説明

ホイールのランフラット装置及びそのクランプ機構

【課題】ランフラット装置の中子固定用バンドを締め付けるクランプ機構において、一対のクランプ部材どうしを連結する連結部材や回転軸に大きな荷重が作用しないようにする。
【解決手段】ランフラット装置1の中子10にバンド21を巻き付け、このバンド21をクランプ機構50で締め付ける。クランプ機構50は、バンド21の一端部に連なる第1クランプ部材51と、バンド21の他端部に連なる第2クランプ部材52と、これらクランプ部材51,52を回転可能に連ねる連結部材53とを含んでいる。連結部材53における第1クランプ部材51との連結用の第1回転軸57を通す軸孔53aを長孔にする。第1クランプ部材51の先端の第1係止部51cと第2クランプ部材52の先端の第2係止部52cとは、クランプ状態でバンド21の周方向に当接して互いに押し合う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、タイヤがパンクしてもそのまま走れる(「ランフラット」という)ようにするためのランフラット装置、及び該ランフラット装置のバンドを締め付けるクランプ機構に関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤがパンクしてもそのまま走れるようにするためのランフラット装置は周知である。ランフラット装置は、中子とバンドを備えている。ホイールの外周面に中子を配置し、これをバンドで締め付ける。バンドには、締め付け用のクランプ機構が設けられている。
図16(a)に例示するように、クランプ機構は、一対のクランプ部材2A,2Bを有している。一方のクランプ部材2Aは、バンド3の一端部に溶接にて連結され、他方のクランプ部材2Bは、バンド3の他端部に溶接にて連結されている。これらクランプ部材2A,2Bの先端部どうし間に連結部材4が架け渡されている。クランプ部材2A,2Bと連結部材4とは、それぞれ軸線をバンド3の幅方向へ向けた回転軸5A,5Bにて回転可能に連結されている。これにより、一対のクランプ部材2A,2Bは、互いに噛み合った状態と(図16(b))と外れた状態(同図(a))との間で相対変位可能になっている。噛み合った状態では、バンド3が縮径される。これにより、中子を締め付けてホイールに固定でき、中子の走行時の浮き上がりを防止できる。
【特許文献1】特開2005−041419号公報(図17)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記従来のクランプ機構では、一対のクランプ部材2A,2Bどうしが噛み合った状態でも互いの間に隙間が形成されており、力が、バンド3の一端部、一のクランプ部材2A、一の回転軸5A、連結部材4、他の回転軸5B、他のクランプ部材2B、バンド3の他端部の順に伝達されるようになっている。したがって、クランプ部材2だけでなく、連結部材4及び回転軸5についてもクランプ部材2と同等の強度が求められている。このため、連結部材4を厚くし、回転軸5を太くしなければならず、重量の増大を招くとともに、小型化が困難になっている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記問題点を解決するために、第1の発明は、ホイールのランフラット用中子に巻き付けられるバンドを締め付けるクランプ機構であって、
(a)前記バンドの一端部に連なる第1クランプ部材と、
(b)前記バンドの他端部に連なるとともに前記第1クランプ部材と噛み合い可能な第2クランプ部材と、
(c)軸線を前記バンドの幅方向に向けた第1回転軸を介して前記第1クランプ部材と回転可能に連なるとともに、前記第1回転軸と平行な第2回転軸を介して前記第2クランプ部材と回転可能に連なる連結部材と、
を含み、前記第1係止部と前記第2係止部とが、互いに噛み合ったクランプ状態のときに、前記バンドの周方向に当接するようにした。
これによって、第1、第2クランプ部材の係止部どうしを噛み合わせてバンドを締め付けたとき、力が一方のクランプ部材から他方のクランプ部材に直接的に伝達されるようにすることができる。この結果、回転軸及び連結部材の所要強度を小さくすることができ、回転軸の径を小さくしたり、連結部材の厚さを小さくしたりすることができ、ひいては、クランプ機構の重量低減や小型化を図ることができる。
【0005】
好ましくは、前記クランプ機構の前記連結部材又は前記第1クランプ部材における前記第1回転軸を通す軸孔と、前記連結部材又は前記第2クランプ部材における前記第2回転軸を通す軸孔との少なくとも一方が、長孔になっている。
これによって、前記第1係止部と前記第2係止部とが互いに噛み合っていないアンクランプ状態では、前記第1回転軸と前記第2回転軸との軸心距離を相対的に大きくでき、前記クランプ状態では、前記第1回転軸と第2回転軸どうしを互いに接近する方向にスライド変位させて前記軸心距離を相対的に小さくでき、前記第1係止部と前記第2係止部どうしを互いに密着させることができる。
【0006】
このクランプ機構の前記長孔は、前記クランプ状態のとき、前記バンドの周方向に沿う方向成分を含む長軸を有する。これによって、第1、第2クランプ部材どうしを噛み合わせてバンドを締め付けたとき、前記第1回転軸と第2回転軸どうしを互いに接近する方向に確実にスライド変位させることができる。
【0007】
好ましくは、このクランプ機構の前記長孔の長軸は、前記第1回転軸と第2回転軸とを結ぶ線に沿っている。これによって、第1クランプ部材を第1回転軸と第2回転軸とを結ぶ線に沿って確実にスライド変位させることができる。
【0008】
好ましくは、このクランプ機構は、前記クランプ状態において、前記第1、第2係止部どうしの前記周方向に当接する面部分の少なくとも一部が、前記ホイールの径方向に対して、前記クランプ状態への移行時の前記連結部材の回転方向に傾いている。これによって、クランプ状態を安定して維持できる。
【0009】
好ましくは、このクランプ機構は、前記クランプ状態において、前記第1、第2回転軸どうしを結ぶ線と、前記第1、第2係止部どうしの前記周方向に当接する面部分とが交差し、この交差角度のうち、前記クランプ状態を解除する時の前記連結部材の回転方向に前記第1、第2回転軸どうしを結ぶ線から前記面部分までの角度が、90度より大きい。
これによって、クランプ状態では、連結部材を介すことなく、より確実に、力が一方のクランプ部材から他方のクランプ部材に直接的に伝達されるようにすることができる。
【0010】
第2の発明に係るランフラット装置によれば、ホイールに装着されるランフラット用の中子と、前記中子に巻き付けられるバンドと、前記バンドを締め付けるクランプ機構と、を備え、前記クランプ機構が、
(a)前記バンドの一端部に連なる第1クランプ部材と、
(b)前記バンドの他端部に連なるとともに前記第1クランプ部材と噛み合い可能な第2クランプ部材と、
(c)軸線を前記バンドの幅方向に向けた第1回転軸を介して前記第1クランプ部材と回転可能に連なるとともに、前記第1回転軸と平行な第2回転軸を介して前記第2クランプ部材と回転可能に連なる連結部材と、
を含み、前記第1係止部と前記第2係止部とが、互いに噛み合ったクランプ状態のときに、前記バンドの周方向に当接するようにした。
これによって、第1、第2クランプ部材の係止部どうしを噛み合わせてバンドを締め付けクランプ状態にすると、力が一方のクランプ部材から他方のクランプ部材に直接的に伝達されるようにすることができる。この結果、回転軸及び連結部材の所要強度を小さくすることができ、回転軸の径を小さくしたり、連結部材の厚さを小さくしたりすることができ、ひいては、軽量化されたランフラット装置を提供することができる。
【0011】
好ましくは、このランフラット装置は、前記噛み合った状態における前記第1、第2クランプ部材どうし間に跨り、前記第1、第2クランプ部材が互いに外れる方向に変位するのを拘束する拘束具を備える。
これによって、走行時の振動などでクランプが外れるのを確実に防止でき、ランフラット装置の信頼性を一層高めることができる。
【0012】
好ましくは、このランフラット装置は、前記拘束具が、前記クランプ機構の側方に配置される基部と、この基部から延びて前記噛み合った状態の第1、第2クランプ部材を挟み付ける一対の挟持ばね部と、を有している。
これによって、第1、第2クランプ部材を互いの方向に付勢して押し当てることができ、噛み合った状態に確実に拘束することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、2つのクランプ部材を噛み合わせてバンドを締め付けたとき、2つのクランプ部材が互いに密着されるようにでき、力が一方のクランプ部材から他方のクランプ部材に直接的に伝達されるようにすることができる。この結果、回転軸及び連結部材の所要強度を小さくすることができ、ひいては、クランプ機構の重量低減や小型化を図ることができるとともに、軽量化されたランフラット装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の第1実施形態を、図面を参照して説明する。
図1に示すように、車両のホイールWの外周には、ランフラット装置1が設けられている。ランフラット装置1は、中子10と、中子固定機構12とを備えている。中子10は、複数(ここでは6つ)の中子ピース11,11…に分割されている。これら中子ピース11,11…が、ホイールWの周方向に並べられ、全体として環状の中子10が構成されている。
【0015】
各中子ピース11は、樹脂にて構成されている。中子ピース11は、ブロック状をなし、側面視でホイールWの周方向に沿うように円弧状に延びている。図1及び図2に示すように、中子ピース11の幅方向(図2の左右方向)の中央部には、バンド収容溝11aが形成されている。バンド収容溝11aは、中子ピース11の長手方向(図2の紙面直交方向)の全長にわたって延びている。各中子ピース11のバンド収容溝11aの底面には、板ばね収容凹部11bが形成されている。
【0016】
図1に示すように、中子固定機構12は、バンド装置20と、複数(ここでは6つ)の板ばね30(押力維持機構)とを備えている。
板ばね30は、側面視で波形状をなしている。この板ばね30が、中子ピース11の板ばね収容凹部11bにきっちりと収容されている。板ばね30は、バンド装置20と板ばね収容凹部11bの底面とに挟まれ、圧縮されている。
【0017】
バンド装置20は、バンド21と、クランプ機構50と、バランスウェイト40とを有している。バンド21は、高抗張力鋼にて構成され、1本の平帯状になっている。
【0018】
バンド21の長さ方向の略中間部には、バランスウェイト40が設けられている。バランスウェイト40は、クランプ機構50と略同じ重量を有し、バンド21の内周面に両面テープ等の接着剤(図示省略)で接着され、さらに鋼帯からなる取り付け片42でバンド21に固定されている。
【0019】
図3に示すように、バンド21の両端部には、それぞれリベット穴21cが形成されている。このバンド21の両端部が、クランプ機構50によって連結されている。これによって、図1に示すように、バンド21が全体として環状になっている。この環状のバンド21が、中子10に巻き付けられている。バンド21は、各中子ピース11のバンド収容溝11aに収容され、板ばね30に被さっている。
クランプ機構50とバランスウェイト40とは、バンド21の周方向に180度離れ、径方向に対峙している。
【0020】
クランプ機構50は、バンド21を締め付け、中子10をホイールWに固定するための張力を発現させるものであり、次のように構成されている。
図3及び図6に示すように、クランプ機構50は、一対をなす第1クランプ部材51及び第2クランプ部材52と、これらクランプ部材51,52どうしを連結する一対の連結部材53,53とを有している。
【0021】
第1クランプ部材51は、平板状の第1ベース部51aと、この第1ベース部51aから延びるC字形状の第1クランプ本体部51bと、この第1クランプ本体部51bの先端に設けられた第1係止部51cとを有している。第1ベース部51aには、複数(ここでは2つ)のリベット穴51dが厚さ方向(図3において上下)に貫通するように形成されている。第1係止部51cには、軸孔51fが、第1クランプ本体部51bの幅方向(図3において紙面直交方向)に貫通するように形成されている。軸孔51fの断面形状は、略真円になっている。
【0022】
第2クランプ部材52は、平板状の第2ベース部52aと、この第2ベース部52aから延びるC字形状の第2クランプ本体部52bと、この第2クランプ本体部52bの先端に設けられた第2係止部52cとを有している。第2ベース部52aには、複数(ここでは2つ)のリベット穴52dが厚さ方向(図3において上下)に貫通するように形成されている。第2係止部52cには、軸孔52fが、第2クランプ本体部52bの幅方向(図3において紙面直交方向)に貫通するように形成されている。軸孔52fの断面形状は、略真円になっている。
第1クランプ部材51と第2クランプ部材52とは、互いに180度回転対称状に配置されている。
【0023】
第1クランプ部材51のリベット穴51dと、バンド21の一端部(図3において左)のリベット穴21cとが重ね合わされ、これらリベット穴51d,21cにリベット56が挿通され、このリベット56の先端部がかしめられている。これにより、バンド21の一端部に第1クランプ部材51が連結されている。
【0024】
同様に、第2クランプ部材52のリベット穴52dとバンド21の他端部(図3において右)のリベット穴21cとにリベット56が挿通され、このリベット56の先端部がかしめられている。これにより、バンド21の他端部に第2クランプ部材52が連結されている。
【0025】
図3及び図6に示すように、一対のクランプ部材51,52の係止部51c,52cの幅方向の両側には、一対の連結部材53,53が配置されている。これら連結部材53,53は、クランプ部材51,52の係止部51c,52cを互いに両側から挟むようにして、それぞれクランプ部材51,52の係止部51c,52cどうし間に架け渡されている。
【0026】
図7に示すように、各連結部材53は、長円形の平板状をなしている。連結部材53には、厚さ方向に貫通する2つの軸孔53a,53bが長手方向に離れて形成されている。
ここで、軸孔53bは略真円形状に形成される一方、軸孔53aは長孔になっている。軸孔53aの長軸Lは、後記する回転軸57,58を結ぶ線と一致している。
【0027】
図3及び図6に示すように、第1クランプ部材51の軸孔51fと連結部材53の一方の軸孔53aとが重ねられ、そこに第1回転軸57が通されている。これにより、第1クランプ部材51と連結部材53とが、第1回転軸57の周りに回転可能、かつ軸孔53aの長軸Lの方向にスライド変位可能に連結されている。
第1回転軸57の軸線は、バンド21の幅方向(図3において紙面直交方向、図6において上下方向)に向けられている。
【0028】
また、第2クランプ部材52の軸孔52fと連結部材53のもう1つの軸孔53bとが重ねられ、そこに第2回転軸58が通されている。これにより、第2クランプ部材52と連結部材53とが、第2回転軸58の周りに回転可能に連結されている。第2回転軸58の軸線は、第1回転軸57と平行をなし、バンド21の幅方向に向けられている。
【0029】
これによって、第1クランプ部材51と第2クランプ部材52とが、連結部材53を介して、互いに外れたアンクランプ状態(図3)と、互いに噛み合ったクランプ状態(図4)との間で相対変位可能に連結されている。
【0030】
図3に示すように、アンクランプ状態では、それぞれ、第1クランプ部材51は、第2クランプ部材52よりバンド21の一端側(同図において左)に後退して位置することができ、第2クランプ部材52は、第1クランプ部材51よりバンド21の他端側(同図において右)に後退して位置することができるようになっている。この状態では、バンド装置20全体の周長が相対的に長くなり、相対的に拡径されることになる。
【0031】
図4に示すように、クランプ状態のクランプ部材51,52は、係止部51c,52cが互いに相手側のクランプ本体部51b,52bの内部に嵌め入れられている。このクランプ状態では、バンド装置20全体の周長が相対的に短くなり、相対的に縮径されることになる。また、連結部材53の軸孔53aの長軸Lは、クランプ状態でバンド21の周方向に沿う方向成分を有している。
【0032】
上記構成のランフラット装置1によれば、クランプ部材51,52どうしを噛み合わせ、バンド装置20の周長を短縮させると、バンド21が中子ピース11に押し付けられて張力が働き、中子ピース11を締め付ける。これにより、中子10をホイールWにしっかりと固定することができる。通常走行時には、遠心力で中子10がホイールWから浮き上がるのを確実に防止することができる。ランフラット走行時には、中子10の固定状態を維持することができる。
さらに、バンド21と中子ピース11の間の板ばね30が圧縮され、そのバネ力(付勢力)が中子10に対し法線方向(ホイールWの半径内側方向)に働く。これにより、中子10が経年変化によりクリープを来たした場合でも、バンド21の張力を維持でき、中子10のホイールWへの固定状態を維持することができる。
【0033】
図4に示すように、クランプ状態ではバンド21に張力が働き、第1回転軸57が、軸孔53aの長軸Lに沿ってバンド21の一端側(図4において左)へスライド変位し、第1クランプ部材51の係止部51cの内側の面部分51eと、第2クランプ部材52の係止部52cの内側の面部分52eとが、バンド21の周方向に当接して密着される。また、軸孔53aにおける軸孔53b側の周縁と第1回転軸57との間には、隙間53cが形成される。これによって、内側面51e,52eどうしが、バンド21の周方向に押し合い、力が、一方のクランプ部材から他方のクランプ部材に直接(連結部材53及び回転軸57,58を介することなく)伝達される。
【0034】
したがって、クランプ機構50においては、クランプ部材51,52だけでバンド装置20に作用する張力を受け持つようにでき、連結部材53及び回転軸57,58には張力が作用しないようにすることができる。よって、連結部材53及び回転軸57,58の所要強度は、クランプ部材51,52の回転に耐える程度あれば十分であり、クランプ部材51,52と同等の強度が求められることはない。この結果、連結部材53の厚さを小さくしたり回転軸57,58の太さを小さくしたりすることができ、ひいては、クランプ機構50の重量低減や小型化を図ることができる。
【0035】
ここで、図4に示すように、クランプ状態におけるクランプ部材51,52の互いに押し合う面部分51e,52eは、ホイールWの径方向Rに対して、僅かな角度θだけクランプ状態への移行時の連結部材53の回転方向(図4において時計方向)に傾いており、クランプが振動などで解除、即ちアンクランプしてしまうことがないようになっている。角度θは、好ましくはθ=3〜7度程度が適切である。角度θが大き過ぎると、クランプを締め付けする際のトルクが大きくなり過ぎ、また角度θが小さ過ぎると、クランプが振動などで解除、即ちアンクランプしてしまうおそれがあるからである。
【0036】
また、クランプ状態における第1回転軸57の中心と第2回転軸58の中心とを結ぶ線L1が、面部分51e,52eと交差しており、クランプ状態を解除する時の連結部材53の回転方向(図4において反時計方向)に線L1から面部分51e,52eまでの角度αが、90度より大きい。これにより、クランプ部材51,52の面部分51e,52eどうしが確実に密着でき、面部分51e,52eどうし間で力を確実に伝えることができる。
【0037】
さらに、図5に示すように、クランプ状態になる少し前に(クランプ状態から少しアンクランプ状態へ変位させたとき)、第1回転軸57が、軸孔53aにおける軸孔53b側の周縁に当接するとともに、第1クランプ部材51の係止部51cと第2クランプ部材の係止部52cとが当接する状態になり、そこから図4に示すクランプ状態へ移行するにしたがって第1回転軸57が軸孔53aの軸孔53b側の周縁との間に隙間53c(図4)が形成されるように、軸孔53aと軸孔53bとの距離が設定されている。
【0038】
また、本実施例では、比較的薄板の連結部材53の軸孔53aを長孔に形成したが、これは、クランプ部材51,52の軸孔51f,52fの一方を長孔にするよりも、長孔の形成が容易となるからである。
【0039】
さらに、バンド21とクランプ部材51,52とは溶接ではなくリベットにて連結したことにより、高抗張力鋼製のバンド21が溶接の熱によって強度低下を来たすのを回避できる。これによって、バンド21の薄肉化を図ることができる。また、バンド21とクランプ部材51,52の連結位置精度を容易に確保することができる。
【0040】
クランプ機構50の180度反対側にはバランスウェイト40が配置されているため、ホイールWの重量バランスがクランプ機構50の側に偏るのを防止することができる。バランスウェイト40はバンド21の内周側に配置されているため、走行時に遠心力が作用するとバンド21に押し付けられる。したがって、バランスウェイト40とバンド21との連結強度を遠心力に抗し得る大ききにする必要はなく、バランスウェイト40のバンド21への取り付け構造を簡易化することができる。
【0041】
次に、本発明の他の実施形態を説明する。上記の第1実施形態と重複する構成に関しては、図面に同一符号を付して説明を省略する。
図8〜図11は、本発明の第2実施形態を示したものである。図8に示すように、第2実施形態では、クランプ状態のクランプ機構50に拘束具60が取り付けられている。図9に示すように、拘束具60は、ばね鋼板を大略コ字状に折曲成形したものであり、一方向に延びる基部61と、この基部61の両端部に連なる一対の板ばね状の挟持ばね部62,62とを有している。
【0042】
図8及び図10に示すように、拘束具60の基部61は、クランプ機構50の側方(ホイールWの幅方向の一側)において、第1クランプ部材51から第2クランプ部材51,52に跨るように配置されている。
【0043】
図9及び図10に示すように、一対の挟持ばね部62,62は、基部61に対し略直角をなし、互いに略平行に延びている。これら挟持ばね部62,62が、一対のクランプ部材51,52のクランプ本体部51b,52bを両側から弾性的に挟み付けている。
【0044】
各挟持ばね部62の先端部は、他方の挟持ばね部62へ向けて突出するように山形に折曲され、突出部62aを形成している。
一方、第1クランプ部材51のクランプ本体部51bの背面の略中央部には、被挟持凹部51gが形成され、第2クランプ部材52のクランプ本体部52bの背面の略中央部には、被挟持凹部52gが形成されている。これら被挟持凹部51g,52gに挟持ばね部62の突出部62a,62aが嵌め込まれている。
【0045】
一対の挟持ばね部62.62の突出部62a,62aより更に先端側は、それぞれ先端に向かうにしたがって互いに離間する方向へ傾く斜面部62bになっている。
【0046】
拘束具60は、ホイールWに中子10及びバンド装置20を設置し、クランプ部材51,52どうしを噛み合わせてバンド21を締め付けた後で、クランプ機構50に取り付けられる。図11に示すように、拘束具60の取り付け作業は、例えば専用工具Tを用いて行なう。この専用工具Tで拘束具60の基部61を把持し、タイヤ(図示せず)とホイールW(図1参照)の間に差し入れる。そして、図11の二点鎖線に示すように、一対の挟持ばね部62,62の先端の斜面部62b、62bを、それぞれ対応するクランプ部材51,52のクランプ本体部51b,52bの角に突き当てる。そこから専用工具Tひいては拘束具60を更に押し込むと、同図の実線に示すように、各斜面部62bがクランプ本体部51b,52bの角に沿って案内され、一対の挟持ばね部62,62が互いに離れる方向に拡開される。そして、各突出部62aがクランプ本体部51b,52bの背面に乗り上げる。更に拘束具60を押していくと、やがて図10に示すように、突出部62aが被挟持凹部51g,52gに嵌まり込む。これによって、拘束具60を所定位置に容易にセットすることができる。その後、専用工具Tを基部61から離してタイヤとホイールWの間から外部へ出す。
【0047】
第2実施形態によれば、拘束具60の一対の挟持ばね部62,62が、そのばね力によってクランプ部材51,52を互いの方向に付勢している。これによって、クランプ部材51,52を噛み合った状態に拘束でき、互いに解除方向へ変位するのを阻止することができる。したがって、走行時の振動などでクランプが外れるのを確実に防止でき、ランフラット装置1の信頼性を一層高めることができる。
また、突出部62a,62aを被挟持凹部51g,52gに嵌め込むことにより、拘束具60を所定位置に安定的に取り付けることができ、拘束具60がクランプ機構50から外れるのを確実に防止することができる。さらには、挟持ばね部62のばね力をクランプ部材51,52に確実に作用させることができる。これによって、ランフラット装置1の信頼性をより一層高めることができる。
拘束具60は、一対の板ばねからなる挟持ばね部62,62でクランプ機構50を挟むものであるので、クランプ機構50への取り付け、取り外しが容易である。
【0048】
図12は、本発明の第3実施形態を示したものである。この実施形態では、各クランプ部材51,52の係止部51c,52cの周側面が、ほぼ真円弧状になっている。これら係止部51c,52cの周側面どうしが、広い範囲にわたってS字を描くように当接されている。これら係止部51c,52cのS字状の当接部分のちょうど中間付近の面部分51e,52e(面部分51e,52eの接線)が、ホイールWの半径方向Rに対して、角度θだけクランプ状態への移行時の連結部材53の回転方向(図12において時計方向)に傾いている。この面部分51e,52eは、クランプ状態の時、各クランプ部材51,52の係止部51c,52cが互いに当接した前記周側面部分が第1回転軸57の中心と第2回転軸58の中心とを結ぶ線L1と交差している部分である。クランプ状態を解除する時の連結部材53の回転方向(図12において反時計方向)に、線L1から面部分51e,52eの前記接線までの角度αは90度より大きい。これにより、クランプ部材51,52の係止部51c,52cの周側面どうしが確実に密着でき、係止部51c,52cの周側面どうし間で力を確実に伝えることができる。
【0049】
図13は、本発明の第4実施形態を示したものである。この実施形態では、第1クランプ部材51の先端部の幅方向(図13において上下)の中央部に、スリット状の切込み51hが形成されている。同様に、第2クランプ部材52の先端部の幅方向の中央部に、スリット状の切込み52hが形成されている。第1クランプ部材51の切込み51hに連結部材53の一端部が差し入れられ、第2クランプ部材52の切込み52hに連結部材53の他端部が差し入れられている。この実施形態では、連結部材53が1つだけで済み、部品点数を削減することができる。また、回転軸57,58の端部をクランプ部材51,52の側端面に直接的にかしめることができる。
【0050】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく種々の改変をなすことができる。
・例えば、長孔状の軸孔53aの長軸Lは、回転軸57,58どうしを結ぶ線L1と一致するのに限られず、図14に示すように、線L1に対して傾いていてもよく、これにより、クランプ状態では軸孔53aの長軸Lがバンド21の周方向にまっすぐ向くようになっていてもよい。
・長孔状の軸孔53aの長軸Lは、クランプ状態においてバンド21の周方向に沿う方向成分を含んでいればよい。
・図15に示すように、軸孔53aおよび軸孔53bが共に長孔になっていても良い。この場合、クランプ機構の組立て時に、連結部材53の軸孔53aと軸孔53bを区別する必要がなく、組み立てが容易となる。
・連結部材53の軸孔53a,53bの少なくとも一方を長孔にするのに代えて、クランプ部材51,52の軸孔51f,52fの少なくとも一方を長孔にしてもよい。
・連結部材53と第1クランプ部材51のうち何れか一方と、第1回転軸57とが一体になっていてもよい。連結部材53と回転軸57,58とが一体になっている場合、クランプ部材51,52の軸孔51f,52fの少なくとも一方を長孔にするとよい。
・連結部材53と第2クランプ部材58のうち何れか一方と、第2回転軸58とが一体になっていてもよい。
【0051】
・板ばね30は、側面視波形状に限られず、側面視円弧形状にしてもよく、楕円形の筒状にしてもよい。
・中子10をホイールWの法線方向に押すための押力維持機構として、板ばね30に代えて一つの皿ばねまたは上記法線方向に積層された複数の皿ばねを用いてもよく、軸線を上記法線方向に向けた圧縮コイルばねを用いてもよい。
・中子10をホイールWの法線方向に押す押力維持機構に代えて、軸線をバンド21の周方向に向けてバンド21を周方向に引っ張るコイルばね等の張力維持機構を、バンド21の中間部に介在させることにしてもよい。この場合、張力維持機構とクランプ機構50とをホイールWの径方向に対峙させて重量をバランスさせ、バランスウェイト40を省略してもよい。
・第1クランプ部材51のベース部51aとバンド21の一端部とを、リベット56に代えて溶接にて連結することにしてもよい。また、第2クランプ部材52のベース部52aとバンド21の他端部とを、リベット56に代えて溶接にて連結することにしてもよい。
・リベット56は、丸リベットであるが、これに代えて平リベットを用いてもよい。
・拘束具60は、クランプ機構50のクランプ部材51,52どうしが解除方向に変位するのを拘束できればよく、板ばね状の挟持ばね部62を有するものに限られず、線ばねによりクランプ部材を拘束するものであってもよい。
・拘束具60の取り付け、取り外し作業は、図11に示す専用工具Tを用いるのに限られず、ペンチなどの汎用工具を用いてもよく、工具を用いずに素手で行なうことにしてもよい。
・中子ピース11は樹脂にて構成したが、特に樹脂に限定する必要はない。例えば、金属製の中子11を使用してもよい。
・第1〜第4の実施形態を互いに組み合わせてもよい。例えば、第3、第4実施形態においても、第2実施形態の拘束具60を取り付けることにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の第1実施形態に係るランフラット装置を装着した車両のホイールの側面断面図である。
【図2】上記車両ホイールを、図1のII−II線に沿って示す正面断面図である。
【図3】上記ランフラット装置のクランプ機構を、噛み合いが解除されたアンクランプ状態で示す一部断面側面図である。
【図4】上記クランプ機構を、互いに噛み合ったクランプ状態で示す一部断面側面図である。
【図5】上記クランプ機構を、クランプ状態にする直前の状態、又はクランプ状態からアンランプ状態へ少し解除した状態で示す一部断面側面図である。
【図6】上記クランプ機構を、図3のVI−VI線に沿って示す平面断面図である。
【図7】上記クランプ機構の連結部材の側面図である。
【図8】本発明の第2実施形態に係るクランプ機構を、互いに噛み合ったクランプ状態で示す側面図である。
【図9】第2実施形態に係るクランプ機構の拘束具の斜視図である。
【図10】第2実施形態に係るクランプ機構を、図8のX−X線に沿って示す断面図である。
【図11】上記拘束具をクランプ機構に装着する様子を示す断面図である。
【図12】本発明の第3実施形態に係るクランプ機構を、互いに噛み合ったクランプ状態で示す側面図である。
【図13】本発明の第4実施形態に係るクランプ機構を、噛み合いが解除されたアンクランプ状態で示す、図6に相当する平面断面図である。
【図14】第1〜第4実施形態に係る連結部材の変形例を示す側面図である。
【図15】第1〜第4実施形態に係る連結部材の変形例を示す側面図である。
【図16】従来のランフラット装置用クランプ機構を示し、(a)は噛み合いが解除されたクランプ解除状態の側面図であり、(b)は互いに噛み合ったクランプ状態の側面図である。
【符号の説明】
【0053】
W ホイール
1 ランフラット装置
10 中子
11 中子ピース
11a バンド収容溝
11b 板ばね収容凹部
12 中子固定機構
20 バンド装置
21 バンド
21c リベット穴
30 板ばね(押力維持機構)
40 バランスウェイト
42 取り付け片
50 クランプ機構
51 第1クランプ部材
51a 第1ベース部
51b 第1クランプ本体部
51c 第1係止部
51d リベット穴
51e 第1係止部の第2係止部に押し当てられる面部分(面部分)
51f 軸孔
51g 被挟持凹部
51h 切込み
52 第2クランプ部材
52a 第2ベース部
52b 第2クランプ本体部
52c 第2係止部
52d リベット穴
52e 第2係止部の第1係止部に押し当てられる面部分(面部分)
52f 軸孔
52g 被挟持凹部
52h 切込み
53 連結部材
53a 連結部材の軸孔(長孔)
53b 連結部材のもう1つの軸孔
53c 隙間
56 リベット
57 第1回転軸
58 第2回転軸
60 拘束具
61 基部
62 挟持ばね部
62a 突出部
62b 斜面部
L 長孔の長軸
T 専用工具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホイールのランフラット用中子に巻き付けられるバンドを締め付けるクランプ機構であって、
(a)第1係止部を有して前記バンドの一端部に連なる第1クランプ部材と、
(b)前記第1係止部と解除可能に噛み合い可能な第2係止部を有して前記バンドの他端部に連なる第2クランプ部材と、
(c)軸線を前記バンドの幅方向に向けた第1回転軸を介して前記第1クランプ部材と回転可能に連なるとともに、前記第1回転軸と平行な第2回転軸を介して前記第2クランプ部材と回転可能に連なる連結部材と、
を含み、前記第1係止部と前記第2係止部とが、互いに噛み合ったクランプ状態のときに、前記バンドの周方向に当接することを特徴とするランフラット用クランプ機構。
【請求項2】
前記連結部材又は前記第1クランプ部材における前記第1回転軸を通す軸孔と、前記連結部材又は前記第2クランプ部材における前記第2回転軸を通す軸孔との少なくとも一方が、長孔になっていることを特徴とする請求項1に記載のランフラット用クランプ機構。
【請求項3】
前記長孔の長軸が、前記クランプ状態のとき、前記バンドの周方向に沿う方向成分を含むことを特徴とする請求項2に記載のランフラット用クランプ機構。
【請求項4】
前記長孔の長軸が、前記第1回転軸と第2回転軸とを結ぶ線に沿っていることを特徴とする請求項2又は請求項3に記載のランフラット用クランプ機構。
【請求項5】
前記クランプ状態において、前記第1、第2係止部どうしの前記周方向に当接する面部分の少なくとも一部が、前記ホイールの径方向に対して、前記クランプ状態への移行時の前記連結部材の回転方向に傾いていることを特徴とする請求項1から請求項4の何れか1項に記載のランフラット用クランプ機構。
【請求項6】
前記クランプ状態において、前記第1、第2回転軸どうしを結ぶ線と、前記第1、第2係止部どうしの前記周方向に当接する面部分とが交差し、この交差角度のうち、前記クランプ状態を解除する時の前記連結部材の回転方向に前記第1、第2回転軸どうしを結ぶ線から前記面部分までの角度が、90度より大きいことを特徴とする請求項1から請求項5の何れか1項に記載ランフラット用クランプ機構。
【請求項7】
ホイールに装着されるランフラット用の中子と、
前記中子に巻き付けられるバンドと、
前記バンドを締め付けるクランプ機構と、
を備え、前記クランプ機構が、
(a)前記バンドの一端部に連なる第1クランプ部材と、
(b)前記バンドの他端部に連なるとともに前記第1クランプ部材と噛み合い可能な第2クランプ部材と、
(c)軸線を前記バンドの幅方向に向けた第1回転軸を介して前記第1クランプ部材と回転可能に連なるとともに、前記第1回転軸と平行な第2回転軸を介して前記第2クランプ部材と回転可能に連なる連結部材と、
を含み、前記第1係止部と前記第2係止部とが、互いに噛み合ったクランプ状態のときに、前記バンドの周方向に当接していることを特徴とするランフラット装置。
【請求項8】
前記噛み合った状態における前記第1、第2クランプ部材どうし間に跨り、前記第1、第2クランプ部材が互いに外れる方向に変位するのを拘束する拘束具を、さらに備えたことを特徴とする請求項7に記載のランフラット装置。
【請求項9】
前記拘束具が、前記クランプ機構の側方に配置される基部と、この基部から延びて前記噛み合った状態の第1、第2クランプ部材を挟み付ける一対の挟持ばね部と、を有していることを特徴とする請求項8に記載のランフラット装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2009−113598(P2009−113598A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−287574(P2007−287574)
【出願日】平成19年11月5日(2007.11.5)
【出願人】(000110251)トピー工業株式会社 (255)