説明

ペルオキシダーゼ化学発光測定試薬

【課題】西洋ワサビ由来PODを用いた場合の性能に劣らないか、それに勝る初発時発光強度を持続する担子菌由来PODの化学発光測定試薬を提供する。
【解決手段】酸化剤の含有量、化学発光物質の含有量および緩衝液のpHの3因子を適正に選択し組み合わせて、担子菌由来PODの化学発光測定を行う。
【効果】西洋ワサビ由来PODを用いた場合の性能に劣らないか、それに勝る担子菌由来PODの化学発光測定試薬を用いて、化学発光反応開始10分後に70%以上の初発時発光強度を持続することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、担子菌由来ペルオキシダーゼを含有する化学発光測定試薬に関する。さらに詳しくは、ペルオキシダーゼを利用した臨床検査に使用できるペルオキシダーゼ化学発光測定試薬に関する。
【背景技術】
【0002】
西洋ワサビ由来のペルオキシダーゼ(以下、「POD」という。)は、固相酵素免疫測定法(ELISA)、例えば、非競合法あるいは競合法、およびウエスタンブロッティング法などの各種の酵素免疫測定方法に利用される酵素のひとつとして、広く使用されている(例えば、特許文献1参照)。しかし、西洋ワサビ由来のPODは、原料としての西洋ワサビの栽培に長時間を要する上に、植物体を破壊し、多種多様な夾雑成分の中からPODを精製するという方法で製造されるため、その製造効率は高いとは言いがたく、大量生産が困難であった。その上、近年では、栽培効率の悪さや、需要の大きいバイオエタノール用穀物への転作などを理由に、PODの原料としての西洋ワサビの供給不安が生じつつある状況が懸念されており、これに代わり得る酵素に対する潜在的なニーズは大きい。
【0003】
さらに、西洋ワサビ由来のPODには、多くのアイソザイムが存在するという問題も存在する。現在広く用いられている西洋ワサビ由来のPODの多くは、上述の通り低い生産効率の中で一定の価格で流通させるという制約があるため、多くのアイソザイムの混合物である場合がほとんどである。しかし、このようなPODを用いて各種の測定、例えば、酵素免疫測定を行った場合、異なる反応特性を有する各種アイソザイムの含有量が、PODの製造ロットごとにばらつき、このことに起因して、安定した測定結果を得ることが困難になるという重大な問題を生じている。
【0004】
前記のような西洋ワサビ由来のPODが有する問題を克服し得ることが期待されるPODとして、微生物由来のPODがある。微生物は短時間で大量に培養可能であり、微生物由来のPODは、植物体から精製を行う場合よりも格段に少ない手間で精製を行うことができる。また、遺伝子組換え技術を用いることにより、微生物宿主内での発現量を人為的に高めることも容易である。遺伝子組換え技術を利用すれば、目的とするPODのみを多量に発現させることができるため、アイソザイムの夾雑という問題も回避が容易であると同時に、そのPODを改変し、改良することも比較的容易である。このようなことから、微生物由来のPODは、西洋ワサビ由来のPODに代わり得る有望な酵素といえる。
【0005】
しかし、微生物由来のPODを用いて、酵素免疫測定における性能を検討した知見は乏しい。公知の微生物由来PODとしては、Arthromyces属由来のPODが知られ、遊離状態で、あるいは、抗体と結合させて標識抗体を調製し、その標識抗体を、測定物を介して固層に固定した状態で用いる測定系において、西洋ワサビ由来のPODよりも反応性が優れていることが報告されている(例えば、特許文献2参照)。また、過ヨウ素酸法を用いてArthromyces ramosus由来のPODで標識した抗体を用いたELISA法の系において、西洋ワサビ由来のPOD標識抗体を用いた場合よりも反応性が高いことが報告されている(例えば、非特許文献1参照)。しかし、Arthromyces属由来のPODの反応性の高さは、西洋ワサビ由来のPODを標識した抗体を用いた場合の4倍程度にとどまり、さらに、耐熱性にも問題があることが報告されている。
【0006】
上記欠点を解決するために、本発明者らは、すでに担子菌Coprinus属由来のPOD(例えば、特許文献3、非特許文献2参照)を調製し、これを遊離状態で用いて、発色反応系または発光反応系における性能に関して、西洋ワサビ由来のPODの反応性との比較を試みている。その結果、2,2’−アジノビス(3−エチルベンゾチアゾリン−6−スルホン酸)(ABTS)を基質とした発色反応において、Coprinus属由来のPODは、西洋ワサビPODよりも9〜10倍程度高活性であることを明らかにしている。また、ルミノールを基質とした発光反応系においては、化学発光増強剤であるp−ヨードフェノール等を添加しない場合、Coprinus属由来のPODは、西洋ワサビPODと比較して100倍以上の発光強度が見られることを確認している。また、Coprinus属由来のPODで抗体を標識し、当該POD標識抗体を、化学発光増強剤を添加しない遊離状態で、ルミノールを基質とした発光反応に用いた場合にも、化学発光増強剤を添加した西洋ワサビ由来のPOD標識抗体に対して、同等もしくは同等以上の反応性を有することを確認している。また、耐熱性に関しても、Coprinus属由来PODは、西洋ワサビ由来と同等あるいは同等以上の耐熱性を有しており、実用上問題とならないことも明らかにしている。
【0007】
しかしながら、Coprinus属由来のPODを含む微生物由来のPODは、従来の化学発光反応の条件下では、化学発光反応開始直後に、高い発光強度を示すものの、持続性が悪いという欠点を有している。そのため、安定状態で発光量を測定することが困難で、微生物由来のPODを西洋ワサビ由来のPODに代替し、酵素免疫測定等に利用するには発光持続性向上のための解決すべき課題が残されている。
【0008】
すなわち、化学発光強度が高く反応性・感度の優れた酵素免疫測定方法の開発が望まれており、特に、化学発光反応開始から初発時発光強度を長時間持続することができる化学発光試薬組成の提供が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平2000−88850号公報
【特許文献2】特許第2528457号明細書
【特許文献3】特開平3−1949号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Kim et al. Analytical Biochemistry 199, 1−6(1991)
【非特許文献2】Kjalke et al. Biochim Biophys Acta. 1992 Apr 17;1120(3):248−56
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、化学発光反応開始から初発時発光強度を長時間持続することができる化学発光試薬組成を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、特定の化学発光物質の含有量および酸化剤の含有量、並びに緩衝液の特定のpHを含む試薬を用いることにより、化学発光反応における担子菌由来PODの初発時の発光強度を有効的に持続できることを知り、本発明を完成した。すなわち本発明は、以下に関する。
1)
(a)担子菌由来ペルオキシダーゼ
(b)酸化剤
(c)化学発光物質
(d)緩衝液
を含んでなるペルオキシダーゼ化学発光測定試薬であって、化学発光反応開始時において、(b)濃度0.05〜1.0mM、(c)濃度0.5〜5.0mMで、かつ(d)pHが7.5〜10.0であることを特徴とするペルオキシダーゼ化学発光測定試薬。
2)前記1)に記載の(a)がCoprinus属由来ペルオキシダーゼで、(b)が過酸化水素で、かつ(c)がルミノールまたはその塩であることを特徴とするペルオキシダーゼ化学発光測定試薬。
3)前記1〜2)に記載の(a)が遊離状態ペルオキシダーゼであって、(b)および(c)の濃度比が、(b)濃度1に対して、(c)濃度が1.0〜10.0の範囲で、かつ、(d)pHが7.5〜9.5の範囲であることを特徴とするペルオキシダーゼ化学発光測定試薬。
4)前記1〜2)に記載の(a)が抗体に標識したペルオキシダーゼであって、(b)および(c)の濃度比が、(b)濃度1に対して、(c)濃度が4.0〜20.0の範囲で、かつ、(d)pHが8.0〜9.5の範囲であることを特徴とするペルオキシダーゼ化学発光測定試薬。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、担子菌由来PODを用いて化学発光測定をする際に、初発時の発光強度を有効的に持続できる試薬を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(担子菌由来POD)
本発明に使用するPODとしては、担子菌由来のPODが挙げられる。担子菌に属する微生物としては、例えば、Coprinus属、Uredinales属、Auriculariales属、Agaricales属等が挙げられる。中でも、Coprinus属由来のPODは、西洋ワサビ由来のPODと比較して、同等もしくは同等以上の優れた酵素化学的性質(至適pH、pH安定性、至適温度、温度安定性)を有しており、しかも、2,2’−アジノビス(3−エチルベンゾチアゾリン−6−スルホン酸)(ABTS)を基質とした発色反応において、西洋ワサビ由来のPODよりも比活性(U/mg)が9〜10倍程度高いため好ましい。Coprinus属に属する微生物の例としては、Coprinus cinereus(NBRC30114)、Coprinus macrorhizus(ATCC20120)、Coprinellus disseminatus、Coprinus comatus(ATCC12640)、Coprinus clastophyllus、Coprinus alkalinus、Coprinus amphibius、Coprinus micaceus、Coprinus atramentarius、Coprinus luteocephalus、Coprinus trisporus、Coprinus sclerotiger、Coprinus domesticus、Coprinus stercorarius、Coprinus radiatus等が挙げられる。なお、NBRCは、独立行政法人製品評価技術基盤機構生物遺伝資源部門、ATCCは、American Type Culture Collectionを示す。
【0015】
Coprinus属由来PODは、天然のものであってもよく、耐熱性向上や基質特異性向上、その他の何らかの1以上の変異を人為的に導入したものであってもよく、キメラタンパク質等であってもよい。また、市販のCoprinus属由来PODを用いてもよい。測定上支障がない範囲において、アイソザイムを含む複数のPODを共に使用することもできるが、測定の安定性のためには、単一精製したものを用いることが好ましい。
【0016】
また、分類学上Coprinus属に属さない微生物であっても、例えば、Coprinus属に近縁の微生物由来のPODや、Coprinus属由来のPODとアミノ酸配列が近似するもので、本発明の酵素免疫測定において同様の反応性を示すPOD等も用いることができる。
【0017】
本発明に使用するPODは、後述する最終反応溶液中において、遊離状態または各種抗体を標識した状態で用いることができる。PODへ抗体を標識(架橋)する方法としては、公知の各種の標識方法を用いることができ、例えば、一般的に知られている方法として、グルタルアルデヒド法、過ヨウ素酸法、マレイミド法、ピリジルジスルフィド法、イソシアネート架橋法、ベンゾキノン架橋法等が挙げられる。特に、マレイミド法は、重合体形成の有無、抗原、抗体、酵素の活性維持、さらには標識効率の点で好適である。
【0018】
(酸化剤)
本発明に使用する酸化剤は、無機過酸化物として、例えば、過酸化水素、過ホウ酸塩、次亜塩素酸塩等が挙げられ、有機過酸化物として、例えば、過酢酸、過プロピオン酸等が挙げられる。取扱い易さから、過酸化水素を用いるのが好ましい。
【0019】
酸化剤の含有量は、用いる化学発光物質の種類、濃度または適用する測定方法等によって適宜設定すればよいが、初発時発光強度を高い値で維持するために、最終反応溶液中の濃度を0.05〜1.0mMの濃度の範囲に保つ必要がある。前記濃度の範囲を下回る場合、初発時発光強度が減少し、実用的な測定感度を得ることができなくなる。一方、前記濃度の範囲を上回る場合、化学発光持続性が悪くなってしまう。
【0020】
(化学発光物質)
本発明に使用する化学発光物質としては、公知の各種化学発光物質を用いることができ、例えば、2,3−ジヒドロ−1,4−フタラジンジオン化合物を用いることができる。前記化学発光物質の具体的な例としては、例えば、ルミノール、イソルミノール、N−エチルイソルミノール、N−(4−アミノブチル)−N−エチルイソルミノールヘミサクシミド、N−(6−アミノヘキシル)−N−エチルイソルミノール等、あるいは、これらの金属塩が挙げられる。金属塩としては、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩等を用いることができる。アルカリ金属塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等が挙げられ、アルカリ土類金属塩としては、カルシウム塩、マグネシウム塩等が挙げられる。例えば、ルミノールまたはルミノール金属塩が安定性や発光量子収率の点で好ましい。ルミノール金属塩としては、ナトリウム塩を用いることができる。
【0021】
化学発光物質の含有量は、用いる酸化剤の種類、濃度または適用する測定方法等によって適宜設定すればよいが、初発時発光強度を高い値で維持するために、最終反応溶液中の濃度を0.5〜5.0mMの濃度の範囲に保つ必要がある。前記濃度の範囲を下回る場合、初発時発光強度が減少し、実用的な測定感度を得ることができなくなる。一方、前記濃度の範囲を上回る場合、高濃度の化学発光物質により、かえって化学発光反応が阻害され、実用的な測定感度を得ることができなくなる。
【0022】
(緩衝液)
本発明に使用する緩衝液は、特に限定されることはなく、例えば、酢酸緩衝液、クエン酸緩衝液、リン酸緩衝液、トリス緩衝液、グッド緩衝液、ホウ酸緩衝液、グリシン緩衝液、ピロリン酸緩衝液、アンモニウム緩衝液、炭酸緩衝液等が挙げられる。緩衝作用が優れた緩衝液であればよい。
【0023】
緩衝液のpHは、用いる化学発光物質もしくは酸化剤の種類、濃度または適用する測定方法等によって適宜設定すればよいが、初発時発光強度を高い値で維持するために、最終反応溶液中のpHを7.5〜10.0の範囲に保つことが好ましい。前記pHの範囲を下回る場合、初発時発光強度が減少し、実用的な測定感度を得ることができなくなる。一方、前記pHの範囲を上回る場合、化学発光持続性が悪くなってしまう。なお、緩衝液のpHは、緩衝剤の水溶液に無機アルカリあるいは無機酸の水溶液を加えることで調整することができる。
【0024】
(最終反応溶液)
前記のPOD、酸化剤、化学発光物質および緩衝液を含んでなる最終反応溶液中で、化学発光反応が起こる。初発時発光強度を高い値で維持するために、特に重要な因子として、最終反応溶液における酸化剤および化学発光物質の濃度、酸化剤および化学発光物質の濃度比、pHが挙げられる。これらを適正に選択して組み合わせることにより、高い発光持続性を実現することができる。
【0025】
最終反応溶液における化学発光物質ならびに酸化剤の濃度および緩衝液のpHは、上述したとおり、酸化剤濃度0.05〜1.0mM、化学発光物質濃度0.5〜5.0mMで、かつpH7.5〜10.0の範囲である。さらに、酸化剤および化学発光物質の濃度比を、酸化剤1に対して、化学発光物質を1.0〜20.0に保つ必要がある。最終反応溶液における各因子が前記範囲内であれば、化学発光反応開始10分後において70%以上の初発時発光強度を持続し、安定性、反応性および感度の優れた酵素免疫測定に供することができる。特に、酸化剤および化学発光物質の濃度比を上記の範囲に保つことが重要である。該濃度比が1.0を下回る場合は、化学発光反応開始10分後における発光強度は、初発時発光強度の70%を下回り、測定が極めて困難となる。一方、濃度比が20.0を上回る場合は、化学発光反応を開始後しばらくしてから急激に発光反応が進行してしまい、安定性を欠くため、測定が極めて困難となる。化学発光反応開始5分後における発光強度が、初発時発光強度の250%を上回る場合は、臨床検査等への応用は不向きとなる。
【0026】
なお、用いるPODが遊離状態であるか、抗体に標識した状態であるかの違いにより反応性が異なるため、前記の範囲で適宜選択するのが好ましく、例えば、遊離状態のPODを用いる場合、pHが7.5〜9.5で、かつ、酸化剤および化学発光物質の濃度比を、酸化剤1に対して、化学発光物質を1.0〜10.0とするのが好ましく、抗体に標識したPODを用いる場合、pHが8.0〜9.5で、かつ酸化剤および化学発光物質の濃度比を、酸化剤1に対して、化学発光物質を4.0〜20.0とするのが好ましい。
【0027】
以下、実施例により、本発明をさらに具体的に説明する。ただし、本発明の技術的範囲は、それらの例により何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0028】
[遊離状態のPODを用いた緩衝液の検討]
緩衝液の化学発光反応の発光持続性に対する影響を検討するため、各種緩衝液を調製し、実験に供することで比較検討を行った。100、200、300mMトリス緩衝液、100、150mMリン酸緩衝液および100、150mMクエン酸リン酸緩衝液を常法に従い調製した。PODとして、市販のPOD(Roche社製)を用い、約20mg/mlとなるように、酵素希釈用緩衝液(0.15% Triton X−405を含む0.05M リン酸緩衝液(pH6.4))に溶解し、さらに同希釈液で100万〜5,000万倍にPODを希釈して試験に供した。
【0029】
化学発光反応は、最終反応溶液中のルミノール(Sigma社製)および過酸化水素(和光純薬社製)の濃度が、表1に示す濃度となるよう、あらかじめ各緩衝液にルミノールおよび過酸化水素を溶解し、希釈した前記PODを添加して行った。初発時発光強度は、初発時(反応開始直後0分)、反応開始後5、10、15分における各発光量(1秒間の平均発光積算量)を、MicroLumatPlus LB 96V(Berthold社製)を用いて測定し、初発時の発光量を100%とする相対値として算出した。この結果を表1に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
表1に示すとおり、用いる緩衝液の種類によらず、最終反応溶液のpH、ルミノール濃度および過酸化水素濃度を適正に選択して組み合わせることにより、化学発光反応開始10分後においても、相対発光量が70%以上に維持されることが確認された。
【実施例2】
【0032】
[遊離状態のPODを用いた最終反応溶液中の各濃度の検討]
PODの発光持続性に、ルミノールおよび過酸化水素の濃度ならびに両者の濃度比が与える影響を検討した。化学発光反応は、200mM、pH8.5〜9.5のトリス緩衝液にルミノールおよび過酸化水素の終濃度が表2、3に示す濃度となるよう、あらかじめ各緩衝液に溶解し、同じく表2、3に示すような最終反応溶液濃度になるように調製した試薬に、実施例1と同様に希釈した市販のPODを添加することで行った。初発時発光強度は、実施例1の方法と同様に測定した。結果を表2、3に示す。
【0033】
【表2】

【0034】
【表3】

【0035】
表2、3に示すとおり、最終反応溶液のpH、ルミノール濃度および過酸化水素濃度を適正に選択して組み合わせることにより、発光反応開始後も高い発光持続性を保つことが確認された。
【0036】
遊離状態のPODを用いて化学発光測定に供した場合、緩衝液のpHにもよるが、最終反応溶液中に含まれるルミノールおよび過酸化水素の濃度範囲が、それぞれ0.5〜5.0mMおよび0.05〜1.0mMの範囲内で、かつ、ルミノール/過酸化水素の濃度比が、1.0〜10.0において、高い発光安定性および発光持続性が保たれることがわかる。また、緩衝液のpHが8.5の場合、ルミノール/過酸化水素の濃度比は、1.0〜5.0が好ましく、緩衝液のpHが9.0〜9.5の場合、濃度比は5.0〜10.0が好ましい。濃度比が10を越える場合、反応直後に急激に発光量が増加し、安定性が保たれなくなってしまうため、正確な値を測定できなくなってしまう。一方、濃度比が低くなるにつれ、化学発光持続性が悪くなってしまい、濃度比が1を下回る場合は、実測に耐えられなくなってしまう。
【実施例3】
【0037】
[POD標識マウスIgG抗体を用いた最終反応溶液中の各濃度の検討]
次に、POD標識抗体を用いた際の、最終反応溶液の成分条件を検討した。
1.抗マウスIgG抗体へのPOD標識
抗マウスIgG抗体へのPOD標識を、以下のように行った。
1)IgG−SHの調製
ヤギ抗マウス抗体(IgG)を、0.15M NaClおよび10mM EDTAを含む0.1M リン酸ナトリウム緩衝液(pH6.4)に溶液置換し、1〜10mg/mlとなるように調製した。500mM システアミン(Sigma社製;製品コード:M9768−25G)(システアミン6mgを0.15M NaClおよび10mM EDTAを含む0.1M リン酸ナトリウム緩衝液(pH6.4)0.1 mlに溶解)を調製し、前記の抗体溶液に1/10(v/v)量加え、37℃にて1.5時間インキュベーションした。過剰なシステアミンを透析あるいはゲルろ過カラムSephadex G−25(GE社製;製品コード:17−0033−01、平衡化液:0.15M NaClおよび10mM EDTAを含む0.1M リン酸ナトリウム緩衝液(pH6.8)、溶出液:平衡化液と同様、カラムサイズ:10ml、重力による溶出)により除去した。
2)マレイミド化PODの調製
市販のPOD(Roche社製)を10〜30mg/mlとなるように、0.15M NaClおよび10mM EDTAを含む0.1M リン酸ナトリウム緩衝液(pH7.4)に溶解した。100mM SMCC(Pierce社製;製品コード、22360)(3.34mgを0.1mlのDMSOに溶解)を調製し、直ちにPODのモル濃度の5倍量を加えた。室温で30分間インキュベーションし、前記の条件に従って、ゲルろ過カラムSephadex G−25に供し、過剰なSMCCを除去した。酵素濃度を、403nmにおける吸光度測定値から、ε403nm=8.33×10l/(mol・cm)を用いて求めた。
3)マレイミド化PODによる抗体の標識(架橋)および標識抗体の精製
前記のマレイミド化PODおよびSH基還元抗体(溶媒は0.15M NaClおよび10mM EDTAを含む0.1M リン酸ナトリウム緩衝液(pH6.8))を、酵素:抗体のモル比が10:1となるように混合した。4℃で6時間以上(一晩)インキュベーションした後、標識(架橋)後の反応溶液を、0.5M NaClを含む0.1M リン酸ナトリウム緩衝液(pH6.8)で平衡化したSuperdex 200 10/300GL(GE社製;製品コード:17−5175−01、溶出:0.5M NaClを含む0.1M リン酸ナトリウム緩衝液(pH6.8)、カラムサイズ:約24ml、流速:0.5ml/min)に供することにより、抗体と結合されなかった酵素を除去して、POD標識抗マウスIgG(IgGのPOD標識抗体、POD−IgG)を得た。
【0038】
2.ELISA法におけるPOD−IgGを用いたマウスIgGの検出
8% NaClおよび0.2% KClを含む0.01M リン酸ナトリウム緩衝液(pH7.4)で、1μg/mlの濃度に調製したマウスIgG溶液(抗ヒトトランスフェリンモノクローナル抗体(バイオマトリックス研究所社製))を用い、定法により、96ウェルマイクロタイタープレート中にマウスIgGを固相化した。その後、0.05% Tween 20および150mM NaClを含む50mM トリス塩酸緩衝液(pH 7.5)で3回洗浄した。ここに、1%スキムミルク、0.05% Tween 20および150mM NaClを含む50mM トリス塩酸緩衝液(pH 7.5)を用い、定法により、96ウェルマイクロタイタープレートをブロッキングした。その後、0.05% Tween 20および150mM NaClを含む50mM トリス塩酸緩衝液(pH 7.5)で3回洗浄した。次に、0.1%スキムミルク、0.05% Tween20および150mM NaClを含む50mM トリス塩酸緩衝液(pH 7.5)で、10〜50ng/mlの濃度に調製した前記POD標識抗体(POD−IgG)を添加し、室温で1時間反応させた。その後、0.05% Tween 20および150mM NaClを含む50mM トリス塩酸緩衝液(pH 7.5)で3回洗浄した。
【0039】
化学発光反応は、100mM、pH8.0〜9.0のトリス緩衝液あるいは200mM、pH9.0〜9.5のトリス緩衝液に、ルミノールおよび過酸化水素の終濃度が表4に示す濃度となるよう、あらかじめ各緩衝液に溶解し、同じく表4に示すような最終反応溶液濃度になるように調製した試薬を、上記のように調製した96ウェルマイクロタイタープレートに添加し、一定時間反応させることで行った。初発時発光強度は、実施例1の方法と同様に測定した。結果を、表4に示す。
【0040】
【表4】

【0041】
表4に示すとおり、最終反応溶液のpH、ルミノール濃度および過酸化水素濃度を適正に選択して組み合わせることにより、発光反応開始後も高い発光持続性を保つことが確認された。
【0042】
市販のPODをPOD標識抗体(POD−IgG)として用い、化学発光測定に供した場合、最終反応溶液中に含まれるルミノールおよび過酸化水素の濃度範囲が、それぞれ1.0〜3.0mMおよび0.11〜0.22mMの範囲内であり、かつ、ルミノール/過酸化水素の濃度比が、4.0〜20.0において、高い発光安定性および発光持続性が保たれることがわかる。ルミノール/過酸化水素の濃度比が20.0を越える場合、発光持続性は高く保たれるものの、絶対的な発光強度が低くなってしまい、実測に耐えられないものであった。発光強度の観点から、ルミノール/過酸化水素の濃度比は、4.0〜20.0が好ましい。
【実施例4】
【0043】
[POD標識マウスIgG抗体を用いた緩衝液の検討]
化学発光反応は、表5に示す各種緩衝液に、ルミノールおよび過酸化水素を溶解し、同じく表5に示すような最終反応液濃度になるように調製した試薬を、実施例3と同様に作製した96ウェルマイクロタイタープレートに添加し、一定時間反応させることで行った。初発時発光強度は、実施例1と同様に測定した。結果を表5に示す。
【0044】
【表5】

【0045】
表5に示すとおり、緩衝液の違いによらず、最終反応溶液のpH、ルミノール濃度および過酸化水素濃度を適正に選択して組み合わせることにより、発光反応開始後も高い発光持続性を保つことが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)担子菌由来ペルオキシダーゼ
(b)酸化剤
(c)化学発光物質
(d)緩衝液
を含んでなるペルオキシダーゼ化学発光測定試薬であって、化学発光反応開始時において、(b)濃度0.05〜1.0mM、(c)濃度0.5〜5.0mMでかつ(d)pHが7.5〜10.0であることを特徴とするペルオキシダーゼ化学発光測定試薬。
【請求項2】
請求項1に記載の(a)がCoprinus属由来ペルオキシダーゼで、(b)が過酸化水素で、かつ(c)がルミノールまたはその塩であることを特徴とするペルオキシダーゼ化学発光測定試薬。
【請求項3】
請求項1〜2に記載の(a)が遊離状態のペルオキシダーゼであって、(b)および(c)の濃度比が、(b)濃度1に対して、(c)濃度が1.0〜10.0の範囲で、かつ、(d)pHが7.5〜9.5の範囲であることを特徴とするペルオキシダーゼ化学発光測定試薬。
【請求項4】
請求項1〜2に記載の(a)が抗体に標識したペルオキシダーゼであって、(b)および(c)の濃度比が、(b)濃度1に対して、(c)濃度が4.0〜20.0の範囲で、かつ、(d)pHが8.0〜9.5の範囲であることを特徴とするペルオキシダーゼ化学発光測定試薬。

【公開番号】特開2010−281652(P2010−281652A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−134576(P2009−134576)
【出願日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【出願人】(000004477)キッコーマン株式会社 (212)
【Fターム(参考)】