説明

ペクチン、およびその製造方法

【課題】 物性(粘性)を改善したペクチンの製造法を提供すること。
【解決手段】 クエン酸又はクエン酸塩を使用して果実、果皮、又は果実搾汁粕から製造したペクチンである。このとき、クエン酸濃度が4.0%〜20%(w/v)、pHが5.5〜8.3、温度が40℃〜80℃の条件とすることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、果実、果皮、又は果実搾汁粕の原料に対して、クエン酸又はクエン酸塩を添加してpH調整・加温処理して製造してなるペクチンの製造方法等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、果実からのペクチンの調整は果皮又は果実搾汁粕を原料に、酸性pH条件下で加熱抽出した可溶化成分を乾燥、粉砕して製造されていた。一方、柑橘類の果汁、例えば、レモンには約6%(w/v)、温州ミカンには約1%(w/v)のクエン酸が含まれている。これまで果汁中の高濃度のクエン酸を利用してのペクチンの調整は、ペクチンが酸性pHで安定であり、その性質が損なわれないことを目的に使用されている。しかしながら、クエン酸又はクエン酸塩を添加して、pHを微酸性〜微アルカリ性に調整する利用法はこれまで行われていない。
【0003】
一般に、ペクチンは中性又はアルカリ域で、α-1,4結合が脱離機構により分解することが知られている。このため、ペクチンの分解を起こさないようにするため、このpH領域での加熱処理はほとんど行われていないのが現状である(例えば、特許文献1および特許文献2)。
ジャム、ゼリーなどの低pH食品には、広くペクチンが利用されている。ペクチンの種類は大きく分けて、高メトキシルペクチンと低メトキシルペクチンがあり、粘度、ゲル化特性により使い分けられている。こうした性質はペクチンを構成するガラクツロン酸のエステル化度と分子量に依存している。一方で、メトキシル基に依存しない、物性改良されたペクチンの製造法が必要とされている。
【0004】
【特許文献1】特開2004−197001号公報
【特許文献2】特開2001−354702号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ペクチンにおいて、粘性は品質の重要な要素であり、粘性の改善は増粘安定剤としてのペクチンの利用・展開を広めるものである。本発明では、物性(粘性)改善されたペクチンの製造法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、果実搾汁粕又は果実の原料に対して、適量のクエン酸濃度になるようにクエン酸又はクエン酸塩を添加して、これをpH調整・加温処理することを含むペクチンの製造法に関する。クエン酸は1分子あたり3個のカルボキシル基を含み、糖類中の水酸基やアミノ基と反応する。水酸基とクエン酸のカルボキシル基が反応した場合、2個の負の電荷が増加することとなり、この結果、糖類の電荷に変化が起こる。こうして、クエン酸処理して製造されたペクチンの粘度が、従来法より製造されたペクチンよりも粘度が高くなることを確認し、発明に到った。
【0007】
こうして、第1の発明に係るペクチンは、クエン酸又はクエン酸塩を使用して果実、果皮、又は果実搾汁粕から製造してなる。
本発明においては、ペクチンを抽出する時のクエン酸の濃度が4.0%〜20%(w/v)使用して製造してなることが好ましい。
また、クエン酸又はクエン酸塩を添加した後に調整されるpHが5.5〜8.3であることが好ましい。
また、クエン酸又はクエン酸塩を添加した後に調整される温度が40℃〜80℃であることが好ましい。
【0008】
第2の発明に係るペクチンの製造方法は、果実、果皮、又は果実搾汁粕とクエン酸又はクエン酸塩とを混合し、クエン酸又はクエン酸塩の濃度が4.0%〜20%(w/v)、pH5.5〜8.3の条件で処理することを特徴とする。
本発明においては、処理時の温度が40℃〜80℃であることが好ましい。
また、前記果実、果皮、又は果実搾汁粕が、柑橘類であることが好ましい。
【0009】
第3の発明に係る低メトキシルペクチンは、クエン酸含量が、1gのペクチン乾物あたり、5mg〜20mgであることを特徴とする。この低メトキシルペクチンは、上記第2の発明によって製造することができる。
本発明において、果実としては、例えば柑橘類(イヨカン、ウンシュウミカン 、オレンジ 、オロブランコ 、カボス 、カラタチ 、キシュウミカン 、キンカン 、クネンボ 、グレープフルーツ 、コウジ 、サンボウカン 、シークヮーサー、シトロン 、シラヌイ 、スダチ 、ダイダイ 、タチバナ 、タンカン 、デコポン 、ナツミカン 、ハッサク 、ハナユ 、ヒュウガナツ 、ブッシュカン 、ブンタン、ベルガモット 、ポンカン 、ミカン 、ユズ 、ライム 、レモン など)、落葉性果樹(カリン・ナシ・マルメロ・メドラー・リンゴなどの仁果類、アンズ・ウメ・サクランボ・スモモ・モモなどの核果類、アーモンド・イチョウ・クルミ・ペカンなどの殻果類、その他のアケビ・イチジク・カキ・キイチゴ・キウイ・グミ・クランベリー・ブラックベリー・ブルーベリー・ラズベリー・コケモモ・ザクロ・サルナシ・スグリ・ナツメ・ニワウメ・フサスグリなど)、柑橘類を除く常緑性果樹(オリーブ、ビワ、ヤマモモなど)、熱帯果樹(アキー、アセロラ 、アテモヤ 、アボカド 、カニステル 、カムカム 、キウイフルーツ 、キワノ 、グアバ 、ココヤシ 、サポジラ 、スターフルーツ 、タマリロ 、チェリモヤ、ドラゴンフルーツ 、ドリアン 、ナツメヤシ 、パイナップル 、パッションフルーツ 、バナナ 、パパイヤ 、ババコ 、パラミツ 、パンノキ 、バンレイシ 、ピタヤ、ピタンガ 、フェイジョア 、フトモモ 、ペピーノ 、ホワイトサポテ 、マンゴー 、マンゴスチン 、ミラクルフルーツ 、ランブータン 、リュウガン 、レイシなど)、その他の果樹・果菜(イチゴ、スイカ、メロンなど)などが用いられる。
【0010】
クエン酸塩として利用可能な塩は、例えばクエン酸一ナトリウム、クエン酸一カリウム、クエン酸三ナトリウム、クエン酸三カリウム、クエン酸三アンモニウム、クエン酸水素二カリウム、クエン酸水素二ナトリウム、クエン酸水素二アンモニウムなどが例示される。
ペクチンとは、ポリα(1→4)−D−ガラクツロン酸のカルボキシル基の一部がメチルエステル化された複合多糖類である。メチル化の割合によって、低メトキシルペクチン(LMP:メトキシル基含量7%未満)と、高メトキシルペクチン(HMP:メトキシル基含量7%以上)に分けられる。一般に、果実に含まれているペクチンは、高メトキシルペクチンである。本発明によって得られるペクチンは、低メトキシルペクチンであり、そのクエン酸含量は1gのペクチン乾物あたり5mg〜20mgである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、物性(粘性)が改善されたペクチンの製造法等を提供することができる。また、本発明の処理用原料には、果実全体を使用できることから、搾汁に利用されない不良な果実や、商品価値のない果実の有効利用ができることになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
次に、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明するが、本発明の技術的範囲は、これらの実施形態によって限定されるものではなく、発明の要旨を変更することなく様々な形態で実施することができる。また、本発明の技術的範囲は、均等の範囲にまで及ぶものである。
本実施形態では、クエン酸又はクエン酸塩が使用されている。使用する原料により、クエン酸又はクエン酸塩の使用量は異なるが、材料中のクエン酸の最終濃度は、4.0%〜20%とする。クエン酸の添加によって、pHが低下する場合、pH調整剤として水酸化ナトリウムを使用する。
【0013】
上記のようにして、クエン酸又はクエン酸塩を添加してpHをpH5.5〜pH8.3の範囲に調整する。そして、好ましくはpH6.5〜pH7.5が、粘性の高いペクチンを製造することができる。なお、pH調整剤の添加によって、材料の温度は上昇するが、本発明では添加したクエン酸又はクエン酸塩と糖類とを効率的に反応させるために、pH調整後、材料の温度を40℃〜80℃に設定する。
所定の温度に加熱された原液は、1時間〜18時間保温することで、ペクチンへのクエン酸の取り込みを進める。その後、処理された原液は室温環境下に戻し、従来法のペクチンの調整に従ってペクチンの精製を行う。
【0014】
以下実施例により、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によっては限定されない。
<実施例1>
表1に示す配合率でペクチンの精製を行った。
【0015】
【表1】

【0016】
上記、柑橘類搾汁粕に対してクエン酸を1−20%(w/v)を加え、pH6.4に調整し、65℃で2時間保温した。その後、室温に冷却し、塩酸を用いて原液のpHを2.2に調整した。また、従来法によるペクチンの調整は、クエン酸無添加で原液を直ちにpH2.2に調整した。
上記pHに調整された原液は、100℃で15分間加熱し、ペクチンの抽出を行った。不溶化物を遠心除去後、上清液を中性pHに調整した。その抽出液の2倍量の95%エタノールを加え、沈殿物を回収し、60℃熱風乾燥した。その乾燥品を水に溶解・懸濁し、分子量14,000カットの透析膜を用いて1昼夜透析を行った。透析終了後、真空凍結乾燥機によりペクチンの凍結乾燥粉末を調整した。
【0017】
粘度の測定は、ペクチン凍結乾燥粉末の1%水溶液を試料に、SV型粘度計(SV−10)((株)エーアンドデイ)により25℃で行った。
結果を図1に示した。図1より、クエン酸濃度が4〜20%で処理して得られたペクチン液の粘度は従来法に比べて高くなることが分かった。
<実施例2>
表2に示す配合率でペクチンの精製を行った。
【0018】
【表2】

【0019】
上記、柑橘類搾汁粕に対してクエン酸を10%(w/v)を加え、原液をpH5.8〜pH8.0に調整し、65℃にて2時間保温した。その後、室温に冷却し、塩酸を用いて原液のpHを2.2に調整した。そして、100℃、15分間加熱し、不溶化物を除去後、処理液をpH7に戻した後、エタノール沈殿、透析、凍結乾燥して、ペクチン凍結乾燥粉末を調整した。
結果を図2に示した。図2より、クエン酸処理におけるpH5.8〜8.0において、従来品より高い粘度となることが判った。
【0020】
<実施例3>
次に、クエン酸処理温度を50℃〜80℃の間で変化させたときのペクチンの粘度に与える影響を調べた。結果を図3に示した。図3より、クエン酸処理温度が50℃〜80℃の間で得られたペクチンは、従来法で得られたペクチンよりも高い粘度を示した。
<実施例4>
次に、クエン酸濃度を0%〜20%の間で変化させたときのペクチン中のクエン酸量に与える影響を調べた。
実施例1で得られたペクチン乾燥粉末を試料とし、6N塩酸中で105℃、14時間の加水分解を行った。加水分解物を蒸発乾固化した後、水に懸濁しクエン酸の定量を行った。
結果を図4に示した。図4より、クエン酸処理時のクエン酸濃度に比例して、ペクチン中のクエン酸含量が高くなることが分かった。
【0021】
<実施例5>
従来法により精製されたペクチンと、クエン酸濃度10%、原液pH6.4で処理して得られたペクチンのエステル化度をKlavonsら(Klavons, J.A., Benetter, D.: J. Agric.Food. Chem.34, 597 (1986))の方法により測定した。
結果を表3に示した。
【0022】
【表3】

【0023】
表3によれば、本発明の方法で製造されたペクチンは、従来法で製造されたペクチンに比べてエステル化度が低くなった。このことから、本発明の方法で製造されるペクチンは、低メトキシルペクチンで、且つクエン酸を含むことが明らかとなった。
【0024】
このように本実施形態によれば、物性(粘性)が改善されたペクチンの製造法等を提供することができた。また、本実施形態の処理用原料には、果実全体を使用することができることから、搾汁に利用されない不良な果実や、商品価値のない果実の有効利用ができることになる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】クエン酸処理におけるクエン酸濃度がペクチンの粘度に及ぼす影響を確認した結果を示すグラフである。処理条件は、65℃、2時間、pH6.4であった。
【図2】クエン酸処理におけるpHがペクチンの粘度に及ぼす影響を確認した結果を示すグラフである。処理条件は、クエン酸10%、65℃、2時間であった。
【図3】クエン酸処理における温度がペクチンの粘度に及ぼす影響を確認した結果を示すグラフである。処理条件は、クエン酸10%、2時間、pH8.0であった。
【図4】クエン酸濃度がクエン酸含量に及ぼす影響を確認した結果を示すグラフである。処理条件は、6N塩酸、105℃、14時間であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クエン酸又はクエン酸塩を使用して果実、果皮、又は果実搾汁粕から製造してなるペクチン。
【請求項2】
前記ペクチンを抽出する時のクエン酸の濃度が4.0%〜20%(w/v)使用して製造してなる請求項1のペクチン。
【請求項3】
クエン酸又はクエン酸塩を添加した後に調整されるpHが5.5〜8.3である請求項1または2に記載のペクチン。
【請求項4】
クエン酸又はクエン酸塩を添加した後に調整される温度が40℃〜80℃である請求項1〜3のいずれか一つに記載のペクチン。
【請求項5】
果実、果皮、又は果実搾汁粕とクエン酸又はクエン酸塩とを混合し、クエン酸又はクエン酸塩の濃度が4.0%〜20%(w/v)、pH5.5〜8.3の条件で処理することを特徴とするペクチンの製造方法。
【請求項6】
処理時の温度が40℃〜80℃であることを特徴とする請求項4に記載のペクチンの製造方法。
【請求項7】
前記果実、果皮、又は果実搾汁粕が、柑橘類であることを特徴とする請求項5または6に記載のペクチンの製造方法。
【請求項8】
クエン酸含量が、1gのペクチン乾物あたり、5mg〜20mgであることを特徴とする低メトキシルペクチン。
【請求項9】
請求項5〜7のいずれか一つの製造方法により得られた請求項8に記載のペクチン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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