説明

ペロブスカイト型複合酸化物粉末の製造方法

【課題】誘電体層の積層数が多く、薄層化された積層セラミックコンデンサにおける誘電体層の構成材料などとして好適に用いることが可能な、微細で、比表面積が大きく、結晶性の高いチタン酸バリウム系のペロブスカイト型複合酸化物を効率よく、しかも経済的に製造する方法を提供する。
【解決手段】細孔容積が0.38mL/g以上であり、かつ、比表面積が250m2/g以上である酸化チタン粉末を含む溶液に、水酸化バリウムを加え、反応させることにより、ペロブスカイト型複合酸化物を合成する。
Aサイトを構成するBaの一部を、Srおよび/またはCaにより置換する。
上記の反応工程で生成したペロブスカイト型複合酸化物を熱処理して結晶性を向上させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般式ABO3で表されるペロブスカイト型複合酸化物の製造方法に関し、詳しくは、セラミック電子部品用のセラミック原料として好適に用いることが可能なチタン酸バリウム系のペロブスカイト型複合酸化物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微粒で結晶性に優れたチタン酸バリウムなどのペロブスカイト型複合酸化物を経済的に製造するための方法として、例えば、以下に説明するような固液反応を用いたペロブスカイト型複合酸化物の方法が提案されている(特許文献1参照)。
【0003】
この方法は、Aサイト成分を構成する元素の、結晶水を含む水酸化物と、250m2/g以上の比表面積を有する酸化チタン粉末とを混合する混合処理工程を備え、この混合処理工程は、加熱処理を行うことにより結晶水の水分のみでAサイト成分の溶解した溶解液を生成させる溶解液生成工程と、酸化チタン粉末と溶解液とを反応させて反応合成物を生成させる反応工程とを含むとともに、溶解液生成工程と反応工程とが連続的に進行するようにした複合酸化物粉末の製造方法である。
また、特許文献1には、上述のようにして得られる複合酸化物を仮焼することが開示されている。
【0004】
そして、この特許文献1の発明の方法によれば、異相が少なく、超微粒で、かつ、結晶性に優れた複合酸化物が得られ、これを仮焼処理することにより、立方晶系複合酸化物から結晶系が転移して、結晶性に優れた正方晶系の複合酸化物を製造することができるとされている。
【0005】
ところで、先行技術のような固液反応によって微粒のチタン酸バリウム(BaTiO3)系のペロブスカイト型複合酸化物粉末を得るためには、反応を十分に進行させる見地から、水酸化バリウム(Ba(OH)2)が酸化チタン(TiO2)内部に拡散する距離を小さくすることが必要である。そのため、特許文献1の方法では、原料となる酸化チタン粉末として、比表面積(SSA)が250m2/g以上の酸化チタン粉末(すなわち、比表面積相当径で6nm以下の酸化チタン粉末)を用いるようにしている。
【0006】
しかしながら、上述のような微細な酸化チタン一次粒子が強く凝集している場合、通常の撹拌では微小な凝集体を個々の一次粒子にまで分散することは困難で、液中では凝集粒子として存在することになる。
【0007】
そのため、酸化チタン(TiO2)と、水酸化バリウム(Ba(OH)2)とを十分に反応させるためには、水酸化バリウムは酸化チタン凝集体の内部にまで拡散する必要があるが、酸化チタン粉末の密な凝集体が存在する場合には、酸化チタン凝集体の内部にまで水酸化バリウムを拡散させることが困難で、結果として酸化チタン粉末原料と水酸化バリウムとの反応が、不十分になってしまうという問題点がある。
【0008】
また、近年、積層セラミックコンデンサにおいて、容量形成用の内部電極間に介在する誘電体層としてのセラミック層の厚み(素子厚み)が1μm未満の領域のものが実用化されるに至っており、微粒で、c/a軸比が大きく、結晶性の高いチタン酸バリウム粉末への要求が大きくなっているが、上述の特許文献1の技術では、必ずしも上記の要求に応えることができなくなりつつあるのが実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第4200427号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記課題を解決するものであり、例えば、誘電体層の積層数が多く、薄層化された積層セラミックコンデンサにおける誘電体層の構成材料などとして好適に用いることが可能な、微細で、表面積が大きく、結晶性の高いチタン酸バリウム系のペロブスカイト型複合酸化物を効率よく製造するための方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、発明者は、固液反応によって微粒のチタン酸バリウム(BaTiO3)系のペロブスカイト型複合酸化物粉末を製造することに関して、種々の検討を行い、従来は、原料である酸化チタン粉末の比表面積によって反応性を評価し、適切な比表面積を有するTiO2粉末を選択することで、必要な反応性を確保することができると考えてきたが、酸化チタン粉末を構成する粒子(TiO2一次粒子)どうしのパッキングが密な場合には、TiO2一次粒子が凝集した凝集体の内部へのBa2+の拡散が妨げられ、反応が不均一になる傾向があることを知った。
【0012】
また、TiO2一次粒子のパッキングの程度は、原料となる酸化チタン粉末の細孔径分布から知ることが可能であり、この細孔径分布は、細孔容積(BJH法)で調べることができることを知った。なお、BJH法により細孔容積を求めると、通常は直径が1〜数十nm程度の細孔の容積が求められることになるとされている。
そして、かかる知見に基づいて、さらに実験、検討を続けて、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明のペロブスカイト型複合酸化物の製造方法は、
一般式ABO3で表されるチタン酸バリウム系のペロブスカイト型複合酸化物の製造方法であって、
少なくとも酸化チタン粉末を含む溶液に、水酸化バリウムを加え、反応させる反応工程を備えているとともに、
前記酸化チタン粉末として、細孔容積が0.38mL/g以上で、比表面積が250m2/g以上の酸化チタン粉末を用いること
を特徴としている。
【0014】
また、本発明により製造されるペロブスカイト型複合酸化物は、Aサイトを構成するBaの一部が、Srおよび/またはCaにより置換されていてもよい。
【0015】
また、本発明のペロブスカイト型複合酸化物の製造方法においては、前記反応工程で生成したペロブスカイト型複合酸化物を熱処理する工程をさらに備えていることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の一般式ABO3で表されるペロブスカイト型複合酸化物の製造方法は、少なくとも酸化チタン粉末を含む溶液に、水酸化バリウムを加え、反応させる反応工程を備えているとともに、上述の酸化チタン粉末として、細孔容積が0.38mL/g以上であり、かつ、比表面積が250m2/g以上である酸化チタン粉末を用いるようにしているので、従来の固液反応により得られるペロブスカイト型複合酸化物よりも比表面積が大きい、微細なペロブスカイト型複合酸化物を得ることができる。
【0017】
すなわち、細孔容積が0.38mL/g以上で、比表面積が250m2/g以上の酸化チタン粉末を用いた場合、単に比表面積(SSA)だけに着目して選定した酸化チタンを用いる場合に比べて、より大きい比表面積を有するペロブスカイト型複合酸化物を、特に複雑な製造工程を必要とすることなく効率よく製造することが可能になる。
【0018】
なお、本発明において、酸化チタン粉末について規定されている細孔容積は、BJH法により求められる値であり、比表面積はBET法により求められる値である。
【0019】
また、本発明によれば、Aサイトを構成するBaの一部を、Srおよび/またはCaにより置換した組成のペロブスカイト型複合酸化物を製造することも可能であり、その場合には、特性を調整して、所望の特性を有するペロブスカイト型複合酸化物を効率よく製造することができる。
【0020】
なお、Baと置換するSrおよび/またはCaの成分原料は、酸化チタンスラリーに含ませておくことも可能であり、また、反応工程の直前に、水酸化バリウムよりも先にあるいは同時に、酸化チタンスラリーに添加することも可能である。
【0021】
なお、水酸化バリウムとして、水和水を含まない水酸化バリウムを用いることにより、酸化チタン粉末などが分散したスラリーに固形の水酸化バリウムが直接に添加することが可能になるため、製造プロセスを簡略化することができる。また、水和水を含まない水酸化バリウムを固形のまま酸化チタンスラリーに添加するようにした場合、その溶解熱により温度上昇が起こり、合成反応を促進させることが可能になる。
【0022】
また、本発明において、反応工程で生成したペロブスカイト型複合酸化物を熱処理することにより、c/a軸比を高めて、結晶性の高いペロブスカイト型複合酸化物を得ることができる。
【0023】
例えば、800〜1000℃の温度で熱処理することで、c/a軸比が大きい(1を超える)正方晶のペロブスカイト型複合酸化物が得られる。また、本発明においては、細孔容積が0.38mL/g以上で、比表面積が250m2/g以上の酸化チタン粉末を用いるようにしているので、粒成長し、結晶性が向上する工程である熱処理工程を経た後においても、十分に微細で、比表面積が大きく、かつ、c/a軸比の大きい、結晶性の高いペロブスカイト型複合酸化物を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施例(実施例1)においてTi原料として用いた酸化チタン(TiO2)粉末の比表面積と、反応を行わせることにより得たBaTiO3粉末の比表面積の関係を示す図である。
【図2】本発明の一実施例(実施例1)においてTi原料として用いた酸化チタン(TiO2)粉末の細孔容積と、反応を行わせることにより得たBaTiO3粉末の比表面積の関係を示す図である。
【図3】表1のNo.2およびNo.7の酸化チタン(TiO2)粉末を用いて作製したBaTiO3粉末を仮焼した後のBaTiO3粉末の比表面積と、結晶のc/a軸比との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に本発明の実施例を示して、本発明の特徴とするところをさらに詳しく説明する。
【実施例1】
【0026】
表1に示すような比表面積および細孔容積を有する、No.1〜No.9のアナターゼ型の酸化チタン(TiO2)粉末を準備した。なお、各酸化チタン(TiO2)粉末の比表面積はBET法、細孔容積はBJH法により測定することにより得た値である。
【0027】
それから、表1のNo.1〜No.9の各TiO2粉末7.40kgと、純水19.4L(リットル)を反応器に投入し、撹拌機で撹拌してスラリーを作製した。
【0028】
次に、このスラリーを70℃(50℃以上であることが望ましい)まで加熱し、所定のBa/Ti比となるように、水和水を有しない水酸化バリウム(Ba(OH)2)を固形のまま添加した後、温度が80℃以上に保たれるように、加熱、撹拌しながら、1時間反応させることにより、チタン酸バリウム(BaTiO3)を合成し、得られたスラリーを乾燥してBaTiO3粉末(ペロブスカイト型複合酸化物粉末)を得た。
【0029】
それから、得られたBaTiO3粉末の比表面積をBET法で測定した。その結果を表1に示す。
また、得られたBaTiO3粉末のX線回折を行いBa(OH)2の残留状況を調査した。その結果についても、表1に併せて示す。
【0030】
【表1】

【0031】
また、原料として用いたTiO2粉末の比表面積(SSA)と、上述のようにして反応を行わせることにより作製(合成)したBaTiO3粉末の比表面積(SSA)の関係を図1に示すとともに、原料として用いたTiO2粉末の細孔容積と、作製(合成)したBaTiO3粉末の比表面積の関係を図2に示す。図1および図2において、プロットしたデータの近傍に付した1〜9の番号は、表1のNo.1〜9のTiO2粉末を示す番号である。
【0032】
表1と、図1および図2から明らかなように、表1のNo.1〜No.4のTiO2粉末を用いた場合、比表面積(SSA)は307〜315m2/gと、表1のNo.5〜No.9のTiO2粉末と同等であるにも関わらず、得られたBaTiO3粉末の比表面積(SSA)は10〜44m2/gと小さくなることが確認された。
また、未反応物であるBa(OH)2が残留していることも確認された。
【0033】
一方、表1のNo.5〜No.9のTiO2粉末を用いた場合、微粒で結晶性の高いBaTiO3粉末が得られることが確認された。また、未反応物であるBa(OH)2が残留していないことが確認された。
これは、比表面積が、表1のNo.1〜No.4と同等でも、細孔容積が大きい(0.38mL/g以上)のTiO2粉末を用いることにより、Ba(OH)2がTiO2粒子の凝集体の内部まで拡散し、反応が十分に進んだことによるものである。
【実施例2】
【0034】
最終組成が(Ba0.95Ca0.05)TiO3となるように酸化チタン(TiO2)粉末(表1のNo.7のTiO2粉末)、炭酸カルシウム(CaCO3)粉末、水酸化バリウム(Ba(OH)2)粉末の各原料を秤量した。
【0035】
それから、実施例1と同じようにTiO2粉末(表1のNo.7のTiO2粉末)と、CaCO3粉末と、純水とを反応器に投入し、撹拌機で撹拌しながら70℃まで加熱した時点で、水和水を含まない水酸化バリウム(Ba(OH)2)を加え、継続して攪拌を行いながら、80℃以上で1時間反応させ、(Ba,Ca)TiO3スラリーを得た。その後、スラリーを乾燥して(Ba,Ca)TiO3粉末を得た。
【0036】
得られた(Ba,Ca)TiO3粉末は、実施例1の表1のNo.7のTiO2粉末を用いて作製(合成)したBaTiO3とほぼ同じ比表面積を有し、組成が目標の(Ba0.95Ca0.05)TiO3と一致する微細な粉末((Ba0.95Ca0.05)TiO3)粉末であることが確認された。
また、未反応物であるBa(OH)2が残留していないことが確認された。
【0037】
なお、この実施例2ではCaソースとして炭酸カルシウム(CaCO3)粉末を用いたが、CaソースはCaCO3粉末に限定されるものではなく、例えば、酢酸カルシウム、硝酸カルシウムなどの他の塩や、水酸化物(水酸化カルシウム)を用いることも可能である。
【実施例3】
【0038】
最終組成が(Ba0.95Sr0.05)TiO3となるようにTiO2粉末(表1のNo.7のTiO2粉末)、炭酸ストロンチウム(SrCO3)粉末、水酸化バリウム(Ba(OH)2)粉末の各原料を秤量した。
【0039】
それから、実施例1と同じようにTiO2粉末(表1のNo.7のTiO2粉末)と、SrCO3粉末と、純水とを反応器に投入し、撹拌機で撹拌しながら70℃まで加熱した時点で、水和水を含まない水酸化バリウム(Ba(OH)2)を加え、継続して攪拌を行いながら、80℃以上で1時間反応させ、(Ba,Sr)TiO3スラリーを得た。その後、スラリーを乾燥して(Ba,Sr)TiO3粉末を得た。
【0040】
得られた(Ba,Sr)TiO3粉末は、実施例1の表1のNo.7のTiO2粉末を用いて作製(合成)したBaTiO3とほぼ同じ比表面積を有し、組成が目標の(Ba0.95Ca0.05)TiO3と一致する微細な粉末((Ba0.95Sr0.05)TiO3)粉末であることが確認された。
また、未反応物であるBa(OH)2が残留していないことが確認された。
【0041】
なお、この実施例3ではSrソースとして炭酸ストロンチウム(SrCO3)粉末を用いたが、Srソースは炭酸ストロンチウム(SrCO3)粉末に限定されるものではなく、例えば、硝酸ストロンチウムなどの他の塩や、水酸化物(水酸化ストロンチウム)などを用いることも可能である。
【実施例4】
【0042】
実施例1の表1のNo.2のTiO2粉末(本発明の要件を満たさない、細孔容積が0.22mL/gのTiO2粉末)を用いて作製したBaTiO3粉末と、No.7のTiO2粉末(本発明の要件を満たす、細孔容積が0.48mL/gのTiO2粉末)を用いて作製したBaTiO3粉末を、熱処理炉を用いて、温度条件を800〜1000℃の範囲で異ならせて熱処理(仮焼)を行った。
【0043】
そして、熱処理後(仮焼後)のBaTiO3粉末について、BET法にて比表面積を測定した。また、X線回折法(XRD)を用いて格子定数を測定し、c/a軸比を算出した。
熱処理後(仮焼後)のBaTiO3粉末の比表面積(SSA)と、結晶のc/a軸比との関係を図3に示す。
【0044】
図3から明らかなように、細孔容積が0.38mL/g以上(0.48mL)で、本発明の要件を満たすTiO2粉末(No.7のTiO2粉末)を用いて作製(合成)し、熱処理(仮焼)したBaTiO3粉末は、細孔容積が0.22mL/gで、本発明の要件を満たさないTiO2粉末(No.2のTiO2粉末)を用いて作製(合成)し、熱処理(仮焼)したBaTiO3粉末に比べてc/a軸比が大きく、結晶性が高くなることが確認された。
なお、図3からは、粒成長する(比表面積が低下する)のに伴って、c/a軸比が大きくなり、結晶性が向上する傾向があることがわかる。
【0045】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、反応に供する酸化チタン(TiO2)粉末を含むスラリーの固形分濃度、スラリーに水酸化バリウムを添加して反応させる際の反応温度や反応時間などの条件、原料である酸化チタン粉末の比表面積の範囲および細孔容積、Aサイトの一部をSrおよび/またはCaで置換する際の置換割合、反応工程で生成したチタン酸バリウムを熱処理する際の条件などに関し、発明の範囲内において種々の応用、変形を加えることが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式ABO3で表されるチタン酸バリウム系のペロブスカイト型複合酸化物の製造方法であって、
少なくとも酸化チタン粉末を含む溶液に、水酸化バリウムを加え、反応させる反応工程を備えているとともに、
前記酸化チタン粉末として、細孔容積が0.38mL/g以上で、比表面積が250m2/g以上の酸化チタン粉末を用いること
を特徴とするペロブスカイト型複合酸化物の製造方法。
【請求項2】
Aサイトを構成するBaの一部が、Srおよび/またはCaにより置換されていることを特徴とする請求項1記載のペロブスカイト型複合酸化物の製造方法。
【請求項3】
前記反応工程で生成したペロブスカイト型複合酸化物を熱処理する工程をさらに備えていることを特徴とする請求項1または2記載のペロブスカイト型複合酸化物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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