説明

ホスホン酸ジエステル誘導体の製造方法

【課題】容易に入手可能であり、取り扱い易い原料を用いて、種々のホスホン酸ジエステル誘導体の効率的な製造方法を提供する。
【解決手段】銅触媒を用いて、下記一般式(I)、


(式中、RおよびRはそれぞれ独立に、分岐を有してもよい炭素原子数1〜20のアルキル基等を表し、RおよびRが結合して炭素原子数1〜10の置換されていてもよい環状アセタール構造を形成してもよい。)で表されるホスホン酸ジエステルからカルボン酸、アミン類、アルコール類、チオール類およびセレノール類から選ばれる1種以上とを酸化カップリング反応させて、ホスホン酸ジエステル誘導体を合成することを特徴とするホスホン酸ジエステル誘導体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はホスホン酸ジエステル誘導体の製造方法に関し、詳しくは、取り扱い易く安全な原料を用いた、効率的なホスホン酸ジエステル誘導体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
機能性リン化合物、特に、ホスホン酸ジエステル誘導体は、カップリング剤、難燃剤、不斉触媒の配位子、医薬品合成の中間体として有用な化合物である。一般的にこれらの化合物は、三塩化リンなどのリンハライド化合物を原料として用いることにより合成されてきた(非特許文献1〜10参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Michalski,J. et al. Bull.Acad.Polon.Sci.,Ser.Sci.Chim.13,253(1965)
【非特許文献2】Kinas,R.W. et al. Tetrahedron Lett.43,7875(2002)
【非特許文献3】Stec,W.J. et al. Bull.Acad.Polon.Sci.,Ser.Sci.Chim.18,23(1970)
【非特許文献4】Nycz,J.E.and Musiol,R. Heteroatom Chem.17,310(2006)
【非特許文献5】Baudler,M.Z. Naturforsch.8,326(1953)
【非特許文献6】Suzuki,N. et al. Bull.Chem.Soc.Jpn.53,1421(1980)
【非特許文献7】Butsugan,Y. et al. Bull.Chem.Soc.Jpn.61,1707(1988)
【非特許文献8】Jaszay,Z.M. et al. Heteroatom Chem.15,447(2004)
【非特許文献9】Wadsworth,W.S. J.Org.Chem.52,1748(1987)
【非特許文献10】Makowiec,S.and Rachon,J. Phosphorus,Sulfur Silicon Relat.Elem.177,941(2002)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、リンハライド化合物は、毒性が高く、取り扱いには細心の注意を払う必要があった。従って、環境負荷が小さく、安全な合成法の開発が望まれていた。また、リンハライド化合物を用いた反応では、収率や生成物の選択性の点で改善の余地があった。
【0005】
そこで本発明の目的は、容易に入手可能であり、取り扱い易い原料を用いて、種々のホスホン酸ジエステル誘導体の効率的な製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、リン水素化合物に対して、銅触媒を用いることにより、効率良くホスホン酸ジエステル誘導体を合成することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明のホスホン酸ジエステル誘導体の製造方法は、銅触媒を用いて、下記一般式(I)、

(式中、RおよびRはそれぞれ独立に、分岐を有してもよい炭素原子数1〜20のアルキル基、置換されていてもよい炭素原子数6〜20のアリール基またはアリールアルキル基を表し、RおよびRが結合して、置換されていてもよい炭素原子数1〜10の環状アセタール構造を形成してもよい。)で表されるホスホン酸ジエステルから、下記一般式(II)、

(式中、RおよびRは式(I)と同様のものを表し、nは1または2を表し、Aは、nが1のときは−O−C(=O)−R、−NR、−OR、−SR、または、−SeRを表し、nが2のときは単結合または−O−を表す。但し、R〜Rはそれぞれ独立に、分岐を有してもよい炭素原子数1〜20のアルキル基、置換されていてもよい炭素原子数6〜20のアリール基またはアリールアルキル基を表し、R、Rのいずれかが水素原子であってもよい。)で表されるホスホン酸ジエステル誘導体を合成することを特徴とするものである。
【0008】
本発明のホスホン酸ジエステル誘導体の製造方法は、前記一般式(I)で表されるホスホン酸ジエステルに、さらに、カルボン酸、アミン類、アルコール類、チオール類およびセレノール類から選ばれる1種以上を加えることが好ましい。
【0009】
また、本発明のホスホン酸ジエステル誘導体の製造方法は、前記一般式(I)で表されるホスホン酸ジエステルに、カルボン酸を加えて、下記一般式(III)、

(式中、RおよびRは式(I)と同様のものを表し、Rは式(II)と同様のものを表す。)で表されるホスホン酸ジエステル誘導体を合成することが好ましい。
【0010】
また、本発明のホスホン酸ジエステル誘導体の製造方法は、前記一般式(I)で表されるホスホン酸ジエステルに、アミン類を加えて、下記一般式(IV)、

(式中、RおよびRは式(I)と同様のものを表し、RおよびRはそれぞれ独立に、式(II)と同様のものを表す。)で表されるホスホン酸ジエステル誘導体を合成することが好ましい。
【0011】
また、本発明のホスホン酸ジエステル誘導体の製造方法は、前記一般式(I)で表されるホスホン酸ジエステルに、アルコール類を加えて、下記一般式(V)、

(式中、RおよびRは式(I)と同様のものを表し、Rは式(II)と同様のものを表す。)で表されるホスホン酸ジエステル誘導体を合成することが好ましい。
【0012】
また、本発明のホスホン酸ジエステル誘導体の製造方法は、前記一般式(I)で表されるホスホン酸ジエステルに、チオール類を加えて、下記一般式(VI)、

(式中、RおよびRは式(I)と同様のものを表し、Rは式(II)と同様のものを表す。)で表されるホスホン酸ジエステル誘導体を合成することが好ましい。
【0013】
また、本発明のホスホン酸ジエステル誘導体の製造方法は、前記一般式(I)で表されるホスホン酸ジエステルに、セレノール類を加えて、下記一般式(VII)、

(式中、RおよびRは式(I)と同様のものを表し、Rは式(II)と同様のものを表す。)で表されるホスホン酸ジエステル誘導体を合成することが好ましい。
【0014】
また、本発明のホスホン酸ジエステル誘導体の製造方法においては、前記銅触媒として、Cu(OAc)、CuCl、CuBr、Cu(NO、CuSO、Cu(COCF、Cu(OH)、CuCl、CuBr、CuIおよびCuOAcからなる群から選ばれる1種以上の銅化合物を好適に用いることができる。
【0015】
また、本発明のホスホン酸ジエステル誘導体の製造方法においては、前記銅触媒として、前記銅化合物とアミンとからなる触媒を好適に用いることができる。
【0016】
また、本発明のホスホン酸ジエステル誘導体の製造方法は、空気雰囲気下、前記一般式(I)で表されるホスホン酸ジエステルを反応させることが好ましい。
【0017】
また、本発明のホスホン酸ジエステル誘導体の製造方法は、下記一般式(I)、

(式中、RおよびRはそれぞれ独立に、分岐を有してもよい炭素原子数1〜20のアルキル基、置換されていてもよい炭素原子数6〜20のアリール基またはアリールアルキル基を表す。RおよびRが結合して置換されていてもよい炭素原子数1〜10の環状アセタール構造を形成してもよい。)で表されるホスホン酸ジエステルを、または、該ホスホン酸ジエステルと、カルボン酸、アミン類、アルコール類、チオール類およびセレノール類から選ばれる1種以上とを酸化カップリング反応させて、下記一般式(II)、

(式中、RおよびRは式(I)と同様のものを表し、nは1または2を表し、Aは、nが1のときは−O−C(=O)−R、−NR、−OR、−SR、または、−SeRで表される構造を有し、nが2のときは単結合または−O−を表す。但し、R〜Rはそれぞれ独立に、分岐を有してもよい炭素原子数1〜20のアルキル基、置換されていてもよい炭素原子数6〜20のアリール基またはアリールアルキル基を表し、R、Rのいずれかが水素原子であってもよい。)で表されるホスホン酸ジエステル誘導体を合成する方法であって、触媒として銅化合物を用いることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、容易に入手可能であり、取り扱い易い原料を用いて、種々のホスホン酸ジエステル誘導体の効率的な製造方法を提供することが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(原料化合物)
本発明のホスホン酸ジエステル誘導体の製造方法は、原料として、下記一般式(I)、

(式中、RおよびRはそれぞれ独立に、分岐を有してもよい炭素原子数1〜20のアルキル基、置換されていてもよい炭素原子数6〜20のアリール基またはアリールアルキル基を表し、RおよびRが結合して置換されていてもよい炭素原子数1〜10の環状アセタール構造を形成してもよい。)で表されるホスホン酸ジエステルを用いる。
【0020】
上記一般式(I)のRおよびRが表す、分岐を有してもよい炭素原子数1〜20のアルキル基としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、第二ブチル、第三ブチル、ペンチル、第三ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、2−エチルヘキシル、第三オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、オクタデシル、ノナデシル、イコシル等を挙げることができる。好ましくは炭素原子数2〜12のアルキル基である。
【0021】
上記一般式(I)のRおよびRが表す炭素原子数6〜20のアリール基としては、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基等を挙げることができる。上記アリール基は、炭素原子数1〜5のアルキル基、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素などのハロゲン原子等で置換されていてもよい。
【0022】
上記一般式(I)のRおよびRが表す炭素原子数6〜20のアリールアルキル基としては、ベンジル基、2−フェニルエチル基、3−フェニルプロピル基等を挙げることができる。上記アリールアルキル基は、炭素原子数1〜5のアルキル基、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素などのハロゲン原子等で置換されていてもよい。
【0023】
上記一般式(I)において、RおよびRは結合して、アセトニドや、−O−CHC(CHCH−O−といった式で表されるような、環状アセタール構造を取ることもできる。
【0024】
(銅化合物)
本発明のホスホン酸ジエステル誘導体の製造方法は、触媒として銅化合物を用いる。銅化合物中の銅は1価であっても2価であってもよい。銅化合物の具体例としては、CuCl、CuBr、CuCl、CuBr、CuI等のハロゲン化銅、CuO、CuOで表される酸化銅、CuOで表される過酸化銅、Cu(OH)で表される水酸化銅、Cu(OAc)、CuOAcで表される酢酸銅、CuSOで表される硫酸銅、Cu(NOで表される硝酸銅、CuCOで表される炭酸銅、Cu(COCFで表されるトリフルオロ酢酸銅などの1価または2価の銅塩が挙げられる。
本発明に係る製造方法において、銅化合物からなる触媒の使用量としては、好ましくは、一般式(I)で表される化合物に対して0.01モル%〜30モル%である。
【0025】
(アミン配位子)
また、本発明に係る方法においては、上記銅化合物からなる触媒に加えて、配位子としてアミン化合物を用いることが好ましい。アミン化合物は、銅触媒の配位子として用いられているものであればいずれでもよい。アミン化合物としては、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン(EtN)、ジイソプロピルアミン、N−メチルブチルアミン、N−メチルt−ブチルアミン、(t−BuNHCH、テトラメチルエチレンジアミン(TMEDA)、テトラエチルエチレンジアミン(TEEDA)、テトラメチル−1,3−プロパンジアミン、テトラメチルジエチレントリアミン(TMEDTA)、ペンタメチルジエチレントリアミン(PMDT)、ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン(DABACO)、ヘキサメチルホスホリックトリアミド(HMPA)等の2級または3級のアルキルアミン、ジメチルアニリン、ジエチルアニリン等のN−アルキルアニリン、ピリジン、2,2’−ビピリジン(2,2’-bipyridyl)等のピリジン化合物等を挙げることができる。
上記のアミン化合物のうち、好ましいアミンとしては、トリエチルアミン、ジイソプロピルアミン、(t−BuNHCH、2,2’−ビピリジン、TMEDA、TEEDAを挙げることができる。
配位子としてアミンを用いる場合、好ましい使用量としては、銅化合物に対して0.5〜200倍モル当量、より好ましくは2〜200倍モル当量である。
【0026】
(生成物)
本発明は、銅触媒を用いて、上記式(I)で表される化合物から、下記一般式(II)、

(式中、RおよびRは式(I)と同様のものを表し、nは1または2を表し、Aは、nが1のときは−O−C(=O)−R、−NR、−OR、−SR、または、−SeRを表し、nが2のときは単結合または−O−を表す。但し、R〜Rはそれぞれ独立に、分岐を有してもよい炭素原子数1〜20のアルキル基、置換されていてもよい炭素原子数6〜20のアリール基またはアリールアルキル基を表し、R、Rのいずれかが水素原子であってもよい。)で表されるホスホン酸ジエステル誘導体を合成する方法である。
【0027】
上記一般式(II)において、R〜Rが表すアルキル基、アリール基、アリールアルキル基としては、上記した一般式(I)において例示したものと同様のものを挙げることができる。
【0028】
上記一般式(II)において、n=2の化合物とは、下記式(VIII)、

または、下記式(IX)、

で表される化合物である。上記式(VIII)および(IX)中、RおよびRは上記一般式(I)と同様のものを表す。
【0029】
また、上記一般式(II)において、n=1の化合物とは、
下記一般式(III)、

下記一般式(IV)、

下記一般式(V)、

下記一般式(VI)、

または、下記一般式(VII)、

で表される化合物である。上記式(III)〜(VII)中、RおよびRは上記一般式(I)と同様のものを表し、R〜Rは上記一般式(II)と同様のものを表す。
【0030】
上記一般式(II)で表される化合物、つまり、上記一般式(III)〜(IX)のいずれかで表されるホスホン酸ジエステル誘導体は、いずれも、一般式(I)で表される化合物から上記銅触媒を用いて合成することができる。
【0031】
上記一般式(III)で表される化合物は、一般式(I)で表される化合物とカルボン酸とを銅触媒の存在下、反応させることにより得られる。
本発明において用いられるカルボン酸としては、いずれでもよいが、好ましくは、酢酸、プロパン酸、ブタン酸等の、分岐を有してもよい炭素原子数1〜20の、より好ましくは炭素原子数1〜10の、脂肪族カルボン酸;安息香酸、トルイル酸等の、アルキル置換基を有してもよい炭素原子数7〜20の、より好ましくは炭素原子数7〜10の、芳香族カルボン酸である。
カルボン酸の使用量は、好ましくは、一般式(I)で表される化合物に対して、0.5〜10倍モル当量である。
【0032】
上記一般式(IV)で表される化合物は、一般式(I)で表される化合物とアミン類とを銅触媒の存在下、反応させることにより得られる。
上記一般式(I)の化合物と反応させるために用いられるアミン類としては、いずれでもよいが、好ましくは、メチルアミン、エチルアミン、ブチルアミン、ペンチルアミン等の、分岐を有してもよい炭素原子数1〜20の、より好ましくは炭素原子数1〜10の、アルキル基を有する1級のアルキルアミン;アニリン、トルイジン等の、アルキル置換基を有してもよい炭素原子数6〜20の、より好ましくは6〜10の、1級の芳香族アミンである。
アミン類の使用量は、好ましくは、一般式(I)で表される化合物に対して、0.5〜10倍モル当量である。
【0033】
上記一般式(V)で表される化合物は、一般式(I)で表される化合物とアルコール類とを銅触媒の存在下、反応させることにより得られる。
本発明において用いられるアルコール類としては、いずれでもよいが、好ましくは、メタノール、エタノール、ブタノール等の、分岐を有してもよい炭素原子数1〜20の、より好ましくは炭素原子数1〜10の、アルキルアルコール;フェノール、クレゾール等の、アルキル置換基を有してもよい炭素原子数6〜20の、より好ましくは炭素原子数6〜10の、フェノール類である。
アルコール類の使用量は、好ましくは、一般式(I)で表される化合物に対して、0.5〜10倍モル当量である。
【0034】
上記一般式(VI)で表される化合物は、一般式(I)で表される化合物とチオール類とを銅触媒の存在下、反応させることにより得られる。
本発明において用いられるチオール類としては、いずれでもよいが、好ましくは、メタンチオール、エタンチオール、ブタンチオール等の、分岐を有してもよい炭素原子数1〜20の、より好ましくは炭素原子数1〜10の、アルカンチオール;ベンゼンチオール、メチルベンゼンチオール等の、アルキル置換基を有してもよい炭素原子数6〜20の、より好ましくは炭素原子数6〜10の、芳香族チオールである。
チオール類の使用量は、好ましくは、一般式(I)で表される化合物に対して、0.5〜10倍モル当量である。
【0035】
上記一般式(VII)で表される化合物は、一般式(I)で表される化合物とセレノール類とを銅触媒の存在下、反応させることにより得られる。
本発明において用いられるセレノール類としては、いずれでもよいが、好ましくは、メタンセレノール、エタンセレノール、ブタンセレノール等の、分岐を有してもよい炭素原子数1〜20の、より好ましくは炭素原子数1〜10の、アルキルセレノール;ベンゼンセレノール、メチルベンゼンセレノール等の、アルキル置換基を有してもよい炭素原子数6〜20の、より好ましくは炭素原子数6〜10の、芳香族セレノールである。
セレノール類の使用量は、好ましくは、一般式(I)で表される化合物に対して、0.5〜10倍モル当量である。
【0036】
(反応条件)
本発明のホスホン酸ジエステル誘導体の製造方法においては、溶媒を用いても用いなくてもよい。溶媒としてはTHF、アセトンなど公知のものを制限無く使用することができる。また、反応温度についても特に制限はなく、室温下においても十分に反応を進めることができる。
本発明においては、反応を空気雰囲気下で行うことが好ましい。空気雰囲気下で反応を行うために、空気に曝露した溶液中で反応を行ってもよく、反応系に空気を吹き込んでもよい。空気の代わりに酸素雰囲気下で反応を行ってもよい。また、反応系に水を加えても加えなくてもよいが、反応系に水を加えると反応がある程度阻害される場合があるため、反応系に水を加えないことが好ましい。
本発明のホスホン酸ジエステル誘導体の製造方法においては、上記したように銅化合物、アミンの種類や量について制限はないが、特に、銅化合物とアミンについて以下のいずれかの条件を満たすと、一般式(VIII)で表される化合物を高選択的に合成できるので好ましい。
[1]Cu(OAc)を一般式(I)で表される化合物に対して実質的に等モル当量(一般式(I)で表される化合物に対して0.9〜1.1倍モル当量)用いる。
[2]Cu(OAc)、Cu(NO、CuSO、Cu(COCF、CuCl、CuBrまたはCuOAcを一般式(I)で表される化合物に対して2〜5モル%用い、EtNを大量に(一般式(I)で表される化合物に対して400モル%程度、即ち350〜450モル%)用いる。
[3]CuClまたはCuBrを一般式(I)で表される化合物に対して8〜13モル%用い、TEEDAを一般式(I)で表される化合物に対して15〜25モル%用いる。
また、銅化合物とアミンについて以下のいずれかの条件を満たすと、一般式(IX)で表される化合物を高選択的に合成できるので好ましい。
[4]CuBrを一般式(I)で表される化合物に対して0.1〜5モル%用い、TMEDAを一般式(I)で表される化合物に対して5〜15モル%用いる。
【実施例】
【0037】
(実施例1)
(i−PrO)P(O)H(10mmol)とCu(OAc)(10mmol)をTHF10mL中、70℃で4時間加熱したところ、[(i−PrO)P(O)]が5mmol得られた。反応は下記式で表すことができる。

i−Pr:イソプロピル基
【0038】
(実施例2〜6)
実施例1と同様の条件で、一般式(I)中のRおよびRが下記表1に示すように異なる基質:
(RO)(RO)P(O)Hを用いて、反応を行った。一般式(VIII)で表される化合物の収率を下記表1に示す。

【0039】
【表1】

【0040】
(実施例7〜29)
下記表2、表3に示すように、アミンと銅化合物とからなる触媒を用いて、
(i−PrO)P(O)Hから、下記化合物(A)または(B)を合成した。反応温度は25℃、反応は空気雰囲気下で行った。すなわち、室温下、空気に触れうる状態で、銅触媒とアミン配位子を混合した後、(i−PrO)P(O)Hを加えた。生成物は、ガスクロマトグラフィーより同定した。下記表中、銅化合物およびアミン配位子の量は、(i−PrO)P(O)Hに対するモル%である。溶媒の濃度(M)は、反応系全体に対する濃度である。
【0041】
【表2】

【0042】
【表3】

※1:テトラメチルエチレンジアミン
※2:テトラエチルエチレンジアミン
※3:下記化合物(A)の収率/下記化合物(B)の収率
【0043】


i−Pr:イソプロピル基
【0044】
(実施例30〜34)
実施例8と同様の条件(銅化合物:Cu(OAc) 2モル%、アミン配位子:EtN400モル%、温度25℃、反応時間4時間)で、一般式(I)中のRおよびRが下記表4に示すように異なる基質:
(RO)(RO)P(O)Hを用いて下記一般式(VIII)で表される化合物をそれぞれ合成した。結果を下記表4に示す。

【0045】
【表4】

【0046】
(実施例35〜39)
実施例29と同様の条件(銅化合物:CuBr 1モル%、アミン配位子:TMEDA 10モル%、アセトン1M、温度25℃、反応時間20時間)で、一般式(I)中のRおよびRが下記表5に示すように異なる基質:
(RO)(RO)P(O)Hを用いて一般式(IX)で表される化合物をそれぞれ合成した。結果を下記表5に示す。

【0047】
【表5】

【0048】
(実施例40)
実施例29と同様の条件(銅化合物:CuBr 1モル%、アミン配位子:TMEDA 10モル%、アセトン1M、温度25℃、反応時間20時間)で、(i−PrO)P(O)Hを等量の酢酸の存在下で反応させたところ、
(i−PrO)P(O)OC(O)CHが87%の収率で得られた。反応は下記式で表すことができる。

【0049】
(実施例41)
実施例29と同様の条件(銅化合物:CuBr 1モル%、アミン配位子:TMEDA 10モル%、アセトン1M、温度25℃、反応時間20時間)で、(i−PrO)P(O)Hを等量のブチルアミンの存在下で反応させたところ、
(i−PrO)P(O)NHBuが95%の収率で得られた。反応は下記式で表すことができる。


【0050】
(実施例42)
実施例29と同様の条件(銅化合物:CuBr 1モル%、アミン配位子:TMEDA 10モル%、アセトン1M、温度25℃、反応時間20時間)で、(i−PrO)P(O)Hを等量のフェノールの存在下で反応させたところ、
(i−PrO)P(O)OPhが92%の収率で得られた。反応は下記式で表すことができる。

【0051】
(実施例43)
実施例29と同様の条件(銅化合物:CuBr 1モル%、アミン配位子:TMEDA 10モル%、アセトン1M、温度25℃、反応時間20時間)で、(i−PrO)P(O)Hを等量のベンゼンチオールの存在下で反応させたところ、
(i−PrO)P(O)SPhが92%の収率で得られた。反応は下記式で表すことができる。

【0052】
(実施例44)
実施例29と同様の条件(銅化合物:CuBr 1モル%、アミン配位子:TMEDA 10モル%、アセトン1M、温度25℃、反応時間20時間)で、(i−PrO)P(O)Hを等量のベンゼンセレノールの存在下で反応させたところ、
(i−PrO)P(O)SePhが92%の収率で得られた。反応は下記式で表すことができる。

【0053】
上記実施例1〜39の結果から、上記一般式(I)で表される化合物を、銅化合物からなる触媒の存在下、反応させることにより、収率良く一般式(II)で表される化合物が得られることが確認できた。
また、実施例40〜44の結果から、上記一般式(I)で表される化合物と、カルボン酸、アミン類、アルコール類、チオール類またはセレノール類とを銅化合物の存在下で反応させることにより、収率良く一般式(II)で表される化合物が得られることが確認できた。
なお、銅化合物を用いない場合、反応は殆ど進まなかった。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明のホスホン酸ジエステル誘導体の製造方法により、産業上有用な化合物であるホスホン酸ジエステル誘導体を、容易に入手可能であり、取り扱い易い原料を用いて、効率良く合成することが可能になった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅触媒を用いて、下記一般式(I)、

(式中、RおよびRはそれぞれ独立に、分岐を有してもよい炭素原子数1〜20のアルキル基、置換されていてもよい炭素原子数6〜20のアリール基またはアリールアルキル基を表し、RおよびRが結合して、置換されていてもよい炭素原子数1〜10の環状アセタール構造を形成してもよい。)で表されるホスホン酸ジエステルから、下記一般式(II)、

(式中、RおよびRは式(I)と同様のものを表し、nは1または2を表し、Aは、nが1のときは−O−C(=O)−R、−NR、−OR、−SR、または、−SeRを表し、nが2のときは単結合または−O−を表す。但し、R〜Rはそれぞれ独立に、分岐を有してもよい炭素原子数1〜20のアルキル基、置換されていてもよい炭素原子数6〜20のアリール基またはアリールアルキル基を表し、R、Rのいずれかが水素原子であってもよい。)で表されるホスホン酸ジエステル誘導体を合成することを特徴とするホスホン酸ジエステル誘導体の製造方法。
【請求項2】
前記一般式(I)で表されるホスホン酸ジエステルに、さらに、カルボン酸、アミン類、アルコール類、チオール類およびセレノール類から選ばれる1種以上を加える請求項1記載のホスホン酸ジエステル誘導体の製造方法。
【請求項3】
前記一般式(I)で表されるホスホン酸ジエステルに、カルボン酸を加えて、下記一般式(III)、

(式中、RおよびRは式(I)と同様のものを表し、Rは式(II)と同様のものを表す。)で表されるホスホン酸ジエステル誘導体を合成する請求項2記載のホスホン酸ジエステル誘導体の製造方法。
【請求項4】
前記一般式(I)で表されるホスホン酸ジエステルに、アミン類を加えて、下記一般式(IV)、

(式中、RおよびRは式(I)と同様のものを表し、RおよびRはそれぞれ独立に、式(II)と同様のものを表す。)で表されるホスホン酸ジエステル誘導体を合成する請求項2記載のホスホン酸ジエステル誘導体の製造方法。
【請求項5】
前記一般式(I)で表されるホスホン酸ジエステルに、アルコール類を加えて、下記一般式(V)、

(式中、RおよびRは式(I)と同様のものを表し、Rは式(II)と同様のものを表す。)で表されるホスホン酸ジエステル誘導体を合成する請求項2記載のホスホン酸ジエステル誘導体の製造方法。
【請求項6】
前記一般式(I)で表されるホスホン酸ジエステルに、チオール類を加えて、下記一般式(VI)、

(式中、RおよびRは式(I)と同様のものを表し、Rは式(II)と同様のものを表す。)で表されるホスホン酸ジエステル誘導体を合成する請求項2記載のホスホン酸ジエステル誘導体の製造方法。
【請求項7】
前記一般式(I)で表されるホスホン酸ジエステルに、セレノール類を加えて、下記一般式(VII)、

(式中、RおよびRは式(I)と同様のものを表し、Rは式(II)と同様のものを表す。)で表されるホスホン酸ジエステル誘導体を合成する請求項2記載のホスホン酸ジエステル誘導体の製造方法。
【請求項8】
前記銅触媒が、Cu(OAc)、CuCl、CuBr、Cu(NO、CuSO、Cu(COCF、Cu(OH)、CuCl、CuBr、CuIおよびCuOAcからなる群から選ばれる1種以上の銅化合物である請求項1〜7のうちいずれか一項記載のホスホン酸ジエステル誘導体の製造方法。
【請求項9】
前記銅触媒が、前記銅化合物とアミンとからなる触媒である請求項8記載のホスホン酸ジエステル誘導体の製造方法。
【請求項10】
空気雰囲気下、前記一般式(I)で表されるホスホン酸ジエステルを反応させる請求項1〜9のうちいずれか一項記載のホスホン酸ジエステル誘導体の製造方法。
【請求項11】
下記一般式(I)、

(式中、RおよびRはそれぞれ独立に、分岐を有してもよい炭素原子数1〜20のアルキル基、置換されていてもよい炭素原子数6〜20のアリール基またはアリールアルキル基を表す。RおよびRが結合して置換されていてもよい炭素原子数1〜10の環状アセタール構造を形成してもよい。)で表されるホスホン酸ジエステルを、または、該ホスホン酸ジエステルと、カルボン酸、アミン類、アルコール類、チオール類およびセレノール類から選ばれる1種以上とを酸化カップリング反応させて、下記一般式(II)、

(式中、RおよびRは式(I)と同様のものを表し、nは1または2を表し、Aは、nが1のときは−O−C(=O)−R、−NR、−OR、−SR、または、−SeRで表される構造を有し、nが2のときは単結合または−O−を表す。但し、R〜Rはそれぞれ独立に、分岐を有してもよい炭素原子数1〜20のアルキル基、置換されていてもよい炭素原子数6〜20のアリール基またはアリールアルキル基を表し、R、Rのいずれかが水素原子であってもよい。)で表されるホスホン酸ジエステル誘導体を合成する方法であって、触媒として銅化合物を用いることを特徴とするホスホン酸ジエステル誘導体の合成方法。

【公開番号】特開2011−231075(P2011−231075A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−104728(P2010−104728)
【出願日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】