説明

ペクチン抽出方法およびペクチン

【課題】植物材料から可溶性多糖類であるペクチンを抽出する際に生じる危険性と長時間に渡る抽出作業に大変苦慮しており、温泉水又は炭酸水素ナトリウム及び又はメタホウ酸ナトリウムを含有する溶液を用いて抽出を試みるとこれらの問題を解決せんとするものである。
【解決手段】植物材料から可溶性多糖類であるペクチンを抽出する方法は、前述の植物材料である柑橘類の皮及び又は果肉の絞り粕と某温泉の温泉水又は炭酸水素ナトリウム及び又はメタホウ酸ナトリウムを含有する溶液とを、重量比で、1:1〜1:100の割合で均一に混合し、前述の植物材料を、5分〜150分間加熱した。抽出終了後のペクチンは、オレンジマーマレードやジャム類の製造などへの活用を可能にした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柑橘類の皮、絞り粕などに含有する可溶性多糖類であるペクチンを温泉水又は炭酸水素ナトリウム及び又はメタホウ酸ナトリウムを含有する溶液を利用して抽出する技術である。
【背景技術】
【0002】
ペクチンは高分子の炭水化物で、植物体内の細胞と細胞のつなぎの成分として、果実や根茎に存在する。未熟な果実では、プロトペクチンとして存在し、果実自体が堅いのは、このためである。しかし、成熟するにつれて、果実中の酵素ペクチナーゼにより分解して、水に可溶性のペクチンになる。したがって、果実の果肉も柔らかくなってくる。さらに成熟度が進むと、ペクチンを分解する酵素ペクチンエステラーゼが働いて、ペクチン酸やメチルアルコールとなり、果実もその形がくずれる。このような変化は、加熱や酸の作用でも行われる。
寒天、アルギン酸塩、ガラギーナン、ヘミセルロース、ペクチンのような可溶性多糖類を植物材料から抽出するために、種々の方法が過去において使用されてきた。例えば、ペクチンは典型的に、柑橘類の皮またはリンゴの絞り粕のような他のペクチン源から加水分解されて抽出される。酸性化された水(pH1.5〜2.5)が典型的に抽出媒体として、60°〜95℃の温度において30分〜数時間の範囲の時間、使用される。この抽出工程は最小限の撹拌とともにバッチ反応器内の水性スラリー中で典型的に実施され、続いて遠心分離又は濾過の種々の組み合わせを使用して分離される。最後の分離工程は通常、高度に透明なゲルを製造する澄明なペクチン抽出物を製造するための、ケイ藻土などの濾過助剤を用いた 出濾過(polishing filtration)である。この単離に、アルコールでの洗浄、プレス、乾燥又は微粉末が続く。
ペクチンを抽出するために連続向流法を記述する。例えば、米国特許第2,548,895号は柑橘類の皮からのペクチンの抽出のための連続向流法を記述する。柑橘類の皮のスラリーを、U字型の断面をもつ細形のトラフを通してスクリューを使用して移動させ、そして酸性化された水を反対方向に流す。抽出物をケイ藻土で濾過する。米国特許第2,585,407号は(1)弱酸溶液を植物質のカラムに通してペクチン質に結合したカルシウム又はマグネシウムイオンを置換すること、(2)植物質のカラムを水で洗浄して酸を除去すること、又は(3)アルカリ溶液をカラムに通すことによって産ペクタート(ペクチン酸塩)質を抽出することによる植物質からのペクチン質の抽出のための方法を開示する。
【0003】
酸ペクチン抽出法において、植物材料は典型的には、硝酸、硫酸、塩酸、または他の無機若しくは有機酸のような希釈酸で、いくぶん上げた温度(70〜90℃が規定される)において処理されて、植物出発材料からのセルロース成分からペクチンを分離する。通常使用される植物出発材料はジュースの製造から残余の柑橘類果皮、リンゴジュース、サイダー製造からの残余のリンゴしぼりかすである。抽出条件は、植物出発材料中に含まれるペクチン分子の過半量が植物出発材料の細胞壁から抽出媒質に移動するように選択される。
【0004】
ペクチンは未熟な果実では、水に不溶性のカルシウムやマグネシウムの塩類となってセルロースと結びついている。この状態のものをプロトペクチンといい、果実が成熟するにつれて水溶性のペクチンになる。この変化は加熱した場合にもおこる。さらに過熟になると、水溶性のペクチンはペクチン酸になる。この変化は加熱を長時間行った場合にもおこる。ペクチンを抽出法は、果肉の絞り粕や果皮の切りくずを0.3%〜0.5%の塩酸溶液で一昼夜浸せきし、30分間流水でさらす。その後、10分〜20分間水切りを行い、0.2%〜0.3%クエン酸溶液を水切り原料の1.5倍を入れ、30〜40分間煮沸する。その後、なるべく熱いうちに袋に入れ、圧搾する。
【0005】
【特許文献1】 特開2007−135419号公報
【特許文献2】 特開平8−48702号公報
【参考文献1】
やさしい食品加工 食品製造研究会編 農業図書 p.106−107
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ペクチン、他の可溶性多糖類を植物材料から抽出するための改善された方法に対する必要性がいまだに存在する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
植物材料から可溶性多糖類を抽出するため、本発明者らは、多糖類植物材料の固体床を通して加熱させて、同時に植物材料から多糖類を抽出可能にした。
きる。
【0008】
本発明は、植物材料と温泉水又は炭酸水素ナトリウム及び又はメタホウ酸ナトリウムを含有する溶液とを、重量比で、1:1〜1:100の範囲で均一に混合後、加熱処理することにより可溶性多糖類を溶解処理する方法で、植物材料と温泉水又は炭酸水素ナトリウム及び又はメタホウ酸ナトリウムを含有する溶液との混合割合は、好ましくは、重量比で、1:5〜1:50の割合で、最も好ましくは、重量比で、1:10〜1:20の割合で均一に混合後、加熱処理することにより、ペクチンをより容易に短時間に抽出することが可能となった。さらに、加熱時間は5分〜150分で効果的に抽出できた。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、植物材料をより可溶性多糖類を容易かつ短時間に抽出できれば、オレンジマーマレードを製造する際に、危険な酸などを使用せずに安全で効率よくできるペクチン抽出方法である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明において、植物材料である柑橘類の皮、果肉の絞り粕と、某温泉の温泉水又は炭酸水素ナトリウム及び又はメタホウ酸ナトリウムを含有する溶液との重量比は、1:1〜1:100までの範囲で、均一混合割合が、1:1未満での場合は、植物材料を浸せきした場合に、固体床が全て浸らないので、上手く処理ができず、重量比が、1:100以上の場合は、温泉水又は炭酸水素ナトリウム及び又はメタホウ酸ナトリウムを含有する溶液による効果が認められなかった。
【実施例1】
【0011】
次に実施例により本発明を更に具体的に表1と表2を参照して説明する。表中の×、△、○印は、抽出度合を示している。以下、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0012】
表1は、植物材料を温泉水に対し、重量比で、1:1〜1:100を入れ、5分〜150分間、加熱した処理後の植物材料は、短時間で効率よく抽出したが、4分にて加熱処理した植物材料は、十分な抽出に至らなかった様子を示している。表2は、温泉水に対して、重量比で、1:1未満では、植物材料を浸せきした場合、植物材料が全て浸らないので、上手く処理ができない。また、重量比で、1:100以上に関しては、温泉水の効果が認められなかった様子を示している。
【表1】

【表2】

【実施例2】
【0013】
次に実施例により本発明を更に具体的に表3〜表8を参照して説明する。表中の×、△、○印は、抽出度合を示している。以下、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0014】
表3は、植物材料を炭酸水素ナトリウム、メタホウ酸ナトリウムを含有する溶液、表5は、炭酸水素ナトリウムを含有する溶液、表7は、メタホウ酸ナトリウムを含有する溶液のそれぞれに対し、重量比で、1:1〜1:100を入れ、5分〜150分間、加熱した処理後の植物材料は、短時間で効率よく抽出したが、4分にて加熱処理した植物材料は、十分な抽出に至らなかった様子を示している。表4は、炭酸水素ナトリウム、メタホウ酸ナトリウムを含有する溶液、表6は、炭酸水素ナトリウムを含有する溶液、表8は、メタホウ酸ナトリウムを含有する溶液に対して、重量比で、1:1未満では、植物材料を浸せきした場合、植物材料が全て浸らないので、上手く処理ができない。また、重量比で、1:100以上に関しては、炭酸水素ナトリウム、メタホウ酸ナトリウムを含有する溶液、炭酸水素ナトリウムを含有する溶液、メタホウ酸ナトリウムを含有する溶液の効果が認められなかった様子を示している。
なお、炭酸水素ナトリウムとメタホウ酸ナトリウムを含有する溶液は、某温泉に含有する主成分であり、その混合比率10:1が最も好ましい濃度である。
【表3】

【表4】

【表5】

【表6】

【表7】

【表8】

【0015】
従来、オレンジマーマレードを製造するために植物材料より可溶性多糖類であるペクチンを抽出するには、酸性化された水(pH1.5〜2.5)の大変危険な抽出媒体を使用し、60℃〜95℃の温度において30分〜数時間の範囲の時間使用されていたが、本願発明によれば、温泉水又は炭酸水素ナトリウム及び又はメタホウ酸ナトリウムを含有する溶液により植物材料より可溶性多糖類であるペクチンを安全かつ短時間で効率よく抽出でき、経済的にも環境的にも非常に有効な抽出法である。
【産業上の利用可能性】
【0016】
本発明は、植物材料から可溶性多糖類であるペクチンを安全かつ短時間で効率よく抽出する方法に関し、オレンジマーマレード等のジャム製造として活用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物材料から可溶性多糖類を抽出する際に、可溶性多糖類含有植物を温泉水又は炭酸水素ナトリウム及び又はメタホウ酸ナトリウムを含有する溶液とを、重量比で、1:1〜1:100の割合で均一に混合後、加熱することを特徴とするペクチン抽出方法。
【請求項2】
上記可溶性多糖類がペクチンであることを特徴とする請求項1に記載のペクチン抽出方法
【請求項3】
上記植物材料が、生の、または乾燥した、柑橘類の皮、絞り粕、これらの混合物より成る群から選択されることを特徴とする請求項1に記載のペクチン抽出方法。
【請求項4】
上記植物材料と温泉水又は炭酸水素ナトリウム及び又はメタホウ酸ナトリウムを含有する溶液とを好ましくは、重量比で、1:5〜1:50の割合で均一に混合後、加熱することを特徴とする請求項1に記載のペクチン抽出方法。
【請求項5】
上記植物材料と温泉水又は炭酸水素ナトリウム及び又はメタホウ酸ナトリウムを含有する溶液とを最も好ましくは、重量比で、1:10〜1:20の割合で均一に混合後、加熱することを特徴とする請求項1に記載のペクチン抽出方法。
【請求項6】
上記加熱工程にて5分〜150分加熱することを特徴とする請求項1〜5に記載のペクチン抽出方法。
【請求項7】
植物材料から可溶性多糖類を抽出する際に、可溶性多糖類含有植物を温泉水又は炭酸水素ナトリウム及び又はメタホウ酸ナトリウムを含有する溶液とを、重量比で、1:1〜1:100の割合で均一に混合後、加熱して抽出されたことを特徴とするペクチン。

【公開番号】特開2009−165452(P2009−165452A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−29647(P2008−29647)
【出願日】平成20年1月11日(2008.1.11)
【出願人】(508041770)
【出願人】(508041873)
【Fターム(参考)】