説明

ペクチン加水分解産物を製造する方法

【課題】哺乳動物の細胞への病原性物質及び病原性生物の付着を減少させるための、ペクチン加水分解産物を製造する方法の提供。
【解決手段】水溶液又は懸濁液中のペクチン又はペクチン含有植物性物質を、第1のステップにおいてペクチンリアーゼを用いて処理し、第2のステップにおいてエンドポリガラクツロナーゼを用いて処理し、これにより、少なくとも1つの4,5−不飽和ガラクツロン酸分子を含み、かつメタノールにより≧20%までエステル化されたガラクツロニド分子を有するペクチン加水分解産物を得る方法。

【発明の詳細な説明】
【発明の属する技術分野】
【0001】
本発明は、真核細胞、特に哺乳動物の細胞への病原性物質及び病原性生物の付着を減少させ、及び/又は防止するため、またはガレクチン3に媒介され且つ腫瘍を導く細胞と細胞の及び/又は細胞とマトリックスの相互作用を妨げるための、ペクチン加水分解産物を製造する方法、薬学的又食事的製剤を製造する方法、病原性の物質又は生物の真核細胞への付着を阻止する方法、ガレクチン3に媒介される細胞と細胞の及び/又は細胞とマトリックスの相互作用を妨げる方法、並びにこれらの方法によって産生されたペクチン加水分解産物及び製剤に関する。
【従来の技術】
【0002】
病原性の生物、及び細胞を損なう物質が、攻撃された細胞への感染又はその損傷を引き起こすことができるためには、まず標的細胞の表面に付着しなければならない。この付着は、例えばリガント・レセプター関係によって媒介される。この場合、糖構造は重要な役割を果たす。これらの糖構造が標的細胞の表面又はリガンドにおいてブロックされれば、感染を阻止することができる。
【0003】
糖構造は、腫瘍の形成及び転移の際にも重要な役割を果たす(リオッタ等、Annu.Rev.Cell Biol.55(1986),1037-1057)。腫瘍の形成は、細胞表面の成分、特に、糖質結合性タンパク質に媒介された細胞の相互作用を含む。かくて、腫瘍細胞の付着は細胞の付着性分子によって媒介される。転移の多くの段階もまた、細胞の表面の成分によって媒介される細胞と細胞の相互作用及び/又は細胞と細胞外マトリックス(ECM)の相互作用を含む。細胞外マトリックス(ECM)は、主として、ラミニン、フィブロネクチン及びプロテオグリカンからなる。これらのうちの非常に多くはグリコシル化されており、これら物質のオリゴ糖の側鎖は細胞の付着分子のための検出デターミナントを提供する。ラミニンは、ポリ−N−アセチルラクトースアミンの配列を有する、N結合糖タンパク質である。転移は、腫瘍細胞、血小板及びリンパ球の循環する凝塊が、毛細血管内で付着分子によって内皮と接触するときに行われる。この接触は、内皮の細胞機能を開始するための信号を供する。従って、腫瘍細胞は、他の付着分子によって基底膜(Basalmembran)上のレセプターに結合する。基底膜の破壊後に、腫瘍細胞はストローマ(Stroma)への直接的な接近を得る。これにより、一次腫瘍侵入の場合と同様に、ラミニンおよびフィブロネクチンと対応のレセプターとの間の相互作用が再度なされる。
【0004】
糖質を結合するタンパク質の重要な代表者は、ガラクトシドを結合するレクチン、即ち、ガレクチン1及びガレクチン3である(ラッツ及びロタン、Canser Metastasis Rev.6(1987),433;ガビウス、Biochim.Biophys Acta,1071(1991),1)。ガレクチン3については、それが血液循環内で塞栓症の腫瘍分散を促し、転移を高めることが知られている。ガレクチン3は多くの腫瘍細胞の細胞表面に発現される。これにより、ガレクチン3の発現は腫瘍発生の進展と共に増大する。ガレクチン3は、同様に、活性化マクロファージ及び発癌性の形質転換細胞又は転移細胞によって発現される。ガレクチン3は、ポリラクトースアミンを含有するオリゴ糖への高い親和性を有する。これにより、ガレクチン3は特に、幾つかの細胞のタイプ(例えば、ヒトの大腸癌細胞及びヒトの乳癌細胞)に生じる2つの糖タンパク質に結合する。ガレクチン3のための他のリガンドは、例えばラミニンである。内皮細胞の表面にも発現されるガレクチン3は、同様に、内皮細胞への腫瘍細胞の付着に係わっている。
【0005】
米国特許第5,834,442号は、哺乳動物における癌の病気を治療するための、特に、前立腺癌を治療するための方法を記載している。該公報では、転移の抑止を含む癌の治療は、修飾ペクチン、好ましくは、pHが修飾された水溶性のカンキツ類ペクチンの経口投与によってなされる。pH修飾ペクチンを製造するために、pH値を10.0に上げ、その後にpH値を3.0に下げることによって、ペクチン溶液を脱重合する。この修飾ペクチンは、約1乃至15kdの分子量を有する。カンキツ類の修飾ペクチンを飲料水で投与されたラットは、治療されていない対照グループとの比較で、肺への転移の極めて僅かな形成を示した。試験管内の実験は、ガレクチン3により発現されたMLL内皮細胞のラット大動脈の内皮細胞(RAEC)への付着が、修飾カンキツ類ペクチンの存在下により完全に阻止されたことを示した。複数の他の実験では、pH修飾カンキツ類ペクチンによる、MLL内皮細胞の転移増殖への作用を研究した。半固体の媒体における細胞の増殖能力(足場非依存性)を、細胞形質転換及び細胞の侵入能力のための基準として用いることができる。何故ならば、半固体の媒体における細胞の増殖が細胞の移動及びコロニーの形成を促すからである。これにより、修飾されたカンキツ類ペクチンが、形成されたMLLコロニーの数及びその大きさを著しく減少させ得ることが明らかになった。この場合、修飾されたカンキツ類ペクチンは、細胞障害効果よりもむしろ細胞増殖抑制効果を及ぼすように見える。糖質で媒介される機構、特に、ガレクチン3で媒介される相互作用に基づく細胞と細胞の相互作用及び細胞とマトリックスの相互作用に対する、修飾されたカンキツ類ペクチンの作用も研究した。この場合、修飾されたカンキツ類ペクチンが、修飾されていないカンキツ類ペクチンとは逆に、ラミニンへのB16−F1−黒色腫細胞の付着を阻止することが明らかになった。ラミニンについては、それが水溶性のガレクチン3のためのリガンドとして用いられることは知られている。
【0006】
EP 0 716 605 B1からは、特別に作られたニンジンスープ、嚢ティー(Blasentee)、ココミルク等によって、例えば大腸菌(E.coli)のような病原菌の、細胞、特に胃腸管及び泌尿生殖管の内皮細胞への付着を著しく(すなわち90%まで)減少させ得ることが知られている。この公報では、この作用は、植物性産物に存在するペクチンに起因する。このようなペクチンは、実質的に、20乃至80%までメタノールでエステル化されている酸基を有する1,4−α−グリコシド結合ガラクツロニドであり、ガラクツロン酸に加えて、場合によって更に他の糖成分、例えばグルコース、ガラクトース、キシロース及びアラビノースを含有することができる。上記の公報からは、更に、モノガラクツロン酸が付着の阻止を何等示さないが、これに対し、ジガラクツロニド及びトリガラクツロニドによって、夫々最大限91.7%又は84.6%の阻止が見出されることを読み取ることができる。この公報では、モノマーのガラクツロン酸が付着を何等阻止せず、望ましい阻止作用がガラクツロニドの分子量の増加に伴って減少することが明らかに見出される。このことからは、望ましいガラクツロニドの重合度がDP2又は3にあることが明らかである。更に、エステル化度が<2%であることが要求される。しかし、公報に記載された方法で製造されたペクチン加水分解産物は、有効成分として指定されたジガラクツロニド及びトリガラクツロニドを非常に少ない比率(原料に対し約12%)でしか含んでいない。この製造方法は資源を浪費し、環境問題に繋がる。何故ならば、高い割合で生じる使用不能な副産物を処理しなければならないからである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の基礎となる技術的課題は、感染と戦い且つ真核細胞(特に哺乳動物の細胞)への有害な物質(特に病原性の物質及び生物)の付着を減少させる及び/又は妨げるための他の方法および手段、並びに、細胞の表面にありかつ糖質を結合するガレクチン3の分子により媒介され、且つ特に腫瘍の発生の原因である、哺乳動物の細胞(特に腫瘍細胞)の間の相互作用を阻止するため、及び、腫瘍を治療し、特に転移を防止するための他の方法及び手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この技術的課題は、ペクチン加水分解産物を製造するための本発明に基づいて提案された方法であって、モノマーの出来る限り僅かな含量と、少なくとも1つの二重結合を持った分子の高い含量と、≧20%のエステル化度とを有するオリゴガラクツロニドの産生をもたらし、且つ従来技術の場合よりも著しく高い収率で実行されることができる方法によって解決される。
【0009】
この課題は、ペクチンの、ペクチン含有の、特に植物性の物質の、好ましくは、高いエステル化度を有するペクチンの、水溶液又は懸濁液を、第1のステップにおいてペクチン加水分解酵素Aを用いて処理し、次に、第2のステップにおいてペクチン加水分解酵素Bを用いて処理することによって解決される。これにより、有害な(例えば病原性の、アレルゲン性の、感染性の、又は毒性の)物質又は生物(例えば、酵母、キノコ、細菌、細菌、ウイルス、胞子、ウイロイド、プリオン)の細胞の生命機能及び/又は増殖機能のための付着を減少させ、及び/又は防止するための手段としての優れた性質を有する、前記ペクチン加水分解産物を得る。
【0010】
酵素Aは、例えば、ペクチンリアーゼ(EC4.2.2.10)又はエンドポリガラクツロナーゼ(EC3.2.1.15)、好ましくはペクチンリアーゼであってよい。酵素Bは、エンドポリガラクツロナーゼ又はペクチンリアーゼ、好ましくはエンドポリガラクツロナーゼあってよい。
【0011】
本発明では、驚くべきことに、例えば病原菌、及び細胞を損傷する物質の胃腸管及び泌尿生殖管の上皮細胞への付着を阻止する際に、分子に二重結合を有するガラクツロニドが特に効果的であることが見出された。更に、特に効率的な防止及び/又は減少、例えば阻止のためには、より高いエステル化度、特に≧20、好ましくは≧30,≧40,≧50,特に好ましくは≧60,≧65,≧70又は≧71%が必要である。しかし、従来の技術に記載された方法は、二重結合を有さずかつ実際に完全に脱エステル化されているガラクツロニドのみを生じる。
【0012】
本発明との関連で、「エステル化度」という概念は、基本的にエステル化のために用いられ得るガラクツロニドの酸基の、アルコール(特にメタノール)でエステル化されている部分を意味する。
【0013】
本発明との関連で、不飽和ガラクツロン酸分子は、特に、4,5−不飽和ガラクツロン酸分子を意味する。
【0014】
本発明の実施の形態では、酵素Bによる処理の後に、他の第3の酵素Cによる処理を続けることが提案される。この場合に用いられる酵素Cは、ペクチンエステラーゼ(EC3.1.1.11)であってよい。これにより、生成物のエステル化度を特に適切に調整することができる。
【0015】
本発明の他の実施の形態では、本発明に基づき酵素により処理がなされた後に、残った不溶性成分を遠心分離及び/又は限外濾過によって溶液から分離することが提案される。
【0016】
他の実施の形態では、酵素による本発明に係わる処理、及び遠心分離又は限外濾過による清澄の後に得られた溶液を、既知の方法によって乾燥された形態、例えば、粉砕された粒状、顆粒状、又は粉末状の形態に変換することが提案される。
【0017】
酵素による本発明に係わる処理後に得られた溶液、又はこの溶液から得られた乾燥された産物は、ヒト及び動物における胃腸管及び泌尿生殖管の例えば上皮細胞への、例えば病原菌、及び細胞を損傷する物質の付着の阻止に関して、非常に良好な結果を示す。従って、この溶液又は産物を、子豚の飼育の際に下痢の防止のために、例えば動物の餌の中に用いることができる。
【0018】
本発明に基づいて用いられた、ペクチン又はペクチン含有の、好ましくは植物性物質の水溶液又は懸濁液は、3.5乃至5.5の範囲のpH値を有し、及び/又は、他の好ましい実施の形態では、3%乃至25%のペクチン濃度を有する。
【0019】
酵素A,B及び場合によってはCによる処理は、3.5乃至5.5の範囲のpH値で、2時間乃至24時間に亘って、25℃乃至60℃の温度で、10乃至30ml/kgの、酵素A,B及び場合によってはCの濃度でなされる。
【0020】
他の実施の形態において、ペクチン加水分解産物におけるガラクツロニドの含量(乾燥物質に対して重量%)は、少なくとも60重量%,≧70重量%,≧75重量%,≧80重量%、又は特に好ましくは少なくとも85重量%であることが提案される。
【0021】
他の好ましい実施の形態では、ペクチン加水分解産物中において、ペクチン加水分解産物の全糖質におけるDP−1(モノマー)糖質の含量が<25重量%,<20重量%,<10重量%,<8重量%,<5重量%,特に好ましくは<4重量%(乾燥分に対して)であることが提案される。
【0022】
他の好ましい実施の形態では、ペクチン加水分解産物の全糖質に対する、DP>10の重合度を有する糖質、特にガラクツロニドの含量が、10重量%未満、<8重量%,特に好ましくは<5重量%(乾燥分に対し)であることが提案されている。
【0023】
他の好ましい実施の形態では、ペクチン加水分解産物の中のガラクツロニドの全含量における不飽和ガラクツロン酸の含量が、少なくとも10重量%,好ましくは>15重量%,>20重量%,>25重量%,>30重量%,特に36.5重量%乃至46重量%(乾燥分に対し)であることが提案されている。
【0024】
本発明に基づき産生されたペクチン加水分解産物は、好ましい実施の形態では、少なくとも60重量%,≧70重量%,≧75重量%,≧80重量%、特に好ましくは少なくとも85%(乾燥分に対し)の糖質含量、特に、2乃至10、好ましくは3乃至8、特に好ましくは4.5の重合度を有するガラクツロニド含量(ペクチン加水分解産物の全糖質に対する重量%)を有する。
【0025】
用いられたペクチンは、特に好ましい実施の形態では、カンキツ類ペクチン、リンゴペクチン又は甜菜ペクチンである。
【0026】
用いられたペクチン含有物質、特に、植物性ペクチン含有物質は、好ましい実施の形態では、リンゴの絞り滓、甜菜のスライス又はカンキツ類のペレット、従って、例えばオレンジ汁、レモン汁及び/又はライム汁の産生から由来の乾燥した残滓である。
【0027】
本発明に基づき産生されたペクチン加水解物、即ちペクチン加水分解産物は、素晴らしいことに、感染と戦うための、及び/又は哺乳動物の細胞(特にヒトの細胞)への有害な物質及び/又は生物の付着と戦うための薬学的又食事的製剤として適切である。
【0028】
同様に素晴らしいことに、本発明に基づき産生されたペクチン加水分解産物は、ヒト又は哺乳動物の場合に、細胞と細胞の相互作用及び/又は細胞と細胞外マトリックスの間の相互作用、特に、細胞の表面にあるガレクチン3の分子により媒介される相互作用を妨げるための薬学的製剤として適切である。従って、本発明に係るペクチン加水分解産物は、特に、細胞と細胞の及び/又は細胞とマトリックスの相互作用を妨げるために適切である。これらの相互作用には腫瘍細胞が係わっており、従って、これらの相互作用はヒト又は哺乳動物における病気、特に腫瘍の発生の原因である。従って、本発明に係わるペクチン加水分解産物は、腫瘍の治療のための、特に、腫瘍増殖を減少させるための、及び/又は癌発病の際の転移を減少させるための薬学的製剤としても適切である。何故ならば、ペクチン加水分解産物は、ガレクチン3に媒介された腫瘍の付着及び/又は腫瘍細胞の侵入能力を防止するからである。
【0029】
従って、本発明は、本発明に基づいて得られたペクチン水解物つまりペクチン加水分解産物を含有する薬学的製剤及び食事性製剤に関する。これらの製剤は例えば食料品又は嗜好品、例えば乳製品、ヨーグルト、穀物、焼き菓子等として実施されてよい。
【0030】
本発明は、有害な物質及び/又は生物の、哺乳動物細胞(特にヒトの細胞)への付着を防止し、特に、伝染病、中毒、アレルギー等と戦う、すなわち予防及び治療する薬剤を製造するための、前記ペクチン加水分解産物の使用に関する。
【0031】
本発明は、哺乳動物の細胞、特にヒトの細胞への、有害な物質及び/又は生物の付着を防止するための、特に、伝染病、中毒、アレルギーと戦うための、前記ペクチン加水分解産物の使用に関する。
【0032】
本発明に基づいて撲滅しようと戦いがなされる感染は、特に、血管系、気道、泌尿生殖管、鼻咽頭空間又は胃腸管の感染であり得る。
【0033】
他の使用範囲はヒトの栄養にあり、例えば、乳児及び大人の下痢の防止にも役立つ。
【0034】
本発明は、細胞と細胞の相互作用及び/又は細胞と細胞外マトリックスの間の相互作用、特に、細胞の表面にある、ガレクチン3の分子によって媒介され、及び、ヒト又は哺乳動物の病気、特に腫瘍の発生の原因である、特に、このような相互作用を妨げるための前記ペクチン加水分解産物、その使用に関する。これらの病気は、前立腺癌、腎臓癌、カポージ肉腫、慢性白血病の進行形態、乳癌、乳腺癌、肉腫、卵巣癌、直腸癌、咽頭癌、黒色腫、小腸腫瘍、大腸癌、膀胱腫瘍、肥満細胞腫、肺癌、気管支癌、咽頭の扁平上皮癌、胃腸癌及び/又は胃癌である。本発明に係わるペクチン加水分解産物を、特に、転移性の腫瘍細胞の侵入能力を低下させるために及び/又は腫瘍細胞の付着を妨げるために、用いることができる。本発明に基づいて産生されたペクチン加水分解産物を経口投与することは好ましい。
【0035】
本発明の他の好ましい実施の形態は、ヒト又は哺乳動物の腫瘍の治療のための、本発明に係わるペクチン加水分解産物の使用に関する。本発明に係わるペクチン加水分解物が、細胞と細胞の相互作用及び/又は細胞と細胞外マトリックスの間の相互作用、特に、細胞の表面にありかつ糖質を結合するガレクチン3の分子により媒介される相互作用に基づく腫瘍の治療に用いられるのは好ましい。従って、本発明に係わるペクチン加水分解産物を用いて、前立腺癌、腎臓癌、カポージ肉腫、慢性白血病の進行形態、乳癌、乳腺癌、肉腫、卵巣癌、直腸癌、咽頭癌、黒色腫、小腸腫瘍、大腸癌、膀胱腫瘍、肥満細胞腫、肺癌、気管支癌、咽頭の扁平上皮癌、胃腸癌及び/又は胃癌を治療することができる。腫瘍の治療のための、本発明に係わるペクチン加水分解産物の使用は、特に、腫瘍細胞の付着の阻止及び/又は転移性腫瘍細胞の侵入能力の低下を目指している。
【0036】
本発明は、同様に、細胞と細胞の相互作用及び/又は細胞と細胞外マトリックスの間の相互作用、特に、細胞の表面にあるガレクチン3の分子に媒介され、且つヒト又は哺乳動物の病気、特に前記の腫瘍の発生の原因である、このような相互作用を妨げる薬学的製剤を製造するための、前記ペクチン加水分解産物の使用に関する。細胞と細胞の相互作用及び/又は細胞と細胞外マトリックスの間の相互作用を妨げるこの薬学的製剤は、経口投与するのが好ましい。
【0037】
従って、本発明の他の好ましい実施の形態は、前記腫瘍の治療のために、つまり、細胞と細胞の相互作用及び/又は細胞と細胞外マトリックスの間の相互作用、特に、細胞の表面にありかつ糖質を結合するガレクチン3の分子に媒介される相互作用に基づく腫瘍の、その治療のために用いられ得る薬学的製剤を製造するための、本発明に係わるペクチン加水分解産物の使用に関する。本発明では、薬学的製剤を、腫瘍増殖の減少のために及び/又は転移の減少のために用いることができ、これにより、本発明に係わる薬学的製剤が、特に、腫瘍細胞の付着を防止し及び/又は腫瘍細胞の侵入能力を低下させることが提案されている。本発明に係わる薬学的薬剤は経口投与することは好ましい。
【0038】
本発明は、同様に、本発明に基づいて産生されたペクチン加水分解産物を、哺乳動物の細胞への有害な物質又は生物の付着を阻止するために及び特に感染の発生を防止するために十分である量で、ヒト又は哺乳動物に投与することを含む、有害で特に病原性の物質又は生物がヒト又は哺乳動物の身体の細胞に付着するのを阻止する方法に関する。本発明に基づいて産生されたペクチン加水分解産物は、経口投与するのが好ましい。
【0039】
本発明は,同様に、細胞の表面にありかつ糖質を結合するガレクチン3の分子に媒介され、且つヒト又は哺乳動物の病気(特に前記の腫瘍)の発生の原因である細胞と細胞の相互作用及び/又は細胞とマトリックスの相互作用を妨げる方法であって、本発明に基づいて産生されたペクチン加水分解産物を、ガレクチン3に媒介された細胞と細胞の及び/又は細胞と細胞外マトリックスの間の相互作用を減少させるために、及び/又は妨げるために十分である量で、腫瘍を有するヒト又は哺乳動物に投与することを含む方法に関する。本発明に基づいて産生されたペクチン加水分解産物は経口投与するのが好ましい。
【0040】
本発明はまた、本発明に係わるペクチン加水分解産物を、薬学的に又は治療上効果的な量で含有する薬学的製剤にも関する。本発明との関連において、「薬学的製剤」とは、診断上の、治療上の及び/又は予防上の目的で用いられ、本発明に係わるペクチン加水分解産物を、作用物質として患者又は哺乳動物に良好に投与可能な形で含む混合物を意味する。薬学的製剤は、固体の混合物及び液状の混合物であってよい。「薬学的に又は治療上効果的な量で」とは、薬学的製剤に含まれる作用物質が、病気(例えば伝染病又は腫瘍)の発病を妨げ、このような病気の状態を治癒し、このような病気の進行を止め及び/又はこのような病気の症状を和らげるのに十分な量で含まれていることを意味する。本発明に係わる薬学的製剤は、本発明に係わるペクチン加水分解産物に加えて、好ましい実施の形態では、薬学的に相溶性の担体及び、場合によっては、希釈液、剥離剤、滑剤、助剤、充填剤、甘味剤、芳香剤、染料、調味料又は他の薬学的に効果的な物質を有する。
【0041】
本発明に基づいて提案された食事性製剤では、ペクチン加水分解産物は、同様に、薬学的に効果的な量で用いられる。
【0042】
他の好ましい実施の形態は従属請求項に記載されている。
【発明の実施の形態】
【0043】
以下の例によって本発明を詳述する。
【0044】
例1
1リットルのカンキツ類ペクチン溶液(水1l中の30gの高度にエステル化されたペクチン)に、0.3mlのペクチンリアーゼ(例えばレーム社のローアペクトPTE)を加え、この溶液を、pH5.0かつ45℃で2時間攪拌しながらインキュベートした。次に、0.75mlのエンドポリガラクツロナーゼ(例えばアマノ社のペクチナーゼPL)を加え、同じ反応条件下で更に3時間インキュベートした。次に、95℃に加熱することにより酵素を不活性化した。不溶性の残滓を遠心分離によって除去し、澄んだ溶液を乾燥するまで蒸発させて、得られた固形分の重量を量った。秤量された物質は25.8gであった(用いられた原料に対し75.6%の収率に対応する)。
【0045】
得られた産物を、一般的に知られた分析法によって分析し、以下の組成を測定した。
【0046】
糖質 DP1 3.6%
ガラクツロニド 83.9%
このうちの不飽和の物 46.0%
(仮定された平均DP=4.5)
DP2−10 80.4%
DP>10 16.0%
エステル化度 72.0%
塩分 3.0%
純タンパク質 1.7%
水分 4.6%
例2
1リットルのカンキツ類ペクチン溶液(水1l中の30gの高度にエステル化されたペクチン)に、0.3mlのペクチンリアーゼ(例えばレーム社のローアペクトPTE)を加え、この溶液を、pH5.0かつ45℃で2時間攪拌しつつインキュベートした。次に、0.75mlのエンドポリガラクツロナーゼ(例えばアマノ社のペクチナーゼPL)を加え、同じ反応条件下で、更に3時間インキュベートした。次に、酵素を95℃への加熱によって不活性化した。
【0047】
不溶性の残滓を遠心分離によって除去し、澄んだ溶液を限外濾過した(カットオフ 10.000)。透過物を乾燥させ、この透過物は22.8gの固形分を生じさせた(用いられた原料に対し66.8%の収率)。
【0048】
糖質 DP1 3.0%
ガラクツロニド 84.1%
このうちの不飽和の物 36.5%
(仮定された平均DP=4.5)
DP2−10 93.0%
DP>10 4.0%
エステル化度 72.0%
塩分 6.7%
純タンパク質 1.3%
水分 4.4%
例3
1リットルのカンキツ類ペクチン溶液(水1l中の30gの高度にエステル化されたペクチン)に、0.3mlのペクチンリアーゼ(例えばレーム社のローアペクトPTE)を加え、この溶液を、pH5.0かつ45℃で2時間攪拌しつつインキュベートした。次に、0.75mlのエンドポリガラクツロナーゼ(例えばアマノ社のペクチナーゼPL)を加え、同じ反応条件下で、更に3時間インキュベートした。次に、0.5mlのペクチンエステラーゼ(例えばノボ・ノルディスク社のレオツューム)を加え、更に45分インキュベートした。次に、酵素を95℃への加熱によって不活性化した。不溶性の残滓を遠心分離によって除去し、澄んだ溶液を乾燥するまで蒸発させた。
【0049】
得られた産物を、一般的に知られた分析法によって分析した。例1とは異なり、35%のエステル化度を測定した。
【0050】
例4
乾燥したオレンジの皮又はカンキツ類のペレットを、約1−5mmの粒度に粉砕し、このうちの100gを400mlの水に混ぜ入れて、膨張させた。次に、濃縮された硝酸(10g)を加え、懸濁液を85℃に加熱し、この温度で、1.5時間攪拌した。次に、45℃に冷却した。pH値をNaOHによって4.5に増大させ、0.3mlのペクチンリアーゼ(例えばレーム社のローアペクトPTE)の追加後に2時間インキュベートした。次に、0.75mlのエンドポリガラクツロナーゼ(例えばアマノ社のペクチナーゼPL)を加え、同じ反応条件下で、更に3時間インキュベートした。次に、酵素を95℃への加熱によって不活性化し、濃縮し、懸濁液をドラム乾燥機によって乾燥した。
【0051】
例5
乾燥したオレンジの皮又はカンキツ類のペレットを、約1−5mmの粒度に粉砕し、このうちの100gを400mlの水に攪拌して、膨張させた。次に、濃縮された硝酸(8g)を加え、懸濁液を85℃に加熱し、この温度で、1.5時間攪拌した。次に、45℃に冷却した。pH値をNaOHによって4.5に増大させ、0.3mlのペクチンリアーゼ(例えばレーム社のローアペクトPTE)の追加後に2時間インキュベートした。次に、0.75mlのエンドポリガラクツロナーゼ(例えばアマノ社のペクチナーゼPL)を加え、同じ反応条件下で、更に3時間インキュベートした。次に、酵素を95℃への加熱によって不活性化し、濃縮し、懸濁液をドラム乾燥機によって乾燥した。
【0052】
例6
ヒトの上皮細胞における病原菌の付着の防止
この試験のために、朝に採取した尿から遠心分離により得られたヒトの尿道上皮、並びに黄色ブドウ球菌及びE.coliの2つの菌株(夫々10の菌/mLを有する懸濁液として)を用いた。
【0053】
試験の実行
上皮細胞および細菌の懸濁液を、37℃で30分間、一緒にインキュベートした。次に、上皮細胞を膜濾過(8μ)によって非付着性の細菌から分離した。フィルタを何回も洗い、生理食塩水に入れて、その中で上皮細胞を懸濁した。食塩水の中の懸濁液を遠心分離した後に、スライド上にペレットを載せて、メイ-グリューンヴァルト(May-Grunwalt)及びギームザ法に従って染色した。50の上皮細胞に付着している細菌の数をカウントした。この数は空試験値を表わした。細菌の懸濁液を追加されていない上皮細胞は対照として用いられた。
【0054】
主試験においては、まず、上皮細胞を、本発明に基づいて(例1に従って)産生されたペクチン加水分解産物からなる濃度の異なる水溶液と共に、1,2又は3時間インキュベートした。次に、上皮細胞を細菌の懸濁液と一緒にし、上記のように更に処理した。50の上皮細胞に付着している細菌のカウントにより、測定値が得られた。
【0055】
結果
比較として用いられた「中性の」糖質、例えばラフィノース、ナイストース(nystose)及びイソメレジトース(isomelezitose)の場合、上皮細胞に付着している細菌の減少を何等観察しなかった。本発明に係わるペクチン加水分解産物を用いることにより、試験されたすべての微生物の付着はほとんど完全に防止された(>95%の阻止)。
【0056】
例7
例2で得られた乾燥された1.5gの透過物を、5.0のpH値を有する50mMのナトリウム・アセテート溶液100mlに溶解し、続いて、陰イオン交換体AG1×2(バイオラート社)を充填し、且つ5.0のpH値を有する50mMのナトリウム・アセテート溶液で平衡化されたカラム(2.6×30cm)に通した。カラムからの前駆流出液(Vorlauf)を、HPAEC(高性能陰イオン交換クロマトグラフィー)によって分析し、1規定NClによって95℃で1時間加水分解した。
【0057】
結果
標準としてのラフティライン(Raftiline:オラフティ社)との比較では、カラムから溶離されたオリゴ糖は2−12のDP分布を有した。
【0058】
糖分析器(バイオトロニック社)による加水分解産物の分析の結果、単糖としては、主にガラクトース(70%)およびアラビノース(23%)に加えて、痕跡量のグルコース及びマンノースが明らかになった。全体として、8.3%のガラクツロニド含有の産物を、前駆流出液中の中性糖含有オリゴ糖として得た。
【0059】
例8
ペクチン加水分解産物の存在における細胞外マトリックス(ECM)上での結腸癌・細胞系の増殖
ヒトの結腸癌・細胞系HT−29又はCaco―2を、1×10細胞/mlの細胞密度で、15mmのペトリ皿上に植え付け、RPMI 1640+10%小牛胎児血清(FCS)(HT−29)又はMEM+10%FCS(Caco−2)夫々の培地中において、37℃で、5%のCOを含有する雰囲気の下でインキュベートした。細胞同士を、1乃至2日間、周密状態になるまで増殖させた。続いて、皿を一度PBSで洗浄し、次に、PBS及び0.5%のトリトンX−100と共に、室温において30分間、攪拌機上でインキュベートし、次にPBSで3回洗浄した。続いて、前記の細胞系を、上記のように調製されたECM層を有する皿上に再度植え付けた。ペクチン加水分解産物による細胞増殖への影響を、細胞数の測定によって測定した。この目的のために、細胞を、48時間後にトリプシン/EDTA溶液によってHBSSに再度溶解し(10分間)、PBS溶液中で洗浄した。続いて、生きている細胞の数を、トリパンブルー溶液(400mlの0.9%のNaCl中の650mgのトリパンブルー 1:1(v/v))を用いた染色により、ノイバウアー計数チャンバにおいて測定した。対照のために、実験をグルコースによって行なった。結果は表1に示されている。
【0060】
表1から、グルコースは細胞系HT29及びCaco−2の増殖へ影響を及ぼさないのに対して、ペクチン加水分解産物は、用いられた濃度に応じて細胞の増殖を最大限75%減少させたことが明らかである。
【表1】

【0061】
例9
ペクチン加水分解産物による、Caco−2細胞の侵入能力の減少
Caco−2細胞の侵入能力に対するペクチン加水分解産物の作用を、エアケル及びシルマッハーによって記述された侵入試験(Cancer Research,48(1988),6933-6937)を用いて研究した。この試験は、細胞が、ヌクレオポア・ポリカーボネートのフィルタの孔を通って、ニトロセルロースフィルタ上の、種々のECMタンパク質(例えばI型及びIII型コラーゲン、フィブロネクチン及びラミニン)を含有するタンパク質ゲル中へ移動することに基づいている。細胞を、ペクチン加水分解産物と共に、試験装置に加え、続いて、タンパク質層を通って移動した細胞を、下方のニトロセルロース層において定量的に評価した。対照のために、Caco−2細胞の侵入能力へのグルコースの作用を研究した。
【0062】
これらの研究の結果は表2に示されている。結果は、本発明に係わるペクチン加水分解産物が、Caco−2細胞の侵入能力を、用いられた濃度に従って部分的に著しく低下させることができたが、これに対して、グルコースは、より高い濃度でのみCaco−2細胞の侵入能力の僅かな低下を引き起こしたことを示している。
【表2】

【0063】
例10
ペクチン加水分解産物による抗ガレクチン3抗体の結合
結腸癌細胞におけるガレクチン3の発現を、抗ガレクチン3特異的モノクロナール抗体(マウス−Ig)及びこれに対応する抗マウスFITC結合第2抗体を用いて、蛍光抗体法/フローサイトメトリー法によって測定した。ペクチン加水分解産物及び対照としてのグルコースの濃度を増大させながら、これらを第1抗体と共に標的細胞上でインキュベートして、抗ガレクチン3結合に対する水溶性糖物質の抑制的影響を測定した。
【0064】
抗ガレクチン3結合へのペクチン加水分解産物の影響は表3に示されている。表3から、グルコースは単一クーロン性の抗ガレクチン3抗体の結合反応を減少させないかあるいは僅かしか減少させないが、これに対し、ペクチン加水分解産物は、用いられた濃度に応じて部分的に著しく減少させることが明らかである。
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペクチン加水分解産物を製造する方法であって、水溶液又は懸濁液中のペクチン又はペクチン含有植物性物質を、第1のステップにおいてペクチンリアーゼを用いて処理し、第2のステップにおいてエンドポリガラクツロナーゼを用いて処理し、これにより、少なくとも1つの4,5−不飽和ガラクツロン酸分子を含み、かつメタノールにより≧20%までエステル化されたガラクツロニド分子を有するペクチン加水分解産物を得る方法。
【請求項2】
前記第2のステップから得られた液状の前記加水分解産物を、第3のステップにおいてペクチンエステラーゼを用いて処理することを特徴とする、請求項1に記載のペクチン加水分解産物を製造する方法。
【請求項3】
前記第2のステップ又は第3のステップから得られた前記液状の加水分解産物から、濾過及び/又は遠心分離によって不溶性の成分を除き、乾燥形態に変換することを特徴とする、請求項1又は2に記載のペクチン加水分解産物を製造する方法。
【請求項4】
用いられたペクチンはカンキツ類ペクチン、リンゴペクチン又は甜菜ペクチンであることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか1に記載の方法。
【請求項5】
前記ペクチン含有の物質は、甜菜のスライス、リンゴの絞り滓、あるいはオレンジ汁、レモン汁及び/又はライム汁の産生から由来の乾燥した残滓であることを特徴とする、請求項1乃至4のいずれか1に記載の方法。

【公開番号】特開2008−67712(P2008−67712A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−264421(P2007−264421)
【出願日】平成19年10月10日(2007.10.10)
【分割の表示】特願2002−545188(P2002−545188)の分割
【原出願日】平成13年11月21日(2001.11.21)
【出願人】(505296821)エヌ.ブイ.・ヌートリシア (32)
【Fターム(参考)】