説明

ベルト蛇行修正装置及びそのベルト蛇行修正装置を用いたベルトプレス型脱水機

【課題】 異音が発生せずにスムーズに蛇行を修正することができるベルト蛇行修正装置及びそのベルト蛇行修正装置を用いたベルトプレス型脱水機を提供すること。
【解決手段】 汚泥搬送路に沿って上濾布ベルト8および下濾布ベルト10を敷設している。上濾布ベルト8および下濾布ベルト10の蛇行を蛇行修正装置22により修正する。蛇行修正装置22を構成する蛇行修正ローラ25の摩擦係数がその前後のローラ21と30並びに23と33の摩擦係数より低い。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、ベルト蛇行修正装置及びそのベルト蛇行修正装置を用いたベルトプレス型脱水機に関する。
【0002】
【従来の技術】まず、本発明を適用するに好適なベルトプレス型脱水機について、図1を参照しながら説明する。図1において、1は凝集汚泥、2は汚泥の均一供給装置、3は、ローラ4と蛇行修正ローラ5、濾布緊張ローラ6を周回する濾布ベルトであり、この重力脱水部において、汚泥中の水分は濾布ベルト3の目の間を重力により落下して含有水分の比率の低下した汚泥7が得られる。この汚泥7は、上濾布ベルト8からローラ9を経て下濾布ベルト10上に落下し、上濾布ベルト8と下濾布ベルト10に挟まれた後、ローラ12、13、14、15、16、17、18、19を経て段階的に加圧され、徐々に脱水され、水分を除去された汚泥(水分含有率が約85%のもの)は、汚泥ケーキ20となって処分場へ移送されて焼却、埋め立てなどの処理がなされる。
【0003】ローラ19を経た濾布ベルトは上下に分離して、上濾布ベルト8はローラ21を経て蛇行修正装置22に達し、下濾布ベルト10はローラ23、濾布洗浄装置24を経て蛇行修正装置22に達する。ベルトプレス型脱水機では、濾布ベルトは固定されておらず、汚泥の厚みの不均衡や各ローラの据付精度により、左右に偏向し蛇行することは避けられず、一般的にベルトプレス型脱水機には、濾布ベルトの蛇行を制御し修正するための蛇行修正装置が備えられている。蛇行修正装置22は、図2に示す蛇行修正ローラ25と蛇行修正用エアシリンダ26と、図3に示す蛇行検知器(エア式)27とを備えている。この蛇行修正装置22の作用を図3に基づいて説明する。
【0004】図3(a)に示すように、蛇行検知器27の直下から濾布ベルト28の端部に至るまでの距離Sが一定範囲内にあるとき、例えば、1≦S≦13mmのときは、濾布ベルト28はローラのほぼ中央部を走行していると判断され、図3(b)に示す蛇行修正用エアシリンダ26は作動しない。S=0は蛇行検知器27の直下の位置を指し、直下の位置から左方の距離Sを正号で示す。
【0005】しかし、図3(a)に示す距離S>13mmのときは、濾布ベルト28はローラの左側に寄りすぎて走行していると判断されるので、濾布ベルト28をローラの中央部に戻すために、図3(c)に示す蛇行修正用エアシリンダ26のロッド29を、図3(d)に示すように伸張して、一端側(図3の右端側)が固定された蛇行修正ローラ25の他端側(図3の左端側)を前方(紙面上方)に移動させて一端側(図3の右端側)の周長より他端側(図3の左端側)の周長を長くさせて、濾布ベルト28の走行方向を図3の右方に変化させる。
【0006】逆に、上記距離S<1mmのときは、濾布ベルト28はローラの右側に寄りすぎて走行していると判断されるので、濾布ベルト28をローラの中央部に戻すために、蛇行修正用エアシリンダ26のロッド29を収縮して、蛇行修正ローラ25の他端側(図3の左端側)を後方(紙面下方)に移動させて、他端側(図3の左端側)の周長より一端側(図3の右端側)の周長を長くさせて、濾布ベルト28の走行方向を図3の左方に変化させる。
【0007】以上のようにして蛇行を修正された上濾布ベルト8は、濾布洗浄装置24、ローラ30、31、濾布緊張ローラ32を経て再び汚泥7を受ける位置に達し、下濾布ベルト10はローラ33、濾布緊張ローラ34を経てローラ9から落下する汚泥を受ける位置に達する。以後、同様の動作が繰り返される。
【0008】以上のようなシステムにより汚泥の脱水が行われるが、従来のベルトプレス型脱水機による操業上の問題として、濾布ベルトの蛇行修正装置から異音が発生するという不都合な点が見受けられた。というのは、上記したように、蛇行修正装置による濾布ベルトの蛇行修正のメカニズムは、蛇行修正ローラの一方の側を変位させて進行方向に対する濾布両端の周長差を変化させる方式である。このとき、濾布は蛇行修正ローラ上を横滑りするが、蛇行修正ローラと濾布ベルト間の摩擦により、スティックスリップ現象が生じ、異音がする場合がある。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】本発明は従来の技術の有するこのような問題点に鑑みてなされたものであって、その目的は、異音が発生せずにスムーズに蛇行を修正することができるベルト蛇行修正装置及びそのベルト蛇行修正装置を用いたベルトプレス型脱水機を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために本発明は、蛇行修正ローラの摩擦係数をその前後のローラの摩擦係数より低くすることにより、蛇行修正ローラでの異音の発生をおさえ、かつ、蛇行修正機能を良好に維持する。
【0011】
【発明の実施の形態】すなわち、本発明のベルト蛇行修正装置の要旨は、蛇行修正ローラとその前後のローラとの相対位置を変更することにより、ローラに沿って周回するベルトの蛇行を修正するベルト蛇行修正装置であって、蛇行修正ローラの摩擦係数がその前後のローラの摩擦係数より低いことを特徴としている。
【0012】以下に、本発明のベルト蛇行修正装置の特徴について、実験に基づいて詳しく説明する。
(1)異音の発生原因の究明図1に示すようなシステムのベルトプレス型脱水機において、蛇行修正装置の作動時に異音が発生したとき、その異音は蛇行修正用エアシリンダ26のノッキングが原因であると推定し、そのエアシリンダの調整を行ったが、異音はなくならなかった。そこで、現場を詳細に調査した結果、その異音は蛇行修正ローラと濾布ベルトのスティックスリップ現象によるものであることが判明し、その異音が脱水機内で共鳴して大きな騒音となったことが分かった。
(2)異音の消滅蛇行修正ローラと濾布ベルトの間の摩擦係数を低くすれば、蛇行修正ローラと濾布ベルトのスティックスリップ現象が起きず、異音も発生しなくなると思われたので、次のような実験を行った。
【0013】すなわち、濾布ベルト8または10(ポリエステル繊維)と蛇行修正ローラ25(アクリロニトリル−ブタジエンゴム、以下「NBR」という)との間にテーブルクロス(塩化ビニル樹脂)を巻き付けて、図1に示すベルトプレス型脱水機を運転したところ、蛇行修正装置22付近に異音が発生することはなかった。この場合の濾布ベルトとテーブルクロスとの静摩擦係数は0.26であった。
【0014】次に、濾布ベルト8または10と蛇行修正ローラ25との間にゴム板(厚さ5mmのNBR)を介装して、図1に示すベルトプレス型脱水機を運転したところ、蛇行修正装置22付近に異音が発生した。この場合の濾布ベルトとゴム板(JISK6301A形によるスプリング硬さHsが80)との静摩擦係数は1.2であった。
【0015】なお、上記静摩擦係数の測定は、後記するような方法で行った。
【0016】以上の実験結果から明らかなように、濾布ベルトと蛇行修正ローラとの間の摩擦を小さくし、濾布ベルトと蛇行修正ローラ間の摩擦係数を低くして表面を滑るような状態にすれば、異音の発生はなくなると考えられる。しかし、この場合、蛇行修正ローラの蛇行修正機能が低下することが懸念されたので、蛇行修正ローラの摩擦係数の大小による蛇行修正機能への影響について調査した。
(3)摩擦係数と蛇行修正機能上濾布ベルトの蛇行修正ローラ(炭素鋼製ローラにNBRをライニングしたもの)25にステンレス鋼シート(0.5mm)を巻き付けた場合と、蛇行修正ローラ25に何も巻かなかった場合とにおいて、図1に示すベルトプレス型脱水機に幅420mmの濾布ベルト(ポリエステル繊維)を装着して蛇行修正装置の蛇行修正挙動を調査したところ、以下に示すような結果を得た。
(a)摩擦係数の測定まず、蛇行修正実験を行う前に、摩擦係数の測定を以下のようにして行った。すなわち、図4に示すように、置台35上に被測定物36(ステンレス鋼シートまたはゴムシート)を置き、その上に濾布ベルト37を置き、さらにその上に重り38を置いて、バネばかり(図示せず)にて被測定物36を引っ張り、濾布ベルト37と被測定物36との摩擦力にうち勝って被測定物36が引っ張られるときの力をバネばかりで読み取り、重り38の重力とバネばかりで読み取った値より摩擦係数を求めた。被測定物36がゴムシートの場合、ゴムシートのJISK6301A形によるスプリング硬さHsを50〜90と変化させ、被測定物36(ステンレス鋼シートまたはゴムシート)と濾布ベルト37の間に水を散布した場合の摩擦係数測定結果を以下の表1に示す。
【0017】
【表1】


【0018】(b)蛇行修正実験蛇行修正装置が一方向にのみ蛇行を修正するように(この実験では、図5の平面視で濾布ベルトを進行方向39に対して右方へ蛇行させるように)蛇行検出器を操作し、一定時間後に濾布ベルト28がどの程度蛇行したかを調査した。
【0019】この場合の共通条件は次のとおりである。
【0020】濾布緊張ローラにより濾布ベルトに付加された力=300N、 蛇行修正用エアシリンダ26の押し出し力=50N、濾布ベルトがローラに沿って周回する速度=0.04m/sec(実験結果)図5に示すように、蛇行修正ローラ25にステンレス鋼シートを巻いた場合、上濾布ベルトの蛇行修正ローラ25を25aに示すように変位させると、矢示40で示すように濾布ベルト28は蛇行し、初めにローラ30の端から11.8mmの距離にあった濾布ベルト28の端は、蛇行修正ローラが25aの位置のままで2分経過後に、平面視で進行方向39に対して24mm右方へ蛇行した(X=24)。
【0021】また、蛇行修正ローラ25にステンレス鋼シートを巻かなかった場合、上濾布ベルトの蛇行修正ローラ25を25aに示すように変位させると、矢示40で示すように濾布ベルト28は蛇行し、初めにローラ30の端から13.1mmの距離にあった濾布ベルト28の端は、蛇行修正リミット(蛇行修正量の上限値を規制する器具)が作動するまで、平面視で進行方向39に対して26.7mm右方へ蛇行した(X=26.7)。
【0022】以上の実験結果から明らかなように、蛇行修正ローラの摩擦係数が低い場合でも(ステンレス鋼シートを巻いた場合でも)、十分に蛇行修正動作が行われることが分かる。
(4)異音の消滅と蛇行修正以上の実験で明らかなように、蛇行修正ローラの摩擦係数を下げると異音を消滅しうることが分かり、また、蛇行修正ローラの摩擦係数が低くても蛇行修正機能は低下しないことが明らかになったので、次に、蛇行修正ローラと前後のローラの摩擦係数により異音の発生と蛇行修正動作がどのように変化するかについて調査したので、その結果について説明する。
(a)図1の上濾布ベルトの蛇行修正ローラ25にステンレス鋼シート(0.5mm厚)を巻き、前後のローラ21(JISK6301A形によるスプリング硬さHsが80、NBR製)と30(JISK6301A形によるスプリング硬さHsが80、NBR製)には何も巻き付けず、下濾布ベルトの蛇行修正ローラ25にステンレス鋼シート(0.5mm厚)を巻き、前後のローラ23(JISK6301A形によるスプリング硬さHsが80、NBR製)と33(JISK6301A形によるスプリング硬さHsが80、NBR製)には何も巻き付けずにベルトプレス型脱水機を運転した場合(蛇行修正ローラと濾布ベルトの間に水が存在する場合)、異音の発生もなく、蛇行修正も問題なく行われた。
(b)図1の上濾布ベルトの蛇行修正ローラ25と前後のローラ21と30並びに下濾布ベルトの蛇行修正ローラ25と前後のローラ23と33には何も巻き付けずにベルトプレス型脱水機を運転した場合、蛇行修正は問題なく行われたが、異音が発生した。
(c)図1の上濾布ベルトの蛇行修正ローラ25にステンレス鋼シート(0.5mm厚)を巻き、前後のローラ21と30にも同じステンレス鋼シートを巻き付け、下濾布ベルトの蛇行修正ローラ25と前後のローラ23と33にも同じステンレス鋼シートを巻き付けてベルトプレス型脱水機を運転した場合、異音の発生はなかったが、蛇行修正機能はほとんど機能しなかった。
(d)図1の上濾布ベルトの蛇行修正ローラ25には何も巻き付けなかったが、前後のローラ21と30には上記ステンレス鋼シートを巻き付け、下濾布ベルトの蛇行修正ローラ25には何も巻き付けなかったが、前後のローラ23と33には上記ステンレス鋼シートを巻き付けてベルトプレス型脱水機を運転した場合、異音が発生し、蛇行修正機能は(a)(b)の場合に比べて低下した。
【0023】濾布ベルトとステンレス鋼シートとの摩擦係数は、図4に示す方法で測定すると、水有りの場合、0.20であった。
【0024】以上の詳細な実験結果から明らかなように、蛇行修正ローラの摩擦係数がその前後のローラの摩擦係数より低い場合には、蛇行修正装置で異音の発生がなく、蛇行修正機能も十分に発揮されることが分かったが、蛇行修正ローラの摩擦係数が、0.2〜0.8であり、前後のローラの摩擦係数が、1.2〜1.3であることが好ましい。
【0025】そのためには、蛇行修正ローラを樹脂被覆ローラまたはステンレス鋼製ローラもしくはJISK6301A形によるスプリング硬さHsが90以上であるゴムを被覆したローラとすることができ、前後のローラはJISK6301A形によるスプリング硬さHsが50〜80であるゴムを被覆したローラとすることができる。被覆する樹脂としては、例えば、超高分子量ポリエチレンを用いることができる。
【0026】
【発明の効果】本発明は上記のとおり構成されているので、次の効果を奏する。
(1)請求項1、2、3記載の発明によれば、異音が発生せずにスムーズに蛇行を修正することができるベルト蛇行修正装置を提供することができる。
(2)請求項4、5、6記載の発明によれば、異音が発生せずにスムーズに濾布ベルトの蛇行を修正することができるベルトプレス型脱水機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】ベルトプレス型脱水機の概略構成図である。
【図2】蛇行修正装置を構成する蛇行修正ローラおよび蛇行修正用エアシリンダを示す斜視図である。
【図3】蛇行修正装置による蛇行修正方法を説明する図である。
【図4】摩擦係数の測定方法を示す図である。
【図5】蛇行修正装置による蛇行修正方法を説明する別の図である。
【符号の説明】
1…凝集汚泥
2…汚泥の均一供給装置
3…濾布ベルト
4、9、14、15、16、17、18、19、21、23、30、31、33…ローラ
5…蛇行修正ローラ
6、32、34…濾布緊張ローラ
7…汚泥
8…上濾布ベルト
10…下濾布ベルト
11…狭い部分
12、13…大径ローラ
20…汚泥ケーキ
22…蛇行修正装置
24…濾布洗浄装置
25…蛇行修正ローラ
26…蛇行修正用エアシリンダ
27…蛇行検知器
28…濾布ベルト
29…ロッド
35…置台
36…摩擦係数被測定物
37…濾布ベルト
38…重り

【特許請求の範囲】
【請求項1】 蛇行修正ローラとその前後のローラとの相対位置を変更することにより、ローラに沿って周回するベルトの蛇行を修正するベルト蛇行修正装置であって、蛇行修正ローラの摩擦係数がその前後のローラの摩擦係数より低いことを特徴とするベルト蛇行修正装置。
【請求項2】 蛇行修正ローラの摩擦係数が、0.2〜0.8であり、前後のローラの摩擦係数が、1.2〜1.3である請求項1記載のベルト蛇行修正装置。
【請求項3】 蛇行修正ローラが樹脂被覆ローラまたはステンレス鋼製ローラもしくはJISK6301A形によるスプリング硬さHsが90以上であるゴムを被覆したローラであり、前後のローラがJISK6301A形によるスプリング硬さHsが50〜80であるゴムを被覆したローラである請求項1または2記載のベルト蛇行修正装置。
【請求項4】 汚泥搬送路に沿って敷設した濾布ベルト、濾布ベルトを支持するローラ、および濾布ベルトの蛇行を修正するベルト蛇行修正装置を備えたベルトプレス型脱水機であって、ベルト蛇行修正装置を構成する蛇行修正ローラの摩擦係数がその前後のローラの摩擦係数より低いことを特徴とするベルトプレス型脱水機。
【請求項5】 蛇行修正ローラの摩擦係数が、0.2〜0.8であり、前後のローラの摩擦係数が、1.2〜1.3である請求項4記載のベルトプレス型脱水機。
【請求項6】 蛇行修正ローラが樹脂被覆ローラまたはステンレス鋼製ローラもしくはJISK6301A形によるスプリング硬さHsが90以上であるゴムを被覆したローラであり、前後のローラがJISK6301A形によるスプリング硬さHsが50〜80であるゴムを被覆したローラである請求項4または5記載のベルトプレス型脱水機。

【図1】
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【図3】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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