ペプチド固定化表面をγ線劣化から保護するための修飾基板
本明細書および特許請求の範囲において、細胞培養技術に使用されるペプチド模倣表面を保護するための3種類の修飾細胞培養基板が開示されている。方法は、表面に結合した生物活性種の官能基を維持することができる。特に、ビトロネクチンペプチド断片Ac−Lys−Gly−Gly−Pro−Gln−Val−Thr−Arg−Gly−Asp−Val−Phe−Thr−Met−Pro−NH2は、γ線に対する保護のための3種類の異なる修飾細胞培養基板を使用して、安定化後に未分化ヒト胚性幹細胞の成長と増殖を促進することができた。本発明に開示される修飾基板は、(i)抗酸化分子の共有結合(ブロッキング工程による);(ii)糖蛋白質、糖、炭水化物、ポリ(アミノ酸)、ペプチドおよび親水性ポリマーを含む安定剤および酸化防止剤からなる被覆の使用;および(iii)ヒト胚性幹細胞の成長と増殖を促進させるために使用される生物活性配列に含まれる同じメチオニンが、γ線による損傷から同じ結合配列を保護するための犠牲被覆としても使用できた第3の方法である。
【発明の詳細な説明】
【優先権の主張】
【0001】
本出願は、その全てをここに引用する、2010年2月23日に出願された米国仮特許出願第61/307126号の恩恵を主張するものである。
【技術分野】
【0002】
滅菌γ線照射による未修飾細胞培養基板の劣化から保護し、安定化させる修飾細胞培養基板が開示されている。生物学的細胞培養基板を滅菌すると、活性の生物学的汚染物質または病原体のレベルが減少する。これらの修飾基板は、安定剤および酸化防止剤を含む。
【背景技術】
【0003】
ヒト、家畜、診断および/または実験用途のために調製される多くの生体物質は、ウイルス、細菌、ナノバクテリア、酵母、カビ、マイコプラズマ、ウレアプラズマ、プリオンおよび寄生虫などの、望ましくなく、潜在的に危険な生物学的汚染物質または病原体を含有するかもしれない。その結果、生体材料中のどのような生物学的汚染物質も、その製品が使用される前に不活化することが最重要である。このことは、マイコプラズマ、プリオン、細菌および/またはウイルス汚染に曝されるかもしれない細胞または組換え細胞の培養により調製される、または媒質中で調製される様々な生体材料にとって重大である。
【0004】
哺乳類細胞の接着、増殖および分化を促進するためのヒト組織工学に使用するための足場の設計において細胞外蛋白質(フィブロネクチン、コラーゲン、ビトロネクチンおよびラミニンなど)を模倣するために、ペプチド固定化表面が広く使用されてきた。しかしながら、これらのペプチド模倣表面が治療に役立つ価値を持つためには、それらは、10-6の無菌性保証レベル(SAL)を達成するように滅菌されなければならない。10-6は、百万種の内の1つが無菌ではない可能性である。
【0005】
生物学的生産プロセスの無菌性を保証する従来の方法は、無菌製造である。この製造プロセスの間中に無菌雰囲気を維持するには、多大な時間を要し、骨が折れ、極めて費用がかかる。エチレンオキシド(EtO)、電子ビームおよびγ線などから選択される他の滅菌方法もある。エチレンオキシドは、非常に効果的な方法であるが、危険なことがある残留物が後に残り、気密パッケージ中の製品には到達できない。電子ビームは、滅菌のための最も速い方法の内の1つであるが、緻密な製品またはいくつかの製品のばら包装中に十分には透過できない。
【0006】
γ線には、(1)無菌製造よりも良好な製品の無菌性の保証、(2)EtOのようには残留物が後に残らない、(3)電子ビームよりも透過性である、(4)低温プロセス、(5)簡単な検証プロセス、などの無菌製品を製造する他の方法を上回る重大な利点がいくつかある。γ線には、フリーラジカルが形成されるために、蛋白質やペプチドなどの生体材料に有害な影響もあり得る。既知組成培地における胚性幹細胞の増殖と分化を初めて支援するペプチド結合(conjugated)表面が開発された。しかしながら、研究により、γ線滅菌後に、それらの表面の性能が損なわれることが示された。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
先に論じた問題に鑑みて、表面の組成または材料に悪影響なく、活性の生物学的汚染物質または病原体のレベルを減少させるのに効果的な、細胞培養表面組成物または材料を滅菌する方法が依然として必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本出願の明細書および特許請求の範囲は、その中に、百万種の内で1つの微生物(microbe)が存在するという、10-6の(SAL)無菌性保証レベルを達成する上でペプチド模倣細胞培養基板を滅菌するための修飾細胞培養基板を開示する。3種類の修飾細胞培養基板が開示されており、滅菌形態として使用したときのγ線照射からペプチド模倣表面を保護すると主張されている。
【0009】
ある実施の形態において、γ線滅菌からペプチドを保護するために、ペプチド結合中のブロッキング試薬(反応性基を不活性化させる)として、ビタミン、アミノ酸、アミノ酸誘導体および短鎖ペプチドなどの抗酸化分子が提案されている。例えば、エチル(ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)/N−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)方法を使用するペプチド結合プロセス中のブロッキング試薬(未反応のNHSエステルの抑制(quenching))として、メチオニン誘導体などの抗酸化分子を含有する第一級アミンを使用することが、極めてうまくいくことが実証された。他の結合機構について、抗酸化分子において、反応性基の不活性化に適した異なる基が必要かもしれない。最終滅菌(terminal sterilization)のためのγ線照射への曝露中にペプチド結合表面を保護するこの修飾基板は、以前には報告されていない。この修飾基板の利点は、培養前に調製工程が必要ない(すなわち、この実施の形態においては、細胞培養前の洗浄が必要ない)ことにより得られる。この修飾とその結果得られた基板は、潜在的に、γ線滅菌、製造プロセスまたは貯蔵中に結合表面上のどのようなペプチドも保護するための万能な方法を提供する。
【0010】
本出願の明細書および特許請求の範囲に開示された第2の実施の形態は、糖、炭水化物、小さな有機体、糖蛋白質、ビタミン、アミノ酸塩、アミノ酸の誘導体、短鎖ペプチド、および蛋白質の安定剤および抗酸化剤からなる犠牲被覆に関する。他の追加の安定剤は、アスコルビン酸またはその塩やエステル;グルタチオン;6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボン酸;尿酸またはその塩やエステル;メチオニン;ヒスチジン;N−アセチルシステイン;ジオスミン;シリマリン;リポ酸;ホルムアルデヒド・スルホキシル酸ナトリウム;没食子酸またはその誘導体;没食子酸プロピル;アスコルビン酸またはその塩やエステルと、尿酸またはその塩やエステルとの混合物;アスコルビン酸またはその塩やエステルと、6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボン酸との混合物;アスコルビン酸またはその塩やエステルと、尿酸またはその塩やエステルと、6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボン酸との混合物;および尿酸またはその塩やエステルと、6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボン酸との混合物;からなる群より選択される。他の生物活性被覆としては、ヘパリン、ホスホリルコリン、ウロキナーゼまたはラパマイシンが挙げられる。その上、生物活性被覆は、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン、ポリパラジオキサノン、ポリトリメチレンカーボネートとそれらのコポリマー、コラーゲン、エラスチン、キチン、サンゴ、ヒアルロン酸からなる親水性被覆および疎水性被覆から選択することができる。さらに他のポリマーとしては、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコール・プロピレングリコール共重合体、ポリエチレングリコールアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレンオキシド、ポリビニルアルコール、ビニルアルコール酢酸ビニル共重合体、ポリヒドロキシエチルメタクリレート、およびポリヒアルロン酸が挙げられる。
【0011】
抗酸化被覆2、3、4、6、および8を備えた、γ線照射ペプチドアクリレート表面上の細胞形態、分布、および相対数(クリスタルバイオレット、CV)は、2日目でエタノール消毒されたMatrigel(商標)対照上で培養された細胞のものに匹敵した。被覆1、5、および7を備えたγ線照射ペプチドアクリレート表面に、細胞は付着せず、胚様体(EB)様形態もなかった。被覆9および10は、被覆2、3、4、6、および8と同様の性能を示すことが予測される。被覆の内容物の説明については、下記の表1を参照のこと。保護されている表面の電荷と反対の電荷を有する抗酸化剤は、その物質の吸収を増加させ、均質な分布を助ける。一例として、メチオニンエステルなどのメチオニン誘導体は、正電荷を含有し、この分子の、負に帯電したペプチドアクリレート表面への吸収を助ける。結果により、この計画を使用したγ線滅菌中のペプチド結合表面の保護における効率の良さが示された。
【0012】
第3の実施の形態において、メチオニン残基を含有する接着性ペプチドは、同様の条件下で結合状態においてγ線照射に耐えられないであろう同じ結合メチオニン含有ペプチドを保護するための保護被覆としてうまく使用できる。ビトロネクチンペプチド配列が、γ線照射に対して被覆を安定化させるのにうまくいき、上出来な細胞応答が得られる。
【0013】
安定化の機構は、フリーラジカルの捕捉剤としての安定剤および抗酸化剤に関連するであろう。さらに、安定剤は、ペプチドを酸化に対してより耐性にし、したがって、γ線照射後にペプチドに健全性を維持させるであろうイオン結合および/またはファンデルワールス力を形成することによって、生物活性分子を保護するように働く。ここに記載された修飾基板は、インビトロ細胞培養に使用される生物活性細胞培養基板を保護するのに特有である。本発明および従来技術を上回って達成される利点を要約する目的で、本発明の特定の目的および利点を先に説明してきた。もちろん、そのような目的または利点の必ずしも全てが、本発明の任意の特定の実施の形態にしたがって達成されるものではないことが理解されよう。それゆえ、例えば、本発明は、ここに教示または示唆されている他の目的または利点を必ずしも達成せずに、ここに教示された1つの利点または利点の一群を達成または最適化する様式で具体化または実施されてもよいことが当業者には認識されるであろう。
【0014】
本発明のさらに別の態様、特徴および利点が、以下の好ましい実施の形態の詳細な説明から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、メチオニン誘導体(2番目の棒)溶液および対照(3番目の棒)により処理されたVNペプチドアクリレート表面上での4日間の培養後のH7の細胞計数を示す棒グラフである;γ線滅菌を行わないVNペプチド結合アクリレート表面上(EtOH対照−1番目の棒)と「Matrigel」表面上(4番目の棒)の細胞計数を陽性対照として使用した;γ線滅菌を行ったが、どのような処理も行わなかったVNペプチド結合アクリレート表面上の細胞計数を陰性対照として使用した。
【図2】図2は、γ線照射を行わないVNペプチド結合アクリレート表面上(A)または照射前にメチオニン誘導体で処理したγ線滅菌表面上(B)のH7幹細胞の位相コントラスト写真画像を表す。
【図3】図3は、エタノールアミン(A,C)またはメチオニン誘導体(B)でブロックされたVNペプチド結合アクリレート表面上で増殖したH7細胞のクリスタルバイオレット染色の写真を表す。(B)および(C)に示されたフラスコはγ線滅菌されたのに対し、(A)に示されたフラスコは、エタノールにより消毒され、陽性対照として使用した。
【図4】図4は、VNペプチド結合アクリレートT−75フラスコ内の抗酸化剤/安定剤被覆の異なる組合せの代表を示す写真を表す;全ての写真は、γ線照射への曝露のために包装前に撮られ、(A)被覆3;(B)被覆4からなる。
【図5】図5は、VNペプチド結合アクリレート75フラスコ内の抗酸化剤/安定剤被覆を洗い流したものの代表を示す写真を表す;全ての写真は、(A)被覆3;(B)被覆4に関して、フラスコをγ線照射に曝露し、一連の水およびエタノール工程を使用した洗浄によって、被覆が除去された後に撮られた。
【図6】図6は、(A)被覆1;(B)被覆2;(C)被覆3;(D)被覆4;(E)被覆5;(F)被覆6;(G)被覆7;(H)被覆8;(I)エタノール(対照)フラスコ;(J)「Matrigel」(対照)フラスコについての、11〜18kGyの線量範囲のγ線照射に曝露した後のペプチド結合アクリレート被覆フラスコ並びに対照フラスコ上での「被覆を洗い流した」hESC H7細胞付着と分布を示すクリスタルバイオレット染色(CV染色)の写真を表す;フラスコ中の細胞のCV染色は、汚染のために細胞培養の2日目に行った;エタノール消毒VNペプチドアクリレートフラスコおよび「Matrigel」表面を実験の陽性対照として使用した。
【図7】図7は、11〜18kGyの線量範囲のγ線照射に曝露した後の、VNペプチドアクリレートフラスコ上の「洗い流された」1mMのVNペプチド被覆(3番目の棒)およびVNペプチドアクリレートT−75フラスコ上の「洗い流された」抗酸化剤(AO)ペプチド+メチオニン被覆(2番目の棒)の4日間に亘り培養されたhESC H7細胞の細胞計数/数を示す棒グラフである;エタノール(1番目の棒)消毒したVNペプチドアクリレートフラスコを陽性対照として使用した。
【図8】図8は、(A)VN被覆と共にγ線照射;(B)AOペプチド+メチオニン被覆と共にγ線照射;(C)エタノール消毒(対照)により処理したSC−IML VN T−75フラスコ上で培養したhESC H7細胞形態を示す顕微鏡写真(2.5倍の画像)を表す。
【図9】図9は、保護被覆(γ線照射への曝露後に洗浄されたまたは未洗浄の被覆)(A)1mMのVNのみ;(B)1mMのVNと、γ線照射前のエタノール濯ぎ;(C)0.5mMのVNと、0.5mMのVN被覆(未洗浄);(D)1mMのVNと、0.5mMのVN被覆(未洗浄);(E)1mMのVNと、0.5mMのVN被覆(洗浄);(F)1mMのVNのみ(エタノール消毒した対照フラスコ);(G)「Matrigel」−対照フラスコ;としてVNペプチドが被覆された、異なるVNペプチド濃度で結合したアクリレート表面上のhESC H7細胞付着と分布を示すクリスタルバイオレット染色(CV染色)の写真を表す。
【図10】図10は、(A)γ線照射された1mMのVNと、0.5mNの被覆(洗浄);(B)細胞が付着されていない代表的なγ線照射されたフラスコ;(C)エタノール−対照フラスコ;(D)「Matrigel」−対照フラスコ;上で培養されたhESC H7細胞形態を示す顕微鏡写真を表す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下の詳細な説明において、その一部を形成し、例として、装置、システムおよび方法のいくつかの特別な実施の形態が示されている、添付の図面を参照する。他の実施の形態が考えられ、本開示の範囲または精神から逸脱せずに行われるであろうことが理解されよう。したがって、以下の詳細な説明は、制限の意味であると解釈すべきではない。
【0017】
ここに使用した全ての科学用語および技術用語は、他に特定されていない限り、当該技術分野に一般に使用される意味を有する。ここに与えられる定義は、この中に頻繁に使用される特定の用語の理解を容易にするためであり、本開示の範囲を制限することを意味するものではない。
【0018】
本明細書および添付の特許請求の範囲に使用されるように、単数形は、内容が他に明白に示していない限り、複数の対照を有する実施の形態も包含する。本明細書および添付の特許請求の範囲に使用されるように、「または」という用語は、内容が他の明白に示していない限り、「および/または」を含む意味で一般に使用されている。
【0019】
ここに用いたように、「有する(have, having)」、「含む(include, including, comprise, comprising)」などは、範囲を設定しない意味で使用され、一般に、「含むがそれに限定されない」を意味する。
【0020】
「ヒドロゲル」という用語は、細胞培養表面を記載するために使用されてきた。「ヒドロゲル」は、その乾燥質量の30%以上または10,000%までの量で水を吸収できるゲルまたはゼラチンを含むために様々に定義されてきた。ヒドロゲルは、含水量にしたがって分類されてきた。例えば、ヒドロゲルは、30%以上の水を吸収するものとして記載されてきた。ヒドロゲルは、水と接触したときに、膨潤するが、溶解しない。「ヒドロゲル」という用語は、幅広い水膨潤および水吸収特徴を有する、アクリレートを含む、幅広い範囲の材料を記載する非常に広い用語である。ここに用いたように、「滅菌する」という用語は、本発明にしたがって処理されている生物学的細胞培養基板に見られる少なくとも1種類の活性なまたは潜在的に活性な生物学的汚染物質または病原体のレベルの減少を意味することが意図されている。最終滅菌は、組立て後のγイオン化線などの滅菌剤への曝露を称する。大規模で無菌製造を実施するのは非常に費用がかかり、継続する汚染問題を受けやすいので、最終滅菌は、無菌製造よりも望ましい。γ周波数範囲(>3×1019Hz)の放射線は、包装材料を透過し、周囲温度で大規模に適用できる。γ線照射は、典型的に、包装後の細胞培養物品を滅菌するために使用される。各プロセスと製品の生物負荷量(bio-burden)に応じて、細胞培養製品にとって、10-3の無菌性保証レベル(SAL)が典型的に予測される。
【0021】
ここに用いたように、「硫黄含有アミノ酸」という用語は、元素の硫黄を含有するアミノ酸残基(すなわち、メチオニン(M)およびシステイン(C))を意味することが意図されている。
【0022】
ここに用いたように、「生物学的汚染物質または病原体」という用語は、生物学的細胞培養基板と直接的または間接的に接触した際に、生物学的細胞培養基板に有害な影響があるかもしれない汚染物質または病原体を意味することが意図されている。そのような生物学的汚染物質または病原体としては、一般に、生体材料中に見られるまたは生体材料に関連することが当業者に知られている、様々なウイルス、プリオン、カビ、酵母、細菌、ナノバクテリア、マイコプラズマ、ウレアプラズマおよび寄生虫が挙げられる。生物学的汚染物質または病原体の例としては、以下に限られないが、ヒト免疫不全ウイルスおよび他のレトロウイルス、ヘルペスウイルス、フィロウイルス、サーコウイルス、パラミクソウイルス、サイトメガロウイルス、肝炎ウイルス(A型、B型およびC型肝炎並びにそれらの変種を含む)、ポックスウイルス、トガウイルス、エプスタイン・バール・ウイルスおよびパルボウイルスなどのウイルス;大腸菌属、バチルス属、カンピロバクター属、ストレプトコッカス属およびブドウ球菌属などの細菌;ナノバクテリア;トリパノーマおよびマラリア原虫属を含むマラリア寄生虫などの寄生虫;酵母;カビ;マイコプラズマ;ウレアプラズマ;およびスクレイピー、クールー、BSE(牛海綿状脳症)、CJD(クロイツフェルト・ ヤコブ病)、ゲルストマン・シュトロイスラー・シャインカー症候群および致死性家族性不眠症などのTSE(伝達性海綿状脳症)の原因となるプリオンが挙げられる。ここに用いたように、「活性な生物学的汚染物質または病原体」という用語は、生体材料および/またはその受容体において、単独で、または第2の生物学的汚染物質または病原体または天然蛋白質(野生型または変異体)または抗体などの別の要因との組合せのいずれかで、有害な影響を生じることのできる生物学的汚染物質または病原体を意味することが意図されている。
【0023】
ここに用いたように、「保護し、安定化させること」という句は、そうしなければその材料の照射から生じるであろう、照射されている生体材料への任意の損傷を、照射後の材料の安全かつ効果的な使用を不可能にするには不十分であるレベルまで減少させることを意味することが意図されている。言い換えれば、ある物質またはプロセスは、その物質の存在またはそのプロセスの実施により、その物質またはプロセスがない場合よりも、照射による材料への損傷が少なくなる場合、生体材料を照射から「保護し、安定化させる」。それゆえ、生体材料は、材料を「保護し、安定化させる」物質またはプロセスの以下の性能の存在下で、照射後に安全かつ効果的に使用されるであろうが、その物質またはそのプロセスの性能の不在下では、同一条件下で照射後に安全かつ効果的には使用できないであろう。
【0024】
本出願の明細書および特許請求の範囲は、10-6のSALを達成するためにペプチド模倣細胞培養基板を滅菌するための修飾基板に関する。滅菌の形態として使用される場合、γ線照射からペプチド模倣表面を保護するための3種類の修飾細胞培養基板が記載される。
【0025】
1つの開示された方法において、γ線滅菌中にペプチドを保護するためのペプチド結合中のブロッキング試薬(反応性基を不活性化させる)として、ビタミン、アミノ酸、アミノ酸誘導体および短鎖ペプチドなどの抗酸化分子が提案されている。例えば、エチル(ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)/N−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)方法を使用するペプチド結合プロセス中のブロッキング試薬(未反応のヒドロキシスクシンイミドエステルの抑制)として、メチオニン誘導体などの抗酸化分子を含有するアミンを使用することが、極めてうまくいくことが実証された。他の結合機構について、抗酸化分子において、反応性基の不活性化に適した異なる基が必要かもしれない。最終滅菌のためのγ線照射への曝露中にペプチド結合表面を保護するためにこの方法を使用することは、まだ報告されていない。物理的吸収または混合と比べたこの方法の利点は、抗酸化分子は抽出可能物質として表面から放出されないので、培養前に非調製工程を有すること、すなわち、細胞培養前の洗浄が必要ないことである。
【0026】
メチオニンは、容易に酸化され得る蛋白質中のアミノ酸である。メチオニンが蛋白質機能にとって重要である場合、酸化により、意図する生物学的機能の損傷または損失がもたらされ得る。メチオニンは、蛋白質または他の生物学的生成物が、γ線照射により、または貯蔵中にさえ、損傷を受けるのを保護するために、配合に加えられるか、または抗酸化剤防御系として蛋白質または細胞により使用されてきた。多数のメチオニン単位を有する短鎖ペプチドは、関節炎、リウマチ性関節炎、ベーチェット病、心筋梗塞などの治療のために活性酸素を阻害することができる。結合(conjugation)のためにメチオニンまたは多数のメチオニン残基を有する短鎖ペプチドを使用すると、効率がさらに改善されるであろう。
【0027】
この修飾基板の利点としては、以下のことが挙げられる:
1) 共有結合により、抗酸化剤の相分離または結晶化が防がれ、これにより、均一な分布および保護の効率が保証される;
2) 結合プロセスに追加の工程が必要ない;
3) 抗酸化分子が保護対象により近い。これにより、保護効率がさらに増加する;
4) 抗酸化分子は表面に共有結合し、したがって、抽出可能物質が導入されず、細胞培養前に追加の洗浄が必要ない;
5) 一般に、様々なタイプのペプチド結合表面を、γ線滅菌中、並びにプロセスストレス中および長期の貯蔵中に保護することが可能である。
【0028】
本明細書および特許請求の範囲に開示された第2の修飾基板細胞培養において、糖、炭水化物、小さな有機体、糖蛋白質、ビタミン、アミノ酸塩、アミノ酸の誘導体、短鎖ペプチド、および蛋白質の安定剤および抗酸化剤からなる犠牲被覆が提案されている。アスコルビン酸またはその塩やエステル;グルタチオン;6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボン酸;尿酸またはその塩やエステル;メチオニン;ヒスチジン;N−アセチルシステイン;ジオスミン;シリマリン;リポ酸;ホルムアルデヒド・スルホキシル酸ナトリウム;没食子酸またはその誘導体;没食子酸プロピル;アスコルビン酸またはその塩やエステルと、尿酸またはその塩やエステルとの混合物;アスコルビン酸またはその塩やエステルと、6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボン酸との混合物;アスコルビン酸またはその塩やエステルと、尿酸またはその塩やエステルと、6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボン酸との混合物;および尿酸またはその塩やエステルと、6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボン酸との混合物;からなる群より選択される別の安定剤が開示された。ヘパリン、ホスホリルコリン、ウロキナーゼまたはラパマイシンからなる生物活性被覆を使用しても差し支えない。その上、生物活性被覆は、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン、ポリパラジオキサノン、ポリトリメチレンカーボネートとそれらのコポリマー、コラーゲン、エラスチン、キチン、サンゴ、ヒアルロン酸からなる親水性被覆および疎水性被覆から選択される。さらに列挙されたポリマーは、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール・プロピレングリコール共重合体、ポリエチレングリコールアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレンオキシド、ポリビニルアルコール、ポリビニルアルコール酢酸ビニル共重合体、ポリヒドロキシエチルメタクリレート、およびポリヒアルロン酸である。他の表面安定剤は、HSA、BSA、オボアルブミン、またはコラーゲン、もしくは二糖類または多糖類もしくは還元形態にある酸素ラジカル捕捉剤と組み合わされた糖蛋白質であって差し支えない。
【0029】
この修飾基板の利点としては、以下のことが挙げられる:
1. 抗酸化剤および安定剤は、普遍保護層として働くことができる、すなわち、ペプチドおよび組換えECM蛋白質を含む全ての生物学的リガンドを、γ線照射を含む最終滅菌から保護できる;
2. 一般に、様々なタイプのペプチド結合表面を、γ線滅菌中および長期の貯蔵中に保護することが可能である;
3. 抗酸化剤および安定剤を組み合わせて、機能および費用対効果を改善することができる;
4. 薄い被覆は、除去する必要がないかもしれない、または細胞に毒作用を与えずに、水中に溶解させることによって、容易に除去できる;
5. 総製造原価に最小の費用しか加わらない。
【0030】
本出願の明細書および特許請求の範囲に開示された第3の修飾細胞培養基板において、メチオニン残基を含有する接着性ペプチドを、同様の条件下で結合状態においてγ線照射に耐えられなかった同じ結合メチオニン含有ペプチドを保護するための保護被覆としてうまく使用することができる。
【0031】
この修飾基板の利点としては、以下のことが挙げられる:
1. 犠牲層として使用され、細胞培養前に除去されるペプチドは、結合可能なペプチドと同じであるので、改良された(re-vamped)GMP検証は必要ない;
2. 接着性ペプチド被覆は、費用の影響を減少させるために、非常に薄い被覆中に低濃度で施される;
3. 接着性ペプチドは容易に除去される;
4. 接着性ペプチドは、γ線照射に対する万能保護剤として使用できる。
【0032】
ここに開示された修飾基板によれば、滅菌すべき細胞培養表面に、その細胞培養表面にある1種類以上の活性な生物学的汚染物質または病原体を不活性化するのに効果的な時間に亘り、放射線が照射される。適切な照射時間が、照射速度と組み合わされて、適切な照射線量が培養表面に印加される。適切な照射時間は、関与する放射線の特定の形態と速度、照射されている特定の表面の性質と特徴および/または不活性化されている特定の生物学的汚染物質または病原体に応じて、様々であろう。適切な照射時間は、当業者によって実験に基づいて決定することができる。
【0033】
本発明の修飾基板によれば、滅菌すべき細胞培養表面に、その表面にある1種類以上の活性な生物学的汚染物質または病原体を不活性化するのに効果的な総線量まで、放射線が照射され、その間に、その表面に許容できないレベルの損傷が生じない。放射線の適切な総線量は、関与する放射線の特定の形態および/または不活性化されている特定の生物学的汚染物質または病原体などの使用されている方法の特定の特徴に応じて様々であろう。放射線の適切な総線量は、当業者によって実験に基づいて決定することができる。放射線の総線量は、少なくとも10kGyであり得る。
【0034】
厚さおよび放射線源からの距離などの、照射されている細胞培養表面の特定の形状・配置は、当業者によって実験に基づいて決定されるであろう。
【0035】
本出願に開示された修飾細胞培養によれば、細胞培養表面の照射は、滅菌されている表面にとって有害ではないどのような温度で行われてもよい。したがって、細胞培養表面は、周囲温度で照射することができる。あるいは、細胞培養表面は、低温、すわち、0℃、またはそれより低い温度などの周囲温度より低い温度で照射される。
【0036】
本出願の別の修飾細胞培養によれば、細胞培養表面は、高温、すなわち、37℃、またはそれより高い温度などの周囲温度より高い温度で照射される。どのような理論によっても拘束することを意図するものではないが、高温の使用により、生物学的汚染物質または病原体への照射の効果が向上し、したがって、放射線のより低い総線量を使用できるであろう。
【0037】
ここに開示された修飾細胞培養によれば、細胞培養表面の照射は、滅菌されている表面にとって有害ではないどのような圧力で行われてもよい。したがって、培養表面は、高圧で照射される。細胞培養表面は、音波の印加による高圧で照射される。どのような理論によっても拘束することを意図するものではないが、高圧の使用により、生物学的汚染物質または病原体への照射の効果が向上し、したがって、放射線のより低い総線量を使用できるであろう。
【0038】
一般に、ここに記載された方法によれば、滅菌を受けている細胞培養表面のpHは約7である。しかしながら、本発明のいくつかの実施の形態において、表面の成分の凝集を避けるために、または他の理由で、培養表面は、7未満から3までのpHを有してもよい。あるいは、細胞培養表面は、7超から11までのpHを有してもよい。
【実施例】
【0039】
以下の非限定的実施例によって、本発明をさらに説明する。他の適切な改変および適用が、当業者が通常出くわす種類のものであり、完全に、本発明の精神および範囲内にある。
【0040】
実施例1:γ線滅菌中にペプチド模倣表面を保護するためのブロッキング剤としての抗酸化分子の使用
材料および方法
アクリレート被覆:メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−カルボキシエチル、ジメタクリル酸テトラ(エチレングリコール)、Darocur1173、Irgacure819を80:20:2:2:0.1の比率で混合し、5%の総モノマー濃度でエタノール中に溶解させた。得られた配合物を、酸素プラズマ処理済みZeonor膜上にスピンコートした。エタノールを蒸発させた後、窒素パージしたボックス内でキセノンパルスUV硬化システムを使用して、(メタ)アクリレート被覆を硬化させた。次いで、被覆された膜をT−75Zeonorフラスコ中にインモールドラベル(in-mold-labeled)し、結合のために直接使用した。
【0041】
ペプチド結合:アクリレート表面を、DMF中1:1のEDC:NHSにより1時間に亘り活性化させた。活性化溶液を吸引した後、その表面を、リン酸緩衝液(pH7.4)中の1mMのVNペプチド(Ac−KGGPQVTRGDVFTMP)により1時間に亘り処理した。ペプチド溶液を吸引した後、実験の設計に基づいて、塩化水素酸によりpH8.0〜8.5に調節された1Mのエタノールアミンで、または水酸化ナトリウムによりpH8に調節された0.1MのL−メチオニンメチルエステル塩酸塩で、1時間に亘り処理した。全ての反応は室温で行った。
【0042】
アミノ酸吸収:ペプチド結合T−75フラスコに、水酸化ナトリウムによりpH8に調節された10mLの0.1MのL−メチオニンメチルエステル塩酸塩を充填した。ペプチド表面がアミノ酸溶液の下に沈められ、1時間に亘りインキュベーションされるように、このフラスコを平らに寝かせた。これにより、正に帯電したアミノ酸を、負に帯電したペプチドアクリレート被覆に吸収させることができる。次いで、アミノ酸溶液を除去し、包装と滅菌前に、一晩に亘り真空中でフラスコを乾燥させた。
【0043】
滅菌:γ線滅菌のために、アルミニウム製パウチ内でフラスコに窒素と乾燥剤を詰めた。照射線量は11〜18kGyであった。陽性対照のVN−ペプチドアクリレートサンプルを70%のエタノールで消毒した。
【0044】
幹細胞培養:H7細胞を、X−VIVO 10+GF培地中100,000細胞/cm2の密度で、所望のペプチドアクリレート表面または「Matrigel」被覆表面(陽性対照)を備えたT−75フラスコ中に継代培養した。3日目と4日目に、細胞とコロニーの形態を顕微鏡で調査した。コラゲナーゼIV/DETA処理により収穫し、その後、自動化細胞数/生存率分析装置Vi−Cell(Beckman Coulter)により細胞計数することによって、4日目と5日目に細胞数を評価した。メチオニンメチルエステル処理済み表面について、DPBSで濯ぐ工程を行って、細胞培養前にアミノ酸の抽出可能物質を除去した。
【0045】
結果および議論
アミノ酸吸収:培養の4日後の細胞計数を使用して、γ線滅菌後のペプチドアクリレート表面の生物活性への影響を示した。どのような処理も行わずには、H7は、図1に「処理なし」により示されるように、γ線照射したVN−ペプチド表面に接着できない。メチオニンエステル処理済みVN−ペプチドアクリレート表面上では、γ線照射後に生物活性が維持された。このことが、図1に示されるように、γ線照射を行わなかった表面(ETOH対照)および「Matrigel」(我々のベンチマーク表面)の細胞数に対して、メチオニン処理した表面上の匹敵する細胞数によって、実証された。メチオニン処理により、幹細胞形態も陽性対照に匹敵した。
【0046】
アミノ酸ブロッキング:ペプチド結合後にカルボキシル−NHSエステルを不活性化させるための従来のブロッキング試薬であるエタノールアミンを置き換えるためにもメチオニンメチルエステルを使用した。γ線照射後、メチオニンメチルエステルを使用してブロッキングしたVN−ペプチドアクリレート表面はまだ、図3に示されるような良好なH7付着および増殖を支援し、これは、陽性対照表面に匹敵した。エタノールアミンでブロッキングした表面上では、細胞は付着も、増殖もしなかった(図3)。細胞形態は、エタノール消毒した表面上のものにまだ匹敵することができないが、この方法は、γ線で滅菌可能なVN−ペプチドアクリレートフラスコを供給するために、他のプロセスの改良と組み合わせることができると考えられる。
【0047】
先の結果により、γ線滅菌中にペプチド結合表面を保護するために、メチオニンおよびその誘導体を使用できることが示唆される。保護効率をさらに増加させるために、多数のメチオニン残基を有する短鎖ペプチドを表面処理またはブロッキングに使用してもよい。これらにより、その系に組み込まれるメチオニン部分の量が増加する。
【0048】
BSPが、心血管幹細胞の分化にとっていくつかの特有の性質を示してきた。しかしながら、その生物活性は、我々の内部の結果に基づいて、γ線照射により著しい影響を受けた。このことにより、BSPペプチドに基づく最終的な生産法を開発することが難しくなる。先の計画は、幹細胞培養のためのγ線滅菌可能なBSP表面を製造するのに潜在的に役立つであろう。
【0049】
実施例2:抗酸化剤および安定剤を含む、ペプチド模倣表面のためのγ線照射保護被覆
材料および方法:
i)アクリレート被覆の調製:全てのアクリレート被覆は、方法1に先に記載したように調製した。調製後、ペプチド結合実験に使用する準備ができるまで、全てのフラスコに蓋をして室温で貯蔵した。
【0050】
ii)アクリレート表面上のVNペプチドの結合:ペプチド結合の手法は、方法1に先に示されており、エタノールアミンのみでブロッキングした。ペプチド結合後、様々な被覆の施用の準備ができるまで、全てのフラスコに蓋をして室温で貯蔵した。
【0051】
iii)抗酸化剤/安定剤配合物の調製:抗酸化剤/安定剤被覆配合物の調製の前に、各配合物の個々の成分の溶解度を、水、エタノールおよび1MのHCl中で決定した。エタノール中の2つおよび1MのHCl中の1つを除いて、成分の大半は水溶性であった。没食子酸n−プロピルおよびTroloxの両方は、エタノール中に可溶性であったが、L−トリプトファンは1MのHCl中のみに可溶性であった。各個別の被覆混合物配合物(すなわち、被覆1〜8)について、それぞれの質量%(以下の表1参照)に基づいて個別に秤量した異なる成分を収容する別個の25mLのガラス製バイアル中で、被覆1:22mLの溶媒を使用して、被覆溶液を製造した(すなわち、20mLの脱イオン水+2mLのエタノール);被覆2:20mLの脱イオン水をバイアルに加えた;被覆3:18mLの脱イオン水+2mLのエタノールをバイアルに加えた;被覆4:20mLの脱イオン水+2mLのエタノール;被覆5:16mLの脱イオン水+4mLの1MのHCl;被覆6:12mLの脱イオン水+2mLのエタノール+4mLの1MのHCl;被覆7:20mLの脱イオン水;被覆8:10mLの脱イオン水+4mLのエタノール+5mLの1MのHCl。
【表1】
【0052】
表1.この研究に使用した10種類の抗酸化剤/安定剤被覆配合物の異なる組合せを、その配合物を溶解させるのに使用した溶媒と共に示すライブラリ。配合物2、3、4、6および8は、γ線照射に対して、表面に結合したビトロネクチンペプチド配列を安定化させることができた。
【0053】
iv)ペプチドアクリレートT−75フラスコ中の被覆手法:適切な溶媒の組合せ中に溶解した各被覆配合物を収容する25mLのガラス製バイアルにおいて、半自動式ピペットを使用して、18〜22mLの間の容積の溶液を対応するフラスコ中に分配した。溶液を収容するフラスコを前後に数回傾けて、フラスコの底の被覆による均一な被覆率を確実にした。次いで、フラスコを、冷却トラップ(冷凍する)を収容する真空炉(Hgで約27)内に入れ、約30℃に加熱し、乾燥させて、存在する残留溶媒を確実に完全に除去した。フラスコを少なくとも4日間に亘り真空炉内に入れ、次いで、包装の準備ができるまで、窒素パージボックス内に入れた。
【0054】
v)滅菌のためのサンプルの包装:被覆1から4のサンプルを、4つの乾燥剤小包を収容した1つのナイロン製パウチを使用して、真空下で一緒に包装し、ヒートシールした。被覆5および8を、4つの乾燥剤小包を収容した1つのアルミニウム製パウチ内において、真空下で一緒に包装し、ヒートシールした。最後に、被覆6および7を、4つの乾燥剤小包を収容した1つのアルミニウム製パウチ内において、真空下で一緒に包装し、ヒートシールした。医療グレードのガス真空密封機を使用した。
【0055】
vi)サンプルの滅菌:被覆したフラスコの包装後、それらのフラスコを、11〜18kGyの線量範囲を使用したγ線照射(Steris Isomedix, チェスター、NYの設備)のために発送した。γ線照射から到着した際に、サンプルをアルミニウム製パウチから取り出し、被覆を洗い流した。
【0056】
vii)被覆の洗浄プロトコル:150mLの脱イオン水を被覆フラスコに加え、数秒間に亘り激しく濯いだ。被覆の大半が除去されるまで、全てのフラスコについて、この手法を4〜5回繰り返した。完全には除去されいない被覆について、100mLの脱イオン水をフラスコの底に加え、5〜10分間放置し(被覆側で)、残りの被覆を溶解させ、次いで、水で2回濯いだ。被覆のほとんどを水で除去した後、物理的検査によって全ての被覆が完全に洗い流されたように思えるまで、最後にフラスコを50mLの70%エタノールで2回濯いだ。次いで、細胞培養実験のためにエタノール消毒する前に、フラスコを2日間に亘り空気乾燥させた。
【0057】
viii)hESC H7培養:細胞培養前に、被覆を「濯ぎ落とした」全てのフラスコを、細胞播種の前に、標準的な社内プロトコルにしたがってエタノール滅菌した。H7細胞を、X−VIVO 10+GF培地中の正常核型の細胞を使用して、1×106細胞/フラスコの播種密度で、「Matrigel」被覆表面を有するフラスコを含むこれらのT−75フラスコ中で継代培養した。細胞形態を毎日評価し、2日目に細胞の汚染を観察した。その点に関して、細胞を2日目にクリスタルバイオレットで染色して、付着と分布を観察し、それゆえ、細胞数は引き出せなかった。
【0058】
結果および議論
糖蛋白質、糖、抗酸化剤、遊離ラジカル捕捉剤、アミノ酸および多価アルコールなどの安定剤の異なる組合せを、適切な溶媒中の様々な質量パーセント組成を使用して、被覆へと計画的に配合した。フラスコ上の被覆の厚さに関する図4(A,B)に示されるように、被覆配合物に応じて、各フラスコ上にそれぞれの被覆の厚い層を形成した。異なる被覆配合物を収容する8つのフラスコの各々は、γ線照射後に被覆を除去するための洗浄中に様々な難易度を有した。
【0059】
被覆の表面テキスチャーについて、底の上の滑らかな層(図4B)から、非常に雑なまたは粗い(図4A)被覆までが観察された。その上、被覆1および2は透明であり(図示せず);被覆7はわずかに透明であり、被覆3、4、5、6および8は不透明であった(図示せず)。洗浄中の被覆の除去の場合について(γ線照射後)、被覆2、5および8は、脱イオン水および70/30のエタノール:脱イオン水の数回の連続洗浄(2〜3回)を使用して最も洗い流し易かった;被覆1、4および6は、洗い流すのが少し難しかったのに対し、被覆3および7は、洗い流すのが最も難しく、目に見える被覆断片がフラスコ上に存在しないことを確実にするために、非常に激しく振盪しながら、大量の脱イオン水および70/30のエタノール:水の混合物が必要であった。
【0060】
図6(A〜J)に示されるように、CV染色に基づいて、被覆2、3、4、6および8(それぞれ、図6B、C、D、FおよびHを参照)のみが、エタノール(I)および「Matrigel」対照フラスコ(J)上で培養した細胞のものに匹敵する、細胞形態、分布および相対数を示したのに対し、被覆1、5および7(それぞれ、図6A、EおよびGを参照)上の細胞は、付着もせず、胚様体様形態も発生しなかった。
【0061】
これらの結果に基づいて、安定剤被覆の特定の組合せが、γ線照射後のペプチドに、他よりもわずかに良好な保護を与えることができるのに対し、被覆のいくつかは、CV染色後の細胞付着の欠如からも分かるように、保護を与えなかった。
【0062】
実施例3:γ線照射からペプチド模倣表面を保護する接着性ペプチドリガンド
材料および方法
i)アクリレート被覆の調製:説明については先の実施例1参照。
【0063】
ii)アクリレート表面上のVNペプチドの結合:説明については先の実施例1参照。
【0064】
iii)抗酸化剤/安定剤配合物の調製:対応する質量を秤量し、溶媒として100%の200プルーフのエタノールを使用して溶解させることによって、10mLの0.5mMまたは1mMのVN被覆溶液を調製した。エタノール溶媒中のVNペプチドの溶解度は、撹拌後に、ある程度からほとんど完全に可溶性の溶液として分類できる。
【0065】
iv)VN溶液によるペプチドアクリレートT−75フラスコの被覆:10mLのVN溶液(エタノール中異なるペプチド濃度)円錐形試験管から対応するフラスコ中に注ぎ入れ、蓋をした。フラスコを室温で少なくとも1時間に亘りロッカー(rocker)上に置いて、VN溶液でフラスコの底を均一に被覆させた。次いで、フラスコを2日間に亘り蓋を外してフード内に置いて、エタノールを蒸発させ、その後、VNの層(白色被覆)をフラスコの底面に堆積させた。
【0066】
v)滅菌のためのサンプルの包装:γ線照射のために全てのサンプルを、2つの乾燥剤小包を収容するアルミニウム製パウチ内に個別に包装し、医療グレードのガス真空密封機を使用して真空密封した。
【0067】
vi)フラスコの滅菌:サンプルを包装した後、それらのフラスコを、11〜18kGyの線量範囲を使用したγ線照射曝露(Steris Isomedix, チェスター、NYの設備)のために発送した。Sterisから到着した際に、サンプルをアルミニウム製パウチから取り出し、フラスコに記載された状態に応じて、VNペプチド被覆を洗い流すか、そのままにした。
【0068】
vii)フラスコ上のVNペプチド被覆の洗浄:フラスコを、少なくとも50mLの脱イオン水で、次いで、70/30の比率のエタノール対水で連続して、それぞれ2から3回洗浄した。両方の溶媒を連続して使用することによって、VN被覆は容易に洗い流された。
【0069】
viii)hESC H7培養:細胞培養前に、VN被覆を「濯ぎ落とした」全てのフラスコを、細胞播種の前に、標準的な社内プロトコルにしたがってエタノール滅菌した。H7細胞を、X−VIVO 10+GF培地中の正常核型の細胞を使用して、1×106細胞/フラスコの播種密度で、「Matrigel」被覆表面を有するフラスコを含むこれらのT−75フラスコ中で継代培養した。細胞形態を毎日評価した。2日目に、付着を示さなかった細胞について、それらをクリスタルバイオレットでCV染色して、付着および分布を観察した。付着を示した細胞について、それらを3日目にCV染色して、T−75フラスコ上の付着と分布を観察した。
【0070】
結果および結論
図7において、1mMのVN被覆(エタノール中)(γ線照射後に被覆が洗い流された)および1質量%のメチオニン被覆を有する新規の抗酸化ペプチド(γ線照射後に被覆が洗い流された)が被覆された、γ線照射後の1mMのVNペプチド結合ペプチド−アクリレートフラスコ上で培養したhESC H7細胞についての結果が示されている。この研究のみについて、細胞形態を毎日評価し、細胞計数および生存率について、細胞を4日目に収穫した。未洗浄の被覆(データは示さず)について、細胞は付着しなかったが、「洗い流された」被覆については、細胞数(図7参照)および形態(図8参照)は、エタノールおよび「Matrigel」対照フラスコ上の細胞のものに匹敵した。
【0071】
新たな抗酸化ペプチド配列は、主にチロシンおよびトリプトファンの連結を含有し、その両方とも、よく知られたアミノ酸抗酸化剤である。図7から、「洗い流された」抗酸化剤+メチオニン被覆上には、エタノール対照と比べて、細胞が著しく少ないことが観察された。その上、この表面への細胞付着は、エタノールおよび「Matrigel」対照に匹敵したが、コロニーは、それほど嚢胞性にはならず、培養の3日後には離脱が見られた。一般に、この結果は、1mMのVNペプチド被覆(洗浄)は、アクリレートの表面上の結合VNペプチドの生物活性を適度に保護することができ、それゆえ、受容体が細胞に到達可能になった。
【0072】
ずっと低い濃度のVNペプチド被覆を使用して、アクリレート表面上により低濃度のVNペプチドを結合させた。同様に、結果において先に記載したような1mMのVNペプチド被覆を使用するのではなく、0.5mMのVNペプチド被覆を使用して、1mMのVNペプチド結合ペプチドの表面を保護した。1mMのVNペプチドが、VN被覆のないアクリレートに結合されている図9Aにおいて、CV染色データから分かるように、細胞は付着しなかった。細胞が付着していない同様の結果が図9Bに観察され、ここでは、結合後に、フラスコを、γ線照射前に、エタノールで予め濯いだ;図9C:0.5mMのVN結合が、0.5mMのVNペプチド被覆(未洗浄の被覆)で保護され、図9D:1mMのVN結合が0.5mMのVNペプチド被覆(未洗浄の被覆)で保護された。細胞付着は、γ線照射後にVNペプチド被覆が洗い流された0.5mMのVNペプチド被覆により保護された1mMのVNペプチド結合フラスコ、並びに両方のエタノール滅菌された対照フラスコと「Matrigel」対照フラスコのみに観察された。
【0073】
一般に、VNペプチドの上面被覆を除去するために、γ線照射後に洗い流されたVNペプチド被覆フラスコ上で細胞付着が観察された。このhESC H7細胞は、付着に関して、表面上のVNペプチド被覆ペプチドおよびフラスコ表面上に結合したVNペプチドの両方に競合できた。VNペプチド被覆は、細胞培養の際に培地により洗い流されるので、細胞の大半は損失され、それゆえ、結合VNペプチドに付着するために十分な細胞が残されていない。結果に示されるように、VNペプチド被覆(エタノール中の溶解した)の使用は、γ線照射後にVNペプチド結合ペプチドを保護するのにうまくいったが、それは、hESC H7細胞受容体が、固定化されたVNペプチド表面上の結合部位を認識できることを確実にするためにVNペプチド保護被覆がγ線照射後に洗い流された後に限りである。γ線照射への曝露の際に通常損傷するBSPなどの他のペプチドをうまく保護するためにも、このVNペプチド保護被覆を使用できることが望まれる。
【0074】
本発明の精神から逸脱せずに、数多くの様々な改変を行えることが当業者には理解されよう。したがって、本発明の形態は、説明のためのみであり、本発明の範囲を制限することが意図されていないのが明らかに理解されよう。
【優先権の主張】
【0001】
本出願は、その全てをここに引用する、2010年2月23日に出願された米国仮特許出願第61/307126号の恩恵を主張するものである。
【技術分野】
【0002】
滅菌γ線照射による未修飾細胞培養基板の劣化から保護し、安定化させる修飾細胞培養基板が開示されている。生物学的細胞培養基板を滅菌すると、活性の生物学的汚染物質または病原体のレベルが減少する。これらの修飾基板は、安定剤および酸化防止剤を含む。
【背景技術】
【0003】
ヒト、家畜、診断および/または実験用途のために調製される多くの生体物質は、ウイルス、細菌、ナノバクテリア、酵母、カビ、マイコプラズマ、ウレアプラズマ、プリオンおよび寄生虫などの、望ましくなく、潜在的に危険な生物学的汚染物質または病原体を含有するかもしれない。その結果、生体材料中のどのような生物学的汚染物質も、その製品が使用される前に不活化することが最重要である。このことは、マイコプラズマ、プリオン、細菌および/またはウイルス汚染に曝されるかもしれない細胞または組換え細胞の培養により調製される、または媒質中で調製される様々な生体材料にとって重大である。
【0004】
哺乳類細胞の接着、増殖および分化を促進するためのヒト組織工学に使用するための足場の設計において細胞外蛋白質(フィブロネクチン、コラーゲン、ビトロネクチンおよびラミニンなど)を模倣するために、ペプチド固定化表面が広く使用されてきた。しかしながら、これらのペプチド模倣表面が治療に役立つ価値を持つためには、それらは、10-6の無菌性保証レベル(SAL)を達成するように滅菌されなければならない。10-6は、百万種の内の1つが無菌ではない可能性である。
【0005】
生物学的生産プロセスの無菌性を保証する従来の方法は、無菌製造である。この製造プロセスの間中に無菌雰囲気を維持するには、多大な時間を要し、骨が折れ、極めて費用がかかる。エチレンオキシド(EtO)、電子ビームおよびγ線などから選択される他の滅菌方法もある。エチレンオキシドは、非常に効果的な方法であるが、危険なことがある残留物が後に残り、気密パッケージ中の製品には到達できない。電子ビームは、滅菌のための最も速い方法の内の1つであるが、緻密な製品またはいくつかの製品のばら包装中に十分には透過できない。
【0006】
γ線には、(1)無菌製造よりも良好な製品の無菌性の保証、(2)EtOのようには残留物が後に残らない、(3)電子ビームよりも透過性である、(4)低温プロセス、(5)簡単な検証プロセス、などの無菌製品を製造する他の方法を上回る重大な利点がいくつかある。γ線には、フリーラジカルが形成されるために、蛋白質やペプチドなどの生体材料に有害な影響もあり得る。既知組成培地における胚性幹細胞の増殖と分化を初めて支援するペプチド結合(conjugated)表面が開発された。しかしながら、研究により、γ線滅菌後に、それらの表面の性能が損なわれることが示された。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
先に論じた問題に鑑みて、表面の組成または材料に悪影響なく、活性の生物学的汚染物質または病原体のレベルを減少させるのに効果的な、細胞培養表面組成物または材料を滅菌する方法が依然として必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本出願の明細書および特許請求の範囲は、その中に、百万種の内で1つの微生物(microbe)が存在するという、10-6の(SAL)無菌性保証レベルを達成する上でペプチド模倣細胞培養基板を滅菌するための修飾細胞培養基板を開示する。3種類の修飾細胞培養基板が開示されており、滅菌形態として使用したときのγ線照射からペプチド模倣表面を保護すると主張されている。
【0009】
ある実施の形態において、γ線滅菌からペプチドを保護するために、ペプチド結合中のブロッキング試薬(反応性基を不活性化させる)として、ビタミン、アミノ酸、アミノ酸誘導体および短鎖ペプチドなどの抗酸化分子が提案されている。例えば、エチル(ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)/N−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)方法を使用するペプチド結合プロセス中のブロッキング試薬(未反応のNHSエステルの抑制(quenching))として、メチオニン誘導体などの抗酸化分子を含有する第一級アミンを使用することが、極めてうまくいくことが実証された。他の結合機構について、抗酸化分子において、反応性基の不活性化に適した異なる基が必要かもしれない。最終滅菌(terminal sterilization)のためのγ線照射への曝露中にペプチド結合表面を保護するこの修飾基板は、以前には報告されていない。この修飾基板の利点は、培養前に調製工程が必要ない(すなわち、この実施の形態においては、細胞培養前の洗浄が必要ない)ことにより得られる。この修飾とその結果得られた基板は、潜在的に、γ線滅菌、製造プロセスまたは貯蔵中に結合表面上のどのようなペプチドも保護するための万能な方法を提供する。
【0010】
本出願の明細書および特許請求の範囲に開示された第2の実施の形態は、糖、炭水化物、小さな有機体、糖蛋白質、ビタミン、アミノ酸塩、アミノ酸の誘導体、短鎖ペプチド、および蛋白質の安定剤および抗酸化剤からなる犠牲被覆に関する。他の追加の安定剤は、アスコルビン酸またはその塩やエステル;グルタチオン;6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボン酸;尿酸またはその塩やエステル;メチオニン;ヒスチジン;N−アセチルシステイン;ジオスミン;シリマリン;リポ酸;ホルムアルデヒド・スルホキシル酸ナトリウム;没食子酸またはその誘導体;没食子酸プロピル;アスコルビン酸またはその塩やエステルと、尿酸またはその塩やエステルとの混合物;アスコルビン酸またはその塩やエステルと、6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボン酸との混合物;アスコルビン酸またはその塩やエステルと、尿酸またはその塩やエステルと、6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボン酸との混合物;および尿酸またはその塩やエステルと、6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボン酸との混合物;からなる群より選択される。他の生物活性被覆としては、ヘパリン、ホスホリルコリン、ウロキナーゼまたはラパマイシンが挙げられる。その上、生物活性被覆は、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン、ポリパラジオキサノン、ポリトリメチレンカーボネートとそれらのコポリマー、コラーゲン、エラスチン、キチン、サンゴ、ヒアルロン酸からなる親水性被覆および疎水性被覆から選択することができる。さらに他のポリマーとしては、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコール・プロピレングリコール共重合体、ポリエチレングリコールアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレンオキシド、ポリビニルアルコール、ビニルアルコール酢酸ビニル共重合体、ポリヒドロキシエチルメタクリレート、およびポリヒアルロン酸が挙げられる。
【0011】
抗酸化被覆2、3、4、6、および8を備えた、γ線照射ペプチドアクリレート表面上の細胞形態、分布、および相対数(クリスタルバイオレット、CV)は、2日目でエタノール消毒されたMatrigel(商標)対照上で培養された細胞のものに匹敵した。被覆1、5、および7を備えたγ線照射ペプチドアクリレート表面に、細胞は付着せず、胚様体(EB)様形態もなかった。被覆9および10は、被覆2、3、4、6、および8と同様の性能を示すことが予測される。被覆の内容物の説明については、下記の表1を参照のこと。保護されている表面の電荷と反対の電荷を有する抗酸化剤は、その物質の吸収を増加させ、均質な分布を助ける。一例として、メチオニンエステルなどのメチオニン誘導体は、正電荷を含有し、この分子の、負に帯電したペプチドアクリレート表面への吸収を助ける。結果により、この計画を使用したγ線滅菌中のペプチド結合表面の保護における効率の良さが示された。
【0012】
第3の実施の形態において、メチオニン残基を含有する接着性ペプチドは、同様の条件下で結合状態においてγ線照射に耐えられないであろう同じ結合メチオニン含有ペプチドを保護するための保護被覆としてうまく使用できる。ビトロネクチンペプチド配列が、γ線照射に対して被覆を安定化させるのにうまくいき、上出来な細胞応答が得られる。
【0013】
安定化の機構は、フリーラジカルの捕捉剤としての安定剤および抗酸化剤に関連するであろう。さらに、安定剤は、ペプチドを酸化に対してより耐性にし、したがって、γ線照射後にペプチドに健全性を維持させるであろうイオン結合および/またはファンデルワールス力を形成することによって、生物活性分子を保護するように働く。ここに記載された修飾基板は、インビトロ細胞培養に使用される生物活性細胞培養基板を保護するのに特有である。本発明および従来技術を上回って達成される利点を要約する目的で、本発明の特定の目的および利点を先に説明してきた。もちろん、そのような目的または利点の必ずしも全てが、本発明の任意の特定の実施の形態にしたがって達成されるものではないことが理解されよう。それゆえ、例えば、本発明は、ここに教示または示唆されている他の目的または利点を必ずしも達成せずに、ここに教示された1つの利点または利点の一群を達成または最適化する様式で具体化または実施されてもよいことが当業者には認識されるであろう。
【0014】
本発明のさらに別の態様、特徴および利点が、以下の好ましい実施の形態の詳細な説明から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、メチオニン誘導体(2番目の棒)溶液および対照(3番目の棒)により処理されたVNペプチドアクリレート表面上での4日間の培養後のH7の細胞計数を示す棒グラフである;γ線滅菌を行わないVNペプチド結合アクリレート表面上(EtOH対照−1番目の棒)と「Matrigel」表面上(4番目の棒)の細胞計数を陽性対照として使用した;γ線滅菌を行ったが、どのような処理も行わなかったVNペプチド結合アクリレート表面上の細胞計数を陰性対照として使用した。
【図2】図2は、γ線照射を行わないVNペプチド結合アクリレート表面上(A)または照射前にメチオニン誘導体で処理したγ線滅菌表面上(B)のH7幹細胞の位相コントラスト写真画像を表す。
【図3】図3は、エタノールアミン(A,C)またはメチオニン誘導体(B)でブロックされたVNペプチド結合アクリレート表面上で増殖したH7細胞のクリスタルバイオレット染色の写真を表す。(B)および(C)に示されたフラスコはγ線滅菌されたのに対し、(A)に示されたフラスコは、エタノールにより消毒され、陽性対照として使用した。
【図4】図4は、VNペプチド結合アクリレートT−75フラスコ内の抗酸化剤/安定剤被覆の異なる組合せの代表を示す写真を表す;全ての写真は、γ線照射への曝露のために包装前に撮られ、(A)被覆3;(B)被覆4からなる。
【図5】図5は、VNペプチド結合アクリレート75フラスコ内の抗酸化剤/安定剤被覆を洗い流したものの代表を示す写真を表す;全ての写真は、(A)被覆3;(B)被覆4に関して、フラスコをγ線照射に曝露し、一連の水およびエタノール工程を使用した洗浄によって、被覆が除去された後に撮られた。
【図6】図6は、(A)被覆1;(B)被覆2;(C)被覆3;(D)被覆4;(E)被覆5;(F)被覆6;(G)被覆7;(H)被覆8;(I)エタノール(対照)フラスコ;(J)「Matrigel」(対照)フラスコについての、11〜18kGyの線量範囲のγ線照射に曝露した後のペプチド結合アクリレート被覆フラスコ並びに対照フラスコ上での「被覆を洗い流した」hESC H7細胞付着と分布を示すクリスタルバイオレット染色(CV染色)の写真を表す;フラスコ中の細胞のCV染色は、汚染のために細胞培養の2日目に行った;エタノール消毒VNペプチドアクリレートフラスコおよび「Matrigel」表面を実験の陽性対照として使用した。
【図7】図7は、11〜18kGyの線量範囲のγ線照射に曝露した後の、VNペプチドアクリレートフラスコ上の「洗い流された」1mMのVNペプチド被覆(3番目の棒)およびVNペプチドアクリレートT−75フラスコ上の「洗い流された」抗酸化剤(AO)ペプチド+メチオニン被覆(2番目の棒)の4日間に亘り培養されたhESC H7細胞の細胞計数/数を示す棒グラフである;エタノール(1番目の棒)消毒したVNペプチドアクリレートフラスコを陽性対照として使用した。
【図8】図8は、(A)VN被覆と共にγ線照射;(B)AOペプチド+メチオニン被覆と共にγ線照射;(C)エタノール消毒(対照)により処理したSC−IML VN T−75フラスコ上で培養したhESC H7細胞形態を示す顕微鏡写真(2.5倍の画像)を表す。
【図9】図9は、保護被覆(γ線照射への曝露後に洗浄されたまたは未洗浄の被覆)(A)1mMのVNのみ;(B)1mMのVNと、γ線照射前のエタノール濯ぎ;(C)0.5mMのVNと、0.5mMのVN被覆(未洗浄);(D)1mMのVNと、0.5mMのVN被覆(未洗浄);(E)1mMのVNと、0.5mMのVN被覆(洗浄);(F)1mMのVNのみ(エタノール消毒した対照フラスコ);(G)「Matrigel」−対照フラスコ;としてVNペプチドが被覆された、異なるVNペプチド濃度で結合したアクリレート表面上のhESC H7細胞付着と分布を示すクリスタルバイオレット染色(CV染色)の写真を表す。
【図10】図10は、(A)γ線照射された1mMのVNと、0.5mNの被覆(洗浄);(B)細胞が付着されていない代表的なγ線照射されたフラスコ;(C)エタノール−対照フラスコ;(D)「Matrigel」−対照フラスコ;上で培養されたhESC H7細胞形態を示す顕微鏡写真を表す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下の詳細な説明において、その一部を形成し、例として、装置、システムおよび方法のいくつかの特別な実施の形態が示されている、添付の図面を参照する。他の実施の形態が考えられ、本開示の範囲または精神から逸脱せずに行われるであろうことが理解されよう。したがって、以下の詳細な説明は、制限の意味であると解釈すべきではない。
【0017】
ここに使用した全ての科学用語および技術用語は、他に特定されていない限り、当該技術分野に一般に使用される意味を有する。ここに与えられる定義は、この中に頻繁に使用される特定の用語の理解を容易にするためであり、本開示の範囲を制限することを意味するものではない。
【0018】
本明細書および添付の特許請求の範囲に使用されるように、単数形は、内容が他に明白に示していない限り、複数の対照を有する実施の形態も包含する。本明細書および添付の特許請求の範囲に使用されるように、「または」という用語は、内容が他の明白に示していない限り、「および/または」を含む意味で一般に使用されている。
【0019】
ここに用いたように、「有する(have, having)」、「含む(include, including, comprise, comprising)」などは、範囲を設定しない意味で使用され、一般に、「含むがそれに限定されない」を意味する。
【0020】
「ヒドロゲル」という用語は、細胞培養表面を記載するために使用されてきた。「ヒドロゲル」は、その乾燥質量の30%以上または10,000%までの量で水を吸収できるゲルまたはゼラチンを含むために様々に定義されてきた。ヒドロゲルは、含水量にしたがって分類されてきた。例えば、ヒドロゲルは、30%以上の水を吸収するものとして記載されてきた。ヒドロゲルは、水と接触したときに、膨潤するが、溶解しない。「ヒドロゲル」という用語は、幅広い水膨潤および水吸収特徴を有する、アクリレートを含む、幅広い範囲の材料を記載する非常に広い用語である。ここに用いたように、「滅菌する」という用語は、本発明にしたがって処理されている生物学的細胞培養基板に見られる少なくとも1種類の活性なまたは潜在的に活性な生物学的汚染物質または病原体のレベルの減少を意味することが意図されている。最終滅菌は、組立て後のγイオン化線などの滅菌剤への曝露を称する。大規模で無菌製造を実施するのは非常に費用がかかり、継続する汚染問題を受けやすいので、最終滅菌は、無菌製造よりも望ましい。γ周波数範囲(>3×1019Hz)の放射線は、包装材料を透過し、周囲温度で大規模に適用できる。γ線照射は、典型的に、包装後の細胞培養物品を滅菌するために使用される。各プロセスと製品の生物負荷量(bio-burden)に応じて、細胞培養製品にとって、10-3の無菌性保証レベル(SAL)が典型的に予測される。
【0021】
ここに用いたように、「硫黄含有アミノ酸」という用語は、元素の硫黄を含有するアミノ酸残基(すなわち、メチオニン(M)およびシステイン(C))を意味することが意図されている。
【0022】
ここに用いたように、「生物学的汚染物質または病原体」という用語は、生物学的細胞培養基板と直接的または間接的に接触した際に、生物学的細胞培養基板に有害な影響があるかもしれない汚染物質または病原体を意味することが意図されている。そのような生物学的汚染物質または病原体としては、一般に、生体材料中に見られるまたは生体材料に関連することが当業者に知られている、様々なウイルス、プリオン、カビ、酵母、細菌、ナノバクテリア、マイコプラズマ、ウレアプラズマおよび寄生虫が挙げられる。生物学的汚染物質または病原体の例としては、以下に限られないが、ヒト免疫不全ウイルスおよび他のレトロウイルス、ヘルペスウイルス、フィロウイルス、サーコウイルス、パラミクソウイルス、サイトメガロウイルス、肝炎ウイルス(A型、B型およびC型肝炎並びにそれらの変種を含む)、ポックスウイルス、トガウイルス、エプスタイン・バール・ウイルスおよびパルボウイルスなどのウイルス;大腸菌属、バチルス属、カンピロバクター属、ストレプトコッカス属およびブドウ球菌属などの細菌;ナノバクテリア;トリパノーマおよびマラリア原虫属を含むマラリア寄生虫などの寄生虫;酵母;カビ;マイコプラズマ;ウレアプラズマ;およびスクレイピー、クールー、BSE(牛海綿状脳症)、CJD(クロイツフェルト・ ヤコブ病)、ゲルストマン・シュトロイスラー・シャインカー症候群および致死性家族性不眠症などのTSE(伝達性海綿状脳症)の原因となるプリオンが挙げられる。ここに用いたように、「活性な生物学的汚染物質または病原体」という用語は、生体材料および/またはその受容体において、単独で、または第2の生物学的汚染物質または病原体または天然蛋白質(野生型または変異体)または抗体などの別の要因との組合せのいずれかで、有害な影響を生じることのできる生物学的汚染物質または病原体を意味することが意図されている。
【0023】
ここに用いたように、「保護し、安定化させること」という句は、そうしなければその材料の照射から生じるであろう、照射されている生体材料への任意の損傷を、照射後の材料の安全かつ効果的な使用を不可能にするには不十分であるレベルまで減少させることを意味することが意図されている。言い換えれば、ある物質またはプロセスは、その物質の存在またはそのプロセスの実施により、その物質またはプロセスがない場合よりも、照射による材料への損傷が少なくなる場合、生体材料を照射から「保護し、安定化させる」。それゆえ、生体材料は、材料を「保護し、安定化させる」物質またはプロセスの以下の性能の存在下で、照射後に安全かつ効果的に使用されるであろうが、その物質またはそのプロセスの性能の不在下では、同一条件下で照射後に安全かつ効果的には使用できないであろう。
【0024】
本出願の明細書および特許請求の範囲は、10-6のSALを達成するためにペプチド模倣細胞培養基板を滅菌するための修飾基板に関する。滅菌の形態として使用される場合、γ線照射からペプチド模倣表面を保護するための3種類の修飾細胞培養基板が記載される。
【0025】
1つの開示された方法において、γ線滅菌中にペプチドを保護するためのペプチド結合中のブロッキング試薬(反応性基を不活性化させる)として、ビタミン、アミノ酸、アミノ酸誘導体および短鎖ペプチドなどの抗酸化分子が提案されている。例えば、エチル(ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)/N−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)方法を使用するペプチド結合プロセス中のブロッキング試薬(未反応のヒドロキシスクシンイミドエステルの抑制)として、メチオニン誘導体などの抗酸化分子を含有するアミンを使用することが、極めてうまくいくことが実証された。他の結合機構について、抗酸化分子において、反応性基の不活性化に適した異なる基が必要かもしれない。最終滅菌のためのγ線照射への曝露中にペプチド結合表面を保護するためにこの方法を使用することは、まだ報告されていない。物理的吸収または混合と比べたこの方法の利点は、抗酸化分子は抽出可能物質として表面から放出されないので、培養前に非調製工程を有すること、すなわち、細胞培養前の洗浄が必要ないことである。
【0026】
メチオニンは、容易に酸化され得る蛋白質中のアミノ酸である。メチオニンが蛋白質機能にとって重要である場合、酸化により、意図する生物学的機能の損傷または損失がもたらされ得る。メチオニンは、蛋白質または他の生物学的生成物が、γ線照射により、または貯蔵中にさえ、損傷を受けるのを保護するために、配合に加えられるか、または抗酸化剤防御系として蛋白質または細胞により使用されてきた。多数のメチオニン単位を有する短鎖ペプチドは、関節炎、リウマチ性関節炎、ベーチェット病、心筋梗塞などの治療のために活性酸素を阻害することができる。結合(conjugation)のためにメチオニンまたは多数のメチオニン残基を有する短鎖ペプチドを使用すると、効率がさらに改善されるであろう。
【0027】
この修飾基板の利点としては、以下のことが挙げられる:
1) 共有結合により、抗酸化剤の相分離または結晶化が防がれ、これにより、均一な分布および保護の効率が保証される;
2) 結合プロセスに追加の工程が必要ない;
3) 抗酸化分子が保護対象により近い。これにより、保護効率がさらに増加する;
4) 抗酸化分子は表面に共有結合し、したがって、抽出可能物質が導入されず、細胞培養前に追加の洗浄が必要ない;
5) 一般に、様々なタイプのペプチド結合表面を、γ線滅菌中、並びにプロセスストレス中および長期の貯蔵中に保護することが可能である。
【0028】
本明細書および特許請求の範囲に開示された第2の修飾基板細胞培養において、糖、炭水化物、小さな有機体、糖蛋白質、ビタミン、アミノ酸塩、アミノ酸の誘導体、短鎖ペプチド、および蛋白質の安定剤および抗酸化剤からなる犠牲被覆が提案されている。アスコルビン酸またはその塩やエステル;グルタチオン;6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボン酸;尿酸またはその塩やエステル;メチオニン;ヒスチジン;N−アセチルシステイン;ジオスミン;シリマリン;リポ酸;ホルムアルデヒド・スルホキシル酸ナトリウム;没食子酸またはその誘導体;没食子酸プロピル;アスコルビン酸またはその塩やエステルと、尿酸またはその塩やエステルとの混合物;アスコルビン酸またはその塩やエステルと、6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボン酸との混合物;アスコルビン酸またはその塩やエステルと、尿酸またはその塩やエステルと、6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボン酸との混合物;および尿酸またはその塩やエステルと、6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボン酸との混合物;からなる群より選択される別の安定剤が開示された。ヘパリン、ホスホリルコリン、ウロキナーゼまたはラパマイシンからなる生物活性被覆を使用しても差し支えない。その上、生物活性被覆は、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン、ポリパラジオキサノン、ポリトリメチレンカーボネートとそれらのコポリマー、コラーゲン、エラスチン、キチン、サンゴ、ヒアルロン酸からなる親水性被覆および疎水性被覆から選択される。さらに列挙されたポリマーは、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール・プロピレングリコール共重合体、ポリエチレングリコールアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレンオキシド、ポリビニルアルコール、ポリビニルアルコール酢酸ビニル共重合体、ポリヒドロキシエチルメタクリレート、およびポリヒアルロン酸である。他の表面安定剤は、HSA、BSA、オボアルブミン、またはコラーゲン、もしくは二糖類または多糖類もしくは還元形態にある酸素ラジカル捕捉剤と組み合わされた糖蛋白質であって差し支えない。
【0029】
この修飾基板の利点としては、以下のことが挙げられる:
1. 抗酸化剤および安定剤は、普遍保護層として働くことができる、すなわち、ペプチドおよび組換えECM蛋白質を含む全ての生物学的リガンドを、γ線照射を含む最終滅菌から保護できる;
2. 一般に、様々なタイプのペプチド結合表面を、γ線滅菌中および長期の貯蔵中に保護することが可能である;
3. 抗酸化剤および安定剤を組み合わせて、機能および費用対効果を改善することができる;
4. 薄い被覆は、除去する必要がないかもしれない、または細胞に毒作用を与えずに、水中に溶解させることによって、容易に除去できる;
5. 総製造原価に最小の費用しか加わらない。
【0030】
本出願の明細書および特許請求の範囲に開示された第3の修飾細胞培養基板において、メチオニン残基を含有する接着性ペプチドを、同様の条件下で結合状態においてγ線照射に耐えられなかった同じ結合メチオニン含有ペプチドを保護するための保護被覆としてうまく使用することができる。
【0031】
この修飾基板の利点としては、以下のことが挙げられる:
1. 犠牲層として使用され、細胞培養前に除去されるペプチドは、結合可能なペプチドと同じであるので、改良された(re-vamped)GMP検証は必要ない;
2. 接着性ペプチド被覆は、費用の影響を減少させるために、非常に薄い被覆中に低濃度で施される;
3. 接着性ペプチドは容易に除去される;
4. 接着性ペプチドは、γ線照射に対する万能保護剤として使用できる。
【0032】
ここに開示された修飾基板によれば、滅菌すべき細胞培養表面に、その細胞培養表面にある1種類以上の活性な生物学的汚染物質または病原体を不活性化するのに効果的な時間に亘り、放射線が照射される。適切な照射時間が、照射速度と組み合わされて、適切な照射線量が培養表面に印加される。適切な照射時間は、関与する放射線の特定の形態と速度、照射されている特定の表面の性質と特徴および/または不活性化されている特定の生物学的汚染物質または病原体に応じて、様々であろう。適切な照射時間は、当業者によって実験に基づいて決定することができる。
【0033】
本発明の修飾基板によれば、滅菌すべき細胞培養表面に、その表面にある1種類以上の活性な生物学的汚染物質または病原体を不活性化するのに効果的な総線量まで、放射線が照射され、その間に、その表面に許容できないレベルの損傷が生じない。放射線の適切な総線量は、関与する放射線の特定の形態および/または不活性化されている特定の生物学的汚染物質または病原体などの使用されている方法の特定の特徴に応じて様々であろう。放射線の適切な総線量は、当業者によって実験に基づいて決定することができる。放射線の総線量は、少なくとも10kGyであり得る。
【0034】
厚さおよび放射線源からの距離などの、照射されている細胞培養表面の特定の形状・配置は、当業者によって実験に基づいて決定されるであろう。
【0035】
本出願に開示された修飾細胞培養によれば、細胞培養表面の照射は、滅菌されている表面にとって有害ではないどのような温度で行われてもよい。したがって、細胞培養表面は、周囲温度で照射することができる。あるいは、細胞培養表面は、低温、すわち、0℃、またはそれより低い温度などの周囲温度より低い温度で照射される。
【0036】
本出願の別の修飾細胞培養によれば、細胞培養表面は、高温、すなわち、37℃、またはそれより高い温度などの周囲温度より高い温度で照射される。どのような理論によっても拘束することを意図するものではないが、高温の使用により、生物学的汚染物質または病原体への照射の効果が向上し、したがって、放射線のより低い総線量を使用できるであろう。
【0037】
ここに開示された修飾細胞培養によれば、細胞培養表面の照射は、滅菌されている表面にとって有害ではないどのような圧力で行われてもよい。したがって、培養表面は、高圧で照射される。細胞培養表面は、音波の印加による高圧で照射される。どのような理論によっても拘束することを意図するものではないが、高圧の使用により、生物学的汚染物質または病原体への照射の効果が向上し、したがって、放射線のより低い総線量を使用できるであろう。
【0038】
一般に、ここに記載された方法によれば、滅菌を受けている細胞培養表面のpHは約7である。しかしながら、本発明のいくつかの実施の形態において、表面の成分の凝集を避けるために、または他の理由で、培養表面は、7未満から3までのpHを有してもよい。あるいは、細胞培養表面は、7超から11までのpHを有してもよい。
【実施例】
【0039】
以下の非限定的実施例によって、本発明をさらに説明する。他の適切な改変および適用が、当業者が通常出くわす種類のものであり、完全に、本発明の精神および範囲内にある。
【0040】
実施例1:γ線滅菌中にペプチド模倣表面を保護するためのブロッキング剤としての抗酸化分子の使用
材料および方法
アクリレート被覆:メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−カルボキシエチル、ジメタクリル酸テトラ(エチレングリコール)、Darocur1173、Irgacure819を80:20:2:2:0.1の比率で混合し、5%の総モノマー濃度でエタノール中に溶解させた。得られた配合物を、酸素プラズマ処理済みZeonor膜上にスピンコートした。エタノールを蒸発させた後、窒素パージしたボックス内でキセノンパルスUV硬化システムを使用して、(メタ)アクリレート被覆を硬化させた。次いで、被覆された膜をT−75Zeonorフラスコ中にインモールドラベル(in-mold-labeled)し、結合のために直接使用した。
【0041】
ペプチド結合:アクリレート表面を、DMF中1:1のEDC:NHSにより1時間に亘り活性化させた。活性化溶液を吸引した後、その表面を、リン酸緩衝液(pH7.4)中の1mMのVNペプチド(Ac−KGGPQVTRGDVFTMP)により1時間に亘り処理した。ペプチド溶液を吸引した後、実験の設計に基づいて、塩化水素酸によりpH8.0〜8.5に調節された1Mのエタノールアミンで、または水酸化ナトリウムによりpH8に調節された0.1MのL−メチオニンメチルエステル塩酸塩で、1時間に亘り処理した。全ての反応は室温で行った。
【0042】
アミノ酸吸収:ペプチド結合T−75フラスコに、水酸化ナトリウムによりpH8に調節された10mLの0.1MのL−メチオニンメチルエステル塩酸塩を充填した。ペプチド表面がアミノ酸溶液の下に沈められ、1時間に亘りインキュベーションされるように、このフラスコを平らに寝かせた。これにより、正に帯電したアミノ酸を、負に帯電したペプチドアクリレート被覆に吸収させることができる。次いで、アミノ酸溶液を除去し、包装と滅菌前に、一晩に亘り真空中でフラスコを乾燥させた。
【0043】
滅菌:γ線滅菌のために、アルミニウム製パウチ内でフラスコに窒素と乾燥剤を詰めた。照射線量は11〜18kGyであった。陽性対照のVN−ペプチドアクリレートサンプルを70%のエタノールで消毒した。
【0044】
幹細胞培養:H7細胞を、X−VIVO 10+GF培地中100,000細胞/cm2の密度で、所望のペプチドアクリレート表面または「Matrigel」被覆表面(陽性対照)を備えたT−75フラスコ中に継代培養した。3日目と4日目に、細胞とコロニーの形態を顕微鏡で調査した。コラゲナーゼIV/DETA処理により収穫し、その後、自動化細胞数/生存率分析装置Vi−Cell(Beckman Coulter)により細胞計数することによって、4日目と5日目に細胞数を評価した。メチオニンメチルエステル処理済み表面について、DPBSで濯ぐ工程を行って、細胞培養前にアミノ酸の抽出可能物質を除去した。
【0045】
結果および議論
アミノ酸吸収:培養の4日後の細胞計数を使用して、γ線滅菌後のペプチドアクリレート表面の生物活性への影響を示した。どのような処理も行わずには、H7は、図1に「処理なし」により示されるように、γ線照射したVN−ペプチド表面に接着できない。メチオニンエステル処理済みVN−ペプチドアクリレート表面上では、γ線照射後に生物活性が維持された。このことが、図1に示されるように、γ線照射を行わなかった表面(ETOH対照)および「Matrigel」(我々のベンチマーク表面)の細胞数に対して、メチオニン処理した表面上の匹敵する細胞数によって、実証された。メチオニン処理により、幹細胞形態も陽性対照に匹敵した。
【0046】
アミノ酸ブロッキング:ペプチド結合後にカルボキシル−NHSエステルを不活性化させるための従来のブロッキング試薬であるエタノールアミンを置き換えるためにもメチオニンメチルエステルを使用した。γ線照射後、メチオニンメチルエステルを使用してブロッキングしたVN−ペプチドアクリレート表面はまだ、図3に示されるような良好なH7付着および増殖を支援し、これは、陽性対照表面に匹敵した。エタノールアミンでブロッキングした表面上では、細胞は付着も、増殖もしなかった(図3)。細胞形態は、エタノール消毒した表面上のものにまだ匹敵することができないが、この方法は、γ線で滅菌可能なVN−ペプチドアクリレートフラスコを供給するために、他のプロセスの改良と組み合わせることができると考えられる。
【0047】
先の結果により、γ線滅菌中にペプチド結合表面を保護するために、メチオニンおよびその誘導体を使用できることが示唆される。保護効率をさらに増加させるために、多数のメチオニン残基を有する短鎖ペプチドを表面処理またはブロッキングに使用してもよい。これらにより、その系に組み込まれるメチオニン部分の量が増加する。
【0048】
BSPが、心血管幹細胞の分化にとっていくつかの特有の性質を示してきた。しかしながら、その生物活性は、我々の内部の結果に基づいて、γ線照射により著しい影響を受けた。このことにより、BSPペプチドに基づく最終的な生産法を開発することが難しくなる。先の計画は、幹細胞培養のためのγ線滅菌可能なBSP表面を製造するのに潜在的に役立つであろう。
【0049】
実施例2:抗酸化剤および安定剤を含む、ペプチド模倣表面のためのγ線照射保護被覆
材料および方法:
i)アクリレート被覆の調製:全てのアクリレート被覆は、方法1に先に記載したように調製した。調製後、ペプチド結合実験に使用する準備ができるまで、全てのフラスコに蓋をして室温で貯蔵した。
【0050】
ii)アクリレート表面上のVNペプチドの結合:ペプチド結合の手法は、方法1に先に示されており、エタノールアミンのみでブロッキングした。ペプチド結合後、様々な被覆の施用の準備ができるまで、全てのフラスコに蓋をして室温で貯蔵した。
【0051】
iii)抗酸化剤/安定剤配合物の調製:抗酸化剤/安定剤被覆配合物の調製の前に、各配合物の個々の成分の溶解度を、水、エタノールおよび1MのHCl中で決定した。エタノール中の2つおよび1MのHCl中の1つを除いて、成分の大半は水溶性であった。没食子酸n−プロピルおよびTroloxの両方は、エタノール中に可溶性であったが、L−トリプトファンは1MのHCl中のみに可溶性であった。各個別の被覆混合物配合物(すなわち、被覆1〜8)について、それぞれの質量%(以下の表1参照)に基づいて個別に秤量した異なる成分を収容する別個の25mLのガラス製バイアル中で、被覆1:22mLの溶媒を使用して、被覆溶液を製造した(すなわち、20mLの脱イオン水+2mLのエタノール);被覆2:20mLの脱イオン水をバイアルに加えた;被覆3:18mLの脱イオン水+2mLのエタノールをバイアルに加えた;被覆4:20mLの脱イオン水+2mLのエタノール;被覆5:16mLの脱イオン水+4mLの1MのHCl;被覆6:12mLの脱イオン水+2mLのエタノール+4mLの1MのHCl;被覆7:20mLの脱イオン水;被覆8:10mLの脱イオン水+4mLのエタノール+5mLの1MのHCl。
【表1】
【0052】
表1.この研究に使用した10種類の抗酸化剤/安定剤被覆配合物の異なる組合せを、その配合物を溶解させるのに使用した溶媒と共に示すライブラリ。配合物2、3、4、6および8は、γ線照射に対して、表面に結合したビトロネクチンペプチド配列を安定化させることができた。
【0053】
iv)ペプチドアクリレートT−75フラスコ中の被覆手法:適切な溶媒の組合せ中に溶解した各被覆配合物を収容する25mLのガラス製バイアルにおいて、半自動式ピペットを使用して、18〜22mLの間の容積の溶液を対応するフラスコ中に分配した。溶液を収容するフラスコを前後に数回傾けて、フラスコの底の被覆による均一な被覆率を確実にした。次いで、フラスコを、冷却トラップ(冷凍する)を収容する真空炉(Hgで約27)内に入れ、約30℃に加熱し、乾燥させて、存在する残留溶媒を確実に完全に除去した。フラスコを少なくとも4日間に亘り真空炉内に入れ、次いで、包装の準備ができるまで、窒素パージボックス内に入れた。
【0054】
v)滅菌のためのサンプルの包装:被覆1から4のサンプルを、4つの乾燥剤小包を収容した1つのナイロン製パウチを使用して、真空下で一緒に包装し、ヒートシールした。被覆5および8を、4つの乾燥剤小包を収容した1つのアルミニウム製パウチ内において、真空下で一緒に包装し、ヒートシールした。最後に、被覆6および7を、4つの乾燥剤小包を収容した1つのアルミニウム製パウチ内において、真空下で一緒に包装し、ヒートシールした。医療グレードのガス真空密封機を使用した。
【0055】
vi)サンプルの滅菌:被覆したフラスコの包装後、それらのフラスコを、11〜18kGyの線量範囲を使用したγ線照射(Steris Isomedix, チェスター、NYの設備)のために発送した。γ線照射から到着した際に、サンプルをアルミニウム製パウチから取り出し、被覆を洗い流した。
【0056】
vii)被覆の洗浄プロトコル:150mLの脱イオン水を被覆フラスコに加え、数秒間に亘り激しく濯いだ。被覆の大半が除去されるまで、全てのフラスコについて、この手法を4〜5回繰り返した。完全には除去されいない被覆について、100mLの脱イオン水をフラスコの底に加え、5〜10分間放置し(被覆側で)、残りの被覆を溶解させ、次いで、水で2回濯いだ。被覆のほとんどを水で除去した後、物理的検査によって全ての被覆が完全に洗い流されたように思えるまで、最後にフラスコを50mLの70%エタノールで2回濯いだ。次いで、細胞培養実験のためにエタノール消毒する前に、フラスコを2日間に亘り空気乾燥させた。
【0057】
viii)hESC H7培養:細胞培養前に、被覆を「濯ぎ落とした」全てのフラスコを、細胞播種の前に、標準的な社内プロトコルにしたがってエタノール滅菌した。H7細胞を、X−VIVO 10+GF培地中の正常核型の細胞を使用して、1×106細胞/フラスコの播種密度で、「Matrigel」被覆表面を有するフラスコを含むこれらのT−75フラスコ中で継代培養した。細胞形態を毎日評価し、2日目に細胞の汚染を観察した。その点に関して、細胞を2日目にクリスタルバイオレットで染色して、付着と分布を観察し、それゆえ、細胞数は引き出せなかった。
【0058】
結果および議論
糖蛋白質、糖、抗酸化剤、遊離ラジカル捕捉剤、アミノ酸および多価アルコールなどの安定剤の異なる組合せを、適切な溶媒中の様々な質量パーセント組成を使用して、被覆へと計画的に配合した。フラスコ上の被覆の厚さに関する図4(A,B)に示されるように、被覆配合物に応じて、各フラスコ上にそれぞれの被覆の厚い層を形成した。異なる被覆配合物を収容する8つのフラスコの各々は、γ線照射後に被覆を除去するための洗浄中に様々な難易度を有した。
【0059】
被覆の表面テキスチャーについて、底の上の滑らかな層(図4B)から、非常に雑なまたは粗い(図4A)被覆までが観察された。その上、被覆1および2は透明であり(図示せず);被覆7はわずかに透明であり、被覆3、4、5、6および8は不透明であった(図示せず)。洗浄中の被覆の除去の場合について(γ線照射後)、被覆2、5および8は、脱イオン水および70/30のエタノール:脱イオン水の数回の連続洗浄(2〜3回)を使用して最も洗い流し易かった;被覆1、4および6は、洗い流すのが少し難しかったのに対し、被覆3および7は、洗い流すのが最も難しく、目に見える被覆断片がフラスコ上に存在しないことを確実にするために、非常に激しく振盪しながら、大量の脱イオン水および70/30のエタノール:水の混合物が必要であった。
【0060】
図6(A〜J)に示されるように、CV染色に基づいて、被覆2、3、4、6および8(それぞれ、図6B、C、D、FおよびHを参照)のみが、エタノール(I)および「Matrigel」対照フラスコ(J)上で培養した細胞のものに匹敵する、細胞形態、分布および相対数を示したのに対し、被覆1、5および7(それぞれ、図6A、EおよびGを参照)上の細胞は、付着もせず、胚様体様形態も発生しなかった。
【0061】
これらの結果に基づいて、安定剤被覆の特定の組合せが、γ線照射後のペプチドに、他よりもわずかに良好な保護を与えることができるのに対し、被覆のいくつかは、CV染色後の細胞付着の欠如からも分かるように、保護を与えなかった。
【0062】
実施例3:γ線照射からペプチド模倣表面を保護する接着性ペプチドリガンド
材料および方法
i)アクリレート被覆の調製:説明については先の実施例1参照。
【0063】
ii)アクリレート表面上のVNペプチドの結合:説明については先の実施例1参照。
【0064】
iii)抗酸化剤/安定剤配合物の調製:対応する質量を秤量し、溶媒として100%の200プルーフのエタノールを使用して溶解させることによって、10mLの0.5mMまたは1mMのVN被覆溶液を調製した。エタノール溶媒中のVNペプチドの溶解度は、撹拌後に、ある程度からほとんど完全に可溶性の溶液として分類できる。
【0065】
iv)VN溶液によるペプチドアクリレートT−75フラスコの被覆:10mLのVN溶液(エタノール中異なるペプチド濃度)円錐形試験管から対応するフラスコ中に注ぎ入れ、蓋をした。フラスコを室温で少なくとも1時間に亘りロッカー(rocker)上に置いて、VN溶液でフラスコの底を均一に被覆させた。次いで、フラスコを2日間に亘り蓋を外してフード内に置いて、エタノールを蒸発させ、その後、VNの層(白色被覆)をフラスコの底面に堆積させた。
【0066】
v)滅菌のためのサンプルの包装:γ線照射のために全てのサンプルを、2つの乾燥剤小包を収容するアルミニウム製パウチ内に個別に包装し、医療グレードのガス真空密封機を使用して真空密封した。
【0067】
vi)フラスコの滅菌:サンプルを包装した後、それらのフラスコを、11〜18kGyの線量範囲を使用したγ線照射曝露(Steris Isomedix, チェスター、NYの設備)のために発送した。Sterisから到着した際に、サンプルをアルミニウム製パウチから取り出し、フラスコに記載された状態に応じて、VNペプチド被覆を洗い流すか、そのままにした。
【0068】
vii)フラスコ上のVNペプチド被覆の洗浄:フラスコを、少なくとも50mLの脱イオン水で、次いで、70/30の比率のエタノール対水で連続して、それぞれ2から3回洗浄した。両方の溶媒を連続して使用することによって、VN被覆は容易に洗い流された。
【0069】
viii)hESC H7培養:細胞培養前に、VN被覆を「濯ぎ落とした」全てのフラスコを、細胞播種の前に、標準的な社内プロトコルにしたがってエタノール滅菌した。H7細胞を、X−VIVO 10+GF培地中の正常核型の細胞を使用して、1×106細胞/フラスコの播種密度で、「Matrigel」被覆表面を有するフラスコを含むこれらのT−75フラスコ中で継代培養した。細胞形態を毎日評価した。2日目に、付着を示さなかった細胞について、それらをクリスタルバイオレットでCV染色して、付着および分布を観察した。付着を示した細胞について、それらを3日目にCV染色して、T−75フラスコ上の付着と分布を観察した。
【0070】
結果および結論
図7において、1mMのVN被覆(エタノール中)(γ線照射後に被覆が洗い流された)および1質量%のメチオニン被覆を有する新規の抗酸化ペプチド(γ線照射後に被覆が洗い流された)が被覆された、γ線照射後の1mMのVNペプチド結合ペプチド−アクリレートフラスコ上で培養したhESC H7細胞についての結果が示されている。この研究のみについて、細胞形態を毎日評価し、細胞計数および生存率について、細胞を4日目に収穫した。未洗浄の被覆(データは示さず)について、細胞は付着しなかったが、「洗い流された」被覆については、細胞数(図7参照)および形態(図8参照)は、エタノールおよび「Matrigel」対照フラスコ上の細胞のものに匹敵した。
【0071】
新たな抗酸化ペプチド配列は、主にチロシンおよびトリプトファンの連結を含有し、その両方とも、よく知られたアミノ酸抗酸化剤である。図7から、「洗い流された」抗酸化剤+メチオニン被覆上には、エタノール対照と比べて、細胞が著しく少ないことが観察された。その上、この表面への細胞付着は、エタノールおよび「Matrigel」対照に匹敵したが、コロニーは、それほど嚢胞性にはならず、培養の3日後には離脱が見られた。一般に、この結果は、1mMのVNペプチド被覆(洗浄)は、アクリレートの表面上の結合VNペプチドの生物活性を適度に保護することができ、それゆえ、受容体が細胞に到達可能になった。
【0072】
ずっと低い濃度のVNペプチド被覆を使用して、アクリレート表面上により低濃度のVNペプチドを結合させた。同様に、結果において先に記載したような1mMのVNペプチド被覆を使用するのではなく、0.5mMのVNペプチド被覆を使用して、1mMのVNペプチド結合ペプチドの表面を保護した。1mMのVNペプチドが、VN被覆のないアクリレートに結合されている図9Aにおいて、CV染色データから分かるように、細胞は付着しなかった。細胞が付着していない同様の結果が図9Bに観察され、ここでは、結合後に、フラスコを、γ線照射前に、エタノールで予め濯いだ;図9C:0.5mMのVN結合が、0.5mMのVNペプチド被覆(未洗浄の被覆)で保護され、図9D:1mMのVN結合が0.5mMのVNペプチド被覆(未洗浄の被覆)で保護された。細胞付着は、γ線照射後にVNペプチド被覆が洗い流された0.5mMのVNペプチド被覆により保護された1mMのVNペプチド結合フラスコ、並びに両方のエタノール滅菌された対照フラスコと「Matrigel」対照フラスコのみに観察された。
【0073】
一般に、VNペプチドの上面被覆を除去するために、γ線照射後に洗い流されたVNペプチド被覆フラスコ上で細胞付着が観察された。このhESC H7細胞は、付着に関して、表面上のVNペプチド被覆ペプチドおよびフラスコ表面上に結合したVNペプチドの両方に競合できた。VNペプチド被覆は、細胞培養の際に培地により洗い流されるので、細胞の大半は損失され、それゆえ、結合VNペプチドに付着するために十分な細胞が残されていない。結果に示されるように、VNペプチド被覆(エタノール中の溶解した)の使用は、γ線照射後にVNペプチド結合ペプチドを保護するのにうまくいったが、それは、hESC H7細胞受容体が、固定化されたVNペプチド表面上の結合部位を認識できることを確実にするためにVNペプチド保護被覆がγ線照射後に洗い流された後に限りである。γ線照射への曝露の際に通常損傷するBSPなどの他のペプチドをうまく保護するためにも、このVNペプチド保護被覆を使用できることが望まれる。
【0074】
本発明の精神から逸脱せずに、数多くの様々な改変を行えることが当業者には理解されよう。したがって、本発明の形態は、説明のためのみであり、本発明の範囲を制限することが意図されていないのが明らかに理解されよう。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
γ線照射による未修飾細胞培養基板の劣化から保護し、安定化させる修飾細胞培養基板であって、前記修飾細胞培養基板が、該細胞培養基板の表面に結合した保護層を含み、該保護層が、ペプチド模倣表面を前記γ線照射から保護し安定化させるのに効果的な濃度で未反応のn−ヒドロキシスクシンイミド基の抑制(ブロッキング)と考えられる後ペプチド結合のための硫黄含有アミノ酸または該硫黄含有アミノ酸のペプチド短鎖を含むことを特徴とする未修飾細胞培養基板。
【請求項2】
γ線照射による未修飾細胞培養基板の劣化から保護し、安定化させる修飾細胞培養基板であって、前記修飾細胞培養基板が、該細胞培養基板の表面に被覆された保護層を含み、該被覆された保護層が、単糖と複合糖、炭水化物、糖蛋白質、親水性ポリマー、蛋白質、短いメチオニンを含有するペプチド、アミノ酸に類似の小分子およびビタミンA,C,EおよびPを含む、抗酸化剤と安定剤との組合せを含むことを特徴とする未修飾細胞培養基板。
【請求項3】
γ線照射による未修飾細胞培養基板の劣化から保護し、安定化させる修飾細胞培養基板であって、前記修飾細胞培養基板が、該細胞培養基板の表面に被覆された保護層を含み、該被覆された保護層が、少なくとも1から5のメチオニンアミノ酸残基を含有する接着性ペプチドを含むことを特徴とする未修飾細胞培養基板。
【請求項4】
前記硫黄含有アミノ酸が、ペプチド結合後に、任意の残留または未反応n−ヒドロキシスクシンイミド反応性基に結合されたメチオニンエステル塩であることを特徴とする請求項1記載の未修飾細胞培養基板。
【請求項5】
前記被覆された保護層が、グルコース、スクロース、フルクトース、トレハロース、D−マンノース、D,L−ガラクトース、D−ソルビトール、サッカリンおよびD−ロイクロースを含む糖を含むことを特徴とする請求項2記載の未修飾細胞培養基板。
【請求項1】
γ線照射による未修飾細胞培養基板の劣化から保護し、安定化させる修飾細胞培養基板であって、前記修飾細胞培養基板が、該細胞培養基板の表面に結合した保護層を含み、該保護層が、ペプチド模倣表面を前記γ線照射から保護し安定化させるのに効果的な濃度で未反応のn−ヒドロキシスクシンイミド基の抑制(ブロッキング)と考えられる後ペプチド結合のための硫黄含有アミノ酸または該硫黄含有アミノ酸のペプチド短鎖を含むことを特徴とする未修飾細胞培養基板。
【請求項2】
γ線照射による未修飾細胞培養基板の劣化から保護し、安定化させる修飾細胞培養基板であって、前記修飾細胞培養基板が、該細胞培養基板の表面に被覆された保護層を含み、該被覆された保護層が、単糖と複合糖、炭水化物、糖蛋白質、親水性ポリマー、蛋白質、短いメチオニンを含有するペプチド、アミノ酸に類似の小分子およびビタミンA,C,EおよびPを含む、抗酸化剤と安定剤との組合せを含むことを特徴とする未修飾細胞培養基板。
【請求項3】
γ線照射による未修飾細胞培養基板の劣化から保護し、安定化させる修飾細胞培養基板であって、前記修飾細胞培養基板が、該細胞培養基板の表面に被覆された保護層を含み、該被覆された保護層が、少なくとも1から5のメチオニンアミノ酸残基を含有する接着性ペプチドを含むことを特徴とする未修飾細胞培養基板。
【請求項4】
前記硫黄含有アミノ酸が、ペプチド結合後に、任意の残留または未反応n−ヒドロキシスクシンイミド反応性基に結合されたメチオニンエステル塩であることを特徴とする請求項1記載の未修飾細胞培養基板。
【請求項5】
前記被覆された保護層が、グルコース、スクロース、フルクトース、トレハロース、D−マンノース、D,L−ガラクトース、D−ソルビトール、サッカリンおよびD−ロイクロースを含む糖を含むことを特徴とする請求項2記載の未修飾細胞培養基板。
【図1】
【図2A】
【図2B】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図4A】
【図4B】
【図5A】
【図5B】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図6D】
【図6E】
【図6F】
【図6G】
【図6H】
【図6I】
【図6J】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図8C】
【図9A】
【図9B】
【図9C】
【図9D】
【図9E】
【図9F】
【図9G】
【図10A】
【図10B】
【図10C】
【図10D】
【図2A】
【図2B】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図4A】
【図4B】
【図5A】
【図5B】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図6D】
【図6E】
【図6F】
【図6G】
【図6H】
【図6I】
【図6J】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図8C】
【図9A】
【図9B】
【図9C】
【図9D】
【図9E】
【図9F】
【図9G】
【図10A】
【図10B】
【図10C】
【図10D】
【公表番号】特表2013−520200(P2013−520200A)
【公表日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−555045(P2012−555045)
【出願日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際出願番号】PCT/US2011/025138
【国際公開番号】WO2011/106222
【国際公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【出願人】(397068274)コーニング インコーポレイテッド (1,222)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際出願番号】PCT/US2011/025138
【国際公開番号】WO2011/106222
【国際公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【出願人】(397068274)コーニング インコーポレイテッド (1,222)
【Fターム(参考)】
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