説明

ヘッドホン

【課題】 電磁式スピーカーを併用しない単一種の圧電式スピーカーを用いて、骨伝導音の音質が自然で明瞭で、低音域の音圧が十分確保できるヘッドホンを提供することである。
【解決手段】 気体または液体の流体を充填したドーナツ形状のイヤーパッド1と、前記イヤーパッド1に密着して取付けられた圧電振動子2と、前記ドーナツ形状の穴に位置する部分に設けられた振動板3とからヘッドホンを構成することで、単一種の圧電スピーカーにより、高効率で、各種音声ソースに対して音響信号変換骨導音と気導音の聴音が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音響電気信号を音響振動に変換する圧電式スピーカーを用いた、人の聴覚に音響振動を伝達するヘッドホンに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ヘッドホンは音響電気信号を音響振動に変換するスピーカーと、これを収納するハウジングと、耳の周りにフィットさせるためのイヤーパッドを備えている。前記スピーカーには、磁石とコイルからなる電磁力を利用した電磁式スピーカーが用いられているが、他にも、圧電セラミックスの逆圧電効果を利用した圧電式スピーカーを使用したものもある。
【0003】
通常、圧電式スピーカーには、圧電ユニモルフと呼ばれる、金属板に圧電セラミックス板を貼り付けた構造の圧電素子が使用されている。圧電式スピーカーは、電磁式スピーカーに比較して、厚さが薄く、軽量である利点を持つ反面、音圧の周波数特性において、低音域の音圧が不十分という理由からあまり使用されていない。
【0004】
圧電式スピーカーを使用したヘッドホンの中には、電磁式スピーカーの補助的な役割として、不可聴帯域の音響振動発生、或いは、骨伝導用の音響振動発生を圧電式スピーカーに担わせたものもある。このような骨伝導式スピーカーを用いたヘッドホンは特許文献1、特許文献2に開示されている。
【0005】
また、骨伝導式スピーカーを用いたヘッドホンには、例えば耳介(耳殻)の後側の骨の突起部に振動体をセットして、頭部の骨伝導により、内耳の聴覚器官に音を伝達して知覚させるヘッドホンがある。通常の気導式スピーカーを用いたヘッドホンから出た音響振動は、外耳道、鼓膜、耳小骨、前庭窓などを経て蝸牛の知覚細胞で認識される。一方、骨伝導スピーカーを用いたヘッドホンから出た音響振動は、内耳の聴覚器官に直接伝わり、音として認識される。その為、骨伝導式スピーカーを用いたヘッドホンは、周囲の音をほとんど伝達しないので、騒音レベルの高い環境においても、周囲の音と、聞き取ろうとする会話音を分離して知覚するのに適したヘッドホンとされている。このようなヘッドホンは特許文献3に開示されている。
【0006】
【特許文献1】特開平11−331972号公報
【特許文献2】特開2003−032768号公報
【特許文献3】特開2003−018683号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、気導式スピーカーによる通常の伝達経路で知覚される気導音と比べ、骨伝導式スピーカーによる骨伝導音は、音質が不自然で、明瞭度に欠く等の問題がある。また、骨伝導式スピーカーは音響放射量不足や、周波数特性において低音域の音圧が不足するなどの理由により、気導式スピーカーとして使用することが困難であり、電磁式スピーカーを併用しなければならないという欠点がある。また、電磁式スピーカーを骨伝導式スピーカーに用いた場合は効率が悪いという問題もある。
【0008】
従って、本発明は、上記、従来技術における問題点の解決を課題とする。具体的には、電磁式スピーカーを併用しない単一種の圧電式スピーカーを用いて、骨伝導音の音質が自然で明瞭であり、低音域の音圧が十分確保できるヘッドホンの提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、流体を充填したリング形状のイヤーパッドと、前記イヤーパッドに密着して取付けられた圧電振動子と、前記イヤーパッドのリング形状の内周部に設けられた振動板からなることを特徴とするヘッドホンが得られる。
【0010】
本発明による、上記の構成においては、前記圧電振動子により、音響電気信号が変換されて発生した音響振動が、イヤーパッドに充填された流体を介して、耳の軟骨及び耳周辺の頭骨に伝わり、骨伝導音として内耳の聴覚器官で認識される。さらに、前記音響振動は、イヤーパッドに充填された流体を介して、イヤーパッドに配置された振動板をも振動させ、気導音を発生する。従って、本発明によるヘッドホンは、圧電式スピーカー単独であっても気導音と骨伝導音の両方で音響振動を聴覚器官に伝達することができる。
【0011】
また、本発明によれば、前記圧電振動子は、圧電バイモルフまたは圧電ユニモルフであることを特徴とするヘッドホンが得られる。
【0012】
また、本発明によれば、前記流体は液体、または気体としたことを特徴とするヘッドホンが得られる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、電磁式スピーカーを併用しない単一種の圧電式スピーカーを用いた、骨伝導音の音質が自然で明瞭であり、低音域の音圧が十分確保できるヘッドホンの提供が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明によるヘッドホンの実施の形態について、図面に基づき具体的に説明する。
【0015】
図1は、本発明によるヘッドホンのヘッドホンユニット部の要部を示す図である。図1(a)は、ヘッドホンユニット部の要部の正面図であり、図1(b)は、図1(a)に示す(ア)−(イ)断面を示す図である。図1(a)に示すように、本発明のヘッドホンユニット11の要部は、リング形状のイヤーパッド1の表面に圧電振動子2を取付けた構造である。このイヤーパッド1のリング形状の内周部には振動板3が設けられている。
【0016】
図1(b)に示す、イヤーパッド1の内部4には流体が充填されている。充填する流体としては、重量とコストを考慮すると空気を使用するのが有利である。また、音の伝播速度は媒体の密度によって異なる為、使用する流体により応答性が異なる。例えば、空気中の音の伝播速度は約350m/秒に対し、水中の音の伝播速度は約1500m/秒なので、空気より水のほうが応答速度は約4倍速い。また、伝搬する音の減衰も空気より水の方が少ないので、音響特性については、空気より水のほうがより良い。使用する流体は用途に合わせて適宜選択すれば良く、必要に応じて、空気以外の気体や、水以外のオイルや液体等も流体として使用しても良い。また、流体の充填量は、イヤーパッド1を耳に押し当てたときにイヤーパッド1が耳に違和感を与えない程度に十分に充填するのがよい。
【0017】
また、イヤーパッド1の材質は、ビニールシート或いは合成皮等を用いるが、内部に充填する流体が漏れ出さないことが必要である。必要に応じて、防水加工を施してもよい。また、イヤーパッド1の表面は直接皮膚に接触するので、少なくとも皮膚との接触部は皮膚にやさしい材質を選定するようよう留意する。なお、イヤーパッド1のリング形状は、完全な円環状でなくともよい。長円形状でも多角形状でも良く、耳に当てた際に、装着感が良好な形状が望ましい。振動板3の形状も円形、長円、多角形とデザイン性やイヤーパッド1の形状に合わせて適宜選定するのが良い。
【0018】
この構成により、圧電振動子2に音響電気信号を入力すると圧電振動子2が振動する。この振動はイヤーパッド1に取付けられた圧電振動子2の部分から、イヤーパッド1の内部4の流体に伝達し、イヤーパッド1全体が振動すると共に、振動板3にも振動が伝達され、振動板3も振動する。この振動の伝搬作用により音響電気信号が音響振動として伝導可能な圧電式スピーカーが得られる。
【0019】
図2は、本発明のヘッドホンを耳5に当てた状態を示す図である。図2では図1(a)と同様にヘッドホンユニット11の要部のみ図示している。振動板3が発生する音響振動は耳5に伝わり、外耳道、鼓膜、耳小骨、前庭窓を経て、蝸牛の聴覚神経に送られて、いわゆる気導音として知覚される。また、イヤーパッド1は耳5の周辺に押し付けて使用することにより、イヤーパッド1から発生する音響振動は耳介の前側にある頬骨や耳の後ろの軟骨等、人体頭部の骨伝導経路を介して、内耳の知覚器官に音響振動が伝逹され、いわゆる骨導音として知覚される。
【0020】
このように、本発明によるヘッドホンは、同一の圧電振動子が外耳道を介して鼓膜に振動を伝えるスピーカーと骨伝導式スピーカーの両方の機能を兼ねている。この空気中に音声を放射する機能と、骨伝導振動を発生する機能により、音声信号が聴取者に複合されて認識されるため低音域から高音域にわたり自然な聞き取りやすい聴感が実現できる。
【0021】
ヘッドホンとしては、以上のヘッドホンユニット部の要部に、音洩れ防止や、頭部に保持する機能を付与して完成される。図3に、ヘッドホンユニット11の断面図を示す。図3に示すように、イヤーパッド1の片側を、外部への音洩れ防止、及び機器の保護等のためにハウジング6で覆っている。図示するように、ハウジング6の内部に防音材7を設けると、さらに外部への音洩れ防止効果が向上する。また、ハウジング6と反対側には、必要に応じて振動版3を保護するための貫通孔8のある保護板9を設けると良い。
【0022】
図4は、本発明の実施例を示す外観図である。頭部に保持するためのバネ性のバンド10をヘッドホンユニット11に取付けたヘッドホンの例を示している。本発明のヘッドホンは、気導音と骨導音の両方を聴取するものではあるが、頭部への装着方法は、通常のヘッドホンと特に変わる事がないため、頭部への保持機構は従来のヘッドホンに使用されているものを採用すれば良い。音響電気信号はケーブル12を通して、前記圧電素子に伝達されるようになっている。
【0023】
図5は、本発明の圧電振動子部を示す図である。図5(a)は、図1(a)に破線円で示すところの圧電振動子部15を拡大した正面図である。図5(b)は、図5(a)に示した(ア)−(イ)断面を示す図である。図5で、イヤーパッド1への圧電振動子2の取付けは、イヤーパッド1の内部4に充填された流体を覆うシート13の外側の表面上に圧電振動子2を接着剤で接着してある。さらに、圧電振動子2を覆うように保護用シート14を貼って、圧電振動子2とその周囲を補強している。この圧電振動子の取付け方については、圧電振動子とイヤーパッドの密着力や圧電振動子の振動がイヤーパッドへ十分伝達されるならば、上記の取付け方に限定するものではない。
【0024】
圧電振動子としては、一枚の弾性板の両面に圧電セラミックス板を貼り付けた圧電バイモルフや、一枚の弾性板の片面のみに圧電セラミックス板を接着した圧電ユニモルフ等を用いれば良い。また、内部電極を有する積層型の圧電振動子を用いてもよい。また、図5(a)では円形の圧電振動子を示しているが、矩形の圧電振動子であっても良い。さらに、圧電振動子は自身の保護のためと、シートとの接着をより強固にするために、予め可とう性物質で被覆しておくと良い。
【実施例】
【0025】
以下、本発明によるヘッドホンについて、実施例を用いて、さらに詳細に説明する。
【0026】
図3において、イヤーパッド1の内部4には空気を充填した。イヤーパッド1には厚さ0.2mmの軟質ビニール素材を使用し、外径70mm、内径30mmのドーナツ形状のものを用いた。空気を充填した状態のリング形状部の断面は、図5(b)に示したような、ほぼ角型で、縦と横の寸法が20mm×15mmである。
【0027】
また、図3において、リング形状の内径部には直径30mmの振動板3を設けた。さらに、振動板3と同じ直径で、厚さ1mmの樹脂製の板に直径1mmの穴を多数開けた保護板9を配置した。音響振動を発生する圧電振動子2は、直径15mm、厚さ0.1mmの金属板の両面に、表面に電極が形成された直径10mmで厚さ0.15mmの圧電セラミックス円板を、エポキシ系接着剤で接着した圧電バイモルフとした。
【0028】
圧電セラミックスにはNECトーキン(株)製の圧電材料を用いた。この圧電振動子2をイヤーパッド1にエポキシ系の接着剤で固定し、さらに粘着剤付ゴムシートで圧電振動子2を覆い、ヘッドホンユニット11を2個作製した。さらにハウジング及びバンドは市販のヘッドホンに使用されているものを利用して、図4に示すようなヘッドホンを作製した。
【0029】
図6は、本発明によるヘッドホンの音響特性を示すグラフである。比較する為に、従来の電磁式の骨伝導式スピーカーを使用したヘッドホンの音響特性も併記した。図6のグラフは、横軸に音響電気信号の周波数、縦軸には、聴覚神経に伝播した音響振動の振動加速度を示している。この振動加速度は、モデル化された測定用の人工内耳(B&K社製 Artificial Mastoid Type 4930)を用いて測定した値を示し、内耳におけるこの振動加速度の大きさは、聴覚神経が受け取る音響信号の強さに比例するものとされている。振動加速度は1G(9.8m/s2)を0dBとしてデシベルで表示している。
【0030】
図6のグラフから判るように、本発明によるヘッドホンの音響特性は、従来の電磁式の骨伝導式スピーカーを使用したヘッドホンの音響特性に比べ、500Hzから900Hzの周波数帯域を除き、低音域或いは高音域の振動加速度が大きくなっており、電磁式の骨伝導式スピーカーの持つ極端なピーク周波数もなく、フラットな特性であることが確認できた。この特性は即ち、音質が自然で明瞭であり、低音域の音圧が十分確保できていることを示している。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明は、音響装置用のヘッドホンの他、骨伝導応用装置への利用が可能であり、医療用音響装置や超音波発生機器等への利用も可能である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】実施例のヘッドホンユニット部の要部を示す図。図1(a)は正面図。図1(b)は断面図。
【図2】実施例のヘッドホンを耳に当てた状態を示す図。
【図3】実施例のヘッドホンユニットの断面図。
【図4】実施例を示す外観図。
【図5】実施例の圧電振動子部を示す図。図5(a)は正面図。図5(b)は断面図。
【図6】実施例の音響特性を示すグラフ。
【符号の説明】
【0033】
1 イヤーパッド
2 圧電振動子
3 振動板
4 内部
5 耳
6 ハウジング
7 防音材
8 貫通孔
9 保護板
10 バンド
11 ヘッドホンユニット
12 ケーブル
13 シート
14 保護用シート
15 圧電振動子部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に流体を充填したリング形状のイヤーパッドと、前記イヤーパッドに密着して取付けられた圧電振動子と、前記イヤーパッドのリング形状の内周部に設けられた振動板からなることを特徴とするヘッドホン。
【請求項2】
前記圧電振動子は、圧電バイモルフまたは圧電ユニモルフであることを特徴とする請求項1に記載のヘッドホン。
【請求項3】
前記流体は、気体または液体であることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載のヘッドホン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−19957(P2007−19957A)
【公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−200316(P2005−200316)
【出願日】平成17年7月8日(2005.7.8)
【出願人】(000134257)NECトーキン株式会社 (1,832)
【Fターム(参考)】