説明

ペルフルオロ五員環化合物

ペルフルオロ化されたテトラヒドロフラン環構造、およびペルフルオロ化されたジオキソラン環構造等のペルフルオロ化された五員環構造を有する新規な化合物を提供する。該新規な化合物は、フッ素樹脂用モノマーおよびフッ素系溶剤等の機能性材料、もしくはそれらの中間体として有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、種々の機能性材料やその中間体として有用であり、かつ新規な2−置換(ヘプタフルオロテトラヒドロフラン)誘導体およびペルフルオロジオキソラン誘導体等の、ペルフルオロ化された五員環化合物に関する。より詳しくは、本発明は、フッ素樹脂用モノマー製造用中間体、フッ素系溶剤、およびこれらの製造原料等として有用な新規な化合物に関する。
【背景技術】
ペルフルオロ化されたテトラヒドロフラン環構造およびペルフルオロ化されたジオキソラン環構造等のペルフルオロ化された五員環構造を有する化合物は、ペルフルオロ化された5員環の環状エーテル構造に基づく種々の物性が期待できる化合物である。これまでに本発明者らは、より工業的に有利な方法で安価な原料からペルフルオロ化されたテトラヒドロフラン環構造を有する化合物を製造する方法を提供している(国際公開02/66452号パンフレット参照)。
一方、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)に代表されるフッ素樹脂は、化学的安定性および熱的安定性に優れ、かつ耐薬品性を有することから、電子産業等の種々の機能性材料として用いられている。しかし、汎用のフッ素樹脂は、溶融粘度が高いために成形がしにくい問題や、ポリマー主鎖の結晶性が高いために透明性が低い等の欠点も有していた。該欠点を改良する方法として、鎖状のパーフルオロアルキルビニルエーテル等のフッ素系モノマーを第2成分として共重合させたフッ素樹脂が提案されている(国際公開00/02935号パンフレット参照)。しかし、ポリマー物性を充分に改良するには、第2成分の共重合割合を増加させる必要があり、一方で、第2成分の共重合割合の増加はフッ素樹脂製品の耐熱性を低下させる要因になる問題があった。
また、1,1,2−トリクロロ−1,2,2−トリフルオロエタン(以下、R−113と記す。)に代表されるクロロフルオロカーボン(CFC)は、地球規模の環境保護の観点からその製造および使用が制限されている。CFCの代替化合物の1つにヒドロフルオロエーテル(HFE)があり、種々の構造の化合物が提案されている。該化合物としては、ペルフルオロ化環状エーテル構造を有する化合物が提案されていたが、該化合物は製造がしにくい問題があった。また、フッ素原子と水素原子の導入位置が制御された純度の高い化合物は提供されていなかった。
本発明は上記の問題を解決する目的でなされたものである。すなわちペルフルオロ化されたテトラヒドロフラン環構造およびペルフルオロ化されたジオキソラン環構造等のペルフルオロ化された五員環構造を有する有用な化合物を新規に提供する。また、本発明は該化合物を誘導体化することによって、フッ素樹脂用モノマーとして有用な化合物、および、洗浄性およびその汎用性に優れ、かつ、環境問題にも対応する化合物の提供を目的とする。
【発明の開示】
本発明者らはペルフルロ化された環状エーテル誘導体を製造する方法を検討した。その結果、ペルフルオロテトラヒドロフラン骨格等のペルフルオロ化された五員環構造を有する特定の環状エーテル化合物から、新規なフッ素系モノマーおよびフッ素系溶剤として有用な新規な化合物が提供されることを見いだした。
すなわち本発明は、以下に示す式で表される化合物を提供する。
1.下式(1)で表される化合物。

ただし、Q、Q、Q、およびQは、それぞれ独立に、−O−または−CR−(ただし、RおよびRは、それぞれ独立に、フッ素原子またはペルフルオロアルキル基であり、Q〜Qから選ばれる、隣り合う2個以上の基は同時に−O−にはならない。)であり、Rはフッ素原子またはペルフルオロアルキル基である。
2.下式(1a)で表される化合物、下式(1b)で表される化合物、または下式(1c)で表される化合物。

3.下式(2)で表される化合物。

ただし、Q〜QおよびRは、前記と同じ意味を示す。
4.下式(2a)で表される化合物、下式(2b)で表される化合物、または下式(2c)で表される化合物。

5.下式(3)で表される化合物。

ただし、Q〜QおよびRは、前記と同じ意味を示す。
6.下式(3a)で表される化合物。

【発明を実施するための最良の形態】
本明細書においては、式(1)で表される化合物を化合物(1)とも記す。他の式で表される化合物についても同様である。
本発明において、Q、Q2、、およびQは、それぞれ独立に、−O−または−CR−(ただし、RおよびRは、それぞれ独立に、フッ素原子またはペルフルオロアルキル基であり、Q〜Qから選ばれる、隣り合う2個以上の基は同時に−O−にはならない。)であり、Rはフッ素原子またはペルフルオロアルキル基である。R、RおよびRがそれぞれペルフルオロアルキル基である場合、該基は直鎖構造または分岐構造であるのが好ましく、また、炭素数1〜4の基が好ましく、トリフルオロメチル基が特に好ましい。Q〜Qが、それぞれ−CR−である場合のRおよびRは、それぞれ独立に、フッ素原子またはトリフルオロメチル基が好ましい。また、Rはフッ素原子またはトリフルオロメチル基が好ましい。
式(1)、式(2)、および式(3)において、Q〜Qで形成される五員環の基としては、たとえば、下式(a)〜(s)で表される基が挙げられ、フッ素樹脂用モノマーおよびフッ素系溶剤としての有用性の点から下式(a)〜(c)で表される基のいずれかの基が好ましい。

式(1)で表される化合物としては、後述する式(1a)、式(1b)、又は式(1c)で表される化合物が好ましい。
本発明の式(1)で表される化合物は、つぎの方法で製造できる。
すなわち、下式(4)で表される化合物を原料とし、これを本出願人によるWO02/66452に記載する方法にしたがって、エステル化、フッ素化およびエステル結合の分解反応を行うことにより、下式(7)で表されるペルフルオロ化されたアシルフルオリドを得る。次に、下式(7)で表されるペルフルオロ化されたアシルフルオリドにヘキサフルオロプロピレンオキシド(以下、HFPOと記す。)を反応させる方法である。化合物(4)から化合物(7)を製造する工程は、WO02/66452に記載する方法および条件と同様に実施できる。

ただし、式中のQ〜Q、およびRは前記と同じ意味を示す。Q1HとQ、Q2HとQ、Q3HとQ、Q4HとQはそれぞれ対応し、Q〜Qがそれぞれ−O−である場合のQ1H〜Q4Hは−O−であり、Q〜Qが−CR−である場合のQ1H〜Q4Hは−CR−中のフッ素原子を水素原子に置換した基である。またR1HはRに対応し、Rがフッ素原子である場合のR1Hは水素原子、Rがペルフルオロアルキル基である場合のR1Hは該ペルフルオロアルキル基と同一炭素骨格を有するアルキル基である。
は、ペルフルオロ化された1価有機基を示し、ペルフルオロアルキル基、または、ペルフルオロ(エーテル性酸素原子含有アルキル基)が好ましい。Rの好ましい例としては、−CFCF(CF、−CF(CF)OCFCFCF、−CF(CF)OCFCF(CF)OCFCFCF等が挙げられる。Xはハロゲン原子を示し、フッ素原子が好ましい。
たとえば、化合物(1a)は、2−テトラヒドロフルフリルアルコールに下式(10)で表される化合物(ただし、Rは前記と同じ意味を示す。)をエステル化反応させて下式(5a)で表される化合物とし、該化合物(5a)を液相中でフッ素と反応させることによってペルフルオロ化して下式(6a)で表される化合物とし、該化合物(6a)のエステル結合の分解反応を行うことによって下式(7a)で表される2,3,3,4,4,5,5−ヘプタフルオロテトラヒドロフラン−2−アシルフルオリドを得る。つぎに該化合物(7a)にHFPOを反応させる方法で製造できる。

化合物(1b)は、2,2−ジメチル−4−メチロール−1,3−ジオキソランに、化合物(10)(ただし、Rは前記と同じ意味を示す。)をエステル化反応させて化合物(5b)とし、該化合物(5b)を液相中でフッ素と反応させることによってペルフルオロ化して化合物(6b)とし、該化合物(6b)のエステル結合の分解反応を行うことによってペルフルオロ−2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン−4−アシルフルオリド(7b)を得る。つぎに該化合物(7b)にHFPOを反応させることによって製造できる。

化合物(1c)は、2,4−ジメチル−2−メチロール−1,3−ジオキソランに、化合物(10)(ただし、Rは前記と同じ意味を示す。)をエステル化反応させて化合物(5c)とし、該化合物(5c)を液相中でフッ素と反応させることによってペルフルオロ化して化合物(6c)とし、該化合物(6c)のエステル結合の分解を行うことによってペルフルオロ−2,4−ジメチル−1,3−ジオキソラン−2−アシルフルオリド(7c)を得る。つぎに該化合物(7c)にHFPOを反応させることによって製造できる。

また、化合物(7c)は上記以外の方法(たとえば、米国特許3475456号公報に記載の方法等)によっても製造することができ、該方法によって入手した化合物(7c)にHFPOを反応させて化合物(1c)を得てもよい。
化合物(7)にHFPOを付加させて、化合物(1a)〜(1c)等の化合物(1)を得る反応は、触媒の存在下に実施するのが好ましい。この際、化合物(7)は、HFPOに対して、通常は0.5〜2.0倍モルを反応させるのが好ましく、特には0.9〜1.1倍モルを反応させるのが好ましい。
化合物(7)とHFPOとの反応に用いうる触媒としては、アルカリ金属フッ化物およびアルカリ土類金属フッ化物の中から選ばれる1種以上の金属フッ化物が好ましい。アルカリ金属フッ化物としては、フッ化カリウム、フッ化ナトリウム、およびフッ化セシウム等が好ましく、アルカリ土類金属フッ化物としては、フッ化カルシウム等が好ましい。アルカリ金属フッ化物またはアルカリ土類金属フッ化物を使用する場合の量は、HFPOに対して0.01〜0.7倍モルが好ましく、0.05〜0.7倍モルが特に好ましく、とりわけ0.1〜0.4倍モルが好ましい。化合物(7)に対しては0.005〜0.3倍モルが好ましく、0.01〜0.1倍モルが特に好ましい。該量が多すぎるとHFPO自体がオリゴメリ化して収率が低下するおそれがある。
化合物(7)とHFPOとの反応は、溶媒の存在下に行うのが好ましい。溶媒は、非プロトン性極性有機溶媒を使用するのが好ましい。非プロトン性極性有機溶媒としては特に制限されず、たとえば、モノグライム、ジグライム、トリグライム、テトラグライム、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類、アセトニトリル、プロピオニトリル、アジポニトリル等のニトリル類、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等の鎖状アミド類、および1、3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N−メチル−2−ピロリドン等の環状アミド等から選ばれる1種または2種以上の溶媒が挙げられる。
化合物(7)とHFPOとの反応に溶媒を使用した場合には、HFPOのオリゴメリ化が防止できるので、溶媒は使用したほうがよい。溶媒を使用する場合の量は、化合物(7)およびHFPOの合計量(触媒を使用する場合には前記合計量に触媒量を加えた量)に対して、上限は3倍質量が好ましく、2倍質量が特に好ましく、0.5倍質量がとりわけ好ましい。下限は0.001倍質量が好ましく、0.01倍質量が好ましく、0.05倍質量がとりわけ好ましい。通常の場合の溶媒の使用量は0.01〜0.5倍質量が好ましい。
化合物(7)とHFPOとの反応においては、反応の系中に水および/またはルイス酸(たとえばプロトン酸など)が存在すると、好ましくない反応が起こるおそれがあるため、系中のこれらの量をできるだけ少なくするのが好ましい。反応の系中に存在しうる水およびルイス酸の量は、それぞれ0.005質量%以下にするのが好ましい。系中の水分量を少なくすることにより、化合物(7)やHFPOが水と反応して反応収率が低下する現象を防止できる。また、ルイス酸量を少なくすることにより、触媒活性を長期に保つことができ、かつ反応転化率が高くなりうる。
化合物(7)とHFPOとの反応において、圧力は特に制限されず、減圧、常圧、または加圧系で反応は実施でき、操作性等の観点からは1.1MPa(ゲージ圧)以下で反応を実施することが好ましい。反応温度は、反応溶媒の種類等により適宜変更され、通常は+80℃以下にするのが好ましく、特に−50℃〜+80℃にするのが好ましく、−20℃〜+30℃にするのがとりわけ好ましい。反応温度を高温にしすぎると、目的とする反応と同時に、フッ素イオンを触媒としたHFPOのオリゴメリ化が競争的に進行し、収率が低下する可能性がある。
化合物(1)は、それ自身が溶剤等として利用できる有用な化合物であり、かつ新規な化合物である。特に化合物(1a)〜(1c)は、含フッ素化合物を良好に溶解しうる溶剤として有用である。さらに該化合物(1)は−COF基の反応性を利用して、種々の有用な化合物に誘導体化できる。たとえば、化合物(1a)〜(1c)等の化合物(1)の気相熱分解反応またはカルボン酸塩の熱分解により、化合物(2)が製造できる。
化合物(1)を気相熱分解反応して化合物(2)を得る反応は、連続式反応で行うのが好ましい。連続式反応は、加熱した反応管中に、化合物(1)を気体状で通過させて、分解反応を行い、分解反応で生成した化合物(2)を、凝縮し、連続的に回収する方法により実施するのが好ましい。気相熱分解の反応温度は、+100〜+450℃が好ましく、とりわけ+200〜+400℃が好ましい。反応温度が高くなりすぎると、化合物(2)がさらに分解して収率が低下するおそれがある。一方、反応温度が低すぎると、化合物(1)の反応率が低下するおそれがある。
化合物(1)の気相熱分解反応においては、管型反応器を用いるのが好ましい。管型反応器を用いる場合の滞留時間は、空筒基準で0.1秒〜10分程度が好ましい。反応圧力は特に限定されない。該管型反応器には、反応を促進させる目的で、管中にガラス、アルカリ金属の塩、またはアルカリ土類金属の塩等を充填するのが好ましい。アルカリ金属の塩またはアルカリ土類金属の塩としては、炭酸塩が好ましい。アルカリ金属の塩の具体例としては、炭酸ナトリウム(軽灰等であってもよい。)、炭酸カリウム、炭酸リチウム等が挙げられる。アルカリ土類金属の炭酸塩の具体例としては、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム等が挙げられる。ガラスとしては、一般的なソーダライムガラスが挙げられ、特にビーズ状にして流動性を上げたガラスビーズが好ましい。さらに、管式反応管中にガラス、アルカリ金属の塩、またはアルカリ土類金属の塩を充填させる場合には、粒径が100〜250μm程度であるものを用いると、流動床型の反応形式を採用できることから特に好ましい。
熱分解反応を気相反応で実施する場合は、化合物(1)の気化を促進する目的で、熱分解反応には直接は関与しない不活性ガスを存在させて反応を行うのが好ましい。不活性ガスとしては、窒素ガス、二酸化炭素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガス等が挙げられる。不活性ガス量は、化合物(1)に対して0.01〜98体積%程度が好ましく、0.01〜50体積%程度が特に好ましい。不活性ガス量が多すぎると、化合物(2)の回収量が低くなるおそれがある。
一方、化合物(1)をカルボン酸塩とした後に熱分解することによって化合物(2)を製造する方法において、カルボン酸塩としては、アルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩が好ましい。アルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩は、アルカリ金属水酸化物またはアルカリ土類金属水酸化物を水溶液とし、該水溶液に化合物(1)を中和点まで加え、つぎに水を除去して乾燥する方法により得るのが好ましい。カルボン酸塩の熱分解反応は、加熱することにより実施できる。熱分解反応で発生するガス成分には化合物(2)が含まれることから、該ガスを低温冷却したトラップ中に回収するのが好ましい。熱分解反応の温度は+100〜+400℃が好ましく、+200〜+350℃が特に好ましい。
熱分解反応によれば、化合物(1a)からは化合物(2a)が得られ、化合物(1b)からは化合物(2b)が得られ、化合物(1c)からは化合物(2c)が得られる。
熱分解反応で得た化合物(2)の用途は特に限定されない。たとえば、該化合物は、重合しうるフッ化ビニル基を有する化合物であることから、フッ素樹脂用モノマーとして有用であり、かつ新規な化合物である。化合物(2)としては、化合物(2a)、化合物(2b)、または化合物(2c)が好ましい。該化合物(2)は、汎用のフッ素樹脂用モノマーと共重合させることによって、有効に物性が改良されたフッ素樹脂が提供されうる。たとえば、化合物(2a)を共重合させた共重合体は、立体的に嵩高い基であるペルフルオロ化されたテトラヒドロフラン環構造を側鎖に持つ共重合体になり、または化合物(2b)、または化合物(2c)を重合させた共重合体は、立体的に嵩高い基であるペルフルオロ化されたジオキソラン環構造を側鎖に持つ共重合体であるため、たとえ少量の共重合であってもフッ素樹脂等の物性を有効に改良しうる。
化合物(1)からは、化合物(3a)等の化合物(3)もまた製造できる。化合物(3)は、化合物(1)をカルボン酸塩とし、つぎにプロトン性溶媒中で熱分解することにより製造できる。化合物(3)としては、下記化合物(3a)、下記化合物(3b)、または下記化合物(3c)が好ましい。化合物(3a)等の化合物(3)は、含フッ素溶剤等として有用な化合物である。

化合物(1)から化合物(3)を製造する方法において、カルボン酸塩としては、アルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩が好ましい。アルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩は、アルカリ金属水酸化物またはアルカリ土類金属水酸化物をプロトン性溶媒の溶液とし、該溶液に化合物(1)を中和点まで加えることにより、該塩の溶液または懸濁液として得るのが好ましい。つぎに該カルボン酸塩を、プロトン性溶媒中で熱分解させる。プロトン性溶媒としては、水、アルコール、グリコール類等から選ばれる1種または2種以上の溶媒が好ましい。プロトン性溶媒の量は、カルボン酸塩が溶解する量よりも多い量が好ましい。また、熱分解の温度は+30〜+200℃が好ましく、+50〜+200℃が特に好ましく、+80〜+150℃がとりわけ好ましい。
該製造方法においては、得られたカルボン酸塩をいったん取り出して、プロトン性溶媒中で熱分解を行ってもよく、カルボン酸塩を製造する工程と、熱分解する工程とを、同一の反応器で連続して行ってもよい。
化合物(3a)等の化合物(3)は、化合物(2)にHFを付加することによっても製造できる。HFの付加反応は液相で行うのが好ましく、反応条件は化合物(2)の反応性等により適宜設定される。
化合物(3a)等の、化合物(3)は、フッ素系溶剤としての安定性、不燃性、および安全性等の性質を併せ持つ化合物である。また、溶剤特性、洗浄特性などのバランスにも優れることから、フッ素系溶剤が適用される各種の用途に用いることができる新規化合物である。また、化合物(3)は、炭化水素類や、ハロゲン化合物、エーテル類、エステル類、アルコール類等とも相溶しうることから、これらとの組成物を形成させて、種々の用途に使用できる。
【実施例】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されない。圧力は特に記載しない限りゲージ圧で表記し、ガスクロマトグラフィーをGC、ガスクロマトグラフー質量分析法をGC−MSと表記する。
なお、GC−MSは電子イオン化衝撃法により測定し、HNMRおよび19FNMRは下記の条件で測定した。
HNMRの共鳴周波数は300.4MHz、溶媒はCDCl、標準物質はTMSとした。
19FNMRの共鳴周波数は例1−2と例1−3においては376.0MHz、その他の例においては282.7MHz、溶媒はCDCl、標準物質はCClFとした。
[例1]化合物(1a)の合成例
(例1−1)エステル化反応の例

2−テトラヒドロフルフリルアルコール(20g)とトリエチルアミン(21.8g)をフラスコに入れ、氷浴下撹拌した。FCOCF(CF)OCFCFCF(71.5g)を内温を10℃以下に保ちながら1時間かけて滴下した。滴下終了後、室温で2時間撹拌し、水50mLを内温15℃以下で加えた。
得られた粗液を分液し、下層を水50mLで2回洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥した後、ろ過し、粗液を得た。減圧蒸留で目的のエステル化合物(66.3g)を88〜89℃/2.7KPa(絶対圧)の留分として得た。GC純度は98%であった。NMR分析により化合物(5a−1)の生成を確認した。
化合物(5a−1)のNMRスペクトル;
HNMR:δ(ppm)1.60〜1.73(m,1H),1.86〜2.10(m,3H),3.76〜3.91(m,2H),4.14〜4.22(m,1H),4.28〜4.47(m,2H)。
19FNMR:δ(ppm)−79.9(1F),−81.3(3F),−82.1(3F),−86.4(1F),−129.5(2F),−131.5(1F)。
(例1−2)フッ素化反応の例

500mLのニッケル製オートクレーブに、R−113(313g)を加えて撹拌し、25℃に保った。オートクレーブガス出口には、20℃に保持した冷却器、NaFペレット充填層、および−10℃に保持した冷却器を直列に設置した。なお、−10℃に保持した冷却器からは凝集した液をオートクレーブに戻すための液体返送ラインを設置した。窒素ガスを1.0時間吹き込んだ後、窒素ガスで20%に希釈したフッ素ガス(以下、20%フッ素ガスと記す。)を、流速8.08L/hで1時間吹き込んだ。つぎに、20%フッ素ガスを同じ流速で吹き込みながら、例1−1の方法で得た化合物(5a−1)(5.01g)をR−113(100g)に溶解した溶液を4.7時間かけて注入した。
さらに、20%フッ素ガスを同じ流速で吹き込みながら、ベンゼン濃度が0.01g/mLのR−113溶液を25℃から40℃にまで昇温しながら9mL注入し、オートクレーブのベンゼン注入口を閉め、更にオートクレーブの出口バルブを閉め、圧力が0.20MPaになったところでオートクレーブのフッ素ガス入り口バルブを閉めて、0.4時間撹拌を続けた。つぎに圧力を常圧にし、反応器内温度を40℃に保ちながら、上記のベンゼン溶液を6mL注入し、オートクレーブのベンゼン注入口を閉め、更にオートクレーブの出口バルブを閉め、圧力が0.20MPaになったところでオートクレーブのフッ素ガス入り口バルブを閉めて、0.4時間撹拌を続けた。さらに、同様の操作を3回くり返した。ベンゼンの注入総量は0.33g、R−113の注入総量は(33mL)であった。さらに、窒素ガスを1.0時間吹き込んだ。目的物を19FNMRで定量したところ、化合物(6a−1)の生成が確認された。収率は64%であった。
化合物(6a−1)のNMRスペクトル;
19FNMR:δ(ppm)−80.3(1F),−81.9(3F),−82.1(3F),−83.5〜−84.8(2F),−85.5〜−88.0(3F),−126.5(1F),−127.4(1F),−128.1(1F),−130.2(2F),−130.4(1F),−132.2(1F),−135.8(1F)。
(例1−3)熱分解反応の例

例1−2の方法で得た化合物(6a−1)(2.1g)をNaF粉末(0.02g)と共にフラスコに仕込み、激しく撹拌を行いながらオイルバス中で140℃で10時間加熱した。フラスコ上部には−10℃に温度調節した還流器を設置した。冷却後、液状サンプル(2.0g)を回収し、これを精密蒸留して化合物(7a)(0.8g)を回収した。化合物(7a)の構造は19FNMRにより確認した。
化合物(7a)のNMRスペクトル;
19FNMR:δ(ppm)26.6〜26.3(1F),−82.6〜−83.9(2F),−117.9〜−118.3(1F),−125.7〜−127.0(2F),−128.9〜−129.9(1F),−134.4〜−135.3(1F)。
(例1−4)HFPOの付加反応の例

1Lの内容積を持つハステロイ−C製オートクレーブ中に、脱水乾燥したCsF(16.5g)を仕込んだ後に、反応器内を脱気した。この反応器中に例1−3の方法で得た化合物(7a)(662g、2.7mol)とテトラグライム(139g)を仕込んだ後に、反応器を−20℃に冷却し、反応器内圧が微減圧を保つようにしながらHFPOを連続的に供給した。反応温度が0℃以上に上がらないように供給量をコントロールしながらHFPO(450g、2.7mol)を供給した。反応終了後に分液ロートによりフルオロカーボン層(下層)(1010g)を回収した。フルオロカーボン層に含まれる化合物が化合物(1a)であることを19FNMR、GC−MSスペクトル解析により決定した。ただし、下式においてFに付したa〜pの記号は、19FNMRにおけるフッ素原子の帰属を特定するための記号である。

化合物(1a)のNMRスペクトル;
19FNMR:δ(ppm)26.83(F,s,1F),−77.58〜−86.56(F and F,m,2F),−82.18(F and F.s,3F),−83.28〜−84.14(F and F,m,2F),−126.40(F,s,1F),−126.88〜−128.55(F and F,m,2F),−129.82〜−136.07(F and F,m,2F),−130.98(F,bs,1F).
化合物(1a)のGC−MSスペクトル;
MS(m/z):391(M−F),363,341,313,301,275,247,213,197,169,150,131,119,100,97,69,47(calculated Exact mass of C:409.96)。
[例2]化合物(2a)の合成例

例1−4で得たフルオロカーボン層をテトラグライムで2回洗浄した後、KOH(330g)を溶解した水溶液中に滴下して、中和した後に、水を留去し、得られた白色固体を真空オーブン中で100℃で2日間減圧乾燥を行った。この後、減圧状態を保ったまま液体窒素温度に冷却した金属製トラップを接続し、乾燥機内の温度を270℃まで昇温した。分解反応によって発生するガスを金属トラップ内に回収しながら、ガス発生が終了するまで反応を継続し、化合物(2a)(700g)を回収した。化合物(2a)の構造は、19FNMR、HNMR、GC−MSスペクトル解析により決定した。ただし、下式においてFに付したa〜mの記号は、19FNMRにおけるフッ素原子の帰属を特定するための記号である。

化合物(2a)のNMRスペクトル;
19FNMR:δ(ppm)−83.56(F,d,1F,J=39Hz),−83.59(F,1F,J=39Hz),−83.47〜−83.59,−84.03〜−84.09,−84.82〜−84.88,and −85.32〜−85.39(F and F,AB quartet,2F),−112.97〜−113.49(F,dd,1F,J=84Hz,J=66Hz),−120.96〜−121.67(F,ddm,1F,J=112Hz,J=84Hz),−125.67(F,bs,1F),−127.15,−128.08,−129.15,and −130.06(F and F,AB quartet,2F),−134.65〜−135.32(F,ddt,1F,J=112Hz,J=66Hz,J=6.5Hz),−126.08〜−127.15(F,dm,1F,J=250Hz),−134.55〜−135.48(F,dm,1F,J=250Hz)。
化合物(2a)のGC−MSスペクトル;
MS(m/z):344,325,275,247,197,169,159,147,131,119,100,97,69,50,47(calculated Exact mass of C12:343.97。)
[例3]化合物(3a)の合成例

例1−4で得たフルオロカーボン層をテトラグライムで2回洗浄した後、KOH(330g)を溶解した水溶液中に滴下し、中和後、テトラグライム(100g)を添加して溶液を得た。該溶液を耐圧反応器に仕込み、120℃まで加熱し撹拌を行った。反応の進行に伴って、反応器内部の圧力上昇が確認された。4時間反応後、室温まで冷却後に反応液を回収すると、水相と有機相(下相)に分離したので、有機相を回収し、脱水した後に蒸留で精製して、化合物(3a)(750g)を回収した。化合物(3a)の構造は19FNMR、HNMR、GC−MSスペクトルにより決定した。ただし、下式においてFに付したa〜nの記号は、FNMRにおけるフッ素原子の帰属を特定するための記号である。

化合物(3a)のNMRスペクトル;
19FNMR:δ(ppm)−82.24〜−82.84(F,ddd,1F,J=144Hz,17Hz,9Hz),−83.48〜−84.12(F,ddd,1F,J=145Hz,7Hz,7Hz),−83.59 and −83.97(F,F and F,3F),−84.71〜−85.29(F,ddd,1F,J=144Hz,16Hz,6Hz),−86.13〜−86.68(F,dm,1F,J=144Hz),−125.64〜−127.88(F and F,m,2F),−126.05〜−127.09(F,m,1F),−128.91〜−129.96(F,dm,1F,J=250Hz),−134.33〜−135.30(F,dm,1F,J=250Hz),−144.80〜−145.06(F,dm,1F,JH−F=55Hz)。
HNMR:δ(ppm)6.0(dq,1H,Jgem=54Hz,Jvic=3Hz)。
化合物(3a)のGC−MSスペクトル;
MS(m/z):345(M−F),295,247,225,197,169,167,150,131,119,101,100,97,69,51,47(calculated Exact mass of CHF13:363.98)
[例4]化合物(1b)の合成例
(例4−1)エステル化反応の例

ハステロイC製の2Lのオートクレーブに2,2−ジメチル−4−メチロール−1,3−ジオキソラン(500g)を入れた。反応器を冷却して、常圧で内温が30℃以下に保たれるようにゆっくりとFCOCF(CF)OCFCF(CF)OCFCFCF(2070g)を導入した。同時に充分に撹拌しながら、窒素ガスをバブリングさせ、反応により生じたHFを系外に追い出した。FCOCF(CF)OCFCF(CF)OCFCFCFの全量を投入後、30℃でさらに5時間反応させて生成物を得た。生成物をGC分析した結果、化合物(5b−1)が99.0%生成しており、未反応の2,2−ジメチル−4−メチロール−1,3−ジオキソランは検出されなかった。この生成物は精製することなく、例4−2の反応に使用した。
化合物(5b−1)のNMRスペクトル;
HNMR:δ(ppm)1.36(3H),1.42(3H),3.75〜4.16(2H),4.28〜4.53(3H)。
19FNMR:δ(ppm)−79.0〜−80.1(1F),−80.6(3F),−81.9(3F),−82.1(2F),−82.7(3F),−84.6〜−85.6(1F),−130.1(2F),−132.0(1F),−145.6(1F)。
(例4−2)フッ素化反応の例

500mLのニッケル製オートクレーブに、例1−2と同様に、冷却器、NaFペレット層、液体返送ラインを設置した。オートクレーブにR−113(312g)を仕込んだ後に撹拌して25℃に保った。オートクレーブに窒素ガスを室温で1時間吹き込んだ後、20%フッ素ガスを室温で流速9.90L/hで1時間吹き込んだ。つぎに20%フッ素ガスを同じ流速で吹き込みながら、例4−1で得た化合物(5b−1)(32g)をR−113(256g)に溶解した溶液を8.3時間かけて注入した。
つぎに、20%フッ素ガスを同じ流速で吹き込みながらオートクレーブ内圧力を0.15MPaまで昇圧して、ベンゼン濃度が0.01g/mLであるR−113溶液を25℃から40℃にまで昇温しながら9mL注入し、オートクレーブのベンゼン溶液注入口を閉め、0.3時間撹拌を続けた。
つぎに反応器内圧力を0.15MPaに、反応器内温度を40℃に保ちながら、前記ベンゼン溶液を6mL注入し、オートクレーブのベンゼン溶液注入口を閉め、0.3時間撹拌を続けた。ベンゼンの注入総量は0.15g、R−113の注入総量は15mLであった。
さらに20%フッ素ガスを同じ流速で吹き込みながら1時間撹拌を続けた。つぎに、反応器内圧力を常圧にして、窒素ガスを1時間吹き込んだ。生成物を19F NMRで分析した結果、化合物(6b−1)が収率95%で含まれていることを確認した。
化合物(6b−1)のNMRスペクトル;
19F NMR:δ(ppm)−77.6(1F)、−79.0〜−80.9(10F)、−81.4〜−82.2(9F)、−85.0〜−86.8(3F)、−122.4(1F)、−130.1(2F)、−132.0(1F)、−145.4(1F)。
(例4−3)熱分解反応の例

10℃の還流器を備えた2Lのフラスコ内に、例4−2の方法で得た化合物(6b−1)(2000g)をKF粉末(14g)と共に仕込み、熱媒温度を100〜130℃に保って加熱撹拌を行った。冷却後、液状サンプルを回収し、これを精密蒸留して化合物(7b)(純度99%、580g)を回収した。化合物(7b)の構造は19FNMRにより確認した。
化合物(7b)のNMRスペクトル;
19FNMR:δ(ppm)25.0(1F),−73.3〜−73.9(1F),−80.2(6F),−82.2〜−82.8(1F),−112.7(1F)。
(例4−4)HFPOの付加反応の例

ハステロイC製の2Lのオートクレーブに、脱水乾燥したCsF(13g)を仕込んだ後、反応器内を脱気した。この反応器中に例4−3の方法で得た化合物(7b)(540g)とテトラグライム(66g)を仕込み、反応器を−20℃に冷却して、反応温度が0℃以上に上がらないように供給量をコントロールしながらHFPO(290g)を連続的に供給した。反応終了後、分液ロートによりフルオロカーボン層(下層)(780g)を回収した。フルオロカーボン層に含まれる化合物が化合物(1b)であることを19FNMR、GC−MSスペクトル解析により決定した。
化合物(1b)のNMRスペクトル;
19FNMR:δ(ppm)26.5(1F),−76.4〜−78.8(2F),−80.2(6F),−80.3〜−80.8(1F),−81.5(3F),−84.3〜−86.0(1F),−121.3(1F),−130.1(1F)。
化合物(1b)のGC−MSスペクトル;
MS(m/z):429(M−COF),407,313,263,213,197,169,147,131,128,119,100,97,81,78,69,50,47(calculated Exact mass of C16:476.07)。
[例5]化合物(2b)の合成例

例4−4で得たフルオロカーボン層を用い、KOHの使用量を92gとすること以外は、例2と同様に反応を行い、化合物(2b)(650g)を回収した。化合物(2b)の構造は、19FNMR、GC−MSスペクトル解析により決定した。
化合物(2b)のNMRスペクトル;
19FNMR:δ(ppm)−76.6〜77.4(1F),−80.4(6F),−80.8〜−81.4(1F),−83.6〜−85.2(2F),−112.9〜−113.6(1F),−120.9〜−121.7(2F),−134.5〜−135.3(1F)。
化合物(2b)のGC−MSスペクトル;
MS(m/z):410,313,263,169,147,131,128,119,100,97,81,78,69,50,47(calculated Exact mass of C14:410.06)。
[例6]化合物(5c−1)の合成例
(例6−1)エステル化反応の例

ハステロイC製の2Lのオートクレーブに2,4−ジメチル−2−メチロール−1,3−ジオキソラン(500g)とNaF(320g)を入れた。反応器を冷却して、常圧で内温が30℃以下に保たれるようにゆっくりとFCOCF(CF)OCFCF(CF)OCFCFCF(2070g)を導入した。例4−1と同様に反応させ、得られた生成物をGC分析した結果、化合物(5c−1)が98.5%生成しており、未反応の2,4−ジメチル−2−メチロール−1,3−ジオキソランは検出されなかった。この生成物は精製することなく、例6−2の反応に使用した。
化合物(5c−1)のNMRスペクトル;
HNMR:δ(ppm)1.24〜1.30(3H),1.38〜1.44(3H),3.41〜3.56(1H),4.05〜4.47(4H)。
19FNMR:δ(ppm)−79.0〜−80.2(1F),−80.6(3F),−81.9(3F),−82.1(2F),−82.7(3F),−84.5〜−85.6(1F),−130.1(2F),−132.1(1F),−145.6(1F)。
(例6−2)フッ素化反応の例

500mLのニッケル製オートクレーブに、例1−2と同様に、冷却器、NaFペレット層、液体返送ラインを設置した。オートクレーブにR−113(312g)を仕込んだ後に撹拌して25℃に保った。オートクレーブに窒素ガスを室温で1時間吹き込んだ後、20%フッ素ガスを室温で流速7.35L/hで1時間吹き込んだ。つぎに20%フッ素ガスを同じ流速で吹き込みながら、例6−1で得た化合物(5c−1)(5g)をR−113(120g)に溶解した溶液を2.8時間かけて注入した。つぎに、20%フッ素ガスを同じ流速で吹き込みながらオートクレーブ内圧力を0.15MPaまで昇圧して、ベンゼン濃度が0.01g/mLであるR−113溶液を25℃から40℃にまで昇温しながら9mL注入し、オートクレーブのベンゼン溶液注入口を閉め、0.3時間撹拌を続けた。つぎに反応器内圧力を0.15MPaに、反応器内温度を40℃に保ちながら、前記ベンゼン溶液を6mL注入し、オートクレーブのベンゼン溶液注入口を閉め、0.3時間撹拌を続けた。さらに同様の操作を1回繰り返した。ベンゼンの注入総量は0.22g、R−113の注入総量は21mLであった。さらに20%フッ素ガスを同じ流速で吹き込みながら1時間撹拌を続けた。つぎに、反応器内圧力を常圧にして、窒素ガスを1時間吹き込んだ。生成物を19FNMRで分析した結果、化合物(6c−1)が収率93%で含まれていることを確認した。
化合物(6c−1)のNMRスペクトル;
19FNMR:δ(ppm)−77.6〜−78.9(1F)、−79.0〜−80.9(10F)、−81.0〜−82.4(9F)、−84.0〜−86.7(3F)、−123.3(1F)、−130.1(2F)、−131.8(1F)、−145.5(1F)。
(例6−3)熱分解反応の例

熱分解の原料として、例6−2の方法で得た化合物(6c−1)(2000g)を用いること以外は、例4−3と同様に反応を行い、化合物(7c)(純度99%、600g)を回収した。化合物(7c)の構造は19FNMRにより確認した。
化合物(7c)のNMRスペクトル;
19FNMR:δ(ppm)22.9〜24.4(1F),−78.2〜−79.6(1F),−80.3〜−81.0(3F),−81.6〜−82.2(3F),−83.7〜−84.7(1F),−122.5〜−126.0(1F)。
(例6−4)HFPOの付加反応の例

HFPO付加反応の原料に、例6−3の方法で得た化合物(7c)(540g)を用いること以外は、例4−4と同様に反応を行い、フルオロカーボン層(下層)(800g)を回収した。フルオロカーボン層に含まれる化合物が化合物(1c)であることを19FNMR、GC−MSスペクトル解析により決定した。
化合物(1c)のNMRスペクトル;
19FNMR:δ(ppm)26.3(1F),−76.6〜−79.0(2F),−80.3(3F),−80.8(3F),−81.3〜−82.6(3F),−84.5〜−86.7(2F),−123.1(1F),−131.0〜−133.3(1F)。
化合物(1c)のGC−MSスペクトル
MS(m/z):429(M−COF),407,313,285,263,213,197,169,147,131,119,100,97,81,78,69,50,47(calculated Exact mass of C16:476.07)。
[例7]化合物(2c)の合成例

例6−4で得たフルオロカーボン層を用い、KOHの使用量を94gとすること以外は、例2と同様に反応を行い、化合物(2c)(670g)を回収した。化合物(2c)の構造は、19FNMR、GC−MSスペクトル解析により決定した。
化合物(2c)のNMRスペクトル;
19FNMR:δ(ppm)−77.9〜−78.1(1F),−80.3〜−80.4(3F),−80.9〜−81.1(3F),−81.4〜−81.6(1F),−84.7〜−85.4(2F),−114.0〜−114.1(1F),−122.2〜−122.4(1F),−123.2(1F),−136.1〜−136.2(1F)。
化合物(2c)のGC−MSスペクトル;
MS(m/z):410,313,285,263,247,213,197,169,147,131,119,100,97,81,78,69,50,47(calculated Exact mass of C14:410.06)。
[参考例]重合反応の例
1.2Lの撹拌機付き圧力容器に、イオン交換水の590g、CHFClCFCFClの353g、化合物(2a)の54.8g、メタノールの16.4gを仕込み、50℃の内温で、テトラフルオロエチレン(TFE)を圧力が1.21MPaになるまで仕込んだ。ついで(CFCFCFCOO)の0.1%溶液(溶媒:CHFClCFCFCl)(以下、開始剤溶液という。)の3mLを仕込み、50℃で重合を開始させた。重合中に開始剤溶液は断続的に仕込み、合計20.2mLを仕込んだ。重合の進行にともない、圧力が低下するので、圧力が一定になるようにTFEを連続的に後仕込みした。後仕込みのTFE量が145gになったところで内温を室温まで冷却し、未反応TFEを空放し、圧力容器を開放した。圧力容器の内容物をガラスフィルターで濾過してスラリー状のTFE共重合体を得た。得られたスラリーを120℃で8時間乾燥して白色のTFE共重合体の155gを得た。得られたTFE共重合体は、TFEに基づく重合単位/化合物(2a)に基づく重合単位のモル比が98.3/1.7であり、Q値は1.7であった。引張強度は32.6MPa、引張伸度は310%、降伏強度は14.0MPa、引張弾性率は154MPa、MIT折り曲げ寿命は123万回であった。
【産業上の利用可能性】
本発明によって提供される化合物(2a)等の化合物(2)はフッ素樹脂用モノマー等として有用な化合物であり、たとえば汎用のフッ素樹脂用モノマー等と共重合させることによって、有効に物性が改良されたフッ素樹脂が提供されうる。
また、本発明によって提供される化合物(3a)等の化合物(3)は、フッ素系溶剤として有用に用いうる化合物であり、洗浄剤や溶剤、添加剤等に有効に用いうる。
また、本発明によって提供される化合物(1a)等の化合物(1)は、化合物(2)および化合物(3)の製造用中間体として有用な化合物であり、かつ該化合物自身もまたフッ素系溶剤等として利用できる有用な化合物である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下式(1)で表される化合物。

ただし、Q、Q、Q、およびQは、それぞれ独立に、−O−または−CR−(ただし、RおよびRは、それぞれ独立に、フッ素原子またはペルフルオロアルキル基であり、Q〜Qから選ばれる、隣り合う2個以上の基は同時に−O−にはならない。)であり、Rはフッ素原子またはペルフルオロアルキル基である。
【請求項2】
下式(1a)で表される化合物、下式(1b)で表される化合物、または下式(1c)で表される化合物。

【請求項3】
下式(2)で表される化合物。

ただし、Q、Q、Q、およびQは、それぞれ独立に、−O−または−CR−(ただし、RおよびRは、それぞれ独立に、フッ素原子またはペルフルオロアルキル基であり、Q〜Qから選ばれる、隣り合う2個以上の基は同時に−O−にはならない。)であり、Rはフッ素原子またはペルフルオロアルキル基である。
【請求項4】
下式(2a)で表される化合物、下式(2b)で表される化合物、または下式(2c)で表される化合物。

【請求項5】
下式(3)で表される化合物。

ただし、Q、Q、Q、およびQは、それぞれ独立に、−O−または−CR−(ただし、RおよびRは、それぞれ独立に、フッ素原子またはペルフルオロアルキル基であり、Q〜Qから選ばれる、隣り合う2個以上の基は同時に−O−にはならない。)であり、Rはフッ素原子またはペルフルオロアルキル基である。
【請求項6】
下式(3a)で表される化合物。


【国際公開番号】WO2004/050649
【国際公開日】平成16年6月17日(2004.6.17)
【発行日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−570717(P2004−570717)
【国際出願番号】PCT/JP2003/013786
【国際出願日】平成15年10月28日(2003.10.28)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】