説明

ベンゾチアゾール誘導体含有診断用組成物

【課題】アルツハイマー病などのアミロイド関連疾患の早期かつ正確な診断を可能にする。
【解決手段】一般式(Ia)


〔式中、Xは硫黄原子などを、R、R、及びRは水素原子などを、Rはジメチルアミノ基などを、Rはジシアノビニル基などを表す。〕で表される化合物若しくは前記化合物を標識物質で標識した化合物を含有するアミロイド関連疾患診断用組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベンゾチアゾール誘導体などを含有する診断用組成物に関する。本発明の組成物は、アルツハイマー病などのアミロイド関連疾患の診断に用いることができる。
【背景技術】
【0002】
近年の急速な高齢化に伴い、アルツハイマー病(AD)をはじめとする痴呆性疾患の増加が大きな社会問題のひとつになっている。現在、ADの臨床診断法には、長谷川式、ADAS、MMSEがあり、いずれもADが疑われる個体の認知機能の低下を定量的に評価する方法が一般的に用いられる。この他画像診断法(MRI, CT等)が補助的に用いられるが、これらの診断法ではADを確定診断するには不十分であり、確定診断には生前における脳の生検、死後脳の病理組織学的検査において、老人斑と神経原線維の出現を確認することが必要である。したがって、現在の診断方法では、広範な脳障害が生じる前の早期段階でADを診断するのは困難である。これまでにADの生物学的診断マーカーとしていくつかの報告があるが、臨床上実用的なものはいまだ開発されていない。このような状況下、ADの早期診断に対する社会的要求は高く、その早急な開発が強く望まれている。
【0003】
老人斑はADの最も特徴的な脳病変であり、その主構成成分はβシート構造をとったアミロイドβ蛋白(Aβ)である。体外からの老人斑の画像化はADの有効な診断法の確立につながると考えられるが、画像化には、Aβと特異的に結合するプローブ化合物が必要である。これまでに、プローブ化合物としてコンゴーレッドおよびチオフラビンTを母体構造とする誘導体が、いくつか報告されているが(特開2004-250407号公報、特開2004-250411号公報、W.E.Klunk et al., Annals of Neurology Vol55 No.3 March 2004 306-319)、Aβに対する結合特異性が低いこと、血液脳関門の透過性が低いこと、脳内での非特異的結合によりクリアランスが遅いことなど問題が少なくない。それゆえ、報告されたこれらの化合物は未だアミロイドが蓄積する疾患の診断において実用化されていないのが現状である。このような現状の下、本発明者らは、実用化可能なプローブ化合物の探索を行い、その結果、フラボン誘導体(特許文献1)、カルコン誘導体(特許文献1)、スチリルクロモン誘導体(特許文献1)、クマリン誘導体(特許文献1)、オーロン誘導体(特許文献2)などがAβと特異的に結合することを見出し、先に出願を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2006/057323号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2008/068974号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、以上のような技術的背景のもとになされたものであり、Aβに対する高い結合特異性、高い血液脳関門の透過性、脳内老人斑以外の部位からの速やかな消失性を併せ持つ化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、以下の(A)〜(D)の知見を得た。
【0007】
(A)分子内にベンゾチアゾール環以外の芳香環を含まない化合物が、既知のプローブ化合物であるピッツバーグ化合物B(PIB)の数倍ものAβ結合能を持つことを見出した。Aβ結合能を持つ化合物は、分子内に二以上の芳香環を持っている。例えば、PIBやチオフラビンTは分子内にベンゾチアゾール環とベンゼン環を持っている。また、本発明者らによって見出されたプローブ化合物であるフラボン誘導体(特許文献1)、カルコン誘導体(特許文献1)、スチリルクロモン誘導体(特許文献1)、クマリン誘導体(特許文献1)、オーロン誘導体(特許文献2)も二つの芳香環(ベンゼン環、クロモン環など)を持っている。このような二以上の芳香環を含む化合物に比べ、前記したベンゾチアゾール誘導体は分子量が小さく、血液脳関門を容易に透過できると予想される。
【0008】
(B)ベンゾチアゾールの2位にスチリル基が結合した化合物も、前記したベンゾチアゾール誘導体と同様に高いAβ結合能を持つことを見出した。
【0009】
(C)ベンゾチアゾール又は2−スチリルベンゾチアゾールに電子供与基と電子吸引基を導入した化合物は、Aβと結合することで長波長領域に蛍光を発することを見出した。蛍光を発するアミロイドイメージングプローブ化合物は数多く知られているが、その大部分は短波長領域に蛍光を発するものであるため、蛍光プローブとして利用することができない。長波長領域に蛍光を発する化合物としては、AOI987(Hintersteiner M et al. (2005) Nat. Biotechnol. 23, 577-583)やNIAD-4(Evgueni E et al., (2005) Angew. Chem. Int. Ed. 44, 5452-5456) などが知られている。しかし、AOI987は分子量が大きく、イオン性化合物であるため血液脳関門の透過性が低いと考えられ、また、NIAD-4は、励起波長が短く、さらに高波長化した化合物の開発が必要であると考えられている。
【0010】
(D)電子供与基と電子吸引基を導入したベンゾチアゾール等を放射性核種で標識することにより、蛍光プローブ、放射性プローブのいずれにも使用可能なデュアルイメージングプローブとすることができるのを見出した。
【0011】
本発明は、以上の知見に基づき完成されたものである。
即ち、本発明は、以下の(1)〜(11)を提供するものである。
【0012】
(1)一般式(Ia)又は一般式(Ib)
【0013】
【化1】

【0014】
【化2】

〔式中、Xは硫黄原子又は酸素原子を表し、R、R、R、R、及びRは同一又は異なって、水素原子、ハロゲン原子、式:−(OCHCH−F [式中、nは1〜10の整数を表す。] で表される基、式:−(OCHCH−OH [式中、nは1〜10の整数を表す。] で表される基、電子供与基、又は電子吸引基を表し、Rは非芳香環基を表す。〕
で表される化合物若しくは前記化合物を標識物質で標識した化合物、又はこれらの化合物の医薬上許容される塩を含有するアミロイド関連疾患診断用組成物。
【0015】
(2)一般式(Ia)及び一般式(Ib)におけるRが水素原子、ハロゲン原子、式:−(OCHCH−F [式中、nは1〜10の整数を表す。] で表される基、式:−(OCHCH−OH [式中、nは1〜10の整数を表す。] で表される基、電子供与基、又は電子吸引基である(1)に記載のアミロイド関連疾患診断用組成物。
【0016】
(3)一般式(Ia)及び一般式(Ib)におけるR、R、R、及びRが水素原子であり、R及びRのいずれか一方が電子供与基であり、他方が電子吸引基である(1)に記載のアミロイド関連疾患診断用組成物。
【0017】
(4)電子供与基がヒドロキシル基、メトキシ基、アミノ基、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、又はメチル基であり、電子吸引基がニトロ基、シアノ基、ジシアノビニル基、又はトリシアノビニル基である(1)乃至(3)に記載のアミロイド関連疾患診断用組成物。
【0018】
(5)電子供与基がジメチルアミノ基である(1)乃至(3)に記載のアミロイド関連疾患診断用組成物。
【0019】
(6)ジメチルアミノ基が、11Cで標識されたジメチルアミノ基である(5)に記載のアミロイド関連疾患診断用組成物。
【0020】
(7)一般式(IIa)及び一般式(IIb)
【0021】
【化3】

【0022】
【化4】

〔式中、Yは硫黄原子又は酸素原子を表し、R、R、R、R10、及びR16は同一又は異なって、水素原子、ハロゲン原子、式:−(OCHCH−F [式中、nは1〜10の整数を表す。] で表される基、式:−(OCHCH−OH [式中、nは1〜10の整数を表す。] で表される基、電子供与基を表し、R11、R12、R13、R14、及びR15は同一又は異なって、水素原子、ハロゲン原子、式:−(OCHCH−F [式中、nは1〜10の整数を表す。] で表される基、式:−(OCHCH−OH [式中、nは1〜10の整数を表す。] で表される基、電子吸引基を表す。〕
で表される化合物若しくは前記化合物を標識物質で標識した化合物、又はこれらの化合物の医薬上許容される塩を含有するアミロイド関連疾患診断用組成物。
【0023】
(8)一般式(IIa)及び一般式(IIb)におけるR、R、R10、R11、R12、R14、R15及びR16が水素原子であり、Rが電子供与基であり、R13が電子吸引基である(7)に記載のアミロイド関連疾患診断用組成物。
【0024】
(9)電子供与基がヒドロキシル基、メトキシ基、アミノ基、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、又はメチル基であり、電子吸引基がニトロ基、シアノ基、ジシアノビニル基、又はトリシアノビニル基である(7)又は(8)に記載のアミロイド関連疾患診断用組成物。
【0025】
(10)電子供与基がジメチルアミノ基である(7)又は(8)に記載のアミロイド関連疾患診断用組成物。
【0026】
(11)ジメチルアミノ基が、11Cで標識されたジメチルアミノ基である(10)に記載のアミロイド関連疾患診断用組成物。
【発明の効果】
【0027】
本発明の診断用組成物により、アルツハイマー病などのアミロイド関連疾患の早期かつ正確な診断が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】ベンゾチアゾール誘導体の合成経路を示す図。図中の番号は化合物の番号を示す。
【図2】11C標識化合物4の作製法を示す図。
【図3】Aβ(1-42)凝集体の存在下および非存在下における化合物4、7の蛍光スペクトルを示す図。化合物4では、Aβ(-)の励起波長は584nmであり、Aβ(5μg/ml)の励起波長は576nmであり、Aβ(10μg/ml)の励起波長は576nmである。化合物7では、Aβ(-)の励起波長は394nmであり、Aβ(5μg/ml)の励起波長は465nmであり、Aβ(10μg/ml)の励起波長は463nmである。
【図4】チオフラビンTを用いたAβ(1-42)凝集体への競合阻害実験の結果を示す図。
【図5】病態モデルマウス (Tg2576)の脳組織切片の蛍光染色写真(左上及び左下)と、その同一切片におけるチオフラビンSによる蛍光染色写真(中央上及び中央下)を示す。右上及び右下は、野生型マウスの脳組織切片の蛍光染色写真を示す。
【図6】病態モデルマウス (Tg2576)に化合物4を投与後の脳切片の蛍光染色写真(左上及び左下)と、その同一切片における抗アミロイド抗体による免疫染色写真(右上)及びチオフラビンSによる蛍光染色写真(右下)を示す。
【図7】アルツハイマー病患者脳組織切片の蛍光染色写真(左上及び左下)と、その同一切片における抗アミロイド抗体による免疫染色写真(中央上及び中央下)を示す。右上及び右下は、健常者脳組織切片の蛍光染色写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0030】
本発明において、「ハロゲン原子」とは、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子である。
【0031】
本発明において、「非芳香環基」とは、基中に芳香環(複素芳香環を含む)を含まない基を意味する。
【0032】
本発明において、「電子供与基」とは、ハメットのσ値が負の値を示す基をいい、例えば、ヒドロキシル基、メトキシ基、アミノ基、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、メチル基などを含む。これらの基の中では、放射性核種である11Cを容易に導入できるジメチルアミノ基が好ましい。また、ハメットのσ値は負の値であればよいが、-0.1以下であることを好ましく、-0.2以下であることが更に好ましい。
【0033】
本発明において、「電子吸引基」とは、ハメットのσ値が正の値を示す基をいい、例えば、ニトロ基、シアノ基、ジシアノビニル基、トリシアノビニル基などを含む。これらの基の中では、ジシアノビニル基が好ましい。ハメットのσ値は正の値であればよいが、+0.1以上であることを好ましく、+0.2以上であることが更に好ましい。
【0034】
式:−(OCHCH−Fにおいてnは、好適には1〜3である。
式:−(OCHCH−OHにおいてnは、好適には1〜3である。
【0035】
一般式(Ia)及び(Ib)においてXは、好適には、硫黄原子である。
一般式(Ia)及び(Ib)においてRは、好適には、水素原子である。
一般式(Ia)及び(Ib)においてRは、好適には、水素原子である。
一般式(Ia)及び(Ib)においてRは、好適には、電子供与基であり、より好適には、ジメチルアミノ基である。
一般式(Ia)及び(Ib)においてRは、好適には、水素原子である。
一般式(Ia)及び(Ib)においてRは、好適には、ヒドロキシル基、メトキシ基、アミノ基、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、又は電子吸引基であり、より好適には、ヒドロキシル基、メトキシ基、アミノ基、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、又はジシアノビニル基である。
一般式(Ia)及び(Ib)においてRは、好適には、水素原子である。
【0036】
一般式(IIa)及び(IIb)においてYは、好適には、硫黄原子である。
一般式(IIa)及び(IIb)においてRは、好適には、水素原子である。
一般式(IIa)及び(IIb)においてRは、好適には、水素原子である。
一般式(IIa)及び(IIb)においてRは、好適には、電子供与基であり、より好適には、ジメチルアミノ基である。
一般式(IIa)及び(IIb)においてR10は、好適には、水素原子である。
一般式(IIa)及び(IIb)においてR11は、好適には、水素原子である。
一般式(IIa)及び(IIb)においてR12は、好適には、水素原子である。
一般式(IIa)及び(IIb)においてR13は、好適には、電子吸引基であり、より好適には、ジシアノビニル基である。
一般式(IIa)及び(IIb)においてR14は、好適には、水素原子である。
一般式(IIa)及び(IIb)においてR15は、好適には、水素原子である。
一般式(IIa)及び(IIb)においてR16は、好適には、水素原子である。
一般式(Ia)及び(Ib)で表される化合物のうち代表的なものを下表に示す。なお、表中の「Me」はメチル基を表し、「Dicyano」はジシアノビニル基、「Tricyano」はトリシアノビニル基を表す。
【0037】
【表1】

【0038】
【表2】

【0039】
【表3】

【0040】
【表4】

上記化合物のうちで、好ましい化合物として、Ia-25(化合物4)を挙げることができる。
【0041】
一般式(IIa)及び(IIb)で表される化合物のうち代表的なものを下表に示す。なお、表中の「Me」はメチル基を表し、「Dicyano」はジシアノビニル基、「Tricyano」はトリシアノビニル基を表す。
【0042】
【表5】

【0043】
【表6】

上記化合物のうちで、好ましい化合物として、IIa-19(化合物7)を挙げることができる。
【0044】
一般式(Ia)、(Ib)、(IIa)及び(IIb)で表される化合物(以下、「一般式(Ia)等で表される化合物」という)は、後述する実施例の記載、及びHrobarik P et al., Preparation of novel push-pull benzothiazole derivatives with reverse polarity: compounds with potential non-linear optic application, Synthesis, 2005, 4, 600-604などの記載に従って合成することができる。
【0045】
一般式(Ia)等で表される化合物は、この化合物自体が標識されているか、又は標識化合物と結合していることが好ましい。標識の種類は特に限定されないが、蛍光標識又は放射性標識が好ましい。また、蛍光標識と放射性標識の両方によって標識されていてもよい。蛍光標識を用いる場合は一般式(Ia)等で表される化合物に蛍光物質を結合させてもよいが、一般式(Ia)等で表される化合物に蛍光性を持たせることが好ましい。蛍光性を持たせる方法は特に限定されず、例えば、分子中に電子供与基と電子吸引基を導入し、分子内電荷移動(ICT)型構造をつくる方法などを示すことができる。放射性標識を用いる場合は一般式(Ia)等で表される化合物が放射性核種を含むようにしてもよく、一般式(Ia)等で表される化合物に放射性核種を結合させてもよい。放射性核種の種類は特に限定されず、使用の態様によって適宜決めることができる。例えば、一般式(Ia)等で表される化合物をコンピューター断層撮影法(SPECT)による診断に使用する場合はγ線放出核種を使用することができ、陽電子断層撮影法(PET)による診断に使用する場合は陽電子放出核種を使用することができる。γ線放出核種としては、99mTc、111In、67Ga、201Tl、123I、133Xeなどを例示でき、これらの中でも99mTc、123Iが好ましく、99mTcが特に好ましい。陽電子放出核種としては、11C、13N、15O、18F、62Cu、68Ga、76Brなどを例示でき、これらの中でも11C、13N、15O、18Fが好ましく、11Cが特に好ましい。また、一般式(Ia)等で表される化合物をヒト以外の動物に投与する場合には、より半減期の長い放射性核種、例えば、125Iなどを使用してもよい。一般式(Ia)等で表される化合物に放射性核種を結合させる方法は、各放射性核種において一般的に用いられている方法でよい。また、一般式(Ia)等で表される化合物に放射性核種を結合させる場合、放射性核種のみを結合させてもよいが、他の物質と結合した状態の放射性核種を結合させてもよい。前述した99mTcは、通常、錯体の形で被標識化合物に結合させるので、一般式(Ia)等で表される化合物に結合させる場合も、99mTcを含む錯体を結合させてもよい。99mTcを含む錯体としては、2−ヒドラジノピリジンを含む錯体(Liu S et al, Bioconjug Chem. 1996 Jan-Feb;7(1):63-71.)、N−(2−メルカプトエチル)−2−〔(2−メルカプトエチル)アミノ〕−アセトアミドを含む錯体(Zhen W et al, J Med Chem. 1999 Jul 29;42(15):2805-15.)、2,2’−(1,2−エタンジイルジイミノ)ビスエタンチオールを含む錯体(Oya S et al, Nucl Med Biol. 1998 Feb;25(2):135-40.)、トリカルボニル錯体(Schibli R et al, Bioconjug Chem. 2000 May-Jun;11(3):345-51)などを例示できる。
【0046】
一般式(Ia)等で表される化合物の代わりに、医薬上許容される塩を使用することも可能である。医薬上許容される塩としては、アルカリ金属塩(ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩)、アルカリ土類金属塩(カルシウム塩、マグネシウム塩)、硫酸塩、塩酸塩、硝酸塩、リン酸塩などを例示できる。
【0047】
一般式(Ia)等で表される化合物は、アミロイドと結合する。ここで、「アミロイド」とは、主としてAβを意味するが、タウ蛋白やプリオンなども含む。従って、「アミロイド関連疾患」には、アルツハイマー病のほか、ダウン症候群、オランダ型アミロイドーシスを伴う遺伝性脳出血症(hereditary cerebral hemorrhage with amyloidosis─Dutch type: HCHWA-D)、クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)やウシ海綿状脳症(BSE)などの疾患も含まれる。また、一般には「疾患」と認識されない疾患の前駆症状も、本発明における「アミロイド関連疾患」に含まれる。このような疾患の前駆症状としては、アルツハイマー病の発症前にみられる軽度認知障害(MCI)などを例示できる。
【0048】
本発明の組成物によるアミロイド関連疾患の診断は、通常、本発明の組成物を診断対象者又は実験動物などに投与し、その後、脳の画像を撮影し、画像における一般式(Ia)等で表される化合物の状態(量、分布等)に基づいて行う。本発明の組成物の投与方法は特に限定されず、化合物の種類、標識物質の種類などに応じて適宜決めることができるが、通常は、皮内、腹腔内、静脈、動脈、又は脊髄液への注射又は点滴等によって投与する。本発明の組成物の投与量は特に限定されず、化合物の種類、標識物質の種類などに応じて適宜決めることができるが、成人の場合、一般式(Ia)等で表される化合物を1日当たり10-10〜10-3mg投与するのが好ましく、10-8〜10-5 mg投与するのが更に好ましい。
【0049】
上記のように本発明の組成物は、通常、注射又は点滴によって投与するので、注射液や点滴液に通常含まれる成分を含んでいてもよい。このような成分としては、液体担体(例えば、リン酸カリウム緩衝液、生理食塩水、リンゲル液、蒸留水、ポリエチレングリコール、植物性油脂、エタノール、グリセリン、ジメチルスルホキサイド、プロピレングリコールなど)、抗菌剤、局所麻酔剤(例えば、塩酸プロカイン、塩酸ジブカインなど)、緩衝液(例えば、トリス−塩酸緩衝液、ヘペス緩衝液など)、浸透圧調節剤(例えば、グルコース、ソルビトール、塩化ナトリウムなど)を例示できる。
【実施例】
【0050】
〔実験方法〕
(1)合成
ベンゾ[d]チアゾール-6-アミン(化合物1)の合成
6-ニトロベンゾチアゾール(2.5 g, 13.9 mmol)を80%エタノール(63 ml)に懸濁させ、濃塩酸(1.925 ml, 22.7 mmol)を加えた。続いて鉄パウダー(3678 mg, 55.6 mmol)を加え激しく撹拌しながら1時間加熱還流した。反応終了後、不純物を濾過した後、溶媒を減圧留去し、10% Na2CO3水溶液(50 ml)を加え、酢酸エチル(50 ml×2)で抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄し無水硫酸ナトリウムで脱水後、溶媒を減圧留去し、目的物である化合物1を収量1.91 g(収率91.7%)で得た。1H NMR(400 MHz,CDCl3)δ 8.7 (s, 1H), 7.89 (d, J = 8.8 Hz, 1H), 7.17 (d, J = 2.4 Hz, 1H), 6.87 (dd, J = 8.8, 2.4 Hz, 1H), 3.85 (br, s, 2H). MS m/z 151[MH+].
【0051】
N,N-ジメチルベンゾチアゾール-6-アミン(化合物2)の合成
化合物1 (1471 mg, 9.8 mmol)をTHF(40 ml)に溶解させ、37% ホルムアルデヒド水溶液(7.24 ml, 98 mmol)と30% 硫酸(7.95 ml, 29.4 mmol)をゆっくり加えた。続いて鉄パウダー(4361 mg, 78.4 mmol)を加え3時間激しく撹拌した。反応終了後、不純物を濾過した後、溶媒を減圧留去し、1N NaOH(50 ml)を加え、酢酸エチル(50 ml×2)で抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄し無水硫酸ナトリウムで脱水後、溶媒を減圧留去し、残渣を酢酸エチル/へキサン(1/4)を溶出溶媒とするシリカゲルカラムクロマトグラフィに付し、目的物である化合物2を収量460 mg (26.3%)で得た。1H NMR(400 MHz, CDCl3)δ 8.67 (s, 1H), 7.95 (d, J = 8.8 Hz, 1H), 7.15 (d, J = 2.4 Hz, 1H), 7.00 (dd, J=8.8, 2.4Hz, 1H), 3.04 (s, 6H). MS m/z 179[MH+].
【0052】
6-(ジメチルアミノ)ベンゾ[d]チアゾール-2-カルバルデヒド(化合物3)の合成
化合物2 (220 mg, 1.23 mmol)をTHF (5.8 ml)に溶解させ、−78℃で2.6 M ブチルリチウムへキサン溶液(0.5 ml, 1.3 mmol)をゆっくり加えた。−78℃で1時間撹拌した後、DMF (0.383 ml)を加え、室温で2時間撹拌した。反応終了後、精製水(9 ml)を加え、飽和NH4Cl水溶液で中和し、酢酸エチル(20 ml×2)で抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄し無水硫酸ナトリウムで脱水後、溶媒を減圧留去し、目的物である化合物3を収量255 mg (収率97.3%)で得た。1H NMR(400 MHz, CDCl3)δ 10.06 (s, 1H), 8.03 (d, J = 10.0 Hz, 1H), 7.07-7.04 (m, 2H), 3.12 (s, 6H). MS m/z 207[MH+].
2-((6-(ジメチルアミノ)ベンゾ[d]チアゾール-2-イル)メチレン)マロノニトリル(化合物4)の合成
【0053】
化合物3 (124 mg, 0.6 mmol)とマロノニトリル (60 mg, 0.9 mmol)を2-プロパノール(7.2 ml)に溶解させ、ピリジン(0.12 ml)を加え、撹拌下1時間加熱還流させた。反応終了後、精製水(18 ml)を加え、クロロホルム(20 ml×3)で抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄し無水硫酸ナトリウムで脱水後、溶媒を減圧留去し、目的物である化合物4を収量152 mg (収率91.7%)で得た。1H NMR(400 MHz, CDCl3)δ 7.99 (s, 1H), 7.99 (d, J = 9.2 Hz, 1H), 7.08 (dd, J = 9.2, 2.4 Hz, 1H), 7.02 (d, J = 2.4 Hz, 1H), 3.16 (s, 6H). MS m/z 255[MH+].
(E)-4-(2-(6-(ジメチルアミノ)ベンゾ[d]チアゾール-2-イル)ビニル)ベンゾニトリル(化合物5)の合成
【0054】
(4-シアノベンジル)ホスホネート(403.6 mg, 1.6 mmol)をメタノール(12.8 ml)に溶解させ、ナトリウムメチラート溶液(0.632 ml)を加えた。続いて、氷冷下、化合物3 (330 mg, 1.6 mmol)を加え、撹拌化3時間加熱還流した。反応終了後、析出した結晶を吸引濾取し、目的物である化合物5を収量385 mg (78.8%)で得た。1H NMR(400 MHz, CDCl3)δ 7.84 (d, J = 9.6 Hz, 1H), 7.64 (dd, J = 21.2, 8.0 Hz , 4H), 7.45 (d, J = 16.4 Hz, 1H), 7.32 (d, J = 16.4 Hz, 1H), 7.06 (d, J = 2.8 Hz, 1H), 6.95 (dd, J = 9.6, 2.8 Hz, 1H), 3.06 (s, 6H). MS m/z 306[MH+].
【0055】
(E)-4-(2-(6-(ジメチルアミノ) ベンゾ[d]チアゾール-2-イル)ビニル)ベンズアルデヒド(化合物6)の合成
化合物5 (61 mg, 0.2 mmol)をTHF (3.3 ml)に溶解させ、−78℃で1 M DIBAL-Hへキサン溶液(0.5 ml, 0.5 mmol)をゆっくり加えた。徐々に室温に戻し、一晩撹拌した。反応終了後、10%酢酸水溶液(15 ml)を加え、クロロホルム(20 ml×2)で抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄し無水硫酸ナトリウムで脱水後、溶媒を減圧留去し、残渣を酢酸エチル/へキサン(1/2)を溶出溶媒とするシリカゲルカラムクロマトグラフィに付し、目的物である化合物6を収量28 mg (45.4%)で得た。1H NMR(400 MHz, CDCl3)δ 10.02 (s, 1H), 7.90 (d, J = 8.4 Hz, 2H), 7.85 (d, J = 8.2 Hz, 1H), 7.67 (d, J = 8.4 Hz, 2H), 7.50 (d, J = 16.4 Hz, 1H), 7.38 (d, J = 16.4 Hz, 1H), 7.07 (d, J = 2.4 Hz, 1H), 6.96 (dd, J = 8.8, 2.4 Hz, 1H), 3.06 (s, 6H). MS m/z 309[MH+].
【0056】
(E)-2-(4-(2-(6-(ジメチルアミノ) ベンゾ[d]チアゾール-2-イル)ビニル)ベンジリデン) マロノニトリル(化合物7)の合成
化合物6 (62 mg, 0.2 mmol)とマロノニトリル(20mg, 0.3 mmol)を2-プロパノール(12 ml)に溶解させ、ピリジン(0.16 ml)を加え、撹拌下3時間加熱還流させた。反応終了後、析出した結晶を吸引濾取し、目的物である化合物7を収量45 mg (63.5%)で得た。1H NMR(400 MHz, CDCl3)δ 7.94 (d, J = 8.4 Hz, 2H), 7.86 (d, J = 8.8 Hz, 1H), 7.73 (s, 1H), 7.68 (d, J = 8.4 Hz, 2H), 7.53 (d, J = 16.4 Hz, 1H), 7.35 (d, J = 16.4 Hz, 1H), 7.08 (s, 1H), 6.97 (d, J = 10.0 Hz , 1H), 3.08 (s, 6H). MS m/z 357[MH+].
【0057】
N-メチルベンゾチアゾール-6-アミン(化合物8)の合成
化合物1 (200 mg, 1.33 mmol)とパラホルムアルデヒド (56 mg, 1.86 mmol)をメタノール(12 ml)に溶解させ、氷冷下、ナトリウムメチラート溶液(0.8 ml)を加え、撹拌下過熱還流した。1時間後にNaBH4 (75.6 mg, 2 mmol)を加え、さらに1時間反応させた。反応終了後、氷冷下、1N NaOH (30 ml)を加え、酢酸エチル (30 ml × 2)で抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄し無水硫酸ナトリウムで脱水後、溶媒を減圧留去し、残渣を酢酸エチル/へキサン(1/2)を溶出溶媒とするシリカゲルカラムクロマトグラフィに付し、目的物である化合物8を収量197 mg (92.3%)で得た。1H NMR(400 MHz, CDCl3)δ 8.66 (s, 1H), 7.88 (d, J = 8.8 Hz, 1H), 7.04 (d, J = 2.4 Hz, 1H), 6.81 (dd, J = 8.8, 2.4Hz, 1H), 3.94 (br, s, 1H), 2.91 (s, 3H). MS m/z 165[MH+].
【0058】
6-(メチルアミノ)ベンゾチアゾール-2-カルバルデヒド(化合物9)の合成
化合物2 (283 mg, 1.72 mmol)をTHF (8.4 ml)に溶解させ、−78℃で2.6 M ブチルリチウムへキサン溶液 (0.7 ml, 7.82 mmol)をゆっくり加えた。−78℃で1時間撹拌した後、DMF (0.67 ml)を加え、室温で30分撹拌した。反応終了後、精製水(8 ml)を加え、飽和NH4Cl水溶液で中和し、酢酸エチル(30 ml×2)で抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄し無水硫酸ナトリウムで脱水後、溶媒を減圧留去し、残渣を酢酸エチル/へキサン(1/2)を溶出溶媒とするシリカゲルカラムクロマトグラフィに付し、目的物である化合物9を収量251 mg (73.8%)で得た。1H NMR(400 MHz, CDCl3)δ 10.05 (s, 1H), 7.95 (d, J = 8.8 Hz, 1H), 6.97 (d, J = 2.4 Hz, 1H), 6.87 (dd, J = 8.8, 2.4Hz, 1H), 4.31 (br, s, 1H), 2.95(s, 3H). MS m/z 193[MH+].
【0059】
2-((6-(Methylamino)benzo[d]thiazol-2-yl)methylene)malononitrile (10)の合成
化合物9 (57.6 mg, 0.3 mmol)とマロノニトリル (29.7 mg, 0.45 mmol)を2-プロパノール (3.6 ml)に溶解させ、ピリジン (0.06 ml)を加え、室温で3時間撹拌した。反応終了後、析出した結晶を吸引濾取し、目的物である化合物10を収量60 mg (83.2%)で得た。1H NMR(400 MHz, CDCl3)δ 7.94(s, 1H), 7.93 (d, J = 9.2 Hz, 1H), 6.94 (d, J = 2.4 Hz, 1H), 6.89 (dd, J = 9.2, 2.4Hz, 1H), 4.51 (br, s, 1H), 2.98(s, 3H). MS m/z 241[MH+].
【0060】
(E)-4-(2-(6-(メチルアミノ)ベンゾ[d]チアゾール-2-イル)ビニル)ベンゾニトリル(化合物11の合成
(4-シアノベンジル)ホスホネート (39.4 mg, 0.156 mmol)をメタノール(1.3 ml)に溶解させ、ナトリウムメチラート溶液 (0.064 ml)を加えた。続いて、氷冷下、化合物10 (30 mg, 0.156 mmol)を加え、撹拌化3時間加熱還流した。反応終了後、析出した結晶を吸引濾取し、目的物である化合物11を収量39 mg (85.7%)で得た。1H NMR(400 MHz, CDCl3)δ 7.79 (d, J = 8.8 Hz, 1H), 7.65 (dd, J = 20.8, 8.8 Hz , 4H), 7.45 (d, J = 16.4 Hz, 1H), 7.33 (d, J = 16.0 Hz, 1H), 6.97 (d, J = 2.4 Hz, 1H), 6.91 (dd, J = 8.8, 2.0 Hz, 1H), 2.93 (s, 3H). MS m/z 292[MH+].
【0061】
(E)-4-(2-(6-(メチルアミノ)ベンゾ[d]チアゾール-2-イル)ビニル)ベンズアルデヒド(化合物12)の合成
化合物11 (38 mg, 0.13 mmol)をTHF (2 ml)に溶解させ、氷冷下、1 M DIBAL-Hへキサン溶液 (0.4 ml, 0.4 mmol)をゆっくり加え、撹拌下3時間加熱還流した。反応終了後、10%酢酸水溶液 (10 ml)を加え、クロロホルム(20 ml×2)で抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄し無水硫酸ナトリウムで脱水後、溶媒を減圧留去し、残渣を酢酸エチル/へキサン(1/1)を溶出溶媒とするシリカゲルカラムクロマトグラフィに付し、目的物である化合物12を収量9.3 mg (24.2%)で得た。1H NMR(400 MHz, CDCl3)δ 10.02 (s, 1H), 7.90 (d, J = 8.4 Hz, 2H), 7.79 (d, J = 9.2 Hz, 1H), 7.70 (d, J = 8.04 Hz, 2H), 7.5 (d, J = 16.0 Hz, 1H), 7.38 (d, J = 16.0 Hz, 1H), 6.97 (d, J = 2.0 Hz 1H), 6.79 (dd, J = 8.8, 2.4 Hz , 1H), 2.93 (s, 3H). MS m/z 295[MH+].
【0062】
(E)-2-(4-(2-(6-(メチルアミノ)ベンゾ[d]チアゾール-2-イル)ビニル) ベンジリデン) マロノニトリル(化合物13)の合成
化合物6 (9 mg, 0.035 mmol)とマロノニトリル(3.20 mg, 0.0525 mmol)を2-プロパノール(2 ml)に溶解させ、ピリジン(0.01ml)を加え、撹拌下4時間加熱還流させた。反応終了後、析出した結晶を吸引濾取し、目的物である化合物13を収量4 mg (38.2%)で得た。1H NMR(400 MHz, CDCl3)δ 7.94 (d, J = 8.4 Hz, 2H), 7.80 (d, J = 8.8 Hz, 1H), 7.73(s, 1H), 7.68(d, J = 8.4 Hz, 2H), 7.53 (d, J = 16.0 Hz, 1H), 7.37 (d, J = 16.4 Hz, 1H), 7.00 (s, 1H), 6.82 (d, J = 10.4 Hz , 1H), 3.01(s, 3H). MS m/z 343[MH+].
【0063】
[11C]-2-((6-(ジメチルアミノ)ベンゾ[d]チアゾール-2-イル)メチレン) マロノニトリル(化合物4)の合成
化合物10 (1 mg)をメチルエチルケトン500 μlに溶かし、11CH3OTfと反応させた。反応終了後、窒素ガスにより、未反応の11CH3OTf を除去した後HPLCにより精製した、[11C]4を放射化学的収率2.02%、放射化学的純度42%で得た。
【0064】
(2)Aβ(1-42)凝集体の調製
1 mM EDTAを含んだPBSを用い、Aβ(1-42)が0.25 mg/mlの濃度になるように調製した。37℃で42時間インキュベートし、これをAβ(1-42)凝集体溶液とした。凝集体溶液は、種々の実験に用いるまで、-80℃で保存した。
【0065】
(3)蛍光特性の検討
化合物4、7を5%エタノール溶液に溶かし10 μMとし、その蛍光強度が最大になる蛍光スペクトルを測定した。またAβ(1-42)凝集体存在下(5 μg/ml, 10μg/ml)でも同様の検討を行った。
【0066】
(4)抗Aβ(1-42)抗体を使用した免疫染色
免疫染色における抗体には、抗Aβ(1-42)モノクローナル抗体(クローン)を使用した。パラフィン切片は、キシレン洗浄(5分×2),100%EtOH, 100%EtOH,95%EtOH,85%EtOH,70%EtOH洗浄(1分×1)することで、脱パラフィン処理を行った。また、蟻酸(90%)処理の後に0.05%トリプシン溶液と反応させることで抗原の賦活化を行った。その後凍結切片、パラフィン切片共に以下の操作に従い、免疫染色を行った。PBS-Tween20に2分間浸した後、ブロッキング用血清と室温で30分間反応させた。その後余分な水分を除き、坑Aβ(1-42)抗体溶液と室温で一晩反応させた。PBS-Tween20で2分間×3回洗浄した後、坑マウスIgG(H+L)、ヤギ、ビオチン結合溶液と室温で3時間反応させた。その後PBS-Tween20で2分間×3回洗浄した、ストレプトアビジンビオチンペルオキシダーゼ複合体溶液と室温で30分間反応させた。PBS-Tween20で2分間×3回洗浄後ジアミノベンジン溶液と室温で2-10分間反応させた。蒸留水で1分間洗浄し反応を停止させ、封入後、顕微鏡で観察した。
【0067】
(5)ADモデルマウス脳切片を用いた蛍光染色
ADモデルマウスとしてTg2576マウス(27ヶ月齢)を用いた。脳組織を取り出し、凍結包埋剤(Super Cryoembedding Medium)に入れドライアイスにより凍結させた後、クリオスタットを用い厚さ10 μmの連続切片を作製した。切片は実験に用いるまで、-80℃で保存した。化合物4,7を50%EtOH溶液を用いそれぞれ100 μMに希釈した。切片を室温に戻し風乾後、調製した化合物と10分間反応させた。50%EtOHで1分×2回洗浄後、蛍光顕微鏡で観察した。さらに隣接切片において、チオフラビンSによる蛍光染色を、上記の方法に従い行った。またWildマウス脳切片を用いて同様の実験を行った。
【0068】
(6)ADモデルマウスを用いたex vivo 蛍光染色
30%EtOH含有注射用水を用いて希釈した化合物4を、Tg2576マウス(27ヶ月齢)に、尾静脈より投与した。投与30分後に断頭し、脳組織を取り出した。取り出した脳組織は、凍結包埋剤(Super Cryoembedding Medium)に入れドライアイスにより凍結させた。クリオスタットを用い厚さ10 μmの連続切片を作製し、蛍光顕微鏡で観察した。さらに同一切片において、チオフラビンSによる蛍光染色及び坑Aβ(1-42)抗体による免疫染色を上記の方法に従い行った。
【0069】
(7)AD患者脳切片を用いた蛍光染色
AD患者脳切片(5 μm)を上記の方法で脱パラフィン処理後、風乾し、50%EtOH溶液を用い100 μMに希釈した化合物4,7と10分間反応させた。50%EtOHで1分×2回洗浄後、蛍光顕微鏡で観察した。さらに同一切片において、坑Aβ(1-42)抗体による免疫染色を上記の方法に従い行った。また健常人脳切片を用いて同様の実験を行った。
【0070】
(8)チオフラビンT(ThT)を用いたAβ(1-42)凝集体への競合阻害実験
化合物4,7およびPIBを順次希釈していき最終濃度0.0611 μMから5.48 μMになるように調製した。チオフラビンT(3 μM)の蛍光スペクトルを励起波長445 nmで計測した後、Aβ(1-42)凝集体溶液(10 μg/ml)を加え同様に蛍光スペクトルを計測した。さらに希釈した種々の化合物を加え同様に蛍光スペクトルを計測し、種々の濃度における蛍光波長478 nmの蛍光強度を元に阻害曲線を作成し、IC50を算出した。
【0071】
〔実験結果〕
(1)ベンゾチアゾール誘導体の合成
ベンゾチアゾール誘導体の合成・11C標識経路を図1および2に示した。化合物4は、6-ニトロベンゾチアゾールを出発原料にして、ニトロ基の還元によるアミノ基の生成、アミノ基のメチル化によるジメチルアミノ化、さらにベンゾチアゾール骨格へのホルミル化反応、ジシアノ化反応を経て、総収率81.5%で合成した(図1A)。化合物7は、4-シアノベンジルホスホネートを出発原料にして、化合物3とのウィティッヒ反応により化合物5を、さらに化合物5のシアノ基をホルミル化後,ジシアノビニル基を導入することにより、総収率23%で合成した(図1B)。また、分子内にモノメチルアミノ基を有する化合物10、13は、化合物4、7の合成過程で用いたジメチルアミノベンゾチアゾールをメチルアミノベンゾチアゾールに変換し、同様の合成経路に従って合成を行った(図1CD)。いずれの化合物も1H-NMRおよび質量分析により構造を確認した。化合物4の11C標識は、11C標識メチルトリフレートを用いた常法に従って行った(図2)。
【0072】
(2)アミロイドβ存在下および非存在化におけるベンゾチアゾール誘導体の蛍光スペクトルの変化
合成した化合物4、7の蛍光特性を検討するため、それぞれの化合物を5%エタノール水溶液に溶解し、蛍光光度計により蛍光スペクトルを測定した(図3)。その結果、化合物4は、584 nmの励起波長で、660 nm付近に極大蛍光波長を生じ、化合物7は、394 nmの励起波長で、550 nm付近に極大蛍光波長を生じた。さらに、Aβ(1-42)凝集体の存在下、非存在下での蛍光スペクトルを測定したところ、化合物4、7ともに、Aβ(1-42)凝集体の存在しない場合には観察されない低波長側に新たな蛍光が認められ、Aβ(1-42)凝集体の濃度依存的な蛍光強度の増加が認められた。この結果より、化合物4、7はAβ(1-42)凝集体に結合性を示すことが示唆された。
【0073】
(3)チオフラビンTを用いたAβ(1-42)凝集体との結合阻害実験
化合物4、7のAβ(1-42)凝集体への結合性を定量的に評価するため、チオフラビンTを用いたAβ(1-42)凝集体との結合阻害実験を行った(図4)。その結果、化合物4、7はいずれも濃度依存的に、ThTのAβ凝集体への結合を阻害した。化合物4、7のIC50は、それぞれ0.12 nM、0.11 nMであり、PIBの0.67 nMと比べて低い値を示した(表7)。したがって、化合物4、7のアミロイド凝集体への結合性は、同程度であり、その結合性はPIBに比べ約5倍高いことが示された。
【0074】
【表7】

(4)病態モデルマウス脳組織切片を用いた蛍光染色
化合物4、7のアミロイド斑への結合性を検討するため、病態モデルマウス脳組織切片を用いたインビトロ結合実験を行った(図5)。その結果、いずれの化合物で処理した場合も、マウス脳切片上のアミロイド斑への蛍光が観察され、同一切片をチオフラビンSによる蛍光染色を施したところ、化合物4、7由来の蛍光像と一致した。野生型マウスで同様の実験を行った場合、脳切片上の顕著な蛍光像は観察されなかった。この結果より、化合物4、7は、マウスの脳内に沈着したアミロイド斑に結合性を有することが示された。また本結果は、合成アミロイドβペプチドを用いた阻害実験の結果をよく反映したものであると考えられた。
【0075】
(5)病態モデルマウスを用いたインビボ実験
さらに化合物4について、生体に投与後のアミロイド斑への結合性を検討するために,病態モデルマウスに投与後に凍結脳切片を作製し、切片上の化合物の蛍光を観察し、その後、抗アミロイドβ抗体による免疫染色を行った(図6)。その結果、マウス脳切片中には、化合物4由来の蛍光が観察され、その蛍光像は、免疫染色およびチオフラビンSの陽性部位と一致した。この結果より、化合物4の生体アミロイドのイメージングプローブとして応用可能であることが示唆された。
【0076】
(6)アルツハイマー病患者脳組織切片を用いたインビトロ蛍光染色実験
過去の報告おいて、アルツハイマー病患者の脳内に蓄積するアミロイド斑は、マウス脳内に蓄積するアミロイド斑とコンフォメーションが異なり、プローブとの結合性にも両者で相違が認められる場合がある。そこで、さらに化合物4、7のアミロイド斑への結合性を検討するため、アルツハイマー病患者脳組織切片を用いたインビトロ結合実験を行った(図7)。その結果、いずれの化合物で処理した場合も、マウスおよび患者脳切片上のアミロイド斑への蛍光が観察され、同一切片を抗アミロイドβ抗体による免疫染色を施したところ、化合物由来の蛍光像と一致した。健常人の脳組織切片を用いて同様の検討を行ったところ、顕著な蛍光は観察されなかった。この結果より、化合物4、7は、マウス脳内アミロイド斑だけではなく、ヒトの脳内に沈着したアミロイド斑にも結合性を有することが示され、ヒト脳内に沈着したアミロイドの生体イメージングへの適用の可能性が示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0077】
一般式(Ia)、(Ib)、(IIa)、又は(IIb)で表される化合物は、Aβに対し高い結合特異性を持ち、また、脳内老人斑以外の部位からの速やかに消失する性質を持つので、アルツハイマー病などのアミロイド関連疾患の診断用組成物として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(Ia)又は一般式(Ib)
【化1】

【化2】

〔式中、Xは硫黄原子又は酸素原子を表し、R、R、R、R、及びRは同一又は異なって、水素原子、ハロゲン原子、式:−(OCHCH−F [式中、nは1〜10の整数を表す。] で表される基、式:−(OCHCH−OH [式中、nは1〜10の整数を表す。] で表される基、電子供与基、又は電子吸引基を表し、Rは非芳香環基を表す。〕
で表される化合物若しくは前記化合物を標識物質で標識した化合物、又はこれらの化合物の医薬上許容される塩を含有するアミロイド関連疾患診断用組成物。
【請求項2】
一般式(Ia)及び一般式(Ib)におけるRが水素原子、ハロゲン原子、式:−(OCHCH−F [式中、nは1〜10の整数を表す。] で表される基、式:−(OCHCH−OH [式中、nは1〜10の整数を表す。] で表される基、電子供与基、又は電子吸引基である請求項1に記載のアミロイド関連疾患診断用組成物。
【請求項3】
一般式(Ia)及び一般式(Ib)におけるR、R、R、及びRが水素原子であり、R及びRのいずれか一方が電子供与基であり、他方が電子吸引基である請求項1に記載のアミロイド関連疾患診断用組成物。
【請求項4】
電子供与基がヒドロキシル基、メトキシ基、アミノ基、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、又はメチル基であり、電子吸引基がニトロ基、シアノ基、ジシアノビニル基、又はトリシアノビニル基である請求項1乃至3のいずれか一項に記載のアミロイド関連疾患診断用組成物。
【請求項5】
電子供与基がジメチルアミノ基である請求項1乃至3のいずれか一項に記載のアミロイド関連疾患診断用組成物。
【請求項6】
ジメチルアミノ基が、11Cで標識されたジメチルアミノ基である請求項5に記載のアミロイド関連疾患診断用組成物。
【請求項7】
一般式(IIa)及び一般式(IIb)
【化3】

【化4】

〔式中、Yは硫黄原子又は酸素原子を表し、R、R、R、R10、及びR16は同一又は異なって、水素原子、ハロゲン原子、式:−(OCHCH−F [式中、nは1〜10の整数を表す。] で表される基、式:−(OCHCH−OH [式中、nは1〜10の整数を表す。] で表される基、電子供与基を表し、R11、R12、R13、R14、及びR15は同一又は異なって、水素原子、ハロゲン原子、式:−(OCHCH−F [式中、nは1〜10の整数を表す。] で表される基、式:−(OCHCH−OH [式中、nは1〜10の整数を表す。] で表される基、電子吸引基を表す。〕
で表される化合物若しくは前記化合物を標識物質で標識した化合物、又はこれらの化合物の医薬上許容される塩を含有するアミロイド関連疾患診断用組成物。
【請求項8】
一般式(IIa)及び一般式(IIb)におけるR、R、R10、R11、R12、R14、R15及びR16が水素原子であり、Rが電子供与基であり、R13が電子吸引基である請求項7に記載のアミロイド関連疾患診断用組成物。
【請求項9】
電子供与基がヒドロキシル基、メトキシ基、アミノ基、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、又はメチル基であり、電子吸引基がニトロ基、シアノ基、ジシアノビニル基、又はトリシアノビニル基である請求項7又は8に記載のアミロイド関連疾患診断用組成物。
【請求項10】
電子供与基がジメチルアミノ基である請求項7又は8に記載のアミロイド関連疾患診断用組成物。
【請求項11】
ジメチルアミノ基が、11Cで標識されたジメチルアミノ基である請求項10に記載のアミロイド関連疾患診断用組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−189359(P2010−189359A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−37773(P2009−37773)
【出願日】平成21年2月20日(2009.2.20)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【Fターム(参考)】