説明

ペレット−被覆相互作用の分析方法

【課題】原子炉防護システムと、燃料が被覆により囲まれた複数の細長い燃料棒とを有する炉心におけるペレット-被覆相互作用(PCI)を評価する方法を提供する。
【解決手段】この方法は、炉心の分析すべき多数のパラメータを選択し;選択されたパラメータを複数の状態点において評価し;少なくとも部分的には状態点に基づく炉心の作動領域のモデルを形成し;状態点軌跡またはサブセットを構成する状態点のそれぞれが所定の過渡現象下において原子炉防護システムの運転制限値以内に入る状態点サブセットまたは軌跡をモデルから選択し;過渡現象に呼応して起こるペレット-被覆相互作用に関して状態点軌跡を評価するステップを含む。従って、炉心内のすべての燃料棒についてすべての状態点を個々に分析しなくてもPCIの可能性を正確に判断することができる。

【発明の詳細な説明】
【発明の背景】
【0001】
【発明分野】
【0002】
本発明は原子炉における燃料破損の分析、特に、コンディションII事象におけるペレット-被覆相互作用(PCI)の分析方法に係わる。
【背景情報】
【0003】
商業用軽水炉(LWR)は通常複数の円筒形燃料要素を含み、これらの燃料要素は群別され、群ごとに個別の燃料集合体として一括固定される。これらの燃料集合体は整然と配列されて原子炉の炉心を形成する。
【0004】
図1に示すように、それぞれの核燃料要素、即ち、燃料棒2は第1端8及び第2端10を有するジルカロイ被覆6内に封入された積層状態の燃料ペレット(例えば、二酸化ウラン)を含む。図示のように、第1及び第2端8、10はプラグ12、14のよって密栓されている。多くの場合、押下ばね16またはその他の適当な抑止機構が燃料ペレット4を燃料棒2の底部、即ち、第1端8に向かって偏倚させることによって燃料ペレット4の位置を維持する。頂部、即ち、第1端8の近傍には核分裂気体プレナム18が設けられており、燃料ペレット4と被覆6の間には比較的小さいまたは狭いギャップ20が存在する。燃焼すると、燃料4は軸方向だけでなく半径方向にも膨張する(即ち、膨らむ)。このような膨張に伴って被覆6と燃料4の間のギャップ20が縮小し始める。もし燃料4を膨張するのに任せると、(図示しないが)ギャップ20は完全に無くなってしまう。熱膨張係数に差があれば、力の増大に伴って被覆6に大きい応力が作用することになる。この応力が限界を超えると、被覆が裂け、いわゆるペレット-被覆相互作用(PCI)が起こる。PCIによる被覆破損はシステムにおける第1の放射能障壁が破られることになり、結果として、原子炉冷却材が燃料ペレット4及び放射性核分裂生成物に曝されることになる。従って、この状態は極めて望ましくない。
【0005】
被覆破損を回避するためには、原子炉防護システムの設定値がPCIを誘発するような動作を不可能にするような設定値でなければならない。設定値の有効性を実証するために、正常作動(コンディションI)及び中程度の頻度で起こる事象(コンディションII)の詳細な分析が利用される。具体的には、PCIに起因する燃料破損を予見するためのコンディションII事象の分析は幾つかの国(例えば、フランス)において義務付けられている。コンディションII事象は炉心内でのシナリオ、例えば、放射能の増大に関連するシナリオを含み、特に顕著な事象として、例えば、可溶性ホウ素の希釈、意図しない制御棒の引抜き、及び制御棒の1本または2本以上の意図しない炉心への落下などがある。
【0006】
公知のPCI分析方法はしらみつぶしにチェックするというアプローチに基づく方法であり、それぞれ異なる多くの稼動歴を調査分析し、それぞれの稼動歴の複数の時点における過渡現象を再現した後、炉心内のすべての燃料棒におけるこのような過渡現象を評価しなければならない。炉心内には約50,000本以上の燃料棒が存在する可能性があるから、このようなアプローチは多大の労力と時間と経費を要する。状況によっては、燃料棒を一本ずつ分析するには約2年以上の歳月を要する。しかも、もし炉心または原子炉の運転制限値が変われば、分析を最初からやり直さねばならない。
【0007】
従って、燃料棒を一本ずつしらみつぶしに分析しなくても、炉心の安全運転ガイドラインを正確に、効率的に評価し、設定してPCIの可能性を最小限にする必要がある。
【0008】
従って、原子炉のPCI分析には改良の余地がある。
【発明の概要】
【0009】
以上に述べた公知技術の問題点は、コンディションII事象におけるペレット-被覆相互作用(PCI)を分析する改良された方法に係わる本発明によって解決される。
【0010】
本発明は1つの態様として、原子炉炉心におけるペレット-被覆相互作用の評価方法を提供する。炉心は原子炉防護システムを有し、複数の細長い燃料棒を含む。それぞれの燃料棒は複数の核燃料ペレットを囲む被覆管を含み、核燃料ペレットと被覆管との間にはギャップが画定される。原子炉防護システムは炉心の複数のパラメータに対する多数の運転制限値を設定しており、これらの運転制限値は少なくとも部分的には炉心の技術的仕様のうちの所定事項に基づく。この方法は炉心の分析すべき多数のパラメータを選択し;選択されたパラメータを、それぞれが所定の炉心状態における所定の時点に対応する複数の状態点において評価し、1組の状態点に基づいて炉心の燃料棒の1本または2本以上の動作履歴を表す履歴点を求め;少なくとも部分的には状態点に基づく炉心の作動領域のモデルを形成し;状態点軌跡を構成する状態点のそれぞれが所定の過渡現象下において原子炉防護システムの運転制限値以内に入り、炉心の作動領域内の状態点のサブセットを画定するような状態点軌跡を、少なくとも部分的には1つまたは2つ以上の履歴点に基づいてモデルの状態点から選択し;過渡現象に呼応して起こるペレット-被覆相互作用に関して状態点軌跡を評価するステップを含む。
【0011】
作動領域は原子炉を強制的に停止させなくても原子炉防護システムが自立的に作動できるような状態点を含むことができる。原子炉防護システムは多くの場合、例えば、総炉心出力と軸方向フラックスの差(即ち、炉心上半分における出力−炉心下半分における出力)、入口温度、及び一次システム圧などのようなパラメータの評価を含む。分析される作動領域は控えめに測定の不確実性を前提としており、従って、想定される最大の作動領域を作成する。分析の意図はこの想定される作動領域内である限り原子炉が安全であることを立証することにある。正常(即ち、コンディションI)作動領域は発電所の技術的仕様によって規定されている許容される作動領域である。技術的仕様は多くの場合、モニターすべき限界値を設定している。モニターされる典型的なパラメータとしては、例えば、総炉心出力、炉心軸方向フラックス差によって定義される炉心の軸方向出力分布(=炉心の上半分における出力−下半分における出力)、制御棒の位置、原子炉入口温度、及び一次システム圧などが挙げられる。正常作動領域は可能な作動領域のサブセットである。
【0012】
状態点に作用させる過渡現象はコンディションII事象を表す場合がある。この場合、すべてのコンディションII状態点が正常作動領域内の開始状態点と関連させることが可能でなければならない。選択されるパラメータはキセノン分布、制御棒の位置、出力レベル、ライフ・タイム、及び入口温度から成る群から選択することができる。
【0013】
この方法は、コアの安全運転を可能にするとともにペレット-被覆相互作用を回避するため1組の許容炉心運転ガイドラインを設け;作動領域の境界に対する制御効果を有する炉心の燃料棒の数を選択し;ガイドラインとの整合性に関して、選択された燃料棒を評価するステップをも含む。δキセノン・パラメータ及びキセノン・ミッド・パラメータの関数としての炉心におけるキセノン分布を評価するステップをも含み、δキセノン・パラメータは炉心の頂部に分布するキセノンの量から炉心の底部に分布するキセノンの平均量を差引いた量であり;キセノン・ミッド・パラメータが炉心全体の平均キセノン分布より大きい炉心の中程1/3における平均キセノン分布である。
【0014】
原子炉防護システムの運転制限値が正常炉心運転制限値及びコンディションII過渡現象時制限値を含み、炉心作動領域のモデルを形成するステップが炉心作動領域を複数の状態点から成るグリッドとしてモデリングし;状態点軌跡として、作動領域の境界に対して制御効果を有するグリッド上の点を選択し;正常炉心運転制限値及びコンディションII過渡現象時制限値との関連において、グリッドにおける制御点を評価するステップをも含む。1組の燃料棒のパラメータに関する履歴データ(例えば、履歴点及びパラメータ)を用意し、安全パラメータの評価として状態点コンディションにおける値を履歴データと比較する。この方法は炉心での安全運転に採用できるとして容認するか、または採用できないとして拒絶するステップをも含む。
【0015】
従って、本発明の方法は、炉心の燃料棒のすべてについて状態点のすべてを個々に分析しなくても、ペレット-被覆相互作用に関して炉心の燃料棒を正確に評価できるように、状態点軌跡を利用して炉心の燃料棒をモデリング及び分析するステップをも含む。この方法は燃料棒におけるペレット-被覆相互作用の可能性を分析するのに3次元出力分布分析を採用し、ステップの少なくとも幾つをコンピュータによって自動化することができる。
【0016】
本発明の他の態様として、原子炉炉心における燃料の分析方法を提供する。原子炉炉心は炉心の複数パラメータに関する多数の運転制限値を設定する原子炉防護システムを有する。この方法は炉心の分析すべき多数のパラメータを選択し;選択されたパラメータを、それぞれが所定の炉心状態における所定の時点に対応する複数の状態点において評価し、1組の状態点に基づいて炉心の燃料棒の1本または2本以上の動作履歴を表す履歴点を求め;炉心の作動領域を正確にモデリングするため状態点のグリッドを形成し;状態点軌跡を構成する状態点のそれぞれが所定の過渡現象下において原子炉防護システムの運転制限値以内に入り、炉心の作動領域内の状態点のサブセットを画定するような状態点軌跡を、少なくとも部分的には1つまたは2つ以上の履歴点に基づいてモデルの状態点から選択し;過渡現象に呼応して起こるペレット-被覆相互作用に関して状態点軌跡を評価するステップを含む。
【0017】
状態点軌跡は個々のグリッドの小さいサブセットであり、対象となる過渡現象のそれぞれによって独自の態様で確定される。この方法は過渡現象として、コンディションII事象を表す過渡現象を作用させ;状態点軌跡として、炉心の正常作動領域を構成する状態点のそれぞれから始まるコンディションII事象過渡現象と関連する状態点を選択し;選択されたパラメータに対する前記コンディションII事象の影響を分析し;コンディションII事象に呼応して起こるペレット-被覆相互作用の可能性を判断するステップをも含む。
【0018】
添付の図面を参照して以下に述べる好ましい実施態様の説明によって本発明内容をさらに明らかにする。
【好ましい実施態様の説明】
【0019】
ここに使用する語句「正常作動」とは、標準稼動条件下での原子炉の稼動を意味し、例えば、事故事象、コンディションII事象、または炉心の動作パラメータ(例えば、炉心の出力配分)に著しいインパクトを及ぼすその他の異常事態などのような異常な状況が存在しないコンディションIと呼称されることが多い。正常作動は発電所の技術的仕様に定められた種々の重要なパラメータにおける限界値によって定義される。従って、ここに使用する語句「作動領域」とは、稼働中の特定の原子力発電所に関する技術的仕様によって定められると共に、本発明の方法によっても定められる、許容される安全なプラント稼動の限界を意味する。この作動領域は原子炉防護システムがトリガーされて原子炉を停止させるような事態が起こらない炉心の稼動範囲を含む。
【0020】
ここに使用する語句「コンディションII事象」とは、放射能の予期せぬ変化が経験されるような炉心に関連するシナリオまたは状況を意味し、これには現実の事象またはこのような事象のシュミレーション(例えば、コンディションIIを再現するため炉心に作用させる過渡現象)が含まれる。コンディションII事象として顕著なのは、例えば、可溶性ホウ素の希釈、予期せぬ制御棒の引抜き、入口温度の低下及び制御棒落下、即ち、1本または2本以上の制御棒が意図に反して炉心内に落下する事象などである。コンディションII事象によっては、原子炉防護システムが反応して制御棒が挿入され、原子炉を停止させることになる。
【0021】
ここに使用する語句「状態点」とは、特定の時点及び/または特定の炉心動作(例えば、操作または過渡現象)を意味する。1組の状態点は「履歴点」に相当し、本発明では、この履歴点が炉心内の個々の燃料棒のそれまでの動作履歴を反映する。履歴点パラメータは複数の燃料棒に関する局所パラメータを含む。これらの局所パラメータは、例えば、局所燃焼、基本的局所出力レベル、各種原子核の局所同位体濃度、及び有効常温ギャップを含む。
【0022】
ここに使用する語句「状態点軌跡」とは、炉心作動領域のモデル(例えば、グリッド)を含む状態点総数から選択された状態点サブセットまたは少数の状態点を意味する。選択された状態点、即ち、状態点サブセット軌跡に(例えば、コンディションII過渡現象のような)所定の過渡現象が作用すると、これらの選択された状態点は原子炉防護システムの作動限界内に入る。
【0023】
ここに使用する語句「有効常温ギャップ」とは、燃料棒による出力形成のない公称温度における燃料ペレットと燃料棒被覆との間のギャップまたはスペースの大きさを意味する。本発明では、燃料の耐用寿命を通しての異なる履歴点における複数の燃料棒について有効常温ギャップ・データが表示(即ち、記録され)、どの燃料棒が安全な炉心稼動に耐え得るかを判断するための重要なパラメータとして参考にされる。即ち、特定燃料棒の有効常温ギャップは履歴点を形成するための履歴パラメータとして寄与する。
【0024】
従来のペレット-被覆相互作用(PCI)分析
ペレット-被覆相互作用(PCI)は軽水炉(LWR)における燃料棒破損の潜在的原因である。このような破損を防止するため、近来種々のPCI対応策が提案されている。例えば、PCIに起因する燃料棒破損のリスクを軽減すべく従来よりも厳しいプレコンディショニング及び操作基準が開発されている。さらには、ジルコニウム・ライナー・燃料設計の採用が提案されている。しかし、ライナーを組込んだ結果として、発電所効率を高めようとして事業者はよりアグレッシブな操業戦略を取り、ライナーによって確保される新しい安全性限界をオーバーライドすることになる。また、燃料棒の平均的な線形発熱速度(LHGR)を抑えてPCI破損に対する余裕を確保するため、個々の燃料棒を小さくし、燃料棒の数を多くするという提案もなされている。しかし、アグレッシブな炉心運営によって燃料を規定以上の高い局所ピーキング係数で作用させる結果となり、せっかくの余裕も使い果たしてしまうのが常である。炉心におけるPCIのモデリングの詳細な説明をも含めたPCI分析の詳細な歴史は、例えば、Michel Billauxによる論文“Modeling Pellet-Cladding Mechanical Interaction and Application to BWR Maneuvering”に記載されている。この文献はワシントン州リッチランド市ホーン・ラピッズ・ロード2101に本社を有するFramatome ANP,Inc.の出版物である。
【0025】
PCIに起因する被覆破損の問題を克服するため、燃料供給元は防護システムがPCIを防止することを立証するために分析を実施し、既に述べたように、国によっては、PCIに起因する燃料破損に関連してコンディションII事象の分析が義務付けられている。
【0026】
このようなPCI分析を実施する際の従来のアプローチは、上述したように、しらみつぶしにチェックするというものであり、それぞれ異なる多くの稼動歴を調査分析し、それぞれの稼動歴の複数の時点における種々の過渡現象を再現した後、最終的に、炉心内のすべての燃料棒(約50,000本以上)におけるこのような過渡現象を評価するというものであった。具体的には、正常作動条件下における(例えば、所定時間に亘る所定レベルまでの出力抑制;ランプダウンなどのような出力反応速度制御;ホールドダウン・タイムと呼称される出力抑制時間の制御のような)広範囲に亘る出力操作及びその他の運転項目についてそれぞれの状態点を分析し、データを記録する。単一の状態点だけにも多大の労力を要するこの分析が50,000本の燃料棒のそれぞれに関して繰返される。分析に要する時間と労力をさらに甚大にする要因として、起こり得る種々のコンディションII事象を再現するため、操作範囲内の種々の状態点において多数の過渡現象を導入しなければならない。このような過渡現象は、例えば、原子炉防護システム作動点(即ち、トリップ設定点)の位置というような結論に達するまで追跡される。従って、この方法は過渡現象におけるそれぞれの状態点ごとに上記分析が繰返されるから、厖大な時間と労力を必要とする。即ち、燃料棒のすべてがしらみつぶしに分析されることになる。
【0027】
上記分析を容易にし、燃料棒のうち、炉心内で安全に作用させることのできる燃料棒を特定するため、公知の、または適当なコンピュータ・コードが使用される。それでもなお、厖大な労力と時間を要する方法であり、一人で分析するとして、2年以上の歳月がかかる。
【0028】
後述するように、本発明のPCI分析方法は従来の方法とは本質的に異なり、ドラマチックな改良を提供する。
【0029】
本発明の3D FACE PCI分析
本発明の方法はPCI損傷の可能性を分析するために3次元最終合否決定基準(3D FAC)方法を採用することによって、炉心内のすべての状態点を1つずつ分析するのではなく、選択された状態点のモデルとして炉心を正確、系統的且つ包括的、しかも能率的に分析することを可能にする。換言すると、本発明の方法はほぼ同様の状態点及び/または対応する燃料パラメータが既知の状態点を重複分析するという無駄を極力少なくする。
【0030】
即ち、本発明の3D FACでは、例えば、動作履歴、原子炉出力、制御棒の位置、原子炉入口温度及び(例えば、後述するδキセノン及びキセノン・ミッドのような)2つ以上の総括的なパラメータを使用して特徴付けることができるキセノン分布などで特定される状態点から成る個別のグリッドを画定することによって炉心作動領域を特徴付ける。過渡現象進行中のキセノン分布及び炉心挙動にそれぞれ影響を及ぼす核特性及び燃料燃焼の変化を知るため、炉心再装荷の作業中の幾つかの異なる時間に亘って出力分布状態点を評価する。直接核分裂生成物であり、ヨウ素-135の崩壊からの二次生成物でもあるキセノン-135は中性子に対する寄生性が極めて高く、従って、経時的に炉心内の出力分布に悪影響を及ぼす可能性がある。その結果、著しい局所的な出力変化がおこり、PCIを発生させる可能性がある。
【0031】
PCIに関する安全炉心運転制限値の設定にも同様の、但しもっと複雑な分析が行われる。従って、後述するように、PCI損傷のリスクを最小限に抑えながら炉心を安全に運転できる制限値、即ち、最大限の許容閾値または損傷閾値を設定するには、種々の燃焼度において想定される初期及び最終状態点と関連する限られた燃料棒における局所的な出力変化を多様な出力履歴との関係において評価する必要がある。1対の初期及び最終状態点は同じ履歴及びキセノン状態を有するが、異なる炉心出力、入口温度及び/または制御棒挿入深さを有する可能性がある。
【0032】
正常炉心作動は単一の状態点ではなく、炉心出力に応じた領域または連続体である。多くの場合、この領域または連続体の軸方向形状係数(即ち、軸方向オフセット)も制御棒挿入深さも、出力に応じた限界値を有する。従って、正常炉心作動を評価するには、広範囲の状態点における炉心出力分布を分析する必要がある。その場合、選択された正常作動状態点からコンディションII分析を開始し、燃料に対する種々の過度現象の影響を評価しなければならない。既に述べたように、このプロセスに対する従来のアプローチは選択された正常作動過渡現象をモデリングすることによって正常作動状態点を生成させ、次いでそれぞれの状態点から種々のコンディションII過渡現象をモデリングすることによってコンディションンII分析を行うというものであった。しかし、正常作動領域を有効にカバーする過渡現象を発生させることは困難である。即ち、多数の重複またはオーバーラップする状態点が発生することが多い(例えば、図3のオーバーラップ・データを参照されたい)。このような欠点に鑑み、本発明の方法では、例えば、キセノン分布、制御棒の挿入深さ、出力レベル、及び入口温度のような独立パラメータを使用する直接的な組合せ分析を行うことによって炉心出力を測定し、炉心防護制限値との関連において燃料を評価する。この制限値は、例えば、炉心の軸方向オフセットまたはその他の軸方向形状係数及び入口温度に応じた最大許容炉心出力、または軸方向オフセット制限値またはその他の適当な軸方向形状係数に応じた最大局所などを含む。これらの制限値は複数の異なる燃料棒を評価し、さらに制限値に達するまでの最大出力を評価することによって設定される。
【0033】
このような分析の結果、PCIに耐え得る技術的限界値に達する点として損傷閾値が設定される。尚、ここに使用する語句「技術的限界値」とは、例えば、出力急昇試験から得られた履歴データと燃料損傷との分析比較に基づいて設定されるものであり、データを顕著に特徴付ける。この限界値は評価の範囲に亘る連続手関数として設定される。即ち、コンディションII過渡現象の評価によって過渡現象の経時的変化を知ることができる。従って、特定過渡現象の評価に基づいて複数の異なる限界値を確定することができる。こうして、想定される種々の作動状態点を評価することによって、種々のコンディションII過渡現象に対する限界値に対応することができる。この分析に基づいて、許容作動領域または作動境界を画定することができる。換言すると、本発明のPCI分析方法は実際の作動領域を画定すること、及び実際の限界値を特徴付けるようにデータを使用することを主眼としている。即ち、この方法は正常作動状態点に基づいて複数の異なる正常作動過渡現象、複数の異なるコンディションII過渡現象を評価したり、または炉心内のすべての燃料棒を1本ずつ評価したりすることなくコンディションII事象の正確なPCI分析を能率的に実施する方法を提供する。従って、PCI分析を実施する速度及び効率は公知のアプローチと比較してドラスチックに改善される。このことは後述する総括的な実施例に基づいてさらに詳しく説明する。
【0034】
従来のPCI分析では、例えば、運転中の3つまたは4つの時点を取り、例えば、多様な制御棒挿入深さに伴う出力低下のような一連の過渡現象を検討し、種々の過渡現象中の異なる時点において他の過渡現象(例えば、模擬コンディションII事象)を作用させた。換言すると、運転制限値を超えて原子炉が停止するまで、多くの変数を組合せ、合成し、モデリングした。従来のPCI分析では、過渡現象及びコンディションII事象を追跡しながら、燃料棒に及ぼす過渡現象の影響に関して個々の燃料棒の応力分析を実施し、PCIが起こる可能性を評価した。次いで、1本1本の燃料棒について、炉心内での安全運転に適当であるか否かを判断した。
【0035】
本発明にPCI分析方法は種々の時点におけるキセノン状態を明らかにし、この情報に基づいて炉心のモデルを形成するのに2つの主要パラメータに集中することで分析を改善する。このモデルは、例えば、2つの主要キセノン・パラメータ(例えば、δキセノン及びキセノン・ミッド)を表すグリッドを有するコンピュータ生成面関数を含む。従って、特定のキセノン過渡現象を追跡するのではなく種々のキセノン分布を有する炉心状態点がモデリングされ、分析される。次いで、グリッド上の種々の点を取り、例えば、制御棒の位置及び炉心出力レベルを分析する。例えば、図3のキセノン分布グラフから明らかなように、2つの異なる過渡現象における状態点はほぼ同じキセノン分布を、但し異なる理由で有する場合がある。従って、特定の過度現象を追跡して過渡現象のそれぞれの時点を分析するのではなく、想定される値の全範囲に亘ってキセノン分布、制御棒の位置及び出力を評価する。種々のコンディションII過渡現象中に起こるこれらのパラメータの変化は既存の事故及びコンディションII分析履歴データに基づいて既知であるから、既に行われた分析の結果を分析履歴データ中の既知基準値を比較することによって、既存の炉心防護システムの設定値または限界値を明確に設定または確認して安全運転を保証することができる。
【0036】
図2は本発明のPCI分析方法の基本的なステップを示すフローチャートである。原則として、分析はステップ100で始まり、分析すべき多数の炉心作動パラメータを選択し、ステップ110では複数の状態点におけるパラメータを評価することによって運転サイクルにおける複数の炉心履歴(即ち、履歴点)を生成させる。次いで、炉心の作動領域のモデルをステップ120において生成させ、ステップ130において、このモデルから状態点軌跡を選択し、これに過渡現象または出力操作を作用させる。次いでステップ140において、過渡現象または操作に呼応する状態点軌跡を評価する。ステップ150及び160において、炉心作動ガイドラインを設定し、選択された燃料棒がガイドラインに合致するか否かを評価する。最後に、ステップ170において、炉心内での安全運転に使用出るとして容認されるか、または使用不能として拒絶される。
【0037】
上記ステップのそれぞれを詳細に説明する前に、先ず下記の点に留意されたい。分析における状態点のそれぞれは所定の炉心状態の所定時点に対応し、1組の状態点が履歴点を画定し、これらの履歴点は1本または2本以上の燃料棒の作動履歴を表す。これらの炉心履歴は全出力における大規模な運転のほか、種々の作動シナリオ、例えば、長期間に亘る低出力運転及び大規模な負荷追跡運転などを反映する。即ち、この分析は対象とする燃料棒に関する履歴点及び履歴パラメータを含む。履歴パラメータの1つとして有効常温ギャップを利用することができる。具体的には、核燃料ペレット4を囲むジルカロイ被覆6(図1)は経時的に塑性変形し、燃料ペレット4が膨張する。燃料の異なる領域内には温度差があり、部分ごとに熱膨張係数にも差がある。従って、燃料寿命中の異なる時点且つ異なる炉心状態に応じて、ギャップ20、即ち、被覆6と燃料4の間の間隔が変化する。分析に必要な共通性を可能にするため、燃料棒が均一に正常な常温、例えば、20℃にあるなら存在するであろうギャップを意味する有効常温ギャップを設定する。従って、本発明では、有効常温ギャップは特定の燃料棒にとっての出力限界を、さらには、炉心での安全運転にどの燃料棒を有効と承認できるかを判断するための重要なパラメータである。
【0038】
炉心作動履歴の作成とともに、主要履歴パラメータに基づいてPCI限界面を作成する。このPCI限界面またはグリッドを利用して大きい燃料から成る1群における複数の箇所を評価して、原子炉防護システムに設定されている燃料PCI限界値を満たしているか否かを判断する。即ち、種々の主要パラメータ(例えば、有効常温ギャップ)に応じて燃料棒ノードに許容される最大許容出力を明示するマップが提供される。
【0039】
具体的には、ステップ110では、詳細に分析すべき多数の履歴点が選択される。この選択が対象とするのは燃料サイクルの1つの時間帯に亘る所定の炉心運用戦略ストラテジーである。選択される主要な炉心パラメータとしては、例えば、炉心出力レベル、それぞれの制御バンクに対応する制御棒位置、入口温度などが挙げられる。この分析においては、燃料サイクルのそれぞれの時点のキセノン状態、特に、炉心におけるキセノン分布の範囲も決定される。キセノン分布は炉心全体における3次元分布であるが、既に述べたように、δキセノン及びキセノン・ミッドの2つの主要パラメータによって特徴づけすることができる。δキセノンは炉心頂部におけるキセノンの平均分布量−炉心底部におけるキセノンの平均分布量であり、キセノン・ミッドは(炉心を仮に上1/3、中1/3、下1/3に区分したとして)炉心の中央1/3におけるキセノンの平均分布量−炉心全体の平均キセノン量である。燃料寿命の1つの点である寿命末期(EOL)における9通りの異なる過渡現象に対応するδキセノンとキセノン・ミッドとの関係の1例を図3にグラフで示した。キセノン分布を評価することによって、キセノン・パラメータの範囲または境界を明らかにし、炉心の作動領域をモデリングすることができる。即ち、ステップ120において炉心の作動領域をモデリングするのに使用すべきキセノン常態をステップ110において選択する。図2に示すように、ステップ122において、正確に炉心作動領域を表す状態点グリッドを作成することで上記目的が達成される。
【0040】
次いで、ステップ130において、グリッド上に選択された状態点が同定され、分析される。具体的には、炉心作動領域の制限値に対する制御効果を有する少数の選択された状態点、即ち、選択された状態点サブセットから成る状態点軌跡が選択される。換言すると、炉心内の幾つかの状態点、つまり幾つかの燃料棒が、原子炉防護システムの限界値(即ち、トリップ起動値)を超えることなく炉心が安全に作動できる限度(即ち、原子炉防護システム限界値)を画定する性向を有する。どの状態点が制御または制限効果を有するかは燃料棒の動作履歴を検討することによって判断することができる。要約すれば、常態軌跡は一般に、所定の過渡現象(例えば、所定のコンディションII過渡現象)下にあっても原子炉防護システムの限界値を超えない状態点サブセットを含む。
【0041】
ステップ140において、過渡現象に応答する状態点軌跡を評価する。例えば、コンディションII過渡現象の作用下にある状態点軌跡を、ペレット-被覆相互作用を誘発するか否かについて評価する。即ち、多数の異なる炉心過渡現象と関連するすべての状態点を1つずつ分析するのではなく代表的な状態点だけを分析すればよい。具体的には、既に述べたように且つ図3のキセノン分布グラフから明らかなように、種々の過渡現象には重複する多くの状態点がある。この点に着目して、本発明の方法では、炉心作動領域を画定するデータの全範囲または全境界を正確に表す一方、制御効果を有する幾つかの状態点を選択する。即ち、図3に示す実施例では、代表的な出力過渡現象の評価で得られたキセノン分布の境界を示すキセノン状態点が選択される。
【0042】
モデルの選択された状態点を分析する際には、出力分布に対する影響をチェックする。具体的には、本発明の場合、公知のPCI分析方法に見られるようにそれぞれの状態点における多くの過渡現象を実際に追跡するのではなく、選択された状態点を系統的に分析する。分析の対象となる事項は厖大であるが(例えば、厖大な出力履歴、厖大なサイクル時点の数、厖大な炉心出力レベルの数、厖大な異なる制御棒位置の数、厖大な異なるキセノン分布の数、その他の適当な変数など)、本発明の分析は極めて系統的に実施することができ、これらの状態点のそれぞれを評価することによって、燃料棒が原子力発電所の設計上の安全基準以内であるか否かを確認することができる。具体的には図2に示すように、ステップ150において、原子力発電所の設計上の安全基準に合わせて炉心作動ガイドラインを設定することによって、炉心内で燃料がペレット‐被覆相互作用を誘発することなく安全に作用するように保証することができる。次いで、ステップ160において、このようなガイドラインに合致するかどうかについて、選択された燃料棒を評価すればよい。ガイドラインには、例えば、燃料棒内のピーク出力、核沸騰限界のような安全基準、及び、例えば、PCIに対する裕度のような種々の燃料棒基準が含まれる。これらの基準に関して燃料棒を評価するため、全部ではなくても、炉心内のできる限り多数の燃料棒を分析する。それぞれが異なる出力履歴及び異なる局所的出力を有するからである。そこで、本発明では、それぞれの状態点における最も制限作用または制御作用の大きい燃料棒を使用して限界値に対する裕度を明らかにする。
【0043】
尚、ステップ140、150及び160における分析で限界値を超える状態点が発見されることがあるが、このような状態点は炉心限界値及び防護システムによって排除される。従って、分析の主要目的は炉心限界値及び防護が(例えば、PCIに起因する)燃料損傷を防止するのに充分であることを立証することにある。即ち、ステップ160及び170において、発電所の技術的仕様によって定められた正常作動限界内である状態点が選択される。正常作動を表す典型的なパラメータは、例えば、制御棒の許容挿入範囲、最大許容出力、及び炉心の出力レベルに応じた許容軸方向フラックス差などである。但し、発電所の技術的仕様によっては、その他のパラメータを利用して許容コンディションII状態点を選択することも可能である。既に述べたように、これらの正常作動状態点は種々の仮想コンディションII過渡現象の初期点となる。
【0044】
要約すると、この分析においては、仕様にかなったコンディションI(即ち、正常作動)状態点から始まったコンディションII過渡現象(例えば、制御棒の落下;制御棒の引抜き;入口温度の低下;可溶ホウ素の希釈など)によって許容される状態点が選択される。次いで、起こり得るコンディションIIを示す1組の状態点を評価することによって燃料損傷を防止するための所定基準(即ち、燃料の完全性基準)が満たされているか否かを判断する。この分析の目的は起こり得るコンディションIIを示し、しかも燃料の完全性基準に合わない状態点を原子炉防護システムが許容しないことを立証することにある。従って、正常作動及びコンディションII過渡現象はすべて燃料損傷限界値を超えることがない。過渡現象後の、または過渡現象に呼応する状態点軌跡に関するデータを履歴データ(即ち、履歴点及び履歴パラメータ)に基づく限界値と比較し、その結果、炉心内での安全作動(例えば、PCI回避)に対する燃料棒の適否が判断される。従って、本発明の分析方法のステップ130からステップ170までにおいて、公知の、または適当な操作または過渡現象を適用することができる。
【0045】
従って、本発明では1つの選択された状態点からもう1つの選択された状態点までの出力変化をモニターすることによって領域または連続体として炉心を分析する。これに対して点から点へまたは燃料棒から燃料棒へという従来のアプローチでは、それぞれの燃料棒を孤立させ、局所的出力変化及びその影響をモニターすることによって、この燃料棒が許容可能なPCI基準を超えているか否かを知る必要があり、これと同じプロセスを50、000本の燃料棒すべてについて繰返すことになる。従って、本発明の方法は炉心作動領域全体を正確に評価するだけでなく、同時に、選択され、モデリングされ、分析される状態点の総数を著しく簡略化し、モデルの状態点のすべてについて不要な、または重複する過渡現象分析を回避することによって分析をさらにドラスチックに簡略化する。即ち、本発明は従来のPCI分析方法とほぼ同じ程度に正確な方法を提供し、従来のPCI分析方法以上に正確ではないとしても、労力、時間及びコストを著しく軽減する。
【0046】
本発明の分析方法が適当なコンピュータ・コードを使用することで大幅に容易化されることは云うまでもない。これを具体的に説明すると、上記モデルは炉心作動領域を表す面マップまたはグリッド関数としてコードで形成され、少なくとも部分的には(例えば、有効常温ギャップ、局所的燃焼、局所的出力のような)上記主要燃料棒パラメータに応じた燃料棒履歴(例えば、上述した履歴点及び履歴)に基づく。本発明の分析方法の少なくともステップ140及び160はコードを使用して実施することができ、例えば、特定の燃料棒にPCIが発生する前に対応することができる最大出力変化を求めることができる。従って、本発明の分析方法または少なくともその幾つかのステップはコンピュータによって自動化することができる。このような自動化により、一部の発電所オペレータが要望している3D FACを、分析量を著しく軽減しながら、しかも正確に、有効に、且つ能率的に行うことができる。
【0047】
本発明の方法を下記実施例に基づいてさらに詳しく説明する。但し、この実施例は飽くまでも説明の簡略化を目的とするものであり、本発明の範囲を制限するものではない。具体的には、この実施例は上記公知分析方法によるコンディションII事象のPCI分析と本発明の改良された方法との比較結果を提示するものである。
【0048】

比較のため、同じ運転期間(例えば、サイクル)、同じ動作履歴数、運転期間内の同じ回数を両方の方法で分析する。具体的には、どちらの方法においても、約2つ乃至3つの動作履歴を運転期間内に約3‐4回に亘って分析した。これら2つの分析方法は以下に述べるように著しく異なる様相を示す。
【0049】
従来のアプローチとして、上述したステップに加えて3つ乃至6つの作動履歴を正常作動時における約12乃至32種類の操作に関して分析し、それぞれの操作を約30乃至60タイムステップに亘って分析した。次いで、それぞれの正常作動状態点で始まる約4乃至8種類のコンディションII過渡現象を適用してこれを分析した。正常作動状態点で始まるそれぞれのコンディションII過渡現象も約10乃至150タイムステップに亘って分析しなければならなかった。コンピュータ・コード・モデルにおけるそれぞれの燃料棒に対して上記ステップのそれぞれにおける経時的出力履歴を適用した。つまり、厖大な数の、極めて煩雑な上記ステップのすべてを約13,000回以上実施しなければならない。最後に、燃料棒応力分析能力を含む燃料棒分析コードを使用して燃料棒の性能評価を実施しなければならない。要約すれば、従来のアプローチでは、それぞれのステップが考慮し且つ分析すべき多数のオプションを有するから、倍々的に分析事項が増大する。全体として、約10億乃至約720億の事項を分析しなければならない。
【0050】
公知のアプローチとは対照的に、本発明の方法は分析を著しく簡略化した。即ち、ここに述べる例の場合、約5乃至7回評価された異なる出力レベルに対応する上記選択されたパラメータの関数として炉心作動領域モデルを特定した。キセノン分布は約25乃至40回評価し、異なる制御棒挿入深さを約18乃至64回評価した。これらの分析を、ペンシルバニア州モンロービルに本社を有するWestinghouse Electric Company LLCからライセンスによる3次元核分析コードであるWestinghouse Electric Company ANC コードで実施した。但し、公知の、または上記コードに代わる適当な3次元核分析コードを使用することも可能である。
【0051】
典型的な燃料棒をモデリングし、複数の理想的な運用プロフィールについて評価し、特徴的な履歴パラメータ及び限界出力面を生成させた。特徴的履歴パラメータ及び限界出力面は(例えば、局所的燃料燃焼、有効常温ギャップなどのような)主要な燃料パラメータの関数である。次いで、核分析ツールにおいてこのモデルを使用することにより、分析すべく選択された燃料棒に関する履歴情報を作成し、PCI損傷に関して局所的出力過渡現象を容認できることを確認した。この分析をモデル中の制限または制御作用を有する燃料棒のそれぞれに対して合計約10乃至100回実施した。公知のアプローチと同様に、組み合わせ課題を作成し、適当なコンピュータ・コードを使用してこの課題を解決した。但し、分析の範囲はドラスチックに簡略化された。即ち、合計約10億乃至720億の事項を分析しなければならない従来のアプローチと比較して、本発明の分析はこの事項数を約135,000個乃至約21,500,000個にまで激減させた。
【0052】
従って、本発明の方法は、既に述べたように、分析に要する時間を約2年から数週間にドラスチックに短縮する。しかも、主要炉心状態点を離散させたから、コンピュータ・コードによって自動的に行うことができ、これによって分析のために従来必要とされた消費時間の多くを省くことができる。
【0053】
再び図3を参照して本発明の方法を説明する。図3は9種類の過渡現象に関してδキセノンとキセノン・ミッドの関係を示すグラフである。即ち、図3のグラフは種々の過渡現象に起因する寿命末期(EOL)の負荷変動を示す。負荷変動は炉心出力を所定のレベル(例えば、30%、50%及び70%)までゆっくり低下させる3通りの出力低下操作と、ほかに6通りの過渡現象を含む。例えば、図3の説明文中の18-6、30%過渡現象という記述は炉心を18時間に亘って全出力で運転した後、急激に30%出力に低下させ、この状態を6時間持続させたことを意味する。但し、本発明の範囲を逸脱することなく、図3に示す過渡現象及び操作とは異なる適当な過渡現象及び操作を適用し、分析することも可能である。グラフはそれぞれの過渡現象のすべての状態点におけるδキセノンとキセノン・ミッドとの関係を示している。グラフから、且つ以上の説明から明らかなように、異なる過渡現象における状態点の多くが互いに殆どオーバーラップするか、または密接な関係にあり、冗長度が顕著である。本発明の方法はこの冗長性に着目し、これを利用することによって能率的に且つ正確に炉心をモデリングし、分析する。
【0054】
以上の説明から明らかなように、本発明の方法は公知のPCI分析のように直線的なアプローチを採用するのとは本質的に異なり、炉心作動領域の任意の状態点を履歴データと組み合わせたグリッドとして炉心過渡現象をモデリングした上で、グリッド(即ち、種々の主要パラメータの組み合わせ)またはモデル上の異なる状態点間の経過として過渡現象を分析することによって、例えば、PCIに対する特定のコンディションII事象のインパクトを評価する。こうして、もし従来のようなしらみつぶし的な分析方法を採用すれば1人のオペレータが約2年以上の労力を要するPCI分析を、本発明の組み合わせアプローチを採用することによって3週間以内に完了することができる。
【0055】
本発明の具体的な実施態様を以上に詳述したが、当業者ならば本明細書に開示の全容に照らして上記実施態様の細部に種々の変更を案出できるであろう。従って、開示の具体例は飽くまでも説明の便宜上選択されたものであり、添付の請求項及びこれら請求項の等価物によって定義される本発明の範囲を制限するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】燃料棒の一部切欠き断面図である。
【図2】本発明のペレット-被覆相互作用(PCI)分析方法を示すフローチャートである。
【図3】種々の過渡現象の衝撃をキセノン・パラメータで表示するグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子炉防護システムを有し、複数の細長い燃料棒を含み、前記燃料棒のそれぞれが複数の核燃料ペレットを囲む被覆管を含み、前記核燃料ペレットと前記被覆管との間にギャップが画定され、前記原子炉防護システムが炉心の複数のパラメータに関する多数の運転制限値を規定し、前記運転制限値が少なくとも部分的には前記炉心のための所定の技術的仕様事項に基づく前記炉心におけるペレット-被覆相互作用を評価する方法であって、
前記炉心の分析すべき多数の前記パラメータを選択し;
選択されたパラメータを、それぞれが所定の炉心状態における所定の時点に対応する複数の状態点において評価し、1組の前記状態点に基づいて前記炉心の前記燃料棒の1本または2本以上の動作履歴を表す履歴点を求め;
少なくとも部分的には前記状態点に基づく前記炉心の作動領域のモデルを形成し;
状態点軌跡を構成する状態点のそれぞれが所定の過渡現象下において前記原子炉防護システムの運転制限値以内に入り、前記炉心の前記作動領域内の前記状態点のサブセットを画定するような前記状態点軌跡を、少なくとも部分的には1つまたは2つ以上の前記履歴点に基づいて前記モデルの前記状態点から選択し;
前記過渡現象に呼応して起こるペレット-被覆相互作用に関して前記状態点軌跡を評価するステップを含む炉心におけるペレット-被覆相互作用を評価する方法。
【請求項2】
前記過渡現象として、コンディションンII事象を表す過渡現象を作用させるステップをも含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記パラメータとして、サイクル・タイム、キセノン分布、制御棒位置及び出力レベルから成る群から選択される少なくとも1つのパラメータを選択するステップをも含む請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記コアの安全運転を可能にするとともにペレット-被覆相互作用を回避するため1組の許容炉心運転ガイドラインを設け;
前記作動領域の境界に対する制御効果を有する前記炉心の燃料棒の数を選択し;
前記ガイドラインとの整合性に関して、選択された燃料棒を評価するステップをも含む請求項3に記載の方法。
【請求項5】
δキセノン・パラメータ及びキセノン・ミッド・パラメータの関数としての前記炉心におけるキセノン分布を評価するステップをも含み;
δキセノン・パラメータが前記炉心の頂部に分布するキセノンの量から前記炉心の底部に分布するキセノンの平均量を差引いた量であり;
前記キセノン・ミッド・パラメータが炉心全体の平均キセノン分布より大きい前記炉心の中程1/3における平均キセノン分布である請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記原子炉防護システムの運転制限値が正常炉心運転制限値及びコンディションII過渡現象時制限値を含み、前記炉心作動領域のモデルを形成する前記ステップが
前記炉心作動領域を前記複数の状態点から成るグリッドとしてモデリングし;
前記状態点軌跡として、前記作動領域の境界に対して制御効果を有する前記グリッド上の点を選択し;
前記正常炉心運転制限値及びコンディションII過渡現象時制限値との関連において、前記グリッドにおける前記制御点を評価するステップをも含む請求項1に記載の方法。
【請求項7】
それぞれの前記履歴点が、局所的燃焼、局所的出力レベル、選択された原子核の局所的同位体濃度、局所的有効常温ギャップ、及び最大許容出力から成る群から選択される少なくとも1つの履歴パラメータを含み、前記少なくとも1つの履歴パラメータを前記燃料棒のそれぞれの少なくとも1つの出力履歴に関して評価することによって、前記炉心内の前記燃料棒のそれぞれに関する履歴データを作成する請求項1に記載の方法。
【請求項8】
核分析コードを用意し;
前記核分析コードに前記履歴データを組込み;
前記核分析コードを利用することにより、100%出力でのベース負荷運転、低出力での長時間運転、及び炉心出力レベルが頻繁に変化する負荷追従運転から成る群から選択される種々の炉心運転シナリオでの燃料サイクルに亘って前記炉心を評価するステップをも含む請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記状態点軌跡の評価結果を前記履歴データと比較し;
前記炉心での安全運転に採用できるとして容認するか、または採用できないとして拒絶するステップをも含む請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記燃料棒におけるペレット-被覆相互作用の可能性を分析するため、3次元炉心出力分布分析を採用するステップをも含む請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記状態点として、前記炉心の正常作動と関連する状態点及びコンディションII事象と関連する状態点を設定し;
前記炉心の前記燃料棒のすべてについて前記状態点のすべてを個々に分析しなくても、ペレット-被覆相互作用に関して前記炉心の前記燃料棒を正確に評価できるように、少数の前記正常作動状態点及び前記コンディションII状態点を使用して前記炉心の前記燃料棒をモデリング及び分析するステップをも含む請求項1に記載の方法。
【請求項12】
原子炉防護システムを有し、複数の細長い燃料棒を含み、前記原子炉防護システムが炉心の複数のパラメータに関する多数の運転制限値を規定するように設計された前記炉心における燃料を分析する方法であって、
前記炉心の分析すべき多数の前記パラメータを選択し;
選択されたパラメータを、それぞれが所定の炉心状態における所定の時点に対応する複数の状態点において評価し、1組の前記状態点に基づいて前記炉心の前記燃料棒の1本または2本以上の動作履歴を表す履歴点を求め;
前記炉心の作動領域を正確にモデリングするため前記状態点のグリッドを形成し;
状態点軌跡を構成する状態点のそれぞれが所定の過渡現象下において前記原子炉防護システムの運転制限値以内に入り、前記炉心の前記作動領域内の前記状態点のサブセットを画定するような前記状態点軌跡を、少なくとも部分的には1つまたは2つ以上の前記履歴点に基づいて前記モデルの前記状態点から選択し;
前記過渡現象に呼応して起こるペレット-被覆相互作用に関して前記状態点軌跡を評価するステップを含む炉心における燃料を分析する方法。
【請求項13】
前記パラメータとして、サイクル・タイム、キセノン分布、制御棒位置及び出力レベルから成る群から選択されるパラメータを選択するステップをも含む請求項12に記載の方法。
【請求項14】
δキセノン・パラメータ及びキセノン・ミッド・パラメータの関数としての前記炉心におけるキセノン分布を評価するステップをも含み;
δキセノン・パラメータが前記炉心の頂部に分布するキセノンの量から前記炉心の底部に分布するキセノンの平均量を差引いた量であり;
前記キセノン・ミッド・パラメータが炉心全体の平均キセノン分布より大きい前記炉心の中程1/3における平均キセノン分布である請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記過渡現象として、コンディションII事象を表す過渡現象を作用させ;
前記状態点軌跡として、前記炉心の正常作動領域を構成する前記状態点のそれぞれから始まる前記コンディションII事象過渡現象と関連する状態点を選択し;
選択されたパラメータに対する前記コンディションII事象の影響を分析し;
前記コンディションII事象に呼応して起こるペレット-被覆相互作用の可能性を判断するステップをも含む請求項12に記載の方法。
【請求項16】
前記コアの安全運転を可能にするとともにペレット-被覆相互作用を回避するため1組の許容炉心運転ガイドラインを設け;
前記ガイドラインとの整合性に関して、選択された燃料棒を評価するステップをも含む請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記燃料が複数の燃料棒から成り;それぞれの前記履歴点が局所的燃焼、局所的出力レベル、選択された原子核の局所的同位体濃、度局所的有効常温ギャップ、及び最大許容出力から成る群から選択される少なくとも1つの履歴パラメータを含み;前記炉心内の前記燃料棒のそれぞれについて履歴データを作成するため、前記燃料棒のそれぞれに関して少なくとも1つの出力履歴を明らかにするため前記少なくとも1つの履歴パラメータを評価する請求項12に記載の方法。
【請求項18】
前記燃料として、それぞれが被覆管内に収納された複数の燃料ペレットを含む複数の細長い燃料棒を用意し;
燃料棒におけるペレット-被覆相互作用の可能性を分析するため、3次元炉心出力分布分析を利用するステップをも含む請求項12に記載の方法。
【請求項19】
前記炉心の前記燃料棒のすべてについて前記状態点のすべてを個々に分析しなくても、ペレット-被覆相互作用に関して前記炉心の前記燃料棒を正確に評価できるように、前記状態点の前記軌跡を利用して前記炉心の前記燃料棒をモデリング及び分析するステップをも含む請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記方法を構成するステップの少なくとも幾つがコンピュータによって自動化されている請求項12に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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