説明

ベルト鳴きの評価方法及び装置、並びにプログラム

【課題】エンジンの定常運転時のみならず始動時、停止時におけるベルト鳴きの評価の精度を向上する。
【解決手段】dμ/dvを算出する第1のステップと、dT/dvを算出する第2のステップと、これらのdμ/dv及びdT/dvに基づいてベルト鳴きを評価する第3のステップと、を含む。ただし、μは前記摩擦伝動ベルトと前記プーリとの間の摩擦係数を示し、Tは前記摩擦伝動ベルトの張力[N]を示し、vは前記摩擦伝動ベルトと前記プーリとの間の滑り速度[m/s]を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベルト鳴きの評価方法及び装置、並びにプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
動力伝達用の平ベルト、Vベルト、Vリブドベルト等の摩擦伝動ベルトにおいては、過大負荷などの特定の条件において、プーリーとの間に滑りが生じ、この滑りが原因で発生するキュルキュルといった所謂ベルト鳴きが発生する。特に、自動車エンジン補機駆動用Vリブドベルトのベルト鳴きはユーザークレームの多くを占め、大きな問題となっている。
【0003】
ベルト鳴きの発生メカニズム等については、極めて多数の報告が為されている。例えば、下記非特許文献1〜4のような報告である。これらによれば、ベルト鳴きの発生メカニズムは、以下の通りとされている。即ち、ベルトとプーリの間の摩擦係数μは一定ではなく滑り速度vに依存し、μとvの関係(μ−v特性)が負の勾配を持つ(即ち、dμ/dv<0となる)ことにより所謂スティックスリップが発生し、これがベルト鳴きの原因であるとされる。
【0004】
なお、特許文献5には、ベルトの張力測定方法が記載されている。
【0005】
【非特許文献1】J. E. Connell, R. A. Rorrer: Friction induced vibration in V-ribbed belt applications, DE-Vol. 49, Friction, chatter, squeal, and chaos ASME 1992(1992)
【非特許文献2】K. W. Dalgarno, R. B. Moore, A. J. Day: Tangential slip noise of V-ribbed belts, Proc. Instn. Mech. Engrs, Vol. 213, Part C, (1999)
【非特許文献3】R. Meckstrith, W. Deneszczuk, J. Skrobowski: Accessory drive belt pulley entry friction study and belt chirp noise, Society of Automotive Engineers, inc., 1999-01-1709, (1999)
【非特許文献4】大倉清、龍巳良彦;エンジン補機駆動ベルトの鳴き現象解析、自動車技術会、学術講演会前刷集、No.135−05、(2005)
【特許文献5】特開2007−10595号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、エンジンの始動、停止時等ではμ−v特性が負の勾配を持たないにも拘わらずベルト鳴きが発生するケースがあり、従来説のみでは十分には説明できていない。また、従来説はベルト鳴きの発生の可能性の有無をdμ/dvの正負やそれらの相対的な大きさで表現するのみであり、ベルト鳴きの発生時のその大きさ等に関する定量的な評価は全く為されていない。
【0007】
本発明は斯かる諸点に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、エンジンの定常運転時のみならず始動時、停止時におけるベルト鳴きの評価の精度を向上することにある。本発明の他の目的は、ベルト鳴きが発生した場合のその大きさを定量的に把握することにある。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0008】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、本願発明の発明者は、鋭意研究の末、下記式(1)で与えられる鳴き音指標SNI(Squeal Noise Index)を用い、この値の正負でベルト鳴きの発生の有無を、また、負の絶対値の大きさでベルト鳴きの大きさを表現できることを見出した。
【0009】
【数1】

【0010】
ただし、Vはベルト鳴き発生直前の滑り速度[m/s]またはベルト鳴き発生時の平均滑り速度[m/s]を、Fはベルトとプーリの間に発生する摩擦力[N]を、vはベルトとプーリの間の滑り速度[m/s]を、示す。
【0011】
以下、本願発明の発明者がどのようにして上記式(1)を導出したかを理論的に説明する。
【0012】
先ず、図1を参照されたい。図1は、ベルトとプーリの間の滑りを1自由度の振動系でモデル化したものを示す図である。本図に示されるように、ベルトとプーリ間の滑りを1自由度の振動系でモデル化する。ここで、ベルトを質点m、バネk、ダンパーcで表し、これに接するプーリを速度Vで走行する基盤で表している。この時の質点mに関する運動方程式は下記式(2)で与えられる。
【0013】
【数2】

【0014】
ただし、mは質点の質量(kg)、cは減衰係数(Ns/m)、kはバネ定数(N/m)、Fは図2に示されるような滑り速度vの関数となる摩擦力(N)である。
【0015】
上記の摩擦力F(v)をv=vの周りで級数展開すると、下記式(3)となる。ただし、下記式(3)は二次近似である。
【0016】
【数3】

【0017】
ここで、vとしてVをとると下記式(4)が成立するから、上記式(3)は下記式(5)となる。
【0018】
【数4】

【0019】
【数5】

【0020】
上記式(5)の線形項のみを考慮し、これを上記式(2)に代入すると下記式(6)が得られる。
【0021】
【数6】

【0022】
上記式(6)の左辺の括弧内が負の値をとるとき、質点の運動は不安定となり、スティックスリップ、即ち、ベルト鳴きが発生することになる。換言すれば、ベルト鳴きが発生するための必要条件は下記式(7)で示されるように、摩擦力の速度勾配が負となることである。
【0023】
【数7】

【0024】
次に、ベルト鳴きが発生した場合のその大きさ(エネルギー)についてみると、ベルト鳴きのエネルギーはベルトが滑るときにプーリがベルトに対して為す摩擦仕事率に比例する。ここで、摩擦仕事率は、下記式(8)で与えられる。
【0025】
【数8】

【0026】
質点の速度dx/dtの変動が正弦波的であると仮定し、1周期分の平均仕事率を考えると、上記式(8)の右辺の係数は一定と見做せるため、右辺第1項は消えて下記式(9)となる。
【0027】
【数9】

【0028】
ベルト鳴き発生、即ちスティックスリップ発生時についてみると、スティック時には下記式(10)が成立し、速度dx/dtの変動は振幅Vの正弦波と見做せることから上記式(9)は下記式(11)となる。
【0029】
【数10】

【0030】
【数11】

【0031】
ベルト鳴きの発生時のdF/dvは前述のように負値であるから式(8)及び式(9)で与えられる仕事率は正となり、ベルトに供給されるエネルギーとなる。以上の考察より、上記式(1)で与えられるSNIは、ベルト鳴きの大きさに比例する量といえる。
【0032】
なお、摩擦力Fは押し付け力Nと摩擦係数μの積(F=μN)で与えられることから、上記式(1)は、下記式(12)となる。
【0033】
【数12】

【0034】
更に、プーリ上のベルトについては単位長さあたりの押し付け力N´と張力Tの間にはプーリ半径Rを介してN´=T/Rの関係がある。このことから、N´を張り側押し付け力[N/m]、N´を緩み側押し付け力[N/m]とすると、ベルト巻き付き部の平均押し付け力Nは、下記式(13)となる。
【0035】
【数13】

【0036】
ただし、Lは巻き付き長さ[m]を示し、Rはプーリ半径[m]を示し、θは巻き付け角[rad]を示し、Tは張り側張力[N]を示し、Tは緩み側張力[N]を示す。また、上記式(13)において、緩み側張力は張り側張力に比して十分に小さいと仮定し、張り側張力をTと置き換えている。上記式(13)の関係を用いることで、上記式(12)のSNIは最終的に下記式(14)で表される。
【0037】
【数14】

【0038】
そして、上記式(1)で与えられるSNIと同様、上記式(14)で与えられるSNIも、ベルト鳴きの大きさに比例する量といえる。
【0039】
以上の考察を踏まえることで、本願発明の発明者は、エンジンの始動時や停止時においては、張力Tと滑り速度vの関係、即ち、T−v特性もベルト鳴きに大きく関与し、この始動時や停止時におけるベルト鳴きは、T−v特性が負の勾配を持つ(dT/dv<0となる)時に発生するスティックスリップが原因ではないかと考えた。
【0040】
そこで、本発明の第一の観点において、摩擦伝動ベルトがプーリに対して滑ることで発生するベルト鳴きの評価方法は、以下のような方法で行われる。即ち、dμ/dvを算出する第1のステップと、dT/dvを算出する第2のステップと、これらのdμ/dv及びdT/dvに基づいてベルト鳴きを評価する第3のステップと、を含む。ただし、μは前記摩擦伝動ベルトと前記プーリとの間の摩擦係数を示し、Tは前記摩擦伝動ベルトの張力[N]を示し、vは前記摩擦伝動ベルトと前記プーリとの間の滑り速度[m/s]を示す。以上の方法によれば、エンジンの定常運転時のみならず始動時、停止時におけるベルト鳴きの評価の精度が一層良好となる。
【0041】
更に、以下のような方法で行われる。即ち、上記第3のステップは、下記式(15)に基づいて変数Gを求める。以上の方法によれば、ベルト鳴きは変数Gが負となるときに発生することから、この変数Gに基づいてベルト鳴きの発生の有無を把握できる。
【0042】
【数15】

【0043】
更に、以下のような方法で行われる。即ち、上記第3のステップは、下記式(16)に基づいて変数SNIを求める。ただし、θは前記プーリに対する前記摩擦伝動ベルトの巻き付き角[rad]を示し、Vはベルト鳴き発生直前の滑り速度[m/s]またはベルト鳴き発生時の平均滑り速度[m/s]を示す。以上の方法によれば、変数SNIの正負によってベルト鳴きの発生の有無が把握されると共に、変数SNIの絶対値によってベルト鳴きが発生した場合のその大きさが定量的に把握される。
【0044】
【数16】

【0045】
本発明の第二の観点によれば、摩擦伝動ベルトがプーリに対して滑ることで発生するベルト鳴きの評価プログラムは、コンピュータに、dμ/dvを取得又は算出する第1のステップと、dT/dvを取得又は算出する第2のステップと、これらのdμ/dv及びdT/dvに基づいてベルト鳴きを評価する第3のステップと、を実行させる。以上のプログラム構成によれば、エンジンの定常運転時のみならず始動時、停止時におけるベルト鳴きの評価の精度が一層良好となる。
【0046】
上記の評価プログラムは、更に、コンピュータに以下を実行させる。即ち、上記第3のステップは、下記式(15)に基づいて変数Gを求める。以上のプログラム構成によれば、ベルト鳴きは変数Gが負となるときに発生することから、この変数Gに基づいてベルト鳴きの発生の有無を把握できる。
【0047】
【数15】

【0048】
上記の評価プログラムは、更に、コンピュータに以下を実行させる。即ち、上記第3のステップは、下記式(16)に基づいて変数SNIを求める。以上のプログラム構成によれば、変数SNIの正負によってベルト鳴きの発生の有無が把握されると共に、変数SNIの絶対値によってベルト鳴きが発生した場合のその大きさが把握される。
【0049】
【数16】

【0050】
本発明の第三の観点によれば、摩擦伝動ベルトがプーリに対して滑ることで発生するベルト鳴きの評価装置は、以下のように構成される。dμ/dvを取得又は算出する第1の手段と、dT/dvを取得又は算出する第2の手段と、これらのdμ/dv及びdT/dvに基づいてベルト鳴きを評価する第3の手段と、を含む。以上の構成によれば、エンジンの定常運転時のみならず始動時、停止時におけるベルト鳴きの評価の精度が一層良好となる。
【0051】
上記の評価装置は、更に、以下のように構成される。即ち、上記第3の手段は、下記式(15)に基づいて変数Gを求める。以上の構成によれば、ベルト鳴きは変数Gが負となるときに発生することから、この変数Gに基づいてベルト鳴きの発生の有無を把握できる。
【0052】
【数15】

【0053】
上記の評価装置は、更に、以下のように構成される。即ち、上記第3のステップは、下記式(16)に基づいて変数SNIを求める。以上の構成によれば、変数SNIの正負によってベルト鳴きの発生の有無が把握されると共に、変数SNIの絶対値によってベルト鳴きが発生した場合のその大きさが把握される。
【0054】
【数16】

【発明を実施するための最良の形態】
【0055】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しつつ説明する。図3を参照されたい。図3は、摩擦伝動ベルトがプーリに対して滑ることで発生するベルト鳴きの評価方法の処理の手順を示すフローチャートである。
【0056】
本図に示される処理は、主としてコンピュータ(ベルト鳴きの評価装置、第1〜第3の手段)において実行される。即ち、コンピュータは、CPUとROM、RAM、記憶媒体読取装置、出力装置などを備える。図3に示される処理に係るプログラム(評価プログラム)は、予めROMに記憶されるか、又は、予めFDやCDROM、DVDROMなどのリムーバブル型記憶媒体に記憶された上で上記の記憶媒体読取装置を介してコンピュータの記憶装置(RAMなど)に適宜に読み込まれる。そして、CPUは、ROMあるいはRAMに記憶されているプログラムを適宜に読み込んで図3に示される処理を実行するようになっている。出力装置は、例えばディスプレイやプリンタである。
【0057】
先ず、プログラムが開始すると(S300)、CPUは、予めRAMなどに記憶されている各種のデータを取得する(S310)。各種のデータは、μやT、vの時間変動(以下、「時間変動」の明示は適宜、割愛する。)、及び、ベルト及びプーリの種別によって一義的に定まる図7に示されるようなμ−v特性を含む。
【0058】
次に、上記S310で取得したv及びμ−v特性に基づいて、dμ/dvを算出する(S320、第1のステップ)。更に、Tとvに基づいて、dT/dvを算出する(S330、第2のステップ)。なお、dT/dvを算出するには、dT/dv=(dT/dt)/(dv/dt)の関係式を用いる。また、S320の処理と、S330の処理と、は前後を違えてもよいし、同時に行われてもよい。更には、dμ/dvやdT/dvを別途算出しておいて、算出されたdμ/dvやdT/dvが既にRAMなどに記憶されている場合は、S320やS330では、これらの値をRAMなどから読み込んで取得すれば足りる。
【0059】
そして、下記式(15)に基づいて変数Gを算出する(S340)と共に、下記式(16)に基づいて変数SNIを算出する(S350)。ただし、下記式(15)を下記式(16)に代入すれば判る通り、直接的にSNIを算出するようにしてもよい。
【0060】
【数15】

【0061】
【数16】

【0062】
最後に、上記で求めた変数G又は変数SNIの何れか一方又は両方をグラフ形式で出力装置を用いて出力(S360)し、プログラムは終了する(S370)。
【0063】
出力結果の一例として、図5を参照されたい。このグラフにおいて、SNIが負となっているときは、上記式(7)により、ベルト鳴きが発生するものと判断ないし評価できる。また、SNIが負となっている場合において、その絶対値は、上記式(11)により、ベルト鳴きの大きさを定量的に表すものだから、この絶対値に基づいて、ベルト鳴きの大きさを定量的に把握できる。
【0064】
以上に、本発明の好適な実施の形態を説明した。
【0065】
次に、上記のベルト鳴きの評価方法による評価の精度について、具体的に検証した結果を報告する。
【0066】
<第1検証>
本第1検証は、エンジンの定常運転時における上記の評価の精度を検証するものである。図4は、第1検証に供される補機レイアウトを示す図である。図5は、図4に示す補機レイアウトを有する4気筒ガソリンエンジンのアイドリング(700rpm)時のベルト鳴きの測定結果と、SNIの計算結果、及び、滑り速度の比較を示す図である。図4において、CRはクランク、ALTはオルタネータ、WPはウォーターポンプ、ACは空調用コンプレッサ、IDはアイドラーを示し、CRプーリ上のプーリ周速度、ベルト速度は夫々、レーザドップラー速度計を用いて計測した。張り側(CRから見てID1側)の張力はID1プーリの軸に貼り付けられた歪みゲージにより計測し、同様に、緩み側(CRから見てID2側)の張力はID2プーリの軸に貼り付けられた歪みゲージにより計測した。図6はSNIの計算に使用したT−v特性の測定結果を示す。μ−v特性としては、張り側張力と緩み側張力の計測値から下記式(17)に基づいて算出した図7に示される結果を用いている。
【0067】
【数17】

【0068】
図5によれば、SNIが大きな負値を示すタイミングでベルト鳴きが発生していることがわかる。換言すれば、エンジンの定常運転時において、SNIは、ベルト鳴きの発生の有無を再現できているといえる。
【0069】
<第2検証>
本第2検証は、エンジンの非定常運転時である始動時における上記の評価の精度を検証するものである。図8は、第2検証に供される補機レイアウトを示す図である。図9は、図8に示す補機レイアウトを有する4気筒ガソリンエンジンの始動時のベルト鳴きの測定結果と、SNIの計算結果、及び、滑り速度の比較を示す図である。図8において、CR、ALT、WP、AC、IDは前述した通りである。CRプーリ上のプーリ周速度、ベルト速度は夫々、レーザドップラー速度計を用いて計測した。張り側(CRから見てID側)の張力はIDプーリの軸に貼り付けられた歪みゲージにより計測した。また、本第2検証では、ベルトの初期設定張力Tを変化させており、図9はT=368(N)の結果であり、図10はT=485(N)の結果であり、図11はT=562(N)の結果である。図12はSNIの計算に使用したT−v特性の測定結果を示す図である。μ−v特性は、別途特殊な計測装置を用いて計測した図13に示される測定結果を用いている。図9〜図11によれば、計算で求めたSNIの負値の大小と、計測されたベルト鳴きの発生状況は非常に良く対応していることが判る。
【0070】
上記第1検証及び第2検証の検証結果により、上記実施形態に係るベルト鳴きの評価方法は、エンジンの定常運転時のみならず始動時、停止時においても、ベルト鳴きの評価を良好に行えることがわかる。
【0071】
以上に説明した上記のベルト鳴きの評価方法は、例えば、以下のような場面で有効に活用されたい。
【0072】
<活用例1>
現在、新規エンジンの開発時点において、補機駆動用ベルトの設計検討を行っている。ここでは、与えられた補機レイアウト、補機仕様などを用いてシミュレーションを実施し、下記(a)〜(c)のような計算結果に基づいて補機システムの成立性の検討、最適ベルトの選定等を行っている。
(a)ベルト各スパンの張力変動
(b)各補機プーリ上のスリップ率(滑り速度)
(c)ベルト各スパンの弦振動
【0073】
しかし、補機システムの成立性で最も重要な発音(ベルト鳴きの発生)については検討できなかったため、シミュレーションの結果であるスリップ率などを参考に経験的に判断しているのみであり、最終的にはエンジン試運転時の結果を見ながら即物的に対応していた。
【0074】
上記の現状に対し、本発明に基づく鳴き音指標SNIを図14に示される計算ブロック図と、図3のフローチャートと、に基づいて計算することで、設計段階でベルト鳴きの発生の有無とその影響度(ベルト鳴きの定量的な大きさ)を把握可能となり、もって、開発工数、コストを大幅に短縮可能となる。
【0075】
なお、図14において、「補機レイアウト」とはCRに対するWPやALTなどの補機の軸配置やプーリ径を意味する。同様に、「補機負荷条件」とは例えば種々のエンジン回転数におけるWPやALTなどの補機の軸トルク、あるいは軸仕事などを意味する。また、「ベルト仕様」とは例えばベルト断面形状やベルトの剛性、密度、あるいは摩擦係数などを意味する。そして、「エンジン仕様」とは回転数や気筒数、或いは各回転数における回転変動率などを意味する。「スリップ率」は、滑り速度vをプーリ周速度、あるいはベルト走行速度で除した値である。
【0076】
<活用例2>
新規開発エンジンの試運転時にベルト鳴きが発生する問題が生じた場合、現状では計測結果などに基づき、担当者の経験や勘に依存しながら、試行錯誤で対応してきた。これに対し、各種の計測データに基づいて鳴き音指標SNIを計算すれば、張力変動あるいは摩擦の何れかが主原因であるかが明確となるため、問題解決のための工数とコストが大幅に短縮可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】ベルトとプーリの間の滑りを1自由度の振動系でモデル化したものを示す図
【図2】摩擦力と滑り速度との関係を例示する図
【図3】摩擦伝動ベルトがプーリに対して滑ることで発生するベルト鳴きの評価方法の処理の手順を示すフローチャート
【図4】第1検証に供される補機レイアウトを示す図
【図5】図4に示す補機レイアウトを有する4気筒ガソリンエンジンのアイドリング(700rpm)時のベルト鳴きの測定結果と、SNIの計算結果、及び、滑り速度の比較を示す図
【図6】T−v特性の測定結果を示す図
【図7】μ−v特性の一例を示す図
【図8】第2検証に供される補機レイアウトを示す図
【図9】図8に示す補機レイアウトを有する4気筒ガソリンエンジンの始動時のベルト鳴きの測定結果と、SNIの計算結果、及び、滑り速度の比較を示す図
【図10】図9に類似する図
【図11】図9に類似する図
【図12】T−v特性の測定結果を示す図
【図13】μ−v特性の一例を示す図
【図14】計算ブロック図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
摩擦伝動ベルトがプーリに対して滑ることで発生するベルト鳴きの評価方法において、
dμ/dvを算出する第1のステップと、
dT/dvを算出する第2のステップと、
これらのdμ/dv及びdT/dvに基づいてベルト鳴きを評価する第3のステップと、
を含む、ことを特徴とするベルト鳴きの評価方法。
ただし、μは前記摩擦伝動ベルトと前記プーリとの間の摩擦係数を示し、Tは前記摩擦伝動ベルトの張力[N]を示し、vは前記摩擦伝動ベルトと前記プーリとの間の滑り速度[m/s]を示す。
【請求項2】
請求項1に記載のベルト鳴きの評価方法において、
上記第3のステップは、下記式(15)に基づいて変数Gを求める、
ことを特徴とするベルト鳴きの評価方法
【数15】

【請求項3】
請求項2に記載のベルト鳴きの評価方法において、
上記第3のステップは、下記式(16)に基づいて変数SNIを求める、
ことを特徴とするベルト鳴きの評価方法
【数16】

ただし、θは前記プーリに対する前記摩擦伝動ベルトの巻き付き角[rad]を示し、Vはベルト鳴き発生直前の滑り速度[m/s]またはベルト鳴き発生時の平均滑り速度[m/s]を示す。
【請求項4】
摩擦伝動ベルトがプーリに対して滑ることで発生するベルト鳴きの評価プログラムにおいて、
コンピュータに、
dμ/dvを取得又は算出する第1のステップと、
dT/dvを取得又は算出する第2のステップと、
これらのdμ/dv及びdT/dvに基づいてベルト鳴きを評価する第3のステップと、
を実行させる、ことを特徴とするベルト鳴きの評価プログラム。
【請求項5】
請求項4に記載のベルト鳴きの評価プログラムにおいて、
上記第3のステップは、下記式(15)に基づいて変数Gを求める、
ことを特徴とするベルト鳴きの評価プログラム
【数15】

【請求項6】
請求項5に記載のベルト鳴きの評価プログラムにおいて、
上記第3のステップは、下記式(16)に基づいて変数SNIを求める、
ことを特徴とするベルト鳴きの評価プログラム
【数16】

【請求項7】
摩擦伝動ベルトがプーリに対して滑ることで発生するベルト鳴きの評価装置において、
dμ/dvを取得又は算出する第1の手段と、
dT/dvを取得又は算出する第2の手段と、
これらのdμ/dv及びdT/dvに基づいてベルト鳴きを評価する第3の手段と、
を含む、ことを特徴とするベルト鳴きの評価装置。
【請求項8】
請求項7に記載のベルト鳴きの評価装置において、
上記第3の手段は、下記式(15)に基づいて変数Gを求める、
ことを特徴とするベルト鳴きの評価装置
【数15】

【請求項9】
請求項8に記載のベルト鳴きの評価装置において、
上記第3のステップは、下記式(16)に基づいて変数SNIを求める、
ことを特徴とするベルト鳴きの評価装置
【数16】


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2009−92603(P2009−92603A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−265891(P2007−265891)
【出願日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【出願人】(000006068)三ツ星ベルト株式会社 (730)
【Fターム(参考)】