説明

ホットスタンプ加工に用いる異強度部分を持つ金属加工品の製造に適した輻射伝熱加熱用鋼板及びその製造方法

【課題】金属板の表面反射率が高い場合にも、簡単に所望の温度にまで加熱することができるホットスタンプ加工に用いる異強度部分を持つ金属加工品の製造に適した輻射伝熱加熱用金属板及びその製造方法を提供する。
【解決手段】近赤外線による輻射伝熱加熱が行われる金属板の表面の一部に、輻射線の反射率を元の金属板の表面よりも低下させた領域を形成する。反射率低減処理としては、黒色系の塗装または溶射、黒色系のめっき、金属板の表面粗度を粗くする処理、ブラスト処理、エッチング処理、黒色化処理、金属板の表層面の材料変更処理などを採用することができる。そして、その金属板を輻射伝熱加熱することにより部分的に温度の異なる加熱金属板としたうえ、例えばホットスタンプによって冷却を伴う熱処理加工を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工性に優れたホットスタンプ加工に用いる異強度部分を持つ金属加工品の製造に適した輻射伝熱加熱用鋼板及びその製造方法に関する。本願は、2009年8月6日に日本に出願された特願2009−183220号、および、2009年8月6日に日本に出願された特願2009−183221号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
自動車用構造部品をはじめとする多くの機械部品は、鋼板やその他の金属板をプレス加工することにより製造されている。ところが、一般的な冷間プレス成形により得られた製品は、内在応力によってスプリングバックが発生しやすく、寸法精度が安定しないという問題がある。この問題を解決する一つの手法として、ホットスタンプと呼ばれる熱間プレスが注目されている。このホットスタンプは、予め所定温度まで加熱しておいた鋼板をプレス成形するとともにプレス金型中で急冷し、焼入れを行う成形方法である。この方法を用いることにより、スプリングバックが発生せず、寸法精度及び強度の高い成形品を製造することができる。
【0003】
このホットスタンプを行うためには、予め鋼板の金属組織がオーステナイト単相となる温度域まで加熱しておく必要がある。加熱方法としては、ガス加熱炉などが一般的に用いられているが、ガス加熱炉などでは加熱効率が低く生産性が劣る。そのため、生産性を高めるためには設備を大きくする必要があり、コストが高くなる。そこで、生産性を高める加熱方法として、特許文献1に示されるような通電加熱が提案されている。この通電加熱は、金属板の両端に電極を接触させて通電し、ジュール熱によって加熱する方法であり、エネルギーの無駄が少なく、急速に加熱することができるという利点がある。しかしながら、金属板の形状が四角形ではない異型形状である場合には、断面積の小さい部分に電流が集中してしまうため、所望の領域を均一加熱することができないという問題がある。なお、金属板の特定部分を均一に加熱するためには、レーザー加熱を行うことが考えられるが、設備コストが嵩むうえに生産性が悪いという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−55265号公報
【特許文献2】特開2006−306211号公報
【特許文献3】特開2005−330504号公報
【特許文献4】特開2006−289425号公報
【特許文献5】特開2009−61473号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って本発明の目的は、金属板の表面反射率が高い場合にも、簡単に所望の温度にまで加熱することができるホットスタンプ加工に用いる異強度部分を持つ金属加工品の製造に適した輻射伝熱加熱用鋼板及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るホットスタンプ加工に用いる異強度部分を持つ金属加工品の製造に適した輻射伝熱加熱用鋼板は、輻射伝熱加熱が行われる金属板の表面の一部に、塗装、凹凸付与、金属被覆、酸性溶液への浸漬による着色処理、エッチング、及び塩化ニッケル六水和物水溶液による浸漬のうちいずれかの処理を行い、当該金属板の表面の一部の輻射線の反射率を低下させていることを特徴とするものである。また、金属板を、めっき鋼板とすることができる。
【0007】
また、本発明に係るホットスタンプ加工に用いる異強度部分を持つ金属加工品の製造に適した輻射伝熱加熱用鋼板の製造方法は、輻射伝熱加熱が行われる金属板の表面の一部に、塗装、凹凸付与、金属被覆、酸性溶液への浸漬による着色処理、エッチング、及び塩化ニッケル六水和物水溶液による浸漬のうちいずれかの処理を行い、当該金属板の表面の一部の輻射線の反射率を低下させることを特徴とするものである。
【0008】
なお、いずれの場合にも反射率を40%以下、好ましくは30%以下、さらに好ましくは25%以下とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、加熱効率を高めることができ、輻射伝熱加熱によって従来よりも低コストで生産性よく金属板の特定部分のみを集中的に加熱することが可能となる。また、金属加工品として部品設計の自由度が高くなるなど、多くの利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、全体に反射率低減処理を施した金属板の一例を示す斜視図である。
【図2】図2は、一部に反射率低減処理を施した金属板の一例を示す斜視図である。
【図3】図3は、本発明の金属加工品を製造する工程を示す図である。
【図4】図4は、異強度部分を持つ金属加工品に熱処理加工する前の金属板の一例を示す正面図である。
【図5】図5は、加熱温度と焼入れ後の降伏点、引張強度、伸び率との関係を示す特性図である。
【図6】図6は、異強度部分を持つ金属加工品の一例を示す正面図である。
【図7】図7は、本発明の変形例を示す斜視図である。
【図8】図8は、本発明の他の変形例を示す斜視図である。
【図9】図9は、反射率処理深さと加熱速度との関係を示す特性図である。
【図10】図10は、強度が均一化された金属加工品に熱処理加工する前の金属板の一例を示す正面図である。
【図11】図11は、全体が均一に高強度化された金属加工品に熱処理加工する前の金属板の一例を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
(輻射伝熱加熱用金属板の製造)
図1は、表面全体を反射率低減処理領域2とした金属板1を示す図であり、図2は、表面の一部を反射率低減処理領域2とした金属板1を示す図である。
図1、及び図2に示されるように、本実施形態では金属板1の表面に反射率低減処理を施すことによって、反射率低減処理領域2が形成される。金属板1は、後工程においてホットスタンプが行われる金属板であり、ホットスタンプの直前に近赤外線などによる輻射伝熱加熱が行われるものである。
【0012】
金属板1の種類は特に限定されるものではないが、ホットスタンプ用の金属板として代表的なものは、熱延鋼板、冷延鋼板、めっき鋼板である。ここで、めっき鋼板には、溶融亜鉛めっき、合金化溶融亜鉛めっき、または電気亜鉛めっき、合金化電気亜鉛めっき、溶融アルミニウムめっきや、Al、Mg、Si、Cr、Ni等を含有した亜鉛−合金めっきが施された鋼板などがあるが、ホットスタンプに適用できるのであれば、これらに限定されない。
【0013】
従来、金属板の形状が四角形ではない異型形状である場合には、断面積の小さい部分に電流が集中することとなるから、通電加熱では金属板全体を均一加熱することができなかった。そこで、本発明者は、波長が0.7〜2.5μmの近赤外線ランプを用いた輻射伝熱加熱によって金属製の金属板を所望の温度にまで加熱する方法を試みた。この方法によれば金属板が全体を均一に加熱することができる。しかし自動車用構造部品などとして用いられる金属板の多くは熱延鋼板や冷延鋼板、亜鉛めっきやアルミニウムめっきが施されためっき鋼板であり、近赤外線の大部分が金属板の表面で反射されてしまうため、輻射伝熱加熱による加熱効率は著しく低い。
【0014】
本発明者は、C:0.22質量%、Si:0.15質量%、Mn:2.0質量%、P:0.02質量%以下、S:0.005質量%以下、Ti:0.023質量%、Al:0.035質量%、B:15ppm、N:20ppmを含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成を有し、板厚が1.6mmの溶融亜鉛めっき鋼板を、短辺170mm、長辺440mmに切断し、近赤外線ランプを用いて20℃から850℃まで輻射伝熱加熱して鋼板の温度を測定した。この場合、近赤外線の反射率が高いために昇温速度は30℃/秒であったが、同じ条件で通電加熱した熱延鋼板では、昇温速度は58℃/秒であった。このように溶融亜鉛めっき鋼板を近赤外線により輻射伝熱加熱すると昇温速度は非常に低く、その結果として加熱コストが高くなり、加熱速度も遅く生産性が悪い。
【0015】
また本発明者は、金属板の特定部分のみを高温に加熱してホットスタンプを行うことにより、成形品に局部的に焼入れを行う方法を試みた。ところが、通電加熱によっても輻射伝熱加熱によっても金属板中の任意部分を集中的に加熱することは容易ではない。このような場合にはレーザー光線によるスポット加熱を行うこととなるが、レーザー加熱は設備コストが嵩むうえに生産性が悪いという問題がある。このため、金属板の特定部分を安価にかつ生産性よく加熱できる技術が求められていた。
【0016】
そこで本実施形態では、このような高反射率の金属板1の表面に、近赤外線などの輻射線の反射率を元の金属板1の表面よりも低下させる反射率低減処理を施す。反射率低減処理の具体的な手法としては、塗装、また、ブラストや圧延、レーザーなどによる凹凸付与、めっきや溶射による金属被覆、酸性溶液への浸漬による着色処理やエッチング、表層面の材質変更処理などを適用できるが、これら手法に限定されるものではない。なお、これらの反射率低減処理は金属板の片面だけに行っても、表裏両面に行っても良い。また加熱効率の改善を得るためには、反射率低減処理領域2の反射率は40%以下、好ましくは30%以下、さらに好ましくは25%以下であることが好ましい。なお、反射率は次のように測定した。すなわち、島津製分光光度計UV−3100PCと、マルチパーパース大型試料室MPC−3100とを用い、メルク社製BaSO4で2400〜300nm間のベースライン補正をした後、試験材をセットし、入射角8度で拡散反射を含む全反射スペクトルを測定した。得られた全反射スペクトルの波長に相当する反射率を、本発明における反射率と定義した。
【0017】
黒色系の塗装は、有機系あるいは無機系の黒色塗料を金属板1の表面に塗装することによって反射率を低減させる手法である。なお、完全な黒色である必要はなく、黒っぽい色彩であればよい。この方法はローラや塗装ガンを用いるだけで簡単に行うことができる。また、適宜のマスキングを行うことによって、金属板1の任意の部分だけに簡単に塗装を行うことができるが、スタンプする方法を用いれば、マスキングを行わずに金属板1の任意の部分だけに簡単に塗装を行うこともできる。さらに、黒色系の塗装では、例えば、金属板表面をアルコールなどで脱脂した後に例えば東海カーボン製アクアブラックを塗装することができる。
【0018】
金属板表面へ凹凸を付与する処理は、機械的な手法であるショットブラスト処理や圧延、レーザーによって反射率を低減させる手法である。また、何れの場合にも、適宜のマスキングを行うことによって、金属板1の任意の部分のみに凹凸を付与して、反射率を低減させることができる。なお、レーザーによる方法の場合は、マスキングによらずに任意の部分にのみレーザーを照射して凹凸を付与してもよい。
【0019】
ショットブラスト処理では、例えばブラスト#24、40、60、80などを用い、圧延では使用する圧延機の能力に合わせて圧延ロールの粗度を調整する。一方、レーザーによる方法では、CO2、YAG、ファイバーなど発信機の制約はなく、凹凸の与え方は、格子状、縞状、点列状に付与することができる。付与された凹凸は、例えば表面粗さRaで0.6μm以上、好ましくは0.8μm以上にすることが好ましい。
【0020】
黒色系のめっき処理は、例えば黒色無電解ニッケルめっきを行うことによって反射率を低減させる手法である。また、適宜のマスキングを行うことによって、金属板1の任意の部分のみめっき処理し、反射率を低減することができる。
【0021】
黒色系の溶射は、例えばAl23-TiO2系溶射材料など黒色系の物質をプラズマ溶射することによって反射率を低減させる手法である。なお、完全な黒色である必要はなく、黒っぽい色彩であればよい。また、適宜のマスキングを行うことによって、金属板1の任意の部分だけに簡単に溶射して反射率を低減することができる。
【0022】
酸性溶液への浸漬による着色処理は、例えばシュウ酸水溶液による黒色化処理によって反射率を低減させる手法である。また、適宜のマスキングを行うことによって、金属板1の任意の部分のみ処理し、反射率を低減することができる。
【0023】
化学的なエッチング処理は、例えば25℃の10%のHCl水溶液に10秒浸漬した後、水洗、乾燥する方法によって反射率を低減させる手法である。また、適宜のマスキングを行うことによって金属板1の任意の部分のみ処理し、反射率を低減することができる。
【0024】
表層面の材料変更処理は、温度60℃の塩化ニッケル六水和物の10%水溶液に5秒間浸漬した後、水洗、乾燥する黒色化方法によって反射率を低減させる手法である。また、適宜のマスキングを行うことによって、金属板1の任意の部分のみ処理し、反射率を低減することができる。
【0025】
(異強度部分を持つ金属加工品の製造)
自動車用の構造部品などでは、大きい荷重が加わる部分の強度を高くし、その他の部分は溶接性を考慮して強度を高めたくない場合がある。また、逆に、特定部分のみ強度を低下させておきたい場合もある。このような異強度部分を持つ金属加工品は、以上に記したような本実施形態で反射率低減処理領域が形成された金属板11を用いて、図3に示す手順によって製造できる。なお金属板11は、切断やプレスによる打抜き加工で得た金属板に反射率低減処理を行うほか、以下のような方法でも得ることができる。まず、切断やプレスによる打抜き加工を行う前に鋼帯等の金属素材の表面に対して反射率低減処理を施し、輻射伝熱効率が部分的に異なる部位を予め形成しておく。そして、切断やプレスによる打抜き加工を行って金属板11としてもよい。また、図4に示す例では、反射率低減処理領域の境界が明瞭であるが、輻射伝熱効率を連続的に変化させるように反射率低減処理領域を形成することも可能である。その場合には、反射率低減処理のレベルを連続的に変化させたり、板厚方向の処理の厚さを連続的に変化させたりすればよい。
【0026】
次に、この反射率低減処理を施した金属板11に対して、例えば、近赤外線(波長0.7〜2.5μm)、中赤外線(波長2.5μm〜4μm)、あるいは遠赤外線(波長4μm〜1mm)を照射し、金属板11全体を均等に輻射伝熱加熱する。近赤外線、中赤外線、あるいは遠赤外線を発生させる輻射伝熱加熱装置としては、ガス加熱炉や、電気加熱炉、赤外線ランプや赤外線ヒータを備えた通常の加熱装置、近赤外線ランプ、近赤外線ヒータなどがある。これにより、反射率を低減させて輻射伝熱効率を高くした中央部12は急速に加熱される。一方、その他の周縁部13は反射率が高く輻射伝熱効率が低いため、加熱速度は遅い。この結果、中央部12が高温であり周縁部13が比較的低温である加熱金属板を得る。なお、加熱金属板にホットスタンプを行う場合には、高温部は鋼材の金属組織がオーステナイト単相に変態する温度以上にまで昇温されるが、低温部はオーステナイト単相に変態を完了しない温度に留めておくことが好ましい。
【0027】
一般的な中赤外線や遠赤外線加熱の2.5μm以上の波長に占めるスペクトル量は50%程度である。これに対し、近赤外線加熱ではスペクトル量が90%程度であるので高いエネルギー密度を得ることができ、高速加熱が可能な加熱方式としてより好ましい。近赤外線で高速加熱することにより金属板11の反射率差の効果が大きく現れて金属板11に温度差を付け易い。一方、ガス加熱炉、電気加熱炉、赤外線ランプ、または赤外線ヒータで加熱すると、金属板11の温度差を小さくすることができる。
【0028】
次に、得られた加熱金属板に対して、冷却を伴う熱処理加工を行う。これは単なる焼入れ加工であってもよいが、好ましくはホットスタンプ加工である。ホットスタンプ加工は成形金型の内部で焼入れを行う加工法であり、反りやスプリングバックが極めて小さい状態でプレス加工が可能である。このような冷却を伴う熱処理加工を行うと、鋼材の金属組織がオーステナイト単相に変態する温度以上にまで昇温された中央部12は焼入れされて強度が著しく高くなり、オーステナイト単相に変態を完了していない周縁部13はほぼ元の強度のままとなる。
【0029】
図5は、ホットスタンプ開始前の加熱金属板の温度と、ホットスタンプによる焼入れ終了後のYP(降伏強度)、TS(引張強度)、EL(伸び率)との関係を示す図である。なお、金属板は、C:0.22質量%、Si:0.15質量%、Mn:2.0質量%、P:0.02質量%以下、S:0.005質量%以下、Ti:0.023質量%、B:15ppm、Al:0.035質量%、N:50ppm以下を含有し、残部がFe及び不可避的不純物の組成を有する鋼板であり、常温における引張強度(以下、単に強度)は600MPaである。図5に示すように、金属組織がオーステナイト単相に変態する800〜900℃まで加熱した後にホットスタンプによる焼入れを行うと、強度が1550MPaにまで著しく向上する。なお、加熱温度をオーステナイト単相に変態を完了していない700℃以下とすると、ホットスタンプによる焼入れを行っても強度上昇は認められない。
【0030】
このため、加熱金属板の中央部12を金属組織がオーステナイト単相に変態する温度以上、周縁部13をオーステナイト単相に変態を完了しない温度としておけば、中央部12のみが高強度であり、周縁部13は元の強度のままにすることができ、ビッカース硬さの差がHV180以上、好ましくはHV200以上であることを特徴とする異強度部分を持つ金属加工品を得ることができる。この金属加工品は荷重を受ける中央部12は強度が高く、溶接性が要求される周縁部13は元の強度のままであるため、自動車部品として用いるのに好適なものである。このように本実施形態によれば異強度部分を持つ金属加工品を容易に製造することができる。
【0031】
また、前述したように反射率低減処理のレベルを連続的に変化させたり、板厚方向の処理厚さを連続的に変化させたりしておくことにより、輻射伝熱効率を水平方向に連続的に変化させることができる。これに伴い、加熱速度も変化するので、加熱終了時には連続的な温度分布を得ることができる。例えば、図6に示すように、亜鉛めっき鋼板の金属板14に対し、中央部15の反射率低減処理の厚さを厚くし、周辺部16の処理厚さを中央部15より薄くし、周縁部17は反射率低減処理を施さないものとする。そして、中央部15を金属組織がオーステナイト単相に変態する温度以上に加熱することにより、周辺部16をオーステナイト単相に変態する近傍の温度とし、さらに、周縁部17をオーステナイト単相に変態を完了しない温度とする。これにより、中央部15は最も高強度となり、周辺部16は中央部15より強度が低いが周縁部17より強度が高く、周縁部17は元の強度のままにした異強度部分を持つ金属加工品を得ることができる。この金属加工品は、最も高い荷重を受ける中央部15で最も強度が高く、次に高い荷重を受ける周辺部16の強度が高く、溶接性が要求される周縁部14は元の強度のままであるため、自動車部品として用いるに好適なものである。このように本実施形態によれば、連続的に異強度部分を持つ金属加工品を容易に製造することができる。
【0032】
なお、異強度部分の配置は任意であり、図4に示す金属板11の中央部12や、図6に示す金属板14の中央部15及びその周辺部16のような位置以外に、異強度部分を配置してもよい。例えば、図7に示すように、折り曲げる位置を異強度部分とし、折り曲げ部分を強化したり、図8に示すように異強度部分をバンド状に形成したりしてもよい。
【0033】
従来法と比較した本発明方法の利点をまとめると次の通りである。
本実施形態に係る方法によれば、予め異種の金属板を溶接してテーラード金属板を製作したうえでこれを加工し、部分的に異なる強度を持たせるテーラードブランク法と比較すると、予備金属板加工や溶接加工が不要であり、複数種類の材料を用いる必要がない。このため、製造コストが安価になる。また、テーラードブランク法では強度変化部となる溶接線の位置や本数に制約があったが、本実施形態ではそのような制約はなく、自由な位置にマスキングをして反射率低減処理を行うことにより、自由な位置に自由な形状の異強度部分を形成することができる。
【0034】
また、部品成形前あるいは部品成形後の部分焼入れ法と比較すると、工程数が少なく設備費用が安価であるから製造コストが安価になる。また、部分焼入れ法よりも異強度部分の形状は配置の自由度が大きい。
【0035】
このように本実施形態によれば、単一の部品内で強度が必要な部分のみを強化することができるため、部品全体を強化する必要がなく、部品重量を軽量化することができる。また単一の部品内で強度を上昇させていない部位を設けることができるので、他の部品との溶接が容易である。更に温間あるいは熱間で成形するため、部品形状の自由度を大きくとれ、反りやスプリングバックを小さくできるという利点もある。
【0036】
(実施例1)
表1に、金属板に本発明による反射率低減処理を行い、その効果をまとめた。板厚が1.6mmの鋼板を、短辺170mm、長辺440mmに切断し、近赤外線ランプを用いて20℃から850℃まで輻射伝熱加熱した。加熱速度は、20℃から850℃まで温度差と加熱するのに要した時間との比で求めた。No.1〜10が実施例、No.11以下が比較例である。
【0037】
【表1】

【0038】
また本発明では、図2に示したように、マスキングすることによって金属板1の特定部分にのみ反射率低減処理領域2を形成することができる。
【0039】
上記したように、本発明によれば金属板1の特定部分にのみ反射率低減処理領域2を形成して輻射伝熱加熱するだけでよいため、レーザー加熱と比較して設備コストが嵩むこともなく、生産性良く部分的に異なる強度を持つ成形部品を得ることができる。従来のテーラードブランク部品と比較して安価に製作でき、異強度部分の配置が自由であり、単一種類の素材でよい等の多くの利点がある。
【0040】
(実施例2)
C:0.22質量%、Si:0.15質量%、Mn:2.0質量%、P:0.02質量%以下、S:0.005質量%以下、Ti:0.023質量%、Al:0.035質量%、B:15ppm、N:50ppm以下を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる組成を有し、板厚が1.6mmの溶融亜鉛めっき鋼板を、図4に示した形状に切断した。そのサイズは、短辺100mm,長辺170mm,高さ440mmであった。次に、溶融亜鉛めっき鋼板の中央部12に、塩化ニッケル六水和物の10%水溶液を塗布した後、水洗、乾燥する黒色化処理を0.6g/m2施し、反射率を低減させて輻射伝熱効率を高くした部分を形成した。なお、周縁部13は、黒色化処理を施していない。
【0041】
次に、近赤外線加熱装置によって中央部12を毎秒120℃の昇温速度で急速加熱するように、黒色化処理を施した溶融亜鉛めっき鋼板を加熱した。このとき、設定温度は850℃とした。その結果、中央部12は852℃にまで加熱されたが、輻射伝熱効率が低い周縁部13の到達温度は228℃であった。そして、成形荷重が200トンのホットスタンプ装置により、従来と同様に加熱された鋼板に対してホットスタンプ成形と金型内部における焼入れとを行った。
【0042】
成形体の引張強度(TS)を測定したところ、得られた成形体の中央部12の強度(TS)は1470MPaに達したが、周縁部13の強度は素材である溶融亜鉛めっき鋼板とほぼ同じ590MPaであり、同一部品中に異強度部分を形成することができた。本実施例で作製された成形体は、例えばセンターピラーリインフォースといった自動車用の骨格部品として用いるものであり、以上の結果から、高強度の領域を荷重負担領域とし、周縁部は溶接性に優れていることがわかる。このように本実施例で作製された成形体を用いることにより、他の部品とのスポット溶接等を容易に行うことができる。また、本実施例で作製された成形体は必要部分のみを強化したものであり、軽量化を図ることができるとともに、安価に製造できる。
【0043】
図9は、反射率低減として塩化ニッケル六水和物の10%水溶液を塗布した後、水洗、乾燥する黒色化処理を施した金属板を近赤外線加熱したときの黒色化処理量と加熱速度との関係を示す特性図である。図9に示すように、黒色化処理の厚さを大きくすると加熱速度は向上することがわかる。なお、図9に示す特性の金属板は、C:0.22質量%、Si:0.15質量%、Mn:2.0質量%、P:0.02質量%以下、S:0.005質量%以下、Ti:0.023質量%、Al:0.035質量%、B:15ppm、N:50ppm以下を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる組成を有する鋼板であり、常温強度は600MPaである。
【0044】
(実施例3)
実施例2で用いた溶融亜鉛めっき鋼板と同様の組成を有し、板厚が1.6mmの溶融亜鉛めっき鋼板を、図6に示した形状に切断した。そのサイズは、短辺100mm、長辺170mm、高さ440mmである。次に、切断した溶融亜鉛めっき鋼板の中央部15及び周辺部16に塩化ニッケル六水和物の10%水溶液を塗布した後、水洗、乾燥する黒色化処理を行った。このとき、図6に示す形状のように、中央部15は0.6g/m2黒色化処理を施し、周辺部16は0.3g/m2黒色化処理を施して、反射率を低減させて輻射伝熱効率を高くした部分を形成した。なお、周縁部17は黒色化処理を施していない。
【0045】
次に、近赤外線加熱装置によって、中央部15を毎秒120℃の昇温速度で急速加熱するように、黒色化処理を施した溶融亜鉛めっき鋼板を加熱した。このとき、設定温度は850℃とした。その結果、中央部15は852℃にまで加熱され、黒色化処理の厚さが中央部15よりも小さい周辺部16は800℃まで加熱された。一方、輻射伝熱効率の低い周縁部17の到達温度は228℃であった。そして、成形荷重が200トンのホットスタンプ装置により、従来と同様に加熱された鋼板に対してホットスタンプ成形と金型内部における焼入れとを行った。
【0046】
成形体の引張強度(TS)を測定したところ、得られた成形体の中央部15の強度(TS)は1470MPaに達し、周辺部16の強度(TS)は1000MPaに達した。一方、周縁部17の強度は素材である溶融亜鉛めっき鋼板とほぼ同じ590MPaであり、同一部品中に異強度部分を形成することができた。本実施例で作製された成形体は、例えばセンターピラーリインフォースメントといった自動車用の骨格部品として用いるものであり、以上の結果から、高強度の領域を荷重負担領域とし、周縁部は溶接性に優れていることがわかる。このように本実施例で作製された成形体を用いることにより、他の部品とのスポット溶接等を容易に行うことができる。また、本実施例で作製された成形体は必要部分のみを強化したものであり、軽量化を図ることができるとともに、安価に製造できる。
【0047】
(参考例)
実施例2で用いた溶融亜鉛めっき鋼板と同様の組成を有し、板厚が1.6mmの溶融亜鉛めっき鋼板を、図10に示した形状に切断した。そのサイズは、幅135mm、長さ440mmである。次に、溶融亜鉛めっき鋼板からなる金属板8の全面に、塩化ニッケル六水和物の10%水溶液を5秒間塗布した後、水洗、乾燥する黒色化処理を0.6g/m2施し、反射率を低減させて輻射伝熱効率を高くした処理を施した。
【0048】
次に、近赤外線加熱装置によって黒色化処理を施した金属板8を毎秒120℃の昇温速度で急速加熱した。このとき、設定温度は850℃とした。その結果、金属板8は全面において852℃にまで加熱された。成形荷重が200トンのホットスタンプ装置により、従来と同様に加熱された金属板8に対してホットスタンプ成形と金型内部における焼入れとを行った。
【0049】
成形体の引張強度(TS)を測定したところ、得られた成形体は、全体の強度(TS)が1470MPaに達した。異強度部分は形成されていないが、素材である溶融亜鉛めっき鋼板の表面のままよりも高速で加熱することができた。参考例で作製した成形体は例えばサイドシルといった自動車用の骨格部品として用いるものである。参考例で作製した成形体は全体を強化したものであり、軽量化を図ることができるとともに、安価に製造できる。
【0050】
(比較例)
実施例2と同様の組成を有し、板厚が1.6mmの溶融亜鉛めっき鋼板を、図11に示した形状に切断した。そのサイズは、幅135mm、長さ440mmである。そして、金属板9には反射率を低減させる黒色化処理は施さず、近赤外線加熱装置によって、実施例2と同じ条件で加熱した。このとき、設定温度は850℃とした。その結果、金属板9の全面が852℃に加熱されるまで、実施例2で要した時間の約2.5倍の時間を要した。次に、成形荷重が200トンのホットスタンプ装置により、従来と同様に加熱された金属板9に対してホットスタンプ成形と金型内部における焼入れとを行った。
【0051】
成形体の引張強度(TS)を測定したところ、得られた成形体は、全体の強度(TS)が1470MPaに達した。異強度部分は形成されていないが、反射率を低減させる黒色化処理を行っていないので、低速での昇温となり、多くの時間を要した。比較例で作製した成形体は、例えばサイドシルといった自動車用の骨格部品として用いるものである。比較例で作製した成形体は、全体を強化したものであり、軽量化を図ることができるが、生産性が低く安価に製造できない。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明によれば、近赤外線の反射率を元の金属板の表面よりも低下させた反射率低減処理領域において近赤外線の吸収率が高まり、加熱効率を高めることができる。このため、輻射伝熱加熱によって従来よりも低コストで生産性よく金属板の特定部分のみを集中的に加熱することが可能となる。
【0053】
また、本発明の他の特徴によれば、金属板の特定部分に対して黒色系の塗装、ブラストや圧延、レーザーなどによる凹凸付与、めっきや溶射による金属被覆、酸性溶液への浸漬による着色処理やエッチング、または表層面の材質変更処理などを適用することにより上記のような輻射伝熱加熱用金属板を安価に製造することができる。
【0054】
また、本発明のその他の特徴によれば、金属板の表面に輻射伝熱効率が部分的に異なる部位を形成する処理と、輻射伝熱加熱とを組み合わせることによって、金属板の温度を意識的に変化させておき、ホットスタンプ加工や焼入れや等の冷却を伴う熱処理加工を行うことによって、強度の異なる部分を持つ金属加工品を製造することができる。このように金属板の表面の輻射伝熱効率が部分的に異なるようにする処理は、塗装、ブラストや圧延、レーザーなどによる凹凸付与、めっきや溶射による金属被覆、酸性溶液への浸漬による着色処理やエッチング、または表層面の材質変更処理などを適用することよって安価に行うことができるため、コストアップが小さく済む。また、これらの処理は生産性よく行うことができるうえ、輻射伝熱効率が部分的に異なる部位として自由な位置を選択することができるので、部品設計の自由度が高くなるなど、多くの利点がある。
【符号の説明】
【0055】
1 金属板
2 反射率低減処理領域
11、14 金属板
12、15 中央部
13、17 周縁部
16 周辺部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
輻射伝熱加熱が行われる金属板の表面の一部に、塗装、凹凸付与、金属被覆、酸性溶液への浸漬による着色処理、エッチング、及び塩化ニッケル六水和物水溶液による浸漬のうちのいずれかの処理を行い、当該金属板の表面の一部の輻射線の反射率を低下させていることを特徴とするホットスタンプ加工に用いる異強度部分を持つ金属加工品の製造に適した輻射伝熱加熱用鋼板。
【請求項2】
前記金属板の表面の一部の輻射線の反射率を低下させた領域の反射率が、40%以下の反射率であることを特徴とする請求項1記載のホットスタンプ加工に用いる異強度部分を持つ金属加工品の製造に適した輻射伝熱加熱用鋼板。
【請求項3】
前記金属板が、めっき鋼板であることを特徴とする請求項1記載のホットスタンプ加工に用いる異強度部分を持つ金属加工品の製造に適した輻射伝熱加熱用鋼板。
【請求項4】
輻射伝熱加熱が行われる金属板の表面の一部に、塗装、凹凸付与、金属被覆、酸性溶液への浸漬による着色処理、エッチング、及び塩化ニッケル六水和物水溶液による浸漬のうちのいずれかの処理を行い、当該金属板の表面の一部の輻射線の反射率を低下させることを特徴とするホットスタンプ加工に用いる異強度部分を持つ金属加工品の製造に適した輻射伝熱加熱用鋼板の製造方法。
【請求項5】
前記いずれかの処理においては、40%以下の反射率にすることを特徴とする請求項4記載のホットスタンプ加工に用いる異強度部分を持つ金属加工品の製造に適した輻射伝熱加熱用鋼板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−152589(P2011−152589A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−102985(P2011−102985)
【出願日】平成23年5月2日(2011.5.2)
【分割の表示】特願2010−550941(P2010−550941)の分割
【原出願日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】