説明

ヘパリン溶液入りプレフィルドシリンジ製剤およびその製造方法

【課題】確実に安全であるとともに安定性に優れるヘパリン溶液入りプレフィルドシリンジ製剤およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】1〜100/mL単位のヘパリンまたはその塩、および生理的に等張化するのに有効な量の等張化剤を含有するヘパリン溶液を充填してなるプレフィルドシリンジ製剤において、下記の特徴を有する当該製剤、(a)pHが6以上である、(b)防腐剤を含まない;ならびにその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はヘパリン溶液入りプレフィルドシリンジ製剤およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヘパリンは、健康な食用獣の肝、肺あるいは腸粘膜から得られ、血液凝固阻止作用、脂血清澄作用を有する。ヘパリンはムコ多糖類の硫酸エステルであり、ウロン酸とグルコサミンが交互に1,4結合した構造を有する。分子量は5000〜20000程度である。
【0003】
ヘパリン生食液は低濃度のヘパリンおよび生理食塩液から構成され、カテーテル内の血液凝固を防止する(ヘパリンロックという)ことを目的として使用される。長期間輸液(特に高カロリー輸液)を投与されている患者が入浴等の理由で点滴を一時中断する場合に、カテーテルを留置したまま、ラインを無菌的に閉じる。この際に血液との接液が点滴のままでは血栓を生成する危険がある。そこで、血液との接液をヘパリンとすることで血栓の生成を抑制し、ラインを無菌的に閉じることができる。
【0004】
このようなヘパリン生食液は日本では市販されておらず、院内処方により調製しているのが現状である。すなわち、院内では市販のヘパリンナトリウム注射液(1000単位/mL)を生理食塩液で10〜100倍程度に希釈しておき(ヘパリン濃度は10〜100単位/mL程度となる)、用時に必要量(1〜10mL程度)を使用する。
【0005】
このような院内処方には、調製時の細菌汚染、分割使用による細菌汚染、希釈作業・作業の煩雑さ、調製時の希釈ミス、シリンジ分注後の表示ミス、医療過誤(取り違え)等の問題点がある。また、院内処方品は市販のヘパリン製剤を単に生理食塩液で希釈しただけなので、保存期間中に菌の繁殖・腐敗が進み、また、pHの低下に伴って力価の低下が認められ、数ヶ月単位の長期保存にはとても耐えられない。
【0006】
一方、海外ではヘパリン生食液はヘパリンロックソリューションあるいはヘパリンロックフラッシュとして市販されている。一部はプレフィルドシリンジ製剤も存在する。しかしながら、これらの製剤は現時点では日本では臨床使用できないことに加えて、以下のような問題がある。
【0007】
これらの製剤には、防腐剤としてパラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸プロピル、クロロブタノール、クレゾール、フェノールあるいはベンジルアルコールが添加されている。しかし、特にベンジルアルコールは大量に投与すると呼吸困難やアレルギー反応を起こすとの報告(非特許文献1)もあり、安全性の面で必ずしも問題がないとは言えない。また、ベンジルアルコールはブチルゴム栓に吸着することからテフロン(登録商標)等でコーティングされたゴム栓を使用する必要があり、また光により分解されることから遮光下で製剤を保存する必要がある(非特許文献2)。
【0008】
さらに、当該製剤の滅菌法としては、間歇滅菌などの手法が採用されているが、これらの方法単独では確実かつ完全に無菌化することは困難であることから、防腐剤と組み合わせて利用されているのが現状である。また、上記の防腐剤を用いる以外にも無菌濾過などの手法が採用されているが、ヘパリンナトリウムおよび塩化ナトリウムにpHを維持する働きがないことから、保存期間中にpHの低下に伴って力価の低下が認められる。
【0009】
従って、防腐剤を添加することなく、製剤を無菌化しかつ長期間無菌に保つことができる安全性に問題のない製剤であるとともに、力価を長期間にわたって保持することができる安定性にも問題のないヘパリン溶液入りプレフィルドシリンジ製剤の開発が望まれていた。
【非特許文献1】Drug Intell. Clin. Pharm., 9, p154, 1975年
【非特許文献2】医薬品添加物ハンドブック、316頁、丸善株式会社、1988年発行
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、確実に安全であるとともに安定性に優れるヘパリン溶液入りプレフィルドシリンジ製剤およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、従来のヘパリン生食液にそのまま高圧蒸気滅菌を施したところ、滅菌後のヘパリン溶液のpHが著しく低下してしまい、その結果、十分な薬効を期待できないほどにヘパリン溶液の力価が低下することが判明した。そこで、本発明者らはこれらの事情を考慮してさらに研究を行い、製剤面での改良を行うことにより所期の目的を達成したヘパリン溶液入りプレフィルドシリンジ製剤を調製できることを見出して本発明を完成するに至った。本発明は以下の通りである。
(1)1〜100単位/mLのヘパリンまたはその塩、および生理的に等張化するのに有効な量の等張化剤を含有するヘパリン溶液を充填してなるプレフィルドシリンジ製剤において、下記の特徴を有する当該製剤。
(a)pHが6以上である
(b)防腐剤を含まない
(2)等張化剤が塩類または糖類である(1)の製剤。
(3)高圧蒸気滅菌を施してなる(1)の製剤。
(4)高圧蒸気滅菌後のpHが6以上である(3)の製剤。
(5)クエン酸、コハク酸、リン酸、炭酸、乳酸のいずれかの塩またはトリスヒドロキシメチルアミノメタンの酸付加塩を含有する(1)の製剤。
(6)ヘパリンナトリウム、塩化ナトリウム、クエン酸ナトリウム、水酸化ナトリウムおよび注射用水からなり、高圧蒸気滅菌を施してなる(1)の製剤。
(7)1〜100単位/mLのヘパリンまたはその塩、および生理的に等張化するのに有効な量の等張化剤を含有するヘパリン溶液を調製し、pH6以上となるように調整し、得られたヘパリン溶液をシリンジに充填密封し、その後に高圧蒸気滅菌を施すことからなる、防腐剤を含まないヘパリン溶液入りプレフィルドシリンジ製剤の製造方法。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明のプレフィルドシリンジ製剤は、1〜100単位/mLのヘパリンまたはその塩、および生理的に等張化するのに有効な量の等張化剤を含有するヘパリン溶液を充填したものであって、下記(a)および(b)の性質を有する。
【0013】
(a)pHが6以上であること
本発明のヘパリン溶液のpHは通常6以上、好ましくは6〜9、より好ましくは6.0〜8.0、さらに好ましくは6.5〜7.5である。pHが6より小さいと、高圧蒸気滅菌時あるいは長期保存時に製剤中のヘパリン溶液の力価が低下してしまうためである。
【0014】
本発明においては高圧蒸気滅菌を施した場合でも滅菌後における製剤中のヘパリン溶液のpHは6以上であることが好ましい。より好ましくは6〜9、さらに好ましくは6.0〜8.0、特に好ましくは6.5〜7.5である。
【0015】
本発明においてヘパリン溶液のpHを6以上とするためには、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の塩基を用いて、ヘパリン溶液のpHを6以上に調節する方法(以下、これらの添加剤をpH調節剤と呼称する)、クエン酸、コハク酸、リン酸、炭酸、乳酸のいずれかの塩またはトリスヒドロキシメチルアミノメタンの酸付加塩等のpH6以上で緩衝作用を有する塩を用いて、ヘパリン溶液のpHを6以上で保持する方法(以下、これらの添加剤をpH緩衝剤と呼称する)などが挙げられる。後者の場合は当該塩を含む緩衝液(例えば、リン酸緩衝液など)の態様であってもよい。上記の添加剤は不斉炭素原子に基づく光学異性体を有することがある(例えば乳酸)が、すべての異性体及びそれらの混合物も本発明の範囲に含まれる。当該塩として好ましいのはクエン酸などの酸の場合はナトリウム、カリウムなどの強塩基との塩であり、トリスヒドロキシメチルアミノメタンの場合は塩酸などの強酸との酸付加塩である。具体的には、クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、コハク酸二ナトリウム、コハク酸一ナトリウム、コハク酸二カリウム、コハク酸一カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、リン酸一水素二ナトリウム、リン酸二水素一ナトリウム、リン酸一水素二カリウム、リン酸二水素一カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、乳酸ナトリウム、乳酸カリウム、トリスヒドロキシメチルアミノメタン塩酸塩などが挙げられ、それらの混合物であってもよい。好ましくは、クエン酸ナトリウムなどが挙げられる。また、リン酸緩衝液としては、例えば、リン酸一水素二ナトリウムとリン酸二水素一ナトリウムの組み合わせなどが例示される。pH緩衝剤の添加濃度としては0.1〜10mM程度、より好ましくは1〜10mM程度が例示される。
【0016】
上記のpH調節剤またはpH緩衝剤(以下、両者を併せてpH調整剤と呼称する)を配合することにより、高圧蒸気滅菌後も上記ヘパリン溶液のpHを6以上に保持することができ、その結果該ヘパリン溶液の力価の低下を防ぐことができる。
【0017】
(b)防腐剤を含まないこと
本発明のプレフィルドシリンジ製剤は、防腐剤を配合していないので、極めて安全性の高いものである。本発明において、防腐剤とは、「微生物の発育を妨げ、またはこれを殺す薬剤」をいい、例えば、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸プロピル、クロロブタノール、クレゾール、フェノール、ベンジルアルコール等が挙げられる。本発明のヘパリン溶液入りプレフィルドシリンジ製剤では、防腐剤の中でもベンジルアルコールを含まないので、製剤の保存に際し、汎用的なブチルゴム製の栓を用いることができ(従来のベンジルアルコール入りのヘパリン溶液入りプレフィルドシリンジ製剤はテフロン(登録商標)等でコーティングされたゴム栓を使用する必要があった)、また遮光下で製剤を保存する必要がないという利点も有する(従来のベンジルアルコール入りのヘパリン溶液入りプレフィルドシリンジ製剤は、ベンジルアルコールが光により分解されることから遮光下で製剤を保存する必要があった)。
【0018】
本発明では、プレフィルドシリンジ製剤に高圧蒸気滅菌を施すことにより本製剤の安全性を確保することができる。従来のヘパリン溶液入りプレフィルドシリンジ製剤に高圧蒸気滅菌を施すと、滅菌後のヘパリン溶液のpHが著しく低下してしまい、その結果十分な薬効を発揮できないほどにヘパリン溶液の力価が低下するという問題があった。しかし本発明においては、(a)ヘパリン溶液のpHを6以上とする、より好ましくは高圧蒸気滅菌後のpHを6以上とすることにより、高圧蒸気滅菌を施しても上記問題の起こらないヘパリン溶液入りプレフィルドシリンジ製剤を実現することができる。
【0019】
高圧蒸気滅菌の条件としては、圧力として飽和蒸気圧に0.1〜5気圧を上乗せした値、温度は105〜130℃、時間は1〜60分間程度が例示される。
【0020】
本発明において、ヘパリンは公知のものを使用できる。すなわち、(1)健康な食用獣(例えば、ウシ、ブタ等)の肝、肺あるいは腸粘膜から得られ、血液凝固阻止作用、脂血清澄作用を有する、(2)ムコ多糖類の硫酸エステルであり、ウロン酸とグルコサミンが交互に1,4結合した構造を有する、(3)分子量は5000〜20000程度である、等のものであればよい。
【0021】
ヘパリンの調製は公知の方法に準じて行われる。例えば、第14日本薬局方に開示された方法等が利用できる。
【0022】
ヘパリンの塩としては、ナトリウム塩、カルシウム塩等が例示される。ナトリウム塩は第14日本薬局方収載品として、カルシウム塩は1980年のイギリス薬局方または第14日本薬局方の局外規収載品として入手可能である。
【0023】
ヘパリンナトリウムは白色〜帯灰褐色の粉末または粒で、においはない、水にやや溶け易く、エタノールあるいはエーテルにはほとんど溶けない、吸湿性である、等の性状を有するものであればよい。
【0024】
また、本発明のヘパリンとしては低分子ヘパリン(一般名パルナパリン)も例示される。このものはウシまたはブタ腸粘膜由来のヘパリンを過酸化水素と硫酸第二銅により分解して得られた解重合ヘパリンであり、平均相対分子量4500〜6500、硫酸エステル化の度合は二糖類当たり2.0〜2.4である。
【0025】
本製剤におけるヘパリンまたはその塩の濃度としては1〜100単位/mL、好ましくは10〜100単位/mLが例示される。また、浸透圧比は生理学的に許容される程度であればよく、具体的には約1(生理食塩液に対する比)程度が例示される。
【0026】
本製剤には、塩化ナトリウム等の塩類、ブドウ糖等の糖類を等張化剤として配合する。なお、本発明の等張化剤は、ヘパリンまたはその塩、pH6以上に調整するための添加剤(pH調整剤のこと。pH調節剤、pH緩衝剤を意味する)とは異なる概念であり、これらのものは等張化剤の範疇には含まれない。
【0027】
本発明のヘパリン溶液入りプレフィルドシリンジ製剤は注射器および薬液(本発明のヘパリン溶液)から構成される。該プレフィルドシリンジ製剤に使用される注射器は特に限定されず、従来公知のものを好適に用いることができる。例えば、昭和61年3月12日薬審第98号通知事例1に記載された形状のもの等が使用できる。
【0028】
本発明のプレフィルドシリンジとは、好ましくは、薬液を充填したシリンジ(注射筒ともいう)、該シリンジから薬液を押し出すプランジャー(プランジャーロッドとガスケットからなる)、および該シリンジから薬液が押し出される開放端側のキャップから構成され、予めシリンジ内に薬液を密封しておき、使用時に該キャップを取り外して、注射針、血管カテーテルなどの器具を接続する側の密封を解除して、該器具を接続し、プランジャーロッドを押し込むことにより薬液を患者に投与できるようにする一種の注射器である。シリンジ内の薬液は通常、前記キャップおよびガスケットより密封される。
【0029】
本発明のヘパリン溶液入りプレフィルドシリンジ製剤の一例を図面にて説明する。図1はヘパリン溶液入りプレフィルドシリンジ製剤1の断面図である。本発明の注射器は、シリンジ(注射筒)3、ガスケット4およびキャップ2から構成される。該シリンジは一端(以下、基端開放部という。)側の開口にガスケットがはめ込まれ、他端(以下、先端開放部という。)側にガスケットの押し込みにより薬液(本発明のヘパリン溶液)6を排出する排出口を有する筒状体である。排出口には、使用前には通常、キャップがはめ込まれ、上記ガスケットとともに薬液を保持してなる。また、該ガスケットには、プランジャーロッド5が連結されていてもよい。シリンジの基端からキャップ先端までの長さa、およびシリンジの内径bは充填する薬液(本発明のヘパリン溶液)の容量によって適宜決定することができる。具体的には、長さaは67〜94mm程度、内径bは13〜21mm程度が例示される。より詳細には、充填容量が2.5mLあるいは5mLの場合で、長さaは67〜83mm程度、内径bは13〜17mm程度が例示される。また、充填容量が10mLの場合で、長さaは76〜94mm程度、内径bは16〜21mm程度が例示される。
【0030】
本発明において使用されるシリンジおよびプランジャーロッドの材質としては通常のプラスチックあるいはガラスが挙げられる。プラスチックとしては、例えば、ポリオレフィン系(例、ポリエチレン、ポリプロピレン)などが例示される。容量としては本製剤の臨床使用量に合せて適宜決定することができる。具体的には1〜10mL容のものが例示される。ガラス製またはプラスチック製のシリンジを必要に応じて、焼き付けまたは塗布によりシリコン等で処理して、ガスケットの摺動抵抗を小さくし、シリンジ内でのガスケットの移動を容易にすることができる。排出口の形成される先端開放部は、接続する器具の形状に対応するルアーチップ形状になっていることが、注射針または血管カテーテルとの接続の容易さの観点から好ましい。本発明において使用されるキャップは特に限定されないが、好ましくはゴム製または熱可塑性エラストマーなどの弾性体キャップである。該ガスケットには、好ましくはプランジャーロッドが結合する手段、例えば螺子部が設けられていてもよい。また、プランジャーロッドとガスケットとは一体に成形されていてもよい。
【0031】
本発明の製剤は以下のように調製される。すなわち、1〜100単位/mLのヘパリンまたはその塩、および生理的に等張化するのに有効な量の等張化剤を含有するヘパリン溶液に、上記のpH調整剤を配合して、該溶液がpH6以上となるように調整し、通常の防腐剤を配合しないヘパリン溶液を得る。上記シリンジの先端開放部に上記キャップを装着し、シリンジの基端開放部からノズルにより該ヘパリン溶液を、キャップを装着したシリンジに充填する。ヘパリン溶液のシリンジへの充填は、例えば小分け分注によって行う。その後、真空打栓法またはスリーブ打栓法により、上記ガスケットを基端開放部に装着する。次いで、該ガスケットを装着したヘパリン溶液入りプレフィルドシリンジ製剤に高圧蒸気滅菌を施す。
【0032】
本発明のプレフィルドシリンジ製剤は、使用時にキャップを取り外して、注射針または血管カテーテルなどの器具と接続する排出口側の密封を解除して、該器具に接続した後にプランジャーロッドをシリンジ内のガスケットと連結して、プランジャーロッドを押し込むことにより、本発明のヘパリン溶液を例えば、カテーテル内に供給する。
【0033】
本製剤は、上記のとおり、血管カテーテル挿入時の血液凝固防止を目的として臨床使用される。その際の使用量は、通常1〜10mL程度である。
【実施例】
【0034】
本発明をさらに詳細に説明するための実施例および実験例を挙げるが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。
【0035】
実施例1
以下の組成からなる製剤を調製した:ヘパリンナトリウム(第14日本薬局方収載品)250単位、塩化ナトリウム22.5mg、クエン酸ナトリウム(終濃度で1mM)、適量の水酸化ナトリウム、適量の注射用水、全量2.5mL。ヘパリンナトリウム25万単位、塩化ナトリウム22.5gおよびクエン酸ナトリウムを一部の注射用水に溶解し、水酸化ナトリウム溶液を加えて溶解液のpHを6.86に調整し、さらに残りの注射用水を加えて、全量を2.5Lとした。この溶液を2.5mLずつポリプロピレン製シリンジ(図1を参照のこと)に充填し、飽和蒸気圧+3気圧の条件下、121℃で15分間の高圧蒸気滅菌を施した。本製剤は無色澄明で水性の注射剤であり、pHは6.67、浸透圧比は約1(生理食塩液に対する比)であった。
【0036】
実施例2
以下の組成からなる製剤を調製した:ヘパリンナトリウム(第14日本薬局方収載品)250単位、塩化ナトリウム22.5mg、クエン酸ナトリウム(終濃度で1mM)、適量の水酸化ナトリウム、適量の注射用水、全量2.5mL。ヘパリンナトリウム25万単位、塩化ナトリウム22.5gおよびクエン酸ナトリウムを一部の注射用水に溶解し、水酸化ナトリウム溶液を加えて溶解液のpHを6.96に調整し、さらに残りの注射用水を加えて、全量を2.5Lとした。この溶液を2.5mLずつガラス製シリンジに充填し、飽和蒸気圧+3気圧の条件下、121℃で15分間の高圧蒸気滅菌を施した。本製剤は無色澄明で水性の注射剤であり、pHは6.56、浸透圧比は約1(生理食塩液に対する比)であった。
【0037】
実施例3
以下の組成からなる製剤を調製した:ヘパリンナトリウム(第14日本薬局方収載品)50単位、塩化ナトリウム45mg、クエン酸ナトリウム(終濃度で1mM)、適量の水酸化ナトリウム、適量の注射用水、全量5mL。ヘパリンナトリウム5万単位、塩化ナトリウム45gおよびクエン酸ナトリウムを一部の注射用水に溶解し、水酸化ナトリウム溶液を加えて溶解液のpHを6.96に調整し、さらに残りの注射用水を加えて、全量を5Lとした。この溶液を5mLずつガラス製シリンジに充填し、飽和蒸気圧+3気圧の条件下、121℃で15分間の高圧蒸気滅菌を施した。本製剤は無色澄明で水性の注射剤であり、pHは6.70、浸透圧比は約1(生理食塩液に対する比)であった。
【0038】
比較例
以下の組成からなる製剤を調製した:ヘパリンナトリウム(第14日本薬局方収載品)250単位、塩化ナトリウム22.5mg、適量の水酸化ナトリウム、適量の注射用水、全量2.5mL。ヘパリンナトリウム25万単位および塩化ナトリウム22.5gを一部の注射用水に溶解し、水酸化ナトリウム溶液を加えて溶解液のpHを6.53に調整し、さらに残りの注射用水を加えて、全量を2.5Lとした。この処方は市販のヘパリンナトリウム製剤(1000単位/mL)を生理食塩液で100単位/mLに希釈したのとほぼ同じものである。この溶液を2.5mLずつガラス製シリンジに充填し、飽和蒸気圧+3気圧の条件下、121℃で15分間の高圧蒸気滅菌を施した。本製剤は無色澄明で水性の注射剤であり、pHは5.90、浸透圧比は約1(生理食塩液に対する比)であった。
【0039】
実験例1
実施例1、同2、および比較例で調製した製剤を40℃で2ヶ月保存し、製剤のpHおよびヘパリン力価を経時的に測定した。結果を表1に示す。
【0040】
【表1】

【0041】
表中の力価の単位は単位/mL表示である。
【0042】
クエン酸ナトリウムを添加した製剤(実施例1および同2)は、シリンジの材質(ポリプロピレンまたはガラス)にかかわらず、pHおよび力価とも保存期間中に変化は認められなかった。一方、水酸化ナトリウムでpH調整しただけの製剤(比較例)では、滅菌後にpHが6以下になり、経時的にpHおよび力価が低下した。
【0043】
実験例2(pH緩衝剤)
以下の組成からなる製剤を調製した:ヘパリンナトリウム(第14日本薬局方収載品)250単位、塩化ナトリウム22.5mg、炭酸水素ナトリウム、クエン酸ナトリウムまたはリン酸二水素ナトリウム−リン酸水素二ナトリウム(リン酸緩衝剤)から選ばれる一つのpH緩衝剤(終濃度で10mM)、適量の水酸化ナトリウム、適量の注射用水、全量2.5mL。ヘパリンナトリウム25万単位および塩化ナトリウム22.5gを一部の注射用水に溶解し、溶解液のpHが6〜8となるように水酸化ナトリウム溶液を加え、さらに残りの注射用水を加えて、全量を2.5Lとした。この溶液を2.5mLずつガラス製シリンジに充填し、飽和蒸気圧+3気圧の条件下、121℃で15分間の高圧蒸気滅菌を施した。本製剤は無色澄明で水性の注射剤であった。この製剤を80℃75%RHで7日間保存し、pHおよび力価を測定した。結果を表2に示す。
【0044】
【表2】

【0045】
クエン酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、リン酸緩衝剤を用いた場合に、ヘパリンの安定性は良好であった。
【0046】
実験例3
各種pH緩衝剤の終濃度を1mMとする以外は全て実験例2に準じて実験を行った。結果を表3に示す。
【0047】
【表3】

【0048】
実験例4
以下の組成からなる製剤を調製した:ヘパリンナトリウム(第14日本薬局方収載品)250単位、塩化ナトリウム22.5mg、クエン酸ナトリウム(終濃度で1mM)、適量の水酸化ナトリウム、適量の注射用水、全量2.5mL。ヘパリンナトリウム25万単位、塩化ナトリウム22.5gおよびクエン酸ナトリウムを一部の注射用水に溶解し、水酸化ナトリウム溶液を加えて溶解液のpHを5、6、7または8に調整した後に、それぞれ全量を2.5Lとした。この溶液を2.5mLずつガラス製シリンジに充填し、飽和蒸気圧+3気圧の条件下、121℃で15分間の高圧蒸気滅菌を施した。得られた製剤を80℃75%RHで7日間保存し、pHおよび力価を測定した。結果を表4に示す。
【0049】
【表4】

【0050】
滅菌前にpHを8に調整したヘパリン溶液は滅菌後および保存中にpHの低下が認められたが、力価の低下は認められなかった。一方、滅菌前にpH5に調整したヘパリン溶液では、pHの低下は認められなかったが、保存中にヘパリン力価の低下が認められた。pHを6以上に調整することで力価は保持された。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明によれば、安定性に優れ、従来の製剤(院内処方製剤、海外で市販中のプレフィルドシリンジ製剤)に比べて確実に安全であるヘパリン溶液入りプレフィルドシリンジ製剤を臨床の場に提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明のヘパリン溶液入りプレフィルドシリンジ製剤の断面図である。
【符号の説明】
【0053】
1 ヘパリン溶液入りプレフィルドシリンジ製剤
2 キャップ
3 シリンジ(注射筒)
4 ガスケット
5 プランジャーロッド
6 ヘパリン溶液


【特許請求の範囲】
【請求項1】
1〜100単位/mLのヘパリンまたはその塩、および生理的に等張化するのに有効な量の等張化剤を含有するヘパリン溶液を充填してなるプレフィルドシリンジ製剤において、下記の特徴を有する当該製剤。
(a)pHが6以上である
(b)防腐剤を含まない
【請求項2】
等張化剤が塩類または糖類である請求項1の製剤。
【請求項3】
高圧蒸気滅菌を施してなる請求項1の製剤。
【請求項4】
高圧蒸気滅菌後のpHが6以上である請求項3の製剤。
【請求項5】
クエン酸、コハク酸、リン酸、炭酸、乳酸のいずれかの塩またはトリスヒドロキシメチルアミノメタンの酸付加塩を含有する請求項1の製剤。
【請求項6】
1〜100単位/mLのヘパリンまたはその塩、および生理的に等張化するのに有効な量の等張化剤を含有するヘパリン溶液を調製し、pH6以上となるように調整し、得られたヘパリン溶液をシリンジに充填密封し、その後に高圧蒸気滅菌を施すことからなる、防腐剤を含まないヘパリン溶液入りプレフィルドシリンジ製剤の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−84579(P2007−84579A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−356292(P2006−356292)
【出願日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【分割の表示】特願2001−388458(P2001−388458)の分割
【原出願日】平成13年12月20日(2001.12.20)
【出願人】(000006725)三菱ウェルファーマ株式会社 (92)
【出願人】(000135036)ニプロ株式会社 (583)
【Fターム(参考)】