説明

ペニシリン製造方法

本発明は、新規ペニシリウム・クリソゲヌムタンパク質をコードする単離核酸分子、かかる核酸分子を含むベクター、かかる核酸分子又はベクターで形質転換された宿主細胞及びかかる形質転換宿主細胞を用いてペニシリンを製造する方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規ペニシリウム・クリソゲヌムタンパク質をコードする単離核酸分子、かかる核酸分子を含むベクター、かかる核酸分子又はベクターで形質転換された宿主細胞及びかかる形質転換細胞を用いてペニシリンを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ペニシリンは、糸状菌ペニシリウム・クリソゲヌム(Penicillium chrysogenum)(以下、P.クリソゲヌムと称する)を発酵させることによって工業規模で得られる天然の代謝産物である。これに加えて、ペニシリンG及びペニシリンVは、いくつかの半合成ペニシリン抗生物質の重要な前駆体を形成する。ペニシリン物質クラスは治療上きわめて重要である。プロセス技術の改善とは別に、工業的ペニシリン発酵の収率増加を達成することは菌株を遺伝的に連続して改善することに本質的に基づく。製造増加能力を示す特定の遺伝子を用いた製造菌株の形質転換は、この菌株改善を達成する現代の方法において常に卓越したものになってきている。ペニシリン生合成における生化学的相互関係の理解によれば、公知のペニシリン生合成遺伝子の小グループは菌株改善能力を有する。実験においては、これらの公知遺伝子の増幅、すなわちコピー数の増加は、製造生物の生産性のかなりの改善を実際にもたらすことがある。しかし、科学的可能性の考察に基づいて、菌株改善能力を有すると予測することができる公知遺伝子群はきわめて少ない。しかし、これらの公知の生合成遺伝子に加えて、増幅によって製造増加能力が同様に得られる未知数の他の遺伝子があると考えることができる。これらの遺伝子の機能は、ペニシリン生合成に影響を有する細胞プロセス全体が現在まだ十分に理解されていないので不明なことが多い。したがって、製造増加能力を有するさらに別の遺伝子を特定する戦略はきわめて重要である。
【0003】
重要なペニシリン生合成遺伝子、すなわちACVシンセターゼ(ACVS)、イソペニシリン−N(IPN)シンターゼ及びアシルCoA:IPNアシルトランスフェラーゼは比較的長期間知られている。中心的な酵素はACVS、すなわちトリペプチドACVの形成を触媒する非リボソームペプチドシンセターゼ(NRPS)である。一部の微生物において、NRPSは活性型にするためにホスホパンテテインを「加え(loaded)」なければならないことが知られるようになったのはほんの最近である。
【0004】
4’−ホスホパンテテイントランスフェラーゼ(PPTase)は、補酵素A(CoASH)からPpant依存性担体タンパク質中にある保存セリン残基の側鎖のヒドロキシル官能基への4’−ホスホパンテテイン(Ppant)基の転移を触媒する。これに関連して、XCPと一般に略される担体タンパク質は、触媒作用的に不活性なアポ型から触媒作用的に活性なホロ型に転化される。この反応はMg2+依存性であり、3’−5’−ADPを副生物として形成する。さまざまなPpant依存性生合成経路がある。アシル担体タンパク質(ACP)が中間体に結合する脂肪酸生合成はあらゆる細胞において見られる。シクロスポリン、β−ラクタムなどの多数の抗生物質及び天然物は、ペプチジル担体タンパク質(PCP)又は、それぞれ、ACPを含む非リボソームペプチドシンセターゼ(NRPS)又はポリケチドシンターゼ(PKS)によって産生される。最後に、特別なペプチドシンセターゼは、リジンをもたらす生合成経路において真菌及び一部の植物に見ることができる。これらの全生合成経路は、関与する担体タンパク質がPPTaseによってホスホパンテテイン化され、それによって活性型に転化されるという特徴を共有している。PPTaseはこれらのプロセスに必須の因子であるが、それをコードする遺伝子は多くの場合においてまだ知られていない。この性質のPPTaseも対応する遺伝子もこれまでP.クリソゲヌムにおいては記述されていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
その結果、P.クリソゲヌムにおけるかかる未知のPPTaseコード遺伝子を発見することは、本発明の中心的目的を形成する。したがって、本発明の一目的は、新規P.クリソゲヌムタンパク質をコードし、P.クリソゲヌム宿主細胞をこの宿主細胞が良好な収率でペニシリンを供給することができるように形質転換するのに使用することができる核酸及びベクターを提供することである。本発明の別の目的は、かかる形質転換宿主細胞を提供することである。最後に、本発明の別の目的は、前記形質転換宿主細胞を使用してペニシリンを調製する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
P.クリソゲヌムにおいて未知のタンパク質をコードする新規P.クリソゲヌム遺伝子が本発明において記載される。このタンパク質は新規PPTaseであり、この遺伝子を用いた同時形質転換実験によって、工業的判定基準によって測定して高いペニシリン力価を有する菌株をもたらすことができることが示される。
【0007】
新規遺伝子は、P.クリソゲヌム菌株P2=ATCC 48271(この番号でATCC、American Type Culture Collection、PO Box No. 1549、Manassas、VA 20108、USAから入手することができる。)から単離することができる。しかし、この新規遺伝子は他のP.クリソゲヌム菌株においても見出すことができる。別法として、本明細書の核酸及びアミノ酸配列又は分子は合成により調製することができる。
【0008】
この遺伝子は、411アミノ酸長であるタンパク質をコードする。アミノ酸配列を図1に示す。図2及び4に見ることができるように、遺伝子中、コード領域は1個のイントロンによって分断される。
【0009】
本発明によるP.クリソゲヌム遺伝子は、機能試験に基づいて(実施例2参照)、未知のPPTaseに対する遺伝子であると断定され、pptA遺伝子と命名される。
【0010】
その結果、本発明の主題の一部は、配列番号1のアミノ酸配列を含むタンパク質をコードする単離核酸分子である。
【0011】
その結果、かかる核酸分子は、例えば、上記アミノ酸配列(配列番号1)に加えてさらなるアミノ酸も含むタンパク質をコードし、例えば融合タンパク質をコードする。かかる融合タンパク質は、例えば、単離型の新規タンパク質を調製することが望ましいときにある役割を果たすことができる。融合部分は、例えば、安定性を高め、又は精製を容易にすることができる。
【0012】
本発明では、配列番号1のアミノ酸配列のみをコードする本発明による核酸分子が好ましい。かかる核酸分子は、以下に示すように、ペニシリン、特にペニシリンV又はGを製造する目的に有利に使用することができる。その結果、本発明の主題の別の部分は、配列番号1のアミノ酸配列のみを有するタンパク質をコードする本発明による核酸分子である。
【0013】
本発明による核酸分子は好ましくはDNA分子である。或いは、核酸分子はRNA分子、特にmRNA分子とすることができる。
【0014】
本発明によるDNA分子は、例えば、前記P.クリソゲヌム菌株ATCC48271のゲノムからゲノムDNAライブラリを作製することによって調製することができる。ゲノムクローンは、図4に示される遺伝子の記載された核酸配列からその構造を推定することができる相同プローブを用いてスクリーニングすることによって特定される。
【0015】
適切な技術は文献から公知である(すなわち、例えば、T. Maniatis et al., Molecular Cloning−A Laboratory Manual, 1982, Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, New York, USA)。求められているDNA分子は、古典的な技術を用いて単離又は調製することができるかかるクローンのサイズ約3.2kbのSall断片上に位置する。かかる断片を図4に示す。その結果、本発明の好ましい実施態様は、配列番号4の塩基配列又は遺伝コードの縮重のために配列番号4の前記配列と異なるに過ぎない塩基配列を含む、本発明による核酸分子に関する。すなわち、本発明によれば、本発明は、記載されたコドンの1個以上が、コードされたタンパク質のアミノ酸配列(配列番号1)が変わらないように1個又はいくつかの異なるコドンで置換された点で、具体的に示された配列とは異なる核酸分子にも関する。これは、1個(又はそれ以上)の代替終止コドンの使用も含む。これは、以下に記載される他の核酸分子にも当てはまる。配列番号4の核酸分子は(プロモーター、終止コドンなどの)制御配列を含み、P.クリソゲヌムを形質転換し、したがってペニシリン、特にペニシリンG又はペニシリンVを製造するために、特にベクター中で有利に使用することができる。
【0016】
サイズ約3.2kbの前記Sall断片は、特に、新規遺伝子のコード部分を含む。この部分は図2に示され、1個のイントロンを含む。その結果、本発明は、上で説明したように、配列番号2の塩基配列又は遺伝コードの縮重のために配列番号2の前記配列と異なるに過ぎない塩基配列を含む、本発明による核酸分子にも関する。その結果、かかる核酸分子は、新規遺伝子のコード部分のゲノムDNA配列に対応する。本発明の別の好ましい実施態様は、その1個のイントロンの欠如によって配列番号2のそれと異なる核酸分子である。
【0017】
その結果、上で説明したように、配列番号3の塩基配列又は遺伝コードの縮重のために配列番号3の前記配列と異なるに過ぎない塩基配列を含む、本発明による核酸分子も好ましい。かかる核酸分子はもはやイントロンを含まず、したがって対応するcDNA配列と同等とみなすことができる。
【0018】
また、(前記cDNA分子を含む)本発明による核酸分子は、例えば、完全に又は部分的に合成によって調製することができる。標準技術を使用して本発明によるRNA又はmRNA分子を微生物P.クリソゲヌムから単離することができ、又はそれらを合成によって調製することができる。標準技術を使用して、対応するcDNA分子を対応するmRNAから調製することができる。
【0019】
前記核酸分子は、(例えば、融合タンパク質をコードするために)追加の塩基配列を申し分なく十分に含むことができるが、好ましい実施態様は、上で説明したように、配列番号2、配列番号3及び配列番号4の塩基配列からなる群から選択される塩基配列又は遺伝コードの縮重のために前記配列の1つと異なるに過ぎない塩基配列のみを有する、本発明による核酸分子に関する。
【0020】
別の実施態様においては、本発明による核酸分子は、さらに、コード領域末端直後のそのC末端に1個以上の終止コドンも含む。TAAであると特定された天然の終止コドンが好ましい。しかし、他の公知終止コドンも代わりに使用することができる。いくつかの終止コドンを使用することもできる。
【0021】
本発明は、本発明による上記核酸分子の1個を含むベクターにも関する。このベクターは、宿主細胞を形質転換するのに適切であることが好ましい。この宿主細胞は、特に、微生物である。この微生物は好ましくは糸状菌である。糸状菌は、ペニシリウム・クリソゲヌム、ペニシリウム・ノタツム(Penicillium notatum)、ペニシリウム・ブレビコンパクツム(Penicillium brevicompactum)、ペニシリウム・シトリヌム(Penicilium citrinum)、アクレモニウム・クリソゲヌム(Acremonium chrysogenum)、アスペルギルス・ニドゥランス(Aspergillus nidulans)、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、アスペルギルス・フミガーツス(Aspergillus fumigatus)、アスペルギルス・テレウス(Aspergillus terreus)及びトリポクラジウム・インフラタム(Tolypocladium inflatum)からなる群から選択されることが有利である。本発明の特に好ましい実施態様においては、微生物又は糸状菌はペニシリウム・クリソゲヌムである。
【0022】
かかるベクターは、例えば、プラスミドの形で存在することができる。かかるベクターは、必要に応じ、本発明による核酸分子に加えて、形質転換が起きた後に本発明による核酸分子が発現することができるように他の配列、例えば複製開始点及び追加の調節性要素(プロモーター、翻訳開始シグナル又は終結シグナルなど)を含む。形質転換が起きた後に、本発明による核酸分子及び追加のベクター要素を宿主細胞のゲノムに組み込むことができ、これは、新規遺伝子のコード部分の増幅に相当する。本発明によるベクターは、配列番号4の塩基配列を含む核酸分子を含むことが有利である。かかる塩基配列は前記Sall断片に相当し、対応するプロモーターなどの制御配列をすでに含む。
【0023】
標準技術を使用して本発明による核酸分子を適切な標準ベクターにクローニングすることによって、これらのベクターを作成することができる。
【0024】
本発明は、さらに、本発明による核酸分子又は本発明によるベクターで形質転換された宿主細胞にも関する。この宿主細胞は、特に、微生物である。この微生物は好ましくは糸状菌である。糸状菌は、ペニシリウム・クリソゲヌム、ペニシリウム・ノタツム、ペニシリウム・ブレビコンパクツム、ペニシリウム・シトリヌム、アクレモニウム・クリソゲヌム、アスペルギルス・ニドゥランス、アスペルギルス・ニガー、アスペルギルス・フミガーツス、アスペルギルス・テレウス及びトリポクラジウム・インフラタムからなる群から選択されることが有利である。本発明の特に好ましい実施態様においては、宿主細胞(又は微生物若しくは糸状菌)はペニシリウム・クリソゲヌムである。
【0025】
かかる宿主細胞、特にP.クリソゲヌムを本発明によるベクターで形質転換するために標準方法が使用される。かかる方法の例は、オーストリア特許明細書AT 391 481、実施例6、8、10及び12に記載されている。
【0026】
これの代替として、同時形質転換と称されるものを実施することもできる。この場合、選択マーカーを含むベクターと本発明による遺伝子を含むベクターとは、形質転換において別個の分子として使用される。
【0027】
これの代替として、本発明による核酸分子を形質転換に使用することもできる。
【0028】
特に、その結果、導入される遺伝子(本発明による遺伝子と少なくとも1個の標識遺伝子)は、例えば線状核酸分子として別個に使用することができる。次いで、選択されるベクター又は対応する選択遺伝子を宿す形質転換宿主細胞のある割合は、かかる同時形質転換に使用される第2の遺伝子も含む。この割合は、個々の実験及び実際に選択される実験パラメータに依存する。
【0029】
本発明による形質転換P.クリソゲヌム宿主細胞は、ペニシリンを製造するために有利に使用することができる。その結果、本発明は、ペニシリンを製造する方法にも関する。この方法は、宿主細胞によってペニシリンを形成するのに適切な条件下で本発明によるP.クリソゲヌム宿主細胞を培養することを含む。ペニシリンG及びペニシリンVからなる群から選択されるペニシリンを選択することが特に好ましい。
【0030】
適切な培養/発酵技術は、抗生物質分野の当業者に知られており、ペニシリンの製造に長年使用されてきた。
【0031】
好ましい実施態様においては、本発明による方法は、形成されたペニシリンを単離することも含む。本発明による形質転換P.クリソゲヌム宿主細胞によって形成されたペニシリンは、発酵性菌糸体マッシュから公知技術によって、例えば酢酸ブチルによる抽出とその後のクロマトグラフィー技術によって精製及び/又は単離することができる。
【0032】
本発明によって製造されたペニシリン、特にペニシリンG又はペニシリンVは、抗生物質特性を有する他の誘導体に有利に転化することができる。
【0033】
本発明の別の適用は、配列番号1のアミノ酸配列を含む単離タンパク質に関する。前述したように、かかるタンパク質は、配列番号1のアミノ酸配列を有する成熟タンパク質を切断によって所望のとおりにそこから製造することができる対応する融合タンパク質も包含する。配列番号1のアミノ酸配列のみを有する本発明によるタンパク質が好ましい。
【0034】
本発明によるタンパク質は、該タンパク質をコードする核酸分子を含む本発明による適切な発現ベクターを宿す適切な原核生物又は真核生物宿主細胞を該タンパク質を発現させる条件下で培養することによって調製することができる。このタンパク質は、通例の技術によって精製及び単離することができる。本発明によるcDNAが使用される適切な原核生物宿主細胞の例は、特に、細菌細胞、例えば、E.コリ(E. coli)であり、適切な真核生物宿主細胞の例は、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)などの酵母細胞又はCHO、BHK細胞などの哺乳動物細胞である。
【0035】
本発明によるタンパク質は、例えば、4’−ホスホパンテテイン基、NRPS、PKSなどの適切な酵素又はその個々のモジュール若しくはドメイン単位によって、アポ型から酵素的に活性なホロ型にインビトロで転換するために使用することができる(上記参照)。したがって、本発明によるタンパク質は、(NRPS、PKSなどの)前記酵素群の代表例及び他の4’−ホスホパンテテイン含有酵素又はその個々の部分から新しい分子を生成する活性なインビトロシステム、例えばコンビナトリアル生合成用システムを調製する貴重なツールを構成する。
【0036】
本明細書に述べられる科学的文献の内容全体を参照により本明細書に援用する。
【0037】
本発明は、以下の実施例によってより詳細に説明されるが、これらの実施例に限定されない。実施例は、特に、本発明の好ましい実施態様に関係する。
実施例
本明細書に述べられる材料及び試薬は、当業者になじみのあるものであり、商業的に入手可能であり、又は容易に利用可能であり、製造者の指示に従って使用することができる。
【実施例1】
【0038】
ペニシリウム クリソゲヌムからの新規遺伝子pptaの単離
本発明による遺伝子はポリメラーゼ連鎖反応法によって調製される。このため、DNAはペニシリウム クリソゲヌム菌株ATCC48271から単離される。これを実施するために、真菌細胞は、乳鉢中で研和することによって液体窒素中で機械的に粉砕され、続いて例えばT. Maniatis et al., Molecular Cloning−A Laboratory Manual, 1982, Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, New York, USAに記載の標準技術によって、又は例えばQiagen社によって供給されている市販キットを用いて単離される。
【0039】
サイズ約3.2kbの増幅物は、標準状態下でプライマーPCR1f及びPCR1r及び耐熱性DNAポリメラーゼを用いてゲノムDNAから調製される。
【0040】
プライマーPCR1f 5’−CCCC GTCGACCGAAGTGGTTTCGGTTCACTCGCACAT(配列番号5)
プライマーPCR1r 5’−CCCC GTCGACGCGGGATTCGATGCTCAAAACTCTTGC(配列番号6)
【0041】
本発明による配列番号4の核酸分子に対応する増幅領域をクローニングするために、断片は制限エンドヌクレアーゼSallを用いて切断され、使用されるE.コリプラスミドにSall部位を介して標準方法で連結される。かかる標準プラスミドの例は(Stratagene製)pBluescript II SK+である。
【0042】
連結生成物はE.コリ(例えば、菌株DH5アルファ)に形質転換され、E.コリ中で後続段階に十分な量で産生され、次いで精製される。構築方法に応じて、逆向きの核酸分子を含むプラスミドを得ることも可能である。しかし、原則的には、これらの構造体は同等に十分機能する。
【0043】
その後の配列決定及び分析によって、図2(配列番号2)及び4(配列番号4)に示される核酸配列が得られる。次いで、図1(配列番号1)に示されるコードタンパク質のアミノ酸配列を推定することができるように、図3(配列番号3)に示されるcDNA配列を核酸配列から推定することができる。原則的には、クローニング生成物は、その配列を決定し、その配列を図2及び/又は4に示されるDNA配列と比較することによって確証することができる。Sall断片を有するプラスミドはプラスミド1と命名され、次いで使用される。
【実施例2】
【0044】
新規ペニシリウム・クリソゲヌム遺伝子pptAの機能的キャラクタリゼーション
新規遺伝子を機能的に特徴づけるために、新規ペニシリウム・クリソゲヌムpptA遺伝子のcDNAをP.クリソゲヌム全cDNAからPCRによって増幅する。全cDNAは、(例えば、Qiagen製)市販キット及び標準実験室方法によってP.クリソゲヌムmRNAから調製される。
【0045】
プライマーPCR2f及びPCR2rを使用してこのcDNAからサイズ約1.25kbの増幅物を調製する。次いで、この増幅物を酵母ベクターpYES2.1−Sfiに組み込む。
【0046】
プライマーPCR2f 5’−GGGGGCCGAGGCGGCCCATGGATACCAATGATATCAAACAG(配列番号7)
プライマーPCR2r 5’−GGGGGCCATTATGGCCTCATTCAGGACTACCTGCCGCGAAACG(配列番号8)
【0047】
ベクター及び後続の機能試験の実施は、H.D. Mootz et al., ”Functional chraracterization of 4’−phosphopantetheinyl transferase genes of bacterial and fungal origin by complementation of Saccharomyces cerevisiae lys5”, FEMS Microbiol. Lett. 213(2002), pp.51−57に詳細に記載されている。本実施例における機能試験に使用される酵母発現ベクターは、pYES2−npgAと同様に調製される(H.D. Mootz et al.、同上、第2.2章、53ページ)。
【0048】
試験は、酵母菌株における特定の欠陥の機能補完性に基づく。Lys5遺伝子は、酵母細胞中でアミノ酸リジンを産生するのに必須であるPPTaseをコードし、したがってリジンのない最少培地上で酵母細胞を増殖させることができる。Lys5遺伝子が破壊された特別に構築された酵母菌株は、もはやリジンを産生することができない。上記酵母発現ベクターに組み込まれた本発明による遺伝子は、この酵母菌株に形質転換される。試験は、上記H.D. Mootz et al.による前記刊行物の第3章、54−55ページに詳細に記載されている。
【0049】
発現されたP.クリソゲヌムpptA遺伝子を含む対応する酵母形質転換体は、選択培地(リジンを含まない最少培地)上で再度増殖することができる。すなわち、lys5欠陥は補完される(H.D. Mootz et al.による前記刊行物中の第3.4章、55ページも参照されたい)。そのために、これは、P.クリソゲヌムpptA遺伝子が機能的4’−ホスホパンテテイニルトランスフェラーゼをコードする遺伝子であることを示している。
【実施例3】
【0050】
ペニシリウム・クリソゲヌムの同時形質転換
実施例1に記載された本発明による核酸分子は、(実施される形質転換アッセイの数に応じて)プラスミド1の適切な量から調製され、プラスミドをSallで制限し、次いでその3.2kb断片をアガロースゲル電気泳動によって精製することによって、形質転換が容易になる。
【0051】
P.クリソゲヌムniaD遺伝子は、オーストリア特許明細書AT 391 481に記載されているプラスミドJ−12の構成断片の形で選択マーカーとして使用される。このため、プラスミドJ−12はEcoRIで切断され、niaD断片を有するサイズ約6.5kbの断片がEcoRI−線形プラスミドpUCBM20(Roche Diagnostics)に連結される。これによって、どちらの場合もサイズ約9.1kbであり、組み込まれたEcoRI断片の配向が異なる2個の可能なプラスミドが生成する。サブクローンからの対応するプラスミドは、酵素XmaI及びAgeIを用いてそれらを一緒に消化することによって分析される。サイズ約2kbの断片とサイズ約7.1kbの断片が形成される配向を有するクローンが選択されp1649Aと命名される。プラスミドp1649AはXmaI及びAgeIで切断され、XmaI及びAgeIは適合性の末端を有するのでサイズ約7.1kbの断片は再連結される。対応するE.コリクローンからのプラスミドは、それをEcoRIで制限することによって検査され、p1649Cと命名される。
【0052】
プラスミドp1649Cの線状構成断片、すなわちサイズ約4.5kbのEcoRI/XbaI断片は、対応する菌株のP.クリソゲヌムプロトプラストを形質転換するために使用される。この線状構成断片は、プラスミドを酵素EcoRI及びXbaIで制限し、次いでその断片を単離することによって調製される。この断片はniaD遺伝子を有する。完全なプラスミドp1649C、p1649A又はJ−12を対応する方法で形質転換に使用することも当然可能である。
【0053】
原則的には、適切な選択系が形質転換用レシピエント菌株として利用可能である任意のP.クリソゲヌム菌株を使用することができる。プロトプラスト形質転換用標準手順を使用して、新規遺伝子及びそれぞれniaDマーカーをそれに応じて含む調製された2個の断片を、niaD突然変異体とみなされるP.クリソゲヌム菌株(PC−180060)に形質転換する。或いは、(P.クリソゲヌム菌株P2と命名された)ATCC48271などの市販P.クリソゲヌム菌株が形質転換に使用される。
【0054】
使用されるプロトプラスト形質転換方法は、例えば、オーストリア特許明細書AT 391 481(特に、その刊行物中の実施例6、8、10及び12を参照されたい)に記載されており、硝酸レダクターゼ突然変異体を生成することと、この突然変異体を形質転換することと、続いてニトラート含有栄養寒天上で形質転換体を選択することを含む。この選択に使用されるniaD遺伝子の諸性質は引用文献に同様に記載されている。
【0055】
プロトプラスト密度はKCM緩衝剤(0.7M KCl/50mM CaCl/10mM MOPS/pH5.8)で10/mlに調節される。形質転換に使用されるDNA断片溶液の一定分量はこの懸濁液100μlに添加体積10μlで添加される。2個の断片の比は約1−1.5から1のモル比になるように選択され、これらの断片を別の比で添加することも当然可能である。(niaD遺伝子を含む)約4.5kb EcoRI/XbaI断片約1.5から3.5μg及び(本発明による遺伝子を含む)実施例1の約3.2kb Sall断片約0.8から1.8μgが形質転換アッセイ試料に添加される。次いで、PEG(ポリエチレングリコール)溶液(50mM CaCl、10mM Tris、pH7.5、20%PEG)50μLが添加され、全体が混合され、氷上で20分間インキュベートされる。次いで、PEG溶液(上記参照)0.5mLがさらに添加され、管を回転させることによって全体が慎重に混合され、次いで室温で5分間静置される。その後、KCM緩衝剤1.5mlが添加され、全体が再度慎重に混合される。最後に、各場合において、形質転換アッセイ試料の約半分がR1軟寒天7mLと混合され、R1選択寒天上に注がれる(オーストリア特許明細書AT 391 481も参照されたい)。寒天板を25℃で約2週間インキュベートした後に、形質転換体コロニーは十分増殖し、さらなる使用に利用可能となった。
【0056】
サザンブロット法は、例えば、さらに組み込まれた本発明による遺伝子のコピー又は使用された必須プラスミド部分の有無についてかかる実験からの形質転換体を試験するために使用される。
【実施例4】
【0057】
ペニシリンの製造
実施例3で生成された形質転換体は、ペニシリン製造についてフラスコ発酵実験において試験される。便宜上、約500から1000個の同時形質転換体及び形質転換体からなるほぼ同じサイズの集団が各場合において並行して比較される。これを実施するために、これらのフラスコ発酵からの上清がHPLC分析によって評価される。
【0058】
酢酸フェニル又はフェノキシアセタートのどちらが前駆体として添加されたかによって、ペニシリンG又はペニシリンVに適切な方法は、例えば、C.S. Ho et al., ”Enhancing Penicillin Fermentations by Increased Oxygen Solubility Through the Addition of n−Hexadecane”, Biotechnology and Bioengineering 36(1990), pp.1110−1118に記載されている。
【0059】
フラスコ発酵におけるペニシリン力価は、例えばL.H. Christensen et al., ”A robust liquid chromatographic method for measurement of medium components during penicillin fermentations”, Analytic Chimica Acta 296(1994), pp.51−62に詳述されたHPLC分析によって測定することができる。
【0060】
統計的に適切なデータ量を得るために、これらの分析は数回(例えば、6回)繰り返される。各場合においていくつか(例えば、4回)の並行した各菌株のフラスコ発酵が実施され、各繰返しにおいて個々に試験される。本発明によるpptA遺伝子を用いた同時形質転換に由来し、出発菌株よりも著しく高いペニシリン生産性を示す3個の菌株(PC−20494、PC−20495及びPC−20496)は、P.クリソゲヌム菌株PC−180060から出発したときにこのようにして特定される。これらの菌株は、ペニシリン、特にペニシリンG又はペニシリンVを製造するのに工業規模で使用することができる。ペニシリンを製造するのに適切な発酵プロセスは公知である。例えば、A.H. Rose(Ed.), Secondary Products of Metabolism, Academic Press London, 1978中のS.Queener and R. Swartz, ”Penicillins: Biosynthetic and Semisynthetic”の章/”Fermentation”の節、50−74ページを参照されたい。
【0061】
公表された標準方法を使用して、形質転換菌株によって発酵マッシュから産生されたペニシリンを抽出し、それを精製する(例えば、A.H. Rose(Ed.), Secondary Products of Metabolism, Academic Press London, 1978中のS.Queener and R. Swartz, ”Penicillins: Biosynthetic and Semisynthetic”の章/”Recovery of Penicillin”の節、75−86ページを参照されたい)。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明による核酸分子からその配列(図2又は4に従う核酸配列)が推論される新規P.クリソゲヌムタンパク質のアミノ酸配列(配列番号1)である。配列はN末端からC末端方向に示されている。
【図2】1個のイントロンを含めて、翻訳開始コドン(ATG)から翻訳終止コドン(TAA)までのP.クリソゲヌムpptA遺伝子のコード領域のゲノムDNA配列(配列番号2)である。イントロンには下線が引かれ、配列は5’から3’方向の一本鎖として示される。
【図3】翻訳開始コドン(ATG)から翻訳終止コドン(TAA)までの新規遺伝子のコード領域のcDN配列である(配列番号3)。配列は5’から3’方向の一本鎖として示される。
【図4a】新規遺伝子のゲノムクローンのSall断片のゲノムDNA配列(配列番号4)である(配列は5’から3’方向の一本鎖として示される)。コード領域の翻訳開始コドン(ATG)及び翻訳終止コドン(TAA)には下線が引かれ、太字で印刷され、イントロンには下線が引かれている。
【図4b】新規遺伝子のゲノムクローンのSall断片のゲノムDNA配列(配列番号4)である(配列は5’から3’方向の一本鎖として示される)。コード領域の翻訳開始コドン(ATG)及び翻訳終止コドン(TAA)には下線が引かれ、太字で印刷され、イントロンには下線が引かれている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1のアミノ酸配列を含むタンパク質をコードする単離核酸分子。
【請求項2】
配列番号1のアミノ酸配列のみを有するタンパク質をコードする、請求項1に記載の核酸分子。
【請求項3】
DNA分子である、請求項1又は2に記載の核酸分子。
【請求項4】
配列番号2の塩基配列又は遺伝コードの縮重のために配列番号2の前記配列と異なるに過ぎない塩基配列を含む、請求項3に記載の核酸分子。
【請求項5】
配列番号3の塩基配列又は遺伝コードの縮重のために配列番号3の前記配列と異なるに過ぎない塩基配列を含む、請求項3に記載の核酸分子。
【請求項6】
配列番号4の塩基配列又は遺伝コードの縮重のために配列番号4の前記配列と異なるに過ぎない塩基配列を含む、請求項3に記載の核酸分子。
【請求項7】
塩基配列の配列番号2、配列番号3及び配列番号4からなる群から、又は遺伝コードの縮重のために前記配列の1つと異なるに過ぎない塩基配列から選択される塩基配列のみを有する、請求項3に記載の核酸分子。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載の核酸分子を含むベクター。
【請求項9】
宿主細胞を形質転換するのに適切である、請求項8に記載のベクター。
【請求項10】
前記宿主細胞が微生物である、請求項9に記載のベクター。
【請求項11】
前記微生物が糸状菌である、請求項10に記載のベクター。
【請求項12】
前記糸状菌が、ペニシリウム・クリソゲヌム、ペニシリウム・ノタツム、ペニシリウム・ブレビコンパクツム、ペニシリウム・シトリヌム、アクレモニウム・クリソゲヌム、アスペルギルス・ニドゥランス、アスペルギルス・ニガー、アスペルギルス・フミガーツス、アスペルギルス・テレウス及びトリポクラジウム・インフラタムからなる群から選択される、請求項11に記載のベクター。
【請求項13】
前記糸状菌がペニシリウム・クリソゲヌムである、請求項12に記載のベクター。
【請求項14】
請求項1から7のいずれか一項に記載の核酸分子で、又は請求項8から13のいずれか一項に記載のベクターで形質転換された宿主細胞。
【請求項15】
微生物である、請求項14に記載の宿主細胞。
【請求項16】
前記微生物が糸状菌である、請求項15に記載の宿主細胞。
【請求項17】
前記糸状菌が、ペニシリウム・クリソゲヌム、ペニシリウム・ノタツム、ペニシリウム・ブレビコンパクツム、ペニシリウム・シトリヌム、アクレモニウム・クリソゲヌム、アスペルギルス・ニドゥランス、アスペルギルス・ニガー、アスペルギルス・フミガーツス、アスペルギルス・テレウス及びトリポクラジウム・インフラタムからなる群から選択される、請求項16に記載の宿主細胞。
【請求項18】
前記糸状菌がペニシリウム・クリソゲヌムである、請求項17に記載の宿主細胞。
【請求項19】
宿主細胞によりペニシリンを形成させるのに適切な条件下で請求項18に記載の宿主細胞を培養することを含む、ペニシリンを製造する方法。
【請求項20】
前記ペニシリンがペニシリンG又はペニシリンVである、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
形成されたペニシリンの単離をさらに含む、請求項19又は20に記載の方法。
【請求項22】
配列番号1のアミノ酸配列を含む単離タンパク質。
【請求項23】
配列番号1のアミノ酸配列のみを有する、請求項22に記載のタンパク質。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4a】
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【図4b】
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【公表番号】特表2007−508022(P2007−508022A)
【公表日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−534685(P2006−534685)
【出願日】平成16年10月14日(2004.10.14)
【国際出願番号】PCT/EP2004/011566
【国際公開番号】WO2005/040369
【国際公開日】平成17年5月6日(2005.5.6)
【出願人】(305008042)サンド・アクチエンゲゼルシヤフト (54)
【Fターム(参考)】