説明

ペリクルの製造方法および装置

【課題】 ペリクルフレームの内壁面に、薄い粘着剤層をコーティングすることにより、フォトマスクにゴミなどの異物が付着することを効果的に防止することができ、リソグラフィ用ペリクルの歩留まりを向上させることができるリソグラフィ用のペリクルの製造方法を提供する。
【解決手段】 本発明のリソグラフィ用のペリクルの製造方法は、第一のスプレーノズル11と第二のスプレーノズル12とが所定の間隔で設けられたスプレーノズルセット10を用いて、まず、ペリクルフレーム20の内壁面1に、第一のスプレーノズル11から粘着剤溶液を噴射し、次いで、溶媒の揮発によって、粘着剤溶液中の粘着剤濃度が所定濃度以下にならないうちに、第二のスプレーノズル12から粘着剤溶液の溶媒を噴射するように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リソグラフィ用のペリクルの製造方法および装置に関するものであり、さらに詳細には、ペリクルフレームの内壁面に、薄い粘着剤層をコーティングすることによって、フォトマスクやレチクルなど(本明細書においては、これらを総称して、「フォトマスク」と称する。)にゴミなどの異物が付着することを効果的に防止することができ、ペリクルの歩留まりを向上させることができるリソグラフィ用のペリクルの製造方法および装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
LSI、超LSIなどの半導体デバイスあるいは液晶ディスプレー(本明細書においては、総称して、「半導体デバイス」という。)を製造するにあたっては、半導体ウエハーあるいは液晶用原板に塗布されたフォトレジスト膜に、露光用原版であるフォトマスクを介して、露光用の光が照射されて、フォトマスクのパターンが転写され、半導体デバイスのパターンが形成される。
【0003】
したがって、この場合に、フォトマスクにゴミなどの異物が付着していると、フォトマスクの表面に付着したゴミなどの異物によって、露光用の光が反射され、あるいは、吸収されるため、半導体ウエハーあるいは液晶用原板に転写されたパターンが変形したり、パターンのエッジ部分が不鮮明になるだけでなく、下地が黒く汚れて、寸法、品質、外観などを損ない、半導体ウエハーあるいは液晶用原板に、所望のように、フォトマスクのパターンを転写することができず、半導体デバイスあるいは液晶ディスプレーの性能が低下し、歩留まりが悪化するという問題があった。
【0004】
かかる問題を防止するために、半導体ウエハーあるいは液晶用原板の露光は、クリーンルーム内で行われるが、それでも、フォトマスクの表面に異物が付着することを完全に防止することは困難であるため、通常は、フォトマスクの表面に、露光用の光に対し高い透過率を有するペリクルと呼ばれる防塵カバーを取り付けて、半導体ウエハーあるいは液晶用原板を露光するように構成されている。
【0005】
一般に、ペリクルは、露光用の光に対し高い透過率を有するニトロセルロース、酢酸セルロースなどのセルロース系樹脂やフッ化樹脂などによって作製されたペリクル膜を、アルミニウム、ステンレス、ポリエチレンなどによって形成されたペリクルフレームの一方の面に、ペリクル膜材料の良溶媒を塗布し、ペリクル膜を風乾して、接着するか、アクリル樹脂、エポキシ樹脂やフッ素樹脂などの接着剤を用いて接着し、ペリクルフレームの他方の面に、ポリブテン樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、アクリル樹脂、シリコーン樹脂などからなり、フォトマスクに付着させるための粘着層を形成し、さらに、粘着層上に、粘着層保護用の離型層ないしセパレータを設けることによって、作製されている(特許文献1、2、3および4)。
【0006】
このように構成されたペリクルをフォトマスクの表面に取り付けて、半導体ウエハーあるいは液晶用原板を露光する場合には、ゴミなどの異物は、ペリクルの表面に付着し、フォトマスクの表面には直接付着しないため、フォトマスクに形成されたパターン上に、焦点が位置するように、露光用の光を照射すれば、ゴミなどの異物の影響を除去することが可能になる。
【0007】
多くの場合、フォトマスクに対向するペリクルのペリクルフレームの内壁面には、薄い粘着剤層がコーティングされる。
【0008】
これは、ペリクルとフォトマスクとの間の密閉された空間に、ゴミなどの異物が存在している場合に、ペリクルフレームの内壁面に形成された薄い粘着剤層によって、ゴミなどの異物を捕捉し、フォトマスクのパターン面へのゴミなどの異物の付着を防止するためである(特許文献5)。
【0009】
また、ペリクルフレームの内壁面に薄い粘着剤層がコーティングするもう一つの目的としては、アルミニウム、ステンレス、ポリエチレンなどによって形成されたペリクルフレーム自体からゴミなどの異物が発生することを防止することが挙げられる。ペリクルフレームはペリクルの製造前に精密洗浄され、清浄なものが使用されるが、一般的に用いられているアルミニウム合金製のペリクルフレームは表面に形成されるアルマイト皮膜につや消し処理のための凹凸(ショットブラスト跡)や微細なクラックなどが存在し、これらの凹凸や微細なクラック中に保持されたゴミなどの異物がフォトマスクの表面に付着することがあるため、ペリクルフレームの内壁面に薄い粘着剤層を形成して、ペリクルフレームの凹凸や微細なクラック中に保持されたゴミなどの異物がフォトマスクの表面に付着することが防止されている。
【0010】
ペリクルフレームの内壁面に粘着剤を塗布して、薄い粘着剤層を形成する方法としては、ディップコーティング法、バーコーティング法、ローラーコーティング法、刷毛塗りコーティング法、スプレーコーティング法などが、従来から用いられている。
【0011】
これらのコーティング法のうち、スプレーコーティング法は、均一なコーティング層を形成することが容易であるだけでなく、被コーティング面に、コーティング装置の一部が接触することなく、コーティング液でコーティングすることができ、被コーティング面に、コーティング装置の一部が接触することに起因して、ゴミなどの異物がペリクルフレーム内壁面上のコーティング層に付着することがないという利点があるため、ペリクルフレームの内壁面のコーティング方法として広く用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開昭58−219023号公報
【特許文献2】米国特許第4861402号明細書
【特許文献3】特公昭63−27707号公報
【特許文献4】特開平7−168345号公報
【特許文献5】特公昭63−777号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
近年、半導体デバイスはますます高集積化、微細化して来ており、それにともなって、フォトマスクのパターンサイズも微細化し、フォトマスク上に貼り付けるペリクルについても非常に高い防塵能力が要求されるようになっている。
【0014】
ペリクルはフォトマスク表面へのゴミなどの異物の付着を防止するためのものであるから、ゴミなどの異物が付着しないように、慎重に製造されるが、ペリクルの製造工程中に、ペリクル表面、とくに、ペリクルフレームの表面に、微小なゴミなどの異物が付着することを完全に防止することはきわめて困難であり、したがって、ペリクルフレームの内壁面に粘着剤層を形成して、微小なゴミなどの異物を捕捉し、フォトマスク上に落下するのを防止することは、ペリクルを製造する際の歩留まりを向上させる上で、重要な役割を担っている。
【0015】
上述のように、ペリクルフレームの内壁面に粘着剤層を形成する方法としては、スプレーコーティング法が最も優れているが、スプレーコーティング法は、ペリクルフレームの内壁面に、コーティング装置の一部が接触することなく、コーティング液でコーティングすることができるという利点を有している一方で、ノズルから噴射された粘着剤溶液中の溶媒が、ノズルとペリクルフレームと間で揮発し、粘着剤濃度が高くなった状態で、粘着剤溶液がペリクルフレームの内壁面にコーティングされるため、粘着剤溶液中の固形分が半乾燥状態で、ペリクルフレームの内壁面に付着したり、図1に示されるように、ペリクルフレームの内壁面1に、ブラスト処理によって凹凸パターンが形成されている場合には、ペリクルフレームの内壁面1の凹部に形成された粘着剤層2中に、気泡3が巻き込まれることがあった。
【0016】
このように、粘着剤層2中に、気泡3が巻き込まれると、一般にペリクルフレーム内壁面の検査は暗室内で集光ランプを用いて行われることが多いため、比較的大きな異物がペリクルフレームの内壁面1に付着したように見えることがしばしばあり、ゴミなどの異物との判別が困難なため、製造したペリクルが不良と判断され、ペリクルの歩留まりを低下させる要因になって、コストを低減させる上での障害になっていた。
【0017】
したがって、本発明は、ペリクルフレームの内壁面に、薄い粘着剤層をコーティングすることによって、フォトマスクにゴミなどの異物が付着することを効果的に防止することができ、リソグラフィ用ペリクルの歩留まりを向上させることができるリソグラフィ用のペリクルの製造方法を提供することにある。
【0018】
本発明の別の目的は、本発明は、ペリクルフレームの内壁面に、薄い粘着剤層をコーティングすることによって、フォトマスクにゴミなどの異物が付着することを効果的に防止することができ、リソグラフィ用ペリクルの歩留まりを向上させることができるリソグラフィ用のペリクルの製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明のかかる目的は、粘着剤溶液を噴射する第一のスプレーノズルと、前記粘着剤溶液の溶媒または前記粘着剤を溶解する溶媒を噴射する第二のスプレーノズルとを備えたスプレーノズルセットを少なくとも1セット用いて、ペリクルフレームの内壁面に向けて、前記粘着剤溶液と前記溶媒を噴射して、前記ペリクルフレームの前記内壁面に粘着剤層を形成することを特徴とするリソグラフィ用ペリクルの製造方法によって達成される。
【0020】
本発明によれば、第一のスプレーノズルから噴射された粘着剤溶液の溶媒が、ペリクルフレームの内壁面にコーティングされるまでに揮発し、粘着剤溶液中の粘着剤濃度が高くなって、気泡が巻き込まれた場合でも、第二のスプレーノズルから、粘着剤溶液の溶媒または粘着剤を溶解する溶媒が噴射されるから、ペリクルフレームの内壁面に形成された粘着剤層中の粘着剤濃度が高くなることを効果的に防止することが可能になるとともに、粘着剤層中に巻き込まれた気泡を溶解することができ、リソグラフィ用ペリクルの歩留まりを向上させることが可能になる。
【0021】
本発明において、粘着剤はとくに限定されるものではなく、スプレーコーティング装置によって、噴霧できる濃度に希釈することができる粘着剤であればよく、たとえば、シリコーン系粘着剤、アクリル系粘着剤などを用いることができる。
【0022】
本発明の好ましい実施態様においては、前記少なくとも1セットのスプレーノズルセットに含まれる前記第一のスプレーノズルと前記第二のスプレーノズルとが、前記粘着剤層の形成方向に沿って、所定の間隔で配置されている。
【0023】
本発明のさらに好ましい実施態様においては、前記第一のスプレーノズルから、前記ペリクルフレームの前記内壁面に向けて、前記粘着剤溶液を噴射してから、所定の時間内に、前記第二のスプレーノズルから、前記粘着剤溶液の溶媒または前記粘着剤を溶解する溶媒を、前記ペリクルフレームの前記内壁面に向けて噴射するように構成されている。
【0024】
本発明のさらに好ましい実施態様においては、前記少なくとも1セットのスプレーノズルセットに含まれる前記第一のスプレーノズルと前記第二のスプレーノズルとが、前記粘着剤層の形成方向に沿って、往復動されるように構成されている。
【0025】
本発明のさらに好ましい実施態様においては、前記第一のスプレーノズルからの前記粘着剤溶液の噴射と、前記第二のスプレーノズルからの前記溶媒の噴射とが交互に実行されるように構成されている。
【0026】
本発明の前記目的はまた、ペリクルフレームの内壁面に向けて粘着剤溶液を噴射する第一のスプレーノズルと、ペリクルフレームの内壁面に向けて前記粘着剤溶液の溶媒または前記粘着剤を溶解する溶媒を噴射する第二のスプレーノズルとを備えたスプレーノズルセットを少なくとも1セット備え、前記少なくとも1セットのスプレーノズルセットに含まれる前記第一のスプレーノズルと前記第二のスプレーノズルとを往復動させる手段を備えたことを特徴とするリソグラフィ用ペリクルの製造装置によって達成される。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、ペリクルフレームの内壁面に、薄い粘着剤層をコーティングすることによって、フォトマスクにゴミなどの異物が付着することを効果的に防止することができ、リソグラフィ用ペリクルの歩留まりを向上させることができるリソグラフィ用のペリクルの製造方法を提供することが可能になる。
【0028】
さらに、本発明によれば、ペリクルフレームの内壁面に、薄い粘着剤層をコーティングすることによって、フォトマスクにゴミなどの異物が付着することを効果的に防止することができ、リソグラフィ用ペリクルの歩留まりを向上させることができるリソグラフィ用のペリクルの製造装置を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】図1は、従来の方法によって、粘着剤層がコーティングされたペリクルフレームの内壁面近傍の略断面図である。
【図2】図2は、本発明の好ましい実施態様にかかるペリクルの製造方法に用いられるスプレーコーティング装置の略平面図である。
【図3】図3は、本発明の好ましい実施態様にかかるペリクルの製造方法に用いられるスプレーコーティング装置の略側面図である。
【図4】図4は、ペリクルフレームの一辺の内壁面上に粘着剤層を形成するステップを表わす工程図である。
【図5】図5は、ペリクルフレームの一辺の内壁面上に粘着剤層を形成するステップを表わす工程図である。
【図6】図6は、ペリクルフレームの一辺の内壁面上に粘着剤層を形成するステップを表わす工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
図2は、本発明の好ましい実施態様にかかるペリクルの製造方法に用いられるスプレーコーティング装置の略平面図である。
【0031】
図2に示されるように、本実施態様にかかるペリクルの製造方法に用いられるスプレーコーティング装置は、第一のスプレーノズル11および第二のスプレーノズル12からなるスプレーノズルセット10を備えている。
【0032】
スプレーノズルセット10の第一のスプレーノズル11は、ペリクルフレーム20の内壁面1にコーティングすべき粘着剤溶液を、ペリクルフレーム20の内壁面1に向けて、噴射するように構成され、スプレーノズルセット10の第二のスプレーノズル12は、ペリクルフレーム20の内壁面1にコーティングすべき粘着剤溶液の溶媒を、ペリクルフレーム20の内壁面1に向けて、噴射するように構成されている。
【0033】
スプレーノズルセット10の第一のスプレーノズル11から噴射される粘着剤溶液は、ペリクルフレーム20の内壁面1にコーティングされたときに、ペリクルフレーム20の内壁面1から垂れ落ちない程度の濃度である必要があり、これに対して、スプレーノズルセット10の第二のスプレーノズル12から噴射される溶媒量は、ペリクルフレーム20の内壁面1にコーティングされた粘着剤溶液の濃度が所定の濃度になるように選択される。
【0034】
第一のスプレーノズル11および第二のスプレーノズル12からなるスプレーノズルセット10は、図2において矢印Aまたは矢印Bで示されるの方向に、所定の速度V(mm/sec)で往復動可能なリニアステージ15に、所定の間隔D(mm)を隔てて、取付けられている。ここに、所定の間隔Dおよび所定の速度Vは、第一のスプレーノズル11から、ペリクルフレーム20の内壁面1に向けて粘着剤溶液が噴射され、ペリクルフレーム20の内壁面1に形成された粘着剤層中の粘着剤濃度が、溶媒の揮発によって、所定濃度以上になる前に、第二のスプレーノズル12から、粘着剤溶液の溶媒がペリクルフレーム20の内壁面1に噴射されるように設定されており、第一のスプレーノズル11から、ペリクルフレーム20の内壁面1に向けて、粘着剤溶液が噴射されてから、数秒以内に、第二のスプレーノズル12から、ペリクルフレーム20の内壁面1にコーティングされた粘着剤層に向けて、粘着剤溶液の溶媒が噴射されるように、所定の間隔Dおよび所定の速度Vが設定されることが好ましい。
【0035】
図3は、本実施態様にかかるスプレーコーティング装置の略側面図である。
【0036】
図3に示されるように、第一のスプレーノズル11および第二のスプレーノズル12からなるスプレーノズルセット10は、ペリクルフレーム20の上方に位置し、水平面に対して、θの角度をなすように位置している。ここに、θは0度ないし90度の範囲内の角度である。
【0037】
本実施態様にかかるスプレーコーティング装置においては、リニアステージ15が、図2において矢印Aまたは矢印Bで示される方向に往復動するように構成されており、したがって、ペリクルフレーム20の一辺の内壁面1に向けて、第一のスプレーノズル11から粘着剤溶液が噴射され、第二のスプレーノズル12から粘着剤溶液の溶媒が噴射されつつ、ペリクルフレーム20の一辺に沿って、第一のスプレーノズル11および第二のスプレーノズル12からなるスプレーノズルセット10が往復動するように構成されている。
【0038】
以上のように構成されたスプレーコーティング装置は、以下のようにして、粘着剤溶液および粘着剤溶液の溶媒を、ペリクルフレーム20の内壁面1に向けて噴射して、ペリクルフレーム20の内壁面1上に粘着剤層2を形成する。
【0039】
図4ないし図6は、ペリクルフレーム20の一辺の内壁面1上に粘着剤層を形成するステップを表わす工程図である。
【0040】
図4には、スプレーノズルセット10が初期位置に位置している状態が示され、まず、図4に示されるように、第一のスプレーノズル11が、粘着剤溶液をコーティングすべきペリクルフレーム20の内壁面1の一方の端部に対向するように、第一のスプレーノズル11および第二のスプレーノズル12からなるスプレーノズルセット10が位置決めされ、次いで、第一のスプレーノズル11からの粘着剤溶液の噴射が開始される。
【0041】
同時に、リニアステージ15の図4ないし図6において矢印Aで示される方向への移動が開始される。この時点では、第二のスプレーノズル12からは、粘着剤溶液の溶媒が噴射されていない。
【0042】
リニアステージ15が、所定の速度V(mm/sec)で、矢印Aで示される方向に移動され、第一のスプレーノズル11からの粘着剤溶液の噴射が開始されてから、所定時間D/V秒が経過すると、すなわち、第二のスプレーノズル12が、ペリクルフレーム20の内壁面1の一方の端部に対向する位置に達すると、第二のスプレーノズル12から粘着剤溶液の溶媒の噴射が開始される。
【0043】
図5は、リニアステージ15が、ペリクルフレーム20の一辺に沿って、矢印Aで示される方向に移動している状態を示すものである。
【0044】
図5に示されるように、ペリクルフレーム20の一辺の内壁面1には、まず、第一のスプレーノズル11から粘着剤溶液が噴射されて、粘着剤層2が形成され、そのD/V秒後に、第二のスプレーノズル12から粘着剤溶液の溶媒が噴射される。
【0045】
したがって、第一のスプレーノズル11から噴射された粘着剤溶液によって形成された粘着剤層2に含まれる溶媒が揮発しても、粘着剤層2中の粘着剤濃度が所定濃度になる前に、第二のスプレーノズル12から粘着剤層2に向けて、粘着剤溶液の溶媒が噴射され、粘着剤層2に含まれる粘着剤濃度の上昇が防止されるから、ブラスト処理によって凹凸状のパターンが形成されているペリクルフレーム20の内壁面1に粘着剤層2を形成する場合においても、粘着剤層2中に気泡が巻き込まれることを効果的に防止することができ、粘着剤層2中に気泡が巻き込まれた場合にも、第二のスプレーノズル12から噴射される粘着剤溶液の溶媒によって、気泡が溶解され、したがって、リソグラフィー用のペリクルの歩留まりを向上させることが可能になる。
【0046】
図6は、リニアステージ15が、図6において矢印Aで示される方向に移動されて、ペリクルフレーム20の一辺の内壁面1に粘着剤層2が形成され、第二のスプレーノズル12がペリクルフレーム20の内壁面1の他方の端部に対向する位置に達する直前の状態を示す図面である。
【0047】
この時点では、第一のスプレーノズル11は、ペリクルフレーム20の内壁面1の他方の端部を通り過ぎ、ペリクルフレーム20の内壁面1に対向しておらず、第一のスプレーノズル11からの粘着剤溶液の噴射は停止され、第二のスプレーノズル12から、粘着剤溶液の溶媒のみがペリクルフレーム20の内壁面1に噴射されている。
【0048】
こうして、リニアステージ15がさらに矢印Aで示される方向に移動して、第二のスプレーノズル12がペリクルフレーム20の内壁面1の他方の端部に対向する位置に達すると、リニアステージ15が停止されるとともに、第二のスプレーノズル12からの粘着剤溶液の溶媒の噴射が停止される。
【0049】
この状態では、ペリクルフレーム20の内壁面1には粘着剤層2が形成されており、形成された粘着剤層2が所望の厚さを有しているときには、第一のスプレーノズル11からの粘着剤溶液の噴射および第二のスプレーノズル12からの粘着剤溶液の溶媒の噴射が完了する。
【0050】
これに対して、ペリクルフレーム20の内壁面1に粘着剤層2が形成されたが、その厚さが所望の厚さ未満のときは、リニアステージ15が、図4ないし図6において、矢印Bで示される方向に移動され、スプレーノズルセット10が図4に示される初期位置に復帰する。
【0051】
次いで、上述したのと同様にして、ペリクルフレーム20の内壁面1に粘着剤層2が形成される。
【0052】
このようにして、ペリクルフレーム20の内壁面1に所定の厚さの粘着剤層2が形成されるまで、リニアステージ15が往復動されて、ペリクルフレーム20の一辺の内壁面1上に粘着剤層2が形成される。
【0053】
ペリクルフレーム20の他の三辺の内壁面1上にも、全く同様にして、粘着剤層2が形成される。
【0054】
本実施態様によれば、ペリクルフレーム20の内壁面1に、第一のスプレーノズル11から噴射された粘着剤溶液によって、粘着剤層2が形成された後、粘着剤層2中の溶媒が揮発することによって、粘着剤層2中の粘着剤濃度は上昇するが、粘着剤層2中の粘着剤濃度が所定濃度になる前に、第二のスプレーノズル12から粘着剤溶液の溶媒が、粘着剤層2に向けて、噴射され、粘着剤層2中の粘着剤濃度が低下されるから、ブラスト処理によって凹凸状のパターンが形成されているペリクルフレーム20の内壁面1に粘着剤層2を形成する場合においても、粘着剤層2中に気泡が巻き込まれることを効果的に防止することができ、粘着剤層2中に気泡が巻き込まれた場合にも、第二のスプレーノズル12から噴射される粘着剤溶液の溶媒によって、気泡が溶解されるから、所望のように、ペリクルフレーム20の内壁面1に、粘着剤層2を形成することができ、フォトマスクにゴミなどの異物が付着することを効果的に防止することが可能になり、リソグラフィ用ペリクルの歩留まりを向上させることが可能になる。
【0055】
ここに、半導体デバイス用のペリクルの場合には、ペリクルサイズが150mm前後であるから、無駄に粘着剤溶液を噴射することを防止し、コストアップを防止するとともに、粘着剤溶液がペリクルフレームの周辺部分に飛散して、製品自体を汚染したり、製品に欠陥を作ったりすることを防止するために、第一のスプレーノズル11と第二のスプレーノズル12との間の間隔Dは数cm以内に設定することが好ましい。
【実施例】
【0056】
以下、本発明の効果を明らかにするため、実施例および比較例を掲げる。
【0057】
実施例1
150mm×124mmのアルミニウム合金A7075製の枠に、黒色アルマイト処理を加えて、ペリクルフレームを作製した。
【0058】
こうして得られたペリクルフレームを超純水中にて洗浄し、乾燥した後に、ペリクルフレームの外側面を保持するサブホルダーにセットした。
【0059】
次いで、2つの精密コーティング用のスプレーノズルを、50mmの間隔をあけて、単軸ロボットに取り付け、0.1μmのエアフィルターおよびクリーンレギュレーターを介して、元圧0.3MPaのエア源に接続した。スプレーノズルとしては、アネスト岩田株式会社製のエアブラシ「HP−BC1P」(商品名)を用いた。
【0060】
粘着剤コーティング溶液として、濃度が0.1%のシリコーン粘着剤のトルエン溶液を用意した。また、溶媒として、粘着剤コーティング溶液の溶媒と同じトルエンを用意した。シリコーン粘着剤としては、信越化学工業株製「KR3700」(商品名)を用いた。
【0061】
シリコーン粘着剤のトルエン溶液を溶液カートリッジに充填するとともに、トルエンを溶媒カートリッジに充填し、それぞれ、第一のスプレーノズルおよび第二のスプレーノズルにセットした。
【0062】
単軸ロボットと平行に、ペリクルフレームが取り付けられたサブホルダーを配置し、ペリクルフレームの内寸と同じサイズのマスキングカバーを用いて、第一のスプレーノズルから噴射されるシリコーン粘着剤のトルエン溶液および第二のスプレーノズルから噴射されるトルエンがペリクルフレームの内壁面以外の部分に飛散しないようにカバーした後、第一のスプレーノズルからシリコーン粘着剤のトルエン溶液を噴射し、第二のスプレーノズからトルエンを噴射しつつ、単軸ロボットを、ペリクルフレームの一辺に沿って、10cm/秒の速度で、5回にわたって往復動させて、ペリクルフレームの一辺の内壁面に、シリコーン粘着剤層を形成した。
【0063】
さらに、ペリクルフレームの他の三辺の内壁面に、全く同様にして、シリコーン粘着剤層を形成した。
【0064】
こうして、シリコーン粘着剤層が形成されたペリクルフレームの内壁面を、集光ランプを用いて、暗室内で検査したところ、シリコーン粘着剤層に異物と思われるものは認められず、平滑なシリコーン粘着剤層をコーティングすることができた。
【0065】
同じ試験を50のサンプルについて行ったが、シリコーン粘着剤層に異物と思われるものは認められなかった。
【0066】
比較例
150mm×124mmのアルミニウム合金A7075製の枠に、黒色アルマイト処理を加えて、ペリクルフレームを作製した。
【0067】
こうして得られたペリクルフレームを超純水中にて洗浄し、乾燥した後に、ペリクルフレームの外側面を保持するサブホルダーにセットした。
【0068】
次いで、精密コーティング用のスプレーノズルを、50mmの間隔をあけて、単軸ロボットに取り付け、0.1μmのエアフィルターおよびリーンレギュレーターを介して、元圧0.3MPaのエア源に接続した。スプレーノズルとしては、アネスト岩田株式会社製のエアブラシ「HP−BC1P」(商品名)を用いた。
【0069】
粘着剤コーティング溶液として、濃度が0.1%のシリコーン粘着剤のトルエン溶液を用意した。シリコーン粘着剤としては、信越化学工業株製「KR3700」(商品名)を用いた。
【0070】
シリコーン粘着剤のトルエン溶液をカートリッジに充填し、スプレーノズルにセットした。
【0071】
単軸ロボットと平行に、ペリクルフレームが取り付けられたサブホルダーを配置し、ペリクルフレームの内寸と同じサイズのマスキングカバーを用いて、スプレーノズルから噴射されるシリコーン粘着剤のトルエン溶液がペリクルフレームの内壁面以外の部分に飛散しないようにカバーした後、スプレーノズルからシリコーン粘着剤のトルエン溶液を噴射しつつ、単軸ロボットを、ペリクルフレームの一辺に沿って、10cm/秒の速度で、5回にわたって往復動させて、ペリクルフレームの一辺の内壁面に、シリコーン粘着剤層を形成した。
【0072】
さらに、ペリクルフレームの他の三辺の内壁面に、全く同様にして、シリコーン粘着剤層を形成した。
【0073】
こうして、シリコーン粘着剤層が形成されたペリクルフレームの内壁面を、集光ランプを用いて、暗室内で検査したところ、シリコーン粘着剤層に異物と思われるものが1つあることが認められた。
【0074】
さらに、異物と思われるものを、光学顕微鏡によって観察したところ、ペリクルフレームの内壁面の凹凸部に微小な気泡が付着していることが判明した。
【0075】
同じ試験を50のサンプルについて行ったところ、6個のサンプルで、シリコーン粘着剤層に気泡の付着が認められた。
【0076】
さらに、スプレーノズルの間隔および単軸ロボットの往復動速度を変えて、それぞれ、50のサンプルにつき、同じ試験をした。
【0077】
試験結果は表1に示されている。
【0078】
【表1】

表1から、ペリクルフレームの内壁面に向けて、シリコーン粘着剤のトルエン溶液を噴射してから、ペリクルフレームの内壁面の同じ部分にシリコーン粘着剤のトルエン溶液を噴射するまでの時間が0.8秒以上のときに、粘着剤層に気泡が混入することがわかった。これは、ペリクルフレームの内壁面に向けて、シリコーン粘着剤のトルエン溶液を噴射してから、ペリクルフレームの内壁面の同じ部分にシリコーン粘着剤のトルエン溶液を噴射するまでの時間が0.8秒以上になると、次に、シリコーン粘着剤のトルエン溶液が噴射されるまでに、粘着剤溶液の溶媒であるトルエンが揮発し、シリコーン粘着剤の濃度が高くなったためと推測される。
【0079】
本発明は、以上の実施態様に限定されることなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内で種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることはいうまでもない。
【0080】
たとえば、図1ないし図7に示された実施態様においては、第二のスプレーノズル12から粘着剤溶液の溶媒を噴射するように構成されているが、第二のスプレーノズル12から粘着剤溶液の溶媒を噴射することは必ずしも必要でなく粘着剤溶液の溶媒に代えて、第二のスプレーノズル12から粘着剤を溶解する溶媒を噴射するように構成することもできる。
【0081】
さらに、前記実施態様および実施例においては、スプレーコーティング装置は、第一のスプレーノズル11および第二のスプレーノズル12からなる1セットのスプレーノズルセット10を備えているが、それぞれが第一のスプレーノズル11および第二のスプレーノズル12からなる2セット以上のスプレーノズルセット10を備えていてもよい。
【0082】
また、前記実施態様においては、第一のスプレーノズル11および第二のスプレーノズル12からなる1セットのスプレーノズルセット10がリニアステージ15に取付けられて、リニアステージ15によって往復動され、前記実施例においては、単軸ロボットに取付けられて、単軸ロボットによって往復動されるように構成されているが、リニアステージ15や単軸ロボットを用いて、第一のスプレーノズル11および第二のスプレーノズル12からなる1セットのスプレーノズルセット10を往復動させることは必ずしも必要でなく、他の機械的手段によって、第一のスプレーノズル11および第二のスプレーノズル12を往復動させてもよく、さらには、手動で往復動させるようにしてもよい。
【0083】
さらに、前記実施例においては、第一のスプレーノズル11および第二のスプレーノズル12を往復動させているが、第一のスプレーノズル11および第二のスプレーノズル12を一方向に移動させつつ、ペリクルフレーム20の内壁面1に向けて、粘着剤溶液を噴射した結果、所望の厚さを有する粘着剤層2が形成される場合には、第一のスプレーノズル11および第二のスプレーノズル12を往復動させることは必要でない。
【符号の説明】
【0084】
1 ペリクルフレームの内壁面
2 粘着剤層
3 気泡
10 スプレーノズルセット
11 第一のスプレーノズル
12 第二のスプレーノズル
15 リニアステージ
20 ペリクルフレーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘着剤溶液を噴射する第一のスプレーノズルと、前記粘着剤溶液の溶媒または前記粘着剤を溶解する溶媒を噴射する第二のスプレーノズルとを備えたスプレーノズルセットを少なくとも1セット用いて、ペリクルフレームの内壁面に向けて、前記粘着剤溶液と前記溶媒を噴射して、前記ペリクルフレームの前記内壁面に粘着剤層を形成することを特徴とするリソグラフィ用ペリクルの製造方法。
【請求項2】
前記少なくとも1セットのスプレーノズルセットに含まれる前記第一のスプレーノズルと前記第二のスプレーノズルとが、前記粘着剤層の形成方向に沿って、所定の間隔で配置されていることを特徴とする請求項1に記載のリソグラフィ用ペリクルの製造方法。
【請求項3】
前記第一のスプレーノズルから、前記ペリクルフレームの前記内壁面に向けて、前記粘着剤溶液を噴射してから、所定の時間内に、前記第二のスプレーノズルから、前記粘着剤溶液の溶媒または前記粘着剤を溶解する溶媒を、前記ペリクルフレームの前記内壁面に向けて噴射することを特徴とする請求項1または2に記載のリソグラフィ用ペリクルの製造方法。
【請求項4】
前記少なくとも1セットのスプレーノズルセットに含まれる前記第一のスプレーノズルと前記第二のスプレーノズルとが、前記粘着剤層の形成方向に沿って、往復動させることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載のリソグラフィ用ペリクルの製造方法。
【請求項5】
前記第一のスプレーノズルからの前記粘着剤溶液の噴射と、前記第二のスプレーノズルからの前記溶媒の噴射とが交互に実行されることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載のリソグラフィ用ペリクルの製造方法。
【請求項6】
ペリクルフレームの内壁面に向けて粘着剤溶液を噴射する第一のスプレーノズルと、ペリクルフレームの内壁面に向けて前記粘着剤溶液の溶媒または前記粘着剤を溶解する溶媒を噴射する第二のスプレーノズルとを備えたスプレーノズルセットを少なくとも1セット備え、前記少なくとも1セットのスプレーノズルセットに含まれる前記第一のスプレーノズルと前記第二のスプレーノズルとを往復動させる手段を備えたことを特徴とするリソグラフィ用ペリクルの製造装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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