説明

ペースト評価方法及びペースト評価装置

【課題】電池の電極表面に塗工されるペーストの状態を精度良く評価することができるペースト評価方法及びペースト評価装置を提供すること。
【解決手段】回転機構20を有する容器11と、ペーストPの交流インピーダンスを測定する測定部とを用い、容器11内に収容したペーストPを回転機構20により回転させながら、測定部によりペーストPの交流インピーダンスを測定する。測定部は、ペーストPに交流電圧を印加するために平行配置された一対の印加電極板31,32を有し、回転機構20による一回転分以上の交流インピーダンスの測定値を平均化して、一対の印加電極板31,32の平行度誤差から生じる測定誤差を補正する。印加電極板31,32の中間位置には、基準電極板33を配置し、ペーストPの交流インピーダンスを、印加電極板間31,32を流れる電流Ioと、一方の印加電極板31と基準電極板33との間の電位差Voとを用いて算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池の製造工程において、電極表面に塗工されるペーストを評価するためのペースト評価方法及びペースト評価装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、ハイブリッド自動車等には、二次電池が搭載されている。二次電池の電極は、アルミ箔(正極側)や銅箔(負極側)などの金属箔の表面に、ペーストを塗工して形成されている。このペーストには、リチウムイオンを格納する活物質や、電子の通り道となるカーボン、活物質とカーボンとを結着させるバインダ、材料を溶かして一様に分散させる有機溶剤などが含まれている。
【0003】
こうした二次電池では、電極表面に塗工されたペーストの品質が悪いと、電極表面における反応性が低下して電池性能が低下してしまう。そのため、二次電池の製造工程において、ペーストの状態を評価することが行われている。
ペーストの評価方法として、例えば特許文献1には、電解液やペースト等の測定対象(サンプル)に交流電圧をかけてインピーダンスを測定し、その測定値と基準値とを比較することにより、サンプル状態の良否を判定する評価方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−176767号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来技術には、次のような問題があった。
すなわち、特許文献1の技術によると、測定中のサンプルの成分が、重力沈降により時間経過とともに測定容器内で偏りを生じるおそれがあった。具体的には、ペーストをサンプルとした場合、測定開始時には活物質やカーボン等が有機溶剤中で一様に分散しているが、次第に重力沈降により活物質やカーボン等が下方に沈降して偏りを生じるおそれがあった。このため、ペーストの状態を精度良く評価できないおそれがあった。
【0006】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、電池の電極表面に塗工されるペーストの状態を精度良く評価することができるペースト評価方法及びペースト評価装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の一態様に係るペースト評価方法は、次のような特徴を有している。
(1)電池の電極表面に塗工されるペーストを評価するためのペースト評価方法において、回転機構を有する容器と、前記ペーストの交流インピーダンスを測定する測定部とを用い、前記容器内に収容した前記ペーストを前記回転機構により回転させながら、前記測定部により前記ペーストの交流インピーダンスを測定することを特徴とする。
(2)(1)に記載するペースト評価方法において、前記測定部は、前記ペーストに交流電圧を印加するために平行配置された一対の印加電極板を有し、前記回転機構による一回転分以上の前記交流インピーダンスの測定値を平均化して、前記一対の印加電極板の平行度誤差から生じる測定誤差を補正することを特徴とする。
(3)(2)に記載するペースト評価方法において、前記測定部は、前記一対の印加電極板の中間位置に配置された基準電極板を有し、前記ペーストの交流インピーダンスを、前記一対の印加電極板間を流れる電流と、一方の前記印加電極板と前記基準電極板との間の電位差とを用いて算出することを特徴とする。
(4)(3)に記載するペースト評価方法において、前記基準電極板として、厚さ方向に貫通する複数の貫通孔が形成されたものを用い、前記貫通孔は、メッシュ形状又はパンチ穴形状をなし、前記メッシュ形状の隙間径又は前記パンチ穴形状の穴径は、100μm〜1mmであることを特徴とする。
(5)(2)乃至(4)のいずれか一つに記載するペースト評価方法において、前記測定部により、前記印加電極板に印加する交流電圧の周波数を、連続的に変化させることを特徴とする。
(6)(5)に記載するペースト評価方法において、前記連続的に変化させる周波数の範囲に、1MHz、100kHz、1Hzの周波数を含み、前記1MHz、100kHz、1Hzの各周波数の交流電圧を印加したときの前記交流インピーダンスの測定値を利用して、前記ペーストの状態を評価することを特徴とする。
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の一態様に係るペースト評価装置は、次のような特徴を有している。
(7)電池の電極表面に塗工されるペーストを評価するためのペースト評価装置において、回転機構を有する容器と、前記ペーストの交流インピーダンスを測定する測定部とを備え、前記測定部は、前記容器内に収容した前記ペーストを前記回転機構により回転させながら、前記ペーストの交流インピーダンスを測定することを特徴とする。
(8)(7)に記載するペースト評価装置において、前記測定部は、前記ペーストに交流電圧を印加するために平行配置された一対の印加電極板を有し、前記回転機構による一回転分以上の前記交流インピーダンスの測定値を平均化して、前記一対の印加電極板の平行度誤差から生じる測定誤差を補正することを特徴とする。
(9)(8)に記載するペースト評価装置において、前記測定部は、前記一対の印加電極板の中間位置に配置された基準電極板を有し、前記ペーストの交流インピーダンスを、前記一対の印加電極板間を流れる電流と、一方の前記印加電極板と前記基準電極板との間の電位差とを用いて算出することを特徴とする。
(10)(9)に記載するペースト評価装置において、前記基準電極板には、厚さ方向に貫通する複数の貫通孔が形成され、前記貫通孔は、メッシュ形状又はパンチ穴形状をなし、前記メッシュ形状の隙間径又は前記パンチ穴形状の穴径は、100μm〜1mmであることを特徴とする。
(11)(8)乃至(10)のいずれか一つに記載するペースト評価装置において、前記測定部は、前記印加電極板に印加する交流電圧の周波数を、連続的に変化させることを特徴とする。
(12)(11)に記載するペースト評価装置において、前記連続的に変化させる周波数の範囲に、1MHz、100kHz、1Hzの周波数を含み、前記1MHz、100kHz、1Hzの各周波数の交流電圧を印加したときの前記交流インピーダンスの測定値を利用して、前記ペーストの状態を評価することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
上記特徴を有するペースト評価方法又はペースト評価装置は、次のような作用、効果を奏する。
(1)電池の電極表面に塗工されるペーストを評価するためのペースト評価方法又はペースト評価装置において、回転機構を有する容器と、前記ペーストの交流インピーダンスを測定する測定部とを用い、前記容器内に収容した前記ペーストを前記回転機構により回転させながら、前記測定部により前記ペーストの交流インピーダンスを測定することを特徴とするので、測定中のペーストが回転により常に撹拌された状態となり、ペースト中の活物質やカーボン等が重力沈降することなく均一に保たれるため、ペーストの状態を精度良く評価することができる。
【0010】
(2)(1)に記載するペースト評価方法又はペースト評価装置において、前記測定部は、前記ペーストに交流電圧を印加するために平行配置された一対の印加電極板を有し、前記回転機構による一回転分以上の前記交流インピーダンスの測定値を平均化して、前記一対の印加電極板の平行度誤差から生じる測定誤差を補正することを特徴とするので、たとえ配置された印加電極板の平行度に誤差が存在する場合にも、正確な交流インピーダンスを測定して、ペーストの状態を高精度に評価することができる。
【0011】
(3)(2)に記載するペースト評価方法又はペースト評価装置において、前記測定部は、前記一対の印加電極板の中間位置に配置された基準電極板を有し、前記ペーストの交流インピーダンスを、前記一対の印加電極板間を流れる電流と、一方の前記印加電極板と前記基準電極板との間の電位差とを用いて算出することを特徴とするので、基準電極板による安定した電位の測定が可能となり、より正確な交流インピーダンスの測定を行うことができる。
【0012】
(4)(3)に記載するペースト評価方法又はペースト評価装置において、前記基準電極板として、厚さ方向に貫通する複数の貫通孔が形成されたものを用い、前記貫通孔は、メッシュ形状又はパンチ穴形状をなし、前記メッシュ形状の隙間径又は前記パンチ穴形状の穴径は、100μm〜1mmであることを特徴とするので、基準電極板を挿入した場合にも、活物質の移動や電位の測定を妨害することなく安定した測定を行うことができる。なぜなら、メッシュ形状の隙間径又はパンチ穴形状の穴径が、100μm未満であると、ペーストに含まれる活物質の粒径(数μm程度)に対して十分な大きさを確保できず、活物質の移動を妨害することになる。一方、メッシュ形状の隙間径又はパンチ穴形状の穴径が、1mmを超えると、実質的に基準電極板をずらして配置した状態と同じになり、安定した電位の測定が行えなくなるからでる。
【0013】
(5)(2)乃至(4)のいずれか一つに記載するペースト評価方法又はペースト評価装置において、前記測定部により、前記印加電極板に印加する交流電圧の周波数を、連続的に変化させることを特徴とするので、印加電極板間の容量だけでなく抵抗などの他成分情報も得ることができ、ペーストの状態をより精度良く評価することができる。
【0014】
(6)(5)に記載するペースト評価方法又はペースト評価装置において、前記連続的に変化させる周波数の範囲に、1MHz、100kHz、1Hzの周波数を含み、前記1MHz、100kHz、1Hzの各周波数の交流電圧を印加したときの前記交流インピーダンスの測定値を利用して、前記ペーストの状態を評価することを特徴とするので、コールコールプロットを用いた簡易な手法によりペーストの状態を評価することができる。すなわち、測定した交流インピーダンスを複素平面表示(コールコールプロット)した場合、良好なペースト状態を示すグラフは、半円形状をなしている。このとき、1MHz、100kHz、1Hzの各周波数に対応する3点は、それぞれ半円の両端部又は頂点に相当する。したがって、この3点の位置や各点間の傾き等を判別することにより、コールコールプロットが良好なペースト状態を示すものか否かを容易に判別することができ、ペーストの状態を容易に評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本実施形態に係るペースト評価装置を示す全体構成図である。
【図2】同ペースト評価装置の基準電極板を示す平面図である。
【図3】解析装置により表示した交流インピーダンスのコールコールプロットの一例を示すグラフである。
【図4】解析装置による解析アルゴリズムを示すフローチャートである。
【図5】解析装置による判別パターンを示すグラフである。
【図6】交流インピーダンスの測定値の平均化を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係るペースト評価方法及びペースト評価装置を具体化した実施形態について、添付図面を参照しながら詳細に説明する。以下に示す実施形態は、ハイブリッド自動車に搭載されるリチウムイオン二次電池の製造工程において、電極表面に塗工されるペーストの状態を評価するものである。
【0017】
<全体構成>
まず、本実施形態に係るペースト評価装置の全体構成について、図1を参照しながら説明する。図1は、本実施形態に係るペースト評価装置を示す全体構成図である。
ペースト評価装置10は、図1に示すように、評価対象とするペーストPを収容するための容器11と、容器11内に収容したペーストPを回転させるための回転機構20と、容器11内に収容したペーストPの交流インピーダンスZを測定するための測定部(31,32,33,40,50)とを備えている。
測定部(31,32,33,40,50)は、ペーストPに交流電圧Viを印加するために平行配置された一対の印加電極板31,32と、その中間位置に平行配置された一つの基準電極板33と、印加電極板31,32に交流電圧Viを印加する電源装置40と、交流インピーダンスZの測定値を基にペースト状態の解析を行う解析装置50とを有している。
【0018】
ペーストPは、リチウムイオン二次電池の電極表面に塗工されるものである。すなわち、正極側の電極は、アルミ箔の表面にペーストPを塗工して形成されている。一方、負極側の電極は、銅箔の表面にペーストPを塗工して形成されている。そして、ペーストPは、リチウムイオンを格納する活物質、電子の通り道となるカーボン、活物質とカーボンとを結着させるバインダ、材料を溶かして一様に分散させる有機溶剤などを含み構成されている。なお、ペースト成分のうち、活物質は誘導性挙動を示し、カーボンは導電性挙動を示し、バインダは誘導性挙動を示し、有機溶剤は誘導性挙動を示すものである。
【0019】
容器11は、円筒形状をなしている。容器11の各端面12,13には、印加電極板31,32を取り付けるための取付孔12a,13aが形成されている。取付孔12a,13aの位置は、各端面12,13の中心である。なお、ペーストPには、有機溶剤が含まれているため、容器11の材料としては、耐食性のある樹脂を使用している。さらに、収容したペーストPの揮発、吸湿を防止するため、容器11には密封性が確保されている。
【0020】
印加電極板31,32は、ペーストPとの接触抵抗を低減するため、SUS材に金メッキを加工して形成されている。この印加電極板31,32は、容器11の端面12,13よりわずかに小径の円板形状をなしている。各印加電極板31,32の中心位置には、端子部31a,32aが凸設されている。そして、各印加電極板31,32は、容器11の各端面12,13に沿って容器11内に収容されており、各印加電極板31,32の端子部31a,32aは、容器11の端面12,13に形成された各取付孔12a,13aに取り付けられている。各端子部31a,32aは、取付孔12a,13aから容器11の外部へ突出しており、外部からの電圧印加を可能としている。
【0021】
続いて、本実施形態の基準電極板33について、図2を参照しながら説明する。図2は、ペースト評価装置の基準電極板を示す平面図である。
基準電極板33は、印加電極板31,32と同様の円板形状をなしている。この基準電極板33は、金メッキされたSUS材により形成されており、界面での反応が起こらず電流が流れないようになっている。また、基準電極板33には、交流電圧Viが印加されていない。本実施形態の基準電極板33には、図2に示すように、複数の貫通孔34が形成されており、印加電極板31,32間を流れる電流を妨害しないようになっている。この貫通孔34の開口総面積は、全体面積の10〜30%である。また、各貫通孔34は、パンチ穴形状をなしており、均等に分散している。パンチ穴の穴径Xは、100μm〜1mmである。なお、貫通孔34の形状や配置等については、図示したものに限られない。例えば、貫通孔34は、メッシュ形状をなしていてもよい。この場合、メッシュ形状の隙間径は、例えば100μm〜1mmである。
【0022】
電源装置40は、周波数応答分析器としての機能を備えている。この電源装置40としては、出力可能な周波数領域が、0.1Hz〜50MHzであるものが望ましい。また、電源装置40は、4端子法により印加電極板31,32と接続されている。そして、電源装置40は、印加電極板31,32に対し、少なくとも1MHz、100kHz、1Hzの周波数を含む交流電圧Viを、連続的に変化させながら印加している。これと同時に、電源装置40には、印加電極板31,32間を流れる電流Ioと、高電位側の印加電極板31と基準電極板33との間の電位差Voとが入力されている。さらに、電源装置40は、入力された電流Io及び電位差Voを用いて交流インピーダンスZを算出し、解析装置50へと出力している。
【0023】
解析装置50は、入力される交流インピーダンスZを基にペーストPの状態を解析する解析アルゴリズムを備えている。また、解析装置50は、回転機構20とも接続されており、モータの回転位相及び回転数を利用して交流インピーダンスZの測定値を平均化する平均化アルゴリズムを備えている。
【0024】
回転機構20は、容器11に連結されたモータを備えている。モータの回転数は、例えば1000rpmである。回転機構20は、上記したように解析装置50に接続されており、モータの回転位相及び回転数を解析装置50へと出力している。なお、本実施形態の回転機構20は、容器11及び印加電極板31,32を一体として回転させるものであるが、これに限られず、容器11内のペーストPを回転させて撹拌するものであればよい。例えば、容器11又は印加電極板31,32のいずれか一方のみを回転させたり、印加電極板31,32のいずれか一方のみを回転させるようにしてもよい。
【0025】
<評価方法>
次に、本実施形態のペースト評価方法について説明する。このペースト評価方法は、上記構成を有するペースト評価装置を用いて以下のように行う。
まず、評価対象となるペーストPのサンプルを、容器11へと収容する。ここで、サンプルとして採取されるペーストPは、混練工程後であって塗工工程の直前のものである。ペーストPを長時間タンク内に放置しておくと、ペーストP内の活物質やカーボン等が重力沈降により下方に偏り、タンクの上層部と下層部とで、ペーストPの成分が異なった状態となる。このため、塗工工程の直前のペーストPからサンプルを採取することで、実際に電極表面に塗工するペーストPの状態をより正確に評価することができる。このとき、例えば複数のペースト評価装置10を用いて、タンクの上層部や下層部など複数個所のサンプルを採取することが好ましい。このように複数個所のサンプルの評価を行うことで、電極表面に塗工するペーストPを、より高精度に評価できるからである。
なお、サンプルの採取量は、混練工程後のペースト数l〜数十lのうち、例えば数ml〜数十ml程度である。
【0026】
サンプルとして採取したペーストPを容器11に入れた後、回転機構20により容器11全体を例えば1000rpmの回転数で定速回転させる。これにより、ペーストPが撹拌された状態となり、ペーストP中の活物質やカーボン等が重力沈降することなく均一に保たれる。また、1000rpmの回転数で定速回転させることにより、ペーストPを適切な撹拌状態で測定することができる。なぜなら、ペーストPの回転数が低すぎる場合、ペーストPの撹拌が不十分となり、ペーストP中の活物質やカーボン等に重力沈降が生じてしまう。一方、ペーストPの回転数が高すぎた場合、バインダにより結着させた活物質とカーボンとが、バラバラに分離してしまうからである。
【0027】
容器11を回転させた状態で、電源装置40により印加電極板31,32に交流電圧Viを印加する。このとき、印加する交流電圧Viの周波数を、例えば50MHzから0.1Hzへと5分間程度かけて連続的に変化させる。これと同時に、電源装置40により、印加電極板31,32間を流れる電流Ioと、高電位側の印加電極板31と基準電極板33との間の電位差Voとを測定し、交流インピーダンスZを算出する。本実施形態では、基準電極板33による安定した電位の測定を行っているため、より正確な交流インピーダンスZの値を得ることができる。また、本実施形態の基準電極板33には、厚さ方向に貫通する複数の貫通孔34が形成されており、貫通孔34はメッシュ形状又はパンチ穴形状をなし、メッシュ形状の隙間径又はパンチ穴形状の穴径Xは、100μm〜1mmである。このため、基準電極板33を挿入した場合にも、活物質の移動や電位の測定を妨害することなく安定した測定を行うことができる。なぜなら、メッシュ形状の隙間径又はパンチ穴形状の穴径Xが、100μm未満であると、ペーストPに含まれる活物質の粒径(数μm程度)に対して十分な大きさを確保できず、活物質の移動を妨害することになる。一方、メッシュ形状の隙間径又はパンチ穴形状の穴径Xが、1mmを超えると、実質的に基準電極板33をずらして配置した状態と同じになり、安定した電位の測定が行えなくなるからでる。
そして、上記のように得られた交流インピーダンスZを、解析装置50へと出力して、ペーストPの状態を解析する。
【0028】
続いて、本実施形態の解析装置50によりペーストPの状態を解析する様子について、図3〜図5を参照しながら説明する。図3は、解析装置により表示した交流インピーダンスのコールコールプロットの一例を示すグラフである。図4は、解析装置による解析アルゴリズムを示すフローチャートである。図5は、解析装置による判別パターンを示すグラフである。
まず、解析装置50は、図3に一例を示すように、測定した交流インピーダンスZを、実数成分Reと虚数成分Imとに分けて複素平面表示(コールコールプロット)する。このコールコールプロットを基に、解析装置50は、以下のステップS1〜S5に従って解析を行う。
【0029】
図4に示すように、ステップS1では、解析装置50は、高周波数側から3点A,B,Cを選択する。本実施形態では、A点として周波数1MHzにおけるインピーダンスZの値を選択し、B点として周波数100kHzにおけるインピーダンスZの値を選択し、C点として周波数1HzにおけるインピーダンスZの値を選択している。このように選択したのは、良好なペースト状態を示すコールコールプロットが半円形状をなしており、1MHz、100kHz、1Hzの各周波数に対応する3点は、それぞれ半円の両端部又は頂点に相当するため、この3点の位置や各点間の傾き等を判別することにより、コールコールプロットが良好なペースト状態を示すものか否かを容易に判別することができるからである。
【0030】
ステップS2では、解析装置50は、A点のインピーダンスZの虚数成分Imが所定値以下であるか否かを判別する。A点のインピーダンスZの虚数成分Imが所定値以下であると判別された場合(S2:Yes)、ペーストPは、図5(A)のように純抵抗の挙動を示す(パターンA)。パターンAに該当する場合、ペーストPは、導電性を示すカーボンのみ又は極端に凝集している状態であり、好ましくない。一方、ステップS2において、A点のインピーダンスZの虚数成分Imが所定値以上であると判定された場合(S2:No)、解析装置50は、処理を次のステップS3に移行する。
【0031】
ステップS3では、解析装置50は、A点−B点間の傾き及びB点−C点間の傾きを算出する。その後、解析装置50は、処理をステップS4に移行する。
【0032】
ステップS4では、解析装置50は、A点−B点間の傾きと、B点−C点間の傾きとが、同符号であるか否かを判別する。A点−B点間の傾きとB点−C点間の傾きとが、同符号であると判別された場合(S4:Yes)、ペーストPは、図5(C)又は(D)のようにコンデンサの挙動を示す(パターンC,D)。パターンC,Dに該当する場合、ペーストPは、バインダや有機溶剤のみ又は有機溶剤中でカーボンと活物質とが分離するなどペーストPの構造が壊れている状態であり、好ましくない。一方、A点−B点間の傾きとB点−C点間の傾きとが、異符号であると判別された場合(S4:No)、解析装置50は、処理を次のステップS5に移行する。
【0033】
ステップS5では、解析装置50は、A点−B点間の傾きと、B点−C点間の傾きとが、同じ絶対値であるか否かを判別する。A点−B点間の傾きと、B点−C点間の傾きとが、同じ絶対値であると判別された場合(S5:Yes)、ペーストPは、図5(B)のように抵抗とコンデンサとが合わさった挙動を示す(パターンB)。パターンBに該当する場合、ペーストPは、有機溶剤中でカーボンと結着した活物質が均一に分散している望ましい状態である。一方、A点−B点間の傾きと、B点−C点間の傾きとが、異なる絶対値であると判別された場合(S5:No)、ペーストPの状態は判定不能NGであり、この場合は、再度ステップS1からやり直すか、あるいはペーストPの状態が好ましくないものと判別される。
【0034】
上記ステップS1〜S5を終えて、パターンBに該当した良質なペーストPを、電極表面に塗工する。こうして製造された二次電池は、電極表面において安定した反応性が得られ、安定した電池性能を発揮するものとなる。
【0035】
<測定値の平均化>
次に、交流インピーダンスZの測定値の平均化について、図6を参照しながら説明する。図6は、交流インピーダンスの測定値の平均化を説明する説明図である。
本実施形態のように、平行配置された一対の印加電極板31,32を用いてペーストPに交流電圧Viを印加する場合、印加電極板31,32間には、図6(a)〜(d)に示すように、回転位相に応じた平行度の誤差が存在する場合がある。このように平行度に誤差が存在すると、各回転位相1〜Nに対し印加電極板31,32間の距離にバラツキが生じ、図6(e)〜(h)に示すように、ペーストPの交流インピーダンスZの測定値に誤差が生じてしまう。
【0036】
そこで、本実施形態のペースト評価方法では、解析装置50に入力されたモータの回転位相及び回転数を利用して、一回転分以上の交流インピーダンスZの測定値を、図6(i)に示すように平均化している。これにより、印加電極板31,32の平行度誤差から生じる測定誤差を補正することができる。したがって、本実施形態のペースト評価方法によれば、たとえ配置された印加電極板31,32の平行度に誤差が存在する場合にも、正確な交流インピーダンスZを測定することができる。そして、印加電極板31,32間の平行度の誤差を補正した交流インピーダンスZの測定値を基に、上記したコールコールプロットによる評価を行うことで、ペーストPの状態をより高精度に評価することができる。
【0037】
以上、詳細に説明したように、本実施形態のペースト評価方法及びペースト評価装置によれば、回転機構20を有する容器11と、ペーストPの交流インピーダンスZを測定する測定部(31,32,33,40,50)とを用い、容器11内に収容したペーストPを回転機構20により回転させながら、測定部(31,32,33,40,50)によりペーストPの交流インピーダンスZを測定するので、測定中のペーストPが回転により常に撹拌された状態となり、ペーストP中の活物質やカーボン等が重力沈降することなく均一に保たれるため、ペーストPの状態を精度良く評価することができる。
【0038】
また、本実施形態では、測定部(31,32,33,40,50)がペーストPに交流電圧を印加するために平行配置された一対の印加電極板31,32を有し、回転機構20による一回転分以上の交流インピーダンスZの測定値を平均化して、一対の印加電極板31,32の平行度誤差から生じる測定誤差を補正しているので、たとえ配置された印加電極板31,32の平行度に誤差が存在する場合にも、正確な交流インピーダンスZを測定して、ペーストPの状態を高精度に評価することができる。
【0039】
また、本実施形態では、測定部(31,32,33,40,50)が一対の印加電極板31,32の中間位置に配置された基準電極板33を有し、ペーストPの交流インピーダンスZを、一対の印加電極板間31,32を流れる電流Ioと、一方の印加電極板31と基準電極板33との間の電位差Vоとを用いて算出しているので、基準電極板33による安定した電位の測定が可能となり、より正確な交流インピーダンスZの測定を行うことができる。
【0040】
また、本実施形態では、基準電極板33として、厚さ方向に貫通する複数の貫通孔34が形成されたものを用い、貫通孔34は、メッシュ形状又はパンチ穴形状をなし、メッシュ形状の隙間径又はパンチ穴形状の穴径Xは、100μm〜1mmであるので、基準電極板33を挿入した場合にも、活物質の移動や電位の測定を妨害することなく安定した測定を行うことができる。
【0041】
また、本実施形態では、測定部(31,32,33,40,50)により、印加電極板31,32に印加する交流電圧の周波数を、連続的に変化させるので、印加電極板間31,32の容量だけでなく抵抗などの他成分情報も得ることができ、ペーストPの状態をより精度良く評価することができる。
さらに、連続的に変化させる周波数の範囲に、1MHz、100kHz、1Hzの周波数を含み、1MHz、100kHz、1Hzの各周波数の交流電圧を印加したときの交流インピーダンスZの測定値を利用して、ペーストPの状態を評価するので、コールコールプロットを用いた簡易な手法によりペーストPの状態を評価することができる。
【0042】
なお、上記した実施形態及びその変更例は単なる例示にすぎず、本発明を何ら限定するものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変形が可能であることはもちろんである。
例えば、本実施形態では、1MHz、100kHz、1Hzの周波数に対応する3点A,B,Cを基に、タイプA〜Dの判別を行っているが、他の周波数に対応する点を用いてタイプの判別を行ってもよい。
また、本実施形態では、高電位側の印加電極板31と基準電極板33との間の電位差Voを用いて、交流インピーダンスZを算出しているが、低電位側の印加電極板32と基準電極板33との間の電位差を用いて交流インピーダンスZを算出してもよい。
また、本実施形態では、円筒形状の容器11や円板形状の電極板31,32,33を用いた場合について説明したが、他の形状の容器や電極板を用いてもよい。
【符号の説明】
【0043】
10…ペースト評価装置
11…容器
20…回転機構
31…印加電極板
32…印加電極板
33…基準電極板
40…電源装置
50…解析装置
P…ペースト
Io…発生電流
Vo…発生電位差
Vi…印加電圧

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電池の電極表面に塗工されるペーストを評価するためのペースト評価方法において、
回転機構を有する容器と、前記ペーストの交流インピーダンスを測定する測定部とを用い、
前記容器内に収容した前記ペーストを前記回転機構により回転させながら、前記測定部により前記ペーストの交流インピーダンスを測定すること
を特徴とするペースト評価方法。
【請求項2】
請求項1に記載するペースト評価方法において、
前記測定部は、前記ペーストに交流電圧を印加するために平行配置された一対の印加電極板を有し、前記回転機構による一回転分以上の前記交流インピーダンスの測定値を平均化して、前記一対の印加電極板の平行度誤差から生じる測定誤差を補正すること
を特徴とするペースト評価方法。
【請求項3】
請求項2に記載するペースト評価方法において、
前記測定部は、前記一対の印加電極板の中間位置に配置された基準電極板を有し、前記ペーストの交流インピーダンスを、前記一対の印加電極板間を流れる電流と、一方の前記印加電極板と前記基準電極板との間の電位差とを用いて算出すること
を特徴とするペースト評価方法。
【請求項4】
請求項3に記載するペースト評価方法において、
前記基準電極板として、厚さ方向に貫通する複数の貫通孔が形成されたものを用い、
前記貫通孔は、メッシュ形状又はパンチ穴形状をなし、
前記メッシュ形状の隙間径又は前記パンチ穴形状の穴径は、100μm〜1mmであること
を特徴とするペースト評価方法。
【請求項5】
請求項2乃至請求項4のいずれか一項に記載するペースト評価方法において、
前記測定部により、前記印加電極板に印加する交流電圧の周波数を、連続的に変化させること
を特徴とするペースト評価方法。
【請求項6】
請求項5に記載するペースト評価方法において、
前記連続的に変化させる周波数の範囲に、1MHz、100kHz、1Hzの周波数を含み、
前記1MHz、100kHz、1Hzの各周波数の交流電圧を印加したときの前記交流インピーダンスの測定値を利用して、前記ペーストの状態を評価すること
を特徴とするペースト評価方法。
【請求項7】
電池の電極表面に塗工されるペーストを評価するためのペースト評価装置において、
回転機構を有する容器と、前記ペーストの交流インピーダンスを測定する測定部とを備え、
前記測定部は、前記容器内に収容した前記ペーストを前記回転機構により回転させながら、前記ペーストの交流インピーダンスを測定すること
を特徴とするペースト評価装置。
【請求項8】
請求項7に記載するペースト評価装置において、
前記測定部は、前記ペーストに交流電圧を印加するために平行配置された一対の印加電極板を有し、前記回転機構による一回転分以上の前記交流インピーダンスの測定値を平均化して、前記一対の印加電極板の平行度誤差から生じる測定誤差を補正すること
を特徴とするペースト評価装置。
【請求項9】
請求項8に記載するペースト評価装置において、
前記測定部は、前記一対の印加電極板の中間位置に配置された基準電極板を有し、前記ペーストの交流インピーダンスを、前記一対の印加電極板間を流れる電流と、一方の前記印加電極板と前記基準電極板との間の電位差とを用いて算出すること
を特徴とするペースト評価装置。
【請求項10】
請求項9に記載するペースト評価装置において、
前記基準電極板には、厚さ方向に貫通する複数の貫通孔が形成され、
前記貫通孔は、メッシュ形状又はパンチ穴形状をなし、
前記メッシュ形状の隙間径又は前記パンチ穴形状の穴径は、100μm〜1mmであること
を特徴とするペースト評価装置。
【請求項11】
請求項8乃至請求項10のいずれか一項に記載するペースト評価装置において、
前記測定部は、前記印加電極板に印加する交流電圧の周波数を、連続的に変化させること
を特徴とするペースト評価装置。
【請求項12】
請求項11に記載するペースト評価装置において、
前記連続的に変化させる周波数の範囲に、1MHz、100kHz、1Hzの周波数を含み、
前記1MHz、100kHz、1Hzの各周波数の交流電圧を印加したときの前記交流インピーダンスの測定値を利用して、前記ペーストの状態を評価すること
を特徴とするペースト評価装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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