説明

ホイール用ディスクの製造方法

【課題】 材料歩留まりが高いと共に、設備コストを低くすることができ、さらに製造が容易なホイール用ディスクの製造方法を提供する。
【解決手段】帯板状の素材20を、その幅方向Wが径方向となるよう円環状に巻回する巻回工程と、巻回した素材を溶接し、円環材10を作成する円環材作成工程と、円環材の表面を板厚方向に薄くし、円環材の内径を縮める径差拡大工程と、円環材の平面部2xに対して角度を持った立ち上がり部3a、3bを形成する立ち上がり部形成工程とを有するホイール用ディスクの製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車、農耕用車両、産業用車両等のホイール用ディスクの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用ホイール、特にバス・トラック等の大、中型の自動車用ホイールのコスト削減と軽量化が求められている。
図13に示すように、大、中型の自動車用ホイールのディスク101は、ハブ取り付け部102と、ハブ取り付け部102に連なり、半径方向外側と軸方向内側に延び、ハブ取り付け部102板厚よりも薄くなる断面形状をもつ立ち上がり部103とから構成されている。立ち上がり部103は、ハブ取り付け部102に連なり半径方向外側と軸方向内側に斜めに延びる傾斜部103aと、先端部で軸方向に延びる鉛直部103bとにより構成されている。なお、「軸方向内側」とは、ホイールを車両に取付けた際、ホイールの軸方向から見て、車両側となる部分をいう。
この形状のディスクは以下のように製造される。まず、ほぼ正方形(又は、矩形)の板材を打ち抜いて円盤状のワークを作成する。次にコールドスピニングやプレスによる絞り成形加工により、必要な板厚分布を有する立ち上がり部103を形成し、ディスク101の断面形状を作成する。そして、ハブ穴104、ボルト穴105、飾り穴106等の開口等を行い、ディスク101の完成品を作成する。しかし、この従来方法では矩形の板材からブランク材を作成する際の材料の無駄や、ブランク材中央に大径のハブ穴104を形成する際の材料の無駄が多く、経済的ではなかった。
【0003】
このようなことから、出願人は、材料歩留りを抜本的に改善し、矩形材からの車両ホイール用ディスクの成形加工方法を開発した(特許文献1、2参照)。この方法は矩形材を丸め、端末を溶接することによって円筒材を作成し、この円筒材を上型、下型いずれかが回動揺動する上型、下型間で加工し、ディスクに近似した円環材を形成する方法である。
【0004】
【特許文献1】特開平5ー337581号公報
【特許文献2】特開平11ー347668号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1、2記載の技術の場合、遥動成形機を必要とし、設備の初期投資負担が大きいという問題があった。又、後述するように、帯板状の素材を、その幅方向が径方向となるよう円環状に巻回してディスクのワークとすると、材料の無駄が殆ど無くなる。しかしながら、素材の幅が大きくなると、円環の内円側と外円側で半径が異なるため、伸び側(外円側)と圧縮側(内円側)で応力差が大きくなり、巻回が困難になる。
従って本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、材料歩留まりが高いと共に、設備コストを低くすることができ、さらに製造が容易なホイール用ディスクの製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、本発明のホイール用ディスクの製造方法は、帯板状の素材を、その幅方向が径方向となるよう円環状に巻回する巻回工程と、巻回した前記素材を溶接し、円環材を作成する円環材作成工程と、前記円環材を板厚方向に薄くし、前記円環材の内径寸法と外径寸法の差を拡大する径差拡大工程と、該円環材の平面に対して角度を持った立ち上がり部を形成する立ち上がり部形成工程とを有する。
【0007】
このようにすると、ディスクのワークとして円環材を用いるため、材料の無駄が無く、製造コストを低減できる。又、素材をその幅方向が径方向となるよう円環状に巻回すると、内円側と外円側では半径が異なるため、伸び側(外円側)と圧縮側(内円側)で応力差が生じ、素材の幅が大きくなる程応力差が大きくなり、巻回が困難になる。そこで、径差拡大工程前の円環材の内径と外径の差に比べ、径差拡大工程では円環材が板厚方向に加工されて内径と外径の差を大きくできるため、巻回時の円環材の内円側と外円側との半径の差を少なくでき、巻回が容易になる。
【0008】
前記径差拡大工程は、該円環材の内径を小さくする加工を含むとより好ましい。
径差拡大工程で円環材の内径が小さくなる量を見越して、径差拡大工程前の円環材の内径を大きくすることができるので巻回し易くなる。
さらに、素材を円環状に巻回すると、厚みが均一な素材を用いても、内円側で厚みが厚く、外円側では素材が引き伸ばされて厚みが薄くなる。そのため、円環材の内円側が厚く材料が余っているため、径差拡大工程によって、内円側の材料が容易に内側に流れて内径を小さくし易くなる。
【0009】
前記素材は、幅方向に厚みが異なっていてもよい。
厚みの薄い側を外円側にし、厚みの厚い側を内円側に巻回すると、径差拡大工程で厚みの厚い内円側の加工量が大きくなり内径を小さくできる。さらに厚みが薄い外円側を加工せずに残すことで、立ち上がり部の薄肉化が一層図られる。
【0010】
前記巻回工程において、前記素材の幅方向が径方向となるよう円環状に巻回すると共に、螺旋状に巻回し、前記円環状の部分を複数個螺旋状に連続させ、前記螺旋状に巻回した前記素材を前記ホイール用ディスク1個分ずつに切断し、それぞれ分離した前記円環状部分を得る切断工程をさらに有してもよい。
このようにすると、螺旋状に巻回した素材をホイール用ディスク1個分ずつに切断するだけで、螺旋状部分がそれぞれ分離し、多数の円環状部分を同時に得ることができ、生産性が向上する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、材料歩留まりが高いと共に、設備コストを低くすることができ、さらにホイール用ディスクの軽量化を図ることができると共に容易にホイール用ディスクを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、本発明によって製造されるディスクをリムと接合して製造したホイールは、公式な耐久強度の規定を満たすものであることが好ましい。但し、公式な耐久強度の規定を有しない産業車両用(農耕用)ホイールや応急使用ホイール(自動車用テンパーホイールを含む)等であっても本発明を適用することができる。
ここで、公式な耐久強度は我国のJIS D 4103「自動車部品―ディスクホイール―性能及び表示」 であるが、将来、規格が変わった場合は、その時点で我国の日本工業規格JIS(及び/又は国際標準化機構ISO)が定めるホイールの公式な耐久強度をいう。
【0013】
図1は、本発明の実施形態に係るホイール用ディスクの製造方法に用いる、帯板状の素材の形状を示す斜視図である。素材20は、長手方向Lに長く、幅Wの帯板状をなし、厚みがtで表示される。素材としては例えば、鋼を用いることができる。
【0014】
図2は、本発明の実施形態に係るホイール用ディスクの製造方法の一例を示す工程図である。
まず、上記した素材20を、その幅方向Wが径方向となるよう円環状に巻回する(図2(a):巻回工程)。ここで、素材20を巻回する際、図2の矢印Dの方向に、円環状の部分が巻回の軸方向に次々と連続して重なるよう螺旋状に巻回し、所定直径の円環状の部分を複数個螺旋状に連続して形成させる。
ここで、素材20を幅方向Wが径方向となるように巻回する方法としては、所定の治具やローラで素材20の所定位置を支持しながら曲げ成形機で負荷を加える方法がある。
次に、螺旋状に巻回した素材20を切断部22cでホイール用ディスク1個分ずつに切断すると、螺旋状部分がそれぞれ分離し、多数の円環状部分22を得ることができる(図2(b):切断工程)。なお、「ホイール用ディスク1個分ずつ」とは、切断部22Cで切断した個々の円環状部分22を加工すると、ホイール用ディスクが1個形成される分の材料の大きさをいう。又、巻回時にホイール用ディスク1個分の材料分だけ巻回してもよい。ただし、前記巻回工程で、材料20の巻回はじめの始端部と、巻回おわりの終端部に不完全な形成部分を生じる場合は、不完全な形成部分を切り落とし、円環状の材料端面を付き合わせ溶接が可能な形状に揃える必要がある。したがって、円環状の部分を複数個螺旋状に連続して多数形成させる方が、ホイール用ディスク1個分の材料分だけ別個に巻回するより材料歩留まりを改善することができる。
【0015】
次に、個々の円環状部分22(巻回した素材)の突合せ部分10a(切断部分22c)を溶接し、円環材10を作成する(図2(c):円環材作成工程)。円環材10は、中央部に円形の開口10bを有している。溶接方法は特に限られないが、バット溶接(突合せ溶接)が例示される。
ところで、円環材10の内円側と外円側では半径が異なるため、伸び側(外円側)と圧縮側(内円側)で応力差が生じ、素材の幅Wが大きくなる程応力差が大きくなって巻回が困難になる。そこで、本発明においては、巻回時の円環材10の内径(開口10bの直径)を、次工程の径差拡大工程にて内径が小さくなる量(縮まり代)を見越して大きくする。その結果、巻回時に円環材の内円側と外円側との半径の差を少なくすることができ、巻回が容易になる。
さらに、巻回時の円環材10の外径についても、径差拡大工程で外径が広がる量を見越して小さくすれば、巻回時に円環材10の内円側と外円側との半径の差をさらに少なくすることができ、巻回をさらに容易にすることができる。
【0016】
図3は、本実施形態で用いる円環材10の内径(開口10bの直径)と、ハブ穴4との大きさを示す。この例では、円環材10の内径を、ハブ穴4の直径にハブ仕上げ抜き代を加えた寸法と同等(図3の細線4x)にすると、円環材10の幅W1が大きくなり巻回し難くなるが、円環材10の内径を細線4xより大きくすることで、幅Wが小さくなり、巻回が容易となる。
例えば、円環材10の内径をハブ穴の直径より大きくする方法としては、素材20の幅W方向が径方向となるよう巻回した後、板厚方向に加工をして所定の板厚としたときに、円環材の内径縮まり代が、ハブ穴抜き仕上げ代を上回るような条件を設定する。さらに、円環材の外径の広がり代を考慮に入れて素材20の幅Wを設定すると、素材の幅を狭くする効果を有する。
【0017】
図2に戻り、円環材10を加工し、円環材の内径を狭める(図2(d):径差拡大工程)。図2の場合、複数の回転ローラ220がホルダ210に取付けられた転圧加工装置200を用い、回転する下型400上に円環材10を設置し、円環材10の表面に回転ローラ220を接しさせ、転圧加工装置200を下方に加圧することで、下型400との間で円環材10の厚みを薄くする加工を行っている。なお、下型400には、径差拡大工程後の最終的な大きさの円環材に相当する円盤状の窪みが設けられている。
ここで、径差拡大工程における加工として、転圧又はスピニング加工が挙げられる。転圧又はスピニング加工は、転造、フローフォーミングとも称され、回転する成形型(マンドレル)に取付けた素材にローラやへら等の工具を押し当てる塑性加工である。このうち、転圧加工は素材にローラを押し当てる加工であり、スピニング加工は素材に点接触で工具を押し当てる加工である。又、コールドスピニング加工とは冷間で行うスピニング加工である。
【0018】
ここで、図4に示すように、円錐状の回転ローラ220の回転面が水平になるよう、回転ローラ220はホルダ210に斜めに取付けられている。又、回転ローラ220の回転面の幅は円環材10の幅より広く、円環材10を径方向外側及び径方向内側にそれぞれ延伸させると共に、その厚みを薄くする(図4の中心線Oより左側が転圧加工前の円環材10であり、中心線Oより右側が転圧加工後の円環材10sである)。径方向外側に延びた円環材10sは、下型400の周壁400eに当接して外径を規定される。一方、円環材10が径方向内側に延びることにより、円環材10sの内径はSoからSxに縮められる。ここで、Sxはハブ穴の直径より小さい。
【0019】
なお、この実施形態では、円環材10は図5に示すような断面を有している。図5は、円環材10の軸方向に垂直な面で切断した断面図である。素材20を幅方向Wが径方向となるよう円環状に巻回すると、内円側(開口10b側)と外円側では半径が異なるために、内円側では素材20が圧縮されて余肉が生じ、厚みt2が元の素材20の厚みtより厚くなる。一方、外円側では素材20が引き伸ばされ、厚みt1が元の素材20の厚みtより薄くなる。
つまり、厚みが均一な素材を用いても、円環材10の厚みは内円側が厚く、外円側が薄くなる。円環材10の厚みがこのようになっているため、径差拡大工程で円環材10の内径を狭め易くなる。これは、円環材10の内円側が厚く材料が余っているため、転圧加工によって内円側の材料が容易に内側に流れて円環材10の内径を縮める方向に働くからである。
【0020】
図2に戻り、転圧加工によって円環材の内径を小さくした後、さらに円環材10の外円側を加工(コールドスピニング加工等)し、円環材10の平面部2x(後述するハブ取り付け部となる)に対して角度を持った立ち上がり部3a、3bを形成する(図2(e):立ち上がり部形成工程)。立ち上がり部3は、ハブ取付け部となる平面部2xに連なり半径方向外側と軸方向内側に斜めに延びる傾斜部3aと、先端部で軸方向に延びる鉛直部3bとにより構成されている。なお、「軸方向内側」とは、ホイールを車両に取付けた際、ホイールの軸方向から見て車体側となる部分をいう。但し、トラックのダブルタイヤのように、2個のホイールを軸方向に連結して使用する場合、車体側に位置するホイールの「内側」は上記の通りであるが、外側に位置するホイールの「内側」は上記と逆になる。これは、ダブルタイヤの場合、外側に位置するホイールの表裏を逆にして内側ホイールと連結するためである。
【0021】
又、この実施形態においては、傾斜部3a及び鉛直部3bにおいて、板厚がハブ取り付け部の板厚よりも薄くなっている。このように板厚が変化することで、ディスクの軽量化を図ることができる。
【0022】
なお、コールドスピニング加工に代え、円環材10の外円側をプレス加工して立ち上がり部(傾斜部3a及び鉛直部3b)を形成してもよい。但し、コールドスピニング加工を行うと、円環材10の板厚をさらに薄くすることができるのに対し、プレス加工では板厚の低減がほとんど無いので、ディスクの軽量化の観点からは、コールドスピニング加工がより好ましい。
【0023】
又、本発明の実施形態においては、円環材を形成するために曲げ成形を行い、又、立ち上がり部を形成するためコールドスピニング加工又はプレス加工を行うが、これらの成形や加工用の装置は従来のホイール製造装置をほとんど改造せずに用いることができ、装置が安価で済むので設備コストを低減することができる。
【0024】
図2に続き、ホイール用ディスクに各種の後加工を施す工程を図6に示す。なお、図6の工程は、従来のディスクでも行われている公知の加工である。
まず、円環材10の開口10bの縁をプレス抜きし、ディスクの中心にハブ穴4を開口する(図6(a))。次に、ハブ穴4より外周側の平面部(ハブ取り付け部)に、ハブを取付けるための複数のボルト孔5を同心円上にプレス抜きして開口する(図6(b))。
さらに、傾斜部3aに少なくとも1個以上の飾り穴6をプレス抜きして開口する(図6(c))。飾り穴6は通常、タイヤへのエアーサービス、軽量化及びブレーキ放熱のために形成される。そして、ハブ取り付け部の寸法品質を向上させるため、平面部2xの平面矯正を行い、ディスクの最終製品(図6(e))とする。なお、ハブ取付け部2は、ハブ穴4とボルト孔5が形成された略円盤状の平面部分である。
【0025】
以上のようにして、図7に示すディスク1を得る。図7は、ディスクの軸方向に平行で、かつ、この軸を含む面でディスク1を切断した断面図である。
ディスク1は、上記したように、ハブ取り付け部2と、ハブ取り付け部2に連なり、半径方向外側と軸方向内側に延び、ハブ取り付け部の板厚よりも薄くなる断面形状をもつ立ち上がり部3とから構成されている。立ち上がり部3は、ハブ取り付け部2に連なり半径方向外側と軸方向内側に斜めに延びる傾斜部3aと、先端部で軸方向に延びる鉛直部3bとにより構成される。
そして、ディスク1とリムとを溶接して車両用ホイールを製造する。リムは略円筒状をなし、その両端に形成された外側フランジ及び内側フランジの間にタイヤを収容するようになっているが、リムの形状や構造は公知であるので説明を省略する。
【0026】
なお、本発明は、特にバス・トラック等の大、中型の自動車用ホイールに用いるディスクに有効に適用することができる。これは、大、中型の自動車用ホイール用のディスクは意匠性があまり要求されず、又、上記したダブルタイヤとして用いる場合もあるため、ディスク面に凹凸が少なく、通常は、平面状のハブ取り付け部の周縁から直接、軸方向内側に立ち上がり部が延びている。そのため、円環材の外縁を加工するだけで容易にディスクを製造できる。又、ディスクが大径であるため、円環材を用いることで材料の無駄の削減効果が大きい。
【0027】
図8に示すように、素材20xとして、一方の長辺20L1側の厚みt1xが薄く、他の長辺20L2側の厚みt2xが厚いものを用いてもよい。このように厚みが異なる素材20xを用い、厚みが薄い長辺20L1が環の外側を向くように巻回すると、長辺20L2側が内円側となって圧縮されて厚みが厚くなると共に、長辺20L1が外円側となって引き伸ばされてさらに薄くなる。そのため、上記した径差拡大工程で円環材の内径を縮めるのが容易になると共に、立ち上がり部(傾斜部3a、鉛直部3b)をさらに薄くすることができる。
なお、図8の例では、長辺20L2側から幅方向内部に向かって厚みt2xが一定であり、さらに長辺20L1側に向かってテーパー状に厚みt1xが薄くなっていて、厚みt2xが一定の領域がハブ取り付け部(となる平面部)に対応している。
【0028】
図9は、図8に示した素材20xを用いて径差拡大工程を行った場合の加工状態を示す。なお、図9において、図4と同一の構成部分については同一符号を付して説明を省略する。
図9において、素材20xを巻回して得られた円環材10xの外円側は、先細りのテーパー部10x1を有している。この円環材10xを下型400に設置して径差拡大工程を行うと、回転ローラ220で転圧された部分の厚みが薄くなり、円環材10xの内円側の厚みがより厚いのでより多く転圧され、その結果、内径がより縮まる。(図9の中心線Oより左側が転圧加工前の円環材10xであり、中心線Oより右側が転圧加工後の円環材10xsである)。ここで、転圧加工による最終厚みtxを、テーパー部10xs1の厚みtx1より厚くなるようにすれば、テーパー部10xs1が転圧加工されずに残るため、転圧加工で得られた円環材10xsの外円側の厚みが薄くなる。そのため、立ち上がり部形成工程で、立ち上がり部(傾斜部3a、鉛直部3b)をさらに薄くすることができる。
【0029】
通常のホイール用ディスクの製造法では、ブランクの板厚が均一なため、立ち上がり部形成工程でコールドスピニング加工を十分に行うことで、傾斜部3a及び鉛直部3bの板厚を薄くしている。これに対し、上記した円環材10xを用いると、コールドスピニング加工を行う前に既に外円側の板厚が薄くなっているため、コールドスピニング加工の程度(加工時間、加工度)を従来より少なくしても、傾斜部3a及び鉛直部3bの板厚を十分薄くすることが可能であり、コールドスピニング加工の時間を従来より短縮できる等の利点がある。
【0030】
又、コールドスピニング加工に代え、円環材10xの外縁をプレス加工して立ち上がり部(傾斜部3a及び鉛直部3b)を形成する場合も、加工前に既に外円側の板厚が薄くなっているので、傾斜部3aから鉛直部3bに向って板厚が薄くなる。これは、従来のプレス加工では立ち上がり部の板厚を薄くすることができないことに比べ、大幅な利点となる。
【0031】
なお、図8のような形状の素材を用いず、厚みが均一な素材を用いた場合であっても、円環材の外円側の板厚が薄くなっている。従って、図9の場合と同様にして、径差拡大工程で円環材の外円側が加工されずに残るように素材20の厚みtを設定しておけば、上記と同様な効果を得ることができる。
【0032】
図10に示すように、素材20Yとして、一方の長辺20L1側の厚みt1yが薄く、他の長辺20L2側の厚みt2yが厚いものを用いてもよい。このように厚みが異なる素材20Yを用い、厚みが薄い長辺20L1が環の外側を向くように巻回すると、長辺20L2が内円側となって圧縮されさらに厚みが厚くなり、長辺20L1が外円側となって引き伸ばされてさらに薄くなる。そのため、上記した径差拡大工程で内円側の厚い部位から順次転圧加工を受け、円環材の内径を縮めるのが容易になると共に、立ち上がり部(傾斜部3a、鉛直部3b)をさらに薄くすることができる。
なお、図10の例では、長辺20L2側(厚みt2y)から幅方向内部に向かって一定のテーパーで厚みが薄くなっていて、長辺20L1側で厚みt1yとなる。そして、径差拡大工程で、長辺20L2側の厚い領域が内径側から順次転圧加工を受け、ハブ取り付け部の領域が一定板厚にされると共に、内径を縮めることができる。
【0033】
径差拡大工程を転圧加工で行う場合、加工される位置を複数部分に分けて加工すると、1箇所あたりの加工量を少なくすることができるので、加工が容易になると共に径差拡大に大きな効果を得られる。例えば、図11は2箇所に分けて加工する場合を示し、位置A(円環材10の内円側)では、円環材10のハブ取り付け部(内円側)に回転ローラ220Aを位置させて転圧加工し、図11の位置B(円環材10の外円側)では、円環材10のディスク立ち上がり部の領域(外円側)に回転ローラ220Bを位置させて転圧加工を行っている。また、円環材10の異なる複数の位置の加工は、同時に行ってもよいし、加工に時間差があってもよい。
【0034】
図12に示すように、径差拡大工程をスピニング加工で行ってもよい。この場合、中心軸235に軸支されたスピニングローラ230を円環材10に押し当て、点接触により加工を行うことができる。
例えば、下型400の回転に合わせてスピニングローラ230を回転させつつ円環材10の板厚方向に加圧する。そして、スピニングローラ230を順次円環材の径方向内側又は、及び外側に移動させて、スピニング加工を行う。それによって、より小さな加工力で径差拡大工程を行うことができる。さらに、径差拡大工程にプレス成形で行ってもよい。
【0035】
本発明は上記した実施形態に限定されず、本発明の思想と範囲に含まれる様々な変形及び均等物に及ぶことはいうまでもない。
例えば、本発明は、ハブ取り付け部となる平面部と、この平面部の周縁から軸方向内側に延びる立ち上がり部とを有するディスクに適用することができ、飾り穴の位置は上記実施形態に限定されない。又、ハブ取り付け部と立ち上がり部の間に、意匠性や強度を向上させるため、各種の凹凸やスポーク部が形成されていてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の実施形態に係るホイール用ディスクの製造方法に用いる帯板状の素材の形状を示す斜視図である。
【図2】本発明の実施形態に係るホイール用ディスクの製造方法の一例を示す工程図である。
【図3】本発明で用いる円環材の内径の大きさと、ハブ穴の大きさとを比較した図である。
【図4】径差拡大工程を行った場合の加工状態を示す模式図である。
【図5】円環材の軸方向に垂直な面で切断した断面図である。
【図6】ホイール用ディスクに各種後加工を施す工程を示す図である。
【図7】本発明によって製造されたディスクの一例を示す断面図である。
【図8】厚みが異なる素材の形態を示す斜視図である。
【図9】厚みが異なる素材を転圧加工する場合の加工状態を示す模式図である。
【図10】厚みが異なる素材の別の形態を示す斜視図である。
【図11】径差拡大工程を分割して行った場合を示す模式図である。
【図12】径差拡大工程をスピニング加工で行った場合を示す模式図である。
【図13】従来のディスクの一例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0037】
1 ホイール用ディスク
3a、3b 立ち上がり部
4 ハブ穴
10、10x 円環材
10a 突合せ部分
10b 円環材の開口(内径)
20、20x 帯板状の素材
20L1 素材のうち厚みの薄い長辺
W 素材の幅方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
帯板状の素材を、その幅方向が径方向となるよう円環状に巻回する巻回工程と、
巻回した前記素材を溶接し、円環材を作成する円環材作成工程と、
前記円環材を板厚方向に薄くし、前記円環材の内径寸法と外径寸法の差を拡大する径差拡大工程と、
該円環材の平面部に対して角度を持った立ち上がり部を形成する立ち上がり部形成工程と
を有することを特徴とするホイール用ディスクの製造方法。
【請求項2】
前記径差拡大工程は、前記円環材の内径を小さくする加工を含む請求項1に記載のホイール用ディスクの製造方法。
【請求項3】
前記素材は、幅方向に厚みの異なっていることを特徴とする請求項1又は2に記載のホイール用ディスクの製造方法。
【請求項4】
前記巻回工程において、前記素材の幅方向が径方向となるよう円環状に巻回すると共に、螺旋状に巻回し、前記円環状の部分を複数個螺旋状に連続させ、
前記螺旋状に巻回した前記素材を前記ホイール用ディスク1個分ずつに切断し、それぞれ分離した前記円環状部分を得る切断工程をさらに有することを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のホイール用ディスクの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−137273(P2010−137273A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−318229(P2008−318229)
【出願日】平成20年12月15日(2008.12.15)
【出願人】(000110251)トピー工業株式会社 (255)