説明

ペーパー炭及びその製造方法

【課題】 廃棄物として回収されるダンボール紙、新聞や雑誌、オフィスペーパーなどのペーパー類を用いて、吸着除去剤、脱臭・浄化剤、土壌改良剤、調湿剤などの有用な各種用途に使用できるペーパー炭を安価に提供する。
【解決手段】 加熱室内に配置した炭化室にペーパー類を入れ、燃焼室から高温の燃焼ガスを加熱室に導入して、酸素を絶った状態の炭化室内を650〜800℃に加熱することにより、ペーパー類を炭化する。得られたペーパー炭は、炭化物の微細気孔にタール分が残留せず、200m/gの平均比表面積を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダンボール紙、新聞や雑誌、オフィスペーパー、カタログ、チラシなどのペーパー類を炭化したペーパー炭、及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、炭の製造方法を利用して、木材や竹、各種ペーパー類などの廃棄物を炭化処理することが行われている。例えば、特開平2001−316675公報には、燃焼室と炭化室を設けた炭化装置において、建築廃材などを炭化室に入れ、燃焼室をバーナで加熱することにより、炭化室内を約400℃に加熱して、有機物を炭化処理する方法が記載されている。
【0003】
しかし、このような従来の炭化装置及び炭化方法は、廃棄物の処理を主な目的としていいるため、経済性を考慮して一般的に400℃程度の温度で、高くても500℃程度の温度で炭化処理が行われていた。また、得られる炭化物はタール分の残留が多く、純粋な炭素構造を有するものではないため、特にペーパー類の炭化物などはほとんど有効な使い道がなかった。
【0004】
一方、従来から知られている炭は、一般に燃料として使用されている。その中でも備長炭に代表される白炭は、1000℃を超えるような高温で炭化されているため、非常に硬く、タール分の残留がなく、比表面積が大きいなどの特長を有している。そのため最近では、白炭の用途として、室内や冷蔵庫の脱臭などが広まりつつある。しかし、白炭は生産量が少なく、非常に高価であるという欠点があった。
【0005】
【特許文献1】特開平2001−316675公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような従来の事情に鑑み、原料として木材や竹の代りにペーパー類、特に廃棄物として回収されたペーパー類を用いて、白炭のような各種用途に用いることが可能なペーパー炭を安価に提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明が提供するペーパー炭は、ペーパー類が酸素を絶った状態において650〜800℃で炭化されたものであり、200m/g以上の平均比表面積を有することを特徴とする。また、上記本発明のペーパー炭は、吸着除去剤、土壌改良剤、又は調湿剤として用いることができる。
【0008】
また、本発明が提供するペーパー炭の製造方法は、加熱室内に配置した炭化室にペーパー類を入れ、燃焼室から高温の燃焼ガスを加熱室に導入して、酸素を絶った状態の炭化室内を650〜800℃に加熱してペーパー類を炭化することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、原料として一般的な木材や竹を用いるのではなく、廃棄物として回収されるダンボール紙、新聞や雑誌、オフィスペーパー、カタログ、チラシなどのペーパー類を用いて、吸着除去剤、土壌改良剤、調湿剤などの有用な各種用途に使用できるペーパー炭を安価に提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明で原料として用いるペーパー類とは、ダンボール紙、新聞、雑誌、オフィスペーパー、カタログ、チラシなどであり、特に廃棄物として回収されたペーパー類を原料とすることにより有用なペーパー炭を製造できるため、資源の再利用や環境汚染の防止の点においても有利である。
【0011】
前述したように、燃焼室と炭化室を設けた従来の炭化装置では、燃焼室をバーナで加熱することにより炭化室内を400℃程度に、最高でも500℃程度に加熱して炭化していた。そのため、得られる炭化物はタール分の残留が多く、比表面積は小さく、例えば吸着能が高いといわれる竹炭でも3〜8m/g程度であった。そのため、吸着性能が低いなど特性的に劣るものであったため、ほとんど再利用されることがなかった。
【0012】
これに対して本発明においては、原料となるペーパー類を、後述するような炭化装置を用い、酸素を絶った状態において、従来よりも高温の650〜800℃で炭化する。このように高い温度で炭化することによって、得られるペーパー炭は、多くの微細気孔を有するうえに、その微細気孔を含め全体にタール分が残留せず、純粋な炭素構造を有することとなる。
【0013】
その結果、本発明のペーパー炭は、平均比表面積が200m/g以上、好ましくは260〜280m/gと極めて高い値を示し、優れた吸着性能を発揮することができる。この特性を利用して、本発明のペーパー炭は、水中や空気中の不純物や有害物を吸着する用途、例えばホルムアルデヒドやアセトアルデヒド、トルエン、アンモニアなどの吸着除去剤、室内や車内の脱臭・浄化、あるいは調湿などに用いることができる。
【0014】
また、本発明のペーパー炭は、ペーパー類に含まれる豊富なミネラルをそのまま保有し、且つ有害である塩素は気化されているため、水の浄化に用いたり、土壌改良剤として使用することもできる。更に、上記のごとく純粋な炭素構造を有するので、本発明のペーパー炭は、電気抵抗値が50Ω以下と低い高電導炭となり、大気中や水中にマイナスイオンを放出する効果も期待できる。
【0015】
次に、本発明によるペーパー炭の製造方法を説明する。炭化装置としては、特に限定されるものではないが、内部に加熱室を配置した炭化室と、炭化室内に高温の燃焼ガスを供給するための燃焼室とを備えた炭化装置を用いることが好ましい。炭化装置の炭化室に原料であるペーパー類を入れ、炭化室内に燃焼室から高温の燃焼ガスを導入して、酸素を絶った状態の炭化室内を650〜800℃に加熱することによりペーパー類を炭化する。
【0016】
炭化温度を650〜800℃とする理由は、650℃未満では、得られる炭化物にタール分が残留して、純粋な炭素構造が得られず、従って平均比表面積も200m/g未満と低くなるからである。また、800℃の炭化温度でほぼ十分な炭化が進行し、満足すべき特性が得られるうえ、800℃を超える高温にすることはコストの上昇を招き経済的に不利である。
【実施例】
【0017】
本発明に用いる好ましい炭化装置の一具体例を、図1〜2を用いて説明する。この炭化装置は、基本的には、取出口1aを開閉する開閉蓋1bを備えた加熱室1と、加熱室1内に配置された炭化室2と、加熱室1の上方に配置され且つ加熱室1と耐熱区画壁5で区画された燃焼室3とで構成されている。また、耐熱区画壁5の中央部には、加熱室1と燃焼室3を連絡する連通口5aが設けてある。尚、加熱室1は支持台4上に固定され、加熱室1と燃焼室3の内側面は耐熱性の炉材で構成されている。
【0018】
加熱室1内に配置された炭化室2は、有底箱状の炭化室本体2aと、炭化室本体2aの上部開口を閉鎖するように耐熱区画壁5に懸架固定された蓋板2bとで構成されている。この炭化室本体2aの一側面には水平方向に回転支軸6が固定してあり、図1に鎖線で示したように炭化室本体2aを傾斜させ又は水平に保持して、蓋板2bとの間を開閉できるようになっている。尚、炭化室本体2a及び蓋板2bは、窒化珪素などのセラミックス又はステンレス鋼などの金属材料で形成されている。また、炭化室本体2aの上部開口端部の外周面には、セラミックウールよりなる密封材7が取付けてあり、蓋板2bで炭化室本体2aを閉鎖したとき乾留ガスの漏れや空気の侵入を防止するようになっている。
【0019】
燃焼室3の外壁には燃焼バーナ8が設置され、高温の燃焼ガスを燃焼室2内に供給するようになっている。また、支持台4にはエア供給ブロア9が設置してあり、耐熱区画壁5を貫通したエア導入管10を通して、燃焼用の空気を燃焼室3内に供給するようになっている。このエア導入管10の内側には、下端が炭化室2内に及び上端が燃焼室3内にそれぞれ開口したガス導入管11が同軸的に配置されていて、ガス導入管11がエア導入管10の一部を貫通している部分では両者の間が気密に封止されている。
【0020】
また、加熱室1の底部には第1排気口12が設けてあり、図2に示すように、この第1排気口12に接続して装置外側を上方へ延びる第1排気筒13が立設されている。一方、燃焼室3の頂部には第2排気口14が設けてあり、この第2排気口14と第1排気筒13の中間部とを接続するように、第2排気筒15が設けてある。第1排気筒13と第2排気筒15の接続部分には、図2に示すように、その内部に切替ダンパ16が回動可能に支持されている。そして、この切替ダンパ16を水平方向又は垂直方向に位置せしめることにより、燃焼室3内又は加熱室1内と外気とをそれぞれ連通させ、燃焼室3及び加熱室1内の温度を調整することができるようになっている。
【0021】
次に、上記炭化装置を用いて、ペーパー炭を製造する方法を具体的に説明する。まず、図1に鎖線で示すように、回転支軸6を反時計方向に回動させることにより、炭化室本体2aの開口部が加熱室1の取出口1aの方向に向くように、炭化室本体2aを傾斜させる。炭化室本体2aにペーパー類を入れ、回転支軸6を時計方向に回動させることにより炭化室本体2aを移動させ、その開口部を蓋板2bに押し当てると共に密封材7を蓋板2bの下面に密着させた後、開閉蓋1bにより加熱室1の取出口1aを閉鎖する。
【0022】
続いて、エア供給ブロア9からエア導入管10を通して空気を供給しながら、燃焼室3内において燃焼バーナ8で燃料を燃焼させる。第1排気筒13と第2排気筒15の接続部に設けた切替ダンパ16は、定常状態では図2に実線で示すように第2排気筒15を閉鎖しているので、燃焼炉3内の燃焼ガスは連通口5aを通して下方の加熱室1内に供給される。供給された燃焼ガスは加熱室1内を加熱し、加熱室1の底部の第1排気口12から第1排気筒13を通って排気される。
【0023】
この加熱室1の加熱に伴って炭化室2内が650〜800℃に加熱され、酸素を絶った状態の炭化室2内のペーパー類から水分が蒸発し、炭化されてペーパー炭が得られる。同時にペーパー類の炭化処理により熱分解ガスが発生するが、この熱分解ガスは可燃性であるから、補助燃料として炭化室2からガス導入管11を通して上方の燃焼室3に導かれ、エア供給ブロア9から供給された空気中の酸素と反応して燃焼される。
【0024】
尚、切替ダンパ16は加熱室1や燃焼室3の温度調整にも使用する。即ち、加熱室1や燃焼室3の温度が過度に上昇した場合には、温度センサが検知した温度に基づいて、切替ダンパ16を図2に鎖線で示すように水平方向に移動させて第1排気筒15を閉鎖し、燃焼室3内の燃焼ガスの一部を第2排気口14から第2排気筒15を通して放出させる。また、加熱室1や燃焼室3の温度が過度に低下した場合には、切替ダンパ16を垂直方向に移動させ、第2排気筒15を閉鎖する。このように切替ダンパ16の移動により、加熱室1及び燃焼室3の温度の上昇又は低下を抑制し、炭化室2内の温度を所定範囲内で一定に保持することができる。
【0025】
炭化処理が終了すると、燃焼バーナ8及びエア供給ブロア9を止め、加熱室1及び燃焼室3の温度をおおよそ50℃まで低下させた後、開閉蓋1bを開いて取出口1aを開放する。次いで、回転支軸6を回動させて炭化室本体2aを傾斜させ、開いた開閉蓋2bとの間から炭化室2内のペーパー炭を回収する。
【0026】
上記した図1〜2に示す炭化装置を用い、原料のペーパー類としてダンボールを使用して、炭化温度750℃で実際にペーパー炭を製造した。得られたペーパー炭をSEM観察したところ、微細気孔を含め全体にタール分が残留せず、純粋な炭素構造を有することが分った。また、測定日本ベル(株)製のBELSORP18を使用して、BET法により吸着温度77Kで比表面積を測定した結果、その平均比表面積は271m/gであった。
【0027】
得られたペーパー炭を用いて、ホルムアルデヒド、トルエン、アンモニアの吸着除去試験を行った。比較のために、同じ炭化装置を用いて得た高電導竹炭(炭化温度750℃で、純粋な炭素構造を有する)、無電導竹炭(炭化温度400℃で残留タール分有り)、もみがら炭(炭化温度750℃で、純粋な炭素構造を有する)を用いて、同様に吸着試験を実施した。
【0028】
これらの結果を、ホルムアルデヒドについては図3に、トルエンについては図4に、及びアンモニアについては図5に示した。尚、図3〜5には、空試験についても図示した。図3〜5から、本発明によるペーパー炭は、無電導竹炭はもちろん高電導竹炭やもみがら炭に比べても、はるかに優れた吸着性能を有していることが分る。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施に用いる炭化装置の一具体例を示す断面図である。
【図2】図1の炭化装置を一部切り欠いて示した正面図である。
【図3】本発明のペーパー炭とその他の炭を用いたホルムアルデヒドの吸着除去試験結果を示すグラフである。
【図4】本発明のペーパー炭とその他の炭を用いたトルエンの吸着除去試験結果を示すグラフである。
【図5】本発明のペーパー炭とその他の炭を用いたアンモニアの吸着除去試験結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0030】
1 加熱室
2 炭化室
2a 炭化室本体
2b 蓋板
3 燃焼室
5 耐熱区画壁
5a 連通口
6 回転支軸
8 燃焼バーナ
9 エア供給ブロア
10 エア導入管
11 ガス導入管
12 第1排気口
13 第1排気筒
14 第2排気口
15 第2排気筒
16 切替ダンパ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペーパー類が酸素を絶った状態において650〜800℃で炭化されたものであり、200m/g以上の平均比表面積を有することを特徴とするペーパー炭。
【請求項2】
炭化物の微細気孔にタール分が残留していないことを特徴とする、請求項1に記載のペーパー炭。
【請求項3】
吸着除去剤、土壌改良剤、又は調湿剤として用いることを特徴とする、請求項1又は2に記載のペーパー炭。
【請求項4】
加熱室内に配置した炭化室にペーパー類を入れ、燃焼室から高温の燃焼ガスを加熱室に導入して、酸素を絶った状態の炭化室内を650〜800℃に加熱してペーパー類を炭化することを特徴とするペーパー炭の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−45002(P2006−45002A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−229137(P2004−229137)
【出願日】平成16年8月5日(2004.8.5)
【出願人】(502376881)株式会社ルヴェール (3)
【Fターム(参考)】