説明

ホウ素濃度が高いホウ酸化合物水溶液の製造方法及びホウ素濃度が高いホウ酸化合物水溶液

【課題】無機化合物のみでホウ素含有量が水溶液100g当たり5.6g以上にしても常温で安定な、木材その他の可燃性材料を防火処理するのに好適なホウ酸化合物水溶液の製造方法を提供する。
【解決手段】ホウ酸を水に溶解させる際に、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、水酸化リチウム、炭酸リチウム、炭酸水素リチウムから選ばれるアルカリ金属化合物の1種又は2種以上を、ナトリウムとリチウムの合計(A)とホウ素(B)の原子比(A/B)が0.24〜0.6になるように添加することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木材、紙、天然繊維等のセルロースを主成分とする可燃性材料の防火処理に好適な、常温で安定なホウ素濃度が高いホウ酸化合物水溶液の製造方法及びホウ素濃度が高いホウ酸化合物水溶液に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ホウ酸、ホウ砂等のホウ酸化合物は、木材や木質材料の発炎燃焼と赤熱燃焼を抑制する効果があることから木材等の防火剤として古くから利用されている。防火処理は、通常、ホウ酸化合物を水に溶解したホウ酸化合物水溶液として、それを木材等に含浸させた後、乾燥して行うが、木材等に含浸できる水溶液の量には限界があり、しかもホウ酸の水に対する溶解度は3.992g/水100g(20℃)、四ホウ酸ナトリウム(ホウ砂)が4.7g/水100g(20℃)と小さく、20℃で最も高い溶解度を示すメタホウ酸ナトリウム(NaO・B・8HO)でもその溶解度は無水塩換算で20wt%程度であることから高濃度でホウ酸化合物を含有する水溶液の提供が強く求められていた。
【0003】
このようなことから、各方面でホウ酸化合物を高濃度で水に溶解させる方法が検討されている。例えば、特許文献1には、EDTA等のイオン封鎖剤の水溶液やドデシルベンゼンスルホン酸ソーダ等の湿潤浸透性界面活性剤の水溶液中にホウ酸化合物を溶解させることで低温析出性を防止し、ホウ砂やホウ酸を公知の溶解度以上の高濃度とする方法が記載されている。更に、弗化ソーダ等の弱酸または弱アルカリのアルカリ金属塩を混合することで結晶変化を促進させ容易に溶液化できることが記載されている。
また、特許文献2には、ホウ酸とホウ砂を特定の比率とすることで、特許文献1で用いられているキレート化剤や湿潤浸透性界面活性剤などの有機化合物の不存在下、すなわち無機化合物のみで高濃度ホウ素化合物の水溶液を得られることが記載されている。
【0004】
しかしながら、有機化合物の不存在下で、すなわち無機化合物のみでホウ素含有量が水溶液100g当たり5.6g以上の常温で安定な水溶液を得ることは困難であった。
【0005】
【特許文献1】特開平8−73212号公報
【特許文献2】特開2005−112700号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、無機化合物のみでホウ素含有量が水溶液100g当たり5.6g以上にしても常温で安定な、木材その他の可燃性材料を防火処理するのに好適なホウ酸化合物水溶液の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は上記した課題を解決するために鋭意検討した結果、ホウ酸を溶解させる際に、特定のアルカリ金属化合物を特定比率で使用することでホウ酸の溶解度が急激に増大することを見出し本発明に到った。
すなわち、本発明は、
(1)ホウ酸を水に溶解させる際に、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、水酸化リチウム、炭酸リチウム、炭酸水素リチウムから選ばれるアルカリ金属化合物の1種又は2種以上を、ナトリウムとリチウムの合計(A)とホウ素(B)の原子比(A/B)が0.24〜0.6になるように添加することを特徴とするホウ素濃度が高いホウ酸化合物水溶液の製造方法。
(2)前記アルカリ金属化合物を添加した後、60℃〜90℃で加熱して溶解させ、次いで冷却することを特徴とする(1)記載のホウ素濃度が高いホウ酸化合物水溶液の製造方法。
(3)ホウ酸の水分散液に前記アルカリ金属化合物を添加することを特徴とする(1)又は(2)記載のホウ素濃度が高いホウ酸化合物水溶液の製造方法。
(4)(1)乃至(3)のいずれかに記載の製造方法によって得られる溶液中のホウ素含有量が水溶液100g当たり5.6g以上であることを特徴とするホウ素濃度が高いホウ酸化合物水溶液。
(5)(1)乃至(3)のいずれかに記載の製造方法によって得られる溶液中のホウ素含有量が水溶液100g当たり5.6g以上であることを特徴とする防火処理液、
を要旨とするものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の方法によって、有機化合物を使用することなくホウ素含有量が水溶液100g当たり5.6g以上であり常温で安定なホウ酸化合物水溶液を容易に得ることが可能となり、含浸量が少ない場合でも木材等のセルロースを主成分とする可燃性材料に所望する防火性能を付与することが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明のホウ酸化合物水溶液の製造方法において使用するホウ酸としては、通常、オルトホウ酸(H3BO3)を使用するが、メタホウ酸(HBO2)或いはオルトホウ酸とメタホウ酸を併用したものも使用できる。
また、本発明のアルカリ金属化合物とは水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、水酸化リチウム、炭酸リチウム、炭酸水素リチウムを意味しており(以下、「特定のアルカリ金属化合物」と称する場合がある。)、これらの中から1種又は2種以上を使用する。
【0010】
さて、本発明においては水にホウ酸を溶解させる際に、特定のアルカリ金属化合物を添加するのである。溶解方法としては、例えば、先ず、水が入れられた容器に所定量のホウ酸を分散させ、攪拌しながら水溶液中に特定のアルカリ金属化合物をナトリウムとリチウムの合計量(A)とホウ素(B)の原子比(A/B)が0.24〜0.6、好ましくは0.25〜0.5になるように徐々に添加する。添加終了後、更に一定時間攪拌することでホウ酸を溶解させて本発明のホウ酸化合物水溶液を得ることができる。この原子比が0.24未満や0.6を超えると、理由は明らかではないが常温で安定なホウ素濃度が高いホウ酸化合物水溶液、とりわけ水溶液中のホウ素含有量が水溶液100g当たり5.6g以上のホウ酸化合物水溶液を得ることはできないので好ましくない。
【0011】
なお、本発明においては常温で攪拌することも勿論可能であるが30℃〜100℃、特には60℃〜90℃に加熱して攪拌するのが好ましい。このように、加熱して攪拌することによって短時間で溶解させることができる。なお、添加終了後の攪拌時間について特に制限はなく、攪拌時の温度にも影響されるが10分〜1時間程度でよい。そして、加熱してホウ酸を溶解させた場合には、溶解後、常温まで冷却して本発明のホウ素濃度が高いホウ酸化合物水溶液を得ることができる。また、得られる水溶液のPHは6〜7となる。
【0012】
なお、本発明は水にホウ酸を高濃度で溶解させる方法及び水溶液に関するものであるが、必要に応じてホウ砂を併用することもできる。ホウ砂を添加する場合は、上述したホウ酸の溶解度を落とさない程度、すなわち水100重量部に対し20重量部以下とすることが好ましい。また、この場合は、水溶液中にホウ砂に基づくホウ素とナトリウムが存在するが、その場合であっても水溶液中のナトリウムとリチウムの合計量(A)とホウ素(B)の原子比(A/B)が0.24〜0.6、特に0.25〜0.5とすることが好ましい。なお、ホウ砂は、十水和物などの水和物であっても良いし、無水物であっても良い。
【0013】
以上述べた方法によって、キレート化剤や湿潤浸透性界面活性剤などの有機化合物を使用することなく、具体的には、60g以上のホウ酸を水100gに溶解した、とりわけ従来無機化合物だけでは達成し得なかった常温で安定な、しかも水溶液中のホウ素含有量が水溶液100g当たり5.6g以上、条件によっては6.0g以上、更には7.0g以上のホウ酸化合物水溶液を容易に提供することが可能となった。
【0014】
したがって、本発明のホウ素含有量が水溶液100g当たり5.6g以上であるホウ酸化合物水溶液は、セルロースを主成分とする可燃性材料に対する防火処理剤として好適に使用することができる。セルロースを主成分とする可燃性材料としては木材、紙、天然繊維等が挙げられ、木材としては、板状、柱状の木材や木材繊維、木材小片などが挙げられる。本発明の防火処理剤をこれら可燃性材料に噴霧、塗布、浸漬あるいは注入した後、乾燥させて防火処理をすることができる。更に、防火処理を施した木材単板を用いて防火性能に優れた合板、防火処理を施した木材繊維を用いて防火性能に優れたファイバーボード、防火処理を施した木材小片を用いて防火性能に優れたパーティクルボード等を製造することができる。
特に、フェノール系、ユリア系、メラミン系の合成樹脂接着剤を用いて、木材単板を接着したり、木材繊維や木材小片を圧縮成形して板状に形成する場合に、本発明のホウ酸化合物水溶液のPHが6〜7であるので接着剤の硬化阻害を起こさないという利点も有している。
【実施例】
【0015】
本実施例における水溶液100g当たりのホウ素含有量は、下記式により求めた。
水溶液100g当たりのホウ素含有量(g)=〔B中に含まれるホウ素量/(A+B+C)〕×100
ただし、A:水の使用量(g)、B:使用したホウ酸とホウ砂の合計量(g)、C:アルカリ金属化合物の使用量(g)
なお、アルカリ金属化合物のうち炭酸塩を使用した場合は、反応の結果、二酸化炭素が空気中に揮発すると考えられるため、添加量に以下の数値を乗じた値をCとした。
炭酸ナトリウム:0.58(62(炭酸ナトリウムの分子量−44)/106(炭酸ナトリウムの分子量))、炭酸水素ナトリウム:0.48、炭酸リチウム:0.41、炭酸カリウム:0.68
<実施例1、比較例1>
水100重量部に、表1に示す量のホウ酸を分散させ、攪拌しながら水溶液中にアルカリ金属化合物として炭酸ナトリウムを、水溶液中のナトリウムとホウ素の原子比が表1に示す値となるように徐々に添加した。添加終了後、80℃で15分間攪拌した後、23℃に冷却して水溶液を得た。
表1に、上記方法で得られた水溶液を23℃で24時間放置し、不溶物の析出がない場合に「○」、ホウ酸が不溶または24時間以内に不溶物が析出した場合に「×」としてホウ酸の溶解性を評価した結果と、水溶液中のナトリウムとホウ素の原子比を調整した際の、水溶液100g中に存在するホウ素の量(g)を示す。
【0016】
【表1】

【0017】
表1に示すように、ホウ酸が分散された液中に、炭酸ナトリウムを、ナトリウム(A)とホウ素(B)の原子比(A/B)が0.24≦A/B≦0.60になるように添加した場合には、ホウ素含有量が水溶液100g当たり5.6g以上のホウ酸化合物水溶液が得られた。また、炭酸ナトリウムを、原子比(A/B)が0.25≦A/B≦0.5となるように添加した場合、ホウ素含有量が水溶液100g当たり7.0g以上のホウ酸化合物水溶液が得られた。
得られたホウ酸化合物水溶液のPHをPH試験紙で測定したところ、実施例1に示すNa/Bの原子比が0.24〜0.25の水溶液はPHが6、原子比0.3〜0.6の水溶液はPHが7とほぼ中性であった。一方、比較例1に示す原子比0〜0.2の水溶液はPHが5、原子比0.22の水溶液はPHが6、原子比0.65〜0.75の水溶液はPHが7、原子比0.8〜1の水溶液はPHが8であった。
【0018】
<実施例2−5、比較例2−5>
水100重量部に、表2に示す量のホウ酸、ホウ砂を分散させ、攪拌しながら表2に示すアルカリ金属化合物を徐々に添加し、添加終了後80℃で15分間攪拌させた後、23℃に冷却して24時間放置し、ホウ酸の溶解性を評価した。結果を表2に示す。
【0019】
【表2】

【0020】
表2に示すように、アルカリ金属化合物として炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸リチウムを、ナトリウムとリチウムの合計(A)とホウ素(B)の原子比(A/B)が0.24≦A/B≦0.60の範囲内になるように添加した実施例2−5の場合には、ホウ素含有量が水溶液100g当たり5.6g以上のホウ酸化合物水溶液が得られた。一方、炭酸カリウムを添加した比較例4の場合には、ホウ酸が不溶であった。また、比較例5では、特許文献2に記載された方法に従ってホウ酸35gとホウ砂35gを混合して、ホウ素含有量が水溶液100g当たり5.9gとなるように試みたが、常温に冷却すると不溶物が析出した。
【0021】
<応用例>
応用例1
実施例1のホウ酸量140重量部、Na/B原子比=0.3の条件で配合したホウ酸化合物水溶液に、杉板(100mm×100mm×18mm)を浸漬し、減圧(5mmHg)1時間、常圧1時間、更に減圧1時間、常圧15時間放置して、杉板にホウ酸化合物水溶液を減圧含浸させた後、液を切って95℃で3日間乾燥した。
乾燥後の杉板の、ホウ酸化合物水溶液の含浸に伴う重量増加率が154重量%であった。
この杉板の防火性能を、ISO5660規格に準拠したコーンカロリーメーターを用いる新防火材料認定試験法に基づき、加熱開始後20分間の総発熱量と最大発熱速度の測定を行った結果、加熱開始後20分間の総発熱量は5.13MJ/m2であり、最大発熱速度は20.63kw/m2であった。そして、杉板には裏面まで貫通する亀裂もなく、不燃材料の合格基準を満たすものであった。
応用例2
実施例2のホウ酸化合物水溶液330重量部と木材チップ(篩目開き1mmパス)100重量部を混合し、木材チップにホウ酸化合物水溶液を常圧含浸させた後、木材チップを105℃で40時間乾燥した。
乾燥後の木材チップの、ホウ酸化合物水溶液の含浸に伴う重量増加率が114重量%であった。
得られた木材チップを180℃で、50kg/cm2の圧力でプレスして、厚さ9mm、比重1.0のボードを得た。このボードの防火性能を、ISO5660規格に準拠したコーンカロリーメーターを用いる新防火材料認定試験法に基づき、加熱開始後20分間の総発熱量と最大発熱速度の測定を行った結果、加熱開始後20分間の総発熱量は7.33MJ/mであり、最大発熱速度は14.85kW/mであった。そして、ボードには裏面まで貫通する亀裂もなく、不燃材料の合格基準を満たすものであった。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明に係るホウ酸化合物水溶液の製造方法によって得られるホウ酸化合物水溶液は、セルロースを主成分とする可燃性材料に対する防火処理剤として用いることができ、防火性能の高い防火材料を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホウ酸を水に溶解させる際に、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、水酸化リチウム、炭酸リチウム、炭酸水素リチウムから選ばれるアルカリ金属化合物の1種又は2種以上を、ナトリウムとリチウムの合計(A)とホウ素(B)の原子比(A/B)が0.24〜0.6になるように添加することを特徴とするホウ素濃度が高いホウ酸化合物水溶液の製造方法。
【請求項2】
前記アルカリ金属化合物を添加した後、60℃〜90℃で加熱して溶解させ、次いで冷却することを特徴とする請求項1記載のホウ素濃度が高いホウ酸化合物水溶液の製造方法。
【請求項3】
ホウ酸の水分散液に前記アルカリ金属化合物を添加することを特徴とする請求項1又は2記載のホウ素濃度が高いホウ酸化合物水溶液の製造方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の製造方法によって得られる溶液中のホウ素含有量が水溶液100g当たり5.6g以上であることを特徴とするホウ素濃度が高いホウ酸化合物水溶液の製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至3のいずれかに記載の製造方法によって得られる溶液中のホウ素含有量が水溶液100g当たり5.6g以上であることを特徴とする防火処理液。