説明

ホタテ乾貝柱の香味を有する調味料の製造方法

【課題】ホタテガイ乾貝柱またはソフト貝柱を製造する工程で副産されるホタテガイ煮汁から、短時間でホタテガイ乾貝柱が持つ乾物と同等の香味を有する調味料を製造する方法を提供する。
【解決手段】ホタテガイの乾貝柱またはソフト貝柱を製造する工程で副産されるホタテガイ煮汁を、温度100〜400℃、圧力0.1〜40MPaの高温高圧の水からなる反応溶媒と連続的に短時間接触反応させるか、ホタテガイ煮汁を温度100〜400℃、圧力0.1〜40MPaの条件下で連続的に短時間反応させるかすることを特徴とするホタテガイ乾貝柱が持つ乾物と同等の香味を有する調味料を製造する方法、およびその方法により得られる調味料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホタテガイ乾貝柱もしくはソフト貝柱を製造する工程で副産される天然エキス(通称、ホタテガイ煮汁)を高温高圧水(亜臨界条件下にある水)を反応媒体に使用し連続的に反応処理する、ホタテ乾貝柱と同等の香味を有し飲食品に添加した際に液体を濁らせない調味料の製造方法、およびその方法により得られる調味料に関する。
【背景技術】
【0002】
ホタテガイ乾貝柱は、おもに香港・台湾向けの高級な中華料理用食材として輸出され、付加価値の高いホタテガイ加工品である。この乾貝柱は、生鮮なホタテガイの貝柱を5〜20%濃度までの高濃度食塩水で煮た後、その貝柱について、乾燥工程とあんじょう工程を一ヶ月以上に亘って繰り返し、貝柱に独特の香味を与えることにより製造される。
中華料理では、この乾貝柱から抽出したエキスを調味料として使用するが、エキスが持つ乾貝柱由来の香味が中華料理として嗜好性が高く、高級感を与える。
【0003】
一方、ホタテガイ乾貝柱もしくはソフト貝柱の製造過程では、ホタテガイの風味を有し、グリコーゲン、ペプチド、アミノ酸などの成分の豊富な天然エキス(通称、ホタテガイ煮汁)が副産する。このホタテガイ煮汁は、5〜20%の塩分の他、高分子量のグリコーゲン、タンパク質、そして呈味性を有する低分子成分であるペプチド、アミノ酸、糖類等のエキス成分を0.2〜10%程度含んでいるが、乾貝柱由来のエキスのような高級感のある香味に乏しく、また濁っていることなどの理由からこれをそのまま高級中華料理食材用調味料として使用することは難しい。
【0004】
しかし、ホタテガイ乾貝柱が高価であることから、副産されるホタテガイ煮汁を原料とし、これを加工処理した調味料が一部代替品として利用されている。これらは一般的に、ホタテガイ煮汁にアミノ酸、水分調整剤などの添加物を加えて味や水分を調整したのち、濃縮ペーストもしくは粉末形体のホタテガイの風味をもつ調味料として市販されているが、ホタテガイ乾貝柱から抽出されたエキスに比べて香味が著しく不足しており、また添加される調味料等の影響によりホタテガイ乾貝柱本来の呈味性も大きく損なわれている。
【0005】
これまでに、ホタテガイ乾貝柱と同等のコク味を持つ調味料の製造技術も開発されてきている。特開昭63―63362号公報(特許文献1)では、グリシン、アラニンなどのアミノ酸、5’−グアニル酸などのヌクレオチド、およびカリウム塩、ナトリウム塩などの無機塩に、ホタテガイやカキガイなどの加工製品調製時に排出する煮汁などの天然エキス由来のグリコーゲンを添加し、「こく」と「厚み」を有する調味料を製造することが報告されている。
【0006】
また、特開平9−308456号公報(特許文献2)では、ゼラチンおよびアカザラホタテガイトロポミオシンをホタテガイ天然エキスに添加し加熱することにより、「こく」と「厚み」をもった味を有する調味料の製造法が報告されている。しかしながら、ホタテガイ乾貝柱の持つ嗜好性、高級感を与える香味を有する調味料については、満足な製造法は開発されていない。
【0007】
すなわち、一般に市販され、麺類などのスープ・たれ、中華料理の隠し味などに使われている従来のホタテガイ煮汁由来の調味料は、乾貝柱から抽出した本物の天然エキスに比較し、香り、呈味性の面で劣るものであり、高級感を演出する高付加価値の要因となる香味成分を有し、かつ透明感のある調味料の開発が強く求められていた。また、エキス調味料の市場では、近年、牛海綿状脳症(BSE)や鳥インフルエンザなどの問題から畜産系エキスは避けられ、水産系エキスのニーズが高まっており、とくに、「天然・本物」に対するニーズが強く、添加剤を配合しないピュアな本物志向の調味料の需要が高い。
【0008】
【特許文献1】特開昭63―63362号公報
【特許文献2】特開平9−308456号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明は、ホタテガイの乾貝柱もしくはソフト貝柱を製造する工程で副産されるホタテガイ煮汁を原料として、ホタテガイ乾貝柱から抽出した本物のエキスと同等の香味を持ち、調味液に透明感を付与した、添加物を一切含まない新規のホタテ調味料を安価に提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、ホタテガイ乾貝柱またはソフト貝柱の製造工程で副産されるホタテガイ煮汁を、高温高圧水(いわゆる亜臨界水)に連続的に短時間接触させ反応処理することにより、乾貝柱から抽出した本物のエキスと同等の香味と透明感を有する調味料を製造し得ることを見出した。
さらに、本発明者らは、それ自体水性の懸濁液であるホタテガイ煮汁を、短時間高温高圧の亜臨界状態に保持する領域に供給することによっても同様に乾貝柱から抽出した本物のエキスと同等の香味と透明感を有する調味料が製造できることを見出し、これらの知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明はホタテガイ乾貝柱もしくはソフト貝柱の製造工程で副産されるホタテガイ煮汁を原料とする下記の調味料の製造方法およびその方法により得られる調味料を提供する。
1.ホタテガイの乾貝柱またはソフト貝柱を製造する工程で副産されるホタテガイ煮汁を原料として、これを100〜400℃の温度、0.1〜40MPaの圧力条件下にある反応溶媒の水と短時間連続的に混合し反応処理することを特徴とするホタテガイ乾貝柱と同等の香味を有する調味料の製造方法。
2.流通式高温高圧装置を用い、これに原料および反応溶媒の水を導入し、100〜400℃の温度、0.1〜40MPaの圧力条件下で0.02〜60秒の時間連続反応処理する前記1に記載の調味料の製造方法。
3.水および原料を送液する高圧送液ポンプ、水加熱用コイル、加熱ユニット、水および原料を反応部に導入する導入管、微小空間反応部、反応液を排出する排出液ライン、急速冷却ユニット、および圧力を設定する背圧弁を具備している流通式高温高圧装置を用いる前記2に記載の調味料の製造方法。
4.100〜400℃の温度、0.1〜40MPaの圧力条件下で反応処理した後、急速冷却する前記1〜3のいずれかに記載の調味料の製造方法。
5.150〜300℃の温度、5〜30MPaの圧力条件下で反応処理する前記1〜4のいずれかの項に記載の調味料の製造方法。
6.ホタテガイの乾貝柱またはソフト貝柱を製造する工程で副産されるホタテガイ煮汁を原料として、これを100〜400℃の温度、0.1〜40MPaの圧力条件下で短時間反応処理することを特徴とするホタテガイ乾貝柱と同等の香味を有する調味料の製造方法。
7.流通式高温高圧装置を用い、これに原料を導入し、100〜400℃の温度、0.1〜40MPaの圧力条件下で0.02〜60秒の時間連続反応処理する前記6に記載の調味料の製造方法。
8.原料を送液する高圧送液ポンプ、原料加熱用コイル、加熱ユニット、原料を反応部に導入する導入管、微小空間反応部、反応液を排出する排出液ライン、急速冷却ユニット、および圧力を設定する背圧弁を具備している流通式高温高圧装置を用いる前記7に記載の調味料の製造方法。
9.100〜400℃の温度、0.1〜40MPaの圧力条件下で反応処理した後、急速冷却する前記6〜8のいずれかの項に記載の調味料の製造方法。
10.150〜300℃の温度、5〜30MPaの圧力条件下で反応処理する前記6〜9のいずれかの項に記載の調味料の製造方法。
11.前記1乃至10のいずれかの項に記載の方法で得られるホタテガイ乾貝柱と同等の香味を有する調味料。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、ホタテガイ乾貝柱もしくはソフト貝柱の製造工程で副産されるホタテガイ煮汁(天然エキス)から、反応媒体に高温高圧水を使用する流通式高温高圧装置を用いて、あるいはホタテガイ煮汁(天然エキス)自体を高温高圧条件に保持し得る流通式高温高圧装置を用いて、これまでにない高級感のあるホタテガイ乾貝柱と同等の香味、透明感を有する調味料を短時間で効率的に製造できる。
本発明の製造方法は、反応媒体として使用している流体は水のみであり、酵素、触媒、有機溶剤などを一切必要としない環境負荷低減型プロセスである。
【0013】
本発明の方法で得られる調味料は、従来のホタテ風味調味料のようにアミノ酸などの添加剤を添加せずに、ホタテガイ乾貝柱と同等の香味を有し、かつ、たれ、スープなどの飲食品に使用する際に液体を濁らせることがない。結果的に本発明者らは、何も足さない、何も引かない、ピュアな本物志向の調味料を得ることに成功したのである。
【0014】
本発明の方法で得られる調味料は、高温高圧処理による製造直後の水溶液の形態で使用することもできるが、使用目的に応じた濃度に適宜濃縮または希釈してたエキスとして、あるいは噴霧乾燥法や凍結乾燥法などの乾燥法により粉末状調味料して使用することもできる。また、単品として使用されるほか、天然エキスやその代替物、あるいはだし素材や風味調味料等に適宜配合して使用することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の調味料の原料は、ホタテガイ乾貝柱もしくはソフト貝柱の製造工程で副産されるホタテガイ煮汁である。原料となるホタテガイの産地および収穫時期は特に限定されない。原料であるホタテガイ煮汁は高分子であるグリコーゲン、タンパク質および低分子であるペプチド、アミノ酸、糖類のエキス成分を0.2〜5.0%含む濁った水スラリーである。
【0016】
本発明の方法では、高温高圧水連続反応処理の前に、原料であるホタテガイ煮汁から無機塩、とくに食塩(ナトリウム塩)、およびマグネシウム塩などを、例えば電気透析膜または逆浸透膜などで処理して除去することが好ましい。原料である天然エキスから無機塩を取り除くことにより、高温高圧水による連続反応処理が0.01cm3以下の微小な空間を反応場として、短時間の反応時間(反応温度にもよるが、0.1秒以下の時間)で可能になり、より効率的に調味料を製造することができる。
【0017】
脱塩処理したホタテガイ煮汁は、これをそのまま本発明の製造方法の原料として用いてもよいが、所望により適宜濃縮処理してエキス分30%まで含む任意の濃度の濃縮液として使用してもよい。なお、脱塩処理工程と濃縮処理工程の順序は任意であり、食塩を含む原料ホタテガイ煮汁を脱塩処理した後に濃縮処理してもよいし、食塩を含む原料ホタテガイ煮汁を濃縮した後に脱塩処理してもよい。
【0018】
本発明の第一の製造方法は、微小空間反応部(高温高圧維持領域)と急速冷却部等を備えた流通式高温高圧装置を用いて、100〜400℃の温度、0.1〜40MPaの圧力の高温高圧水(亜臨界状態の水)を反応媒体として、ホタテガイ乾貝柱の製造工程で副産されるホタテガイ煮汁を連続反応処理することにより、乾貝柱から抽出した本物のエキスと同等の、高級感のある香味、透明感を有する調味料を製造することを特徴とする。
【0019】
この流通式高温高圧装置による微小空間反応部における処理時間は0.02〜60秒でである。この処理時間の範囲内で、反応温度が高い場合に処理時間を短く、低い場合には長く設定する。この反応処理時間は、通常ホタテガイ乾貝柱の製造が1〜1.5ケ月を要するのに比べ、極めて短時間であり、本発明によれば極めて効率的に高級感のある調味料を、連続的に製造することができる。しかも、製造に使用している反応媒体は水のみであり、酵素、触媒、有機溶剤を一切使用しない環境負荷低減型プロセスである。
【0020】
また、流通式高温高圧装置に、亜臨界条件下で反応させる領域である微小空間反応部と急速冷却部が備えられているため、処理時間を精密に制御することが可能であり、反応の超過により生じる焦げ臭や好ましくないフレーバーが付与されることを防ぐことができる。
【0021】
さらに、高温高圧水による連続反応処理により、原料のホタテガイ煮汁に含まれる有用な成分であり、エキスの濁り成分でもあるグリコーゲンとタンパク質の低分子化反応が並行して起こる。そのため、高温高圧水処理により製造される調味料は透明な液体となり、たれ、スープなどの飲食品に使用する際に液体を濁らせることがない。
【0022】
本発明の第一の製造方法で使用する流通式高温高圧装置の1例の概要を図1に示す。図1の装置は、水貯蔵タンク(4)、原料のホタテガイ煮汁貯蔵タンク(3)、これらの送液用の2台の高圧ポンプ(1,2)、水導入管(6)、水加熱用コイル(7)、加熱ユニット(電気ヒーター)(8)、原料天然エキスを反応部に導入する原料導入管(5)、亜臨界状態の水に原料天然エキスを混合するT字管混合部(9)、微小空間反応部(10)、反応溶液である調味料を排出する排出液ライン(14)、急速冷却ユニット(冷却用ウォーターバス)(15)および圧力を設定する背圧弁(16)により構成される。ここで、微小空間反応部は、体積0.006〜10cm3のチューブ状であることが好ましい。
【0023】
本発明の第二の製造方法は、図2に1例の概要を示す装置を用いて実施される。図2の装置は、図1の第一の方法で用いる装置から、水貯蔵タンク(4)およびその送液用の高圧ポンプ(2)、水導入管(6)を省略したものであり、ホタテガイ煮汁を直接加熱することにより、連続的に短時間で高温高圧水処理を行う装置である。この装置では、原料のホタテガイ煮汁を送液ポンプ(18)により加熱ユニット(ヒーター)(22)内の原料加熱用コイル(21)に所定の流量で連続的に導入し、高温高圧水処理温度域まで段階的に加熱する。その後、第二の加熱ユニット(ヒーター)(26)内の微小空間反応部を兼ねる原料加熱用コイル(25)に導入し、所定の亜臨界条件下の高温高圧で反応処理する。コイル(25)を通過後、出口の排出管(29)から排出される反応液を急速冷却ユニット(ウォーターバス)(30)により直接冷却することにより混合液を急速冷却して反応を終了させる。反応終了後、圧力を亜臨界条件下に設定している背圧弁(31)から高温高圧水処理された天然エキスである調味料が得られる。
【0024】
なお、本発明により製造される調味料の成分は、原料であるホタテガイ乾貝柱もしくはソフト貝柱の製造工程の副産物である天然エキスに由来する成分のみであり、グリコーゲン、デンプン、セルロース、デキストリンなどの多糖類、マルトース、スクロースなどの二糖類、グルコース、フルクトース、マンノース、ガラクトース、キシロース、リブロース、リボース、キシルロースなどの単糖類、グリシン、アラニン、アルギニン、グルタミン酸ナトリウム、メチオニンなどのアミノ酸、植物性タンパク分解物(HVP)、動物性タンパク分解物(HAP)などのペプチド、イノシン酸、アデニル酸など呈味成分である核酸といった添加物は一切配合されてない。
【0025】
本発明において用いる高温高圧水の条件は、100〜400℃の温度、0.1〜40MPaの圧力範囲であるが、特に150〜300℃の温度、5〜30MPaの圧力範囲で香味が増強された調味料を製造することができる。なお、本発明では使用する装置の規模または処理時間により反応温度および圧力を適宜変更する。
【0026】
使用する流通式高温高圧装置は、急速冷却ユニットを備えているが、高温高圧水処理温度までの急速昇温も可能なシステムであることが好ましい。急速昇温することにより副反応を防ぎ、処理時間のより精密な制御が可能になり、天然エキスに付与される香味の度合いを綿密に調整することができる。また、並行して起こるグリコーゲンとタンパク質の低分子化反応の制御もし易くなり、ホタテガイ煮汁からホタテガイ乾貝柱から抽出した本物のエキスと同等の良好な香味を持ち、かつ透明な溶液として調味料を製造することが容易になる。
【実施例】
【0027】
次に、実施例に基づいて、本発明のホタテガイ乾貝柱もしくはソフト貝柱の製造工程における副産物であるホタテガイ煮汁からホタテガイ乾貝柱と同等の香味を有する調味料を製造する方法について具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0028】
実施例1:
図1の流通式高温高圧装置を用いて、ホタテガイ乾貝柱もしくはソフト貝柱の製造工程における副産物であるホタテガイ煮汁から、ホタテガイ乾貝柱と同等の香味を有する調味料を製造した。詳細に説明すると、脱気した蒸留水を送液ポンプ(2)(PU−2086、日本分光(株))によりヒーター(8)内のコイル(7)(ハステロイ−C製、φ1.2mm×8.9m、10cm3)に導入することにより加熱しながら3mL/minの流量で連続的に送液した。同様に送液ポンプ(1)(NP−KX−550、日本精密科学(株))にて1mL/minの流量で連続送液された脱塩後のホタテガイ煮汁(エキス分9.1%の濃縮液)を、微小空間反応部(10)(ハステロイ−C製、φ0.5mm×30mm、5.9mm3)入り口のT字管混合部(9)で加熱した蒸留水と混合し、処理温度300℃まで急速昇温した。混合液を亜臨界状態に短時間維持する微小空間反応部を通過後、反応部出口の排出管(14)をウォーターバス(15)により直接冷却することにより混合液を急速冷却し、反応を速やかに終了させた。反応終了後、圧力を25MPaに調整している背圧弁(16)(ER3000S、TESCOM.CO)から高温高圧水処理された天然エキスである調味料(エキス分 2.3%)を得た。
本例では、蒸留水の流量を原料であるホタテガイ煮汁の3倍としたが、これは、天然エキスを所定の温度まで急速昇温し微小空間反応部の混合液温度を一定にするためである。また、微小空間反応部の体積と液流量から求めた反応時間は0.088秒であった。
【0029】
実施例2〜5:
高温高圧水による処理温度を275℃、250℃、225℃、200℃に変化させた以外は実施例1と同様の操作を行い、高温高圧水処理された調味料を得た。実施例1〜5までの高温高圧水処理条件を表1にまとめて示す。
【0030】
この様にして得られた調味料について、10人のパネリストによる香味の官能評価を0(ホタテガイ乾貝柱と同等の香味を感じない)〜3(ホタテガイ乾貝柱と同等の香味を強く感じる)の4段階で評価を行い、平均値によって評価した。また、透明度の指標として620nmの吸収による濁度評価とタンパク質とグリコーゲンの分子量測定を行った。さらに、濁度として、10人のパネリストによる目視で、0(濁っている)〜3(非常に澄んでいる)までの4段階評価を行い、平均値によって評価した。対照として、原料であるホタテガイ乾貝柱製造工程の副産物であるホタテガイ煮汁についても評価を実施した。結果を表1に示す。
【0031】
【表1】

実施例6:
【0032】
図2に示すホタテガイ煮汁を直接加熱し高温高圧水処理をする流通式高温高圧装置を用いてホタテガイ乾貝柱もしくはソフト貝柱の製造工程における副産であるホタテガイ煮汁からホタテガイ乾貝柱と同等の香味を有する調味料を製造した。詳細に説明すると、原料であるホタテガイ煮汁(エキス分 9.1%)を送液ポンプ(18)(NP−KX−550、日本精密科学(株))によりヒーター(22)内のコイル(21)(SUS316製、1.0mm×10m、7.9cm3)に10mL/minの流量で連続的に導入し、高温高圧水処理温度175℃まで段階的に加熱した。その後、ヒーター(26)内のコイル(25)(ハステロイ−C製、0.5mm×3m、0.59cm3)に導入し175℃の一定温度で高温高圧水処理した。コイル(25)の通過後、出口の排出管29をウォーターバス(30)により直接冷却することにより混合液を急速冷却し、反応を速やかに終了させた。反応終了後、圧力を10MPaに調整している背圧弁(31)(ER3000S、TESCOM.CO)から高温高圧水処理された天然エキスである透明な調味料水溶液(エキス分 9.1%)を得た。このとき、コイル(21)の微小空間の体積と液流量から求めた高温高圧水処理温度までの昇温に要した時間は47秒、コイル(25)の微小空間の体積と液流量から求めた反応時間は3.5秒であった。
【0033】
実施例7〜9:
高温高圧水による処理温度を,200℃、250℃および150℃と変化させた以外は実施例6と同様の操作を行い、高温高圧水処理された天然エキスである調味料水溶液を得た。実施例7〜9までの高温高圧水処理条件を表2にまとめて示す。
【0034】
この様にして得られた調味料について、10人のパネリストにより、香味の官能評価を0(ホタテガイ乾貝柱と同等の香味を感じない)〜3(ホタテガイ乾貝柱と同等の香味を強く感じる)の4段階で行い、平均値によって評価した。また、透明度について10人のパネリストによる目視で、評価を0(濁っている)〜3(非常に澄んでいる)までの4段階で行い、平均値によって評価した。対照として、原料であるホタテガイ乾貝柱製造工程の副産物である天然エキスについても評価を実施した。結果を表2に示す。
【0035】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明により、ホタテガイ乾貝柱もしくはソフト貝柱の製造工程で副産されるホタテガイ煮汁(天然エキス)から、反応媒体に高温高圧水を使用する流通式高温高圧装置を用いて、あるいはホタテガイ煮汁(天然エキス)自体を高温高圧装置に保持し得る流通式高温高圧装置を用いて、スープ・たれ、中華料理用、また、蒲鉾などの加工品などに、ホタテガイ乾貝柱から抽出したエキスと同等の高級感のある良好な香味および透明感を付与する調味料を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】実施例1〜5で用いた流通式高温高圧反応装置の概要を示す。
【図2】実施例6〜9で用いた流通式高温高圧反応装置の概要を示す。
【符号の説明】
【0038】
1 ホタテガイ煮汁送液ポンプ
2 水送液ポンプ
3 ホタテガイ煮汁貯蔵タンク
4 水貯蔵タンク
5 ホタテガイ煮汁導入管
6 水導入管
7 水加熱コイル
8 電気ヒーター
9 T字管混合部
10 微小空間反応部
11 温度センサ
12 温度センサ
13 断熱材
14 排出管
15 ウォーターバス
16 背圧弁
17 排出調味料受タンク
18 ホタテガイ煮汁送液ポンプ
19 ホタテガイ煮汁貯蔵タンク
20 ホタテガイ煮汁導入管
21 ホタテガイ煮汁加熱コイル
22 電気ヒーター
23 温度センサ
24 断熱材
25 ホタテガイ煮汁加熱コイル
26 電気ヒーター
27 温度センサ
28 断熱材
29 排出管
30 ウォーターバス
31 背圧弁
32 排出調味料受タンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホタテガイの乾貝柱またはソフト貝柱を製造する工程で副産されるホタテガイ煮汁を原料として、これを100〜400℃の温度、0.1〜40MPaの圧力条件下にある反応溶媒の水と短時間連続的に混合し反応処理することを特徴とするホタテガイ乾貝柱と同等の香味を有する調味料の製造方法。
【請求項2】
流通式高温高圧装置を用い、これに原料および反応溶媒の水を導入し、100〜400℃の温度、0.1〜40MPaの圧力条件下で0.02〜60秒の時間連続反応処理する請求項1に記載の調味料の製造方法。
【請求項3】
水および原料を送液する高圧送液ポンプ、水加熱用コイル、加熱ユニット、水および原料を反応部に導入する導入管、微小空間反応部、反応液を排出する排出液ライン、急速冷却ユニット、および圧力を設定する背圧弁を具備している流通式高温高圧装置を用いる請求項2に記載の調味料の製造方法。
【請求項4】
100〜400℃の温度、0.1〜40MPaの圧力条件下で反応処理した後、急速冷却する請求項1〜3のいずれかに記載の調味料の製造方法。
【請求項5】
150〜300℃の温度、5〜30MPaの圧力条件下で反応処理する請求項1〜4のいずれかの項に記載の調味料の製造方法。
【請求項6】
ホタテガイの乾貝柱またはソフト貝柱を製造する工程で副産されるホタテガイ煮汁を原料として、これを100〜400℃の温度、0.1〜40MPaの圧力条件下で短時間反応処理することを特徴とするホタテガイ乾貝柱と同等の香味を有する調味料の製造方法。
【請求項7】
流通式高温高圧装置を用い、これに原料を導入し、100〜400℃の温度、0.1〜40MPaの圧力条件下で0.02〜60秒の時間連続反応処理する請求項6に記載の調味料の製造方法。
【請求項8】
原料を送液する高圧送液ポンプ、原料加熱用コイル、加熱ユニット、原料を反応部に導入する導入管、微小空間反応部、反応液を排出する排出液ライン、急速冷却ユニット、および圧力を設定する背圧弁を具備している流通式高温高圧装置を用いる請求項7に記載の調味料の製造方法。
【請求項9】
100〜400℃の温度、0.1〜40MPaの圧力条件下で反応処理した後、急速冷却する請求項6〜8のいずれかの項に記載の調味料の製造方法。
【請求項10】
150〜300℃の温度、5〜30MPaの圧力条件下で反応処理する請求項6〜9のいずれかの項に記載の調味料の製造方法。
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれかの項に記載の方法で得られるホタテガイ乾貝柱と同等の香味を有する調味料。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−225690(P2009−225690A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−72339(P2008−72339)
【出願日】平成20年3月19日(2008.3.19)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度経済産業省地域資源活用型研究開発事業「道産ホタテ煮汁を用いた亜臨界水技術による本物志向調味料の開発」に係る委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(591190955)北海道 (121)
【出願人】(300079508)丸共水産株式会社 (1)
【出願人】(507052555)株式会社しんや (2)
【出願人】(593154263)北興化工機株式会社 (3)
【Fターム(参考)】