説明

ヘキソーゲンの高感度または低感度の性質の測定法

本発明は、結晶性ヘキソーゲンの高感度もしくは低感度の性質を測定する方法に関する。前記の方法は、
−前記の結晶性ヘキソーゲンのマトリックス中への配合;
−前記の結晶性ヘキソーゲンを充填した前記のマトリックスの試料の示差走査熱量測定法による分析;を含み、
前記のマトリックスは、ニトロ有機爆発物を充填されたエネルギー物質用のバインダーの配合に適切な少なくとも1種の液状ポリマー;および該分析の操作温度において安定であり、また水に低い親和性を有する吸収剤であって、揮発性有機化合物の吸収剤の少なくとも1種、から本質的になっている。
また、本発明はそのようなマトリックス中の結晶性ヘキソーゲンに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は主に、結晶性ヘキソーゲン(ヘキソーゲン=シクロトリメチレントリニトラミンまたはRDX)の高感度または低感度の性質を測定する方法に関する。また、本発明は結晶性ヘキソーゲンの新規な配合に関し、これは前記の方法の実施に特に適している。
【0002】
言い換えれば、本発明は主に、標準等級のヘキソーゲンを「低感度」のヘキソーゲンと識別する新規な方法を提案するものである。この方法は、今日まで知られている識別方法(後に示すDAI試験ならびにNQRおよびAFM法)よりも多くの利点を有している。
【背景技術】
【0003】
爆発性の分子であるヘキソーゲン(シクロトリメチレントリニトラミンまたはRDX)は、第二次世界大戦の間のその発見以来、軍事用途に広く用いられてきた。RDX(RDXを主成分とする組成物)は、軍需品用の装薬中、爆轟伝達(relays)中、民生用爆破薬中、合成爆薬中、爆薬コード(cords)中、石油掘削用に形成された装薬中、および武器用の粉体もしくは固体の発射火薬中に特に認められる。
【0004】
I−RDX(登録商標)(低感度−RDX)またはRS−RDX(感度低下RDX)として知られる、RDXの感度を落とした等級が開示され、また大量に製造されて来たのはほんの近年のことである。特にこの点について参照せよ:
Freche, A.、Aviles, J.、Donnio, L.およびSpyckerelle, C、2000年、低感度RDX(I−RDX)、低感度弾薬およびエネルギー物質討論会−21世紀における技術実現、テキサス州、サンアントニオ
Freche, A.、Spyckerelle, C.およびLecume, S.、2003年、SNPE低感度ニトラミン、低感度弾薬およびエネルギー物質技術討論会、フロリダ州、オーランド
【0005】
このRDXの等級は、通常の粒径範囲で入手可能であり、エネルギー物質としての標準RDXの代わりに用いられる。この置き換えにより、他の性質(例えば、物理的および化学的性質、性能品質、加熱に対する高速および低速反応(自動爆発)、銃弾衝撃など)を変更することなく、その衝撃感度の点での製品のよりよい等級が可能となる。このことは特に、「成型」PBX組成物および自己推進用の固体発射火薬で裏付けられている。
【0006】
この等級のヘキソーゲンで調製された、RDX/Al/HTPB混合物(RDX/アルミニウム/ヒドロキシテレキーレックポリブタジエン混合物)で構成された組成物、例えばPBXN−109は、DAI試験(本明細書で後述する爆轟適性指数(Detonation Aptitude Index))によって測定された、衝撃波への低減された感度を有している。特にこの点について参照せよ:Lecume, S.、Chabin, P.およびBrunet, P.、2001年、PBXN−109配合の感度比較のための2つのRDX品質、2001、低感度弾薬およびエネルギー物質討論会、ボルドー。
【0007】
ヘキソーゲンのこのような等級の価値は、弾薬の脆弱性の低減との関連で、否定できない。
【0008】
これまでは、固体形態の「低感度」ヘキソーゲンは、標準のヘキソーゲンとは物理化学的に識別することができていない。「標準の」物理化学的特性解析技術(例としては、クロマトグラフィー法、粒度分析の特性解析、密度測定を挙げることができる)では、「低感度」ヘキソーゲンを標準のヘキソーゲンと定性的もしくは定量的に識別することができなかった。NF EN IS 11357−1規格に記載されている、標準の示差走査熱量測定法(DSC)それ自身でもまた、ヘキソーゲンのこの2つの等級を識別できないし、またRDXを主成分とする配合された爆発物組成物、例えばPBXN−109の分析では、I−RDX(登録商標)結晶の存在を示すようには十分に識別できない。
【0009】
DAI(爆轟適性指数)としても知られている、「障壁を通した爆轟の開始」などの種類の感度試験だけが、この結晶を含む配合された固体爆発物(以下を参照)について、用いられているRDXの品質を明らかにすることができる。
【0010】
このDAI試験はNF T 70−502規格に従って実施される(UNO−危険な商品の輸送に関する勧告−試験の手引きおよび基準、第4改訂版、ST/SG/AC.10/11、第4版、ISBN92/1/239083−8ISSN 1014−7179およびSTANG4488もまた参照)。これは、酢酸セルロース板で構成される障壁を通した起爆剤伝達の爆轟に付した爆発性物質の反応性の測定からなっている。この試料の反対側を他方と接触して配置されている障壁であって、第二の伝達(relay)の爆轟の起爆が起こらない障壁の限界の厚さが求められる。この方法は、1958年初期に発行の米国特許第2832213号明細書中に公開されている。
【0011】
このような方法は、爆発性物質の固体、ペースト状、またはゲル状のいずれの種類にも適用可能である。この方法の液状爆発物への拡張が米国特許第2832213号明細書中に特に開示されている。
【0012】
米国特許第5472531号明細書、米国特許第5316600号明細書、仏国特許第2667592号明細書には、前記の方法(DAI試験)を用いて得られた異なる種類の爆発物の安全性の結果の例がある。
【0013】
RDX結晶に直接に適用されたDAI試験では、製品の2つの等級を識別することは可能ではない。しかしながら、対照の組成物PBXN−109のDAI試験の結果は、I−RDX(登録商標)を用いた場合は、板の数が120〜150の範囲となり、一方で、RDX結晶を用いた組成物PBXN−109の場合には、この数ははるかに多く、そして200を超える可能性がある。
【0014】
従って、DAI試験は決定的なものであるが、しかしながらそれでもなお本質的に幾つかの欠点を有している。この欠点としては次のものが挙げられる。
・組成物の調製(この試験はヘキソーゲンに直接に行なうのではない)および火工品(pyrotechnic objects)の生成、
・高い経費、
・この方法を実施するのに要する大量の物質、約3〜5kg(この試験は破壊的である故になおさらそうである)、および
・特性解析の時間。
【0015】
更に、まさにその本質から、この試験は火工品的効果を生み出し、そして特殊な試験基盤を必要とする。
【0016】
従って、当業者は標準等級のヘキソーゲンを「低感度」ヘキソーゲンと識別する方法であって、DAI試験の欠点がない、簡便な方法を探し求めていた。
【0017】
この目的で、NATOの「軍需品安全情報分析センター(MSIAC)」事務局に管轄された国際作業部会が、RS−RDX(もしくはI−RDX(登録商標))の新規な、可能性のある特性解析方法の評価に焦点を当てた。
【0018】
2つの新規に開発された方法がこの識別を可能にした。これらはNQR(核四重極共鳴)およびAFM(原子間力顕微鏡法)である。
【0019】
NQRスペクトルでは、線幅は結晶格子中の欠陥(広い意味での)の数に正比例する。7つのヘキソーゲンに実施されたNQR分析は、ピークが細いほど、ヘキソーゲンはより低感度であることを示している。この方法は、ヘキソーゲン試料に直接に実施することができ、また製品5〜10gだけを必要とするという利点を有している。この方法の主な欠点は、その装置自体にある(高価、また「既製品(off-the-shelf)」から入手可能でない機械)。
【0020】
AFM分析はモルフォロジー、欠陥(性質と数)、および結晶の粗度パラメータに関するデータを与える。8つのヘキソーゲンについて、組成物PBXN−109のDAI試験結果と結晶表面の欠陥数の間に最初の相関関係を作ることができた。この方法は、物質の数mgだけを必要とする。しかしながら、この方法は高価な技術である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【特許文献1】米国特許第2832213号明細書
【特許文献2】米国特許第5472531号明細書
【特許文献3】米国特許第5316600号明細書
【特許文献4】仏国特許第2667592号明細書
【非特許文献】
【0022】
【非特許文献1】Freche, A.、Aviles, J.、Donnio, L.およびSpyckerelle, C、2000年、低感度RDX(I−RDX)、低感度爆薬およびエネルギー物質討論会−21世紀における技術実現、テキサス州、サンアントニオ
【非特許文献2】Freche, A.、Spyckerelle, C.およびLecume, S.、2003年、SNPE低感度ニトラミン、低感度爆薬およびエネルギー物質技術討論会、フロリダ州、オーランド
【非特許文献3】Lecume, S.、Chabin, P.およびBrunet, P.、2001年、PBXN−109配合の感度比較のための2つのRDX品質、2001、低感度弾薬およびエネルギー物質討論会、ボルドー
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
このような関係で、本発明者らはここに、標準等級の結晶性ヘキソーゲン(高感度)を「低感度の」結晶性ヘキソーゲンと識別するための、用いるのに簡単な、新規な方法を提案する。換言すれば、本発明者らは、結晶性ヘキソーゲンの高感度もしくは低感度の性質を測定するための、用いるのに簡単な、新規な方法を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0024】
特徴としては、前記の方法または前記のプロセスは、
−前記の結晶性ヘキソーゲンのマトリックス中への配合;
−前記の結晶性ヘキソーゲンを充填した前記のマトリックスの試料の示差走査熱量測定法による分析;を含み、
前記のマトリックスは、ニトロ有機爆発物を充填されたエネルギー物質用のバインダーの配合に適切な少なくとも1種の液状ポリマー;および分析の操作温度において安定であり、また水に低い親和性を有する吸収剤であって、揮発性有機化合物の吸収剤の少なくとも1種、から本質的になっている。
【0025】
特徴としては、本発明の前記の方法また前記のプロセスは、示差走査熱量測定法(DSC)によってヘキソーゲンの2つの等級の識別を可能とする結晶性ヘキソーゲンの新規な配合を含んでいる。
【発明の効果】
【0026】
本明細書の導入部に見られるように、前記の示差走査熱量測定法は、この方法が対象のヘキソーゲン(純粋なヘキソーゲン)に直接に用いられた場合にはこのような識別は可能でなかった。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】図1は、標準のヘキソーゲン試料とI−RDX(登録商標)型(低感度ヘキソーゲン)試料についての、本発明に従って実施し、示差走査熱量測定法によって得られた温度記録図の、同一温度目盛りでの重ね合わせを示している。
【発明を実施するための形態】
【0028】
従って、本発明の方法は、結晶性ヘキソーゲンの新規な配合(ヘキソーゲンは混合によって特定のマトリックス中に混合される)を特定の分析法(示差走査熱量測定法)と組み合わせたものである。この発明の新規性は、実際、示差走査熱量測定法による分析のために、ヘキソーゲンが混合されるマトリックスの性質の中に存在している。
【0029】
示差走査熱量測定法による物質の分析は、それ自体は知られている分析であり、当業者にはありふれたものである。この方法は、一方で、物質の試料、また他方で、不活性な対照を、同じ温度に維持するのに必要な熱流量の差異を測定することによって、熱的現象(例えば物理状態または熱反応)のエンタルピーを測定することからなっている。この種の分析は、例えば、物質単独とこの物質を混合した混合物の分解ピークの最大点における温度を比較するのに用いられる。
【0030】
この種の分析は、それ自体知られているので、従って本発明によれば、
−一方で、ニトロ有機爆発物を充填されたエネルギー物質用のバインダーの配合に適切な少なくとも1種の液状ポリマー(この種の物質はヘキソーゲン(ニトロ有機爆発物)と明らかに相溶性があり、これは合成爆発物用のバインダー用の配合中にプレポリマーとして従来から用いられている)、および
−他方で、揮発性有機化合物(VOC)用の少なくとも1種の吸収剤(これはこの分析の操作温度(少なくとも230℃以下、更に400℃以上であっても)において安定であり、またこれは水に低い親和性を有している)、
から本質的になるマトリックス中に、結晶性ヘキソーゲン(その高感度もしくは低感度の性質を測定することが望まれる)を含む試料に対して特徴的な方法で用いられる。多孔質ポリマー型(大きな比表面積を有している)のこのようなVOC吸収剤は、ガス相クロマトグラフィーカラム中の固定相として、とりわけ一般的に用いられている。
【0031】
前記のマトリックスは一般に、揮発性有機化合物のこのような吸収剤の1種と組み合わされたこのような液状ポリマーの1種から本質的になっている。このような2成分の組み合わせから100%形成されていることが有利である。
【0032】
当業者には既に本発明の方法の完全な価値が理解されているであろう。本発明の方法は、多くの利点を提供し、特にDAI試験および上述した2つの方法(NQRおよびAFM)と比較した場合には、
−該方法はヘキソーゲン自体に実施され(マトリックス中の、しかしながら爆発性組成物中(DAI試験を参照)ではない);
−対象とする分析法(DSC)は迅速で、また運転費用が安く;
−前記の分析法およびそれを実施する手段は知られており;
−前記の技術は、その実施のために、少量の製品しか必要としない(約50mgのRDX)。
【0033】
何であれ言外に限定されることなく、本発明の方法の実施、2つの連続した配合段階のそれぞれの実施、および本発明の前記の方法の分析をここに特定することを提案する。
【0034】
結晶性ヘキソーゲン(その高感度もしくは低感度の性質を知ることが望まれる)のマトリックス中への配合(単純な混合による)につては、以下のことを示すことができる。
【0035】
結晶性ヘキソーゲンは通常は、前記のマトリックス中に(混合によって)、充填されたマトリックスが、前記のヘキソーゲンを35質量%〜65質量%含むように導入される。
【0036】
通常は、前記の充填されたマトリックス(本発明の方法の文脈の中ではDSCによって分析される)は、
35質量%〜65質量%の前記の結晶性ヘキソーゲン、
25質量%〜50質量%の前記の少なくとも1種の液状ポリマー、および
5質量%〜20質量%の前記の少なくとも1種の吸収剤、
を含んでいる。
【0037】
有利には、前記の充填されたマトリックスは、
46質量%〜59質量%の前記の結晶性ヘキソーゲン、
31質量%〜43質量%の前記の少なくとも1種の液状ポリマー、および
8質量%〜14質量%の前記の少なくとも1種の吸収剤、
を含んでいる。
【0038】
前記の少なくとも1種の液状ポリマーは、有利にはポリエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、ポリエステルおよびヒドロキシル末端基を備えたポリエーテルから選ばれる。当業者には、推進剤(ニトロ有機爆発物を含んでいる)の配合中に特に用いられるこれらの架橋可能な不活性のプレポリマーが知られている。前記のポリエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、ポリエステルおよびヒドロキシル末端基を含むポリエーテルは、有利には1500〜5000g/モルの範囲の分子量を有している。
【0039】
また、前記の少なくとも1種の液状ポリマーは、有利にはヒドロキシテレキーレックポリブタジエン(HTPB)からなっている。この種の化合物はまた、ニトロ有機爆発物を充填されたエネルギー物質用のバインダーの配合中に広く用いられている。本発明の目的のための使用には、これは通常は500〜10000g/モルの範囲の分子量、また有利には2000〜3000g/モルの範囲の分子量を有している。
【0040】
前記の少なくとも1種の液状ポリマーは、DSCによる分析を実施する目的のためのヘキソーゲン配合マトリックスの第1の構成要素であるが、従って非常に有利には上記で特定した1種のポリマーからなっている。
【0041】
揮発性有機化合物用の前記の少なくとも1種の吸収剤は、有利には2,6−ジフェニル−p−フェニレンオキシド単位を含むポリフェニレンオキシドを主成分とする多孔質ポリマーである。前記のポリフェニレンオキシド(RN24938−68−9)は下記の式に相当する。
【0042】
【化1】

【0043】
これは有利には、0.5〜1×10g/モルの範囲の大きい分子量を有している(これは通常は2000〜4000の範囲のnの値に相当する)。
【0044】
この種の吸収剤の使用(本発明の目的以外の目的のため:ガス相クロマトグラフィー)が、特に米国特許第4003257号明細書中に記載されている。対象とするポリマーの更なる記載が、R. van Wijk、Chimia、第24巻、p.254−56、1970年、「高温(400℃超)耐性のポリマーカラム充填剤」、およびR. van Wijk、Journal of Chromatographic Science、7月号、1970年,p.418−420、「ガスクロマトグラフィーの多孔質ポリマーとしてのポリ−パラ−2,6−ジフェニルフェニレンオキシドの使用」にある。
【0045】
この種の吸収剤は、テナックス(Tenax)(登録商標)の名称で特に商業的に入手可能である。実際に、アルドリッチ(Ardrich)、スペルコ(Supelco)およびブケムビーヴィー(Buchem B.V.)の各社によって、異なる形態のテナックス(Tenax)(登録商標)、テナックス(登録商標)−GC、テナックス(登録商標)−GR、テナックス(登録商標)−TA等が販売されている。これが水に低い親和性を有する限りにおいて、テナックス(登録商標)−TAは、水性の試料中に存在している揮発性および半揮発性有機化合物を捕捉するのに特に効果的である。テナックス(登録商標)−TAは、本発明の方法を実行する文脈の中で、ヘキソーゲン配合マトリックス用の吸収剤として特に推奨される。
【0046】
揮発性有機化合物用の他の吸収剤も、好ましく用いられる可能性がある。それらは上記に挙げた仕様を明らかに満足していなければならない。
−揮発性化合物の吸収剤であること、
−分析(DSC)の操作温度において安定であること、および
−水に低い親和性を有すること。
【0047】
1つの特に有利な実施態様では、本発明の測定方法は、ヘキソーゲン(その高感度もしくは低感度の性質を測定することが望まれている)の、
−2000〜3000g/モルの範囲の分子量を備えたヒドロキシテレキーレックポリブタジエン、および
−0.5〜1×10g/モルの範囲の分子量を備えた、2,6−ジフェニル−p−フェニレンオキシド単位を含むポリフェニレンオキシドを主成分とする多孔質ポリマー、から本質的になるマトリックス中への配合を含んでいる。
【0048】
実施する分析については、本発明の方法の文脈の中では、従ってそれは上述のように結晶性ヘキソーゲン(その高感度もしくは低感度の性質を測定することが望まれている)を充填した、マトリックスの試料のDSC分析である。
【0049】
従来は、このような分析を(DSCによって)実施するには、数mmの試料が用いられていた。
【0050】
全く驚くべきことに、このような試料(結晶性ヘキソーゲンを充填された前記の特定のマトリックス)のDSCによる分析によって、対象とするヘキソーゲン(高感度(標準)のヘキソーゲンもしくは低感度のヘキソーゲン)の正確な性質を特定することが可能となった。本発明者らは実際に2つの種類の差異を観察した。
−第1は、分解ピークの形状中にある:DSCは細い発熱ピークを与え、低感度ヘキソーゲン(I−RDX(登録商標))ではそのピーク幅は通常は1℃未満であり、一方で広幅の発熱ピークを与え、高感度もしくは標準のヘキソーゲンではそのピーク幅は通常は5℃超である。用語「ピーク幅」は半値幅を意味している。
−第2は、試料の測定された分解温度にある:DSC分析の結果は、高感度(標準)ヘキソーゲンでは、218℃に分解ピークの最大点をもたらし、また低感度ヘキソーゲンでは、226℃に分解ピークの最大点をもたらした。本明細書および添付の特許請求の範囲では、これらの218℃および226℃の値は、物質の各バッチに対して実施された測定の数に関連付けられる標準偏差に適合する平均値として理解されるべきである。このように、本発明者らは、一連の20回の測定で、それぞれ2.9(温度218℃について)および1.4(温度226℃について)の標準偏差を求めた。低感度ヘキソーゲンの場合には、分解は自己触媒的であり、また試料の温度の急速な上昇に反映されている。
【0051】
これらの差異は、対象とする分析法では全く特異的であり、また重要である。これらのことは予想外のことである。
【0052】
これらのことは本発明の価値を証明している。これらのことは前記の発明の基礎を構成している。
【0053】
従って、第1の態様によれば、結晶性ヘキソーゲンの高感度または低感度の性質を測定する本方法の文脈の中で実施される分析は、温度記録図の作成および検討を含み、より好ましくは分解ピークの形状:
−低感度ヘキソーゲンでは細い発熱;
−高感度ヘキソーゲン(標準)では幅広の発熱;
および/または分解ピークの最大点の温度:
−低感度ヘキソーゲンでは226℃、
−高感度ヘキソーゲン(標準)では218℃、
の検討を含んでいる。
【0054】
この第1の態様は、対照なしに、盲目的な実施状況の中で実施される。分析に付されたヘキソーゲンの正確な性質は明らかに知られていないが、しかしながら対照資料の温度記録図もまた知られていない。得られた試料の温度記録図の「絶対的」検討が実施される。
【0055】
第2の態様では、本発明の方法の文脈の中で実施した分析は、温度記録図の生成および、高感度もしくは低感度の性質が知られた、与えられたヘキソーゲンについて確立された少なくとも1つの対照の温度記録図との比較、を含んでいる。
【0056】
この第2の態様は盲目的な実施状況の中では実施されない。これは対照試料の事前の分析を含んでいる。当然ながら、前記の対照試料および分析される前記の試料は、同様のまたは更には同一の条件(マトリックスの性質、前記のマトリックス中のヘキソーゲンの濃度、分析の実施条件等)下で配合される。分析に付されるヘキソーゲンの正確な性質はもちろん知られていないが、しかしながら少なくとも1つの対照の温度記録図が利用可能である。得られた試料の温度記録図の「相対的」検討が実施される。
【0057】
正確な実施態様がどのようなものであっても、上述のように、新規な試料に実施されたDSC分析は、予想された結果:前記の試料中に含まれるヘキソーゲンの高感度もしくは低感度の性質の測定、を得ることを可能にする。
【0058】
結晶性ヘキソーゲンに対して本発明によって提案された新規な配合は、DSCによって、完全に予想外に、高感度ヘキソーゲン/低感度ヘキソーゲンの識別を可能とする。
【0059】
第2の主題によれば、本発明は、上記の方法の実施のために配合されたヘキソーゲンに関し、すなわち、
ニトロ有機爆発物を充填されたエネルギー物質用のバインダーの配合に適切な少なくとも1種の液状ポリマー;および
少なくとも230℃以下で安定であり、また水に低い親和性を有する吸収剤であって、揮発性有機化合物用の少なくとも1種の吸収剤、から本質的になるマトリックス中に配合された結晶性ヘキソーゲンに関する。
【0060】
結晶性ヘキソーゲンの高感度もしくは低感度の性質を測定するための方法を参照して上記に示した全ての詳細は、本発明の第2の主題:新規なマトリックス中に配合された結晶性ヘキソーゲンを参照してここに黙示的に再現される(前記のマトリックスの性質に関する、および前記のマトリックス中の前記のヘキソーゲンの濃度に関する詳細)。
【実施例】
【0061】
ここに、添付の図面および下記の実施例によって、何らかの限定をすることなく、本発明を説明することが提案される。
【0062】
試料の高感度もしくは低感度の性質を測定するための(本発明の)方法の1つの好ましい実施態様をここに記載する。
【0063】
記載されたこの実施態様は、100を超える結晶性ヘキソーゲン(I−RDX(登録商標)および標準RDX)の試料に適用し、そして容認できる標準偏差の範囲内の再現性のある結果を与えた。DAI法による特性解析との相関関係は、本発明の方法によって得た結果を検証することを可能にさせた。
【0064】
ヘキソーゲンは、下記の比率で用いた成分の単純な混合によって配合した。
RDX:50mg±5mg
液状ポリマー:35mg±5mg
吸収剤:10mg±2mg
【0065】
RDXは粉末の形態で用いた。これは3.5μm未満〜800μmの範囲の粒径で配合することが可能であった。
【0066】
液状ポリマーはヒドロキシテレキーレックポリブタジエンである。その粘度は30℃で500ポアズである。用いたHTPBは、サートマー(Sartomer)社から市販されているHTPB R45HTLOである。
【0067】
吸収剤は、ブケムビーヴィー(Buchem B.V.)社から市販されているテナックス(Tenax(登録商標))−TAである。これは以下の特徴を有する粉末の形態にある。
−粒径:60/80メッシュ
−比表面積:35m/g
−細孔容積:2.4cm/g
−平均孔径:200nm
−見掛け比重:0.25g/cm
【0068】
得られた充填されたマトリックスは、以下の条件下でDSCによって分析した。
・温度:180〜240℃
・加熱速度:5℃/分
・カプセル:孔を開けたアルミニウムルツボ
・気体:空気
【0069】
それぞれのバッチの20試料についてDSC特性解析法によって得られた結果は、下記の表中に示した値をもたらした。
【0070】
【表1】

【0071】
それぞれのバッチの高感度もしくは低感度の性質を、対象とするバッチで配合した爆発性組成物のDAI試験による測定によって確認した。
【0072】
本発明によるマトリックス調整したI−RDX(登録商標)の分解は、1℃未満の幅、この実施例の条件下で約0.5℃の幅を備えた細い発熱ピークをもたらした。この分解は自己触媒的であり、そしてこの実施例の条件下で、名目上の(nominal)加熱の温度上昇よりも高い試料の温度上昇をもたらした。従って、試料の温度は、分析機の名目上の温度よりも高い。分解反応の後に、試料は名目上の温度に戻る。分解モードの温度記録図を、試料の測定された温度ピークの最大値を名目上の温度値と関連付けて表すことは通常行なわれていることである。本発明によってマトリックス中の標準ヘキソーゲンで測定した曲線との比較において、図1に与えられているのはこの表現である。標準ヘキソーゲンで測定された分解ピークの幅は、5℃超、この実施例の条件下で約10℃であった。
【0073】
上記の表および添付の図面に含まれているデータは、発明の完全な価値を実証している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶性ヘキソーゲンの高感度もしくは低感度の性質を測定する方法であって、
−前記の結晶性ヘキソーゲンのマトリックス中への配合;
−前記の結晶性ヘキソーゲンを充填した前記のマトリックスの試料の示差走査熱量測定法による分析;を含み、
前記のマトリックスは、ニトロ有機爆発物を充填されたエネルギー物質用のバインダーの配合に適切な少なくとも1種の液状ポリマー;および該分析の操作温度において安定であり、また水に低い親和性を有する吸収剤であって、揮発性有機化合物の吸収剤の少なくとも1種、から本質的になっている、方法。
【請求項2】
前記の充填されたマトリックスが35質量%〜65質量%の前記の結晶性ヘキソーゲンを含むことを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記の充填されたマトリックスが、
35質量%〜65質量%の前記の結晶性ヘキソーゲン、
25質量%〜50質量%の前記の少なくとも1種の液状ポリマー、および
5質量%〜20質量%の前記の少なくとも1種の吸収剤、
を含んでおり、有利には、前記の充填されたマトリックスは、
46質量%〜59質量%の前記の結晶性ヘキソーゲン、
31質量%〜43質量%の前記の少なくとも1種の液状ポリマー、および
8質量%〜14質量%の前記の少なくとも1種の吸収剤、
を含んでいることを特徴とする、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
少なくとも1種の液状ポリマーが、ポリエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、ポリエステルおよびヒドロキシル末端基を含むポリエーテルから選ばれることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記の少なくとも1種の液状ポリマーがヒドロキシテレキーレックポリブタジエンであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前記の少なくとも1種の吸収剤が、2,6−ジフェニル−p−フェニレンオキシド単位を含むポリフェニレンオキシドを主成分とする多孔質ポリマーであることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
前記の少なくとも1種の液状ポリマーが、2000〜3000g/モルの範囲の分子量を有しており、また前記の少なくとも1種の吸収剤が、2,6−ジフェニル−p−フェニレンオキシド単位を含むポリフェニレンオキシドを主成分とし、また0.5〜1×10g/モルの範囲の分子量を有している多孔質ポリマーであることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
前記の分析が、温度記録図の作成および検討、より好ましくは、
−低感度ヘキソーゲンでは細い発熱;
−高感度ヘキソーゲンでは幅広の発熱;である分解ピークの形状の検討を含み、および/または
−低感度ヘキソーゲンでは226℃、
−高感度ヘキソーゲンでは218℃、である分解ピークの最大点の温度の検討を含むことを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
前記の分析が、温度記録図の作成および、高感度もしくは低感度の性質の知られた結晶性ヘキソーゲンについて確立されている少なくとも1つの対照の温度記録図との比較を含むことを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
ニトロ有機爆発物を充填されたエネルギー物質用のバインダーを配合するのに適切な少なくとも1種の液状ポリマー;および少なくとも230℃以下で安定であり、また水に低い親和性を有している吸収剤であって、揮発性有機化合物の吸収剤の少なくとも1種、から本質的になるマトリックス中に配合された結晶性ヘキソーゲン。
【請求項11】
前記の配合マトリックスが、請求項2〜7のいずれか1項に記載した特徴の少なくとも1つを有する、請求項10記載のヘキソーゲン。

【図1】
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【公表番号】特表2010−529449(P2010−529449A)
【公表日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−510861(P2010−510861)
【出願日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際出願番号】PCT/FR2008/051005
【国際公開番号】WO2009/001006
【国際公開日】平成20年12月31日(2008.12.31)
【出願人】(509302412)
【Fターム(参考)】