説明

ホイールリムのアプセット溶接方法

【課題】 ホイールリム素材となる高張力鋼板の端面同士を良好に接合できるアプセット溶接方法を提供する。
【解決手段】 突き合わせ端面間を第1加圧力P1で加圧した状態で第1電流I1を通電して、突き合わせ端面を軟化させて端面の面積が増加するように変形させる予加熱工程S1と、通電を停止するとともに加圧力を第2加圧力P2にまで低減して、熱伝導により突き合わせ端面のヒートバランスを均一化するクールダウン工程S2と、加圧力を第3加圧力P3にまで増加させた状態で第1電流より小さな第2電流I2を流して、突き合わせ端面を軟化させる加熱工程S3と、通電量を減らしながら加圧力を第4加圧力P4にまで増加させて、端面同士をアプセット変形させて溶接するアプセット工程S4を実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホイールリム素材となる高張力鋼板の端面同士を突き合わせて、突き合わせ方向に所定の加圧力で加圧した状態で端面間に電流を流して高張力鋼板の端面同士を溶接するホイールリムのアプセット溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の鋼板製ディスクホイールのリムを製造する工程においては、従来から行われていたフラッシュバット溶接に代わって、アプセット溶接が採用されるようになってきている。このアプセット溶接においては、リム素材となる鋼板を円筒状に丸め、その端部をそれぞれ電極でクランプして端部同士を突き合わせ、突き合わせ方向に加圧した状態で電極間に電流を流す。これにより、突き合わせ端面の接触抵抗および板材の固有抵抗によるジュール熱が発生して、突き合わせ端面が加熱軟化して接合される。
【0003】
図11は、従来のアプセット溶接における加圧力と電流との推移を表すグラフである。このアプセット溶接は、第1工程Sa1(加熱工程)と第2工程Sa2(アプセット工程)とにより実施される。第1工程Sa1においては、第1加圧力Pa1で加圧した状態から第1電流Ia1を流し、第2工程Sa2においては、通電を停止した状態で第1加圧力Pa1よりも大きな第2加圧力Pa2で加圧する。
【0004】
また、アプセット溶接は、特許文献1に示されるように、アルミ合金製のディスクホイールのリム素材の溶接にも採用できることが知られている。この特許文献1に示されるアプセット溶接は、図12に示すように、3つの工程からなり、アプセット工程である第3工程Sb3の前に行われる加熱工程が2つの工程(第1工程Sb1と第2工程Sb2)に分けられている。第1工程Sb1においては、第1加圧力Pb1で加圧した状態から第1電流Ib1を流し、第2工程Sb2においては、加圧力を第2加圧力Pb2にまで低下させるとともに電流を第2電流Ib2にまで低下させる。そして、第3工程Sb3においては、通電を停止した状態で第1加圧力Pb1よりも大きな第3加圧力Pb3で加圧してアプセット変形させる。
【0005】
また、2つの加熱工程を行うアプセット溶接としては、特許文献2に示されるように、ワイヤの端面同士の溶接に適用したものが知られている。この溶接方法は、加熱工程の前段として、加熱工程で流す電流よりも小さな電流を流す予備通電工程を組み込むことにより、ワイヤの突き合わせ端面の状態の影響を低減しようとするものである。
【0006】
また、特許文献3に示されるように、アプセット溶接が完了した後に、再度、溶接部を通電加熱させる後加熱工程を組み込んだ銅バスバーの溶接方法も知られている。この溶接方法は、後加熱工程により焼き戻し効果を得て、引張強度を確保した状態で所望の靱性を得ようとするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3343394号公報
【特許文献2】特開昭62−3882号公報
【特許文献3】特開平7−299570号公報
【発明の概要】
【0008】
ところで、最近においては、車両の軽量化のために、各種の部材に高張力鋼(ハイテンとも呼ばれる)が使用されるようになってきている。高張力鋼は、引張り強度が高く、一般鋼材を用いる場合に比べて薄肉化を図ることができ、軽量化に貢献できる。ディスクホイールにおいても例外ではなく、軽量化が望まれている。しかし、ディスクホイールのリム素材に高張力鋼板(例えば、引張り強度490MPa以上)を採用して超薄板化(例えば、2.0mm以下)を図った場合、特に、走行安全性のためにリム幅の拡大化を図った場合には、従来のアプセット溶接では、溶接後の加工成形時において、リムの接合部に割れが発生し、歩留まりが低下してしまうという課題が生じる。
【0009】
そこで、発明者らは、特許文献1に提案された溶接方法を、高張力鋼板を用いたリムの溶接への適用を試みたが、アルミ合金のように発熱しにくい材料には有効ではあるものの、熱容量の少ない高張力鋼板の場合には、許容入熱量が少ないため、接合端面のヒートバランスを確保できず上記の課題を解決できなかった。
【0010】
また、特許文献2に提案された溶接方法を適用して、加熱工程で流す電流よりも小さな電流を流す予備通電工程を組み込んでも、ワイヤ端面のように円形ではなく細長い長方形の端面形状を有するホイールリム素材の接合においては、やはり接合端面のヒートバランスを確保できず、上記課題を解決することができなかった。
【0011】
また、特許文献3に提案された溶接方法の場合には、溶接が完了した後の通電加熱であるため、溶接前の接合端面のヒートバランスを確保できず、上記課題を解決することができない。
【0012】
本発明は、上記問題に対処するためになされたもので、ホイールリム素材となる高張力鋼板の端面同士を良好に接合できるアプセット溶接方法を提供することを目的とする。
【0013】
上記目的を達成するために、本発明の特徴は、ホイールリム素材となる高張力鋼板の端面同士を突き合わせて、突き合わせ方向に所定の加圧力で加圧した状態で突き合わせ端面間に所定の電流を流して、前記高張力鋼板の端面同士をアプセット溶接するホイールリムのアプセット溶接方法において、
前記突き合わせ端面を突き合わせ方向に第1加圧力(P1)で加圧した状態で前記突き合わせ端面間に第1電流(I1)を通電して、前記突き合わせ端面を軟化させて前記端面の面積が増加するように変形させる予加熱工程(S1)と、前記予加熱工程の後に、通電を停止するとともに前記加圧力を前記第1加圧力から第2加圧力(P2)にまで低減して、熱伝導により前記突き合わせ端面のヒートバランスを均一化するクールダウン工程(S2)と、前記クールダウン工程の後に、前記加圧力を前記第2加圧力から第3加圧力(P3)にまで増加させた状態で前記突き合わせ端面間に前記第1電流より小さな第2電流(I2)を流して、前記突き合わせ端面を軟化させる加熱工程と、前記加熱工程の後に、通電量を前記第2電流から減らしながら前記加圧力を第3加圧力から第4加圧力(P4)にまで増加させて、前記突き合わせ端面同士をアプセット変形させて溶接するアプセット工程(S4)とを含むことにある。
【0014】
本発明においては、ホイールリム素材となる高張力鋼板の端面同士が突き合わされる。高張力鋼板は、建築、橋、船舶、車両その他の構造用及び圧力容器用として、引張り強さ490MPa〜1280MPaの範囲で溶接性、切欠きじん性及び加工性も重視して製造された鋼板をいう。予加熱工程では、端面同士が突き合わせ方向に第1加圧力で加圧された状態で突き合わせ端面間に第1電流が流される。これにより、高張力鋼板の突き合わせ端面が発熱して軟化し、突き合わせ端面の面積が増加するように突き合わせ端部が変形して外側に膨らむ。これにより、端面同士の接触面積が増加し、突き合わせ端部の熱容量が増加する。また、端面同士の突き合わせ精度が悪い場合であっても、端面の変形により突き合わせ精度が補正され、端面同士の突き合わせが均一化される。
【0015】
予加熱工程の後にクールダウン工程が実行される。クールダウン工程においては、通電が停止されるとともに加圧力が第2加圧力にまで低減される。これにより、突き合わせ端面の変形が止まり、熱伝導により突き合わせ端面における入熱量が均一化される。つまり、突き合わせ端面の板厚方向および幅方向のヒートバランスが均一化される。この場合、予加熱工程により突き合わせ部の断面積が増加して突き合わせ部の熱容量が増加しているため、良好なヒートバランスを維持することができる。
【0016】
クールダウン工程の後に加熱工程が実行される。加熱工程においては、加圧力を第2加圧力から第3加圧力にまで増加させた状態で突き合わせ端面間に第1電流より小さな第2電流が流される。これにより、突き合わせ端面が軟化する。この場合、突き合わせ端面は、軟化により更に変形してもよい。この加熱工程においては、予加熱工程により突き合わせ端面の面積が増加しているため、接合端面の真の電流密度が低下し、接触抵抗によるジュール発熱による温度上昇が遅くなる。また、予加熱工程による変形によって突き合わせ部の熱容量が増加している。また、予加熱工程により突き合わせ端面が予加熱されていることから必要熱量が減少して第2電流を第1電流より小さくすることができる。こうした要因により、アプセット工程までの通電時間を長くすることができ、突き合わせ端面のヒートバランスを均一化するのに必要な時間を確保することができる。
【0017】
また、例えば、端面同士の突き合わせ精度が悪く、予加熱工程において、端面の変形が幅方向において不均一になった場合であっても、変形(外側への膨らみ)が大きい側は小さい側に比べて、断面積が大きいため電流密度が低く温度上昇が遅くなり、逆に、変形が小さい側は大きい側に比べて、断面積が小さいため電流密度が大きく温度上昇が速くなる。従って、変形量のアンバランスにより、結果として、ヒートアンバランスが改善される。
【0018】
加熱工程の後にアプセット工程が実行される。アプセット工程においては、通電量が第2電流から減らされながら加圧力が第4加圧力にまで増加される。通電量は、第2電流から通電停止状態にまで漸減させるようにすればよい。このアプセット工程においては、加熱工程により突き合わせ端面が加熱溶融したところで、端面間に大きな第4加圧力が働いて突き合わせ端面がアプセット変形する。このアプセット変形により接合界面の酸化物が外へ排出される。これにより、高張力鋼板の端面同士が溶接される。この場合、アプセット工程が開始されるときの突き合わせ端面のヒートバランスが良好となっているために、良好なアプセット変形が得られる。
【0019】
このように、本発明によれば、アプセット工程を実行する前に、突き合わせ端面のヒートバランスを均一化することができるため、良好にアプセット溶接を行うことができる。従って、ディスクホイールのリム素材に高張力鋼板を採用して超薄板化を図った場合であっても、溶接後の加工成形時においてリムの接合部の割れの発生を低減することができ、歩留まりを向上させることができる。
【0020】
本発明の他の特徴は、前記第1加圧力をP1、前記第2加圧力をP2、前記第3加圧力をP3、前記第4加圧力をP4とすると、各工程における加圧力は、P4>P1≧P3>P2の関係に設定されていることにある。
【0021】
第4加圧力P4は、アプセット変形を行うための加圧力であるため最大に設定される。また、第2加圧力P2は、突き合わせ端部を変形させずにヒートバランスを均一化する工程での加圧力であるため最小に設定される。また、第1加圧力P1は、突き合わせ端面の面積を大きくするように変形させる工程での加圧力であるため、加熱工程での第3加圧力P3以上となる大きさに設定される。これにより、本発明によれば、各工程における加圧力を適切にでき、さらに良好なアプセット溶接が可能となる。
【0022】
本発明の他の特徴は、前記予加熱工程において前記第1電流を流す時間は、前記加熱工程において前記第2電流を流す時間に比べて短いことにある。
【0023】
予加熱工程において、低電流、かつ、長時間通電により突き合わせ端面を変形させると、突き合わせ端面だけでなく母材の変形が始まり、その後の加熱工程、アプセット工程における突き合わせ端面の変形を効率よく行うことができなくなる。そこで、本発明においては、第1電流を第2電流に比べて大きく、かつ、第1電流の通電時間を第2電流の通電時間よりも短く設定している。これにより突き合わせ端面の変形を効率よく行うことができる。また、第2電流の通電時間が長くなるため、ヒートバランスを均一化するのに必要な時間を確保することができる。これらの結果、本発明によれば、一層良好なアプセット溶接が可能となる。
【0024】
本発明の他の特徴は、前記予加熱工程において流す第1電流と前記加熱工程において流す第2電流の少なくとも一方は、断続的に通電されることにある。
【0025】
本発明においては、第1電流と第2電流との少なくとも一方が断続的に通電される。つまり、電流波形がパルス列状となるように通電される。これにより、ピーク値の高い電流を断続的に通電することができるため、入熱速度を遅くすることが可能となり、許容熱容量の小さい高張力鋼板であっても、一層安定したヒートバランスを得ることができる。この結果、良好なアプセット溶接が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】アプセット溶接機の概略構成図である。
【図2】アプセット溶接の工程を表すフローチャートである。
【図3】アプセット溶接時における加圧力、電流(電流密度)、変位量の推移を表すグラフである。
【図4】突き合わせ端部の変形状態を表す図である。
【図5】リム素材Wの両端部がハの字状に突き合わされた場合の変形状態を表す図である。
【図6】変形量と電流密度との関係を説明する図である。
【図7】第1電流と第2電流とを変化させた評価試験結果を表す表である。
【図8】各工程における加圧力を変化させた評価試験結果を表す表である。
【図9】クールダウン時間を変化させた評価試験結果を表す表である。
【図10】変形例としてのアプセット溶接時における加圧力、電流(電流密度)、変位量の推移を表すグラフである。
【図11】従来例としてのアプセット溶接時における加圧力、電流(電流密度)の推移を表すグラフである。
【図12】他の従来例としてのアプセット溶接時における加圧力、電流(電流密度)の推移を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の一実施形態のアプセット溶接方法(アプセットバット溶接とも呼ばれている)について図面を用いて説明する。図1は、実施形態としてのアプセット溶接方法を実施するアプセット溶接機を表す。アプセット溶接機は、帯状のリム素材Wを円筒状に丸めてその両端面を向かい合わせてクランプする2つの電極10,11と、電極10,11間に電圧を印加してリム素材Wに電流を流す溶接電源12と、電極10,11間に流す電流(リム素材Wに流す電流)を制御する電流制御装置13と、2つの電極10,11間の間隔を可変する油圧シリンダ14と、油圧シリンダ14に油圧を供給する油圧源15と、油圧源15から油圧シリンダ14へ供給する油圧を制御する加圧力制御装置16とを備える。電極10は、一対の電極10a,10bからなり、電極11は、一対の電極11a,11bからなり、それぞれ、リム素材Wの端部を、板面を直交する方向に挟圧してクランプする。
【0028】
本実施形態のアプセット溶接の対象となるリム素材Wは、幅が211mm、板厚が1.8mmの高張力鋼板(引張り強度780MPa)である。リム素材Wは、円筒状に丸められて両端部が電極10,11でクランプされ、油圧シリンダ14により電極10,11間の距離を縮めることにより、その端面同士が突き合わされる。この突き合わされたリム素材Wの端面Wendを、突き合わせ端面と呼ぶ。尚、リム素材Wの両端部(クランプされる部分)は、端曲げ工程により平坦に加工されている。
【0029】
次に、アプセット溶接について説明する。アプセット溶接は、図2に示すように、予加熱工程S1、クールダウン工程S2、加熱工程S3、アプセット工程S4を順番に実行することにより完了する。
【0030】
予加熱工程S1においては、加圧力制御装置16が、油圧シリンダ14へ供給する油圧を制御して、リム素材Wの端面同士を突き合わせ、その突き合わせる力(以下、加圧力と呼ぶ)を第1加圧力P1にまで増加させて維持する。また、電流制御装置13が、加圧力制御装置16による加圧開始から所定時間(予加熱ディレイ時間T1dと呼ぶ)だけ遅れて電極10,11間に電圧を印加して第1電流I1を流す。
【0031】
図3は、このアプセット溶接時における加圧力、電流(電流密度)、変位量(電極間距離の変化量)の推移を表す。図中において、上段の波形が加圧力の推移を表し、中段の波形が電流の推移を表し、下段の波形が変位量の推移を表す。尚、変位量は、リム素材Wの端面同士を突き合わせた初期位置IDを基準(ID=0)とした電極間距離の変化量を表す。
【0032】
この予加熱工程S1においては、通電によりリム素材Wの突き合わせ端面が発熱して軟化し始めるとともに熱膨張する。このとき、リム素材Wの端面同士が突き合わせ方向に加圧されているため、電極間距離が縮まり、図4(a)に示すように、突き合わせ端部が外側(リム径方向)に拡がる。これにより、突き合わせ端面の接触面積が増加し、突き合わせ端部の熱容量が増加する。また、突き合わせ端面同士の接触状態が均一化される。尚、図4は、リム素材Wの板厚を表す。
【0033】
また、リム素材Wの端面同士の突き合わせ精度がばらついても、端面の変形により突き合わせ精度が補正され、端面同士の突き合わせが均一化される。例えば、図5に示すように、リム素材Wの一方の端面と他方の端面とが幅方向で非平行の状態で突き合わされた場合、つまり、リム素材Wの両端部がハの字状にクランプされて突き合わされた場合であっても、ギャップ量の大きい側はギャップが縮小され、ギャップ量の小さい側は外側に拡がるように変形することにより、端面同士が面接触状態で突き合わされる。尚、この場合、幅方向において変形量のアンバランスが生じているが、後述するようにこの変形量のアンバランスがヒートアンバランスを改善する。
【0034】
加圧開始から第1時間T1が経過すると、予加熱工程S1からクールダウン工程S2に移行する。予加熱工程S1が終了する時点においては、図3に示すように、変位量がD1となっている。クールダウン工程S2においては、電流制御装置13が電極間の通電を停止させるとともに、加圧力制御装置16が加圧力を第2加圧力P2にまで低下させる。ここで、通電時間については、通電開始指令から通電遮断指令までの期間として定義する。従って、予加熱工程S1における第1電流I1の通電時間は、通電を開始した時点から、電流を減らし始めた時点(クールダウン工程S2の開始時点)までの期間(T1−T1d)となる。
【0035】
クールダウン工程S2においては、入熱が遮断された状態で、突き合わせ端面同士が第2加圧力P2で加圧される。これにより、リム素材Wの突き合わせ端面の発熱および変形が止まる。このクールダウン工程S2においては、予加熱工程S1で発生した熱の熱伝導により突き合わせ端面における入熱量が均一化される。つまり、突き合わせ端面の板厚方向および幅方向のヒートバランスが均一化される。この場合、予加熱工程S1により突き合わせ部の断面積が増加して突き合わせ部の熱容量が増加しているため、良好なヒートバランスを維持することができる。また、クールダウン工程S2においては、突き合わせ端面の温度が下がっていくため端面間の接触抵抗値が低減されるとともに、温度の均一化によって板厚方向および幅方向における接触抵抗値の均一化を図ることができる。
【0036】
クールダウン工程S2が開始されてから第2時間T2が経過すると、加熱工程S3に移行する。加熱工程S3においては、加圧力制御装置16が、油圧シリンダ14へ供給する油圧を増加させて加圧力を第3加圧力P3に維持する。また、電流制御装置13が、加圧力制御装置16による油圧増加開始から所定時間(加熱ディレイ時間T3dと呼ぶ)だけ遅れて電極10,11間に電圧を印加して第2電流I2を流す。この第2電流I2は、第1電流I1に比べて小さくなるように設定されている。また、第3加圧力P3は、第1加圧力P1以下であって、第2加圧力P2よりも大きな値に設定されている。
【0037】
この加熱工程S3は、アプセット変形を効率的に行うために実行される工程である。加熱工程S3においては、リム素材Wの突き合わせ端面が加圧された状態で再通電されることにより、突き合わせ端面が発熱して軟化する。この加熱工程S3が第3時間T3だけ継続されると、変位量(電極間距離の変化量)がD1からD2にまで増加して、最終工程となるアプセット工程S4に移行する。加熱工程S3においては、予加熱工程S1により突き合わせ端面の面積が増加しているため、接合端面の真の電流密度が低下し、接触抵抗によるジュール発熱による温度上昇が遅くなる。また、予加熱工程S1による変形によって突き合わせ部の熱容量が増加している。また、予加熱工程S1により突き合わせ端面が予加熱されていることから必要熱量が減少して第2電流I2を第1電流I1より小さくすることができる。こうした要因により、アプセット工程S4までの通電時間(T3−T3d)を長くすることができ、突き合わせ端面のヒートバランスを均一化するために必要な時間を確保することができる。
【0038】
また、加熱工程S3においては、リム素材Wの端面同士の突き合わせ精度が悪く、予加熱工程S1において、端面の変形が幅方向において不均一になった場合であっても、図6に示すように、変形(外側への膨らみ)が大きい側は小さい側に比べて、断面積が大きいため電流密度が低く温度上昇が遅くなり、逆に、変形が小さい側は大きい側に比べて、断面積が小さいため電流密度が高く温度上昇が速くなる。従って、変形量のアンバランスにより、結果として、ヒートアンバランスが改善される。
【0039】
尚、加熱工程S3において供給する電気エネルギー(電流値と通電時間の積:つまり、電流の時間積分値であって、図3の電流波形の面積に相当する)は、予加熱工程S1で供給する電気エネルギーよりも大きくすることが望ましい。
【0040】
加熱工程S3により突き合わせ端面が加熱溶融したところでアプセット工程S4に移行する。アプセット工程S4においては、加圧力制御装置16が、油圧シリンダ14へ供給する油圧を増加させて加圧力を第4加圧力P4に維持する。また、電流制御装置13が、加圧力制御装置16による油圧増加開始と同期して電圧を漸減し、電極間に流す電流をゼロにまで低下させていく。アプセット工程S4は、第4時間T4のあいだ行われる。これにより、突き合わせ端面間に大きな第4加圧力P4が働いて突き合わせ端面がアプセット変形する。図3中において、EDが最終の変位量を表す。このアプセット変形により接合界面の酸化物が外へ排出される。これにより、高張力鋼板の端面同士が溶接される。この場合、アプセット工程S4が開始されるときの突き合わせ端面のヒートバランスが良好となっているために、良好なアプセット変形が得られる。
【0041】
ここで、上記4つの工程によるアプセット溶接の評価試験結果について説明する。評価試験対象となるリム素材Wは、幅が211mm、板厚が1.8mmの高張力鋼板(引張り強度780MPa)である。図7に示す表1は、第1電流I1と第2電流I2とを変化させたときの溶接品質の評価結果を表す。この評価結果は、上記アプセット溶接を行った後に、フレアー加工、ロール加工、エキスパンド加工を行って成形されたリム成型完了品についての割れ不良率による評価である。○は不良率が0%、△は不良率2%以下、×は不良率2%超過を表す。尚、第1電流I1と第2電流I2の大きさは、電流密度を表している。
【0042】
この表1の評価試験においては、第1加圧力P1を127N/mm、第2加圧力P2を49N/mm、第3加圧力P3を98N/mm、第4加圧力P4を147N/mmとし、クールダウン時間T2(第2時間T2)を10サイクル(10/60秒)とした場合における、第1電流I1と第2電流I2とについて大きさを変更したものである。尚、この加圧力P1〜P4、クールダウン時間T2は、後述する加圧力に関する試験で良好として評価された値である。また、第2電流I2の通電時間は、ヒートバランスを確保するために、第1電流I1の通電時間よりも長く設定されている。この評価試験においては第1電流の通電時間を4サイクル(4/60秒)とし、第2電流の通電時間を15サイクル(15/60秒)としている。
【0043】
この試験結果からわかるように、第1電流I1が第2電流I2より大きい場合には、良好な評価結果が得られ、逆に、第1電流I1が第2電流I2より小さい場合には、良好な評価結果が得られていない。この理由は、予加熱工程S1において低電流で通電した場合には、突き合わせ端面を変形させるのに必要な通電時間が長くなって、突き合わせ端面だけでなく母材の変形が始まってしまうため、その後の加熱工程、アプセット工程における突き合わせ端面の変形を効率よく行うことができなくなるからと考えられる。従って、予加熱工程S1においては、大きな電流を短時間流すようにするとよい。一方、加熱工程S3においては、ヒートバランスを均一化するための時間を確保するためにあまり大きな電流を流さない方がよい。そこで、本実施形態のアプセット溶接方法においては、評価試験結果によっても裏付けられているように、第2電流I2を第1電流I1よりも小さく設定している。
【0044】
次に、第1電流I1を180A/mm、第2電流I2を140A/mmとして、4つの工程における加圧力の大きさを変更した場合の評価試験結果について説明する。図8に示す表2は、その評価試験結果を表すもので、実験番号1〜5については、第2加圧力P2を49N/mm、第3加圧力P3を98N/mm、第4加圧力P4を147N/mmに固定して、第1加圧力P1の大きさを変更したものであり、実験番号6〜9については、第1加圧力P1を127N/mm、第3加圧力P3を98N/mm、第4加圧力P4を147N/mmに固定して、第2加圧力P2の大きさを変更したものであり、実験番号10〜13は、第1加圧力P1を127N/mm、第2加圧力P2を49N/mm、第4加圧力P4を147N/mmに固定して、第3加圧力P3の大きさを変更したものであり、実験番号14〜17は、第1加圧力P1を127N/mm、第2加圧力P2を49N/mm、第3加圧力P3を98N/mmに固定して、第4加圧力P4の大きさを変更したものである。尚、第1電流、第2電流の通電時間条件は、表1での評価試験と同一である。
【0045】
この表2から各工程における加圧力の関係を分析すると、P4>P1≧P3>P2の関係が維持されている場合に、良好な評価結果が得られることがわかる。従って、本実施形態のアプセット溶接方法においては、各工程における加圧力を、P4>P1≧P3>P2の関係が満足する値に設定している。
【0046】
次に、クールダウン時間(第2時間T2)を変更した場合の評価試験結果について説明する。図9に示す表3は、その評価試験結果を表すもので、第1加圧力P1を127N/mm、第2加圧力P2を49N/mm、第3加圧力P3を98N/mm、第4加圧力P4を147N/mmとし、第1電流I1を180A/mm、第2電流I2を140A/mmとした条件において、クールダウン時間を2サイクル(2/60秒)から80サイクル(80/60秒)まで変更したものである。尚、第1電流、第2電流の通電時間条件は、表1,2での評価試験と同一である。
【0047】
この表からわかるように、クールダウン時間T2は、3サイクル(3/60秒)以上でかつ20サイクル(20/60秒)以下であるとよい。
【0048】
以上説明した本実施形態のアプセット溶接方法によれば、アプセット工程S4を実行する前に、突き合わせ端面のヒートバランスを均一化することができるため、良好にアプセット溶接を行うことができる。従って、ディスクホイールのリム素材Wに高張力鋼板を採用して超薄板化を図った場合であっても、溶接後の加工成形時においてリムの接合部の割れの発生を低減することができ、歩留まりを向上させることができる。
【0049】
以上、本実施形態のアプセット溶接方法について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0050】
例えば、図10に示すように、予加熱工程S1における通電を断続的な通電としてもよい。つまり、第1電流I1の通電をパルス列状に通電するようにしてもよい。また、加熱工程S3における通電についても一点鎖線にて示すように断続的な通電としてもよい。つまり、第2電流I2の通電をパルス列状に通電するようにしてもよい。このように断続的に通電する場合には、第1電流I1、第2電流I2のピーク値を1回の通電方式(図3の実施形態)に比べて大きく設定すればよい。この場合においても、第1電流I1の平均値が第2電流I2の平均値よりも大きくなるように設定するとよい。また、通電時間に関しては、予加熱工程S1については(T1−T1d)、加熱工程S3については(T3−T3d)として考え、予加熱工程S1における通電時間を、加熱工程S3における通電時間よりも短く設定するとよい。この変形例によれば、ピーク値の高い電流をパルス列状に通電するため、入熱速度を遅くすることが可能となり、許容熱容量の小さい高張力鋼板であっても、一層安定したヒートバランスを得ることができ、良好なアプセット溶接が可能となる。
【符号の説明】
【0051】
10,11…電極、12…溶接電源、13…電流制御装置、14…油圧シリンダ、15…油圧源、16…加圧制御装置、W…リム素材、S1…予加熱工程、S2…クールダウン工程、S3…加熱工程、S4…アプセット工程。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホイールリム素材となる高張力鋼板の端面同士を突き合わせて、突き合わせ方向に所定の加圧力で加圧した状態で突き合わせ端面間に所定の電流を流して、前記高張力鋼板の端面同士をアプセット溶接するホイールリムのアプセット溶接方法において、
前記突き合わせ端面を突き合わせ方向に第1加圧力で加圧した状態で前記突き合わせ端面間に第1電流を通電して、前記突き合わせ端面を軟化させて前記端面の面積が増加するように変形させる予加熱工程と、
前記予加熱工程の後に、通電を停止するとともに前記加圧力を前記第1加圧力から第2加圧力にまで低減して、熱伝導により前記突き合わせ端面のヒートバランスを均一化するクールダウン工程と、
前記クールダウン工程の後に、前記加圧力を前記第2加圧力から第3加圧力にまで増加させた状態で前記突き合わせ端面間に前記第1電流より小さな第2電流を流して、前記突き合わせ端面を軟化させる加熱工程と、
前記加熱工程の後に、通電量を前記第2電流から減らしながら前記加圧力を第3加圧力から第4加圧力にまで増加させて、前記突き合わせ端面同士をアプセット変形させて溶接するアプセット工程と
を含むことを特徴とするホイールリムのアプセット溶接方法。
【請求項2】
前記第1加圧力をP1、前記第2加圧力をP2、前記第3加圧力をP3、前記第4加圧力をP4とすると、各工程における加圧力は、P4>P1≧P3>P2の関係に設定されていることを特徴とする請求項1記載のホイールリムのアプセット溶接方法。
【請求項3】
前記予加熱工程において前記第1電流を流す時間は、前記加熱工程において前記第2電流を流す時間に比べて短いことを特徴とする請求項1または2記載のホイールリムのアプセット溶接方法。
【請求項4】
前記予加熱工程において流す第1電流と前記加熱工程において流す第2電流の少なくとも一方は、断続的に通電されることを特徴とする請求項1ないし請求項3の何れか一項記載のホイールリムのアプセット溶接方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−86158(P2013−86158A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−231221(P2011−231221)
【出願日】平成23年10月21日(2011.10.21)
【出願人】(391006430)中央精機株式会社 (128)