説明

ホタテ貝柱様繊維状カマボコ及びその製造方法

【課題】 風味だけでなく、外観、特に本物のホタテの貝柱の色と同じ色調を有するホタテ貝柱様繊維状カマボコを提供する。
【解決手段】 魚肉すり身を主原料とする繊維状カマボコの製造方法であって、添加物に含まれる遊離アミノ酸の合計が原料の合計湿重量の0.1〜5.0%になるよう添加物を添加する工程、糖類としてキシロース及び/又はグルコースを合計で原料の合計湿重量の0.05〜5.0%になるよう糖類を添加する工程、および、原料に含まれる遊離アミノ酸と糖類でメイラード反応を起こさせる80〜100℃で30〜60分間の加熱工程を必須工程とする、色彩色差計によるL*、a*、b*がそれぞれ65〜72、−3.0〜1.0、5.0〜15.0である、ホタテ貝柱の色調の肉色を有するホタテ貝柱様繊維状カマボコの製造方法。この製法で製造したホタテ貝柱様繊維状カマボコ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホタテ風味の繊維状カマボコに関する。詳細には、風味、外観ともにホタテに酷似した繊維状カマボコに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、繊維状にしたカマボコを棒状に収束した製品が多く市販され、カニ足風カマボコ、カニカマなどと呼ばれている(特許文献1)。薄いカマボコのシートに、食べたときにバラける程度の多数の平行な溝を付け、これを棒状にまきつけた、完全な繊維状でないタイプのものもある(特許文献2)。多くは、カニ風味がつけられ、表面を赤色に着色したカニ様の食品である(特許文献3)。カニ以外にもホタテ風味の製品も提案されているが(特許文献4)、カニ風味のもののように商品として定着していない。
【0003】
【特許文献1】特開昭55−21740号
【特許文献2】特開昭58−28248号
【特許文献3】特開2001−29045号
【特許文献4】特開昭52−108049号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、風味だけでなく、外観、特に本物のホタテの貝柱の色と同じ色調を有するホタテ貝柱様繊維状カマボコを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、(1)〜(5)のホタテ貝柱の色調の肉色を有するホタテ貝柱様繊維状カマボコの製造方法を要旨とする。
(1)魚肉すり身を主原料とする繊維状カマボコの製造方法であって、添加物に含まれる遊離アミノ酸の合計が原料の合計湿重量の0.1〜5.0%になるよう添加物を添加する工程、糖類としてキシロース及び/又はグルコースを合計で原料の合計湿重量の0.05〜1.0%になるよう糖類を添加する工程、および、原料に含まれる遊離アミノ酸と糖類でメイラード反応を起こさせる80〜100℃で30〜60分間の加熱工程を必須工程とする、色彩色差計によるL*、a*、b*がそれぞれ65〜72、−3.0〜1.0、5.0〜15.0である、ホタテ貝柱の色調の肉色を有するホタテ貝柱様繊維状カマボコの製造方法。
(2)添加する遊離アミノ酸がグリシンを含むものであることを特徴とする(1)のホタテ貝柱様繊維状カマボコの製造方法。
(3)遊離アミノ酸としてグリシンを原料の合計湿重量の0.1〜2.5%添加するものである(1)のホタテ貝柱様繊維状カマボコの製造方法。
(4)キシロースの添加量が原料湿重量の0.05〜1.0%である(1)、(2)又は(3)のホタテ貝柱様繊維状カマボコの製造方法。
(5)グルコースの添加量が原料湿重量の0.2〜5.0%である(1)、(2)又は(3)のホタテ貝柱様繊維状カマボコの製造方法。
【0006】
本発明は、(6)、(7)のホタテ貝柱様繊維状カマボコを要旨とする。
(6)(1)ないし(5)いずれかの製造方法で製造したホタテ貝柱様繊維状カマボコ。
(7)シート状に成型し、0.4〜1.2mmの太さの繊維状に裁断あるいは切り目を入れ、1〜5cmの太さの棒状に成型し、1〜2cmの厚さに切断したものである、(6)のホタテ貝柱様繊維状カマボコ。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、添加物として好まれない色素等を用いることなく、遊離アミノ酸と糖類のメイラード反応を利用して、ホタテの風味を有し、かつ、魚肉すり身を原料とするカマボコの肉色を本物のホタテの貝柱と同じ色調とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の繊維状カマボコとは、カニ足風カマボコ、カニ風味カマボコ、カニカマ等と称して販売されている、カマボコを繊維状に裁断、あるいは、カマボコシートに切り目をいれて、束ねて成型したもののことである。製法は問わない。表面を赤色に着色し、カニ足風にしたものは、カニ足風カマボコとして販売されている。
赤色に着色すれば、カニ足のように見えるので、かに足風は製造しやすいが、ホタテ貝柱風の場合は、肉色だけでそれらしい外観にする必要がある。白さの劣る魚肉を使用すれば、やや暗い色調の肉色にすることができるが、本来のホタテ貝柱の色調とは異なり、本物に近い外観にはならない。また、各種色素を用いることは、安全面で好まれない。
【0009】
本発明では、原料に含まれる、あるいは調味目的で添加する遊離アミノ酸と糖類とを加熱反応させて得られる薄茶色が本物のホタテ貝柱の色調に酷似することを見出し本発明を完成させた。
遊離アミノ酸と糖類とを加熱反応させて着色する場合、遊離アミノ酸と糖類を含む素材の種類、添加量と加熱条件により着色の度合いが異なる。また遊離アミノ酸や糖類の量は、味や風味にも影響を与えるため、そのバランスは非常に重要である。
【0010】
ホタテ貝柱様繊維状カマボコを提供するに際し、味をホタテ貝柱に似せるには、ホタテ貝柱が含有する遊離アミノ酸量および組成に類似した遊離アミノ酸含量となるように調味料を添加することが望ましい。ホタテ貝柱は3000mg/100g超の遊離アミノ酸を含有し、そのうちの約2/3はグリシンであるとの報告がある。すなわち、ホタテ貝柱様繊維状カマボコを製造するに際しては、調味料として遊離アミノ酸を添加することが望ましく、またホタテ貝柱様繊維状カマボコは料理素材として利用されることが多いことから、ホタテ貝柱に実際に含まれる含量を超える遊離アミノ酸の添加が望ましい。更にはホタテ貝柱のアミノ酸組成から、添加する遊離アミノ酸の少なくとも半量以上にグリシンを使用することによりホタテ貝柱の味に近付けることができる。グリシンはアミノ酸を混合したアミノ酸調味料やホタテエキス等の風味調味料として添加することが可能である。
【0011】
遊離アミノ酸の種類によって加熱による褐変の度合いは異なるため、本物のホタテ貝柱に外観を似せるためには、味付けとともに加熱後の色調に配慮した遊離アミノ酸の種類と量の選択に工夫が必要である。ホタテ貝柱の味付けに重要なグリシンは、通常調味のために使用されるグルタミン酸ナトリウム、アラニンと比較して加熱による褐変が大きいことが知られている。
【0012】
冷凍魚肉すり身には、保存のためにある程度の糖類が含まれている。また、調味のために糖類、みりん類を使用することもある、これらの糖類もメイラード反応に関与する。しかし、メイラード反応による本物のホタテ貝柱との類似性はキシロースを使用した場合が最も高く、グルコースがそれに次ぐ。その他の糖類による着色への影響は大きくはないので、キシロースとグルコースの添加量を適正に調節すれば、好ましい色調をえることができる。本発明のメイラード反応にもっとも好ましいのはキシロースである。前述の遊離アミノ配合とキシロースによる褐変は、着色されたホタテ貝柱様繊維状カマボコが本物のホタテ貝柱に色調や艶が似る特徴がある。ホタテ貝柱にキシロースの場合着色性がよいので材料の合計湿重量の0.05〜1.0重量%、好ましくは、0.1〜0.5重量%、特に好ましくは0.2〜0.3重量%を添加する。グルコースの場合は材料の合計湿重量の0.2〜5.0重量%、好ましくは、0.5〜2.5重量%を添加する。その他の糖類でもメイラード反応を起こす糖であれば使用できる。糖類はカマボコの原料と一緒に混合すればよい。
【0013】
メイラード反応には加熱が必要である。したがって、本発明の製造方法では、80〜100℃で30〜60分間の加熱工程が必須である。通常、このような繊維状カマボコの製造工程では、例えば、92℃50分というような殺菌工程が含まれる。特にメイラード反応のための加熱工程でなくても、いずれかの段階で、80〜100℃で30〜60分間の加熱工程を経ればよい。
ホタテ貝柱様繊維状カマボコは製造後、2次殺菌することが流通上の衛生面から望ましい。ホタテ貝柱様繊維状カマボコはレトルト殺菌すると硫化水素に代表される、所謂レトルト臭が発生するためにホタテ様の風味になりにくい。よって前述の量に規定した遊離アミノ酸を含むホタテ貝柱様繊維状カマボコはボイル殺菌が適している。上記の加熱条件は、ボイル殺菌の条件に相当する。本発明では、繊維状カマボコの製造における加熱条件に適した糖の種類や含量を選択することにより本物のホタテ貝柱の色調に酷似させた製品を製造することを可能にした。
【0014】
したがって、本発明は、魚肉すり身を主原料とし、それに澱粉、塩、その他調味料を添加したカマボコ原料をシート状に成形し、ドラムにて加熱した後に、繊維状の切れ目を入れ、棒状に巻いて成型、加熱、包装、加熱殺菌するという通常のカニカマ、カニ足風繊維状カマボコの製造において、原料に遊離アミノ酸と糖類を一定量添加することを特徴とする。
すり身に遊離アミノ酸と糖類を含んでいるので、加熱工程においてメイラード反応が起きて薄褐色の色調になり、ホタテ貝柱本来の色調を有する肉色のカマボコを製造することができる。さらに、外観も本物のホタテ貝柱と似たものにするために、カマボコは0.4〜1.2mmの太さの繊維状に裁断あるいは切り目を入れ、そのカマボコを1〜5cmの太さの棒状に束ね、1〜2cmの厚さに切断するのが好ましい。ホタテ貝柱のフレークにする場合は、棒状に束ねず、ばらけたまま、長さを1〜2cmに切断すればよい。
【0015】
以下に本発明の実施例を記載するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0016】
スケソウダラの冷凍すり身90kgに澱粉9kg、みりん1kg、食塩2.6kg、砂糖1kg、キシロース0.32kg(0.20重量%)、ホタテ貝柱5kg、ホタテエキス他調味料7.76kg、水45kgを添加し撹拌後、シート成形状(厚さ2mm)に成型し、そのシートをドラム加熱した。加熱したすり身シートに繊維状の切れ目(幅0.8mm)を入れ、切り目を入れたすり身シートを繊維が縦方向に並ぶ方向に棒状に巻き、定寸(長さ2cm)にカットし、加熱した。合成樹脂製フィルムにて包装後、加熱殺菌(92℃ 50分)、冷却して、ホタテ貝柱様繊維状カニカマを得た。上記配合の場合、遊離アミノ酸量は2.3重量%である。このホタテ貝柱様繊維状カニカマはホタテの風味を有し、色もホタテ貝柱そっくりであり、繊維の大きさ、全体の大きさのいずれをとっても、ホタテ貝柱に酷似していた。
上記の配合と同じ配合で、キシロースの添加量だけを0.3%にして、同様にホタテ貝柱様繊維状カニカマを製造した。MINOLTA製の色彩色差計CHROMA METER CR-200を用いて、それらのL*、a*、b*値を測定した。色がホタテ貝柱の色として好ましいかどうか官能検査を行った。その結果は表1に示すとおりであった。
【0017】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0018】
本発明のホタテ貝柱様繊維状カマボコは風味だけでなく、外観、特に色調がホタテ貝柱本来の色調を有するので、見た目もホタテ貝柱に見まがうほどであり、カニ足風カニカマのように、サラダをはじめ各種料理素材として使用できる食品素材を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
魚肉すり身を主原料とする繊維状カマボコの製造方法であって、添加物に含まれる遊離アミノ酸の合計が原料の合計湿重量の0.1〜5.0%になるよう添加物を添加する工程、糖類としてキシロース及び/又はグルコースを合計で原料の合計湿重量の0.05〜5.0%になるよう糖類を添加する工程、および、原料に含まれる遊離アミノ酸と糖類でメイラード反応を起こさせる80〜100℃で30〜60分間の加熱工程を必須工程とする、色彩色差計によるL*、a*、b*がそれぞれ65〜72、−3.0〜1.0、5.0〜15.0である、ホタテ貝柱の色調の肉色を有するホタテ貝柱様繊維状カマボコの製造方法。
【請求項2】
添加する遊離アミノ酸がグリシンを含むものであることを特徴とする請求項1のホタテ貝柱様繊維状カマボコの製造方法。
【請求項3】
遊離アミノ酸としてグリシンを原料の合計湿重量の0.1〜2.5%添加するものである請求項1のホタテ貝柱様繊維状カマボコの製造方法。
【請求項4】
キシロースの添加量が原料湿重量の0.05〜1.0%である請求項1、2又は3のホタテ貝柱様繊維状カマボコの製造方法。
【請求項5】
グルコースの添加量が原料湿重量の0.2〜5.0%である請求項1、2又は3のホタテ貝柱様繊維状カマボコの製造方法。
【請求項6】
請求項1ないし5いずれかの製造方法で製造したホタテ貝柱様繊維状カマボコ。
【請求項7】
シート状に成型し、0.4〜1.2mmの太さの繊維状に裁断あるいは切り目を入れ、1〜5cmの太さの棒状に成型し、1〜2cmの厚さに切断したものである、請求項6のホタテ貝柱様繊維状カマボコ。