説明

ベランダの緑化方法および緑化装置

【課題】 ベランダや軒下の利用を制限することなく、ベランダに植物のカーテンを構成することが可能であり、シンプルな装置で、低廉で美しく、植生への潅水、施肥などの管理が容易、かつ、ベランダ下への落下などによる公衆に危害が及ぶことのない極めて安全なベランダの緑化装置および緑化方法を提供する。
【解決手段】 上階のベランダ下に、つる性植物栽培用の培地ケース3とこの培地から伸びたつる性植物を誘引する誘引棚4とこれらを固定する吊り具6とを設け、液肥循環システムで育成・管理し、ベランダの全面または一部を伸延・繁茂したつる性植物で覆うことにより、植生への潅水、施肥などの管理が容易で使い勝手がよく、省エネルギー性が高い緑化を行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベランダの緑化装置および緑化方法に関し、さらに詳細には、たとえば、集合住宅のベランダおよび戸建住宅の軒下などの前面に植生を繁茂させるようにした緑化装置および緑化方法に関る。
【背景技術】
【0002】
大都市の中心部などにおいて、冷暖房設備からの排気、自動車の排気ガスおよび道路の舗装面からの熱線などの反射などにより気温が局部的に著しく上昇する、所謂、ヒートアイランド現象が問題化している。これを防止し、また、大気中の炭酸ガスの量を減少せしめるために、さらには冷房用電力の節減のために、たとえば、ビルの屋上や壁面などに各種の植生を栽培する、所謂、屋上・壁面緑化を行ったり、窓のガラスに遮光膜や水膜を施工することによる冷房効果の効率化が提唱されている。
【0003】
このような緑化や室内空調の省エネルギー対策は、増加し続ける家庭や事務所の二酸化炭素軽減のためにもきわめて重要であり、前述のように種々の方法が提案されている。しかしながら、緑化は施工方法によっては、工事費や維持費用が大きいうえ維持管理が難しく、対策も容易なことではないのも事実である。また、窓のガラスに遮光膜や水膜を施工することによる冷房効果の効率化についても費用対効果の面での課題も多くある。
このような実態を背景として、誰でも容易に施工でき、建設費や維持費が低廉で、かつ、メンテナンスも容易で効果の大きい、新らたな対策方法が希求されており、これを満足させることこそが課題であり、実効的な環境対策の鍵となっている。
【0004】
このような課題を解決するため、本発明では、ベランダや軒下の窓よりうえの高い位置に培地を設置し、下垂性のつる性植物を棚の上、または棚の下に誘引して植物のカーテンを形成させるといった手段を用いるものである。このような緑化方法および緑化装置はこれまでに例を見ないが、手段や効果は全く違うが、見た目に多少似たような感じのものは数件ある。たとえば、特開2002−223648号公報においては、パイプ型水耕栽培ユニットを屋根上や、ベランダのフェンス部分になどに設置することにより屋根、屋上、ベランダで土壌の使用を押さえたことを特徴とする水耕栽培兼緑化装置および方法が開示されている。
【0005】
また、特開2003−199421号公報においては、集合住宅緑化テラスの緑化方法として、軒とバルコニーの間に支柱を固定し、軒下約30センチメートルの位置にネットを張り、他の場所で予め緑化スクリーンに形成したカロライナジャスミンの緑化ユニットを使ってジャスミンをネットに張り付ける方法の軒下栽培が公開されている。
【0006】
しかしながら、前記先行文献、特開2002−223648号公報に記載のベランダの緑化装置は、緑化装置をベランダのフェンス部分に設置していることからベランダ利用上の支障となったり、植栽方法が本発明の提案する下垂性のつる性植物ではなく一年草などのポット植栽であることから、緑化面積も限られるうえ定期的な植え替えが必要となる。また、特開2003−199421号公報に記載の緑化装置は、軒下に衝立のように据え付けた支柱にネットを張り、カロライナジャスミンを巻きつかせるものであり、ベランダの緑化には不向きであるし、場所の占有の面から軒下での採用も限定される。
【0007】
【特許文献1】 特開2002−223648号公報
【特許文献2】 特開2003−199421号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、たとえば、ベランダや軒下の利用を制限することなく、ベランダの上部および前面あるいは側面を下垂性のつる性植物で覆い、植物のカーテンを構成することにより、シンプルな装置で、低廉で美しく、管理が容易で使い勝手のよい緑化装置および緑化方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上階のベランダの下または前面に、下垂性のつる性植物を栽培するための培地をベランダの長尺方向に設置し、そこを起点にベランダの短尺方向に向け縦横に組んだ、つる性植物の誘引棚を設置する。
【0010】
培地や誘引棚の設置は、上階のベランダにアンカーを埋め込むか、ベランダの床面から上階のベランダの底面に支柱を立てこれに固定するか、あるいは所要の高さを有する取付け台を設けるかして、ベランダへの出入りや利用の支障とならないように配慮し、台風や地震などで落下することのないように、強固に固定する。
【0011】
培地には下垂性のつる性植物を植生し、水耕栽培など維持管理の容易な方法を採用することで、植え替えすることもなく長年にわたってベランダを緑化できる装置と方法を提供できる。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、ベランダや軒下の利用を制限することなく、ベランダの上部および前面あるいは側面を下垂性のつる性植物で覆い、植物のカーテンを構成するもので、ベランダ床面および室内への直射日光を遮断することができる。さらには、つる性植物を誘引する棚の先端の横材をスライドさせることにより、突き出したり縮めたりできる構造としてベランダに軒をだし、つる性植物のカーテンの長さを上下に調整することもできるし、左右に分け固めてカーテンを開けることもできる。四季のある日本などの風土にぴったりと合うように陽射しを調整できる。このようにシンプルな装置で、低廉で美しく、管理の容易な緑化装置および緑化方法を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明のベランダの緑化方法および装置は、基本的に、集合住宅のベランダの下または前面に、つる性植物を栽培するための培地をベランダの長尺方向に設置し、そこを起点にベランダの短尺方向に向け縦横に組んだつる性植物の誘引棚を設置し、それに沿って植生を繁茂させるようにしたものである。培地や誘引棚の設置位置はベランダの使い勝手から見て、人の出入りに支障のない高さを確保することが望ましいし、集合住宅では住宅全体の美的バランスを考慮した配置とすることが望ましい。
【0014】
本発明において、培地を水耕栽培とする場合は、塩ビパイプやステンレス製のトレーなど腐食や錆びなどの発生がない材料で構成し、植生栽培時に、大きく変形しない程度の強度を有し、さらに植生を栽培するに充分な大きさであればよい。培地の上部は20〜30センチメートル程度の間隔で植生したつる性植物の成長に支障のない大きさの開口部を設けることが望ましい。また、培養液は自動循環方式とし、フザリウム菌などの増殖を防止するための紫外線殺菌装置などを設置してもよいが、小規模の場合苗の交換も容易であることから省略することもできる。土壌栽培とする場合、プランター台を設け、プランターを単独または連接して設置した培地で育成するが、液肥やりは湿度センサーを設置して自動の点滴注水とすることが望ましい。なお、水耕栽培、土壌栽培のいずれの場合も、つる性植物が十分に生育した状態では、一日の蒸散量が最大1平方メートル当たり3L程度となることから、自動給水の循環方式とし、液肥の供給も自動的に行うようにすると手間が省ける。また、保守性を考慮して、培地の上面と上階のベランダ下面は20〜30センチメートル程度の離隔をとることが望ましい。
【0015】
培地はベランダの長尺方向に設置し、そこを起点にベランダの短尺方向に向け縦横に組んだ誘引棚を設置する。もちろん誘引棚の枠にビニール製や金属製のネットを張りつけたものでもよい。
培地や誘引棚の設置は、上階のベランダにアンカーを埋め込み、吊り下げる形で固定することが強度の確保望および美観上最も望ましいが、既設建物などでこれができない場合には、ベランダの床面から上階のベランダの底面に支柱を立てこれに固定するか、あるいは所要の高さを有する取付け台を設けるかして、ベランダへの出入りや利用の支障とならないように配慮し、かつ台風や地震などで落下することのないように、強固に固定することが望ましい。
【0016】
植栽するつる性植物は、水耕栽培、土壌栽培のいずれかまたは両方に適した植物で、気温の変化や病虫害に強い、美しいものであれば特に指定する必要もないが、たとえば、品種が650種類以上と多彩なヘデラ類の中から、下垂性で条件の整っているカナリエンシス、ゴールドハート、テイカカズラと呼ばれている品種などを用いると好都合である。もちろん品種の違うものを交互に植えつけて好みの模様を形成してもよい。また、装置の設置場所、形状、利用目的等から、下垂性の多年草のつる性植物が好ましいが、夏の間だけの利用目的で、たとえば、サツマイモや葛などを植えつけることも可能である。
【0017】
カナリエンシスやゴールドハートなどの植物は、おおむね春先から梅雨の終わり頃にかけよく伸張し、秋にも少し伸張するが、この伸張に合わせて誘引棚に軽く止めていくようにすると風などで乱れることもなく、また、成長を助長することができる。誘引棚以上に伸張してきた部分は、誘引ヒモでベランダの手すりなどに誘引してもよいし、そのまま伸張させるか、誘引棚にガイドとなるようなものを取り付け、それに沿わせてもよい。
【0018】
また、誘引棚の先端の横材を前後にスライドさせることにより、突き出したり縮めたりできる構造としてベランダに軒をだし、つる性植物のカーテンの長さを上下に調整できるようにしてもよい。また、つる性植物の止め具をカーテンの吊り具のように左右方向に容易にスライドできるようにして、陽射しの強い夏は植物のカーテンを締め切り、風と木漏れ日が自由に透過できる状態とし、台風の来襲時や気温が下がる秋から春先にかけて陽射しが欲しいときには、左右に分け束ねて、カーテンを開けた状態にすると好都合である。
【実施例】
【0019】
本発明を図示された実施例によって、さらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0020】
図1及び図2は、集合住宅のベランダ緑化に本発明を適用した例を示す概略図であり、具体的には、集合住宅の一室のベランダの前面を緑化する例を示す。この例では、上階のベランダ床下1にアンカー2を埋め込み、これに固定する形で培地ケース3および誘引棚4が引き戸窓5よりやや高い位置に設置されている。
【0021】
この例では、図2に示されるように、水耕栽培方式の例を示しており、アンカー2に固定された吊り具6により培地ケース3が上階のベランダ床下1に吊られていて、その側面上部には給水管7が、底面よりやや上部には排水管8が、底面には、維持管理の目的で、全量排水のためのバイパス管9および排水バルブ10が設置されている。
【0022】
図2及び図8に示すように、液肥の供給システム11により、ベランダ床面に据え付けられた液肥タンク12から、水中ポンプ13により汲み上げられた液肥は、給水管7の先端に設置してあるドリップチューブ(図省略)により、植栽された植物の根元付近に噴出されている。そして、常時は排水バルブ10が閉めてあるため、培地ケース3の中の水位レベルは、排水管8の取り付け位置のレベルに保たれており、それゆえに供給システムは間歇運転も可能であるし、停電やシステムの故障で1〜2日程度の停止があっても十分耐えることが可能である。なお、小規模なベランダ緑化の場合は、手動ポンプなどで、培地ケース3の一定水位レベルまで所要の時間間隔で液肥を供給することで、同様の緑化を行うことも可能である。
【0023】
また、この例では、図2に示されるように、誘引棚4の先端部分のスライドガイド15は、前後にスライドできる構造となっていることに加え、円弧型の断面形状としていることからつるの折れ曲がりや損傷がないという特徴を有する。さらに、このスライドガイド15は、図5および図6に示されるように、くし刃を出し入れ可能な片寄り防止器16を付属させている。これにより、くし刃を立てると、下垂したつるが風で一方向に片寄ることを防止でき、くし刃を寝せると、緑のカーテンを容易に開閉できる。
緑のカーテンの開または閉状態で固定する場合は、くし刃を立てておけばよい。図3は緑のカーテンを開にした状態を示しており、日ざしの欲しい晩秋から春先にかけてはこの状態にすると明るい日差しが得られる。また、強風時には緑のカーテンを左右両端に分け束ね、シートなどで包んで保護し、ロープ等で誘引棚とベランダ手摺に緊線するとよい。
【0024】
図4は誘引棚4を示したものであるが、培地ケース3の底部から誘引棚フレーム18が構成され、誘引棚縦材19、誘引棚横材20を縦横に組んで構成しているが、もちろん誘引棚フレーム18にグリーンネットなどを貼り付けることでお好みの誘引棚を構成することも可能である。また、培地3に植物の種子が飛来してきて雑草が生えることを防止するとともに、アオコやアオミドロなどの発生を防ぐため培地カバー17で蓋をしている。培地カバー17はつる性植物のつる22が出るのに十分なだけの植え付け穴23が設けられている。
【0025】
図6は培地ケースの断面を示したものであるが、紙ポット21などで育成したつる性植物のつる22を植栽穴23の位置に配置し、日向軽石、中和処理したゼオライト、カキ殻等の充填材24を充填している。培地ケース3の底面は、透水用敷板25を設置し、排水スペースならびにシステム故障時等の乾燥防止の目的で、少し浮かした状態としている。また、排水管の目詰まり防止のため、こし網26を設置している。
【0026】
図8は本実施例の水耕栽培システムの概略を示すものであり、液肥タンク12の中には、液肥供給用の水中ポンプ13と、冬季の凍結防止と、年1〜2度の熱水除菌を兼ねた加熱ヒーター27と、液面確認のための液面ゲージ28が設置されている。給水管7で培地ケース3に供給された液肥の余剰分は排水管8で還流されるが、その途中には止水バルブ29と、ごみ除去のためのストレーナ30と、液肥の溶存酸素を供給するための空気混入器31が設置されている。
もちろん、これらのものは、ベランダ緑化の規模、設置状の条件等で自由に取捨選択できるもので、必ずしも本実施例のとおりに設置しなくてはならないというものではない。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明のベランダの緑化方法および緑化装置は、ベランダや軒下の利用を制限するようなことなく、ベランダの上部および前面あるいは側面を下垂性のつる性植物で覆い、植物のカーテンを構成することが可能である。また、シンプルな装置で、低廉で美しく、植生への潅水、施肥などの管理が容易で使い勝手のよい緑化装置および緑化方法であること、植物のカーテンを開閉することで夏の陽射しを遮断し、秋・冬・春は日差しを受け入れ、四季折々の状況に最適に対応でき、空調や照明の省エネルギー性が高いこと、さらには、ベランダ下への落下などにより公衆に危害が及ぶことのない極めて安全なシステムであることから、広くベランダや軒下の緑化に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明のベランダの緑化装置の一例を示す正面図である。
【図2】図1の装置の断面図である。
【図3】図1の装置による植栽物のカーテンの開いた状態を示す図である。
【図4】図1の装置の培地ケースと誘引棚の一例を示す平面図である。
【図5】図4の側面図である。
【図6】図1の装置の一部拡大図である
【図7】培地ケースの断面図である。
【図8】図1の装置における水および/または液肥の供給・循環システムのフローシートである。
【符号の説明】
【0029】
2…アンカー、3…培地ケース、4…誘引棚、6…吊り具、12…液肥タンク15…スライドガイド、16…片寄り防止器、18…誘引棚フレーム、24…充填材、25…透水用敷板。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物上階のベランダ下に、つる性植物栽培用の培地とこの培地から伸びたつる性植物を誘引する棚とこれらを固定する固定器具または固定台とを設け、ベランダの全面または一部を伸延・繁茂した下垂性のつる性植物で覆い、さらにその先端を垂れ下がらせることにより、植物のカーテンを形成することを特徴とするベランダの緑化方法。
【請求項2】
前記培地はベランダ長手方向に平行になるよう設置された、一つ以上連結されたプランターまたは適当な断面積を有する長尺培地とし、上階のベランダ下または上階のベランダ床前面に設置されることを特徴とする請求項1に記載の屋上の緑化方法。
【請求項3】
前記培地は培養液または液肥を透過しやすい日向軽石や粉砕したカキガラなどの根部保持材を充填した水耕栽培の培地である請求項1乃至2に記載のベランダの緑化方法。
【請求項4】
前記培地に培養液を循環させるための装置を備えた請求項1乃至3に記載のベランダの緑化方法。
【請求項5】
前記培地に培養土が充填され、つる性植物の生育に必要な水または液肥を適量供給するための装置を備えた請求項1乃至3に記載のベランダの緑化方法。
【請求項6】
請求項1記載のつる性植物を誘引する棚の先端の横材はスライドさせることにより突き出したり縮めたりできる構造とし、植物のカーテンの先端位置や長さを変えることを特徴とする請求項1乃至5に記載のベランダの緑化方法。
【請求項7】
請求項1記載の固定器具は上階のベランダ下または上階のベランダ床前面に設置することを特徴とする請求項1に記載のベランダの緑化方法。
【請求項8】
請求項1記載の固定台は上階の当該階のベランダ上に設置し、アンカー固定または当該階のベランダ床と上階ベランダ床下で上下方向に押付け固定することを特徴とする請求項1に記載のベランダの緑化方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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