説明

ヘッド交換式切削工具

【課題】工具本体と連結部材との接合強度の一層の向上を図りつつも、圧入部材の寿命の短縮を招くことなく大量生産を可能とする。
【解決手段】硬質材料よりなる工具本体1Aに形成された内周面に凹部16aを有する取付孔16に、この硬質材料よりも硬度が低い金属材料よりなる連結部材2の円筒状の取付部21が挿入され、この取付部21が拡径するように塑性変形させられて、取付部21の外周面が取付孔16の内周面と密着させられて凹部16aと係合されることにより、これら工具本体1Aと連結部材2とが接合されたヘッド交換式切削工具であって、取付部21の内周部には連結部材2よりも硬度が高い拡径部材4が圧入されて固定されており、この拡径部材4によって取付部21が塑性変形させられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、刃部を有してホルダに連結される切削ヘッドやこの切削ヘッドを連結して保持するホルダのようなヘッド交換式切削工具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
このようなヘッド交換式切削工具として、例えば特許文献1には、超硬合金により一体形成された切削ヘッドの後端部に雄ねじ部が形成され、この雄ねじ部を、ホルダに形成された雌ねじ部にねじ込んで連結するようにしたものが提案されている。また、特許文献2には、超硬合金よりなるシャンク部に鋼部がろう付けにより固着され、この鋼部の切削ヘッドが装着される側よりも奥に、切削ヘッドを固定するための雌ねじ部が形成されたものが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−164234号公報
【特許文献2】特開2003−251540号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載されたヘッド交換式切削工具のように、高硬度ではあるものの硬脆材でもある超硬合金よりなる切削ヘッドに雄ねじ部を直接形成したのでは、ねじ山に欠けが生じ易くなってホルダと確実に連結することができない。また、特許文献2のように超硬合金よりなるシャンク部と雌ねじ部が形成された鋼部とをろう付けによって固着したホルダでは、これらシャンク部と鋼部との接合部の強度を確保することが難しく、切削抵抗によって鋼部がシャンク部から外れてしまうおそれがある。
【0005】
そこで、本発明の発明者等は、先に特願2010−72765や特願2010−218643において、切削ヘッドやホルダのようなヘッド交換式切削工具の超硬合金等の硬質材料によりなる工具本体に、所定の表面粗さの凹凸面のような凹部を内周面に有する取付孔を形成し、この取付孔に、上記硬質材料よりも硬度が低い金属材料よりなる連結部材の円筒状の取付部を挿入し、この取付部の内周部に、該取付部の内径よりも大きな外径の圧入部材(パンチ)を圧入して引き抜くことで取付部を拡径するように塑性変形させ、取付部の外周面を取付孔の内周面と密着させて上記凹部と係合させることにより、これら工具本体と連結部材とを接合することを提案している。
【0006】
従って、このようなヘッド交換式切削工具では、硬度が低い反面、靱性は高くて欠け難い上記金属材料よりなる連結部材に切削ヘッドやホルダの連結用のネジ部を形成することにより、これら切削ヘッドとホルダとを確実に連結することができる。また、取付部は圧入部材によって拡径するように塑性変形させられて、その外周面が取付孔内周面と密着するとともに凹部と係合させられているので、工具本体と連結部材との接合強度が高く、切削抵抗によってこれら工具本体と連結部材が外れて切削ヘッドが脱落してしまうようなこともない。
【0007】
ところが、このようなヘッド交換式切削工具においては、工具本体と連結部材との接合強度をさらに高めるために、連結部材を工具本体よりは低硬度であるものの比較的硬度の高い金属材料によって形成したり、あるいは圧入部材の外径と取付部の内径との差を大きくして取付部の塑性変形量を大きくしたりすると、圧入部材に過大な負荷が作用して摩耗が促進されたり、連結部材を形成する金属材料が圧入部材に溶着を生じたりして、圧入部材の寿命を短縮してしまうおそれがある。このため、こうして工具本体と連結部材との接合強度をさらに高めたヘッド交換式切削工具を大量に生産することは困難であった。
【0008】
本発明は、このような背景の下になされたもので、工具本体と連結部材との接合強度の一層の向上を図りつつも、圧入部材の寿命の短縮を招くことなく大量生産が可能なヘッド交換式切削工具を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決して、このような目的を達成するために、本発明は、硬質材料よりなる工具本体に形成された内周面に凹部を有する取付孔に、上記硬質材料よりも硬度が低い金属材料よりなる連結部材の円筒状の取付部が挿入され、この取付部が拡径するように塑性変形させられて、該取付部の外周面が上記取付孔の内周面と密着させられて上記凹部と係合されることにより、これら工具本体と連結部材とが接合されたヘッド交換式切削工具であって、上記取付部の内周部には上記連結部材よりも硬度が高い拡径部材が圧入されて固定されており、この拡径部材によって上記取付部が塑性変形させられていることを特徴とする。
【0010】
このようなヘッド交換式切削工具においては、上述のように圧入部材(パンチ)の圧入、抜き出しによって連結部材の取付部を塑性変形させて拡径させるのではなく、連結部材よりも硬度の高い拡径部材が取付部の内周部に圧入されて該取付部を拡径するように塑性変形させ、この拡径部材を、そのまま該内周部内に残置させるようにして取付部に固定しており、このため拡径部材を圧入するためのパンチ等の圧入部材は取付部の内周部に接触させる必要がない。
【0011】
従って、工具本体と連結部材との接合強度をさらに高めるために、連結部材を比較的硬度の高い金属材料によって形成したり、あるいは拡径部材の外径と取付部の内径との差を大きくして取付部の塑性変形量を大きくしたりしても、圧入部材に損傷等が生じることはなく、大量生産に対応することが可能となる。また、このように連結部材を高硬度の金属材料によって形成したり、取付部の塑性変形量を大きくしたりせずとも、連結部材よりも高硬度の拡径部材が取付部の内周部に圧入されて残されるので、工具本体と連結部材との接合強度の向上を図ることもできる。
【0012】
ここで、上記拡径部材は、少なくとも上記取付部の内周部への該拡径部材の圧入方向側を向く部分が、この圧入方向に向かうに従い外径が漸次小さくなるように形成されていることが、拡径部材の円滑な圧入を図るために望ましい。このような拡径部材としては、例えば球形のものやテーパピン状のものであってもよく、あるいはパンチの先端面で圧入しやすいように圧入方向の後方側に平坦面を有する球状のものであってもよい。
【0013】
また、このようなヘッド交換式切削工具において、上記連結部材の取付部の内周部は、切削ヘッドの刃部にクーラントを供給するためのクーラント孔として利用される場合があるが、この取付部の内周部が拡径部材の圧入によって封止されているとクーラントを供給することができない。そこで、このような場合には、上記取付部の内周部に、該内周部に固定された上記拡径部材において上記取付部がなす円筒の中心軸線に直交する断面における外径が最大となる位置を、上記中心軸線方向に跨いで延びる溝を形成することにより、この溝を介してクーラントを供給することが可能となる。
【発明の効果】
【0014】
以上説明したように、本発明によれば、工具本体と連結部材との接合強度の向上を図るために、連結部材を高硬度の金属材料によって形成したり、塑性変形量を大きくしたりしても、損傷等による圧入部材の寿命の短縮を招くことなく、大量生産を行うことができるとともに、拡径部材が圧入されて連結部材の取付部に残されることによっても、工具本体と連結部材との接合強度の向上を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明のヘッド交換式切削工具の一実施形態である切削ヘッドをホルダに取り付けた状態を示す斜視図である。
【図2】図1に示す実施形態の切削ヘッドの(a)斜視図、(b)側面図、(c)正面図である。
【図3】図1に示す実施形態の切削ヘッドに製造される切削ヘッド素材の(a)側面図、(b)図(a)におけるZZ側断面図、(c)図(b)のうちの工具本体素材(ヘッド本体素材)部分の側断面図である。
【図4】図1に示す実施形態の塑性変形前の連結部材の(a)斜視図、(b)側面図、(c)正面図、(d)側断面図である。
【図5】図3に示す切削ヘッド素材に連結部材を接合する際の(a)拡径部材の圧入前の側断面図、(b)拡径部材の圧入後の側断面図である。
【図6】図3に示す切削ヘッド素材において拡径部材の変形例を圧入した状態を示す側断面図である。
【図7】図3に示す切削ヘッド素材の変形例の(a)側面図、(b)図(a)におけるZZ側断面図、(c)図(b)のうちの工具本体素材(ヘッド本体素材)部分の側断面図である。
【図8】図7に示す変形例の塑性変形前の連結部材の(a)斜視図、(b)側面図、(c)正面図、(d)側断面図である。
【図9】図7に示す切削ヘッド素材において拡径部材の変形例を圧入した状態を示す側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1ないし図5は、ヘッド交換式切削工具としてホルダに着脱可能に取り付けられてエンドミルを構成する切削ヘッドに本発明を適用した場合の一実施形態を示すものである。この切削ヘッドは、図2に示すように、超硬合金やサーメット、セラミックス等の硬質材料により一体形成された本実施形態における工具本体としてのヘッド本体1に、このヘッド本体1を形成する上記硬質材料よりも硬度が低いステンレス鋼やダイス鋼等の鋼材のような塑性変形可能な金属材料よりなる連結部材2が接合されて構成されている。
【0017】
このようなエンドミルを構成する切削ヘッドは、上記連結部材2を介して図1に示すように円筒軸状のホルダ3の先端部にヘッド本体1の中心軸線O(本実施形態では後述する円筒状の取付部の中心軸線)が同軸となるように連結されて取り付けられ、このホルダ3が工作機械の主軸に取り付けられて上記軸線O回りにエンドミル回転方向Tに回転されつつ該軸線Oに交差する方向に送り出されることにより、被削材に切削加工を施してゆく。
【0018】
ヘッド本体1には、図2に示すように先端側(図2(b)において左側)から後端側(図2(b)において右側)に向けて順に、切刃が形成される刃部11と、切削ヘッドの交換の際にレンチ等が係合させられる係合部12と、これら刃部11および係合部12よりも外径が一段小さく、しかもこの外径が後端側に向かうに従い漸次小さくなるようにされた軸線Oを中心とする円錐台状のテーパ軸部13が形成されている。なお、このテーパ軸部13の外周面が軸線Oに対してなす傾斜角度は1°〜20°の範囲内とされるのが望ましく、より望ましくは1°〜5°の範囲内、さらに望ましくは1°〜3°の範囲内とされて、本実施形態では2°とされている。
【0019】
刃部11の外周には、ヘッド本体1の先端から後端側に向けて軸線O回りにエンドミル回転方向Tの後方側に捩れる切屑排出溝14が周方向に等間隔に複数条(本実施形態では4条)形成され、これらの切屑排出溝14の外周側辺稜部には上記切刃として外周刃15aが、また先端側辺稜部には同じく切刃として底刃15bが形成されている。なお、本実施形態のエンドミルはラジアスエンドミルであって、これら外周刃15aと底刃15bとが交差するコーナ部には、1/4円弧等の凸曲線状をなすコーナ刃15cが形成されており、従ってこれら外周刃15a、底刃15b、およびコーナ刃15cよりなる複数条(4条)の切刃がヘッド本体1に形成される。
【0020】
図3(c)は、このような切屑排出溝14や外周刃15a、底刃15b、およびコーナ刃15cが形成される前のヘッド本体1の素材となるヘッド本体素材1Aを示すものであり、上述のような硬質材料の焼結等によって製造されたこのようなヘッド本体素材1Aに、図3(a)および図3(b)に示すように上記連結部材2が接合された上で、刃部11の切屑排出溝14や外周刃15a、底刃15b、およびコーナ刃15cが形成されてヘッド本体1に製造される。
【0021】
このヘッド本体素材1Aには、図3(c)に示すようにテーパ軸部13の後端面に開口して先端側に延びる取付孔16と、この取付孔16のさらに先端側に連通して該取付孔16より一段小径とされた有底のクーラント孔17とが軸線Oに沿って形成されており、このクーラント孔17の内周面からは、さらに小径とされた複数の分岐孔18が形成されている。本実施形態では、切刃と同数の4つの分岐孔18が周方向に間隔をあけて先端側に向かうに従い外周側に向かうように延び、ヘッド本体素材1Aにおけるヘッド本体1の刃部11に当たる部分の外周面に開口させられている。
【0022】
さらに、取付孔16は、その底面すなわちクーラント孔17との境界部が、軸線O方向においてヘッド本体素材1Aにおけるヘッド本体1の刃部11と係合部12との境界部に略位置するようにされている。また、この取付孔16の内周面には、本実施形態における凹部として、軸線Oに沿った断面が円弧等の凹曲線状をなして軸線O回りに周回する環状溝16aが、図3(c)に示すようにテーパ軸部13の後端面と上記底面とから間隔をあけて複数条(本実施形態では6条)形成されており、ただし少なくとも先端側の環状溝(本実施形態では先端側の2条の環状溝)16aは軸線O方向においてヘッド本体素材1Aにおけるヘッド本体1の係合部12に当たる位置に形成されている。
【0023】
連結部材2は、図4に示すように先端側に軸線Oを中心とした略円筒状の取付部21が形成されるとともに、後端側にはこの取付部21よりも大径の雄ねじ部22が同軸に一体形成されたものであり、取付部21の外径は塑性変形前の状態において取付孔16の内径より僅かに小さくされ、また雄ねじ部22の外径は取付孔16の内径より大きく、テーパ軸部13の後端面の外径よりは小さくされている。なお、この雄ねじ部22の捩れの向きは、上記エンドミル回転方向Tの反対向きとされる。
【0024】
また、円筒状の取付部21の内周部は図4(d)に示すようにこの雄ねじ部22をも貫通して連結部材2の後端面に開口させられている。ただし、この連結部材2の内周部は、少なくとも図4に示した塑性変形前の状態において、上記取付部21の部分で雄ねじ部22の部分よりも内径が僅かに一段小径とされている。また、取付部21の軸線O方向の長さは、図3(b)に示すように取付孔16の深さよりは短く、ただし雄ねじ部22の先端面をテーパ軸部13の後端面に当接させた状態で最先端の環状溝16aを超える長さとされている。
【0025】
さらに、本実施形態では、取付部21の先端部に、軸線O方向に延びる溝21aが形成されている。本実施形態におけるこの溝21aは、取付部21の先端から軸線Oを含む平面に沿って後端側に向け、取付部21の内外周部を径方向に貫通するように形成されたスリット状のもので、このような溝21aが周方向に間隔をあけて複数(本実施形態では周方向に等間隔に4つ)形成されている。また、この溝21aの取付部21先端からの長さは、図3(b)に示すように雄ねじ部22の先端面をテーパ軸部13の後端面に当接させた状態で、溝21aの後端が軸線O方向においてヘッド本体素材1Aにおけるヘッド本体1の係合部12とテーパ軸部13との境界部に略位置するようにされている。
【0026】
そして、このような連結部材2は、取付部21がヘッド本体素材1Aにおける取付孔16に挿入されて、上述のように雄ねじ部22の先端面がテーパ軸部13の後端面に当接させられた状態で、その内周部に、図5に示すように拡径部材4が圧入されて固定されることによって取付部21が拡径するように塑性変形させられることにより、図3(b)に示すようにヘッド本体素材1Aに接合されて取り付けられる。
【0027】
ここで、本実施形態では、拡径部材4は、連結部材2よりも高硬度で、ヘッド本体1の硬度以下の硬度を有する、例えば工具鋼や軸受鋼等の金属材料により形成されたものであって、ヘッド本体1と同じく超硬合金やサーメット、セラミックス等の硬質材料により形成されていてもよい。また、本実施形態における拡径部材4は、連結部材2の塑性変形前の取付部21における内周部の内径よりも大きく、雄ねじ部22における内周部の内径よりは小さな直径を有する球状とされている。
【0028】
このような拡径部材4は、図5(a)に示すように雄ねじ部22の先端面がテーパ軸部13の後端面に当接させられた状態の連結部材2内周部に後端側から挿入され、この拡径部材4の直径よりも僅かに小さな外径の先端軸部を有するパンチPによって軸線O方向先端側に向けた圧入方向Fに押圧されることにより、取付部21を外周側に押し広げて拡径させるように塑性変形させつつ圧入され、図5(b)に示すように取付部21から抜け出ることなくこの取付部21における連結部材2の内周部内に残置されて固定される。
【0029】
従って、こうして取付部21が拡径させられるように塑性変形することにより、取付部21内周部の内径は、拡径部材4の圧入方向F側(軸線O方向先端側)の部分よりも拡径部材4を間にして圧入方向F後方側(軸線O方向後端側)の部分の方が大きくなり、取付部21の外周面は取付孔16の内周面に強く密着させられて押圧され、この取付部21外周面の一部が取付孔16内周面に形成された凹部としての上記環状溝16a内に塑性変形によって入り込むようにして係合させられる。これにより、連結部材2はヘッド本体素材1Aおよびヘッド本体1に対して軸線O方向に抜け止めされるとともに、取付部21外周面と取付孔16内周面との密着によって軸線O回りの相対回転も拘束されて強固に一体化させられる。
【0030】
なお、本実施形態では、拡径部材4は、上述のように取付部21における連結部材2の内周部に固定された状態で、軸線Oに直交する断面における外径が最大となる位置が、軸線O方向において図3(b)に示したように、ヘッド本体素材1Aに対してはヘッド本体1における上記係合部12に位置するようにされ、また連結部材2に対しては取付部21先端の上記溝21aが形成された部分に位置するようにされている。さらに、この溝21aは、その軸線O方向の先端と後端とがこうして固定された拡径部材4よりも該軸線O方向の先端側と後端側とに位置して取付孔16内と取付部21の内周部とにそれぞれ開口するようにされており、すなわち固定された拡径部材4の軸線Oに直交する断面における外径が最大となる上記位置を軸線O方向に跨ぐように形成されている。
【0031】
このようにして連結部材2が取り付けられたヘッド本体素材1Aは、上述のように切屑排出溝14と外周刃15a、底刃15b、およびコーナ刃15cよりなる切刃とが形成されてヘッド本体1に製造される。なお、このときクーラント孔17から分岐した上記分岐孔18は、上記切刃に向けて図2に示したように各切屑排出溝14の底面にそれぞれ開口させられる。
【0032】
さらに、こうして製造されたヘッド本体1は、連結部材2の雄ねじ部22が、円筒軸状の上記ホルダ3の内周部に形成された図示されない雌ねじ部にねじ込まれることにより、係合部12の後端面がホルダ3の先端面に当接させられるとともに、テーパ軸部13の外周面が上記雌ねじ部とホルダ3の先端面との間に形成された先端側に向かうに従い漸次拡径する図示されないテーパ孔部の内周面に密着させられてホルダ3と連結され、上述のように切削加工に使用される。
【0033】
このように構成されたヘッド交換式切削工具である切削ヘッドにおいては、工具本体であるヘッド本体1のヘッド本体素材1Aに形成された取付孔16に連結部材2を取り付けるのに、この連結部材2の取付部21内周部にその内径より大きな外径のパンチを圧入して抜き出すことにより取付部21を拡径させるように塑性変形させるのではなく、パンチPとは別体の拡径部材4を該パンチPによって取付部21内周部に圧入して取付部21を塑性変形させているため、パンチPの先端軸部の外径を拡径部材4の直径よりも小さくすることにより、パンチP自体が取付部21内周部に接触するのを避けることができる。
【0034】
従って、例えばヘッド本体1と連結部材2との接合強度を高めるために、連結部材2を塑性変形可能な材質の中でも上記金属材料より高硬度の材質により形成したり、または上記金属材料の中でもより硬度の高いもので形成したり、あるいは取付部21の塑性変形量をより大きく設定したりしても、この連結部材2の取付部21内周部にパンチPが接触することによってパンチPに摩耗等の損傷が生じるのを防ぐことができる。このため、パンチPの寿命の延長を図ることができて、このようにヘッド本体1と連結部材2の接合強度の高い切削ヘッドを連続的に大量生産することが可能となる。
【0035】
また、上記構成の切削ヘッド(ヘッド交換式切削工具)では、パンチPによって圧入された拡径部材4がそのまま連結部材2の取付部21内周部に残されることになる。そして、この拡径部材4は、連結部材2の取付部21を拡径するように塑性変形させるために連結部材2を構成する材質よりも高硬度の材質により形成されているので、このような拡径部材4が取付部21内周部に残置されることにより、上記切削ヘッドにおいては、単に取付部21が拡径されただけの切削ヘッドに比べてヘッド本体1と連結部材2との接合強度の一層の向上を図ることができ、切削加工時にたとえ過大な切削負荷が作用してもヘッド本体1が外れてしまったりするような事態が生じるのを確実に防止することができる。
【0036】
しかも、本実施形態では、こうして残置される拡径部材4は、その軸線Oに直交する断面における外径が最大となる位置が、塑性変形による取付部21の拡径後は、軸線O方向においてヘッド本体1の係合部12に位置するようにされている。そして、この係合部12は、ヘッド本体1後端側の小径とされたテーパ軸部13よりも一段大径となるように形成されて高剛性とされているので、拡径部材4との間で塑性変形した取付部21を強固に保持することができ、さらに一層の接合強度の向上を図ることが可能となる。
【0037】
また、本実施形態では拡径部材4が球形とされていて、パンチPによる拡径部材4の圧入方向F側(軸線O方向先端側)を向く部分が、この圧入方向Fに向かうに従い外径が漸次小さくなるようにされている。しかるに、このような拡径部材としては、例えば塑性変形前の連結部材2の雄ねじ部22内周部よりは小径で取付部21内周部よりは大径の直径を有する円柱状のものをパンチPの押圧力で圧入することも可能ではあるが、そのような拡径部材では圧入の際の抵抗が大きくなりすぎるのに対し、上述の本実施形態のような圧入部材4では円滑な圧入を図って圧入抵抗が大きくなりすぎるのを防ぐことができ、パンチPへの負担を一層軽減することが可能となる。
【0038】
なお、このような拡径部材4としては、上述のような球形のもの以外に、例えば図6に示す変形例のような球体の拡径部材4の圧入方向F後方側(軸線O方向後端側)を向く部分が軸線Oに垂直な平坦面によって切り欠かれたものでもよい。拡径部材4が完全な球形の場合には、パンチPの先端面が平坦面であると拡径部材4と点当たりになるのに対し、こうして圧入方向F後方側に平坦面が形成されていると面当たりとなって、より安定的な圧入を図ることができる。なお、球状の拡径部材4の圧入方向F後方側が圧入の過程でパンチPによって潰されてこのような平坦面が形成されてもよい。また、後述するような圧入方向Fに向かうに従い外径が漸次小さくなる円錐台状のテーパピンとされていてもよく、あるいは砲弾状とされていてもよい。
【0039】
ところで、上記実施形態のヘッド交換式のエンドミルのような切削工具では、円筒軸状のホルダ3の内周部に、該ホルダ3が取り付けられた工作機械の主軸から切削油剤や圧縮空気、ミスト等のクーラントを供給して、連結部材2の内周部から取付孔16、クーラント孔17、および分岐孔18を介して切刃に噴出することにより切刃や被削材の冷却、潤滑を図ることがあるが、上述のように拡径部材4が連結部材2の内周部に残されて封止されているとこのようなクーラントの供給を行うことができなくなってしまう。
【0040】
そこで、このようにヘッド本体1(工具本体)の内部を通してクーラントを供給する場合においては、本実施形態のように連結部材2の取付部21内周部に、この内周部に固定された拡径部材4の軸線Oに直交する断面における外径が最大となる上記位置を軸線O方向に跨いで延びる溝21a、すなわち軸線O方向の先端と後端が拡径部材4よりも先端側と後端側の取付部21内周部に開口して連通する溝21aを形成し、この溝21aを介してクーラントを供給すればよい。この場合において、溝21aは、本実施形態のように取付部21の内外周を径方向に貫通するスリット状のものでもよく、また圧入された拡径部材4によって潰されて封止されなければ、取付部21の内周部のみに軸線O方向に延びるように形成されたものであってもよい。
【0041】
ただし、このようにヘッド本体1の内部を通してクーラントを供給しない場合には、図7ないし図9に示す上記実施形態の変形例のように、ヘッド本体1(ヘッド本体素材1A)にはクーラント孔17および分岐孔18を形成せず、連結部材2においても図8に示すように溝21aを形成しないように構成してもよい。この場合において連結部材2の取付部21は図8に示すように略完全な円筒状とされる。
【0042】
また、図9は、このようにクーラントを内部供給しない場合において、拡径部材4を上述のようなテーパピンとした変形例である。勿論、この図9に示すテーパピンを図1ないし図6に示したクーラント孔17を有する実施形態の拡径部材4としてもよく、また逆に図6に示した平坦面を有する球形の拡径部材4を図7ないし図9に示すクーラント孔のない実施形態の拡径部材4としてもよい。
【0043】
ところで、上記実施形態およびその変形例では、ヘッド本体1(ヘッド本体素材1A)の取付孔16内周部の凹部として軸線O回りに周回する環状溝16aを形成しているが、このような環状溝16aに代えて、あるいはこれと併せて、この取付孔16の内周面に研磨等を施すことなく、この内周面を、上記超硬合金等の粉末焼結材料を焼結してヘッド本体素材1Aを形成したときの焼結肌のままとして、例えばJIS B 0601:2001(ISO 4287:1997)に規定された最大高さ粗さRzで5μm〜200μmの範囲内の表面粗さ(ただし、基準長さ0.8mm、カットオフ値λs=0.0025mm、λc=0.8mm)の凹凸面とし、これに連結部材2の取付部21の塑性変形した外周面を入り込ませることにより、軸線O回りの回転と軸線O方向の移動とを拘束するようにしてもよい。
【0044】
また、このような凹凸面や環状溝16aに代えて、あるいはこれらと併せて、軸線O方向において拡径部材4が残置されて固定されるヘッド本体1の係合部12で取付孔16の内径が極僅かに大きくなるように形成しておいて、この部分に塑性変形によって拡径した連結部材2の取付部21外周面が係合して、連結部材2が取り付けられるようにしてもよい。さらに、取付孔16の内周面に軸線O方向に延びる溝や螺旋溝、あるいは点在する凹み等を形成して凹部としてもよい。
【0045】
一方、上記実施形態では、ヘッド交換式切削工具のヘッド本体1を工具本体として連結部材2を接合する場合について説明したが、このヘッド本体1が取り付けられるホルダ3のホルダ本体を硬質材料よりなる工具本体として、このホルダ3に設けられる上記雌ねじ部を連結部材に形成して上記ホルダ本体に接合するのに本発明を適用することも可能である。この場合には、ホルダ本体に形成された取付孔に挿入される連結部材の取付部の内周部の内径が雌ねじ部の内径よりも小さくされ、この取付部内周部に拡径部材が圧入されて固定されることにより、取付部が塑性変形して連結部材がホルダ本体に接合される。
【符号の説明】
【0046】
1 ヘッド本体(工具本体)
1A ヘッド本体素材
2 連結部材
3 ホルダ
4 拡径部材
11 刃部
12 係合部
13 テーパ軸部
14 切屑排出溝
15a 外周刃
15b 底刃
15c コーナ刃
16 取付孔
16a 環状溝(凹部)
17 クーラント孔
18 分岐孔
21 取付部
21a 溝
22 雄ねじ部
O ヘッド本体(工具本体)1の軸線(円筒状の取付部21の中心軸線)
T エンドミル回転方向
P パンチ(圧入部材)
F 圧入方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬質材料よりなる工具本体に形成された内周面に凹部を有する取付孔に、上記硬質材料よりも硬度が低い金属材料よりなる連結部材の円筒状の取付部が挿入され、この取付部が拡径するように塑性変形させられて、該取付部の外周面が上記取付孔の内周面と密着させられて上記凹部と係合されることにより、これら工具本体と連結部材とが接合されたヘッド交換式切削工具であって、上記取付部の内周部には上記連結部材よりも硬度が高い拡径部材が圧入されて固定されており、この拡径部材によって上記取付部が塑性変形させられていることを特徴とするヘッド交換式切削工具。
【請求項2】
上記拡径部材は、少なくとも上記取付部の内周部への該拡径部材の圧入方向側を向く部分が、この挿入方向に向かうに従い外径が漸次小さくなるように形成されていることを特徴とする請求項1に記載のヘッド交換式切削工具。
【請求項3】
上記取付部の内周部には、該内周部に固定された上記拡径部材において上記取付部がなす円筒の中心軸線に直交する断面における外径が最大となる位置を、上記中心軸線方向に跨いで延びる溝が形成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のヘッド交換式切削工具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−56404(P2013−56404A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−197074(P2011−197074)
【出願日】平成23年9月9日(2011.9.9)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】