ヘプシジンによる鉄代謝を制御するためのTGF−βスーパーファミリーの化合物の調節因子の使用
本発明は哺乳動物における鉄代謝の制御のための新しい系およびストラテジーを提供する。特に、鉄代謝の重要なレギュレーターであるヘプシジンの発現または活性を調節するためにTGF-βスーパーファミリーメンバーのアゴニストおよびアンタゴニストを用いる方法を記載する。本発明の方法は、若年性ヘモクロマトーシスおよび成人性ヘモクロマトーシスのような鉄過剰に関連した疾患の処置において、ならびに慢性疾患の貧血および腎疾患末期のEPO抵抗性貧血のような鉄欠乏に関連した疾患の処置において、適用を見出す。本発明はまた、鉄代謝障害を処置するための新規な薬物および治療の開発のためのスクリーニングツールならびに方法に関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2005年2月16日に出願され、「鉄代謝を制御するための方法および組成物」と題する仮出願第60/653,479号の優先権を主張する。仮出願はその全体が参照により本明細書に組み入れられている。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
鉄は、異常細菌種を除いて、ほとんどすべての生きている生物体の成長および生存にとって必須元素である(P. Aisen et al., J. Biochem. Cell Biol., 2001, 33:940-959(非特許文献1))。それは、酸素運搬および貯蔵において重要な役割を果たし(ヘモグロビンおよびミオグロビンのような酸素結合分子と共同して)、エネルギーの生成(例えば、チトクロム)、様々な代謝中間物の産生に、および宿主防御(例えば、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸[NADPH]オキシダーゼ)に必要とされる酸化還元反応を触媒する多くの酵素の重要な成分である。鉄はまた毒性でありうる。それは、細胞膜、タンパク質、およびDNAを攻撃しうる反応性ラジカル種の発生を触媒し、NF-κB、炎症に関与する遺伝子についての原型転写因子を活性化する(S. Xiong et al., J. Biol. Chem., 2003, 278:17646-17654(非特許文献2))。高レベルにおいて、組織における鉄蓄積は有害である。
【0003】
鉄欠乏または鉄過剰を防ぐために、ほとんどすべての生物体は、鉄摂取および流出を制御するための発達した精巧な機構を有する(C. Finch, Blood, 1994, 84:1697-1702(非特許文献3))。成体哺乳動物において、鉄恒常性は、腸細胞、身体への食事性鉄取り込みおよび運搬を調整する十二指腸の高度に分化した細胞による鉄の制御性吸収に依存している。胎児において、胎盤の母子間鉄運搬に関与する機構もまた厳重に制御されている。鉄は、タンパク質複合体、フェリチンおよびヘモシデリン、の形をとって身体に貯蔵され、タンパク質複合体、トランスフェリンにより血漿へ運搬される。通常の環境下において、ほんの微量の鉄がこれらの生理的シンクの外側に存在するが、貯蔵された鉄が再利用により動員されうる。これらの高度に制御された機構における撹乱は、身体において鉄過剰または鉄欠乏へと導きうる。
【0004】
鉄欠乏は、世界中で最も多く見られる栄養障害である。40〜50億人もの人々(すなわち、世界の人口の65〜80%)が鉄欠乏性でありうる;および20億人の人々(世界の人口の30%を超える、大部分は子どもおよび妊娠可能年齢の女性)が、主として鉄欠乏により、貧血である。発展途上国において、疾患はマラリアおよび寄生虫感染により悪化する。鉄欠乏は、いかなる他の状態よりも多くの人々を冒し、流行性規模の公衆衛生状態を構成する。鉄過剰障害は、有病率はより低い;しかしながら、それらは重篤な生命にかかわる状態へ導きうる。世界中で、北欧人祖先の約2千4百万人の人々が、ヘモクロマトーシスと呼ばれる遺伝的障害を患っている。もう6億人がその障害の原因である遺伝子の1つを有し、非保因者より最高50%多くの鉄を吸収する。その疾患は、特に肝臓および他の貯蔵器官における、鉄蓄積へと導き、器官不全(肝硬変のような)、心臓発作、癌、および膵臓損傷を引き起こしうる。
【0005】
鉄代謝における機能障害は、それらの頻度だけでなく、治療法の選択肢の欠如によっても世界中に大きな問題をもたらしている(N.C. Andrews, N. Engl. J. Med., 1999, 341:1986-1995(非特許文献4))。鉄過剰状態は、一般的に、鉄キレート剤の投与により処置され、それは蓄積された鉄を再動員し、その排出を可能にすることにより効果を発揮する。しかしながら、実際には、今まで評価されているキレート剤のいずれも完全に満足できるものだと判明したわけではなく、弱い消化管吸収、および低い効果、乏しい選択性、または望ましくない副作用のいずれかを欠点として有する。たいていのヘモクロマトーシス患者において鉄レベルを低下させるための好ましい処置は、治療的瀉血、単に身体から血液を除去することからなる手順、と呼ばれている。ヘモクロマトーシスを有する患者は、通常、比較的短い期間に多数の瀉血を必要とする(週に1回または2回まで)。従って、任意の献血に関してと同じ危険性(例えば、悪心、嘔吐、めまい、失神、血腫、発作、または局所性感染)を有することに加えて、瀉血はまた、患者へ大いに抑圧するものでありうる。
【0006】
鉄塩のいくつかの型は鉄欠乏状態を処置するために用いられる。一般的に、身体の鉄貯蔵を補充するのに数ヶ月間の代償治療がかかる。一部の患者は鉄塩を許容するのが困難であり、これらの物質が胃腸障害を引き起こす傾向にあるからである。研究はまた、幼児に与えられる液体鉄塩調製物が歯の永久的着色を引き起こす可能性があることを報告している。しかしながら、より問題なのは、経口または注射により摂取された高用量の鉄サプリメントが細菌感染に対する感受性を増加させうるという所見である。
【0007】
明らかに、鉄代謝障害の予防および処置のための新規な作用物質および方法の開発が大いに望ましいままである。
【0008】
【非特許文献1】P. Aisen et al., J. Biochem. Cell Biol., 2001, 33:940-959
【非特許文献2】S. Xiong et al., J. Biol. Chem., 2003, 278:17646-17654
【非特許文献3】C. Finch, Blood, 1994, 84:1697-1702
【非特許文献4】N.C. Andrews, N. Engl. J. Med., 1999, 341:1986-1995
【発明の開示】
【0009】
発明の概要
本発明は、ヒトを含む哺乳動物において鉄代謝を制御するための改善された系およびストラテジーを提供する。特に、本発明は、鉄欠乏または鉄過剰に関連した状態の処置のための試薬および方法を含む。本発明はまた、鉄代謝障害の処置に有用な化合物の同定のためのスクリーニングツールおよび方法を提供する。鉄補充、鉄キレート化、および瀉血のような現行の治療と比較して、本発明の方法および組成物は、望ましくない副作用を誘導する可能性が高くない。
【0010】
一般的に、本発明は、哺乳動物における鉄代謝の重要なレギュレーターであるヘプシジン(hepcidin)の発現もしくは活性を、調節および/または制御しうるTGF-βスーパーファミリーのメンバーのシグナル伝達活性のモジュレーターの使用を含む。
【0011】
より具体的には、一つの局面において、本発明は、少なくとも1つのTGF-βスーパーファミリーメンバーのシグナル伝達活性を調節する化合物の有効量を被験体に投与することにより被験体においてヘプシジン発現または活性を制御するための方法を提供する。本発明はまた、少なくとも1つのTGF-βスーパーファミリーメンバーのシグナル伝達活性を調節する化合物の有効量と生体系を接触させることにより生体系においてヘプシジン発現または活性を制御するための方法を提供する。特定の態様において、TGF-βスーパーファミリーメンバーはTGF-βまたはBMPである。被験体に投与される、または生体系と接触させられる化合物は、TGF-βのアゴニスト、TGF-βのアンタゴニスト、BMPのアゴニスト、BMPのアンタゴニスト、またはそれらの組み合わせからなる群より選択される作用物質を含みうる。生体系は、細胞、生体液、生体組織、または動物でありうる。
【0012】
特定の態様において、作用物質は、HJV.Fc融合タンパク質、Dragon.Fc融合タンパク質、DLN.Fc融合タンパク質、sTβRII.Fc融合タンパク質、sTβRII-B.Fc融合タンパク質、およびsTβRIIIΔ.Fc融合タンパク質からなる群より選択される。いくつかの態様において、作用物質は、変異型HJV.Fc融合タンパク質、変異型Dragon.Fc融合タンパク質、および変異型DLN.Fc融合タンパク質からなる群より選択される融合タンパク質を含み、変異型融合タンパク質はタンパク分解性切断が不可能である。
【0013】
被験体または生体系においてヘプシジン発現または活性を抑制するための方法において、被験体に投与される、または生体系と接触させられる化合物は、好ましくは、TGF-βのアゴニスト、BMPのアンタゴニスト、またはそれらの組み合わせである。被験体または生体系においてヘプシジン発現または活性を増強するための方法において、被験体に投与される、または生体系と接触させられる化合物は、好ましくは、TGF-βのアンタゴニスト、BMPのアゴニスト、またはそれらの組み合わせである。
【0014】
もう一つの局面において、本発明は、少なくとも1つのTGF-βスーパーファミリーメンバーのシグナル伝達活性を調節する化合物の有効量を被験体に投与する、または生体系と接触させることにより、被験体または生体系において鉄代謝または鉄代謝過程を制御するための方法を提供する。鉄代謝過程は、鉄取り込み、鉄吸収、鉄運搬、鉄貯蔵、鉄プロセッシング、鉄動員、鉄利用、またはそれらの組み合わせでありうる。
【0015】
被験体または生体系が鉄欠乏を示す、または示す危険性がある場合、これらの方法に用いられる化合物は、好ましくは、TGF-βのアゴニスト、BMPのアンタゴニスト、またはそれらの組み合わせである。被験体または生体系が鉄過剰を示す、または示す危険性がある場合、化合物は、好ましくは、TGF-βのアンタゴニスト、BMPのアゴニスト、またはそれらの組み合わせである。
【0016】
さらにもう一つの局面において、本発明は、被験体において鉄代謝における撹乱と関連した状態を処置または予防するための方法を提供する。本発明の方法は、少なくとも1つのTGF-βスーパーファミリーメンバーのシグナル伝達活性を調節する化合物の有効量を被験体に投与する段階を含む。特定の態様において、TGF-βスーパーファミリーメンバーはTGF-βまたはBMPである。いくつかの態様において、化合物の被験体への投与は、結果として、被験体におけるヘプシジン発現または活性の制御を生じる。
【0017】
本発明の方法において投与される化合物は、TGF-βのアゴニスト、TGF-βのアンタゴニスト、BMPのアゴニスト、BMPのアンタゴニスト、またはそれらの組み合わせからなる群より選択される作用物質を含みうる。特定の態様において、作用物質は、HJV.Fc融合タンパク質、Dragon.Fc融合タンパク質、DLN.Fc融合タンパク質、sTβRII.Fc融合タンパク質、sTβRII-B.Fc融合タンパク質、およびsTβRIIIΔ.Fc融合タンパク質からなる群より選択される。いくつかの態様において、作用物質は、変異型HJV.Fc融合タンパク質、変異型Dragon.Fc融合タンパク質、および変異型DLN.Fc融合タンパク質からなる群より選択される融合タンパク質を含み、変異型融合タンパク質はタンパク分解性切断が不可能である。
【0018】
被験体が鉄欠乏と関連した状態を有する、または状態を有する危険性がある場合、これらの方法に用いられる化合物は、好ましくは、BMPのアンタゴニスト、TGF-βのアゴニスト、またはそれらの組み合わせである。本発明の方法により処置および/または予防されうる鉄欠乏と関連した状態は、限定されるわけではないが、慢性疾患の貧血、鉄欠乏性貧血、機能性鉄欠乏、および小球性貧血を含む。特定の態様において、方法は、鉄補充処置を被験体に施す段階をさらに含む。
【0019】
被験体が鉄過剰と関連した状態を有する、または状態を有する危険性がある場合、処置の方法に用いられる化合物は、好ましくは、BMPのアゴニスト、TGF-βのアンタゴニスト、またはそれらの組み合わせである。本発明の方法により処置および/または予防されうる鉄過剰と関連した状態は、限定されるわけではないが、成人性ヘモクロマトーシスおよび若年性ヘモクロマトーシスを含む。特定の態様において、方法は、鉄キレート化処置を被験体に施す段階をさらに含む。いくつかの態様において、方法は被験体への瀉血を行う段階をさらに含む。
【0020】
さらにもう一つの局面において、本発明は、生体系においてヘプシジン発現または活性を制御する化合物を同定するための方法、および生体系において鉄代謝または鉄代謝過程を制御する化合物を同定するための方法を提供する。これらの方法において、生体系は、好ましくは、少なくとも1つのTGF-βスーパーファミリーメンバーを発現する。
【0021】
これらの方法は、生体系を候補化合物と、候補化合物がTGF-βスーパーファミリーメンバーのシグナル伝達活性を調節するのに十分な条件下および時間、インキュベートし、それにより試験系を得る段階;試験系においてTGF-βスーパーファミリーメンバーのシグナル伝達活性を代表する少なくとも1つの因子を測定する段階;候補化合物無しで同じ条件下で同じ時間、系をインキュベートし、それにより対照系を得る段階;対照系において因子を測定する段階;試験系および対照系において測定された因子を比較する段階;ならびに、試験系で測定された因子が対照系で測定された因子より少ないまたは多い場合には、候補化合物が系においてヘプシジン発現または鉄代謝を制御すると決定する段階を含む。
【0022】
特定の態様において、TGF-βスーパーファミリーメンバーはTGF-βまたはBMPであり、レギュレーターであると同定される化合物は、TGF-βのアゴニスト、TGF-βのアンタゴニスト、BMPのアゴニスト、BMPのアンタゴニストからなる群より選択される。いくつかの態様において、作用物質は、変異型HJV.Fc融合タンパク質、変異型Dragon.Fc融合タンパク質、および変異型DLN.Fc融合タンパク質からなる群より選択される融合タンパク質を含み、変異型融合タンパク質はタンパク分解性切断が不可能である。
【0023】
本発明はまた、薬学的に許容される担体、および本発明のスクリーニング方法により同定された、鉄代謝の少なくとも1つのレギュレーターまたはヘプシジン発現もしくは活性の少なくとも1つのレギュレーターの有効量を含む薬学的組成物を提供する。鉄代謝における撹乱と関連した状態の処置または予防においてこれらの同定されたレギュレーターを用いる方法もまた提供される。
【0024】
定義
本明細書中を通して、以下の段落に定義されるいくつかの用語が用いられる。
【0025】
本明細書に用いられる場合、「TGF-βスーパーファミリー」という用語は、TGF-βスーパーファミリーの任意のメンバーを指し、とりわけ、アクチビン、インヒビン、トランスフォーミング増殖因子(Transforming Growth Factor)β(TGF-β)、増殖分化因子(Growth and Differentiation Factor)(GDF)、骨形成タンパク質(Bone Morphogenetic Protein)(BMP)、およびミュラー管抑制物質(Mullerian Inhibiting Substance)(MIS)を含む。本発明の文脈において、特定の好ましいTGF-βスーパーファミリーメンバーは、TGF-βおよびBMPを含む。
【0026】
鉄代謝または鉄代謝過程に適用される場合の「撹乱」という用語は、正常な状態、機能、および/もしくは活性のレベルからの任意の妨害、調節不全、ならびに/または逸脱を指す。鉄代謝過程は、鉄取り込み、鉄吸収、鉄運搬、鉄貯蔵、鉄プロセッシング、鉄動員、および鉄利用を含む。一般的に、鉄代謝における撹乱は、結果として、鉄過剰または鉄欠乏を生じる。本明細書に用いられる場合、「鉄過剰」という用語は、特定の組織または特定の生体系における正常レベルを有意に上回る、被験体の組織または生体系に存在する鉄の量を指す。「鉄欠乏」という用語は、特定の組織または特定の生体系における正常レベルを有意に下回る、被験体の組織または生体系に存在する鉄の量を指す。正常レベルより有意に下回るまたは有意に上回る鉄の量は、生理学的に望ましくない、および/または被験体もしくは生体系に有害である、もしくは有害になる可能性がある、鉄の任意の量に対応する。鉄レベルの測定のための方法は当技術分野において公知である(下記参照)。
【0027】
本明細書に用いられる場合、「鉄代謝または鉄代謝過程の撹乱と関連した状態」という用語は、鉄過剰または鉄欠乏により特徴付けられる任意の疾患、障害、症候群、または状態を指す。
【0028】
「予防」という用語は、鉄代謝における撹乱と関連した病態生理学的状態の発症を遅らせる、または(例えば、その状態の素因をもっている可能性があるが、それに罹っているとまだ診断されていない被験体において)防ぐことに向けられる方法を特徴付けるために本明細書に用いられる。
【0029】
「処置」という用語は、(1)鉄代謝における撹乱と関連した状態の発症を遅らせる、もしくは防ぐこと;または(2)状態の症状の進行、重症化、もしくは悪化を遅らせる、もしくは止めること;または(3)状態の症状の緩解をもたらすこと;または(4)状態を治癒させることに向けられる方法を特徴付けるために本明細書に用いられる。処置は、予防的または防止的行為として疾患の発症前に施されてもよい。それはまた、治療的行為として疾患の開始後施されてもよい。
【0030】
「化合物」および「作用物質」という用語は、本明細書で交換可能に用いられる。それらは、生体高分子(例えば、核酸、ポリペプチド、またはタンパク質)、有機もしくは無機分子、または細菌、植物、真菌、もしくは動物(特に、ヒトを含む哺乳動物)の細胞もしくは組織のような生物学的物質から作製された抽出物のような、任意の天然または非天然(すなわち、合成または組換え)分子を指す。化合物は、単一分子、2つもしくはそれ以上の分子の混合物、または少なくとも2つの分子の複合体でありうる。
【0031】
「候補化合物」という用語は、対象となる活性について試験されることになっている化合物または作用物質(上で定義されたとおり)を指す。本発明の特定のスクリーニング方法において、候補化合物は、TGF-βスーパーファミリーメンバーのシグナル伝達活性の調節を通して、ヘプシジン発現を制御する、および/または鉄代謝を制御する能力について評価される。
【0032】
生物学的現象(鉄代謝、およびヘプシジン発現または活性のような)に適用される場合の「制御」という用語は、生物学的現象の調節を可能にする過程を指す。「制御」という用語はまた、生物学的現象を調節する化合物の能力を指す。例えば、鉄代謝を制御する過程または化合物は、鉄過剰を示す被験体もしくは生体系において鉄レベルを減少させる能力;および/または鉄欠乏を示す被験体もしくは生体系において鉄レベルを増加させる能力を有する。本発明の文脈において、生物学的現象の制御が起こる機構は、好ましくは、TGF-βスーパーファミリーメンバーのシグナル伝達活性の調節を介する。本発明のスクリーニング方法において、候補化合物がヘプシジン発現または活性を制御することが見出された場合、それは、ヘプシジン発現または活性の「レギュレーター」であると同定される。
【0033】
本明細書に用いられる場合、「TGF-βスーパーファミリーメンバーのシグナル伝達活性の調節」という用語は、TGF-βスーパーファミリーメンバーの効果の持続時間を増加もしくは延長させる、または減少もしくは低減させる化合物の能力を指す。本発明のスクリーニング方法において、候補化合物がそのような増強または抑制を誘導することが見出された場合、それは、TGF-βスーパーファミリーメンバーのシグナル伝達活性の「モジュレーター」であると同定される。
【0034】
「アゴニスト」という用語は、当技術分野において認められているように用いられる。一般的に、その用語は、ポリペプチドもしくは核酸の効果の持続時間を増加または延長させる化合物を指す。アゴニストは、直接的アゴニストであってよく、その場合、それはポリペプチドもしくは核酸と相互作用する(例えば結合する)ことによりその効果を発揮する分子であるか、または間接的アゴニストであってよく、その場合、それは、ポリペプチドもしくは核酸との相互作用による以外の機構によって(例えば、ポリペプチドもしくは核酸の発現または安定性を変化させることにより、ポリペプチドもしくは核酸の標的の発現または活性を変化させることにより、ポリペプチドまたは核酸が関与する経路における中間体と相互作用することにより、など)その効果を発揮する。
【0035】
「アンタゴニスト」という用語は、当技術分野において認められているように用いられることを意図される。一般的に、その用語は、ポリペプチドもしくは核酸の効果の持続時間を減少または低減させる化合物を指す。アンタゴニストは、直接的アンタゴニストであることができ、その場合、それはポリペプチドもしくは核酸と相互作用する(例えば結合する)ことによりその効果を発揮する分子である、または間接的アゴニストであることができ、その場合、それは、ポリペプチドもしくは核酸との相互作用による以外の機構によって(例えば、ポリペプチドもしくは核酸の発現または安定性を変化させることにより、ポリペプチドもしくは核酸の標的の発現または活性を変化させることにより、ポリペプチドまたは核酸が関与する経路における中間体と相互作用することにより、など)その効果を発揮する。
【0036】
本明細書に用いられる場合、「有効量」という用語は、意図された目的を果たすのに十分である化合物または作用物質の任意の量を指す。本発明の文脈において、目的は、例えば、以下でありうる:TGF-βスーパーファミリーメンバーのシグナル伝達活性を調節すること;および/またはヘプシジン発現もしくは活性を制御すること;および/または鉄代謝もしくは鉄代謝過程を制御すること;および/または鉄代謝における撹乱と関連した状態の発症を遅らせる、もしくは防ぐこと;および/または状態の症状の進行、重症化、もしくは悪化を遅らせる、もしくは止めること;および/または状態の症状の緩解をもたらすこと;および/または状態を治癒させること。
【0037】
「被験体」という用語は、鉄代謝における撹乱と関連した病態生理学的状態に冒される可能性があるが、そのような状態を有する場合も有しない場合もある、ヒトまたは別の哺乳動物を指す。
【0038】
「系」および「生体系」という用語は、本明細書で交換可能に用いられる。系は、鉄過剰または鉄欠乏を示しうる任意の生物学的実体でありうる。生体系は、好ましくは、少なくとも1つのTGF-βスーパーファミリーメンバーを発現するものである。いくつかの好ましい系はTGF-βおよび/またはBMPを発現する。生体系はまた、好ましくは、ヘプシジンを発現しうる、またはヘプシジンを含みうる。本発明の文脈において、インビトロ、インビボ、およびエクスビボの系が考えられる;および系は、細胞、生体液、生体組織、または動物でありうる。系は、例えば、生きている被験体(例えば、それは血液を採取することにより、または生検により得てもよい)、または死んだ被験体(例えば、それは剖検で得てもよい)が起源であってよい。
【0039】
本明細書に用いられる場合、「生体液」という用語は、被験体により生成される、および被験体から得られる液体を指す。生体液の例は、限定されるわけではないが、尿、血清、および血漿を含む。本発明において、生体液は、精製により、例えば、限外濾過またはクロマトグラフィーにより、引き出されたそのような液体の全画分または任意の画分を含む。本明細書に用いられる場合、「生体組織」という用語は、被験体から得られる組織を指す。生体組織は、身体における任意の器官もしくは系(例えば、肝臓、胃腸管、腎臓、膵臓など)の全体または部分でありうる。
【0040】
「薬学的組成物」は、本発明の少なくとも1つの化合物(すなわち、本発明のスクリーニング方法により鉄代謝のレギュレーター、および/またはヘプシジン発現もしくは活性のレギュレーターであると同定された候補化合物)および少なくとも1つの薬学的に許容される担体を含むと本明細書で定義される。
【0041】
本明細書に用いられる場合、「薬学的に許容される担体」という用語は、活性成分の生物活性の効果に干渉しない、かつそれが投与される濃度で宿主に対して過度に毒性であるということはない担体媒質を指す。その用語は、溶媒、分散媒、コーティング剤、抗細菌剤および抗真菌剤、等張剤、吸収遅延剤などを含む。薬学的活性物質の製剤のためのそのような媒質および剤の使用は当技術分野において周知である(例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences, E.W. Martin, 第18版, 1990, Mack Publishing Co., Easton, PA参照)。
【0042】
特定の好ましい態様の詳細な説明
上で述べられているように、本発明は、哺乳動物において鉄代謝を制御するための改善された系およびストラテジーを提供する。特に、本発明の化合物および方法は、現行の治療より望ましくない副作用を誘導する可能性が低い。
【0043】
I. 鉄代謝のレギュレーターとしてのTGF-βスーパーファミリーメンバーのアゴニストおよびアンタゴニスト
本発明は、TGF-βスーパーファミリーの特定のメンバーが、哺乳動物における鉄代謝の重要なレギュレーターであるヘプシジンの発現を制御することができるという発見を含む。実施例1に記載されているように、本出願人らは、BMP(骨形成タンパク質)シグナル伝達がHepG2肝臓ヘパトーマ細胞においてヘプシジン発現を誘導するが、TGF-β(トランスフォーミング増殖因子-β)シグナル伝達はヘプシジンの発現を抑制することを認識している。さらに、周知のBMPアンタゴニストであるノギンを用いて、出願人らは、BMPシグナル伝達の阻害がヘプシジン発現の低下を生じることを示している。
【0044】
従って、本発明は、TGF-βスーパーファミリーのメンバーのアゴニストおよび/またはアンタゴニストを用いて、ヘプシジン発現または活性を制御し、それが次に鉄代謝を制御する方法を提供する。
【0045】
A. ヘプシジン
ヘプシジンは、ごく最近になってヒト尿および血漿限外濾過液から精製された抗菌性質を有する小さなシステインに富む陽イオン性ペプチドである(C.H. Park et al., J. Biol. Chem., 2001, 276:7806-7810; A. Krause et al., FEBS Lett., 2000, 480:147-150)。アミノ酸末端切り詰めにより異なる、20個、22個、または25個のアミノ酸のこのペプチドは、はしご型様式で4つのジスルフィド架橋により連結された2つのアームを有する短いヘアピンを形成する。ヘプシジンは、種間で保存されている8個のシステイン残基を含む(G. Nicolas et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 2001, 98:878-885; C. Pigeon et al., J. Biol. Chem., 2001, 276:7811-7819)。ペプチドは最初、尿および血液から単離されたが、ヘプシジンはマウスおよびヒトの両方において肝臓で大部分は発現する。発現はまた、心臓および脳で検出可能であるが、非常に低い程度である(C.H. Park et al., 2001; C. Pigeon et al., 2001)。最近、ヘプシジンはまた、腎臓で発現していることが見出されている(H. Kulaksiz et al., J. Endocrinol., 2005, 184:361-370)。
【0046】
ヒトにおいてその遺伝子の1個のコピーのみが存在するが、マウスにおいては2個のヘプシジン遺伝子(Hepc1およびHepc2)が報告されている(G. Nicolas et al., Proc. Natl., Acad. Sci. USA, 2001, 98:878-885; C. Pigeon et al., J. Biol. Chem., 2001, 276:7811-7819)。ヒトおよびマウスの両方のヘプシジン遺伝子は、3つのエクソンおよび2つのイントロンからなり、第三エクソンは尿に見出される成熟ペプチドをコードしている。ヒトおよびラットにおいて、エクソンは、推定上の24アミノ酸のシグナルペプチドを含む84(マウスにおいて83)アミノ酸の前駆体をコードする。
【0047】
ヘプシジンと鉄代謝の間の関係は、最初、Pigeon et al.(J. Biol. Chem., 2001, 276:7811-7819)により、鉄過剰に対する肝臓応答を研究中に見出された。他の研究は、ヘプシジンmRNAを欠損するマウスが、肝臓および膵臓を冒す鉄過剰を、マクロファージに富む脾臓における欠乏と共に起こしたことを示している(G. Nicolas et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 2001, 98:8780-8785)。ヘプシジンを過剰発現するトランスジェニックマウスは、生まれた時に重度の鉄欠乏で死んだことが観察された(G. Nicolas et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 2002, 99:4596-4601)。これらの研究は、ヘプシジンが、小腸における鉄吸収、マクロファージからの再循環される鉄の放出(R.E. Fleming and W.S. Sly, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 2001, 98:8160-8162)、および胎盤を通しての鉄の運搬(G. Nicolas et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 2002, 99:4596-4601)を抑制することを示唆した。動物研究に一致して、大きな肝細胞腺腫およびそうでなければ原因不明の鉄不応性貧血を有する患者は、肝臓においてヘプシジンmRNAの過剰発現を示す(D.A. Weinstein et al., Blood, 2002, 100:3776-3781)。最近の研究は、ヘモクロマトーシス遺伝子(HFE)関連ヘモクロマトーシスにおける異常なヘプシジン発現および乱されたヘプシジン制御(K.R. Bridle et al., Lancet, 2003, 361:669-673; H. Kulaksiz et al., Gut, 2004, 53:735-743)、ならびにヘプシジン変異の重症若年性ヘモクロマトーシスとの関連(A. Roetto et al., Nature Genetics, 2003, 33:21-22)を見出している。これらおよび他の観察に基づいて、ヘプシジンが鉄代謝の負のレギュレーターとして働く鉄恒常性の重要な成分であることを示唆している。
【0048】
B. TGF-βスーパーファミリーメンバー
リガンドのTGF-βスーパーファミリーは、現在、30より多いメンバーを含み、とりわけ、アクチビン、インヒビン、トランスフォーミング増殖因子-β(TGF-β)、増殖分化因子(GDF)、骨形成タンパク質(BMP)、およびミュラー管抑制物質(MIS)を含む。これらの分子のすべては、TGF-βと構造的に関連しているペプチド増殖因子である。それらはすべて、剛構造に組織化されている7個の特に保存されたシステイン残基により構成される、システインノットと呼ばれる共通のモチーフを共有する(J. Massague, Annu. Rev. Biochem., 1998, 67:753-791)。古典的なホルモンと違い、TGF-βスーパーファミリーのメンバーは、効果が増殖因子自身と同じくらい標的細胞の型および時期に依存する多機能性タンパク質である。
【0049】
本発明の方法の実施における使用に適したTGF-βスーパーファミリーメンバーは、シグナル伝達活性がヘプシジンの発現または活性を制御することができるTGF-βスーパーファミリーの任意のメンバーを含む。好ましいTGF-βスーパーファミリーメンバーは、限定されるわけではないが、TGF-βおよびBMPを含む。
【0050】
トランスフォーミング増殖因子-β(TGF-β)
本発明の特定の態様において、TGF-βスーパーファミリーメンバーはTGF-βである。TGF-βは、広範囲の生物学的過程に関与し(J. Massague, Ann. Rev. Cell. Biol., 1990, 6:597-641)、胚形成、成体組織修復、および免疫抑制中の重要事象において中心的役割を果たす細胞外ポリペプチドである(M.B. Sporn and A.B. Roberts, J. Cell. Biol. 1992, 119:1017-1021; S.W. Wahl, J. Clin. Immunol. 1992, 12:61-74; D.M. Kingsley, Genes Dev. 1994, 8:133-146)。哺乳動物において、TGF-βは生物体のほとんどすべての細胞により産生され、ほとんどすべての細胞はその効果の標的としての役割を果たすことができる。TGF-βは、細胞増殖、細胞分化、アポトーシス、および細胞外マトリックス産生の強力なレギュレーターである。
【0051】
哺乳動物細胞は、TGF-βの3つの異なるアイソフォーム:TGF-β1、TGF-β2、およびTGF-β3を産生できる。これらのアイソフォームは同じ基本構造を示し(それらは、鎖内および鎖間のジスルフィド結合により安定化される112アミノ酸のホモ二量体である)、それらのアミノ酸配列は高度の相同性(>70%)を示す。しかしながら、各アイソフォームは、別々の遺伝子によりコードされ、それぞれが、組織特異的な、および発生学的に制御された、両方の様式で発現する(J. Massague, Annu. Rev. Biochem. 1998, 67:753-791)。最新の概念によれば、TGF-βは、最初に標的細胞上の膜受容体に結合し、それにより下流シグナル伝達事象を惹起することによりその効果を発揮する。架橋結合研究は、TGF-βが主に、I型、II型、およびIII型のTGF-β受容体と呼ばれる3つの高親和性細胞表面タンパク質に結合することを示している(J. Massague and B. Like, J. Biol. Chem. 1985, 260:2636-2645; S. Cheifetz et al., J. Biol. Chem. 1986, 261:9972-9978)。
【0052】
本発明の方法による鉄代謝の制御は、抑制または増強が結果としてヘプシジン発現または活性の制御を生じる限り、TGF-βのアイソフォーム(すなわち、TGF-β1、TGF-β2、およびTGF-β3)のいずれか1つのシグナル伝達活性の抑制または増強により達成されうる。
【0053】
骨形成タンパク質(BMP)
本発明の他の態様において、TGF-βスーパーファミリーメンバーはBMPである。BMPはもともとは、異所性(すなわち、非骨格)部位で骨形成を誘導するタンパク質であると同定された(A.H. Reddi, Curr. Opin. Genet. Dev., 1994, 4:737-744)。しかしながら、骨および軟骨形態形成におけるそれらの役割に加えて、BMPはまた、目、心臓、血液、肺、腎臓、筋肉、皮膚、および他の組織の生前発育ならびに生後の成長および/または修復に関与している(K.A. Waite and C. Eng, Nat. Rev. Genet., 2003, 4:763-773)。研究は、BMPが、間葉細胞、上皮細胞、造血細胞、および神経細胞を含む様々な細胞型の増殖、アポトーシス、分化、および走化性を制御するにおいて重要な役割を果たすことを示している。(J. Massague and Y.G. Chen, Genes Dev., 2000, 14:627-644; K. Miyazono et al., J. Cell Physiol., 2001, 187:265-276: N. Morrell et al., Circulation, 2001, 104:790-795; A. von Budnoff and K.W.Y. Cho, Dev. Biol., 2001, 239:1-14)。
【0054】
TGF-βスーパーファミリーの他のメンバーと類似した様式で、BMPは、膜貫通セリン/トレオニンキナーゼ受容体の2つの異なる型:I型およびII型の複合体を形成することによりそれらの効果を媒介する(C.H. Heldin et al., Nature, 1997, 390:465-471; J. Newman et al., N. Engl. J. Med., 2001, 345:319-324; B.L. Rosenzweig et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 1995, 92:7632-7636)。3つの異なるBMP I型受容体(アクチビン受容体様キナーゼALK2、ALK3、およびALK6)および3つのBMP II型受容体(BMP II型受容体(BMPRII);アクチビンIIA型受容体(ActRIIA);およびアクチビンIIB型受容体(ActRIIB))が同定されている(L. Attisano and J.L. Wrana, Science, 2002, 296:1646-1647)。BMP結合は、細胞質受容体活性化Smadのリン酸化へと導く、I型受容体のII型受容体によるリン酸化を誘導する(C.H. Heldin et al., Nature, 1997, 390:465-471)。
【0055】
今まで、20個近くのBMPアイソフォームが哺乳動物において同定かつ特徴付けられており、より新しいものが発見されつつある(M. Kawabata et al., Cytokine Growth Factor Rev., 1998, 9:49-61)。BMPファミリーメンバーは、それらがお互いに構造的にどれくらい密接に関連しているかによりサブグループに分類されている(T. Sakou, Bone, 1998, 22:591-603; R.G. Schaub and J. Wozney, Curr. Opin. Biotechnol., 1991, 2:868-871; J.M. Schmitt et al., J. Orthop. Res., 1999, 17:269-278)。インビボで、BMPアイソフォームは、発現の異なるプロファイル、受容体に対する異なる親和性、およびそれゆえに、固有の生物活性を有する。
【0056】
本発明の方法による鉄代謝の制御は、抑制または増強が結果としてヘプシジン発現または活性の制御を生じる限り、BMPのアイソフォームのいずれか1つのシグナル伝達活性の抑制または増強により達成されうる。
【0057】
C. TGF-βスーパーファミリーメンバーのアゴニストおよびアンタゴニスト
本発明の方法における使用に適したTGF-βスーパーファミリーメンバーのアゴニストおよびアンタゴニストは、調節が結果としてヘプシジン発現または活性の制御を生じるように、TGF-βスーパーファミリーメンバーのシグナル伝達活性を調節する(すなわち、増強する、または抑制する)能力を有する任意の化合物または作用物質を含む。
【0058】
適したアゴニストおよびアンタゴニストは、TGF-βスーパーファミリーメンバーの天然のアゴニストおよびアンタゴニスト(天然のアゴニストおよびアンタゴニストリガンドの生物学的特徴を保持するそれらの断片ならびに変種を含む)を含む。適したアゴニストおよびアンタゴニストはまた、合成またはヒト組換え化合物を含む。アゴニストとして機能することができる分子のクラスは、限定されるわけではないが、小分子、抗体(Fab断片、Fab'2断片、およびscFvのようなそれらの断片または変種を含む)、およびペプチド模倣体を含む。アンタゴニストとして機能することができる分子のクラスは、限定されるわけではないが、小分子、抗体(それらの断片または変種を含む)、融合タンパク質、アンチセンス、ポリヌクレオチド、リボザイム、低分子干渉RNA(sRNAi)、およびペプチド模倣体を含む。
【0059】
当業者により認識されているように、例えば、本発明のスクリーニングアッセイ(下記)により、TGF-βスーパーファミリーメンバーのモジュレーターであると同定される任意の化合物または作用物質は、本発明の方法の実施における使用に適している。特に、高特異性を示す小分子モジュレーターはこれらの方法において価値がありうる。
【0060】
BMPのアゴニストおよびアンタゴニスト
BMPの様々なアンタゴニストは当技術分野において公知である(例えば、それぞれその全体が参照により本明細書に組み入れられている、G.J. Thomsen et al., Trends Genet., 1997, 13:209-211; E. Canalis et al., Endocr. Rev. 2003, 24:218-235; V.A. Botchkarev, J. Invest. Dermatol., 2003, 120:36-47;米国特許第6,432,410号参照)。特に、BMPの効果は、BMPを結合し、それによりそれらの特異的な細胞表面受容体への結合を排除することによりBMPシグナル伝達を妨げる1群の分泌ポリペプチドにより調節されうる。本発明の実施における使用に適したBMPアンタゴニストは、限定されるわけではないが、ノギン、コーディン、ベントロプチン(ventroptin)、フォリスタチン、およびフォリスタチン関連遺伝子(FLRG)を含む。他の適したBMPアンタゴニストは、集合的にDANファミリーと名付けられている、セルベルス(cerberus)、グレムリン(gremlin)、カロンテ(caronte)、DAN、Dante、およびスクレロスチン(sclerostin)、ならびに他の構造的に関連したタンパク質を含む(その全体が参照により本明細書に組み入れられている、D. Hsu et al., Mol. Cell, 1998, 1:673-683)。DANファミリーのタンパク質は、TGF-β様因子を含む他の増殖因子にも見出されている、保存されたシステインノットモチーフを有する(J.J. Pearce et al., Dev. Biol., 1999, 209:98-110; C.R. Rodrigez Esteban et al., Nature, 1999, 401:243-251)。しかしながら、他のBMPアンタゴニストは、お互いとの配列類似性を欠く。インビボで、これらのBMPアンタゴニストは、別個の発現プロファイル、様々なBMPアイソフォームに対する異なる親和性を有し、異なる生物学的応答を制御する。
【0061】
本発明はまた、他のBMPアンタゴニストを提供する。実施例2に報告されているように、ヘモジュベリン(HJV)は、タンパク質の反発性誘導分子(repulsive guidance molecule)(RGM)ファミリーのメンバーである。HJV変異を有する個体は、ヘプシジンのレベルの低下を示すことが知られている。本出願人らは、HJVがBMPを増強するが、TGF-βシグナル伝達を増強しないことを示している。彼らが得た結果は、HJVがBMP-2へ直接的に結合すること、およびHJVのBMPシグナル伝達への増強効果がノギンの投与により低下することを実証しており、HJVの作用がリガンド依存性であることを示している。従って、可溶性HJV.Fc融合タンパク質のファミリーは、本発明の実施における使用に適したBMPアンタゴニストとして本明細書に提供される。
【0062】
本出願人らは近年、発達中の神経系において初期に発現する、RGMファミリーの436アミノ酸のグリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)アンカー型メンバーであるDRAGONは、BMPを増強するが、TGF-βシグナル伝達を増強せず、BMP補助受容体として作用することを報告した(その全体が参照により本明細書に組み入れられている、T.A. Samad et al., 「DRAGON: a bone morphogenetic protein co-receptor」, J. Biol. Chem.,, 2005, 280:14122-14129)。従って、本発明は、本発明の方法における使用に適したBMPアンタゴニストとして可溶性DRAGON.Fc融合タンパク質のファミリーを提供する。本発明の実施で用いられうるDRAGON.Fc融合タンパク質の例は、本出願人らにより記載されている(その全体が参照により本明細書に組み入れられている、T.A. Samad et al., 「DRAGON: A member of the repulsive guidance molecule-related family of neuronal- and muscle-expressed membrane proteins is regulated by DRG11 and has neuronal adhesive properties」, J. Neuroscience, 2004, 24:2027-2036)。可溶性DRAGON.Fc融合タンパク質は、BMP-2およびBMP-4へ選択的に結合するが、BMP-7またはリガンドのTGF-βスーパーファミリーの他のメンバーに結合しないことが見出されている(T.A. Samad et al., J. Biol. Chem., 2005, 280:14122-14129)。
【0063】
本発明の実施における使用に適したBMPアンタゴニストとしてRGMa.Fc(またはDLN.Fc)融合タンパク質のファミリーもまた本明細書に提供される。DRAGONと同様に、RGMaは遺伝子の反発性誘導分子(RGM)ファミリーのメンバーである。RGMaおよびDRAGONは中枢神経系において相補的様式で発現しており、RGMaは反発的軸索誘導および神経管閉鎖を媒介し、一方、DRAGONは同種親和性相互作用を通して神経細胞接着に寄与する。本出願人らは、RGMaが細胞培養においてリガンド依存性様式でBMPシグナルを増強するが、TGF-βシグナルを増強しないこと、ならびにヒトFc(RGMa.FcまたはDLN.Fc)に融合したRGMaの可溶性細胞外ドメインがBMP 1型受容体と複合体を形成し、放射標識されたBMP-2およびBMP-4へ直接的かつ選択的に結合することを示している(その全体が参照により本明細書に組み入れられている、J.L. Babitt et al., 「Repulsive guidance molecule (RGMa), a DRAGON homologue, is a bone morphogenetic protein co-receptor」, J. Biol. Chem., 2005, 280:29820-29827)。
【0064】
本発明はまた、変異型HJV、RGMa、およびDRAGON融合タンパク質を提供する。特に、対応する野生型バージョンよりタンパク分解性切断に対して安定している、変異型HJV、RGMa、およびDRAGON融合タンパク質が提供される。HJV、RMGa、およびDRAGONがコンセンサスタンパク分解性切断部位を共有することは、当技術分野において公知である。ヒトHJVについて、切断部位はアスパラギン酸残基172位の後に(その全体が参照により本明細書に組み入れられている、G. Papanikolaou et al., Nature Genetics, 2004, 36:77-82);ヒトDRAGONについて、アスパラギン酸残基168位の後に(その全体が参照により本明細書に組み入れられている、T.A. Samad et al., J. Neuroscience, 24:2027-2036);およびヒトRGMaについて、アスパラギン酸残基168位の後(Genbank配列# NM 020211)に、位置している。
【0065】
本発明の変異型HJV、RGMa、およびDRAGON融合タンパク質は、融合タンパク質へ安定性、特にタンパク分解性切断に対する安定性を与える、1つの変異、または複数の変異を含む。例えば、切断部位に近接して位置するアスパラギン酸残基は、異なる残基に置換されうる、または除去されうる。代わりとして、または追加として、切断部位の近くの残基が、異なる残基に置換されうる、または除去されうる。変種を提供するために単離されたポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列の特定の部分において特異的変異を可能にする方法は、当技術分野において公知である。本出願人らは、タンパク分解性に切断されない変異型HJV、RGMa、およびDRAGONタンパク質を産生する可能性を、実施例4に報告されているように、実証している。
【0066】
TGF-βのアゴニストおよびアンタゴニスト
TGF-βシグナル伝達を増強または抑制する複数の天然のモジュレーターが同定されている。TGF-βリガンドの受容体へのアクセスは、リガンドを結合して隔離する可溶性タンパク質LAP、デコリン、およびα2-マクログロブリンにより阻害される(W. Balemans and W. Van Hul, Dev. Biol., 2002, 250:231-250)。TGF-βリガンドの受容体へのアクセスはまた、膜結合型受容体により調節される。BAMBIはI型受容体と競合するデコイ受容体として働く(D. Onichtchouk et al., Nature, 1999, 401:480-485);β-グリカン(TGF-β II型受容体)はTGF-βのII型受容体への結合を増強する(C.B. Brown et al., Science, 1999, 283:2080-2082; J. Massague, Annu. Rev. Biochem., 1998, 67:735-791; E. del Re et al., J. Biol. Chem., 2004, 279:22765-22772);およびエンドグリンは内皮細胞においてTGF-βのALK1への結合を増強する(D.A. Marchuk, Curr. Opin. Hematol., 1998, 5:332-338; J. Massague, Nat. Rev. Mol. Cell Biol., 200, 1:169-178; Y. Shi and J. Massague, Cell, 2003, 113:685-700)。クリプト(cripto)、EGF-CFC GPIアンカー型膜タンパク質はTGF-βリガンド、ノーダル(nodal)、Vg1、およびGDF1のアクチビン受容体への結合を増加させる補助受容体として働くが(S.K. Cheng et al., Genes Dev., 2003, 17:31-36; M.M. Shen and A.F. Schier, Trends Genet., 2000, 16:303-309)、同時にアクチビンシグナル伝達を遮断する。
【0067】
従って、本発明の実施における使用に適したTGF-βシグナル伝達のアゴニストおよびアンタゴニストは、天然のTGF-βアンタゴニスト(例えば、デコリン、例えば、その全体が参照により本明細書に組み入れられている、Y. Yamaguchi et al., Nature, 1990, 346:281-284参照);天然のTGF-βアゴニストの可溶型(例えば、エンドグリンの可溶型、例えば、それぞれその全体が参照により本明細書に組み入れられている、米国特許第5,719,120号;第5,830,847号;および第6,015,693号参照);および天然のTGF-βアンタゴニストのインヒビターを含む。
【0068】
他の適したTGF-βアンタゴニストは、治療目的としてTGF-βの望ましくない効果を抑制するために開発されているアンタゴニストを含む。例えば、解離定数がナノモル範囲であると報告されている抗TGF-β抗体が記載されている(その全体が参照により本明細書に組み入れられている、米国特許第5,571,714号)。これらの抗TGF-β抗体は、多様な病理学的状態を有する動物へ投与することに成功している(W.A. Broder et al., Nature, 1990, 346:371-374; S.W. Wahl, J. Clin. Immunol. 1992, 12:61-74; M. Shah et al., Lancet, 1992, 339:213-214; M.S. Steiner and E.R. Barrack, Mol. Endocrinol. 1992, 6:15-25; F.N. Ziyadeh et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 2000, 97:8015-8020)。
【0069】
他のTGF-βインヒビターはインビトロ研究に基づいて開発されており、切り詰められたTGF-β II型受容体のアデノウイルス媒介型移入が多様なTGF-βシグナル伝達を完全にかつ特異的に消失させることを示した(その全体が参照により本明細書に組み入れられている、H. Yamamoto et al., J. Biol. Chem. 1996, 271:16253-16259)。これらの切り詰められた受容体のいくつかは、ドミナントネガティブ変異体として働くことによりそれらのリガンドに対する強力なアンタゴニスト活性を有する(その全体が参照により本明細書に組み入れられている、A. Bandyopadhyay et al., Cancer Res. 1999, 59:5041-5046; Z. Qi et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 1999, 96:2345-2349; T. Nakamura et al., Hepatol. 2000, 32:247-255)。
【0070】
TGF-β II型受容体(その全体が参照により本明細書に組み入れられている、Sakamoto et al., Gene Ther. 2000, 7:1915-1924; H. Ueno et al., Gene Ther. 2000, 11:33-42; J. George et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 1999, 96:12719-12724)およびIII型受容体(その全体が参照により本明細書に組み入れられている、本出願人らのPCT出願第PCT/US2004/014175号)の可溶型はまた、融合タンパク質として産生されており、動物モデルにおいてTGF-β関連病態生理学的状態を予防または処置するために用いることに成功している。
【0071】
II. 鉄代謝のレギュレーターの同定
もう一つの局面において、本発明は、TGF-βスーパーファミリーメンバーのシグナル伝達活性を調節することにより鉄代謝を制御する化合物の同定のための方法を提供する。本発明はまた、TGF-βスーパーファミリーメンバーのシグナル伝達活性を調節することによりヘプシジン発現または活性を制御する化合物の同定のための方法を提供する。
【0072】
好ましくは、これらの方法は、少なくとも1つのTGF-βスーパーファミリーメンバーを発現する生体系を候補化合物と、候補化合物がTGF-βスーパーファミリーメンバーのシグナル伝達活性を調節するのに十分な条件下および時間、インキュベートし、それにより試験系を得る段階;候補化合物無しで同じ条件下で同じ時間、生体系をインキュベートし、それにより対照系を得る段階;試験系においてTGF-βスーパーファミリーメンバーのシグナル伝達活性を代表する少なくとも1つの因子を測定する段階;対照系において因子を測定する段階;試験系および対照系において測定された因子を比較する段階;ならびに、試験系で測定された因子が対照系で測定された因子より少ないまたは多い場合には、候補化合物がヘプシジン発現を制御する(および/または鉄代謝を制御する)と決定する段階を含む。
【0073】
本明細書に提供されたスクリーニング方法は、1つまたは複数のTGF-βスーパーファミリーメンバーのシグナル伝達活性を調節することによりそれらの効果を発揮する鉄代謝のレギュレーターおよびヘプシジン発現または活性のレギュレーターの発見ならびに開発へと導く。これらのレギュレーターは、鉄代謝における撹乱と関連した状態の処置において有用である可能性がある。
【0074】
A. 生体系
本発明のアッセイおよびスクリーニング方法は、任意の型の生体系、すなわち、細胞、生体液、生体組織、または動物を用いて行われうる。特定の態様において、系は、鉄欠乏もしくは鉄過剰を示すことができる生物学的実体(例えば、動物モデル、血液試料、または器官、例えば肝臓、の全体または部分);および/または少なくとも1つのTGF-βファミリーメンバーを発現する生物学的実体(例えば、細胞);および/またはヘプシジンを発現する(例えば、肝細胞)、もしくはヘプシジンを含む(例えば、血液または尿試料)生物学的実体である。
【0075】
特定の態様において、本発明のアッセイおよびスクリーニング方法は、標準組織培養プラスチック製器において増殖されうる細胞を用いて行われる。そのような細胞は、任意の認められている源由来のすべての正常および形質転換された細胞を含む。好ましくは、細胞は哺乳動物(ヒト、または齧歯類もしくはサルのような動物)起源である。より好ましくは、細胞はヒト起源である。哺乳動物細胞は、任意の器官(例えば、脳、肝臓、血液、または腎臓)または組織起源で、かつ任意の細胞型でありうる。適した細胞型は、限定されるわけではないが、上皮細胞、血小板、リンパ球、単球、筋細胞、マクロファージ、肝細胞、心筋細胞、内皮細胞、腫瘍細胞などを含む。
【0076】
本発明のアッセイおよびスクリーニング方法の実施において用いられうる細胞は、一次細胞、二次細胞、または不死化細胞(例えば、樹立細胞系)でありうる。それらは、当技術分野において周知の技術により調製されうる、または免疫学的および微生物学的な商業用供給源から(例えば、American Type Culture Collection, Manassas, VAから)購入されうる。代わりとして、または追加として、細胞は、例えば、増殖因子または受容体を発現する遺伝子のような対象となる遺伝子を含むように遺伝子操作されうる。
【0077】
本発明に従ってアッセイを行うための特定の細胞型および/または細胞系の選択は、シグナル伝達活性が調節されることになっているTGF-βスーパーファミリーメンバーの性質およびアッセイの意図される目的のようないくつかの因子により支配される。例えば、一次薬物スクリーニング(すなわち、スクリーニングの最初のラウンド)のために開発されたアッセイは、好ましくは、市販されており、かつ通常、増殖させるのが比較的容易である樹立細胞系を用いて行われうるが、薬物開発過程において後で用いられうるアッセイは、好ましくは、しばしば、獲得する、維持する、および/または増殖させるのが不死化細胞より困難であるが、インビボ状況としてより良い実験モデルを表す一次または二次細胞を用いて行われうる。
【0078】
本発明のアッセイおよびスクリーニング方法の実施において用いられうる樹立細胞系の例は、HepG2肝臓ヘパトーマ細胞、Hep3B肝臓ヘパトーマ細胞、一次肝細胞、および不死化肝細胞を含む。本発明のスクリーニング方法に用いられうる一次および二次細胞は、限定されるわけではないが、上皮細胞、血小板、リンパ球、単球、筋細胞、マクロファージ、肝細胞、心筋細胞、内皮細胞、および腫瘍細胞を含む。
【0079】
本発明のアッセイに用いられうる細胞は、標準細胞培養技術により培養されてもよい。例えば、細胞を、しばしば、加湿された95%空気-5%CO2雰囲気を含むインキュベーターにおいて37℃、無菌環境下、適した容器で増殖させる。容器は撹拌培養または静置培養を含みうる。ウシ胎児血清のような未定義の生体液を含む培地を含む、様々な細胞培地が用いられうる。細胞培養技術は当技術分野において周知であり、多様な細胞型の培養について確立されたプロトコールが利用できる(例えば、R.I. Freshney, 「Culture of Animal Cells: A Manual of Basic Technique」, 第2版, 1987, Alan R. Liss, Inc.参照)。
【0080】
特定の態様において、スクリーニング方法は、マルチウェルアッセイプレートの複数のウェルに含まれる細胞を用いて行われる。そのようなアッセイプレートは、例えば、Stratagene Corp. (La Jolla, CA)およびCorning Inc. (Acton, MA)から、市販されており、例えば、48ウェル、96ウェル、384ウェル、および1536ウェルプレートを含む。
【0081】
B. 候補化合物
当業者により認識されているように、どんな種類の化合物または作用物質でも本発明の方法を用いて試験されうる。候補化合物は合成または天然の化合物でありうる;それは単一分子、または異なる分子の混合物もしくは複合体でありうる。特定の態様において、本発明の方法は、1つまたは複数の化合物を試験するために用いられる。他の態様において、本発明の方法は、化合物の収集物またはライブラリーをスクリーニングするために用いられる。本明細書に用いられる場合、「収集物」という用語は、化合物、分子、または作用物質の任意のセットを指し、一方、「ライブラリー」という用語は、構造的類似体である化合物、分子、または作用物質の任意のセットを指す。
【0082】
新規かつ有用な薬物候補の同定および特徴付けへの伝統的なアプローチは、一般的に、化合物の大きな収集物および/またはライブラリーの作製、続いて、既知または未知の標的に対して試験することを含む(例えば、WO 94/24314; WO 95/12608; M.A. Gallop et al., J. Med. Chem. 1994, 37:1233-1251;およびE.M. Gordon et al., J. Med. Chem. 1994, 37:1385-1401参照)。天然産物および化学化合物の両方が本発明の方法により試験されうる。天然産物収集物は、一般的に、微生物、動物、植物、または海洋生物に由来する;それらは、ポリケチド、非リボソームペプチド、および/またはそれらの変種を含む(概説として、例えば、D.E. Cane et al., Science, 1998, 82:63-68参照)。化学ライブラリーは、しばしば、天然産物スクリーニングによりヒットまたはリードとして同定される既知の化合物の構造的類似体からなる。化学ライブラリーは、伝統的な自動化合成、PCR、クローニング、または所有権をもった合成方法により調製するのが比較的容易である(例えば、S.H. DeWitt et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 1993, 90:6909-6913; R.N. Zuckermann et al., J. Med. Chem. 1994, 37:2678-2685; Carell et al., Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 1994, 33:2059-2060; P.L. Myers, Curr. Opin. Biotechnbol. 1997, 8:701-707参照)。
【0083】
細菌、真菌、植物、および動物の抽出物の形をとる天然化合物の収集物は、例えば、Pan Laboratories (Bothell, WA)またはMycoSearch (Durham, NC)から入手できる。本発明の方法を用いてスクリーニングされうる候補化合物のライブラリーは、調製されうるか、またはいくつかの会社から購入されうる。合成化合物ライブラリーは、例えば、Comgenex (Princeton, NJ)、Brandon Associates (Merrimack, NH)、Microsource (New Milford, CT)、およびAldrich (Milwaukee, WI)から、市販されている。候補化合物のライブラリーはまた、例えば、Merck、Glaxo Welcome、Bristol-Meyers-Squibb、Novartis、Monsanto/Searle、およびPharmacia UpJohnを含む大きな化学会社により開発され、市販されている。加えて、天然収集物、合成によって作製されたライブラリーおよび化合物は、通常の化学的、物理的、および生化学的手段を通して容易に修飾される。
【0084】
鉄代謝の、およびヘプシジン発現の有用なレギュレーターは、複素環、ペプチド、糖類、ステロイドなどを含む多数の化学物質群内に見出されうる。特定の態様において、本発明のスクリーニング方法は、小分子である化合物または作用物質(すなわち、分子量<600〜700を有する化合物または作用物質)を同定するために用いられる。
【0085】
本発明の方法によるライブラリーのスクリーニングは、「ヒット」または「リード」、すなわち、所望の生物活性であるが、最適化されていない生物活性を有する化合物を提供する。有用な薬物候補の開発における次の段階は、通常、ヒット化合物の化学構造とその生物学的または薬理学的活性の間の関係の分析である。分子構造および生物活性は、定義された生物学的評価項目に関する体系的構造改変の結果を観察することにより相互に関連づけられる。スクリーニングの最初のラウンドから入手できる構造-活性の関係情報はその後、より高い親和性を有する化合物についてその次にスクリーニングされる小さな二次ライブラリーを作製するために用いられうる。臨床有用性に必要とされる、立体電子的、物理化学的、薬物動態学的、および毒物学的因子を満たすために生物活性化合物の合成的改変を行う過程は、リード最適化と呼ばれる。
【0086】
本発明のスクリーニング方法により同定された候補化合物は、同様に、構造-活性の関係分析に供せられ、改善された薬物候補を提供するために化学修飾されうる。本発明はまた、これらの改善された薬物候補を含む。
【0087】
C. 鉄代謝のレギュレーターおよびヘプシジン発現のレギュレーターの同定
本発明のスクリーニング方法に従って、鉄代謝を制御する、またはヘプシジン発現を制御する候補化合物の能力の決定は、試験系および対照系において測定されたTGF-βスーパーファミリーメンバーのシグナル伝達活性を代表する少なくとも1つの因子の比較を含む。
【0088】
本発明のスクリーニング方法において、候補化合物は、試験系において測定された因子が対照系において測定された因子より少ないまたは多い場合には、ヘプシジン発現もしくは活性のレギュレーター、および/または鉄代謝のレギュレーターであると同定される。より具体的には、候補化合物がTGF-βのアゴニスト、またはBMPのアンタゴニストであることが見出された場合には、それは、ヘプシジン発現もしくは活性のインヒビター、および/または鉄代謝のエンハンサーであると同定される。または、候補化合物がTGF-βのアンタゴニスト、またはBMPのアゴニストであることが見出された場合には、それは、ヘプシジン発現もしくは活性のエンハンサー、および/または鉄代謝のインヒビターであると同定される。
【0089】
TGF-βスーパーファミリーメンバーのシグナル伝達活性を代表する因子は、レポーターアッセイシグナル伝達、および標的遺伝子発現(例えば、細胞外マトリックスタンパク質遺伝子)を含む。TGF-βスーパーファミリーメンバーのシグナル伝達活性を代表する他の因子は、Smadリン酸化、リン酸化されたSmadタンパク質の核への移行、および細胞増殖速度における変化を含む。特定の態様において、本発明のスクリーニング方法において測定される因子は、系に存在する鉄の量である。他の態様において、測定される因子は、系におけるヘプシジンmRNAのレベルである。さらに他の態様において、測定される因子は系におけるヘプシジン/アクチン比である。
【0090】
本発明のスクリーニング方法において得られた結果の再現性は、同じ候補化合物の同じ濃度で1回より多く分析を行うことにより(例えば、アッセイプレートの1個より多いウェルにおいて細胞をインキュベートすることにより)試験されうる。追加として、候補化合物は、化合物の性質およびその作用機構の性質に依存して様々な濃度で有効でありうるため、候補化合物の様々な濃度が試験されうる(例えば、異なる濃度が、細胞を含む異なるウェルへ添加されうる)。一般的に、1fMから約10mMまでの候補化合物濃度がスクリーニングに用いられる。好ましいスクリーニング濃度は一般的に、約10pMと約100μMの間である。
【0091】
特定の態様において、本発明の方法はさらに、1つもしくは複数の陰性および/または陽性対照化合物の使用を含む。陽性対照化合物は、スクリーニングアッセイにおいて研究されるTGF-βスーパーファミリーメンバーのシグナル伝達活性を調節することが知られている任意の分子または作用物質でありうる。陰性対照化合物は、スクリーニングアッセイにおいて研究されるTGF-βスーパーファミリーメンバーのシグナル伝達活性に効果を生じないことが知られている任意の分子または作用物質でありうる。これらの態様において、本発明の方法はさらに、候補化合物の調節効果を陽性または陰性対照化合物の調節効果(またはその非存在)と比較する段階を含む。例えば、ノギンおよびデコリンは、それぞれ、BMPシグナル伝達およびTGF-βシグナル伝達の阻害について陽性対照として用いられうる。
【0092】
D. 候補化合物の特徴付け
当業者に認識されているように、本発明のスクリーニング方法により同定されたレギュレーターをさらに特徴付けることが一般的に望ましい。
【0093】
例えば、候補化合物が所定の細胞培養系(例えば、樹立細胞系)において所定のTGF-βスーパーファミリーメンバーにおけるシグナル伝達活性のモジュレーターであると同定されている場合には、異なる細胞培養系(例えば、一次または二次細胞)においてこの能力を試験することが望ましい場合がある。代わりとして、または追加として、例えば、リアルタイムの定量的RT-PCRを用いてヘプシジンmRNA発現を定量化することにより(実施例1に記載されているように)、候補化合物のヘプシジン発現への効果を直接的に評価することが望ましい場合がある。候補化合物の特異性を、TGF-βスーパーファミリーメンバーの他のメンバーのシグナル伝達活性を調節するその能力を試験することにより、評価することが望ましい場合もある。薬物動態学および毒物学研究を行うことが望ましい場合もある。
【0094】
本発明のスクリーニング方法により同定された候補化合物はまた、さらに、インビボでの化合物の性質の決定を可能にするアッセイにおいて試験されうる。適した動物モデルは、鉄欠乏もしくは鉄過剰を示すことができる、またはヘプシジン発現の上方制御もしくはヘプシジン発現の下方制御を示すことが決定されている動物モデルを含む。
【0095】
鉄過剰についての動物モデルの例は、限定されるわけではないが、カルボニル鉄で処理されたマウス、β2-ミクログロブリンノックアウトマウス(C. Pigeon et al., J. Biol. Chem., 2001, 276:7811-7819)、USF2(Upstream Stimulatory Factor 2)ノックアウトマウス(G. Nicolas et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 2001, 98:8780-8785)、およびHFEノックアウトマウス(K.A. Ahmad et al., Blood Cells Mol. Dis., 2002, 29:361-366)を含む。鉄欠乏についての動物モデルの例は、限定されるわけではないが、フェニルヒドラジンにより誘発される急性溶血を有するマウス、および繰り返される瀉血により誘発される出血を有するマウスにおける貧血のモデルを含む(G. Nicolas et al., J. Clin. Invest., 2002, 110:1037-1044)。ヘプシジンmRNA発現の増加を示す動物モデルの例は、部分的肝切除により(N. Kelley-Loughnane et al., Hepatology, 2002, 35:525-534)、リポ多糖(G.R. Lee, Semin. Hematol., 1983, 20:61-80)、およびテレペンチン(G. Nicolas et al., J. Clin. Invest., 2002, 110:1037-1044)により処理されたマウスを含む。
【0096】
E. 同定されたレギュレーターの薬学的組成物
本発明はまた、活性成分として、本発明のスクリーニングアッセイにより同定された、鉄代謝の少なくとも1つのレギュレーター、またはヘプシジン発現もしくは活性の少なくとも1つのレギュレーターの有効量を含む薬学的組成物を提供する。本発明の薬学的組成物は、当技術分野において周知の通常の方法を用いて製剤化されうる。そのような組成物は、活性成分に加えて、薬学的媒体、賦形剤、もしくは媒質として働き、本明細書で「薬学的に許容される担体」と呼ばれる、少なくとも1つの薬学的に許容される液体、半流動体、または固体希釈剤を含む。
【0097】
本発明により、薬学的組成物は、活性成分として本発明の1つまたは複数のレギュレーターを含みうる。または、1つの本発明のレギュレーターの有効量を含む薬学的組成物は、異なる本発明のレギュレーターを含む薬学的組成物と組み合わせて、または逐次的に患者へ投与されうる。しかしながら、両方の場合において、レギュレーターは、好ましくは、鉄代謝および/またはヘプシジン発現もしくは活性への同じ制御効果を有する。例えば、どちらもヘプシジン発現を増強し、鉄代謝を抑制する、BMPのアゴニストおよびTGF-βのアンタゴニストが、単一の薬学的組成物で、または2つの異なる薬学的組成物で、被験体に投与されうる。
【0098】
当業者により認識されているように、ヘプシジン発現のレギュレーターもしくは鉄代謝レギュレーター、またはそれらの薬学的組成物は、鉄代謝障害の処置に用いられる通常の治療用物質と連続的に、または組み合わせて、投与されうる。そのような治療用物質は、鉄サプリメント(鉄欠乏と関連した疾患の場合)および鉄キレート剤(鉄過剰と関連した疾患の場合)を含む。鉄サプリメントは、限定されるわけではないが、フマル酸第一鉄、グルコン酸第一鉄、硫酸第一鉄、鉄デキストラン、鉄多糖、鉄ソルビトール、グルコン酸第二鉄ナトリウム、および鉄スクロースを含む。鉄キレート剤は、例えば、デスフェリオキサミン、バソフェナントロリン、およびクリオキノールを含む。鉄サプリメントまたは鉄キレート剤は、本発明の薬学的組成物に含まれてもよい。または、それらは、別々の薬学的組成物で投与されてもよい。
【0099】
代わりとして、または追加として、ヘプシジン発現のレギュレーターもしくは鉄代謝レギュレーター、またはそれらの薬学的組成物は、鉄代謝障害の処置のための通常の治療計画と連続的に、または組み合わせて、施されうる。これらは、鉄過剰と関連した状態の場合、例えば、瀉血を含む。
【0100】
III. 処置の方法
もう一つの局面において、本発明は、鉄過剰と関連した状態および鉄欠乏と関連した状態を含む、鉄代謝における撹乱に関連した状態の処置および/または予防のための方法を提供する。これらの方法は、そのような状態を有する、または有する危険性がある被験体に、少なくとも1つのTGF-βスーパーファミリーメンバーのシグナル伝達活性を調節する化合物の有効量を投与する段階であって、TGF-βスーパーファミリーメンバーのシグナル伝達活性の調節が結果として、被験体においてヘプシジン発現または活性の制御を生じる段階を含む。
【0101】
化合物は、TGF-βスーパーファミリーメンバーの既知のアゴニストまたはアンタゴニストでありうる。または、化合物は、例えば、本発明の方法により提供されたスクリーニング方法により、同定された鉄代謝のレギュレーターまたはヘプシジン発現のレギュレーターでありうる。
【0102】
A. 鉄代謝疾患
本発明の方法を用いて処置および/または予防されうる状態は、鉄代謝における撹乱と関連した任意の疾患、障害、または症候群を含む。鉄代謝における撹乱は、鉄取り込み、鉄吸収、鉄運搬、鉄貯蔵、鉄プロセッシング、鉄動員、鉄利用の1つまたは複数における撹乱と関連しうる。一般的に、鉄代謝における撹乱は、結果として、鉄過剰または鉄欠乏を生じる。
【0103】
鉄過剰と関連した状態は、限定されるわけではないが、遺伝性ヘモクロマトーシス、晩発性皮膚ポルフィリン症、遺伝性球状赤血球症、低色素性貧血、赤血球異形成貧血(CDAI)、顔面性器形成不全(FGDY)、アールスコグ(Aarskog)症候群、無トランスフェリン血症、鉄芽球性貧血(SA)、ピリドキシン応答性鉄芽球性貧血、およびサラセミアおよび鎌状細胞のような異常血色素症を含む。いくつかの研究は、サラセミアおよびヘモクロマトーシスのような鉄代謝障害と、II型(非インスリン依存性)糖尿病およびアテローム性動脈硬化症のようないくつかの疾患状態の間の関連を示唆している(A.J. Matthews et al., J. Surg. Res., 1997, 73:35-40; T.P. Tuomainen et al., Diabetes Care, 1997, 20:426-428)。
【0104】
鉄欠乏に関連した疾患は、限定されるわけではないが、慢性疾患の貧血、鉄欠乏性貧血、機能性鉄欠乏、および小球性貧血を含む。「慢性疾患の貧血」という用語は、例えば、長引く感染症、炎症、腫瘍性疾患などの結果として発症する任意の貧血を指す。発症する貧血は、しばしば、短縮された赤血球寿命、および結果として新しい赤血球を生成するのに利用可能な鉄の量の減少を生じる、マクロファージにおける鉄の隔離により特徴付けられる。慢性疾患の貧血に関連した状態は、限定されるわけではないが、慢性細菌性心内膜炎、骨髄炎、リウマチ熱、潰瘍性大腸炎、および腫瘍性疾患を含む。さらなる状態は、例えば、炎症性感染症(例えば、肺腫瘍、結核など)、炎症性非感染性疾患(例えば、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、クローン病、肝炎、炎症性大腸炎など)、ならびに様々な癌、腫瘍、および悪性腫瘍(例えば、上皮性悪性腫瘍、非上皮性悪性腫瘍、リンパ腫など)を含む、感染症、炎症、および新生物と関連した他の疾患ならびに障害を含む。鉄欠乏性貧血は、妊娠、月経、幼年期および小児期、負傷による血液喪失などのような状態に起因しうる。
【0105】
鉄代謝は、循環器疾患、アルツハイマー病、パーキンソン病、および結腸直腸癌の特定の型を含むいくつかの他の病状において役割を果たすことも示唆されている(例えば、P. Tuomainen et al., Circulation, 1997, 97:1461-1466; J.M. McCord, Circulation, 1991, 83:1112-1114; J.L. Sullivan, J. Clin. Epidemiol., 1996, 49:1345-1352; M.A. Smith et al., Proc. Nat. Acad. Sci., 1997, 94:9866-9868; P. Riederer et al., J. Neurochem., 1989, 512:515-520; P. Knekt et al., Int. J. Cancer, 1994, 56:379-382)。
【0106】
B. 被験体選択
本発明の方法による処置を受けるのに適した被験体は、限定されるわけではないが、上で列挙された疾患および障害を含む、鉄代謝における撹乱と関連した状態と診断されている個体、ならびに鉄代謝における撹乱と関連した状態になりやすい個体を含む。適した被験体は、以前にその状態についての伝統的な処置を受けたことがあってもなかってもよい。
【0107】
他の適した被験体は、鉄欠乏または鉄過剰を示す個体である。鉄過剰および鉄欠乏は、総鉄結合能(TIBC)、血清鉄、フェリチン、ヘモグロビン、ヘマトクリット、および尿中クレアチニンのレベルの測定を可能にする当技術分野において利用可能ないくつかの実験室試験を用いて検出されうる。
【0108】
C. 投与
本発明の方法による処置は、単回投与またはある期間に渡っての複数回投与からなりうる。ヘプシジン発現のレギュレーターもしくは鉄代謝のモジュレーター、またはそれらの薬学的組成物はまた、処置あたりデポー型から放出されうる。投与は、注射(皮下、静脈内、筋肉内、腹腔内など)、経口投与、または舌下投与によるような任意の都合の良い様式で行われうる。
【0109】
有効量および投与計画は、優れた医療行為および個々の患者の臨床症状により容易に決定されうる。投与の頻度は、化合物の薬物動態学的パラメーターおよび投与経路に依存する。最適な薬学的製剤は、投与経路および望ましい用量に依存して決定されうる。そのような製剤は、投与される化合物の、物理的状態、安定性、インビボの放出の速度、およびインビボのクリアランスの速度に影響を及ぼしうる。
【0110】
投与経路に依存して、適した用量は、体重、体表面積、または器官サイズにより計算されうる。適切な用量の最適化は、ヒト臨床試験において観察された薬物動態学的データに照らして当業者により容易になされる。最終投与計画は、薬物の作用を改変する様々な因子、例えば、薬物の特異的活性、損傷の重症度および患者の応答性、患者の年齢、状態、体重、性別、および食事、任意の存在する感染症の重症度、投与時期、ならびに他の臨床学的因子を考慮して、担当医により決定されうる。研究が行われるにつれて、鉄過剰および鉄欠乏に関連した様々な状態に対する適切な用量レベルおよび処置の期間に関するさらなる情報が現れるものと思われる。
【0111】
実施例
以下の実施例は、本発明を設定かつ実施する好ましい様式の一部を記載する。しかしながら、これらの実施例は例証のみを目的とし、本発明の範囲を限定することを意図されないことは理解されるべきである。さらになお、実施例における記載は過去時制で示されない限り、文章は、本明細書の他の部分と同様に、実験が実際に行われた、またはデータが実際に得られたことを示唆するものではない。
【0112】
このセクションにおいて提示された結果の一部は、最近の科学原稿に本出願人らにより記載されている(2006年2月3日にNature Geneticsへ投稿された、J.L. Babitt et al., 「Bone Morphologenetic Protein Signaling by Hemoguvelin Regulates Hepcidin Expression」)。この原稿はその全体が参照により本明細書に組み入れられている。
【0113】
実施例1:肝細胞におけるヘプシジン転写へのBMPおよびTGF-βの効果
研究プロコトール
HepG2肝臓ヘパトーマ細胞におけるヘプシジンmRNA発現へのBMP-2、ノギン(周知のBMPインヒビター)、およびTGF-β1の効果を、リアルタイム定量的RT-PCRを用いて研究および定量化した。
【0114】
HepG2細胞(ATTC番号HB-8065)を、6cm組織培養プレート上でα-MEM(10%ウシ胎児血清、100U/mLペニシリン、および100μg/mLストレプトマイシンを追加したL-グルタミンを含む最少基本培地α培地)において60%集密まで増殖させた。細胞を、その後、低血清状態(1%FBSを含むα-MEM)において1μg/mL ノギン.Fc(R & D Systems, Minneapolis, MN)と37℃で48時間インキュベートした、または6時間血清飢餓にして、続いて、50ng/ml BMP-2(R & D Systems)と37℃で16時間、もしくは1ng/ml TGF-β1(R & D Systems)と37℃で16時間、インキュベートした。または、細胞を、非トランスフェリン結合型鉄(65μM Fe-NTA)と37℃で72時間、インキュベートした。Fe-NTAは、前に記載されているように(E.W. Randell et al., J. Biol. Chem., 1994, 269:16046-16053; S.G. Gehrke et al., Blood, 2003, 102:371-376)、20mM Hepes pH 7.5を追加したα-MEM培地において0.1モルHCl中の1:1モル比のFeCl3六水和物(Sigma)をニトリロ三酢酸(NTA, Sigma)と化合させることにより生成された。
【0115】
全RNAを、製造会社の使用説明書に従って、RNAse-free DNAse Set(Qiagen)でのDNアーゼ消化を含め、RNAeasy Mini Kit(Qiagen, Valencia, CA)を用いて上記のように処理されたHepG2細胞から単離した。mRNA転写産物のリアルタイム定量化は、ABI Prism 7900HT Sequence Detection SystemおよびSDSソフトウェアバージョン2.0を用いる2段階逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)を用いて行われた。まず、鎖cDNA合成を、試料あたり2μgの全RNA鋳型を用い、製造会社の使用説明書に従ってiScript cDNA Synthesis Kit(Biorad Laboratories, Hercules, CA)を用いて行った。第二段階において、ヘプシジンの転写産物を、センスプライマーHepcF
およびアンチセンスプライマーHepcR
を用いて増幅し、iTAq SYBR Green Supermix with ROX(Biorad)を用いて検出した。並行して、β-アクチンの転写産物を、センスプライマーBactF
およびアンチセンスプライマーBactR
を用いて増幅し、内部対照としての役割を果たすように同様の様式で検出した。
【0116】
ヘプシジンおよびβ-アクチンについての標準曲線は、鋳型としてヘプシジン(IMAGEクローン4715540)およびβ-アクチン(IMAGEクローン3451917)のcDNAクローンの正確に測定された希釈溶液から作成された(IMAGEクローンは、Open Biosystemsから購入され、それらの挿入断片を検証するためにDNAがシーケンシングされた)。試料は3連で分析され、結果は、ヘプシジンのβ-アクチンに対する平均値の比として報告されている。
【0117】
結果
図1に示されているように、HepG2細胞のFe-NTAとのインキュベーションは、ヘプシジン/アクチン比発現を約6分の1(棒4)に減少させたが、以前に報告された、HepG2細胞においてFe-NTAにより引き起こされたヘプシジン発現における減少(S.G. Gehrke et al., Blood, 2003, 102:371-376)と良く相関する結果である。重要なことには、50ng/mL BMP-2とのインキュベーションは、ヘプシジン/アクチン比発現をベースラインより上に10倍(±8%)、増加させた(棒2を棒1と比較する)。対照的に、1μg/mL ノギン.Fc(内因性BMPシグナル伝達を阻害する)とのインキュベーションは、ヘプシジン/アクチン比発現をベースラインより下に50分の1(±19%)に減少させた(棒3を棒1と比較する)。
【0118】
図2に示されているように、HepG2細胞の50ng/mL BMP-2とのインキュベーションは、ヘプシジン/アクチン比発現をベースラインより上に15倍(±8%)、増加させた(棒2を棒1と比較する)。対照的に、1μg/mL ノギン.Fc(内因性BMPシグナル伝達を阻害する)とのインキュベーションは、ヘプシジン/アクチン比発現をベースラインより下に6分の1(±23%)に減少させた(棒3を棒1と比較する)。加えて、1ng/ml TGF-β1とのインキュベーションは、ヘプシジン/アクチン比発現をベースラインより下に6分の1(±6%)に減少させた(棒4を棒1と比較する)。
【0119】
実施例2:ヘプシジン発現のモジュレーターとしてのHJV.Fcタンパク質
若年性ヘモクロマトーシスは、識別不可能な表現型を与える2つの遺伝子における変異により引き起こされるヘモクロマトーシスの重症の変種である。1つの遺伝子はヘプシジン(HAMP、19q13.1)をコードする。2つ目の遺伝子は、最近、ヘモジュベリン(HJV、1q21)であると同定されている。HJVの機能は未知であるが、ヘプシジンレベルが、HJV変異を有する人において抑制されており、HJVがヘプシジン発現のモジュレーターである可能性があることを示している。すでの本明細書に述べられているように、HJVもまた、RGMaおよびDRAGON、BMP補助受容体として機能することが本出願人らにより最近示されたニューロン接着分子を含む、タンパク質の反発性誘導分子(RGM)ファミリーのメンバーである(それぞれその全体が参照により本明細書に組み入れられている、J.L. Babitt et al., J. Biol. Chem., 2005, 280:29820-29827; T.A. Samad et al., J. Biol. Chem., 2005, 280:14122-14129)。下に示された研究は、HJVが同様にBMPシグナル伝達を媒介することができるかどうかを調べるために企てられた。
【0120】
材料および方法
cDNAサブクローニング
アミノ酸313位におけるグリシンからバリンへの置換を有する変異型マウスHJVをコードするcDNA(mHJVG313V)を、重複PCRストラテジーにより作製した。2つのプライマー
および
を用いて、アミノ酸313位においてグリシンの代わりにバリンへの置換を組み込むmHJVのN末端断片を作製した。プライマー
および
を用いて、同一の置換を有するHJVのC末端断片を作製した。外側プライマーを用いてPCRの最終ラウンドを行い、変異型mHJVG313Vを作製し、その後、発現ベクターpCDNA 3.1(Invitrogen, Carlsbad, CA)へサブクローニングした。
【0121】
可溶性mHJV.Fc融合タンパク質をコードするcDNAを、プライマー:
および
を用いる野生型マウスHJVの細胞外ドメインのPCRにより作製し、続いて、ヒトIgGのFc部分とインフレームで哺乳動物発現ベクターpIgplus (R & D Systems, Minneapolis, MN)へサブクローニングした。
【0122】
フラグ標識付きヒトHJV(hHJV)をコードするcDNAを、ATCC(# 10642497)から購入された、エクソン2を含まないヒトHJV転写産物変種B(IMAGEクローン6198223)から作製した。完全長HJVアイソフォーム(変種A、アクセッション# NM213653)のシグナルペプチドをコードするエクソン2を、フォワードプライマー:
およびリバースプライマー:
を用いてヒトゲノムDNAからのPCRにより増幅した。コード配列の残部(終止コドンを含む)に対応する下流cDNA断片を、フォワードプライマー
およびリバースプライマーとして
を用いるIMAGEクローンからのPCRにより増幅した。2つの重複断片を、PCRによりいっしょに融合させ、完全長cDNA産物を、その後、EcoR IおよびXho Iで切断し、pCDNA3.1 (Invitrogen)へクローニングし、pCDNA3.1-hHJVを作製した。N末端フラグ標識付きhHJVを作製するために、エクソン3の最初に対応する上流断片を、フォワードプライマー:
およびリバースプライマー:
を用いるPCRにより作製した。Not I/Sac II消化後、断片を、pCDNA3.1-hHJVから切り出した下流Sac II/Xba I hHJV断片と共に、p3XFLAGCMV9(Sigma)のNot I/Xba I部位へライゲーションした。
【0123】
アミノ酸99位におけるバリンからグリシンへの置換を有する変異型フラグ標識付きhHJV G99V(hG99V)をコードするcDNAを、QuikChangeキット(Stratagene, La Jolla, CA)を用いる部位特異的変異誘発によりhHJVから作製した。ヘプシジンプロモータールシフェラーゼ構築物をコードするcDNAを、pGL2-Bsicベクター(Promega, Madison, WI)においてホタルルシフェラーゼレポーター遺伝子の上流にヒトヘプシジンプロモーター46の-2649位〜+45位領域をサブクローニングすることにより作製した。すべてのcDNAは、構築物の忠実度を検証するためにシーケンシングされた(MGH, Molecular Biology DNA Sequencing Core Facility)。
【0124】
細胞培養およびトランスフェクション
CHO細胞(American Type Culture Collection ATCC #CCL-61)を、10%ウシ胎児血清(FBS)(Atlanta Biologicals, Lawrenceville, GA)を追加したF-12K Nutrient Mixture, Kaighn's Modification (Invitrogen)において培養した。HepG2細胞およびHep3B細胞(ATCC #HB-8065および#HB-8064)を、10%FBSを含むL-グルタミンを有するMinimal Essential Alpha Medium (α-MEM, Invitrogen)において培養した。HEK 293細胞(ATCC #CRL-1573)を、10%FBSを追加したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM; Cellgro Mediatech, Herndon, VA)において培養した。すべてのプラスミドトランスフェクションは、Lipofectamine 2000 (Invitrogen)またはEffecteneトランスフェクション試薬(QIAGEN Inc, Valencia, CA)で製造会社の使用説明書に従って行われた。安定的にトランスフェクションされた細胞を選択し、1mg/ml Geneticin (Cellgro Mediatech, Herndon, VA)において培養した。
【0125】
ルシフェラーゼアッセイ
HepG2またはHep3B細胞に、2.5μg BMP応答性ルシフェラーゼレポーター(BRE-Luc)、2.5μg TGF-β応答性ルシフェラーゼレポーター、(CAGA)12MPL-Luc(CAGA-Luc)(どちらもPeter ten Dijke, Leiden University Medical Center, The Netherlandsにより好意的に提供された)、または2.5μgヘプシジンプロモータールシフェラーゼレポーター構築物を、トランスフェクション効率について管理するために0.25μg pRL-TK ウミシイタケルシフェラーゼベクター(Promega)と組み合わせて、野生型もしくは変異型HJV cDNAでの同時トランスフェクションの有りまたは無しで、一過性にトランスフェクションした。トランスフェクションから48時間後、細胞を、1%FBSを追加したα-MEMにおいて6時間、血清飢餓にさせ、1μg/ml ノギン(R & D Systems)もしくは20μg/ml中和抗BMP-2/4抗体(R & D Systems)の非存在または存在下で、様々な量のTGF-β1またはBMPリガンド(R & D Systems)で16時間、処理した。細胞を溶解し、ルシフェラーゼ活性を、Dual Reporter Assayを用いて製造会社の使用説明書(Promega)に従って測定した。実験は2連または3連のウェルにおいて行われた。相対ルシフェラーゼ活性は、ホタル(レポーター)およびウミシイタケ(トランスフェクション対照)ルシフェラーゼ値の比として計算され、レポーター単独をトランスフェクションされた非刺激細胞に対する倍増加として表されている。
【0126】
mHJV.Fcの精製
mHJV.Fcを安定的に発現するCHO細胞を、5%超低IgG FBSを追加したF-12K Nutrient Mixture, Kaighn's Modification(Invitrogen)において175cm2マルチフロアフラスコ(Denville Scientific, Southplainfield, NJ)を用いて培養した。mHJV.Fcを、前に記載されているように(その全体が参照により本明細書に組み入れられている、E. del Re et al., J. Biol. Chem., 2004, 279:22765-22772)、HiTrap rProtein A FFカラム(Amersham Biosciences, Piscataway, NJ)を用いる1段階プロテインAアフィニティークロマトグラフィーによって安定的にトランスフェクションされた細胞の培地から精製した。精製されたタンパク質を、前に記載されているように(E. del Re et al., J. Biol. Chem., 2004, 279:22765-22772)、100mMグリシン-HCl、pH3.2で溶出し、0.3M Tris-HCl、pH9で中和した。mHJV.Fcを、還元ドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)に供し、ゲルを、Bio-safe Coomassie blue (Bio-Rad, Hercules, CA)で染色して、純度を測定し、かつタンパク質濃度を定量化した。
【0127】
HJV抗体の作製およびイムノブロット分析
親和性精製されたウサギポリクローナル抗マウスHJV抗体(αHJV)は、ペプチド
、マウスHJVのC末端におけるその疎水性尾部の上流のアミノ酸292位〜310位に対して産生された(G. Papamokolaou et al., Nat. Genet., 2004, 36:77-82)。129S6/SvEvTac野生型もしくはHjv-/-マウス(F.W. Huang et al., J. Clin. Invest., 2005, 115:2187-2191)由来の肝臓、または野生型もしくは変異型HJVをトランスフェクションされた細胞を、前に記載されているように(その全体が参照により本明細書に組み入れられている、J.L. Babitt et al., J. Biol. Chem., 2005, 280:29820-29827)、プロテアーゼインヒビターの混合物(Roche, Mannheim, Germany)を含む溶解緩衝液(200mM Tris-HCl、pH8、100mM NaCl、1mM EDTA、0.5%NP-40、および10%グリセロール)においてホモジナイズ/超音波処理した。リン酸化Smad発現を調べるアッセイについて、1mMオルトバナジウム酸ナトリウム(Sigma, St. Louis, MO)および1mMフッ化ナトリウム(Sigma)をホスファターゼインヒビターとして溶解緩衝液へ添加した。精製されたmHJV.Fc、トランスフェクションされた細胞可溶化物、または肝臓可溶化物を、前に記載されているように(J.L. Babitt et al., J. Biol. Chem., 2005, 280:29820-29827)、還元ドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)、および4℃で一晩、HJV抗体(1:1000、4mg/mL)、室温で1時間、ヤギ抗ヒトFc抗体(1:1000)(Jackson ImmunoResearch Laboratories, West Grove, PA)、または4℃で一晩、ウサギポリクローナル抗ホスホsmad1/5/8抗体(1:1000)(Cell Signaling, Beverly, MA)を用いるウェスタンブロットに供した。ブロットを取り出し、4℃で一晩、マウスモノクローナル抗β-アクチン抗体(1:5000)(clone AC 15, Sigma)、ウサギポリクローナル抗Smad1抗体(1:250)(Upstate Biotechnology, Lake Placid, NY)、または負荷対照として室温で1時間、ウサギポリクローナル抗アクチン抗体(1:50)(Biomedical Technologies, Inc., Stoughton, MA)で再探索した。
【0128】
HJV抗体は、完全長HJVおよび前に記載されたタンパク分解性切断部位で切断されているHJVの予測サイズに対応する、肝臓における〜49kDaおよび〜30kDaでの主要なバンド(レーン2、図3(A))を認識する。〜62kDaバンドは高次型を表している可能性が高い。抗体の競合ペプチドとのプレインキュベーション後、バンドは見られなかった(レーン1)。同様の結果はトランスフェクションされたCHO細胞において見られ、サイズにおける差は、異なったグリコシル化またはプロセシングの変化による可能性が高い(図3(B))。HJVの細胞外ドメインをヒトFcと融合することにより作製されたHJV.Fc cDNAを、CHO細胞へ安定的にトランスフェクションし、HJV.Fcタンパク質を、1段階プロテインAクロマトグラフィーにより培地から精製した。精製されたタンパク質の抗HJV抗体(レーン1〜2)、または抗Fc抗体(レーン3〜4)でのウェスタンブロットは、精製されたタンパク質において両方のドメインの存在を確認し、抗HJV抗体のさらなる確証を提供した。両方の抗体は、完全長およびタンパク分解性に切断されたタンパク質の予測サイズに対応する〜70-75kDaおよび〜60kDaバンドを認識した。〜40-45kDaにおけるより低いバンドは、もう一つの可能性のあるタンパク分解性切断部位を示唆している。
【0129】
リガンドヨウ素化および架橋
反応あたり2μgの担体を含まないヒトBMP-2またはBMP-4リガンド(R & D Systems)を、前に記載されているように(その全体が参照により本明細書に組み入れられている、C.A. Frolick et al., J. Biol. Chem., 1984, 259:10995-11000)、改変されたクロラミン-T方法により[125I]でヨウ素化した。125I-BMP-2を、0.1%BSAおよびプロテアーゼインヒビターの混合物(Roche Diagnostics)を含む、または緩衝液のみを含む20mM HEPES(pH7.8)において60ng mHJV.FcまたはALK5.Fc (R & D Systems)とインキュベートした。ビーズを、リン酸緩衝食塩水(PBS)で洗浄し、タンパク質を非還元Laemmli試料緩衝液(Bio-Rad)により溶出した。溶出されたタンパク質をSDS-PAGEにより分離し、オートラジオグラフィーにより分析した。
【0130】
定量的逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)
HepG2またはHep3B細胞を、6cm組織培養プレート上で60%集密まで増殖させた。示された所で、細胞に、hHJVまたはhG99V cDNAの様々な量をトランスフェクションした。トランスフェクションから24時間後、細胞を、1%FBSを含むα-MEMにおいて血清飢餓にし、続いて、37℃で様々な時間、50ng/mL BMP-2と、または37℃で48時間、1μg/mL ノギンとインキュベートした。シクロヘキシミド実験について、BMP-2の添加前の30分間、10μg/mlシクロヘキシミドを加えた。全RNAを、RNase-Free DNase Set (QIAGEN)でのDNアーゼ消化を含め、RNeasy Mini Kit (QIAGEN Inc., Valencia CA)を用いて、製造会社の使用説明書に従って単離した。mRNAの転写産物のリアルタイム定量化は、ABI Prism 7900HT Sequence Detection SystemおよびSDSソフトウェアバージョン2.0を用いる2段階逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)を用いて行われた。まず、鎖cDNA合成を、試料あたり2μgの全RNA鋳型を用い、製造会社の使用説明書に従ってiScript cDNA Synthesis Kit(Bio-Rad)を用いて行った。
【0131】
第二段階において、ヘプシジンの転写産物を、センスプライマー
およびアンチセンスプライマー
を用いて増幅し、iTAq SYBR Green Supermix with ROX(Biorad)を用いて製造会社の使用説明書に従って検出した。並行して、β-アクチンの転写産物を、センスプライマー
およびアンチセンスプライマー
を用いて増幅し、内部対照としての役割を果たすように同様の様式で検出した。ヘプシジンおよびβ-アクチンについての標準曲線は、鋳型としてヘプシジンおよびβ-アクチンのcDNA配列を含むプラスミドの正確に測定された希釈溶液から作成された(Open BiosystemsからのIMAGEクローン4715540および3451917、後に、提案されている挿入断片を検証するために配列分析を行った)。試料は3連で分析され、結果は、ヘプシジンのβ-アクチンに対する平均値の比として報告されている。BMP-2およびBMP-4についての転写産物を、上で作製されたHepG2 cDNAからフォワードプライマー:
およびリバースプライマー:
(BMP-2について)ならびにフォワードプライマー:
およびリバースプライマー:
(BMP-4について)を用いて増幅した。
【0132】
一次肝細胞単離および培養
一次肝細胞を、前に記載された方法を用いて(その全体が参照により本明細書に組み入れられている、J. Lin et al., Cell, 2004, 119:121-135)、8〜10週齢の129S6/SvEvTac野生型またはHjv-/-マウス(F.W. Huang et al., J. Clin. Invest., 2005, 115:2187-2191)由来の肝臓のコラゲナーゼ消化により単離した。簡単には、マウスを、0.5mM EDTAおよび16.7mM重炭酸ナトリウムを追加したカルシウムを含まないハンクスの平衡塩類溶液(HBSS)(Mediatech Inc.)で下大静脈を通して〜1.5mL/分の速度で4分間、灌流した。マウスをその後、0.05%コラゲナーゼ(Sigma)、1%ウシ血清アルブミン、および16.7mM重炭酸ナトリウムを含むカルシウム含有HBSSで8分間、灌流した。酵素消化後、肝細胞を培養液[100IU/mlペニシリン、100μg/mlストレプトマイシン、18mM HEPES、1mMピルビン酸ナトリウム、10μg/mlインスリン、5.5μg/mlトランスフェリン、および5ng/mlセレニウム(ITS; Sigma)、2mM L-グルタミン、0.1mM非必須アミノ酸(Gibco(商標))、10%FBS(HyClone, Logan UT)を追加した1:1 ダルベッコ改変イーグル培地/Ham's F12培地(Gibco(商標), Grand Island, NY)]中へ遊離させ、100μm BD Falcon(商標)メッシュ細胞濾過器(BD Biosciences, San Jose CA)を通過させ、遠心分離し、培養液で穏やかに洗浄し、計数した。
【0133】
細胞(顕微鏡により>90%肝細胞)を、コラーゲンコーティングプレート(Sigma)上に5×105細胞/60mm皿で播種した。2〜3時間後、細胞を、PBSで洗浄し、1%FBSを含む培地で6時間、血清飢餓にさせ、様々な濃度における組換えヒトBMP-2で12時間、刺激した。RNAを、RNeasyキットを用いて製造会社の使用法(QIAGEN)に従って単離した。
【0134】
ノーザンブロット分析
一次肝細胞由来の全RNA(2.5μg)を、1%ホルムアルデヒドアガロースゲル上で分離させ、Hybond N+膜(Amersham Pharmacia Biotech)上へ転写した。膜を、80℃で真空下、2時間、ベーキングし、プライマー
および
でソアレス(Soares)マウスp3NMF19.5ハツカネズミcDNA IMAGEクローン:317863から増幅したマウスヘプシジン1およびβ-アクチンに特異的な放射標識プローブとハイブリダイズさせた(S. Alonso et al., J. Mol. Evol., 1986, 23:11-22)。発現を、リン光画像化装置(Molecular Dynamics, 現在、Amersham Biosciences)を用いて定量化し、負荷対照としてのβ-アクチンまたは28S RNAに対して標準化した。
【0135】
統計学的解析
両側スチューデントt検定が、統計学的有意性を決定するために<0.05のP値で用いられた。
【0136】
結果1:HJVはBMPシグナルを誘導するが、TGF-βシグナルを誘導しない
HepG2細胞に、BMP応答性ルシフェラーゼレポーター(BRE-Luc、図4、パネルAおよびC)またはTGF-β応答性ルシフェラーゼレポーター(CAGA-Luc、図4、パネルB)を単独か、またはHJVをコードするcDNAと組み合わせてかのいずれかで、トランスフェクションした。トランスフェクションされた細胞を、その後、0.5nM BMP-2、BMP-4、もしくは40pM TGF-β1の有りまたは無しで16時間インキュベートし、続いて、ルシフェラーゼ活性の測定を行った。BMPまたはTGF-βでの刺激は、刺激されていない細胞と比較して、それらの応答性レポーターについての相対ルシフェラーゼ活性を増加させた(AおよびB、棒2を棒1と比較する)。HJVとの同時トランスフェクションも同様に、外因性BMP刺激の非存在下でさえもBREルシフェラーゼ活性を増加させた(A、棒3)。HJV媒介性BMPシグナル伝達は用量依存性であり(C、灰色棒)、HJVの存在は外因性BMPにより生じるシグナル伝達を増強した(D、黒色棒)。対照的に、HJV(1μgまで)との同時トランスフェクションは、ベースラインより上にCAGA-ルシフェラーゼ活性を増加させなかった(B、棒3)。総合すれば、これらの結果は、HJVがBMPシグナル伝達を媒介できるが、TGF-βシグナル伝達を媒介できないこと、およびHJVがBMP-2についての可能性のあるアクセサリー受容体と一致した様式で行動することを実証している。
【0137】
結果2:HJV媒介性BMPシグナル伝達はノギンにより阻害される
外因性BMPリガンドの非存在下でさえもBMPシグナル伝達を媒介するHJVの能力は、HJVがリガンド非依存性様式で作用しているのかどうか、またはそれは内因性BMPリガンドによりシグナル伝達を増強させているのかどうかという問題を提起する。それゆえに、研究は、HJV媒介性シグナル伝達がノギン、BMPリガンドに結合し、BMP受容体に対する結合エピトープをブロックすることにより機能するBMPシグナル伝達の可溶性インヒビターにより阻害されうるかどうかを決定するために行った。
【0138】
HepG2細胞に、BRE-LucおよびHJV cDNA、または空のベクターを同時トランスフェクションした。トランスフェクションされた細胞を、1μgノギンの存在下または非存在下で0.5nM外因性BMP-2有りまたは無しで16時間、インキュベートし、続いて、ルシフェラーゼ活性の測定を行った。得られた結果は図5に報告されている。
【0139】
ノギンの非存在下において、HJV cDNAでの同時トランスフェクションは、BREルシフェラーゼ活性をベースラインより上に10倍、増加させた(棒2を棒1と比較する)。同様に、外因性BMP-2とのインキュベーションは、BREルシフェラーゼ活性をベースラインより上に12倍、増加させた(棒4を棒1と比較する)。HJVかまたは外因性BMPのいずれかによるこの刺激は、ノギンタンパク質の存在により遮断されることができた(棒3、5)。対照的に、ノギンは、TGF-β1誘導性CAGAルシフェラーゼ活性に影響を及ぼさなかった(棒6〜8)。このデータは、HJVが、おそらく内因的に発現したBMPリガンドを介して、リガンド依存性様式でBMPシグナルを発生することを示唆している。
【0140】
結果3:HJV.FcはBMP-2を選択的に結合する
HJV.Fcを、過剰非放射性BMP-2、BMP-4、BMP-7、またはTGF-β1の有りまたは無しで125I標識BMP-2と一晩、インキュベートし、続いて、プロテインAコーティングプレート上でのインキュベーションおよび放射能の測定を行った(図6(A)および図7)。または、HJV.Fcの125I標識BMP-2との化学架橋を、無細胞系においてDSSを用いて行った(図6(B))。
【0141】
図6(A)に示されているように、HJV.Fcは、用量依存性様式で125I-BMP-2に結合することができた。HJV.Fcの125I-BMP-2への結合は、過剰非放射性BMP-2により競合的に阻害されたが、BMP-4、BMP-7、またはTGF-β1により阻害されなかった(図7参照)。125I-BMP-2は、DSSの存在下でHJV.Fcと化学架橋されることができ(図6(B)、レーン4)、これは過剰非放射性BMP-2により阻害されうる(レーン5)。陰性対照として、DSSの非存在下において(レーン1および2)、または緩衝液単独(レーン3)もしくはALK5.Fc(TGF-β I型受容体、レーン6)がHJV.Fcの代わりに用いられた場合、バンドは見られなかった。
【0142】
結果4:HJV媒介性BMPシグナル伝達は、ドミナントネガティブI型受容体ALD3およびALK6により、ならびにドミナントネガティブSmad1により、阻害される
HepG2細胞に、BRE-LucおよびHJVを、単独か、またはドミナントネガティブなBMP I型受容体ALK3(ALK3 DN)もしくはALK6(ALK6 DN)と組み合わせて(図8(A))、または野生型(WT)対ドミナントネガティブな(DN)R-Smad 1と組み合わせて(図8(B))かのいずれかで、同時トランスフェクションした。トランスフェクションされた細胞を、その後、0.5nM BMP-2の存在下または非存在下で16時間、インキュベートし、その後、ルシフェラーゼ活性の測定を行った。
【0143】
図8(A)に示されているように、HJVでのトランスフェクションまたは細胞の外因性BMP-2とのインキュベーションは、ベースラインより上に〜15-20倍、BREルシフェラーゼ活性を増加させた(棒2および棒5を棒1と比較する)。HJVかまたは外因性BMP-2のいずれかによるこの刺激は、ドミナントネガティブなALK3(棒3、棒6)またはドミナントネガティブなALK6(棒4、棒7)での同時トランスフェクションにより遮断されることができた。
【0144】
図8(B)に示されているように、WT Smad 1単独でのトランスフェクションは、BREルシフェラーゼ活性をベースラインより上に〜12倍、増加させた(棒2を棒1と比較する)。対照的に、DN Smad 1単独でのトランスフェクションは、BREルシフェラーゼ活性をベースラインより下に減少させた(棒3を棒1と比較する)。これは、外因的に添加されるリガンドの非存在下でこれらの細胞においてBMP経路を介する基底のシグナル伝達があるというさらなる支持を提供しており、このシグナル伝達は追加のWT Samd 1の存在により増強され、かつDN Samd 1により阻害されうる。HJVでのトランスフェクションは、BREルシフェラーゼ活性をベースラインより上に〜12倍、増加させた(棒4)。WT Smad 1のHJVとの同時トランスフェクションは、WT Smad 1かまたはHJVのいずれかの単独により誘導されるシグナル伝達をさらに増強した(棒5を棒2、4と比較する)。DN Smad 1のHJVとの同時トランスフェクションは、HJV単独で見られたシグナルにおける増加を遮断した(棒6を棒4と比較する)。同様の結果は、WT Smad 1およびDN Smad 1の外因性BMP-2刺激への効果についても見られた(棒7〜9)。従って、HJV媒介性BMPシグナル伝達は、BMP I型受容体ALK3およびALK6、加えてR-Smad1による古典的BMPシグナル伝達経路を介して起こる。
【0145】
結果5:変異型HJVG313VおよびHJVG313V.Fc融合タンパク質の産生および特徴付け
結果として若年性ヘモクロマトーシスを生じるHJVにおける最も多く見られる変異は、アミノ酸320位(マウスHJVにおけるアミノ酸313位に対応する)においてグリシンをバリンに置換する点変異である。変異型HJVG313Vおよび可溶性HJVG313V.Fc cDNAを、上記のように、PCRおよびサブクローニング技術を用いて作製し、CHO細胞へトランスフェクションし、還元SDS PAGE、続いて、抗HJV抗体(図9(A)および(B)、左パネル)または抗Fc抗体(図9(B)、右パネル)でのウェスタンブロットにより分析した。または、非透過処理のトランスフェクションされた細胞を、抗HJV抗体を用いて免疫蛍光顕微鏡により分析した(図10)。
【0146】
図9(A)に示されているように、変異型HJVG313VがCHO細胞に発現しているが、野生型HJVとは異なるパターンで移動し、それが、少なくともこの細胞型において、異なってプロセシングされていることを示唆する。変異型HJVG313V.Fcもまた、野生型HJV.Fcとは異なってプロセシングされているように思われ、〜60kDaバンドの喪失がある(図9(B)参照)。
【0147】
図10に示されているように、野生型HJVおよび変異型HJVG313Vの両方が、点状の分布で細胞表面上に発現している。
【0148】
結果6:変異型HJVG313Vは野生型HJVと比較してBMPシグナル伝達能力を減少させる
HepG2細胞に、BRE-Lucを単独で、または増加性濃度の野生型HJVもしくは変異型HJVG13V cDNAと組み合わせて、トランスフェクションした。トランスフェクションされた細胞を、0.5nM BMP-2の存在下または非存在下で16時間、インキュベートし、続いて、ルシフェラーゼ活性の測定を行った。図11に示されているように、外因性リガンドの非存在下において、野生型HJVはBREルシフェラーゼ活性をベースラインに対して23倍まで増加させた。この刺激は、0.5nM外因性BMP-2で見られたものと類似していた。対照的に、変異型HJVG313Vは、BREルシフェラーゼ活性を最大9倍までのみ、増加させた。これは、ヒトにおいて結果として若年性ヘモクロマトーシスを生じうる変異型HJVG313Vが、肝細胞においてBMPシグナル伝達能力を減少させていることを示唆し、BMPシグナル伝達が鉄代謝において役割を果たしているかどうかという問題を提起する。
【0149】
結論
上で報告されているように、本出願人らは、(1)HJVはBMPシグナル伝達を誘導するが、TGF-βシグナル伝達を誘導しないこと;(2)HJVシグナル伝達はノギン、周知のBMPインヒビターにより阻害されること;(3)HJVは放射標識BMP-2リガンドへ直接的に結合すること;(4)HJVはBMP I型受容体、ALK-3およびALK-6を介してシグナル伝達すること;(5)HJVはBMP R-Smad、Smad1を介してシグナル伝達すること;(6)若年性ヘモクロマトーシスを引き起こすことが知られているHJV変異体はBMPシグナル伝達能力を減少させること;ならびに(7)BMPは肝細胞においてヘプシジン発現を増加させるが、ノギンは減少させることを示している。
【0150】
これらの結果は、HJVが、BMPシグナル伝達能力が鉄代謝を制御するにおいて重要である、新規のBMP補助受容体である。HJVにおける変異は、肝細胞においてBMPシグナル伝達の減少へと導き、その後、ヘプシジン発現を減少させることができ、それにより、なぜHJV変異体を有する人がヘプシジンレベルを抑制し、それに従って鉄過剰になっているかを説明できる。HJVの新規な作用機構に関する本所見は、これまで発見されていないBMPシグナル伝達と鉄代謝の間の関連を明らかにし、ヘモクロマトーシスおよび慢性疾患の貧血のような鉄代謝の障害の新規な処置ストラテジーへと導くことができた。
【0151】
実施例3:インビボでの鉄結合能へのBMP-2の効果
研究プロトコール
正常なマウスに、18μgのBMP-2(1kg体重あたり1mgと等価)、または対照として担体溶液を眼窩内に注射した。4時間後、血液を採取し、血清中鉄レベルおよび総鉄結合能を比色アッセイを用いて測定した。
【0152】
図12に示されているように、BMP-2の注射は、血清鉄および総鉄結合能の両方における有意な減少へと導いた。この結果は、BMPリガンドおよびBMPインヒビターが、ヒトを含む動物全体において鉄レベルを制御する治療剤として有用であろうことを示している。
【0153】
実施例4:タンパク分解性に安定なHJV、RGMa、およびDragon変異体
対応する野生型タンパク質とは対照的に、タンパク分解性切断を受けない変異体HJV、RGMa、およびDragonタンパク質を産生する可能性を実証するために実験を企てた。
【0154】
マウスRGMa-D169A.Fc変異体cDNAを作製し、HEK細胞上清に発現させた。図13は、得られた精製タンパク質が野生型マウスRMGa.Fcタンパク質と比較してタンパク分解性に切断されないことを示している。
【0155】
同様に、マウスDragon-D171A.Fc変異体cDNAを作製し、HEK細胞上清に発現させた。得られた精製変異体タンパク質は、野生型マウスDragon.Fcタンパク質と比較してタンパク分解性切断に対して安定であることが示された(図14参照)。
【0156】
第三実験において、ヒトHJV-D172A変異体cDNAを作製し、HEK細胞上清に発現させた。図15に示されているように、野生型ヒトHJVタンパク質と対照的に、変異型HJVタンパク質はタンパク分解性切断を受けなかった。
【0157】
野生型バージョンよりタンパク分解性切断に対してより安定である変異型HJV、RGMa、およびDragon融合タンパク質は、本発明の方法において有利に用いられうるように思われる。
【0158】
他の態様
本発明の他の態様は、本明細書に開示された本発明の詳述または実施の考慮から当業者にとって明らかであると思われる。詳述および実施例は例示するものとのみ、みなされ、本発明の真の範囲は特許請求の範囲により示されることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0159】
【図1】BMP-2、ノギン.Fc(内因性BMPシグナル伝達を阻害することが知られている)、およびFe-NTA(非トランスフェリン結合型鉄)の、対照細胞、C(すなわち、これらの作用物質の非存在下でインキュベートされたHepG2細胞)におけるヘプシジン/アクチン比と比較した、HepG2細胞におけるヘプシジン/アクチン比への効果を示すグラフである。
【図2】BMP-2、ノギン.Fc、およびTGF-β1の、対照細胞、C(すなわち、これらの作用物質の非存在下でインキュベートされたHepG2細胞)におけるヘプシジン/アクチン比と比較した、HepG2細胞におけるヘプシジン/アクチン比への効果を示すグラフである。
【図3】肝臓(A)およびトランスフェクションされたCHO細胞(B)におけるHJVタンパク質の、ならびに可溶性HJV.Fc融合タンパク質(C)の一組のウェスタンブロット分析を示す。
【図4】BMP-2、BMP-4、もしくはTGF-β1の有りまたは無しでインキュベートされたBMP応答性ルシフェラーゼレポーター(A、C)またはTGF-β応答性ルシフェラーゼレポーター(B)をトランスフェクションされたHepG2細胞におけるルシフェラーゼ活性の測定を示す3つのグラフの一組である。
【図5】BMP応答性ルシフェラーゼレポーターおよびHJV cDNAまたは空のベクターをトランスフェクションされ、かつノギンの存在下または非存在下で外因性BMP-2の有りまたは無しでインキュベートされたHepG2細胞におけるルシフェラーゼ活性の測定を示すグラフである。
【図6】図6(A)は125I標識BMP-2とインキュベートされたHJV.Fcからの放射能測定の結果を示すグラフである。図6(B)は、125I-BMP-2がDSSの存在下でHJV.Fcと化学架橋することができること(棒4)、およびこの架橋が過剰非放射性BMP-2により阻害されうること(棒5)を示すゲルである。
【図7】過剰非放射性BMP-2、BMP-4、BMP-7、もしくはTGF-β1の有りまたは無しで125I標識BMP-2とインキュベートされたHJV.Fcからの放射能測定を報告するグラフである。
【図8】BMP応答性ルシフェラーゼレポーターおよびHJVを単独で、またはドミナントネガティブなBMP I型受容体ALK3(ALK3 DN)もしくはALK6(ALK6 DN)と組み合わせて(図8(A))、または野生型(WT)対ドミナントネガティブな(DN)R-Smad 1と組み合わせて(図8(B))、同時トランスフェクションされたHepG2細胞におけるルシフェラーゼ活性の測定を示す2つのグラフの一組である。
【図9】PCRおよびサブクローニング技術を用いて作製され、かつCHO細胞へトランスフェクションされた変異型HJVG313V(図9(A))および可溶性HJVG313V.Fc cDNA(図9(B))の2つのウェスタンブロット分析を示す。
【図10】野生型HJVおよび変異型HJVG313Vをトランスフェクションされた非透過処理の細胞の免疫蛍光顕微鏡像を示す。
【図11】BMP応答性ルシフェラーゼレポーターを単独で、または増加性濃度の野生型HJVもしくは変異型HJVG13V cDNAと組み合わせて、トランスフェクションされたHepG2細胞におけるルシフェラーゼ活性の測定を報告するグラフである。
【図12】BMP-2リガンドでの眼窩内処置後のマウスにおける血清鉄および総鉄結合能の測定を報告する表である。
【図13】マウスRMGa-D169A.Fc融合タンパク質がマウスRMGa.Fc融合タンパク質と比較してタンパク分解性に切断されないことを示すゲルである。
【図14】マウスDragon-D171A.Fc融合タンパク質がマウスDragon.Fc融合タンパク質と比較してタンパク分解性に切断されないことを示すゲルである。
【図15】ヒトHJV-D172AがヒトHJVと比較してタンパク分解性に切断されないことを示すゲルである。
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2005年2月16日に出願され、「鉄代謝を制御するための方法および組成物」と題する仮出願第60/653,479号の優先権を主張する。仮出願はその全体が参照により本明細書に組み入れられている。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
鉄は、異常細菌種を除いて、ほとんどすべての生きている生物体の成長および生存にとって必須元素である(P. Aisen et al., J. Biochem. Cell Biol., 2001, 33:940-959(非特許文献1))。それは、酸素運搬および貯蔵において重要な役割を果たし(ヘモグロビンおよびミオグロビンのような酸素結合分子と共同して)、エネルギーの生成(例えば、チトクロム)、様々な代謝中間物の産生に、および宿主防御(例えば、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸[NADPH]オキシダーゼ)に必要とされる酸化還元反応を触媒する多くの酵素の重要な成分である。鉄はまた毒性でありうる。それは、細胞膜、タンパク質、およびDNAを攻撃しうる反応性ラジカル種の発生を触媒し、NF-κB、炎症に関与する遺伝子についての原型転写因子を活性化する(S. Xiong et al., J. Biol. Chem., 2003, 278:17646-17654(非特許文献2))。高レベルにおいて、組織における鉄蓄積は有害である。
【0003】
鉄欠乏または鉄過剰を防ぐために、ほとんどすべての生物体は、鉄摂取および流出を制御するための発達した精巧な機構を有する(C. Finch, Blood, 1994, 84:1697-1702(非特許文献3))。成体哺乳動物において、鉄恒常性は、腸細胞、身体への食事性鉄取り込みおよび運搬を調整する十二指腸の高度に分化した細胞による鉄の制御性吸収に依存している。胎児において、胎盤の母子間鉄運搬に関与する機構もまた厳重に制御されている。鉄は、タンパク質複合体、フェリチンおよびヘモシデリン、の形をとって身体に貯蔵され、タンパク質複合体、トランスフェリンにより血漿へ運搬される。通常の環境下において、ほんの微量の鉄がこれらの生理的シンクの外側に存在するが、貯蔵された鉄が再利用により動員されうる。これらの高度に制御された機構における撹乱は、身体において鉄過剰または鉄欠乏へと導きうる。
【0004】
鉄欠乏は、世界中で最も多く見られる栄養障害である。40〜50億人もの人々(すなわち、世界の人口の65〜80%)が鉄欠乏性でありうる;および20億人の人々(世界の人口の30%を超える、大部分は子どもおよび妊娠可能年齢の女性)が、主として鉄欠乏により、貧血である。発展途上国において、疾患はマラリアおよび寄生虫感染により悪化する。鉄欠乏は、いかなる他の状態よりも多くの人々を冒し、流行性規模の公衆衛生状態を構成する。鉄過剰障害は、有病率はより低い;しかしながら、それらは重篤な生命にかかわる状態へ導きうる。世界中で、北欧人祖先の約2千4百万人の人々が、ヘモクロマトーシスと呼ばれる遺伝的障害を患っている。もう6億人がその障害の原因である遺伝子の1つを有し、非保因者より最高50%多くの鉄を吸収する。その疾患は、特に肝臓および他の貯蔵器官における、鉄蓄積へと導き、器官不全(肝硬変のような)、心臓発作、癌、および膵臓損傷を引き起こしうる。
【0005】
鉄代謝における機能障害は、それらの頻度だけでなく、治療法の選択肢の欠如によっても世界中に大きな問題をもたらしている(N.C. Andrews, N. Engl. J. Med., 1999, 341:1986-1995(非特許文献4))。鉄過剰状態は、一般的に、鉄キレート剤の投与により処置され、それは蓄積された鉄を再動員し、その排出を可能にすることにより効果を発揮する。しかしながら、実際には、今まで評価されているキレート剤のいずれも完全に満足できるものだと判明したわけではなく、弱い消化管吸収、および低い効果、乏しい選択性、または望ましくない副作用のいずれかを欠点として有する。たいていのヘモクロマトーシス患者において鉄レベルを低下させるための好ましい処置は、治療的瀉血、単に身体から血液を除去することからなる手順、と呼ばれている。ヘモクロマトーシスを有する患者は、通常、比較的短い期間に多数の瀉血を必要とする(週に1回または2回まで)。従って、任意の献血に関してと同じ危険性(例えば、悪心、嘔吐、めまい、失神、血腫、発作、または局所性感染)を有することに加えて、瀉血はまた、患者へ大いに抑圧するものでありうる。
【0006】
鉄塩のいくつかの型は鉄欠乏状態を処置するために用いられる。一般的に、身体の鉄貯蔵を補充するのに数ヶ月間の代償治療がかかる。一部の患者は鉄塩を許容するのが困難であり、これらの物質が胃腸障害を引き起こす傾向にあるからである。研究はまた、幼児に与えられる液体鉄塩調製物が歯の永久的着色を引き起こす可能性があることを報告している。しかしながら、より問題なのは、経口または注射により摂取された高用量の鉄サプリメントが細菌感染に対する感受性を増加させうるという所見である。
【0007】
明らかに、鉄代謝障害の予防および処置のための新規な作用物質および方法の開発が大いに望ましいままである。
【0008】
【非特許文献1】P. Aisen et al., J. Biochem. Cell Biol., 2001, 33:940-959
【非特許文献2】S. Xiong et al., J. Biol. Chem., 2003, 278:17646-17654
【非特許文献3】C. Finch, Blood, 1994, 84:1697-1702
【非特許文献4】N.C. Andrews, N. Engl. J. Med., 1999, 341:1986-1995
【発明の開示】
【0009】
発明の概要
本発明は、ヒトを含む哺乳動物において鉄代謝を制御するための改善された系およびストラテジーを提供する。特に、本発明は、鉄欠乏または鉄過剰に関連した状態の処置のための試薬および方法を含む。本発明はまた、鉄代謝障害の処置に有用な化合物の同定のためのスクリーニングツールおよび方法を提供する。鉄補充、鉄キレート化、および瀉血のような現行の治療と比較して、本発明の方法および組成物は、望ましくない副作用を誘導する可能性が高くない。
【0010】
一般的に、本発明は、哺乳動物における鉄代謝の重要なレギュレーターであるヘプシジン(hepcidin)の発現もしくは活性を、調節および/または制御しうるTGF-βスーパーファミリーのメンバーのシグナル伝達活性のモジュレーターの使用を含む。
【0011】
より具体的には、一つの局面において、本発明は、少なくとも1つのTGF-βスーパーファミリーメンバーのシグナル伝達活性を調節する化合物の有効量を被験体に投与することにより被験体においてヘプシジン発現または活性を制御するための方法を提供する。本発明はまた、少なくとも1つのTGF-βスーパーファミリーメンバーのシグナル伝達活性を調節する化合物の有効量と生体系を接触させることにより生体系においてヘプシジン発現または活性を制御するための方法を提供する。特定の態様において、TGF-βスーパーファミリーメンバーはTGF-βまたはBMPである。被験体に投与される、または生体系と接触させられる化合物は、TGF-βのアゴニスト、TGF-βのアンタゴニスト、BMPのアゴニスト、BMPのアンタゴニスト、またはそれらの組み合わせからなる群より選択される作用物質を含みうる。生体系は、細胞、生体液、生体組織、または動物でありうる。
【0012】
特定の態様において、作用物質は、HJV.Fc融合タンパク質、Dragon.Fc融合タンパク質、DLN.Fc融合タンパク質、sTβRII.Fc融合タンパク質、sTβRII-B.Fc融合タンパク質、およびsTβRIIIΔ.Fc融合タンパク質からなる群より選択される。いくつかの態様において、作用物質は、変異型HJV.Fc融合タンパク質、変異型Dragon.Fc融合タンパク質、および変異型DLN.Fc融合タンパク質からなる群より選択される融合タンパク質を含み、変異型融合タンパク質はタンパク分解性切断が不可能である。
【0013】
被験体または生体系においてヘプシジン発現または活性を抑制するための方法において、被験体に投与される、または生体系と接触させられる化合物は、好ましくは、TGF-βのアゴニスト、BMPのアンタゴニスト、またはそれらの組み合わせである。被験体または生体系においてヘプシジン発現または活性を増強するための方法において、被験体に投与される、または生体系と接触させられる化合物は、好ましくは、TGF-βのアンタゴニスト、BMPのアゴニスト、またはそれらの組み合わせである。
【0014】
もう一つの局面において、本発明は、少なくとも1つのTGF-βスーパーファミリーメンバーのシグナル伝達活性を調節する化合物の有効量を被験体に投与する、または生体系と接触させることにより、被験体または生体系において鉄代謝または鉄代謝過程を制御するための方法を提供する。鉄代謝過程は、鉄取り込み、鉄吸収、鉄運搬、鉄貯蔵、鉄プロセッシング、鉄動員、鉄利用、またはそれらの組み合わせでありうる。
【0015】
被験体または生体系が鉄欠乏を示す、または示す危険性がある場合、これらの方法に用いられる化合物は、好ましくは、TGF-βのアゴニスト、BMPのアンタゴニスト、またはそれらの組み合わせである。被験体または生体系が鉄過剰を示す、または示す危険性がある場合、化合物は、好ましくは、TGF-βのアンタゴニスト、BMPのアゴニスト、またはそれらの組み合わせである。
【0016】
さらにもう一つの局面において、本発明は、被験体において鉄代謝における撹乱と関連した状態を処置または予防するための方法を提供する。本発明の方法は、少なくとも1つのTGF-βスーパーファミリーメンバーのシグナル伝達活性を調節する化合物の有効量を被験体に投与する段階を含む。特定の態様において、TGF-βスーパーファミリーメンバーはTGF-βまたはBMPである。いくつかの態様において、化合物の被験体への投与は、結果として、被験体におけるヘプシジン発現または活性の制御を生じる。
【0017】
本発明の方法において投与される化合物は、TGF-βのアゴニスト、TGF-βのアンタゴニスト、BMPのアゴニスト、BMPのアンタゴニスト、またはそれらの組み合わせからなる群より選択される作用物質を含みうる。特定の態様において、作用物質は、HJV.Fc融合タンパク質、Dragon.Fc融合タンパク質、DLN.Fc融合タンパク質、sTβRII.Fc融合タンパク質、sTβRII-B.Fc融合タンパク質、およびsTβRIIIΔ.Fc融合タンパク質からなる群より選択される。いくつかの態様において、作用物質は、変異型HJV.Fc融合タンパク質、変異型Dragon.Fc融合タンパク質、および変異型DLN.Fc融合タンパク質からなる群より選択される融合タンパク質を含み、変異型融合タンパク質はタンパク分解性切断が不可能である。
【0018】
被験体が鉄欠乏と関連した状態を有する、または状態を有する危険性がある場合、これらの方法に用いられる化合物は、好ましくは、BMPのアンタゴニスト、TGF-βのアゴニスト、またはそれらの組み合わせである。本発明の方法により処置および/または予防されうる鉄欠乏と関連した状態は、限定されるわけではないが、慢性疾患の貧血、鉄欠乏性貧血、機能性鉄欠乏、および小球性貧血を含む。特定の態様において、方法は、鉄補充処置を被験体に施す段階をさらに含む。
【0019】
被験体が鉄過剰と関連した状態を有する、または状態を有する危険性がある場合、処置の方法に用いられる化合物は、好ましくは、BMPのアゴニスト、TGF-βのアンタゴニスト、またはそれらの組み合わせである。本発明の方法により処置および/または予防されうる鉄過剰と関連した状態は、限定されるわけではないが、成人性ヘモクロマトーシスおよび若年性ヘモクロマトーシスを含む。特定の態様において、方法は、鉄キレート化処置を被験体に施す段階をさらに含む。いくつかの態様において、方法は被験体への瀉血を行う段階をさらに含む。
【0020】
さらにもう一つの局面において、本発明は、生体系においてヘプシジン発現または活性を制御する化合物を同定するための方法、および生体系において鉄代謝または鉄代謝過程を制御する化合物を同定するための方法を提供する。これらの方法において、生体系は、好ましくは、少なくとも1つのTGF-βスーパーファミリーメンバーを発現する。
【0021】
これらの方法は、生体系を候補化合物と、候補化合物がTGF-βスーパーファミリーメンバーのシグナル伝達活性を調節するのに十分な条件下および時間、インキュベートし、それにより試験系を得る段階;試験系においてTGF-βスーパーファミリーメンバーのシグナル伝達活性を代表する少なくとも1つの因子を測定する段階;候補化合物無しで同じ条件下で同じ時間、系をインキュベートし、それにより対照系を得る段階;対照系において因子を測定する段階;試験系および対照系において測定された因子を比較する段階;ならびに、試験系で測定された因子が対照系で測定された因子より少ないまたは多い場合には、候補化合物が系においてヘプシジン発現または鉄代謝を制御すると決定する段階を含む。
【0022】
特定の態様において、TGF-βスーパーファミリーメンバーはTGF-βまたはBMPであり、レギュレーターであると同定される化合物は、TGF-βのアゴニスト、TGF-βのアンタゴニスト、BMPのアゴニスト、BMPのアンタゴニストからなる群より選択される。いくつかの態様において、作用物質は、変異型HJV.Fc融合タンパク質、変異型Dragon.Fc融合タンパク質、および変異型DLN.Fc融合タンパク質からなる群より選択される融合タンパク質を含み、変異型融合タンパク質はタンパク分解性切断が不可能である。
【0023】
本発明はまた、薬学的に許容される担体、および本発明のスクリーニング方法により同定された、鉄代謝の少なくとも1つのレギュレーターまたはヘプシジン発現もしくは活性の少なくとも1つのレギュレーターの有効量を含む薬学的組成物を提供する。鉄代謝における撹乱と関連した状態の処置または予防においてこれらの同定されたレギュレーターを用いる方法もまた提供される。
【0024】
定義
本明細書中を通して、以下の段落に定義されるいくつかの用語が用いられる。
【0025】
本明細書に用いられる場合、「TGF-βスーパーファミリー」という用語は、TGF-βスーパーファミリーの任意のメンバーを指し、とりわけ、アクチビン、インヒビン、トランスフォーミング増殖因子(Transforming Growth Factor)β(TGF-β)、増殖分化因子(Growth and Differentiation Factor)(GDF)、骨形成タンパク質(Bone Morphogenetic Protein)(BMP)、およびミュラー管抑制物質(Mullerian Inhibiting Substance)(MIS)を含む。本発明の文脈において、特定の好ましいTGF-βスーパーファミリーメンバーは、TGF-βおよびBMPを含む。
【0026】
鉄代謝または鉄代謝過程に適用される場合の「撹乱」という用語は、正常な状態、機能、および/もしくは活性のレベルからの任意の妨害、調節不全、ならびに/または逸脱を指す。鉄代謝過程は、鉄取り込み、鉄吸収、鉄運搬、鉄貯蔵、鉄プロセッシング、鉄動員、および鉄利用を含む。一般的に、鉄代謝における撹乱は、結果として、鉄過剰または鉄欠乏を生じる。本明細書に用いられる場合、「鉄過剰」という用語は、特定の組織または特定の生体系における正常レベルを有意に上回る、被験体の組織または生体系に存在する鉄の量を指す。「鉄欠乏」という用語は、特定の組織または特定の生体系における正常レベルを有意に下回る、被験体の組織または生体系に存在する鉄の量を指す。正常レベルより有意に下回るまたは有意に上回る鉄の量は、生理学的に望ましくない、および/または被験体もしくは生体系に有害である、もしくは有害になる可能性がある、鉄の任意の量に対応する。鉄レベルの測定のための方法は当技術分野において公知である(下記参照)。
【0027】
本明細書に用いられる場合、「鉄代謝または鉄代謝過程の撹乱と関連した状態」という用語は、鉄過剰または鉄欠乏により特徴付けられる任意の疾患、障害、症候群、または状態を指す。
【0028】
「予防」という用語は、鉄代謝における撹乱と関連した病態生理学的状態の発症を遅らせる、または(例えば、その状態の素因をもっている可能性があるが、それに罹っているとまだ診断されていない被験体において)防ぐことに向けられる方法を特徴付けるために本明細書に用いられる。
【0029】
「処置」という用語は、(1)鉄代謝における撹乱と関連した状態の発症を遅らせる、もしくは防ぐこと;または(2)状態の症状の進行、重症化、もしくは悪化を遅らせる、もしくは止めること;または(3)状態の症状の緩解をもたらすこと;または(4)状態を治癒させることに向けられる方法を特徴付けるために本明細書に用いられる。処置は、予防的または防止的行為として疾患の発症前に施されてもよい。それはまた、治療的行為として疾患の開始後施されてもよい。
【0030】
「化合物」および「作用物質」という用語は、本明細書で交換可能に用いられる。それらは、生体高分子(例えば、核酸、ポリペプチド、またはタンパク質)、有機もしくは無機分子、または細菌、植物、真菌、もしくは動物(特に、ヒトを含む哺乳動物)の細胞もしくは組織のような生物学的物質から作製された抽出物のような、任意の天然または非天然(すなわち、合成または組換え)分子を指す。化合物は、単一分子、2つもしくはそれ以上の分子の混合物、または少なくとも2つの分子の複合体でありうる。
【0031】
「候補化合物」という用語は、対象となる活性について試験されることになっている化合物または作用物質(上で定義されたとおり)を指す。本発明の特定のスクリーニング方法において、候補化合物は、TGF-βスーパーファミリーメンバーのシグナル伝達活性の調節を通して、ヘプシジン発現を制御する、および/または鉄代謝を制御する能力について評価される。
【0032】
生物学的現象(鉄代謝、およびヘプシジン発現または活性のような)に適用される場合の「制御」という用語は、生物学的現象の調節を可能にする過程を指す。「制御」という用語はまた、生物学的現象を調節する化合物の能力を指す。例えば、鉄代謝を制御する過程または化合物は、鉄過剰を示す被験体もしくは生体系において鉄レベルを減少させる能力;および/または鉄欠乏を示す被験体もしくは生体系において鉄レベルを増加させる能力を有する。本発明の文脈において、生物学的現象の制御が起こる機構は、好ましくは、TGF-βスーパーファミリーメンバーのシグナル伝達活性の調節を介する。本発明のスクリーニング方法において、候補化合物がヘプシジン発現または活性を制御することが見出された場合、それは、ヘプシジン発現または活性の「レギュレーター」であると同定される。
【0033】
本明細書に用いられる場合、「TGF-βスーパーファミリーメンバーのシグナル伝達活性の調節」という用語は、TGF-βスーパーファミリーメンバーの効果の持続時間を増加もしくは延長させる、または減少もしくは低減させる化合物の能力を指す。本発明のスクリーニング方法において、候補化合物がそのような増強または抑制を誘導することが見出された場合、それは、TGF-βスーパーファミリーメンバーのシグナル伝達活性の「モジュレーター」であると同定される。
【0034】
「アゴニスト」という用語は、当技術分野において認められているように用いられる。一般的に、その用語は、ポリペプチドもしくは核酸の効果の持続時間を増加または延長させる化合物を指す。アゴニストは、直接的アゴニストであってよく、その場合、それはポリペプチドもしくは核酸と相互作用する(例えば結合する)ことによりその効果を発揮する分子であるか、または間接的アゴニストであってよく、その場合、それは、ポリペプチドもしくは核酸との相互作用による以外の機構によって(例えば、ポリペプチドもしくは核酸の発現または安定性を変化させることにより、ポリペプチドもしくは核酸の標的の発現または活性を変化させることにより、ポリペプチドまたは核酸が関与する経路における中間体と相互作用することにより、など)その効果を発揮する。
【0035】
「アンタゴニスト」という用語は、当技術分野において認められているように用いられることを意図される。一般的に、その用語は、ポリペプチドもしくは核酸の効果の持続時間を減少または低減させる化合物を指す。アンタゴニストは、直接的アンタゴニストであることができ、その場合、それはポリペプチドもしくは核酸と相互作用する(例えば結合する)ことによりその効果を発揮する分子である、または間接的アゴニストであることができ、その場合、それは、ポリペプチドもしくは核酸との相互作用による以外の機構によって(例えば、ポリペプチドもしくは核酸の発現または安定性を変化させることにより、ポリペプチドもしくは核酸の標的の発現または活性を変化させることにより、ポリペプチドまたは核酸が関与する経路における中間体と相互作用することにより、など)その効果を発揮する。
【0036】
本明細書に用いられる場合、「有効量」という用語は、意図された目的を果たすのに十分である化合物または作用物質の任意の量を指す。本発明の文脈において、目的は、例えば、以下でありうる:TGF-βスーパーファミリーメンバーのシグナル伝達活性を調節すること;および/またはヘプシジン発現もしくは活性を制御すること;および/または鉄代謝もしくは鉄代謝過程を制御すること;および/または鉄代謝における撹乱と関連した状態の発症を遅らせる、もしくは防ぐこと;および/または状態の症状の進行、重症化、もしくは悪化を遅らせる、もしくは止めること;および/または状態の症状の緩解をもたらすこと;および/または状態を治癒させること。
【0037】
「被験体」という用語は、鉄代謝における撹乱と関連した病態生理学的状態に冒される可能性があるが、そのような状態を有する場合も有しない場合もある、ヒトまたは別の哺乳動物を指す。
【0038】
「系」および「生体系」という用語は、本明細書で交換可能に用いられる。系は、鉄過剰または鉄欠乏を示しうる任意の生物学的実体でありうる。生体系は、好ましくは、少なくとも1つのTGF-βスーパーファミリーメンバーを発現するものである。いくつかの好ましい系はTGF-βおよび/またはBMPを発現する。生体系はまた、好ましくは、ヘプシジンを発現しうる、またはヘプシジンを含みうる。本発明の文脈において、インビトロ、インビボ、およびエクスビボの系が考えられる;および系は、細胞、生体液、生体組織、または動物でありうる。系は、例えば、生きている被験体(例えば、それは血液を採取することにより、または生検により得てもよい)、または死んだ被験体(例えば、それは剖検で得てもよい)が起源であってよい。
【0039】
本明細書に用いられる場合、「生体液」という用語は、被験体により生成される、および被験体から得られる液体を指す。生体液の例は、限定されるわけではないが、尿、血清、および血漿を含む。本発明において、生体液は、精製により、例えば、限外濾過またはクロマトグラフィーにより、引き出されたそのような液体の全画分または任意の画分を含む。本明細書に用いられる場合、「生体組織」という用語は、被験体から得られる組織を指す。生体組織は、身体における任意の器官もしくは系(例えば、肝臓、胃腸管、腎臓、膵臓など)の全体または部分でありうる。
【0040】
「薬学的組成物」は、本発明の少なくとも1つの化合物(すなわち、本発明のスクリーニング方法により鉄代謝のレギュレーター、および/またはヘプシジン発現もしくは活性のレギュレーターであると同定された候補化合物)および少なくとも1つの薬学的に許容される担体を含むと本明細書で定義される。
【0041】
本明細書に用いられる場合、「薬学的に許容される担体」という用語は、活性成分の生物活性の効果に干渉しない、かつそれが投与される濃度で宿主に対して過度に毒性であるということはない担体媒質を指す。その用語は、溶媒、分散媒、コーティング剤、抗細菌剤および抗真菌剤、等張剤、吸収遅延剤などを含む。薬学的活性物質の製剤のためのそのような媒質および剤の使用は当技術分野において周知である(例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences, E.W. Martin, 第18版, 1990, Mack Publishing Co., Easton, PA参照)。
【0042】
特定の好ましい態様の詳細な説明
上で述べられているように、本発明は、哺乳動物において鉄代謝を制御するための改善された系およびストラテジーを提供する。特に、本発明の化合物および方法は、現行の治療より望ましくない副作用を誘導する可能性が低い。
【0043】
I. 鉄代謝のレギュレーターとしてのTGF-βスーパーファミリーメンバーのアゴニストおよびアンタゴニスト
本発明は、TGF-βスーパーファミリーの特定のメンバーが、哺乳動物における鉄代謝の重要なレギュレーターであるヘプシジンの発現を制御することができるという発見を含む。実施例1に記載されているように、本出願人らは、BMP(骨形成タンパク質)シグナル伝達がHepG2肝臓ヘパトーマ細胞においてヘプシジン発現を誘導するが、TGF-β(トランスフォーミング増殖因子-β)シグナル伝達はヘプシジンの発現を抑制することを認識している。さらに、周知のBMPアンタゴニストであるノギンを用いて、出願人らは、BMPシグナル伝達の阻害がヘプシジン発現の低下を生じることを示している。
【0044】
従って、本発明は、TGF-βスーパーファミリーのメンバーのアゴニストおよび/またはアンタゴニストを用いて、ヘプシジン発現または活性を制御し、それが次に鉄代謝を制御する方法を提供する。
【0045】
A. ヘプシジン
ヘプシジンは、ごく最近になってヒト尿および血漿限外濾過液から精製された抗菌性質を有する小さなシステインに富む陽イオン性ペプチドである(C.H. Park et al., J. Biol. Chem., 2001, 276:7806-7810; A. Krause et al., FEBS Lett., 2000, 480:147-150)。アミノ酸末端切り詰めにより異なる、20個、22個、または25個のアミノ酸のこのペプチドは、はしご型様式で4つのジスルフィド架橋により連結された2つのアームを有する短いヘアピンを形成する。ヘプシジンは、種間で保存されている8個のシステイン残基を含む(G. Nicolas et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 2001, 98:878-885; C. Pigeon et al., J. Biol. Chem., 2001, 276:7811-7819)。ペプチドは最初、尿および血液から単離されたが、ヘプシジンはマウスおよびヒトの両方において肝臓で大部分は発現する。発現はまた、心臓および脳で検出可能であるが、非常に低い程度である(C.H. Park et al., 2001; C. Pigeon et al., 2001)。最近、ヘプシジンはまた、腎臓で発現していることが見出されている(H. Kulaksiz et al., J. Endocrinol., 2005, 184:361-370)。
【0046】
ヒトにおいてその遺伝子の1個のコピーのみが存在するが、マウスにおいては2個のヘプシジン遺伝子(Hepc1およびHepc2)が報告されている(G. Nicolas et al., Proc. Natl., Acad. Sci. USA, 2001, 98:878-885; C. Pigeon et al., J. Biol. Chem., 2001, 276:7811-7819)。ヒトおよびマウスの両方のヘプシジン遺伝子は、3つのエクソンおよび2つのイントロンからなり、第三エクソンは尿に見出される成熟ペプチドをコードしている。ヒトおよびラットにおいて、エクソンは、推定上の24アミノ酸のシグナルペプチドを含む84(マウスにおいて83)アミノ酸の前駆体をコードする。
【0047】
ヘプシジンと鉄代謝の間の関係は、最初、Pigeon et al.(J. Biol. Chem., 2001, 276:7811-7819)により、鉄過剰に対する肝臓応答を研究中に見出された。他の研究は、ヘプシジンmRNAを欠損するマウスが、肝臓および膵臓を冒す鉄過剰を、マクロファージに富む脾臓における欠乏と共に起こしたことを示している(G. Nicolas et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 2001, 98:8780-8785)。ヘプシジンを過剰発現するトランスジェニックマウスは、生まれた時に重度の鉄欠乏で死んだことが観察された(G. Nicolas et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 2002, 99:4596-4601)。これらの研究は、ヘプシジンが、小腸における鉄吸収、マクロファージからの再循環される鉄の放出(R.E. Fleming and W.S. Sly, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 2001, 98:8160-8162)、および胎盤を通しての鉄の運搬(G. Nicolas et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 2002, 99:4596-4601)を抑制することを示唆した。動物研究に一致して、大きな肝細胞腺腫およびそうでなければ原因不明の鉄不応性貧血を有する患者は、肝臓においてヘプシジンmRNAの過剰発現を示す(D.A. Weinstein et al., Blood, 2002, 100:3776-3781)。最近の研究は、ヘモクロマトーシス遺伝子(HFE)関連ヘモクロマトーシスにおける異常なヘプシジン発現および乱されたヘプシジン制御(K.R. Bridle et al., Lancet, 2003, 361:669-673; H. Kulaksiz et al., Gut, 2004, 53:735-743)、ならびにヘプシジン変異の重症若年性ヘモクロマトーシスとの関連(A. Roetto et al., Nature Genetics, 2003, 33:21-22)を見出している。これらおよび他の観察に基づいて、ヘプシジンが鉄代謝の負のレギュレーターとして働く鉄恒常性の重要な成分であることを示唆している。
【0048】
B. TGF-βスーパーファミリーメンバー
リガンドのTGF-βスーパーファミリーは、現在、30より多いメンバーを含み、とりわけ、アクチビン、インヒビン、トランスフォーミング増殖因子-β(TGF-β)、増殖分化因子(GDF)、骨形成タンパク質(BMP)、およびミュラー管抑制物質(MIS)を含む。これらの分子のすべては、TGF-βと構造的に関連しているペプチド増殖因子である。それらはすべて、剛構造に組織化されている7個の特に保存されたシステイン残基により構成される、システインノットと呼ばれる共通のモチーフを共有する(J. Massague, Annu. Rev. Biochem., 1998, 67:753-791)。古典的なホルモンと違い、TGF-βスーパーファミリーのメンバーは、効果が増殖因子自身と同じくらい標的細胞の型および時期に依存する多機能性タンパク質である。
【0049】
本発明の方法の実施における使用に適したTGF-βスーパーファミリーメンバーは、シグナル伝達活性がヘプシジンの発現または活性を制御することができるTGF-βスーパーファミリーの任意のメンバーを含む。好ましいTGF-βスーパーファミリーメンバーは、限定されるわけではないが、TGF-βおよびBMPを含む。
【0050】
トランスフォーミング増殖因子-β(TGF-β)
本発明の特定の態様において、TGF-βスーパーファミリーメンバーはTGF-βである。TGF-βは、広範囲の生物学的過程に関与し(J. Massague, Ann. Rev. Cell. Biol., 1990, 6:597-641)、胚形成、成体組織修復、および免疫抑制中の重要事象において中心的役割を果たす細胞外ポリペプチドである(M.B. Sporn and A.B. Roberts, J. Cell. Biol. 1992, 119:1017-1021; S.W. Wahl, J. Clin. Immunol. 1992, 12:61-74; D.M. Kingsley, Genes Dev. 1994, 8:133-146)。哺乳動物において、TGF-βは生物体のほとんどすべての細胞により産生され、ほとんどすべての細胞はその効果の標的としての役割を果たすことができる。TGF-βは、細胞増殖、細胞分化、アポトーシス、および細胞外マトリックス産生の強力なレギュレーターである。
【0051】
哺乳動物細胞は、TGF-βの3つの異なるアイソフォーム:TGF-β1、TGF-β2、およびTGF-β3を産生できる。これらのアイソフォームは同じ基本構造を示し(それらは、鎖内および鎖間のジスルフィド結合により安定化される112アミノ酸のホモ二量体である)、それらのアミノ酸配列は高度の相同性(>70%)を示す。しかしながら、各アイソフォームは、別々の遺伝子によりコードされ、それぞれが、組織特異的な、および発生学的に制御された、両方の様式で発現する(J. Massague, Annu. Rev. Biochem. 1998, 67:753-791)。最新の概念によれば、TGF-βは、最初に標的細胞上の膜受容体に結合し、それにより下流シグナル伝達事象を惹起することによりその効果を発揮する。架橋結合研究は、TGF-βが主に、I型、II型、およびIII型のTGF-β受容体と呼ばれる3つの高親和性細胞表面タンパク質に結合することを示している(J. Massague and B. Like, J. Biol. Chem. 1985, 260:2636-2645; S. Cheifetz et al., J. Biol. Chem. 1986, 261:9972-9978)。
【0052】
本発明の方法による鉄代謝の制御は、抑制または増強が結果としてヘプシジン発現または活性の制御を生じる限り、TGF-βのアイソフォーム(すなわち、TGF-β1、TGF-β2、およびTGF-β3)のいずれか1つのシグナル伝達活性の抑制または増強により達成されうる。
【0053】
骨形成タンパク質(BMP)
本発明の他の態様において、TGF-βスーパーファミリーメンバーはBMPである。BMPはもともとは、異所性(すなわち、非骨格)部位で骨形成を誘導するタンパク質であると同定された(A.H. Reddi, Curr. Opin. Genet. Dev., 1994, 4:737-744)。しかしながら、骨および軟骨形態形成におけるそれらの役割に加えて、BMPはまた、目、心臓、血液、肺、腎臓、筋肉、皮膚、および他の組織の生前発育ならびに生後の成長および/または修復に関与している(K.A. Waite and C. Eng, Nat. Rev. Genet., 2003, 4:763-773)。研究は、BMPが、間葉細胞、上皮細胞、造血細胞、および神経細胞を含む様々な細胞型の増殖、アポトーシス、分化、および走化性を制御するにおいて重要な役割を果たすことを示している。(J. Massague and Y.G. Chen, Genes Dev., 2000, 14:627-644; K. Miyazono et al., J. Cell Physiol., 2001, 187:265-276: N. Morrell et al., Circulation, 2001, 104:790-795; A. von Budnoff and K.W.Y. Cho, Dev. Biol., 2001, 239:1-14)。
【0054】
TGF-βスーパーファミリーの他のメンバーと類似した様式で、BMPは、膜貫通セリン/トレオニンキナーゼ受容体の2つの異なる型:I型およびII型の複合体を形成することによりそれらの効果を媒介する(C.H. Heldin et al., Nature, 1997, 390:465-471; J. Newman et al., N. Engl. J. Med., 2001, 345:319-324; B.L. Rosenzweig et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 1995, 92:7632-7636)。3つの異なるBMP I型受容体(アクチビン受容体様キナーゼALK2、ALK3、およびALK6)および3つのBMP II型受容体(BMP II型受容体(BMPRII);アクチビンIIA型受容体(ActRIIA);およびアクチビンIIB型受容体(ActRIIB))が同定されている(L. Attisano and J.L. Wrana, Science, 2002, 296:1646-1647)。BMP結合は、細胞質受容体活性化Smadのリン酸化へと導く、I型受容体のII型受容体によるリン酸化を誘導する(C.H. Heldin et al., Nature, 1997, 390:465-471)。
【0055】
今まで、20個近くのBMPアイソフォームが哺乳動物において同定かつ特徴付けられており、より新しいものが発見されつつある(M. Kawabata et al., Cytokine Growth Factor Rev., 1998, 9:49-61)。BMPファミリーメンバーは、それらがお互いに構造的にどれくらい密接に関連しているかによりサブグループに分類されている(T. Sakou, Bone, 1998, 22:591-603; R.G. Schaub and J. Wozney, Curr. Opin. Biotechnol., 1991, 2:868-871; J.M. Schmitt et al., J. Orthop. Res., 1999, 17:269-278)。インビボで、BMPアイソフォームは、発現の異なるプロファイル、受容体に対する異なる親和性、およびそれゆえに、固有の生物活性を有する。
【0056】
本発明の方法による鉄代謝の制御は、抑制または増強が結果としてヘプシジン発現または活性の制御を生じる限り、BMPのアイソフォームのいずれか1つのシグナル伝達活性の抑制または増強により達成されうる。
【0057】
C. TGF-βスーパーファミリーメンバーのアゴニストおよびアンタゴニスト
本発明の方法における使用に適したTGF-βスーパーファミリーメンバーのアゴニストおよびアンタゴニストは、調節が結果としてヘプシジン発現または活性の制御を生じるように、TGF-βスーパーファミリーメンバーのシグナル伝達活性を調節する(すなわち、増強する、または抑制する)能力を有する任意の化合物または作用物質を含む。
【0058】
適したアゴニストおよびアンタゴニストは、TGF-βスーパーファミリーメンバーの天然のアゴニストおよびアンタゴニスト(天然のアゴニストおよびアンタゴニストリガンドの生物学的特徴を保持するそれらの断片ならびに変種を含む)を含む。適したアゴニストおよびアンタゴニストはまた、合成またはヒト組換え化合物を含む。アゴニストとして機能することができる分子のクラスは、限定されるわけではないが、小分子、抗体(Fab断片、Fab'2断片、およびscFvのようなそれらの断片または変種を含む)、およびペプチド模倣体を含む。アンタゴニストとして機能することができる分子のクラスは、限定されるわけではないが、小分子、抗体(それらの断片または変種を含む)、融合タンパク質、アンチセンス、ポリヌクレオチド、リボザイム、低分子干渉RNA(sRNAi)、およびペプチド模倣体を含む。
【0059】
当業者により認識されているように、例えば、本発明のスクリーニングアッセイ(下記)により、TGF-βスーパーファミリーメンバーのモジュレーターであると同定される任意の化合物または作用物質は、本発明の方法の実施における使用に適している。特に、高特異性を示す小分子モジュレーターはこれらの方法において価値がありうる。
【0060】
BMPのアゴニストおよびアンタゴニスト
BMPの様々なアンタゴニストは当技術分野において公知である(例えば、それぞれその全体が参照により本明細書に組み入れられている、G.J. Thomsen et al., Trends Genet., 1997, 13:209-211; E. Canalis et al., Endocr. Rev. 2003, 24:218-235; V.A. Botchkarev, J. Invest. Dermatol., 2003, 120:36-47;米国特許第6,432,410号参照)。特に、BMPの効果は、BMPを結合し、それによりそれらの特異的な細胞表面受容体への結合を排除することによりBMPシグナル伝達を妨げる1群の分泌ポリペプチドにより調節されうる。本発明の実施における使用に適したBMPアンタゴニストは、限定されるわけではないが、ノギン、コーディン、ベントロプチン(ventroptin)、フォリスタチン、およびフォリスタチン関連遺伝子(FLRG)を含む。他の適したBMPアンタゴニストは、集合的にDANファミリーと名付けられている、セルベルス(cerberus)、グレムリン(gremlin)、カロンテ(caronte)、DAN、Dante、およびスクレロスチン(sclerostin)、ならびに他の構造的に関連したタンパク質を含む(その全体が参照により本明細書に組み入れられている、D. Hsu et al., Mol. Cell, 1998, 1:673-683)。DANファミリーのタンパク質は、TGF-β様因子を含む他の増殖因子にも見出されている、保存されたシステインノットモチーフを有する(J.J. Pearce et al., Dev. Biol., 1999, 209:98-110; C.R. Rodrigez Esteban et al., Nature, 1999, 401:243-251)。しかしながら、他のBMPアンタゴニストは、お互いとの配列類似性を欠く。インビボで、これらのBMPアンタゴニストは、別個の発現プロファイル、様々なBMPアイソフォームに対する異なる親和性を有し、異なる生物学的応答を制御する。
【0061】
本発明はまた、他のBMPアンタゴニストを提供する。実施例2に報告されているように、ヘモジュベリン(HJV)は、タンパク質の反発性誘導分子(repulsive guidance molecule)(RGM)ファミリーのメンバーである。HJV変異を有する個体は、ヘプシジンのレベルの低下を示すことが知られている。本出願人らは、HJVがBMPを増強するが、TGF-βシグナル伝達を増強しないことを示している。彼らが得た結果は、HJVがBMP-2へ直接的に結合すること、およびHJVのBMPシグナル伝達への増強効果がノギンの投与により低下することを実証しており、HJVの作用がリガンド依存性であることを示している。従って、可溶性HJV.Fc融合タンパク質のファミリーは、本発明の実施における使用に適したBMPアンタゴニストとして本明細書に提供される。
【0062】
本出願人らは近年、発達中の神経系において初期に発現する、RGMファミリーの436アミノ酸のグリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)アンカー型メンバーであるDRAGONは、BMPを増強するが、TGF-βシグナル伝達を増強せず、BMP補助受容体として作用することを報告した(その全体が参照により本明細書に組み入れられている、T.A. Samad et al., 「DRAGON: a bone morphogenetic protein co-receptor」, J. Biol. Chem.,, 2005, 280:14122-14129)。従って、本発明は、本発明の方法における使用に適したBMPアンタゴニストとして可溶性DRAGON.Fc融合タンパク質のファミリーを提供する。本発明の実施で用いられうるDRAGON.Fc融合タンパク質の例は、本出願人らにより記載されている(その全体が参照により本明細書に組み入れられている、T.A. Samad et al., 「DRAGON: A member of the repulsive guidance molecule-related family of neuronal- and muscle-expressed membrane proteins is regulated by DRG11 and has neuronal adhesive properties」, J. Neuroscience, 2004, 24:2027-2036)。可溶性DRAGON.Fc融合タンパク質は、BMP-2およびBMP-4へ選択的に結合するが、BMP-7またはリガンドのTGF-βスーパーファミリーの他のメンバーに結合しないことが見出されている(T.A. Samad et al., J. Biol. Chem., 2005, 280:14122-14129)。
【0063】
本発明の実施における使用に適したBMPアンタゴニストとしてRGMa.Fc(またはDLN.Fc)融合タンパク質のファミリーもまた本明細書に提供される。DRAGONと同様に、RGMaは遺伝子の反発性誘導分子(RGM)ファミリーのメンバーである。RGMaおよびDRAGONは中枢神経系において相補的様式で発現しており、RGMaは反発的軸索誘導および神経管閉鎖を媒介し、一方、DRAGONは同種親和性相互作用を通して神経細胞接着に寄与する。本出願人らは、RGMaが細胞培養においてリガンド依存性様式でBMPシグナルを増強するが、TGF-βシグナルを増強しないこと、ならびにヒトFc(RGMa.FcまたはDLN.Fc)に融合したRGMaの可溶性細胞外ドメインがBMP 1型受容体と複合体を形成し、放射標識されたBMP-2およびBMP-4へ直接的かつ選択的に結合することを示している(その全体が参照により本明細書に組み入れられている、J.L. Babitt et al., 「Repulsive guidance molecule (RGMa), a DRAGON homologue, is a bone morphogenetic protein co-receptor」, J. Biol. Chem., 2005, 280:29820-29827)。
【0064】
本発明はまた、変異型HJV、RGMa、およびDRAGON融合タンパク質を提供する。特に、対応する野生型バージョンよりタンパク分解性切断に対して安定している、変異型HJV、RGMa、およびDRAGON融合タンパク質が提供される。HJV、RMGa、およびDRAGONがコンセンサスタンパク分解性切断部位を共有することは、当技術分野において公知である。ヒトHJVについて、切断部位はアスパラギン酸残基172位の後に(その全体が参照により本明細書に組み入れられている、G. Papanikolaou et al., Nature Genetics, 2004, 36:77-82);ヒトDRAGONについて、アスパラギン酸残基168位の後に(その全体が参照により本明細書に組み入れられている、T.A. Samad et al., J. Neuroscience, 24:2027-2036);およびヒトRGMaについて、アスパラギン酸残基168位の後(Genbank配列# NM 020211)に、位置している。
【0065】
本発明の変異型HJV、RGMa、およびDRAGON融合タンパク質は、融合タンパク質へ安定性、特にタンパク分解性切断に対する安定性を与える、1つの変異、または複数の変異を含む。例えば、切断部位に近接して位置するアスパラギン酸残基は、異なる残基に置換されうる、または除去されうる。代わりとして、または追加として、切断部位の近くの残基が、異なる残基に置換されうる、または除去されうる。変種を提供するために単離されたポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列の特定の部分において特異的変異を可能にする方法は、当技術分野において公知である。本出願人らは、タンパク分解性に切断されない変異型HJV、RGMa、およびDRAGONタンパク質を産生する可能性を、実施例4に報告されているように、実証している。
【0066】
TGF-βのアゴニストおよびアンタゴニスト
TGF-βシグナル伝達を増強または抑制する複数の天然のモジュレーターが同定されている。TGF-βリガンドの受容体へのアクセスは、リガンドを結合して隔離する可溶性タンパク質LAP、デコリン、およびα2-マクログロブリンにより阻害される(W. Balemans and W. Van Hul, Dev. Biol., 2002, 250:231-250)。TGF-βリガンドの受容体へのアクセスはまた、膜結合型受容体により調節される。BAMBIはI型受容体と競合するデコイ受容体として働く(D. Onichtchouk et al., Nature, 1999, 401:480-485);β-グリカン(TGF-β II型受容体)はTGF-βのII型受容体への結合を増強する(C.B. Brown et al., Science, 1999, 283:2080-2082; J. Massague, Annu. Rev. Biochem., 1998, 67:735-791; E. del Re et al., J. Biol. Chem., 2004, 279:22765-22772);およびエンドグリンは内皮細胞においてTGF-βのALK1への結合を増強する(D.A. Marchuk, Curr. Opin. Hematol., 1998, 5:332-338; J. Massague, Nat. Rev. Mol. Cell Biol., 200, 1:169-178; Y. Shi and J. Massague, Cell, 2003, 113:685-700)。クリプト(cripto)、EGF-CFC GPIアンカー型膜タンパク質はTGF-βリガンド、ノーダル(nodal)、Vg1、およびGDF1のアクチビン受容体への結合を増加させる補助受容体として働くが(S.K. Cheng et al., Genes Dev., 2003, 17:31-36; M.M. Shen and A.F. Schier, Trends Genet., 2000, 16:303-309)、同時にアクチビンシグナル伝達を遮断する。
【0067】
従って、本発明の実施における使用に適したTGF-βシグナル伝達のアゴニストおよびアンタゴニストは、天然のTGF-βアンタゴニスト(例えば、デコリン、例えば、その全体が参照により本明細書に組み入れられている、Y. Yamaguchi et al., Nature, 1990, 346:281-284参照);天然のTGF-βアゴニストの可溶型(例えば、エンドグリンの可溶型、例えば、それぞれその全体が参照により本明細書に組み入れられている、米国特許第5,719,120号;第5,830,847号;および第6,015,693号参照);および天然のTGF-βアンタゴニストのインヒビターを含む。
【0068】
他の適したTGF-βアンタゴニストは、治療目的としてTGF-βの望ましくない効果を抑制するために開発されているアンタゴニストを含む。例えば、解離定数がナノモル範囲であると報告されている抗TGF-β抗体が記載されている(その全体が参照により本明細書に組み入れられている、米国特許第5,571,714号)。これらの抗TGF-β抗体は、多様な病理学的状態を有する動物へ投与することに成功している(W.A. Broder et al., Nature, 1990, 346:371-374; S.W. Wahl, J. Clin. Immunol. 1992, 12:61-74; M. Shah et al., Lancet, 1992, 339:213-214; M.S. Steiner and E.R. Barrack, Mol. Endocrinol. 1992, 6:15-25; F.N. Ziyadeh et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 2000, 97:8015-8020)。
【0069】
他のTGF-βインヒビターはインビトロ研究に基づいて開発されており、切り詰められたTGF-β II型受容体のアデノウイルス媒介型移入が多様なTGF-βシグナル伝達を完全にかつ特異的に消失させることを示した(その全体が参照により本明細書に組み入れられている、H. Yamamoto et al., J. Biol. Chem. 1996, 271:16253-16259)。これらの切り詰められた受容体のいくつかは、ドミナントネガティブ変異体として働くことによりそれらのリガンドに対する強力なアンタゴニスト活性を有する(その全体が参照により本明細書に組み入れられている、A. Bandyopadhyay et al., Cancer Res. 1999, 59:5041-5046; Z. Qi et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 1999, 96:2345-2349; T. Nakamura et al., Hepatol. 2000, 32:247-255)。
【0070】
TGF-β II型受容体(その全体が参照により本明細書に組み入れられている、Sakamoto et al., Gene Ther. 2000, 7:1915-1924; H. Ueno et al., Gene Ther. 2000, 11:33-42; J. George et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 1999, 96:12719-12724)およびIII型受容体(その全体が参照により本明細書に組み入れられている、本出願人らのPCT出願第PCT/US2004/014175号)の可溶型はまた、融合タンパク質として産生されており、動物モデルにおいてTGF-β関連病態生理学的状態を予防または処置するために用いることに成功している。
【0071】
II. 鉄代謝のレギュレーターの同定
もう一つの局面において、本発明は、TGF-βスーパーファミリーメンバーのシグナル伝達活性を調節することにより鉄代謝を制御する化合物の同定のための方法を提供する。本発明はまた、TGF-βスーパーファミリーメンバーのシグナル伝達活性を調節することによりヘプシジン発現または活性を制御する化合物の同定のための方法を提供する。
【0072】
好ましくは、これらの方法は、少なくとも1つのTGF-βスーパーファミリーメンバーを発現する生体系を候補化合物と、候補化合物がTGF-βスーパーファミリーメンバーのシグナル伝達活性を調節するのに十分な条件下および時間、インキュベートし、それにより試験系を得る段階;候補化合物無しで同じ条件下で同じ時間、生体系をインキュベートし、それにより対照系を得る段階;試験系においてTGF-βスーパーファミリーメンバーのシグナル伝達活性を代表する少なくとも1つの因子を測定する段階;対照系において因子を測定する段階;試験系および対照系において測定された因子を比較する段階;ならびに、試験系で測定された因子が対照系で測定された因子より少ないまたは多い場合には、候補化合物がヘプシジン発現を制御する(および/または鉄代謝を制御する)と決定する段階を含む。
【0073】
本明細書に提供されたスクリーニング方法は、1つまたは複数のTGF-βスーパーファミリーメンバーのシグナル伝達活性を調節することによりそれらの効果を発揮する鉄代謝のレギュレーターおよびヘプシジン発現または活性のレギュレーターの発見ならびに開発へと導く。これらのレギュレーターは、鉄代謝における撹乱と関連した状態の処置において有用である可能性がある。
【0074】
A. 生体系
本発明のアッセイおよびスクリーニング方法は、任意の型の生体系、すなわち、細胞、生体液、生体組織、または動物を用いて行われうる。特定の態様において、系は、鉄欠乏もしくは鉄過剰を示すことができる生物学的実体(例えば、動物モデル、血液試料、または器官、例えば肝臓、の全体または部分);および/または少なくとも1つのTGF-βファミリーメンバーを発現する生物学的実体(例えば、細胞);および/またはヘプシジンを発現する(例えば、肝細胞)、もしくはヘプシジンを含む(例えば、血液または尿試料)生物学的実体である。
【0075】
特定の態様において、本発明のアッセイおよびスクリーニング方法は、標準組織培養プラスチック製器において増殖されうる細胞を用いて行われる。そのような細胞は、任意の認められている源由来のすべての正常および形質転換された細胞を含む。好ましくは、細胞は哺乳動物(ヒト、または齧歯類もしくはサルのような動物)起源である。より好ましくは、細胞はヒト起源である。哺乳動物細胞は、任意の器官(例えば、脳、肝臓、血液、または腎臓)または組織起源で、かつ任意の細胞型でありうる。適した細胞型は、限定されるわけではないが、上皮細胞、血小板、リンパ球、単球、筋細胞、マクロファージ、肝細胞、心筋細胞、内皮細胞、腫瘍細胞などを含む。
【0076】
本発明のアッセイおよびスクリーニング方法の実施において用いられうる細胞は、一次細胞、二次細胞、または不死化細胞(例えば、樹立細胞系)でありうる。それらは、当技術分野において周知の技術により調製されうる、または免疫学的および微生物学的な商業用供給源から(例えば、American Type Culture Collection, Manassas, VAから)購入されうる。代わりとして、または追加として、細胞は、例えば、増殖因子または受容体を発現する遺伝子のような対象となる遺伝子を含むように遺伝子操作されうる。
【0077】
本発明に従ってアッセイを行うための特定の細胞型および/または細胞系の選択は、シグナル伝達活性が調節されることになっているTGF-βスーパーファミリーメンバーの性質およびアッセイの意図される目的のようないくつかの因子により支配される。例えば、一次薬物スクリーニング(すなわち、スクリーニングの最初のラウンド)のために開発されたアッセイは、好ましくは、市販されており、かつ通常、増殖させるのが比較的容易である樹立細胞系を用いて行われうるが、薬物開発過程において後で用いられうるアッセイは、好ましくは、しばしば、獲得する、維持する、および/または増殖させるのが不死化細胞より困難であるが、インビボ状況としてより良い実験モデルを表す一次または二次細胞を用いて行われうる。
【0078】
本発明のアッセイおよびスクリーニング方法の実施において用いられうる樹立細胞系の例は、HepG2肝臓ヘパトーマ細胞、Hep3B肝臓ヘパトーマ細胞、一次肝細胞、および不死化肝細胞を含む。本発明のスクリーニング方法に用いられうる一次および二次細胞は、限定されるわけではないが、上皮細胞、血小板、リンパ球、単球、筋細胞、マクロファージ、肝細胞、心筋細胞、内皮細胞、および腫瘍細胞を含む。
【0079】
本発明のアッセイに用いられうる細胞は、標準細胞培養技術により培養されてもよい。例えば、細胞を、しばしば、加湿された95%空気-5%CO2雰囲気を含むインキュベーターにおいて37℃、無菌環境下、適した容器で増殖させる。容器は撹拌培養または静置培養を含みうる。ウシ胎児血清のような未定義の生体液を含む培地を含む、様々な細胞培地が用いられうる。細胞培養技術は当技術分野において周知であり、多様な細胞型の培養について確立されたプロトコールが利用できる(例えば、R.I. Freshney, 「Culture of Animal Cells: A Manual of Basic Technique」, 第2版, 1987, Alan R. Liss, Inc.参照)。
【0080】
特定の態様において、スクリーニング方法は、マルチウェルアッセイプレートの複数のウェルに含まれる細胞を用いて行われる。そのようなアッセイプレートは、例えば、Stratagene Corp. (La Jolla, CA)およびCorning Inc. (Acton, MA)から、市販されており、例えば、48ウェル、96ウェル、384ウェル、および1536ウェルプレートを含む。
【0081】
B. 候補化合物
当業者により認識されているように、どんな種類の化合物または作用物質でも本発明の方法を用いて試験されうる。候補化合物は合成または天然の化合物でありうる;それは単一分子、または異なる分子の混合物もしくは複合体でありうる。特定の態様において、本発明の方法は、1つまたは複数の化合物を試験するために用いられる。他の態様において、本発明の方法は、化合物の収集物またはライブラリーをスクリーニングするために用いられる。本明細書に用いられる場合、「収集物」という用語は、化合物、分子、または作用物質の任意のセットを指し、一方、「ライブラリー」という用語は、構造的類似体である化合物、分子、または作用物質の任意のセットを指す。
【0082】
新規かつ有用な薬物候補の同定および特徴付けへの伝統的なアプローチは、一般的に、化合物の大きな収集物および/またはライブラリーの作製、続いて、既知または未知の標的に対して試験することを含む(例えば、WO 94/24314; WO 95/12608; M.A. Gallop et al., J. Med. Chem. 1994, 37:1233-1251;およびE.M. Gordon et al., J. Med. Chem. 1994, 37:1385-1401参照)。天然産物および化学化合物の両方が本発明の方法により試験されうる。天然産物収集物は、一般的に、微生物、動物、植物、または海洋生物に由来する;それらは、ポリケチド、非リボソームペプチド、および/またはそれらの変種を含む(概説として、例えば、D.E. Cane et al., Science, 1998, 82:63-68参照)。化学ライブラリーは、しばしば、天然産物スクリーニングによりヒットまたはリードとして同定される既知の化合物の構造的類似体からなる。化学ライブラリーは、伝統的な自動化合成、PCR、クローニング、または所有権をもった合成方法により調製するのが比較的容易である(例えば、S.H. DeWitt et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 1993, 90:6909-6913; R.N. Zuckermann et al., J. Med. Chem. 1994, 37:2678-2685; Carell et al., Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 1994, 33:2059-2060; P.L. Myers, Curr. Opin. Biotechnbol. 1997, 8:701-707参照)。
【0083】
細菌、真菌、植物、および動物の抽出物の形をとる天然化合物の収集物は、例えば、Pan Laboratories (Bothell, WA)またはMycoSearch (Durham, NC)から入手できる。本発明の方法を用いてスクリーニングされうる候補化合物のライブラリーは、調製されうるか、またはいくつかの会社から購入されうる。合成化合物ライブラリーは、例えば、Comgenex (Princeton, NJ)、Brandon Associates (Merrimack, NH)、Microsource (New Milford, CT)、およびAldrich (Milwaukee, WI)から、市販されている。候補化合物のライブラリーはまた、例えば、Merck、Glaxo Welcome、Bristol-Meyers-Squibb、Novartis、Monsanto/Searle、およびPharmacia UpJohnを含む大きな化学会社により開発され、市販されている。加えて、天然収集物、合成によって作製されたライブラリーおよび化合物は、通常の化学的、物理的、および生化学的手段を通して容易に修飾される。
【0084】
鉄代謝の、およびヘプシジン発現の有用なレギュレーターは、複素環、ペプチド、糖類、ステロイドなどを含む多数の化学物質群内に見出されうる。特定の態様において、本発明のスクリーニング方法は、小分子である化合物または作用物質(すなわち、分子量<600〜700を有する化合物または作用物質)を同定するために用いられる。
【0085】
本発明の方法によるライブラリーのスクリーニングは、「ヒット」または「リード」、すなわち、所望の生物活性であるが、最適化されていない生物活性を有する化合物を提供する。有用な薬物候補の開発における次の段階は、通常、ヒット化合物の化学構造とその生物学的または薬理学的活性の間の関係の分析である。分子構造および生物活性は、定義された生物学的評価項目に関する体系的構造改変の結果を観察することにより相互に関連づけられる。スクリーニングの最初のラウンドから入手できる構造-活性の関係情報はその後、より高い親和性を有する化合物についてその次にスクリーニングされる小さな二次ライブラリーを作製するために用いられうる。臨床有用性に必要とされる、立体電子的、物理化学的、薬物動態学的、および毒物学的因子を満たすために生物活性化合物の合成的改変を行う過程は、リード最適化と呼ばれる。
【0086】
本発明のスクリーニング方法により同定された候補化合物は、同様に、構造-活性の関係分析に供せられ、改善された薬物候補を提供するために化学修飾されうる。本発明はまた、これらの改善された薬物候補を含む。
【0087】
C. 鉄代謝のレギュレーターおよびヘプシジン発現のレギュレーターの同定
本発明のスクリーニング方法に従って、鉄代謝を制御する、またはヘプシジン発現を制御する候補化合物の能力の決定は、試験系および対照系において測定されたTGF-βスーパーファミリーメンバーのシグナル伝達活性を代表する少なくとも1つの因子の比較を含む。
【0088】
本発明のスクリーニング方法において、候補化合物は、試験系において測定された因子が対照系において測定された因子より少ないまたは多い場合には、ヘプシジン発現もしくは活性のレギュレーター、および/または鉄代謝のレギュレーターであると同定される。より具体的には、候補化合物がTGF-βのアゴニスト、またはBMPのアンタゴニストであることが見出された場合には、それは、ヘプシジン発現もしくは活性のインヒビター、および/または鉄代謝のエンハンサーであると同定される。または、候補化合物がTGF-βのアンタゴニスト、またはBMPのアゴニストであることが見出された場合には、それは、ヘプシジン発現もしくは活性のエンハンサー、および/または鉄代謝のインヒビターであると同定される。
【0089】
TGF-βスーパーファミリーメンバーのシグナル伝達活性を代表する因子は、レポーターアッセイシグナル伝達、および標的遺伝子発現(例えば、細胞外マトリックスタンパク質遺伝子)を含む。TGF-βスーパーファミリーメンバーのシグナル伝達活性を代表する他の因子は、Smadリン酸化、リン酸化されたSmadタンパク質の核への移行、および細胞増殖速度における変化を含む。特定の態様において、本発明のスクリーニング方法において測定される因子は、系に存在する鉄の量である。他の態様において、測定される因子は、系におけるヘプシジンmRNAのレベルである。さらに他の態様において、測定される因子は系におけるヘプシジン/アクチン比である。
【0090】
本発明のスクリーニング方法において得られた結果の再現性は、同じ候補化合物の同じ濃度で1回より多く分析を行うことにより(例えば、アッセイプレートの1個より多いウェルにおいて細胞をインキュベートすることにより)試験されうる。追加として、候補化合物は、化合物の性質およびその作用機構の性質に依存して様々な濃度で有効でありうるため、候補化合物の様々な濃度が試験されうる(例えば、異なる濃度が、細胞を含む異なるウェルへ添加されうる)。一般的に、1fMから約10mMまでの候補化合物濃度がスクリーニングに用いられる。好ましいスクリーニング濃度は一般的に、約10pMと約100μMの間である。
【0091】
特定の態様において、本発明の方法はさらに、1つもしくは複数の陰性および/または陽性対照化合物の使用を含む。陽性対照化合物は、スクリーニングアッセイにおいて研究されるTGF-βスーパーファミリーメンバーのシグナル伝達活性を調節することが知られている任意の分子または作用物質でありうる。陰性対照化合物は、スクリーニングアッセイにおいて研究されるTGF-βスーパーファミリーメンバーのシグナル伝達活性に効果を生じないことが知られている任意の分子または作用物質でありうる。これらの態様において、本発明の方法はさらに、候補化合物の調節効果を陽性または陰性対照化合物の調節効果(またはその非存在)と比較する段階を含む。例えば、ノギンおよびデコリンは、それぞれ、BMPシグナル伝達およびTGF-βシグナル伝達の阻害について陽性対照として用いられうる。
【0092】
D. 候補化合物の特徴付け
当業者に認識されているように、本発明のスクリーニング方法により同定されたレギュレーターをさらに特徴付けることが一般的に望ましい。
【0093】
例えば、候補化合物が所定の細胞培養系(例えば、樹立細胞系)において所定のTGF-βスーパーファミリーメンバーにおけるシグナル伝達活性のモジュレーターであると同定されている場合には、異なる細胞培養系(例えば、一次または二次細胞)においてこの能力を試験することが望ましい場合がある。代わりとして、または追加として、例えば、リアルタイムの定量的RT-PCRを用いてヘプシジンmRNA発現を定量化することにより(実施例1に記載されているように)、候補化合物のヘプシジン発現への効果を直接的に評価することが望ましい場合がある。候補化合物の特異性を、TGF-βスーパーファミリーメンバーの他のメンバーのシグナル伝達活性を調節するその能力を試験することにより、評価することが望ましい場合もある。薬物動態学および毒物学研究を行うことが望ましい場合もある。
【0094】
本発明のスクリーニング方法により同定された候補化合物はまた、さらに、インビボでの化合物の性質の決定を可能にするアッセイにおいて試験されうる。適した動物モデルは、鉄欠乏もしくは鉄過剰を示すことができる、またはヘプシジン発現の上方制御もしくはヘプシジン発現の下方制御を示すことが決定されている動物モデルを含む。
【0095】
鉄過剰についての動物モデルの例は、限定されるわけではないが、カルボニル鉄で処理されたマウス、β2-ミクログロブリンノックアウトマウス(C. Pigeon et al., J. Biol. Chem., 2001, 276:7811-7819)、USF2(Upstream Stimulatory Factor 2)ノックアウトマウス(G. Nicolas et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 2001, 98:8780-8785)、およびHFEノックアウトマウス(K.A. Ahmad et al., Blood Cells Mol. Dis., 2002, 29:361-366)を含む。鉄欠乏についての動物モデルの例は、限定されるわけではないが、フェニルヒドラジンにより誘発される急性溶血を有するマウス、および繰り返される瀉血により誘発される出血を有するマウスにおける貧血のモデルを含む(G. Nicolas et al., J. Clin. Invest., 2002, 110:1037-1044)。ヘプシジンmRNA発現の増加を示す動物モデルの例は、部分的肝切除により(N. Kelley-Loughnane et al., Hepatology, 2002, 35:525-534)、リポ多糖(G.R. Lee, Semin. Hematol., 1983, 20:61-80)、およびテレペンチン(G. Nicolas et al., J. Clin. Invest., 2002, 110:1037-1044)により処理されたマウスを含む。
【0096】
E. 同定されたレギュレーターの薬学的組成物
本発明はまた、活性成分として、本発明のスクリーニングアッセイにより同定された、鉄代謝の少なくとも1つのレギュレーター、またはヘプシジン発現もしくは活性の少なくとも1つのレギュレーターの有効量を含む薬学的組成物を提供する。本発明の薬学的組成物は、当技術分野において周知の通常の方法を用いて製剤化されうる。そのような組成物は、活性成分に加えて、薬学的媒体、賦形剤、もしくは媒質として働き、本明細書で「薬学的に許容される担体」と呼ばれる、少なくとも1つの薬学的に許容される液体、半流動体、または固体希釈剤を含む。
【0097】
本発明により、薬学的組成物は、活性成分として本発明の1つまたは複数のレギュレーターを含みうる。または、1つの本発明のレギュレーターの有効量を含む薬学的組成物は、異なる本発明のレギュレーターを含む薬学的組成物と組み合わせて、または逐次的に患者へ投与されうる。しかしながら、両方の場合において、レギュレーターは、好ましくは、鉄代謝および/またはヘプシジン発現もしくは活性への同じ制御効果を有する。例えば、どちらもヘプシジン発現を増強し、鉄代謝を抑制する、BMPのアゴニストおよびTGF-βのアンタゴニストが、単一の薬学的組成物で、または2つの異なる薬学的組成物で、被験体に投与されうる。
【0098】
当業者により認識されているように、ヘプシジン発現のレギュレーターもしくは鉄代謝レギュレーター、またはそれらの薬学的組成物は、鉄代謝障害の処置に用いられる通常の治療用物質と連続的に、または組み合わせて、投与されうる。そのような治療用物質は、鉄サプリメント(鉄欠乏と関連した疾患の場合)および鉄キレート剤(鉄過剰と関連した疾患の場合)を含む。鉄サプリメントは、限定されるわけではないが、フマル酸第一鉄、グルコン酸第一鉄、硫酸第一鉄、鉄デキストラン、鉄多糖、鉄ソルビトール、グルコン酸第二鉄ナトリウム、および鉄スクロースを含む。鉄キレート剤は、例えば、デスフェリオキサミン、バソフェナントロリン、およびクリオキノールを含む。鉄サプリメントまたは鉄キレート剤は、本発明の薬学的組成物に含まれてもよい。または、それらは、別々の薬学的組成物で投与されてもよい。
【0099】
代わりとして、または追加として、ヘプシジン発現のレギュレーターもしくは鉄代謝レギュレーター、またはそれらの薬学的組成物は、鉄代謝障害の処置のための通常の治療計画と連続的に、または組み合わせて、施されうる。これらは、鉄過剰と関連した状態の場合、例えば、瀉血を含む。
【0100】
III. 処置の方法
もう一つの局面において、本発明は、鉄過剰と関連した状態および鉄欠乏と関連した状態を含む、鉄代謝における撹乱に関連した状態の処置および/または予防のための方法を提供する。これらの方法は、そのような状態を有する、または有する危険性がある被験体に、少なくとも1つのTGF-βスーパーファミリーメンバーのシグナル伝達活性を調節する化合物の有効量を投与する段階であって、TGF-βスーパーファミリーメンバーのシグナル伝達活性の調節が結果として、被験体においてヘプシジン発現または活性の制御を生じる段階を含む。
【0101】
化合物は、TGF-βスーパーファミリーメンバーの既知のアゴニストまたはアンタゴニストでありうる。または、化合物は、例えば、本発明の方法により提供されたスクリーニング方法により、同定された鉄代謝のレギュレーターまたはヘプシジン発現のレギュレーターでありうる。
【0102】
A. 鉄代謝疾患
本発明の方法を用いて処置および/または予防されうる状態は、鉄代謝における撹乱と関連した任意の疾患、障害、または症候群を含む。鉄代謝における撹乱は、鉄取り込み、鉄吸収、鉄運搬、鉄貯蔵、鉄プロセッシング、鉄動員、鉄利用の1つまたは複数における撹乱と関連しうる。一般的に、鉄代謝における撹乱は、結果として、鉄過剰または鉄欠乏を生じる。
【0103】
鉄過剰と関連した状態は、限定されるわけではないが、遺伝性ヘモクロマトーシス、晩発性皮膚ポルフィリン症、遺伝性球状赤血球症、低色素性貧血、赤血球異形成貧血(CDAI)、顔面性器形成不全(FGDY)、アールスコグ(Aarskog)症候群、無トランスフェリン血症、鉄芽球性貧血(SA)、ピリドキシン応答性鉄芽球性貧血、およびサラセミアおよび鎌状細胞のような異常血色素症を含む。いくつかの研究は、サラセミアおよびヘモクロマトーシスのような鉄代謝障害と、II型(非インスリン依存性)糖尿病およびアテローム性動脈硬化症のようないくつかの疾患状態の間の関連を示唆している(A.J. Matthews et al., J. Surg. Res., 1997, 73:35-40; T.P. Tuomainen et al., Diabetes Care, 1997, 20:426-428)。
【0104】
鉄欠乏に関連した疾患は、限定されるわけではないが、慢性疾患の貧血、鉄欠乏性貧血、機能性鉄欠乏、および小球性貧血を含む。「慢性疾患の貧血」という用語は、例えば、長引く感染症、炎症、腫瘍性疾患などの結果として発症する任意の貧血を指す。発症する貧血は、しばしば、短縮された赤血球寿命、および結果として新しい赤血球を生成するのに利用可能な鉄の量の減少を生じる、マクロファージにおける鉄の隔離により特徴付けられる。慢性疾患の貧血に関連した状態は、限定されるわけではないが、慢性細菌性心内膜炎、骨髄炎、リウマチ熱、潰瘍性大腸炎、および腫瘍性疾患を含む。さらなる状態は、例えば、炎症性感染症(例えば、肺腫瘍、結核など)、炎症性非感染性疾患(例えば、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、クローン病、肝炎、炎症性大腸炎など)、ならびに様々な癌、腫瘍、および悪性腫瘍(例えば、上皮性悪性腫瘍、非上皮性悪性腫瘍、リンパ腫など)を含む、感染症、炎症、および新生物と関連した他の疾患ならびに障害を含む。鉄欠乏性貧血は、妊娠、月経、幼年期および小児期、負傷による血液喪失などのような状態に起因しうる。
【0105】
鉄代謝は、循環器疾患、アルツハイマー病、パーキンソン病、および結腸直腸癌の特定の型を含むいくつかの他の病状において役割を果たすことも示唆されている(例えば、P. Tuomainen et al., Circulation, 1997, 97:1461-1466; J.M. McCord, Circulation, 1991, 83:1112-1114; J.L. Sullivan, J. Clin. Epidemiol., 1996, 49:1345-1352; M.A. Smith et al., Proc. Nat. Acad. Sci., 1997, 94:9866-9868; P. Riederer et al., J. Neurochem., 1989, 512:515-520; P. Knekt et al., Int. J. Cancer, 1994, 56:379-382)。
【0106】
B. 被験体選択
本発明の方法による処置を受けるのに適した被験体は、限定されるわけではないが、上で列挙された疾患および障害を含む、鉄代謝における撹乱と関連した状態と診断されている個体、ならびに鉄代謝における撹乱と関連した状態になりやすい個体を含む。適した被験体は、以前にその状態についての伝統的な処置を受けたことがあってもなかってもよい。
【0107】
他の適した被験体は、鉄欠乏または鉄過剰を示す個体である。鉄過剰および鉄欠乏は、総鉄結合能(TIBC)、血清鉄、フェリチン、ヘモグロビン、ヘマトクリット、および尿中クレアチニンのレベルの測定を可能にする当技術分野において利用可能ないくつかの実験室試験を用いて検出されうる。
【0108】
C. 投与
本発明の方法による処置は、単回投与またはある期間に渡っての複数回投与からなりうる。ヘプシジン発現のレギュレーターもしくは鉄代謝のモジュレーター、またはそれらの薬学的組成物はまた、処置あたりデポー型から放出されうる。投与は、注射(皮下、静脈内、筋肉内、腹腔内など)、経口投与、または舌下投与によるような任意の都合の良い様式で行われうる。
【0109】
有効量および投与計画は、優れた医療行為および個々の患者の臨床症状により容易に決定されうる。投与の頻度は、化合物の薬物動態学的パラメーターおよび投与経路に依存する。最適な薬学的製剤は、投与経路および望ましい用量に依存して決定されうる。そのような製剤は、投与される化合物の、物理的状態、安定性、インビボの放出の速度、およびインビボのクリアランスの速度に影響を及ぼしうる。
【0110】
投与経路に依存して、適した用量は、体重、体表面積、または器官サイズにより計算されうる。適切な用量の最適化は、ヒト臨床試験において観察された薬物動態学的データに照らして当業者により容易になされる。最終投与計画は、薬物の作用を改変する様々な因子、例えば、薬物の特異的活性、損傷の重症度および患者の応答性、患者の年齢、状態、体重、性別、および食事、任意の存在する感染症の重症度、投与時期、ならびに他の臨床学的因子を考慮して、担当医により決定されうる。研究が行われるにつれて、鉄過剰および鉄欠乏に関連した様々な状態に対する適切な用量レベルおよび処置の期間に関するさらなる情報が現れるものと思われる。
【0111】
実施例
以下の実施例は、本発明を設定かつ実施する好ましい様式の一部を記載する。しかしながら、これらの実施例は例証のみを目的とし、本発明の範囲を限定することを意図されないことは理解されるべきである。さらになお、実施例における記載は過去時制で示されない限り、文章は、本明細書の他の部分と同様に、実験が実際に行われた、またはデータが実際に得られたことを示唆するものではない。
【0112】
このセクションにおいて提示された結果の一部は、最近の科学原稿に本出願人らにより記載されている(2006年2月3日にNature Geneticsへ投稿された、J.L. Babitt et al., 「Bone Morphologenetic Protein Signaling by Hemoguvelin Regulates Hepcidin Expression」)。この原稿はその全体が参照により本明細書に組み入れられている。
【0113】
実施例1:肝細胞におけるヘプシジン転写へのBMPおよびTGF-βの効果
研究プロコトール
HepG2肝臓ヘパトーマ細胞におけるヘプシジンmRNA発現へのBMP-2、ノギン(周知のBMPインヒビター)、およびTGF-β1の効果を、リアルタイム定量的RT-PCRを用いて研究および定量化した。
【0114】
HepG2細胞(ATTC番号HB-8065)を、6cm組織培養プレート上でα-MEM(10%ウシ胎児血清、100U/mLペニシリン、および100μg/mLストレプトマイシンを追加したL-グルタミンを含む最少基本培地α培地)において60%集密まで増殖させた。細胞を、その後、低血清状態(1%FBSを含むα-MEM)において1μg/mL ノギン.Fc(R & D Systems, Minneapolis, MN)と37℃で48時間インキュベートした、または6時間血清飢餓にして、続いて、50ng/ml BMP-2(R & D Systems)と37℃で16時間、もしくは1ng/ml TGF-β1(R & D Systems)と37℃で16時間、インキュベートした。または、細胞を、非トランスフェリン結合型鉄(65μM Fe-NTA)と37℃で72時間、インキュベートした。Fe-NTAは、前に記載されているように(E.W. Randell et al., J. Biol. Chem., 1994, 269:16046-16053; S.G. Gehrke et al., Blood, 2003, 102:371-376)、20mM Hepes pH 7.5を追加したα-MEM培地において0.1モルHCl中の1:1モル比のFeCl3六水和物(Sigma)をニトリロ三酢酸(NTA, Sigma)と化合させることにより生成された。
【0115】
全RNAを、製造会社の使用説明書に従って、RNAse-free DNAse Set(Qiagen)でのDNアーゼ消化を含め、RNAeasy Mini Kit(Qiagen, Valencia, CA)を用いて上記のように処理されたHepG2細胞から単離した。mRNA転写産物のリアルタイム定量化は、ABI Prism 7900HT Sequence Detection SystemおよびSDSソフトウェアバージョン2.0を用いる2段階逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)を用いて行われた。まず、鎖cDNA合成を、試料あたり2μgの全RNA鋳型を用い、製造会社の使用説明書に従ってiScript cDNA Synthesis Kit(Biorad Laboratories, Hercules, CA)を用いて行った。第二段階において、ヘプシジンの転写産物を、センスプライマーHepcF
およびアンチセンスプライマーHepcR
を用いて増幅し、iTAq SYBR Green Supermix with ROX(Biorad)を用いて検出した。並行して、β-アクチンの転写産物を、センスプライマーBactF
およびアンチセンスプライマーBactR
を用いて増幅し、内部対照としての役割を果たすように同様の様式で検出した。
【0116】
ヘプシジンおよびβ-アクチンについての標準曲線は、鋳型としてヘプシジン(IMAGEクローン4715540)およびβ-アクチン(IMAGEクローン3451917)のcDNAクローンの正確に測定された希釈溶液から作成された(IMAGEクローンは、Open Biosystemsから購入され、それらの挿入断片を検証するためにDNAがシーケンシングされた)。試料は3連で分析され、結果は、ヘプシジンのβ-アクチンに対する平均値の比として報告されている。
【0117】
結果
図1に示されているように、HepG2細胞のFe-NTAとのインキュベーションは、ヘプシジン/アクチン比発現を約6分の1(棒4)に減少させたが、以前に報告された、HepG2細胞においてFe-NTAにより引き起こされたヘプシジン発現における減少(S.G. Gehrke et al., Blood, 2003, 102:371-376)と良く相関する結果である。重要なことには、50ng/mL BMP-2とのインキュベーションは、ヘプシジン/アクチン比発現をベースラインより上に10倍(±8%)、増加させた(棒2を棒1と比較する)。対照的に、1μg/mL ノギン.Fc(内因性BMPシグナル伝達を阻害する)とのインキュベーションは、ヘプシジン/アクチン比発現をベースラインより下に50分の1(±19%)に減少させた(棒3を棒1と比較する)。
【0118】
図2に示されているように、HepG2細胞の50ng/mL BMP-2とのインキュベーションは、ヘプシジン/アクチン比発現をベースラインより上に15倍(±8%)、増加させた(棒2を棒1と比較する)。対照的に、1μg/mL ノギン.Fc(内因性BMPシグナル伝達を阻害する)とのインキュベーションは、ヘプシジン/アクチン比発現をベースラインより下に6分の1(±23%)に減少させた(棒3を棒1と比較する)。加えて、1ng/ml TGF-β1とのインキュベーションは、ヘプシジン/アクチン比発現をベースラインより下に6分の1(±6%)に減少させた(棒4を棒1と比較する)。
【0119】
実施例2:ヘプシジン発現のモジュレーターとしてのHJV.Fcタンパク質
若年性ヘモクロマトーシスは、識別不可能な表現型を与える2つの遺伝子における変異により引き起こされるヘモクロマトーシスの重症の変種である。1つの遺伝子はヘプシジン(HAMP、19q13.1)をコードする。2つ目の遺伝子は、最近、ヘモジュベリン(HJV、1q21)であると同定されている。HJVの機能は未知であるが、ヘプシジンレベルが、HJV変異を有する人において抑制されており、HJVがヘプシジン発現のモジュレーターである可能性があることを示している。すでの本明細書に述べられているように、HJVもまた、RGMaおよびDRAGON、BMP補助受容体として機能することが本出願人らにより最近示されたニューロン接着分子を含む、タンパク質の反発性誘導分子(RGM)ファミリーのメンバーである(それぞれその全体が参照により本明細書に組み入れられている、J.L. Babitt et al., J. Biol. Chem., 2005, 280:29820-29827; T.A. Samad et al., J. Biol. Chem., 2005, 280:14122-14129)。下に示された研究は、HJVが同様にBMPシグナル伝達を媒介することができるかどうかを調べるために企てられた。
【0120】
材料および方法
cDNAサブクローニング
アミノ酸313位におけるグリシンからバリンへの置換を有する変異型マウスHJVをコードするcDNA(mHJVG313V)を、重複PCRストラテジーにより作製した。2つのプライマー
および
を用いて、アミノ酸313位においてグリシンの代わりにバリンへの置換を組み込むmHJVのN末端断片を作製した。プライマー
および
を用いて、同一の置換を有するHJVのC末端断片を作製した。外側プライマーを用いてPCRの最終ラウンドを行い、変異型mHJVG313Vを作製し、その後、発現ベクターpCDNA 3.1(Invitrogen, Carlsbad, CA)へサブクローニングした。
【0121】
可溶性mHJV.Fc融合タンパク質をコードするcDNAを、プライマー:
および
を用いる野生型マウスHJVの細胞外ドメインのPCRにより作製し、続いて、ヒトIgGのFc部分とインフレームで哺乳動物発現ベクターpIgplus (R & D Systems, Minneapolis, MN)へサブクローニングした。
【0122】
フラグ標識付きヒトHJV(hHJV)をコードするcDNAを、ATCC(# 10642497)から購入された、エクソン2を含まないヒトHJV転写産物変種B(IMAGEクローン6198223)から作製した。完全長HJVアイソフォーム(変種A、アクセッション# NM213653)のシグナルペプチドをコードするエクソン2を、フォワードプライマー:
およびリバースプライマー:
を用いてヒトゲノムDNAからのPCRにより増幅した。コード配列の残部(終止コドンを含む)に対応する下流cDNA断片を、フォワードプライマー
およびリバースプライマーとして
を用いるIMAGEクローンからのPCRにより増幅した。2つの重複断片を、PCRによりいっしょに融合させ、完全長cDNA産物を、その後、EcoR IおよびXho Iで切断し、pCDNA3.1 (Invitrogen)へクローニングし、pCDNA3.1-hHJVを作製した。N末端フラグ標識付きhHJVを作製するために、エクソン3の最初に対応する上流断片を、フォワードプライマー:
およびリバースプライマー:
を用いるPCRにより作製した。Not I/Sac II消化後、断片を、pCDNA3.1-hHJVから切り出した下流Sac II/Xba I hHJV断片と共に、p3XFLAGCMV9(Sigma)のNot I/Xba I部位へライゲーションした。
【0123】
アミノ酸99位におけるバリンからグリシンへの置換を有する変異型フラグ標識付きhHJV G99V(hG99V)をコードするcDNAを、QuikChangeキット(Stratagene, La Jolla, CA)を用いる部位特異的変異誘発によりhHJVから作製した。ヘプシジンプロモータールシフェラーゼ構築物をコードするcDNAを、pGL2-Bsicベクター(Promega, Madison, WI)においてホタルルシフェラーゼレポーター遺伝子の上流にヒトヘプシジンプロモーター46の-2649位〜+45位領域をサブクローニングすることにより作製した。すべてのcDNAは、構築物の忠実度を検証するためにシーケンシングされた(MGH, Molecular Biology DNA Sequencing Core Facility)。
【0124】
細胞培養およびトランスフェクション
CHO細胞(American Type Culture Collection ATCC #CCL-61)を、10%ウシ胎児血清(FBS)(Atlanta Biologicals, Lawrenceville, GA)を追加したF-12K Nutrient Mixture, Kaighn's Modification (Invitrogen)において培養した。HepG2細胞およびHep3B細胞(ATCC #HB-8065および#HB-8064)を、10%FBSを含むL-グルタミンを有するMinimal Essential Alpha Medium (α-MEM, Invitrogen)において培養した。HEK 293細胞(ATCC #CRL-1573)を、10%FBSを追加したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM; Cellgro Mediatech, Herndon, VA)において培養した。すべてのプラスミドトランスフェクションは、Lipofectamine 2000 (Invitrogen)またはEffecteneトランスフェクション試薬(QIAGEN Inc, Valencia, CA)で製造会社の使用説明書に従って行われた。安定的にトランスフェクションされた細胞を選択し、1mg/ml Geneticin (Cellgro Mediatech, Herndon, VA)において培養した。
【0125】
ルシフェラーゼアッセイ
HepG2またはHep3B細胞に、2.5μg BMP応答性ルシフェラーゼレポーター(BRE-Luc)、2.5μg TGF-β応答性ルシフェラーゼレポーター、(CAGA)12MPL-Luc(CAGA-Luc)(どちらもPeter ten Dijke, Leiden University Medical Center, The Netherlandsにより好意的に提供された)、または2.5μgヘプシジンプロモータールシフェラーゼレポーター構築物を、トランスフェクション効率について管理するために0.25μg pRL-TK ウミシイタケルシフェラーゼベクター(Promega)と組み合わせて、野生型もしくは変異型HJV cDNAでの同時トランスフェクションの有りまたは無しで、一過性にトランスフェクションした。トランスフェクションから48時間後、細胞を、1%FBSを追加したα-MEMにおいて6時間、血清飢餓にさせ、1μg/ml ノギン(R & D Systems)もしくは20μg/ml中和抗BMP-2/4抗体(R & D Systems)の非存在または存在下で、様々な量のTGF-β1またはBMPリガンド(R & D Systems)で16時間、処理した。細胞を溶解し、ルシフェラーゼ活性を、Dual Reporter Assayを用いて製造会社の使用説明書(Promega)に従って測定した。実験は2連または3連のウェルにおいて行われた。相対ルシフェラーゼ活性は、ホタル(レポーター)およびウミシイタケ(トランスフェクション対照)ルシフェラーゼ値の比として計算され、レポーター単独をトランスフェクションされた非刺激細胞に対する倍増加として表されている。
【0126】
mHJV.Fcの精製
mHJV.Fcを安定的に発現するCHO細胞を、5%超低IgG FBSを追加したF-12K Nutrient Mixture, Kaighn's Modification(Invitrogen)において175cm2マルチフロアフラスコ(Denville Scientific, Southplainfield, NJ)を用いて培養した。mHJV.Fcを、前に記載されているように(その全体が参照により本明細書に組み入れられている、E. del Re et al., J. Biol. Chem., 2004, 279:22765-22772)、HiTrap rProtein A FFカラム(Amersham Biosciences, Piscataway, NJ)を用いる1段階プロテインAアフィニティークロマトグラフィーによって安定的にトランスフェクションされた細胞の培地から精製した。精製されたタンパク質を、前に記載されているように(E. del Re et al., J. Biol. Chem., 2004, 279:22765-22772)、100mMグリシン-HCl、pH3.2で溶出し、0.3M Tris-HCl、pH9で中和した。mHJV.Fcを、還元ドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)に供し、ゲルを、Bio-safe Coomassie blue (Bio-Rad, Hercules, CA)で染色して、純度を測定し、かつタンパク質濃度を定量化した。
【0127】
HJV抗体の作製およびイムノブロット分析
親和性精製されたウサギポリクローナル抗マウスHJV抗体(αHJV)は、ペプチド
、マウスHJVのC末端におけるその疎水性尾部の上流のアミノ酸292位〜310位に対して産生された(G. Papamokolaou et al., Nat. Genet., 2004, 36:77-82)。129S6/SvEvTac野生型もしくはHjv-/-マウス(F.W. Huang et al., J. Clin. Invest., 2005, 115:2187-2191)由来の肝臓、または野生型もしくは変異型HJVをトランスフェクションされた細胞を、前に記載されているように(その全体が参照により本明細書に組み入れられている、J.L. Babitt et al., J. Biol. Chem., 2005, 280:29820-29827)、プロテアーゼインヒビターの混合物(Roche, Mannheim, Germany)を含む溶解緩衝液(200mM Tris-HCl、pH8、100mM NaCl、1mM EDTA、0.5%NP-40、および10%グリセロール)においてホモジナイズ/超音波処理した。リン酸化Smad発現を調べるアッセイについて、1mMオルトバナジウム酸ナトリウム(Sigma, St. Louis, MO)および1mMフッ化ナトリウム(Sigma)をホスファターゼインヒビターとして溶解緩衝液へ添加した。精製されたmHJV.Fc、トランスフェクションされた細胞可溶化物、または肝臓可溶化物を、前に記載されているように(J.L. Babitt et al., J. Biol. Chem., 2005, 280:29820-29827)、還元ドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)、および4℃で一晩、HJV抗体(1:1000、4mg/mL)、室温で1時間、ヤギ抗ヒトFc抗体(1:1000)(Jackson ImmunoResearch Laboratories, West Grove, PA)、または4℃で一晩、ウサギポリクローナル抗ホスホsmad1/5/8抗体(1:1000)(Cell Signaling, Beverly, MA)を用いるウェスタンブロットに供した。ブロットを取り出し、4℃で一晩、マウスモノクローナル抗β-アクチン抗体(1:5000)(clone AC 15, Sigma)、ウサギポリクローナル抗Smad1抗体(1:250)(Upstate Biotechnology, Lake Placid, NY)、または負荷対照として室温で1時間、ウサギポリクローナル抗アクチン抗体(1:50)(Biomedical Technologies, Inc., Stoughton, MA)で再探索した。
【0128】
HJV抗体は、完全長HJVおよび前に記載されたタンパク分解性切断部位で切断されているHJVの予測サイズに対応する、肝臓における〜49kDaおよび〜30kDaでの主要なバンド(レーン2、図3(A))を認識する。〜62kDaバンドは高次型を表している可能性が高い。抗体の競合ペプチドとのプレインキュベーション後、バンドは見られなかった(レーン1)。同様の結果はトランスフェクションされたCHO細胞において見られ、サイズにおける差は、異なったグリコシル化またはプロセシングの変化による可能性が高い(図3(B))。HJVの細胞外ドメインをヒトFcと融合することにより作製されたHJV.Fc cDNAを、CHO細胞へ安定的にトランスフェクションし、HJV.Fcタンパク質を、1段階プロテインAクロマトグラフィーにより培地から精製した。精製されたタンパク質の抗HJV抗体(レーン1〜2)、または抗Fc抗体(レーン3〜4)でのウェスタンブロットは、精製されたタンパク質において両方のドメインの存在を確認し、抗HJV抗体のさらなる確証を提供した。両方の抗体は、完全長およびタンパク分解性に切断されたタンパク質の予測サイズに対応する〜70-75kDaおよび〜60kDaバンドを認識した。〜40-45kDaにおけるより低いバンドは、もう一つの可能性のあるタンパク分解性切断部位を示唆している。
【0129】
リガンドヨウ素化および架橋
反応あたり2μgの担体を含まないヒトBMP-2またはBMP-4リガンド(R & D Systems)を、前に記載されているように(その全体が参照により本明細書に組み入れられている、C.A. Frolick et al., J. Biol. Chem., 1984, 259:10995-11000)、改変されたクロラミン-T方法により[125I]でヨウ素化した。125I-BMP-2を、0.1%BSAおよびプロテアーゼインヒビターの混合物(Roche Diagnostics)を含む、または緩衝液のみを含む20mM HEPES(pH7.8)において60ng mHJV.FcまたはALK5.Fc (R & D Systems)とインキュベートした。ビーズを、リン酸緩衝食塩水(PBS)で洗浄し、タンパク質を非還元Laemmli試料緩衝液(Bio-Rad)により溶出した。溶出されたタンパク質をSDS-PAGEにより分離し、オートラジオグラフィーにより分析した。
【0130】
定量的逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)
HepG2またはHep3B細胞を、6cm組織培養プレート上で60%集密まで増殖させた。示された所で、細胞に、hHJVまたはhG99V cDNAの様々な量をトランスフェクションした。トランスフェクションから24時間後、細胞を、1%FBSを含むα-MEMにおいて血清飢餓にし、続いて、37℃で様々な時間、50ng/mL BMP-2と、または37℃で48時間、1μg/mL ノギンとインキュベートした。シクロヘキシミド実験について、BMP-2の添加前の30分間、10μg/mlシクロヘキシミドを加えた。全RNAを、RNase-Free DNase Set (QIAGEN)でのDNアーゼ消化を含め、RNeasy Mini Kit (QIAGEN Inc., Valencia CA)を用いて、製造会社の使用説明書に従って単離した。mRNAの転写産物のリアルタイム定量化は、ABI Prism 7900HT Sequence Detection SystemおよびSDSソフトウェアバージョン2.0を用いる2段階逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)を用いて行われた。まず、鎖cDNA合成を、試料あたり2μgの全RNA鋳型を用い、製造会社の使用説明書に従ってiScript cDNA Synthesis Kit(Bio-Rad)を用いて行った。
【0131】
第二段階において、ヘプシジンの転写産物を、センスプライマー
およびアンチセンスプライマー
を用いて増幅し、iTAq SYBR Green Supermix with ROX(Biorad)を用いて製造会社の使用説明書に従って検出した。並行して、β-アクチンの転写産物を、センスプライマー
およびアンチセンスプライマー
を用いて増幅し、内部対照としての役割を果たすように同様の様式で検出した。ヘプシジンおよびβ-アクチンについての標準曲線は、鋳型としてヘプシジンおよびβ-アクチンのcDNA配列を含むプラスミドの正確に測定された希釈溶液から作成された(Open BiosystemsからのIMAGEクローン4715540および3451917、後に、提案されている挿入断片を検証するために配列分析を行った)。試料は3連で分析され、結果は、ヘプシジンのβ-アクチンに対する平均値の比として報告されている。BMP-2およびBMP-4についての転写産物を、上で作製されたHepG2 cDNAからフォワードプライマー:
およびリバースプライマー:
(BMP-2について)ならびにフォワードプライマー:
およびリバースプライマー:
(BMP-4について)を用いて増幅した。
【0132】
一次肝細胞単離および培養
一次肝細胞を、前に記載された方法を用いて(その全体が参照により本明細書に組み入れられている、J. Lin et al., Cell, 2004, 119:121-135)、8〜10週齢の129S6/SvEvTac野生型またはHjv-/-マウス(F.W. Huang et al., J. Clin. Invest., 2005, 115:2187-2191)由来の肝臓のコラゲナーゼ消化により単離した。簡単には、マウスを、0.5mM EDTAおよび16.7mM重炭酸ナトリウムを追加したカルシウムを含まないハンクスの平衡塩類溶液(HBSS)(Mediatech Inc.)で下大静脈を通して〜1.5mL/分の速度で4分間、灌流した。マウスをその後、0.05%コラゲナーゼ(Sigma)、1%ウシ血清アルブミン、および16.7mM重炭酸ナトリウムを含むカルシウム含有HBSSで8分間、灌流した。酵素消化後、肝細胞を培養液[100IU/mlペニシリン、100μg/mlストレプトマイシン、18mM HEPES、1mMピルビン酸ナトリウム、10μg/mlインスリン、5.5μg/mlトランスフェリン、および5ng/mlセレニウム(ITS; Sigma)、2mM L-グルタミン、0.1mM非必須アミノ酸(Gibco(商標))、10%FBS(HyClone, Logan UT)を追加した1:1 ダルベッコ改変イーグル培地/Ham's F12培地(Gibco(商標), Grand Island, NY)]中へ遊離させ、100μm BD Falcon(商標)メッシュ細胞濾過器(BD Biosciences, San Jose CA)を通過させ、遠心分離し、培養液で穏やかに洗浄し、計数した。
【0133】
細胞(顕微鏡により>90%肝細胞)を、コラーゲンコーティングプレート(Sigma)上に5×105細胞/60mm皿で播種した。2〜3時間後、細胞を、PBSで洗浄し、1%FBSを含む培地で6時間、血清飢餓にさせ、様々な濃度における組換えヒトBMP-2で12時間、刺激した。RNAを、RNeasyキットを用いて製造会社の使用法(QIAGEN)に従って単離した。
【0134】
ノーザンブロット分析
一次肝細胞由来の全RNA(2.5μg)を、1%ホルムアルデヒドアガロースゲル上で分離させ、Hybond N+膜(Amersham Pharmacia Biotech)上へ転写した。膜を、80℃で真空下、2時間、ベーキングし、プライマー
および
でソアレス(Soares)マウスp3NMF19.5ハツカネズミcDNA IMAGEクローン:317863から増幅したマウスヘプシジン1およびβ-アクチンに特異的な放射標識プローブとハイブリダイズさせた(S. Alonso et al., J. Mol. Evol., 1986, 23:11-22)。発現を、リン光画像化装置(Molecular Dynamics, 現在、Amersham Biosciences)を用いて定量化し、負荷対照としてのβ-アクチンまたは28S RNAに対して標準化した。
【0135】
統計学的解析
両側スチューデントt検定が、統計学的有意性を決定するために<0.05のP値で用いられた。
【0136】
結果1:HJVはBMPシグナルを誘導するが、TGF-βシグナルを誘導しない
HepG2細胞に、BMP応答性ルシフェラーゼレポーター(BRE-Luc、図4、パネルAおよびC)またはTGF-β応答性ルシフェラーゼレポーター(CAGA-Luc、図4、パネルB)を単独か、またはHJVをコードするcDNAと組み合わせてかのいずれかで、トランスフェクションした。トランスフェクションされた細胞を、その後、0.5nM BMP-2、BMP-4、もしくは40pM TGF-β1の有りまたは無しで16時間インキュベートし、続いて、ルシフェラーゼ活性の測定を行った。BMPまたはTGF-βでの刺激は、刺激されていない細胞と比較して、それらの応答性レポーターについての相対ルシフェラーゼ活性を増加させた(AおよびB、棒2を棒1と比較する)。HJVとの同時トランスフェクションも同様に、外因性BMP刺激の非存在下でさえもBREルシフェラーゼ活性を増加させた(A、棒3)。HJV媒介性BMPシグナル伝達は用量依存性であり(C、灰色棒)、HJVの存在は外因性BMPにより生じるシグナル伝達を増強した(D、黒色棒)。対照的に、HJV(1μgまで)との同時トランスフェクションは、ベースラインより上にCAGA-ルシフェラーゼ活性を増加させなかった(B、棒3)。総合すれば、これらの結果は、HJVがBMPシグナル伝達を媒介できるが、TGF-βシグナル伝達を媒介できないこと、およびHJVがBMP-2についての可能性のあるアクセサリー受容体と一致した様式で行動することを実証している。
【0137】
結果2:HJV媒介性BMPシグナル伝達はノギンにより阻害される
外因性BMPリガンドの非存在下でさえもBMPシグナル伝達を媒介するHJVの能力は、HJVがリガンド非依存性様式で作用しているのかどうか、またはそれは内因性BMPリガンドによりシグナル伝達を増強させているのかどうかという問題を提起する。それゆえに、研究は、HJV媒介性シグナル伝達がノギン、BMPリガンドに結合し、BMP受容体に対する結合エピトープをブロックすることにより機能するBMPシグナル伝達の可溶性インヒビターにより阻害されうるかどうかを決定するために行った。
【0138】
HepG2細胞に、BRE-LucおよびHJV cDNA、または空のベクターを同時トランスフェクションした。トランスフェクションされた細胞を、1μgノギンの存在下または非存在下で0.5nM外因性BMP-2有りまたは無しで16時間、インキュベートし、続いて、ルシフェラーゼ活性の測定を行った。得られた結果は図5に報告されている。
【0139】
ノギンの非存在下において、HJV cDNAでの同時トランスフェクションは、BREルシフェラーゼ活性をベースラインより上に10倍、増加させた(棒2を棒1と比較する)。同様に、外因性BMP-2とのインキュベーションは、BREルシフェラーゼ活性をベースラインより上に12倍、増加させた(棒4を棒1と比較する)。HJVかまたは外因性BMPのいずれかによるこの刺激は、ノギンタンパク質の存在により遮断されることができた(棒3、5)。対照的に、ノギンは、TGF-β1誘導性CAGAルシフェラーゼ活性に影響を及ぼさなかった(棒6〜8)。このデータは、HJVが、おそらく内因的に発現したBMPリガンドを介して、リガンド依存性様式でBMPシグナルを発生することを示唆している。
【0140】
結果3:HJV.FcはBMP-2を選択的に結合する
HJV.Fcを、過剰非放射性BMP-2、BMP-4、BMP-7、またはTGF-β1の有りまたは無しで125I標識BMP-2と一晩、インキュベートし、続いて、プロテインAコーティングプレート上でのインキュベーションおよび放射能の測定を行った(図6(A)および図7)。または、HJV.Fcの125I標識BMP-2との化学架橋を、無細胞系においてDSSを用いて行った(図6(B))。
【0141】
図6(A)に示されているように、HJV.Fcは、用量依存性様式で125I-BMP-2に結合することができた。HJV.Fcの125I-BMP-2への結合は、過剰非放射性BMP-2により競合的に阻害されたが、BMP-4、BMP-7、またはTGF-β1により阻害されなかった(図7参照)。125I-BMP-2は、DSSの存在下でHJV.Fcと化学架橋されることができ(図6(B)、レーン4)、これは過剰非放射性BMP-2により阻害されうる(レーン5)。陰性対照として、DSSの非存在下において(レーン1および2)、または緩衝液単独(レーン3)もしくはALK5.Fc(TGF-β I型受容体、レーン6)がHJV.Fcの代わりに用いられた場合、バンドは見られなかった。
【0142】
結果4:HJV媒介性BMPシグナル伝達は、ドミナントネガティブI型受容体ALD3およびALK6により、ならびにドミナントネガティブSmad1により、阻害される
HepG2細胞に、BRE-LucおよびHJVを、単独か、またはドミナントネガティブなBMP I型受容体ALK3(ALK3 DN)もしくはALK6(ALK6 DN)と組み合わせて(図8(A))、または野生型(WT)対ドミナントネガティブな(DN)R-Smad 1と組み合わせて(図8(B))かのいずれかで、同時トランスフェクションした。トランスフェクションされた細胞を、その後、0.5nM BMP-2の存在下または非存在下で16時間、インキュベートし、その後、ルシフェラーゼ活性の測定を行った。
【0143】
図8(A)に示されているように、HJVでのトランスフェクションまたは細胞の外因性BMP-2とのインキュベーションは、ベースラインより上に〜15-20倍、BREルシフェラーゼ活性を増加させた(棒2および棒5を棒1と比較する)。HJVかまたは外因性BMP-2のいずれかによるこの刺激は、ドミナントネガティブなALK3(棒3、棒6)またはドミナントネガティブなALK6(棒4、棒7)での同時トランスフェクションにより遮断されることができた。
【0144】
図8(B)に示されているように、WT Smad 1単独でのトランスフェクションは、BREルシフェラーゼ活性をベースラインより上に〜12倍、増加させた(棒2を棒1と比較する)。対照的に、DN Smad 1単独でのトランスフェクションは、BREルシフェラーゼ活性をベースラインより下に減少させた(棒3を棒1と比較する)。これは、外因的に添加されるリガンドの非存在下でこれらの細胞においてBMP経路を介する基底のシグナル伝達があるというさらなる支持を提供しており、このシグナル伝達は追加のWT Samd 1の存在により増強され、かつDN Samd 1により阻害されうる。HJVでのトランスフェクションは、BREルシフェラーゼ活性をベースラインより上に〜12倍、増加させた(棒4)。WT Smad 1のHJVとの同時トランスフェクションは、WT Smad 1かまたはHJVのいずれかの単独により誘導されるシグナル伝達をさらに増強した(棒5を棒2、4と比較する)。DN Smad 1のHJVとの同時トランスフェクションは、HJV単独で見られたシグナルにおける増加を遮断した(棒6を棒4と比較する)。同様の結果は、WT Smad 1およびDN Smad 1の外因性BMP-2刺激への効果についても見られた(棒7〜9)。従って、HJV媒介性BMPシグナル伝達は、BMP I型受容体ALK3およびALK6、加えてR-Smad1による古典的BMPシグナル伝達経路を介して起こる。
【0145】
結果5:変異型HJVG313VおよびHJVG313V.Fc融合タンパク質の産生および特徴付け
結果として若年性ヘモクロマトーシスを生じるHJVにおける最も多く見られる変異は、アミノ酸320位(マウスHJVにおけるアミノ酸313位に対応する)においてグリシンをバリンに置換する点変異である。変異型HJVG313Vおよび可溶性HJVG313V.Fc cDNAを、上記のように、PCRおよびサブクローニング技術を用いて作製し、CHO細胞へトランスフェクションし、還元SDS PAGE、続いて、抗HJV抗体(図9(A)および(B)、左パネル)または抗Fc抗体(図9(B)、右パネル)でのウェスタンブロットにより分析した。または、非透過処理のトランスフェクションされた細胞を、抗HJV抗体を用いて免疫蛍光顕微鏡により分析した(図10)。
【0146】
図9(A)に示されているように、変異型HJVG313VがCHO細胞に発現しているが、野生型HJVとは異なるパターンで移動し、それが、少なくともこの細胞型において、異なってプロセシングされていることを示唆する。変異型HJVG313V.Fcもまた、野生型HJV.Fcとは異なってプロセシングされているように思われ、〜60kDaバンドの喪失がある(図9(B)参照)。
【0147】
図10に示されているように、野生型HJVおよび変異型HJVG313Vの両方が、点状の分布で細胞表面上に発現している。
【0148】
結果6:変異型HJVG313Vは野生型HJVと比較してBMPシグナル伝達能力を減少させる
HepG2細胞に、BRE-Lucを単独で、または増加性濃度の野生型HJVもしくは変異型HJVG13V cDNAと組み合わせて、トランスフェクションした。トランスフェクションされた細胞を、0.5nM BMP-2の存在下または非存在下で16時間、インキュベートし、続いて、ルシフェラーゼ活性の測定を行った。図11に示されているように、外因性リガンドの非存在下において、野生型HJVはBREルシフェラーゼ活性をベースラインに対して23倍まで増加させた。この刺激は、0.5nM外因性BMP-2で見られたものと類似していた。対照的に、変異型HJVG313Vは、BREルシフェラーゼ活性を最大9倍までのみ、増加させた。これは、ヒトにおいて結果として若年性ヘモクロマトーシスを生じうる変異型HJVG313Vが、肝細胞においてBMPシグナル伝達能力を減少させていることを示唆し、BMPシグナル伝達が鉄代謝において役割を果たしているかどうかという問題を提起する。
【0149】
結論
上で報告されているように、本出願人らは、(1)HJVはBMPシグナル伝達を誘導するが、TGF-βシグナル伝達を誘導しないこと;(2)HJVシグナル伝達はノギン、周知のBMPインヒビターにより阻害されること;(3)HJVは放射標識BMP-2リガンドへ直接的に結合すること;(4)HJVはBMP I型受容体、ALK-3およびALK-6を介してシグナル伝達すること;(5)HJVはBMP R-Smad、Smad1を介してシグナル伝達すること;(6)若年性ヘモクロマトーシスを引き起こすことが知られているHJV変異体はBMPシグナル伝達能力を減少させること;ならびに(7)BMPは肝細胞においてヘプシジン発現を増加させるが、ノギンは減少させることを示している。
【0150】
これらの結果は、HJVが、BMPシグナル伝達能力が鉄代謝を制御するにおいて重要である、新規のBMP補助受容体である。HJVにおける変異は、肝細胞においてBMPシグナル伝達の減少へと導き、その後、ヘプシジン発現を減少させることができ、それにより、なぜHJV変異体を有する人がヘプシジンレベルを抑制し、それに従って鉄過剰になっているかを説明できる。HJVの新規な作用機構に関する本所見は、これまで発見されていないBMPシグナル伝達と鉄代謝の間の関連を明らかにし、ヘモクロマトーシスおよび慢性疾患の貧血のような鉄代謝の障害の新規な処置ストラテジーへと導くことができた。
【0151】
実施例3:インビボでの鉄結合能へのBMP-2の効果
研究プロトコール
正常なマウスに、18μgのBMP-2(1kg体重あたり1mgと等価)、または対照として担体溶液を眼窩内に注射した。4時間後、血液を採取し、血清中鉄レベルおよび総鉄結合能を比色アッセイを用いて測定した。
【0152】
図12に示されているように、BMP-2の注射は、血清鉄および総鉄結合能の両方における有意な減少へと導いた。この結果は、BMPリガンドおよびBMPインヒビターが、ヒトを含む動物全体において鉄レベルを制御する治療剤として有用であろうことを示している。
【0153】
実施例4:タンパク分解性に安定なHJV、RGMa、およびDragon変異体
対応する野生型タンパク質とは対照的に、タンパク分解性切断を受けない変異体HJV、RGMa、およびDragonタンパク質を産生する可能性を実証するために実験を企てた。
【0154】
マウスRGMa-D169A.Fc変異体cDNAを作製し、HEK細胞上清に発現させた。図13は、得られた精製タンパク質が野生型マウスRMGa.Fcタンパク質と比較してタンパク分解性に切断されないことを示している。
【0155】
同様に、マウスDragon-D171A.Fc変異体cDNAを作製し、HEK細胞上清に発現させた。得られた精製変異体タンパク質は、野生型マウスDragon.Fcタンパク質と比較してタンパク分解性切断に対して安定であることが示された(図14参照)。
【0156】
第三実験において、ヒトHJV-D172A変異体cDNAを作製し、HEK細胞上清に発現させた。図15に示されているように、野生型ヒトHJVタンパク質と対照的に、変異型HJVタンパク質はタンパク分解性切断を受けなかった。
【0157】
野生型バージョンよりタンパク分解性切断に対してより安定である変異型HJV、RGMa、およびDragon融合タンパク質は、本発明の方法において有利に用いられうるように思われる。
【0158】
他の態様
本発明の他の態様は、本明細書に開示された本発明の詳述または実施の考慮から当業者にとって明らかであると思われる。詳述および実施例は例示するものとのみ、みなされ、本発明の真の範囲は特許請求の範囲により示されることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0159】
【図1】BMP-2、ノギン.Fc(内因性BMPシグナル伝達を阻害することが知られている)、およびFe-NTA(非トランスフェリン結合型鉄)の、対照細胞、C(すなわち、これらの作用物質の非存在下でインキュベートされたHepG2細胞)におけるヘプシジン/アクチン比と比較した、HepG2細胞におけるヘプシジン/アクチン比への効果を示すグラフである。
【図2】BMP-2、ノギン.Fc、およびTGF-β1の、対照細胞、C(すなわち、これらの作用物質の非存在下でインキュベートされたHepG2細胞)におけるヘプシジン/アクチン比と比較した、HepG2細胞におけるヘプシジン/アクチン比への効果を示すグラフである。
【図3】肝臓(A)およびトランスフェクションされたCHO細胞(B)におけるHJVタンパク質の、ならびに可溶性HJV.Fc融合タンパク質(C)の一組のウェスタンブロット分析を示す。
【図4】BMP-2、BMP-4、もしくはTGF-β1の有りまたは無しでインキュベートされたBMP応答性ルシフェラーゼレポーター(A、C)またはTGF-β応答性ルシフェラーゼレポーター(B)をトランスフェクションされたHepG2細胞におけるルシフェラーゼ活性の測定を示す3つのグラフの一組である。
【図5】BMP応答性ルシフェラーゼレポーターおよびHJV cDNAまたは空のベクターをトランスフェクションされ、かつノギンの存在下または非存在下で外因性BMP-2の有りまたは無しでインキュベートされたHepG2細胞におけるルシフェラーゼ活性の測定を示すグラフである。
【図6】図6(A)は125I標識BMP-2とインキュベートされたHJV.Fcからの放射能測定の結果を示すグラフである。図6(B)は、125I-BMP-2がDSSの存在下でHJV.Fcと化学架橋することができること(棒4)、およびこの架橋が過剰非放射性BMP-2により阻害されうること(棒5)を示すゲルである。
【図7】過剰非放射性BMP-2、BMP-4、BMP-7、もしくはTGF-β1の有りまたは無しで125I標識BMP-2とインキュベートされたHJV.Fcからの放射能測定を報告するグラフである。
【図8】BMP応答性ルシフェラーゼレポーターおよびHJVを単独で、またはドミナントネガティブなBMP I型受容体ALK3(ALK3 DN)もしくはALK6(ALK6 DN)と組み合わせて(図8(A))、または野生型(WT)対ドミナントネガティブな(DN)R-Smad 1と組み合わせて(図8(B))、同時トランスフェクションされたHepG2細胞におけるルシフェラーゼ活性の測定を示す2つのグラフの一組である。
【図9】PCRおよびサブクローニング技術を用いて作製され、かつCHO細胞へトランスフェクションされた変異型HJVG313V(図9(A))および可溶性HJVG313V.Fc cDNA(図9(B))の2つのウェスタンブロット分析を示す。
【図10】野生型HJVおよび変異型HJVG313Vをトランスフェクションされた非透過処理の細胞の免疫蛍光顕微鏡像を示す。
【図11】BMP応答性ルシフェラーゼレポーターを単独で、または増加性濃度の野生型HJVもしくは変異型HJVG13V cDNAと組み合わせて、トランスフェクションされたHepG2細胞におけるルシフェラーゼ活性の測定を報告するグラフである。
【図12】BMP-2リガンドでの眼窩内処置後のマウスにおける血清鉄および総鉄結合能の測定を報告する表である。
【図13】マウスRMGa-D169A.Fc融合タンパク質がマウスRMGa.Fc融合タンパク質と比較してタンパク分解性に切断されないことを示すゲルである。
【図14】マウスDragon-D171A.Fc融合タンパク質がマウスDragon.Fc融合タンパク質と比較してタンパク分解性に切断されないことを示すゲルである。
【図15】ヒトHJV-D172AがヒトHJVと比較してタンパク分解性に切断されないことを示すゲルである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験体においてヘプシジン発現または活性を制御するための方法であって、少なくとも1つのTGF-βスーパーファミリーメンバーのシグナル伝達活性を調節する化合物の有効量を被験体に投与し、それにより被験体においてヘプシジン発現または活性を制御する段階を含む、方法。
【請求項2】
少なくとも1つのTGF-βスーパーファミリーメンバーがTGF-βまたはBMPである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
化合物が、TGF-βのアゴニスト、TGF-βのアンタゴニスト、BMPのアゴニスト、BMPのアンタゴニスト、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される作用物質を含む、請求項2記載の方法。
【請求項4】
作用物質が、HJV.Fc融合タンパク質、Dragon.Fc融合タンパク質、DLN.Fc融合タンパク質、sTβRII.Fc融合タンパク質、sTβRII-B.Fc融合タンパク質、およびsTβRIIIΔ.Fc融合タンパク質からなる群より選択される、請求項3記載の方法。
【請求項5】
作用物質が、変異型HJV.Fc融合タンパク質、変異型Dragon.Fc融合タンパク質、および変異型DLN.Fc融合タンパク質からなる群より選択される融合タンパク質を含み、融合タンパク質はタンパク分解性切断が不可能である、請求項3記載の方法。
【請求項6】
被験体が鉄欠乏と関連した状態を有する、または有する危険性がある、請求項2記載の方法。
【請求項7】
鉄欠乏と関連した状態が、慢性疾患の貧血、鉄欠乏性貧血、機能性鉄欠乏、および小球性貧血からなる群より選択される、請求項6記載の方法。
【請求項8】
被験体が鉄過剰と関連した状態を有する、または有する危険性がある、請求項2記載の方法。
【請求項9】
鉄過剰と関連した状態が、成人性ヘモクロマトーシスおよび若年性ヘモクロマトーシスからなる群より選択される、請求項8記載の方法。
【請求項10】
被験体が鉄過剰と関連した状態を有する、または有する危険性があり、かつ被験体においてヘプシジン発現または活性を制御することが、被験体においてヘプシジン発現または活性を増強することを含む、請求項2記載の方法。
【請求項11】
化合物が、BMPのアゴニスト、TGF-βのアンタゴニスト、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される作用物質を含む、請求項10記載の方法。
【請求項12】
TGF-βのアンタゴニストが、sTβRII.Fc融合タンパク質、sTβRII-B.Fc融合タンパク質、およびsTβRIIIΔ.Fc融合タンパク質からなる群より選択される、請求項11記載の方法。
【請求項13】
鉄過剰と関連した状態が、成人性ヘモクロマトーシスおよび若年性ヘモクロマトーシスからなる群より選択される、請求項10記載の方法。
【請求項14】
被験体が鉄欠乏と関連した状態を有する、または有する危険性があり、かつ被験体においてヘプシジン発現または活性を制御することが、被験体においてヘプシジン発現または活性を抑制することを含む、請求項2記載の方法。
【請求項15】
化合物が、TGF-βのアゴニスト、BMPのアンタゴニスト、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される作用物質を含む、請求項14記載の方法。
【請求項16】
BMPのアンタゴニストが、HJV.Fc融合タンパク質、Dragon.Fc融合タンパク質、およびDLN.Fc融合タンパク質からなる群より選択される、請求項15記載の方法。
【請求項17】
BMPのアンタゴニストが、変異型HJV.Fc融合タンパク質、変異型Dragon.Fc融合タンパク質、および変異型DLN.Fc融合タンパク質からなる群より選択される融合タンパク質を含み、融合タンパク質はタンパク分解性切断が不可能である、請求項15記載の方法。
【請求項18】
鉄欠乏と関連した状態が、慢性疾患の貧血、鉄欠乏性貧血、機能性鉄欠乏、および小球性貧血からなる群より選択される、請求項10記載の方法。
【請求項19】
生体系においてヘプシジン発現または活性を制御するための方法であって、少なくとも1つのTGF-βスーパーファミリーメンバーのシグナル伝達活性を調節する化合物の有効量と生体系を接触させ、それにより生体系においてヘプシジン発現または活性を制御する段階を含む、方法。
【請求項20】
少なくとも1つのTGF-βスーパーファミリーメンバーがTGF-βまたはBMPである、請求項19記載の方法。
【請求項21】
化合物が、TGF-βのアゴニスト、TGF-βのアンタゴニスト、BMPのアゴニスト、BMPのアンタゴニスト、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される作用物質を含む、請求項20記載の方法。
【請求項22】
作用物質が、HJV.Fc融合タンパク質、Dragon.Fc融合タンパク質、DLN.Fc融合タンパク質、sTβRII.Fc融合タンパク質、sTβRII-B.Fc融合タンパク質、およびsTβRIIIΔ.Fc融合タンパク質からなる群より選択される、請求項21記載の方法。
【請求項23】
生体系が、細胞、生体液、生体組織、および動物からなる群より選択される、請求項19記載の方法。
【請求項24】
生体系が鉄過剰を示し、かつ生体系においてヘプシジン発現または活性を制御することが、生体系においてヘプシジン発現または活性を増強することを含む、請求項19記載の方法。
【請求項25】
化合物が、BMPのアゴニスト、TGF-βのアンタゴニスト、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される作用物質を含む、請求項24記載の方法。
【請求項26】
TGF-βのアンタゴニストが、sTβRII.Fc融合タンパク質、sTβRII-B.Fc融合タンパク質、およびsTβRIIIΔ.Fc融合タンパク質からなる群より選択される、請求項25記載の方法。
【請求項27】
生体系が鉄欠乏を示し、かつ生体系においてヘプシジン発現または活性を制御することが、生体系においてヘプシジン発現または活性を抑制することを含む、請求項19記載の方法。
【請求項28】
化合物が、TGF-βのアゴニスト、BMPのアンタゴニスト、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される作用物質を含む、請求項27記載の方法。
【請求項29】
BMPのアンタゴニストが、HJV.Fc融合タンパク質、Dragon.Fc融合タンパク質、およびDLN.Fc融合タンパク質からなる群より選択される、請求項28記載の方法。
【請求項30】
BMPのアンタゴニストが、変異型HJV.Fc融合タンパク質、変異型Dragon.Fc融合タンパク質、および変異型DLN.Fc融合タンパク質からなる群より選択される融合タンパク質を含み、融合タンパク質はタンパク分解性切断が不可能である、請求項28記載の方法。
【請求項31】
被験体において鉄代謝または鉄代謝過程を制御するための方法であって、少なくとも1つのTGF-βスーパーファミリーメンバーのシグナル伝達活性を調節する化合物の有効量を被験体に投与し、それにより被験体において鉄代謝または鉄代謝過程を制御する段階を含む、方法。
【請求項32】
化合物を投与することが結果として、被験体におけるヘプシジン発現または活性の制御を生じる、請求項31記載の方法。
【請求項33】
少なくとも1つのTGF-βスーパーファミリーメンバーがTGF-βまたはBMPである、請求項31記載の方法。
【請求項34】
化合物が、TGF-βのアゴニスト、TGF-βのアンタゴニスト、BMPのアゴニスト、BMPのアンタゴニスト、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される作用物質を含む、請求項33記載の方法。
【請求項35】
作用物質が、HJV.Fc融合タンパク質、Dragon.Fc融合タンパク質、DLN.Fc融合タンパク質、sTβRII.Fc融合タンパク質、sTβRII-B.Fc融合タンパク質、およびsTβRIIIΔ.Fc融合タンパク質からなる群より選択される、請求項34記載の方法。
【請求項36】
鉄代謝過程が、鉄取り込み、鉄吸収、鉄運搬、鉄貯蔵、鉄プロセッシング、鉄動員、および鉄利用からなる群より選択される、請求項31記載の方法。
【請求項37】
被験体が鉄過剰と関連した状態を有する、または有する危険性があり、かつ鉄代謝または鉄代謝過程を制御することが、被験体において鉄代謝または鉄代謝過程を阻害することを含む、請求項31記載の方法。
【請求項38】
化合物が、BMPのアゴニスト、TGF-βのアンタゴニスト、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される作用物質を含む、請求項37記載の方法。
【請求項39】
TGF-βのアンタゴニストが、sTβRII.Fc融合タンパク質、sTβRII-B.Fc融合タンパク質、およびsTβRIIIΔ.Fc融合タンパク質からなる群より選択される、請求項38記載の方法。
【請求項40】
鉄過剰と関連した状態が、成人性ヘモクロマトーシスおよび若年性ヘモクロマトーシスからなる群より選択される、請求項37記載の方法。
【請求項41】
被験体が鉄欠乏と関連した状態を有する、または有する危険性があり、かつ鉄代謝または鉄代謝過程を制御することが、被験体において鉄代謝または鉄代謝過程を亢進することを含む、請求項31記載の方法。
【請求項42】
化合物が、TGF-βのアゴニスト、BMPのアンタゴニスト、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される作用物質を含む、請求項41記載の方法。
【請求項43】
BMPのアンタゴニストが、HJV.Fc融合タンパク質、Dragon.Fc融合タンパク質、およびDLN.Fc融合タンパク質からなる群より選択される、請求項42記載の方法。
【請求項44】
BMPのアンタゴニストが、変異型HJV.Fc融合タンパク質、変異型Dragon.Fc融合タンパク質、および変異型DLN.Fc融合タンパク質からなる群より選択される融合タンパク質を含み、融合タンパク質はタンパク分解性切断が不可能である、請求項42記載の方法。
【請求項45】
鉄欠乏と関連した状態が、慢性疾患の貧血、鉄欠乏性貧血、機能性鉄欠乏、および小球性貧血からなる群より選択される、請求項41記載の方法。
【請求項46】
生体系において鉄代謝または鉄代謝過程を制御するための方法であって、少なくとも1つのTGF-βスーパーファミリーメンバーのシグナル伝達活性を調節する化合物の有効量と生体系を接触させ、それにより生体系において鉄代謝または鉄代謝過程を制御する段階を含む、方法。
【請求項47】
少なくとも1つのTGF-βスーパーファミリーメンバーがTGF-βまたはBMPである、請求項46記載の方法。
【請求項48】
化合物が、TGF-βのアゴニスト、TGF-βのアンタゴニスト、BMPのアゴニスト、BMPのアンタゴニスト、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される作用物質を含む、請求項47記載の方法。
【請求項49】
作用物質が、HJV.Fc融合タンパク質、Dragon.Fc融合タンパク質、DLN.Fc融合タンパク質、sTβRII.Fc融合タンパク質、sTβRII-B.Fc融合タンパク質、およびsTβRIIIΔ.Fc融合タンパク質からなる群より選択される、請求項48記載の方法。
【請求項50】
生体系が、細胞、生体液、生体組織、および動物からなる群より選択される、請求項46記載の方法。
【請求項51】
鉄代謝過程が、鉄取り込み、鉄吸収、鉄運搬、鉄貯蔵、鉄プロセッシング、鉄動員、および鉄利用からなる群より選択される、請求項46記載の方法。
【請求項52】
生体系が鉄過剰を示し、かつ鉄代謝または鉄代謝過程を制御することが、生体系において鉄代謝または鉄代謝過程を阻害することを含む、請求項44記載の方法。
【請求項53】
化合物が、BMPのアゴニスト、TGF-βのアンタゴニスト、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される作用物質を含む、請求項52記載の方法。
【請求項54】
TGF-βのアンタゴニストが、sTβRII.Fc融合タンパク質、sTβRII-B.Fc融合タンパク質、およびsTβRIIIΔ.Fc融合タンパク質である、請求項53記載の方法。
【請求項55】
生体系が鉄欠乏を示し、かつ鉄代謝または鉄代謝過程を制御することが、生体系において鉄代謝または鉄代謝過程を亢進することを含む、請求項43記載の方法。
【請求項56】
化合物が、TGF-βのアゴニスト、BMPのアンタゴニスト、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される作用物質を含む、請求項55記載の方法。
【請求項57】
BMPのアンタゴニストが、HJV.Fc融合タンパク質、Dragon.Fc融合タンパク質、およびDLN.Fc融合タンパク質からなる群より選択される、請求項56記載の方法。
【請求項58】
BMPのアンタゴニストが、変異型HJV.Fc融合タンパク質、変異型Dragon.Fc融合タンパク質、および変異型DLN.Fc融合タンパク質からなる群より選択される融合タンパク質を含み、融合タンパク質はタンパク分解性切断が不可能である、請求項56記載の方法。
【請求項59】
被験体において鉄代謝もしくは鉄代謝過程における撹乱と関連した状態を処置または予防するための方法であって、少なくとも1つのTGF-βスーパーファミリーメンバーのシグナル伝達活性を調節する化合物の有効量を被験体に投与し、それにより被験体の状態を処置または予防する段階を含む、方法。
【請求項60】
鉄代謝過程が、鉄取り込み、鉄吸収、鉄運搬、鉄貯蔵、鉄プロセッシング、鉄動員、および鉄利用からなる群より選択される、請求項59記載の方法。
【請求項61】
少なくとも1つのTGF-βスーパーファミリーメンバーがTGF-βまたはBMPである、請求項60記載の方法。
【請求項62】
化合物を投与することが結果として、被験体におけるヘプシジン発現または活性の制御を生じる、請求項59記載の方法。
【請求項63】
化合物が、TGF-βのアゴニスト、TGF-βのアンタゴニスト、BMPのアゴニスト、BMPのアンタゴニスト、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される作用物質を含む、請求項61記載の方法。
【請求項64】
作用物質が、HJV.Fc融合タンパク質、Dragon.Fc融合タンパク質、DLN.Fc融合タンパク質、sTβRII.Fc融合タンパク質、sTβRII-B.Fc融合タンパク質、およびsTβRIIIΔ.Fc融合タンパク質からなる群より選択される、請求項63記載の方法。
【請求項65】
被験体が鉄欠乏と関連した状態を有する、または有する危険性があり、化合物が、BMPのアンタゴニスト、TGF-βのアゴニスト、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される作用物質を含む、請求項59記載の方法。
【請求項66】
BMPのアンタゴニストが、HJV.Fc融合タンパク質、Dragon.Fc融合タンパク質、およびDLN.Fc融合タンパク質からなる群より選択される、請求項65記載の方法。
【請求項67】
BMPのアンタゴニストが、変異型HJV.Fc融合タンパク質、変異型Dragon.Fc融合タンパク質、および変異型DLN.Fc融合タンパク質からなる群より選択される融合タンパク質を含み、融合タンパク質はタンパク分解性切断が不可能である、請求項65記載の方法。
【請求項68】
鉄欠乏と関連した状態が、慢性疾患の貧血、鉄欠乏性貧血、機能性鉄欠乏、および小球性貧血からなる群より選択される、請求項65記載の方法。
【請求項69】
慢性疾患が、炎症、感染症、免疫不全症、および腫瘍性疾患からなる群より選択される障害である、請求項68記載の方法。
【請求項70】
鉄補充処置を被験体に施す段階をさらに含む、請求項65記載の方法。
【請求項71】
鉄補充処置が、フマル酸第一鉄、グルコン酸第一鉄、硫酸第一鉄、鉄デキストラン、鉄多糖、鉄ソルビトール、グルコン酸第二鉄ナトリウム、および鉄スクロースからなる群より選択される、請求項70記載の方法。
【請求項72】
被験体が鉄過剰と関連した状態を有する、または有する危険性があり、化合物が、BMPのアゴニスト、TGF-βのアンタゴニスト、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される作用物質を含む、請求項59記載の方法。
【請求項73】
TGF-βのアンタゴニストが、sTβRII.Fc融合タンパク質、sTβRII-B.Fc融合タンパク質、およびsTβRIIIΔ.Fc融合タンパク質からなる群より選択される、請求項72記載の方法。
【請求項74】
鉄過剰と関連した状態が、成人性ヘモクロマトーシスおよび若年性ヘモクロマトーシスからなる群より選択される、請求項72記載の方法。
【請求項75】
鉄キレート化処置を被験体に施す段階をさらに含む、請求項72記載の方法。
【請求項76】
鉄キレート化処置が、デスフェリオキサミン、バソフェナントロリン、およびクリオキノールからなる群より選択される、請求項75記載の方法。
【請求項77】
瀉血を被験体に行う段階をさらに含む、請求項72記載の方法。
【請求項78】
以下の段階を含む、系においてヘプシジン発現または活性を制御する化合物を同定するための方法であって、系が少なくとも1つのTGF-βスーパーファミリーメンバーを発現する、方法:
系を候補化合物と、候補化合物が少なくとも1つのTGF-βスーパーファミリーメンバーのシグナル伝達活性を調節するのに十分な条件下および時間、インキュベートして、試験系を得る段階;
試験系において少なくとも1つのTGF-βスーパーファミリーメンバーのシグナル伝達活性を代表する少なくとも1つの因子を測定する段階;
候補化合物無しで同じ条件下で同じ時間、系をインキュベートして、対照系を得る段階;
対照系において因子を測定する段階;
試験系および対照系において測定された因子を比較する段階;ならびに
試験系で測定された因子が対照系で測定された因子より少ないまたは多い場合には、候補化合物が系においてヘプシジン発現または活性を制御すると決定する段階。
【請求項79】
少なくとも1つのTGF-βスーパーファミリーメンバーがTGF-βまたはBMPである、請求項78記載の方法。
【請求項80】
系が、細胞、生体液、生体組織、または動物である、請求項79記載の方法。
【請求項81】
系がTGF-βを発現する、請求項78記載の方法。
【請求項82】
候補化合物がTGF-βのシグナル伝達活性を増強し、系においてヘプシジン発現または活性を抑制する化合物であると同定される、請求項81記載の方法。
【請求項83】
候補化合物がTGF-βのシグナル伝達活性を抑制し、系においてヘプシジン発現または活性を増強する化合物であると同定される、請求項81記載の方法。
【請求項84】
系がBMPを発現する、請求項78記載の方法。
【請求項85】
候補化合物がBMPのシグナル伝達活性を増強し、系においてヘプシジン発現または活性を増強する化合物であると同定される、請求項84記載の方法。
【請求項86】
候補化合物がBMPのシグナル伝達活性を抑制し、系においてヘプシジン発現または活性を抑制する化合物であると同定される、請求項84記載の方法。
【請求項87】
以下の段階を含む、系において鉄代謝または鉄代謝過程を制御する化合物を同定するための方法であって、系が少なくとも1つのTGF-βスーパーファミリーメンバーを発現する、方法:
系を候補化合物と、候補化合物が少なくともTGF-βスーパーファミリーメンバーのシグナル伝達活性を調節するのに十分な条件下および時間、インキュベートして、試験系を得る段階;
試験系において少なくとも1つのTGF-βスーパーファミリーメンバーのシグナル伝達活性を代表する少なくとも1つの因子を測定する段階;
候補化合物無しで同じ条件下で同じ時間、系をインキュベートして、対照系を得る段階;
対照系において因子を測定する段階;
試験系および対照系において測定された因子を比較する段階;ならびに
試験系で測定された因子が対照系で測定された因子より少ないまたは多い場合には、候補化合物が鉄代謝または鉄代謝過程を制御すると決定する段階。
【請求項88】
少なくとも1つのTGF-βスーパーファミリーメンバーがTGF-βまたはBMPである、請求項87記載の方法。
【請求項89】
系が、細胞、生体液、生体組織、または動物である、請求項88記載の方法。
【請求項90】
鉄代謝過程が、鉄取り込み、鉄吸収、鉄運搬、鉄貯蔵、鉄プロセッシング、鉄動員、および鉄利用からなる群より選択される、請求項88記載の方法。
【請求項91】
系がTGF-βを発現する、請求項88記載の方法。
【請求項92】
候補化合物がTGF-βのシグナル伝達活性を増強し、系において鉄代謝または鉄代謝過程を亢進する化合物であると同定される、請求項91記載の方法。
【請求項93】
候補化合物がTGF-βのシグナル伝達活性を抑制し、系において鉄代謝または鉄代謝過程を阻害する化合物であると同定される、請求項91記載の方法。
【請求項94】
系がBMPを発現する、請求項88記載の方法。
【請求項95】
候補化合物がBMPのシグナル伝達活性を増強し、系において鉄代謝または鉄代謝過程を阻害する化合物であると同定される、請求項94記載の方法。
【請求項96】
候補化合物がBMPのシグナル伝達活性を抑制し、鉄代謝または鉄代謝過程を亢進する化合物であると同定される、請求項94記載の方法。
【請求項97】
請求項87記載の方法により同定されるヘプシジン発現または活性のレギュレーター。
【請求項98】
請求項87記載の方法により同定される鉄代謝または鉄代謝過程のレギュレーター。
【請求項99】
請求項87記載の方法により同定されたヘプシジン発現または活性の少なくとも1つのレギュレーターの有効量、および薬学的に許容される担体を含む、薬学的組成物。
【請求項100】
請求項87記載の方法により同定された鉄代謝または鉄代謝過程の少なくとも1つのレギュレーターの有効量、および薬学的に許容される担体を含む、薬学的組成物。
【請求項101】
被験体において鉄代謝もしくは鉄代謝過程における撹乱と関連した状態を処置または予防する方法であって、請求項87記載の方法により同定されたヘプシジン発現または活性の少なくとも1つのレギュレーターの有効量を被験体に投与する段階を含む、方法。
【請求項102】
被験体において鉄代謝もしくは鉄代謝過程における撹乱と関連した状態を処置または予防する方法であって、請求項87記載の方法により同定された鉄代謝または鉄代謝過程の少なくとも1つのレギュレーターの有効量を被験体に投与する段階を含む、方法。
【請求項1】
被験体においてヘプシジン発現または活性を制御するための方法であって、少なくとも1つのTGF-βスーパーファミリーメンバーのシグナル伝達活性を調節する化合物の有効量を被験体に投与し、それにより被験体においてヘプシジン発現または活性を制御する段階を含む、方法。
【請求項2】
少なくとも1つのTGF-βスーパーファミリーメンバーがTGF-βまたはBMPである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
化合物が、TGF-βのアゴニスト、TGF-βのアンタゴニスト、BMPのアゴニスト、BMPのアンタゴニスト、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される作用物質を含む、請求項2記載の方法。
【請求項4】
作用物質が、HJV.Fc融合タンパク質、Dragon.Fc融合タンパク質、DLN.Fc融合タンパク質、sTβRII.Fc融合タンパク質、sTβRII-B.Fc融合タンパク質、およびsTβRIIIΔ.Fc融合タンパク質からなる群より選択される、請求項3記載の方法。
【請求項5】
作用物質が、変異型HJV.Fc融合タンパク質、変異型Dragon.Fc融合タンパク質、および変異型DLN.Fc融合タンパク質からなる群より選択される融合タンパク質を含み、融合タンパク質はタンパク分解性切断が不可能である、請求項3記載の方法。
【請求項6】
被験体が鉄欠乏と関連した状態を有する、または有する危険性がある、請求項2記載の方法。
【請求項7】
鉄欠乏と関連した状態が、慢性疾患の貧血、鉄欠乏性貧血、機能性鉄欠乏、および小球性貧血からなる群より選択される、請求項6記載の方法。
【請求項8】
被験体が鉄過剰と関連した状態を有する、または有する危険性がある、請求項2記載の方法。
【請求項9】
鉄過剰と関連した状態が、成人性ヘモクロマトーシスおよび若年性ヘモクロマトーシスからなる群より選択される、請求項8記載の方法。
【請求項10】
被験体が鉄過剰と関連した状態を有する、または有する危険性があり、かつ被験体においてヘプシジン発現または活性を制御することが、被験体においてヘプシジン発現または活性を増強することを含む、請求項2記載の方法。
【請求項11】
化合物が、BMPのアゴニスト、TGF-βのアンタゴニスト、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される作用物質を含む、請求項10記載の方法。
【請求項12】
TGF-βのアンタゴニストが、sTβRII.Fc融合タンパク質、sTβRII-B.Fc融合タンパク質、およびsTβRIIIΔ.Fc融合タンパク質からなる群より選択される、請求項11記載の方法。
【請求項13】
鉄過剰と関連した状態が、成人性ヘモクロマトーシスおよび若年性ヘモクロマトーシスからなる群より選択される、請求項10記載の方法。
【請求項14】
被験体が鉄欠乏と関連した状態を有する、または有する危険性があり、かつ被験体においてヘプシジン発現または活性を制御することが、被験体においてヘプシジン発現または活性を抑制することを含む、請求項2記載の方法。
【請求項15】
化合物が、TGF-βのアゴニスト、BMPのアンタゴニスト、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される作用物質を含む、請求項14記載の方法。
【請求項16】
BMPのアンタゴニストが、HJV.Fc融合タンパク質、Dragon.Fc融合タンパク質、およびDLN.Fc融合タンパク質からなる群より選択される、請求項15記載の方法。
【請求項17】
BMPのアンタゴニストが、変異型HJV.Fc融合タンパク質、変異型Dragon.Fc融合タンパク質、および変異型DLN.Fc融合タンパク質からなる群より選択される融合タンパク質を含み、融合タンパク質はタンパク分解性切断が不可能である、請求項15記載の方法。
【請求項18】
鉄欠乏と関連した状態が、慢性疾患の貧血、鉄欠乏性貧血、機能性鉄欠乏、および小球性貧血からなる群より選択される、請求項10記載の方法。
【請求項19】
生体系においてヘプシジン発現または活性を制御するための方法であって、少なくとも1つのTGF-βスーパーファミリーメンバーのシグナル伝達活性を調節する化合物の有効量と生体系を接触させ、それにより生体系においてヘプシジン発現または活性を制御する段階を含む、方法。
【請求項20】
少なくとも1つのTGF-βスーパーファミリーメンバーがTGF-βまたはBMPである、請求項19記載の方法。
【請求項21】
化合物が、TGF-βのアゴニスト、TGF-βのアンタゴニスト、BMPのアゴニスト、BMPのアンタゴニスト、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される作用物質を含む、請求項20記載の方法。
【請求項22】
作用物質が、HJV.Fc融合タンパク質、Dragon.Fc融合タンパク質、DLN.Fc融合タンパク質、sTβRII.Fc融合タンパク質、sTβRII-B.Fc融合タンパク質、およびsTβRIIIΔ.Fc融合タンパク質からなる群より選択される、請求項21記載の方法。
【請求項23】
生体系が、細胞、生体液、生体組織、および動物からなる群より選択される、請求項19記載の方法。
【請求項24】
生体系が鉄過剰を示し、かつ生体系においてヘプシジン発現または活性を制御することが、生体系においてヘプシジン発現または活性を増強することを含む、請求項19記載の方法。
【請求項25】
化合物が、BMPのアゴニスト、TGF-βのアンタゴニスト、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される作用物質を含む、請求項24記載の方法。
【請求項26】
TGF-βのアンタゴニストが、sTβRII.Fc融合タンパク質、sTβRII-B.Fc融合タンパク質、およびsTβRIIIΔ.Fc融合タンパク質からなる群より選択される、請求項25記載の方法。
【請求項27】
生体系が鉄欠乏を示し、かつ生体系においてヘプシジン発現または活性を制御することが、生体系においてヘプシジン発現または活性を抑制することを含む、請求項19記載の方法。
【請求項28】
化合物が、TGF-βのアゴニスト、BMPのアンタゴニスト、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される作用物質を含む、請求項27記載の方法。
【請求項29】
BMPのアンタゴニストが、HJV.Fc融合タンパク質、Dragon.Fc融合タンパク質、およびDLN.Fc融合タンパク質からなる群より選択される、請求項28記載の方法。
【請求項30】
BMPのアンタゴニストが、変異型HJV.Fc融合タンパク質、変異型Dragon.Fc融合タンパク質、および変異型DLN.Fc融合タンパク質からなる群より選択される融合タンパク質を含み、融合タンパク質はタンパク分解性切断が不可能である、請求項28記載の方法。
【請求項31】
被験体において鉄代謝または鉄代謝過程を制御するための方法であって、少なくとも1つのTGF-βスーパーファミリーメンバーのシグナル伝達活性を調節する化合物の有効量を被験体に投与し、それにより被験体において鉄代謝または鉄代謝過程を制御する段階を含む、方法。
【請求項32】
化合物を投与することが結果として、被験体におけるヘプシジン発現または活性の制御を生じる、請求項31記載の方法。
【請求項33】
少なくとも1つのTGF-βスーパーファミリーメンバーがTGF-βまたはBMPである、請求項31記載の方法。
【請求項34】
化合物が、TGF-βのアゴニスト、TGF-βのアンタゴニスト、BMPのアゴニスト、BMPのアンタゴニスト、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される作用物質を含む、請求項33記載の方法。
【請求項35】
作用物質が、HJV.Fc融合タンパク質、Dragon.Fc融合タンパク質、DLN.Fc融合タンパク質、sTβRII.Fc融合タンパク質、sTβRII-B.Fc融合タンパク質、およびsTβRIIIΔ.Fc融合タンパク質からなる群より選択される、請求項34記載の方法。
【請求項36】
鉄代謝過程が、鉄取り込み、鉄吸収、鉄運搬、鉄貯蔵、鉄プロセッシング、鉄動員、および鉄利用からなる群より選択される、請求項31記載の方法。
【請求項37】
被験体が鉄過剰と関連した状態を有する、または有する危険性があり、かつ鉄代謝または鉄代謝過程を制御することが、被験体において鉄代謝または鉄代謝過程を阻害することを含む、請求項31記載の方法。
【請求項38】
化合物が、BMPのアゴニスト、TGF-βのアンタゴニスト、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される作用物質を含む、請求項37記載の方法。
【請求項39】
TGF-βのアンタゴニストが、sTβRII.Fc融合タンパク質、sTβRII-B.Fc融合タンパク質、およびsTβRIIIΔ.Fc融合タンパク質からなる群より選択される、請求項38記載の方法。
【請求項40】
鉄過剰と関連した状態が、成人性ヘモクロマトーシスおよび若年性ヘモクロマトーシスからなる群より選択される、請求項37記載の方法。
【請求項41】
被験体が鉄欠乏と関連した状態を有する、または有する危険性があり、かつ鉄代謝または鉄代謝過程を制御することが、被験体において鉄代謝または鉄代謝過程を亢進することを含む、請求項31記載の方法。
【請求項42】
化合物が、TGF-βのアゴニスト、BMPのアンタゴニスト、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される作用物質を含む、請求項41記載の方法。
【請求項43】
BMPのアンタゴニストが、HJV.Fc融合タンパク質、Dragon.Fc融合タンパク質、およびDLN.Fc融合タンパク質からなる群より選択される、請求項42記載の方法。
【請求項44】
BMPのアンタゴニストが、変異型HJV.Fc融合タンパク質、変異型Dragon.Fc融合タンパク質、および変異型DLN.Fc融合タンパク質からなる群より選択される融合タンパク質を含み、融合タンパク質はタンパク分解性切断が不可能である、請求項42記載の方法。
【請求項45】
鉄欠乏と関連した状態が、慢性疾患の貧血、鉄欠乏性貧血、機能性鉄欠乏、および小球性貧血からなる群より選択される、請求項41記載の方法。
【請求項46】
生体系において鉄代謝または鉄代謝過程を制御するための方法であって、少なくとも1つのTGF-βスーパーファミリーメンバーのシグナル伝達活性を調節する化合物の有効量と生体系を接触させ、それにより生体系において鉄代謝または鉄代謝過程を制御する段階を含む、方法。
【請求項47】
少なくとも1つのTGF-βスーパーファミリーメンバーがTGF-βまたはBMPである、請求項46記載の方法。
【請求項48】
化合物が、TGF-βのアゴニスト、TGF-βのアンタゴニスト、BMPのアゴニスト、BMPのアンタゴニスト、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される作用物質を含む、請求項47記載の方法。
【請求項49】
作用物質が、HJV.Fc融合タンパク質、Dragon.Fc融合タンパク質、DLN.Fc融合タンパク質、sTβRII.Fc融合タンパク質、sTβRII-B.Fc融合タンパク質、およびsTβRIIIΔ.Fc融合タンパク質からなる群より選択される、請求項48記載の方法。
【請求項50】
生体系が、細胞、生体液、生体組織、および動物からなる群より選択される、請求項46記載の方法。
【請求項51】
鉄代謝過程が、鉄取り込み、鉄吸収、鉄運搬、鉄貯蔵、鉄プロセッシング、鉄動員、および鉄利用からなる群より選択される、請求項46記載の方法。
【請求項52】
生体系が鉄過剰を示し、かつ鉄代謝または鉄代謝過程を制御することが、生体系において鉄代謝または鉄代謝過程を阻害することを含む、請求項44記載の方法。
【請求項53】
化合物が、BMPのアゴニスト、TGF-βのアンタゴニスト、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される作用物質を含む、請求項52記載の方法。
【請求項54】
TGF-βのアンタゴニストが、sTβRII.Fc融合タンパク質、sTβRII-B.Fc融合タンパク質、およびsTβRIIIΔ.Fc融合タンパク質である、請求項53記載の方法。
【請求項55】
生体系が鉄欠乏を示し、かつ鉄代謝または鉄代謝過程を制御することが、生体系において鉄代謝または鉄代謝過程を亢進することを含む、請求項43記載の方法。
【請求項56】
化合物が、TGF-βのアゴニスト、BMPのアンタゴニスト、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される作用物質を含む、請求項55記載の方法。
【請求項57】
BMPのアンタゴニストが、HJV.Fc融合タンパク質、Dragon.Fc融合タンパク質、およびDLN.Fc融合タンパク質からなる群より選択される、請求項56記載の方法。
【請求項58】
BMPのアンタゴニストが、変異型HJV.Fc融合タンパク質、変異型Dragon.Fc融合タンパク質、および変異型DLN.Fc融合タンパク質からなる群より選択される融合タンパク質を含み、融合タンパク質はタンパク分解性切断が不可能である、請求項56記載の方法。
【請求項59】
被験体において鉄代謝もしくは鉄代謝過程における撹乱と関連した状態を処置または予防するための方法であって、少なくとも1つのTGF-βスーパーファミリーメンバーのシグナル伝達活性を調節する化合物の有効量を被験体に投与し、それにより被験体の状態を処置または予防する段階を含む、方法。
【請求項60】
鉄代謝過程が、鉄取り込み、鉄吸収、鉄運搬、鉄貯蔵、鉄プロセッシング、鉄動員、および鉄利用からなる群より選択される、請求項59記載の方法。
【請求項61】
少なくとも1つのTGF-βスーパーファミリーメンバーがTGF-βまたはBMPである、請求項60記載の方法。
【請求項62】
化合物を投与することが結果として、被験体におけるヘプシジン発現または活性の制御を生じる、請求項59記載の方法。
【請求項63】
化合物が、TGF-βのアゴニスト、TGF-βのアンタゴニスト、BMPのアゴニスト、BMPのアンタゴニスト、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される作用物質を含む、請求項61記載の方法。
【請求項64】
作用物質が、HJV.Fc融合タンパク質、Dragon.Fc融合タンパク質、DLN.Fc融合タンパク質、sTβRII.Fc融合タンパク質、sTβRII-B.Fc融合タンパク質、およびsTβRIIIΔ.Fc融合タンパク質からなる群より選択される、請求項63記載の方法。
【請求項65】
被験体が鉄欠乏と関連した状態を有する、または有する危険性があり、化合物が、BMPのアンタゴニスト、TGF-βのアゴニスト、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される作用物質を含む、請求項59記載の方法。
【請求項66】
BMPのアンタゴニストが、HJV.Fc融合タンパク質、Dragon.Fc融合タンパク質、およびDLN.Fc融合タンパク質からなる群より選択される、請求項65記載の方法。
【請求項67】
BMPのアンタゴニストが、変異型HJV.Fc融合タンパク質、変異型Dragon.Fc融合タンパク質、および変異型DLN.Fc融合タンパク質からなる群より選択される融合タンパク質を含み、融合タンパク質はタンパク分解性切断が不可能である、請求項65記載の方法。
【請求項68】
鉄欠乏と関連した状態が、慢性疾患の貧血、鉄欠乏性貧血、機能性鉄欠乏、および小球性貧血からなる群より選択される、請求項65記載の方法。
【請求項69】
慢性疾患が、炎症、感染症、免疫不全症、および腫瘍性疾患からなる群より選択される障害である、請求項68記載の方法。
【請求項70】
鉄補充処置を被験体に施す段階をさらに含む、請求項65記載の方法。
【請求項71】
鉄補充処置が、フマル酸第一鉄、グルコン酸第一鉄、硫酸第一鉄、鉄デキストラン、鉄多糖、鉄ソルビトール、グルコン酸第二鉄ナトリウム、および鉄スクロースからなる群より選択される、請求項70記載の方法。
【請求項72】
被験体が鉄過剰と関連した状態を有する、または有する危険性があり、化合物が、BMPのアゴニスト、TGF-βのアンタゴニスト、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される作用物質を含む、請求項59記載の方法。
【請求項73】
TGF-βのアンタゴニストが、sTβRII.Fc融合タンパク質、sTβRII-B.Fc融合タンパク質、およびsTβRIIIΔ.Fc融合タンパク質からなる群より選択される、請求項72記載の方法。
【請求項74】
鉄過剰と関連した状態が、成人性ヘモクロマトーシスおよび若年性ヘモクロマトーシスからなる群より選択される、請求項72記載の方法。
【請求項75】
鉄キレート化処置を被験体に施す段階をさらに含む、請求項72記載の方法。
【請求項76】
鉄キレート化処置が、デスフェリオキサミン、バソフェナントロリン、およびクリオキノールからなる群より選択される、請求項75記載の方法。
【請求項77】
瀉血を被験体に行う段階をさらに含む、請求項72記載の方法。
【請求項78】
以下の段階を含む、系においてヘプシジン発現または活性を制御する化合物を同定するための方法であって、系が少なくとも1つのTGF-βスーパーファミリーメンバーを発現する、方法:
系を候補化合物と、候補化合物が少なくとも1つのTGF-βスーパーファミリーメンバーのシグナル伝達活性を調節するのに十分な条件下および時間、インキュベートして、試験系を得る段階;
試験系において少なくとも1つのTGF-βスーパーファミリーメンバーのシグナル伝達活性を代表する少なくとも1つの因子を測定する段階;
候補化合物無しで同じ条件下で同じ時間、系をインキュベートして、対照系を得る段階;
対照系において因子を測定する段階;
試験系および対照系において測定された因子を比較する段階;ならびに
試験系で測定された因子が対照系で測定された因子より少ないまたは多い場合には、候補化合物が系においてヘプシジン発現または活性を制御すると決定する段階。
【請求項79】
少なくとも1つのTGF-βスーパーファミリーメンバーがTGF-βまたはBMPである、請求項78記載の方法。
【請求項80】
系が、細胞、生体液、生体組織、または動物である、請求項79記載の方法。
【請求項81】
系がTGF-βを発現する、請求項78記載の方法。
【請求項82】
候補化合物がTGF-βのシグナル伝達活性を増強し、系においてヘプシジン発現または活性を抑制する化合物であると同定される、請求項81記載の方法。
【請求項83】
候補化合物がTGF-βのシグナル伝達活性を抑制し、系においてヘプシジン発現または活性を増強する化合物であると同定される、請求項81記載の方法。
【請求項84】
系がBMPを発現する、請求項78記載の方法。
【請求項85】
候補化合物がBMPのシグナル伝達活性を増強し、系においてヘプシジン発現または活性を増強する化合物であると同定される、請求項84記載の方法。
【請求項86】
候補化合物がBMPのシグナル伝達活性を抑制し、系においてヘプシジン発現または活性を抑制する化合物であると同定される、請求項84記載の方法。
【請求項87】
以下の段階を含む、系において鉄代謝または鉄代謝過程を制御する化合物を同定するための方法であって、系が少なくとも1つのTGF-βスーパーファミリーメンバーを発現する、方法:
系を候補化合物と、候補化合物が少なくともTGF-βスーパーファミリーメンバーのシグナル伝達活性を調節するのに十分な条件下および時間、インキュベートして、試験系を得る段階;
試験系において少なくとも1つのTGF-βスーパーファミリーメンバーのシグナル伝達活性を代表する少なくとも1つの因子を測定する段階;
候補化合物無しで同じ条件下で同じ時間、系をインキュベートして、対照系を得る段階;
対照系において因子を測定する段階;
試験系および対照系において測定された因子を比較する段階;ならびに
試験系で測定された因子が対照系で測定された因子より少ないまたは多い場合には、候補化合物が鉄代謝または鉄代謝過程を制御すると決定する段階。
【請求項88】
少なくとも1つのTGF-βスーパーファミリーメンバーがTGF-βまたはBMPである、請求項87記載の方法。
【請求項89】
系が、細胞、生体液、生体組織、または動物である、請求項88記載の方法。
【請求項90】
鉄代謝過程が、鉄取り込み、鉄吸収、鉄運搬、鉄貯蔵、鉄プロセッシング、鉄動員、および鉄利用からなる群より選択される、請求項88記載の方法。
【請求項91】
系がTGF-βを発現する、請求項88記載の方法。
【請求項92】
候補化合物がTGF-βのシグナル伝達活性を増強し、系において鉄代謝または鉄代謝過程を亢進する化合物であると同定される、請求項91記載の方法。
【請求項93】
候補化合物がTGF-βのシグナル伝達活性を抑制し、系において鉄代謝または鉄代謝過程を阻害する化合物であると同定される、請求項91記載の方法。
【請求項94】
系がBMPを発現する、請求項88記載の方法。
【請求項95】
候補化合物がBMPのシグナル伝達活性を増強し、系において鉄代謝または鉄代謝過程を阻害する化合物であると同定される、請求項94記載の方法。
【請求項96】
候補化合物がBMPのシグナル伝達活性を抑制し、鉄代謝または鉄代謝過程を亢進する化合物であると同定される、請求項94記載の方法。
【請求項97】
請求項87記載の方法により同定されるヘプシジン発現または活性のレギュレーター。
【請求項98】
請求項87記載の方法により同定される鉄代謝または鉄代謝過程のレギュレーター。
【請求項99】
請求項87記載の方法により同定されたヘプシジン発現または活性の少なくとも1つのレギュレーターの有効量、および薬学的に許容される担体を含む、薬学的組成物。
【請求項100】
請求項87記載の方法により同定された鉄代謝または鉄代謝過程の少なくとも1つのレギュレーターの有効量、および薬学的に許容される担体を含む、薬学的組成物。
【請求項101】
被験体において鉄代謝もしくは鉄代謝過程における撹乱と関連した状態を処置または予防する方法であって、請求項87記載の方法により同定されたヘプシジン発現または活性の少なくとも1つのレギュレーターの有効量を被験体に投与する段階を含む、方法。
【請求項102】
被験体において鉄代謝もしくは鉄代謝過程における撹乱と関連した状態を処置または予防する方法であって、請求項87記載の方法により同定された鉄代謝または鉄代謝過程の少なくとも1つのレギュレーターの有効量を被験体に投与する段階を含む、方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公表番号】特表2008−530222(P2008−530222A)
【公表日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−556264(P2007−556264)
【出願日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際出願番号】PCT/US2006/005367
【国際公開番号】WO2006/088972
【国際公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【出願人】(592017633)ザ ジェネラル ホスピタル コーポレイション (177)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際出願番号】PCT/US2006/005367
【国際公開番号】WO2006/088972
【国際公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【出願人】(592017633)ザ ジェネラル ホスピタル コーポレイション (177)
【Fターム(参考)】
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