説明

ペーシロマイセス属に属する微生物の分生子を製造する方法

【課題】
ペーシロマイセス属に属する微生物の分生子の製造において、子実体及び/又は分生子柄束の形成を抑えながら、分生子の形成を主として向上させることができ、生産性が高い分生子の製造方法を提供可能とすること。
【解決手段】
ペーシロマイセス(Paecilomyces)属に属する微生物の分生子を製造する方法であって、培養開始時の培養物の水分比率が50重量%〜70重量%の範囲内となるように前記微生物を接種する接種工程、及び、少なくとも前記微生物の分生子が形成されるまでの期間内において培養物の含水率を35重量%〜75重量%の範囲内で維持する条件下で前記微生物を培養する培養工程を有することを特徴とする分生子の製造方法等。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペーシロマイセス属に属する微生物の分生子を製造する方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
化学合成化合物を有効成分として使用しない害虫防除方法のひとつとして、殺虫性 ペーシロマイセス(Paecilomyces)属に属する微生物の利用が注目されており、いくつかの殺虫性 ペーシロマイセス(Paecilomyces)属に属する微生物を利用した殺虫性 ペーシロマイセス(Paecilomyces)属に属する微生物製剤が知られている(例えば、特許文献1参照)。殺虫性 ペーシロマイセス(Paecilomyces)属に属する微生物製剤の有効成分である殺虫性 ペーシロマイセス(Paecilomyces)属に属する微生物は、生きている菌体が害虫に付着、感染することによって殺虫活性を発現することから、例えば、生きた状態の分生子が用いられる。そしてこのような分生子は、通常、固体培養で製造されている。このような固体培養として、例えば、ペーシロマイセス属に属する微生物の分生子を製造する方法がいくつかの文献に記載されている(例えば、特許文献2及び非特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特公平7−98726号公報
【特許文献2】特表平9−506505号公報
【非特許文献1】日本菌学会会報 26(4),499−510(1985)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来から知られたペーシロマイセス属に属する微生物の分生子を製造する方法では、分生子の生産性が低く、実用面から十分なものではなかった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、かかる状況のもと鋭意検討した結果、固体培養における培養物の含水率を特定の範囲に制御・維持することにより、子実体及び/又は分生子柄束の形成を抑えながら、分生子の形成を主として向上させることができることを見出し、本発明に至った。
即ち、本発明は、
1.ペーシロマイセス(Paecilomyces)属に属する微生物の分生子を製造する方法であって、培養開始時の培養物の水分比率が50重量%〜70重量%の範囲内となるように前記微生物を接種する接種工程、及び、少なくとも前記微生物の分生子が形成されるまでの期間内において培養物の含水率を35重量%〜75重量%の範囲内で維持する条件下で前記微生物を培養する培養工程を有することを特徴とする分生子の製造方法(以下、本発明製造方法と記すこともある。);
2.前記微生物の培養工程において、培養物に照度が100ルクス〜6000ルクスの範囲内の光を照射しながら前記微生物を培養することを特徴とする前項1記載の分生子の製造方法;
3.前記微生物が、ペーシロマイセス・テヌイペス(Paecilomyces tenuipes)種に属する微生物であることを特徴とする前項1又は2記載の分生子の製造方法;
4.前記微生物が、ペーシロマイセス・テヌイペス(Paecilomyces tenuipes)T1株であることを特徴とする前項1又は2記載の分生子の製造方法;
5.ペーシロマイセス(Paecilomyces)属に属する微生物の分生子を取得する方法であって、
前項1〜4のいずれかの一つの前項に記載される製造方法により製造された前記微生物の分生子を、当該製造方法における培養工程後、得られた培養物の含水率が15重量%以下になるように当該培養物を乾燥させる乾燥工程、及び、当該乾燥工程後、培養物から前記微生物の分生子を回収することを特徴とする分生子の取得方法;
等を提供するものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、ペーシロマイセス属に属する微生物の分生子の製造において、子実体及び/又は分生子柄束の形成を抑えながら、分生子の形成を主として向上させることができ、生産性が高い分生子の製造方法を提供可能とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明製造方法において対象となる微生物は、ペーシロマイセス(Paecilomyces)属に属する微生物であり、例えば、ペーシロマイセス・テヌイペス(Paecilomyces tenuipes)、ペーシロマイセス・フモソロセウス(Paecilomyces fumosoroseus)、ペーシロマイセス・ファリノーサス(Paecilomyces farinosus)等を挙げることができる。さらに具体的には、例えば、ペーシロマイセス・テヌイペス(Paecilomyces tenuipes)T1株等を挙げられる。尚、ペーシロマイセス・テヌイペス(Paecilomyces tenuipes)T1株は、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに寄託され、当該国際寄託機関に受託番号FERM BP−7861(受託の日:平成13年8月29日、原寄託番号P−18487(原寄託日:平成13年8月29日)として維持・管理されている。
【0008】
本発明製造方法において対象となる微生物は、天然から分離してもよいし、菌株保存機関等から購入してもよい。天然から分離する場合には、まず、体が硬化し、体からキノコ状のものが生えている死亡虫を野外から採取し、ペーシロマイセス属に属する微生物を分離する。当該死亡虫に形成されている分生子を白金耳でかきとり、かきとった分生子をSDY培地やCzapek培地等の糸状菌生育用固体培地に線を引くように擦りつける。25℃で培養し、数日後に生えてきた菌の独立したコロニーを切り取り、切り取った菌を新しいSDY培地やCzapek培地等の糸状菌生育用固体培地に移植する。さらに25℃で培養し、数日後に生えてきた菌について、植物防疫特別増刊号No.2天敵微生物の研究手法(社団法人日本植物防疫協会発行)に記載された方法等に従って、ペーシロマイセス属に属する微生物であるか同定を行うことにより、ペーシロマイセス属に属する微生物を選抜する。
次に、選抜されたペーシロマイセス属に属する微生物の殺虫活性の有無を確認する。選抜されたペーシロマイセス属に属する微生物をSDY培地やCzapek培地等の糸状菌生育用固体培地で25℃で培養し、形成された分生子を1×10cfu/mlとなるように滅菌水に懸濁し、分離源となった死亡虫と同種の昆虫10頭を懸濁液に30秒間浸漬する。浸漬した昆虫を25℃、湿度100%RHの条件下で飼育し、接種後6日後に死亡虫が観察される菌株を、殺虫性糸状菌であるペーシロマイセス属に属する微生物として選抜する。
【0009】
本発明製造方法において用いられる固体培地は、糸状菌生育のために通常使用される固体培地であればよい。例えば、米、大麦、フスマ、トウモロコシ等の穀物類、オガ粉、オカラ、コーン・スティープ・リカー、大豆ミール、小麦粉、グルコース、マルトエキス等を一種又は二種以上混合したものを炭素源及び/又は窒素源として含有する固体培地を挙げることができる。これに必要に応じて、酵母粉末、ミネラル類(例えば、リン酸一カリウム、炭酸石灰、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム等)、ビタミン類(チアミン等)、アミノ酸類等を配合したもの、粘土鉱物等の多孔物質、寒天、ゼラチン等の天然高分子等を混合したものであってもよい。具体的には例えば、SDY培地やCzapek培地等の糸状菌生育用固体培地が挙げられる。
【0010】
次に、本発明製造方法における接種工程について説明する。
当該接種工程では、培養開始時の培養物の水分比率が50重量%〜70重量%(好ましくは、55重量%〜65重量%)の範囲内となるようにペーシロマイセス(Paecilomyces)属に属する微生物(即ち、前培養菌体)を接種する。
ここで「培養物の水分比率」とは、下記の式に従って算出されるものである。
【0011】
培養物の水分比率(重量%)={(B+C)/(A+B+C)}×100
A:固体培地に含まれる培地成分全重量
B:固体培地に加える水分重量
C:前培養菌体が液体培養により調製された場合における、当該液体培養により調製された液体状培養物の全重量
尚、前培養菌体が固体培養により調製された場合における、当該固体培養により調製された固体状培養物の全重量は考慮しない。
【0012】
前培養菌体が液体培養により調製された場合においては、培養を開始する際に、固体培地に含まれる全培地成分と、固体培地に加える水と、液体培養により調製された液体状培養物(前培養菌体)とを混合して準備すればよい。
尚、前培養菌体が固体培養により調製された場合においては、培養を開始する際に、固体培地に含まれる全培地成分と、固体培地に加える水と、固体培養により調製された培養物(前培養菌体)とを混合して準備すればよい。
【0013】
このようにして、本発明製造方法において用いられる、微生物(前培養菌体)が接種された培養物を調製すればよい。勿論、予め所定の水分比率になるような、微生物(前培養菌体)を含まない培養物を準備しておき、当該培養物における培養開始時の水分比率が50重量%〜70重量%(好ましくは、55重量%〜65重量%)の範囲内になるように、例えばコンラージ棒等を用いるスプレッド法等により微生物(前培養菌体)を接種してもよい。
尚、培養物に接種される微生物(前培養菌体)の菌体量としては、例えば、培養開始時の培養物全体に対して0.01重量%〜20重量%(好ましくは、1重量%〜10重量%)の範囲を挙げることができる。
【0014】
前培養菌体は、ペーシロマイセス(Paecilomyces)属に属する微生物が純粋に生育している培養物等であればよく特に制限はない。このような培養物等は、液体培養又は固体培養により調製できるが、液体培養により調製する方が好ましい。
前培養菌体の調製のための液体培養は、ペーシロマイセス(Paecilomyces)属に属する微生物が培養可能な培養条件である液体培養であれば特に制限はないが、通常、糸状菌生育のために通常使用される液体培養を用いればよい。当該液体培養では、例えば、試験管振盪式培養、往復式振盪培養、ジャーファーメンター培養、タンク培養等の培養方法を挙げることができる。
前培養に用いられる液体培地は、糸状菌生育のために通常使用される液体培地であればよく、糸状菌生育のために通常使用される炭素源、窒素源、有機塩及び無機塩等を適宜含む培地が用いられる。具体的には例えば、マルトエキス液体培地、オートミール液体培地、ポテトデキストロース液体培地、サブロー液体培地、L−broth液体培地等の液体培地が挙げられる。これらの液体培地は、通常、水に炭素源、窒素源、有機塩及び無機塩等を適宜混合することにより調製できる。
前培養に用いられる種菌は、菌株が純粋に単離されており、生存している菌体であれば特に制限はない。例えば、予めポテトデキストロース寒天培地(Difco Laboratories社製)等で培養された菌体、凍結保存された菌体、凍結乾燥保存された菌体等を用いることができる。
液体培養における培養温度は、ペーシロマイセス(Paecilomyces)属に属する微生物が生育可能な範囲で適宜変更することができるが、通常、15℃〜35℃の範囲であればよい。培地のpHは、通常、約5〜約7の範囲であればよい。培養時間は、培養条件により異なるが、通常、約1日間〜約2週間の範囲であればよい。
尚、前培養菌体の調製のための固体培養は、ペーシロマイセス(Paecilomyces)属に属する微生物が培養可能な培養条件である固体培養であれば特に制限はないが、通常、糸状菌生育のために通常使用される固体培養を用いればよい。例えば、ポテトデキストロース寒天培地(Difco Laboratories社製)等で培養された菌体を用いることができる。
【0015】
次に、本発明製造方法における培養工程について説明する。
当該培養工程では、少なくとも前記微生物の分生子が形成されるまでの期間内において培養物の含水率を35重量%〜75重量%(好ましくは、50重量%〜70重量%)の範囲内で維持する条件下で前記微生物を培養する。
ここで「培養物の含水率」とは、下記の操作及び下記の式に従って算出されるものである。
【0016】
培養中の培養物の一部を、予め「空の重量」を測定しておいたポリスチレン製等のペトリディッシュに入れた後、これの重量を「乾燥前の培養物の重量(ペトリディッシュ重量込)」として測定する。測定後、これを60℃に設定された真空乾燥機内に入れ、0.01MPa以下の真空度で重量の減少がなくなるまで乾燥させる。これの重量を「乾燥後の培養物の重量(ペトリディッシュ重量込)」として測定する。それぞれの測定値に基づき下記の式から算出する。
培養物の含水率(重量%)={(A−B)/(A−C)}×100
A:乾燥前の培養物の重量(ペトリディッシュ重量込)
B:乾燥後の培養物の重量(ペトリディッシュ重量込)
C:ペトリディッシュの空の重量
【0017】
当該培養工程における培養方法としては、ペーシロマイセス(Paecilomyces)属に属する微生物が培養可能は方法であれば特に制限はないが、例えば、(1)トレー等の容器に固体培地を敷き詰めて培養する方法、(2)固体培地をカラム等の容器に充填して、通気しながら培養する方法等が挙げられる。固体培養に用いられる容器としては、通常の糸状菌を生育させることが可能な容器であれば特に制限はないが、例えば、樹脂製のトレーやカラム、ガラス製のトレーやカラム、ステンレス等の金属製のトレーやカラム等を用いることができる。
【0018】
当該培養工程において、培養物の含水率が低下すると、ペーシロマイセス(Paecilomyces)属に属する微生物の分生子形成が極端に妨げられるため、少なくとも前記微生物の分生子が形成されるまでの期間内において培養物の含水率が35重量%を下回らないように維持する条件下で前記微生物を培養することが重要である。ここで「少なくとも前記微生物の分生子が形成されるまでの期間」とは、通常、培養開始時から少なくとも7日間程度であるが、菌株の種類、培地の種類、培養条件等によっては短時間に変化したり、長時間に変化したりすることもある。
【0019】
当該培養工程において、少なくとも前記微生物の分生子が形成されるまでの期間内において培養物の含水率を35重量%〜75重量%(好ましくは、50重量%〜70重量%)の範囲内で維持する条件下で前記微生物を培養する方法については、特に制限はないが、例えば、(1)容器に蓋をして水の蒸発を防止する方法、(2)容器を加湿機能付き恒温機等の機器の中に入れる方法、(3)容器に加湿した空気を通気する方法、(4)培養中に蒸発した量の水分を培養物に追加する方法等を挙げることができる。
【0020】
また当該培養工程における培養条件としては、前記の培養物の水分比率及び前記の培養物の含水率に係る培養条件以外にはペーシロマイセス(Paecilomyces)属に属する微生物が培養可能な培養条件であれば特に制限はないが、好ましくは、培養物に照度が100ルクス〜6000ルクスの範囲内の光を照射しながら前記微生物を培養できるような環境を提供可能とする培養条件を挙げることができる。
光照射は、培養開始直後から培養3日目までに開始することが好ましく、目視にて培養物の表面に分生子の形成が観察されるか、又は、培養終了時まで継続すればよい。光照射の間隔は、連続又は間欠(例えば、明条件:連続14時間/日、暗条件:連続10時間/日)のいずれでも可能であるが、好ましくは連続照射である。
光照射に用いられる照明装置は、例えば、蛍光灯、白熱灯、ハロゲン灯、LED灯等を光源とする通常の照明装置を用いることができる。また、照明装置に変えて日光等の自然光を用いることもできる。照度は、デジタル照度計IM−5型(入江製作所社製)を用いて、容器内の培養物の上にセンサー部を置いて測定する。
【0021】
因みに培養温度は、前記微生物が生育可能な範囲で適宜変更することができるが、通常、15℃〜35℃(好ましくは、20℃〜30℃)の範囲であればよい。
【0022】
当該培養工程における培養中(好ましくは、菌糸の生育が旺盛な培養初期、例えば、培養4日目までの期間)に、菌糸の生育及び/又は分生子の形成を促すために培養物を混合(切り返し)してもよい。混合の方法は特に制限はないが、雑菌が混入しないように無菌的な条件下で1回又は2回程度混合することが好ましい。
当該培養工程における培養の好ましい終点は、目視により前記微生物の分生子が培養物全体に十分に形成していることが観察できるまでである。培養期間としては、菌株の種類、培地の種類、培養条件等により異なるが、通常、7日間〜約1ヶ月間の範囲であればよい。
【0023】
このようにして培養された培養物は、分生子の生存率が低下しないように、速やかに回収することが好ましい。回収に用いられる容器、機器等は、分生子にダメージを与えないものであれば特に制限はない。回収時の温度は、通常、4℃〜35℃(好ましくは、10℃〜25℃)の範囲であればよい。また、回収時の湿度は、通常、低湿度であるほうがよく、好ましくは、例えば、50%RH以下の範囲を挙げることができる。
【0024】
さらに、回収された培養物は、その含水率が15重量%以下(好ましくは、7重量%以下)になるように当該培養物を乾燥させる後、当該培養物から前記微生物の分生子を回収することが好ましい。
培養物を乾燥させる方法は、製造された分生子にダメージを与えない方法であれば特に制限はないが、例えば、乾燥した空気を導入することが可能な機器等に、回収された培養物を入れて乾燥すればよい。乾燥する際の温度は、4℃〜35℃(好ましくは、10℃〜25℃)の範囲であればよい。
このようにして乾燥された培養物から前記微生物の分生子を回収する方法は、製造された分生子にダメージを与えない方法であれば特に制限はないが、例えば、ふるいによる分画、サイクロンによる分画等の方法を用いることができる。回収する際の温度は、4℃〜35℃(好ましくは、10℃〜25℃)の範囲であればよい。また、回収する際の湿度は、低湿度であるほうがよく、好ましくは、例えば、50%RH以下の範囲を挙げることができる。尚、当該回収操作を行う前に、乾燥された培養物を予め粉砕しておくこともできる。
【0025】
回収された培養物に含まれる生存分生子濃度(cfu:コロニー形成単位)は、培養物を通気条件下で7日間乾燥することにより菌糸を死滅させた後、これを適当な濃度に懸濁・希釈する。得られた分生子液をポテトデキストロース寒天培地(Difco Laboratories社製)等で培養した後、形成されたコロニー数を計数することにより調べることができる。乾燥された培養物から回収された分生子の粉末についても、これを適当な濃度に懸濁・希釈する。得られた分生子液をポテトデキストロース寒天培地(Difco Laboratories社製)等で培養した後、形成されたコロニー数を計数することにより調べることができる。
【実施例】
【0026】
以下、本発明を実施例等により、さらに詳しく説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0027】
実施例1 (前培養液の調製)
500ml容フラスコに入れた100mlのポテトデキストロース培地(Difco Laboratories社製)に、あらかじめポテトデキストロース寒天培地(Difco Laboratories社製)で培養されたペーシロマイセス・テヌイペス(Paecilomyces tenuipes)T1菌株の菌体を接種し、25℃で3日間振とう培養することにより、前培養液を得た。
【0028】
実施例2 (本発明製造方法による分生子の製造例(その1))
大麦皮付圧ぺん麦(松景精麦社製)80gをハンドクラッシャーHC−1(大阪ケミカル社製)で粒径が1〜5mm程度になるように粗粉砕し、オートクレーブで121℃、30分滅菌した。これを、滅菌されたPET製透明トレー(縦310mm、横220mm、高さ80mm)に移し、次いで実施例1で調製された前培養液20gと滅菌水100gとを加えて混合した(培養開始時の培養物の水分比率:60重量%)。当該トレーに予め滅菌された布を被せて、さらに透明トレーで蓋をして、温度25℃、湿度90%RHの人工気象機に入れた。透明トレー内の照度が、それぞれ0ルクス、50ルクス、100ルクス、500ルクス、1000ルクス、3000ルクス、6000ルクス、13000ルクスとなるように人工気象器の照明の強さ、及び、透明トレーの底面と側面、又は全面をアルミホイルを用いて遮光する等、光照射量を調整しながら培養した。照度はデジタル照度計IM−5型(入江製作所社製)を用いて測定した。培養2日目及び4日目に培養物の混合を行った。
培養7日目の培養物(尚、当該培養物の含水率は35重量%以上を維持している。)を約2gサンプリングして、これをポリプロピレン製コンテナ(620×450×330mm)に入れた後、コンテナに室温の乾燥空気を40L/分の流量で通気することにより、培養物を7日間乾燥した。
乾燥された培養物(尚、当該培養物の含水率は15重量%以下に乾燥されている。)0.1gを計り取り、これに10mlの滅菌希釈水を加えて懸濁した。この懸濁液を滅菌希釈水により適当な濃度に希釈して、希釈液100μlをポテトデキストロース寒天培地(Difco Laboratories社製)に塗布し、25℃で3日間培養して生育したコロニーの数を計測した。計数されたコロニーの数から培養物重量当たりの生存分生子濃度を算出した。滅菌希釈水としては0.85%(w/v)塩化ナトリウム水溶液に新リノー(日本農薬社製、展着剤)を0.1%(w/v)濃度で添加し、滅菌したものを使用した。
培養7日目の生存分生子濃度を表1に示した。尚、生存分生子濃度に応じて下記の3段階で判定した。
◎:1010以上
○:10以上
×:10未満
【0029】
【表2】

【0030】
実施例3 (本発明製造方法による分生子の製造例(その2))
大麦皮付圧ぺん麦(松景精麦社製)80gをハンドクラッシャーHC−1(大阪ケミカル社製)で粒径が1〜5mm程度になるように粗粉砕し、オートクレーブで121℃、30分滅菌した。これを、滅菌されたPET製透明トレー(縦310mm、横220mm、高さ80mm)に移し、次いで実施例1で調製された前培養液20gと滅菌水20g(培養開始時の培養物の水分比率:33重量%)、40g(培養開始時の培養物の水分比率:43重量%)、60g(培養開始時の培養物の水分比率:50重量%)、80g(培養開始時の培養物の水分比率:56重量%)、100g(培養開始時の培養物の水分比率:60重量%)、120g(培養開始時の培養物の水分比率:64重量%)、160g(培養開始時の培養物の水分比率:69重量%)とを加えて混合した。当該トレーに滅菌した布を被せ、さらに透明トレーで蓋をして、温度25℃、湿度90%RHの人工気象機で、照度6000ルクスの光を照射しながら培養した。照度はデジタル照度計IM−5型(入江製作所社製)を用いて測定した。培養2日目及び4日目に培養物の混合を行った。
培養7日目の培養物(尚、当該培養物の含水率は後述及び表3参照)を約2gサンプリングして、これをポリプロピレン製コンテナ(620×450×330mm)に入れ、コンテナに室温の乾燥空気を40L/分の流量で通気することにより、培養物を7日間乾燥した。
乾燥された培養物(尚、当該培養物の含水率は15重量%以下に乾燥されている。)0.1gを計り取り、これに10mlの滅菌希釈水を加えて懸濁した。この懸濁液を滅菌希釈水により適当な濃度に希釈して、希釈液100μlをポテトデキストロース寒天培地(Difco Laboratories社製)に塗布し、25℃で3日間培養して生育したコロニーの数を計測した。計数されたコロニーの数から培養物重量当たりの生存分生子濃度を算出した。滅菌希釈水としては0.85%(w/v)塩化ナトリウム水溶液に新リノー(日本農薬社製、展着剤)を0.1%(w/v)濃度で添加し、滅菌したものを使用した。
別途、培養7日目の培養物をサンプリングした。サンプルリングされた培養物(培養物の重量は2g程度)を、予め空の重量を測定しておいたポリスチレン製ペトリディッシュ(直径90mmφ)に入れた後、これの重量を「乾燥前の培養物の重量(ペトリディッシュ重量込)」として測定した。測定後、これを60℃に設定された真空乾燥機内に入れ、0.01MPa以下の真空度で重量の減少がなくなるまで乾燥させた。これの重量を「乾燥後の培養物の重量(ペトリディッシュ重量込)」として測定した。それぞれの測定値に基づき下記の式からサンプリングされた培養物の含水率を算出した。
培養7日目の生存分生子濃度及び培養物の含水率を表3に示した。尚、生存分生子濃度に応じて下記の3段階で判定した。
◎:1010以上
○:10以上
×:10未満
【0031】
【表3】

【0032】
実施例4 (本発明製造方法による分生子の製造例(その3))
フスマ(オリエンタル酵母社製)80gをオートクレーブで121℃、30分滅菌した。これを、滅菌されたPET製透明トレー(縦310mm、横220mm、高さ80mm)に移し、次いで実施例1で調製された前培養液20gと滅菌水80g(培養開始時の培養物の水分比率:56重量%)又は120g(培養開始時の培養物の水分比率:64重量%)とを加えて混合した。当該トレーに予め滅菌された布を被せて、温度25℃、湿度90%RHの人工気象機で、照度6000ルクスの光を照射しながら培養した。照度はデジタル照度計IM−5型(入江製作所社製)を用いて測定した。培養2日目及び4日目に培養物の混合を行った。
培養7日目の培養物(尚、当該培養物の含水率は後述及び表4参照)を約2gサンプリングして、これをポリプロピレン製コンテナ(620×450×330mm)に入れ、コンテナに室温の乾燥空気を40L/分の流量で通気することにより、培養物を7日間乾燥した。
乾燥された培養物(尚、当該培養物の含水率は15重量%以下に乾燥されている。)0.1gを計り取り、これに10mlの滅菌希釈水を加えて懸濁した。この懸濁液を滅菌希釈水により適当な濃度に希釈して、希釈液100μlをポテトデキストロース寒天培地(Difco Laboratories社製)に塗布し、25℃で3日間培養して生育したコロニーの数を計測した。計数されたコロニーの数から、培養物重量当たりの生存分生子濃度を算出した。滅菌希釈水としては0.85%(w/v)塩化ナトリウム水溶液に新リノー(日本農薬社製、展着剤)を0.1%(w/v)濃度で添加し、滅菌したものを使用した。
別途、培養7日目の培養物をサンプリングした。サンプルリングされた培養物(培養物の重量は2g程度)を、予め空の重量を測定しておいたポリスチレン製ペトリディッシュ(直径90mmφ)に入れた後、これの重量を「乾燥前の培養物の重量(ペトリディッシュ重量込)」として測定した。測定後、これを60℃に設定された真空乾燥機内に入れ、0.01MPa以下の真空度で重量の減少がなくなるまで乾燥させた。これの重量を「乾燥後の培養物の重量(ペトリディッシュ重量込)」として測定した。それぞれの測定値に基づき下記の式からサンプリングされた培養物の含水率を算出した。
培養7日目の生存分生子濃度及び培養物の含水率を表4に示した。尚、生存分生子濃度に応じて下記の3段階で判定した。
◎:1010以上
○:10以上
×:10未満
【0033】
【表4】

【0034】
実施例5 (本発明製造方法による分生子の製造例(その4))
大麦皮付圧ぺん麦(松景精麦社製)80gをハンドクラッシャーHC−1(大阪ケミカル社製)で粒径が1〜5mm程度になるように粗粉砕し、オートクレーブで121℃、30分滅菌した。これを、滅菌されたPET製透明トレー(縦310mm、横220mm、高さ80mm)に移し、次いで実施例1で調製された前培養液20gと滅菌水100gとを加えて混合した(培養開始時の培養物の水分比率:60重量%)。当該トレーに予め滅菌された布を被せて、温度25℃、湿度90%RHの人工気象機で、照度6000ルクスの光を照射しながら培養した。照度はデジタル照度計IM−5型(入江製作所社製)を用いて測定した。培養2日目及び4日目に培養物の混合を行った。以上の培養を透明トレー10個分実施した。
培養14日目の培養物(尚、当該培養物の含水率は35重量%以上を維持している。)を透明トレー10個分すべて混合して、これをポリプロピレン製コンテナ(620×450×330mm)に入れた後、コンテナに室温の乾燥空気を40L/分の流量で通気することにより、培養物を乾燥した。乾燥時間がそれぞれ、4時間、7.5時間、11時間、18時間、23時間、43時間、62時間のときの培養物(尚、当該培養物の含水率は後述及び表5参照)40gをコンテナから抜き取った。抜き取られた培養物40gと瑪瑙ボール(直径20mm)5個とを日本工業規格標準ふるい(JIS Z 8801:60メッシュ、直径200mmφ、高さ45mm)に入れ、これを日本工業規格標準ふるい(JIS Z 8801:100、200メッシュ、直径200mmφ、高さ45mm)と重ねて自動ふるい振とう機(FRITSCH社)で振とう(振幅2mm、10分間)することにより、200メッシュ以下の画分を分生子粉末として得た。得られた分生子粉末の重量を測定し、「分生子粉末の重量」及び「ふるいに仕込んだ培養物の重量」に基づき「分生子粉末の重量収率」を算出した。
別途、それぞれの乾燥時間のときの培養物をサンプリングした。サンプルリングされた培養物(培養物の重量は2g程度)を、予め空の重量を測定しておいたポリスチレン製ペトリディッシュ(直径90mmφ)に入れた後、これの重量を「乾燥前の培養物の重量(ペトリディッシュ重量込)」として測定した。測定後、これを60℃に設定された真空乾燥機内に入れ、0.01MPa以下の真空度で重量の減少がなくなるまで乾燥させた。これの重量を「乾燥後の培養物の重量(ペトリディッシュ重量込)」として測定した。それぞれの測定値に基づき下記の式からサンプリングされた培養物の含水率を算出した。
各々の乾燥時間における培養物の含水率及び分生子回収率(「培養物の含水率」が5重量%のときの「分生子粉末の重量収率」を100%とした場合の各乾燥時間において抜き取られた培養物での「分生子粉末の重量収率」の割合(%))を表5に示した。尚、分生子回収率に応じて下記の4段階で判定した。
◎:80%以上
○:50%以上
△:20%以上
×:20%未満
【0035】
【表5】

【0036】
実施例6 (本発明製造方法による分生子の製造例(その5))
大麦皮付圧ぺん麦(松景精麦社製)80gをハンドクラッシャーHC−1(大阪ケミカル社製)で粒径が1〜5mm程度になるように粗粉砕し、オートクレーブで121℃、30分滅菌した。これを、滅菌されたPET製透明トレー(縦310mm、横220mm、高さ80mm)に移し、次いで実施例1で調製された前培養液20gと滅菌水100gとを加えて混合した(培養開始時の培養物の水分比率:60重量%)。当該トレーに予め滅菌された布を被せて、さらに透明トレーで蓋をして、温度25℃、湿度90%RHの人工気象機に入れた。透明トレー内の照度が、それぞれ3000ルクス、6000ルクスとなるように人工気象器の照明の強さを調整しながら培養した。照度はデジタル照度計IM−5型(入江製作所社製)を用いて測定した。培養2日目及び4日目に培養物の混合を行った。
培養14日目の培養物(尚、当該培養物の含水率は35重量%以上を維持している。)をポリプロピレン製コンテナ(620×450×330mm)に入れた後、コンテナに室温の乾燥空気を40L/分の流量で通気することにより、培養物を4日間乾燥した。
乾燥された培養物(尚、当該培養物の含水率は15重量%以下に乾燥されている。)40gと瑪瑙ボール(直径20mm)5個とを日本工業規格標準ふるい(JIS Z 8801:60メッシュ、直径200mmφ、高さ45mm)に入れ、これを日本工業規格標準ふるい(JIS Z 8801:100、200メッシュ、直径200mmφ、高さ45mm)と重ねて自動ふるい振とう機(FRITSCH社)で振とう(振幅2mm、10分間)することにより、200メッシュ以下の画分を分生子粉末として得た。得られた分生子粉末の重量を測定し、「分生子粉末の重量」及び「ふるいに仕込んだ培養物の重量」に基づき「分生子粉末の重量収率」を算出した。
分生子粉末0.01gを計り取り、これに10mlの滅菌希釈水を加えて懸濁した。この懸濁液を滅菌希釈水により適当な濃度に希釈して、希釈液100μlをポテトデキストロース寒天培地(Difco Laboratories社製)に塗布し、25℃で3日間培養して生育したコロニーの数を計測した。計数されたコロニーの数から、分生子粉末重量当たりの生存分生子濃度を算出した。滅菌希釈水としては0.85%(w/v)塩化ナトリウム水溶液に新リノー(日本農薬社製、展着剤)を0.1%(w/v)濃度で添加し、滅菌したものを使用した。
【0037】
分生子粉末の重量収率(重量%)=(A/B)×100
A:分生子粉末の重量
B:ふるいに仕込んだ培養物の重量
培養7日目の生存分生子濃度及び培養物の含水率を表6に示した。尚、生存分生子濃度に応じて下記の3段階で判定した。
◎:1010以上
○:10以上
×:10未満
【0038】
分画した分生子粉末の生存分生子濃度、及び重量収率を表6に示す。
【0039】
【表6】

【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明によれば、ペーシロマイセス属に属する微生物の分生子の製造において、子実体及び/又は分生子柄束の形成を抑えながら、分生子の形成を主として向上させることができ、生産性が高い分生子の製造方法を提供可能とする。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペーシロマイセス(Paecilomyces)属に属する微生物の分生子を製造する方法であって、
培養開始時の培養物の水分比率が50重量%〜70重量%の範囲内となるように前記微生物を接種する接種工程、及び、少なくとも前記微生物の分生子が形成されるまでの期間内において培養物の含水率を35重量%〜75重量%の範囲内で維持する条件下で前記微生物を培養する培養工程
を有することを特徴とする分生子の製造方法。
【請求項2】
前記微生物の培養工程において、培養物に照度が100ルクス〜6000ルクスの範囲内の光を照射しながら前記微生物を培養することを特徴とする請求項1記載の分生子の製造方法。
【請求項3】
前記微生物が、ペーシロマイセス・テヌイペス(Paecilomyces tenuipes)種に属する微生物であることを特徴とする請求項1又は2記載の分生子の製造方法。
【請求項4】
前記微生物が、ペーシロマイセス・テヌイペス(Paecilomyces tenuipes)T1株であることを特徴とする請求項1又は2記載の分生子の製造方法。
【請求項5】
ペーシロマイセス(Paecilomyces)属に属する微生物の分生子を取得する方法であって、
請求項1〜4のいずれかの一つの請求項に記載される製造方法により製造された前記微生物の分生子を、当該製造方法における培養工程後、得られた培養物の含水率が15重量%以下になるように当該培養物を乾燥させる乾燥工程、及び、当該乾燥工程後、培養物から前記微生物の分生子を回収することを特徴とする分生子の取得方法。



【公開番号】特開2006−141392(P2006−141392A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−63457(P2005−63457)
【出願日】平成17年3月8日(2005.3.8)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】