説明

ベスト型身体装着体

【課題】 汚れが生地の隙間に入り込むのを防止して汚れを容易に除去することができるベスト型身体装着体の提供。
【解決手段】 ベスト本体1の前身ごろ3,4にポケット25を備え、ポケット25は、前身ごろ3,4の外皮15Aに外皮15Aから立上げるようにして立上げ生地26が固定されることで所定の大きさの収納空間27を有するよう構成され、ポケット25の立上げ生地26の表面に合成樹脂層34が固着されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磯釣りなどに着用されるベスト型身体装着体に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、磯釣りなどに着用されるベスト型身体装着体(以下「ベスト」という)は、前身ごろの外皮に釣糸などの小道具を収納するポケットを備えている(例えば特許文献1)。磯釣りでは釣人は釣場を移動することが多いから、釣糸などの小道具はまとめて身に付けることが好ましい。したがってこのようなポケットは所定の容量が必要になる。このためポケットは、単に前身ごろに平面的に縫着されるのではなく、外皮から立上げるようにして縫着される部分を有することで所定の容量を確保するよう設けられる。ところで一般に、雨天での釣行のことを考慮してベストの外皮には撥水剤が施されている。
【特許文献1】特開2001−20110号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
磯釣りなどでは釣人は頻繁に餌(例えば寄せ餌としてのオキアミ)を撒く。さらに、潮風に吹かれたり釣魚を扱ったりすることから外皮が汚れ易い。特に、ポケットにおいて外皮から立上げるようにして縫着される部分は外皮に対して段が付く恰好になるので、この部分は汚れが付着し易い領域となっている。ところで、上記のようにベストには撥水剤が施されるが、撥水剤は外皮を構成する繊維間を埋めるものではないため外皮の繊維間には隙間がある。したがって、付着した汚れはこの隙間に入り込み易く、そうなると汚れを除去することが難しくなってしまう。
【0004】
そこで、本発明は上記課題に鑑み、汚れが生地の隙間に入り込むのを防止して汚れを容易に除去することができるベスト型身体装着体の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、前身ごろにポケットを備え、該ポケットは、前身ごろの外皮に該外皮から立上げるようにして立上げ生地が固定されることで所定の大きさの収納空間を有するよう構成されたベスト型身体装着体において、前記ポケットの立上げ生地の表面に合成樹脂層が固着されていることを特徴としている。
【0006】
上記構成によれば、立上げ生地が外皮に対して突出することで段付き部分を形成し汚れ易い部分となっていても、汚れは立上げ生地の表面の合成樹脂層に付着するだけであり、しかもこの合成樹脂層によって立上げ生地の繊維間に汚れが入り込むことを防止しており、且つ合成樹脂層の表面は滑面であるから、合成樹脂層に付着した汚れを簡単に除去することができる。
【0007】
また、外皮の表面の少なくとも立上げ生地が固定される領域に合成樹脂層が固着されていることが好ましい。
【0008】
上記構成において、立上げ生地が固定される領域は立上げ生地に近い部分であるから汚れが付着し易いが、合成樹脂層によって外皮の繊維間に汚れが入り込むことを防止しており、且つ合成樹脂層の表面は滑面であるから、合成樹脂層に付着した汚れを簡単に除去することができる。
【0009】
また、ポケットの立上げ生地は縫着部を介して外皮に固定され、前記縫着部は、外皮の表面に当てられる当て地と該当て地に折曲げて重ねられる重ね地とを備え、重ね地は前記ポケットの立上げ生地から収納空間に対して外方側に延長されるよう立上げ生地に連設されていることが好ましい。
【0010】
上記構成において、立上げ生地に付着した汚れを除去する際に、除去した汚れが重ね地によって外皮側へ移ることを防止できるから、外皮が汚れることを防止することができる。
【0011】
さらに、ベスト本体の外皮に浮力材が内装されていることが好ましい。この構成によれば、ベスト型身体装着体を装着した人体を水面に浮かせることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、合成樹脂層によって立上げ生地の繊維間に汚れが入り込むことを防止しており、且つ合成樹脂層の表面は滑面であるから、合成樹脂層に付着した汚れを簡単に除去することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態に係る浮力材を有するベストとして魚釣り用フローティングベスト(以下単に「ベスト」という)を例に図面に基づいて説明する。図1は本発明の実施形態を示すベストの前側からの全体概略斜視図、図2はベストの後ろ側からの全体概略斜視図、図3は図1におけるA−A線断面図、図4は図3の縫着部の拡大断面図、図5はポケット部分の拡大側面断面図、図6は前身ごろ部分の底面図、図7は後ろ身ごろの全体平面断面図である。
【0014】
図1および図2に示すように、ベスト1は、ベスト本体2と、固形式の前浮力材16,17と、固形式の後ろ浮力材18とを有する。ベスト本体2は左右の前身ごろ3,4、左右の前身ごろ3,4と後ろ身ごろ5をそれぞれ縫着により一体にする左右の側部7,8、および左右の前身ごろ3,4と後ろ身ごろ5とをそれぞれ一体にする肩部10,11を有する。前身ごろ3,4、側部7,8、および後ろ身ごろ5の左右両側縁の開放部分が釣人Hが腕を通す脇部1Aとされている。なお、図示しないが左右の前身ごろ3,4には、ベスト1の着用時にはこれらを互いにフリーにし、着用後は一体化するバックルやファスナなどの取付け具が取付けられている。また、前浮力材16,17は、それぞれ左右の前身ごろ3,4の外皮15Aに内装され、後ろ浮力材18は後ろ身ごろ5の外皮15Bに、それぞれ余裕をもって内装されている。
【0015】
左右の前身ごろ3,4の外皮15Aおよび後ろ身ごろ5の外皮15Bを形成するベース基材として、ポリエステルまたはナイロン等の織物または編物が用いられている。図3および図4に示すように、左右の前身ごろ3,4の外皮15Aは表地13と裏地21とを有し、表地13と裏地21とは両側部および下端部で縫着されている。
【0016】
図7に示すように、後ろ身ごろ5の外皮15Bは表地14と裏地22とを有し、表地14と裏地22とはこれらを両側部および下端部で縫着されている。この縫着部分1aは、内側(人体側)寄りに位置している。
【0017】
左右の前身ごろ3,4の下部にポケット25が縫着により固定されている。該ポケット25は、前身ごろ3,4の外皮15Aに該外皮15Aから立上げるようにして立上げ生地26が固着されることで所定の大きさの収納空間27を有するよう構成されている。立上げ生地26は上下枠部28,29、左右枠部30,31から矩形の枠状に形成され、立上げ生地26の前面に前面生地32が連設(一体形成)されている。
【0018】
立上げ生地26および前面生地32を形成するベース基材としてポリエステルまたはナイロン等の織物または編物が用いられている。ポケット25それぞれにおいては、立上げ生地26の上枠部28から左右枠部30,31のほぼ下端部に亙ってポケット開閉用のスライドファスナ33が縫着されている。すなわちポケット25それぞれにおいては、上枠部28と左右枠部30,31とはスライドファスナ33の縫着生地33aの後ろ端辺33bを、上枠部28を折曲げた折曲げ部28aに重ねて縫着し、スライドファスナ33の縫着生地33aの前端辺33cを上枠部28の前部に縫着して固定している。このようにポケット25は、立上げ生地26と、スライドファスナ33と、前面生地32を有する。
【0019】
前記ポケット25の立上げ生地26および前面生地32、並びに前身ごろ3,4の外皮15Aの表地13、後ろ身ごろ5の外皮15Bの表地13の表面に、ポリウレタンまたは塩化ビニル等からなる合成樹脂層34,35,36が、ラミネートまたはコーティングにより固着されている。前記縫着部分1aが内側寄りに位置しているのは、ベスト1の外側の方が内側に比べて汚れ易いからであり、この汚れ易い部分に合成樹脂層34,35,36を設けているのである。尚、図において符号50は引張強度の大きな帯体であり、これはベスト1の外皮15A,15Bに丈方向全域に渡って縫着されている。このように長い帯体50を設けることで縫い付け強度を確保して、釣人Hが海上に投げ出された際に、例えば肩部10,11を把持して確実に釣人Hを救助できるようにしている。このような帯体50はポケット25を丈方向に貫通している。
【0020】
次に図3乃至図5に基づいて、ポケット25を外皮15Aの表地13に縫着して固定するための縫着部40の構造を説明する。該縫着部40は、外皮15Aの表面に当てられる当て地41と、該当て地41に折曲げて重ねられる重ね地42とを備えている。重ね地42はポケット25の立上げ生地26から前記収納空間27に対して外方側Bに延長されるよう立上げ生地26に連設されている。ここで、外方側Bとは左右側方外方のみではなく、上下側方のうち少なくとも上方外方を含む概念である。
【0021】
当て地41は、正面視してポケット25の立上げ生地26沿う略矩形に形成されている。重ね地42も同様に正面視して略矩形に形成されている。そして、当て地41に重ね地42が重ねられて、ポケット25の立上げ生地26から収納空間27に対して外方側Bに突出した折重ね突出部44が外皮15Aに縫着(符号45で示す)されている。
【0022】
上記構成を有するベスト1は、主として磯釣りにおいて釣人Hに着用されるものである。このような磯釣り場では、磯釣りでは釣人Hは釣場(ポイント)を移動することが多いから、釣糸などの小道具はまとめて身に付けることが好ましい。このような小道具は主としてポケット25に収納される。したがってポケット25は所定の容量が必要になるが、この実施形態では、ポケット25は、外皮15Aから立上げるようにして設けられる立上げ生地26を有しているから、小道具を収納するのに充分な大きさの収納空間27を確保している。
【0023】
ところで、磯釣りでは釣人は頻繁に餌(例えば寄せ餌としてのオキアミ)を撒く。さらに、潮風に吹かれたり釣魚を扱ったりすることから外皮15Aは汚れ易い。特に、ポケット25において外皮15Aから立上げるようにして設けられる上枠部28(立上げ生地26)は外皮15Aに対して段が付く恰好になっているので、この部分は汚れが付着し易い領域となっている。
【0024】
しかし、ポケット25の立上げ生地26には、合成樹脂層34が固着されており、立上げ生地26を形成する繊維間に汚れが浸透する状態を防止している。このため、ポケット25の立上げ生地26に汚れが付着したとしても、例えば濡れタオルなどを用いて拭うことで、汚れが合成樹脂層34の表面である滑面を滑るようになって容易に汚れを除去することができる。このことは、外皮15Aに付着した汚れについても同様である。また、合成樹脂層34,35,36によって保護されることで汚れが外皮15Aに浸透することも防止できる。
【0025】
さらに、立上げ生地26に付着した汚れを拭うとき、立上げ生地26と外皮15Aとは、収納空間27に対して外方側Bに延長されている縫着部40によってガードされている恰好になっているので、汚れが外皮15Aに到達しにくい。このため、立上げ生地26の汚れを拭うときでも外皮15Aが汚れにくい。
【0026】
本発明のベスト1は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。例えば立上げ生地26は外皮15Aに対して縫着部40を介して固定したがこれに限定されず、強度的に問題がなければ例えば立上げ生地26を外皮15Aに融着によって固定することも考えられる。
【0027】
また、上記実施形態では、ポケット25は前身ごろ3,4にそれぞれ一個ずつ設けたがこれに限定されず、ポケット25と同様の構成のポケットを前身ごろ3,4に複数個設け、縫着部40を介して縫着するようにすることも考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施形態を示すベストの前側からの全体概略斜視図。
【図2】同じくベストの後ろ側からの全体概略斜視図。
【図3】同じく図1におけるA−A線断面図。
【図4】同じくポケットの部分拡大側面断面図。
【図5】同じく縫着部の部分拡大平面断面図。
【図6】同じく右前身ごろ部分の底面図。
【図7】同じく後ろ身ごろの平面断面図。
【符号の説明】
【0029】
1…ベスト、2…ベスト本体、16,17…前浮力材、18…後ろ浮力材、3,4…前身ごろ、5…後ろ身ごろ、13…表地、15A,15B…外皮、21…裏地、25…ポケット、26…立上げ生地、27…収納空間、28,29…上下枠部、30,31…左右枠部、32…前面生地、33…スライドファスナ、33a…縫着生地、33b…後ろ端辺、28a…折曲げ部、34,35,36…合成樹脂層、40…縫着部、41…当て地、42…重ね地

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベスト本体の前身ごろにポケットを備え、該ポケットは、前身ごろの外皮に該外皮から立上げるようにして立上げ生地が固定されることで所定の大きさの収納空間を有するよう構成されたベスト型身体装着体において、
前記ポケットの立上げ生地の表面に合成樹脂層が固着されていることを特徴とするベスト型身体装着体。
【請求項2】
外皮の表面の少なくとも立上げ生地が固定される領域に合成樹脂層が固着されていることを特徴とする請求項1記載のベスト型身体装着体。
【請求項3】
ポケットの立上げ生地は縫着部を介して外皮に固定され、前記縫着部は、外皮の表面に当てられる当て地と該当て地に折曲げて重ねられる重ね地とを備え、重ね地は前記ポケットの立上げ生地から収納空間に対して外方側に延長されるよう立上げ生地に連設され、当て地に重ね地が重ねられて外皮に縫着されていることを特徴とする請求項2記載のベスト型身体装着体。
【請求項4】
ベスト本体の外皮に浮力材が内装されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れかに記載のベスト型身体装着体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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