説明

ベルト用コードの接着処理方法

【課題】コードへのRFL液の浸透性を高めることによって、コードの切断面にホツレ等が生じることを防ぐことができるようにする。
【解決手段】外周に吐出孔2を多数設けた浸透筒1の外周にコード3を巻き付ける。そして、レゾルシン・ホルマリン・ラテックスを含有するRFL液に上記の浸透筒1に巻き付けたコード3を浸漬した状態で、浸透筒1内から吐出孔2を通してRFL液を吐出させることによって、コード3にRFL液を浸透させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、伝動ベルトなどのベルトのコードとして使用されるベルト用コードの接着処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
Vベルト、歯付ベルトなどの高負荷伝動ベルトには、アラミド、PBO(ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール)、PVA(ポリビニルアルコール)、ポリケトン、ポリアリレート等の高モジュラス繊維からなるコードが、心線として用いられている。
【0003】
ここで、コードには、ゴムとの接着性を高めるために、レゾルシン・ホルマリン・ラテックスを含有するRFL液で接着処理が施されている。そしてこのコードを用いてベルトを製造するにあたっては、型の外周に未加硫ゴムシートを円筒状に巻き付け、この上にコードを螺旋状に巻き付けた後に、未加硫ゴムシートを加硫して円筒状の加硫ベルトスリーブを作製し、この加硫ベルトスリーブを輪切りするように切断することによって行なうのが一般的である。
【0004】
このように円筒状の加硫ベルトスリーブを輪切りするように切断する際に、コードはスパイラル状に巻かれているためにその長手方向に沿って切断されることになり、伝動ベルトの側面にコードのこの切断面が露出することになる。そして、コードへのRFL液の浸透が不十分であると、コードの切断面にホツレ等が生じるおそれがある(特許文献1参照)。
【0005】
そこで、例えば特許文献1や特許文献2には、RFL液で処理するのに先立って、ポリエポキシド化合物を含む処理液で処理しておくことによって、コード内でエポキシド化合物とRFLとを反応させ、コードの切断面にホツレ等が発生することを防ぐことが提案されている。
【特許文献1】特公平8−25130号公報(段落[0002])
【特許文献2】特許第3187256号公報
【特許文献3】特許第3482427号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記のようにRFL液の他にポリエポキシド化合物を含む処理液を用いてコードを処理する場合、コードを2段階で処理する必要があり、工数が増加すると共に、処理液の種類の増加に伴なって製造コストが高くなるという問題があった。
【0007】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、コードへのRFL液の浸透性を高めることによって、コードの切断面にホツレ等が生じることを防ぐことができるようにした、ベルト用コードの接着処理方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の請求項1に係るベルト用コードの接着処理方法は、外周に吐出孔2を多数設けた浸透筒1の外周にコード3を巻き付け、レゾルシン・ホルマリン・ラテックスを含有するRFL液に上記の浸透筒1に巻き付けたコード3を浸漬した状態で、浸透筒1内から吐出孔2を通してRFL液を吐出させることによって、コード3にRFL液を浸透させることを特徴とするものである。
【0009】
また請求項2の発明は、請求項1において、0.3MPa以上の圧力で吐出孔2からRFL液を吐出させることを特徴とするものである。
【0010】
また請求項3の発明は、請求項1又は2において、コード3を浸漬したRFL液を浸透筒1内に供給して、吐出孔2から吐出させることによって、RFL液を浸透筒1の内外で循環させることを特徴とするものである。
【0011】
また請求項4の発明は、請求項1乃至3のいずれかにおいて、コード3がアラミドコードであることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、コード3をRFL液に浸漬した状態で、浸透筒1の吐出孔2からRFL液を吐出させることによって、浸漬による浸透に加えて、浸透筒1に巻き付けたコード3にRFL液を吐出の際の圧力で加圧浸透させることができ、高い浸透性でコード3にRFL液を浸透させることができるものであり、他の処理液を併用するような必要なく、コード3の切断面にホツレ等が生じることを防ぐことができるものである。
【0013】
また、吐出孔2からのRFL液の吐出圧力を0.3MPa以上に設定することによって、高い圧力でコード3にRFL液を浸透性高く浸透させることができるものである。
【0014】
また、コード3を浸漬したRFL液を浸透筒1内に供給して、吐出孔2から吐出させることによって、RFL液を浸透筒1の内外で循環させることができ、RFL液による処理を効率良く行なうことができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0016】
浸透筒1は、ポリ塩化ビニルなどの樹脂パイプによって円筒形に形成されるものであり、浸透筒1の外周には内外に連通する吐出孔2が多数設けてある。吐出孔2は図2に示すように浸透筒1の周囲の全面に亘って均一に配置して設けてある。この浸透筒1の両端の開口にはそれぞれ流入口10が形成してあり、流入口10に給液配管11を脱着自在に接続することができるようにしてある。
【0017】
本発明はこの浸透筒1を用いて伝動ベルトなどベルトの心線として使用されるコード3を接着処理するものであるが、コード3としては、アラミド、PBO(ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール)、PVA(ポリビニルアルコール)、ポリケトン、ポリアリレートなど、任意の繊維からなる撚糸を使用することができる。これらの中でも、抗張力に優れたアラミド繊維からなるアラミドコードが好ましい。またコード3はトータル繊度が100000dtexの撚糸が好ましい。
【0018】
また本発明は、レゾルシン・ホルマリン・ラテックスを含有する処理液(RFL液)を用いてコードを接着処理するものであるが、このRFL液は、レゾルシンとホルマリンの初期縮合物とゴムラテックスとを混合したものであり、レゾルシンとホルマリンの初期縮合物を、ゴムラテックスのゴム100質量部に対して樹脂分が5〜50質量部になるようにゴムラテックスと混合するものである。ゴムラテックスとしては、スチレン−ブタジエン−ビニルピリジン三元共重合体(VP)、スチレンブタジエン共重合体(SBR)、クロロプレン(CR)、アクリロニトリルブタジエン共重合体(NBR)、水素添加NBR(H−NBR)、クロロスルホン化エチレン(CSM)、天然ゴムなどを用いることができ、これらは一種を単独で用いる他に、二種以上をブレンドして用いることもできる。
【0019】
浸透筒1を用いてコード3をRFL液で接着処理するにあたっては、まず浸透筒1の外周にコード3を図3のように巻き付ける。浸透筒1へのコード3の巻き付けは、浸透筒1をボビンのようにして、密に何重にも重ねてコード3を巻き上げることによって行なうことができるものであり、巻き付けの際の張力や、巻き付け回数などは、任意に設定することができる。
【0020】
次に、浸透筒1の両端の流入口10に給液配管11を接続する。給液配管11はポンプ12の吐出側に接続されているものであり、ポンプ12の吸入側には吸液配管13が接続してある。この吸液配管13の先端は、RFL液が満たされた処理槽14内に配置してある。
【0021】
そして図1に示すように、浸透筒1と浸透筒1に巻き付けたコード3の全体を処理槽14内のRFL液に浸漬し、この状態でポンプ12を作動させると、処理槽14内のRFL液が吸液配管13で吸引され、給液配管11を通して流入口10から浸透筒1内にRFL液が供給される。このように浸透筒1内に供給されたRFL液は、浸透筒1の外周全面に設けた各吐出孔2から外方へ吐出され、浸透筒1の外周に巻かれたコード3を通過して処理槽14内に返送される。このように処理槽14内に返送されたRFL液は、再度ポンプ12で吸引されて浸透筒1内に供給され、浸透筒1の吐出孔2から吐出されてコード3を通過して処理槽14内に再度返送される、というように処理槽14と浸透筒1の間を循環し、浸透筒1に巻き付けたコード3にRFL液を常時通過させることができるものである。
【0022】
ここで、浸透筒1の吐出孔2からRFL液が吐出されると、浸透筒1の外周に巻かれたコード3に吐出圧力でRFL液が加圧浸透されるものであり、コード3がRFL液に浸漬されていることによる浸透に加えて、この加圧浸透でコード3内に強制的にRFL液が浸透されることになる。従って、コード3の内部にまでRFL液を良好に浸透させることができ、高い浸透性でコード3にRFL液を浸透させることができるものである。
【0023】
浸透筒1の吐出孔2からRFL液を吐出させる吐出圧は、特に限定されるものではないが、0.3MPa以上であることが好ましい。吐出圧が0.3MPa未満であると、コード3へのRFL液の加圧浸透が不十分になるおそれがある。吐出圧の上限は特に限定されるものではないが、吐出圧を高くしても加圧による浸透性には限界があるので、1.0MPa程度を上限にするのが好ましい。また、このように浸透筒1の吐出孔2からRFL液を吐出させてコード3に浸透させる処理の時間は、特に限定されるものではないが、20〜40分間程度が好ましい。
【0024】
上記のようにしてコード3にRFL液を浸透させる処理を行なった後、加熱して乾燥することによって、RFL液によるコード3の接着処理を完了することができる。乾燥の条件は特に限定されるものではないが、200〜230℃程度の温度で、1〜5分間程度行なうのが好ましい。尚、上記のように浸透筒1の吐出孔2からRFL液を吐出させてコード3に浸透させる処理を行なった後に、RFL液にコードを1分間程度浸漬する通常の方法でのRFL処理を行なうようにしてもよく、また必要に応じて、上記のように加熱乾燥した後に、練りゴムをトルエンに溶解したゴム糊にディップするソーキング処理を行なうようにしてもよい。
【0025】
そしてこのRFL液で接着処理したコードを用いて伝動用ベルトを製造することができる。例えば、円筒形の成形ドラムの外周面にゴム付帆布、背面ゴムシート、接着ゴムシートの順に巻いて積層し、その外周にコードをスパイラル状に密に巻き付けた後に、さらにその外周に圧縮ゴムシート、ゴム付帆布を巻いて積層し、これを加硫缶に入れて加硫することによって、ベルトスリーブを作製する。この後、このベルトスリーブを成形ドラムから外して別のドラムの外周にはめ込み、このドラムを回転させながらV状にカットしてベルトスリーブを輪切りすることによって、ローエッジベルトなどの伝動ベルトを製造することができるものである。
【0026】
この伝動ベルトにおいて、その側面には、コードが長手方向に沿って切断された切断面が露出するが、コードには上記のようにRFL液が十分に浸透されていて、コードを形成する繊維はRFLで強固に接着されている。従って、ベルトの側面においてコードの切断面にホツレ等が生じることを防ぐことができるものである。
【実施例】
【0027】
次に、本発明を実施例によって具体的に説明する。
【0028】
(実施例1)
アラミド原糸(帝人テクノプロダクツ(株)製「Twaron」:繊度1670dtex)を用い、これを3本束ねて撚りを掛けて下撚りして下撚り撚糸を作製し、次にこの下撚り撚糸を4本束ねて逆方向に上撚りして、諸撚りした上撚り撚糸のアラミドコードを作製した。表1に、下撚り及び上撚りの撚り数、下撚り及び上撚りの撚り係数、下撚り撚糸のトータル繊度、上撚り撚糸のトータル繊度を示す。ここで、撚り係数は、
撚り係数=((撚り数(回/m)×√(トータル繊度(Tex)))/960
で定義されるものである。また表1の「コード構成」の項目において、実施例1の「1670dtex/3×4」との記載は、繊度が1670dtexの原糸を、3本束ねて下撚りし、さらにこの下撚り撚糸を4本束ねて上撚りしたことを示す。他の実施例や比較例においても同様である。
【0029】
またRFL液として、表2に示す配合のものを用いた。
【0030】
また、浸透筒1として、外径60mm、内径51mm、長さ280mmのポリ塩化ビニル管を加工し、直径8mmの吐出孔2を174個、外周に均一な分布で設けて、図2のように形成したものを用いた。
【0031】
そして、浸透筒1の外周に約4400mの長さのアラミドコード3を図3のように綾巻きにして巻き付け、浸透筒1の両端の流入口10に給液配管11を接続した後に、RFL液を満たした処理槽14内に図1のように浸漬し、ポンプ12を作動させてRFL液を循環させながら、0.5MPaの吐出圧で浸透筒1の吐出孔2からRFL液を30分間吐出させ、アラミドコード3にRFL液を加圧浸透する処理を30分間行なった。
【0032】
この後、アラミドコード3を処理槽14から取り出し、200℃で3分間、加熱乾燥した。
【0033】
(実施例2)
下撚りの束ね本数を2本、上撚りの束ね本数を3本に変更し、表1の撚り数、撚り係数で諸撚りすることによって、トータル繊度を表1に示すアラミドコードを作製した。
【0034】
後は、このアラミドコード3を実施例1と同様に浸透筒1に巻き付け、RFL液に浸漬して、ポンプ12を作動させてRFL液を循環させながら、実施例1と同様にしてアラミドコード3にRFL液を加圧浸透する処理を30分間行なった。この後、実施例1と同様にして加熱乾燥した。
【0035】
(比較例1)
実施例1と同様に作製したアラミドコードを用い、浸透筒による加圧浸透を行なわないで、アラミドコードをRFL液に1分間浸漬し、この後、実施例1と同様にして加熱乾燥した。
【0036】
(比較例2)
実施例1と同様に作製したアラミドコードを用い、実施例1と同様にして浸透筒1に巻き付けた。次に、RFL液の循環や、吐出孔2からのRFL液の吐出を行なわないで、浸透筒1に巻き付けたアラミドコードをRFL液を満たした処理槽14内に30分間浸漬した。この後、実施例1と同様にして加熱乾燥した。
【0037】
(比較例3)
実施例2と同様に作製したアラミドコードを用い、浸透筒による加圧浸透を行なわないで、アラミドコードをRFL液に1分間浸漬し、この後、実施例1と同様にして加熱乾燥した。
【0038】
上記の実施例1,2及び比較例1〜3の接着処理をしたアラミドコードについて、JIS L1017に従って、アラミドコードの強伸度(引張強度と切断時伸度)を測定した。結果を表1に示す。
【0039】
また実施例1,2及び比較例1〜3の接着処理をしたアラミドコードについて、アラミドコードを切断し、コード断面の色の赤さを5段階評価することによって、RFLの浸透度合を判定した。RFL液とほぼ同じ赤さのものを「A]、アラミドコードの地色の白のものを「E」とし、その間の色を「B〜D」で段階表示した。「A」が最も良好、「E」が最も不良であり、結果を表1に示す。
【0040】
また、上記の実施例1,2及び比較例1〜3のようにRFL液で接着処理したアラミドコード3を用いて、ローエッジベルトを作製した。
【0041】
まず、円筒形の成形ドラムの外周面にゴム付帆布、背面ゴムシート、接着ゴムシートの順に巻いて積層し、その外周にアラミドコードをスパイラル状に密に巻き付けた。次にその外周に圧縮ゴムシート、ゴム付帆布を巻いて積層した。ここで、背面ゴムシートと圧縮ゴムシートのゴム組成は、クロロプレンゴム100質量部、短繊維10質量部、酸化マグネシウム5質量部、カーボンブラック40質量部、アロマチックオイル10質量部、硫黄1質量部、ステアリン酸0.5質量部、酸化亜鉛5質量部の配合からなるものであり、接着ゴムシートのゴム組成は、この配合から短繊維を除いた配合からなるものである。
【0042】
次に、成形ドラムを加硫缶に入れて加硫することによって、ベルトスリーブを作製した。この後、このベルトスリーブを成形ドラムから外して別のドラムの外周にはめ込み、このドラムを回転させながらV状にカットしてベルトスリーブを輪切りすることによって、ローエッジベルトを得た。
【0043】
このように作製したローエッジベルトについて、側面に露出するベルトスリーブの切断面を目視で観察してホツレ性を評価した。ホツレ性はその度合いを5段階で評価し、最も良いものを「A」、最も悪いものを「E」、その間を「B〜D」で段階表示し、結果を表1に示す。
【0044】
【表1】

【0045】
【表2】

【0046】
表1にみられるように、実施例1,2のものは、いずれもアラミドコード内へのRFL液の浸透性が良好であることが確認される。またアラミドコードの切断面にホツレは発生していないものであり、特許文献2,3のようなRFL液の他にポリエポキシド化合物を含む処理液を用いてコードを処理するような必要がないことが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の実施の形態の一例を示す断面図である。
【図2】同上の浸透筒の斜視図である。
【図3】同上の浸透筒にコードを巻き付けた状態の斜視図である。
【符号の説明】
【0048】
1 浸透筒
2 吐出孔
3 コード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周に吐出孔を多数設けた浸透筒の外周にコードを巻き付け、レゾルシン・ホルマリン・ラテックスを含有するRFL液に上記の浸透筒に巻き付けたコードを浸漬した状態で、浸透筒内から吐出孔を通してRFL液を吐出させることによって、コードにRFL液を浸透させることを特徴とするベルト用コードの接着処理方法。
【請求項2】
0.3MPa以上の圧力で吐出孔からRFL液を吐出させることを特徴とする請求項1に記載のベルト用コードの接着処理方法。
【請求項3】
コードを浸漬したRFL液を浸透筒内に供給して、吐出孔から吐出させることによって、RFL液を浸透筒の内外で循環させることを特徴とする請求項1又は2に記載のベルト用コードの接着処理方法。
【請求項4】
コードがアラミドコードであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のベルト用コードの接着処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−74210(P2009−74210A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−245683(P2007−245683)
【出願日】平成19年9月21日(2007.9.21)
【出願人】(000006068)三ツ星ベルト株式会社 (730)
【Fターム(参考)】