも飽和蒸気圧が低いものが採用されることが好ましい。
【0038】
従って、本発明の懸濁液の顕著な利点は、当該懸濁液が貯蔵、搬送、及び火工品物体製造において、((溶媒/非溶媒工程による)調合の際に使用される非溶媒(実際は、前記非溶媒と少量の溶媒)と共に)直接使用が可能となることである。
【0039】
本発明の懸濁液が火工品物体製造に有用であることが理解できたであろう。また、一般的に、このような使用の前に(混練機に供給する前に)、前記懸濁液は貯蔵されるか搬送される。貯蔵された後、搬送される場合や、搬送された後、貯蔵される場合もある。
【0040】
以下、添付の図面や以下の実施例(溶解度の調査、本発明の前記工程の実施、2−トリフルオロメチル−3−エトキシドデカフルオロヘキサンによる鈍化効果が得られることによる本発明の懸濁液の特徴化、結合剤との混合物として、本発明の新規の非溶媒分離する工程(火工品物体の製造工程において実施可能な分離工程))を参照して本発明について説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0041】
使用される2−トリフルオロメチル−3−エトキシドデカフルオロヘキサンは、3M社によって販売されているHFE7500である。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】エチル酢酸塩/HFE7500混合物内でのCL20の溶解度を示す図である。
【図2A】走査型電子顕微鏡像である。
【図2B】本発明の前記工程によって得られるCL20結晶εの(高倍率)光学顕微鏡画像(ポイントB参照)である。
【図3】結合剤との混合物としてのHFE7500をロータリ・エバポレータ内で蒸発させた場合の曲線を示すものである(ポイントD参照)。
【発明を実施するための形態】
【0043】
ポイントA:HFE7500、及び、エチル酢酸塩/HFE7500混合物におけるヘキサニトロヘキサアザイソウルチタンの溶解度についての予備調査
エチル酢酸塩及びHFE7500は完全に混和可能である。
【0044】
非溶媒HFE7500に対するCL20の溶解度、及び、エチル酢酸塩(CL20の溶媒)とHFE7500(CL20に対する非溶媒)との混合物からなる溶液に対するCL20の溶解度を調べた。
【0045】
・非溶媒HFE7500に対するCL20の溶解度を液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて20℃で計測した結果100gのHFE7500に対して0.012gが溶解した。
【0046】
・先行技術のCL20の結晶化工程によると(産業レベルの工程では)、エチル酢酸塩(CL20用溶媒)とHFE7500(CL20に対する非溶媒)との混合物からなる溶液1リットル当たり約100gのCL20が溶解することが好ましい。
【0047】
下記表1に示すように、20℃で(100ml未満の溶液を用いた)小規模の実験を行うことで、まず大筋で適切な混合比間隔を決定した。
【0048】
【表1】

【0049】
45〜50容量%のエチル酢酸塩を含む混合物において、CL20の溶解度が約100g/Lとなった。
【0050】
従って、混合比47/53容量%のエチル酢酸塩/HFE7500混合物について、容量5Lのサーモスタット制御の反応炉において、より厳密な溶解度の調査を行った。レーゼンテック社(Lasentec:登録商標)製のプローブをそのままの状態で用いて、段階毎に溶解度を観測した。
【0051】
混合比47/53容量%のエチル酢酸塩/HFE7500溶液を1.5L調合し(エチル酢酸塩:634.5g、HFE7500:1293.4g)、サーモスタット制御によって20℃に調整した。その後、少量のCL20を添加し溶解する様子を上記プローブを介して観察した。混合物に溶解するCL20は143gだった。つまり、不飽和溶液1リットル当たり95.3gの溶解度となった。
【0052】
混合物を50℃まで加熱して、溶解度の調査を繰り返した。その結果、溶液1リットル当たり96.6gの溶解度となった。つまり、混合比47/53容量%のエチル酢酸塩/HFE7500混合物に対する溶解度は、温度に関わらずほぼ一定であった。各計測結果を図1のグラフに示す。
【0053】
ポイントB:本発明の工程の実施(実施例)
上記ポイントAに続いて、容量2Lの反応炉において混合比47/53容量%のエチル酢酸塩/HFE7500溶剤に対して蒸発による結晶化を行った。前記溶剤は、470mlのエチル酢酸塩と、530mlのHFE7500を含み、CL20で飽和状態(95.3gのCL20が溶解した状態)にある。
【0054】
(従来の蒸留設備)の具体的な部材としては、良好なポンプ容量を有し、翼の縁による結晶の破壊を防ぐ一方、回転することで結晶の沈殿・分離を防ぐことが可能な薄型攪拌機(Lightnin A−310プロペラ混合器)がある。前記槽の直径に対する前記攪拌機の直径の割合は64mm/100mmである。前記攪拌機の反応炉における位置(攪拌機と槽底部との距離)は、化学工学の規則に定義される通りである。充填は、上記溶剤が反応炉の半分を超えないように行われた。これによって稼働中に、蒸発インターフェイス(溶液非飽和状態にする場所)で結晶に過度な「機械的」ストレスを与えること無く、結晶の持続的な成長が可能となる。
【0055】
CL20が飽和状態の開始溶液を反応炉に供給した後、全体的な温度を60℃まで加熱し、結晶の種(10gのCL20ε:平均サイズ30μm)を供給した。撹拌速度は、480rev/min(単位容量当たりの動力P/V=0.21W/l、攪拌機の周速度PS=1.6m/s、及び、ポンプ流量PR=1.2L/sに対応する)であった。その後エチル酢酸塩を1時間45分かけて蒸留した。蒸溜はリボイラーの機能により、還流比と真空度の変化度を適切に調整することによって行われた。真空度の変化度は700〜490mbarに設定した。リボイラーからエチル酢酸塩を完全に除去した後、大気圧に戻し、CL20εが懸濁するHFE7500を排出した。
【0056】
懸濁液のCL20ε結晶を電子顕微鏡検査によって分析するために、懸濁液を濾過し残余分を吸引乾燥(pulled dry)させた。吸引乾燥により得られたものを更にオーブンで乾燥させた。
【0057】
図2A及び図2Bに示すように、『灰色がかった(off white)』色のCL20ε結晶がフィルター上に回収された。平均サイズは100μmであった。
【0058】
ポイントC:HFE7500に懸濁するCL20εの鈍化
HFE7500によるCL20εの鈍化の特徴を以下の表2に示す。当該鈍化の検証はCL20εとHFE7500との混合物ついて行い、それぞれの重量当たりの含有量を変えて行った。CL20εの粒径は35±15μmであった。鈍化効果の評価は、衝撃感度試験*(ISI)、摩擦感度試験**(FSI)、電気火花感度試験***(ES)、及び、爆燃−爆轟遷移試験****(DDT)によって行った。
【0059】
【表2】

【0060】
*衝撃感度試験*(ISI):「"危険物運搬時の推奨事項-試験と基準のマニュアル":四訂版:ST/SG/AC.10/11/Rev.4:ISBN 92-1-239083-8 ISSN 1014-7179UNO」に記載の3a)ii)試験に類似した「NF T 70-500」標準に対応する試験を行った。最低限である一連の30回の試験では、ハンマーによる衝撃を爆発物に与えたときに(ブルーストンテストに基づいて)50%の良好な結果が得られるエネルギーとした。試験に供される物質は2つのローラとガイド輪からなる鉄製器具に入れた。ハンマーの重さと落下高さを変更することにより、エネルギーを1Jから50Jまで変化させた。試験対象品のいくつかでは使用できる原料の量が少ないため、そのような場合、再現性試験の回数を「NF T 70-500」標準が推奨する回数より減らした。
【0061】
**摩擦感度(FSI):3b)ii)試験に類似した「NF T70-503」標準に対応する試験を行った。最低限である一連の30回の試験では、ブルーストンテストで決定される摩擦を爆発物に与えたときに50%の良好な結果が得られる力とした。試験される材料を所定の粗度を有する陶板に設置し、材料上の陶器ピンに対して、無負荷で10mmの振幅と7cm/sの速さの単一の往復運動にかけた。材料に押し付けられる陶器ピンにかけられる力は、7.8〜353Nの範囲で変更された。試験対象品のいくつかでは使用できる原料の量が少ないため、そのような場合、再現性試験の回数を「NF T 70-500」標準が推奨する回数より減らした。
【0062】
***電気スパーク感度試験(ES):NFやUNOに対応する標準を採用せずに、出願人の企業が独自で開発した試験を行った。直径10mm、高さ1.5mmの皿に載置された試験対象を二つの電極の間に位置させた状態で、5〜726mJの間のエネルギーで電気スパークを発生させた。着火現象(pyrotechnic event)が起きたかどうかを観察し、試験対象に着火しなくなるエネルギーの閾値を判定した。当該閾値は20回の連続した試験によって確認された。試験対象品のいくつかでは使用できる原料の量が少ないため、そのような場合、再現性試験の回数を減らした。
【0063】
****爆燃−爆轟遷移試験(DDT):半密閉スチール管(内径40mm、厚さ4mm、長さ200及び/又は400mm、寸法150×150×4mmの同様の性質を有するプレートを当該スチール管の下部に溶接し閉じている)内の爆薬に対して、(直径0.4mm、長さ5〜10mmのニッケル/クロム(80/20)抵抗線からなる点火装置を用いて)部分的な表面着火を行い、当該爆薬の遷移性を判定した。
【0064】
前記スチール管の外観に基づいて試験結果を評価した。結果は以下の3段階に区別した。
−燃焼:何の変化もないか、管が膨張する程度(陰性結果)
−爆燃:管が大きな破片に分裂(陽性結果)
−爆轟:管が小さな破片を含む破片に分裂(陽性結果)。
【0065】
以下の結果を記録した。
−陰性結果が2回得られた最大の高さ(mmで表記)。陽性結果はこれよりもさらに高いステップで得られることが知られている(+25mm)。
−陽性結果が得られた最低の高さ(mmで表記)。
【0066】
CL20に混ぜられたHFE7500が20重量%の場合、鈍化効果は得られなかった。原因としては、このような低いレベルの濡れ度では、使用開始時に乾燥した状態の物質を使って全体的に均質の混合物を得ることが困難であるためと考えられる。別の試験で得られた値も乾燥したCL20に対して得られた物と同様であった。
【0067】
一方、HFE7500が35重量%の場合、鈍化効果はより顕著だった。ISIは、7.5J(同じ乾燥CL20の1.9Jに対して)であり、DDT試験において高い値での燃焼があった。しかし、均質な混合物を得るにはいくつかの問題があった。
【0068】
50重量%の場合、鈍化効果が実証された。別の試験においても高い値が得られ、摩擦等(乾燥CL20の80−90Nに対して114N)に対する感度の鈍化効果が記録された。
【0069】
ポイントD:火工品物体の製造工程に採用可能な、HFE7500を結合剤含有混合物として分離する方法。
実験室用のロータリ・エバポレータを用いて、HFE7500をポリ(ジエチレングリコールアジピン酸塩)(PDEGA)型結合剤を含有する混合物として分離することについて評価した。火工品物体の製造工程においてのHFE7500の分離をシミュレートした。
【0070】
PDEGAを総重量の1/3含み、HFE7500を総重量の2/3含む混合物を用いて、HFE7500分離実験を行った。
【0071】
100gの上記混合物をロータリ・エバポレータに載せた。実験条件は以下の通りである。
−圧力:100−130mbar
−温度:50℃、及び、60℃
−分離時間:重量の減少を計測することによってHFE7500が完全に消失まで
−蒸発した重量を1時間毎に記録する。
【0072】
時間の経過と共に分離するHFE7500を観察するために、丸底フラスコの重量を1時間毎に計測した。このようにして、想定される量のHFE7500が殆ど消失するまで、混合物の重量の減少の変化を観察した。
【0073】
HFE7500の蒸発を異なる温度(同じ真空度)で2回行った。HFE7500の蒸発に対する(PDEGA/HFE7500混合物の)重量の減少を図3のグラフに示す。分離比率は50℃よりも60℃の場合のほうが3.5倍速かった。分離した後、残存するHFE7500の量は、開始時HFE7500の量の0.2%未満であった。
【0074】
より精度を上げるために、50℃で行った実験で、分離後に残存するHFE7500と、実験後に回収された混合物をガスクロマトグラフィによって分析した。この結果、残存するHFE7500の量は0.02%であった。
【0075】
よって、コンデンサを備えた真空混練器を用いて、推進剤ペーストを混練する際に当該ペーストからHFE7500を分離できることについても実証された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘキサニトロヘキサアザイソウルチタン結晶の懸濁液であって、85重量%以上のヘキサニトロヘキサアザイソウルチタンに対する非溶媒と、0以上15重量%未満のヘキサニトロヘキサアザイソウルチタンに対する有機溶媒とを含み、前記非溶媒は1種類以上の不燃性ハイドロフルオロエーテルを含み、前記溶媒はエステル、ニトリル、ケトン、及び、これらの混合物のいずれかから選択され、前記非溶媒より揮発性が高いことを特徴とするヘキサニトロヘキサアザイソウルチタン結晶の懸濁液。
【請求項2】
前記懸濁液の15重量%未満の溶媒は、エチル酢酸塩及びアセトンから選択され、好ましくはエチル酢酸塩からなることを特徴とする請求項1に記載の懸濁液。
【請求項3】
前記不燃性ハイドロフルオロエーテルは、分離型不燃性ハイドロフルオロエーテルから選択されることを特徴とする請求項1又は2に記載の懸濁液。
【請求項4】
前記不燃性ハイドロフルオロエーテルは、2トリフルオロメチル−3−エトキシドデカフルオロヘキサンであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の懸濁液。
【請求項5】
35重量%以上、好ましくは50重量%以上の前記1種類以上の不燃性ハイドロフルオロエーテルを含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の懸濁液。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のヘキサニトロヘキサアザイソウルチタン結晶懸濁液の生産方法であって、
−エステル、ニトリル、ケトン、及び、これらの混合物から選択されるヘキサニトロヘキサアザイソウルチタンに対する有機溶媒と、1種類以上の不燃性ハイドロフルオロエーテルを含み前記溶媒よりも揮発性の低い前記ヘキサニトロヘキサアザイソウルチタンに対する非溶媒との混合物において、いずれかの多形相のヘキサニトロヘキサアザイソウルチタンの飽和溶液を調合する工程と、
−前記飽和溶液に幾つかのヘキサニトロヘキサアザイソウルチタン結晶を種付する工程と、
−前記種付けされた溶液の溶媒を完全に、又は、部分的に蒸発させることによって濃縮する工程とを含むことを特徴とするヘキサニトロヘキサアザイソウルチタン結晶懸濁液の生産方法。
【請求項7】
前記1種類以上の不燃性ハイドロフルオロエーテルを用いて、前記前記種付けされた溶液を濃縮させて得られる懸濁液を洗浄する工程をさらに含むことを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記溶媒は、エチル酢酸塩及びアセトンから選択され、好ましくはエチル酢酸塩からなることを特徴とする請求項6又は7に記載の方法。
【請求項9】
原料を混練機に導入し混練する、ヘキサニトロヘキサアザイソウルチタン結晶を含んだ火工品物体の製造方法であって、
−請求項1〜5のいずれか1項に記載の懸濁液を混練機に導入する工程と、
−真空状態で、前記懸濁液に対して完全な、又は、ほとんど完全な分離を行う工程とを含むことを特徴とする火工品物体の製造方法。
【請求項10】
−前記混練機への投入前に前記懸濁液の貯蔵、搬送、前記懸濁液の貯蔵及び搬送、又は、前記懸濁液の搬送及び貯蔵する工程をさらに含むことを特徴とする請求項9に記載の方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【公表番号】特表2013−505894(P2013−505894A)
【公表日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−531478(P2012−531478)
【出願日】平成22年9月28日(2010.9.28)
【国際出願番号】PCT/FR2010/052027
【国際公開番号】WO2011/039459
【国際公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【出願人】(506100082)エスエムウー (24)
【氏名又は名称原語表記】SME
【住所又は居所原語表記】2,boulevard du General Martial,Valin 75015 Paris,FRANCE
【出願人】(509302412)
【住所又は居所原語表記】33 rue Joubert 75009 Paris FRANCE
【Fターム(参考)】