説明

ベンチュリー式水洗塗装ブースの渦巻室水槽

【課題】
ブース水槽中にその下部が常に浸漬し、渦巻室に水を供給するためだけの水槽を渦巻室の気流吸込部に設け、この水槽のアンダーフロー導入部を通ってブース水槽中の水が常に供給されるようにして水位管理を安定させた水洗塗装ブースの渦巻室水槽を提供する。
【解決手段】
ブース水槽2中にその下部が常に浸漬し、渦巻室7に水を供給するためだけの渦巻室水槽20を渦巻室の気流吸込部6に設け、該渦巻室水槽の下部に設けたアンダーフロー導入部を通ってブース水槽中の水が供給されるように構成した。アンダーフロー導入部は渦巻室水槽の側面下部に設けた隙間26とした。または、アンダーフロー導入部は渦巻室水槽の底部に設けた隙間28とし、この隙間は横方向に等間隔に形成され、吸込み水量を調整できるよう隙間の閉塞手段を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遠心力を用いて水との気液接触で塗料ミストを捕集する方式のベンチュリー式水洗塗装ブースの渦巻室水槽に関する。
【背景技術】
【0002】
噴霧塗装時に発生する塗料ミストを捕集する方法として、塗料ミストを含む空気流を水洗シャワー室に導き、ポンプで循環する水をシャワーノズルより噴射して塗料ミストを捕集するシャワー式水洗塗装ブースに対して、
ポンプを使用せずにターボファン等を用いて塗料ミストを含む空気流を、ブース水槽の水面部に設けた隙間に強制的に通過させることによって、水面部の水を渦巻室に吸引し、塗料ミストを水滴化して捕集する方式のベンチュリー式水洗塗装ブース(以下、ベンチュリーブースという。)がある。この方式は、シャワー式水洗塗装ブースと異なり、水をポンプで循環する必要がないためシャワーノズル、配管などの詰まりがなく、ポンプのメンテナンスが不要で、塗料ミストの捕集効率がよい利点をもっている。
【0003】
図7に一般的なベンチュリーブースの構成を示す。ブース本体1は下部にブース水槽2を備え、前面パネル3により区画された塗装作業を行う塗装室Aと、オーバースプレーされた塗料ミストを捕捉する処理室Bより構成されている。処理室Bは前面パネル3の下方を立面4とし、ブース水槽2内に基端を没する渦巻板5との間の隙間を気流吸込部6とした渦巻室7に、排気ファン8により塗料ミストを含んだ気流と水槽水を吸込み、渦巻室7での遠心力により水と塗料ミストが気液接触し、塗料ミストは水滴化されてブース水槽2中に捕集される。尚、9は水切りのエリミネータ、10はブース水槽2中に設けられた排水槽、11は排水槽に接続する水中ダクトで、排水槽の水をブース水槽2に循環させている。12はブース水槽2中に設置された仕切板で、塗料スラッジSが気流吸込部6に吸い込まれないように流動を規制している。
【0004】
しかし、上記のような構成のベンチュリーブースでは、水槽水は常に気流と接触しているために蒸散すると同時に、渦巻室7内での気液接触により霧状となり気流と共に排気されることで水槽中の水量は減少する。従って、図8に示すように、ブースの運転時において上限水位Cと下限水位Dで渦巻室7の吸込水量差が大きいと渦巻室7での気液接触状態が不安定となる。従って、ブースの吸込み性能を維持するには、渦巻室7で気液接触する空気とブース水槽2の水の量を一定に保つ必要がある。空気量は排気ファン8の出力によって決まるので、ブース水槽2の水位の上下限幅を一定に保つ必要がある。従って、この水位の上下限幅が狭いと給水等の水位管理頻度が高くなり不便となる。
【0005】
尚、人手による給水等の管理では、給水作業に時間がとられ生産作業効率が低下したり、給水のし忘れの場合、渦巻室7内での気液接触が生ぜず塗料ミストが捕集されずにそのままダクトを通して外部に排出され、近隣からの苦情が発生する。また、給水し過ぎの場合、水面と気流吸込部6の間隙がなくなり、塗料ミストを含んだ気流が渦巻室7に吸い込まれず作業室A内に塗料ミストがこもってしまうことになる。更には、給水の止め忘れによりブース水槽2の水があふれることにもなる。
【0006】
また、水膜板を用いた水洗ブースで、水槽の水位の変動による不具合を解決するため水膜板の下部に流水を一次貯蔵するオーバーフロー樋を配置し、このオーバーフロー樋の水を気流と共に吸い込むように構成した例が特開昭61−35878号公報(特許文献1)に見受けられる。
【0007】
また、本出願人により、水槽の水位管理装置として特許文献2が提案され、自動給水方法として特許文献3が、また水の補給装置として特許文献4が提案されている。自動給水装置による管理では、装置購入、設置の上でコストがかかり、装置の故障や作動不良の場合に給水のし忘れ、水あふれといった問題が発生するおそれがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭61−35878号公報
【特許文献2】特開2004−255354号公報
【特許文献3】特開2005−152771号公報
【特許文献4】特開2005−169193号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで本発明は、ブースの吸込み性能を維持するため、ブース水槽中にあって渦巻室の気流吸込部に臨む位置にブース水槽とは別な水槽を設け、渦巻室にはこの別な水槽の水が吸込まれるようにし、この別な水槽には下部の隙間よりブース水槽中の水をアンダーフローにより常に導入するようにして水位管理を安定させた渦巻室水槽を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、請求項1記載の渦巻室水槽は、ブース水槽中にその下部が常に浸漬し、渦巻室に水を供給するためだけの渦巻室水槽を渦巻室の気流吸込部に設け、該渦巻室水槽の下部に設けたアンダーフロー導入部を通ってブース水槽中の水が供給されるように構成していることを特徴とする。
【0011】
請求項2記載の渦巻室水槽は、請求項1に記載の渦巻室水槽であって、前板を構成する仕切板と両側の側板と底板よりなり後部は開口された筐体に渦巻板の基端縁部を接合して構成され、該筐体は渦巻板と分離可能に形成されていることを特徴とする。
【0012】
請求項3に記載の渦巻室水槽は、請求項1に記載の渦巻室水槽であって、アンダーフロー導入部は渦巻室水槽の側面下部に設けた隙間であることを特徴とする。
【0013】
請求項4記載の渦巻室水槽は、請求項1に記載の渦巻室水槽であって、アンダーフロー導入部は渦巻室水槽の底部に設けた隙間であることを特徴とする。
【0014】
請求項5記載の渦巻室水槽は、請求項1に記載の渦巻室水槽であって、アンダーフロー導入部は底部に横方向に等間隔に形成した隙間であることを特徴とする。
【0015】
請求項6記載の渦巻室水槽は、請求項5に記載の渦巻室水槽であって、渦巻室への吸込み水量を調整できるよう隙間の閉塞手段を設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ブース水槽中にその底部が常に浸漬する別体の渦巻室水槽を設けたことで、ブース水槽の水位に拘わらず渦巻室に吸引される水量を一定に保つことができる。また、渦巻室水槽には底部よりブース水槽中の水をアンダーフローにより絶えず供給されるため、ブース水槽の水位の上下に拘わらず渦巻室水槽の水位が安定し、水面との間の気流吸込部の間隙を一定に維持することができる。これにより、渦巻室内には安定した水膜が形成でき、良好な気液接触状態を維持することが可能となる。
【0017】
また、発明者の行った実験では、従来のブース水槽のみの場合に比べ渦巻室水槽を併設したことにより、ブース水槽の水位上下限幅を約2倍広げることができ、水位管理の頻度を半分に削減することができた。この方式のブースで、ファン番手を下げる等して消費電力の削減を図ろうとすると、ファンの出力低下により水位上下限幅が狭くなってしまう。しかし、本発明の渦巻室水槽を用いることにより気流吸込み部の水位上下限幅は狭くなっても、ブース水槽の水位上下限幅は大きくすることができるので水位管理頻度を低くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明のベンチュリーブースの斜視図である。
【図2】渦巻室水槽の位置とブース水槽の水位上下限幅を示す説明図である。
【図3】第1の実施例の渦巻室水槽の概略斜視図である。
【図4】第1の実施例の渦巻室水槽を構成する筐体と渦巻板を分離した説明図である。
【図5】第2の実施例の渦巻室水槽の組立て前の分解斜視図である。
【図6】第2の実施例の渦巻室水槽を組立てた斜視図である。
【図7】従来のベンチュリーブースの概略を示す側面図である。
【図8】従来のベンチュリーブースのブース水槽における水位上下限幅の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を図示する実施形態により具体的に説明する。図1は、本発明の一実施形態のベンチュリーブースの概略構成を示す。図7、図8に示す従来のベンチュリーブースと共通する部分は同一の符号をもって説明する。
前記したように、ベンチュリーブース本体1は、下部にブース水槽2を備え、前面パネル3により塗装室Aと処理室Bに区分され、処理室Bは前面パネル3の下方を立面4とし水槽2内に基端を没する渦巻板5との間に気流吸込部6を設け、渦巻室7内に排気ファン8の負圧により塗料ミストを含んだ気流と水を吸込み、渦巻室7内での気液接触により水と塗料を分離して、塗料ミストをブース水槽2中に捕集する。
【0020】
本発明の渦巻室水槽20は、ブース水槽2中に常にその下部が浸漬し、渦巻室7に水を供給するためだけの水槽であり、渦巻室7の気流吸込部6の下部に設けている。
第1の実施例では、図3、図4に示すように渦巻室水槽20は既存の仕切板12を水槽前板21として利用し、左右に側板22を設けると共に底板23を連設した後方が開口24する筐体25を、その底部において底板23が渦巻室7を仕切る渦巻板5の基端5aと接合することにより水槽部20aを構成する。筐体25は渦巻板5の基端5aとの接合を解除することにより単体としてブース水槽2より取出すことができる。
【0021】
前記筐体25は底板23が左右の側板22の縁より下方に延出しており、該底板23の先端縁23aと渦巻板5の基端5aが接合され、両側板22の下方に隙間26が形成される。この隙間26がブース水槽2中の水を下方両側面より渦巻室水槽20に供給するアンダーフロー導入部となる。このアンダーフロー導入部は、ブース水槽2内の塗料スラッジが付着しにくい位置、即ち、塗料スラッジが浮遊するブース水槽2の水面及び塗料スラッジが堆積するブース水槽2の底面を除く位置に設置される。そのため、渦巻室水槽20は脚27によりブース水槽2の底部より離開して配置されている。
【0022】
図5、図6は本発明の第2の実施例を示す渦巻室水槽20の分解図と組立図である。
第1の実施例と同様に、渦巻室水槽20は既存の仕切板12を水槽前板21として利用し、左右に側板22を設け底板23を連設して後方が開口24する筐体25を、その底板23の先端縁23aが渦巻板5の基端5aと接合することで水槽部20aを構成している。ここで、第2の実施例では筐体25の底板23に横方向に等間隔で穴状の隙間28が多数形成され、この隙間28よりブース水槽2の水を底面よりアンダーフローとして導入するようにしている。このようにすることで塗装ブースの間口寸法の増減に比例して渦巻室水槽20の吸込み水量も増減できる。この等間隔の隙間28は必要により一部を膜付きグロメット29等で塞ぐことで、アンダーフローによる吸込み水量を調整することができる。尚、図中、30は渦巻板5の支持側板、31は気流吸込部6を形成する鋸歯状の仕切り板である。
【0023】
次に、本発明の作用を説明する。
塗装にあたって先ず、ブース本体1の外気ファン8を稼動させて前面パネル3で仕切られた後方の処理室B内を負圧状態とし、作業室A内の空気を処理室B内に吸引する。次に、作業室Aでスプレーガンによる噴霧塗装が行われると、被塗装物に塗着しないオーバースプレーされた塗料ミストが空気とともに排気ファンにより処理室B内に吸引される。ここで、本発明によるブース本体1は、塗料ミストを捕集するブース水槽2と該ブース水槽2の水中にその底部が浸漬する渦巻室水槽20を備えており、該渦巻室水槽20は作業室Aと処理室Bを区切る前面パネル3の下方の気流吸込部6に設置されている。
【0024】
オーバースプレーされた塗料ミストは、排気ファン8の負圧を受けて前面パネル3下部の立面4の下方の鋸歯状の仕切り板31と渦巻室水槽20の水面との隙間で形成された気流吸込部6より、渦巻室20内の水とともに吸引されて処理室B内の渦巻室7に導入される。渦巻室7では、液滴化した水と吸引気流が気液接触し、渦巻板5の湾曲面での遠心力を受け水と塗料が分離されて塗料ミストは下面の排水槽10中に捕集される。更に、渦巻室7で捕集されなかった塗料ミストは処理室B内のエリミネータ9にて水切りされて、塗料ミストを含まない空気のみがダクト(図示せず)を介して外部に排気される。
【0025】
図2は塗装ブース運転時におけるブース水槽2内の水位と渦巻室水槽20内の水位の上下限幅の変位を示すもので、排気ファン8による負圧を受けて気流と共に渦巻室水槽20の水が渦巻室7に吸引されている状態では、ブース水槽2内の上限水位がCの位置にあっても渦巻室水槽20内の水位Eはこの上限水位Cよりも低く保たれ、下限水位Dとの間の水位差が小さくなり、渦巻室7での気液接触状態が安定する。即ち、渦巻室水槽20には下部の隙間26からブース水槽2中の水がアンダーフローで流入するため、渦巻室水槽20とブース水槽2では水位差ができることになる。結果として、ブース水槽2の水位変化が大きくても渦巻室水槽20の水位変化は小さくなるので渦巻室7への吸込み性能の変動が少なくなる。従って、従来のブース水槽のみによる場合に比べ、水位管理の頻度を少なくすることができる。尚、塗装ブースの運転休止時にはブース水槽2と渦巻室水槽20の水位は同じレベルとなる。
【0026】
渦巻室7での気液接触により塗料ミストを捕集した水滴は、処理室Bの下部に設けた排水槽10に落下し、水中ダクト11を通してブース水槽2内に循環される。尚、ブース水槽2内で水位が下限水位Dのレベルまで減少した場合、給水を行うことになる。
【符号の説明】
【0027】
1 ブース本体
2 ブース水槽
5 渦巻板
5a 基端
6 気流吸込部
7 渦巻室
20 渦巻室水槽
21 水槽前板
22 側板
23 底板
23a 先端縁
24 開口
25 筐体
26、28 隙間(アンダーフロー導入部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブース水槽中にその下部が常に浸漬し、渦巻室に水を供給するためだけの渦巻室水槽を渦巻室の気流吸込部に設け、該渦巻室水槽の下部に設けたアンダーフロー導入部を通ってブース水槽中の水が供給されるように構成したことを特徴とする水洗塗装ブースの渦巻室水槽。
【請求項2】
渦巻室水槽は、前板を構成する仕切板と両側の側板と底板よりなり後部は開口された筐体に渦巻板の基端縁部を接合して構成され、該筐体は渦巻板と分離可能に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の水洗塗装ブースの渦巻室水槽。
【請求項3】
アンダーフロー導入部は、渦巻室水槽の両側面下部に設けた隙間であることを特徴とする請求項1に記載の水洗塗装ブースの渦巻室水槽。
【請求項4】
アンダーフロー導入部は、渦巻室水槽の底部に設けた隙間であることを特徴とする請求項1に記載の水洗塗装ブースの渦巻室水槽。
【請求項5】
アンダーフロー導入部は、渦巻室水槽の底部に設けた横方向に等間隔に形成された隙間であることを特徴とする請求項1に記載の水洗塗装ブースの渦巻室水槽。
【請求項6】
アンダーフロー導入部は、渦巻室への吸込み水量を調整できるよう隙間の閉塞手段を設けたことを特徴とする請求項1に記載の水洗塗装ブースの渦巻室水槽。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−20252(P2012−20252A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−161290(P2010−161290)
【出願日】平成22年7月16日(2010.7.16)
【出願人】(390028495)アネスト岩田株式会社 (224)
【Fターム(参考)】