説明

ペナム化合物の製造方法

【課題】 本発明は、好ましくないセファム化合物の副生を著しく抑制し、目的とする2α−メチル−2β−[(1,2,3−トリアゾール−1−イル)メチル]ペナム−3α−カルボン酸エステルを効率よく製造し得る工業的に有利な方法を提供することを課題とする。
【解決手段】 本発明は、2β−ブロモメチル−2α−メチルペナム−3α−カルボン酸ジフェニルメチルエステル(BMPB)と1,2,3−トリアゾールとを、ハロゲン化炭化水素中、−5℃以下で反応させる。ハロゲン化炭化水素中、−5℃以下で反応させることにより、好ましくないセファム化合物の副生を著しく抑制することができ、目的とする2α−メチル−2β−[(1,2,3−トリアゾール−1−イル)メチル]ペナム−3α−カルボン酸ジフェニルメチルエステル(TMPB)を効率よく製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペナム化合物の新規な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般式(2)
【0003】
【化1】

[式中、Rはペニシリンカルボキシル保護基を示す。]
で表される2α−メチル−2β−[(1,2,3−トリアゾール−1−イル)メチル]ペナム−3α−カルボン酸エステルは、例えば、β−ラクタマーゼ阻害剤の合成中間体として有用な化合物である。
【0004】
上記一般式(2)で表される化合物は、例えば、一般式(1)
【0005】
【化2】

[式中、Xは塩素原子又は臭素原子を示す。Rは前記に同じ。]
で表される2’−ハロゲン化ペナム化合物に1,2,3−トリアゾールを反応させることにより製造されている(特許文献1参照)。
【0006】
特許文献1によれば、一般式(1)の2’−ハロゲン化ペナム化合物と1,2,3−トリアゾールとの反応は、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、アセトン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、メタノール、エタノール等の溶媒中、0〜60℃の温度条件下に行われている。
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載されている一般式(1)で表される2’−ハロゲン化ペナム化合物と1,2,3−トリアゾールとの反応では、下記一般式(3)で表されるセファム化合物が異性体として多量に副生することが避けられず、結果として、目的とする一般式(2)で表される2α−メチル−2β−[(1,2,3−トリアゾール−1−イル)メチル]ペナム−3α−カルボン酸エステルの収率向上が図れない問題が生じていた。
【0008】
【化3】

[式中、Rは前記に同じ。]
そのため、一般式(1)で表される2’−ハロゲン化ペナム化合物と1,2,3−トリアゾールとを反応させるに当たり、一般式(3)で表されるセファム化合物の副生を著しく抑制し、その結果、一般式(2)で表される2α−メチル−2β−[(1,2,3−トリアゾール−1−イル)メチル]ペナム−3α−カルボン酸エステルを効率よく製造し得る、工業的に有利な方法の開発が望まれている。
【特許文献1】特公平7−121949号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、一般式(3)で表されるセファム化合物の副生を著しく抑制し、一般式(2)で表される2α−メチル−2β−[(1,2,3−トリアゾール−1−イル)メチル]ペナム−3α−カルボン酸エステルを効率よく製造し得る工業的に有利な方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、Rがジフェニルメチルを示し、Xが臭素原子を示す一般式(1)で表される2’−ハロゲン化ペナム化合物を出発原料として用い、特定の反応溶媒中で、しかも特定の温度下に、該ペナム化合物と1,2,3−トリアゾールとを反応させることにより、Rがジフェニルメチルを示す一般式(3)で表されるセファム化合物の副生を著しく抑制し得、Rがジフェニルメチルを示す一般式(2)で表される化合物を効率よく製造でき、本発明の課題を解決できることを見い出した。本発明は、斯かる知見に基づき完成されたものである。
【0011】
本発明は、下記1〜5に示す製造方法を提供する。
1.2β−ブロモメチル−2α−メチルペナム−3α−カルボン酸ジフェニルメチルエステルと1,2,3−トリアゾールとを、ハロゲン化炭化水素中、−5℃以下で反応させる工程を含む、2α−メチル−2β−[(1,2,3−トリアゾール−1−イル)メチル]ペナム−3α−カルボン酸ジフェニルメチルエステルの製造方法。
2.ハロゲン化炭化水素及び低級アルコールの混合溶媒中で反応を行う上記1に記載の製造方法。
3.塩基の存在下で反応を行う上記1に記載の製造方法。
4.塩基が陰イオン交換樹脂である上記3に記載の方法。
5.−5〜−20℃で反応を行う上記1〜4のいずれかに記載の方法。
【0012】
本発明の製造方法を反応式で示すと、次のようになる。
【0013】
【化4】

[式中、Phはフェニル基を示す。]
反応式−1に示すように、式(5)で表される2α−メチル−2β−[(1,2,3−トリアゾール−1−イル)メチル]ペナム−3α−カルボン酸ジフェニルメチルエステル(以下、「TMPB」ということがある)は、式(4)で表される2β−ブロモメチル−2α−メチルペナム−3α−カルボン酸ジフェニルメチルエステル(以下、「BMPB」ということがある)に1,2,3−トリアゾールを反応させることにより製造される。
【0014】
本発明方法の特徴は、出発原料として式(4)で表されるBMPBを使用することにある。
【0015】
Rがジフェニルメチルを示し、Xが塩素原子を示す一般式(1)で表される2’−ハロゲン化ペナム化合物を出発原料として用いた場合には、本発明と同一の反応溶媒を用い、同一の温度条件下に反応を行っても、本発明の課題を解決できない。また、Rがジフェニルメチルを示し、Xが臭素原子を示す一般式(1)で表される2’−ハロゲン化ペナム化合物を出発原料として用いた場合であっても、本発明と反応溶媒と異なる反応溶媒を用いたり、本発明と異なる反応条件下で反応を行った場合には、本発明の課題を解決できない。
【0016】
本発明において、出発原料として使用される式(4)で表されるBMPBは、公知の化合物であり、例えば特開昭58−4788号公報記載の方法等の公知の方法に準じて容易に製造される。
【0017】
本発明の反応は、ハロゲン化炭化水素溶媒中で行われる。
【0018】
使用されるハロゲン化炭化水素溶媒としては、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、クロロホルム等が好ましく使用できるが、特にジクロロメタン及びクロロホルムが好ましい。これらハロゲン化炭化水素溶媒は、1種単独で又は2種以上混合して使用することができる。
【0019】
ハロゲン化炭化水素溶媒の使用量は、式(4)で表されるBMPB 1kgに対して、通常1〜50リットル程度、好ましくは5〜10リットル程度とすればよい。
【0020】
本発明において、ハロゲン化炭化水素溶媒と低級アルコールとの混合溶媒中で反応を行うと、Rがジフェニルメチルを示す一般式(3)で表されるセファム化合物の副生をより一層抑制することができる。
【0021】
ここで低級アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール等の炭素数1〜4のアルコールを挙げることができる。低級アルコールは、1種単独で又は2種以上混合して使用することができる。
【0022】
ハロゲン化炭化水素溶媒と低級アルコールとの使用割合としては、ハロゲン化炭化水素系溶媒1リットルに対して、低級アルコールを0.01〜1リットル程度、好ましくは0.1〜0.3リットル程度とすればよい。
【0023】
本発明の反応は、塩基の存在下に行うのが好ましい。
【0024】
使用される塩基としては、例えば、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属炭酸塩、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等のアルカリ金属炭酸水素塩、炭酸カルシウム等のアルカリ土類金属炭酸塩、陰イオン交換樹脂等を挙げることができる。これらの塩基は、1種単独で又は2種以上混合して使用することができる。
【0025】
このような塩基の中でも、陰イオン交換樹脂が好ましく、弱塩基性陰イオン交換樹脂が特に好ましい。
【0026】
弱塩基性陰イオン交換樹脂としては、例えば、スチレン−ジビニルベンゼンの共重合体タイプとスチレン−アクリルアミド共重合体タイプ等が挙げられ、より具体的には、オルガノ(株)製のアンバーライトIRA67、アンバーライトIRA96SB、アンバーライトXE583、アンバーライトXT6050RF、三菱化学(株)製のダイヤイオンWA10、ダイヤイオンWA11、ダイヤイオンWA20、ダイヤイオンWA21、ダイヤイオンWA30等を例示できる。
【0027】
塩基は、式(4)で表されるBMPB1当量に対して、通常0.5〜5当量程度、好ましくは1〜2当量程度使用する。陰イオン交換樹脂の場合、BMPB1当量に対して、力価換算で通常0.5〜5当量程度、好ましくは1〜2当量程度使用する。
【0028】
本発明においては、反応を−5℃以下で行うことが必要である。反応温度が−5℃より高くなると、一般式(3)で表される異性体の副生を抑制する効果が十分に得られなくなる。また、−20℃より低い温度で反応を行う場合には、異性体の副生を抑制する効果の観点においては好ましいが、反応完結に長時間を要する。そのため、本発明においては、−5〜−20℃で反応を行うのが好ましい。
【0029】
本発明の反応は、一般に5時間以上、好ましくは10〜24時間程度で完結する。
【0030】
本発明で得られる目的化合物は、例えば、濾過、溶媒抽出、再結晶等の慣用されている単離手段により反応混合物から容易に単離され、更に、例えば、カラムクロマトグラフィー等の通常行われている精製手段により容易に精製される。
【発明の効果】
【0031】
本発明の方法によれば、Rがジフェニルメチルを示す一般式(3)で表されるセファム化合物の副生を著しく抑制し得、Rがジフェニルメチルを示す一般式(2)で表される化合物を効率よく製造できる。
【0032】
従って、Rがジフェニルメチルを示す一般式(2)で表される化合物の工業的に有利な方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下に実施例及び比較例を挙げて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0034】
実施例1
1000mlの反応器に1,2,3−トリアゾール180ml、陰イオン交換樹脂(三菱化学(株)製の「ダイヤイオンWA30」)129.5ml(力価1.06meq/ml)及びメタノール118mlを入れ、得られる混合物を−7℃に冷却した。この温度で2β−ブロモメチル−2α−メチルペナム−3α−カルボン酸ジフェニルメチルエステル(BMPB)52.1gを含むジクロロメタン溶液400mlを上記混合物に加え、−5℃で17時間攪拌して反応を行った。反応終了後、陰イオン交換樹脂を濾過して除き、少量のジクロロメタンを用いて陰イオン交換樹脂を洗浄した。この洗浄液及び濾液を水で4回洗浄し、2α−メチル−2β−[(1,2,3−トリアゾール−1−イル)メチル]ペナム−3α−カルボン酸ジフェニルメチルエステル(TMPB)を含むジクロロメタン溶液を得た。
【0035】
得られたジクロロメタン溶液中のTMPBと副生した3−メチル−3−(1,2,3−トリアゾール−1−イル)セファム−4−カルボン酸ジフェニルメチルエステル(TCB)との生成割合を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて測定した。
【0036】
ジクロロメタン溶液中のTMPBとTCBとの割合は、TMPB/TCB=6.34/1であった。
【0037】
実施例2
ジクロロメタンの代わりにクロロホルムを用いる以外は、実施例1と同様して、TMPBを含むジクロロメタン溶液を得た。
【0038】
得られたジクロロメタン溶液中のTMPBと副生TCBとの生成割合をHPLCを用いて測定した。
【0039】
ジクロロメタン溶液中のTMPBとTCBとの割合は、TMPB/TCB=6.41/1であった。
【0040】
実施例3
100mlの反応器にBMPB1.00g、1,2,3−トリアゾール3.6ml、陰イオン交換樹脂(ダイヤイオンWA30)2.6ml及びジクロロメタン8mlを入れ、得られる混合物を−5℃で17時間攪拌した。反応終了後、陰イオン交換樹脂を濾過して除き、少量のジクロロメタンを用いて陰イオン交換樹脂を洗浄した。この洗浄液及び濾液を水で4回洗浄して、TMPBを含むジクロロメタン溶液を得た。
【0041】
得られたジクロロメタン溶液中のTMPBと副生TCBとの生成割合をHPLCを用いて測定した。
【0042】
ジクロロメタン溶液中のTMPBとTCBとの割合は、TMPB/TCB=5.62/1であった。
【0043】
実施例4
−15℃で17時間攪拌して反応を行う以外は、実施例1と同様して、TMPBを含むジクロロメタン溶液を得た。
【0044】
得られたジクロロメタン溶液中のTMPBと副生TCBとの生成割合をHPLCを用いて測定した。
【0045】
ジクロロメタン溶液中のTMPBとTCBとの割合は、TMPB/TCB=7.01/1であった。
【0046】
比較例1
特許文献1の実施例4と同様にして、2β−クロロメチル−2α−メチルペナム−3α−カルボン酸ジフェニルメチルエステル(CMPB)と1,2,3−トリアゾールとの反応を行った。即ち、30mlの反応器に、CMPB 1.00g、1,2,3−トリアゾール3.6ml、陰イオン交換樹脂(ダイヤイオンWA30)2.6ml、アセトン5.3ml及び水1.8mlを入れ、得られる混合物を40℃で3時間撹拌した。反応終了後、反応混合物を冷却し、陰イオン交換樹脂を濾過して除き、少量のジクロロメタンを用いて陰イオン交換樹脂を洗浄した。この洗浄液と濾液とを合せ、ジクロロメタン200mlで抽出した。
【0047】
得られた抽出液中のTMPBと副生TCBとの生成割合をHPLCを用いて測定した。
【0048】
ジクロロメタン抽出液中のTMPBとTCBとの割合は、TMPB/TCB=4.55/1であった。
【0049】
比較例2
2000mlの反応器に、CMPB43.5g、1,2,3−トリアゾール200ml、陰イオン交換樹脂(ダイヤイオンWA30)129.5ml及びジクロロメタン700mlを入れ、得られる混合物を40℃で3時間撹拌した。反応終了後、反応混合物を冷却し、陰イオン交換樹脂を濾過して除き、少量のジクロロメタンを用いて陰イオン交換樹脂を洗浄した。
【0050】
得られた洗浄液と濾液とを合せた混合物中のTMPBとTCBとの生成割合をHPLCを用いて測定した。
【0051】
混合物中のTMPBとTCBとの割合は、TMPB/TCB=4.20/1であった。
【0052】
比較例3
BMPBの代わりにCMPBを用いる以外は、実施例1と同様して反応を行ったが、CMPBと1,2,3−トリアゾールとの反応は進行せず、TMPBの生成が認められなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2β−ブロモメチル−2α−メチルペナム−3α−カルボン酸ジフェニルメチルエステルと1,2,3−トリアゾールとを、ハロゲン化炭化水素中、−5℃以下で反応させる工程を含む、2α−メチル−2β−[(1,2,3−トリアゾール−1−イル)メチル]ペナム−3α−カルボン酸ジフェニルメチルエステルの製造方法。
【請求項2】
ハロゲン化炭化水素及び低級アルコールの混合溶媒中で反応を行う請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
塩基の存在下で反応を行う請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
塩基が陰イオン交換樹脂である請求項3に記載の方法。
【請求項5】
−5〜−20℃で反応を行う請求項1〜4のいずれかに記載の方法。

【公開番号】特開2006−124320(P2006−124320A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−314409(P2004−314409)
【出願日】平成16年10月28日(2004.10.28)
【出願人】(302060306)大塚化学株式会社 (88)
【Fターム(参考)】