説明

ベタツキ感のない布帛及び繊維製品

【課題】多量の発汗時でも、着用時にベタツキ感のない布帛、及び該布帛を用いてなる繊維製品の提供。
【解決手段】布帛を構成する一方の表面が、撥水性を有する海状部位の中に吸水性を有する複数の島状部位を有し、該島状部位一箇所あたりの面積が0.5〜5.0mmであり、かつ、該表面における該島状部位の総面積率が20%未満であることを特徴とする前記布帛。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多量に汗をかいても、肌側に接する面がぬれ感(ベタツキ感)のない布帛、及び該布帛を用いてなる繊維製品に関する。
【背景技術】
【0002】
スポーツウェア等の衣服は、一般に、着用時に運動による汗を衣服が吸収するため、いわゆるベタツキ感や運動後の冷え感などの不快感を生じる。
これらの不快感を防止する方法として、汗を衣服の肌側から表側に移行させ、肌側に水分を残さないことが有効である。そこで、使用する糸種や糸の単糸繊度や断面形状、布帛密度等を編地表側と裏側で異ならせた布帛が多数提案されている(以下、特許文献1〜5を参照のこと)。
しかしながら、特許文献1〜5に開示された布帛のいずれも、組織や目付に制約が生じるという難点があった。
【0003】
生地の肌面と接する側を、全面に撥水加工したものも提案されているが、これでは汗が肌面から吸収されないのでベタツキ感は改善しない。
【0004】
一方、特許文献6には、後加工によって、肌側面に部分的に未加工部を設けた撥水加工が施され、未加工部分を通じて汗を吸収することが提案されている。
しかしながら、未加工部分が狭隘すぎ、また親水性繊維による吸収能が充分でないため、満足のいくベタツキ感低減には至っていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3724190号明細書
【特許文献2】特許第3701872号明細書
【特許文献3】特開2001−81652号公報
【特許文献4】特開2004−190151号公報
【特許文献5】特開2010−236131号公報
【特許文献6】特開平7−42075号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上に鑑み、本発明が解決しようとする課題は、肌面に用いたときに、着用時に多量の発汗をしても素早く吸収し、着用時の発汗を肌面と反対面側に移動させ、肌面への濡れ戻りを抑止することで、ベタツキ感のない布帛、及び該布帛を用いてなる繊維製品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を達成すべく、鋭意研究し、実験を重ねた結果、布帛の表面に以下の特徴を持たせることで、上記課題が達成されうることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、以下の通りのものである。
【0008】
[1]布帛を構成する一方の表面が、撥水性を有する海状部位の中に吸水性を有する複数の島状部位を有し、該島状部位一箇所あたりの面積が0.5〜5.0mmであり、かつ、該表面における該島状部位の総面積率が20%未満であることを特徴とする前記布帛。
【0009】
[2]前記海状部位と島状部位を有する表面の200g/m水分付与時の接触冷感性が300W/m・℃以下である、前記[1]に記載の布帛。
【0010】
[3]前記島状部位が、直径1mm〜2.5mmの円状であり、かつ、前記海状部位の中に水玉様に点在している、前記[1]又は[2]に記載の布帛。
【0011】
[4]前記布帛を構成する他方の表面全体が吸水性を有する、前記[1]〜[3]のいずれかに記載の布帛。
【0012】
[5]前記布帛を構成する繊維が化学繊維である、前記[1]〜[4]のいずれかに記載の布帛。
【0013】
[6]前記化学繊維の一部は、W型断面を有するポリエステルである、前記[5]に記載の布帛。
【0014】
[7]前記[1]〜[6]のいずれかに記載の布帛の前記海状部位と島状部位を有する表面を肌側に用いてなる、スポーツ衣料、インナー衣料、及び寝装寝具からなる群より選択される繊維製品。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、着用時に多量の発汗をしてもベタツキ感のない布帛、及び該布帛を用いてなる繊維製品が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る布帛の、撥水性を有する海状部位の中に吸水性を有する複数の島状部位を有する表面の概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の布帛は、布帛を構成する一方の表面が、撥水性を有する海状部位の中に吸水性を有する複数の島状部位を有し、該島状部位一箇所あたりの面積が0.5〜5.0mmであり、かつ、該表面における該島状部位の総面積率が20%未満であることを特徴とする。
このような撥水性を有する海状部位(以下、撥水部ともいう。)の中に吸水性を有する複数の島状部位(以下、吸水部ともいう。)を有する表面を、繊維製品における肌と接触する面(以下、肌面ともいう。)に用いることで、着用時の発汗を吸水部から速やかに肌面と反対面側に移動させ、肌面への濡れ戻りを抑止することができ、また、ベタツキ感の解消において優れた効果が発揮される。
島状部位の一箇所当たりの面積が0.5mm未満では吸水能が不充分であり、ベタツキ感が解消できず、一方、5.0mmより大きい場合や、島状部位総面積率が20%を超えると、吸水能は充分であるけれども吸水部が大きくなるため、濡れ戻りによるベタツキ感が解消されない。前記島状部位一箇所あたりの面積は、好ましくは0.78〜3.14mmであり、前記表面における島状部位の総面積率は、好ましくは15%未満である。
【0018】
島状部位の形状や大きさは特に制約されるものではなく、円、楕円、三角形、四角形等の多角形、星型、H型、W型、X型など、様々な形状が適用可能であるが、限られた面積で最大限の吸水効果を発現するためには、円状、例えば、直径1.0〜2.5mmの円形であることが好ましい。
【0019】
島状部位の間隔や配置方法は特に限定されないが、前記した島状部位一箇所あたりの面積、及び総面積率を満たす範囲で、できるだけ均一になるよう配置されることが好ましい。複数の島状部位が間隔をおかずに配置されている部分があってもよいが、島状部位は海状部位で周りを囲まれていることが好ましい。
このような部分的吸水部位を形成させるためには、例えば、吸水性を有する繊維から構成された布帛の片側表面を、島状部位に相当する部分を欠いた柄状に撥水加工すればよい。
他方の面の吸水性能は特に限定されないが、撥水部と吸水部とを有する表面の吸水部から水分が速やかに移動できるよう、他方側表面は、吸水性を有することが好ましく、該表面全体が吸水性を有することがより好ましい。
【0020】
布帛における吸水性を有する部分は、吸水機能を有する繊維から構成されていてもよく、後加工時に吸水加工を施されていてもよい。本発明における吸水性/撥水性の基準は特に限定されないが、後述する吸水性測定方法による吸水速度が、撥水性部位では3分以上、吸水性部位では1分以内であることが好ましい。
【0021】
本発明の布帛は、撥水部と吸水部を有する表面における、200g/m水分付与時の接触冷感性が300W/m・℃以下であることが好ましく、より好ましくは260W/m・℃以下である。接触冷感が300W/m・℃を超えると、著しくベタツキ感を感じる。
200g/m水分付与時の接触冷感性の測定は、カトーテック社製のサーモラボIIを使用する。この装置は温められた熱板を試料上に置いたときの熱の移動量を測定するものである。具体的な測定方法としては、測定に使用する試料を20℃、65%RH環境下で24時間調湿した後、8cm×8cmにサンプリングし、編地の肌側に相当する面を上にして置く。この試料の上に200g/mに相当する水を噴き付け、凡そ数10秒以内に、予め20℃、65%RH環境下で30℃に温められた熱板を置いた瞬間の最大熱移動量を測定する。
【0022】
200g/mの水分を付与した状態は、だらだら汗をかくような運動をした時の水分量を想定した条件である。編織物の肌側に水分が残っていると、水の熱伝導率が高いため、熱版から熱を多く奪い、接触冷感が大きくなる。すなわち、接触冷感性が大きいサンプルはベタツキ感が大きいことを意味する。われわれの知見では、ベタツキ感を特に感じる接触冷感性は、上記測定方法で300W/m・℃を超えるものである。従来の技術では、本測定のような多量の水分を付与された時の接触冷感性を改善することは困難であったが、本発明では上記測定でもベタツキ性が改善された布帛を得ることができる。
【0023】
本発明の布帛における撥水部の形成方法は特に限定されないが、フッ素系、シリコン系等の撥水剤を、例えば、ロータリースクリーン捺染法、フラットスクリーン捺染法、ローラー捺染法、インクジェット捺染法等の方法を用い、島状部位に相当する部分を欠いた柄状の捺染加工をすればよい。
その際、撥水剤が他方の面まで浸透しないよう、また島状部位を塞ぐほど浸透しないよう、撥水剤を含む糊剤の成分や粘度、圧力やスピードを調整する必要がある。
厚み方向への浸透は、布帛全体の厚みの1/2程度に調整することが好ましい。
【0024】
本発明の布帛を構成する繊維は特に限定されないが、布帛性能や撥水処理・吸水処理の効果の点から、化学繊維であることが好ましい。化学繊維としてはポリエステル系繊維や再生セルロース系繊維、ナイロン系繊維、ポリウレタン系繊維などが挙げられ、これらを複数種混用してもよい。また必要に応じて防透け効果を有する繊維や他の機能性を有する繊維を含んでもよいが、吸水性を有する島状部位を構成する表面にW型断面を有するポリエステル系繊維を含むことが、水分を島状部位で吸い上げて移送する効果が大きく特に好ましい。
【0025】
上記化学繊維からなる編織物は、組織や目付、厚みなどを特に限定するものではなく、衣料用に用いることのできるものならばどのようなものでもよい。
本発明の布帛は、上述した撥水性を有する海状部位の中に吸水性を有する複数の島状部位を有する表面側を、肌に接触する面(肌面)に用いることにより、ベタツキ感のない繊維製品として好ましい効果を発揮することができる。本発明の繊維製品としては、スポーツ衣料、インナー衣料等の衣料や寝装寝具等が挙げられる。
【実施例】
【0026】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
実施例中の各種評価試験方法を以下に示す。
(1)島状部位の形状、大きさ、配置
目視によりあるいは吸水部(又は撥水部)のみを着色することにより島状部位を特定し、形状、寸法、個数、配置状態等を計測した。
【0027】
(2)接触冷感性
カトーテック社製のサーモラボIIを使用した。この装置は温められた熱板を試料上に置いたときの熱の移動量を測定するものである。具体的な測定方法としては、測定に使用する試料を20℃、65%RH環境下で24時間調湿した後、8cm×8cmにサンプリングし、編地の肌側に相当する面を上にして置く。この試料の上に200g/mに相当する水を噴き付け、凡そ数10秒以内に、予め20℃、65%RH環境下で30℃に温められた熱板を置いた瞬間の最大熱移動量を測定した。
【0028】
(3)吸水速度
JIS L−1097 5.1.1(滴下法)により測定した。
(4)着用試験
実施例で得られた布帛を、撥水部分と吸水部分を有する面が肌側になるようにして作製したシャツを着用し、28℃×65%RH環境の人工気候室にて10分間安静にした後、大武・ルート工業社製トレッドミルORK−3000にて時速8kmで30分間走行運動を行い、再び10分間安静にした。走行運動後安静中のベタツキ感、冷え感を、以下の評価基準に従って官能評価した:
○:ベタツキ感、冷え感がない
×:ベタツキ感、冷え感がある
【0029】
[実施例1]
28GGの丸編機を使用して、シリンダ側に84dtex/30fのW断面のポリエステル加工糸と84dtex/36fのポリエステル丸断面加工糸を用い、ダイヤル側に84dtex/72fのポリエステルフルダル加工糸を用いて、シリンダ側メッシュリバース組織を編成した後、液流染色機にて130℃でポリエステル染色、吸水加工、水洗を行った後に、帯電防止加工などの通常仕上げを行い乾燥した。
この編地のメッシュ側に、撥水剤ワープルKF200(7%)、増粘剤テックコートKF(5%)、耐洗濯耐久加工剤、架橋剤、触媒等を配合した糊剤樹脂を、直径が0.80ミリメートル、面積0.50平方ミリメートルの円状の島状部位が、100mm四方中にほぼ均等に縦列28個×横列34個配するような柄を設けたロータリースクリーンで、島状部位以外の全表面に塗布し、乾燥、ベーキング、水洗を得て仕上げセットした。撥水処理面における吸水性を有する島状部位の総面積率は4.8%であった。
得られた編地の接触冷感は、282W/m・℃であり、またその編地にて得られたシャツの着用試験では、ベタツキ感や冷え感のない良好なものであった。得られた生地の表面構造、及び性能評価結果を、以下の表1に示す。
【0030】
[実施例2〜6]
実施例1と同じ編地、同じ染色、吸水加工を施した生地に対し、島状部位の大きさと縦横の数を以下の表1に記載のように変化させた以外、全て実施例1と同じ処方で捺染して、生地を得た。実施例2〜6で得られた生地は、ベタツキ感や冷え感のない良好なものであった。得られた生地の表面構造、及び性能評価結果を、以下の表1に示す。
【0031】
[実施例7]
28GGの丸編機を使用して、シリンダ側に84dtex/30fのW断面のポリエステル加工糸を用いず、全て84dtex/36fのポリエステル丸断面加工糸とした以外、全て実施例1と同じ編組織、染色、吸水加工を施し、実施例4と同じ柄の捺染を行った。得られた編地の接触冷感は297W/m・℃であり実施例4の編地よりやや高かったが、着用試験でもベタツキ感や冷え感のない良好なものであった。得られた生地の表面構造、及び性能評価結果を、以下の表1に示す。
【0032】
[比較例1〜4]
実施例1と全く同じ染色仕上げ生地を用い、捺染柄のみ以下の表1に示すように変更し、ロータリー捺染を施し、性能評価した。結果を以下の表1に示すが、接触冷感が大きく、冷え感もあり、ベタツキ感が強いものであった。
【0033】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明によれば、着用時に多量の発汗をしてもベタツキ感がない布帛が得られ、スポーツ衣料、インナー衣料等の衣料や寝装寝具等の繊維製品に好適に利用できる。
【符号の説明】
【0035】
1 布帛の一方の表面
2 撥水性を有する海状部位
3 吸水性を有する島状部位

【特許請求の範囲】
【請求項1】
布帛を構成する一方の表面が、撥水性を有する海状部位の中に吸水性を有する複数の島状部位を有し、該島状部位一箇所あたりの面積が0.5〜5.0mmであり、かつ、該表面における該島状部位の総面積率が20%未満であることを特徴とする前記布帛。
【請求項2】
前記海状部位と島状部位を有する表面の200g/m水分付与時の接触冷感性が300W/m・℃以下である、請求項1に記載の布帛。
【請求項3】
前記島状部位が、直径1mm〜2.5mmの円状であり、かつ、前記海状部位の中に水玉様に点在している、請求項1又は2に記載の布帛。
【請求項4】
前記布帛を構成する他方の表面全体が吸水性を有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の布帛。
【請求項5】
前記布帛を構成する繊維が化学繊維である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の布帛。
【請求項6】
前記化学繊維の一部は、W型断面を有するポリエステルである、請求項5に記載の布帛。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の布帛の前記海状部位と島状部位を有する表面を肌側に用いてなる、スポーツ衣料、インナー衣料、及び寝装寝具からなる群より選択される繊維製品。

【図1】
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【公開番号】特開2012−126036(P2012−126036A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−280242(P2010−280242)
【出願日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【出願人】(303046303)旭化成せんい株式会社 (548)
【出願人】(510331559)新潟染工株式会社 (1)
【Fターム(参考)】