説明

ペプチド、ポリペプチド及びタンパク質の安定化のためのトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンの使用

【課題】ペプチド、ポリペプチド及びタンパク質の安定化のためのトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンの使用
【解決手段】本発明は、グルカゴン様ペプチド(GLPs)を含む、ペプチド、ポリペプチド及びタンパク質類似体及び/又はそれらの誘導体のアップストリーム及びダウンストリームの処理及び精製の間の、ゲル化/フィブリル化/凝集の発生又は発生率を減少するための方法に関する。より具体的には、本発明は、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンの存在下における、ペプチド、ポリペプチド及びタンパク質などの処理及び精製方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に、ペプチド、ポリペプチド及びタンパク質のアップストリーム及びダウンストリーム処理及び精製の間のゲル化/フィブリル化/凝集の発生又は発生率を減少するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非常に多くのポリペプチドが、医学的実施における使用のために認可されている。それらのポリペプチドは、組換えDNA技術によって適切な宿主細胞中で生産されるか、又は、確立されたペプチド合成技術によって合成的に生産される。しかしながら、天然のポリペプチド並びにそれらの類似体及び誘導体は、そのペプチドの高血漿濃度が長期間必要である多くの臨床的な徴候にとっては容認できない、高いクリアランス速度を示す傾向がある。高いクリアランス速度を有する天然の形態にあるペプチドの例は、ACTH、コルチコトロピン放出因子、アンジオテンシン、カルシトニン、エクセンディン、エクセンディン-3、エクセンディン-4、インスリン、グルカゴン、グルカゴン様ペプチド-1、グルカゴン様ペプチド-2、インスリン様成長因子-1、インスリン様成長因子-2、胃の抑制性ペプチド、成長ホルモン放出因子、脳下垂体アデニル酸シクラーゼ活性化ペプチド、セクレチン、腸ガストリン、ソマトスタチン、ソマトトロピン、ソマトメジン、副甲状腺ホルモン、トロンボポエチン、エリスロポエチン、視床下部放出因子、プロラクチン、甲状腺刺激ホルモン、エンドルフィン、エンケファリン、バソプレッシン、オキシトシン、オピオイド及びそれらの類似体、スーパーオキシドジスムターゼ、インターフェロン、アスパラギナーゼ、アルギナーゼ、アルギニンデアミナーゼ、アデノシンデアミナーゼ及びリボヌクレアーゼである。
【0003】
ペプチド、ポリペプチド及びタンパク質組成物を安定化する多くの水性製剤が当該分野で確認されている一方、製剤溶液及び溶液の双方における、ペプチド、ポリペプチド及びタンパク質の処理の間の不安定化は、特にそれらのペプチドのアップストリーム処理及びダウンストリーム処理において困難を生み続けている。従って、先行技術(Senderhoff et al., J. Pharm. Sc. Vol. 87, No. 2, pp. 183-189, February 1998)の不足を克服する新しい方法が必要である。
【0004】
EP 1 396 499には、グルカゴン様ペプチド (GLP-1)化合物を安定化するための方法が開示されている。
EP 0 747 390には、クエン酸緩衝液を用いた、脂肪酸アシル化タンパク質のゲル化を減少する方法が開示されている。
「S.E.Bondos and A.Bicknell Analytical Biochemistry 316(2003)223-231」、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンはこの論文において、タンパク質の溶解性を促進する薬剤として言及されていない。
【発明の開示】
【発明の概要】
【0005】
本発明は、グルカゴン様ペプチド (GLPs)、エクセンディン及びそれらの類似体及び/又は誘導体を含む、ペプチド、ポリペプチド及びタンパク質のアップストリーム及びダウンストリームの処理及び精製の間の、ゲル化/フィブリル化/凝集の発生又は発生率を減少するための方法に向けられる。
【0006】
本発明は、現在行われている方法よりも温度制御及びpH制御せずに、高い濃度の有機改質剤(modifier)の存在下又は非存在下で、ペプチド、ポリペプチド及びタンパク質の水溶液を処理する方法を提供する。
【0007】
より具体的には、本発明は、トリス(ヒドロキシメチル)-アミノメタン (TRIS)の存在下において、グルカゴン様ペプチド (GLP)化合物を含むペプチド、ポリペプチド及びタンパク質を処理及び精製する方法に関する。
本発明はまた、ゲル化/フィブリル化/凝集の傾向が減少したペプチド、ポリペプチド及びタンパク質の水溶液を提供する。
【発明の詳細な説明】
【0008】
本発明は、トリス緩衝剤又はトリス添加物の存在下でペプチド又はタンパク質を、例えば流動処理、特にエタノールなどの極性溶媒を含む流動処理のような処理で処理することによって、ペプチド、ポリペプチド及びタンパク質がゲル化、フィブリル化又は凝集を形成する傾向を大きく減少するという、驚くべき発見を詳細に述べる。
【0009】
本発明の方法において、トリス-(ヒドロキシメチル)アミノメタン、及び同様の生物学的緩衝物質は、溶液中のグルカゴン様ペプチド (GLPs、その類似体及び誘導体)を含むペプチド、ポリペプチド及びタンパク質を、アップストリーム及びダウンストリーム処理の間、安定化すること、及び、最終薬物産物の物理的分解を予防することに優れていることが示された。トリス(TRIS)は一般に、2-アミノ-2-ヒドロキシメチル-1,3-プロパンジオールを指し、また、その薬学的に許容される任意の塩を指す。遊離塩基及び塩酸塩形態は、トリスの二つの通常の形態である。またトリスは、当該分野ではトリメチロールアミノメタン、トリスアミン緩衝液、THAM、及びトロメタミンとしても知られている。TRISは、約8.05のpKA を有する。「添加剤」として用いられるトリスは、例えば、約7.0以下のpH、又は約9.1以上のpHのような、その典型的な緩衝範囲外のトリスの使用を指す。
【0010】
ペプチド、ポリペプチド及びタンパク質のアップストリーム及びダウンストリーム処理及び精製は、これらに限定されないが、発酵、回転式蒸発、培養、濾過、遠心分離、クロマトグラフィー法、酵素的合成、有機合成、酵素的転換、沈殿、結晶化、凍結乾燥、フリーズドライ又は当業者に既知の他の方法を含む。
【0011】
「有機改質剤(modifiers)」という用語は、有機溶媒又は水に可溶な有機化合物又はそれらの混合物を指し、この改質剤は、望ましくない関連する不純物とペプチド及びイオン交換体の間の選択性を好ましく変化させる。選択された改質剤が前記選択性を誘導するかどうかは、通常、関連する不純物に依存し、手探り(trial-and-error)で試験される。有機改質剤は、これらに限定されないが、C1-6-アルカノール、C1-6-アルケノール又はC1-6-アルキノール、アセトニトリル、N-メチルピロリドン、尿素、グアニジン-HCl、又は酢酸のようなC1-6-アルカン酸、C2-6-グリコール、糖を含むC3-7-ポリアルコール又はそれらの混合物を含む。
【0012】
「C1-6-アルカノール」、「C1-6-アルケノール」又は「C1-6-アルキノール」という用語は、本明細書で用いられるように、単独で又は組み合わせて、ヒドロキシル(-OH)に結合する、直鎖又は分枝鎖又は環状の何れかの立体配置中の指示された長さのC1-6-アルカン, C1-6-アルケン又はC1-6-アルキン基を含むように意図される(Morrison & Boyd, Organic Chemistry, 4th ed.を参照されたい)。直鎖アルコールの例は、メタノール、エタノール、n-プロパノール、アリルアルコール、n-ブタノール、n-ペンタノール及びn-ヘキサノールである。分枝したアルコールの例は、2-プロパノール及びt-ブチルアルコールである。環状アルコールの例は、シクロプロピルアルコール及び2-シクロヘキセン-1-オールである。
【0013】
「C1-6-アルカン酸」という用語は、本明細書で用いられるように、式 R'COOHの基を含むように意図され、ここで、R' はH又はC1-5-アルキルであり、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、α-メチル酪酸、又は吉草酸である(Morrison & Boyd, Organic Chemistry, 4th ed. を参照されたい)。
【0014】
「C1-5-アルキル」という用語は、本明細書で用いられるように、1から5の炭素原子を有する分枝鎖又は直鎖のアルキル基を含むように意図される。典型的なC1-5-アルキル基は、これらに限定されないが、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、ブチル、イソ-ブチル、s-ブチル、t-ブチル、ペンチル、イソペンチルなどを含む(Morrison & Boyd, Organic Chemistry, 4th Ed. を参照されたい) 。
【0015】
「C2-6-グリコール」という用語は、本明細書で用いられるように、隣接するか又は隣接しない、異なる炭素原子上に二つのヒドロキシル基を含むC2-6-アルカンを含むように意図される。典型的なC2-6-グリコールは、これらに限定されないが、1,2-エタンジオール、1,2-プロパンジオール、又は2-メチル-2,4-ペンタンジオールを含む (Morrison & Boyd, Organic Chemistry, 4th Ed. を参照されたい)。
【0016】
「C2-6-アルカン」という用語は、本明細書で用いられるように、2〜6の炭素原子を有する分枝又は直鎖のアルカン基を含むように意図される。典型的なC2-6-アルカン基は、これらに限定されないが、エタン、プロパン、イソプロパン、ブタン、イソ-ブタン、ペンタン、ヘキサン等を含む(Morrison & Boyd, Organic Chemistry, 4th Ed.を参照されたい)。
【0017】
「糖を含むC3-7-ポリアルコール」という用語は、本明細書で用いられるように、式 HOCH2(CHOH)nCH2OHの基(ここで、n は、1-5の整数である)、及び、マンノース及びグルコースのようなモノサッカリド(Morrison & Boyd, Organic Chemistry, 4th Ed.を参照されたい)を含むように意図される。
【0018】
「ペプチド」という用語は、本明細書で用いられるように、ポリペプチド、オリゴペプチド、タンパク質、並びにそれらの相同体、類似体及び誘導体を含むように意図され、それらは従来の組換えDNA技術並びに従来の合成方法によって生成されることができる。そのようなペプチドは、これらに限定されないが、グルカゴン、hGH、インスリン、アプロチニン、VII因子、TPA、VIIa因子 (NovoSeven(登録商標)、Novo Nordisk A/S, Bagsvaerd, Denmarkから入手可能)、VIIai因子、FFR-VIIa因子、ヘパリナーゼ、ACTH、コルチコトロピン放出因子、アンジオテンシン、カルシトニン、インスリン、グルカゴン様ペプチド-1、グルカゴン様ペプチド-2、インスリン様成長因子-1、インスリン様成長因子-2、胃抑制ペプチド、成長ホルモン放出因子、脳下垂体アデニル酸シクラーゼ活性化ペプチド、セクレチン、腸ガストリン、ソマトスタチン、ソマトトロピン、ソマトメジン、副甲状腺ホルモン、トロンボポエチン、エリスロポエチン、視床下部放出因子、プロラクチン、甲状腺刺激ホルモン、エンドルフィン、エンケファリン、バソプレッシン、オキシトシン、オピオイド(opiods)、GIP、エクセンディン、ペプチドヒスチジン-メチオニンアミド、ヘロスペクチン(helospectins)、ヘロデルミン(helodermin)、脳下垂体アデニル酸シクラーゼ活性化ペプチド-関連ペプチド、血管作働性腸管ポリペプチド及びそれらの類似体及び誘導体を含む。
【0019】
「GLP-1 ペプチド」という用語は、本明細書で用いられるように、GLP-1 (7-37)、GLP-1 (7-36) アミド並びにそれらの類似体及び誘導体を示すように意図され、それらは従来の組換えDNA技術並びに従来の合成方法によって生成されることができる。そのようなGLP-1ペプチドは、これらに限定されないが、天然のグルカゴン様ペプチド-1、例えば、GLP-1 (7-37)及びWO 87/06941に開示されたようなその機能的誘導体を含むペプチド断片;GLP-1 (7-36)及びWO 90/11296に開示されたようなその機能的誘導体を含むペプチド断片;WO 91/11457に開示されたような活性なGLP-1ペプチド7-34、7-35、7-36、及び7-37の類似体;WO 98/08871に開示されたような、親油性置換基が少なくとも一つのアミノ酸残基に結合したGLP-1誘導体;EP 0699686-A2に開示されたような、GLP-1のN-末端切断断片;及びEP 0708179-A2に開示されたような、N-末端イミダゾール基を含むGLP-1類似体及び誘導体を含む。
【0020】
「GLP-2ペプチド」という用語は、本明細書で用いられるように、GLP-2 (1-35)、GLP-2 (1-34)、GLP-2 (1-33)並びにそれらの類似体及び誘導体を示すように意図され、それらは従来の組換えDNA技術並びに従来の合成方法によって生成されることができる。そのようなGLP-2ペプチドは、これらに限定されないが、天然のグルカゴン様ペプチド-2、WO 98/08872に開示されたような、親油性置換基が少なくとも一つのアミノ酸残基に結合したGLP-2誘導体、ヒトグルカゴン様ペプチド-2 (hGLP-2)、GLP-2(1-30);GLP-2(1-31);GLP-2(1-32);GLP-2(1-33);GLP-2(1-34)、GLP-2(1-35)、Lys20GLP-2(1-33)、Lys20Arg30GLP-2(1-33)、Arg30Lys34GLP-2(1-34)、Arg30Lys35GLP-2(1-35)、Arg30,35Lys20GLP-2(1-35)、Arg35GLP-2(1-35)、Lys20(Nε-テトラデカノイル)GLP-2(1-33);Lys20,30-bis(Nε-テトラデカノイル)GLP-2(1-33);Lys20(Nε-テトラデカノイル)Arg30GLP-2(1-33);Arg30Lys35(Nε-テトラデカノイル)GLP-2(1-35);Arg30,35Lys20(Nε-テトラデカノイル)GLP-2(1-35);Arg35Lys30(Nε-テトラデカノイル)GLP-2(1-35);Arg30Lys34(Nε-テトラデカノイル)GLP-2(1-34);Lys20(Nε-(ω-カルボキシノナデカノイル))GLP-2(1-33);Lys20,30-bis(Nε-(ω-カルボキシノナデカノイル))GLP-2(1-33);Lys20(Nε-(ω-カルボキシノナデカノイル))Arg30GLP-2(1-33);Arg30Lys35(Nε-(ω-カルボキシノナデカノイル))GLP-2(1-35);Lys30(Nε-(γ-グルタミル(Nα-テトラデカノイル)))hGLP-2、Lys30(Nε-(γ-グルタミル(Nα-ヘキサデカノイル)))hGLP-2、Arg30,35Lys20(Nε-(ω-カルボキシノナデカノイル))GLP-2(1-35);Arg35Lys30(Nε-(ω-カルボキシノナデカノイル))GLP-2(1-35);及びArg30Lys34(Nε-(ω-カルボキシノナデカノイル))GLP-2(1-34)を含む。
【0021】
「エクセンディン」という用語は、本明細書で用いられるように、エクセンディン並びにそれらの類似体、誘導体、及び断片、例えば、エクセンディン-3及び-4を示すように意図される。エクセンディン並びにそれらの類似体、誘導体及び断片は、例えばWO 99/43708に開示されており、その内容はすべて、参照によって本明細書に援用される。
【0022】
「類似体」という用語は、本明細書で用いられるように、親配列の一以上のアミノ酸残基が他のアミノ酸残基で置換され、及び/又は親配列の一以上のアミノ酸残基が欠失され、及び/又は一以上のアミノ酸残基が親配列に加えられた、ペプチド、ポリペプチド又はタンパク質を指す。類似体という用語はまた、偽ペプチド又はペプチド擬態残基又は他の非-アミノ酸成分、並びに、非-天然のアミノ酸のような、ペプチド及び非-ペプチド成分のいずれをも含む配列を含むように意図される。置換、追加又は欠失は、親配列のN-末端又はC-末端の何れか又はその両者、並びに、親配列内の任意の位置で起こりうる。
【0023】
「誘導体」という用語は、本明細書で用いられるように、親配列の一以上のアミノ酸残基が化学的に修飾された、例えば、アルキル化、アシル化、ペグ化(pegylation)、ペプチド合成、エステル形成又はアミド形成などによって修飾された、ペプチド、ポリペプチド又はタンパク質を指す。
【0024】
ペプチド、ポリペプチド、タンパク質及びそれらの類似体又は誘導体のクロマトグラフ的分離又は精製は、当業者が利用可能な任意の方法によって行われる。それらの技術の例は、これらに限定されないが、逆相高速液体クロマトグラフィー(RP-HPLC)、逆相液体クロマトグラフィー(RP-LC)、ストレートフェーズクロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、親和性クロマトグラフィー、金属キレートクロマトグラフィー、沈殿、吸着、ゲル濾過、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC) 電気泳動法など、単独で、連続的に又は混合様式で実行される方法を含む。
【0025】
本発明の一つの側面は、TRIS濃度が約1 mM〜約1000 mM、約1 mM〜約200 mM、約1 mM〜約100 mM、約2 mM〜約75 mM、約3 mM〜約50 mM、及び約5 mM〜約25 mMの範囲にある、ゲル化 フィブリル化/凝集耐性溶液に関する。
【0026】
他の側面は、溶液のpHが約1〜約10、約2〜約10、及び約3〜約9.5である、本発明の方法に関する。
【0027】
他の側面は、有機改質剤が約0% w/w〜約99% w/w、約0% w/w〜約70% w/w、約0% w/w〜約50% w/w、及び約1% w/w〜約50% w/wの濃度で存在する、本発明の方法に関する。
【0028】
ゲル化/フィブリル化/凝集は、ゲル化の程度に応じて有色になるチオフラビンT試験(ref. ?)によって評価できる。他の結果は、複数回の運転の間にクロマトグラフィーカラムの背圧の上昇をもたらす、ゲル化された(gelated)溶液の粘度の上昇である−これは通常、最初に得られるゲル化が起こる徴候である。
【0029】
本発明の他の特徴は、本発明の説明のために提供され、本発明の範囲を限定するようには意図されない下記の実施例の過程において明らかになるであろう。
【実施例】
【0030】
例1
約 2重量%のエタノール及び10 mMのトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンを含む、pH 9.2 の、Arg34-GLP-1[7-37]の水溶液を、室温で作製し、pHを3.2に調節した。該溶液の室温での安定性をRP-HPLC でモニターした。
【0031】
該溶液を、イオン交換カラム(Source 30S, Amersham Bioscience)にpH 3.23で添加し、カラムをエタノール及びクエン酸を含有する酸緩衝液で洗浄した後、該産物を10 mM Trisを含有するpH 9.2の水溶液で溶出した。該カラムからの溶出液の室温安定性をRP-HPLCでモニターした(表1)/(図1)。
【表1】

【0032】
ゲル化/フィブリル化/凝集は、試験したいずれのサンプルでも観察されなかった。
【0033】
比較例1
比較試験を、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンの替わりに20-200 mMのグリシンで行った。
約 2重量%のエタノール及び20 mMのグリシンを含有する、pH 9.0のArg34-GLP-1[7-37]の水溶液を室温で作製し、pHを約 3.3に調節した。
該溶液を、イオン交換カラム(Source 30S, Amersham Bioscience)にpH 3.3で添加し、該カラムをエタノール及びクエン酸含有酸緩衝液で洗浄した後、該産物を200 mMのグリシンを含有するpH 9.5の水溶液で溶出した。カラムからの溶出液の安定性を室温で5日間、RP-HPLCでモニターした。添加液及び溶出液のいずれも、フィブリル化し、室温で1日に満たない安定性を示した。
【0034】
例2
約 2重量%のエタノール及び10 mMのトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンを含有するpH 9.2のArg34-GLP-1[7-37]の水溶液を、Arg34-GLP-1[7-37] 等電沈殿物を該溶液に直接溶解して室温で作製した。続いて、pHを3.2に調節した。
該溶液の調製用の一定分量を、大規模イオン交換カラム, 20 cm I.D. (内径)(Source 30S, Amersham Bioscience)にpH 3.3で添加し、不純物を除くために該カラムをエタノール及びクエン酸を含有する酸緩衝液で洗浄した後、産物を10 mMのトリスを含有するpH 9.2の水溶液で溶出した。このカラムを1 MのNaOHで再生し、酸性洗浄緩衝液で平衡化し、該カラムに添加液を再び添加した。Source 30S カラムからの溶出液はpH 7.4の100 mMトリス緩衝液で自動的にpH 8.0に調整された。
【0035】
Source 30S カラムでの60回の運転後、圧力の変化は観察されず、よって、該カラムでのフィブリル化は生じておらず、また、添加液及び溶出液中のフィブリル化も観察されなかった。
【0036】
例3
約2重量%のエタノール及び10 mMのトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンを含むpH 9.2のNε-ヘキサデカノイル-γ-グルタミル-Lys26-Arg34-GLP-1[7-37]水溶液を、Nε-ヘキサデカノイル-γ-グルタミル-Lys26-Arg34-GLP-1[7-37] 等電沈殿物を該溶液に室温で直接溶解することによって作製した。
【0037】
該溶液の調製用の一定分量を、大規模イオン交換カラム、45 cm I.D. (内径)(Source 30Q, Amersham Bioscience)にpH 9.2で添加し、不純物を除くために該カラムを20 mMのトリス及び63重量%のエタノール(pH 7.5)を含有する緩衝液で洗浄した後、産物を63重量%のエタノールを含有する20mMのトリス緩衝液中、pH 7.5での塩化ナトリウム勾配で溶出した。該カラムを1 MのNaOHで再生し、pH 7.5の洗浄緩衝液で平衡化し、該カラムに添加液を再び添加した。Source 30Q カラムからの溶出液は他の大規模カラム(RP-HPLC カラム 100Å C-18、粒径15μm、カラム I.D. 45 cm)に添加される前に水で自動的に希釈され、20 mMのトリス、125 mMの塩化ナトリウム及び約45 重量%のエタノールを含有するpH 6.9の緩衝溶液で溶出した。該カラムを70% エタノール溶液で再生し、続いて、20 mMのトリスを含有する25% エタノール溶液で再生した。
【0038】
Source 30Q カラム並びにRP-HPLC カラムでの60回の運転後、圧力の変化は観察されず、よって、該カラムでのフィブリル化は生じておらず、また、添加液及び溶出液中のフィブリル化も観察されなかった。
【0039】
例4:
約 2重量%のエタノール及び10 mMのトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンを含有するpH 9.2のArg34-GLP-1[7-37]水溶液を室温で作製し、pHを3.2に調整した。該溶液の一定分量を、イオン交換カラム、45 cm i.d.(Source 30S, Amersham Bioscience)にpH 3.3で添加し、該カラムをエタノール及びクエン酸を含有する酸緩衝液で洗浄した後、該産物を10 mMのトリスを含有するpH 9.2の水溶液で溶出した。該カラムを再生し、再び添加液を添加した。
Source 30S カラムでの283回の運転後、圧力の変化はなく、該カラム物質の凝集性/フィブリル化したタンパク質について分析し、該カラム物質上にタンパク質又は凝集性/フィブリル化したタンパク質は観察されなかった。
【0040】
例5:
約 2重量%のエタノール及び10 mMのトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンを含有するpH 9.2のNε-ヘキサデカノイル-γ-グルタミル-Lys26-Arg34-GLP-1[7-37]水溶液を室温で作製した。
【0041】
該溶液の一定分量を、イオン交換カラム、45 cm i.d.(Source 30Q, Amersham Bioscience)にpH 9.2で添加し、20 mMのトリス及び63重量%のエタノール(pH 7.5)を含有する中性緩衝液で該カラムを洗浄した後、該産物を、63重量%のエタノールを含有する20mMのトリス緩衝液中のpH 7.5での塩化ナトリウム勾配で溶出した。このカラムを再生し、添加液を再び添加した。
【0042】
Source 30Q カラムからの溶出液は他のカラム(RP-HPLC カラム 100Å C-18、粒径 i.d. 15μm、カラム i.d. 45 cm)に適用される前に自動的に水で希釈され、20 mMのトリス、125 mMの塩化ナトリウム及び約45 重量%のエタノールを含有するpH 6.9の緩衝液で溶出した。
【0043】
Source 30Q カラムでの77回の運転後、圧力の変化は観察されず、該カラム物質は、凝集性/フィブリル化したタンパク質について分析され、該カラム物質上に凝集性/フィブリル化したタンパク質は観察されなかった。
【0044】
RP-HPLCカラム物質は、49回の運転後に凝集性/フィブリル化したタンパク質について分析され、再度、該カラム物質での凝集性/フィブリル化したタンパク質は観察されなかった。
【0045】
実施例の結果から、添加物として及び緩衝剤物質としてのいずれのトリスの使用によっても、処理及び精製が安定化できることが示された。
【0046】
本明細書中で挙げられた出版物、特許出願、及び特許を含む全ての参照文献は、それぞれの参照文献が参照によって個々に具体的に援用されるのと同じ範囲で及びその全体において説明されるのと同じ範囲で(法によって許される最大の範囲に)、参照によって本明細書に援用される。
【0047】
それらの全ての可能な変更における上記要素の任意の組み合わせは、他に指示しない限り又は文脈から明らかに矛盾しない限り、本発明に包含される。
【0048】
本発明を説明する文脈(特に請求の範囲)における「一つの(a及びan)及び「その(the)」という用語、及び類似の指示語は、明細中に他に指示しない限り、又は文脈から明らかに矛盾しない限り、単数及び複数のいずれをも包含するように解釈されるべきである。
【0049】
「含む(comprising)」、「有する(having)」、「含む(including)」及び「含む(containing)」という用語は、他に述べない限り、制限のない(open-ended)用語(即ち、「含む(including)が、これに限定されない」という意味)として解釈されるべきであり、また、「から成る(consisting)」、「実質的に〜で構成される」、及び「本質的に〜から成る」(例えば、特定の成分を「含む(comprising)」組成物の開示がされたとき、関連する部分において、該成分から本質的に成る、及び、(独立的に)該成分を単独で含む組成物によって特徴付けられる、その他の点では同じ組成物をも提供することが理解されるであろう)という句を包含するように読まれるべきである。
【0050】
本明細書における値のある範囲の列挙は、他に指示されない限り、単に、該範囲に入るそれぞれ別々の値の個々の言及を短くする方法として貢献するように意図され、それぞれ別々の値は、個々に詳述されたように本明細書中に援用される。他に指示しない限り、本明細書中で提供される全ての正確な値は、対応する近似の値を表す(例えば、特定の因子又は測定値に関して提供された全ての正確な代表的な値は、適切な場合は、「約」によって修飾される、対応する近似の測定値をも提供するとみなすことができる)。
【0051】
本明細書で記載された全ての方法は、他に指示しない限り、或いは文脈から明らかに矛盾しない限り、任意の適切な順序で行うことができる。
本明細書で提供された任意の及び全ての例、又は典型的な言語(例えば、「〜のような」)の使用は、他に主張しない限り、単に本発明をより明らかにすることを意図し、本発明の範囲を制限するものではない。明細書中のいずれの言語も、本発明の実施に必要であるような請求されていない何れかの要素を示すと解釈されるべきではない。
【0052】
本明細書における特許書類の引用及び援用は、便宜のためだけに行われ、そのような特許文書の有効性、特許性、及び/又は実施可能性の何れの観点を反映するものではない。
【0053】
本発明の好ましい態様は本明細書に記載される。それらの好ましい態様の変形は、上記記載を参照して当該分野の技術者には明らかであろう。発明者らは、当業者がそのような変更を適切に使用することを予期しており、発明者らは、本発明が本明細書で特定されたものと別の方法で実施されることも意図している。したがって、本発明は、付属の請求項で列挙された対象項目の全ての変更及び等価物を、適用可能な法によって許容されるように含む。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】約 2重量%のエタノール及び10 mMのトリス-(ヒドロキシメチル)アミノメタンを含有するArg34-GLP-1[7-37]のpH 9.2の水溶液の、室温での安定化調査のグラフ表示。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペプチド、ポリペプチド又はタンパク質、及びそれらの類似体及び/又は誘導体の水溶液を安定化する方法であって、安定化を誘導するのに十分な量のトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンを該水溶液に添加することを含み、ここにおいて、該トリス(ヒドロキシメチル)-アミノメタンは緩衝剤又は添加剤である方法。
【請求項2】
ペプチド、ポリペプチド又はタンパク質、及びそれらの類似体及び/又は誘導体を処理する方法であって、トリス(ヒドロキシメチル)-アミノメタンを含有する水溶液の存在下で処理を行うことを含み、ここにおいて、該トリス(ヒドロキシメチル)-アミノメタンは緩衝剤又は添加剤である方法。
【請求項3】
ペプチド、ポリペプチド又はタンパク質、及びそれらの類似体及び/又は誘導体のクロマトグラフ的な分離又は精製のための方法であって、トリス-(ヒドロキシメチル)アミノメタンを緩衝剤又は添加剤として含む水性溶出液を備える方法。
【請求項4】
前記クロマトグラフ的な方法はイオン交換分離である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記水溶液がさらに有機改質剤(organic modifier)を含む、請求項1〜4の何れか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記有機改質剤が、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、ブタノール、ヘキシレングリコール、アセトニトリル及びN-メチル-2-ピロリドンから選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記有機改質剤が約0 w/w%〜約99 w/w%の濃度で存在する、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記有機改質剤が約0% w/w〜約70% w/wの濃度で存在する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記有機改質剤が約0% w/w〜約50% w/wの濃度で存在する、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記有機改質剤が約1% w/w〜約50% w/wの濃度で存在する、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
前記水溶液が、約1 mM〜約1000 mMのトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン濃度を有する、請求項1〜5の何れか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記水溶液が、約1 mM〜約200 mMのトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン濃度を有する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記水溶液が、約1 mM〜約100 mMのトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン濃度を有する、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記水溶液が、約2 mM〜約75 mMのトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン濃度を有する、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
前記水溶液が、約3 mM〜約50 mMのトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン濃度を有する、請求項11に記載の方法。
【請求項16】
前記水溶液が、約5 mM〜約25 mMのトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン濃度を有する、請求項11に記載の方法。
【請求項17】
前記水溶液が、約1.0〜約10.0のpHを有する、請求項1〜5の何れか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記水溶液が、約2.0〜約10.0のpHを有する、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記水溶液が、約3.0〜約9.5のpHを有する、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
前記ペプチド、ポリペプチド又はタンパク質が、グルカゴン様ペプチド(GLPs)及びそれらの類似体及び誘導体から選択される、請求項1〜5の何れか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記GLPsが、GLP-1及びGLP-1類似体及びそれらの誘導体、GLP-2及びGLP-2類似体及びそれらの誘導体、及びエクセンディン-4及びそれらの類似体及び誘導体から選択される、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記グルカゴン様ペプチド(GLP)がGLP-1、及びそれらの類似体及び誘導体である、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
前記グルカゴン様ペプチド(GLP)が、GLP-2、及びそれらの類似体及び誘導体である、請求項20に記載の方法。
【請求項24】
前記グルカゴン様ペプチド(GLP)が、エクセンディン-4、及びそれらの類似体及び誘導体である、請求項20に記載の方法。
【請求項25】
前記ペプチド、ポリペプチド又はタンパク質が、プロインスリン、インスリン、及びそれらの類似体及び誘導体から選択される、請求項1〜5の何れか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記ペプチド、ポリペプチド又はタンパク質がインスリン及びそれらの類似体及び誘導体である、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
ペプチド、ポリペプチド又はタンパク質及びそれらの類似体及び/又は誘導体及びゲル化を遅延させるのに十分な量のトリス緩衝剤又は添加剤を含有する、ゲル化/フィブリル化/凝集耐性溶液。
【請求項28】
前記ペプチド、ポリペプチド又はタンパク質及びそれらの類似体及び/又は誘導体が、GLP-1及びGLP-1類似体及びそれらの誘導体、GLP-2及びGLP-2類似体及びそれらの誘導体、及びエクセンディン-4及びそれらの類似体及び誘導体から選択される、請求項27に記載のゲル化/フィブリル化/凝集耐性溶液。
【請求項29】
前記ペプチド、ポリペプチド又はタンパク質及びそれらの類似体及び/又は誘導体が、インスリン及びそれらの類似体及び誘導体から選択される、請求項27に記載のゲル化/フィブリル化/凝集耐性溶液。
【請求項30】
前記ゲル化を遅延させるのに十分なトリス緩衝剤又は添加剤が、約1 mM〜約1000 mMの濃度を有する、請求項27に記載のゲル化/フィブリル化/凝集耐性溶液。
【請求項31】
前記ゲル化を遅延させるのに十分なトリス緩衝剤又は添加剤が、約1 mM〜約200 mMの濃度を有する、請求項27に記載のゲル化/フィブリル化/凝集耐性溶液。
【請求項32】
前記ゲル化を遅延させるのに十分なトリス緩衝剤又は添加剤が、約1 mM〜約100 mMの濃度を有する、請求項27に記載のゲル化/フィブリル化/凝集耐性溶液。
【請求項33】
前記ゲル化を遅延させるのに十分なトリス緩衝剤又は添加剤が、約2 mM〜約75 mMの濃度を有する、請求項27に記載のゲル化/フィブリル化/凝集耐性溶液。
【請求項34】
前記ゲル化を遅延させるのに十分なトリス緩衝剤又は添加剤が、約3 mM〜約50 mMの濃度を有する、請求項27に記載のゲル化/フィブリル化/凝集耐性溶液。
【請求項35】
前記ゲル化を遅延させるのに十分なトリス緩衝剤又は添加剤が、約5 mM〜約25 mMの濃度を有する、請求項27に記載のゲル化/フィブリル化/凝集耐性溶液。
【請求項36】
前記溶液が、約1.0〜約10.0のpHを有する、請求項27に記載のゲル化/フィブリル化/凝集耐性溶液。
【請求項37】
前記溶液が約2.0〜約10.0のpHを有する、請求項27に記載のゲル化/フィブリル化/凝集耐性溶液。
【請求項38】
前記溶液が約3.0〜約9.5のpHを有する、請求項27に記載のゲル化/フィブリル化/凝集耐性溶液。

【図1】
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【公表番号】特表2008−511583(P2008−511583A)
【公表日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−528866(P2007−528866)
【出願日】平成17年8月26日(2005.8.26)
【国際出願番号】PCT/EP2005/054209
【国際公開番号】WO2006/024631
【国際公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【出願人】(391032071)ノボ ノルディスク アクティーゼルスカブ (148)
【氏名又は名称原語表記】NOVO NORDISK AKTIE SELSXAB
【Fターム(参考)】