ヘミング加工装置,ヘミング加工方法およびヘミング加工装置におけるスライド部の隙間調整方法
【課題】ヘム刃を備えたフレームが直線移動する際のガイド部の構造を、より小型化しコスト低下を達成する。
【解決手段】メインフレーム11に昇降ブラケット13を昇降可能に取り付け、昇降ブラケット13上に、予備曲げ刃15および本曲げ刃17を備えたヘム刃取付部ラケット45を、ヘムダイ3上のワークWに対し接近離反移動可能に設置する。昇降ブラケット13が昇降する際には、メインフレーム11に設けたガイドレール23に対し、上端部付近ではカムフォロア67とLMローラ69とで挟持するように、また下端部付近ではカムフォロア71とLMローラ73とで挟持する状態とする。この状態で、予備曲げ加工や本曲げ加工時での反力をカムフォロア67,71で受ける。また、カムフォロア67は偏心タイプであり、取り付け状態を適宜回転させることで、ガイドレール23との隙間を調整する。
【解決手段】メインフレーム11に昇降ブラケット13を昇降可能に取り付け、昇降ブラケット13上に、予備曲げ刃15および本曲げ刃17を備えたヘム刃取付部ラケット45を、ヘムダイ3上のワークWに対し接近離反移動可能に設置する。昇降ブラケット13が昇降する際には、メインフレーム11に設けたガイドレール23に対し、上端部付近ではカムフォロア67とLMローラ69とで挟持するように、また下端部付近ではカムフォロア71とLMローラ73とで挟持する状態とする。この状態で、予備曲げ加工や本曲げ加工時での反力をカムフォロア67,71で受ける。また、カムフォロア67は偏心タイプであり、取り付け状態を適宜回転させることで、ガイドレール23との隙間を調整する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワークの縁部を縁曲げ加工するヘミング加工装置,ヘミング加工方法およびヘミング加工装置におけるスライド部の隙間調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のヘミング加工装置としては、例えば下記特許文献1に記載されたものがある。これは、予備曲げ刃を先端に備えた予備曲げリンクと、本曲げ刃を先端に備えた本曲げリンクを、同一の駆動源によって互いに時差的に揺動運動させることで、ワークの縁部に対する縁曲げ加工として、予備曲げ加工および本曲げ加工を順次行うものである。
【0003】
ところが、上記した従来のヘミング加工装置のように、リンク機構を用い、先端の予備曲げ刃および本曲げ刃を揺動運動させてヘミング加工を行う場合には、加工時の圧力をワークに対して面直に作用させるには、開放時のストロークを大きくする必要があり、設備の増大を招くものとなる。
【0004】
このような問題を解決するために、例えば下記特許文献2に記載されているように、ヘム刃を備えたフレームを、加工動作初期には揺動し、その後のワークに対する加圧時に至るまでには直線移動させることで対応している。
【特許文献1】特開2001−150038号公報
【特許文献2】特開2003−251417号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記した特許文献2に記載のものは、ヘム刃を備えたフレームの運動が直線運動だけでなく揺動運動を含んでいることから、フレームが移動する際のガイド部としては、曲線部および直線部を連続的に設けたカム溝にカムフォロアがガイドされる構造としているが、ヘム刃を備えたフレームを単に直線移動のみとする場合には、そのガイド部として、LMガイドと呼ばれる直動案内機構を使用することが考えられる。
【0006】
ところが、上記したLMガイドは、内部にボールを備えるLMブロックが、LMレールを覆うようにした状態で移動する構成であることから、ガイド部(スライド部)の構造全体として設置領域が大きくなり、またよりガイド部の構成部品として比較的コスト高となっており、ヘミング加工装置としてよりコスト低下を達成するには障害となっている。
【0007】
そこで、本発明は、ヘム刃を備えたフレームが直線移動する際のガイド部(スライド部)の構造を、より小型化しコスト低下を達成することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ヘム刃を備えた可動フレームを固定フレームに対しスライド部を介して直線的に移動可能に設け、前記可動フレームの前記固定フレームに対する直線移動により、ヘムダイに載置したワークに対して縁曲げ加工を行うヘミング加工装置において、前記スライド部は、前記固定フレームに設けられて前記直線移動方向に延びるガイドレールと、前記ガイドレールとは別体として前記可動フレームに設けられ、前記ガイドレールに対しヘミング加工時での加工反力を受ける側に位置して前記可動フレームの前記直線移動に伴いガイドレールにガイドされて移動する可動体とを有することを最も主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ヘム刃を備えた可動フレームが直線的に移動する際のスライド部において、固定フレーム側のガイドレールとは別体とした可動フレーム側の可動体がヘミング加工時の反力を受けるようにしたので、スライド部の小型化およびコスト低下を達成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき説明する。
【0011】
図1は、本発明の一実施形態を示すヘミング加工装置の側面断面図で、このヘミング加工装置は、ベース1上に設置してあるヘムダイ3上のワークWに対して縁曲げ加工を行う。
【0012】
なお、ここでのワークWは、自動車の車体、例えばドアのアウタパネルWoにインナパネルWiを重ね合わせて接合したものであり、そのアウタパネルWoの上方に屈曲して立ち上がる縁部FをインナパネルWiの周縁に重ね合わせるようにして縁曲げ加工を行う。この際、ワークWの縁部F付近は、ヘムダイ3の外方へ突出する突出部3a上に位置している。
【0013】
本ヘミング加工装置は、ワークWの周囲の例えば四辺においてそれぞれ個別にヘミング加工を行うものであり、したがって図1に示したヘミング加工装置と基本的に同様な構造のヘミング加工装置のユニットUがワークWの周囲四方に配置してある。図2は、このようなヘミング加工装置全体の正面断面図で、ヘミング加工装置のユニットUをワークWの図2中で左右両側に配置してあり、さらに、ワークWの紙面に直交する方向の両側にも、上記のユニットUを配置してある。
【0014】
図2においては、ワークWは、ワーク把持ハンド5によって把持された状態であり、このワーク把持ハンド5は、図示しないロボットにより連結部7を介して連結された状態で、前工程から本工程であるヘミング加工工程へワークWを搬送し、かつ、各ユニットUの相互間の適宜位置に設置してある位置決めポスト9の上端に位置決め固定されている。
【0015】
図1に示すように、本ヘミング加工装置のユニットUは、ベース1の側部に、固定フレームとしてのメインフレーム11を固定してあり、メインフレーム11に対し、可動フレームとしての昇降ブラケット13を図1中で上下方向にスライド移動可能に取り付けてある。
【0016】
そして、昇降ブラケット13の上部のヘムダイ3側には、ワークWに対して予備の縁曲げ加工を行う予備曲げ刃15と、予備曲げ加工後に本曲げ加工を行う本曲げ刃17を取り付けてある。
【0017】
メインフレーム11は、図3に斜視図として示すように、ベース1に固定される背板19の両側部に、ベース1から離れる方向に突出する側板21を備えており、側板21の内側に上下方向に延びて前記した昇降ブラケット13を昇降時にガイドするガイドレール23を設けている。
【0018】
また、メインフレーム11の下部には、図1,図2に示すように、昇降ブラケット13を昇降させるための駆動機構25を取り付けてある。駆動機構25は、駆動モータ27とカップリング28と減速機29とボールねじ31とを備え、減速機29を背板19のベース1側から図示しないボルトをボルト挿入孔19aに挿入して固定するとともに、駆動モータ27側から固定ブラケット33を用いて側板21の下部前端面21aにボルトにより固定する。
【0019】
ボールねじ31には、昇降ブラケット13に固定してあるナット35が螺合しており、ボールねじ31の回転により、昇降ブラケット13がナット35とともに昇降する。
【0020】
昇降ブラケット13は、メインフレーム11の背板19に近接もしくは接触した状態で配置されるブラケット背板37を備えるとともに、該ブラケット背板37のベース1と反対側に突出するブラケット側板39を備えている。このブラケット背板37およびブラケット側板39の下部に、前記したナット35が固定部材41を介して固定してある。
【0021】
上記したブラケット側板39は、図1に示すように、上部に設けたブラケット受け部43上のスライド面43aに、ヘム刃取付ブラケット45をヘムダイ3に対して接近離反する方向にスライド移動可能に設けてある。このヘム刃取付ブラケット45のヘムダイ3側の側部に、前記した予備曲げ刃15および本曲げ刃17を、予備曲げ刃15が上で本曲げ刃17が下となる位置関係で上下方向に所定間隔をおいて取り付けてある。
【0022】
ヘム刃取付ブラケット45は、ブラケット側板39に固定してあるスライド駆動用シリンダ47と、スライド駆動用シリンダ47の上方に向けて突出するピストンロッド49の先端に連結されるトグルリンク機構51とによりスライド移動する。
【0023】
図4は、図1に対しヘム刃取付ブラケット45を取り外した状態の上方から見た斜視図で、トグルリンク機構51は、固定リンク53と可動リンク55とを備え、これら各リンク53,55の一端相互を連結軸57によって回転可能に連結し、連結軸57の軸方向中央に、前記したスライド駆動用シリンダ47のピストンロッド49を連結する。
【0024】
昇降ブラケット13の前記したブラケット受け部43は矩形の枠形状を呈しており、そのメインフレーム11と反対側の端部には、メインフレーム11側に向けて突出する固定リンク支持部ラケット59を設け、この固定リンク支持部ラケット59に、前記した固定リンク53の他端を固定リンク支持軸61を介して回転可能に連結する。
【0025】
一方、可動リンク55の他端は、可動リンク支持軸63を介してヘム刃取付ブラケット45に回転可能に取り付ける。
【0026】
図1,図4の状態では、ピストンロッド49が前進限位置にあり、このとき連結軸57が上方に移動して各リンク53,55相互が上方に突出するような屈曲形状となり、ヘム刃取付ブラケット45についてはヘムダイ3から離反した後退限位置(ワーク搬入・搬出位置)となる。
【0027】
これに対し、図5のように、ピストンロッド49を後退限位置としたときには、連結軸57が下方に移動して各リンク53,55相互がほぼ一直線形状となり、ヘム刃取付ブラケット45についてはヘムダイ3に接近した前進限位置(加工待機位置)となる。
【0028】
また、ブラケット受け部43のヘムダイ3側の端部には上方に向けて突出するストッパ部65を設けてあり、ヘム刃取付ブラケット45は、図5に対応する前進限位置で、前端下部が当接して前進限位置が規制される。
【0029】
前述したように、メインフレーム11に対し昇降ブラケット13が昇降するが、その昇降時に昇降ブラケット13がガイドされるガイドレール23をメインフレーム11の側板21に設けている。この際、左右一対のガイドレール23は、図4,図5に示すように、互いに接近する方向に突出しており、この突出したガイドレール23の両側面23a,23bを挟持するように、昇降ブラケット13側の上端付近には、図1に示すように、カムフォロア67とLMローラ69を、下端付近にはカムフォロア71とLMローラ73をそれぞれ設けている。
【0030】
また、上記した上部のカムフォロア67とLMローラ69よりも図1中で下部側および、下部のカムフォロア71とLMローラ73よりも図1中で上部側のブラケット側板39には、ガイドレール23に対向するLMローラ75および77をそれぞれ設けている。
【0031】
これらカムフォロア67,71,LMローラ69,73,75,77と前記したガイドレール23とでスライド部を構成している。LMローラ69,73,75,77は、ローラが無限循環運動する直動案内である。カムフォロア67,71については後述する。
【0032】
このうち図1中で上部の左右両側に位置するLMローラ69およびカムフォロア67と、下部の左右両側に位置するカムフォロア71およびLMローラ73は、ヘミング加工時での加工反力を受ける側に位置して可動フレームである昇降ブラケット13の直線移動に伴いガイドレール23にガイドされて移動する可動体を構成している。
【0033】
図6は、上部のカムフォロア67およびLMローラ69,75を示す、図1,4,5の紙面裏側から見た斜視図である。ただし、この図6はメインフレーム11に対し昇降ブラケット13を上方に突出させて上記のカムフォロア67およびLMローラ69,75が見えるようにしている。
【0034】
図6に示すように、昇降ブラケット13のブラケット側板39は、ガイドレール23が移動可能に挿入される溝79を備え、この溝79内の一方の側壁79aに対してガイドレール23から離間するようにして設けた上端部の凹所79bにLMローラ69を取り付けてある。一方、このLMローラ69に対しガイドレール23を間に挟んで反対側に位置するカムフォロア67は、溝79内の他方の側壁79c側の上端においてブラケット側板39の板厚をほぼ1/3程度に薄くして設けた凹所79dに取り付けてある。
【0035】
図7は、上記図6と同方向から見た昇降ブラケット13の側面図で、メインフレーム11側のガイドレール23も一緒に図示してある。図7に示すように、下部のLMローラ73は、上部のLMローラ69と同様に、溝79内の他方の側壁79cに対してガイドレール23から離間するようにして設けた下端の凹所79eに取り付けてある。一方、このLMローラ73に対しガイドレール23を間に挟んで反対側に位置するカムフォロア71は、上部のカムフォロア67と同様に、溝79内の一方の側壁79a側の下端においてブラケット側板39の板厚をほぼ1/3程度に薄くして設けた凹所79fに取り付けてある。また、LMローラ75,77は、溝79の底壁79gに取り付けてある。
【0036】
このようなスライド部構造においては、図7に示すように、上部のカムフォロア67とガイドレール23との間の基準隙間Xを0.05mmとし、下部のLMローラ73とガイドレール23との間の基準隙間Yを0.5mmとしている。また、LMローラ75,77とガイドレール23との間の基準隙間Z(図6参照)を0.05mmとしている。
【0037】
上部のカムフォロア67は、図8に示すように、スタッド部67aと、スタッド部67aの頭部67bの外周側に回転可能に設けてある環状の回転部材67cとをそれぞれ備えている。スタッド部67aは、先端にねじ部67dを備え、このねじ部67dと頭部67bとの間の挿入軸部67eに、偏心カラー67fを固定している。偏心カラー67fは、回転部材67cおよびスタッド部67aの頭部67b,ねじ部67dのそれぞれの中心に対して偏心している。
【0038】
このようなカムフォロア67は、挿入軸部67eおよび偏心カラー67fに対応する部分を昇降ブラケット13のブラケット側板39に設けてある図示しない貫通孔に挿入位置させて、先端のねじ部67dをブラケット側板39の反対側に突出させ、この突出したねじ部67dに図示しないナットを締結して固定する。
【0039】
この際、スタッド部67aをブラケット側板39に対して適宜回転変位させることで、一体となって回転する偏心カラー67fの作用により、頭部67bの外周に設けてある回転部材67cと、スライドレール23との間隔が調整可能となる。
【0040】
これに対し下部のカムフォロア71は、上記した偏心カラー67fに相当するものがなく、挿入軸部67eに相当する部分を、昇降ブラケット13のブラケット側板39に設けてある図示しない貫通孔に挿入位置させるものであり、この場合には、スタッド部67aに相当する部分をブラケット側板39に対して回転させても、回転部材67cに相当する部分と、スライドレール23との間隔が変化することはない。
【0041】
また、前記した図3に示すように、メインフレーム11の側板21のガイドレール23に対応する外側位置には、左右一対のガイドレール23相互の間隔、言い換えれば昇降ブラケット13の左右方向(図1中で紙面に直交する方向)のガタを調整するための複数の引きボルト81および押しボルト83を設けている。
【0042】
引きボルト81は、側板21の保持孔に回転可能に挿入保持させて先端のねじ部をガイドレール23の雌ねじ部に螺合締結している。一方、押しボルト83は側板21の雌ねじ部に螺合締結させて先端をガイドレール23に当接させている。
【0043】
調整方法は、まず引きボルト81を緩めた後、押しボルト83を締付けてガイドレール23を押し付けた状態で、引きボルト81を締結する。
【0044】
次に、上記した構成のヘミング加工装置によるヘミング加工方法について説明する。図9は、ヘミング加工動作を示す動作説明図で、まず図9(a)のようにヘムダイ3上にワークWを搬入しセットする。このとき、ヘム刃取付ブラケット45は、図1と同様にヘムダイ3から離反した後退限位置にあり、かつ、昇降ブラケット13は、予備曲げ刃15と本曲げ刃17との間に、ヘムダイ3の突出部3aおよびワークWの縁部Fが位置するような上下位置とする。
【0045】
図9(a)の状態からスライド駆動用シリンダ47を後退駆動してヘム刃取付ブラケット45を前進させ、図9(b)のように、ヘムダイ3の突出部3aおよびワークWの縁部Fが、予備曲げ刃15と本曲げ刃17との間に入り込んだ状態のプリヘム(予備曲げ)準備位置とする。
【0046】
このプリヘム準備位置から、駆動モータ27を駆動してボールねじ31を回転させることで、昇降ブラケット13を下降させ、図9(c)のように予備曲げ刃15により縁部Fを45度程度内側に折り曲げて予備曲げ加工を実施する。
【0047】
その後、駆動モータ27を上記とは逆方向に回転駆動して、図9(d)のように昇降ブラケット13を図9(b)と同じ位置まで戻した後、スライド駆動用シリンダ47を前進駆動して、図10(a)のようにヘム刃取付部ラケット45を図9(a)と同じ位置まで後退させる。
【0048】
次に、駆動モータ27を上記の逆方向にさらに回転駆動することで、図10(b)のように本曲げ刃17がワークWの縁部Fより上方位置とする。
【0049】
図10(b)の状態から、スライド駆動用シリンダ47を後退駆動してヘム刃取付ブラケット45を再度前進させ、図10(c)のように、ワークWの縁部Fの上方に本曲げ刃17を位置させてヘム(本曲げ)準備位置とする。
【0050】
このヘム準備位置から、駆動モータ27を駆動してボールねじ31を回転させることで、再度昇降ブラケット13を下降させ、図10(d)のように本曲げ刃17により、予備曲げされた状態の縁部Fを、さらに内側に折り曲げ、インナパネルWiに重ね合わせて本曲げ加工を実施する。
【0051】
その後、図11(a)のように昇降ブラケット13を上昇させた後、図11(b)のようにヘム刃取付ブラケット45を後退させ、さらに昇降ブラケット13を前記図9(a)と同じ初期位置に戻し、この状態で加工後のワークWを取り出して次工程へ搬出する。
【0052】
本実施形態では、図9(c)の予備曲げ加工時や図10(d)の本曲げ加工時においては、予備曲げ刃15や本曲げ刃17が、ワークWの縁部Fをヘムダイ3に向けて下方に押し付け、その際昇降ブラケット13は、図12(a)の矢印Aで示すように、上部がヘムダイ3側に傾くような作用を受ける。この結果、上部のカムフォロア67がガイドレール23をヘムダイ3側に向けて押し付けると同時に、下部のカムフォロア71がガイドレール23をヘムダイ3と反対側に向けて押し付けることになり、ヘミング加工時の反力を上下のカムフォロア67,71の2点で受けることになる。
【0053】
なお、上記した予備曲げ加工や本曲げ加工を含む、昇降ブラケット13の昇降時には、メインフレーム11のガイドレール23に対し、上記のカムフォロア67,71およびLMローラ69,73,75,77がガイドされて移動することになる。
【0054】
上記したように、本実施形態では、ヘミング加工時に発生する反力を、メインフレーム11に設けてあるガイドレール23とは別体としてあるカムフォロア67,71で受けるようにしているので、ガイドレールと可動体とを一体としてガイドユニットを構成しているLMガイドに比較して、スライド部の小型化およびコスト低下を達成することができる。
【0055】
また、経年変化によりスライド部にて上記の加工反力を受ける方向にガタが生じた場合には、上部のカムフォロア67により調整することができる。この調整時には、昇降ブラケット13をメインフレーム11に対して最下端位置とすることで、カムフォロア67が、メインフレーム11の側板21の上部に設けてある調整窓85(図2,図3参照)に対応した位置となり、この状態で調整窓85を利用して行う。なお、調整窓85には図示しない蓋を装着可能であり、この蓋を外した状態で調整作業を行う。
【0056】
調整作業は、図8に示すカムフォロア67のスタッド部67a先端のねじ部67dに締結してある図示しないナットを緩めた状態で、スタッド部67aを適宜回転させ、この回転と伴に挿入軸部67eに固定してある偏心カラー67fも一体となって回転し、これによりカムフォロア67全体が偏心回転するので、頭部67bの外周に設けてある回転部材67cが直径方向に移動し、ガイドレール23との隙間が変化する。隙間の調整後は、ナットをねじ部67dに締結して固定する。
【0057】
図13(a)は、カムフォロア67とガイドレール23との間に、当初の基準隙間Xより大きな隙間tが発生してガタが大きくなっている状態を模式的に示したもので、上記の調整によりカムフォロア67を偏心回転させることで、図13(b)のようにカムフォロア67とスライドレール23との間が、当初の狭い基準隙間とすることができる。
【0058】
また、上記した調整窓85からは、カムフォロア67への給油やカムフォロア67の交換作業も行うことができる。
【0059】
また、本実施形態では、偏心カラー67fを備えたカムフォロア67を、ヘム刃である予備曲げ刃15および本曲げ刃17に近い側、すなわちガタの発生が顕著に現れる側に設けているので、調整作業を効率よく行うことができる。
【0060】
また、上記したヘミング加工装置では、予備曲げ刃15および本曲げ刃17が、ヘムダイ3に対して加圧方向に垂直に直線的に移動してヘミング加工を行うので、ワークWに対する進入角度が常に一定となり、加工品質が向上するとともに設計が容易であり、例えばワーク形状によってはヘミング加工装置全体を傾斜して配置すればよく、ワーク形状に合わせてその都度設計する必要もなく、標準化が容易である。
【0061】
さらに、加圧源が、予備曲げ刃15および本曲げ刃17のほぼ直下に位置するので、ワークWに対するヘミング加工時での加圧力を均一化でき、加工品質も向上する。
【0062】
また、加圧時の駆動機構としてボールねじを使用しているので、加圧力がリニアに発生し、加圧力の微調整が容易である。
【0063】
なお、本実施形態では、図12(b)に示すように、ワークWにおける縁部F付近での傾斜が、図12(a)のワークWに比較して緩やかで水平に近いような場合には、ヘムダイ3のワーク載置面も水平に近いものとなり、このような場合には、昇降ブラケット13は、図9(c)の予備曲げ加工時や図10(d)の本曲げ加工時に図12(b)の矢印Bで示すように、図12(a)とは逆に上部がヘムダイ3から離れる方向に傾くような作用を受ける。この結果、上部のLMローラ69がガイドレール23を押し付けると同時に、下部のLMローラ73がガイドレール23を押し付けることになり、ヘミング加工時の反力を上下のLMローラ69,73の2点で受けることになる。
【0064】
この場合においても、ヘミング加工時に発生する反力を、メインフレーム11に設けてあるガイドレール23とは別体としてあるLMローラ69,73で受けるようにしているので、ガイドレールと可動体とを一体としてガイドユニットを構成しているLMガイドに比較して、スライド部の小型化およびコスト低下を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の一実施形態を示すヘミング加工装置の側面断面図である。
【図2】ヘミング加工装置全体の正面断面図である。
【図3】図1のヘミング加工装置のメインフレームを示す斜視図である。
【図4】図1に対しヘム刃取付ブラケットを取り外した状態の上方からトグルリンク機構を見た斜視図である。
【図5】図4に対し、ヘム刃取付ブラケットを前進限位置とする際のトグルリンク機構の変化を示す斜視図である。
【図6】図1のヘミング加工装置における上部のカムフォロアおよびLMローラを示す、図1,4,5の紙面裏側から見た斜視図である。
【図7】図6と同方向から見た昇降ブラケットの側面図である。
【図8】図6に示すカムフォロアの一部破断した斜視図である。
【図9】図1のヘミング加工装置の動作説明図で、(a)はワーク搬入状態、(b)は予備曲げ準備状態、(c)は予備曲げ加工状態、(d)は予備曲げ加工後の昇降ブラケット上昇状態をそれぞれ示す。
【図10】図1のヘミング加工装置の動作説明図で、(a)は図9(d)の後の昇降ブラケット後退状態、(b)は昇降ブラケット上昇状態、(c)は本曲げ準備状態、(d)は本曲げ加工状態をそれぞれ示す。
【図11】図1のヘミング加工装置の動作説明図で、(a)は本曲げ加工後の昇降ブラケット上昇状態、(b)は昇降ブラケット後退状態、(c)はワーク搬出状態をそれぞれ示す。
【図12】ヘミング加工時加工反力を受けて昇降ブラケットが傾く方向を示す作用説明図で、(a)はヘムダイ側に傾く場合、(b)はヘムダイと反対側に傾く場合をそれぞれ示す。
【図13】(a)は、カムフォロアとガイドレールとの間に大きなガタが発生している状態を示し、(b)は、(a)のガタを調整した後の状態を示す調整作業説明図である。
【符号の説明】
【0066】
W ワーク
3 ヘムダイ
11 メインフレーム(固定フレーム)
13 昇降ブラケット(可動フレーム)
15 予備曲げ刃(ヘム刃)
17 本曲げ刃(ヘム刃)
23 ガイドレール(スライド部)
67,71 カムフォロア(可動体,スライド部)
67f 偏心カラー
69,73 LMローラ(可動体,スライド部)
75,77 LMローラ(スライド部)
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワークの縁部を縁曲げ加工するヘミング加工装置,ヘミング加工方法およびヘミング加工装置におけるスライド部の隙間調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のヘミング加工装置としては、例えば下記特許文献1に記載されたものがある。これは、予備曲げ刃を先端に備えた予備曲げリンクと、本曲げ刃を先端に備えた本曲げリンクを、同一の駆動源によって互いに時差的に揺動運動させることで、ワークの縁部に対する縁曲げ加工として、予備曲げ加工および本曲げ加工を順次行うものである。
【0003】
ところが、上記した従来のヘミング加工装置のように、リンク機構を用い、先端の予備曲げ刃および本曲げ刃を揺動運動させてヘミング加工を行う場合には、加工時の圧力をワークに対して面直に作用させるには、開放時のストロークを大きくする必要があり、設備の増大を招くものとなる。
【0004】
このような問題を解決するために、例えば下記特許文献2に記載されているように、ヘム刃を備えたフレームを、加工動作初期には揺動し、その後のワークに対する加圧時に至るまでには直線移動させることで対応している。
【特許文献1】特開2001−150038号公報
【特許文献2】特開2003−251417号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記した特許文献2に記載のものは、ヘム刃を備えたフレームの運動が直線運動だけでなく揺動運動を含んでいることから、フレームが移動する際のガイド部としては、曲線部および直線部を連続的に設けたカム溝にカムフォロアがガイドされる構造としているが、ヘム刃を備えたフレームを単に直線移動のみとする場合には、そのガイド部として、LMガイドと呼ばれる直動案内機構を使用することが考えられる。
【0006】
ところが、上記したLMガイドは、内部にボールを備えるLMブロックが、LMレールを覆うようにした状態で移動する構成であることから、ガイド部(スライド部)の構造全体として設置領域が大きくなり、またよりガイド部の構成部品として比較的コスト高となっており、ヘミング加工装置としてよりコスト低下を達成するには障害となっている。
【0007】
そこで、本発明は、ヘム刃を備えたフレームが直線移動する際のガイド部(スライド部)の構造を、より小型化しコスト低下を達成することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ヘム刃を備えた可動フレームを固定フレームに対しスライド部を介して直線的に移動可能に設け、前記可動フレームの前記固定フレームに対する直線移動により、ヘムダイに載置したワークに対して縁曲げ加工を行うヘミング加工装置において、前記スライド部は、前記固定フレームに設けられて前記直線移動方向に延びるガイドレールと、前記ガイドレールとは別体として前記可動フレームに設けられ、前記ガイドレールに対しヘミング加工時での加工反力を受ける側に位置して前記可動フレームの前記直線移動に伴いガイドレールにガイドされて移動する可動体とを有することを最も主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ヘム刃を備えた可動フレームが直線的に移動する際のスライド部において、固定フレーム側のガイドレールとは別体とした可動フレーム側の可動体がヘミング加工時の反力を受けるようにしたので、スライド部の小型化およびコスト低下を達成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき説明する。
【0011】
図1は、本発明の一実施形態を示すヘミング加工装置の側面断面図で、このヘミング加工装置は、ベース1上に設置してあるヘムダイ3上のワークWに対して縁曲げ加工を行う。
【0012】
なお、ここでのワークWは、自動車の車体、例えばドアのアウタパネルWoにインナパネルWiを重ね合わせて接合したものであり、そのアウタパネルWoの上方に屈曲して立ち上がる縁部FをインナパネルWiの周縁に重ね合わせるようにして縁曲げ加工を行う。この際、ワークWの縁部F付近は、ヘムダイ3の外方へ突出する突出部3a上に位置している。
【0013】
本ヘミング加工装置は、ワークWの周囲の例えば四辺においてそれぞれ個別にヘミング加工を行うものであり、したがって図1に示したヘミング加工装置と基本的に同様な構造のヘミング加工装置のユニットUがワークWの周囲四方に配置してある。図2は、このようなヘミング加工装置全体の正面断面図で、ヘミング加工装置のユニットUをワークWの図2中で左右両側に配置してあり、さらに、ワークWの紙面に直交する方向の両側にも、上記のユニットUを配置してある。
【0014】
図2においては、ワークWは、ワーク把持ハンド5によって把持された状態であり、このワーク把持ハンド5は、図示しないロボットにより連結部7を介して連結された状態で、前工程から本工程であるヘミング加工工程へワークWを搬送し、かつ、各ユニットUの相互間の適宜位置に設置してある位置決めポスト9の上端に位置決め固定されている。
【0015】
図1に示すように、本ヘミング加工装置のユニットUは、ベース1の側部に、固定フレームとしてのメインフレーム11を固定してあり、メインフレーム11に対し、可動フレームとしての昇降ブラケット13を図1中で上下方向にスライド移動可能に取り付けてある。
【0016】
そして、昇降ブラケット13の上部のヘムダイ3側には、ワークWに対して予備の縁曲げ加工を行う予備曲げ刃15と、予備曲げ加工後に本曲げ加工を行う本曲げ刃17を取り付けてある。
【0017】
メインフレーム11は、図3に斜視図として示すように、ベース1に固定される背板19の両側部に、ベース1から離れる方向に突出する側板21を備えており、側板21の内側に上下方向に延びて前記した昇降ブラケット13を昇降時にガイドするガイドレール23を設けている。
【0018】
また、メインフレーム11の下部には、図1,図2に示すように、昇降ブラケット13を昇降させるための駆動機構25を取り付けてある。駆動機構25は、駆動モータ27とカップリング28と減速機29とボールねじ31とを備え、減速機29を背板19のベース1側から図示しないボルトをボルト挿入孔19aに挿入して固定するとともに、駆動モータ27側から固定ブラケット33を用いて側板21の下部前端面21aにボルトにより固定する。
【0019】
ボールねじ31には、昇降ブラケット13に固定してあるナット35が螺合しており、ボールねじ31の回転により、昇降ブラケット13がナット35とともに昇降する。
【0020】
昇降ブラケット13は、メインフレーム11の背板19に近接もしくは接触した状態で配置されるブラケット背板37を備えるとともに、該ブラケット背板37のベース1と反対側に突出するブラケット側板39を備えている。このブラケット背板37およびブラケット側板39の下部に、前記したナット35が固定部材41を介して固定してある。
【0021】
上記したブラケット側板39は、図1に示すように、上部に設けたブラケット受け部43上のスライド面43aに、ヘム刃取付ブラケット45をヘムダイ3に対して接近離反する方向にスライド移動可能に設けてある。このヘム刃取付ブラケット45のヘムダイ3側の側部に、前記した予備曲げ刃15および本曲げ刃17を、予備曲げ刃15が上で本曲げ刃17が下となる位置関係で上下方向に所定間隔をおいて取り付けてある。
【0022】
ヘム刃取付ブラケット45は、ブラケット側板39に固定してあるスライド駆動用シリンダ47と、スライド駆動用シリンダ47の上方に向けて突出するピストンロッド49の先端に連結されるトグルリンク機構51とによりスライド移動する。
【0023】
図4は、図1に対しヘム刃取付ブラケット45を取り外した状態の上方から見た斜視図で、トグルリンク機構51は、固定リンク53と可動リンク55とを備え、これら各リンク53,55の一端相互を連結軸57によって回転可能に連結し、連結軸57の軸方向中央に、前記したスライド駆動用シリンダ47のピストンロッド49を連結する。
【0024】
昇降ブラケット13の前記したブラケット受け部43は矩形の枠形状を呈しており、そのメインフレーム11と反対側の端部には、メインフレーム11側に向けて突出する固定リンク支持部ラケット59を設け、この固定リンク支持部ラケット59に、前記した固定リンク53の他端を固定リンク支持軸61を介して回転可能に連結する。
【0025】
一方、可動リンク55の他端は、可動リンク支持軸63を介してヘム刃取付ブラケット45に回転可能に取り付ける。
【0026】
図1,図4の状態では、ピストンロッド49が前進限位置にあり、このとき連結軸57が上方に移動して各リンク53,55相互が上方に突出するような屈曲形状となり、ヘム刃取付ブラケット45についてはヘムダイ3から離反した後退限位置(ワーク搬入・搬出位置)となる。
【0027】
これに対し、図5のように、ピストンロッド49を後退限位置としたときには、連結軸57が下方に移動して各リンク53,55相互がほぼ一直線形状となり、ヘム刃取付ブラケット45についてはヘムダイ3に接近した前進限位置(加工待機位置)となる。
【0028】
また、ブラケット受け部43のヘムダイ3側の端部には上方に向けて突出するストッパ部65を設けてあり、ヘム刃取付ブラケット45は、図5に対応する前進限位置で、前端下部が当接して前進限位置が規制される。
【0029】
前述したように、メインフレーム11に対し昇降ブラケット13が昇降するが、その昇降時に昇降ブラケット13がガイドされるガイドレール23をメインフレーム11の側板21に設けている。この際、左右一対のガイドレール23は、図4,図5に示すように、互いに接近する方向に突出しており、この突出したガイドレール23の両側面23a,23bを挟持するように、昇降ブラケット13側の上端付近には、図1に示すように、カムフォロア67とLMローラ69を、下端付近にはカムフォロア71とLMローラ73をそれぞれ設けている。
【0030】
また、上記した上部のカムフォロア67とLMローラ69よりも図1中で下部側および、下部のカムフォロア71とLMローラ73よりも図1中で上部側のブラケット側板39には、ガイドレール23に対向するLMローラ75および77をそれぞれ設けている。
【0031】
これらカムフォロア67,71,LMローラ69,73,75,77と前記したガイドレール23とでスライド部を構成している。LMローラ69,73,75,77は、ローラが無限循環運動する直動案内である。カムフォロア67,71については後述する。
【0032】
このうち図1中で上部の左右両側に位置するLMローラ69およびカムフォロア67と、下部の左右両側に位置するカムフォロア71およびLMローラ73は、ヘミング加工時での加工反力を受ける側に位置して可動フレームである昇降ブラケット13の直線移動に伴いガイドレール23にガイドされて移動する可動体を構成している。
【0033】
図6は、上部のカムフォロア67およびLMローラ69,75を示す、図1,4,5の紙面裏側から見た斜視図である。ただし、この図6はメインフレーム11に対し昇降ブラケット13を上方に突出させて上記のカムフォロア67およびLMローラ69,75が見えるようにしている。
【0034】
図6に示すように、昇降ブラケット13のブラケット側板39は、ガイドレール23が移動可能に挿入される溝79を備え、この溝79内の一方の側壁79aに対してガイドレール23から離間するようにして設けた上端部の凹所79bにLMローラ69を取り付けてある。一方、このLMローラ69に対しガイドレール23を間に挟んで反対側に位置するカムフォロア67は、溝79内の他方の側壁79c側の上端においてブラケット側板39の板厚をほぼ1/3程度に薄くして設けた凹所79dに取り付けてある。
【0035】
図7は、上記図6と同方向から見た昇降ブラケット13の側面図で、メインフレーム11側のガイドレール23も一緒に図示してある。図7に示すように、下部のLMローラ73は、上部のLMローラ69と同様に、溝79内の他方の側壁79cに対してガイドレール23から離間するようにして設けた下端の凹所79eに取り付けてある。一方、このLMローラ73に対しガイドレール23を間に挟んで反対側に位置するカムフォロア71は、上部のカムフォロア67と同様に、溝79内の一方の側壁79a側の下端においてブラケット側板39の板厚をほぼ1/3程度に薄くして設けた凹所79fに取り付けてある。また、LMローラ75,77は、溝79の底壁79gに取り付けてある。
【0036】
このようなスライド部構造においては、図7に示すように、上部のカムフォロア67とガイドレール23との間の基準隙間Xを0.05mmとし、下部のLMローラ73とガイドレール23との間の基準隙間Yを0.5mmとしている。また、LMローラ75,77とガイドレール23との間の基準隙間Z(図6参照)を0.05mmとしている。
【0037】
上部のカムフォロア67は、図8に示すように、スタッド部67aと、スタッド部67aの頭部67bの外周側に回転可能に設けてある環状の回転部材67cとをそれぞれ備えている。スタッド部67aは、先端にねじ部67dを備え、このねじ部67dと頭部67bとの間の挿入軸部67eに、偏心カラー67fを固定している。偏心カラー67fは、回転部材67cおよびスタッド部67aの頭部67b,ねじ部67dのそれぞれの中心に対して偏心している。
【0038】
このようなカムフォロア67は、挿入軸部67eおよび偏心カラー67fに対応する部分を昇降ブラケット13のブラケット側板39に設けてある図示しない貫通孔に挿入位置させて、先端のねじ部67dをブラケット側板39の反対側に突出させ、この突出したねじ部67dに図示しないナットを締結して固定する。
【0039】
この際、スタッド部67aをブラケット側板39に対して適宜回転変位させることで、一体となって回転する偏心カラー67fの作用により、頭部67bの外周に設けてある回転部材67cと、スライドレール23との間隔が調整可能となる。
【0040】
これに対し下部のカムフォロア71は、上記した偏心カラー67fに相当するものがなく、挿入軸部67eに相当する部分を、昇降ブラケット13のブラケット側板39に設けてある図示しない貫通孔に挿入位置させるものであり、この場合には、スタッド部67aに相当する部分をブラケット側板39に対して回転させても、回転部材67cに相当する部分と、スライドレール23との間隔が変化することはない。
【0041】
また、前記した図3に示すように、メインフレーム11の側板21のガイドレール23に対応する外側位置には、左右一対のガイドレール23相互の間隔、言い換えれば昇降ブラケット13の左右方向(図1中で紙面に直交する方向)のガタを調整するための複数の引きボルト81および押しボルト83を設けている。
【0042】
引きボルト81は、側板21の保持孔に回転可能に挿入保持させて先端のねじ部をガイドレール23の雌ねじ部に螺合締結している。一方、押しボルト83は側板21の雌ねじ部に螺合締結させて先端をガイドレール23に当接させている。
【0043】
調整方法は、まず引きボルト81を緩めた後、押しボルト83を締付けてガイドレール23を押し付けた状態で、引きボルト81を締結する。
【0044】
次に、上記した構成のヘミング加工装置によるヘミング加工方法について説明する。図9は、ヘミング加工動作を示す動作説明図で、まず図9(a)のようにヘムダイ3上にワークWを搬入しセットする。このとき、ヘム刃取付ブラケット45は、図1と同様にヘムダイ3から離反した後退限位置にあり、かつ、昇降ブラケット13は、予備曲げ刃15と本曲げ刃17との間に、ヘムダイ3の突出部3aおよびワークWの縁部Fが位置するような上下位置とする。
【0045】
図9(a)の状態からスライド駆動用シリンダ47を後退駆動してヘム刃取付ブラケット45を前進させ、図9(b)のように、ヘムダイ3の突出部3aおよびワークWの縁部Fが、予備曲げ刃15と本曲げ刃17との間に入り込んだ状態のプリヘム(予備曲げ)準備位置とする。
【0046】
このプリヘム準備位置から、駆動モータ27を駆動してボールねじ31を回転させることで、昇降ブラケット13を下降させ、図9(c)のように予備曲げ刃15により縁部Fを45度程度内側に折り曲げて予備曲げ加工を実施する。
【0047】
その後、駆動モータ27を上記とは逆方向に回転駆動して、図9(d)のように昇降ブラケット13を図9(b)と同じ位置まで戻した後、スライド駆動用シリンダ47を前進駆動して、図10(a)のようにヘム刃取付部ラケット45を図9(a)と同じ位置まで後退させる。
【0048】
次に、駆動モータ27を上記の逆方向にさらに回転駆動することで、図10(b)のように本曲げ刃17がワークWの縁部Fより上方位置とする。
【0049】
図10(b)の状態から、スライド駆動用シリンダ47を後退駆動してヘム刃取付ブラケット45を再度前進させ、図10(c)のように、ワークWの縁部Fの上方に本曲げ刃17を位置させてヘム(本曲げ)準備位置とする。
【0050】
このヘム準備位置から、駆動モータ27を駆動してボールねじ31を回転させることで、再度昇降ブラケット13を下降させ、図10(d)のように本曲げ刃17により、予備曲げされた状態の縁部Fを、さらに内側に折り曲げ、インナパネルWiに重ね合わせて本曲げ加工を実施する。
【0051】
その後、図11(a)のように昇降ブラケット13を上昇させた後、図11(b)のようにヘム刃取付ブラケット45を後退させ、さらに昇降ブラケット13を前記図9(a)と同じ初期位置に戻し、この状態で加工後のワークWを取り出して次工程へ搬出する。
【0052】
本実施形態では、図9(c)の予備曲げ加工時や図10(d)の本曲げ加工時においては、予備曲げ刃15や本曲げ刃17が、ワークWの縁部Fをヘムダイ3に向けて下方に押し付け、その際昇降ブラケット13は、図12(a)の矢印Aで示すように、上部がヘムダイ3側に傾くような作用を受ける。この結果、上部のカムフォロア67がガイドレール23をヘムダイ3側に向けて押し付けると同時に、下部のカムフォロア71がガイドレール23をヘムダイ3と反対側に向けて押し付けることになり、ヘミング加工時の反力を上下のカムフォロア67,71の2点で受けることになる。
【0053】
なお、上記した予備曲げ加工や本曲げ加工を含む、昇降ブラケット13の昇降時には、メインフレーム11のガイドレール23に対し、上記のカムフォロア67,71およびLMローラ69,73,75,77がガイドされて移動することになる。
【0054】
上記したように、本実施形態では、ヘミング加工時に発生する反力を、メインフレーム11に設けてあるガイドレール23とは別体としてあるカムフォロア67,71で受けるようにしているので、ガイドレールと可動体とを一体としてガイドユニットを構成しているLMガイドに比較して、スライド部の小型化およびコスト低下を達成することができる。
【0055】
また、経年変化によりスライド部にて上記の加工反力を受ける方向にガタが生じた場合には、上部のカムフォロア67により調整することができる。この調整時には、昇降ブラケット13をメインフレーム11に対して最下端位置とすることで、カムフォロア67が、メインフレーム11の側板21の上部に設けてある調整窓85(図2,図3参照)に対応した位置となり、この状態で調整窓85を利用して行う。なお、調整窓85には図示しない蓋を装着可能であり、この蓋を外した状態で調整作業を行う。
【0056】
調整作業は、図8に示すカムフォロア67のスタッド部67a先端のねじ部67dに締結してある図示しないナットを緩めた状態で、スタッド部67aを適宜回転させ、この回転と伴に挿入軸部67eに固定してある偏心カラー67fも一体となって回転し、これによりカムフォロア67全体が偏心回転するので、頭部67bの外周に設けてある回転部材67cが直径方向に移動し、ガイドレール23との隙間が変化する。隙間の調整後は、ナットをねじ部67dに締結して固定する。
【0057】
図13(a)は、カムフォロア67とガイドレール23との間に、当初の基準隙間Xより大きな隙間tが発生してガタが大きくなっている状態を模式的に示したもので、上記の調整によりカムフォロア67を偏心回転させることで、図13(b)のようにカムフォロア67とスライドレール23との間が、当初の狭い基準隙間とすることができる。
【0058】
また、上記した調整窓85からは、カムフォロア67への給油やカムフォロア67の交換作業も行うことができる。
【0059】
また、本実施形態では、偏心カラー67fを備えたカムフォロア67を、ヘム刃である予備曲げ刃15および本曲げ刃17に近い側、すなわちガタの発生が顕著に現れる側に設けているので、調整作業を効率よく行うことができる。
【0060】
また、上記したヘミング加工装置では、予備曲げ刃15および本曲げ刃17が、ヘムダイ3に対して加圧方向に垂直に直線的に移動してヘミング加工を行うので、ワークWに対する進入角度が常に一定となり、加工品質が向上するとともに設計が容易であり、例えばワーク形状によってはヘミング加工装置全体を傾斜して配置すればよく、ワーク形状に合わせてその都度設計する必要もなく、標準化が容易である。
【0061】
さらに、加圧源が、予備曲げ刃15および本曲げ刃17のほぼ直下に位置するので、ワークWに対するヘミング加工時での加圧力を均一化でき、加工品質も向上する。
【0062】
また、加圧時の駆動機構としてボールねじを使用しているので、加圧力がリニアに発生し、加圧力の微調整が容易である。
【0063】
なお、本実施形態では、図12(b)に示すように、ワークWにおける縁部F付近での傾斜が、図12(a)のワークWに比較して緩やかで水平に近いような場合には、ヘムダイ3のワーク載置面も水平に近いものとなり、このような場合には、昇降ブラケット13は、図9(c)の予備曲げ加工時や図10(d)の本曲げ加工時に図12(b)の矢印Bで示すように、図12(a)とは逆に上部がヘムダイ3から離れる方向に傾くような作用を受ける。この結果、上部のLMローラ69がガイドレール23を押し付けると同時に、下部のLMローラ73がガイドレール23を押し付けることになり、ヘミング加工時の反力を上下のLMローラ69,73の2点で受けることになる。
【0064】
この場合においても、ヘミング加工時に発生する反力を、メインフレーム11に設けてあるガイドレール23とは別体としてあるLMローラ69,73で受けるようにしているので、ガイドレールと可動体とを一体としてガイドユニットを構成しているLMガイドに比較して、スライド部の小型化およびコスト低下を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の一実施形態を示すヘミング加工装置の側面断面図である。
【図2】ヘミング加工装置全体の正面断面図である。
【図3】図1のヘミング加工装置のメインフレームを示す斜視図である。
【図4】図1に対しヘム刃取付ブラケットを取り外した状態の上方からトグルリンク機構を見た斜視図である。
【図5】図4に対し、ヘム刃取付ブラケットを前進限位置とする際のトグルリンク機構の変化を示す斜視図である。
【図6】図1のヘミング加工装置における上部のカムフォロアおよびLMローラを示す、図1,4,5の紙面裏側から見た斜視図である。
【図7】図6と同方向から見た昇降ブラケットの側面図である。
【図8】図6に示すカムフォロアの一部破断した斜視図である。
【図9】図1のヘミング加工装置の動作説明図で、(a)はワーク搬入状態、(b)は予備曲げ準備状態、(c)は予備曲げ加工状態、(d)は予備曲げ加工後の昇降ブラケット上昇状態をそれぞれ示す。
【図10】図1のヘミング加工装置の動作説明図で、(a)は図9(d)の後の昇降ブラケット後退状態、(b)は昇降ブラケット上昇状態、(c)は本曲げ準備状態、(d)は本曲げ加工状態をそれぞれ示す。
【図11】図1のヘミング加工装置の動作説明図で、(a)は本曲げ加工後の昇降ブラケット上昇状態、(b)は昇降ブラケット後退状態、(c)はワーク搬出状態をそれぞれ示す。
【図12】ヘミング加工時加工反力を受けて昇降ブラケットが傾く方向を示す作用説明図で、(a)はヘムダイ側に傾く場合、(b)はヘムダイと反対側に傾く場合をそれぞれ示す。
【図13】(a)は、カムフォロアとガイドレールとの間に大きなガタが発生している状態を示し、(b)は、(a)のガタを調整した後の状態を示す調整作業説明図である。
【符号の説明】
【0066】
W ワーク
3 ヘムダイ
11 メインフレーム(固定フレーム)
13 昇降ブラケット(可動フレーム)
15 予備曲げ刃(ヘム刃)
17 本曲げ刃(ヘム刃)
23 ガイドレール(スライド部)
67,71 カムフォロア(可動体,スライド部)
67f 偏心カラー
69,73 LMローラ(可動体,スライド部)
75,77 LMローラ(スライド部)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘム刃を備えた可動フレームを固定フレームに対しスライド部を介して直線的に移動可能に設け、前記可動フレームの前記固定フレームに対する直線移動により、ヘムダイに載置したワークに対して縁曲げ加工を行うヘミング加工装置において、前記スライド部は、前記固定フレームに設けられて前記直線移動方向に延びるガイドレールと、前記ガイドレールとは別体として前記可動フレームに設けられ、前記ガイドレールに対しヘミング加工時での加工反力を受ける側に位置して前記可動フレームの前記直線移動に伴いガイドレールにガイドされて移動する可動体とを有することを特徴とするヘミング加工装置。
【請求項2】
前記可動体をカムフォロアで構成し、前記カムフォロアを前記スライド部における直線移動方向両端部に設け、これら両端部に設けた各カムフォロアのうちの少なくとも一方は、前記可動フレームに対して回転することで前記ガイドレールに対して接近離反する方向に移動変位する偏心カムフォロアであることを特徴とする請求項1に記載のヘミング加工装置。
【請求項3】
前記偏心カムフォロアを、前記ヘム刃に近い側に設けたことを特徴とする請求項2に記載のヘミング加工装置。
【請求項4】
ヘム刃を備えた可動フレームを固定フレームに対して直線的に移動可能に設け、前記可動フレームの前記固定フレームに対する直線移動により、ヘムダイに載置したワークに対して縁曲げ加工を行うヘミング加工方法において、前記可動フレームが前記固定フレームに対して直線移動する際に、前記固定フレームに設けたガイドレールに対し、該ガイドレールとは別体として前記可動フレームに設けた可動体が、前記可動フレームの直線移動に伴い前記ガイドレールにガイドされて移動しつつヘミング加工時の反力を受けることを特徴とするヘミング加工方法。
【請求項5】
請求項2に記載のヘミング加工装置で使用する偏心カムフォロアを前記可動フレームに対して回転させることで、前記スライド部におけるガイドレールと偏心カムフォロアとの隙間を調整することを特徴とするヘミング加工装置におけるスライド部の隙間調整方法。
【請求項1】
ヘム刃を備えた可動フレームを固定フレームに対しスライド部を介して直線的に移動可能に設け、前記可動フレームの前記固定フレームに対する直線移動により、ヘムダイに載置したワークに対して縁曲げ加工を行うヘミング加工装置において、前記スライド部は、前記固定フレームに設けられて前記直線移動方向に延びるガイドレールと、前記ガイドレールとは別体として前記可動フレームに設けられ、前記ガイドレールに対しヘミング加工時での加工反力を受ける側に位置して前記可動フレームの前記直線移動に伴いガイドレールにガイドされて移動する可動体とを有することを特徴とするヘミング加工装置。
【請求項2】
前記可動体をカムフォロアで構成し、前記カムフォロアを前記スライド部における直線移動方向両端部に設け、これら両端部に設けた各カムフォロアのうちの少なくとも一方は、前記可動フレームに対して回転することで前記ガイドレールに対して接近離反する方向に移動変位する偏心カムフォロアであることを特徴とする請求項1に記載のヘミング加工装置。
【請求項3】
前記偏心カムフォロアを、前記ヘム刃に近い側に設けたことを特徴とする請求項2に記載のヘミング加工装置。
【請求項4】
ヘム刃を備えた可動フレームを固定フレームに対して直線的に移動可能に設け、前記可動フレームの前記固定フレームに対する直線移動により、ヘムダイに載置したワークに対して縁曲げ加工を行うヘミング加工方法において、前記可動フレームが前記固定フレームに対して直線移動する際に、前記固定フレームに設けたガイドレールに対し、該ガイドレールとは別体として前記可動フレームに設けた可動体が、前記可動フレームの直線移動に伴い前記ガイドレールにガイドされて移動しつつヘミング加工時の反力を受けることを特徴とするヘミング加工方法。
【請求項5】
請求項2に記載のヘミング加工装置で使用する偏心カムフォロアを前記可動フレームに対して回転させることで、前記スライド部におけるガイドレールと偏心カムフォロアとの隙間を調整することを特徴とするヘミング加工装置におけるスライド部の隙間調整方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2009−6344(P2009−6344A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−168852(P2007−168852)
【出願日】平成19年6月27日(2007.6.27)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【出願人】(000105512)コスミック工業株式会社 (2)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年6月27日(2007.6.27)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【出願人】(000105512)コスミック工業株式会社 (2)
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