説明

ベーン式エアモータ

【課題】ベーンとシリンダの間に摩擦を伴わないベーン式エアモータを提供する。
【解決手段】シリンダ室31に回転可能に収容されるリングロータ40と、リングロータ40の内部にシリンダ室31に対して偏心させて収容され、半径方向へ往復変位可能にベーン55が設けられるロータ50と、シリンダ室31においてリングロータ40を回転可能に支持する静圧エアを吐出する給気孔34と、を備え、隣接して配置される一対のベーン55で区画される、リングロータ40とロータ50との間のエア室41に作動エアを供給、排出させることで、リングロータ40とロータ50を同期して回転させるベーン式エアモータ10。リングロータ40とロータ50の間、及び、シリンダ30とリングロータ40の間に摺動部分が存在しないので、長期間にわたり無給油で使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベーン式エアモータに関し、特に潤滑油の供給をすることなく長期間の使用ができるベーン式エアモータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ベーン式エアモータは、円筒状空間からなるシリンダ室を内部に有するシリンダと、シリンダ室内の偏心位置に回転自在に設けられるロータと、ロータの半径方向に形成された放射状の収容溝又はベーン溝に往復変位可能に設けられるベーンと、を備え、シリンダに形成される給気孔からシリンダとロータとの間の空間に圧縮エア(作動エア)を供給してロータを回転させ、この回転力によって例えば切削工具を駆動する。
このベーン式エアモータは、シリンダとロータとの間に三日月状の空間が形成される。また、ロータに装着されるベーンはロータの回転により生じる遠心力により収容溝から放射方向に一部が突出し、その先端はシリンダの内壁に突き当たる。これにより、三日月状の空間には隣接するベーンの間に密封されたエア室が連続的に形成される。このベーン式エアモータの上記空間の最初のエア室に圧縮エアを供給すると、圧縮エアによる圧力はエア室の前後壁を構成する2つのベーンの表面に作用する。ところが、ロータの回転方向の前側の壁を構成するベーンの突出量が後側の壁よりも大きいので、受圧面積も前側の壁を構成するベーンの方が大きい。この受圧面積の相違による差圧によってロータは高速で回転する。各エア室に供給された圧縮エアは、エア室に連通する排気路から排出される。
【0003】
以上のベーン式エアモータは、ロータの回転に伴ってベーンの先端がシリンダの内壁に高速で摺動する。例えば、シリンダが金属で、また、ベーンが樹脂で形成されていると、摩擦によりベーンが摩耗する。摩耗を防ぐために潤滑油を供給する必要がある。そのためにベーン式エアモータは潤滑油を圧縮エアに混合させるための供給装置を備えるので、コスト高の要因となっている。また、必要な潤滑油を供給装置に補充するのを怠ると、ベーンの摩耗が顕著となりベーン式エアモータは動作しなくなる。そこで、特許文献1、特許文献2は、無給油式のベーン式エアモータを開示している。つまり、特許文献1はベーンを繊維強化カーボンで作製し、また、シリンダ内壁にニッケルめっきを施すことを提案している。また、特許文献2は、シリンダ内壁等に粒径1μm未満のフッ素樹脂が分散されたニッケルからなる皮膜を形成することを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平4−50401号公報
【特許文献2】特開平7−247949号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1、特許文献2は、いずれも摺動特性の優れた材料で摺動部分に被覆を形成することにより、ベーン、シリンダの耐摩耗性を向上することができる。しかし、ベーンとシリンダの間に摺動部分があるために、摩擦は不可避的に生じるので、無給油で長期(例えば、数百時間)にわたって使用することは困難である。また、予定しているよりも早期に皮膜が剥離してしまうこともあるために、特許文献1、特許文献2の提案は実現するに到っていない。
本発明は、このような技術的課題に基づいてなされたもので、ベーンとシリンダの間を含む機構に摺動を伴わない、全く新規なベーン式エアモータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
従来のベーン式エアモータは、固定されたシリンダの内部であるシリンダ室に配置されるロータが回転し、シリンダとロータが軸回りに相対的に移動するので、ロータに装着されるベーンがシリンダの内壁と摺動される。これに対して本発明は、ベーン式エアモータから摺動部分を排除することを念頭においている。つまり、静圧エア軸受けにより回転可能なリング状ロータ(第1ロータ)をシリンダ室に設けるとともに、このリング状ロータの内部に従来と同様にベーンを備えるロータ(第2ロータ)を設けることにより、リング状ロータとロータの間に軸回りの相対的な移動を起こすことなく、供給される圧縮エアの圧力によりリング状ロータとロータを同期して回転させることで、必要な回転力を得ながらも機械的な摺動部分を排除することを着想した。
【0007】
以上の着想に基づく本発明のベーン式エアモータは、内部に円筒状のシリンダ室が形成されるシリンダを備える。シリンダ室には、リング状の第1ロータが回転可能に収容されるとともに、第1ロータの内部にシリンダ室に対して偏心させて第2ロータが収容される。第2ロータには、半径方向へ往復変位可能にベーンが設けられる。第1ロータは、シリンダ室において静圧エア軸受けにより回転可能に支持される。
以上の要素を備える本発明のベーン式エアモータは、隣接して配置される一対のベーンで区画される第1ロータと第2ロータとの間のエア室に作動エアを供給、排出させることで、第1ロータと第2ロータが同期して回転されることを特徴とする。
【0008】
本発明のベーン式エアモータは、第1ロータと第2ロータを回転させる作動エアと、第1ロータを静圧エア軸受けにより支持する支持エアと、を供給する必要がある。この場合、各々独立したエア給気路を設け、作動エア、支持エアを供給することができるが、共通するエア給気路を、作動エアを供給する作動エア給気路と、支持エアを供給する支持エア給気路と、に分岐させることが、ベーン式エアモータの構造を簡略化するのに有効である。
【0009】
本発明のベーン式エアモータにおいて、静圧エア軸受けとしては、多孔質絞り、オリフィス絞り、自成絞り、表面絞りのいずれをも用いることができるが、オリフィス絞り又は自成絞りを適用し、シリンダの半径方向に貫通される複数の給気孔を形成することで静圧エア軸受を構成すれば、部品点数を削減できるので好ましい。この場合、複数の給気孔をシリンダの周方向に均等に設けることが、第1ロータを周方向に均等にバランスよく支持できるので好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、供給される圧縮エアによる圧力によりリング状ロータとロータを一体として回転させることで、必要な回転力を得ながらも摺動部分を排除できるので、文字通りの、長期間にわたる無給油での使用ができるベーン式エアモータを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本実施の形態におけるベーン式エアモータの分解斜視図である。
【図2】図1に示すベーン式エアモータを示す縦断面図である。
【図3】図2のA−A線断面図である。
【図4】図1の部分拡大図である。
【図5】図2の部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付する図1〜図5に示す実施の形態に基づいてこの発明を詳細に説明する。
本実施形態によるベーン式エアモータ10は、外殻をなすハウジング20と、ハウジング20の内部に固定され、内部に円筒状のシリンダ室31が形成されるシリンダ30と、シリンダ室31に回転可能に収容されるリングロータ(第1ロータ)40と、リングロータ40の内部にシリンダ室31に対して偏心して収容され、半径方向へ往復変位可能なベーン55が設けられるロータ(第2ロータ)50と、を備えている。リングロータ40は、シリンダ室31において、シリンダ30に形成される給気孔34を構成要素とする静圧エア軸受けにより、回転可能に支持される。この回転の際にリングロータ40はシリンダ30と非接触で回転される。このベーン式エアモータ10は、隣接して配置される一対のベーン55で区画され、リングロータ40とロータ50との間に形成されるエア室41に作動エア(圧縮エア)Airを供給、排出させることで、リングロータ40とロータ50とを同期して回転させることができる。
【0013】
<ハウジング20>
ハウジング20は、内部に円筒状の空間である収容室21を備え、この収容室21内に後述するシリンダ30、リングロータ40などの構成部材を収容している。ハウジング20は、ハウジング20の内周面21aから軸方向に向けて突出する仕切り壁22により収容室21と区画される受容室23を備える。受容室23にはロータ50の出力軸部53が進出しており、出力軸部53を介してロータ50の回転力が伝達されるスピンドルが受容室23に挿入される。なお、ベーン式エアモータ10において、受容室23が設けられ側を前(フロント)、その反対側を後(リア)と定義する。
【0014】
<シリンダ30>
シリンダ30は、円筒状の空隙であるシリンダ室31を備え、ハウジング20の収容室21の前方に固定される。シリンダ室31は、シリンダ30の中心軸に対して偏心して形成されている。このシリンダ室31には、リングロータ40及びロータ50が配置される。
シリンダ30は、その外周に、周方向に沿って周回する周方向通気路32を備えている。周方向通気路32は、シリンダ30の外周面より軸方向に後退する凹溝から形成される。この実施形態では軸方向に間隔を隔てて2つの周方向通気路32を設けている。シリンダ30がハウジング20内に固定されると、軸方向通気路33及び吸気孔34との連通を除いて、周方向通気路32は閉じた通路をなす。
シリンダ30は、その外周に、軸方向に沿う軸方向通気路33を備えている。軸方向通気路33は、シリンダ30の後端から前方側の周方向通気路32に達する範囲で形成される。この軸方向通気路33は、シリンダ30の外周の一部を切り欠くことで形成される。シリンダ30がハウジング20内に固定されると、周方向通気路32及び吸気孔34との連通を除いて、軸方向通気路33もまた閉じた通路をなす。
【0015】
また、シリンダ30は、複数の給気孔34を備えている。シリンダ30を半径方向に貫通する給気孔34は、一端が周方向通気路32に開口し、他端がシリンダ室31に開口するように形成されている。一端から他端に向けた途中までは径が一定とされ、この途中から他端までは径が絞られている給気孔34は、オリフィス絞りを構成する。この例では、8つの給気孔34が放射状に周方向に均等間隔で設けられている。給気孔34は、シリンダ室31の偏心に伴う肉厚の変動に応じて、半径方向の長さが設定される。
ベーン式エアモータ10の動作時に軸方向通気路33及び周方向通気路32を介して供給される圧縮エア(支持エア)Airは、複数の給気孔34を通って、シリンダ室31(リングロータ40)に向けて吐出される。このように、支持エアを供給することで、シリンダ30及び給気孔34は静圧エア軸受けを構成する。
ここでは給気孔34をシリンダ30の軸方向に2列設けているが、これはあくまで例示であり、1列だけでもよいし、3列以上設けてもよい。
【0016】
<リングロータ40>
リングロータ40は、シリンダ室31に配置される。ベーン式エアモータ10の動作時には、リングロータ40は、静圧軸受け(複数の給気孔34)から吐出される支持エアにより、シリンダ30と非接触状態でシリンダ室31内に保持される。そのために、内・外周が円形のリングロータ40は、外周の径がシリンダ室31の外周よりもわずかに小径に作製される。
リングロータ40の中空部にはロータ50が配置され、リングロータ40の内周とロータ50の外周との間に三日月状の空隙が形成される。この空間は、ベーン式エアモータ10の動作時に、隣接するベーン55により区画されて密閉されたエア室41を形成する。
【0017】
<ロータ50>
ロータ50は、リングロータ40の内部に位置するロータ本体51と、ロータ本体51の前端に一体的に形成されるフロント支持部52と、フロント支持部52より前方に突出する出力軸部53と、ロータ本体51の後端に一体的に形成されるリア支持部54と、を備えている。ロータ50は、フロント支持部52が収容室21内に固定されるフロントベアリング3に支持され、リア支持部54が収容室21内に固定されるリアベアリング8に支持されることで、ロータ本体51がリングロータ40(シリンダ室31)内に回転可能に支持される。
【0018】
ロータ本体51には、ロータ50の軸線Oの回りに複数(本例では5個所)のベーン溝56が放射状に周方向に均等間隔で形成されている。各ベーン溝56にはロータ本体51の半径方向へ往復変位可能にベーン55が収容されている。各ベーン55は、ベーン式エアモータ10の動作中、つまりリングロータ40、ロータ50が回転すると、遠心力によりその先端がリングロータ40の内周面40aに突き当てられる。こうして隣接する一対のベーン55により区画されて密閉されたエア室41がシリンダ30とリングロータ40の間に形成される。
ベーン溝56の底部とベーン55の間にはばね57が設けられている。このばね57は、ベーン55を半径方向の外側に向けて押し付けることで、ベーン式エアモータ10が動作していないときにも、ベーン55の先端がリングロータ40の内周面40aに突き当てられるのを補助する。なお、このばね57を設けることは任意である。
【0019】
<フロント側組付け構造>
シリンダ30よりも前方の収容室21には、シリンダ30側から順にフロントシリンダ固定板1と、フロントベアリング受け2が配置されている。
フロントシリンダ固定板1は収容室21に嵌合される外径を有する中空円筒状の形態をなす部材であり、中心を貫通する軸孔1aをロータ50のフロント支持部52及び出力軸部53が貫通する。
フロントベアリング受け2は、中空円筒状の収容部2aと、収容部2aから前側に突出する中空円筒状の係止部2bとを備える。収容部2a内にはフロントベアリング3が収容、保持される。係止部2bは、その前端が収容室21の仕切り壁22に係止されることで、フロントベアリング受け2を介して収容室21に収容されるフロントシリンダ固定板1、シリンダ30などの部材の軸方向の位置決めを行う。係止部2bの内部にはベアリング内輪押さえ4とベアリング外輪押さえ5とが配置され、
フロントベアリング3の軸方向の移動を規制する。ベアリング内輪押さえ4はロータ50のフロント支持部52の外周に固定されることで、ロータ50の回転に伴って回転する。ベアリング外輪押さえ5は、係止部2bにねじ止めされる。
【0020】
<リア側組付け構造>
シリンダ30よりも後方の収容室21には、シリンダ30側から順にリアシリンダ固定板6と、リアベアリング受け7と、エアジョイント9が配置されている。
リアシリンダ固定板6は、収容室21に嵌合される外径を有する中空円筒状の形態をなす部材であり、中心を貫通する軸孔6aをロータ50のリア支持部54が貫通する。リアシリンダ固定板6には、軸孔6aを境にして一方の側に固定板給気路6bが、また、他方の側に固定板排気路6cが形成されている。固定板給気路6bは、リアシリンダ固定板6の後端に開口する小径路6b1と小径路6b1に連なりリアシリンダ固定板6の前端に開口する大径路6b2とからなる。大径路6b2は、リアシリンダ固定板6の外周にも開口している。リアシリンダ固定板6が所定の位置に配置されると、大径路6b2は、リングロータ40とロータ50の間に形成される給気側のエア室41と連通するとともに、シリンダ30の軸方向通気路33と連通する。固定板排気路6cは、リアシリンダ固定板6を前後方向に貫通する三日月状の貫通孔である。リアシリンダ固定板6が所定の位置に配置されると、固定板排気路6cは、リングロータ40とロータ50の間に形成される排気側のエア室41と連通する。
【0021】
リアベアリング受け7は、収容室21に嵌合される外径を有する中空円筒状の形態をなす部材であり、中心に円筒状の収容部7aを有している。収容部7aは前端が開口しているが、後端側が閉じている。収容部7a内には、リアベアリング8が収容、保持される。リアベアリング受け7には、収容部7aを境にして一方の側に受け給気路7bが、また、他方の側に受け排気路7cが形成されている。受け給気路7bは、リアベアリング受け7の前後端を貫通し、リアシリンダ固定板6の固定板給気路6b(小径路6b1)と対応(連通)する。受け排気路7cは、リアベアリング受け7の前後端を貫通し、リアシリンダ固定板6の固定板排気路6cと対応(連通)する。
以上説明した各要素は、フロントベアリング受け2、フロント固定板1、シリンダ30、シリンダ固定板6、リアベアリング受け7に挿通される固定ねじ13により一体化される。
【0022】
ベーン式エアモータ10の後端に配置されるエアジョイント9は、図示しない供給源からのエアが流通するチューブ、排気されるエアを回収先に流通させるチューブを接続する部位である。エアジョイント9は、ハウジング20に対してねじ止めされることで、リアシリンダ固定板6及びリアベアリング受け7を介して、収容室21に収容されるフロントシリンダ固定板1、シリンダ30などの部材の軸方向の位置決めを行う機能をも有する。
エアジョイント9は、ジョイント給気路9bとジョイント排気路9cを備えている。ジョイント給気路9bはリアベアリング受け7の受け給気路7bに対応し、ジョイント排気路9cはリアベアリング受け7の受け排気路7cに対応する。ジョイント給気路9bは、受け給気路7b、固定板給気路6bとともに、作動エア給気路を構成する。また、ジョイント排気路9cは、受け排気路7c、固定板排気路6cとともに、作動エア排気路を構成する。
エアジョイント9は、ジョイント給気路9bに対応する接続片11と、ジョイント排気路9cに対応する接続片12と、を備えている。接続片11には図示しない給気用のチューブが接続され、接続片12には図示しない排気用のチューブが接続される。
【0023】
<作用>
次に、ベーン式エアモータ10の作用を説明する。
図示しないエア供給源から圧縮エアAirがベーン式エアモータ10に供給される。そうすると、作動エアは、ジョイント給気路9b、受け給気路7b、固定板給気路6bをこの順に進む。固定板給気路6bは小径路6b1と大径路6b2からなるが、受け給気路7bを通過した圧縮エアは小径路6b1を通って大径路6b2に流入する。大径路6b2は、給気側のエア室41に連通するとともに、シリンダ30の軸方向通気路33と連通する。したがって、大径路6b2に流入した圧縮エアは、一部が作動エアとなってエア室41に供給され、残りが支持エアとなって軸方向通気路33に供給される。このように、ジョイント給気路9bから固定板給気路6bの小径路6b1までは共通する給気路R(図2)が形成されるが、大径路6b2において、エア室41に作動エアを供給する作動エア給気路R1(図5)と、静圧エア軸受けに支持エアを供給する支持エア給気路R2(図5)と、に分岐される。
【0024】
分岐された作動エア給気路R1を流れる作動エアは以下のように作用する。
ベーン55で区画されたエア室41のうち大径路6b2が連通するエア室41(給気側エア室)に作動エアが供給される。そして、エア室41に供給された作動エアの圧力が、当該エア室41を区画するベーン55のうちベーン溝56からより突出された側のベーン55の受圧面55aに印加される。そうすると、ロータ50に軸線Oの回りに図3における反時計回り方向の回転力Fが作用する。そして、各ベーン55で区画されてロータ50の周方向に形成される各エア室41に大径路6b2から作動エアを順次に供給する。これに伴い、各エア室41に供給された作動エアは、固定板排気路6cから順次排出される。これにより、ロータ50は、軸線Oを中心に放射状に配設された各ベーン55を半径方向へ摺動変位させながら、且つベーン55の外側端面をリングロータ40の内壁面40aに押し当てながら、軸線Oの回りに図3における反時計回り方向へ回転する。
【0025】
一方、分岐された支持エア給気路R2を流れる支持エアは以下のように作用する。
支持エアは、ハウジング20とシリンダ30とで周囲が閉じられた軸方向通気路33を進んだ後、2つの周方向通気路32に流入する。シリンダ30の周方向に亘って形成される各々の周方向通気路32に行き渡った支持エアは、周方向通気路32に開口する給気孔34を通ってシリンダ室31内に設けられるリングロータ40に向けて吐出される。複数(本実施形態では8つ)の給気孔34が放射状に周方向に均等に配置されている。したがって、リングロータ40は周方向に均等な圧力を受けることで、シリンダ30と接触することなく、シリンダ室31の中心と同軸上に保持される。
【0026】
リングロータ40の内部ではロータ50がベーン55の外側端面が内周面40aに押し当てられることでベーン55とリングロータ40の間に摩擦力が生じながら反時計回りに回転している。したがって、ロータ50の回転に伴って、リングロータ40もロータ50に同期して一体となって反時計回りに回転することができる。
【0027】
以上のベーン式エアモータ10によると以下の効果を奏する。
供給される圧縮エアによる圧力によりリングロータ40とロータ50を同期して回転させることで、必要な回転力を得ることができる。しかも、リングロータ40とロータ50は相対的な移動を伴わないので、リングロータ40とロータ50の間から摺動部分を排除できる。加えて、リングロータ40は静圧エア軸受けによりシリンダ室31にシリンダ30と非接触で支持されているので、シリンダ30とリングロータ40の間からも摺動部分を排除することができる。このようにベーン式エアモータ10は摺動する部材が存在しないので、長期間にわたり無給油で使用することができる。
また、ベーン式エアモータ10は、共通するエア給気路を、作動エアを供給する作動エア給気路R1と、支持エアを供給する支持エア給気路R2と、に分岐させるので、作動エア給気路と支持エア給気路を個別に設けるのに比べて、ベーン式エアモータの構造を簡略化することができる。ただし、本発明は作動エア給気路と支持エア給気路を個別に設ける形態を排除するものではない。
さらに、ベーン式エアモータ10のように、シリンダ30の半径方向に貫通される複数の給気孔34を形成することで静圧エア軸受を構成すれば、新たな部材を付加する必要がないので、部品点数を削減できる。
【0028】
以上説明したベーン式エアモータ10は、静圧エア軸受けとして、シリンダ30に給気孔34を設けるオリフィス絞りの例を示したが、静圧エア軸受けはこれに限らず、他の形式のものを本発明に適用することができることはいうまでもない。特に、リングロータ40の周囲に均等に支持エアを供給することで高精度な支持を実現するためには、多孔質絞りによる静圧エア軸受けを適用することが好ましい。この場合、多孔質絞りでシリンダ30を構成するか、あるいはシリンダ30の内周側にリング状の多孔質絞りを配置し、この多孔質絞りを介して支持エアをリングロータ40に向けて供給する。
【0029】
また、以上で示したベーン式エアモータ10の具体的な構成、例えば、シリンダ30に形成される給気孔34の数、配置位置、あるいはベーン55の数、配置位置、はあくまで好ましい例示にすぎない。
これ以外にも、本発明の要旨を逸脱しない限り、上記実施の形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更することが可能である。
【符号の説明】
【0030】
1 フロントシリンダ固定板
1a 軸孔
2 フロントベアリング受け
2a 収容部
2b 係止部
3 フロントベアリング
4 ベアリング内輪押さえ
5 ベアリング外輪押さえ
6 リアシリンダ固定板
6a 軸孔
6b 固定板給気路
6b1 小径路
6b2 大径路
6c 固定板排気路
7 リアベアリング受け
7a 収容部
7b 受け給気路
7c 受け排気路
8 リアベアリング
9 エアジョイント
9b ジョイント給気路
9c ジョイント排気路
10 ベーン式エアモータ
11,12 接続片
13 固定ねじ
20 ハウジング
21 収容室
22 仕切り壁
23 受容室
30 シリンダ
31 シリンダ室
32 周方向通気路
33 軸方向通気路
34 給気孔
40 リングロータ
40a 内壁面
41 エア室
50 ロータ
51 ロータ本体
52 フロント支持部
53 出力軸部
54 リア支持部
55 ベーン
55a 受圧面
56 ベーン溝
F 回転力
O 軸線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に円筒状のシリンダ室が形成されるシリンダと、
前記シリンダ室に回転可能に収容されるリング状の第1ロータと、
前記第1ロータの内部に前記シリンダ室に対して偏心して収容され、半径方向へ往復変位可能にベーンが設けられる第2ロータと、
前記シリンダ室において前記第1ロータを回転可能に支持する静圧エア軸受けと、を備え、
隣接して配置される一対の前記ベーンで区画される、前記第1ロータと前記第2ロータとの間のエア室に作動エアを供給、排出させることで、前記第1ロータと前記第2ロータを同期して回転させる、
ことを特徴とするベーン式エアモータ。
【請求項2】
前記作動エアが供給される作動エア給気路と、
前記静圧エア軸受けに供給される支持エア給気路と、を備え、
前記作動エア給気路と前記支持エア給気路は、共通するエア給気路が分岐されたものである、
請求項1に記載のベーン式エアモータ。
【請求項3】
前記静圧エア軸受けは、
前記シリンダの半径方向に貫通される複数の給気孔を形成することで構成される、
請求項1又は2に記載のベーン式エアモータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−237204(P2012−237204A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−105445(P2011−105445)
【出願日】平成23年5月10日(2011.5.10)
【出願人】(000150327)株式会社ナカニシ (43)