説明

ベルトが熱可塑性ポリマーフィルムにより補強された空気入りタイヤ

本発明は、空気圧タイヤに関し、このタイヤのベルトは、例えばゴムコンパウンド、例えば天然ゴムの2つの層相互間にこれらと接触状態をなして配置された少なくとも1枚の多軸延伸熱可塑性ポリマーフィルム、例えば二軸延伸PETフィルムを有する多層ラミネートによって補強されている。問題の引張り方向とは無関係に、熱可塑性ポリマーフィルムは、好ましくは、500MPaを超える弾性率E、80MPaを超える最大引張り応力σmax及び40%を超える破断点伸び率Arを有する。ジエンゴムコンパウンドの2つの層相互間に配置された上述の熱可塑性ポリマーフィルムは、特に、耐破壊性保護フィルムとして空気圧タイヤのベルト中に使用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤ及びそのクラウン補強材及びベルトの補強に関する。
【0002】
特に、本発明は、特に攻撃又は穿孔に対する保護のための層としてかかる空気入りタイヤのクラウン中への多層ラミネートの使用に関する。
【背景技術】
【0003】
半径方向カーカス補強材を備えた空気入りタイヤは、公知のように、トレッド、2つの非伸張性ビード、ビードをトレッドに接合する2つの柔軟性のあるサイドウォール及びカーカス補強材とトレッドとの間で周方向に配置された硬質のクラウン補強材又は「ベルト」を有する。
【0004】
タイヤベルトは、一般に、重ね合わされたゴムプライから成り、これらゴムプライは、一般に所与のプライ中に互いに平行に配置された金属又はテキスタイル補強細線を収容する場合がある。
特に、このベルトは、一般にトレッドの下に配置された「保護」プライと呼ばれている1枚又は2枚以上のクラウンプライを有し、かかる保護プライの役割は、ベルトの残部を外部からの攻撃、引き裂き又は他の穿孔から保護することにある。これは、例えば、大型車両又は土木作業車両用のタイヤのベルトにおける一般的な場合である。
【0005】
これら保護プライは、一方において転動中、ベルトが当たる障害物の形状にできるだけぴったりとした形になると共に他方においてベルトの半径方向内側に向かう異物の侵入を阻止するよう十分に柔軟性があり且つ変形可能でなければならない。かかる基準を満たすためには、これら保護層中に高い弾性及び高い破壊エネルギーを示すコードの形態をした補強細線を用いることが必要である。
【0006】
高い伸び率のコード(HEコード)とも記載されている「ストランドコード」と呼ばれるスチールコードが通常用いられており、これらスチールコードは、公知の撚り合わせ技術により組み立てられていて、つる巻状に互いに撚り合わせられた複数本の金属ストランドから成り、各ストランドは、数本のスチールワイヤから成り、これらスチールワイヤも又、つる巻状に互いに巻かれている。
【0007】
かかる弾性ストランドコードは、特に産業車両、例えば大型車両又は土木作業車両用のタイヤの保護クラウンプライを補強するためのものとして、多くの特許明細書又は特許出願公開明細書に記載されている(これについては、例えば、米国特許第5843583号明細書、同第6475636号明細書、国際公開第2004/003287号パンフレット(又は米国特許出願公開第2005/0183808号明細書)、同第2004/033789号パンフレット(又は米国特許第7089726号明細書)、同第2005/014925号パンフレット(又は米国特許出願公開第2006/0179813号明細書)を参照されたい)。
【0008】
しかしながら、金属ストランドコードで補強されたこれら保護クラウンプライには多くの特定の欠点がある。
【0009】
第1に、これらストランドコードは、比較的高価であり、これは2つの点で高価であり、第1に、これらストランドコードは、2つのステップ、即ち、ストランドの事前製造、次のこれらストランドを撚り合わせることによる組み立てによって調製され、第2に、これらストランドコードでは、一般に、これらワイヤが高い撚り(即ち、非常に短いつる巻ピッチ)を有することが必要であり、かかる高い撚りは、ストランドコードに所望の弾性を与えるために必要不可欠であるが、それにより製造速度が低下する。この欠点は、当然のことながら、タイヤ自体のコストに跳ね返る。
【0010】
これら金属コードの他の公知の欠点は、これら金属コードが腐食に対して敏感である(弱い)こと、これら金属コードが重いこと、これら金属コードのサイズ(外径)が比較的大きいことである。
【0011】
本出願人は、研究を続けることにより、特にスチールコードで補強された従来型プライを置き換えることができ、かくして上述の欠点を解決することができる軽量且つ高性能多層ラミネートを見出した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】米国特許第5843583号明細書
【特許文献2】米国特許第6475636号明細書
【特許文献3】国際公開第2004/003287号パンフレット
【特許文献4】米国特許出願公開第2005/0183808号明細書
【特許文献5】国際公開第2004/033789号パンフレット
【特許文献6】米国特許第7089726号明細書
【特許文献7】国際公開第2005/014925号パンフレット
【特許文献8】米国特許出願公開第2006/0179813号明細書
【発明の概要】
【0013】
かくして、第1の観点によれば、本発明は、空気入りタイヤであって、空気入りタイヤのベルトが多層ラミネートにより補強されている、空気入りタイヤにおいて、ラミネートは、ゴムコンパウンドの2つの層相互間にこれらゴムコンパウンド層と接触状態をなして配置された少なくとも1枚の多軸延伸熱可塑性ポリマーフィルムを有することを特徴とするタイヤに関する。
【0014】
この多層ラミネートは、予期せぬこととして、厚さが実質的に小さいにもかかわらず、金属コードで補強された従来型ファブリックの耐穿孔力性と同等の高い耐穿孔力性を備えることが判明した柔軟性があり且つ変形性が非常に高い構造体を有する。
【0015】
このラミネートは、特にその厚さが小さいことにより、これら従来型ファブリックと比較して低いヒステリシスを備えるという利点も有する。空気入りタイヤの製造の主要な目的は、正確に言えば、これらタイヤの転がり抵抗を減少させるためにタイヤの構成要素のヒステリシスを減少させることである。
【0016】
本発明の空気入りタイヤは、乗用車、4×4型自動車及びSUV(スポーツユーティリティビークル)型自動車向きであるが、二輪車、例えばモータサイクル若しくは自転車又はバン、「大型」車両、即ち、地下電車、バス、重量物運搬車両(ローリー、曳航車両、トレーラ)、オフロード車、農業又は土木作業機械、航空機及び他の運搬又は荷役車両向きでもある。
【0017】
本発明及びその利点は、以下の詳細な説明及び例示の実施形態並びに更にこれら実施形態に関する図1〜図5に照らして容易に理解されよう。なお、これらの図は、別段の指定がなければ、特定の縮尺通りには作成されていない。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の多層ラミネートをベルト中に組み込んだ本発明の空気入りタイヤの1つの例の概略半径方向断面図である。
【図2】本発明の多層ラミネートをベルト中に組み込んだ本発明の空気入りタイヤの別の例の概略半径方向断面図である。
【図3】本発明の空気入りタイヤを補強する多層ラミネート中に用いることができる多軸配向熱可塑性ポリマー(PET)フィルムについて3つの引張り方向において記録された応力‐伸び率曲線を示す略図である。
【図4】本発明に従って使用可能な多層ラミネートの概略断面図である。
【図5】高い伸び率金属コードを有する従来型保護クラウンプライの概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
定義
本願において、以下の定義が採用される。
‐「ゴム」又は「エラストマー」(これら2つの用語は、同義であると解される):任意種類のジエン又は非ジエン、例えば熱可塑性樹脂、エラストマー。
‐「ジエンゴム」:ジエンモノマー、即ち、2つの炭素‐炭素二重結合(かかる結合が共役であるかないかを問わない)を備えたモノマーから少なくとも一部が(即ち、ホモポリマー又はコポリマー)結果として生じる任意のエラストマー(単一のエラストマー又はエラストマーの混合物)。
‐「層」:厚さが他の寸法に対して比較的小さいストリップ又は任意他の三次元要素であり、厚さと他の寸法のうちの最も大きいものの比が0.5未満、好ましくは0.1未満である。
‐「シート」又は「フィルム」:厚さと他の寸法のうちの最も小さいものの比が0.1未満である任意の薄い層。
‐「補強細線」:断面に対して長さが長く、ゴムマトリックスの引張り特性を強化することができる任意の長くて薄いストランド、任意の要素フィラメント、任意のマルチフィラメントファイバ又はかかるフィラメント若しくはファイバの任意のアセンブリ、例えばもろより糸又はコード。この細線は、場合によっては、真っ直ぐであり又は真っ直ぐではなく、例えば、撚られ又はクリンプ加工されている。
‐「ラミネート」又は「多層ラミネート」:国際特許分類の意味の範囲内において、平べったい又は平べったくない形態の少なくとも2つの層を有する任意の製品。これら層は、互いに接触状態にあり、これら層は、場合によっては互いに接合又は連結され或いはそうではなく、「接合され」又は「連結され」という表現は、特に接着剤による結合回数全ての結合又は組み立て手段を含むよう広義に解されるべきである。
【0020】
さらに、別段の明示の指定がなければ、示されている百分率(%)は全て、重量%である。
【0021】
「aとbとの間」又は「a〜b」という表現によって示される値域は、aよりも大きい値からbよりも小さい値までの範囲を表わし(即ち、端の値a,bが除かれる)、これに対し、「aからbまで」という表現によって示される値域は、aからbまでの値の範囲を意味している(即ち、厳密な意味での端の値a,bが含まれる)。
【0022】
したがって、本発明の空気入りタイヤは、本質的な特徴として、そのクラウン補強材又はベルトが多層ラミネートにより補強され、この多層ラミネートがゴムコンパウンドの2つの層相互間でこれらと接触状態をなして配置された少なくとも1枚の多軸延伸熱可塑性ポリマーフィルムを有する特徴を有し、かかるフィルム及び層については以下に詳細に説明する。
【0023】
多軸延伸され、即ち2つ以上の方向に延伸され又は配向された任意の熱可塑性ポリマーフィルムを使用することができる。かかる多軸延伸フィルムは、周知であり、主として、今日においては、包装業界、食品業界、電気分野において又は磁気コーティングの支持体として用いられている。
【0024】
かかるフィルムは、種々の周知の延伸技術を用いて調製され、これら延伸技術は全て、溶融状態における紡糸時に周知の仕方で単軸延伸を受ける従来型熱可塑性ポリマー繊維(例えば、PET又はナイロン繊維)の場合と同様、たった1つの方向ではなく、幾つかの主要な方向に良好な機械的性質をフィルムに与えるようになっている。
【0025】
かかる技術は、幾つかの方向に多数回の延伸作業、即ち、長手方向延伸作業、横断方向延伸作業及び平面延伸作業を必要とする。一例として、特に二軸延伸吹き込み成形技術が挙げられる。延伸作業を1つ又は幾つかの段階で実施することができ、延伸作業は、数種類の延伸作業が存在する場合、同時であっても良く又は連続であっても良い。適用される1つ又は複数の延伸率は、標的となる最終の機械的性質に応じ、一般的には2を超える。
【0026】
多軸延伸熱可塑性ポリマーフィルム及び更にこれらを得る方法は、多くの特許文献、例えば、仏国特許第2539349号明細書(又は英国特許第2134442号明細書)、独国特許第3621205号明細書、欧州特許第229346号明細書(又は米国特許第4876137号明細書)、欧州特許第279611号明細書(又は米国特許第4867937号明細書)、欧州特許第539302号明細書(又は米国特許第5409657号明細書)及び国際公開第2005/011978号パンフレット(又は米国特許出願公開第2007/0031691号明細書)に記載されている。
【0027】
好ましくは、用いられる熱可塑性ポリマーフィルムは、考慮される引張り方向がどのような方向であれ、500MPa(特に500〜4000MPa)、好ましくは1000MPaを超え(特に、1000〜4000MPa)、より好ましくは2000MPaを超えるEで示された引張り弾性率を有する。特に空気入りタイヤを補強するためには2000〜4000MPa、特に3000〜4000MPaの弾性率Eの値が特に望ましい。
【0028】
別の好ましい実施形態によれば、考慮される引張り方向と無関係に、熱可塑性ポリマーフィルム中のσmaxで示された最大引張り応力は、好ましくは80MPaを超え(特に、80〜200MPa)、より好ましくは100MPaを超え(特に100〜200MPa)である。特に空気入りタイヤを補強するためには150MPaを超え、特に150〜200MPaの応力値σmaxが特に望ましい。
【0029】
別の好ましい実施形態によれば、考慮される引張り方向とは無関係に、熱可塑性ポリマーフィルムのYpで示された降伏点は、3%伸び率を超え、特に3〜15%伸び率である。特に空気入りタイヤを補強するためには4%を超え、特に4〜12%のYp値が特に望ましい。
【0030】
別の好ましい実施形態によれば、考慮される引張り方向とは無関係に、熱可塑性ポリマーフィルムは、40%を超え(特に40〜200%)、より好ましくは50%を超えるArで示された破断点伸び率を有する。特に空気入りタイヤを補強するためには50〜200%のAr値が特に望ましい。
【0031】
上述の機械的性質は、当業者には周知であり、かかる機械的性質は、例えば1mmを超える厚さのストリップについて規格ASTM・D638‐02に従って測定され又は厚さがせいぜい1mmの薄いシート又はフィルムについて規格ASTM・D882‐09に従って測定された力‐伸び率曲線から導き出され、MPaで表された弾性率E及び応力σmaxに関する上述の値は、引張り試験用試験片の初期断面に関して計算される。
【0032】
用いられる熱可塑性ポリマーフィルムは、好ましくは、熱安定化型のものであり、即ち、かかる熱可塑性ポリマーフィルムは、延伸後、周知の仕方で熱可塑性ポリマーフィルムがその高温熱収縮(又は縮み)を制限することを目的とする熱処理を1回又は2回以上受けており、かかる熱処理は、特に後硬化作業又はハードニング(焼入れ)作業又はかかる後硬化作業とハードニング作業の組み合わせから成るのが良い。
【0033】
かくして、好ましくは、用いられる熱可塑性ポリマーフィルムは、150℃における30分後、その長さに対して5%未満、好ましくは3%未満の収縮率を呈する(これは、ASTM・D1204‐08に従って測定される)。
【0034】
用いられる熱可塑性ポリマーの融点は、特に空気入りタイヤの補強の場合、好ましくは、100℃を超え、より好ましくは150℃を超え、特に200℃を超えるよう選択される。
【0035】
熱可塑性ポリマーは、好ましくは、ポリアミド、ポリエステル及びポリイミドから成る群から選択され、特に、ポリアミド及びポリエステルから成る群から選択される。ポリアミドの中から、特に、ポリアミドPA4‐6、PA‐6、PA6‐6、PA‐11又はPA‐12を挙げることができる。ポリエステルの中から、例えばPET(ポリエチレンテレフタレート)、PEN(ポリエチレンナフタレート)、PBT(ポリブチレンテレフタレート)、PBN(ポリブチレンナフタレート)、PPT(ポリプロピレンテレフタレート)、PPN(ポリプロピレンナフタレート)を挙げることができる。
【0036】
熱可塑性ポリマーは、好ましくは、ポリエステルであり、より好ましくはPET又はPENである。
【0037】
多軸延伸を受け、本発明のクラウン三角形構造形成層に適したPET熱可塑性ポリマーフィルムの例は、例えば、“Mylar”及び“Melinex”(デュポン・テイジン・フィルムズ(DuPon Teijin Films)製)又は変形例として“Hostaphan”(ミツビシ・ポリエステル・フィルム(Mitubisi Polyester Film )製)という名称で市販されている二方向延伸PETフィルムである。
【0038】
本発明の空気入りタイヤの多層ラミネートでは、熱可塑性ポリマーフィルムの厚さe1は、好ましくは、0.05〜1mm、より好ましくは0.1〜0.7mmである。例えば、0.20〜0.60mmのフィルム厚さは、大抵の使用に完全に適しているものであることが判明した。
【0039】
熱可塑性ポリマーフィルムは、特に熱可塑性ポリマーフィルムの形成時にポリマーに添加された添加剤を含むのが良く、これら添加剤は、老化に対する保護をもたらす作用剤であるのか良く、例えば、可塑剤、充填剤、例えばシリカ、クレイ、タルク、カオリン又は単繊維であり、充填剤は、例えば、フィルムの表面を粗くし、かくしてフィルムによる接着剤の保持具合及び/又はこれが接触するようになったゴムの層へのくっつき具合の向上に寄与する。
【0040】
本発明の空気入りタイヤの多層ラミネートの構成要素であるゴムコンパウンドの各層又は以下の「ゴム層」は、少なくとも1種類のエラストマーを主成分としている。
【0041】
好ましくは、ゴムは、ジエンゴムである。ジエンエラストマーは、公知のように、2つのカテゴリ、すなわち「本質的に不飽和」ジエンエラストマー及び「本質的に飽和」ジエンエラストマーと呼ばれるカテゴリに分類可能である。「本質的に不飽和」ジエンエラストマーとは、少なくとも一部が、15%(モル%)より大きい含有量のジエンオリジン(共役ジエン)のユニットを有する共役ジエンモノマーから得られるジエンエラストマーを意味するものと理解されるべきである。かくして、例えばブチルゴム又はジエンのコポリマー及びEPDM型のα‐オレフィンのコポリマーのジエンエラストマーは、前述の定義には含まれず、より詳しくは、「本質的に飽和」されたジエンエラストマーとして説明される(低い又は非常に低い(常に15%より低い)含有量のジエンオリジンのユニット)。「本質的に不飽和」のジエンエラストマーのカテゴリ内で、「高度の不飽和」ジエンエラストマーとは、特に、50%より大きい含有量のジエンオリジン(共役ジエン)のユニットを有するジエンエラストマーを意味するものと理解されるべきである。
【0042】
本発明は、任意種類のジエンエラストマーに利用できるが、好ましくは、高い非飽和度の形式のジエンエラストマーを用いて実施される。
【0043】
ジエンエラストマーは、より好ましくは、ポリブタジエン(BR)、天然ゴム(NR)、合成ポリイソプレン(IR)、種々のブタジエンコポリマー、種々のイソプレンコポリマー、及びこれらエラストマーの混合物から成る群から選択される。かかるコポリマーは、より好ましくは、ブタジエン/スチレンコポリマー(SBR)、イソプレン/ブタジエンコポリマー(BIR)、イソプレン/スチレンコポリマー(SIR)及びイソプレン/ブタジエン/スチレンコポリマー(SBIR)から成る群から選択される。
【0044】
特に好ましい一実施形態では、「イソプレン」エラストマー、即ち、イソプレンのホモポリマー又はコポリマー、換言すると、天然ゴム(NR)、合成ポリイソプレン(IR)、種々のイソプレンコポリマー及びこれらエラストマーの混合物から成る群から選択されたジエンエラストマーを用いることから成る。イソプレンエラストマーは、好ましくは、天然ゴム又は合成シス−1,4ポリイソプレンである。これら合成ポリイソプレンのうち、好ましくは、シス−1,4結合の含有量(モル%)が90%以上、より好ましくは98%以上のポリイソプレンが用いられるのか良い。好ましい一実施形態では、ゴムコンパウンドの各層は、50〜100phrの天然ゴムを含む。他の好ましい実施形態によれば、ジエンエラストマーを全体として又は部分的に、別のエラストマー、例えばBR系のエラストマーとのブレンドとして用いられ又は単独で用いられる別のジエンエラストマー、例えばSBR系のエラストマーで構成しても良い。
【0045】
ゴムコンパウンドは、単一のジエンエラストマー又は数種類のジエンエラストマーを含むのが良く、ジエンエラストマーは、場合によっては、ジエンエラストマー以外の任意形式の合成エラストマー又はエラストマー以外のポリマーと組み合わせて利用される。ゴムコンパウンドは、タイヤの製造向きのゴムマトリックス中に通常用いられる添加剤、例えば、補強充填剤、例えばカーボンブラック又はシリカ、結合剤、老化防止剤、酸化防止剤、可塑化剤又は性質上芳香性であるか非芳香性であるかを問わないエキステンダ油(特に、ほんの僅かに芳香性であり或いは全く芳香性ではない油、例えば、粘度の高い又は好ましくは低いナフテン系の油又はパラフィン系の油、MES又はTDAE油)、30℃よりも高いTgの可塑化樹脂、コンパウンドを生の状態で処理しやすくする処理作用剤、粘着性樹脂、加硫戻り防止剤、メチレン受容体及び供与体、例えばHMT(ヘキサメチレンテトラミン)又はH3M(ヘキサメトキシメチルメラミン)、補強樹脂(例えばレソルチノール又はビスマレイミド)、金属塩、例えばコバルト若しくはニッケル塩又はランタニド塩の公知の密着性促進(定着)系、架橋又は加硫系のうち全て又は幾つかを更に含むのがよい。
【0046】
好ましくは、ゴムコンパウンドを架橋する系は、加硫系であり、即ち、硫黄(又は硫黄ドナー)及び一次加硫促進剤を主成分とする系である。種々の公知の二次加硫促進剤又は加硫活性化剤をこのベース加硫系に添加するのが良い。硫黄は、0.5〜10phr相互間の好ましい量で用いられ、一次加硫促進剤、例えばスルヘンアミドは、0.5〜10phrの好ましい量で用いられる。補強充填剤、例えば、カーボンブラック又はシリカの含有量は、好ましくは、補強無機充填剤、例えば50phrを超え、特に60〜140phrである。
【0047】
全てのカーボンブラック、特に、タイヤに従来用いられていたタイプHAF、ISAF又はSAF型のカーボンブラック(タイヤ等級ブラックと呼ばれている)が、カーボンブラックとして適している。これらのうちで、300、600又は700(ASTM)等級のカーボンブラック(例えば、N326、N330、N347、N375、N683、N772)を特に挙げることができる。BET表面積が450m2/g以下、好ましくは30〜400m2/gの沈降又は高熱分解法シリカが、シリカとして特に適している。
【0048】
当業者であれば、本明細書の説明に照らして、所望レベルの性質(特に、弾性率)を達成すると共に処方を特定の意図した用途に適合させるためにゴムコンパウンドの処方をどのように調整すれば良いかが分かるであろう。
【0049】
好ましくは、ゴムコンパウンドは、架橋状態において、4〜25MPa、より好ましくは4〜20MPaの10%伸び率における割線引張りモジュラスを有し、特に5〜15MPaの値は、空気入りタイヤのベルトを補強するのに特に適していることが判明した。弾性率の測定は、別段の指定がなければ、1998年の標準ASTM・D・412(試験体“C”)に従って引張り試験で実施され、即ち、Msで示されていてMPaで表された10%伸び率における「真」の割線モジュラス(試験体の実断面に関する割線モジュラス)を規格ASTM・D・1349(1999)による通常の温度及び湿度条件下で第2の伸びで(即ち、1回の適合サイクル後に)測定する。
【0050】
本発明の空気入りタイヤの多層ラミネートでは、各ゴム層の厚さe2は、好ましくは0.05〜2mm、より好ましくは0.1〜1mmである。例えば、0.2〜0.8mmの厚さは、大抵の場合に完全に適しているものであることが判明した。
好ましくは、本発明のタイヤの多層ラミネートは、それぞれ2.5mm及び10cmを超え、より好ましくはそれぞれ5mm及び20cmを超える幅及び長さを有する。
【0051】
熱可塑性ポリマーフィルムをそのままで、即ち、市販されている状態で使用でき又は幅の狭いストリップ又はバンドの形態に切断し直しても良く、これらストリップ又はバンドの幅は、意図した用途に応じて極めて大幅に様々であって良い。
【0052】
本発明の好ましい一実施形態によれば、本発明の空気入りタイヤの多層ラミネートは、これが接触関係をなすゴムコンパウンドの各層に向いた接着剤の層を備える。
【0053】
ゴムを熱可塑性ポリマーフィルムにくっつけるため、適当な接着系、例えば少なくとも1つのジエンエラストマー、例えば天然ゴムを含むRFL(レソルシノール‐ホルムアルデヒド‐ラテックス)型の単純なテキスタイル接着剤又はゴムと従来型熱可塑性繊維、例えばポリエステル又はポリアミド繊維との間に満足の行く接着を提供することが知られている任意の同等な接着剤を用いることが可能である。
【0054】
一例を挙げると、接着被覆プロセスは、本質的には、以下の連続して行われるステップ、即ち、接着剤の浴の通過ステップ、過度の接着剤を除去する排出ステップ(例えば、ブローイング(blowing)、較正(calibrating )による)、例えばオーブンに通す(例えば、180℃で30分間)ことによる乾燥ステップ、最後に熱処理ステップ(例えば、230℃で30分間)を含むのが良い。
【0055】
上述の接着剤塗布プロセス前に、例えばフィルムによる接着剤の保持具合及び/又は最終のゴムへのフィルムの接着具合を向上させるよう機械的且つ/或いは物理的且つ/或いは化学的プロセスを用いてフィルムの表面を活性化することが有利な場合がある。機械的処理は、例えば、表面を艶消しし又は引っ掻く事前ステップから成り、物理的処理は、例えば、放射線、例えば電子ビームによる処理から成り、化学的処理は、例えば、エポキシ樹脂及び/又はイソシアネート化合物の浴の事前通過から成るのが良い。
【0056】
熱可塑性ポリマーフィルムの表面は、一般的に言って、特に滑らかなので、フィルムの接着剤被覆中にフィルムによる接着剤の全体的保持具合を向上させるために増粘剤を用いられる接着剤に追加することも又有利な場合がある。
【0057】
当業者であれば容易に理解されるように、熱可塑性ポリマーフィルムとこれが接触関係をなす各ゴム層との連結は、本発明の空気入りタイヤの最終の硬化(架橋)時に最終的に得られる。
【0058】
上述の多層ラミネートを任意形式の空気入りタイヤ、特に、あらゆる形式の車両、特に乗用車又は産業車両、例えば大型車両、土木作業車両、航空機及び他の運搬又は荷役車両向きの空気入りタイヤ中に補強要素として、特に穿孔に対する保護のための要素として用いることができる。
【0059】
一例を挙げると、添付の図1は、本発明の空気入りタイヤの半径方向断面を特定の縮尺に合わせることなく極めて概略的に示している。
【0060】
この空気入りタイヤ1は、トレッド3を載せたクラウン2、2つのサイドウォール4及び2つのビード5を有し、これらビード5の各々は、ビードワイヤ6により補強されている。カーカス補強材7が各ビード5中で2つのビードワイヤ6周りに巻き上げられており、この補強材7の折り返し部又は巻き上げ部8は、例えばタイヤ1の外側寄りに位置決めされており、タイヤ1は、この場合、そのリム9に取り付けられた状態で示されている。クラウン2は、この場合、少なくとも2つの互いに異なる補強構造体(10a,10b)で構成されたクラウン補強材又はベルト10によって補強されている。
【0061】
この空気入りタイヤ1は、そのベルト10(又は同じものになるそのクラウン2)がトレッド3とカーカス補強材7との間で半径方向に位置決めされた少なくとも1つの多層ラミネート10aを有し、この多層ラミネート10aそれ自体が、これが接触状態にある2つのゴム層相互間に位置決めされた多軸延伸熱可塑性ポリマーフィルムから成るという新規且つ本質的な特徴を有する。
【0062】
図1に示されているこのタイヤ1では、トレッド3、多層ラミネート10a、クラウン補強構造体10b及びカーカス補強材7は、図面を分かりやすくすると共に簡単にする理由で、これら部品が概略的な図1では故意に分離されているが、互いに接触状態にあっても良く又は接触状態になくても良いことは理解されよう。これら部品は、例えば当業者には周知であって、硬化又は架橋後に組立体の凝集度を最適化するようになったゴム結合により少なくともこれら部品の一部分について物理的に分離されている場合がある。
【0063】
図4に詳細に説明されている多層ラミネート10aは、この場合、ゴムコンパウンドの2つの層101相互間にサンドイッチされた例えば約0.35mmに等しい厚さe1を有する二軸延伸PETのフィルム100から成り、ゴムコンパウンド層101は、例えば約0.4mmに等しい厚さe2を有し、したがって、ラミネートは、例えば約1.15mmの全厚(e1+2e2)を有する。用いられるゴムコンパウンドは、この場合、代表的には天然ゴム、カーボンブラック、加硫系及び通常の添加剤を主成分とする空気圧タイヤのベルトの金属プライの圧延用の従来型コンパウンドである。PETフィルムと各ゴム層との接着は、公知の仕方で上述したように被着されたRFL系の接着剤によって可能になる。
【0064】
本発明の第1の好ましい実施形態を示している図1では、多層ラミネート10aは、ベルト10内において、トレッドの下に配置されていて、ベルトの残部、この例の場合、クラウン補強構造体10bを空気入りタイヤが転動しているときに生じる場合のある外部からの攻撃、引き裂き又は他の穿孔に対して保護することができるクラウンの保護のための構造体又はスクリーンを構成していることが分かる。
【0065】
有利には、多層ラミネートは、水及び酸素に対するスクリーン又はバリヤを構成する役割をも果たし、かかる水や酸素は、タイヤの空気入りタイヤの残部、特にベルトそれ自体又はそのカーカス補強材中に存在する金属コードに対して腐食性である。
【0066】
添付の図2は、本発明の別の考えられる別の実施形態を示しており、この実施形態では、多層ラミネート10aは、この同一のベルト10内において、この時点ではクラウン補強構造体10bの下に配置されていて空気入りタイヤの残部、この例の場合、そのカーカス補強材7を保護することができるクラウンの保護のための構造体又はスクリーンを構成していることが分かる。
【0067】
本発明の別の考えられる実施形態によれば、クラウンを保護する2つの構造体(多層ラミネート)10aは又、クラウン補強構造体10bの半径方向各側に位置決めされても良い。図1及び図2の上述の記載内容では、カーカス補強材7は、それ自体公知の仕方で、「半径方向の」例えばテキスタイル又は金属補強細線で補強された少なくとも1枚のゴムプライで構成され、即ち、これら補強細線は、互いにほぼ平行に位置決めされると共に周方向中間平面(2つのビード4相互間の真ん中のところに配置されると共にクラウン補強材10の中間を通るタイヤの回転軸線に垂直な平面)と80°〜90°の角度をなすよう一方のビードから他方のビードに延びている。
【0068】
これら半径方向補強細線は、例えば、スチール、ポリエステル、ナイロン、アラミド、セルロース、ポリケトンで作られ、又は、ハイブリッド又は複合型のものであり、即ち、上述の材料の混合物、例えば、ハイブリッドアラミド‐ナイロンコードで構成される。
【0069】
ベルト10のクラウン補強構造体10bは、例えば、それ自体公知の仕方で、「周方向の」例えばテキスタイル又は金属補強細線11で補強されたゴムプライで構成され、即ち、これら補強細線は、互いにほぼ平行に位置決めされると共に周方向中間平面と好ましくは0°〜10°の角度をなすよう空気入りタイヤの周りに実質的に周方向に延びている。これら補強細線11の主要な役割は、高速時におけるクラウンの遠心力作用に耐えることにあるが思い起こされよう。
【0070】
周方向補強細線11の例としては、例えば、炭素鋼、ステンレス鋼、互いに撚り合わされた繊維から成るテキスタイルのコード、特に且つ好ましくは温度及び/又は水分に対して寸法安定性があることが知られているコードを使用することができる。これらコードのテキスタイル繊維は、例えば、ポリビニルアルコール繊維、芳香族ポリアミド(又は「アラミド」)繊維、脂肪族ポリアミド(又は「ナイロン」)繊維、ポリエステル(例えば、PET又はPEN)、芳香族ポリエステル、セルロース(例えば、レーヨン、ビスコース)、ポリフェニレンベンゾビソキアゾール繊維、ポリケトン繊維、ガラス繊維、炭素繊維、セラミック繊維から成る群から選択される。特に好ましくは、特に炭素鋼、アラミド、ポリエステル、ナイロン、セルロース、ポリケトン強化要素及びこれら種々の材料、例えばアラミド/ナイロンコードで構成されたハイブリッド補強要素が挙げられる。
【0071】
上記半径方向又は周方向補強細線は、任意公知の形状を採用することができ、これら補強要素は、例えば、大きな直径(例えば、好ましくは50μm以上の直径)の個々のモノフィラメント、マルチフィラメント繊維(小径の、典型的には30μm未満の複数本の個々のフィラメントで構成される)、互いに撚り合わされた数本の繊維で形成されたテキスタイルもろより糸、互いにケーブリングされ又はツイスティングされた数本の繊維又はモノフィラメントで形成されるテキスタイル又は金属コードであるのが良い。
【0072】
ベルト10の補強構造体10bは、当業者には周知にように、互いに実質的に平行に位置決めされると共に周方向中間平面に対して傾けられた金属コードで補強されている「実働プライ」又は「三角形構造形成プライ」と呼ばれている少なくとも2枚の重ね合わされると共にクロス掛けされたプライを更に有するのが良く、これら実働プライを他のゴムファブリック及び/又はプライと組み合わせることができる。これら実働プライの主要な役割は、空気入りタイヤに高いコーナリング剛性を与えることにある。
【0073】
図3は、上述の本発明の空気入りタイヤの例で用いられる二軸延伸PETフィルム(デュポン・テイジン・フィルムズ社製の“Mylar A”、厚さ0.35mm)について記録された応力‐伸び率曲線を再現している。
【0074】
C1,C2,C3で示された曲線は、押し出し方向(これは、「機械方向」について“MD”方向という名称と呼ばれている)に一致したフィルムの主要な向きに沿って、MD方向に垂直な向き(「横断方向」について“TD”方向という名称で呼ばれている)、最後に、2つの上述の方向(MD及びTD)に対して斜めの方向(45°の角度)に沿って実施された引張り試験に対応している。機械的性質、例えば図3に示されているような引張り弾性率(E)、最大引張り応力(σmax、降伏点Yp及び破断点伸び率(Ar)を当業者には周知の仕方で、これら引張り試験曲線から導き出すことができる。
【0075】
これら引張り試験曲線は、ASTM・D882‐09規格に従って別段の指定がなければ、幅4mm、長さ30mm(作業部分は、引張り試験を受ける)のダンベルの形をしていて且つ200mm/分の速度で引っ張られた状態で試験された熱可塑性ポリマーフィルムの厚さに等しい厚さe1を有するフィルムの試験片について記録されて機械的性質が測定された。
【0076】
本発明の別の好ましい実施形態に相当する多軸延伸熱可塑性ポリマーフィルムは、考慮する引張り方向とは無関係に、以下の機械的性質(図3の応力‐伸び率曲線から推定される)を有することが観察される。
‐500MPaを超える引張り弾性率E、
‐100MPaを超える最大引張り応力σmax
‐5〜10%の降伏点Yp、
‐50%を超えるArで示された破断点伸び率。
【0077】
多層ラミネートにより本発明の空気入りタイヤのベルトに与えられた補強材の品質は、所与の耐穿孔性を測定することから成る穿孔試験により評価可能である。この試験の原理は、周知であり、例えばASTM・F1306‐90規格に記載されている。
【0078】
比較穿孔試験の際、以下を試験した。
‐一方において、図4に示されているように単に、厚さe2のゴム2つの層(101)相互間に位置決めされた厚さe1の上述の二軸延伸フィルム(100)を有する多層ラミネート(10a)、
‐他方、比較のため、図5に示されているように、約2.5mmの布設ピッチに従って平面内において互いに平行に位置決めされた一連のスチールマルチストランドコード(200)を有する従来型金属ファブリック、これら一連のコードは、ゴム(201)で被覆され、コードの背部のところのゴムの厚さは、この場合、e2、即ち約0.4mmに等しい。
【0079】
「6×0.35」又は「3×2×0.35」構成のこれらマルチストランドコード(200)は、各々が、本明細書の導入部に記載されている産業車両用の空気入りタイヤの保護クラウンプライを補強するものとして周知である弾性(例えば、高伸び率又はHE)金属コード(これについては、例えば、上述の国際公開第2004/033789号パンフレットを参照されたい)を形成するためにケーブリングにより互いに組み付けられた直径0.35mmの2本の細線の3本のストランド(ストランドは、分かりやすくするために図5には示されていない)から成るコードである。これらコードの全直径(又はエンベロープ直径)は、約1.4mmであり、したがって、最終の金属ファブリックの全厚は、約2.2mmである。
【0080】
図4及び図5は、本発明に従って用いられる多層ラミネート(10a)と従来型金属ファブリック(20)との間に存在する厚さの相当大きな差を示すために実質的に同一の縮尺(縮尺1)で表されている。
【0081】
本発明の空気入りタイヤの多層ラミネートでは、フィルム(100)の幅“L”は、好ましくは、ゴムの2つの層(101)の幅に等しく、このフィルムは、図4に概略的に示されているようにこれら2つのゴム層相互間に位置決めされている。しかしながら、本発明は、当然のことながら、この幅Lが異なっており、即ち、小さい又は大きい場合にも当てはまり、例えば、この多層ラミネート中の熱可塑性ポリマーフィルムは、例えば並置されると共に2つのゴム層の方向と同一の又はこれとは異なる主要方向に沿って差し向けられた複数本の幅の狭いストリップ又はバンドから成っていても良い。
【0082】
用いられる金属圧子(図5に参照符号30で示されている)は、円筒形の形状のものであり(直径4.5mm±0.05mm)、その端部が円錐形であり(角度30°±2°)1mmの直径に切頭されている。試験される複合材のサンプル(本発明の多層ラミネート又はコントロール金属ファブリック)を厚さ18mmの金属支持体に取り付け、圧子が穿孔されたサンプル及びその支持板を自由に通過することができるようにこの金属支持体に圧子と一線をなして直径12.7mmの孔をあけた。
【0083】
この場合、耐穿孔性を特徴付けるため、10cm/分の速度でサンプルを通過する上述の圧子(引張り試験機に連結されたセンサを備えている)の力‐変位曲線を記録した。
【0084】
以下の表1は、記録した測定値の詳細を与えており、ベース100は、コントロール複合材のために用いられ、曲げ弾性率は、力‐変位曲線の初期勾配を表し、穿孔時の力は、圧子の先端部によるサンプルの穿孔前に記録された最大力であり、穿孔時の伸び率は、穿孔時に記録された相対伸び率である。
【0085】
【表1】

【0086】
表1を参照すると、本発明の空気入りタイヤの多層ラミネートは、驚くべきこととして、厚さがコントロールに対してほぼ半分であり且つ補強細線が設けられていないにもかかわらず、標準型金属ファブリックの耐穿孔性とほぼ同等の耐穿孔性を有することが観察される。
【0087】
乗用車用の空気入りタイヤについて他の走行試験を行なったが、かかる空気入りタイヤのベルトは、本発明の多層ラミネートを有し、その多軸延伸熱可塑性ポリマーフィルム(二軸延伸PET)は、約30mmの幅を有し、並置され、そして周方向中間平面に対して40°だけ傾けられたストリップの形態をしていた。このベルトは、単に、図1に概略的に示されているような上述の多層ラミネート(10a)及び補強構造体(10b)(アラミドで作られた周方向補強細線11)から成っていた。これら空気入りタイヤのドリフトスラスト又はコーナリング剛性を測定するためにこれら試験を実施したが、高いドリフトスラスト又はコーナリング剛性は、空気入りタイヤに自動車に関する非常に良好な路上取り扱い性を与えることが思い起こされる。
【0088】
これら試験の要件に関し、試験される各空気入りタイヤは、適当なサイズのホイールに取り付けられ、2.2バールまでインフレートされている。この空気入りタイヤは、適当な自動機械(MTS社により市販されている「ソル‐プラン(sol-plan)」型の機械)上で80km/hの一定速度で走行させる。荷重“Z”は、1°のドリフト角で変化し、コーナリング剛性又はドリフトスラスト“D”(ゼロ)ドリフトでスラストについて補正されている)は、センサを用いてこの荷重Zの関数としてホイールに加わる横力を記録することにより公知の仕方で測定される。ドリフトスラストは、曲線Dの原点(Z)のところでの勾配である。
【0089】
驚くべきこととして、本発明のこれら空気入りタイヤは、特に上述の2枚の従来型実働プライが設けられていない状態で特に簡単且つ軽量化されたベルト構造にもかかわらず、2枚の実働プライ及び周方向補強細線の構造体10bを有する(しかしながら、多層ラミネートは設けられていない)を有する従来型ベルトについて観察されたドラフトスラストと同等のドリフトスラストを生じさせることが観察された。
【0090】
したがって、従来型金属ファブリックと比較して本発明の空気入りタイヤの多層ラミネートの多くの利点(特に、厚さが小さいこと、密度が低いこと、安価であること、腐食に対して不敏感性であること)が得られ、本発明により得られた結果は、かかるタイヤのトレッドとカーカス補強材との間に位置決めされる、空気入りタイヤのベルトを補強する要素として考えられる非常に多くの用途を示唆している。
【0091】
上述の多層ラミネートは、有利には、乗用車用の空気入りタイヤに使用できるだけでなく、産業車両、特に過酷な又は攻撃的な転動条件に直面するようになった産業車両、例えば重量物運搬車両、オフロード車、例えば農業又は土木作業車両、航空機及び他の運搬若しくは荷役車両用のあらゆる形式の空気入りタイヤにも利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気入りタイヤであって、該空気入りタイヤのベルトが多層ラミネートにより補強されている、空気入りタイヤにおいて、前記ラミネートは、ゴムコンパウンドの2つの層相互間にこれらゴムコンパウンド層と接触状態をなして配置された少なくとも1枚の多軸延伸熱可塑性ポリマーフィルムを有する、タイヤ。
【請求項2】
前記ゴムは、ジエンゴムである、請求項1記載のタイヤ。
【請求項3】
前記ジエンゴムは、ポリブタジエン、天然ゴム、合成ポリイソプレン、種々のブタジエンコポリマー、種々のイソプレンコポリマー及びこれらエラストマーの混合物から成る群から選択されている、請求項2記載のタイヤ。
【請求項4】
各ゴムコンパウンド層は、50〜100phrの天然ゴムを含む、請求項3記載のタイヤ。
【請求項5】
前記熱可塑性ポリマーフィルムは、考慮される引張り方向とは無関係に、500MPaを超えるEで示された引張り弾性率を有する、請求項1〜4のうちいずれか一に記載のタイヤ。
【請求項6】
引張りモジュラスEは、1000MPaを超える、請求項5記載のタイヤ。
【請求項7】
前記熱可塑性ポリマーフィルムは、考慮される引張り方向とは無関係に、80MPaを超えるσmaxにより示された最大引張り応力を有する、請求項1〜6のうちいずれか一に記載のタイヤ。
【請求項8】
引張り応力σmaxは、100MPaを超える、請求項7記載のタイヤ。
【請求項9】
前記熱可塑性ポリマーフィルムは、考慮される引張り方向とは無関係に、40%を超えるArで示された破断点伸び率を有する、請求項1〜8のうちいずれか一に記載のタイヤ。
【請求項10】
前記熱可塑性ポリマーフィルムは、熱安定化されている、請求項1〜9のうちいずれか一に記載のタイヤ。
【請求項11】
前記熱可塑性ポリマーフィルムは、150℃において30分後、5%未満の相対的長さ収縮率を呈する、請求項1〜10のうちいずれか一に記載のタイヤ。
【請求項12】
前記熱可塑性ポリマーは、ポリエステルである、請求項1〜11のうちいずれか一に記載のタイヤ。
【請求項13】
前記ポリエステルは、ポリエチレンテレフタレート又はポリエチレンナフタレートである、請求項12記載のタイヤ。
【請求項14】
前記熱可塑性ポリマーフィルムの厚さは、0.05〜1mmである、請求項1〜13のうちいずれか一に記載のタイヤ。
【請求項15】
各ゴムコンパウンド層の厚さは、0.05〜2mmである、請求項1〜14のうちいずれか一に記載のタイヤ。
【請求項16】
前記多層ラミネートの幅は、2.5mmを超え、前記多層ラミネートの長さは、10cmを超える、請求項1〜15のうちいずれか一に記載のタイヤ。
【請求項17】
前記熱可塑性ポリマーフィルムは、各ゴムコンパウンド層に向いた接着剤層を備えている、請求項1〜16のうちいずれか一に記載のタイヤ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2012−523341(P2012−523341A)
【公表日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−503988(P2012−503988)
【出願日】平成22年4月6日(2010.4.6)
【国際出願番号】PCT/EP2010/054486
【国際公開番号】WO2010/115861
【国際公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【出願人】(599093568)ソシエテ ド テクノロジー ミシュラン (552)
【出願人】(508032479)ミシュラン ルシェルシュ エ テクニーク ソシエテ アノニム (499)