説明

ベータ型ゼオライト及びその製造方法

【課題】可能な限り構造規定剤を用いずに、環境負荷を可能な限り低減できるベータ型ゼオライト及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明のベータ型ゼオライトは、SiO2/Al23比が10〜16であるアルミニウムリッチなものである。このベータ型ゼオライトは、ナトリウム型の状態で測定されたBET比表面積が500〜700m2/gであり、ミクロ孔比表面積が350〜500m2/gであり、かつミクロ孔容積が0.15〜0.25cm3/gであることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベータ型ゼオライト及び構造規定剤としての有機化合物を用いないベータ型ゼオライトの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
合成ゼオライトは結晶性アルミノシリケートであり、その結晶構造に起因するオングストロームサイズの均一な細孔を有している。この特徴を生かして、合成ゼオライトは、特定の大きさを有する分子のみを吸着する分子ふるい吸着剤や親和力の強い分子を吸着する吸着分離剤、又は触媒基剤として工業的に利用されている。そのようなゼオライトの一つであるベータ型ゼオライトは、石油化学工業における触媒として、また自動車排気ガス処理用吸着剤として、現在世界中で多量に使用されている。ベータ型ゼオライトの特徴は、以下の非特許文献1に記載されているように、三次元方向に12員環細孔を有する点にある。また、その構造的特徴を示すX線回折図は、以下の非特許文献2に記載されている。
【0003】
ベータ型ゼオライトの合成法は種々提案されている。一般的な方法はテトラエチルアンモニウムイオンを構造規定剤(以下「SDA」と略称する。)として用いる方法である。そのような方法は例えば以下の特許文献1ないし3及び非特許文献3に記載されている。これらの方法によればSiO2/Al23比が10〜400のベータ型ゼオライトが得られる。しかしながら、テトラエチルアンモニウムイオンを含む化合物は高価である上に、ベータ型ゼオライト結晶化終了後はほとんどが分解してしまうため、回収して再利用することは不可能である。そのために、この方法により製造したベータ型ゼオライトは高価である。更に、結晶中にテトラエチルアンモニウムイオンが取り込まれるため、吸着剤や触媒として使用する際には焼成除去する必要がある。その際の排ガスは環境汚染の原因となり、また、合成母液の無害化処理のためにも多くの薬剤を必要とする。このように、テトラエチルアンモニウムイオンを用いるベータ型ゼオライトの合成方法は高価であるばかりでなく、環境負荷の大きい製造方法であることから、SDAを用いない製造方法の実現が望まれていた。
【0004】
このような状況の中で、最近、有機SDAを使用しないベータ型ゼオライトの合成方法が非特許文献4において提案された。この方法では、テトラエチルアンモニウムイオンを用いて合成したベータ型ゼオライトを焼成して有機物成分を除去したものを種結晶として用い、これを、有機物を含まないナトリウムアルミノシリケート反応混合物に添加して、水熱処理を行うことにより結晶化を行っている。しかしながら、この方法においては、テトラエチルアンモニウムイオンを用いて合成したベータ型ゼオライトを焼成して種結晶として用いているので、SDAの使用量は減少するものの常にSDAとしてのテトラエチルアンモニウムイオンが必要となる。またこの方法によれば、種結晶の種類は一種のみであり、ナトリウムアルミノシリケート反応混合物の組成も数値限定された一例のみである。したがって、合成されたベータ型ゼオライトの組成は明記されていないが、決まった値のみとなると考えられる。
【0005】
一方、非特許文献4の著者による特許文献4には、種結晶のSiO2/Al23比が開示されていると共に、ナトリウムアルミノシリケート反応混合物の組成が点組成ではなく点から離れた狭い範囲として記載されている。しかしながら、特許文献4の開示内容は、基本的には非特許文献4の内容と同じ技術であり、反応混合物の組成範囲が狭いので、ベータ型ゼオライトのSiO2/Al23比は限られた範囲のみに限定される。多様な需要に対応するためには幅広いSiO2/Al23比範囲のゼオライトが望ましい。また、工業的量産化のためには、攪拌合成可能な条件の確立が望まれる。更に、環境負荷を可能な限り低減するためには、焼成の必要がない種結晶を用い、有機SDAを用いないベータ型ゼオライトの新しい製造方法の提案が望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第3,308,069号明細書
【特許文献2】米国特許第4,923,690号明細書
【特許文献3】特開平5−201722号公報
【特許文献4】中国特許出願公開第101249968A号明細書
【0007】
【非特許文献1】Ch. Baerlocher, L.B. McCusker, D.H. Olson, Atlas of Zeolite Framework Types, Published on behalf of the Commission of the International Zeolite Association, 2007, p.72〜73
【非特許文献2】M.M.J. Treacy and J.B. Higgins, Collection of Simulated XRD Powder Patterns for Zeolites, Published on behalf of the Commission of the International Zeolite Association, 2007, p.82〜83及びp.480
【非特許文献3】Microporous Materials, Vol.5, p.289-297 (1996)
【非特許文献4】Chemistry of Materials, Vol.20, No.14, p.4533-4535 (2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、前述した従来技術が有する欠点を解消し、幅広いSiO2/Al23比のベータ型ゼオライト、特にSiO2/Al23比の低いベータ型ゼオライトを得ること、工業的量産化のため攪拌合成可能な条件を確立すること、更に環境負荷を可能な限り低減できる有機SDAを用いないベータ型ゼオライトの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは鋭意検討した結果、特定の製造手順によってベータ型ゼオライトを製造することで、前記の目的が達成されることを知見した。
【0010】
すなわち本発明は、SiO2/Al23比が10〜16であるベータ型ゼオライトであって、
ナトリウム型の状態で測定されたBET比表面積が500〜700m2/gであり、ミクロ孔比表面積が350〜500m2/gであり、かつミクロ孔容積が0.15〜0.25cm3/gであることを特徴とするベータ型ゼオライトを提供するものである。
【0011】
また本発明は、前記のベータ型ゼオライトの好適な製造方法として、
(1)以下に示すモル比で表される組成の反応混合物となるように、シリカ源、アルミナ源、アルカリ源、及び水を混合し、
SiO2/Al23=40〜200
Na2O/SiO2=0.22〜0.4
2O/SiO2=10〜50
(2)SiO2/Al23比が8〜30であり、且つ平均粒子径が150nm以上である有機化合物を含まないベータ型ゼオライトを種結晶として用い、これを、前記反応混合物中のシリカ成分に対して0.1〜20重量%の割合で該反応混合物に添加し、
(3)前記種結晶が添加された前記反応混合物を100〜200℃で密閉加熱することを特徴とするベータ型ゼオライトの製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、SiO2/Al23比が低いにもかかわらず、高BET比表面積、高ミクロ孔比表面積及び高ミクロ孔容積を有するベータ型ゼオライトが提供される。また、本発明の製造方法によれば、幅広いSiO2/Al23比のベータ型ゼオライトを容易に得ることができる。更に、本発明の製造方法によれば、ベータ型ゼオライトの製造において、可能な限り有機SDAを用いずに、環境負荷を可能な限り低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、本発明の製造方法を実施するための工程図である。
【図2】図2は、参考例で合成した種結晶用SiO2/Al23比=24.0のベータ型ゼオライトの走査型電子顕微鏡像である。
【図3】図3は、参考例で合成した種結晶用SiO2/Al23比=18.4のベータ型ゼオライトの走査型電子顕微鏡像である。
【図4】図4は、参考例で合成した種結晶用SiO2/Al23比=14.0のベータ型ゼオライトの走査型電子顕微鏡像である。
【図5】図5は、参考例で合成した種結晶用SiO2/Al23比=24.0のベータ型ゼオライトを焼成した後のX線回折図である。
【図6】図6は、実施例1で得られたベータ型ゼオライトのX線回折図である。
【図7】図7は、実施例1で得られたベータ型ゼオライトの走査型電子顕微鏡像である。
【図8】図8は、実施例6で得られたベータ型ゼオライトの走査型電子顕微鏡像である。
【図9】図9は、実施例16で得られたベータ型ゼオライトの走査型電子顕微鏡像である。
【図10】図10は、実施例18で得られたベータ型ゼオライトのX線回折図である。
【図11】図11は、実施例19で得られたベータ型ゼオライトのX線回折図である。
【図12】図11は、実施例19で得られたベータ型ゼオライトの走査型電子顕微鏡像である。
【図13】図13は、実施例26で得られたベータ型ゼオライトの走査型電子顕微鏡像である。
【図14】図14は、実施例27で評価したベータ型ゼオライトのX線回折図である。
【図15】図15は、実施例28で評価したベータ型ゼオライトのX線回折図である。
【図16】図16は、実施例29で評価したベータ型ゼオライトのX線回折図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明する。本発明のベータ型ゼオライトは、SiO2/Al23比が低いアルミニウムリッチなものであるにもかかわらず、高BET比表面積、高ミクロ孔比表面積及び高ミクロ孔容積を有する点に特徴の一つを有する。SiO2/Al23比が低いベータ型ゼオライトはこれまでにも知られていたが、そのようなベータ型ゼオライトのBET比表面積やミクロ孔比表面積、ミクロ孔容積は高いものではなかった。従来知られているベータ型ゼオライトにおいて、BET比表面積やミクロ孔比表面積、ミクロ孔容積を高くしようとすると、SiO2/Al23比を高くせざるを得なかった。
【0015】
本発明のベータ型ゼオライトは、そのSiO2/Al23比が、10〜16、好ましくは10〜14であり、アルミニウムリッチなものである。このようなアルミニウムリッチな本発明のベータ型ゼオライトは、ナトリウム型の状態で測定されたBET比表面積が500〜700m2/g、好ましくは550〜700m2/gという高い値を有する。また、ナトリウム型の状態で測定されたミクロ孔比表面積が350〜500m2/g、好ましくは380〜500m2/gという高い値を有する。しかも、ナトリウム型の状態で測定されたミクロ孔容積が0.15〜0.25cm3/g、好ましくは0.18〜0.25cm3/gという高い値を有する。
【0016】
なお、本発明のベータ型ゼオライトは、ナトリウム型のものも包含し、更にナトリウムイオンがプロトンとイオン交換されてH+型になったものも包含する。ベータ型ゼオライトがH+型のタイプである場合には、上述の比表面積等の測定は、プロトンをナトリウムイオンで置換した後に行う。ナトリウム型のベータ型ゼオライトをH+型に変換するには、例えば、ナトリウム型のベータ型ゼオライトを硝酸アンモニウム等のアンモニウム塩水溶液中に分散し、ゼオライト中のナトリウムイオンをアンモニウムイオンと置換する。このアンモニウム型のベータ型ゼオライトを焼成することで、H+型のベータ型ゼオライトが得られる。
【0017】
上述の比表面積や容積は、後述する実施例で説明されているとおり、BET表面積測定装置を用いて測定される。
【0018】
上述の物性を有する本発明のアルミニウムリッチなベータ型ゼオライトは、後述する製造方法によって好適に製造される。本発明において、上述した物性を達成できた理由は、該製造方法を用いることで、得られるベータ型ゼオライトの結晶構造中に生じることのある欠陥の発生を抑制できたからではないかと推定されるが、詳細は明らかではない。本発明のベータ型ゼオライトは、その物性を生かして、例えばガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの内燃機関の排気ガス用浄化触媒、種々の工業分野における吸着分離剤、石油化学工業における触媒等として特に好適に用いられる。
【0019】
特に、本発明のベータ型ゼオライトは、後述する実施例において例証されるように、内燃機関のコールドスタート時に排出される炭化水素のトラップ及びトラップした炭化水素の放出性に優れたものである。ガソリンエンジンやディーゼルエンジンのコールドスタート時には三元触媒の温度が十分に高くなっていないので、三元触媒による排気ガスの浄化を効果的に行うことが困難であるところ、この三元触媒とは別に本発明のベータ型ゼオライトを含む触媒を用いることで、コールドスタート時の排気ガスを該触媒によってトラップすることができ、排気ガスの放出を抑制することができる。コールドスタートから数分が経過して三元触媒の動作温度近傍に達すると、本発明のベータ型ゼオライトを含む触媒にトラップされていた炭化水素が放出され、放出された炭化水素は、動作温度に達した三元触媒によって浄化される。後述する実施例において例証されるように、本発明のベータ型ゼオライトは、驚くべきことに、その合成直後よりも、水熱処理を受けた後の方が炭化水素のトラップ性能に優れているので、上述のコールドスタート後に受ける熱に起因する炭化水素のトラップ性能の低下が効果的に防止される。本発明のベータ型ゼオライトを排気ガス用浄化触媒として用いる場合には、H+型の状態で用いることが好ましい。
【0020】
次に、本発明のベータ型ゼオライトの好適な製造方法について図1を参照しながら説明する。なおこの製造方法は、本発明のベータ型ゼオライトの製造に好適であるが、本発明のベータ型ゼオライト以外のベータ型構造を持つゼオライトの製造にも特に制限なく適用することができる。図1において、有機SDAを用いる従来のベータ型ゼオライトの合成法は、<1>、<2>、<3>の順で行われる。また、特許文献4及び非特許文献4に示されている方法は、<1>、<2>、<3>、<4>、<5>、<6>、<9>の順で行われる。特許文献4及び非特許文献4に記載の方法においては、種結晶の使用が必須であり、種結晶の製造のためにはテトラエチルアンモニウムイオンというSDAが必須である。また、特許文献4及び非特許文献4に記載の方法で得られたベータ型ゼオライトを種結晶として使用するためには、高温焼成によってテトラエチルアンモニウムイオンを除去する必要がある。
【0021】
この方法に対して、本発明においては6通りの製造方法が可能である。一番目の方法は、特許文献4等に記載の方法と同じ<1>、<2>、<3>、<4>、<5>、<6>、<9>の順に行われる方法である。ただし、種結晶のSiO2/Al23比と反応混合物の組成が、特許文献4及び非特許文献4に記載の方法と異なる。したがって本発明によれば、幅広い範囲のSiO2/Al23比のベータ型ゼオライトを製造することができる。二番目の方法は<1>、<2>、<3>、<4>、<5>、<7>、<6>、<9>の順に行われる方法である。この方法では、熟成を行った後に静置加熱することによって、低SiO2/Al23比の種結晶を有効に使用できる。熟成という操作は特許文献4及び非特許文献4には示されていない。
【0022】
三番目の方法は、<1>、<2>、<3>、<4>、<5>、<7>、<8>、<9>の順に行われる方法である。この方法では、種結晶のSiO2/Al23比と反応混合物組成が、特許文献4及び非特許文献4に記載の方法と異なる。また、この方法で行われる熟成及び攪拌の操作は、特許文献4及び非特許文献4には示されていない。熟成及び攪拌の操作は、ベータ型ゼオライトの量産化のために必要な新しい方法である。その理由は、量産化のためには大型の加圧容器が必要なところ、そのような加圧容器の内部温度を均一に保つためには攪拌操作が不可欠だからである。しかしながら、熟成操作なしに攪拌を行うと、不純物を同伴して純度が低下し易い。
【0023】
本発明の製造方法では、以下の三通りの順序も可能である。
・<10>、<5>、<6>、<9>
・<10>、<5>、<7>、<6>、<9>
・<10>、<5>、<7>、<8>、<9>
これらの場合も種結晶のSiO2/Al23比や、反応混合物の組成が、特許文献4及び非特許文献4に記載の方法と異なる。そのうえ、これらの三通りの方法では、使用する種結晶として、本発明の方法によって得られたベータ型ゼオライトを用いている。すなわち、この三通りの製造方法では種結晶が繰り返し使用可能なので、本質的に有機SDAを使用しない。要するに、この三通りの製造方法は、環境負荷が究極的に小さいグリーンプロセスによるベータ型ゼオライトの製造方法ということができる。これらの製造方法によって初めて、“グリーンベータ型ゼオライト”が製造される。
【0024】
本発明の方法について更に詳細に説明する。図1における<1>、<2>、<3>の順の方法については従来の有機SDAを用いる方法と同一であり、特許文献1〜3及び非特許文献3など多数の公知情報に開示されている方法及び条件のとおりである。
【0025】
図1における<4>の種結晶に関し、特許文献4においては、種結晶のSiO2/Al23比範囲は22〜25の狭い範囲に限定されている。これに対して本発明の特徴の一つは、図1における<4>に示す種結晶のSiO2/Al23比にある。非特許文献3には、SDAを用いてSiO2/Al23比=10以上のベータ型ゼオライトを合成する方法が記載されている。これに対して本発明の方法では、SiO2/Al23比=8〜30の範囲の種結晶を使用することが可能である。種結晶のSiO2/Al23比が8よりも小さいベータ型ゼオライトは合成することが極めて困難であるため一般に使用することはない。また種結晶のSiO2/Al23比が30を超えると、反応混合物の組成に依存せず生成物はZSM−5となり易い。また本発明における種結晶の添加量は、反応混合物中に含まれるシリカ成分に対して0.1〜20重量%の範囲である。この添加量は少ない方が好ましいが、反応速度や不純物の抑制効果などを考慮して決められる。好ましい添加量は1〜20重量%であり、更に好ましい添加量は1〜10重量%である。
【0026】
本発明の製造方法で用いるベータ型ゼオライト種結晶の平均粒子径は、150nm以上、好ましくは150〜1000nm、一層好ましくは200〜600nmである。合成によって得られるゼオライトの結晶の大きさは、一般的に均一ではなく、ある程度の粒子径分布を持っている、その中で最大頻度を有する結晶粒子径を求めることは困難ではない。平均粒子径とは、走査型電子顕微鏡による観察における最大頻度の結晶の粒子直径を指す。有機SDAを用いるベータ型ゼオライトは一般的に平均粒子径が小さく、100nm〜1000nmの範囲が一般的である。しかし、小さい粒子が凝集しているために粒子径が不明確であるか、又は1000nmを超えるものも存在する。また、100nm以下の結晶を合成するためには特別な工夫が必要であり、高価なものとなってしまう。したがって、本発明では平均粒子径が150nm以上のベータ型ゼオライトを種結晶として用いる。本発明の方法によって得られるベータ型ゼオライトもこの範囲の平均粒子径を有するので、種結晶として好適に使用することができる。
【0027】
種結晶を添加する反応混合物は、以下に示すモル比で表される組成となるように、シリカ源、アルミナ源、アルカリ源、及び水を混合して得られる。反応混合物の組成がこの範囲外であると、目的とするベータ型ゼオライトを得ることができない。
・SiO2/Al23=40〜200
・Na2O/SiO2=0.22〜0.4
・H2O/SiO2=10〜50
【0028】
更に好ましい反応混合物の組成の範囲は以下のとおりである。
・SiO2/Al23=44〜200
・Na2O/SiO2=0.24〜0.35
・H2O/SiO2=15〜25
【0029】
特許文献4及び非特許文献4においては、生成するベータ型ゼオライトのSiO2/Al23比は記載されていないが、反応混合物のSiO2/Al23比が狭い範囲に限定されていることから、生成するベータ型ゼオライトのSiO2/Al23比も狭い範囲の値となると考えられる。それに対して、本発明の方法では、広い範囲のSiO2/Al23比を有する反応混合物を用いるので、生成するベータ型ゼオライトのSiO2/Al23比の範囲も広くなる。もちろん、低SiO2/Al23比のベータ型ゼオライトを得ることもできる。
【0030】
前記のモル比を有する反応混合物を得るために用いられるシリカ源としては、シリカそのもの及び水中でケイ酸イオンの生成が可能なケイ素含有化合物が挙げられる。具体的には、湿式法シリカ、乾式法シリカ、コロイダルシリカ、ケイ酸ナトリウム、アルミノシリケートゲルなどが挙げられる。これらのシリカ源は単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのシリカ源のうち、シリカ(二酸化ケイ素)を用いることが、不要な副生物を伴わずにゼオライトを得ることができる点で好ましい。
【0031】
アルミナ源としては、例えば水溶性アルミニウム含有化合物を用いることができる。具体的には、アルミン酸ナトリウム、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウムなどが挙げられる。また、水酸化アルミニウムも好適なアルミナ源の一つである。これらのアルミナ源は単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのアルミナ源のうち、アルミン酸ナトリウムや水酸化アルミニウムを用いることが、不要な副生物(例えば硫酸塩や硝酸塩等)を伴わずにゼオライトを得ることができる点で好ましい。
【0032】
アルカリ源としては、例えば水酸化ナトリウムを用いることができる。なお、シリカ源としてケイ酸ナトリウムを用いた場合やアルミナ源としてアルミン酸ナトリウムを用いた場合、そこに含まれるアルカリ金属成分であるナトリウムは同時にNaOHとみなされ、アルカリ成分でもある。したがって、前記のNa2Oは反応混合物中のすべてのアルカリ成分の和として計算される。
【0033】
反応混合物を調製するときの各原料の添加順序は、均一な反応混合物が得られ易い方法を採用すればよい。例えば、室温下、水酸化ナトリウム水溶液にアルミナ源を添加して溶解させ、次いでシリカ源を添加して攪拌混合することにより、均一な反応混合物を得ることができる。種結晶は、シリカ源と混合しながら加えるか又はシリカ源を添加した後に加える。その後、種結晶が均一に分散するように攪拌混合する。反応混合物を調製するときの温度にも特に制限はなく、一般的には室温(20〜25℃)で行えばよい。
【0034】
種結晶を含む反応混合物は、密閉容器中に入れて加熱して反応させ、ベータ型ゼオライトを結晶化する。この反応混合物には有機SDAは含まれていない。結晶化を行う一つの方法は、特許文献4及び非特許文献4に示されているように、熟成することなく静置法で加熱することである(<4>、<5>、<6>、<9>の手順)。
【0035】
一方、SiO2/Al23比の低い種結晶を用いた場合は、熟成をした後に、攪拌することなく加熱する方が、結晶化が進行し易い(<4>、<5>、<7>、<6>、<9>の手順)。熟成とは、反応温度よりも低い温度で一定時間その温度に保持する操作を言う。熟成においては、一般的には、攪拌することなしに静置する。熟成を行うことで、不純物の副生を防止すること、不純物の副生なしに攪拌下での加熱を可能にすること、反応速度を上げることなどの効果が奏されることが知られているが、作用機構は必ずしも明らかではない。熟成の温度と時間は、前記の効果が最大限に発揮されるように設定される。本発明では、好ましくは20〜80℃、更に好ましくは20〜60℃で、好ましくは2時間から1日の範囲で熟成が行われる。
【0036】
加熱中に反応混合物温度の均一化を図るため攪拌をする場合は、熟成を行った後に加熱攪拌すれば、不純物の副生を防止することができる(<4>、<5>、<7>、<8>、<9>の手順)。攪拌は反応混合物の組成と温度を均一化するために行うものであり、攪拌羽根による混合や、容器の回転による混合などがある。攪拌強度や回転数は、温度の均一性や不純物の副生具合に応じて調整すればよい。常時攪拌ではなく、間歇攪拌でもよい。このように熟成と攪拌を組み合わせることによって、工業的量産化が可能となる。
【0037】
以下に記載する三通りの方法は、本発明の特徴であるグリーンプロセスによるベータ型ゼオライトの製造法である。この三通りの方法によれば、種結晶として本発明によって得られたベータ型ゼオライトを用いた無限回の自己再生産が可能となり、有機SDAを全く使用しない製造プロセスが可能となる。すなわち、<10>、<5>、<6>、<9>の順の方法、<10>、<5>、<7>、<6>、<9>の順の方法、<10>、<5>、<7>、<8>、<9>の順の方法である。それぞれの工程の特徴は前記のとおりである。本発明によって得られるベータ型ゼオライトのSiO2/Al23比は、好ましくは8〜30の範囲である。本発明によって得られたベータ型ゼオライトを種結晶とする場合は、そのSiO2/Al23比が低いにも関わらず、静置合成の場合は熟成操作なしでもベータ型ゼオライトの結晶化が可能である。有機SDAを用いて合成したベータ型ゼオライトを種結晶とする場合は、これを焼成したものを用いるが、本発明で得られたベータ型ゼオライトを用いる場合はその焼成の必要がない。この違いが、種結晶としての効果の違いに現れていると推定されるが、詳細は明らかではない。しかしながら、攪拌加熱を行う場合は、熟成を行うことが好ましい。
【0038】
静置法及び攪拌法のどちらの場合も、加熱温度は100〜200℃、好ましくは120〜180℃の範囲であり、自生圧力下での加熱である。100℃未満の温度では結晶化速度が極端に遅くなるのでベータ型ゼオライトの生成効率が悪くなる。一方、200℃超の温度では、高耐圧強度のオートクレーブが必要となるため経済性に欠けるばかりでなく、不純物の発生速度が速くなる。加熱時間は本製造方法において臨界的ではなく、結晶性の十分に高いベータ型ゼオライトが生成するまで加熱すればよい。一般に5〜150時間程度の加熱によって、満足すべき結晶性のベータ型ゼオライトが得られる。
【0039】
本発明のベータ型ゼオライトの製造方法において、加熱時間が不十分な場合はアモルファス成分が同伴する。また、ベータ型ゼオライトの結晶化が終了した後更に加熱を継続するとモルデナイトの成長が始まり、ベータ型ゼオライトの割合が減少する。目的とするベータ型ゼオライトのみが単一相として安定に存在する時間は温度によって異なるが、一般に長くはない。単一相ベータ型ゼオライトを得るためには、モルデナイトの成長が始まる前に加熱を終了して密閉容器を冷却し、反応を終了させる。後述する実施例のうちの幾つかにおいては、モルデナイトが極微量同伴しているが、それらの実施例において加熱時間を少し短くすれば単一相のベータが得られることは確実である。また、極微量のモルデナイトの同伴はベータ型ゼオライトの特性を著しく損なうものではなく、かつそのようなベータ型ゼオライトは十分使用に耐え得る。
【0040】
前記の加熱によってベータ型ゼオライトの結晶が得られる。加熱終了後は、生成した結晶粉末をろ過によって母液と分離した後、水又は温水で洗浄して乾燥する。乾燥したままの状態で有機物を含んでいないので焼成の必要はなく、脱水を行えば吸着剤などとして使用可能である。また、固体酸触媒として使用する際は、例えば結晶内のNa+イオンをNH4+イオンに交換した後、焼成することによってH+型として使用することができる。
【0041】
本製造方法で得られたベータ型ゼオライトは、その大きな細孔径と細孔容積や固体酸特性を利用して、例えばガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの内燃機関の排気ガス用浄化触媒、種々の工業分野における吸着分離剤、石油化学工業における触媒として好適に用いられる。
【実施例】
【0042】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。特に断らない限り、「%」は「重量%」を意味する。なお、以下の実施例、比較例及び参考例で用いた分析機器は以下のとおりである。
【0043】
粉末X線回折装置:マック サイエンス社製、粉末X線回折装置 MO3XHF22、Cukα線使用、電圧40kV、電流30mA、スキャンステップ0.02°、スキャン速度2°/min
組成分析装置:(株)バリアン製、ICP−AES LIBERTY SeriesII
走査型電子顕微鏡:(株)日立ハイテクノロジーズ社製、電界放出型走査電子顕微鏡 S−4800
BET表面積測定装置:(株)カンタクローム インスツルメンツ社製 AUTOSORB−1
【0044】
〔参考例〕
テトラエチルアンモニウムヒドロキシドをSDAとして用い、アルミン酸ナトリウムをアルミナ源、微粉状シリカ(Mizukasil P707)をシリカ源とする従来公知の方法により、165℃、96時間、攪拌加熱を行って、SiO2/Al23比がそれぞれ24.0、18.4及び14.0のベータ型ゼオライトを合成した。これらを電気炉中で空気を流通しながら550℃で10時間焼成して、有機物を含まない結晶を製造した。これらの結晶を走査型電子顕微鏡により観察した結果、平均粒子径はそれぞれ280nm(SiO2/Al23比=24.0)、330nm(SiO2/Al23比=18.4)及び220nm(SiO2/Al23比=14.0)であった。それぞれの結晶の走査型電子顕微鏡像(SEM像)を図2、図3及び図4に示す。SiO2/Al23比=24.0のベータ型ゼオライトを焼成した後のX線回折図を図5に示す。この有機物を含まないベータ型ゼオライトの結晶を、以下に述べる実施例及び比較例において、種結晶として使用した。
【0045】
〔実施例1〕
純水13.9gに、アルミン酸ナトリウム0.235gと、36%水酸化ナトリウム1.828gを溶解した。微粉状シリカ(Cab−O−sil、M−5)2.024gと、参考例で合成したSiO2/Al23比=24.0のベータ型ゼオライト種結晶0.202gを混合したものを、少しずつ前記の水溶液に添加して攪拌混合し、表1に記載した組成の反応混合物を得た。この反応混合物を60ccのステンレス製密閉容器に入れて、熟成及び攪拌することなしに140℃で46時間、自生圧力下で静置加熱した。密閉容器を冷却後、生成物をろ過、温水洗浄して白色粉末を得た。この生成物のX線回折図を図6に示す。同図から判るように、この生成物は不純物を含まないベータ型ゼオライトであった。組成分析の結果、そのSiO2/Al23比は11.0であった。また、そのSEM像を図7に示す。典型的な結晶粒子は正八面体型の形状を有し、平均粒子径は300nmであった。
【0046】
〔実施例2〕
参考例で合成したSiO2/Al23比=18.4のベータ型ゼオライトを種結晶として用いた。これ以外は実施例1と同じ原料を用いて、表1に記載した組成の反応混合物を調製した。熟成及び攪拌することなしに表1記載の条件で加熱した結果、表1に記載の生成物が得られた。
【0047】
〔実施例3〕
参考例で合成したSiO2/Al23比=18.4のベータ型ゼオライトを種結晶として用いた。これ以外は実施例1と同じ原料を用いて、表1に記載した組成の反応混合物を調製した。60℃で24時間熟成を行った後、表1記載の条件で攪拌することなく加熱した結果、表1に記載の生成物が得られた。
【0048】
〔実施例4及び5〕
参考例で合成したSiO2/Al23比=14.0のベータ型ゼオライトを種結晶として用いた。これ以外は実施例1と同じ原料を用いて、表1に記載した組成の反応混合物を調製した。表1に記載の条件で加熱前に熟成を行った後に、同表に記載の条件で攪拌することなく加熱した結果、表1に記載の生成物が得られた。
【0049】
〔実施例6ないし18〕
参考例で合成したSiO2/Al23比=24.0のベータ型ゼオライトを種結晶として用いた。これ以外は実施例1と同じ原料を用いて、表1に記載した組成の反応混合物を調製した。熟成及び攪拌することなしに表1に記載の条件で静置加熱した結果、同表に記載の生成物が得られた。実施例6及び16で得られたベータ型ゼオライトのSEM像を図8及び9に示す。実施例18の生成物のX線回折図を図10に示す。同図に示すように、同実施例で得られた生成物は、不純物を含まないベータ型ゼオライトであった。
【0050】
〔実施例19〕
実施例1で合成したSiO2/Al23比=11.0のベータ型ゼオライト(平均粒子径300nm)を種結晶として用いた。また、実施例1と同じ原料を用いて、表1に記載した組成の反応混合物を調製した。熟成及び攪拌することなしに表1に記載の条件で静置加熱した結果、同表に記載の生成物が得られた。この生成物のX線回折図を図11に示す。同図に示すように、この生成物は不純物を含まないベータ型ゼオライトであった。また、この生成物のSEM像を図12に示す。典型的な結晶粒子は正八面体型の形状を有し、平均粒子径は500nmであった。
【0051】
〔実施例20〕
実施例1で合成したSiO2/Al23比=11.0のベータ型ゼオライト(平均粒子径300nm)を種結晶として用いた。また、実施例1と同じ原料を用いて、表1に記載した組成の反応混合物を調製した。表1に記載の条件で加熱前の熟成を行った後、20rpmで密閉容器内を攪拌しながら同表に示す条件で加熱した結果、同表に記載の生成物が得られた。
【0052】
〔実施例21〕
参考例で合成したSiO2/Al23比=24.0のベータ型ゼオライトを種結晶として用いた。また、実施例1と同じ原料を用いて、表1に記載した組成の反応混合物を調製した。表1記載の条件で加熱前の熟成を行った後、同表に示す条件で加熱した結果、同表に記載の生成物が得られた。
【0053】
〔実施例22ないし24〕
参考例で合成したSiO2/Al23比=24.0のベータ型ゼオライトを種結晶として用いた。種結晶添加量をそれぞれ5%、2.5%、1%とした以外は実施例1と同じ原料を用いて、表1に記載した組成の反応混合物を調製した。熟成及び攪拌することなしに表1に記載の条件で静置加熱した結果、同表に記載の生成物が得られた。
【0054】
〔実施例25〕
実施例18で合成したSiO2/Al23比=13.2のベータ型ゼオライトを種結晶として用いた。実施例1と同じ原料を用いて、表1に記載した実施例18と同じ組成の反応混合物を調製した。熟成及び攪拌することなしに表1に記載の条件で静置過熱した結果、同表に記載の生成物が得られた。生成物のSEM像は図10と同等であった。
【0055】
〔実施例26〕
実施例16で合成したSiO2/Al23比=11.8のベータ型ゼオライトを種結晶として用いた。実施例1と同じ原料を用いて、表1に記載した実施例16と同じ組成の反応混合物を調製した。熟成及び攪拌することなしに表1に記載の条件で静置過熱した結果、同表に記載の生成物が得られた。この生成物のSEM像を図13に示す。
【0056】
なお、比較のために、上述の参考例で得られたSiO2/Al23比=24.0のベータ型ゼオライトのBET比表面積、ミクロ孔比表面積及びミクロ孔容積も併せて測定した。その結果、BET比表面積は627m2/g、ミクロ孔比表面積は303m2/g、ミクロ孔容積は0.159m3/gであった。
【0057】
【表1】

【0058】
〔比較例1ないし3〕
実施例1で使用したものと同じ原料と種結晶を用いて、表2に記載した組成の反応混合物を調製した。表2に記載の条件で加熱した結果、同表に記載の生成物が得られた。
【0059】
〔比較例4〕
実施例1で使用したものと同じ原料を用いて、表2に記載した組成の反応混合物を調製した。種結晶としては、テトラエチルアンモニウムヒドロキシドを用いて合成したSiO2/Al23比=40、平均粒子径=130nmのベータ型ゼオライトを550℃で焼成したものを用いた。表2に記載の条件で加熱した結果、同表に記載の生成物が得られた。
【0060】
【表2】

【0061】
〔実施例27〕
本実施例では、実施例6で得られたベータ型ゼオライトを、ガソリンエンジンの排気ガス用浄化触媒として用いた場合の有効性について評価した。評価は、排気ガスのモデルガスとしてのトルエン及びイソオクタンのトラップ性能並びに酸性度について行った。トルエン及びイソオクタンは、それぞれ排気ガス中に十数パーセント含まれており、排気ガスの主要炭化水素成分である。評価方法は以下のとおりである。これらの評価は実施例6で得られたベータ型ゼオライト(ナトリウム型)を、H+型に変換した後、変換直後と水熱処理後において行った。水熱処理は、ガソリンエンジンのコールドスタート後の状態を再現する目的で行った。H+型への変換方法及び水熱処理の方法は以下のとおりである。評価の結果を以下の表3に示す。また、図14に、ナトリウム型及び水熱処理前及び水熱処理後のベータ型ゼオライトのX線回折図を示す。
【0062】
〔H+型のベータ型ゼオライトの調製〕
実施例6で得られたナトリウム型のベータ型ゼオライト(1g)をポリプロピレン容器に入れ、2mol/Lの硝酸アンモニウム水溶液(30ml)に分散させた。この分散液を80℃で24時間保持した。その後、分散液のろ過を行い、次いで十分な量の蒸留水で洗浄し、100℃で一晩乾燥させた。このようにして得られたアンモニウム型のベータ型ゼオライトを、マッフル炉で室温から500℃まで加熱し、この温度を2時間保持してH+型のベータ型ゼオライトに変換した。引き続き空気流下に500℃で3時間保持した。
【0063】
〔水熱処理〕
10%の水蒸気を含む空気流下(流量25ml/min)に800℃で約5時間にわたりH+型のベータ型ゼオライトの水熱処理を行った。
【0064】
〔トルエン及びイソオクタンのトラップ性能〕
炭化水素のトラップ性能を評価するため、トルエン及びイソオクタンをプローブ分子として用い、熱伝導度検出器(TCD)を備えたガスクロマトグラフ(島津、GC−9A)によって、昇温脱離法(TPD)を行った。H+型のベータ型ゼオライト(水熱処理前及び水熱処理後)約20gを内径4mmの石英管に入れ、石英ウールとガラスビーズとの間に保持した。移動相としてヘリウム(流量30ml/分)を用い、試料を390℃で約1時間活性化させた。カラムを50℃に冷却した後、トルエンを飽和状態になるまで注入した(パルス法)。トルエンの脱離は、毎分10℃で50℃から390℃までカラムを昇温させ、390℃を10分間保持することで行った。(W/F:約10-4g・min/cm3)。同様の操作をイソオクタンについても行った。
【0065】
〔酸性度〕
酸性度の測定には、BEL−CAT装置(BEL JAPAN(株))を用い、NH3の昇温脱離法を行った。移動層としてHe(流量30ml/分)用い、H+型のベータ型ゼオライト(水熱処理前及び水熱処理後)を600℃で約1時間前処理した。次いで、5vol%のNH3を含むHe雰囲気下に、NH3の吸着を100℃で10分間行った。そしてNH3の脱離挙動を、試料を室温から600℃まで毎分10℃で昇温している間、熱伝導度検出器(TCD)によって観察した。
【0066】
〔実施例28及び29〕
実施例16及び26で得られベータ型ゼオライトについて、実施例27と同様の評価を行った。その結果を以下の表3に示す。また、ナトリウム型及び水熱処理前及び水熱処理後のベータ型ゼオライトのX線回折図を図15(実施例28)及び図16(実施例29)に、示す。
【0067】
【表3】

【0068】
表3に示す結果から明らかなとおり、本発明のベータ型ゼオライトは、炭化水素に対するトラップ性能を有していることが判る。特に、水熱処理することで、水熱処理前に比べて炭化水素のトラップ性能が向上していることは特筆に値する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiO2/Al23比が10〜16であるベータ型ゼオライトであって、
ナトリウム型の状態で測定されたBET比表面積が500〜700m2/gであり、ミクロ孔比表面積が350〜500m2/gであり、かつミクロ孔容積が0.15〜0.25cm3/gであることを特徴とするベータ型ゼオライト。
【請求項2】
(1)以下に示すモル比で表される組成の反応混合物となるように、シリカ源、アルミナ源、アルカリ源、及び水を混合し、
SiO2/Al23=40〜200
Na2O/SiO2=0.22〜0.4
2O/SiO2=10〜50
(2)SiO2/Al23比が8〜30であり、且つ平均粒子径が150nm以上である有機化合物を含まないベータ型ゼオライトを種結晶として用い、これを、前記反応混合物中のシリカ成分に対して0.1〜20重量%の割合で該反応混合物に添加し、
(3)前記種結晶が添加された前記反応混合物を100〜200℃で密閉加熱することを特徴とするベータ型ゼオライトの製造方法。
【請求項3】
(1)以下に示すモル比で表される組成の反応混合物となるように、シリカ源、アルミナ源、アルカリ源、及び水を混合し、
SiO2/Al23=44〜200
Na2O/SiO2=0.24〜0.35
2O/SiO2=15〜25
(2)SiO2/Al23比が8〜30であり、且つ平均粒子径が150nm以上である有機化合物を含まないベータ型ゼオライトを種結晶として用い、これを、前記反応混合物中のシリカ成分に対して0.1〜20重量%の割合で該反応混合物に添加し、
(3)前記種結晶が添加された前記反応混合物を120〜180℃で密閉加熱することを特徴とする請求項2記載のベータ型ゼオライトの製造方法。
【請求項4】
種結晶として、請求項2又は3記載の製造方法で製造されたベータ型ゼオライトを用いることを特徴とする請求項2又は3記載の製造方法。
【請求項5】
反応混合物を加熱する前に、20〜80℃の温度下に熟成することを特徴とする請求項2ないし4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
密閉加熱する工程で反応混合物を攪拌することを特徴とする請求項2ないし5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
請求項1記載のベータ型ゼオライトを含むことを特徴とする内燃機関の排気ガス用浄化触媒。

【図1】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate


【公開番号】特開2011−126768(P2011−126768A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−154510(P2010−154510)
【出願日】平成22年7月7日(2010.7.7)
【出願人】(000230593)日本化学工業株式会社 (296)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】