説明

ヘスペリジン含有飲料

【課題】水溶性ヘスペリジンに特有の臭いを抑制したヘスペリジン含有飲料を提供する。
【解決手段】水溶性ヘスペリジンを0.005〜0.015重量%含み、さらにトレハロースを1〜3重量%、またはニゲロオリゴ糖を40%以上含むオリゴ糖を0.1〜1重量%含有する飲料を提供する。また、水溶性ヘスペリジンを0.005〜0.015重量%含み、さらに、トレハロースを0.5〜3重量%、及びニゲロオリゴ糖を40%以上含むオリゴ糖を0.05〜1重量%含有する飲料を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘスペリジンを含有する飲料に関し、水溶性ヘスペリジンに特有の臭いを抑制する方法、及び、水溶性ヘスペリジンの臭いを抑制したヘスペリジン含有飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
ヘスペリジンは、ビタミンに近い働きをするビタミン様物質の一つであり、柑橘類に多く含まれる。ヘスペリジンは、毛細血管の強化、血中中性脂肪の分解などの有益な働きをする他に、ビタミンCの働きを助け、またビタミンCを安定化するなど、健康に役立つ様々な効果を有し、食品に添加する強化剤として期待されている成分である。しかしながらこのヘスペリジンは、水への溶解性が低いために使用用途が限られていた。
【0003】
そこで、ヘスペリジンを酵素処理し、可溶化した水溶性ヘスペリジンが開発されている。例えば、特許文献1では、可溶化ヘスペリジンを着色料及び/又はビタミンを含む食品に添加して、食品の安定化をはかる方法が開示されている。
【0004】
しかしながら、水溶性ヘスペリジンは特有の臭いを有するために、そのままでは食品に添加して用いるのに適さないという問題があった。
【特許文献1】特開平7−241181号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記問題に鑑み、本発明は、水溶性ヘスペリジンに特有の臭いを抑制する方法を提供し、また、水溶性ヘスペリジンの臭いを抑制したヘスペリジン含有飲料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に拠れば、水溶性ヘスペリジンを0.005〜0.015重量%含み、さらにトレハロースを1〜3重量%含有することを特徴とするヘスペリジン含有飲料が提供される。また、水溶性ヘスペリジンを0.005〜0.015重量%含み、さらにニゲロオリゴ糖を40%以上含むオリゴ糖を0.1〜1重量%含有することを特徴とするヘスペリジン含有飲料が提供される。さらにまた、水溶性ヘスペリジンを0.005〜0.015重量%含み、さらに、トレハロースを0.5〜3重量%、及びニゲロオリゴ糖を40%以上含むオリゴ糖を0.05〜1重量%含有することを特徴とするヘスペリジン含有飲料が提供される。
【0007】
上記のヘスペリジン含有飲料は、柑橘類の風味を有する飲料であることが好ましく、また、透明密封容器に充填され、加温販売に供されることができる。
【0008】
また、本発明の他の側面から、水溶性ヘスペリジン及びトレハロースを、水溶性ヘスペリジン1重量部に対し、トレハロースを100〜300重量部の範囲で添加し、水溶性ヘスペリジンの臭いを抑制することを特徴とするヘスペリジン含有飲料の製造方法が提供される。
【0009】
また、水溶性ヘスペリジン及びニゲロオリゴ糖を40%以上含むオリゴ糖を、水溶性ヘスペリジン1重量部に対し、ニゲロオリゴ糖を40%以上含むオリゴ糖を10〜100重量部の範囲で添加し、水溶性ヘスペリジンの臭いを抑制することを特徴とするヘスペリジン含有飲料の製造方法が提供される。
【0010】
さらにまた、水溶性ヘスペリジン、トレハロース及びニゲロオリゴ糖を40%以上含むオリゴ糖を、水溶性ヘスペリジン1重量部に対し、トレハロースを50〜300重量部、ニゲロオリゴ糖を40%以上含むオリゴ糖を5〜100重量部の範囲で添加し、水溶性ヘスペリジンの臭いを抑制することを特徴とするヘスペリジン含有飲料の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、水溶性ヘスペリジンと共にトレハロース及び/又はニゲロオリゴ糖を40%以上含むオリゴ糖を含有させることによって、水溶性ヘスペリジンに特有の臭いを抑制することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明者らは、上記課題を達成するために鋭意研究を重ねた結果、トレハロース及び/又はニゲロオリゴ糖を40%以上含むオリゴ糖を添加することで、水溶性ヘスペリジンに特有の臭いを抑制することを発見した。水溶性ヘスペリジンは、ビタミンCと同時に摂取するとビタミンCの吸収を促進するといわれ、ビタミンC補給飲料に有利な素材である。また、ビタミンC補給飲料に含まれるビタミンCは、時間経過による液色の変化が著しいために色素を使用する必要があるが、ヘスペリジンはカロチノイド色素等の退色防止に効果があるといわれ、色素含有飲料にも有利に用いられる。そこで、水溶性ヘスペリジンを含んだビタミンC補給飲料、または、色素含有飲料に使用することができる数々の素材を試験した結果、トレハロースが水溶性ヘスペリジンのトップ臭を抑制し、ニゲロオリゴ糖を40%以上含むオリゴ糖が水溶性ヘスペリジンの後臭を抑制することが明らかとなった。
【0013】
本発明で用いられる水溶性ヘスペリジンとは、主に柑橘類から抽出精製したヘスペリジンを酵素反応によって処理し、溶解度を高めたヘスペリジンである。ヘスペリジンの可溶化処理は、特許第3060227号公報に記載されているように、ヘスペリジン1重量部およびデキストリン(DE20)6重量部に水5,000重量部を加えて加熱、溶解し、これにバチルス・ステアロサーモフィルス(Bacillus stearothermophilus)由来のシクロマルトデキストリングルカノトランスフェラーゼ(株式会社林原生物化学研究所販売)をデキストリングラム当たり20単位加え、pH6.0、70℃に維持して18時間反応させ、ヘスペリジンの約70%をα−グリコシルヘスペリジンに転換し、その後、加熱失活させ、α−グリコシルヘスペリジンとともに未反応ヘスペリジンを含有する反応液を濾過し、濾液を多孔性合成吸着剤、商品名ダイヤイオンHP−10(三菱化成工業株式会社販売)を充填したカラムにSV2で通液し、このカラムを水で洗浄した後、50V/V%エタノールを通液し、この溶出液を濃縮して溶媒を溜去し、粉末化することによって行うことができる。このような、可溶化処理された水溶性ヘスペリジンには、例えば東洋精糖株式会社から販売されているαGヘスペリジンを用いることができる。
【0014】
また、本発明で用いられるニゲロオリゴ糖を40%以上含むオリゴ糖とは、トウモロコシ(澱粉)を酵素反応させて作製されるシロップであり、非醗酵性糖であるニゲロオリゴ糖を40%以上含むオリゴ糖である。これは例えば、日本食品化工株式会社から販売されている日食テイストオリゴTMを用いることができる。以後、ニゲロオリゴ糖を40%以上含むオリゴ糖は、単にオリゴ糖と略して記す。
【0015】
本発明者らはさらに、トレハロースとニゲロオリゴ糖を40%以上含むオリゴ糖について、飲料の香味を損なうことなく水溶性ヘスペリジンの臭いを抑制するために適切な添加量を検討した。ニゲロオリゴ糖を40%以上含むオリゴ糖には、日本食品化工株式会社から販売されている日食テイストオリゴTMを用いた。
【0016】
イオン交換水に砂糖 9重量%、水溶性ヘスペリジン 0.01重量%添加したものを基本処方とし、これに各種濃度のトレハロース及びオリゴ糖を単独で、または組み合わせて添加した。調製した試料飲料について、水溶性ヘスペリジンの臭い及び甘味を試験し、総合評価した。比較対照として砂糖を用い、同様に試験した。
【0017】
水溶性ヘスペリジンの臭いは、表1に示したように0〜4の5段階で評価した。同様に、甘味も表2に示したような0〜4の5段階で評価した。総合評価は、表3に示したように評価した。
【0018】
【表1】

【0019】
【表2】

【0020】
【表3】

【0021】
<トレハロースの添加量>
基本処方にトレハロースを各種濃度で加え、調製した試料飲料のトップ臭、甘味、及び総合評価を試験した。その結果を表4に示す。
【0022】
【表4】

【0023】
トレハロースの添加量が上昇するに従い、ヘスペリジン特有のトップ臭は抑制された。しかしながら、添加量が3重量%より高くなると、飲料全体の甘味が非常に強くなった。従って、水溶性ヘスペリジンが0.01重量%存在する場合に、トレハロースは1〜3重量%の範囲で添加することが好ましいことが示唆された。
【0024】
<オリゴ糖の添加量>
基本処方にオリゴ糖を各種濃度で加え、調製した試料飲料の後臭、甘味、及び総合評価を試験した。その結果を表5に示す。
【0025】
【表5】

【0026】
オリゴ糖の添加量が上昇するに従い、ヘスペリジン特有の後臭は抑制された。しかしながら、添加量が1重量%より高くなると、飲料全体の甘味が非常に強くなった。従って、水溶性ヘスペリジンが0.01重量%存在する場合に、オリゴ糖を0.1〜1重量%の範囲で添加することが好ましいことが示唆された。
【0027】
<砂糖の添加量>
比較対照として、基本処方に砂糖を各種濃度で加え、調製した試料飲料のトップ臭、後臭、総合評価を試験した。その結果を表6に示す。
【0028】
【表6】

【0029】
10重量%の砂糖を添加しても、水溶性ヘスペリジン特有の臭いは変化しなかったが、15重量%以上添加することによってやや抑制することができた。しかしながら、砂糖を15重量%添加すると、飲料の甘味が非常に強くなり嗜好飲料としては好ましくない。従って、砂糖によってヘスペリジンの臭いを抑制することは困難であることが示された。
【0030】
<トレハロースとオリゴ糖の相乗効果試験>
基本処方にトレハロース及びオリゴ糖を共に添加し、これらの相乗効果を試験した。まず、オリゴ糖の添加濃度を、オリゴ糖単独では後臭の抑制効果があまりみられなかった0.05重量%に固定し、トレハロースの添加量を変化させて試験した。総合評価は、ヘスペリジン臭の抑制と全体の甘味を評価しつつ、相乗効果があるかどうかを評価した。その結果を表7に示す。
【0031】
【表7】

【0032】
トレハロースは、表4に示されたように、0.5重量%の添加量では抑制効果を示さなかったが、オリゴ糖が0.05重量%存在することによって、0.5重量%のトレハロースでも臭いの抑制効果が見られた。
【0033】
香味を含めた総合評価からみると、水溶性ヘスペリジンが0.01重量%存在する場合に、オリゴ糖0.05重量%に対して、トレハロースが0.5〜3重量%、特に、1〜1.5重量%含まれることが好ましいことが示された。
【0034】
次に、トレハロースの添加濃度を、単独ではトップ臭の抑制効果があまりみられなかった0.5重量%に固定し、オリゴ糖の添加量を変化させて試験した。その結果を表8に示す。
【0035】
【表8】

【0036】
オリゴ糖は、表5に示されたように、0.05重量%の添加量では抑制効果を示さなかったが、トレハロースが0.5重量%存在することによって、0.05重量%のオリゴ糖でも臭いの抑制効果が見られた。
【0037】
香味を含めた総合評価からみると、水溶性ヘスペリジンが0.01重量%存在する場合に、トレハロース0.5重量%に対して、オリゴ糖が0.05〜1重量%、特に、0.1〜0.5重量%含まれることが好ましいことが示された。
【0038】
以上の結果から、トレハロースとオリゴ糖を併用することによって相乗効果が生じ、それぞれの成分を単独で用いるよりも低濃度でヘスペリジン臭の抑制効果が得られることが明らかとなった。
【0039】
<加温劣化試験>
以上に記載した本発明のヘスペリジン含有飲料は、特に限定されないが、水溶性ヘスペリジンによる効果に適したビタミンC補給飲料または色素含有飲料等として好適に用いられる。特に、ヘスペリジンは柑橘類に由来する成分であることから、柑橘類の風味を有する飲料に適している。柑橘類の風味を有する飲料は、柑橘類の果汁を含む飲料であってもよく、また、調味料、甘味料、及び香料などを添加することによって柑橘類の風味をつけた飲料でもよい。
【0040】
また、上記試験に用いた条件で調製した本発明の飲料は、加温劣化試験においても良好な耐性を示し、本発明のヘスペリジン含有飲料が、透明密封容器に充填され、加温販売に供されるホット飲料として好適に利用しうることが明らかとなった。以下に、上記試験で用いたヘスペリジン含有飲料に柑橘類の果汁を加えた試料飲料について行った加温劣化試験について記載する。
【0041】
従来どおりの砂糖のみで甘さをだした処方Aと、トレハロースとオリゴ糖と砂糖を組み合わせた処方Bのそれぞれに柑橘類の果汁を添加し、透明密封容器入り試料飲料を調製した。これらの試料飲料を、ホット飲料の販売期間を想定して70℃で14日間保管した後、風味を評価した。
【0042】
レモン果汁を添加した試料飲料による試験の結果を表9に示し、オレンジ果汁を添加した試験の結果を表10に示す。評価は、砂糖が加温劣化した場合に一般的に見られる特長として、苦味及び糖焼けを評価した。これらの評価は、表11に示したような0〜4の5段階で表した。また加温による色調の変化の度合いをΔEとして比較した。
【0043】
【表9】

【0044】
【表10】

【0045】
【表11】

【0046】
この結果から、砂糖にトレハロースとオリゴ糖を添加した処方Bの飲料は、70℃で14日間保持した後でも、砂糖のみで甘さをだした処方Aと比較して、苦味や糖焼けを感じにくいことが示された。また、加温による褐変も減少することが示された。
【0047】
以上の試験では、水溶性ヘスペリジンを0.01重量%含む飲料を用いた。しかしながら、本発明のヘスペリジン含有飲料はこれに限らず、飲料に適した量の水溶性ヘスペリジンを含有することができる。
【0048】
その場合、飲料に含まれる水溶性ヘスペリジンを1重量部とすると、トレハロースが単独では100〜300重量部、ニゲロオリゴ糖を40%以上含むオリゴ糖が単独では10〜100重量部の範囲で含有されることが好ましい。
【0049】
さらに、トレハロースとニゲロオリゴ糖を40%以上含むオリゴ糖が共に添加される場合は、水溶性ヘスペリジン1重量部に対し、それぞれ50〜300重量部、5〜100重量部の範囲で含有されることが好ましい。
【0050】
本発明のヘスペリジン含有飲料は、透明密封容器に充填され、加温販売に供されることも可能であり、ペットボトル、ビン、缶、紙パック等の飲料用に通常用いられる容器に充填されてもよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性ヘスペリジンを0.005〜0.015重量%含み、さらにトレハロースを1〜3重量%含有することを特徴とするヘスペリジン含有飲料。
【請求項2】
水溶性ヘスペリジンを0.005〜0.015重量%含み、さらにニゲロオリゴ糖を40%以上含むオリゴ糖を0.1〜1重量%含有することを特徴とするヘスペリジン含有飲料。
【請求項3】
水溶性ヘスペリジンを0.005〜0.015重量%含み、さらに、トレハロースを0.5〜3重量%、及びニゲロオリゴ糖を40%以上含むオリゴ糖を0.05〜1重量%含有することを特徴とするヘスペリジン含有飲料。
【請求項4】
前記ヘスペリジン含有飲料は、柑橘類の風味を有する飲料である、請求項1〜3の何れか一項に記載のヘスペリジン含有飲料。
【請求項5】
前記ヘスペリジン含有飲料は、透明密封容器に充填され、加温販売に供されることを特徴とする、請求項1〜4の何れか一項に記載のヘスペリジン含有飲料。
【請求項6】
水溶性ヘスペリジン及びトレハロースを、水溶性ヘスペリジン1重量部に対し、トレハロースを100〜300重量部の範囲で添加し、水溶性ヘスペリジンの臭いを抑制することを特徴とするヘスペリジン含有飲料の製造方法。
【請求項7】
水溶性ヘスペリジン及びニゲロオリゴ糖を40%以上含むオリゴ糖を、水溶性ヘスペリジン1重量部に対し、ニゲロオリゴ糖を40%以上含むオリゴ糖を10〜100重量部の範囲で添加し、水溶性ヘスペリジンの臭いを抑制することを特徴とするヘスペリジン含有飲料の製造方法。
【請求項8】
水溶性ヘスペリジン、トレハロース及びニゲロオリゴ糖を40%以上含むオリゴ糖を、水溶性ヘスペリジン1重量部に対し、トレハロースを50〜300重量部、ニゲロオリゴ糖を40%以上含むオリゴ糖を5〜100重量部の範囲で添加し、水溶性ヘスペリジンの臭いを抑制することを特徴とするヘスペリジン含有飲料の製造方法。