説明

ベンゾインデンプロスタグランジンの吸入送達法

【課題】有効量のベンジジンプロスタグランジンを、吸入によりそれを必要とする哺乳類に投与することによる、肺高血圧症の治療法の提供。
【解決手段】ベンジデンプロスタグランジンをエアゾール噴射した形態で、吸入により患者に送達する。その結果、肺高血圧症を誘発したヒツジにおいて、UT-15として公知のベンジデンプロスタグランジンは、吸入で投与した場合に、静脈内投与したUT-15と比べて、予想を上回る優れた徐放効果がもたらされた。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
発明の背景
ベンジジンプロスタグランジンは、様々な病態の治療に有用であることが現在分かっている。米国特許第5,153,222号(特許文献1)は、原発性および続発性の両肺高血圧症を含む、肺高血圧症の治療におけるベンジデンプロスタグランジンの好ましい種類の使用を開示している。特にこの特許は、化合物9-デオキシ-2',9-α-メタノ-3-オキサ-4,5,6-トリノール-3,7(1',3'-インターフェニレン-13,14-ジヒドロ-プロスタグランジンF1(UT-15としても公知)である化合物の使用を考察している。
【化1】


しかしこの特許は、このようなベンジデンプロスタグランジンの吸入による投与またはそれらの吸入による送達から得られる驚くべき恩典を特に示唆するものではない。
【0002】
米国特許第4,306,075号(特許文献2)は、血小板凝集の阻害、胃分泌の低下、および気管支拡張のような様々な薬学的反応を惹起する、ベンジデンプロスタグランジンを含むカルバサイクリンアナログの巨大な群を開示している。これらの化合物は、抗血栓薬、抗高血圧薬、抗潰瘍薬、および抗喘息薬として有用な適用を有することが指摘されている。この特許は、吸入による投与に言及している。この特許は特に、実施例33の化合物UT-15を開示している。しかしこの特許は、このような化合物の使用に関する限定された生物学的データのみを提供している。この特許は、実施例31の第59段において、構造が実施例33の化合物(UT-15)に類似しているが、同じではない化合物を開示している。実施例31(59段、41-45行)は、「化合物[sic]9-デオキシ-2',9-α-メタノ-3-オキサ-4,5,6-トリノル-3,7-(1',3'-インターフェニレン)-PGF1、メチルエステルを、ラットに用量1mg/kgで経口投与すると、血圧が44mmHg低下した。52分後、血圧は依然14mm低かった」ということを明らかにした。
【0003】
血液は全て、とりわけ体循環を介して身体の残余部分を通過する際に消費される酸素を補給するために、肺循環により肺を通じて駆出されている。両循環を通じての流れは、正常な環境においては同様であるが、肺循環においてそれに示される抵抗は、一般に体循環の抵抗よりも非常に小さい。肺の血流に対する抵抗性が増すと、この循環の圧力は、特定の流れについてより大きくなる。これは肺高血圧症と称される。一般に肺高血圧症は、同程度の高さにあり、かつ同様の活性が確約された大部分の人が属する正常範囲を越える血圧所見により確定される。
【0004】
最も頻出する肺高血圧症は、肺塞栓による血流閉塞、肺を通過した後の血液を操作する心臓弁または心筋の機能不全、換気低下および低酸素添加の反射反応としての肺血管口径の縮小、もしくは肺組織の先天性異常または外科的切除における血液短絡のような、血管容積と必須の血流のミスマッチのような、明確なまたは説明のつく抵抗性上昇の顕在化である。このような肺高血圧症は、続発性高血圧症と称される。
【0005】
増加した抵抗性の原因がまだ説明できないいくつかの肺高血圧症の症例がある。これらは原発性肺高血圧症(PPH)と記され、かつ続発性肺高血圧症の原因の排除によりおよび排除後に診断される。様々な病因の可能性があるにも拘らず、原発性肺高血圧症の原因は、識別可能な実体(entity)を含む傾向がある。およそ65%は女性であり、10代が通常最も罹患しやすいが、これは小児から50歳を越えた患者にまで広がっている。診断時からの余命は短く、およそ3〜5年であるが、時には自発的寛解およびより長期生存の報告が、診断過程の特徴を考え合わせて期待される。しかし一般に進行は、失神および右心室不全による容赦ないものであり、かつ突然死に至ることが極めて多い。
【0006】
肺高血圧症は、肺動脈圧(PAP)の正常レベルを超える上昇に関連した病態を意味する。ヒトにおいて、典型的平均PAPはおよそ12〜15mmHgである。他方で肺高血圧症は、時には少なくとも正常レベルを5〜10mmHg上回るPAP増加で特徴付けられる。正常レベルを50〜100mmHg上回るような高いPAP読み値が報告されている。PAPが顕著に増加した場合、血漿は、毛細血管から肺間質および肺胞へと漏出することがある。結果的に肺における液体のビルドアップ(肺浮腫)が生じ、一部症例においては死の転帰に至るような肺機能の低下に関連している。
【0007】
肺高血圧症は、急性または慢性のいずれかである。急性肺高血圧症は、概して肺血管の平滑筋収縮に起因した潜在的可逆現象であることが多く、これは低酸素症(高山病など)、アシドーシス、炎症または肺塞栓のような病態が引き金となることがある。慢性肺高血圧症は、肺血管の断面積の現象を生じるような、肺血管系における大きい構造変化を特徴とする。これは例えば、慢性低酸素症、血栓塞栓症により惹起されるか、または原因不明である(特発性または原発性肺高血圧症)。
【0008】
肺高血圧症は、成人呼吸窮迫症候群(「ARDS」)および新生児の持続性肺高血圧症(「PPHN」)のような、いくつかの生命を脅かすような臨床状態に関与している。Zapolら、「急性呼吸不全(Acute Respiratory Failure)、241-273頁、Marcel Dekker、ニューヨーク(1985)(非特許文献1);Peckham, J. Ped. 93:1005 (1978)(非特許文献2)。正期産児が原発性に罹患する疾患であるPPHNは、上昇した肺血管抵抗、肺動脈高血圧、および新生児心の開存性動脈管および卵円孔を通る右左短絡を特徴としている。死亡率は12〜50%である。Fox、Pediatrics、59:205 (1977)(非特許文献3);Dworetz、Pediatrics、84:1 (1989)(非特許文献4)。肺高血圧症は更に、「肺性心」または心肺疾患として公知の死に至る可能性のある心臓の状態を生じることがある。Fishman、「肺疾患・障害(Pulmonary Diseases and Disorders)」、第2版、McGraw-Hill、ニューヨーク、(1988)(非特許文献5)。
【0009】
更にある種のプロスタグランジンエンドペルオキシダーゼ、例えばプロスタサイクリン(フロラン(flolan)としても公知)の非経口投与による肺高血圧症の治療が公知であり、これは米国特許第4,883,812号(特許文献3)の主題である。プロスタサイクリンは吸入により投与され、かつ吸入による肺高血圧症治療のために使用される。Anesthesiology、82巻、6号、1315-1317頁(非特許文献6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第5,153,222号
【特許文献2】米国特許第4,306,075号
【特許文献3】米国特許第4,883,812号
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Zapolら、「急性呼吸不全(Acute Respiratory Failure)、241-273頁、Marcel Dekker、ニューヨーク(1985)
【非特許文献2】Peckham, J. Ped. 93:1005 (1978)
【非特許文献3】Fox、Pediatrics、59:205 (1977)
【非特許文献4】Dworetz、Pediatrics、84:1 (1989)
【非特許文献5】Fishman、「肺疾患・障害(Pulmonary Diseases and Disorders)」、第2版、McGraw-Hill、ニューヨーク、(1988)
【非特許文献6】Anesthesiology、82巻、6号、1315-1317頁
【発明の概要】
【0012】
本発明は、治療的有効量のベンジジンプロスタグランジンを、吸入によりそれを必要とする哺乳類に投与することに関する。より詳細には、本発明は、有効量のベンジジンプロスタグランジンを、吸入によりそれを必要とする哺乳類に投与することによる、肺高血圧症の治療法に関する。
【0013】
ベンジジンプロスタグランジンの吸入は、ベンジデンプロスタグランジンの非経口投与と比べて、予想を上回る優れた結果を生じた。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図面の説明 :全てのデータは平均±SEMとして示す。
*は、対応するUT15の静脈注入送達速度との有意差を示す。
#は、対応するベースライン値との有意差を示す。
&は、対応するU44069値との有意差を示す。
【図1】U44069で経静脈的に誘導された肺血管抵抗(cmH2O*分/L)の経時(分)的なグラフである。
【図2】ヒツジの血行力学変数に対するエアゾールとして投与された高用量UT15の作用を示している。詳細には、図2A〜2Cは、各々、全身動脈圧(PSAまたはPSYS);肺動脈圧(PPA);および肺血管抵抗(PVR)に対する、U44069で経静脈的に誘導されたヒツジに対し投与されたエアゾール噴射されたUT15の作用を示している。
【図3】静脈内注入されたUT15およびエアゾール噴射されたUT15のベースライン状態時の心拍数に対する用量反応作用である。
【図4】静脈内注入されたUT15およびエアゾール噴射されたUT15のベースライン状態時の全身動脈圧に対する用量反応作用である。
【図5】静脈内注入されたUT15およびエアゾール噴射されたUT15のベースライン状態時の中心静脈圧に対する用量反応作用である。
【図6】静脈内注入されたUT15およびエアゾール噴射されたUT15のベースライン状態時の肺動脈圧に対する用量反応作用である。
【図7】静脈内注入されたUT15およびエアゾール噴射されたUT15のベースライン状態時の左動脈圧に対する用量反応作用である。
【図8】静脈内注入されたUT15およびエアゾール噴射されたUT15のベースライン状態時の心拍出量に対する用量反応作用である。
【図9】静脈内注入されたUT15およびエアゾール噴射されたUT15のベースライン状態時の肺血管抵抗に対する用量反応作用である。
【図10】静脈内注入されたUT15およびエアゾール噴射されたUT15のU44069静脈内注入時の心拍数に対する用量反応作用である。
【図11】静脈内注入されたおよびエアゾール噴射されたUT15のU44069の静脈内注入時の中心静脈圧に対する用量反応作用である。
【図12】静脈内注入されたおよびエアゾール噴射されたUT15のU44069の静脈内注入時の全身動脈圧に対する用量反応作用である。
【図13】静脈内注入されたおよびエアゾール噴射されたUT15のU44069の静脈内注入時の肺動脈圧に対する用量反応作用である。
【図14】静脈内注入されたおよびエアゾール噴射されたUT15のU44069の静脈内注入時の左動脈圧に対する用量反応作用である。
【図15】静脈内注入されたおよびエアゾール噴射されたUT15のU44069の静脈内注入時の心拍出量に対する用量反応作用である。
【図16】静脈内注入されたおよびエアゾール噴射されたUT15のU44069の静脈内注入時の肺血管抵抗に対する用量反応作用である。
【図17】静脈内注入されたおよびエアゾール噴射されたUT15のベースライン状態時の肺血管駆出圧(PPAマイナスPLA)に対する用量反応作用である。
【図18】静脈内注入されたおよびエアゾール噴射されたUT15のU44069の静脈内注入時の肺血管駆出圧(PPAマイナスPLA)に対する用量反応作用である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
発明の詳細な説明
特に言及しない限りは、「ひとつ(a/an)」は全て、少なくとも1個を意味する。
【0016】
本発明のひとつの態様は、ベンジデンプロスタグランジンまたはそれらの薬学的に許容される塩もしくはそのエステルの、吸入によるそれらを必要とする哺乳類への送達の方法である。
【0017】
本発明に係る吸入による送達に好ましいベンジデンプロスタグランジンの群は以下のもの、またはそれらの薬学的に許容される塩または酸誘導体である:
【化2】


式中、aは、1〜3の整数であり;XおよびYは、-0-およびCH2-から選択され、同じまたは異なってもよく;Rは、-(CH2)5-R1 (式中R1は、水素またはメチルである)、またはRはシクロヘキシルであるか、またはRは-CH(CH3)CH2C≡CCH3であり;並びに、点線は任意の二重結合を意味する。
【0018】
最も好ましいベンジデンプロスタグランジンは、UT-15であり、これは9-デオキシ-2', 9-α-メタノ-3-オキサ-4,5,6-トリノール-3,7-(1,3-インターフェニレン)-13,14-ジヒドロ-プロスタグランジンF1である。
【0019】
本発明に関して「吸入」送達とは、1種の活性成分または複数の活性成分の組合せの呼吸経路を通じての送達を意味し、この場合、活性成分が必要な哺乳類は、鼻または口などの哺乳類の気道を通じて、活性成分を吸入する。
【0020】
本発明に係る吸入による送達のために、エアゾール噴射、アトマイザー噴霧、および/またはネブライザー噴霧される活性成分は、UT-15のようなベンジデンプロスタグランジンを単独でまたは下記に記したような他の活性成分と組合せて含有する液体製剤を含む。UT-15は、遊離酸として、もしくは薬学的に許容される塩もしくはエステルまたは他の酸誘導体の形態で使用することができる。加えて、UT-15のポリエチレングリコール化された(PEGylated)形態および/またはタンパク質複合形態を含む、UT-15を含有する徐放性製剤を使用することができる。
【0021】
本明細書において「酸誘導体」という用語は、C1-4アルキルエステルおよびアミドを示すように使用され、アミドは、窒素が任意に1または2個のC1-4アルキル基で置換されているものを含む。
【0022】
本発明は更に、UT-15の生体前駆体または「プロドラッグ」、すなわちインビボにおいてUT-15またはそれらの薬学的に活性のある誘導体に転化されるような化合物も含む。
【0023】
本発明の更なる局面は、末梢血管疾患の治療のための医薬品の製造における、UT-15またはそれらの薬学的に許容される塩または酸誘導体の使用に関する。
【0024】
本発明は、本発明の薬学的活性化合物の調製において使用され得るようなUT-15の生理的に許容されない塩にも及ぶ。UT-15の生理的に許容される塩は、塩基由来の塩を含む。
【0025】
塩基性塩は、アンモニウム塩、ナトリウムまたはカリウムのようなアルカリ金属塩、カルシウムおよびマグネシウムのようなアルカリ土類金属塩、例えばジシクロヘキシルアミンおよびN-メチル-D-グルカミンなどの有機塩基との塩、並びにアルギニンおよびリシンのようなアミノ酸との塩を含む。
【0026】
例えばメチル、エチル、プロピルおよびブチルの塩化物、臭化物およびヨウ化物のような、低級アルキルハロゲン化物;硫酸ジアルキル;デシル、ラウリル、ミリスチルおよびステアリルの塩化物、臭化物およびヨウ化物のような長鎖のハロゲン化物;並びに臭化ベンジルおよび臭化フェネチルのようなアラルキルハロゲン化物との反応により、4級アンモニウム塩を生成することができる。
【0027】
任意に、1種以上の薬学的に許容される担体または賦形剤を、本発明に従いエアゾール噴射、アトマイザー噴霧またはネブライザー噴霧される製剤中に含有することができる。
【0028】
ネブライザーによる吸入投与に好ましい溶液は、UT-15、クエン酸ナトリウム、クエン酸、水酸化ナトリウム、塩化ナトリウム、およびm-クレゾールを含有する、UT-15の滅菌溶液を含む。より好ましい溶液は、UT-15の0.125g、クエン酸ナトリウム水和物1.25g、無水クエン酸0.125g、水酸化ナトリウム0.05g、および注射用水約250mlを混合することにより調製される。
【0029】
好ましくは、ネブライザー、吸入器、アトマイザーまたはエアゾール噴射容器を用いて、このような活性成分を含有する溶液または液体から液滴を形成する。液滴の直径は10μm未満であることが好ましい。ひとつの好ましいネブライザーは、AN-601 MEDICATOR AEROSOL DELIVERY SYSTEM(登録商標)(Healthline Medical社、ボールドウィルパーク、CAにより製造されたネブライザー)である。
【0030】
あるいは、通常散剤の形状である固形製剤を、本発明に従い吸入することができる。このような場合、粒子直径は、好ましくは10μm未満であり、より好ましくは直径5μm未満である。
【0031】
本発明は更に、ベンジデンプロスタグランジンおよび/またはその塩もしくはエステルを、吸入送達が特定の病態の治療に適しているような適用のために吸入により送達することに関する。UT-15 およびその塩またはエステルを含むベンジデンプロスタグランジンは、反復適用に有用であることが示されている。例えばUT-15は、血小板に対し強力な抗凝集作用を示し、その結果、哺乳類において抗血栓薬として特に有用であることが示されている。更に公知のUT-15の用途は、末梢血管疾患の治療を含む(同時係属出願である米国特許第09/190,450号の範囲であり、その全体の内容は本明細書に参照として組入れられている)。末梢血管疾患を本発明のベンジデンプロスタグランジンの吸入により治療する場合は、吸入用量は、活性成分の一部は吸入されず(breath out)血流に取り込まれないことを考慮し、毎日の注入量と同等量を送達するのに十分であるようにしなければならず、これは体重1kgにつき1日当たり25μg〜250mg;典型的には0.5μg〜2.5mg、好ましくは7μg〜285μgの範囲である。例えば、静脈内投与量0.5μg〜1.5mg/kg体重/日が、体重1kg当たり1分につき0.5ng〜1.0μgの注入として都合よく投与することができる。好ましい用量は10ng/kg/分である。
【0032】
UT-15およびその塩またはエステルを含むベンジデンプロスタグランジンは、本発明に従い、過剰な胃液分泌を減少しかつ制御するために、吸入により投与することもでき、これにより消化管潰瘍形成を軽減または避けることができ、かつ消化管に既に存在する潰瘍および病巣の治癒を促進することができる。加えて、ベンジデンプロスタグランジンは、うっ血性心不全を治療するため、肺移植に関連した炎症および/または肺高血圧症を軽減するために、本発明に従い吸入により投与することもできる。
【0033】
UT-15およびその塩またはエステルを含むベンジデンプロスタグランジンは更に、血管に対し血管拡張作用を示し、その結果ヒトを含む哺乳類における高血圧の治療のための抗高血圧薬として特に有用である。抗高血圧薬(または降圧薬)としての使用は、UT-15を含むベンジデンプロスタグランジンを含有する薬学的組成物の投与により実現することができる。
【0034】
UT-15を含むベンジデンプロスタグランジンは、本発明に従い、ヒトを含む哺乳類において血圧を低下し、血小板凝集を阻害し、血小板の接着性を低下し、および/または血栓形成を治療または予防することが望ましいようないずれかの状態を治療するために、吸入により使用することができる。例えばこれらは、心筋梗塞の治療および予防に、並びに末梢血管疾患の治療に、術後血栓症の治療および予防に、術後の血管移植片の開存性を促進するために、およびアテローム性硬化症の合併症およびアテローム硬化症のような状態、脂肪血症に起因した凝血欠損、および基礎をなす病因が脂質不均衡または高脂血症に関連した他の臨床状態を治療するために使用することができる。更に、UT-15およびその塩またはエステルを含むベンジデンプロスタグランジンは更に、ヒトを含む哺乳類における創傷治癒の促進に用途を有する。
【0035】
UT-15およびその塩またはエステルを含むベンジデンプロスタグランジンは、生体(original body)に付着しているか、または移植のために摘出されかつ保存または調製されているか、または移植体に付着しているに拘らず、四肢および臓器などの摘出された体の一部の、人工体外循環および灌流において使用される、血液、血液製剤、代用血液、および他の液体の添加剤として使用することもできる。これらの循環および灌流の間に、凝集した血小板は、血管および循環装置の一部を途絶する傾向がある。この途絶は、UT-15の存在により避けることができる。この目的のために、UT-15またはその塩もしくはエステルを、循環血、ドナー動物の血液、または灌流された身体部分の血液のレベルに達するまで、または循環液1Lにつき0.001μg〜10μgの定常状態量と同等量の2種または全てに達するまで、吸入により導入することができる。別の態様においては、臓器および四肢移植に関する新規方法および技術を開発するという目的のために、例えばネコ、イヌ、ウサギ、サルおよびラットのような実験動物においてUT-15が使用されている。
【0036】
本発明において、ベンジジンプロスタグランジンが、「治療的有効量」でそれらを必要とする患者に吸入により送達される。「治療的有効量」は、治療または予防されることが意図された状態に対して治療効果のある量を意味する。例えば「抗高血圧有効量」とは、肺高血圧症、特に肺動脈圧(PAP)を高血圧レベルに対して正常レベルに低下する、もしくは正常レベルに維持するように作用する量を意味する。特定の治療目的に有効と考えられる正確な量は、当然治療される患者の具体的状況、および患者の担当医が望む作用の大きさによって決まる。作用に対する力価決定を用いて、適量を決定することができる。
【0037】
動物およびヒトの両方に医療に使用するための本発明のこのような製剤は、活性成分ベンジデンプロスタグランジンまたはその塩もしくはエステルを、1種以上の薬学的に許容されるそれらの担体および任意に他の治療成分と共に含有している。担体は、該製剤の他の成分と共存でき、かつそのレシピエントに対し有害でないという意味で「許容でき」なければならない。
【0038】
更に、これらの製剤は都合がよいことに単位剤形で存在することができ、かつ調剤学の技術分野において周知のいずれかの方法で調製することができる。全ての方法は、活性成分を1種以上の薬学的に許容される付属成分を構成する担体に会合させる工程を含む。
【0039】
本発明は、更に、ベンジデンプロスタグランジンの吸入による、肺高血圧症の治療法に関する。「肺高血圧症」とは、原発性肺高血圧症および続発性肺高血圧症を含む、急性および慢性の両高血圧症を意味し、かつこれは正常レベルを上回る上昇した肺動脈圧に関係している。
【0040】
肺高血圧症治療に関するUT-15のようなベンジデンプロスタグランジンの効能は、肺高血圧症に関連した血行力学を決定することにより評価することができる。特に、肺動脈圧(PPA)、左動脈圧(PLA)、中心静脈圧(PCV)、全身動脈圧(PSYS)、心拍数(HR)、および心拍出量(CO)の測定が、吸入または非経口的に送達されたベンジデンプロスタグランジンの作用を決定する上で有用である。
【0041】
肺動脈圧は、直接測定することができ、かつしばしば肺動脈高血圧症の定量化に使用されるが、PPAは、CO、PLAおよびPVRの3種の別の変数により影響を受け、これを等式1に示す。
PPA = (CO *PVR) + PLA (1)
等式1から分かるように、PPAは、PLAの増加(例えば左心室不全、僧帽弁狭窄症、僧帽弁逆流など)、COの増加(例えば低いヘマトクリット値、末梢血管拡張、左右短絡など)、およびPVRの増加(減少した肺血管表面積、減少した肺血管直径、肺血管閉塞など)により上昇される。
【0042】
他方でPVRは、直接測定することができず、下記の等式2により算出しなければならない:
PVR = (PPA −PLA)/CO (2)
PVRは、肺動脈高血圧症(PAH)のより優れた指標であり、その理由は、PAH治療に使用される静脈は、PVRに作用するのみであり、かつCOおよびPLAには作用しない、またはほとんど作用しないことが最良であるからである。
【0043】
心拍数は、25回心拍を打つのに必要な時間(秒)を測定することにより決定し、血流メーター上の拍動により示された(t25)を得る;拍数/分(BPM)を下記の等式により算出した:
BPM = (25拍/t25)*60秒
【0044】
全ての血圧は、VALIDYNE CD19A Carrier Dmod増幅装置(ノースリッジ、CA) に連結された、モデル1290A HEWLETT PACKARD(登録商標)変換器のような(アンドーヴァー、MA)のような市販の変換器によりモニタリングすることができる。心拍出量は、Transonic Systems T101超音波血流メーター(イサカ、NY)により測定することができる。血圧および血流のシグナルは、ASTROMED MT-9500 Stripchartレコーダー(ウェストウォリック、RI)で記録し、かつEasy Data Acquisitionソフトウェア(ナッシュビル、TN)を用いてパーソナルコンピュータ上にデジタル記録した。
【0045】
エアゾール噴射されたUT-15は、肺血管抵抗の増大により示されるような、化学的に誘導された肺高血圧症の軽減に関して、より大きい効能および有効性を有することが発見されている。更にエアゾール噴射により送達されるUT-15の実際量は、静脈内送達された用量の一部(10〜50%)のみであるので、エアゾール噴射されたUT-15は、静脈内投与されたUT-15と比較してより多きい効能を有している。エアゾール噴射されたUT-15のより大きい効能および有効性を説明する機序は不明であるが、UT-15の静脈内注入による低い「初回通過」取り込みが、少なくとも部分的に寄与しているであろうと仮定することができる。従って低い「初回通過」取り込みは、薬物の大半を、末梢循環(冠循環を含む)において利用できるようなものとし、このことが心拍数および心拍出量を増大する。
【0046】
エアゾール噴射されたUT-15は、化学的誘導剤による肺血管高血圧症時に、静脈内投与されたUT-15と比べて、心拍数または心拍出量に対するような末梢作用が明らかである。これは特に、ほぼ(near)右心室不全である患者および末梢血管拡張が右心室への刺激(challenge)を増悪するような患者にとって有益である。他方で、心拍出量が、右心室不全のために損なわれる場合は、エアゾール噴射されたプロスタグランジンは、PVRを減少し、かつ心拍出を増加する一方で、右心室の負荷を低下することができる。
【0047】
下記実施例は、本発明の例証のために提供されており、それを制限するものとして構成されたものではない。
【実施例】
【0048】
実施例I
動物モデル
吸入液を、下記工程に従い、クエン酸ナトリウム(水和物)1.25g、クエン酸(無水物)0.125g、水酸化ナトリウム(NF/BP)0.05g、UT-15の0.125g、および注射用水約250mlを混合し調製した。
1. 水約210mlを、磁気攪拌子が入った滅菌したシリコン処理したガラスビーカーへ測り入れた。
2. クエン酸ナトリウムを添加した。溶解するまで混合した。
3. 工程2の溶液にクエン酸を添加した。溶解するまで混合した。
4. 滅菌したプラスチック試験管に水12.5mlを測り入れた。水酸化ナトリウムを添加した。溶解するまで混合した。
5. 工程4の溶液に、UT-15を添加した。溶解するまで手で混合した。
6. 工程5の溶液を、工程3の溶液に添加し、混合した。
7. pHを、塩酸および/または水酸化ナトリウム溶液を用いて、7.3の値に調整した。
8. 最終溶液を、滅菌マイクロフィルターを用い、別の滅菌ビーカーへと濾過し、その後、5mlの溶液となるよう、滅菌した栓付き血液検体用試験管に等分した。
9. 溶液を二重の箱に入れ、かつ-4℃のフリーザーに保管した。
10. プラセボ溶液は、UT-15を添加せずかつ量をわずか50mlで調製した以外は、前述の操作に従い調製した。
【0049】
滅菌生理食塩水を、UT-15ストック液またはプラセボに所望の量になるよう(望ましい用量、ヒツジの体重およびエアゾール噴射の期間に応じて)添加して希釈し、作業液を調製した。次にこの溶液を、全量使用するのに5mlを越えない容量でネブライザーに入れた。
【0050】
ヒツジ35kgに関して、UT-15用量は、下記式を用いて算出した250ng/kg/分で30分間:
計算式:250 x 35 x 30 = 262,500 ng のUT-15
または、UT-15の262.5μgであった。ネブライザー噴霧速度は0.28ml/分であり、従って溶液8.4mlは、UT-15 262.5μgを含有することが必要であった。しかし、溶液の量には、「無効」量(ネブライザー中に常に残留する量)が必要である。従って、UT-15を合計281.25μg(またはストック液0.5625ml)を含有する容量9mlを作成した。
UT-15の0.5625mlを測定し、かつ滅菌生理食塩水8.4375に添加した。これを正確に30分かけてネブライザー噴霧した。
【0051】
多くの理由からこれらの実験用に選択した動物モデルとしてヒツジを用いた。第一の理由はヒツジの従順な性質である。ヒツジは、実験結果を複雑化する可能性がある精神安定剤を使用しなくとも、代謝ケージ内に静かに立っている。第二に、ヒツジは、CO、PPA、PLA、PCV、およびPSYSの直接測定を行うのに十分に大きいことである。ヒツジは更に、薬物の嚥下を妨げ、その結果UT-15の投与の可能性のある二次経路を排除するような気管切開術により肺への物質の直接エアゾール噴射を行うのに十分に大きい。第三に、ヒツジは、ほとんどまたは全く不快感を覚えることなく、多量の器具装着に耐えることができる。第四に、ヒツジは、肺動脈高血圧症の動物モデルとして数年間使用されており、その結果これらの結果を比較するための多量の過去のデータがあることである。
【0052】
肺動脈高血圧症を誘導するために選択した物質は、PGH2アナログであるU44069(9,11-ジデオキシ-9α,11α-エポキシメタノプロスタグランジンF)であった。U44069を使用する理由は、これが非常に強力な肺血管収縮薬であり、その特性が内因性に形成されたトロンボキサンA2に非常に類似しており、かつ望ましい程度の肺血管収縮を誘導するために力価決定することができるからである。U44069は、使用直前に、滅菌した通常の生理食塩水と混合し、かつ溶液をアルミホイルで被覆し遮光した。U44069濃度は、最小流量0.8ml/分がヒツジに注入されるように調節した。これは、より濃いU44069は、非常に遅い速度で注入することとなり、ローラーポンプの注入特性のためにU44069の「パルス」を生じることが多いためである。U44069のパルスは、血管収縮「スパイク」を生じ、その結果非定常状態を誘導するであろう。
【0053】
手術手技
6歳のヒツジ(3頭オス、3頭メス、21〜37kg)を、18〜24時間絶食し、かつ最初に短時間作用性バルビツール酸誘導体(チオペンタール)で麻酔し、ヒツジを挿管した。その後ハロタンガス麻酔(1.5〜2.5%)を、手術手技のために用いた。左気管支切開術により、Transonic血流測定プローブを、肺動脈幹の周りに配置し、シラスティックカテーテルを肺動脈幹および左心房に配置した。およそ7日後、ヒツジを再度麻酔し、かつ左頚動脈にカニューレ挿管し、心臓導入シース(Cordis Introducer Sheath)を左頚静脈に挿入し、気管支切開術を行った。ヒツジを更に3〜5日間回復させ、その後実験した。これらのヒツジを用いて、肺動脈圧(PPA)、左動脈圧(PLA)、中心静脈圧(PCV)、全身動脈圧(PSYS)、心拍数(HR)、および心拍出量(CO)を、ベースライン測定後、最低30分間測定した。
【0054】
実施例II
静脈内注入された持続性U44069の肺血管抵抗に対する作用
4匹のヒツジで、PVRの定常状態増加を維持するU44069の能力を測定した。ベースライン時の30分後、U44069を、速度1μg/kg体重/分で180分間注入した。図1に示したように、静脈内に注入されたU44069により誘導されたPVR増加は、3時間以上非常に安定している(これらの図において、全てのデータは平均±SEMとして示す。「*」は、対応するUT-15の静脈注入送達速度との有意差を示す。「#」は、対応するベースライン時との有意差を示す。「&」は、対応するU44069値との有意差を示す)。更に統計解析は、一元配置ANOVA/Dunnett検定のように厳密でない、多重対のあるt-検定を用いて検定した。特に図1は、静脈内に注入されたU44069は、30分までにPVRの定常状態増加への到達を惹起し、かつこの定常状態増加が最低180分間維持されたことを図示している。U44069は、他の変数について、180分の注入期間に渡って、ベースライン値と比較して有意な変化を生じた(データは示さず):PPA増加、HR低下、CO減少。しかしPSYSは、ベースライン値よりも増加し、この差異は、U44069注入の120分、150分、および180分以外は統計学的有意差が認められなかった。同じくPCVも、U44069注入時に増加したが、この増加は30分および60分でのみ有意であった。PLAは、試験した全ての時点で有意な変化をしなかった。
【0055】
全てのU44069時間値はベースラインから異なるが、対のあるt-検定で解析して互いに差はなかったので、U44069注入時のあらゆる時点において差異がない点については議論の余地がある。これらのデータは、UT-15によるPVRの何らかの変化が、UT-15の作用によるものであり、かつ血管収縮薬反応の漸減により複雑化しないことを示している。
【0056】
実施例III
エアゾール噴射した高用量UT-15のベースライン時の血行力学に対する作用
ベースライン測定値は、溶媒/生理食塩水エアゾール噴射(0.28ml/分)しながら30分にわたってモニタリングして構成した。ベースライン値測定後、エアゾール送達システム中の溶媒/生理食塩水を、ストックUT-15液(500 ng/ml)と代え、かつ0.28 ml/分で90分間エアゾール噴射した。
【0057】
図2 は、高用量エアゾール噴射したUT-15(3800〜5700 ng/kg/分)の90分後に認められた統計学的に変化した値のみを示している。それらのベースライン値に対して、PSYSは7.5%減少し、PPAはおよそ18%減少し、かつPVRはおよそ19%減少した。
【0058】
これらのデータは、静脈内注入UT-15とは異なり、エアゾール噴射UT-15は、有意な肺以外の作用、すなわち心拍数、心拍出量への作用を伴うことなく、高用量で投与することができることを示している点で重要である。これらの実験について、UT-15のエアゾール送達は、図16に示した250 ng/kg/分の最低有効試験用量のおよそ15〜27倍である。
【0059】
実施例IV
ベースライン時の血行力学に対する静脈内投与UT-15対照およびエアゾール噴射UT-15対照の用量反応作用
ふたつの個別の実験を行い、ベースライン時の血行力学に対する静脈内UT-15の、およびベースライン時の血行力学に対するエアゾール噴射UT-15の用量反応作用を決定した。注入実験プロトコールについては、ベースラインが確立されて30分後に、UT-15を3種の速度で静脈内に注入した(250ng/kg/分、500ng/kg/分、および1000ng/kg/分)。ヒツジ3匹において、これらの注入速度を各々30分間維持し、かつ別の3匹については、これらの注入を各々60分間維持した。
【0060】
エアゾール噴射UT-15プロトコールは、30分間のベースライン確立、その後の気管支切開術による、250ng/kg/分、500ng/kg/分、および1000μg/kg体重/分、およびエアゾール噴射速度0.28ml/分での、UT-15エアゾール噴射投与である。再度3匹のヒツジには30分間エアゾール噴射し、かつ他の3匹のヒツジには60分間エアゾール噴射した。
【0061】
各3種の投与速度に関して、30分および60分のUT-15送達の間に差は認められなかった。図3は、UT-15の静脈内注入とエアゾール噴射の心拍数に対する用量反応を示している。心拍数は、UT-15の250ng/kg/分、500ng/kg/分、および1000ng/kg/分での静脈内投与の間に有意に増加した。エアゾール噴射したUT-15は、心拍数に作用しなかった。UT-15のエアゾール噴射と静脈内注入の間には、3種の投与速度各々について、有意差があった。
【0062】
図4は、エアゾール噴射および静脈内投与の両方のUT-15とも、いずれの投与速度を用いた場合にもPSYSに対し有意な作用がないことを示している。
【0063】
図5は、UT-15のPCVに対する作用を示している。各用量のUT-15 の静脈内投与およびエアゾール投与の間においても、ベースライン値に対する、いずれの用量についても統計学的差異はなかった。同様の作用が、図6に示されたように、PPAについても認められたが、UT-15 をエアゾール噴射した場合にはPPA減少の一般的傾向があった。
【0064】
興味深いことに、UT-15は静脈内投与もエアゾール噴射も、PLAに対して各ベースラインからの有意な変化を生じなかったが(平均値は、エアゾール噴射送達時に増加し、静脈内送達時には減少したが)、各送達速度においてUT-15のエアゾール噴射および静脈内投与の間には有意差があった。図7を参照のこと。
【0065】
図8は、COに対する作用を示している:各ベースライン値に対していずれの送達でも有意な変化は認められず、2種の薬物送達様式の間にはいかなる有意な変化も認められなかった。
【0066】
図9は、UT-15のエアゾール噴射および静脈内注入の肺循環 PVRに対する全般的作用を示している。静脈内投与UT-15は、PVRに有意な作用を有さないのに対して、エアゾール噴射UT-15は、3種全ての送達速度について有意な減少を生じた。
【0067】
エアゾール噴射UT-15の250ng/kg/分、500ng/kg/分、および100ng/kg/分についてのPVRの減少は、PLAの小さい増加およびPPAの小さい減少に起因している。これらの変数はベースライン値からは有意差がないにもかかわらず、これらの組合せ(すなわち、PPA−PLA、等式2で使用される)は、図17に示されたように有意であった。静脈内注入されたUT-15は、PVRに作用を有さなかったが、しかし心拍数には有意な作用を有した。これらのデータの統計解析は、精密な二元配置ANOVAおよびStudent-Newman-Keuls検定を用いて行い、その結果いずれの統計差も信頼性を持って(with confidence)許容することができた。
【0068】
実施例V
収縮した静脈内およびエアゾール噴射したUT-15の用量反応
ふたつの個別の実験を行い、U44069誘導した肺高血圧症時に、静脈内注入したUT-15とエアゾール噴射したUT-15の用量反応作用を決定した。30分間ベースラインを確立した後、U44069を1ng/kg/分の速度で静脈内注入した。30〜60分間の定常状態を達成しUT-15静脈内投与したヒツジについて、静脈内投与UT-15に対する用量反応は、前述の実施例IVに関するものと類似していた。30〜60分間の定常状態を達成しUT-15エアゾール噴射したヒツジについて、静脈内投与(intravenous)UT-15に対する用量反応は、前述の実施例IVに関するものと類似していた。各実験プロトコールにおいて、UT-15は、3匹のヒツジに30分間投与し、かつ別の3匹のヒツジについては60分間投与した。
【0069】
UT-15送達30分および60分の間には、各3種の速度の各々において、差異はなかった。心拍数に対するU44069の作用およびそれに続くU44069 注入時のUT-15の用量反応作用を、図10に示す。静脈内投与UT-15は、U44069投与状態時の値を越える心拍数の増加を引き起こしたのに対して、エアゾール噴射UT-15は、心拍数に対し作用を示さなかった。特に、静脈内投与UT-15について、心拍数は、1000ng/kg/分の速度での送達のみベースライン値に対して有意差があったのに対し、500および1000ng/kg/分の両方のUT-15静脈内送達において、U44069値に対して有意差があった。エアゾール噴射送達速度500ng/kg/分および1000ng/kg/分の両方とも、それらが対応する静脈内注入送達速度と差異を示した。
【0070】
中心静脈圧に関するデータを図11に示す。いくつかの差異が、静脈内投与UT-15に関する中心静脈圧について注目され、これは、500ng/kg/分および1000ng/kg/分の送達速度の値が、U44069値と差異があることであった。500ng/kg/分のエアゾール噴射値のみが、対応する静脈内UT-15注入値と差異があった。
【0071】
全身動脈圧に関して、これらの一連の実験において統計的差異はなかった(図12)。肺動脈圧の反応を図13に示している。U44069は、PPAを、ベースラインに対し、かつエアゾール噴射したUT-15の3種全ての送達速度について、静脈内送達に対して全て3種の薬物送達速度について、有意に増加した。実際に、エアゾール噴射したUT-15の500ng/kg/分および1000ng/kg/分について、PPAは正常値に戻っていた。
【0072】
U44069は、左動脈圧を有意に変更しなかった。しかしUT-15の静脈内注入は、3種全ての送達速度で、U44069値から有意に減少し、かつ500ng/kg/分および1000ng/kg/分は、ベースライン値から差異があった。全て3種のエアゾール噴射送達速度は、ベースライン以上に増加したが、250ng/kg/分および500ng/kg/分は、U44069値以上に増加した。図14に認められるように、全て3種のエアゾール噴射送達速度の作用は、静脈内注入の送達速度と差異があった。
【0073】
いずれかの投与様式による最も劇的なUT-15の作用は、心拍出量および「肺の変数」であった。U44069は、図15に示したように、ベースラインからの心拍出量の低下を引き起こした。エアゾール噴射UT-15は、心拍出量に対して作用を有さなかった。静脈内投与UT-15は、心拍出量の用量反応的増加を引き起こし、これは500ng/kg/分および100ng/kg/分において有意であった。1000ng/kg/分でエアゾール噴射したUT-15の送達は、静脈内注入したUT-15と有意に異なっていた。
【0074】
図16は、U44069投与時の静脈内およびエアゾール送達したUT-15の肺血管抵抗に対する全般的作用を図示している。これは、肺血管抵抗が、UT-15の静脈内注入およびエアゾール噴射の両方により有意に減弱されるにもかかわらず、エアゾール噴射UT-15においてより大きく影響されることを示している。特に、U44069はPVRの劇的増加を引き起こしたが、これは静脈内注入UT-15について500ng/kg/分および1000ng/kg/分で有意に減弱された。エアゾール噴射UT-15は、PVRの減少を引き起こし、その結果3種の送達速度の全てにおいてベースラインPVRに対しては有意差はなかった。興味深いことに、静脈内投与およびエアゾール噴射UT-15のPVR増加の減弱が始まった時点は非常に類似しているのに(4〜5分)対して、エアゾール噴射UT-15のオフ反応は、静脈内投与UT-15よりもはるかに長かった(43対12分)。
【0075】
図18は、静脈内投与UT-15がPPAのUT44069値からの有意な減少を引き起こすにも拘らず、この減少はPLAの減少と一致していることを示している。従って、肺血管駆出圧(PPA−PLA)は、変化しなかった。
【0076】
本発明は、その具体的態様を参照とし詳細を説明しているが、当業者には本発明の精神および範囲から逸脱することなく、様々な変更および修飾を行うことができることは明らかであろう。
【0077】
本明細書に引用された全ての参照は、各々が個別に参照として組入れられるのと同程度に参照として組入れられている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療的有効量のベンジデンプロスタグランジンを提供する製剤を哺乳類に吸入することにより投与することを含む、治療的有効量のベンジデンプロスタグランジンを必要とする哺乳類へ送達する方法。
【請求項2】
ベンジデンプロスタグランジンが、エアゾール噴射した形態で吸入される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
ベンジデンプロスタグランジンがUT-15である、請求項2記載の方法。
【請求項4】
エアゾール噴射した形態が、直径10μm未満の液滴を含み、該液滴が、適当な薬学的に許容される液体担体中にUT-15を含有する、請求項3記載の方法。
【請求項5】
哺乳類がヒトである、請求項1記載の方法。
【請求項6】
UT-15またはその薬学的に許容される塩またはエステルの有効量を吸入により哺乳類に送達することを含む、哺乳類において肺高血圧症を治療する方法。
【請求項7】
UT-15がエアゾール噴射した形態で吸入される、請求項6記載の方法。
【請求項8】
エアゾール噴射した形態が、直径10μm未満の液滴を含み、該液滴が、適当な薬学的に許容される液体担体中に化合物を含有する、請求項7記載の方法。
【請求項9】
UT-15が、直径10μm未満の粒子を含有する散剤の形態で吸入される、請求項6記載の方法。
【請求項10】
製剤が、徐放型であるベンジデンプロスタグランジンである、請求項1記載の方法。
【請求項11】
UT-15が徐放型である、請求項6記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2011−201907(P2011−201907A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−119894(P2011−119894)
【出願日】平成23年5月30日(2011.5.30)
【分割の表示】特願2000−604834(P2000−604834)の分割
【原出願日】平成12年3月17日(2000.3.17)
【出願人】(500190535)ユナイテッド セラピューティックス コーポレイション (1)
【Fターム(参考)】