説明

ホスファゼニウム塩の製造方法

【課題】中和処理や高沸点溶媒の除去等を必要としないホスファゼニウム塩の製造方法。
【解決手段】五ハロゲン化リンとグアニジン誘導体を反応させ、下記一般式(3)で示されるホスファゼニウム塩を製造する際に、不活性ガス雰囲気下、生成物を溶解しない溶媒を用い、不均一状態で反応を行い、反応終了後に生成物を濾過する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホスファゼニウム塩の製造方法の製造方法に関する。ホスファゼニウム塩は、有機塩基や相関移動触媒として有用な化合物である。
【背景技術】
【0002】
1,1,3,3−テトラメチルグアニジンと五塩化リンから、下記一般式
【0003】
【化1】

において、R,Rが共にメチル基で、Xが塩素原子であるホスファゼニウム塩を製造する方法が報告されている(例えば、特許文献1参照)。その製造法は、具体的には、(1)クロロベンゼンを溶媒とし、窒素雰囲気下、−30℃で懸濁させた五塩化リンに対して、8.5当量の1,1,3,3−テトラメチルグアニジンを0℃以下の温度を保持するように少しずつ添加し、さらに150℃で12時間加熱撹拌することにより、五塩化リンと1,1,3,3−テトラメチルグアニジンを反応させ、(2)反応後室温まで冷却し、ナトリウムメチラートのメタノール溶液により中和し、メタノール及びクロロベンゼンを減圧条件下に除去した残渣をジクロロメタンで抽出し、ジクロロメタンを除去することによりホスファゼニウム塩を得ている。
【0004】
しかしながらこの方法では、反応後に中和処理が必要であるばかりではなく、溶媒除去を容易とするため、ナトリウムメチラートのメタノール溶液等の特殊な中和剤を使用することや、中和後に高沸点溶媒を除去する必要がある等、不経済で煩雑な操作が必要であった。そこで簡便な操作で効率よくホスファゼニウム塩を製造する方法が望まれている。
【0005】
【特許文献1】ドイツ特許DE102006010034−A1
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記の背景技術に鑑みてなされたものであり、その目的は、反応後の生成物を濾過することにより容易に回収可能であり、中和処理や高沸点溶媒の除去等煩雑な操作を必要としない、経済的で効率的にホスファゼニウム塩を製造可能とする方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は上記目的を達成するために鋭意検討を行った結果、本発明を完成するに至った。すなわち本発明は、以下に示すとおりのホスファゼニウム塩の製造方法である。
【0008】
[1]下記一般式(1)
【0009】
【化2】

(式中、Xは塩素原子又は臭素原子を表す。)
により表される五ハロゲン化リンと下記一般式(2)
【0010】
【化3】

(式中、R,Rは各々独立して炭素数1〜10のアルキル基、無置換の若しくは置換基を有する炭素数6〜10のフェニル基又はアルキルフェニル基を表し、RとR又はR同士が互いに結合して環構造を形成していても良い。)
で表されるグアニジン誘導体を反応させ、下記一般式(3)
【0011】
【化4】

(式中、R,Rは各々独立して炭素数1〜10のアルキル基、無置換の若しくは置換基を有する炭素数6〜10のフェニル基又はアルキルフェニル基を表し、RとR又はR同士が互いに結合して環構造を形成していても良い。Xは、塩素アニオン又は臭素アニオンを表す。)
で示されるホスファゼニウム塩を製造する際に、不活性ガス雰囲気下、生成物を溶解しない溶媒を用い、不均一状態で反応を行い、反応終了後に生成物を濾過することにより分離回収することを特徴とするホスファゼニウム塩の製造方法。
【0012】
[2]上記溶媒が、トルエン又はキシレンであることを特徴とする上記[1]に記載のホスファゼニウム塩の製造方法。
【0013】
[3]上記一般式(2)及び一般式(3)中の置換基R、Rが共にメチル基であることを特徴とする上記[1]又は[2]に記載のホスファゼニウム塩の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明の方法によれば、濾過という簡便な操作により反応後の生成物を容易に回収可能であり、中和処理や高沸点溶媒の除去等煩雑な操作を必要とすることなく、経済的で効率的にホスファゼニウム塩を製造可能であるため、本発明は工業的に極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明で使用される上記一般式(1)で表される五ハロゲン化リンは、五塩化リン又は五臭化リンであって、好ましくは五塩化リンである。
【0016】
本発明において、上記一般式(2)及び一般式(3)中の置換基R、Rは各々独立して炭素数1〜10のアルキル基、無置換の若しくは置換基を有する炭素数6〜10のフェニル基又はアルキルフェニル基であり、具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、2−ブチル基、1−ペンチル基、2−ペンチル基、3−ペンチル基、2−メチル−1−ブチル基、イソペンチル基、tert−ペンチル基、3−メチル−2−ブチル基、ネオペンチル基、n−ヘキシル基、4−メチル−2−ペンチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、1−ヘプチル基、3−ヘプチル基、1−オクチル基、2−オクチル基、2−エチル−1−ヘキシル基、1,1−ジメチル−3,3−ジメチルブチル基、ノニル基、デシル基、フェニル基、4−トルイル基、ベンジル基、1−フェニルエチル基、2−フェニルエチル基等の脂肪族又は芳香族の炭化水素基が例示される。これらのうち、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、tert−ブチル基、tert−ペンチル基、1,1−ジメチル−3,3−ジメチルブチル基等の炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基が好ましく、メチル基がより好ましい。
【0017】
本発明において、上記一般式(2)及び一般式(3)中の置換基RとR、又はR同士が互いに結合して環構造を形成していても良い。そのような置換基として、例えば、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基等を挙げることができ、好ましくはテトラメチレン基である。
【0018】
本発明の上記一般式(3)で表されるホスファゼニウム塩においてXは、塩素アニオン、臭素アニオンである。
【0019】
上記一般式(3)で表されるホスファゼニウム塩は、上記一般式(1)で表される五ハロゲン化リンに、上記一般式(2)で表されるグアニジン誘導体を少なくとも4当量反応させることにより製造することができる。
【0020】
本発明で使用される上記一般式(2)で表されるグアニジン誘導体の使用量は、上記一般式(1)で表される五ハロゲン化リン1モルに対して通常は6〜20モルの範囲であり、好ましくは8〜12モルの範囲である。グアニジン誘導体の使用量が少ないと、目的のホスファゼニウム塩の生成量が大きく低下し、逆に使用量が多すぎると反応には殆ど影響はないが、不経済となる。
【0021】
本発明において、上記一般式(1)で表される五ハロゲン化リンと、上記一般式(2)で表されるグアニジン誘導体との反応に用いられる溶媒は、生成物である上記一般式(3)で表されるホスファゼニウム塩を溶解しない溶媒であればよく、特に限定するものではないが、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等が挙げられる。好ましくはトルエン又はキシレンである。これらの溶媒は、単独でも2種以上を混合して用いてもよい。また、使用される溶媒は、脱水処理を行った後に使用することが好ましい。
【0022】
本発明において、上記一般式(1)で表される五ハロゲン化リンと、上記一般式(2)で表されるグアニジン誘導体との反応に用いられる、上記溶媒の量は、上記一般式(1)で表される五ハロゲン化リン1molに対して、通常0.1L〜80Lの範囲であり、好ましくは0.5L〜40Lの範囲、より好ましくは1L〜20Lの範囲である。溶媒量が少なすぎると、温度の制御が難しくなり、副反応を引き起こす可能性があり、反対に溶媒量が多すぎると、反応後の処理が煩雑となるばかりでなく、不経済である。
【0023】
本発明において、上記一般式(1)で表される五ハロゲン化リンと、上記一般式(2)で表されるグアニジン誘導体との反応は、ヘリウム、窒素、アルゴン等の不活性ガスの雰囲気下で通常実施される。
【0024】
本発明において、上記一般式(1)で表される五ハロゲン化リンと、上記一般式(2)で表されるグアニジン誘導体との反応における反応温度は、通常−50℃〜150℃の範囲であり、好ましくは−30℃〜120℃の範囲である。反応温度が高すぎると、発熱を制御できず、副反応が起こる可能性があり、反応温度が低すぎると反応速度が低下し、反応時間が長くなる。また、五塩化リンに対するグアニジン誘導体の置換反応は、激しい発熱を伴うため、反応初期は0℃以下の温度で実施することが望ましい。反応温度が0℃より高くなると、副反応などによる収率低下の可能性がある。一方、反応の後半では反応生成物の立体障害により、置換反応が極端に遅くなるため、反応速度を高めるため反応温度を50℃以上にすることが望ましい。後半の反応温度が低いと反応時間が非常に長くなり、生産性が大きく低下する。従って、反応温度は反応の前半と後半の二段階で制御することが好ましい。
【0025】
本発明の方法における反応圧力は、減圧、常圧及び加圧の何れでも実施し得るが、好ましくは0.01〜1MPaであり、より好ましくは0.05〜0.3MPaの範囲である。
【0026】
本発明の方法における反応時間は、反応温度や反応系の状態等によって一様ではないが、通常1分〜48時間の範囲であり、好ましくは1分〜24時間、より好ましくは5分〜10時間の範囲である。
【0027】
本発明の方法では、上記一般式(1)で表される五ハロゲン化リンと、上記一般式(2)で表されるグアニジン誘導体との反応生成物は、溶媒に不溶であり、濾過により簡便に分離される。得られる濾過残渣には、目的のホスファゼニウム塩以外に、反応により副生したグアニジン誘導体のハロゲン化水素塩及び副生するホスフィンオキサイドが含まれるが、溶媒による洗浄や抽出等通常の後処理を行うことにより、濾過残渣から目的とするホスファゼニウム塩を精製することができる。
【実施例】
【0028】
次に実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。なお、以下の実施例においては、NMRスペクトル、GC−MSを以下のとおり測定した。
【0029】
NMRスペクトルの測定:
核磁気共鳴スペクトル測定装置(日本電子製、商品名:GSX270WB)を用い、内部標準にテトラメチルシラン(TMS)及び重溶媒に重クロロホルムを用い測定した。
【0030】
GC−MSの測定:
ガスクロマトグラフィー−質量分析装置(日本電子製、商品名:JMS−700)を用い、イオン化モードとしてFAB+を用いて測定を行った。
【0031】
実施例1.
テトラキス(テトラメチルグアニジノ)ホスフォニウムクロライド:[(MeN)C=N] Cl(式中、Meはメチル基を表す。以下同様)を以下のとおり合成した。
【0032】
温度計、滴下ロート、冷却管及びテフロン(登録商標)製撹拌翼を付した300mlの4つ口フラスコに窒素雰囲気下で五塩化リン4.01g(20.0mmol)を採った。以後の操作はすべて窒素雰囲気下で行った。60mlの脱水トルエン(和光純薬製)を加えてスラリー溶液とした。このスラリー溶液をドライアイス−アセトンにて−30℃に冷却したクーリングバスにつけて内温を−30℃とした後、強撹拌下に1,1,3,3−テトラメチルグアニジン22.2g(190mmol)を滴下ロートから1時間かけて滴下した。反応液中には多量の白色スラリーが生成していた。そのまま−30℃で1時間撹拌した後、クーリングバスをはずして室温までゆっくり昇温した。更にこのスラリー溶液を100℃で20時間加熱して白色のスラリー溶液を得た。室温まで冷却した後、白色スラリーを濾過した。
【0033】
濾過残渣をアセトン100mlで洗浄し、アセトン溶液を濃縮することにより、テトラキス(テトラメチルグアニジノ)ホスフォニウムクロリド:[(MeN)C=N] Clを9.6gの白色粉体として得た。H−NMRより求めた純度は82%であり、収率は80.4%であった。
【0034】
生成物は、H−NMR、GC−MS、元素分析により同定した。
【0035】
H−NMR(重溶媒:CDCl,内部標準:テトラメチルシラン):
化学シフト:2.83ppm(ホスファゼニウム塩由来のメチル基)。
【0036】
GC−MS(FAB+)測定結果:
m/z=487(テトラキス(テトラメチルグアニジノ)ホスフォニウムカチオンの分子量に一致。)。
【0037】
実施例2.
温度計、滴下ロート、冷却管及びテフロン(登録商標)製撹拌翼を付した300mlの4つ口フラスコに窒素雰囲気下で五塩化リン4.01g(20.0mmol)を採った。以後の操作はすべて窒素雰囲気下で行った。60mlの脱水トルエン(和光純薬製)を加えてスラリー溶液とした。このスラリー溶液をドライアイス−アセトンにて−30℃に冷却したクーリングバスにつけて内温を−30℃とした後、強撹拌下に1,1,2,2−テトラメチルグアニジン33.3g(285mmol)を滴下ロートから1時間かけて滴下した。反応液中には多量の白色スラリーが生成していた。のそのまま−30℃で1時間撹拌した後、クーリングバスをはずして室温までゆっくり昇温した。更にこのスラリー溶液を100℃で20時間加熱して白色のスラリー溶液を得た。室温まで冷却した後、白色スラリーを濾過した。
【0038】
濾過残渣をアセトン100mlで洗浄し、アセトン溶液を濃縮することにより、テトラキス(テトラメチルグアニジノ)ホスフォニウムクロリド:[(MeN)C=N] Clを9.8gの白色粉体として得た。H−NMRより求めた純度は74%であり、収率は76.6%であった。
【0039】
比較例.
温度計、滴下ロート、冷却管及び磁気回転子を付した300mlの4つ口フラスコに窒素雰囲気下で五塩化リン4.01g(20.0mmol)を採った。クロロベンゼン(40ml)を加え、クーリングバスにて内温を−30℃に冷却し、−30℃で攪拌されているクロロベンゼン懸濁液に、乾燥窒素雰囲気下に、1,1,3,3−テトラメチルグアニジン18.8g(163.5mmol)を少量ずつ、0℃未満の反応温度が維持されるように加えた。発熱反応が終了した後に、反応混合物を室温にし、次いで、浴温度150℃で12時間保持した。引き続き、室温に冷却し得られた反応混合物は均一溶液であった。
【0040】
続いて、反応混合物を氷で冷却した。次いで、反応混合物にナトリウムメタノラート4.15g(77.0mmol)の30%メタノール(13.8g)溶液を滴加したが、この際、20℃未満の温度を保持した。引き続き、揮発性成分を、メタノール、クロロベンゼン及び1,1,3,3−テトラメチルグアニジンの混合物の形態で、真空下に乾燥するまで留去した。
【0041】
残渣を塩化メチレン60mlに溶かし、塩化ナトリウム存在下で濾過し、引き続き、溶媒を真空下に蒸発させた。クロロホスファゼニウム塩を淡黄色の固体として9.0g(収率:73%)、純度85%で得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)
【化1】

(式中、Xは塩素原子又は臭素原子を表す。)
により表される五ハロゲン化リンと下記一般式(2)
【化2】

(式中、R,Rは各々独立して炭素数1〜10のアルキル基、無置換の若しくは置換基を有する炭素数6〜10のフェニル基又はアルキルフェニル基を表し、RとR又はR同士が互いに結合して環構造を形成していても良い。)
で表されるグアニジン誘導体を反応させ、下記一般式(3)
【化3】

(式中、R,Rは各々独立して炭素数1〜10のアルキル基、無置換の若しくは置換基を有する炭素数6〜10のフェニル基又はアルキルフェニル基を表し、RとR又はR同士が互いに結合して環構造を形成していても良い。Xは、塩素アニオン又は臭素アニオンを表す。)
で示されるホスファゼニウム塩を製造する際に、不活性ガス雰囲気下、生成物を溶解しない溶媒を用い、不均一状態で反応を行い、反応終了後に生成物を濾過することにより分離回収することを特徴とするホスファゼニウム塩の製造方法。
【請求項2】
溶媒が、トルエン又はキシレンであることを特徴とする請求項1に記載のホスファゼニウム塩の製造方法。
【請求項3】
一般式(2)及び一般式(3)中の置換基R、Rが共にメチル基であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のホスファゼニウム塩の製造方法。

【公開番号】特開2010−116378(P2010−116378A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−292619(P2008−292619)
【出願日】平成20年11月14日(2008.11.14)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】