説明

ヘルメットの風切音発生防止装置

【課題】オートバイに乗車走行時に装着するヘルメットにおいては、ヘルメット周囲に発生する所謂風切り音での聴覚支障を減ずるために耳を帽体内に略密閉状態となる構造となっている。そのため必要な音声情報までもが聴き取り難い略難聴状態にあり危険走行が余儀無くされている。
【解決手段】ヘルメットに通音孔を設けて略密閉状態を解消し、原因となる乱流の発生を防止する風切音発生抑止体を該通音孔に覆い被せて設置することで、聴覚を解放することと併せて風切り音の発生を防止する聴覚正常化の手段を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はオープンカーや二輪車を運転する時に着用するヘルメットにおいて、ヘルメットの周辺に発生する風切り音の発生防止技術に関する。
【背景技術】
【0002】
耳の付近に発生する風切り音防止例については次の例がある。
【特許文献1】公開特許公報「特開2002−156613」
【0003】
上記特許文献1によると、耳に直接風が当り風音の発生することを防止しようとするものでその原理は耳の前方に障壁を設け風が直接耳に当って乱気流が発生するのを防止、それにより風切り音を防止しようとするものである。この場合耳部が発する風切り音を防止出来たとしてもそれを覆う風除け板の端部が新たに風切り音を発することとなり、効果的とは言い難い欠点があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
オートバイに乗車走行するとき装着するヘルメットの周辺に普通では強い風切り音が発生し運転者の聴覚は著しく阻害される。
【0005】
このためジェット型やフルフェイス型と呼ばれる上位タイプのヘルメットにおいては従来における最上の手段として密閉型とすることによって音を遮ることが主流となっている。
【0006】
密閉型とは帽体と頭部の隙間を顔面の輪郭部に沿って緩衝材等で埋め込み耳を帽体の内側に略密閉する構造であり、これはすべての音を略遮断する構造となり、結果として風切り音を含めた全ての音を遮断することとなっていた。
【0007】
このようにして音を遮断する状態は風切り音の遮断だけでなくあらゆる音を併せて遮断するものであるから運転者は走行時に所謂難聴と同様な状態に置かれていたもので、風切り音を避けるためにそれ以外の必要な音情報を感知することが犠牲となって支障を来たしていたのである。
【0008】
また、走行中のオートバイヘルメットの中で、ラジオ情報や音楽テープの再生を聴取する、二人乗り者が互いのマイクとスピーカーを通じて会話を楽しみながらドライブをする、といったことが従来技術によって実現されていたが、これらは前述したすべての音を略遮断する所謂難聴状態のヘルメットの中で追加される音声であるから、運転者を取巻く外部の音情報感知が遅れ勝ちとなり更に大きな支障となっていた。
【0009】
このように外部からの必要な音も含めて聴き取り難い状態でオートバイを運転することは交通安全上危険な要素を内包したままであり、問題の解消が切望されていた。
【0010】
風切り音の発生については、物体に風が強く摩擦し端部から離脱するとき端部付近、特に端部の懐に空気の渦、いわゆる乱流が発生しそこに風切り音が発生する。
【0011】
通常のヘルメットでは走行速度が速くなるに連れてヘルメットは風圧に晒され、帽体端部などで乱流と共に風切り音が発生するが、この風切り音は速度に比例し概ね時速40km以上で大きな騒音となってすべての音を遮って他の音は一切感知できない状態へと至るのである。
【0012】
この空気の乱流が風切り音の発生源となっているものであるから、本発明はヘルメット周辺における乱流の発生自体を抑止することによって風切り音の発生を未然に防止しようとするものである。
【0013】
また、難聴状態で走行することを受け入れ難く感じる一定の運転者群は従来の所謂開放型と言われるA種型ヘルメットを選択し、走行中に時々顔を斜め方向を向けることでその時だけ風切音から逃れているのであるが、これは極めて不便であり不正常な乗車方法であった。
【0014】
本発明は上記のような従来技術の問題点に鑑みて、オートバイ走行にかかるヘルメット装着時の風切り音によって蒙る自然な聴覚の阻害を、未然に防止する装置を提供し運転者に自然な聴覚の解放を成し行なうことを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するために、本発明は帽体の端部と空気との摩擦時に起こる風切音の発生を未然に防止するヘルメットの装置を構成するもので、帽体に通音孔を設けて聴覚を解放し、この通音孔の外側に風切音発生抑止体を覆い被せて設置することで風切音の発生を防止するもので、解放された聴覚は自然な状態を維持できる。
【0016】
上記装置の風切音発生抑止体が、基盤布の起毛または立毛によるもの、繊維体の織毛によるもの、毛布によるもの、天然毛体、天然獣毛、あるいは鳥類の羽によるもので、その何れかにより構成されるヘルメットの風切音の発生防止装置で課題の解決を行なう。
【0017】
前記風切音発生抑止体は、随意な交換を容易に実現するものであることが好ましく、帽体に対して強固でありながら着脱自在な手段をもって固着設置する風切音の発生防止装置である。
【0018】
また本発明の一つであるヘルメットは、帽体のあらゆる端部での乱流発生防止を図るため、織布または不織布を基盤布とした起毛または立毛によるもの、繊維体の織毛によるもの、毛布、天然毛体、天然獣毛、あるいは鳥類の羽、の何れかにより帽体の外側全体を覆い被せて設置することで風切り音の発生を防止するヘルメットである。
【0019】
耳カバーによって耳部を保護するA種型ヘルメットにおける耳カバー部の耳付近に通音孔を設け、該耳カバー内側は耳部に密着し、外側で該通音孔に風切音発生抑止体を覆い被せて、縫着または接着で、あるいはファスナーなど比較的簡単に取外し可能な手段によって設置するものである風切り音の発生を防止するヘルメットである。
【発明の効果】
【0020】
本発明によって以下の効果が生まれる。
【0021】
オートバイ等二輪車やオープンカーをヘルメット装着で運転する人の聴覚を自然な状態に解放し、且つ、走行速度にかかわりなく何らの支障のない正常な聴覚状態を得ることを、またそれを平常状態としたことをヘルメット史上初めて実現した。
【0022】
難聴状態でオートバイを運転することを原因とした交通事故発生を未然に防止できる可能性が大であり、社会に対する多大な貢献を為すものである。
【0023】
顔面や顔側面を事故から保護する上で高い安全性を確保できるフルフェイス型やジェット型のヘルメットでありながらも、その難聴状態で運転しなければならないことを嫌って従来の解放型と言われるA種型ヘルメットを着用していた一定数の運転者達は風切音に悩まされながらも尚且つA種型を選んだ人達であり、本発明はこの人たちにも初めて安全性と利便性の両方の実現という念願のヘルメット装備を選択出来ることを実現した。
【0024】
走行中のオートバイで、ラジオ情報や音楽テープの再生を聴取する、二人乗り者が互いのマイクとスピーカーを通じて会話を楽しみながらドライブをする、また白バイ警察官が指令局からの無線情報を聴取しながら活動する、といったことが本発明によって支障無く実現することを可能とした。
【0025】
本発明による風切音発生抑止体はヘルメットに新たな装飾性をもたらす効果があり、その形状や着色、デザインに独自性が発揮されるのでより嗜好性を満たす物としての選択性を向上させるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
前述の目的を達成するために、本発明においては先ず帽体の一部に通音孔と称する孔を設置することで、外部との聴覚的支障となっていた略密閉状態を解消、解放した。
【0027】
通音孔とは通気孔と同等なものであり、密閉型のヘルメットであっても運転者の聴覚はこの孔を通して完全に確保されるものであるが、しかしそのままでは同時に課題とするところの風切り音の障害を直接的に受ける状態となる。
【0028】
層流の中に層流を乱す障害物を配置したときに乱流が発生するのであるが、本発明においては層流と並行するヘルメット側面に設けた通音孔が障害物に該当し、ここに乱流と風切り音が発生するものである。
【0029】
障害物が大なるほどに乱流も大となり、逆に小なるほどに乱流も小となるものであるが、何れにせよ本発明にかかる通音孔は必要欠くべからざる存在でありながら、しかし障害物であることに変りはない。
【0030】
前記故にこの障害物を、乱流が発生し得ないような限りなく小なる物体で覆い尽くすことで乱流の発生は無しとし、乱流の抑止を実現することが出来るものである。
【0031】
本発明においては、限りなく小なる物体とは断面積の小なる物体であり、毛体を含む繊維体及び天然の羽毛体がそれに該当し、これを極小微細物と称することで以降を説明する。
【0032】
極小微細物である繊維の一端を基盤に固定し他端を層流中に流しても、極小微細物ゆえに層流に沿って流れに靡く原理的な動きとなり層流に対する障害物とはなり得ない。
【0033】
基盤に依拠し叢生する群毛の状態であっても上記の原理的な動きは変わらず、層流中に群毛体の一端を固定設置しても群毛全体が層流に沿って安定的に靡くのみであって乱流が発生することは無く、従って群毛にも風切音が発生することが無いのである。
【0034】
図によって作用を説明するならば、図6は基盤布4に叢生する群毛7を示す概念図であり基盤布4に対して群毛7の毛体は概ね直立しているが、平常態として風下への傾斜や倒伏の状態であってもよい。
【0035】
この群毛7に対して図7の矢印の如く風力が掛ったとき、群毛7は風に靡く形で風下に倒され、しかし毛体は極小微細物であるから風が接触後離脱する端部となる先端付近に乱流が発生することは無く層流が乱れることはない。
【0036】
さらに風は毛体の先端の他、先端から少し下方の毛体間も層流として自在に流れることになるので、毛体を取巻く環境に層流を乱す障害物は存在しない。
【0037】
走行により風力が上がると図8に示す如く群毛7は一斉に風圧によって全面的に基盤布4側に押えられて倒伏し、あたかも平面体のように一面的な形態を呈し、滑らかに層流が流れる環境が出現する。
【0038】
上記状態に至り乱流の発生はその余地さえも無いのであり、従って風切り音も同様に発生もなく、必要な音情報は平面体のようになった群毛の間隙を透過して耳に届く、という課題解決の状態に至るものである。
【0039】
上述したように乱流の発生部が通音孔であれ通気孔であってもこれらを風切音発生抑止体で全面的に覆い尽くす様に被せて設置することにより風切り音の原因となる乱流発生を未然に防止することで目的を達成するものである。
【実施例】
【0040】
本発明実施例を図面によって説明するならば、図1は本発明に関するヘルメットの外観図であり、側面の耳部付近に設けた通音孔3とそれを囲んで設置した掛止リング6を示す。
【0041】
図2は本発明風切音発生抑止体1の外観図でありヘルメットの通音孔3を覆い尽くして装着した状態を示す。
【0042】
図3は本発明風切音発生抑止体1を帽体2に設置した状態でのA−A′線断面図であり、基盤布4の表側に群毛7が密生する状態を示し、該基盤布4の輪郭部に沿ってコイルスプリング5を内抱一体化する。
【0043】
また該コイルルスプリング5はその緊縮力によって掛止リング6に基盤布4と共に縮着固定するものである。またスプリングの緊縮力を利用し設置しているものであるから容易にこれを取り外すことができる。
【0044】
該掛止リング6は通音孔3を該掛止リング内に採り込むように位置極めして帽体2に接着等の手段によって固着し一体化する。
【0045】
図4は図3の主要部の拡大図であり、帽体2に対して群毛7が密接した構成であることを示し、構成物の全ては群毛7に覆われた内にあることを示すものである。
【0046】
また図4では帽体2の外側に掛止リング6を固着設置することを示す。固着手段としては接着が望ましくリング全周に渡って帽体2との間に隙間なく密着することが目的に叶うものである。
【0047】
基盤布4は実施例として織物であることを示し、織物として各繊維間には無数の隙間が存在するのであるが、図4においてこの繊維の隙間のすべてを共通の空隙8として示している。
【0048】
空隙8を音と空気は自然に通過する。
【0049】
図5は図3、図4におけるB−B′線断面図であり群毛7に覆われた内部を俯瞰した状態であり、B−B′線上において掛止リングの頂部6bのみを断面とした表示である。
【0050】
該風切音発生抑止体1の輪郭部に縫着等の手段によって内抱一体化するリング状のコイルスプリング5の緊縮力によって、図3〜図5に示す様該掛止リング6の外側から該風切音発生抑止体1を覆い被せるように装着する。
【0051】
装着時においてコイルスプリング5が帽体2と直接接触することは乱流発生の余地を残し本発明の効果を弱めるものであり、群毛7がその間に介在して装着が成ることが重要である。つまり群毛以外の構成物はすべて群毛7の内側に納め、空気の乱流が発生する可能性を取除いた実施形態を本発明によって確立したものである。
【0052】
前記コイルスプリング5を弾性紐に置き換えてもよい。
【0053】
物体としてヘルメット帽体の耐久性に対し本発明風切音発生抑止体の耐久性は低いものである。このことは将来風切音発生抑止体を更新する時期が到来、すなわち交換する段階があることが前提となるものである。
【0054】
また、ヘルメットという最も耳目を浴びる身体箇所に装着する必需品となる本発明品はデザイン性の面から嗜好性が高いとも言えるもので、運転者の気分によって取り替える機会が少なからず発生すると思慮される。
【0055】
このように思慮されることに鑑みて、本発明品使用にあたってはスプリングの緊縮力という確実容易で着脱自在な手段を取り入れたものである。
【0056】
A種型ヘルメットにおいては、耳部を保護する耳カバーに該風切音発生抑止体1を設置する。
【0057】
本発明風切音発生抑止体に撥水性を持たせることは、雨中の運転走行時に高い効果を表す。
【0058】
ここで既述した用語を定義付けると、「風切音発生抑止体」とは風切り音の発生を抑止する物体を指す名称である。
【0059】
「通音孔」とは音を自然に通過させるために設けた孔であり、「縮着固定」とはスプリングや弾性紐の弾力を使って固定することである。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の風切音発生防止装置はヘルメットの他防寒頭巾、また高層住宅の高層部躯体端部に発生する風切り音障害の防止に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【0062】
【図1】 本発明風切音発生防止装置に関するヘルメットの外観図。
【図2】 本発明風切音発生防止装置を設置したヘルメットの外観図。
【図3】 本発明風切音発生防止装置のA−A′断面図。
【図4】 本発明風切音発生防止装置のA−A′一部拡大断面図。
【図5】 本発明風切音発生防止装置のB−B′断面図。
【図6】 本発明風切音発生防止装置の群毛を示す概念図。
【図7】 本発明風切音発生防止装置の群毛を示す概念図。
【図8】 本発明風切音発生防止装置の群毛を示す概念図。
【符号の説明】
【0063】
1:風切音発生抑止体
2:帽体
3:通音孔
4:基盤布
5:コイルスプリング
6:掛止リング
6b:掛止リングの頂部
7:群毛
8:空隙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘルメット帽体の端部と空気との摩擦時に起こる風切音の発生を防止するヘルメットの装置であって、帽体(2)に通音孔(3)を設け、該帽体(2)外側で該通音孔(3)に風切音発生抑止体(1)を覆い被せて設置することを特徴としたヘルメットにおける風切音の発生防止装置。
【請求項2】
ヘルメット帽体の端部と空気との摩擦時に起こる風切音の発生を防止するヘルメットの装置であって、風切音発生抑止体(1)が、基盤布の起毛または立毛によるもの、繊維体の織毛によるもの、毛布によるもの、天然毛体、天然獣毛、あるいは鳥類の羽によるもの、の何れかにより構成されるものであることを特徴とする特許請求項1に記載のヘルメットにおける風切音の発生防止装置。
【請求項3】
ヘルメット帽体の端部と空気との摩擦時に起こる風切音の発生を防止するヘルメットの装置であって、風切音発生抑止体(1)は帽体(2)に着脱自在な手段をもって固着設置するものであることを特徴とする特許請求項1,2に記載のヘルメットにおける風切音の発生防止装置。
【請求項4】
ヘルメット帽体の端部と空気との摩擦時に起こる風切音の発生を防止するヘルメットであって、織布または不織布を基盤布とした起毛または立毛によるもの、繊維体の織毛によるもの、毛布によるもの、天然毛体、天然獣毛、あるいは鳥類の羽によるもの、の何れかにより帽体の外側を覆い被せて設置することを特徴とする特許請求項1,3に記載の風切音の発生防止装置を具備したヘルメット。
【請求項5】
A種型ヘルメットにおける耳カバー部に通音孔(3)を設け、該耳カバー外側で該通音孔(3)に風切音発生抑止体(1)を覆い被せて縫着あるいは取外し可能な手段で設置することを特徴とした特許請求項2,4に記載の風切音の発生防止装置を具備したヘルメット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−47886(P2010−47886A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−238647(P2008−238647)
【出願日】平成20年8月20日(2008.8.20)
【出願人】(593162833)
【Fターム(参考)】