説明

ホットチャンバ式ダイカスト装置

【課題】鋳込み時の空気の巻き込みを防止できるホットチャンバ式ダイカスト装置を提供する。
【解決手段】ホットチャンバ式ダイカスト装置10は、アルミニウム系金属の溶湯12を貯留するポット14,主筒部16,射出プランジャ22,ノズル40により構成される。主筒部16は、シリンダ16Aとグースネック16Bが底部側で接続しており、シリンダ16Aには吸込口20からポット14内の溶湯12が供給される。射出プランジャ側面22Aには、射出プランジャ22が射出戻り位置にある状態で、その底部22Bから前記主筒部16の上端を超える位置に達するように溝24が形成される。鋳込み完了後、ノズル40を金型50から離して射出プランジャ22が戻るときに、ノズル先端部42から吸い込んだ空気がシリンダ16A内に残っても、溝24に沿って空気が排出され、次回鋳込み時の空気の巻き込みを防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホットチャンバ式ダイカスト装置に関し、更に具体的には、アルミニウム又はアルミニウム合金鋳造用のホットチャンバ式ダイカスト装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム又はアルミニウム合金(以下「アルミニウム系金属」という)の鋳造を行うダイカスト法には、ホットチャンバ式とコールドチャンバ式がある。このうち、ホットチャンバ式のダイカスト鋳造技術としては、例えば、下記特許文献1に示すホットチャンバ式ダイカスト装置がある。このようなホットチャンバ式のダイカスト装置は、一般的に、図9に示すような構造となっている。図9(A)〜(C)に示すホットチャンバ式ダイカスト装置150では、金属のインゴットを溶融した溶湯154を一定温度で保持するポット152の内側に、シリンダ156Aとグースネック156Bからなる主筒部156が設置されており、前記シリンダ156Aには、側面に設けられた吸込口158からポット152内の溶湯154が供給されている。また、前記シリンダ156Aの内側には、図示しない駆動機構によって上下動可能な射出プランジャ160が設けられており、前記グースネック156Bには、ノズル162が接続されている。金型170は、固定型172と可動型174によって構成されており、内側にキャビティ176が形成されている。前記射出プランジャ160によってシリンダ156Aの溶湯を加圧することによって、グースネック156Bとノズル162を介して、溶湯154を前記キャビティ176に圧入することができる。キャビティ176に圧入された溶湯154は、凝固したあと成形品として金型170から取り出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−205412号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した背景技術には、次のような問題がある。図9(A)に示す鋳込み完了後、図9(B)に示すように、ノズル162の先端部164を金型170のノズルタッチ部178から離間して射出プランジャ160が戻るとき、ノズル先端部164から吸い込まれた空気が、ノズル162,グースネック156Bを通過してシリンダ156A内に達することがある。すると、図9(C)に示すように、次サイクルまでシリンダ156A内に空気が残り、次回鋳込み時に空気を巻き込んでしまうという不都合がある。
【0005】
この他にも、射出時に、シリンダ156Aの底部のメクラ栓157の隙間から溶湯154が漏れると、製品部(キャビティ176)に圧力が伝わらずに大きな引け巣が発生するという不都合がある。また、金型170側のノズルタッチ部178の温度が低くなると、ノズル先端部164が凝固し、次サイクル時に溶湯154が金型170に供給されなくなり、反対に、前記ノズルタッチ部178の温度が高くなると、ノズル先端部164の離間時に、溶湯154が飛び散ってノズル先端部164に付着して、次サイクル時にこの部分から溶湯154が噴出するおそれがある。更に、射出プランジャ160の表面に付着した溶湯154の酸化による動作不良や、主筒部156の外径中心とボア中心(すなわちシリンダ156Aの内径中心)のずれによる扁摩耗及び曲げ応力の影響などの不都合も生じる。
【0006】
本発明は、以上のような点に着目したもので、鋳込み時の空気の巻き込みを良好に防止することができるアルミニウム又はアルミニウム合金を鋳造するホットチャンバ式ダイカスト装置を提供することである。他の目的は、前記空気の巻き込み防止に加え、シリンダからの溶湯の漏れ防止,ノズルタッチ部の温度制御,射出プランジャ表面の溶湯の酸化による動作不良の防止,主筒部の外径中心とボア中心のずれによる扁摩耗及び曲げ応力の影響の低減の少なくともいずれかが可能なホットチャンバ式ダイカスト装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、アルミニウム又はアルミニウム合金を鋳造するためのホットチャンバ式ダイカスト装置であって、溶湯が貯留されるポット内に設置されており、前記ポット内の溶湯を吸い込むための吸込口が側面に形成されたシリンダと、該シリンダと連接しており底部側で接続するグースネックとが設けられた主筒部,前記グースネックから金型へ溶湯を導くノズル,駆動手段によって前記シリンダ内を上下動し、該シリンダ内の溶湯を加圧する射出プランジャ,該射出プランジャが射出戻り位置にある状態で、該射出プランジャの底部から前記主筒部の上端を超える位置に達するように、前記射出プランジャに形成されたエア抜き通路,を備えたことを特徴とする。
【0008】
主要な形態の一つは、前記エア抜き通路が、前記射出プランジャの側面に形成された溝であること,あるいは、前記エア抜き通路が、前記射出プランジャの底面から、該射出プランジャの内側を通過して側面に貫通する孔であることを特徴とする。
【0009】
他の発明は、アルミニウム又はアルミニウム合金を鋳造するためのホットチャンバ式ダイカスト装置であって、溶湯が貯留されるポット内に設置されており、前記ポット内の溶湯を吸い込むための吸込口が側面に形成されたシリンダと、該シリンダと連設しており底部側で接続するグースネックとが設けられた主筒部,前記グースネックから金型へ溶湯を導くノズル,駆動手段によって前記シリンダ内を上下動し、該シリンダ内の溶湯を加圧する射出プランジャ,該射出プランジャが射出戻り位置にある状態で、該射出プランジャとシリンダ内の溶湯表面との隙間に相当する位置から、前記主筒部の上端に達する位置まで、前記シリンダの内周面に形成されたエア抜き通路,を備えたことを特徴とする。
【0010】
更に他の発明は、アルミニウム又はアルミニウム合金を鋳造するためのホットチャンバ式ダイカスト装置であって、溶湯が貯留されるポット内に設置されており、前記ポット内の溶湯を吸い込むための吸込口が側面に形成されたシリンダと、該シリンダと連設しており底部側で接続するグースネックとが設けられた主筒部,前記グースネックから金型へ溶湯を導くノズル,駆動手段によって前記シリンダ内を上下動し、該シリンダ内の溶湯を加圧する射出プランジャ,該射出プランジャが射出戻り位置にある状態で、該射出プランジャとシリンダ内の溶湯表面との隙間に相当するシリンダ内周面から、前記主筒部の外周面まで貫通したエア抜き通路,を備えたことを特徴とする。主要な形態の一つは、前記エア抜き通路は、シリンダの内周面側が低く、主筒部の外周面側が高くなるように傾斜していることを特徴とする。
【0011】
更に他の発明は、アルミニウム又はアルミニウム合金を鋳造するためのホットチャンバ式ダイカスト装置であって、溶湯が貯留されるポット内に設置されており、前記ポット内の溶湯を吸い込むための吸込口が側面に形成されたシリンダと、該シリンダと連設しており底部側で接続するグースネックとが設けられた主筒部,前記グースネックから金型へ溶湯を導くノズル,駆動手段によって前記シリンダ内を上下動し、該シリンダ内の溶湯を加圧する射出プランジャ,該射出プランジャが射出戻り位置にある状態で、該射出プランジャとシリンダ内の溶湯表面との隙間に相当するシリンダ内周面から、前記グースネック側へ貫通したエア抜き通路,を備えたことを特徴とする。
【0012】
更に他の発明は、アルミニウム又はアルミニウム合金を鋳造するためのホットチャンバ式ダイカスト装置であって、溶湯が貯留されるポット内に設置されており、前記ポット内の溶湯を吸い込むための吸込口が側面に形成されたシリンダと、該シリンダと連設しており底部側で接続するグースネックとが設けられた主筒部,前記グースネックから金型へ溶湯を導くノズル,駆動手段によって前記シリンダ内を上下動し、該シリンダ内の溶湯を加圧する射出プランジャ,を備えるとともに、前記グースネック及びノズルは、前記射出プランジャが戻るときに前記シリンダ内に空気を引き込まないように設定された内容積を有することを特徴とする。
【0013】
主要な形態の一つは、前記射出プランジャの駆動手段は、鋳込み時に、射出戻り位置にある射出プランジャを前記吸込口付近まで低速に動作させることを特徴とする。他の形態は、前記主筒部を、底面が閉塞しており前記シリンダを形成する内筒と、該内筒の外周面を覆う外筒の嵌め込みにより構成したことを特徴とする。更に他の形態は、前記金型のノズルタッチ部の温度を測定し、所定の温度に調節する温度調節手段,を設けたことを特徴とする。
【0014】
更に他の形態は、前記主筒部の上方において、前記射出プランジャの外周面に沿って設けられた配管,前記射出プランジャの外周面に向けて、前記配管に略等間隔で複数設けられた穴,前記配管に不活性ガスを供給する不活性ガス供給手段,を設けたことを特徴とする。更に他の形態は、前記射出プランジャの外径中心,前記主筒部の外径中心,前記シリンダの内径中心が、一致することを特徴とする。更に他の形態は、前記シリンダの底部に設けられており、該シリンダ内部方向にのみ流動可能な第1の逆止弁,前記グースネック又はノズルの射出流路中に設けられており、溶湯の射出方向にのみ流動可能な第2の逆止弁,を備えたことを特徴とする。本発明の前記及び他の目的,特徴,利点は、以下の詳細な説明及び添付図面から明瞭になろう。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、シリンダとグースネックが連設しており溶湯が貯留されたポット内に設置された主筒部と、グースネックから金型へ溶湯を導くノズルと、シリンダ内を上下動して該シリンダ内の溶湯を加圧する射出プランジャとを備えたアルミニウム又はアルミニウム合金を鋳造するためのホットチャンバ式ダイカスト装置において、射出プランジャが射出戻り位置にあるときに、シリンダ内に吸い込んだ空気を排出するエア抜き通路を射出プランジャ又は主筒部に設けるか、あるいは、前記射出プランジャが戻るときに前記シリンダ内に空気を引き込まないようにグースネック及びノズルの内容積を設定したので、鋳込み時の空気の巻き込みを防止できるという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施例1を示す主要断面図である。
【図2】本発明の実施例2を示す主要断面図である。
【図3】本発明の実施例3を示す図であり、(A)は主要断面図,(B)は前記(A)を#A−#A線に沿って切断し矢印方向に見た断面図である。
【図4】前記実施例3の比較例を示す図であり、(A)は主要断面図,(B)は前記(A)を#B−#B線に沿って切断し矢印方向に見た断面図である。
【図5】本発明の実施例4を示す主要断面図である。
【図6】本発明の実施例5を示す主要断面図である。
【図7】本発明の実施例6を示す主要断面図である。
【図8】本発明の他の実施例を示す図である。
【図9】背景技術の一例を示す主要断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、実施例に基づいて詳細に説明する。
【実施例1】
【0018】
最初に、図1を参照しながら本発明の実施例1を説明する。図1は、本実施例の構造を示す主要断面図である。本実施例のホットチャンバ式ダイカスト装置10は、アルミニウム又はアルミニウム合金(以下「アルミニウム系金属」という)の溶湯12を、一定温度で保持するポット14と、該ポット14の内側に保持された主筒部16と、射出プランジャ22及びその駆動機構(図示せず)と、溶湯12を金型50へ導くノズル40により構成されている。前記主筒部16は、例えばセラミックなどにより構成されており、シリンダ16Aとグースネック16Bを有し、これらシリンダ16Aとグースネック16Bが底部側で接続するように連設している。前記シリンダ16Aの側面には、略水平に形成された吸込口20が設けられており、該吸込口20から前記ポット14内の溶湯12がシリンダ16A内に供給される。前記シリンダ16Aの底部にはメクラ栓18が設けられ、前記グースネック16Bの底部と側面にもメクラ栓28,30が設けられている。前記グースネック16Bの上端部の接続口32にはノズル40が接続されている。
【0019】
一方、金型50は、固定型52と可動型54により構成されており、その内側にキャビティ56が形成されている。前記固定型52には、ノズル先端部42が密着されるノズルタッチ部58が設けられている。前記射出プランジャ22を図示しない駆動機構によって駆動し、シリンダ16Aの溶湯12を加圧することによって、グースネック16B及びノズル40を介して、溶湯12を前記キャビティ56に圧入することができる。キャビティ56に圧入された溶湯12は、凝固したあと成形品として金型50から取り出される。
【0020】
本実施例では、前記プランジャ22の側面22Aに、エア抜き通路として溝24が形成されている。該溝24は、前記射出プランジャ22が射出戻り位置にある状態で、射出プランジャ底部22Bから前記主筒部16の上端を超える位置に達するように、形成されている。このため、鋳込み完了後、ノズル40を金型50から離し、射出プランジャ22が戻るときに、ノズル先端部42から空気を吸い込んで、シリンダ16A内に残ったとしても、前記溝24に沿って空気が外部に排出されるため、次回の鋳込み時に空気が巻き込まれるのを防止することができる。なお、本実施例では、前記溝24を形成できる程度に、射出プランジャ22のストロークが長く設定されている。
【0021】
このように、実施例1によれば、射出プランジャ22が射出戻り位置にある状態で、射出プランジャ底部22Bから前記主筒部16の上端を超える位置に達するように、射出プランジャ側面22Aに、エア抜き用の通路として溝24を設けたので、鋳込み完了後にシリンダ16A内に浸入した空気を排出して、次回鋳込み時の空気の巻き込みを防止できるという効果がある。
【実施例2】
【0022】
次に、図2を参照しながら本発明の実施例2を説明する。図2は、本実施例の主要断面図である。なお、上述した実施例1と同一ないし対応する構成要素には同一の符号を用いることとする(以下の実施例についても同様)。本実施例も上述した実施例1と同様に、射出プランジャ22にエア抜き通路を設けた例である。図2に示すように、本実施例のホットチャンバ式ダイカスト装置60は、射出プランジャ22の底部22Bから軸方向に沿って上方に向けて形成された孔62と、該孔62と接続し、かつ、前記射出プランジャ22を軸方向と略直交する方向に貫通した貫通孔64を備えている。前記貫通孔64は、射出プランジャ22が射出戻り位置にある状態で、前記主筒部16の上端を超える位置に形成されている。このため、鋳込み完了後にシリンダ16Aに浸入した空気を、孔62及び貫通孔64を介して排出し、次回鋳込み時の空気の巻き込みを防止することができる。
【実施例3】
【0023】
次に、図3及び図4を参照しながら、本発明の実施例3を説明する。図3(A)は本実施例の主要断面図,図3(B)は前記(A)を#A−#A線に沿って切断し矢印方向に見た断面図である。図4(A)は比較例の主要断面図,図4(B)は前記(A)を矢印#B−#B線に沿って切断し矢印方向に見た断面図である。上述した実施例1及び2は、エア抜き通路を射出プランジャ側に設けた例であるが、本実施例は、主筒部72側にエア抜き通路を設けた例である。本実施例のホットチャンバ式ダイカスト装置70では、主筒部72に、シリンダ16Aの内周面から主筒部16の外周面まで貫通するとともに、前記内周面側が低く、外周面側が高くなるように傾斜した貫通孔74が設けられている。
【0024】
該貫通孔74の内周面側は、例えば、前記射出プランジャ22の射出戻り位置(後退限度位置)を穴中心としており、射出プランジャ底部22Bとシリンダ16A内の溶湯12の表面との隙間に位置している。また、前記貫通孔74と吸込口20の内周面側の高さは同じとしてもよいし、その周方向の位置は前記吸込口20と同じであってもよいし異なっていてもよい。シリンダ16A内に吸い込まれた空気を、水平な吸込口20からのみ排出するとなると、空気とアルミニウム系金属の溶湯が混ざった泡は粘度があるため排出は困難であるが、アルミニウム系金属の溶湯に混じった泡は軽く、溶湯面に浮くため、上述した傾斜した貫通孔74を設けることにより、排出が可能となる。
【0025】
また、本実施例では、図3(B)に示すように、主筒部72の外径中心P1と、シリンダ16Aの内径及び射出プランジャ22の外径の中心P2が一致している。このように、シリンダ16Aの内周面と主筒部72の外径の芯が一致することにより、アルミニウム系金属の溶湯温度(650℃〜760℃)による熱膨張が内径の角度によらず一定となり、射出プランジャ22の摺動にともなう摩擦が角度によらず一定となって、ほぼ真円が維持できる。すなわち、図4(A)及び(B)に示す比較例(図示の例は、実施例1のホットチャンバ式ダイカスト装置10)のように、主筒部16の外径中心P1と、シリンダ16Aの内周面及び射出プランジャ22の外径の中心P2がずれた状態であると、扁磨耗による早期湯漏れが生じるが、そのような問題を解消することができる。また、射出プランジャ22とシリンダ16Aの内周面の再研磨までの寿命が長くなり、また、研磨量も減少するため、補修費用の低減と射出プランジャ22及びシリンダ16Aの寿命ショット数が増加し、コストダウンを図ることができる。
【0026】
更に、比較例のように、主筒部16の外径中心P1と、シリンダ16Aの内周面及び射出プランジャ22の外径の中心P2がずれた状態では、射出プランジャ22の中心P2と主筒部16の外径中心P1が異なるオフセット状態のため、溶湯射出にともない主筒部16に回転力が働き、熱膨張による不均一な接触も伴って、射出プランジャ22に曲げ力が発生すると推測される。これに対し、本実施例のように前記中心P1とP2を一致させることで、曲げ力が減少し、射出プランジャ22の折れを減少させることができる。同時に、シリンダ16Aの内径に発生するせん断力も減少することから、主筒部72の割れも減少するという効果がある。
【0027】
このほか、本実施例では、シリンダ16A内に溶湯12を吸入するため、シリンダ16Aの底部に、シリンダ16Aの内部方向にのみ流動可能な逆止弁76が吸込口として設置されるとともに、グースネック16B又はノズル40の射出流路中にも、射出方向のみに流動可能な逆止弁78が設置されている(図示の例ではグースネック16B内に逆止弁78が設けられている)。これら逆止弁76,78としては、金属粉体とセラミックス粉体の混体とし、表面はSiNに覆われた状態とする。また、逆止弁76,78の初期動作を動機付けるため、Ar等の不活性ガスを下部より噴射してもよい。射出終了後の射出プランジャ22が戻るとき、ノズル40内やグースネック16B内の溶湯12に位置エネルギーがあることや、管路抵抗が少ないことから、ノズル40内やグースネック16B内の溶湯12は容易にシリンダ16A内に戻り、ノズル40やグースネック16Bから同時に空気も流入する。このとき、ノズル40又はグースネック16B内にも射出方向のみに流動可能な逆止弁78を設置することにより、シリンダ16Aの下部の逆止弁76が安定して動作可能となる。また、逆止弁76,78を開くための不活性ガスをバルブ下部より噴射することで、更に逆止弁76,78の動作が安定し、良好な製品を得ることができる。この場合、不活性ガスは、速やかに、貫通孔74から排出される。
【実施例4】
【0028】
次に、図5を参照しながら本発明の実施例4について説明する。図5は、本実施例の主要断面図である。本実施例も、上述した実施例3と同様に、主筒部側にエア抜き通路を設けた例である。本実施例のホットチャンバ式ダイカスト装置80は、シリンダ16Aの内周面に、エア抜き用の溝82が設けられている。該溝82は、射出プランジャ22が射出戻り位置にある状態で、該射出プランジャ22とシリンダ16A内の溶湯12の表面との隙間に相当する位置から、前記主筒部16の上端に達する位置まで形成されている。このような溝82を設けることにより、鋳込み完了後にシリンダ16A内に引き込まれた空気を溝82に沿って排出し、次回鋳込み時の空気の巻き込みを防止することができる。
【実施例5】
【0029】
次に、図6を参照しながら本発明の実施例5について説明する。図6は、本実施例の主要断面図である。本実施例も、上述した実施例3及び4と同様に、主筒部側にエア抜き用通路を設けた構造となっている。図6に示すホットチャンバ式ダイカスト装置90は、シリンダ16Aからグースネック16Bにかけて貫通孔92が設けられている。該貫通孔92は、前記射出プランジャ22が射出戻り位置にある状態で、該射出プランジャ22とシリンダ16A内の溶湯12の表面の隙間に相当する位置から、グースネック16Aとノズル40の接続口32に向けて形成されている。このような貫通孔92を設けることにより、鋳込み完了後にシリンダ16A内に引き込まれた空気を、グースネック16Bを介してノズル40側へ排出し、次回鋳込み時の空気の巻き込みを防止することができる。
【実施例6】
【0030】
次に、図7を参照しながら本発明の実施例6を説明する。図7は、本実施例の主要断面図である。上述した実施例1〜5は、射出プランジャ又は主筒部のいずれかにエア抜き通路を設ける構造としたが、本実施例は、グースネック及びノズルの内容積の設定によって空気の巻き込みを防止する例である。図7に示すホットチャンバ式ダイカスト装置100は、ノズル40の内径D1及びグースネック16Bの内径D2が、実施例1のダイカスト装置10よりも大きく、これらグースネック16B及びノズル40は、射出プランジャ22が戻るときに、シリンダ16A内に空気を引き込まないように設定された内容積を有している。本実施例の構造とすることにより、射出プランジャ22が戻るときにシリンダ16A内に空気を引き込まないため、次回鋳込み時に空気の巻き込みが生じない。
【0031】
なお、本発明は、上述した実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることができる。例えば、以下のものも含まれる。
(1)図8(A-1)及び(A-2)に示すホットチャンバ式ダイカスト装置110は、上述した実施例1の構造に加え、プランジャストロークを長くして射出戻り位置を変更する,すなわち、射出プランジャ底部22Bと吸込口20までの間隔Iを大きく設定した例である。プランジャストロークを長くし、鋳込み完了位置(図8(A-1)の位置)にある射出プランジャ22を、図8(A-2)に示すように吸込口20付近まで低速で動作させて、シリンダ16Aに吸い込んだ空気を前記吸込口20から排出させることで、鋳込み時の空気の巻き込みを防止する構成としてもよい。他の実施例2〜6についても同様である。
【0032】
(2)図8(B)に示すホットチャンバ式ダイカスト装置120は、上述した実施例1において、シリンダ16Aのメクラ栓18の隙間から溶湯12が漏れて、製品部(キャビティ56)に圧力が伝わらずに大きな引け巣が発生するのを防止するためのもので、主筒部122は、底面が閉塞しておりシリンダ16Aを形成する内筒124Aと、該内筒124Aの外周面を覆う外筒124Bの嵌め込み構造(締まりバメ)となっている。このような構成とすることで、主筒部122にメクラ栓を設ける必要がなくなるため、漏れを防止し、製品部への圧力の伝播を良好にすることができる。
【0033】
また、図8(B)に示すホットチャンバ式ダイカスト装置120では、固定型52のノズルタッチ部58に、該ノズルタッチ部58の温度を測定し、所定の温度に調節する温度調節手段として熱電対126が設けられている。ノズルタッチ部58の温度が低いとノズル先端部42が凝固し、次サイクル時溶湯が金型50に供給されなくなり、反対に、ノズルタッチ部58の温度が高くなると、ノズル40を金型50から離間したときに、溶湯12が飛び散ってタッチ部に付着して、次サイクル時にこの部分より溶湯12が噴出してしまう。そこで、前記ノズルタッチ部58の温度を測定し、300〜500℃になるように熱電対126で制御することで、連続鋳造を行うことが可能となる。むろん、このような熱電対126や主筒部122の嵌め込み構造は、実施例2〜6に適用してもよい。
【0034】
(3)図8(C)には、射出プランジャ22の表面に付着した溶湯12の酸化による動作不良を防止する構成が示されている。図8(C)に示すホットチャンバ式ダイカスト装置130は、上述した実施例1のダイカスト装置10の構成に加え、主筒部16の上方において、射出プランジャ22の外周面に沿って銅管132を設けた構成となっている。前記銅管132には、前記射出プランジャ22の外周面に向けて複数の穴134が略等間隔で形成されており、更に、図示しない不活性ガス供給源から不活性ガスを供給するための配管136が接続されている。前記配管136及び銅管132を介して穴134から射出プランジャ22に向けて微量の不活性ガス(例えば、Arガス)138を流し続けることにより、不活性ガス138が射出プランジャ22の外周面をカバーして伝わり、溶湯12の表面を覆って酸化を防ぐ。このような構成とすることにより、上下に動作する射出プランジャ22の表面に付着したアルミニウム系金属の溶湯12が酸化しないため、射出プランジャ22の動作不良の発生を防止することができる。更に、射出プランジャ22とシリンダ16Aの摩擦低減を図ることもできる。同時に、不活性ガス138が溶湯12の表面を覆うことにより、表面に酸化被膜が形成されないので、溶湯12の品質が安定する。なお、不活性ガス138としては、前記Arガスのほか、窒素ガスを用いるようにしてもよい。むろん、上述した銅管132を、実施例2〜6に適用してもよい。
【0035】
(4)上述した実施例で示した形状,寸法は一例であり、必要に応じて適宜変更してよい。
(5)図8(B)に示す例では、金型50側に熱電対126を設けることとしたが、ノズル40側にもヒータを設けるようにしてもよい。
(6)前記実施例3では、主筒部70の外径中心P1と、シリンダ16Aの内周及び射出プランジャ22の外径の中心P2を一致させることとしたが、他の実施例1,2,4〜6についても同様に中心1,2を一致させるようにしてもよい。
(7)主筒部にエア抜き通路を設けた例(図3,図5,図6の例)では、射出プランジャ22がリングタイプの場合にも適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明によれば、シリンダとグースネックが連設しており溶湯が貯留されたポット内に設置された主筒部と、グースネックから金型へ溶湯を導くノズルと、シリンダ内を上下動して該シリンダ内の溶湯を加圧する射出プランジャとを備えており、射出プランジャが射出戻り位置にあるときに、シリンダ内に吸い込んだ空気を排出するエア抜き通路を射出プランジャ又は主筒部に設けるか、前記射出プランジャが戻るときに前記シリンダ内に空気を引き込まないようにグースネック及びノズルの内容積を設定して、鋳込み時の空気の巻き込みを防止することとしたので、アルミニウム又はアルミニウム合金の溶湯を鋳造するホットチャンバ式ダイカスト装置の用途に適用できる。
【符号の説明】
【0037】
10:ホットチャンバ式ダイカスト装置
12:溶湯
14:ポット
16:主筒部
16A:シリンダ
16B:グースネック
18:メクラ栓
20:吸込口
22:射出プランジャ
22A:側面
22B:底部
24:溝
28,30:メクラ栓
32:接続口
40:ノズル
42:先端部
50:金型
52:固定型
54:可動型
56:キャビティ
58:ノズルタッチ部
60,70,80,90,100,110,120,130:ホットチャンバ式ダイカスト装置
62:孔
64:貫通孔
72:主筒部
74:貫通孔
76,78:逆止弁
82:溝
92:貫通孔
122:主筒部
124A:内筒
124B:外筒
126:熱電対
132:銅管
134:穴
136:配管
138:不活性ガス
150:ホットチャンバ式ダイカスト装置
152:ポット
154:溶湯
156:主筒部
156A:シリンダ
156B:グースネック
157:メクラ栓
158:吸込口
160:射出プランジャ
162:ノズル
164:先端部
170:金型
172:固定型
174:可動型
176:キャビティ
178:ノズルタッチ部
D1,D2:内径
I:間隔
P1,P2:中心

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム又はアルミニウム合金を鋳造するためのホットチャンバ式ダイカスト装置であって、
溶湯が貯留されるポット内に設置されており、前記ポット内の溶湯を吸い込むための吸込口が側面に形成されたシリンダと、該シリンダと連接しており底部側で接続するグースネックとが設けられた主筒部,
前記グースネックから金型へ溶湯を導くノズル,
駆動手段によって前記シリンダ内を上下動し、該シリンダ内の溶湯を加圧する射出プランジャ,
該射出プランジャが射出戻り位置にある状態で、該射出プランジャの底部から前記主筒部の上端を超える位置に達するように、前記射出プランジャに形成されたエア抜き通路,
を備えたことを特徴とするホットチャンバ式ダイカスト装置。
【請求項2】
前記エア抜き通路が、前記射出プランジャの側面に形成された溝であることを特徴とする請求項1記載のホットチャンバ式ダイカスト装置。
【請求項3】
前記エア抜き通路が、前記射出プランジャの底面から、該射出プランジャの内側を通過して側面に貫通する孔であることを特徴とする請求項1記載のホットチャンバ式ダイカスト装置。
【請求項4】
アルミニウム又はアルミニウム合金を鋳造するためのホットチャンバ式ダイカスト装置であって、
溶湯が貯留されるポット内に設置されており、前記ポット内の溶湯を吸い込むための吸込口が側面に形成されたシリンダと、該シリンダと連設しており底部側で接続するグースネックとが設けられた主筒部,
前記グースネックから金型へ溶湯を導くノズル,
駆動手段によって前記シリンダ内を上下動し、該シリンダ内の溶湯を加圧する射出プランジャ,
該射出プランジャが射出戻り位置にある状態で、該射出プランジャとシリンダ内の溶湯表面との隙間に相当する位置から、前記主筒部の上端に達する位置まで、前記シリンダの内周面に形成されたエア抜き通路,
を備えたことを特徴とするホットチャンバ式ダイカスト装置。
【請求項5】
アルミニウム又はアルミニウム合金を鋳造するためのホットチャンバ式ダイカスト装置であって、
溶湯が貯留されるポット内に設置されており、前記ポット内の溶湯を吸い込むための吸込口が側面に形成されたシリンダと、該シリンダと連設しており底部側で接続するグースネックとが設けられた主筒部,
前記グースネックから金型へ溶湯を導くノズル,
駆動手段によって前記シリンダ内を上下動し、該シリンダ内の溶湯を加圧する射出プランジャ,
該射出プランジャが射出戻り位置にある状態で、該射出プランジャとシリンダ内の溶湯表面との隙間に相当するシリンダ内周面から、前記主筒部の外周面まで貫通したエア抜き通路,
を備えたことを特徴とするホットチャンバ式ダイカスト装置。
【請求項6】
前記エア抜き通路は、シリンダの内周面側が低く、主筒部の外周面側が高くなるように傾斜していることを特徴とする請求項5記載のホットチャンバ式ダイカスト装置。
【請求項7】
アルミニウム又はアルミニウム合金を鋳造するためのホットチャンバ式ダイカスト装置であって、
溶湯が貯留されるポット内に設置されており、前記ポット内の溶湯を吸い込むための吸込口が側面に形成されたシリンダと、該シリンダと連設しており底部側で接続するグースネックとが設けられた主筒部,
前記グースネックから金型へ溶湯を導くノズル,
駆動手段によって前記シリンダ内を上下動し、該シリンダ内の溶湯を加圧する射出プランジャ,
該射出プランジャが射出戻り位置にある状態で、該射出プランジャとシリンダ内の溶湯表面との隙間に相当するシリンダ内周面から、前記グースネック側へ貫通したエア抜き通路,
を備えたことを特徴とするホットチャンバ式ダイカスト装置。
【請求項8】
アルミニウム又はアルミニウム合金を鋳造するためのホットチャンバ式ダイカスト装置であって、
溶湯が貯留されるポット内に設置されており、前記ポット内の溶湯を吸い込むための吸込口が側面に形成されたシリンダと、該シリンダと連設しており底部側で接続するグースネックとが設けられた主筒部,
前記グースネックから金型へ溶湯を導くノズル,
駆動手段によって前記シリンダ内を上下動し、該シリンダ内の溶湯を加圧する射出プランジャ,
を備えるとともに、
前記グースネック及びノズルは、前記射出プランジャが戻るときに前記シリンダ内に空気を引き込まないように設定された内容積を有することを特徴とするホットチャンバ式ダイカスト装置。
【請求項9】
前記射出プランジャの駆動手段は、鋳込み時に、射出戻り位置にある射出プランジャを前記吸込口付近まで低速に動作させることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載のホットチャンバ式ダイカスト装置。
【請求項10】
前記主筒部を、底面が閉塞しており前記シリンダを形成する内筒と、該内筒の外周面を覆う外筒の嵌め込みにより構成したことを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載のホットチャンバ式ダイカスト装置。
【請求項11】
前記金型のノズルタッチ部の温度を測定し、所定の温度に調節する温度調節手段,
を設けたことを特徴とする請求項1〜10のいずれか一項に記載のホットチャンバ式ダイカスト装置。
【請求項12】
前記主筒部の上方において、前記射出プランジャの外周面に沿って設けられた配管,
前記射出プランジャの外周面に向けて、前記配管に略等間隔で複数設けられた穴,
前記配管に不活性ガスを供給する不活性ガス供給手段,
を設けたことを特徴とする請求項1〜11のいずれか一項に記載のホットチャンバ式ダイカスト装置。
【請求項13】
前記射出プランジャの外径中心,前記主筒部の外径中心,前記シリンダの内径中心が、一致することを特徴とする請求項1〜12のいずれか一項に記載のホットチャンバ式ダイカスト装置。
【請求項14】
前記シリンダの底部に設けられており、該シリンダ内部方向にのみ流動可能な第1の逆止弁,
前記グースネック又はノズルの射出流路中に設けられており、溶湯の射出方向にのみ流動可能な第2の逆止弁,
を備えたことを特徴とする請求項1〜13のいずれか一項に記載のホットチャンバ式ダイカスト装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−110566(P2011−110566A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−267718(P2009−267718)
【出願日】平成21年11月25日(2009.11.25)
【出願人】(595046665)株式会社リテラ (5)
【出願人】(509324528)株式会社NNH (1)