説明

ホタテガイ貝殻又はその抽出物からなる脂肪分解促進剤

【課題】廃棄物であるホタテガイ貝殻中の体脂肪分解成分を有効利用する。
【解決手段】AIN93標準食に3%(w/w)の微粉砕したホタテガイ貝殻粉末を添加した群、標準食に0.2%の共役リノール酸を添加した群、標準食の群の3群のラットに、1匹あたり毎日10gの食餌を与え、水は自由に摂取させたところ、図1に示すように、4週後には体重に有意な差異が認められた。また、炭酸カルシウムを酢酸溶液に対して透析をおこなって除去したホタテガイ貝殻抽出物をラット脂肪細胞に添加したところ、脂肪分解促進活性があることが確認された。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホタテガイ貝殻並びにその抽出物を有効成分とする脂肪分解促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ホタテガイ貝殻は毎年数十万トンにもおよぶ量が水産系廃棄物として処分されており、環境上の問題からもその有効利用が求められている。貝殻は97〜98%の炭酸カルシウム及び残り数%の有機成分(タンパク質、糖、有機化合物等)から構成されている。そのため再利用の多くは、炭酸カルシウム、酸化カルシウムに着目したものであり、大部分はなお廃棄処理されているのが現状である。
【0003】
廃棄されたホタテガイ貝殻は、高温で焼成された後、ハウスシック症候群の原因といわれているホルムアルデヒドを消去する壁材や、土壌改良剤、脱硫剤、抗菌剤などとして再利用されているが、さらなる有効利用が望まれている。
【0004】
日本において、食生活が欧米化し肥満患者が急増している。肥満は消費エネルギーより摂取エネルギーが過剰になることによって、中性脂肪が白色脂肪組織に蓄積されることによって生じる。肥満は糖尿病、動脈硬化など2次的な疾病の原因ともなることから、その改善が強く求められている。
従来、肥満の抑制、防止には運動療法、食事制限や低エネルギー食品、食欲抑制剤、消化吸収抑制剤などが使用されてきた。しかしその改善効果はかならずしも十分ではない。
【0005】
【特許文献1】特開2001−199823号公報
【特許文献2】特開2002−255714号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ホタテガイ貝殻の更なる有効利用を図るため、単なる炭酸カルシウム利用にとどまらず、体脂肪分解促進剤として利用するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
ホタテガイ貝殻に含有される成分には、活性酸素消去作用、皮膚角化細胞活性作用等があることが報告されていることから、生理作用を更に研究し、ホタテガイ貝殻中の成分に脂肪分解促進作用を有する成分があること、及びホタテガイ貝殻の有機成分中に中性脂肪分解促進活性が含まれること及びこの成分が脂肪燃焼に関わる脱共役タンパク質の発現を上昇させると共に、レプチンの発現も亢進させることを見出し、これを利用して人体に蓄積した脂肪組織の分解促進剤として利用するものである。
【0008】
本発明において、ホタテガイとは学名Patinopecten yessoensis,Arogopectenirradians, Placopecten magellanicusを意味し、ホタテガイ貝殻の抽出物は、ホタテガイ貝殻を酢酸溶液あるいはEDTA溶液を使用した透析によって貝殻の炭酸カルシウムを完全に除去した残渣物である有機成分を含む溶液、その希釈液、その濃縮液、そして濃縮乾固したものを意味する。
【0009】
また、濃縮乾固したものを、水あるいは70%メタノールで抽出したもの、さらにその抽出成分をゲルろ過カラムクロマトグラフィー、レクチンアフィニティークロマトグラフィーを用いて分離したものも含まれる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明を実施例に基づいて、更に詳しく説明する。
【実施例1】
【0011】
ホタテガイ貝殻に付着している藻などを完全に除去し、手動または粉砕機によって細かく粉砕し、ホタテガイ貝殻の微粉末を得た。
【実施例2】
【0012】
ホタテガイ貝殻に付着している藻などを完全に除去したのち、細かく粉砕した貝殻(ホタテガイ貝殻粉末)200gを透析チューブにいれ、5%酢酸溶液、あるいは、5mM EDTA溶液1000 mlに対して透析をおこなう。微粉末の炭酸カルシウムが溶解し、完全に除去されるまで外液を交換しながら1週間、室温において透析した。
透析チューブを脱イオン水に対して透析し、溶液を水に完全に置換後、水不溶性の分画を含め全ての有機成分を濃縮、乾固し、乾固して得た有機成分を70%メタノール溶液10mlで室温で2時間撹拌しながら抽出後、遠心分離をおこない、250mg(乾燥重量)の可溶性分画のホタテガイ貝殻抽出物を得た。
【実施例3】
【0013】
実施例2で得た濃縮乾固したホタテガイ貝殻抽出物を、脱イオン水で再懸濁後、S−200ゲルろ過カラムクロマトグラフィーをおこない、分子量5000〜50000の分画を回収してホタテガイ貝殻抽出物を得た。
【実施例4】
【0014】
実施例3で得た分子量5000〜50000の分画をレンズマメレクチンアフィニティークロマトグラフィーに供し、その結合分画をメチル−α−D−グルコシドで溶出し、糖タンパク質を主として含む分画を回収してホタテガイ貝殻抽出物を得た。
【0015】
実施例で得たホタテガイ貝殻粉末及びホタテガイ貝殻抽出物の脂肪分解作用について以下の実験をおこなった。
【0016】
実験例1
ホタテガイ貝殻粉末によるラットの体重変化
3週齢のWistarラット(雄)を1週間予備飼育した後、AIN93標準食に3%(w/w)のホタテガイ貝殻粉末(実施例1)を添加した食餌を与える群、陽性対照として標準食に0.2%の共役リノール酸(CLA)を添加した食餌を与える群、陰性対照として標準食を与える群の3群(各群6匹)について体重の観察をおこなった。
【0017】
各群のラット1匹あたり毎日10gの食餌を与え、水は自由に摂取させた。毎日、完全に餌を食餌していることを確認し次の食餌を与え、経時的に体重を測定し、5週間飼育後各群のラットをクロロフォルムによって屠殺し、頸部、腸間膜、後腹部の脂肪組織、及び血液を採取した。各群の体重変化の結果を図1に示す。
【0018】
図1に示すように、体重変化は、ホタテガイ貝殻粉末及び共役リノール酸を一緒に食餌させたラットにおいて2週間目においてコントロール群との間に有意な体重の差が出現しているのを見出した。4週目においてホタテガイ貝殻粉末を一緒に食餌させたラットでは平均体重が122gであるのに対し、コントロール群では、161gと顕著な差が見られた。
【0019】
実験例2
この体重変化がホタテガイ貝殻粉末中に多量(貝殻重量の95〜98%)に含まれる炭酸カルシウムによるものであるか、他の成分によるものであるかを確認するため、AIN93標準食に3%(w/w)のホタテガイ貝殻粉末を添加した群と標準食に3%(w/w)の炭酸カルシウムを添加した2群(それぞれ4匹ずつ)にわけ、実験例1と同様に食餌を与えた。体重変化の結果を図2に示す。
【0020】
ホタテガイ貝殻粉末を食餌させた群において、実験例1の結果と同様、有意な体重の減少が認められた。
この結果から、体重減少の要因は、炭酸カルシウムに基づくものでなく、貝殻中に含まれる有機成分に体重の減少を引き起こす成分が含まれていることが結論付けられる。
【0021】
実験例3
ラット脂肪細胞(3T3−L1)を用いた脂肪分解量の測定
10%牛胎児血清、0.2mMアスコルビン酸を含むダルベッコ修飾イーグル培地(DMEM)において培養を行ったラット脂肪細胞(3T3−L1)を、24穴ウエルに各ウエル辺り7×104個播種した。1晩培養後、分化誘導培地(DMEMに0.25mM デキサメタゾン、0.5mM 1メチル−3−イソブチルキサンチン、10μg/ml インスリンを添加した培地)を用いて、脂肪細胞への分化を誘導した。
【0022】
更に、成熟培地(DMEMに5μg/mlのインスリンを添加した培地)中において1週間培養後、実施例2のホタテガイ貝殻抽出物を濃度を変えて添加し、脂肪分解量をグリセロール定量キット(WAKO)を用い測定した。陽性対照としてβ3アゴニスト、イソプレテノールを使用し脂肪分解活性を比較した。図3の結果に示されるように、ホタテガイ貝殻抽出物の脂肪分解促進活性には、β3アゴニストに匹敵する強い脂肪分解促進活性が認められた。図3は、遊離したグリセロール量を吸光度(340nm)で定量したものである。
【0023】
実験例4
ホタテガイ貝殻抽出物より精製した成分による脂肪分解
実施例4の貝殻抽出物を部分精製した分画を用い、実験例3と同様の実験によって脂肪分解促進活性について評価を行った。その結果を図4に示す。部分精製した貝殻抽出物にも非常に高い脂肪分解促進活性が認められた。図4は、遊離したグリセロール量を吸光度(340nm)で定量したものである。
この結果は、貝殻抽出成分中に含まれるレクチンカラム結合分画に、脂肪分解促進活性が存在していることを示すものであり、脂肪分解促進活性を有するのは、夾雑物を取り除き部分精製を行った貝殻抽出成分にもあることが判明した。この部分精製した成分を用いることでより低濃度で高い活性を有する脂肪分解促進剤の作製が可能となる。
【0024】
実験例5
脂肪組織、脂質重量の変化
実験例1のそれぞれのラット群における各脂肪組織重量(60℃において4日間、乾燥をおこない水分を除去した乾燥重量)及び、脂質含量(各脂肪組織よりクロロフォルム−メタノール(2:1)抽出により脂質を抽出後、溶媒をエバポレーターによって除去した後の重量)を測定し、比較した。その結果を図5及び図6に示す。
【0025】
図5及び図6に示されるように、いずれの場合においても貝殻粉末を一緒に食餌させた群において有意に脂肪組織重量の減少、総脂質含量の減少が認められる。
【0026】
実験例6
血中に含まれる遊離グリセロール量の定量
実験例1の各群ラットの血清中に含まれるグリセロール量をグリセロール測定キット(WAKO)を用い測定した。その測定結果を図7に示す。図7は、遊離したグリセロール量を吸光度(340nm)で定量したものである。図7に示されているように、ホタテガイ貝殻を食餌させた群において血清中のグリセロール量が有意に増加していることが明らかであり、ホタテガイ貝殻中の成分によって脂肪分解が亢進されていると解釈され、実験例5の脂肪組織重量の減少の結果と符合する結果が得られた。
【0027】
実験例7
貝殻抽出物による脱共役タンパク質及びレプチン(Leptin)の発現量の変化
褐色脂肪細胞様に分化し、脱共役タンパク質を発現することが報告されているC3H10T1/2細胞を用い、以下に示す実験をおこなった。10%牛胎児血清0.2mMアスコルビン酸を含むダルベッコ修飾イーグル培地(DMEM)において培養を行ったマウスC3H10T1/2細胞をシャーレ上にてコンフルエント状態まで培養後、無血清培地中、200nMインシュリンと10μM ciglitazonによって脂肪細胞へと3〜5日間分化させた。分化させた細胞に実施例3及び4で得たホタテガイ貝殻抽出物を790μg/ml添加した後、2時間インキュベーションをおこなった。その後、細胞を0.025%トリプシンを用いて剥がし、常法に従ってmRNAを単離した。
【0028】
単離した2種類のmRNA(貝殻抽出物で処理した細胞及び処理しなかった細胞からのmRNA)を鋳型として1本鎖cDNAを合成後、レプチン特異的プライマー、脱共役タンパク質2特異的プライマーを用いてRT−PCRをおこなった。内部標準としてアクチン遺伝子を増幅させ、各遺伝子の発現量を比較した。その結果を図8に示す。
【0029】
貝殻抽出物を添加することにより、レプチン遺伝子、及び脱共役タンパク質の発現がそれぞれコントロールに比べ150%、130%と有意に亢進された。
レプチン、脱共役タンパク質は脂肪燃焼を促進することが知られていることから、ホタテガイ貝殻抽出物は、脂肪分解と燃焼を共に促進することによって脂肪含量を減少させていることが明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0030】
以上のことから、ホタテガイ貝殻には、脂肪燃焼及び分解作用があることが判明した。ホタテガイ貝殻の粉末、及びカルシウム成分を除去したホタテガイ貝殻抽出物、更には、抽出物を部分精製したものにも脂肪燃焼・分解作用があることから、脂肪組織の減量に有効であり、現代人の悩みである肥満の抑制、肥満体質の改善に応用することができると共に、廃棄物であるホタテガイの貝殻を有効利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】貝殻粉末添加飼料によるラットの体重変化を示すグラフ。
【図2】炭酸カルシウム添加飼料と貝殻粉末添加飼料によるラットの体重変化を示すグラフ。
【図3】ホタテガイ貝殻抽出物の脂肪分解促進活性のグラフ。
【図4】ホタテガイ貝殻抽出物より精製した分画の脂肪分解促進活性のグラフ。
【図5】ラットの脂肪組織重量の変化を示すグラフ。
【図6】ラットの脂肪組織中の脂質重量の変化を示すグラフ。
【図7】ラットの血清中グリセロール濃度を示すグラフ。
【図8】ホタテガイ貝殻抽出物によるレプチン遺伝子、脱共役タンパク質2遺伝子の発現量の変化を示すグラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホタテガイ貝殻のカルシウム分を除去して得られる有機成分からなる脂肪分解促進剤。
【請求項2】
請求項1において、カルシウム分を透析によって除去した脂肪分解促進剤。
【請求項3】
請求項1または2のいずれかにおいて、有機成分を固化した脂肪分解促進剤。
【請求項4】
請求項3において、固化物を更に溶剤で溶解して精製した脂肪分解促進剤。
【請求項5】
請求項4において、精製は、ゲルろ過カラムクロマトグラフィー、レクチンアフィニティークロマトグラフィーのいずれかである脂肪分解促進剤。
【請求項6】
ホタテガイ貝殻の粉末からなる脂肪分解促進剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−213606(P2006−213606A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−25419(P2005−25419)
【出願日】平成17年2月1日(2005.2.1)
【出願人】(504193837)国立大学法人室蘭工業大学 (70)
【Fターム(参考)】